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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173079
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】磁気粘性流体及び機械装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/44 20060101AFI20241205BHJP
   F16D 63/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
H01F1/44 170
F16D63/00 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091204
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000108454
【氏名又は名称】ソマール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石▲崎▼ 裕久
(72)【発明者】
【氏名】落合 明
【テーマコード(参考)】
3J058
5E041
【Fターム(参考)】
3J058AB27
5E041AA04
5E041AA11
5E041AB16
5E041BD07
5E041BD12
5E041CA01
5E041NN06
(57)【要約】
【課題】磁気粘性流体中の磁性粒子の分散状態を簡易に評価することが可能な磁気粘性流体及び機械装置を提供する。
【解決手段】磁性粒子、基油、及び、カーボンを含有し、
磁性粒子の平均粒径D50が1μm以上である、磁気粘性流体。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粒子、基油、及び、カーボンを含有し、
前記磁性粒子の平均粒径D50が1μm以上である、磁気粘性流体。
【請求項2】
前記カーボンの含有率が磁性粒子100質量部に対し、0.01~0.8質量部である、請求項1に記載の磁気粘性流体。
【請求項3】
前記カーボンの平均一次粒径D50が10~300nmである、請求項1に記載の磁気粘性流体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の磁気粘性流体を用いた機械装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気粘性流体及び機械装置に関する。特に、ブレーキ、クラッチ、防振装置、制振装置のダンパといった各種機械装置等における物体間に作用する摩擦力を制御するために用いる磁気粘性流体及び機械装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気粘性(Magneto Rheological:MR)流体は、磁化可能な金属粒子等である磁性粒子を分散媒中に分散させた流体である。磁気粘性流体は、磁場の作用がないときには分散媒中に磁性粒子がランダムに浮遊しており、流体として機能する。一方、磁場を作用させたときには、磁性粒子が多数のクラスターを形成して増粘し、内部応力が増大する。
【0003】
磁気粘性流体は、上述の内部応力の増大によって剛体のように機能し、せん断流れや圧力流れに対して抗力を示す。このような特性を有するため、磁気粘性流体は、ブレーキ、クラッチ、防振装置、制振装置のダンパといった各種機械装置等において、物体間に作用する摩擦力を制御するために利用されている。
【0004】
磁気粘性流体は、上述のように、金属粒子等である磁性粒子が分散媒中にランダムに浮遊し、流体として機能することが必要である。また、分散媒中に磁性粒子が均一に分散していることが好ましい。しかしながら、磁気粘性流体を静置しておくと、金属粒子等である磁性粒子が比重の関係から磁気粘性流体中で沈降してしまうおそれがある。このような場合、磁気粘性流体中に磁性粒子がランダムに浮遊せず、磁性粒子が集中して濃度が高くなっている部分や、磁性粒子の濃度が低くなっている部分などが生じ、上述の励磁時の抗力が低下する等、磁気粘性流体としての機能が低下する問題が生じる。
【0005】
特許文献1には、磁性粒子の分散安定性を向上させる目的で、キャリア流体中に、磁性粒子と、粘土鉱物系分散安定剤と、界面活性剤とを所定量含有させてなる磁気粘性流体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-121578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
磁性粒子が磁気粘性流体中に沈降している場合、磁気粘性流体としての機能が低下する。このため、磁気粘性流体をブレーキ、クラッチ、防振装置、制振装置のダンパといった各種機械装置に使用する前等には、磁気粘性流体中に磁性粒子が均一に分散しているかどうかを確認することが必要となる。また、磁気粘性流体は磁性粒子、基油、分散剤等を含んでおり、通常、全体として灰色の流体であるため、磁気粘性流体に金属粒子等である磁性粒子がどのように分散しているか目視での確認は困難である。このため、従来、磁性粒子の分散状態の確認作業としては、磁気粘性流体の深さ方向において異なる位置で、磁気粘性流体をサンプリングし、各サンプリング位置の磁気粘性流体の比重を測定し、これらを比較することで、磁性粒子が磁気粘性流体中に均一に分散しているかどうかを評価している。すなわち、各サンプリング位置の磁気粘性流体の比重がほぼ同じである場合は、磁性粒子が磁気粘性流体中に均一に分散していると判断し、当該比重にバラツキがある場合は、磁性粒子が磁気粘性流体中に偏って分散していると判断している。
【0008】
しかしながら、磁気粘性流体の使用前に、磁性粒子の分散状態を評価するために、磁気粘性流体の深さ方向において異なる位置で、磁気粘性流体をサンプリングし、各サンプリング位置の磁気粘性流体の比重を測定し、これらを比較する作業を行うことは非常に手間がかかる。また、この確認作業によって磁性粒子の分散状態が悪いと判断した場合、磁気粘性流体を撹拌することになるが、どこまで撹拌しても磁気粘性流体の見た目に変化が無いため、撹拌をいつまで行うべきか分からず、正確に分散状態を確かめるためには、再度、上述の複数位置でのサンプリング作業及び比重の測定作業が必要となるという問題がある。
【0009】
本発明は以上の点に着目し成されたもので、磁気粘性流体中の磁性粒子の分散状態を簡易に評価することが可能な磁気粘性流体及び機械装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決するため、以下の[1]~[4]のように特定される。
[1]磁性粒子、基油、及び、カーボンを含有し、
前記磁性粒子の平均粒径D50が1μm以上である、磁気粘性流体。
[2]前記カーボンの含有率が磁性粒子100質量部に対し、0.01~0.8質量部である、前記[1]に記載の磁気粘性流体。
[3]前記カーボンの平均一次粒径D50が10~300nmである、前記[1]または[2]に記載の磁気粘性流体。
[4]前記[1]~[3]のいずれかに記載の磁気粘性流体を用いた機械装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、磁気粘性流体中の磁性粒子の分散状態を簡易に評価することが可能な磁気粘性流体及び機械装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(A)は実施例1の撹拌直後の磁気粘性流体の表面写真である。(B)は実施例1の静置後の磁気粘性流体の表面写真である。
図2】実施例2の静置後の磁気粘性流体の表面写真である。
図3】実施例3の静置後の磁気粘性流体の表面写真である。
図4】実施例4の静置後の磁気粘性流体の表面写真である。
図5】実施例5の静置後の磁気粘性流体の表面写真である。
図6】実施例6の静置後の磁気粘性流体の表面写真である。
図7】実施例7の静置後の磁気粘性流体の表面写真である。
図8】実施例8の静置後の磁気粘性流体の表面写真である。
図9】実施例9の静置後の磁気粘性流体の表面写真である。
図10】比較例1の静置後の磁気粘性流体の表面写真である。
図11】比較例2の静置後の磁気粘性流体の表面写真である。
図12】比較例3の静置後の磁気粘性流体の表面写真である。
図13】実施例1及び比較例3の0~0.8Tの磁場を印加した際の粘度の変化を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の磁気粘性流体及び機械装置の実施形態について説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0014】
なお、本明細書中、数値範囲を表す「~」は、その上限値及び下限値としてそれぞれ記載されている数値を含む範囲を表す。また、数値範囲において上限値のみ単位が記載されている場合は、下限値も上限値と同じ単位であることを意味する。
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値または下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値または下限値に置き換えてもよい。
また、本明細書に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値または下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の含有率または含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率または含有量を意味する。
【0015】
(磁気粘性流体)
本実施形態に係る磁気粘性流体は、所定範囲の粒径を有する磁性粒子、基油、及び、カーボンを含む。このような構成により、本実施形態に係る磁気粘性流体は、磁気粘性流体中の磁性粒子の分散状態を簡易に評価することが可能となる。この理由について、以下に説明する。
【0016】
磁気粘性流体において、磁性粒子は、基油中で分散している。通常、磁気粘性流体は灰色を呈しており、その中で金属粒子等である磁性粒子が分散していても、その分散状態は目視では確認することが困難である。このため、磁性粒子が磁気粘性流体中で沈降していても、均一に分散していても、目視では判断でき難い。これに対し、カーボンは黒色の微粒子であるため、灰色の磁気粘性流体において黒いカーボンの微粒子は目立ち、目視での確認が容易である。このようなカーボンを含有する磁気粘性流体は、長時間静置されると、基油に対して比重の大きい磁性粒子が沈降し、基油に対して比重の小さいカーボンが浮き上がる。カーボンは黒色の微粒子であり、灰色の磁気粘性流体の表面に浮かぶとカーボンの黒色斑模様が生じる。このカーボンの黒色斑模様は目視で容易に確認することができる。この性質を利用し、本実施形態に係る磁気粘性流体は、カーボンを含有することで、目視で磁気粘性流体の表面にカーボンが浮かび上がっていないことが確認できた場合は、磁気粘性流体中の磁性粒子を含む各成分が良好に分散されていることがわかる。また、目視で磁気粘性流体の表面にカーボンが浮かび上がっていることが確認できた場合は、磁気粘性流体中の各成分の分散状態が不良であり、磁性粒子も沈降しているおそれがあることがわかる。このように、本実施形態に係る磁気粘性流体は、表面に浮き上がるカーボンの有無をマーカーとすることで、磁気粘性流体中の磁性粒子の分散状態を簡易に評価することができる。また、磁気粘性流体中の各成分の分散状態が不良であることが確認できた場合は、磁気粘性流体を撹拌することになるが、磁気粘性流体の表面にカーボンが浮かび上がっていたカーボンが撹拌によって磁気粘性流体中に良好に分散されると磁気粘性流体の表面からカーボンが目視で確認できなくなる。このため、その時点を、撹拌を止めてよいという撹拌の終点の判断基準とすることができる。なお、磁性粒子の平均粒径は所定の理由から適切な範囲があるが、この点について、詳細は後述する。
【0017】
以下、本実施形態に係る磁気粘性流体に含まれる各成分について説明する。
【0018】
1.磁性粒子
本実施形態に係る磁気粘性流体に含まれる磁性粒子は、灰色を呈しており、目的とする透磁率に応じて選択することができる。例えば、マグネタイト、カルボニル鉄、γ酸化鉄、マンガンフェライト、コバルトフェライト、またはこれらと亜鉛、ニッケルとの複合フェライトやバリウムフェライト等の強磁性酸化物;鉄、コバルト、希土類等の強磁性金属;窒化金属;センダスト(登録商標)、パーマロイ(登録商標)、スーパーマロイ(登録商標)等の各種合金等が挙げられる。これらの中でも、保磁力が小さく透磁率が大きい軟磁性材料である点でカルボニル鉄が好ましい。カルボニル鉄は、ペンタカルボニル鉄(Fe(CO)5)の熱分解により製造される高純度の金属粒子である。
なお、磁性粒子は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0019】
本実施形態に係る磁気粘性流体では、外部から磁場が加えられたとき分散した磁性粒子が磁場の方向に配向して鎖状のクラスターを形成することにより、増粘し、その流動特性や降伏応力が変化する。このような挙動を示すように磁性粒子の平均粒径は定められる。また、本実施形態に係る磁気粘性流体は、分散状態を目視するためにカーボンの微粒子が含まれており、磁性粒子はカーボンと混在しないように挙動が分かれる必要がある。このため、磁性粒子はカーボンの微粒子よりも大きい粒径を有している必要がある。このような観点から、本実施形態に係る磁気粘性流体の磁性粒子の平均粒径D50(メディアン径)が1μm以上に制御されている。磁性粒子の平均粒径D50の上限値は30μm以下であるのが好ましく、20μm以下であるのがより好ましく、10μm以下であるのが更により好ましい。磁性粒子の形状は、分散が容易になること及び磁性粒子の永久磁石化を引き起こすおそれのある残留磁化への影響等を考慮し、球状、またはほぼ球状であることが好ましい。
なお、磁性粒子の平均粒径D50は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置で測定することができる。
【0020】
磁性粒子の含有率は、本実施形態に係る磁気粘性流体全量に対して、30~90質量%の範囲であることが好ましい。磁性粒子の含有率を本実施形態に係る磁気粘性流体全量に対して、30~90質量%の範囲とすることにより、磁場を作用させたときに必要な抗力が得られるとともに、磁性粒子の分散性を維持できるため、流体としても機能する。当該磁性粒子の含有率の下限値は、40質量%以上であるのがより好ましく、45質量%以上であるのが更により好ましく、50質量%以上であるのが更により好ましい。当該磁性粒子の含有率の上限値は、85質量%以下であるのがより好ましく、80質量%以下であるのが更により好ましい。
【0021】
2.基油
本実施形態に係る磁気粘性流体に含まれる基油は、常温(25℃)で液状であり、磁性粒子の分散媒として従来から使用されている鉱油および合成油の中から任意のものを適宜選択して用いることができる。基油は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。本実施形態に係る磁気粘性流体に用いられる基油としては、鉱油または合成油のいずれか一方のみを用いてもよいし、鉱油および合成油を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
合成油としては、αオレフィン、ポリαオレフィン、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、ハロゲン化炭化水素等の炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、グリコール系溶剤、シリコーン系溶剤等が挙げられる。
【0023】
鉱油としては、溶剤精製、水添精製等の通常の精製法により得られるパラフィン基系鉱油、中間基系鉱油およびナフテン基系鉱油等、フィッシャー・トロプシュプロセス等により製造されるワックス(ガス・トゥ・リキッドワックス)等が挙げられる。
【0024】
αオレフィンとしては、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン等が挙げられる。これらの中でも1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン等の炭素数10~14のαオレフィンが好ましく、ポリαオレフィンはこれらαオレフィンの重合体であることが好ましい。αオレフィン及びポリαオレフィンは、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0025】
エステル系溶剤としては、モノエステル、ポリオールエステル、二塩基酸エステル(ジエステル)、ポリオキシアルキレングリコールエステル等が挙げられる。このうち、モノエステルとしては、例えば炭素数12~30のモノエステルが好ましく、例えば、2-エチルヘキシルラウレート、2-エチルヘキシルパルミテート、n-ブチルステアレートなどが挙げられる。ポリオールエステルとは、多価アルコール(ポリオール)と、直鎖状又は分岐鎖状の飽和又は不飽和脂肪酸とのエステルをいう。ポリオールエステルとしては、例えば、ヒンダードエステルが挙げられる。エステル系合成油は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0026】
エーテル系溶剤としては、例えば、ポリビニルエーテル類、ポリアルキレングリコール類、ポリフェニルエーテル類、パーフルオロエーテル類等が挙げられる。エーテル系合成油は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0027】
グリコール系溶剤としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、又はエチレンオキサイド-プロピレンオキサイドコポリマー、プロピレンオキサイド-ブチレンオキサイドコポリマー、及びこれらの誘導体が挙げられる。グリコール系溶剤は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0028】
本実施形態に係る磁気粘性流体に含まれる上述の基油は、無色又は薄茶色を呈するものである。基油と灰色を呈する磁性粒子を混合した場合に、磁気粘性流体は、全体としても灰色を呈することになり、黒い微粒子であるカーボンが浮き上がると磁気粘性流体の灰色の表面において目視でもカーボンを確認することができる。
【0029】
基油の40℃における動粘度は、50.0mm2/s以下であることが好ましく、5.0~40.0mm2/sの範囲であることがより好ましい。基油の40℃における動粘度を50.0mm2/s以下とすることにより、磁性粒子を分散させることが容易となる点でより好ましい。
なお、動粘度は、JIS K2283:2000動粘度試験方法により測定される動粘度である。
【0030】
基油の引火点は、200℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましい。
基油の引火点が、200℃以上であれば、消防法上の分類が第3石油類から第4石油類となるため、危険物取扱量(指定数量)を増加させることができる点でより好ましい。なお、引火点は、JIS K2265-4:2007(クリーブランド開放(COC)法)に準拠して測定される引火点である。
【0031】
基油の流動点は、-10℃以下が好ましく、-20℃以下がより好ましく、-30℃以下が特に好ましく、-50℃以下が最も好ましい。流動点が-10℃以下であると低温流動性に優れる点でより好ましい。なお、流動点は、JIS K2269:1987に準拠して測定される流動点である。
【0032】
基油の含有率の下限値は、本実施形態に係る磁気粘性流体全量に対して10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。基油の含有率を10質量%以上とすることで、磁性粒子を分散させることができ、流動性も向上させることができる。基油の含有率の上限値は、本実施形態に係る磁気粘性流体全量に対して70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましい。基油の含有率を70質量%以下とすることで、励磁時の磁気特性を向上させることができる点でより好ましい。
【0033】
3.カーボン
本実施形態に係る磁気粘性流体に含まれるカーボンは、黒色の微粒子であるカーボンブラックを用いることが好ましい。カーボンブラックとしては、チャンネルブラック、ロールブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等が挙げられる。カーボンは、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0034】
本実施形態に係る磁気粘性流体に含まれるカーボンの含有率は、磁性粒子100質量部に対し、0.01~0.8質量部であることが好ましい。カーボンの含有率が0.01質量部以上であると、磁気粘性流体の表面に浮き上がった状態においてカーボンの視認性がより良好となり、磁性粒子の分散状態が不良であることが容易に判別可能となる。また、カーボンの含有率が0.8質量部以下であると、励磁時の抗力等の磁気粘性流体として必要な機能が低下することを抑制することができる。本実施形態に係る磁気粘性流体のカーボンの含有率は、磁性粒子100質量部に対し、0.03~0.5質量部であるのがより好ましく、0.05~0.4質量部であるのが更により好ましい。
【0035】
本実施形態に係る磁気粘性流体に含まれるカーボンの平均一次粒径D50は、10~300nmであるのが好ましい。カーボンの平均一次粒径D50が10nm以上であると、磁気粘性流体の表面に浮き上がった状態においてカーボンの視認性がより良好となり、磁性粒子の分散状態が不良であることが容易に判別可能となる。また、カーボンの平均一次粒径D50が300nm以下であると、カーボンが磁気粘性流体の表面に浮き上がりやすくなり、カーボンの視認性がより良好となる。また、カーボンが浮き上がりやすくなると磁気粘性流体にカーボンが混在し難くなるため、磁気印加時のクラスター形成の際に磁性粒子間にカーボンが介在することが抑制され、励磁時の粘度が安定する。本実施形態に係る磁気粘性流体に含まれるカーボンの平均一次粒径D50は、20~200nmであるのがより好ましく、30~150nmであるのが更により好ましい。
なお、カーボンの平均一次粒径D50は、動的光散乱法/STEMにて直接観察することができる。
【0036】
4.その他の成分
本実施形態に係る磁気粘性流体は、本実施形態の効果を損なわない範囲で、前記した各成分に加えて、目的に応じて、さらに種々のその他の成分を併用してもよい。
その他の成分としては、例えば、耐摩耗剤、分散剤、界面活性剤、粘度調整剤、流動性向上剤、沈降抑制剤、流動点降下剤、極圧剤、さび止め剤、酸化防止剤、腐食防止剤、金属不活性剤、消泡剤等が挙げられる。
【0037】
耐摩耗剤としては、例えば、スルフィド類、スルフォキシド類、スルホン類、チオホスフィネート類等の硫黄系化合物、塩素化炭化水素等のハロゲン系化合物、ジチオリン酸モリブデン(MoDTP)、ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)、リン酸トリクレジル等の有機金属系化合物等が挙げられる。
耐摩耗剤は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0038】
分散剤は、磁性粒子の基油への分散性を向上させるために添加され、公知の低分子系分散剤や高分子系分散剤等が挙げられる。分散剤は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0039】
粘度調整剤としては、例えば、ひまし油、水添ひまし油、脂肪酸アミド、蜜ロウ、カルナバワックス、ベンリジデンソルビトール、金属石鹸、酸化ポリエチレン、硫酸エステル系アニオン活性剤、ポリオレフィン、(メタ)アクリル酸エステル、ポリイソブチレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリアルキルスチレン等が挙げられる。
粘度調整剤は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0040】
流動性向上剤としては、変性シリコーンオイルが挙げられる。例えば、ストレートシリコーンオイルを、アルキル、アラルキル、ポリエーテル、高級脂肪酸エステル、アミノ、エポキシ、カルボキシル、アルコール等により変性したものが挙げられる。なお、変性シリコーンオイルは、基油と相溶するものであっても良い。流動性向上剤は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0041】
<磁気粘性流体の粘度>
本実施形態に係る磁気粘性流体の励磁前の粘度は、D50=5.5μmの磁性粒子と基油とを、質量比80:20で配合させている場合に、25℃において0.03~1.0Pa・sの範囲であることが好ましく、0.03~0.6Pa・sの範囲であることがより好ましい。なお、励磁前の粘度の測定条件は以下の通りである。
磁気測定オプションを装着したTAインスツルメント社製レオメータDHR-2の試験用プレートに磁気粘性流体を3ml注入し、25℃の雰囲気下100μmギャップ20回転にて粘度(Pa・s)を測定する。
本実施形態に係る磁気粘性流体の励磁時の粘度は、D50=5.5μmの磁性粒子と基油とを、質量比80:20で配合させている場合に、25℃において、0.8Tの磁場を印加させた場合に、5000~6000Pa・sの範囲であることが好ましく、5500~6000Pa・sの範囲であることがより好ましい。
なお、励磁時の粘度の測定は以下のようにして行う。すなわち、励磁時の粘度を測定した際と同じ測定装置を用い、25℃の雰囲気下で700μmギャップ20回転にて0~0.8Tの磁場を印加し粘度を測定する。
【0042】
<磁気粘性流体の流動性>
本実施形態に係る磁気粘性流体の流動性は、後述する方法により磁気粘性流体を製造した後、使用した容器を45度傾斜させたときに磁気粘性流体が液性として追従するかどうかを目視にて観察することにより評価することができる。
【0043】
(磁気粘性流体の製造方法)
本実施形態に係る磁気粘性流体の製造方法は、特に限定されない。例えば、磁性粒子、基油、及び、カーボン、更に所望により添加されるその他の成分を、各所定量、ホモジナイザー、ビーズミル、メカニカルミキサー等の高せん断力が与えられる処理機で混合する方法が挙げられる。なお、磁気粘性流体の製造においては必要に応じ加温または冷却してもよい。
【0044】
(磁気粘性流体を用いた機械装置)
本実施形態に係る磁気粘性流体は、物体間に作用する摩擦力を制御するために用いられるブレーキ、クラッチ、防振装置、制振装置のダンパといった各種機械装置に本実施形態に係る磁気粘性流体を適用することができる。
【実施例0045】
以下に本発明の実施例を示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0046】
<実施例1~9、比較例1~3>
表1に示す各成分を、その記載の質量比に基づきビーカーに入れ、セイコーアドバンス社製の万能型振動撹拌機AD-MIXを用いて40Hzにて室温で5分間撹拌し、磁気粘性流体を製造した。表1に示す各成分の原料を以下に示す。
(A)磁性粒子
・磁性粒子1:カルボニル鉄(球状、平均粒径D50=5.5μm)
・磁性粒子2:カルボニル鉄(球状、平均粒径D50=2.0μm)
・磁性粒子3:カルボニル鉄(球状、平均粒径D50=8.5μm)
【0047】
(B)基油
・基油1:炭化水素系溶剤[ポリαオレフィン(PAO)、40℃における動粘度:17.2mm2/s、引火点222℃、流動点-68℃]
・基油2:鉱油[パラフィン基系鉱油、40℃における動粘度30.6mm2/s、引火点222℃、流動点-17.5℃]
・基油3:エステル系溶剤[ヒンダードエステル、40℃における動粘度16.0mm2/s、引火点260℃、流動点-57℃]
【0048】
(C)マーカー、顔料
・カーボン:ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製ケッチェンブラック[製品名:カーボンECP、平均一次粒径D50=40nm]
・カーボン以外1:三菱マテリアル電子化成株式会社製チタンブラック[製品名UF8、平均一次粒径D50=20nm]
・カーボン以外2:戸田工業株式会社製ベンガラ[製品名:トダカラー130ED、平均一次粒径D50=150nm]
【0049】
<磁性粒子の分散状態の評価>
実施例1~9及び比較例1~3について、上述の撹拌直後の磁気粘性流体の表面状態を目視で観察した。また、このときの磁気粘性流体の表面を撮影した。実施例1について、撹拌直後の磁気粘性流体の表面写真を図1(A)に示す。図1(A)から分かるように、撹拌直後はカーボン等が浮かんでおらず、各成分が良好に分散した状態であると考えられる。また、実施例2~7及び比較例1~3についても、撹拌直後の磁気粘性流体の表面を撮影したところ、実施例1の図1(A)と同様の外観を示した。
次に、磁気粘性流体を入れた容器をそのまま12時間静置し、表面状態を目視で観察した。また、このときの磁気粘性流体の表面を撮影した。実施例1~9及び比較例1~3について、静置後の磁気粘性流体の表面写真をそれぞれ図1(B)、図2図12に示す。実施例1~9及び比較例1~3に係る静置後の磁気粘性流体は、いずれも液状であった。
【0050】
<磁気粘性流体の流動性の評価>
実施例1~9及び比較例1~3について、上述の撹拌直後の磁気粘性流体に対し、製造に使用した容器を45度傾斜させたときに、目視観察で磁気粘性流体が液性として追従する場合を「流動性あり」と評価し、追従しない場合を「流動性なし」と評価した。
【0051】
<励磁前の粘度、及び励磁時の粘度の評価>
実施例1~9及び比較例1~3について、磁気測定オプションを装着したTAインスツルメント社製レオメータDHR-2の試験用プレートに実施例1~9及び比較例1~3の磁気粘性流体を3ml注入し、25℃の雰囲気下100μmギャップ20回転にて粘度(Pa・s)を測定し、励磁前の粘度を実施例1と比較例3について測定した。同じ測定装置を用い、25℃の雰囲気下で700μmギャップ20回転にて0~0.8Tの磁場を印加し励磁時の粘度を実施例1と比較例3について測定した。図13に、当該測定結果である実施例1と比較例3との粘度の変化を表したグラフを示す。
磁場の励磁条件:測定開始後5秒後に直流0.8Tの磁場を印加し、測定開始後215秒後にその磁場の印加を停止した。
上述の試験条件及び試験結果を表1、2に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
実施例1~9の磁気粘性流体は、いずれも磁性粒子、基油、及び、カーボンを含有し、磁性粒子の平均粒径D50が1μm以上である磁気粘性流体であった。このため、いずれも磁気粘性流体を撹拌後に一定時間以上静置すると、磁気粘性流体の表面に目視で容易に確認できる黒色斑模様が浮かび上がった。このため、磁気粘性流体中の磁性粒子も均一に分散していないと容易に判断することができた。
【0055】
比較例1の磁気粘性流体は、実施例1と比較して、カーボンではなくチタンブラックを含むため、比重の関係から撹拌後に一定時間以上静置しても磁気粘性流体の表面に浮かばず、磁性粒子の分散状態を示すマーカーとして機能しなかった。
比較例2の磁気粘性流体は、実施例1と比較して、カーボンではなくベンガラを含むため、比重の関係から撹拌後に一定時間以上静置しても磁気粘性流体の表面に浮かばず、磁性粒子の分散状態を示すマーカーとして機能しなかった。
比較例3の磁気粘性流体は、実施例1と比較して、カーボンを含まず、撹拌後に一定時間以上静置しても磁性粒子の分散状態が確認できなかった。
実施例1~9及び比較例1~3の磁気粘性流体は、いずれも同様に十分な流動性を有していた。この結果から、カーボンの添加が磁気粘性流体組成物の流動性に影響を及ぼさないことが確認できた。
実施例1と比較例3の励磁時の粘度を比較すると、ほぼ同等の粘度を示した。この結果から、カーボンの添加が磁気粘性流体組成物の励磁時の粘度に影響を及ぼさないことが確認できた。
図1
図2
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図5
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図13