(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173077
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】成膜装置および成膜方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/46 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
C23C16/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091201
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 暁彦
(72)【発明者】
【氏名】松本 昭源
【テーマコード(参考)】
4K030
【Fターム(参考)】
4K030AA14
4K030BA01
4K030BA42
4K030CA05
4K030CA06
4K030EA04
4K030FA10
4K030GA02
4K030KA23
(57)【要約】
【課題】透明基板上に、均質な厚膜を形成することを可能とする成膜装置を提供する。
【解決手段】本発明の成膜装置100は、CVD法により、透明な基板10の一方の主面に成膜を行う成膜装置であって、成膜室101と、基板10を保持する基板保持体105、基板保持体105の表面を覆う断熱層106、および断熱層106を介して基板保持体105を保持するステージ107からなる基板保持手段102と、基板10に対して電磁波Lを照射する電磁波照射手段103と、基板10の一方の主面に、成膜の原料ガスを供給する原料ガス供給手段104と、を備え、基板保持体105が、電磁波Lを吸収し、熱伝導性を有する部材からなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CVD法により、透明な基板の一方の主面に成膜を行う成膜装置であって、
成膜室と、
前記基板を保持する基板保持体、前記基板保持体の表面を覆う断熱層、および前記断熱層を介して前記基板保持体を保持するステージからなる基板保持手段と、
前記基板に対して電磁波を照射する電磁波照射手段と、
前記基板の一方の主面に、前記成膜の原料ガスを供給する原料ガス供給手段と、を備え、
前記基板保持体が、前記電磁波を吸収し、熱伝導性を有する部材からなる、ことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記基板保持体の熱伝導率が、190W/mK以上、250W/mK以下である、ことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記基板保持体の放射率が、0.8以上、1.0以下である、ことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項4】
前記基板保持体の電磁波吸収率が、90%以上、100%以下である、ことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項5】
前記断熱層の熱伝導率が、0.1W/mK以上、2.0W/mK以下である、ことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項6】
前記電磁波の波長が、9.0μm以上、11.0μm以下である、ことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項7】
前記基板と対向する前記ステージの一面に、第一凹部が形成され、前記基板保持体および前記断熱層が、前記第一凹部内に配置されている、ことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項8】
前記基板保持体の表面のうち前記基板が載置される一面に、第二凹部が形成される、ことを特徴とする請求項7に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記基板と対向する前記ステージの一面に第一凹部が形成され、前記断熱層が前記第一凹部内に配置され、前記基板保持体が、前記第一凹部外に配置されている、ことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項10】
請求項1または2のいずれかに記載の成膜装置を用いた成膜方法であって、
前記成膜室の内部を減圧する減圧工程と、
前記基板に電磁波を照射し、前記基板を加熱する加熱工程と、
前記基板の一方の主面に前記原料ガスを供給する原料ガス供給工程と、を有することを特徴とする成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置および成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体照明や放射線撮像装置は、色調変換素子や放射線撮像素子として、透明なセラミックス蛍光体を備えている。例えば、X線撮像で用いられる蛍光体としては、YAGに代表される希土類アルミニウムガーネット系の酸化物セラミックスに、Ce等の希土類元素を微量に添加した蛍光体が用いられる。X線撮像の高分解能化に伴い、特に、厚みが数十~数百μmの透明なセラミックス蛍光体からなる放射線検出素子が求められている(特許文献1)。
【0003】
一般的に知られる厚膜のセラミックス蛍光体は、その原料から形成された単結晶インゴットや焼結体を、所定の厚みになるように切断し、研磨して得た薄片を、透明な単結晶基板上に接合したものであり、多大な製造コストを要する。そこで、化学気相析出装置(以下、CVD装置という)を用いて、単結晶基板上に、セラミックス蛍光体の厚膜を均一に成膜する製造方法が提案されている(特許文献2)。このCVD装置は、原料ガスの供給系と基板の加熱系を備え、原料ガスの基板上での析出反応を利用して成膜を行うものである。基板の加熱系として、基板に電磁波を照射することにより、基板の表面の温度を十分に高めて析出反応を促し、所定の厚みと透明性を兼ね備えたセラミックス蛍光体の厚膜を得ることができる。
【0004】
しかしながら、セラミックス蛍光体の厚膜を形成する基板が透明である場合、基板に電磁波を照射しても透過してしまう。そのため、基板の表面を十分に加熱することができず、析出反応が不均一になり、得られるセラミックス蛍光体の厚膜の厚みと透明性も不均一になってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-045183号公報
【特許文献2】特開2022-164058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、透明基板上に均質な厚膜を形成することを可能とする、成膜装置および成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を採用している。
【0008】
(1)本発明の一態様に係る成膜装置は、CVD法により、透明な基板の一方の主面に成膜を行う成膜装置であって、成膜室と、前記基板を保持する基板保持体、前記基板保持体の表面を覆う断熱層、および前記断熱層を介して前記基板保持体を保持するステージからなる基板保持手段と、前記基板に対して電磁波を照射する電磁波照射手段と、前記基板の一方の主面に、前記成膜の原料ガスを供給する原料ガス供給手段と、を備え、前記基板保持体が、前記電磁波を吸収し、熱伝導性を有する部材からなる。
【0009】
(2)前記(1)に記載の成膜装置において、前記基板保持体の熱伝導率が、190W/mK以上、250W/mK以下である、ことが好ましい。
【0010】
(3)前記(1)または(2)のいずれかに記載の成膜装置において、前記基板保持体の放射率が、0.8以上、1.0以下である、ことが好ましい。
【0011】
(4)前記(1)~(3)のいずれか一つに記載の成膜装置において、前記基板保持体の電磁波吸収率が、90%以上、100%以下である、ことが好ましい。
【0012】
(5)前記(1)~(4)のいずれか一つに記載の成膜装置において、前記断熱層の熱伝導率が、0.1W/mK以上、2.0W/mK以下である、ことが好ましい。
【0013】
(6)前記(1)~(5)のいずれか一つに記載の成膜装置において、前記電磁波の波長が、9.0μm以上、11.0μm以下である、ことが好ましい。
【0014】
(7)前記(1)~(6)のいずれか一つに記載の成膜装置において、前記基板と対向する前記ステージの一面に、第一凹部が形成され、前記基板保持体および前記断熱層が、前記第一凹部内に配置されてもよい。
【0015】
(8)前記(7)に記載の成膜装置において、前記基板保持体の表面のうち前記基板が載置される一面に、第二凹部が形成されてもよい。
【0016】
(9)前記(1)~(8)のいずれか一つに記載の成膜装置において、前記基板と対向する前記ステージの一面に第一凹部が形成され、前記断熱層が前記第一凹部内に配置され、前記基板保持体が、前記第一凹部外に配置されていてもよい。
【0017】
(10)本発明の一態様に係る成膜方法は、前記(1)~(9)のいずれか一つに記載の成膜装置を用いた成膜方法であって、前記成膜室の内部を減圧する減圧工程と、前記基板に電磁波を照射し、前記基板を加熱する加熱工程と、前記基板の一方の主面に前記原料ガスを供給する原料ガス供給工程と、を有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、透明基板上に、均質な厚膜を形成することを可能とする、成膜装置および成膜方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る成膜装置の断面図である。
【
図2】本発明の第二実施形態に係る成膜装置の断面図である。
【
図3】本発明の第三実施形態に係る成膜装置の断面図である。
【
図4】(1)~(6)実施例1、2、比較例1~4の成膜基板の断面を拡大した画像である。
【
図5】(1)~(6)実施例1、2、比較例1~4の成膜基板の表面を拡大した画像である。
【
図6】(1)~(6)実施例1、2、比較例1~4の成膜基板の電磁波の透過率特性を示すグラフである。
【
図7】実施例1の成膜基板のX線回折パターンを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を適用した実施形態に係る成膜装置および成膜方法について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0021】
<第一実施形態>
[成膜装置]
図1は、本発明の第一実施形態に係る成膜装置100の断面図である。成膜装置100は、CVD法により、透明な基板(基材)10の一方の主面10aに、Lu
2O
3等のセラミックス蛍光体等の成膜を行う成膜装置である。成膜装置100は、主に、成膜室(チャンバ)101と、基板保持手段102と、電磁波照射手段(電磁波源)103と、原料ガス供給手段104と、を備える。本実施形態での透明な基板は、所定の波長の電磁波が透過する部材からなる平板を意味しており、その例として、YSZ(Y
2O
3-ZrO
2)やYAG(Y
3Al
5O
12)等の単結晶基板、ガラス基板等が挙げられる。
【0022】
成膜室101は、基板10への成膜が行われる内部空間を、所定の圧力に調整できるように構成されている。具体的には、圧力が30Pa以下になるまで排気した後、原料ガスを導入して、100Pa~5000Paの間の圧力で成膜を行う場合が挙げられる。成膜室101の形状については限定されないが、
図1に示すように球殻に近い形状であれば好ましい。
【0023】
基板保持手段(基板保持部)102は、成膜中の基板10を、被成膜面の反対側から保持(支持)する機能を有する。基板保持手段102は、主に基板保持体105、断熱層106、およびステージ107からなる。基板保持体105は、基板10に接触し、基板10を直接保持する略平板状の部材である。断熱層106は、基板保持体105の表面のうち基板10と接触しない部分に接触し、その部分を覆う膜である。ステージ107は、公知の成膜装置に備わっているものと同様の材料で構成され、断熱層106に接触し、断熱層106を介して基板保持体105を保持する物体である。基板保持手段102には、ステージ107に付設され、基板10の温度をモニターする熱電対(不図示)が含まれてもよい。
【0024】
断熱層106と基板保持体105との接触面は、平坦に近いほど好ましく、接触面積は大きいほど好ましい。断熱層106と基板保持体105とは、接触面において互いに接着(接合)されていてもよい。また、断熱層106とステージ107との接触面は、平坦に近いほど好ましく、接触面積は大きいほど好ましい。断熱層106とステージ107とは、接触面において互いに接着(接合)されていてもよい。基板保持体105、断熱層106、およびステージ107の形状は、特に限定されない。
【0025】
本実施形態では、基板10と対向するステージ107の一面に、第一凹部107aが形成され、基板保持体105および断熱層106が、第一凹部107a内に配置される場合について例示している。第一凹部107aの底面側から、断熱層106、基板保持体105の順に収容されている。
図1に示すように、基板保持体105の全部が第一凹部107a内に収容されてもよいし、基板保持体105の一部が、第一凹部107a内に収容されず、第一凹部107aの外側に突出していてもよい。
【0026】
基板保持体105は、電磁波Lを吸収し、熱伝導性を有する炭化物(例えば、炭化ケイ素等)、窒化物(例えば、窒化ケイ素、サイアロン、窒化アルミニウム等)等の材料からなる。基板保持体105としては、その表面のうち、少なくとも基板10と接触する部分は平坦であることが好ましく、平板状のものが最も好ましい。基板保持体105が吸収する電磁波Lとしては、限定されることはないが、例えば、加熱に用いることが可能な可視光から近赤外光までの波長領域(0.5μm~11μm程度)の電磁波が好ましい。
【0027】
基板保持体105は、電磁波照射手段103から直接照射された電磁波、あるいは基板10を経由(透過)して間接的に照射された電磁波を吸収し、昇温することで、接触する基板10を加熱する機能を有する。基板10の加熱温度を高める観点から、基板保持体10の電磁波の吸収率は、高いほど好ましく、90%以上であればより好ましい。また、基板保持体105の電磁波Lの吸収率は、一般的な材料を用いる場合には、100%以下になると考えられる。電磁波Lの吸収率を高める観点から、基板保持体105の放射率は、0.8以上、1.0以下であることが好ましい。
【0028】
基板10を均一に加熱する観点から、基板10に接触する基板保持体105も均一に加熱されることが好ましい。そのため、基板保持体10の熱伝導率は、高いほど好ましく、190W/mK以上であればより好ましい。熱伝導率が高ければ、電磁波の照射によって発生した熱が、基板保持体10の全体に均一に行き渡り、基板保持体10の全体が均一に加熱されるため、これに接触する基板10の全体を均一に加熱することができる。なお、基板保持体10の熱伝導率は、一般的な材料を用いる場合には、250W/mK以下になると考えられる。
【0029】
断熱層106は、基板保持体105から発生する熱の外部拡散を抑える断熱材料、例えば、Al2O3(アルミナ)、ZrO2(ジルコニア)、Ti(チタン)等の材料を含む部材、好ましくは多孔質の部材等からなる。そのため、断熱層106の熱伝導率は、低いほど好ましく、2.0W/mK以下であればより好ましいが、一般的な材料を用いる場合には、0.1W/mK以上になると考えられる。断熱層106の厚みは、特に限定されないが、例えば、0.5mm~10mm程度としてもよい。断熱層106は、基板保持体105の表面のうち、被成膜面以外の全表面を覆うことが好ましい。
【0030】
電磁波照射手段103は、成膜室101内の基板10に対して電磁波Lを照射できるように設置される。電磁波照射手段103の具体例としては、レーザー発振器、ランプ(ヒーター)等が挙げられる。レーザー発振器のレーザー源としては、例えば、炭酸ガスレーザー(波長9.0~11.0μm)、半導体レーザー(波長976nm)のものが挙げられる。ランプとしては、例えば、キセノンランプ、ハロゲンランプ等が挙げられる。波長が長い炭酸ガスレーザーは、透明な基板10に照射した場合であっても、一部を基板10に吸収させることができ、基板10を直接加熱することができるため、レーザー源(電磁波源)として特に好ましい。
【0031】
ここでは、成膜室101の外部の一箇所に電磁波照射手段103を設置し、基板10に対して一方向から照射する場合を例示している。基板10の全体を均等に加熱させる観点から、電磁波照射手段103を複数箇所に設置して複数方向から電磁波を照射してもよいし、電磁波照射手段103を回転させながら電磁波を照射してもよい。
【0032】
原料ガス供給手段104は、主に、形成する膜の原料の前駆体20を加熱して気化させ、原料ガスとする原料炉(ヒーター室)108と、搬送ガス(Arガス)の供給源109と、原料ガスおよび搬送ガスを成膜室101内に導入する第一ノズル110と、反応ガス(酸素ガス等)の供給源(供給部)111と、供給された酸素ガスを成膜室101内に導入する第二ノズル112と、で構成される。搬送ガス、反応ガス、排気ガスの流れについては、それぞれ流量制御機器113A、113B、113Cで制御される。
【0033】
例えば、LuAG(Lu3Al5O12)とAl2O3からなる蛍光体の膜を形成する場合には、一方の原料炉108AがLuの供給源として機能し、他方の原料炉108BがAlの供給源として機能する。ここでは、成膜に二つの原料を必要とする場合を想定し、原料炉108と搬送ガスの供給源109を二つずつ備える構成を例示している。三つ以上の原料を必要とする場合においては、原料の数に応じて、原料炉と搬送ガスの供給源の数を増加させるものとする。
【0034】
[成膜方法]
成膜装置100を用いた成膜は、主に、次の減圧工程、加熱工程、および原料ガス供給工程を有する。
【0035】
基板保持体105の上に基板10を載置した上で、成膜室101の排気を行い、成膜室101の内部が成膜に適した圧力になるように減圧する(減圧工程)。
【0036】
電磁波照射手段103を用いて基板10に電磁波Lを照射し、基板10を加熱する(加熱工程)。この電磁波Lの一部または全部は基板10を透過してしまうが、基板保持体105が透過した電磁波Lを吸収することができる。吸収された電磁波Lによって発生した熱が、基板保持体105の全体に行き渡ることにより、基板保持体105に接触している基板10を加熱することができる。
【0037】
十分に加熱された状態の基板10に対し、搬送ガスとともに、原料ガス供給手段104を用いて生成した原料ガスを供給する(原料ガス供給工程)。原料ガスに含まれる原料が、基板10上に析出して膜が形成される。複数種類の原料ガスを供給する場合には、その含有比率を調整することによって、形成される膜の組成比を調整することができる。また、原料ガスを供給する時間、すなわち成膜時間を調整することにより、形成される膜の厚みを調整することができる。
【0038】
以上のように、本実施形態の成膜装置100では、成膜する基板10を直接保持する基板保持体105が、電磁波Lを吸収し、内部で変換された熱を全体に均一に伝える機能を有する。さらに、その基板保持体105の表面のうち、基板10の載置面以外の部分が断熱層106で覆われており、基板保持体105の熱が外部に拡散するのを抑えることができる。そのため、成膜中の基板10が、照射された電磁波Lを透過させてしまう場合であっても、透過した電磁波Lを基板保持体105で吸収して熱に変換し、変換された熱を漏れなく基板10に伝え、基板10を十分に高い温度で加熱することができる。変換された熱は、基板保持体105の全体に行き渡った状態で、基板保持体105に接触する基板10の一面全体に均一に伝わるため、基板10を面内方向に均一に加熱することができる。
【0039】
したがって、本実施形態の成膜装置100によれば、基板10の透明度によらず、基板10の温度を、面内方向にわたって均一かつ十分に高めた状態での成膜が可能となるため、基板10上に均質な厚膜を形成することができる。例えば、透明なYAG単結晶基板上に、Ce等の希土類元素を微量に添加したLuAGセラミックス蛍光体の透明な厚膜を、形成することができる。
【0040】
なお、基板10が透明であっても、電磁波Lとして炭酸ガスレーザーを基板10に照射する場合には、その一部を基板10に吸収させることができ、直接加熱する効果が加わるため、他の電磁波Lを照射する場合に比べて、より均質な厚膜を形成することができる。
【0041】
<第二実施形態>
図2は、本発明の第二実施形態の成膜装置200の断面図である。第一実施形態の成膜装置100と対応する箇所については、同じ符号で示している。成膜装置200では、基板保持体105の表面のうち基板10が載置される一面105aに、第二凹部105bが形成される。一面105aに直交する方向からの平面視において、第二凹部105bの大きさは、成膜する基板10の主面10aを包含できる大きさであり、成膜する基板10の主面10aと同程度の大きさであれば好ましい。それ以外の構成は、成膜装置100の構成と同様であり、少なくとも同実施形態の成膜装置100と同様の効果を奏する。
【0042】
成膜装置200では、基板10の全体、または基板10の被成膜面と反対側の一部が、第二凹部105bに収容された状態で基板保持体105に保持される。そのため、第二凹部105bの側壁がストッパーとなり、一面105aと平行な方向において、成膜中の基板10の位置が大きくずれてしまうのを防ぐことができる。また、基板10の側面のうち、第二凹部105bに収容されている部分を透過した電磁波Lを、第二凹部105bの側壁から基板保持体105に吸収させることができ、透過して外部に拡散してしまう電磁波Lを減らすことができる。
【0043】
<第三実施形態>
図3は、本発明の第三実施形態の成膜装置300の断面図である。第一実施形態の成膜装置100と対応する箇所については、同じ符号で示している。成膜装置300では、基板10と対向するステージ107の一面に第一凹部107aが形成され、断熱層106が第一凹部107a内に配置され、基板保持体105が、第一凹部107a外に配置されている。すなわち、第一凹部107aが断熱層106のみで充填され、第一凹部107aの開口部で露出する断熱層106の最表面に、基板保持体105が設置される。それ以外の構成は、成膜装置100の構成と同様であり、少なくとも同実施形態の成膜装置100と同様の効果を奏する。
【0044】
成膜装置300では、基板保持体105が第一凹部107aの外側に配置され、基板保持体105の外周部に対し、電磁波Lを直接照射することができる。したがって、基板保持体105に対し、基板10を経由(透過)した電磁波Lに加えて、基板10を経由しないで直接照射された電磁波Lも吸収させることができ、多くの熱を発生させることができるため、基板10を効率よく加熱することができる。
【実施例0045】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0046】
(実施例1)
上述した成膜方法を用い、透明なYSZ(イットリア安定化ジルコニア)単結晶基板の一方の主面に、Lu2O3からなるセラミックス蛍光体の厚膜を形成した。基板保持手段として第一実施形態の構成のものを用い、基板保持体を炭化ケイ素(熱伝導率は約220W/mK)からなる部材とし、断熱層をAl2O3の多孔質体とした。電磁波照射手段として、レーザー発振器を用い、レーザー源を炭酸ガスレーザー(10.6μm)とした。原料ガス供給手段で用いる原料の前駆体をLuとした。主な成膜条件については、次のように設定した。
レーザー出力密度:150W/cm2
Arガスの流量:100sccm
酸素ガスの流量:100sccm
原料気化温度:180℃
成膜温度:1000℃
成膜圧力:200Pa
成膜速度:24μm/h
【0047】
(実施例2)
レーザー源を半導体レーザー(976μm)とした以外は、実施例1と同様に、セラミックス蛍光体の厚膜を形成した。
【0048】
(比較例1)
基板保持体を、熱伝導率が約180W/mKの窒化アルミニウムからなる部材とした以外は、実施例1と同様に、セラミックス蛍光体の厚膜を形成した。
【0049】
(比較例2)
基板保持体を窒化アルミニウムからなる部材とし、レーザー源を半導体レーザーとした以外は、実施例1と同様に、セラミックス蛍光体の厚膜を形成した。
【0050】
(比較例3)
基板保持体を、熱伝導率が約16W/mKのステンレスからなる部材とした以外は、実施例1と同様に、セラミックス蛍光体の厚膜を形成した。
【0051】
(比較例4)
基板保持体をステンレスからなる部材とし、レーザー源を半導体レーザーとした以外は、実施例1と同様に、セラミックス蛍光体の厚膜を形成した。
【0052】
図4(a)、(b)は、それぞれ、実施例1、2で得られた成膜基板の断面のSEM画像である。
図4(c)~(f)は、それぞれ、比較例1~4で得られた成膜基板の断面のSEM画像である。
【0053】
図5(a)、(b)は、それぞれ、実施例1、2で得られた成膜基板の表面のSEM画像である。
図5(c)~(f)は、それぞれ、比較例1~4で得られた成膜基板の表面のSEM画像である。
【0054】
図4(a)、(b)および
図5(a)、(b)から、実施例1、2では、均質で十分な厚み(約2μm)の膜が形成されていることが分かる。実施例2の膜の表面には、
図5(b)に示すように凹凸が見られるが、膜の内部は、
図5(a)に示すように均質になっている。均質な膜が得られるのは、熱伝導性が高い炭化ケイ素部材からなる基板保持体が、基板を透過した電磁波を吸収して変換した熱を全体に均一に伝えることができ、基板保持体に接触する基板を、十分に高い温度で、面内方向に均一に加熱できているからであると考えられる。
【0055】
図4(a)、
図5(a)と
図4(b)、
図5(b)との比較から、実施例2で形成された膜に比べて、実施例1で形成された膜の方がより均質になっていることが分かる。これは、電磁波として炭酸ガスレーザーを基板に照射する場合、炭酸ガスレーザーの一部が基板に吸収され、基板を直接加熱する効果が加わり、半導体レーザーを照射する場合よりも高い温度で基板が加熱されるためであると考えられる。
【0056】
図4(c)、
図5(c)から、比較例1で形成された膜は、厚み方向に延びる複数の柱体が密集したような構造になっており、均質になっていないことが分かる。また、
図4(d)、
図5(d)から、比較例2で形成された膜は、表面に大きく突出した部分が形成されており、厚みが均一になっておらず、均質になっていないことが分かる。これは、基板保持体の熱伝導性が低く、基板を透過した電磁波を吸収して変換した熱が、基板保持体の全体に均一に伝わっておらず、基板保持体に接触する基板を、十分に高い温度で、面内方向に均一に加熱できていないためであると考えられる。
【0057】
図4(e)、
図5(e)から、比較例3で形成された膜は、厚みが不十分であることが分かる。また、
図4(f)、
図5(f)から、比較例4で形成された膜は、表面に大きく突出した部分が形成されており、厚みが均一になっておらず、均質になっていないことが分かる。これは、基板保持体の熱伝導性が低く、基板を透過した電磁波を吸収して変換した熱が、基板保持体の全体に均一に伝わっておらず、基板保持体に接触する基板を、十分に高い温度で、面内方向に均一に加熱できていないためであると考えられる。
【0058】
図6(a)、(b)は、それぞれ、実施例1、2で得られた成膜基板の電磁波の透過率特性を示すグラフである。
図6(c)~(f)は、それぞれ、比較例1~4で得られた成膜基板の電磁波の透過率特性を示すグラフである。グラフの横軸は電磁波の波長を示し、グラフの縦軸は電磁波の透過率を示す。各グラフにおいて、破線は、成膜前の基板に対する電磁波の透過率特性を示し、実線は、成膜された基板(成膜基板)に対する電磁波の透過率特性を示している。
【0059】
図6(c)~(f)から、比較例2~4の電磁波の透過率は、全波長領域において大きく低下していることが分かる。これに対し、
図6(a)、(b)から、実施例1、2の電磁波の透過率は、主に短波長の領域において成膜による低下が見られるが、低下の幅が小さく抑えられていることが分かる。これは、基板保持体として炭化ケイ素部材を用いることにより、窒化アルミニウム部材、ステンレス部材を用いる場合に比べて、発生した熱を全体により均一に伝えることができ、十分に高い温度で面内方向に均一に、基板を加熱できているためであると考えられる。
【0060】
図7は、実施例1で得られた成膜基板のX線回折パターンを示すグラフである。グラフの横軸は回折角を示し、グラフの縦軸は回折強度を示す。
【0061】
図7から、回折強度がピークになる複数の回折角が、互いに整数倍の関係にあることが分かる。この結果は、実施例1の成膜基板において、結晶方位が揃っていることを示している。これは、基板保持体を用いることにより、十分に高い温度で面内方向に均一に、基板を加熱できているためであると考えられ、
図6(a)に示す成膜後の透過率が、高く維持されている結果と整合している。
本発明で製造できる透明なセラミックス蛍光体の厚膜は、核医学や非破壊検査で使用される放射線撮像装置向けの放射線誘起蛍光体(シンチレータ)や、固体照明で使用される白色LED向けの色調変換蛍光体として用いることができる。