(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173078
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】圧縮治具および動的粘弾性の測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/00 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
G01N3/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091202
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】512307000
【氏名又は名称】住ベリサーチ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】馬路 哲
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA02
2G061AB04
2G061AC03
2G061AC04
2G061BA19
2G061CA18
2G061DA16
2G061EA03
2G061EA04
(57)【要約】
【課題】測定温度によらず、粒子状をなす試料の機械特性を精度よく測定可能な圧縮治具、および、広い温度範囲で、粒子状をなす試料の動的粘弾性を精度よく測定可能な動的粘弾性の測定方法を提供すること。
【解決手段】本発明の圧縮治具は、粒子状をなす試料に圧縮する荷重または変位を与え、前記試料で発生する歪みまたは応力を検出することにより、前記試料の機械特性を測定するために用いる圧縮治具であって、第1圧縮面を有する第1部品と、前記試料を介して前記第1圧縮面と対向する第2圧縮面、および、前記第2圧縮面の外周に沿って環状に延在し、前記第2圧縮面から突出する凸部、を有する第2部品と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状をなす試料に圧縮する荷重または変位を与え、前記試料で発生する歪みまたは応力を検出することにより、前記試料の機械特性を測定するために用いる圧縮治具であって、
第1圧縮面を有する第1部品と、
前記試料を介して前記第1圧縮面と対向する第2圧縮面、および、前記第2圧縮面の外周に沿って環状に延在し、前記第2圧縮面から突出する凸部、を有する第2部品と、
を備えることを特徴とする圧縮治具。
【請求項2】
前記第1圧縮面および前記第2圧縮面は、それぞれ平面である請求項1に記載の圧縮治具。
【請求項3】
前記第2圧縮面は、
前記第1圧縮面と対向する対向領域と、
前記対向領域の外周に設けられ、前記対向領域から凹没している溝領域と、
を含む請求項1に記載の圧縮治具。
【請求項4】
前記第2圧縮面の中心から外周に向かう方向を半径方向とするとき、
前記凸部の先端部における前記半径方向の厚さは、前記凸部の基端部よりも厚い請求項1ないし3のいずれか1項に記載の圧縮治具。
【請求項5】
前記第1部品は、前記第1圧縮面が平面である板状をなしており、
前記第1部品の外周部における板厚は、前記第1部品の中心部における板厚よりも薄い請求項1ないし3のいずれか1項に記載の圧縮治具。
【請求項6】
前記板状をなす前記第1部品は、
前記第1圧縮面と、
前記第1圧縮面と表裏の関係を持つ裏面と、
前記第1圧縮面と前記裏面とをつなぐ側面と、
を有し、
前記第1圧縮面よりも前記裏面の面積が大きくなるように、前記第1圧縮面に対して前記側面が傾斜している請求項5に記載の圧縮治具。
【請求項7】
前記凸部の突出高さは、前記試料の粒子径より高い請求項1ないし3のいずれか1項に記載の圧縮治具。
【請求項8】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の圧縮治具を用い、前記試料を圧縮する荷重または変位を与え、前記試料で発生する歪みまたは応力を検出する工程と、
前記荷重または前記変位および前記歪みまたは前記応力に基づいて、前記試料の動的粘弾性を算出する工程と、
を有することを特徴とする動的粘弾性の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮治具および動的粘弾性の測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、粒子材料の動的粘弾性測定方法であって、耐熱シート基材に対し、粘着層を介して測定対象である粒子材料を付着させ、シート状試験片を作製し、これを引張モードでの動的粘弾性測定に供する方法が開示されている。シート状試験片を引っ張り変形させることにより、個々の粒子材料も引っ張り変形させることができる。これにより、粒子材料の動的粘弾性等の機械特性を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のシート状試験片では、前述したように、粘着層を介して粒子材料を耐熱シート基材に付着させている。このため、シート状試験片の温度を変化させた場合、それに伴って粘着層の物性が変化する。粘着層の物性が変化すると、粒子材料の変形量等が変化するため、粒子材料の機械特性を正確に測定することができないという課題が生じる。
【0005】
本発明の目的は、測定温度によらず、粒子状をなす試料の機械特性を精度よく測定可能な圧縮治具、および、広い温度範囲で、粒子状をなす試料の動的粘弾性を精度よく測定可能な動的粘弾性の測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記(1)~(8)の本発明により達成される。
(1) 粒子状をなす試料に圧縮する荷重または変位を与え、前記試料で発生する歪みまたは応力を検出することにより、前記試料の機械特性を測定するために用いる圧縮治具であって、
第1圧縮面を有する第1部品と、
前記試料を介して前記第1圧縮面と対向する第2圧縮面、および、前記第2圧縮面の外周に沿って環状に延在し、前記第2圧縮面から突出する凸部、を有する第2部品と、
を備えることを特徴とする圧縮治具。
【0007】
(2) 前記第1圧縮面および前記第2圧縮面は、それぞれ平面である上記(1)に記載の圧縮治具。
【0008】
(3) 前記第2圧縮面は、
前記第1圧縮面と対向する対向領域と、
前記対向領域の外周に設けられ、前記対向領域から凹没している溝領域と、
を含む上記(1)に記載の圧縮治具。
【0009】
(4) 前記第2圧縮面の中心から外周に向かう方向を半径方向とするとき、
前記凸部の先端部における前記半径方向の厚さは、前記凸部の基端部よりも厚い上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の圧縮治具。
【0010】
(5) 前記第1部品は、前記第1圧縮面が平面である板状をなしており、
前記第1部品の外周部における板厚は、前記第1部品の中心部における板厚よりも薄い上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の圧縮治具。
【0011】
(6) 前記板状をなす前記第1部品は、
前記第1圧縮面と、
前記第1圧縮面と表裏の関係を持つ裏面と、
前記第1圧縮面と前記裏面とをつなぐ側面と、
を有し、
前記第1圧縮面よりも前記裏面の面積が大きくなるように、前記第1圧縮面に対して前記側面が傾斜している上記(5)に記載の圧縮治具。
【0012】
(7) 前記凸部の突出高さは、前記試料の粒子径より高い上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の圧縮治具。
【0013】
(8) 上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の圧縮治具を用い、前記試料を圧縮する荷重または変位を与え、前記試料で発生する歪みまたは応力を検出する工程と、
前記荷重または前記変位および前記歪みまたは前記応力に基づいて、前記試料の動的粘弾性を算出する工程と、
を有することを特徴とする動的粘弾性の測定方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、測定温度によらず、粒子状をなす試料の機械特性を精度よく測定可能な圧縮治具が得られる。
【0015】
また、本発明によれば、広い温度範囲で、粒子状をなす試料の動的粘弾性を精度よく測定可能な動的粘弾性の測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施形態に係る圧縮治具を示す斜視図である。
【
図3】粒子状をなす試料の動的粘弾性を測定する従来の方法を示す断面図である。
【
図4】粒子状をなす試料の動的粘弾性を測定する従来の方法を示す断面図である。
【
図5】粒子状をなす試料の動的粘弾性を測定するパラレルプレート型治具を示す断面図である。
【
図6】第1実施形態に係る動的粘弾性の測定方法の構成を示す工程図である。
【
図7】第2実施形態に係る圧縮治具を示す断面図である。
【
図8】第3実施形態に係る圧縮治具を示す断面図である。
【
図9】第4実施形態に係る圧縮治具を示す断面図である。
【
図10】第5実施形態に係る圧縮治具を示す断面図である。
【
図11】第5実施形態に係る圧縮治具を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の圧縮治具および動的粘弾性の測定方法について添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0018】
1.第1実施形態
まず、第1実施形態に係る圧縮治具について説明する。
【0019】
図1は、第1実施形態に係る圧縮治具1を示す斜視図である。
図2は、
図1に示す圧縮治具1の断面図である。
【0020】
なお、本願の各図では、互いに直交する2つの軸として、z軸およびr軸を設定し、矢印で示している。そして、矢印の基端側を各軸の「マイナス側」、矢印の先端側を各軸の「プラス側」という。また、z軸プラス側が鉛直上方であり、z軸マイナス側が鉛直下方である。
【0021】
1.1.圧縮治具の概要
図1に示す圧縮治具1は、粒子状をなす試料9に圧縮する荷重または変位を与えるとともに、試料9で発生する歪みまたは応力を検出するのに用いられる。このような試料9からの応答を検出することにより、試料9の機械特性を測定することができる。機械特性とは、例えば、試料9の圧縮モードでの貯蔵弾性率、損失弾性率、損失正接等の動的粘弾性、静的粘弾性等を指す。このうち、動的粘弾性の測定は、DMA(Dynamic Mechanical Analysis)とも呼ばれる。また、試料9に対し、温度変化、圧縮の周波数変化、圧縮の振幅変化等を与えることで、動的粘弾性の温度依存性、周波数依存性、振幅依存性等を求めることができる。このうち、動的粘弾性の温度依存性を求めることにより、例えば試料9のガラス転移温度Tgや熱変形温度等の熱力学的パラメータを評価することができる。
【0022】
図1および
図2に示す圧縮治具1は、上部治具2(第1部品)および下部治具3(第2部品)を備える。
【0023】
このうち、上部治具2は、全体として板状、より具体的には円板状をなしている。上部治具2の下面22(第1圧縮面)は、z軸と直交する平面であり、
図2に示すように、試料9に接触し、試料9を下方に向かって押圧することで圧縮する。上部治具2の上面24は、
図2に示すように、シャフト28の下端と接続されている。シャフト28は、図示しないドライブユニットと接続されている。ドライブユニットは、シャフト28を上下に往復振動(圧縮振動)させる図示しないモーターを備えている。これにより、上部治具2は、下部治具3に対して相対的に駆動され、試料9を圧縮する荷重または変位を与えることができる。なお、圧縮振動は、例えば正弦波振動等の周期的振動である。また、ドライブユニットは、シャフト28を介して試料9で発生する歪みまたは応力を検出する図示しないセンサーを備えている。センサーからの出力信号に基づいて、試料9の機械特性を測定することができる。
【0024】
一方、下部治具3は、全体として板状、より具体的には円板状をなしている。下部治具3の上面34(第2圧縮面)は、z軸と直交する平面であり、試料9を介して上部治具2の下面22と対向している。なお、z軸は、鉛直方向と平行で、かつ、上面34の中心を通過している。また、r軸は、z軸と直交するとともに、上面34の中心から外周に向かう軸である。
【0025】
上面34の外周には、上面34から上方に突出する凸部36が設けられている。凸部36は、平面視形状(z軸上から見たときの形状)が環状であり、上面34を取り囲んでいる。そして、上面34および凸部36により、凹状空間5が画定されている。試料9は、この凹状空間5に貯留されている。下部治具3の下面32は、
図2に示すように、シャフト38の上端と接続されている。シャフト38は、図示しない温度制御装置に接続されている。これにより、下部治具3を介して試料9の温度を制御することができる。
【0026】
なお、ドライブユニットの位置は、上記に限定されない。例えば、ドライブユニットがシャフト38に接続されていてもよい。また、モーターおよびセンサーは、互いに異なるシャフトに接続されていてもよい。例えば、モーターがシャフト28に接続され、センサーがシャフト38に接続されていてもよいし、その反対であってもよい。さらに、2つ以上のモーターおよび2つ以上のセンサーが設けられていてもよい。
【0027】
また、試料9の温度制御方法は、上記に限定されない。例えば、上部治具2に温度制御装置が接続され、上部治具2を介して試料9の温度が制御されるようになっていてもよいし、圧縮治具1全体の温度を調整することにより、試料9の温度が制御されるようになっていてもよい。
【0028】
1.2.従来技術の課題
ここで、前述した従来の動的粘弾性の測定方法の課題について説明する。
【0029】
図3および
図4は、それぞれ粒子状をなす試料9の動的粘弾性を測定する従来の方法を示す断面図である。
【0030】
図3に示す試験片90は、基材シート91と、基材シート91上に設けられた粘着層92と、粘着層92に散布された粒子状をなす試料9と、を有する。基材シート91および粘着層92の各構成材料には、その動的粘弾性が、測定対象である試料9と異なる材料が使用される。このような試験片90について、例えば引張モードで動的粘弾性を測定する。測定に供された試験片90では、基材シート91および粘着層92が引張り変形し、それに伴って個々の試料9も変形する。これにより、試料9の動的粘弾性を測定することができる。
【0031】
図4に示す試験片95は、マトリックス樹脂96と、マトリックス樹脂96に分散する試料9と、を有する。マトリックス樹脂96の構成材料には、その動的粘弾性が、測定対象である試料9と異なる材料が使用される。このような試験片95について、例えば損失正接tanδの温度特性を測定すると、tanδの温度依存性を示す曲線には、マトリックス樹脂96と試料9とで異なる位置に分離されたピークが観測される。このピークの温度に基づいて、例えば試料9のガラス転移温度Tgを求めることができる。
【0032】
これらの測定方法では、いずれも、試料9を保持するために粘着層92やマトリックス樹脂96が使用される。これらの構成材料には、試料9とは異なる動的粘弾性を有する材料を使う必要がある。また、温度特性を測定する場合、これらの構成材料には耐熱性も求められる。このため、試験片90、95を用いた測定には、多くの制約があり、使い勝手に課題がある。また、粘着層92やマトリックス樹脂96の機械特性と試料9の機械特性とを十分に分離できず、試料9の機械特性の測定精度が低下するという課題もある。
【0033】
一方、動的粘弾性を測定可能な治具として、従来、パラレルプレートと呼ばれる治具が知られている。
【0034】
図5は、粒子状をなす試料9の動的粘弾性を測定するパラレルプレート型治具8を示す断面図である。
【0035】
パラレルプレート型治具8は、通常、ずり方向の荷重や変位を与え、試料で発生するせん断歪みやせん断応力等を検出するのに用いられる。ところが、粒子状をなす試料9にずり方向の荷重や変位を与えた場合、試料9が転動してしまうため、せん断歪みやせん断応力を正確に検出することができない。
【0036】
一方、このパラレルプレート型治具8を用いて圧縮方向の荷重や変位を与えた場合には、試料9の転動が抑制できる。このため、粒子状をなす試料9の動的粘弾性を測定する場合、圧縮モードでの機械特性を測定する方法が適している。
【0037】
図5に示すパラレルプレート型治具8は、上部治具82および下部治具83を備える。上部治具82は、下面822が平面である。下部治具83は、上面834が平面である。パラレルプレート型治具8では、下面822と上面834との間で試料9を圧縮することにより、
図1に示す圧縮治具1と同様、試料9の機械特性を測定することができる。
【0038】
しかしながら、圧縮モードで荷重または変位が与えられた試料9においても、転動を完全に抑えることは困難であり、パラレルプレート型治具8の外周に向かって試料9が転動する場合がある。そうすると、
図5に矢印Dで示すように、パラレルプレート型治具8から試料9がこぼれ落ちるおそれがある。試料9がこぼれ落ちると、パラレルプレート型治具8によって圧縮される試料9の量が減少する。その結果、試料9の機械特性を正確に測定できない。
【0039】
上記のような従来技術の課題に鑑み、本発明は、試料9の量の減少を抑制し、測定温度によらず、試料9の機械特性を圧縮モードで精度よく測定可能な圧縮治具として完成するに至った。
【0040】
1.3.圧縮治具の各部の構成
前述したように、本実施形態に係る圧縮治具1の下部治具3は、上面34および凸部36を有する。これらは、凹状空間5を画定しており、そこに試料9が貯留される。このため、上部治具2の下面22と下部治具3の上面34との間で試料9が圧縮されたとしても、試料9がこぼれ落ちることが抑制される。このため、試料9の量を一定に維持したまま、機械特性を測定することができる。その結果、試料9の機械特性をより正確に測定できる。
【0041】
また、圧縮治具1では、粘着層92やマトリックス樹脂96のような試料9を保持する材料が不要である。したがって、圧縮治具1を用いることで、試験片90、95を作製する手間を省略することができ、測定作業の効率化を図ることができる。また、圧縮治具1には、金属のように耐熱性が高い材料を用いることができるため、測定温度によらず、より広い温度範囲での機械特性の測定が可能になる。
【0042】
凸部36には、上面34の外周からこぼれ落ちようとする試料9をせき止める作用がある。凸部36の突出高さhは、試料9の粒子径に応じて設定されればよく、例えば、試料9の粒子径より高いことが好ましく、粒子径の2倍以上であるのがより好ましい。突出高さhは、具体的には、より広い粒子径範囲の試料9に対応させるという観点において、0.1mm以上であるのが好ましく、0.5mm以上であるのがより好ましい。これにより、試料9が圧縮されたときに試料9が転動しても、凸部36を乗り越えにくくなり、試料9の散逸を防止できる確率が高くなる。
【0043】
一方、突出高さhの最大値は、特に限定されないが、下部治具3の熱容量が大きくなりすぎて、温度制御に対する追従性が低下する等の弊害を考慮した場合、粒子径の20倍以下であるのが好ましく、10倍以下であるのがより好ましい。突出高さhは、具体的には、より広い粒子径範囲の試料9に対応させるという観点において、10mm以下であるのが好ましく、5mm以下であるのがより好ましい。
【0044】
なお、試料9の粒子径は、複数の試料9を50倍以上で拡大観察し、画像上で測定された最大径を10個以上で平均した値である。試料9の粒子径は、特に限定されないが、例えば1μm以上800μm以下程度であり、好ましくは10μm以上500μm以下程度である。
【0045】
試料9の構成材料としては、例えば、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、硬化樹脂のような樹脂材料、金属材料、セラミック材料、ガラス材料、多糖類等が挙げられる。このうち、熱硬化性樹脂で構成された試料9の機械特性の測定において、圧縮治具1が好ましく用いられる。熱硬化性樹脂で構成された試料9は、熱硬化性樹脂の架橋度の制御によって、硬さ、比重、粒径、耐熱性等を自在に調整可能である。このため、このような試料9は、様々な用途に用いられるが、その際、試料9の架橋度が影響を及ぼす緩和現象等の熱力学的パラメータをより正確に捉えることが重要となる。
【0046】
凸部36の半径方向の厚さtは、特に限定されないが、0.3mm以上5mm以下であるのが好ましく、0.5mm以上3mm以下であるのがより好ましい。これにより、凸部36の剛性を確保できる。また、凸部36が下部治具3全体の変形を抑制する作用も得られる。
【0047】
また、上部治具2および下部治具3が試料9を圧縮するとき、凸部36は、
図2に示すように、上部治具2の半径方向の外側に位置することになる。この場合、上部治具2と凸部36との間には、隙間sが存在することが好ましい。これにより、下部治具3に干渉することなく、上部治具2を駆動することができる。
【0048】
隙間sは、半径方向における上部治具2と凸部36との離間距離の最小値とする。隙間sは、特に限定されないが、試料9の粒子径の10倍以下であるのが好ましく、試料9の粒子径未満であるのがより好ましい。隙間sは、具体的には、より広い粒子径範囲の試料9に対応させるという観点において、3mm以下であるのが好ましく、1mm以下であるのがより好ましい。一方、隙間sは、0.1mm以上であるのが好ましく、0.2mm以上であるのがより好ましい。これにより、干渉を抑制しつつ、試料9が隙間sを通過する確率を十分に下げることができる。その結果、凹状空間5に試料9を留めることができ、試料9の機械特性をより精度よく測定できる。
【0049】
圧縮治具1の外径φは、試料9の量や必要とする測定精度等に応じて適宜設定されるが、一例として、10mm以上100mm以下であるのが好ましく、18mm以上50mm以下であるのがより好ましい。これにより、試料9の量を著しく多くしなくても、十分な精度で機械特性を測定することができる。
【0050】
上部治具2および下部治具3の各構成材料は、互いに異なっていても、同じであってもよい。各構成材料としては、例えば、ステンレス鋼、低熱膨張合金等が挙げられる。このうち、低熱膨張合金が好ましく用いられる。これにより、上部治具2および下部治具3の熱膨張を抑制することができる。その結果、上部治具2の下面22と下部治具3の上面34との離間距離を一定に維持しやすくなり、温度変化に伴う測定精度の低下を抑制できる。低熱膨張合金としては、例えば、インバー、スーパーインバー、ゼロインバー、ステンレスインバー等が挙げられる。
【0051】
図1に示す上部治具2の下面22および下部治具3の上面34は、真円であるが、この形状は、特に限定されない。例えば、下面22および上面34の各形状が四角形、六角形、八角形のような多角形であってもよいし、楕円、長円のような真円以外の円形であってもよいし、その他の形状であってもよい。
【0052】
なお、本明細書において「環状」とは、上面34の形状によらず、上面34の外周に沿って輪をなす形状を指す。ただし、完全に閉じた輪であることが好ましいが、一部が途切れていてもよい。その場合、途切れた箇所の周方向における幅は、特に限定されないが、試料9の粒子径未満であるのが好ましい。また、本明細書において「板状」とは、円板状を含む様々な平面視形状を持つ平板形状を指す。さらに、本明細書において「外周」とは、上面34の形状によらず、上面34の外縁を指し、「半径方向」とは、上面34の形状によらず、中心もしくは重心から外縁に向かう方向を指す。
【0053】
図2に示す上部治具2の下面22および下部治具3の上面34は、それぞれ平面である。これにより、全ての試料9に対し、同様の荷重または変位を与えやすくなる。その結果、試料9の機械特性をより精度よく測定できる。また、平面は、加工精度を高めやすいため、圧縮治具1の製造容易性を高めることにも寄与する。この場合、下面22および上面34は、互いに平行であるのが好ましい。これにより、全ての試料9に対し、より均等に荷重または変位を与えやすくなる。なお、互いに平行とは、下面22と上面34とがなす角度が3°以下である状態をいう。
【0054】
なお、下面22および上面34は、非平面、例えば曲面であってもよい。この場合、下面22と上面34との離間距離が全体で同じになるように、各曲面の曲率等の形状因子が設定されていることが好ましい。
【0055】
1.4.動的粘弾性の測定方法
次に、第1実施形態に係る動的粘弾性の測定方法について説明する。
図6は、第1実施形態に係る動的粘弾性の測定方法の構成を示す工程図である。
【0056】
図6に示す動的粘弾性の測定方法は、応答検出工程S102と、動的粘弾性算出工程S104と、を有する。以下、各工程について順次説明する。
【0057】
1.4.1.応答検出工程
応答検出工程S102では、圧縮治具1を用い、試料9を圧縮する荷重または変位を与える。具体的には、圧縮治具1の凹状空間5に試料9を入れ、上から上部治具2を被せて圧縮振動を印加する。圧縮時の荷重または変位は、前述したドライブユニットによる試料9の変形モードに応じて、いずれかが選択され、制御される。荷重または変位を与えると、試料9において歪みまたは応力が応答として発生する。ドライブユニットでは、この応答を検出する。
【0058】
応答の検出は、いくつかの測定モードで行うことができる。測定モードとしては、例えば、周波数依存測定モード、温度依存測定モード、振幅依存測定モード等が挙げられる。このうち、周波数依存測定モードは、圧縮振動の周波数を変化させながら応答を検出する。また、温度依存測定モードは、温度を変化させながら応答を検出する。さらに、振幅依存測定モードは、圧縮振動の振幅を変化させながら応答を検出する。
【0059】
1.4.2.動的粘弾性算出工程
動的粘弾性算出工程S104では、試料9に与えた荷重または変位と、応答検出工程S102で検出した歪みまたは応力に基づいて、試料9の動的粘弾性を算出する。
【0060】
例えば、周波数依存測定モードの場合、周波数変化に対する動的粘弾性の関数が算出される。また、温度依存測定モードの場合、温度変化に対する動的粘弾性の関数が算出される。さらに、振幅依存測定モードの場合、振幅変化に対する動的粘弾性の関数が算出される。
【0061】
また、動的粘弾性算出工程S104では、必要に応じて、動的粘弾性の温度依存性に基づいて、試料9のガラス転移温度Tg等を求める。これにより、試料9の緩和現象等の熱力学的パラメータを評価することができる。
【0062】
以上のような動的粘弾性の測定方法によれば、前述した圧縮治具1を用いて測定することにより、測定温度によらず、粒子状をなす試料9の機械特性を精度よく測定することができる。その結果、広い温度範囲で、試料9の動的粘弾性を精度よく測定することができる。
【0063】
2.第2実施形態
次に、第2実施形態に係る圧縮治具について説明する。
図7は、第2実施形態に係る圧縮治具1を示す断面図である。
【0064】
以下、第2実施形態について説明するが、以下の説明では、前記実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。なお、
図7において、前記実施形態と同様の構成については、同一の符号を付している。また、
図7では、シャフト等の図示を省略している。
【0065】
第2実施形態は、下部治具3(第2部品)の上面34(第2圧縮面)の構成が異なること以外、第1実施形態と同様である。
【0066】
図7に示す上面34は、対向領域342と、溝領域344と、を含む。
対向領域342は、上面34のうち、上部治具2(第1部品)の下面22(第1圧縮面)と対向する領域である。対向領域342は、非平面であってもよいが、第1実施形態の上面34と同様、平面であるのが好ましい。そして、下面22および対向領域342は、互いに平行であるのが好ましい。
【0067】
溝領域344は、対向領域342の外周に設けられ、対向領域342から凹没している。溝領域344は、平面視形状が環状であり、対向領域342を取り囲んでいる。これにより、上部治具2の下面22の面積と下部治具3の対向領域342の面積とを等しくすることができる。その結果、試料9を上下から等しい圧力で押圧できる。つまり、前述した第1実施形態では、溝領域344が設けられていないため、下面22と上面34とで面積が異なり、試料9を押圧するときの圧力も異なる。これに対し、第2実施形態では、この圧力を等しくできるため、第1実施形態に比べて、印加する圧力の精度を高くできる。その結果、より精度の高い測定結果を得ることができる。
【0068】
また、溝領域344は、対向領域342の外周からはみ出した試料9を取り入れることにより、試料9が凹状空間5からあふれ出して散逸する確率を下げることができる。
【0069】
溝領域344の凹没深さdは、試料9の粒子径に応じて設定されればよく、例えば、試料9の粒子径の半分より深いことが好ましく、粒子径より深いことがより好ましく、粒子径の2倍以上であることがさらに好ましい。凹没深さdは、具体的には、より広い粒子径範囲の試料9に対応させるという観点において、0.1mm以上であるのが好ましく、0.2mm以上であるのがより好ましい。これにより、試料9の散逸を防止できる確率がさらに高くなる。一方、凹没深さdの最大値は、特に限定されないが、対向領域342から外れた後、測定に供されない試料9が多くなるのを避ける観点から、粒子径の10倍以下であるのが好ましく、5倍以下であるのがより好ましい。凹没深さdは、具体的には、より広い粒子径範囲の試料9に対応させるという観点において、5mm以下であるのが好ましく、3mm以下であるのがより好ましく、2mm以下であるのがさらに好ましい。
【0070】
なお、溝領域344は、対向領域342の全周にわたって設けられているのが好ましいが、一部途切れている箇所があってもよい。その場合、途切れた箇所の周方向における幅は、特に限定されないが、試料9の粒子径未満であるのが好ましい。
【0071】
溝領域344の半径方向の幅wは、試料9の粒子径に応じて設定されればよく、例えば、試料9の粒子径より広いことが好ましく、粒子径の2倍以上であることがより好ましい。幅wは、具体的には、より広い粒子径範囲の試料9に対応させるという観点において、0.1mm以上であるのが好ましく、0.3mm以上であるのがより好ましい。これにより、試料9の散逸を防止できる確率がさらに高くなる。一方、幅wの最大値は、特に限定されないが、対向領域342から外れた後、測定に供されない試料9が多くなるのを避ける観点から、粒子径の10倍以下であるのが好ましく、5倍以下であるのがより好ましい。幅wは、具体的には、より広い粒子径範囲の試料9に対応させるという観点において、5mm以下であるのが好ましく、3mm以下であるのがより好ましく、2mm以下であるのがさらに好ましい。
【0072】
溝領域344の延在方向に直交する面で切断したときの溝領域344の断面形状としては、特に限定されないが、例えば、三角形、四角形、五角形のような多角形、半円形等が挙げられる。
以上のような第2実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0073】
3.第3実施形態
次に、第3実施形態に係る圧縮治具について説明する。
図8は、第3実施形態に係る圧縮治具1を示す断面図である。
【0074】
以下、第3実施形態について説明するが、以下の説明では、前記実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。なお、
図8において、前記実施形態と同様の構成については、同一の符号を付している。また、
図8では、シャフト等の図示を省略している。
【0075】
第3実施形態は、下部治具3(第2部品)の構成が異なること以外、第1実施形態と同様である。
【0076】
図8に示す凸部36は、基端部362と、先端部364と、を有する。
基端部362は、凸部36のうち、z軸マイナス側(基端側)の部位である。先端部364は、基端部362のz軸プラス側(先端側)に連結され、基端部362よりも半径方向の厚さtが厚い部位である。このような先端部364が設けられることにより、試料9が凹状空間5からあふれ出して散逸する確率を下げることができる。具体的には、先端部364は、基端部362よりも厚さtが厚く、かつ、内側に向かってせり出している。このため、隙間sを介して試料9があふれ出ようとするとき、先端部364によって試料9がせき止められる。
【0077】
基端部362の厚さtと先端部364の厚さtとの差は、試料9の粒子径に応じて設定されればよく、例えば、試料9の粒子径の半分より大きいことが好ましく、粒子径より大きいことがより好ましく、粒子径の2倍以上であることがさらに好ましい。基端部362の厚さtと先端部364の厚さtとの差は、具体的には、より広い粒子径範囲の試料9に対応させるという観点において、0.1mm以上であるのが好ましく、0.3mm以上であるのがより好ましい。これにより、試料9の散逸を防止できる確率がさらに高くなる。一方、基端部362の厚さtと先端部364の厚さtとの差の最大値は、特に限定されないが、下面22の直下から外れた後、測定に供されない試料9が多くなるのを避ける観点から、粒子径の10倍以下であるのが好ましく、5倍以下であるのがより好ましい。基端部362の厚さtと先端部364の厚さtとの差は、具体的には、より広い粒子径範囲の試料9に対応させるという観点において、5mm以下であるのが好ましく、3mm以下であるのがより好ましく、2mm以下であるのがさらに好ましい。
【0078】
なお、先端部364は、凸部36の全周にわたって設けられているのが好ましいが、一部途切れている箇所があってもよい。その場合、途切れた箇所の周方向における幅は、特に限定されないが、試料9の粒子径未満であるのが好ましい。
以上のような第3実施形態においても、前記各実施形態と同様の効果が得られる。
【0079】
4.第4実施形態
次に、第4実施形態に係る圧縮治具について説明する。
図9は、第4実施形態に係る圧縮治具1を示す断面図である。
【0080】
以下、第4実施形態について説明するが、以下の説明では、前記実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。なお、
図9において、前記実施形態と同様の構成については、同一の符号を付している。また、
図9では、シャフト等の図示を省略している。
【0081】
第4実施形態は、下部治具3(第2部品)の構成が異なること以外、第1実施形態と同様である。より具体的には、第4実施形態は、第2実施形態の下部治具3が有する溝領域344と、第3実施形態の下部治具3が有する先端部364と、を併せ持つこと以外、第1実施形態と同様である。
【0082】
図9に示す上面34は、対向領域342と、溝領域344と、を含む。また、
図9に示す凸部36は、基端部362と、先端部364と、を有する。このため、
図9に示す圧縮治具1では、試料9が凹状空間5からあふれ出して散逸する確率を特に下げることができる。
以上のような第4実施形態においても、前記各実施形態と同様の効果が得られる。
【0083】
5.第5実施形態
次に、第5実施形態に係る圧縮治具について説明する。
【0084】
図10および
図11は、それぞれ、第5実施形態に係る圧縮治具1を示す断面図である。
【0085】
以下、第5実施形態について説明するが、以下の説明では、前記実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項についてはその説明を省略する。なお、
図10において、前記実施形態と同様の構成については、同一の符号を付している。また、
図10および
図11では、シャフト等の図示を省略している。
【0086】
第5実施形態は、上部治具2(第1部品)の構成が異なること以外、第4実施形態と同様である。
【0087】
図10および
図11に示す上部治具2は、下面22(第1圧縮面)、下面22と表裏の関係を持つ上面24(裏面)、および、これらをつなぐ側面23を有する。上部治具2は、全体として円板状をなしており、このうち、中心を含む部位である中心部202と、その外側に位置する外周部204と、を有する。
【0088】
中心部202は、上部治具2をz軸上から見たとき、中心を含む部位である。中心部202の板厚T、すなわちz軸方向における中心部202の厚さは、一定である。
【0089】
外周部204は、中心部202の半径方向の外側に設けられている。外周部204の板厚Tは、中心部202よりも薄くなっている。具体的には、
図10に示す外周部204の場合、上部治具2の上面24と側面23とをつなぐ稜線が、丸みを帯びている。これにより、
図10に示す外周部204の上面24は、丸みを帯びた斜面になっており、その結果、外周部204の板厚Tは、中心部202の板厚Tより薄く、かつ、r軸プラス側に向かって徐々に薄くなっている。このような外周部204が設けられていることにより、
図10に示すように、凹状空間5からあふれ出した試料9が、側面23をはい上がった場合でも、外周部204の斜面に沿って試料9を凹状空間5に落下させやすくなる。その結果、試料9が散逸する確率を下げることができる。
【0090】
また、
図11に示す外周部204の場合、上部治具2の側面23が下面22(第1圧縮面)に対して傾斜して斜面になっている。傾斜しているとは、z軸に平行で、かつ、上部治具2の中心を通過する平面で切断されたときの断面において、
図11に示すように、側面23と下面22との間の内角θが90°超である状態を指す。具体的には、下面22よりも上面24の面積が大きくなるように、下面22に対して側面23が傾斜している。その結果、外周部204の板厚Tは、中心部202の板厚Tより薄くなっている。このような側面23を含む外周部204が設けられていることにより、凹状空間5からあふれ出した試料9が、側面23をはい上がりにくくなる。その結果、試料9が散逸する確率を下げることができる。なお、この場合、内角θは、90°超であればよいが、好ましくは95°以上150°以下とされ、より好ましくは100°以上135°以下とされる。内角θをこのような範囲に設定することで、側面23が適度な角度のオーバーハング斜面となるため、試料9のはい上がりを十分に抑制しつつ、下面22の面積が小さくなりすぎるのを防ぐことができる。
以上のような第5実施形態においても、前記各実施形態と同様の効果が得られる。
【0091】
6.前記実施形態が奏する効果
前記実施形態に係る圧縮治具1は、粒子状をなす試料9に圧縮する荷重または変位を与え、試料9で発生する歪みまたは応力を検出することにより、試料9の機械特性を測定するために用いる圧縮治具である。この圧縮治具1は、上部治具2(第1部品)と、下部治具3(第2部品)と、を備える。上部治具2は、下面22(第1圧縮面)を有する。下部治具3は、試料9を介して下面22と対向する上面34(第2圧縮面)、および、上面34の外周に沿って環状に延在し、上面34から突出する凸部36、を有する。
【0092】
このような構成によれば、試料9の機械特性を圧縮モードで測定するとき、試料9の散逸を抑制できるため、機械特性をより正確に測定可能な圧縮治具1が得られる。また、圧縮治具1によれば、粘着層やマトリックス樹脂のような高分子材料(試料9を保持する材料)を用いることなく試料9の機械特性を測定することができる。このため、圧縮治具1は、測定温度によらず、広い温度範囲で、試料9の機械特性を精度よく測定可能な治具となる。
【0093】
また、前記実施形態において、上部治具2の下面22(第1圧縮面)および下部治具3の上面34(第2圧縮面)は、それぞれ平面である。
【0094】
このような構成によれば、全ての試料9に対し、同様の荷重または変位を与えやすくなる。その結果、試料9の機械特性をより精度よく測定できる。また、平面は、加工精度を高めやすいため、圧縮治具1の製造容易性を高めることにも寄与する。
【0095】
また、前記実施形態において、下部治具3の上面34(第2圧縮面)は、対向領域342と、溝領域344と、を含む。対向領域342は、上部治具2の下面22(第1圧縮面)と対向する。溝領域344は、対向領域342の外周に設けられ、対向領域342から凹没している。
【0096】
このような構成によれば、上部治具2の下面22の面積と下部治具3の対向領域342の面積とを等しくすることができる。その結果、試料9を上下から等しい圧力で押圧することができ、より精度の高い測定結果を得ることができる。
【0097】
また、前記実施形態において、下部治具3の上面34(第2圧縮面)の中心から外周に向かう方向を半径方向とするとき、凸部36の先端部364における半径方向の厚さtは、凸部36の基端部362よりも厚い。
【0098】
このような構成によれば、先端部364を基端部362よりも内側にせり出させることができる。これにより、試料9が圧縮治具1からあふれ出ようとするとき、先端部364によって試料9をせき止めることができる。その結果、試料9が散逸する確率を下げることができる。
【0099】
また、前記実施形態において、上部治具2(第1部品)は、下面22(第1圧縮面)が平面である板状をなしている。そして、上部治具2の外周部204における板厚Tは、上部治具2の中心部202における板厚Tよりも薄い。
【0100】
このような構成によれば、外周部204の上面24または側面23が斜面となった上部治具2が得られる。斜面を持つ上面24には、側面23を試料9がはい上がっても、それを落下させやすくする作用がある。また、斜面となった側面23には、側面23を試料9がはい上がりにくくする作用がある。これらの作用により、試料9が散逸する確率を下げる効果が得られる。
【0101】
また、前記実施形態において、板状をなす上部治具2(第1部品)は、下面22(第1圧縮面)と、下面22と表裏の関係を持つ上面24(裏面)と、下面22と上面24とをつなぐ側面23と、を有する。そして、上部治具2では、下面22よりも上面24の面積が大きくなるように、下面22に対して側面23が傾斜している。
【0102】
このような構成によれば、試料9が側面23をはい上がりにくくなる。その結果、試料9が散逸する確率を下げることができる。
【0103】
また、前記実施形態において、凸部36の突出高さhは、試料9の粒子径より高い。
このような構成によれば、試料9が圧縮されたときに試料9が転動しても、凸部36を乗り越えにくくなる。これにより、試料9の散逸を防止できる確率が高くなる。
【0104】
また、前記実施形態に係る動的粘弾性の測定方法は、応答検出工程S102と、動的粘弾性算出工程S104と、を有する。応答検出工程S102では、前記実施形態に係る圧縮治具1を用い、試料9を圧縮する荷重または変位を与え、試料9で発生する歪みまたは応力を検出する。動的粘弾性算出工程S104では、荷重または変位および歪みまたは応力に基づいて、試料9の動的粘弾性を算出する。
【0105】
このような構成によれば、試料9の機械特性を圧縮モードで測定するとき、試料9の散逸を抑制できるため、機械特性をより正確に測定することができる。また、圧縮治具1を用いることで、粘着層やマトリックス樹脂のような高分子材料(試料9を保持する材料)を用いることなく試料9の機械特性を測定することができる。このため、圧縮治具1を用いることにより、広い温度範囲で、試料9の動的粘弾性を精度よく測定することができる。
【0106】
以上、本発明の圧縮治具および動的粘弾性の測定方法を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0107】
例えば、本発明の圧縮治具は、前記実施形態の各部が同様の機能を有する任意の構成物に置換されたものであってもよく、前記実施形態に任意の構成物が付加されたものであってもよい。また、本発明の圧縮治具は、前記実施形態のうち、少なくとも2つ以上が組み合わされたものであってもよい。
【0108】
また、本発明の動的粘弾性の測定方法は、前記実施形態に任意の目的の工程が付加されたものであってもよい。
【0109】
また、前記実施形態に係る圧縮治具は、ずりモードでの機械特性の測定に用いられてもよい。例えば、測定対象の試料が転動しにくい形状をなしている場合、前記実施形態に係る圧縮治具を用いて、ずりモードでの機械特性を測定することにより、試料の散逸を抑える効果が得られる。
【符号の説明】
【0110】
1 圧縮治具
2 上部治具
3 下部治具
5 凹状空間
8 パラレルプレート型治具
9 試料
22 下面
23 側面
24 上面
28 シャフト
32 下面
34 上面
36 凸部
38 シャフト
82 上部治具
83 下部治具
90 試験片
91 基材シート
92 粘着層
95 試験片
96 マトリックス樹脂
202 中心部
204 外周部
342 対向領域
344 溝領域
362 基端部
364 先端部
822 下面
834 上面
D 矢印
S102 応答検出工程
S104 動的粘弾性算出工程
T 板厚
d 凹没深さ
h 突出高さ
s 隙間
t 厚さ
w 幅
θ 内角
φ 外径