(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173100
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】クレーン
(51)【国際特許分類】
B66C 23/90 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
B66C23/90 P
B66C23/90 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091249
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 美森
【テーマコード(参考)】
3F205
【Fターム(参考)】
3F205AA06
3F205AC01
3F205BA06
3F205CB02
3F205DA04
3F205HA01
3F205HA02
3F205HB04
(57)【要約】
【課題】荷物を吊り下げたときの具体的なブームの作業半径およびたわみ量を容易に把握することができるクレーンを提供する。
【解決手段】旋回体3と、旋回体3に支持されるブーム31と、ブーム31から垂下するワイヤロープ32と、ワイヤロープ32に取り付けられるフック33と、フック33または荷物Wに取り付けられ、ドット模様74を有するマーカ70と、旋回体3に取り付けられ、マーカ70を撮影可能なカメラ55と、ドット模様74を記憶し、カメラ55により撮影した撮影画像PTを処理可能なコントローラ40とを備え、カメラ55はフック33に荷物Wを吊り下げた状態でマーカWを撮影し、コントローラ40は、ドット模様74と、撮影画像PTに映るドット模様像74PTと、カメラ55の光学特性とを用いて、マーカ70の三次元位置を特定し、特定したマーカ70の三次元位置に基づいて、ブーム31の作業半径Lおよび横たわみ量Fを算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、
前記車体に支持されるブームと、
前記ブームから垂下するワイヤロープと、
前記ワイヤロープの巻き入れおよび巻き出しによって昇降するフックと、
前記フックまたは前記フックに吊り下げられた荷物に取り付けられ、ドット模様を形成する複数の発光装置を有するマーカと、
前記車体に取り付けられ、前記マーカを撮影可能なカメラと、
前記マーカの前記ドット模様を記憶するとともに、前記カメラにより撮影した撮影画像を処理可能なコントローラと、
を備え、
前記カメラは、前記フックに荷物を吊り下げた状態で、前記マーカを撮影し、
前記コントローラは、
前記マーカの前記ドット模様と、前記マーカを撮影した撮影画像に表されるマーカ像のドット模様像と、前記カメラの光学特性とを用いて、前記マーカの三次元位置を特定し、
特定した前記マーカの三次元位置に基づいて、前記ブームの作業半径および前記ブームの横たわみ量を算出することを特徴とするクレーン。
【請求項2】
前記カメラは、複数のタイミングにおいて前記マーカを撮影し、
前記コントローラは、
複数のタイミングにおいて撮影した前記撮影画像について、それぞれ前記ブームの前記作業半径および前記横たわみ量を算出し、
前記カメラを、算出される前記作業半径の値および前記横たわみ量の値が、それぞれ経時的に少なくとも1回極小値および極大値を示す時間にわたって前記マーカを撮影するように制御し、
算出された複数の前記作業半径の最大値と最小値との平均値を、前記フックが静止しているときの前記ブームの静止作業半径として算出し、
算出された複数の前記横たわみ量の最大値と最小値との平均値を、前記フックが静止しているときの前記ブームの静止横たわみ量として算出する請求項1に記載のクレーン。
【請求項3】
前記カメラは、複数のタイミングにおいて前記マーカを撮影し、
前記コントローラは、
複数のタイミングにおいて撮影した前記撮影画像について、それぞれ前記ブームの前記作業半径および前記横たわみ量を算出し、
前記カメラを、算出される前記作業半径の値および前記横たわみ量の値が、それぞれ経時的に少なくとも1回極小値および極大値を示す時間にわたって前記マーカを撮影するように制御し、
算出した複数の前記作業半径について、前記作業半径を複数の区間に分割した第1階級と、前記第1階級に対応する第1度数との関係を表した第1ヒストグラムを作成し、作成した前記第1ヒストグラムに基づいて前記フックが静止しているときの静止作業半径を算出し、
算出した複数の前記横たわみ量について、前記横たわみ量を複数の区間に分割した第2階級と、前記第2階級に対応する第2度数との関係を表した第2ヒストグラムを作成し、作成した前記第2ヒストグラムに基づいて前記フックが静止しているときの静止横たわみ量を算出する請求項1に記載のクレーン。
【請求項4】
前記コントローラは、
前記第1ヒストグラムにおける中央値または平均値を前記静止作業半径として算出し、
前記第2ヒストグラムにおける中央値または平均値を前記静止横たわみ量として算出する請求項3に記載のクレーン。
【請求項5】
前記コントローラは、
前記第1ヒストグラムにおける特異値を除去した後に、前記静止作業半径を算出し、
前記第2ヒストグラムにおける特異値を除去した後に、前記静止横たわみ量を算出する請求項4に記載のクレーン。
【請求項6】
前記カメラは、たわみが生じていない前記ブームの水平方向における延びる向きを撮影方向とした状態で前記車体に取り付けられ、
前記コントローラは、前記ブームの前記横たわみ量を、前記撮影画像における水平方向の中心に対する、前記マーカ像の水平方向のずれ量に基づいて求める請求項1に記載のクレーン。
【請求項7】
前記コントローラは、前記カメラから前記マーカまでの水平方向の距離に基づいて、前記ブームの前記作業半径を求める請求項1に記載のクレーン。
【請求項8】
前記コントローラは、算出した前記ブームの前記静止作業半径と、前記ブームの前記静止横たわみ量とを、クレーンにかかる作業モーメントが過大になることを抑制するための過負荷防止装置に反映させる請求項2~請求項7の何れか一項に記載のクレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クレーンには、クレーンにかかる作業モーメントが過大になることを抑制するための過負荷防止装置が搭載されたものがある。
【0003】
一方、ブームから垂下するワイヤロープに取り付けられたフックに荷物を吊り下げて作業を行うときには、ブームにたわみが生じることがあるため、クレーンにかかる作業モーメントを過負荷防止装置によって精度良く検出するためには、ブームに生じたたわみに関する情報を把握して、過負荷防止装置に反映させることが好ましい。
【0004】
従って、特許文献1には、光線を発する送信器と光線を受信する受信器とを、ブームの長さ方向に沿って離間して設け、ブームに所定の閾値を超えるたわみが生じると、送信器から発せられた光線が受信器によって受信されなくなるように構成することで、閾値を超えるたわみがブームに生じたことを把握可能とした技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述の特許文献1に記載の技術においては、ブームに所定の閾値を超えるたわみが生じたことを把握することはできるが、ブームの具体的なたわみ量を把握することはできず、ひいては荷物を吊り下げたときのブームの作業半径を把握することは困難であった。
【0007】
そこで、本発明においては、荷物を吊り下げたときの具体的なブームの作業半径およびたわみ量を容易に把握することができるクレーンを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するクレーンは、以下の特徴を有する。
【0009】
即ち、クレーンは、車体と、前記車体に支持されるブームと、前記ブームから垂下するワイヤロープと、前記ワイヤロープの巻き入れおよび巻き出しによって昇降するフックと、前記フックまたは前記フックに吊り下げられた荷物に取り付けられ、ドット模様を形成する複数の発光装置を有するマーカと、前記車体に取り付けられ、前記マーカを撮影可能なカメラと、前記マーカの前記ドット模様を記憶するとともに、前記カメラにより撮影した撮影画像を処理可能なコントローラと、を備え、前記カメラは、前記フックに荷物を吊り下げた状態で、前記マーカを撮影し、前記コントローラは、前記マーカの前記ドット模様と、前記マーカを撮影した撮影画像に表されるマーカ像のドット模様像と、前記カメラの光学特性とを用いて、前記マーカの三次元位置を特定し、特定した前記マーカの三次元位置に基づいて、前記ブームの作業半径および前記ブームの横たわみ量を算出する。
【0010】
これにより、フックに荷物を吊り下げたときの具体的なブームの作業半径およびたわみ量を容易に把握することができる。
【0011】
また、前記カメラは、複数のタイミングにおいて前記マーカを撮影し、前記コントローラは、複数のタイミングにおいて撮影した前記撮影画像について、それぞれ前記ブームの前記作業半径および前記横たわみ量を算出し、前記カメラを、算出される前記作業半径の値および前記横たわみ量の値が、それぞれ経時的に少なくとも1回極小値および極大値を示す時間にわたって前記マーカを撮影するように制御し、算出された複数の前記作業半径の最大値と最小値との平均値を、前記フックが静止しているときの前記ブームの静止作業半径として算出し、算出された複数の前記横たわみ量の最大値と最小値との平均値を、前記フックが静止しているときの前記ブームの静止横たわみ量として算出する。
【0012】
これにより、マーカが取り付けられたフックまたは荷物が揺れていたとしても、静止作業半径および静止横たわみ量を精度良く求めることができる。
【0013】
また、前記カメラは、複数のタイミングにおいて前記マーカを撮影し、前記コントローラは、複数のタイミングにおいて撮影した前記撮影画像について、それぞれ前記ブームの前記作業半径および前記横たわみ量を算出し、前記カメラを、算出される前記作業半径の値および前記横たわみ量の値が、それぞれ経時的に少なくとも1回極小値および極大値を示す時間にわたって前記マーカを撮影するように制御し、算出した複数の前記作業半径について、前記作業半径を複数の区間に分割した第1階級と、前記第1階級に対応する第1度数との関係を表した第1ヒストグラムを作成し、作成した前記第1ヒストグラムに基づいて前記フックが静止しているときの静止作業半径を算出し、算出した複数の前記横たわみ量について、前記横たわみ量を複数の区間に分割した第2階級と、前記第2階級に対応する第2度数との関係を表した第2ヒストグラムを作成し、作成した前記第2ヒストグラムに基づいて前記フックが静止しているときの静止横たわみ量を算出する。
【0014】
これにより、マーカが取り付けられたフックまたは荷物が揺れていたとしても、静止作業半径および静止横たわみ量を精度良く求めることができる。
【0015】
また、前記コントローラは、前記第1ヒストグラムにおける中央値または平均値を前記静止作業半径として算出し、前記第2ヒストグラムにおける中央値または平均値を前記静止横たわみ量として算出する。
【0016】
これにより、マーカが取り付けられたフックまたは荷物が揺れていたとしても、静止作業半径および静止横たわみ量を精度良く求めることができる。
【0017】
また、前記コントローラは、前記第1ヒストグラムにおける特異値を除去した後に、前記静止作業半径を算出し、前記第2ヒストグラムにおける特異値を除去した後に、前記静止横たわみ量を算出する。
【0018】
これにより、静止作業半径および静止横たわみ量を、より高精度に求めることができる。
【0019】
また、前記カメラは、たわみが生じていない前記ブームの水平方向における延びる向きを撮影方向とした状態で前記車体に取り付けられ、前記コントローラは、前記ブームの前記横たわみ量を、前記撮影画像における水平方向の中心に対する、前記マーカ像の水平方向のずれ量に基づいて求める。
【0020】
これにより、横たわみ量を容易に求めることができる。
【0021】
また、前記コントローラは、前記カメラから前記マーカまでの水平方向の距離に基づいて、前記ブームの前記作業半径を求める。
【0022】
これにより、ブームの作業半径を簡便に算出することができる。
【0023】
また、前記コントローラは、算出した前記ブームの前記静止作業半径と、前記ブームの前記静止横たわみ量とを、クレーンにかかる作業モーメントが過大になることを抑制するための過負荷防止装置に反映させる。
【0024】
これにより、過負荷防止装置によって、高精度にクレーンの動作を制御することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、フックに荷物を吊り下げたときの具体的なブームの作業半径およびたわみ量を容易に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図3】操縦システムの構成を示すブロック図である。
【
図5】太陽放射の放射発散度と放射照度を示す図である。
【
図6】(a)はカメラとマーカとの距離が短い場合の撮影画像に映ったマーカ像を示す図であり、(b)はカメラとマーカとの距離が長い場合の撮影画像に映ったマーカ像を示す図である。
【
図8】ブームに横たわみが生じている状態において、撮影画像における水平方向の中心からずれた箇所にマーカ像のドット模様像が映っている様子を示す図である。
【
図9】複数のタイミングにおいて撮影されたマーカのマーカ軌跡を示す図である。
【
図10】複数のタイミングにおいて撮影されたマーカのマーカ軌跡、複数の作業半径について作成された第1ヒストグラム、および算出した複数の横たわみ量について作成された第2ヒストグラムを示す図である。
【
図11】第2ヒストグラムに存在する特異値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。
【0028】
[クレーン]
図1、
図2に示すクレーン1は、本発明に係るクレーンの一実施形態である。クレーン1は、走行体2と旋回体3とを備えている。旋回体3は車体の一例である。
【0029】
走行体2は、左右一対の前輪21と後輪22を備えている。また、走行体2は、荷物Wの運搬作業を行う際に接地させて安定を図るアウトリガ23を備えている。走行体2は、旋回体3を水平方向へ旋回可能に支持している。旋回体3は、走行体2が備えるアクチュエータによって旋回中心Xを中心として旋回される。
【0030】
旋回体3は、ブーム31を有している。ブーム31は、旋回体3の後部に支持されている。旋回体3に支持されるブーム31は、旋回体3の後部から前方へ突き出すように延出している。ブーム31は、アクチュエータによって旋回体3とともに旋回方向Aに沿って旋回可能となっている(
図1における矢印A参照)。ブーム31は、アクチュエータによって伸縮方向Bに沿って伸縮自在となっている(
図1における矢印B参照)。ブーム31は、アクチュエータによって起伏方向Cに沿って起伏自在となっている(
図1における矢印C参照)。
【0031】
ブーム31には、ワイヤロープ32が架け渡されている。ブーム31の先端部分から垂下するワイヤロープ32には、フック33が取り付けられている。ブーム31の基端側近傍には、ウインチ34が配置されている。ウインチ34は、アクチュエータと一体的に構成されており、ワイヤロープ32の巻き入れおよび巻き出しを可能としている。これにより、フック33は、アクチュエータによって昇降方向Dに沿って昇降自在となっている(
図1における矢印D参照)。
【0032】
旋回体3は、ブーム31の側方にキャビン35を備えている。キャビン35の内部には、旋回レバー51、伸縮レバー52、起伏レバー53、および巻回レバー54などが設けられている。
【0033】
[操縦システム]
クレーン1は、操縦システム4を備えている。
【0034】
図1~
図3に示すように、操縦システム4は、主にコントローラ40、各種レバー51~54、カメラ55、各種バルブ61~64、ディスプレイ65、および各種検出センサ91~96を備えている。
【0035】
コントローラ40は、情報記憶部41を有している。情報記憶部41は、クレーン1の制御に要する様々なプログラムを記憶している。
【0036】
コントローラ40は、情報処理部42を有している。情報処理部42は、各種レバー51~54の操作量を電気信号に変換し、アクチュエータを稼動させる各種バルブ61~64へ送信する。これにより、コントローラ40は、ブーム31の稼動(旋回動作・伸縮動作・起伏動作)およびウインチ34の稼動(巻入動作・巻出動作)を実現する。
【0037】
詳しく説明すると、ブーム31は、アクチュエータによって旋回方向Aに沿って旋回自在となっている(
図1における矢印A参照)。本実施形態においては、ブーム31を旋回させるアクチュエータを旋回用モータ36と定義する(
図1参照)。旋回用モータ36は、方向制御弁である旋回用バルブ61によって適宜に稼動される。なお、旋回用バルブ61は、コントローラ40の指示に基づいて稼動される。ブーム31の旋回角度は旋回角度検出センサ91によって検出される。
【0038】
ブーム31は、アクチュエータによって伸縮方向Bに沿って伸縮自在となっている(
図1における矢印B参照)。本実施形態においては、ブーム31を伸縮させるアクチュエータを伸縮用シリンダ37と定義する(
図1参照)。伸縮用シリンダ37は、方向制御弁である伸縮用バルブ62によって適宜に稼動される。なお、伸縮用バルブ62は、コントローラ40の指示に基づいて稼動される。ブーム31の伸縮長さはブーム長さ検出センサ92により検出される。
【0039】
ブーム31は、アクチュエータによって起伏方向Cに沿って起伏自在となっている(
図1における矢印C参照)。本実施形態においては、ブーム31を起伏させるアクチュエータを起伏用シリンダ38と定義する(
図1参照)。起伏用シリンダ38は、方向制御弁である起伏用バルブ63によって適宜に稼動される。なお、起伏用バルブ63は、コントローラ40の指示に基づいて稼動される。ブーム31の起伏角度はブーム角度検出センサ93によって検出される。
【0040】
フック33は、アクチュエータによって昇降方向Dに沿って昇降自在となっている(
図1における矢印D参照)。本実施形態においては、フック33を昇降させるアクチュエータを巻回用モータ39と定義する(
図1参照)。巻回用モータ39は、方向制御弁である巻回用バルブ64によって適宜に稼動される。なお、巻回用バルブ64は、コントローラ40の指示に基づいて稼動される。フック33の吊下長さは、図示しないセンサによって検出される。
【0041】
操縦システム4が備える起伏用シリンダ圧力検出センサ94は、起伏用シリンダ38にかかる圧力を検出するものであり、レバー操作検出センサ95は、各種レバー51~54の操作状態を検出するものであり、アウトリガ張出幅検出センサ96は、アウトリガ23の張出幅を検出するものである。
【0042】
操縦システム4においては、各種検出センサ91~96、コントローラ40、およびディスプレイ65などにより、過負荷防止装置45が構成されている。過負荷防止装置45は、クレーン1にかかる作業モーメントが過大になることを抑制して、定格荷重を超える過負荷によるクレーン1の転倒または破損を未然に防止する安全装置である。
【0043】
過負荷防止装置45においては、コントローラ40は、オペレータによる作業状態の登録および各種検出センサ91~96からの入力信号などに基づいて、作業モーメントと定格モーメントとを算出して、作業モーメントを定格モーメントで除することにより得られたモーメント負荷率をディスプレイ65に表示する。ディスプレイ65には、各種検出センサ91~96の検出結果などを併せて表示することができる。
【0044】
また、コントローラ40は、モーメント負荷率が100%以上になるとクレーン1の危険側への作動を停止し、エラーコードのディスプレイ65への表示、ブザーからの発音、および表示灯の点灯などによる警報を行う。なお、モーメント負荷率が100%以上になった場合には、クレーン1の危険側への作動は停止されるが、安全側への作動は許容される。
【0045】
過負荷防止装置45による過負荷制御としては、例えばモーメント負荷率が100%以上となったときにはクレーン1の危険側への作動を停止するとともに警報を発する制御を行い、モーメント負荷率が90%以上かつ100%未満となったときには警報を発して注意を促し、モーメント負荷率が90%未満となったときには安全であることを示す制御を行うことができる。
【0046】
図1に示すように、カメラ55は、旋回体3のキャビン35に取り付けられており、ブーム31の先端から垂下されるフック33およびフック33に吊り下げられた荷物Wを撮影可能に構成されている。カメラ55は、撮影方向が、たわみが生じていないブーム31の水平方向における延びる向きとなるように、キャビン35に取り付けられている。カメラ55はコントローラ40に接続されており、コントローラ40は、カメラ55が撮影した、フック33およびフック33に吊り下げられた荷物Wの画像を取得することが可能である。本実施形態においては、カメラ55は、旋回体3のキャビン35に取り付けられているが、旋回体3の他の箇所に取り付けることもできる。また、カメラ55は、旋回体3以外でも、ブーム31と一緒に旋回する物体の何れかの箇所に取り付けられていればよい
【0047】
カメラ55には、赤外発光ダイオードの照射光を透過する赤外透過フィルター56が取り付けられている(
図1参照)。赤外透過フィルター56は、透過波長が940nm帯(「940nm帯」は透過率の大小に関わらず940nm±15%(後述するエネルギーの吸収量を考慮するとより好ましくは940nm±5%)の範囲を意味する)となっている。
【0048】
ディスプレイ65は、様々な画像を映し出すものである。ディスプレイ65は、オペレータが各種レバー51~54を操作しながら視認できるよう、キャビン35の内部における運転座席の前側に取り付けられている(
図2参照)。ディスプレイ65はコントローラ40に接続されており、コントローラ40はディスプレイ65を通じてオペレータに情報を提供することが可能である。具体的には、コントローラ40は、カメラ55が撮影したフック33およびフック33に吊り下げられた荷物Wの画像を、ディスプレイ65に表示させることができる。
【0049】
[マーカ]
図1に示すように、フック33にはマーカ70が取り付けられている。カメラ55は、フック33に取り付けられたマーカ70を撮影可能である。マーカ70は、カメラ55が撮影した画像の中で目印となるものである。本実施形態において、マーカ70は、カメラ55によって撮影されるように、フック33の側面に取り付けられている。なお、マーカ70の取付位置については限定しない。従ってマーカ70は、フック33ではなく、フック33に吊り下げられた荷物Wに取り付けられていてもよい。
【0050】
図4に示すように、マーカ70は、側方から見て長方形状に形成されている。マーカ70は、長方形状に形成された基台71と、基台71に固定された複数の発光装置72とを有している。マーカ70は、図示しないバッテリおよびドライバを有しており、発光装置72はバッテリから供給される電気により点灯することが可能である。
【0051】
ドライバは、予め定められた条件に基づいて電気の流れを調節することが可能であり、ドライバにより電気の流れを調節することで、発光装置72の点灯および消灯を切り換えることが可能である。バッテリは、いわゆる一次電池であるが、ソーラーパネルなどから蓄電できる二次電池であってもよい。
【0052】
マーカ70の基台71には、点灯した発光装置72により構成されるドット模様74が描き出される。ドット模様74は、例えば上下方向において直線状に並ぶ点P1、点P2、および点P3により構成されている。
【0053】
点P1と点P2とは、距離D1だけ離れて位置している。点P2と点P3とは、距離D2だけ離れて位置している。点P1と点P3とは、距離D3だけ離れて位置している。距離D3は、距離D1に距離D2を加えた大きさである(D3=D1+D2)。
【0054】
距離D1と距離D2とは異なっており、例えばD1:D2=2:3となるように、距離D1および距離D2を設定することができる。点P1、点P2、および点P3は上下方向に沿って不当間隔に配置されており、ドット模様74は、点P1、点P2、および点P3からなる非点対称模様である。なお、発光装置72は、赤外発光ダイオードを光源としている。赤外発光ダイオードは、発光波長が約940nm(「約940nm」はピーク波長が940nm±5%の範囲を意味する)となっている。
【0055】
ところで、太陽放射は、特徴あるスペクトル分布を有している(
図5参照)。太陽放射は、主に約400nm以下の紫外線と約400nm~約700nmの可視光線と約700nm以上の赤外線とで構成されている。太陽放射は、約500nmのときに放射側のエネルギー量を表す放射発散度が最大となっている。また、太陽放射は、約500nmから波長が短くなるにつれて急速に放射発散度が小さくなり、約500nmから波長が長くなるにつれて緩やかに放射発散度が小さくなる(
図5における太線T参照)。
【0056】
この点、地球は、大気に覆われていることから、地表面に届くまでにエネルギーの吸収が行われる。このため、太陽放射は、約500nmのときに被放射側のエネルギー量を表す放射照度が最大となっている。また、太陽放射は、約500nmから波長が短くなるにつれて急速に放射照度が小さくなり、約500nmから波長が長くなるにつれて緩やかに放射照度が小さくなる(
図5における細線t参照)。加えて、大気によるエネルギーの吸収量は、波長に応じて増減することが知られている。これは、大気中の成分によるものである。例えば940nm±5%においては、大気中の水蒸気に起因してエネルギーの吸収量が大幅に増加する(
図5における※印部参照)。
【0057】
[カメラによるマーカの撮影]
カメラ55は、フック33およびフック33に吊り下げられた荷物Wを撮影することで、マーカ70を撮影することができる。この場合、カメラ55は、フック33に吊り下げられた荷物Wが地面から離れた状態でマーカ70を撮影する。
【0058】
図6に示すように、マーカ70を撮影した撮影画像PTには、マーカ像70PTが映っている。マーカ像70PTは、点Pa、点Pb、および点Pcからなるドット模様像74PTを有している。
【0059】
マーカ像70PTにおけるドット模様像74PTの点Pa、点Pb、および点Pcは、それぞれマーカ70のドット模様74における点P1、点P2、および点P3に対応するものである。点Paと点Pbとは、距離Daだけ離れて位置している。点Pbと点Pcとは、距離Dbだけ離れて位置している。点Paと点Pcとは、距離Dcだけ離れて位置している。距離Da、距離Db、および距離Dcは、例えば撮影画像PTにおける画素数によって表すことができる。
【0060】
発光装置71は赤外発光ダイオードを光源としており、カメラ55には赤外発光ダイオードの照射光を透過する赤外透過フィルター56が取り付けられているため、カメラ55が撮影した撮影画像PTは、点灯した発光装置71によって描かれたドット模様像74PTが薄暗闇に浮き上がったものとなる。しかし、
図6などに示す撮影画像PTについては、図面の明確性を確保すべく、明度を変えて表している。
【0061】
撮影画像PTに表示されるドット模様像74PTは、ドット模様74に対応しており、点Pa、点Pb、および点Pcが不当間隔に配置された非点対称の模様である。従って、コントローラ40は、カメラ55が撮影した撮影画像PTに他の照射光が映り込んでいたとしても、撮影画像PTにおいて速やかにドット模様74を認識することができる。コントローラ40によるドット模様74の認識は、例えば機械学習を用いた画像認識技術などにより実現することができる。但し、どのような技術をもって実現するかについては限定しない。
【0062】
図7に示すように、カメラ55は、撮像素子551およびレンズ552を備えており、所定の撮像素子551の素子サイズL1、撮像素子551の画素数、焦点距離L2、および画角θなどの光学特性を有している。カメラ55においては、焦点距離L2および画角θは調整可能に構成されている。
【0063】
例えば、焦点距離L2および画角θが一定の状態で、カメラ55によりマーカ70を撮影した場合、カメラ55とマーカ70との距離が短いと、
図6(a)に示すように、撮影画像PTの撮影範囲に対してマーカ70が大きく映り、カメラ55とマーカ70との距離が長いと、
図6(b)に示すように、撮影画像PTの撮影範囲に対してマーカ70が小さく映る。
【0064】
[ブームの作業半径および横たわみ量]
コントローラ40の情報記憶部41は、マーカ70におけるドット模様74の点と点との間の距離(ドット間距離)を予め記憶している。例えば点P1と点P3との間の距離D3を予め記憶している。また、コントローラ40は、カメラ55が撮影した撮影画像PTにおけるドット模様像74PTの点と点との間の距離(ドット間距離)を把握する。例えば点Paと点Pcとの間の距離Dcを把握する。
【0065】
コントローラ40の情報記憶部41は、カメラ55における撮像素子551の素子サイズL1、画素数、各画素の大きさなどを記憶している。また、コントローラ40は、カメラ55が映像を撮影したときの焦点距離L2および画角θを把握するとともに、情報記憶部41に記憶することができる。つまり、コントローラ40は、カメラ55が映像を撮影したときのカメラ55の光学特性を把握可能であるとともに、記憶することができる。
【0066】
例えばドット模様像74PTを構成する点Paと点Pcとの間の距離Dcを把握したコントローラ40は、ドット模様像74PTの距離Dcと、マーカ70のドット模様74を構成する点P1と点P3との間の距離D3と、カメラ55の光学特性とを用いて、カメラ55に対するマーカ70の三次元位置を特定する。
【0067】
この場合、コントローラ40は、例えばマーカ像70PTにおけるドット模様像74PTの距離Dcとマーカ70におけるドット模様74の距離D3との比率を算出し、算出した距離Dcと距離D3との比率と、カメラ55の画角θ、素子サイズL1および焦点距離L2などといった光学特性とから、カメラ55とマーカ70との相対距離を客観的に把握することができる。
【0068】
カメラ55とマーカ70との相対距離を把握する際には、例えば、算出した距離Dcと距離D3との比率と、カメラ55の光学特性における画角θとを用いて、カメラ55とマーカ70との相対距離を把握することができる。また、算出した距離Dcと距離D3との比率と、カメラ55の光学特性における素子サイズL1および焦点距離L2とを用いて、カメラ55とマーカ70との相対距離を把握することができる。
【0069】
コントローラ40は、特定したマーカ70の三次元位置から、ブーム31の作業半径Lを算出する。ブーム31の作業半径Lは、旋回体3の旋回中心Xとフック33との間の水平方向の距離である。
【0070】
この場合、水平方向において、カメラ55が旋回中心Xから離れた位置に取り付けられているときには、コントローラ40の情報記憶部41には旋回中心Xに対するカメラ55の水平方向における距離が記憶されており、コントローラ40は、カメラ55に対するマーカ70の三次元位置と旋回中心Xに対するカメラ55の水平方向における距離とを用いて、ブーム31の作業半径Lを算出することが可能である。
【0071】
例えば、コントローラ40は、カメラ55に対するマーカ70の三次元位置から算出したカメラ55からマーカ70までの水平方向の距離と、旋回中心Xに対するカメラ55の水平方向における距離と、情報記憶部41に記憶している水平方向におけるフック33の中心からマーカ70までの距離とを加算することで、ブーム31の作業半径Lを求めることができる。
【0072】
また、カメラ55は、水平方向において旋回中心Xと重なる位置に取り付けることも可能である。この場合は、コントローラ40は、カメラ55からマーカ70までの水平方向の距離に基づいて、ブーム31の作業半径Lを求めることができる。
【0073】
例えば、コントローラ40は、カメラ55に対するマーカ70の三次元位置から算出したカメラ55からマーカ70までの水平方向の距離と、情報記憶部41に記憶している水平方向におけるフック33の中心からマーカ70までの距離とを加算することで、ブーム31の作業半径Lを求めることができる。
【0074】
カメラ55を旋回中心Xとなる位置に取り付けた場合は、旋回中心Xに対するカメラ55の水平方向における距離を参照することなくブーム31の作業半径Lを算出することができるため、作業半径Lを簡便に算出することが可能となる。
【0075】
図8に示すように、カメラ55は、撮影方向が、たわみが生じていないブーム31の水平方向における延びる向きとなるように、キャビン35に取り付けられているため、マーカ70を撮影したときにブーム31に横たわみが生じていなければ、マーカ像70PTのドット模様像74PTは、撮影画像PTにおける水平方向の中心Yに位置することとなる(
図8において2点鎖線で示すドット模様像74PTを参照)。
【0076】
なお、横たわみとは、ブーム31に生じるたわみのうち、水平方向に生じるたわみをいう。また、ブーム31に生じるたわみのうち、垂直方向に生じるたわみは縦たわみであり、ブーム31に縦たわみが生じることで、ブーム31の作業半径Lが変化する。
【0077】
一方、ブーム31に横たわみが生じている状態でマーカ70を撮影すると、撮影画像PTに映るマーカ像70PTのドット模様像74PTは、撮影画像PTにおける水平方向の中心Yからずれた箇所に位置することとなる(
図8において実線で示すドット模様像74PTを参照)。
【0078】
従って、コントローラ40は、撮影画像PTにおけるドット模様像74PTの中心Yからの水平方向のずれ量Rと、特定したマーカ70の三次元位置とを用いて、ブーム31の横たわみ量Fを算出する。この場合、コントローラ40は、ドット模様像74PTのずれ量Rと、マーカ70の三次元位置と、カメラ55の画角θ、素子サイズL1および焦点距離L2などといった光学特性とから、ずれ量Rに対する横たわみ量Fの比率を算出して、横たわみ量Fを求めることができる。
【0079】
このように、クレーン1においては、フック33に荷物Wを吊り下げたときの具体的なブーム31の作業半径Lおよびたわみ量Fを容易に把握することが可能となっている。この場合、コントローラ40は、カメラ55により撮影した1箇所のマーカ70の撮影画像PTを用いて作業半径Lおよびたわみ量Fを求めることができるため、クレーン1の複数箇所に設けたマーカをカメラにより撮影して作業半径Lおよびたわみ量Fを求める場合に比べて、簡単に作業半径Lおよびたわみ量Fを算出することが可能である。
【0080】
また、コントローラ40は、ブーム31の横たわみ量Fを、撮影画像PTにおける水平方向の中心Yに対する、マーカ像70PTの水平方向のずれ量Rに基づいて求めるため、横たわみ量Fを容易に求めることが可能となっている。
【0081】
[静止時作業半径および静止時横たわみ量]
カメラ55によるマーカ70の撮影は、フック33に吊り下げられた荷物Wが地面から離れた状態で行われるため、マーカ70を撮影するときにフック33および荷物Wが揺れていて、撮影されたマーカ70の位置が、フック33および荷物Wが静止しているときのマーカ70の位置に対してずれていることがある。撮影されたマーカ70の位置がずれていると、作業半径Lおよび横たわみ量Fを精度良く把握することが困難である。
【0082】
そこで、クレーン1においては、次のようにして、フック33および荷物Wが静止している状態での作業半径Lである静止時作業半径Lsと、フック33および荷物Wが静止している状態での横たわみ量Lである静止時横たわみ量Lsを求めるように構成している。
【0083】
静止時作業半径Lsおよび静止時横たわみ量Lsを求める場合、コントローラ40は、カメラ55を複数のタイミングにおいてマーカ70を撮影するように制御する。カメラ55は、コントローラ40の制御により、複数のタイミングにおいてマーカ70を撮影する。コントローラ40は、複数のタイミングにおいて撮影した複数の撮影画像PTについて、それぞれブーム31の作業半径Lおよび横たわみ量Fを算出する。
【0084】
この場合、コントローラ40は、カメラ55を、算出される作業半径Lの値および横たわみ量Fの値が、それぞれ経時的に少なくとも1回極小値および極大値を示す時間にわたってマーカ70を撮影するように制御する。
【0085】
つまり、例えばフック33および荷物Wが円形状に揺れている場合、フック33および荷物Wが少なくとも円形状の1周分だけ周方向に移動する時間にわたって、カメラ55によるマーカ70の撮影が複数のタイミングにおいて行われる。カメラ55によりマーカ70を撮影する時間としては、例えば2~3秒に設定することができる。このようにマーカ70の撮影を行うことで、算出される作業半径Lの複数の値および横たわみ量Fの複数の値について、極小値および極大値を得ることができる。
【0086】
図9に示すように、例えばフック33および荷物Wが略円形状に揺れている場合、複数のタイミングにおいて撮影されたマーカ70の軌跡を、作業半径Lと横たわみ量Fとの関係について表すと、マーカ軌跡TRのように表される。
【0087】
図9においては、横軸が横たわみ量Fを示し、縦軸が作業半径Lを示しており、マーカ軌跡TRは、少なくとも1周分が描かれた略円形状に表れている。本実施形態においては、マーカ軌跡TRは複数周分の略円形状にて表されている。また、横軸の左側を横たわみ量Fのマイナス方向と規定し、右側を横たわみ量Fのプラス方向と規定している。さらに、縦軸の上側を作業半径Lが増加する方向と規定し、下側を作業半径Lが減少する方向と規定している。
【0088】
(最大値および最小値を用いた静止時作業半径および静止時横たわみ量の算出)
複数の撮影画像PTについて算出された作業半径Lは最小値Lminおよび最大値Lmaxを有しており、横たわみ量Fは最小値Fminおよび最大値Fmaxを有している。
【0089】
最小値Lminは、マーカ軌跡TRにおける作業半径Lの極小値の中で最小の値であり、最大値Lmaxは、マーカ軌跡TRにおける作業半径Lの極大値の中で最大の値である。また、最小値Fminは、マーカ軌跡TRにおける横たわみ量Fの極小値の中で最小の値であり、最大値Fmaxは、マーカ軌跡TRにおける横たわみ量Fの極大値の中で最大の値である。
【0090】
コントローラ40は、算出された複数の作業半径Lの最大値Lmaxと最小値Lminとの平均値を、フック33および荷物Wが静止しているときのブーム31の静止作業半径Lsとして算出する。また、コントローラ40は、算出された複数の横たわみ量Fの最大値Fmaxと最小値Fminとの平均値を、フック33および荷物Wが静止しているときのブーム31の静止横たわみ量Fsとして算出する。
【0091】
図9においては、静止作業半径Lsと静止横たわみ量Fsとの交点が、静止時におけるフック33および荷物Wの水平方向における位置である静止位置Qとなる。
【0092】
このように、複数のタイミングにおいて撮影されたマーカ70の複数の撮影画像PTについて作業半径Lおよび横たわみ量Fを算出し、算出された複数の作業半径Lの最大値Lmaxと最小値Lminとの平均値を静止作業半径Lsとして算出するとともに、算出された複数の横たわみ量Fの最大値Fmaxと最小値Fminとの平均値を静止横たわみ量Fsとして算出することで、マーカ70が取り付けられたフック33または荷物Wが揺れていたとしても、静止作業半径Lsおよび静止横たわみ量Fsを精度良く求めることが可能となる。また、ブーム31のたわみを考慮した静止作業半径Lsを求めることができる。
【0093】
また、マーカ70が取り付けられたフック33または荷物Wが揺れているときに、作業者が巻き尺や指金を用いて静止作業半径Lsおよび静止横たわみ量Fsを測定しようとすると、フック33または荷物Wの揺れを人手によって止めたうえで、静止作業半径Lsおよび静止横たわみ量Fsの測定を行う必要があり、煩雑である。従って、コントローラ40の制御により静止作業半径Lsおよび静止横たわみ量Fsを求めることで、静止作業半径Lsおよび静止横たわみ量Fsを簡便に求めることができる。
【0094】
コントローラ40は、求めた静止作業半径Lsおよび静止横たわみ量Fsを情報記憶部41に記憶し、過負荷防止装置45に反映させる。過負荷防止装置45においてモーメント負荷率を算出する場合、静止作業半径Lsおよび静止横たわみ量Fsを過負荷防止装置45に反映させたうえでモーメント負荷率を算出することで、ブーム31のたわみを考慮したモーメント負荷率を算出することができ、たわみを考慮せずにモーメント負荷率を算出した場合に比べて、高精度にクレーン1の動作を制御することが可能となる。
【0095】
(ヒストグラムを用いた静止時作業半径および静止時横たわみ量の算出)
コントローラ40は、算出された複数の作業半径Lおよび横たわみ量Fについてヒストグラムを作成し、作成したヒストグラムに基づいて静止作業半径Lsおよび静止横たわみ量Fsを求めることもできる。
【0096】
図10には、
図9に示した場合と同様に、複数のタイミングにおいて撮影されたマーカ70のマーカ軌跡TRが、作業半径Lと横たわみ量Fとの関係について表されている。マーカ軌跡TRは、算出した複数の作業半径Lおよび算出した複数の横たわみ量Fを含んでいる。
【0097】
コントローラ40は、算出した複数の作業半径Lについて第1ヒストグラムHG1を作成し、算出した複数の横たわみ量Fについて第2ヒストグラムHG2を作成する。
【0098】
第1ヒストグラムHG1は、作業半径Lを複数の区間に分割した第1階級を横軸にとり、第1階級の各区間に含まれるデータの個数である第1頻度を縦軸にとることで作成されている。第2ヒストグラムHG2は、横たわみ量Fを複数の区間に分割した第2階級を横軸にとり、第2階級の各区間に含まれるデータの個数である第2頻度を縦軸にとることで作成されている。
【0099】
コントローラ40は、作成した第1ヒストグラムHG1に基づいて静止作業半径Lsを算出し、作成した第2ヒストグラムHG2に基づいて静止横たわみ量Fsを算出する。具体的には、コントローラ40は、例えば作成した第1ヒストグラムHG1の中央値Lmを静止作業半径Lsとして算出し、作成した第2ヒストグラムHG2の中央値Fmを静止横たわみ量Fsとして算出する。
【0100】
図10においては、第1ヒストグラムHG1の中央値Lmである静止作業半径Lsと、第2ヒストグラムHG2の中央値Fmである静止横たわみ量Fsとの交点が、静止時におけるフック33および荷物Wの水平方向における位置である静止位置Qとなる。
【0101】
このように、第1ヒストグラムHG1の中央値Lmを静止作業半径Lsとして算出し、作成した第2ヒストグラムHG2の中央値Fmを静止横たわみ量Fsとして算出した場合においても、静止作業半径Lsおよび静止横たわみ量Fsを精度良く求めることができる。
【0102】
なお、コントローラ40は、第1ヒストグラムHG1に基づいて静止作業半径Lsを算出し、第2ヒストグラムHG2に基づいて静止横たわみ量Fsを算出する場合、第1ヒストグラムHG1における平均値を静止作業半径Lsとして算出し、第2ヒストグラムHG2における平均値を静止横たわみ量Fsとして算出することも可能である。
【0103】
また、コントローラ40は、第1ヒストグラムHG1に基づいて静止作業半径Lsを算出し、第2ヒストグラムHG2に基づいて静止横たわみ量Fsを算出する場合、第1ヒストグラムHG1および第2ヒストグラムHG2に表れた特異値を除去した後に、静止作業半径Lsおよび静止横たわみ量Fsを算出することができる。
【0104】
例えば、
図11に示すように、第2ヒストグラムHG2に特異値Sが存在している場合には、第2ヒストグラムHG2から特異値Sを除去した後に静止横たわみ量Fsを算出することができる。同様に、第1ヒストグラムHG1に特異値が存在していた場合には、第1ヒストグラムHG1から特異値を除去した後に静止作業半径Lsを算出することができる。
【0105】
第2ヒストグラムHG2における特異値Sは、例えば第2ヒストグラムHG2の端部に位置し、連続してデータが存在している区間から所定の区間数だけ離れた区間に存在しているデータを定義することができる。また、例えば、第2ヒストグラムHG2におけるデータの値が、第2ヒストグラムHG2における平均値から標準偏差の所定倍数以上離れた値であった場合に、当該値を特異値Sとして捉えることができる。
【0106】
このように、コントローラ40は、第1ヒストグラムHG1における特異値を除去した後に静止作業半径Lsを算出し、第2ヒストグラムHG2における特異値Sを除去した後に静止横たわみ量Fsを算出することで、静止作業半径Lsおよび静止横たわみ量Fsを、より高精度に求めることが可能となる。
【0107】
また、コントローラ40は、第1ヒストグラムHG1および第2ヒストグラムHG2を作成した場合、第1ヒストグラムHG1における最大値と最小値との平均値を静止作業半径Lsとして算出し、第2ヒストグラムHG2おける最大値と最小値との平均値を静止横たわみ量Fsとして算出することも可能である。
【0108】
なお、本実施形態においては、フック33および荷物Wが略円形状に揺れている場合について説明したが、この場合の略円形状は略楕円形状も含む。また、フック33および荷物Wが1方向においてI字状に揺れている場合においても、同様に静止作業半径Lsおよび静止横たわみ量Fsを求めることができる。
【0109】
また、クレーン1においては、カメラ55によりマーカ70を撮影する時間を30分以上の長時間に設定して、長時間にわたって撮影した複数の撮影画像PTについて作業半径Lおよび横たわみ量F、または静止作業半径Lsおよび静止横たわみ量Fsを算出することもできる。
【0110】
クレーン1のブーム31は、太陽光に照らされると一側面のみが温められて、たわみ量が変化することがある。ブーム31のたわみ量が変化すると、フック31の位置が移動して、作業半径Lおよび横たわみ量Fが変化する。この場合、フック31の移動量を巻き尺や指金を用いて作業者が測定することは煩雑である。
【0111】
従って、クレーン1のように、コントローラ40の制御によって、長時間にわたって作業半径Lおよび横たわみ量F、または静止作業半径Lsおよび静止横たわみ量Fsを算出することで、フック31の経時的な位置の変化を容易に把握することができる。
【符号の説明】
【0112】
1 クレーン
2 走行体
3 旋回体
4 操縦システム
31 ブーム
32 ワイヤロープ
33 フック
40 コントローラ
55 カメラ
56 赤外透過フィルター
70 マーカ
70PT マーカ像
72 発光装置
74 ドット模様
74PT ドット模様像
45 過負荷防止装置
F 横たわみ量
Fm (横たわみ量の)中央値
Fmax (横たわみ量の)最大値
Fmin (横たわみ量の)最小値
Fs 静止横たわみ量
HG1 第1ヒストグラム
HG2 第2ヒストグラム
L 作業半径
Lm (作業半径の)中央値
Lmax (作業半径の)最大値
Lmin (作業半径の)最小値
Ls 静止作業半径
PT 撮影画像
R ずれ量
S 特異値
X 旋回中心
Y 中心
W 荷物