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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173103
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】クレーン装置
(51)【国際特許分類】
   B66C 15/00 20060101AFI20241205BHJP
   B66C 9/16 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B66C15/00 B
B66C9/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091254
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】塩出 健一
(72)【発明者】
【氏名】田上 達也
(72)【発明者】
【氏名】大槻 真弘
【テーマコード(参考)】
3F203
3F204
【Fターム(参考)】
3F203BA01
3F203CA02
3F203DA02
3F203EA09
3F203EB02
3F204AA02
3F204BA02
3F204CA05
3F204FA09
3F204FB06
3F204FC08
3F204FD03
(57)【要約】
【課題】
地震の発生から実際の地震の揺れが到達するまでの時間を利用して、作業者に地震に対する対応を促し、更に安全に吊荷を処理できるクレーン装置を提供する。
【解決手段】
地震情報を受信する受信手段と、地震情報を受信して発報制御処理と落下防止制御処理を実行する制御処理部と、制御処理部によって制御され、発報制御処理の実行によって周囲に対して音響発生手段で地震が到来することを知らせる発報手段と、制御処理部によって制御され、落下防止処理の実行によって現在のクレーン位置に応じて、落下防止対策を実行するのに適切な位置へ移動させる手段と、落下防止対策を実行する手段を備えた。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊荷が掛けられるクレーンフックを巻き上げる巻上用電動機と、前記巻上用電動機を前後及び/又は左右に移動させる移動用電動機と、前記巻上用電動機、及び移動用電動機の動作を制御する制御装置を備えたクレーン装置であって、
前記制御装置は、
地震情報を受信する受信手段と、
前記受信手段により受信した地震情報に応じて、発報処理と落下防止処理を制御する制御処理部と、
前記制御処理部によって制御され、前記発報処理として、前記クレーン装置の周囲に対して音響発生手段又は表示手段で地震が到来することを知らせる発報手段と、
前記制御処理部によって制御され、落下防止処理の実行によってクレーンの落下を防止させる運転制御部を備えている
ことを特徴とするクレーン装置。
【請求項2】
請求項1に記載のクレーン装置において、
前記クレーン装置の走行用レールの上を走行する走行台車に設けられ、前記走行用レールを搭載する走行用ガーダーに係合する落下防止手段と、前記落下防止手段を駆動する駆動手段とを有し、
前記運転制御部は、
前記落下防止処理として、
前記走行用ガーダーに前記落下防止手段を係合させるよう、前記駆動手段を制御する
ことを特徴とするクレーン装置。
【請求項3】
請求項2に記載のクレーン装置において、
前記落下防止手段が前記走行用ガーダーに係合する付近の映像を取得する映像取得部とを有し、
前記制御処理部は、
前記映像取得部からの映像により、前記落下防止手段が前記走行用ガーダーに係合可能か判断し、係合できない場合、前記運転制御部を制御し、前記クレーン装置を移動させるよう制御する
ことを特徴とするクレーン装置。
【請求項4】
請求項3に記載のクレーン装置において、
前記制御処理部は、
前記受信手段により受信した、地震情報の地震の強度が第1の所定強度より小さい第2の所定強度以上で、前記第1の所定強度未満と判定する時は、前記落下防止処理を実行せずに、前記発報手段による前記発報処理を実行する
ことを特徴とするクレーン装置。
【請求項5】
請求項4に記載のクレーン装置において、
前記制御処理部は、
前記受信手段により受信した、地震情報の地震の強度が第1の所定強度以上と判定する時は、前記発報処理を実行して前記発報手段又は前記表示手段によって作業者に注意を喚起すると共に、前記落下防止処理を行う
ことを特徴とするクレーン装置。
【請求項6】
請求項5に記載のクレーン装置において、
前記受信手段により受信する地震情報は、気象庁が運営するシステムから得られる緊急地震速報であり、前記第1の所定強度は、前記緊急地震速報の警報に対応し、前記第2の所定強度は、前記緊急地震速報の予報に対応する
ことを特徴とするクレーン装置。
【請求項7】
請求項6に記載のクレーン装置において、
前記制御処理部は、
前記受信手段により受信した地震情報が、前記第1の所定強度以上の場合、前記巻上用電動機、及び前記移動用電動機の動作を停止するよう、前記運転制御部を制御し、
前記運転制御部により、前記巻上用電動機、及び前記移動用電動機の動作を停止した後に、安全処理として前記走行用ガーダーに前記落下防止手段を係合させるよう、前記駆動手段を制御する
ことを特徴とするクレーン装置。
【請求項8】
請求項2に記載のクレーン装置において、
前記制御処理部は、落下防止処理として、落下防止装置の作動可能範囲外であると判断されると、前記クレーンを落下防止装置の作動可能範囲内まで移動させる
ことを特徴とするクレーン装置。
【請求項9】
請求項8に記載のクレーン装置において、
前記制御処理部は、
落下防止処理として、落下防止装置の作動可能範囲内であると判断されると、前記落下防止手段を、前記走行用ガーダーに引っ掛けさせる
ことを特徴とするクレーン装置。
【請求項10】
請求項9に記載のクレーン装置において、
前記制御処理部は、
前記落下防止処理を、地震のS波による「主要動」が到達する前に実行する
ことを特徴とするクレーン装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクレーン装置に係り、特に地震通報システムと連動したクレーン装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工場等に設けられているクレーン装置が地震による揺れにより、落下する事象が発生している。このため、地震の発生時にクレーン落下防止の対策を適切に行うことが必要である。
【0003】
しかしながら、地震の予知は難しく、現場では地震による揺れを予め考慮して作業を行うことはできない。このため、地震によるクレーンへの悪影響を極力少なくするための現実的な方法として、地震の発生を検出するとクレーン装置の制御を自動的に地震に対応した制御に切り換える方法や、地震発生時に停電すると安全装置が作動する方法が知られている。
【0004】
例えば、特開2009-113925号公報(特許文献1)においては、クレーン本体と、クレーンガーダーに電磁石を設け、地震の発生を検出する地震検出部と、クレーン位置検知部と電磁石に電流を供給する電流供給部と、地震検出部が地震を検知した時に、電磁石に電流を供給するように、地震検知部とクレーン位置検知部と電流供給部とを制御する中央制御部とを備えたクレーン装置が示されている。
【0005】
このクレーン装置によると、地震が発生を検知すると、制御部から出力される動作信号を受けて電磁石に電流が供給され、クレーンの浮上り、水平方向の揺れを防止するようにしている。
【0006】
また、例えば、特開2021-24706号公報(特許文献2)においては、レールのヘッドの下面に対して、近接状態で対面する左右一対の爪部と、レール上面に対して、スプリング力にて押圧制動し、電磁力にて解放するブレーキシューを有する電磁ブレーキ備えた安全装置が示されている。
【0007】
この安全装置によると、地震発生時に停電となった際に、電磁ブレーキが作動し、レール上面のブレーキシューとレールのヘッド下面の爪部によりレールを掴持することによりクレーンの落下を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009-113925号公報
【特許文献2】特開2021-24706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載のクレーン装置は、地震の発生をクレーン装置に設置した地震計や加速度計、或いは外部から入力される地震情報の信号を利用して、クレーン装置の制御を地震に対応した制御に切り替えるものである。
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載のクレーン装置においては、単にクレーン装置の制御を地震に対応した制御に切り替えるだけのものであり、工場で作業を行っている作業者に地震の発生を知らせることについては考慮されていない。特に、地震の発生地点から実際の地震の揺れが到達するまでの時間を利用して、作業者に地震への対応(作業の中止、避難等の注意喚起)を促すことについては、何ら具体的な対応策が示されていない。
【0011】
したがって、地震の発生地点から実際の地震の揺れが到達するまでの時間を利用して、作業者に地震への対応を促すことを含めた具体的な対応策が要請されている。
【0012】
また、特許文献1に記載のクレーンは、地震による大きな揺れの最中において停電が発生した場合には、電磁石に電流を供給することができないので、クレーンの浮上防止や、水平方向の揺れ防止を実施することが出来ない。
【0013】
特許文献2に記載の安全装置は、地震による停電が発生することを前提としており、停電しない場合は電磁ブレーキが作動せず、安全装置としての役割を果たさない。
【0014】
また、地震によるクレーンの落下事例を見ると、ガーダーからレールごとクレーンが落下するものがある。これはガーダーとレールを固定するフックボルトが、地震によりクレーンが揺れる力で発生する過大な荷重に耐えられず変形する事で、ガーダーとレールの固定に緩みが生じることに起因している。この固定の緩みは、ガーダーからレールが脱落し、クレーンもレールと共に落下させてことがある。このようにクレーンはレールのみと固定をしてもレールごと落下してしまうので、地震による落下防止策とはならないことを示している。
【0015】
本発明の目的は、地震の発生地点から実際の地震の揺れが到達するまでの時間を利用して、作業者に地震への対応を促し、更にクレーン落下防止の為の対策を行うことができるクレーン装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、クレーン装置の一態様として、吊荷が掛けられるクレーンフックを巻き上げる巻上用電動機と、巻上用電動機を前後及び/又は左右に移動させる移動用電動機と、巻上用電動機、及び移動用電動機の動作を制御する制御装置を備えたクレーン装置であって、制御装置は、地震情報を受信する受信手段と、受信手段により受信した地震情報に応じて、発報処理と落下防止処理を実行する制御処理部と、制御処理部によって制御され、発報処理として、クレーン装置の周囲に対して音響発生手段または表示手段で地震が到来することを知らせる発報手段と、制御処理部によって制御され、落下防止処理の実行によってクレーンの落下を防止させる運転制御部を備えている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、地震の発生から実際の地震の揺れが到達するまでの時間を利用して、作業者に地震への対応を促し、更にクレーン落下防止の為の対策を行うことができるクレーン装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、クレーン装置の全体構成の一例を示す斜視図である。
図2図2は、落下防止装置の構成の一例を示す構成図である。
図3図3は、クレーン装置の制御システムの全体構成の一例を示す構成図である。
図4図4は、クレーン装置の制御システムの構成の一例を示すブロック図である。
図5図5は、落下防止装置の作動可能範囲の一例を示す斜視図である。
図6図6は、図4に示す制御システムの処理フローの一例を示すフローチャートである。
図7図7は、図6に示す停止動作処理後の安全処理フローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。
【0020】
図1、2は、クレーン装置の全体構成および、落下防止装置の一例を示し、図3は、クレーン装置の制御システムの全体構成の一例を示している。
【0021】
クレーン装置は大まかには、吊荷が掛けられるクレーンフックを巻き上げ、及び巻き下げる巻上用電動機と、この巻上用電動機を前後及び/又は左右に移動させる移動用電動機と、巻上用電動機、及び移動用電動機の動作を制御する制御装置を備えている。具体的な構成は以下の通りである。
【0022】
図1において、クレーン装置100は、クレーンフック1、ワイヤーロープ2、巻上誘導電動機3、巻上用ドラム4、横行誘導電動機5、横行用車輪6、横行用ガーダー7、走行誘導電動機8、走行用車輪9、走行用ガーダー10a、走行用レール10b、フックボルト10c、巻上・横行インバータ制御装置11、ケーブルに吊り下げられた操作入力装置12、走行用インバータ制御装置13等を有する。また、巻上誘導電動機3、横行誘導電動機5、及び走行誘導電動機8には、誘導電動機用ブレーキ14(図3参照)が各々に内蔵されている。
【0023】
ここで、巻上誘導電動機3は、クレーンフック1に掛けられた吊荷を重力方向に上げ下げするものであり。横行誘導電動機5と走行誘導電動機8は、巻上誘導電動機3を前後方向、及び/又は左右方向に移動させる移動用電動機である。
【0024】
クレーン装置100は、クレーンフック1に取り付けた吊荷を、巻上誘導電動機3によって回転する巻上用ドラム4により、ワイヤーロープ2を巻き上げ/巻き下げすることで重力方向(Y方向、-Y方向の矢印で示す)、即ち上下方向に吊荷を移動する。また、横行用車輪6を横行誘導電動機5が回転させ、横行用ガーダー7に沿って左右方向(X方向、-X方向の矢印で示す)に移動する。更に、走行用車輪9を走行誘導電動機8が回転させ、走行用レール10bに沿って前後方向(Z方向、-Z方向の矢印で示す)に移動する。
【0025】
図2は、落下防止装置の一例を示す。落下防止装置は、走行用レール10bに沿ってZ方向に移動する走行台車29に設けられた、落下防止誘導電動機27と落下防止爪部28を備える。落下防止処理として、落下防止爪部28を駆動する落下防止誘導電動機27により、走行用レール10bを搭載する走行用ガーダー10aに係合させる。これにより、クレーンの水平方向(x方向)の揺れと浮上り(y方向)を、落下防止爪部28と走行用ガーダー10aが抑制し、フックボルト10cへ過大な荷重が掛かる事を防ぐ。このように、フックボルト10cの変形が発生せず、走行用レール10bが走行用ガーダー10aから脱落することを防止する。また、走行用ガーダー10a上に設置される、走行用レール10bと走行誘導電動機8、走行用車輪9等が共に走行用ガーダー10aから落下することを防止する。
【0026】
図3に示すように、巻上・横行インバータ制御装置11には、巻上・横行インバータ制御部15、巻上用インバータ16、横行用インバータ17が内蔵されている。また、落下防止・走行用インバータ制御装置13には、落下防止・走行インバータ制御部18、及び走行用インバータ19、落下防止用インバータ26が内蔵されている。また、巻上・横行インバータ制御部15と落下防止・走行インバータ制御部18とは通信線20によって接続されている。図1に示す通り、巻上・横行インバータ制御装置11と落下防止・走行用インバータ制御装置13とは物理的に別の装置として記載しているが、一つの装置としても良い。また、機能的には一つの装置として動作しても良い。
【0027】
巻上誘導電動機3と横行誘導電動機5は、巻上・横行用インバータ制御装置11に格納された巻上・横行インバータ制御部15により制御される。即ち、オペレータが操作入力装置12から所定の指示を入力すると、巻上・横行インバータ制御部15は、巻上用インバータ16と横行用インバータ17を制御するため、巻上用インバータ16と横行用インバータ17に制御に必要な制御情報を与える。尚、巻上誘導電動機3には、エンコーダ21が取り付けられており、巻上誘導電動機3の回転情報を巻上・横行インバータ制御部15に入力している。
【0028】
そして、巻上用インバータ16と横行用インバータ17は、巻上誘導電動機3と横行誘導電動機5に必要な周波数、電圧、電流を加える。また、巻上・横行インバータ制御部15は、誘導電動機用ブレーキ14を開放制御する。巻上用インバータ16によって、巻上誘導電動機3を制御してクレーンフック1に取り付けられた吊荷が、落下することなくY方向に移動させる。また、横行用インバータ17によって、横行誘導電動機5を制御し、横行用ガーダー7に沿って横行用車輪6をX方向に移動させる。
【0029】
落下防止・走行インバータ制御部18は、オペレータが操作入力装置12からの所定の指示が入力されると、走行用インバータ19を制御する。走行用インバータ19は走行誘導電動機8に必要な周波数、電圧、電流を加える。落下防止・走行インバータ制御部18は誘導電動機用ブレーキ14を開放制御することで、走行用レール10bに沿って走行用車輪9をZ方向に移動させる。
【0030】
更に巻上・横行インバータ制御装置11には通信部22が設けられている。この通信部22は、通信線23によって巻上・横行インバータ制御部15と接続されている。通信部22は無線通信によって、演算機能を備えるサーバによって構成されたクラウドネットワーク(以下、クラウドと表記する)24に接続されている。このクラウド24は、通信部を備えた緊急地震通報システム25とも無線通信で接続されている。
【0031】
したがって、クラウド24を介して、通信部22と緊急地震通報システム25は、通信可能な環境に設定されている。もちろん、有線で通信可能に接続されていても良いことはいうまでもない。
【0032】
サーバを備えたクラウド24は、例えば、クレーン装置100の製造会社や、メンテナンス会社に設置されている。また、緊急地震通報システム25は、気象庁によって運営されている「緊急地震速報システム」を使用することができる。この緊急地震速報システムは、「予報」と「警報」を発出するように決められている。
【0033】
例えば、「予報」は最大震度3以上、又はマグニチュード3.5以上と予想されたときに発出され、「警報」は最大震度5弱以上の揺れが予想されたときに発出される。そして、この「予報」と「警報」に基づいて、クレーン装置100の制御状態を変えることができる。また、地震は最初にP波による「初期微動」が観察され、その後S波による「主要動」が観察される。
【0034】
したがって、初期微動によって速報が発出され、その後の主要動が到達するまでには或る時間差が存在する。この時間差を利用して、クレーン装置100の地震に対応する制御を実行することができる。
【0035】
次に、実施形態の緊急地震通報システム25と連動したクレーン装置100の制御システムの構成について説明する。図4は、本実施形態になる制御システムの概略の構成を示している。
【0036】
本実施形態では、制御装置として巻上・横行インバータ制御装置11と落下防止・走行用インバータ制御装置13とを一つの制御装置50として纏めて記載する。
【0037】
制御装置50は、制御処理部30を備えており、この制御処理部30は、地震が発生した時のクレーン装置の制御処理を実行する機能を備えている。これは周知の通り、制御プログラムによって動作するマイクロコンピュータで実行される。制御処理部30は、図3の巻上・横行インバータ制御部15と落下防止・走行インバータ制御部18とに対応する。制御処理部30には、種々のセンサから各種の情報が入力されている。本実施形態に関係する情報としては、例えば、落下防止装置の落下防止爪部28が位置する領域の映像情報が、カメラ映像取得部33から制御処理部30に入力される。
【0038】
落下防止装置を作動させるためには、図5に示すように、フックボルト10cなど、落下防止爪部28を走行用ガーダー10aに掛けることを阻害する物を避ける必要がある。カメラ映像取得部33は、落下防止爪部28が走行用ガーダー10aに係合する付近の映像を取得する。落下防止爪部28が位置する領域の映像情報はカメラ映像取得部33で取得される。これは、図示しないカメラから求められるものである。尚、本実施形態では、カメラは横行用ガーダー7に設けられているものとするが、これ以外のクレーン装置とは離れた位置にあるカメラの映像から求めることもできる。要は落下防止爪部28が位置する領域の映像情報が得られれば良いものである。制御処理部30に入力される情報として、クレーンフック1に取り付けられた吊荷の荷重を荷重情報取得部32から取得しても良い。クレーンフック1に取り付けられた吊荷の荷重に応じて、通信部22が緊急地震速報を受信した際の制御を変更することが可能となる。
【0039】
更に、制御処理部30には、通信部22から地震に関する地震情報(例えば、緊急地震速報)が入力される。地震情報は、クラウド24を介して緊急地震通報システム25から送られる。
【0040】
緊急地震通報システム25は、上述したように、気象庁が運用する「緊急地震速報システム」を利用するものであり、地震の強度に対応して「予報」と「警報」とが送られてくる。また、「予報」は地震を検知してから2~3秒程度で発表されるのに対し、「警報」は5~10秒程度で発表されるので、「予報」と「警報」が時系列で発出される場合もある。
【0041】
制御処理部30は、発報処理として、クレーン装置の周囲に対して音響発生手段で地震が到来することを知らせる。そのため、制御処理部30は、発報制御部34に対して「予報」と「警報」を報知するように発報情報を送信する。発報制御部34はスピーカーのような音響発生手段に対して、地震が発生したこと、地震の強度、避難の要請や避難方法等を音声アナウンスによって報知する機能を備えている。尚、発報制御部34は、パトサインのような表示手段に対して、地震が発生したこと、地震の強度、避難の要請や避難方法等を表示される色によって報知しても良い。
【0042】
クレーン装置100に発報制御部34や音響発生手段や表示手段を設けることによって、作業者がスマートフォン等の情報端末を携帯しなくても、円滑に地震情報に基づいた退避行動をとることができるようになる。
【0043】
また、制御処理部30は、運転制御部35に対してクレーンの停止や落下防止処理等を実行させる制御機能を備えている。運転制御部35は、図3の巻上・横行インバータ制御部15と落下防止・走行インバータ制御部18とに対応する。
【0044】
例えば、制御処理部30は、通信部22から「予報」を受信すると、発報制御部34に対し発報制御を行う機能や、「警報」を受信すると、発報制御部34に対し発報制御を行うと共に、運転制御部35に対しクレーン装置100の停止制御、落下防止制御を実行する機能を備えている。
【0045】
以上の通り、制御処理部30は、通信部22により受信した地震情報に応じて、発報処理と落下防止処理を実行する。また、気象庁が運用する「緊急地震速報システム」を利用して、地震の強度に応じてクレーン装置100の制御内容を事前に選択しているので、地震に対応した適切なクレーン装置の制御を実行することができるようになる。
【0046】
次に、このような制御装置50において、地震が発生した時の具体的な処理フローを説明する。図6は、緊急地震速報を受信した時の制御処理部30の処理フローを示している。この制御は、所定時間毎の時間割込みで起動されており、緊急地震速報を受信すると地震に対応した制御を実行するものである。
【0047】
≪ステップS11≫
ステップS11においては、制御処理部30は、通信部22から緊急地震速報を受信したかどうかを判断する。緊急地震速報を受信していない場合(NO)と、エンドに抜けて次の起動タイミングの到来に待機する。一方、緊急地震速報を受信したと判断すると、ステップS12に移行する。
【0048】
≪ステップS12≫
ステップS12においては、制御処理部30は緊急地震速報の地震のレベルが「警報」かどうかを判断する。この「警報」は、緊急地震速報(警報)で設定されている地震の強度に対応している。そして、制御処理部30は緊急地震速報の内容が「警報」では無い(NO)と判断されるとステップS13に移行する。つまり、「警報」では無い場合は、制御処理部30は「予報」と判断し、緊急地震速報(予報)で設定されている地震の強度と判断する。一方、制御処理部30は「警報」と判断するとステップS14に移行する。
【0049】
≪ステップS13≫
ステップS12で制御処理部30が地震のレベルが「予報」と判断したので、ステップS13においては、強度がさほど大きくない地震が到来すると予想する。この場合、先ずは作業者の安全を優先して発報処理を実行する。この場合、制御処理部30は、発報制御部34に対し音響発生手段等によって、ブザーを吹鳴し、音声アナウンスによって強度がさほど大きくない地震が到来することを報知するよう制御する。
【0050】
音声アナウンスは、例えば、「震度3の地震が発生しました。最寄りの安全な場所に避難して下さい。引き続き強度の大きい地震が到来する恐れがあります。」といった内容である。これによって、作業者は、最寄りの机の下とかに退避して自身の安全を確保する行動を素早くとることができるようになる。発報処理が完了するとエンドに抜けて、次の起動タイミングの到来に待機する。
【0051】
≪ステップS14≫
ステップS12で、制御処理部30は地震のレベルが「警報」と判断しているので、ステップS14においては、強度が大きい地震が早期に到来すると予想される。そのため、先ずは作業者の安全を優先して発報処理を実行する。この場合、制御処理部30は、発報制御部34に対し音響発生手段によって、ブザーを吹鳴し、音声アナウンスによって強度の大きい地震が到来することを報知するよう制御する。
【0052】
つまり、制御処理部30は、地震の強度が「警報」(第1の所定強度以上)と判定した時は、後述するクレーン装置の停止動作処理を実行せずに、発報制御部34に対し発報制御処理を実行させる。これにより、音響発生手段によって、素早く注意を喚起する。
【0053】
音声アナウンスは、例えば、「震度6の地震が発生しました。急いで最寄りの安全な場所に避難して下さい。」といった内容である。これによって、作業者は、安全な場所に退避して自身の安全を確保する行動を素早くとることができるようになる。発報処理が完了するとステップS15に移行する。発報手段としてパトサインを用いた場合には、例えば、「警報」の場合には赤を表示させ、「予報」の場合には黄色を表示させるように制御する。
【0054】
≪ステップS15≫
ステップS15において、制御処理部30は初期微動の後に震度が大きい主要動が到来する恐れがあると判断する。このため、初期微動から主要動が到達するまでの時間差を利用して、クレーン装置100の運転制御部35に停止動作処理を実行させる。
【0055】
この場合、巻上誘導電動機3、横行誘導電動機5、及び走行誘導電動機8の動作が停止される。これによって、主要動が到来する前に、クレーン装置100を停止することができる。尚、この停止動作処理の後の安全処理の詳細は図7に示している。停止動作処理を終了するとエンドに抜けて、次の起動タイミングの到来に待機する。
【0056】
つまり、地震の強度が「警報」(第1の所定強度)と判定された時は、発報制御処理を実行して発報手段によって注意を喚起すると共に、これに続いて安全処理を実行するものである。
【0057】
次に、停止処理後の安全処理について図7を基に説明する。この安全処理は、図6に示す停止動作処理が完了しないと実行されないものである。停止動作処理が完了しない間に、安全処理を実行するとクレーン装置100が作業者の意図せぬ動きをしてしまうからである。これを避けるために停止動作処理が完了してから安全処理を実行している。
【0058】
≪ステップS21≫
ステップS21において、制御処理部30は緊急地震速報による停止動作が完了したかどうかを判断する。この理由は、上述した通り停止動作処理が完了しない間に、安全処理を実行するとクレーンが作業者の意図せぬ動きをしてしまうからである。したがって、停止動作処理が完了していないと判断するとエンドに抜けて次の起動タイミングの到来に待機する。一方、停止動作処理が完了していると判断するとステップS22に移行する。
【0059】
≪ステップS22≫
ステップS22において、制御処理部30は落下防止爪部28を作動させて良いかどうかの判断が実行する。この判断には、カメラ映像取得部33で取得される落下防止爪部28が位置する領域の映像情報が用いられる。落下防止爪部28が作動可能範囲でない場合は、例えば、図5に示すように、フックボルト10cなどがあり、落下防止爪部28を走行用ガーダー10aに係合させることができない場合である。
【0060】
映像情報から落下防止爪部28が作動可能範囲ではないと判断すると、ステップS23に移行する。一方、映像情報から作動可能範囲であると判断すると、ステップS24に移行する。
【0061】
≪ステップS23≫
ステップS22で、制御処理部30は落下防止爪部28が作動可能範囲ではないと判断しているので、ステップS23においては、落下防止爪部28が作動可能な範囲に、クレーン装置100を移動させるように運転制御部35を制御する。映像情報を用い、最寄りの落下防止爪部28の作動可能範囲に移動を行う。移動が完了すると、ステップS22に移行する。
【0062】
≪ステップS24≫
ステップS22で、制御処理部30は落下防止爪部28が作動可能な範囲であると判断しているので、ステップS24においては、落下防止誘導電動機27が動作させて落下防止爪部28を、走行用ガーダー10aに引っ掛けて安全処理を実行する。安全処理を実行すると、エンドに抜けて次の起動タイミングの到来に待機する。つまり、緊急地震速報の「警報」に相当する地震による大きな揺れの最中に停電が発生しても、有効な落下防止対策が継続される。尚、落下防止処理とは、図6のステップ15の停止動作処理から図7のステップ24の安全処理までの処理をいう。
【0063】
上述した安全処理の実行によって、作業者が退避していても自動的に適切な状態に維持されるので、地震の揺れによる危険性が作業者に及ぶのを避けることができる。
【0064】
以上、本実施の形態によれば、地震の発生による緊急地震速報の受信から、地震による揺れが到達するまでの時間を利用して、作業者に地震への対応を促し、更にクレーンの落下防止処理を行うクレーン装置を提供することができる。
【0065】
尚、本発明は上記したいくつかの実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。各実施例の構成について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0066】
1:クレーンフック、
2:ワイヤーロープ、
3:巻上誘導電動機、
4:巻上用ドラム、
5:横行誘導電動機、
6:横行用車輪、
7:横行用ガーダー、
8:走行誘導電動機、
9:走行用車輪、
10a:走行用ガーダー、
10b:走行用レール、
10c:フックボルト、
11:巻上・横行インバータ制御装置、
12:操作入力装置、
13:走行用インバータ装置、
14:誘導電動機用ブレーキ、
15:巻上・横行インバータ制御部、
16:巻上用インバータ、
17:横行用インバータ、
18:走行インバータ制御部、
19:走行用インバータ、
20:通信線、
21:エンコーダ、
22:通信部、
23:通信線、
24:クラウド、
25:緊急地震通報システム、
26:落下防止用インバータ、
27:落下防止誘導電動機、
28:落下防止爪部、
30:制御処理部、
31:位置情報取得部、
32:荷重情報取得部、
33:カメラ映像取得部、
34:発報制御部、
35:運転制御部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7