(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173128
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20241205BHJP
【FI】
H02M7/48 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091336
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】324003048
【氏名又は名称】三菱電機モビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮永 卓弥
(72)【発明者】
【氏名】四元 信一朗
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA28
5H770BA02
5H770DA03
5H770DA41
5H770HA02Y
5H770HA06X
5H770JA19X
5H770LA07X
5H770LB05
5H770LB09
5H770QA05
5H770QA08
(57)【要約】
【課題】温度検出器等の配置の制約をなくし、電力変換装置の作動状態、電力変換装置の置かれた環境による断線故障の誤検知を防ぐことができる電力変換装置を得る。
【解決手段】並列接続されたN個のスイッチング素子とN個より少ない温度検出器を有する単一部品の正極側のアーム、並列接続されたN個のスイッチング素子とN個より少ない温度検出器を有する単一部品の負極側のアーム、および正極側と負極側のスイッチング素子を直列に接続するとともに負荷に接続された外部接続点、が設けられた電力変換回路、ならびに故障判定部を有しスイッチング素子を制御して電力変換を行う制御装置、を備えた電力変換装置において、アームの温度検出器の出力値と他のアームの温度検出器の出力値との差分の絶対値が、所定の差分閾値よりも大きい場合にアームを構成するスイッチング素子の断線故障と判定する電力変換装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nを自然数、MをNよりも小さい自然数として、
直流電源の正極側に並列接続されたN個のスイッチング素子と正極側の前記スイッチング素子の温度を検出するM個の温度検出器とを有する単一部品として構成された正極側のアーム、前記直流電源の負極側に並列接続されたN個のスイッチング素子と負極側の前記スイッチング素子の温度を検出するM個の温度検出器とを有する単一部品として構成された負極側のアーム、および前記正極側のアームのスイッチング素子と前記負極側のアームのスイッチング素子を直列に接続するとともに負荷に接続された外部接続点、が設けられた電力変換回路、ならびに
前記スイッチング素子の故障判定を行う故障判定部を有し前記電力変換回路の前記スイッチング素子を制御して電力変換を行う制御装置、を備えた電力変換装置において、
前記制御装置の前記故障判定部は、前記アームの前記温度検出器の出力から求められた値と他の前記アームの前記温度検出器の出力から求められた値との差分の絶対値が、予め定められた差分閾値よりも大きい場合に前記アームを構成する前記スイッチング素子の断線故障と判定する電力変換装置。
【請求項2】
前記電力変換回路の前記アームは、前記温度検出器が夫々前記スイッチング素子のいずれかに隣接して配置されて構成された請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記電力変換回路の前記アームは、同一のリードフレーム上に前記N個のスイッチング素子と前記M個の温度検出器とが配置されて構成された請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御装置の前記故障判定部は、前記電力変換回路のスイッチング素子が制御されて、全ての正極側のアームをオンし全ての負極側のアームをオフするもしくは全ての正極側のアームをオフし全ての負極側のアームをオンする全相短絡状態の場合または電力変換を行っている場合に、前記アームの前記温度検出器の出力から求められた温度と他の前記アームの前記温度検出器の出力から求められた温度との差分の絶対値が、前記差分閾値よりも大きい状態が継続する時間が予め定められた判定時間よりも長い場合に前記アームを構成する前記スイッチング素子の断線故障を判定する請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御装置の前記故障判定部は、前記電力変換回路のスイッチング素子が制御されて電力変換を行っている場合に、前記アームの前記温度検出器の出力から求められた温度と他の前記アームの前記温度検出器の出力から求められた温度との差分の絶対値が、前記差分閾値よりも大きい状態が継続する時間が予め定められた判定時間よりも長い場合に前記アームを構成する前記スイッチング素子の断線故障を判定する請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記制御装置の前記故障判定部は、前記電力変換回路のスイッチング素子が制御されて、全ての正極側のアームをオンし全ての負極側のアームをオフするもしくは全ての正極側のアームをオフし全ての負極側のアームをオンする全相短絡状態が継続しているまたは電力変換が行われている状態が継続している駆動継続時間が予め定められた駆動継続判定時間よりも大きい場合に、前記アームの前記温度検出器の出力から求められた前記駆動継続時間前の温度から現在の温度までの温度上昇値と他の前記アームの前記温度検出器の出力から求められた前記駆動継続時間前の温度から現在の温度までの温度上昇値との差分の絶対値が、予め定められた差分閾値よりも大きい場合に前記アームを構成する前記スイッチング素子の断線故障と判定する請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記制御装置の前記故障判定部は、前記電力変換回路のスイッチング素子が制御されて電力変換行われている状態が継続している駆動継続時間が予め定められた駆動継続判定時間よりも大きい場合に、前記アームの前記温度検出器の出力から求められた前記駆動継続時間前の温度から現在の温度までの温度上昇値と他の前記アームの前記温度検出器の出力から求められた前記駆動継続時間前の温度から現在の温度までの温度上昇値との差分の絶対値が、予め定められた差分閾値よりも大きい場合に前記アームを構成する前記スイッチング素子の断線故障と判定する請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記電力変換回路の前記外部接続点と前記負荷の間に流れる電流を検出する電流検出器を備え、
前記制御装置の前記故障判定部は、前記電流検出器によって検出された電流値に応じて前記差分閾値を定める請求項1から7のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記電力変換回路の周囲の温度を検出する周囲温度検出器を備え、
前記制御装置の前記故障判定部は、前記周囲温度検出器によって検出された周囲温度に応じて前記差分閾値を定める請求項1から7のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記電力変換回路の前記外部接続点と前記負荷の間に流れる電流を検出する電流検出器を備え、
前記制御装置は、前記スイッチング素子の断線故障を判定した場合に、前記電流検出器によって検出された電流値が予め定められた停止判定値よりも大きいときは前記スイッチング素子の制御を停止して電力変換を停止する請求項1から7のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記電力変換回路の前記外部接続点と前記負荷の間に流れる電流を検出する電流検出器を備え、
前記制御装置は、前記スイッチング素子の断線故障を判定した場合に、前記電流検出器によって検出された電流値が予め定められた制限判定値よりも大きいときは前記スイッチング素子の作動を制限して前記外部接続点と前記負荷の間に流れる電流を減少させる請求項1から7のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項12】
前記電力変換回路は、前記正極側のアームと前記負極側のアームと前記外部接続点とが設けられたレグを複数有し、
前記制御装置の前記故障判定部は、前記アームの前記温度検出器の出力から求められた値と前記アームが備えられた前記レグ以外のレグの同じ極側の前記アームの前記温度検出器の出力から求められた値との差分の絶対値に基づいて前記スイッチング素子の断線故障を判定する請求項1から7のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項13】
前記制御装置の前記故障判定部は、前記アームの前記温度検出器の出力から求められた値と前記アームが直列接続された他極側の前記アームの前記温度検出器の出力から求められた値との差分の絶対値に基づいて前記スイッチング素子の断線故障を判定する請求項1から3、5または7のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項14】
MはNよりも1小さい自然数である請求項1から7のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項15】
前記電力変換回路は、前記正極側のアームと前記負極側のアームと前記外部接続点とが設けられたレグを複数有し、
前記制御装置の前記故障判定部は、前記アームの前記温度検出器の出力から求められた値と前記アーム以外のアームの前記温度検出器の出力から求められた平均値との差分の絶対値が、前記差分閾値よりも大きい場合に前記アームを構成する前記スイッチング素子の断線故障を判定する請求項1から3、5または7のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項16】
前記電力変換回路は、前記正極側のアームと前記負極側のアームと前記外部接続点とが設けられたレグを複数有し、
前記制御装置の前記故障判定部は、前記アームの前記温度検出器の出力から求められた値と前記アームが備えられた前記レグ以外のレグの同じ極側の前記アームの前記温度検出器の出力から求められた平均値との差分の絶対値が、前記差分閾値よりも大きい場合に前記アームを構成する前記スイッチング素子の断線故障を判定する請求項1から7のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動車両などに適用されるモータ制御装置として電力変換装置が用いられることが多い。電力変換装置として、交流電力を直流電力へ変換するAC/DCコンバータ(Alternate Current / Direct Current Converter)、直流電力から交流電力へ変換するインバータ(Inverter)、直流電力の入力電圧と出力電圧のレベルを変化させるDC/DCコンバータ(Direct Current / Direct Current Converter)、などが存在する。これらの電力変換装置は、半導体スイッチング素子を備えた構成であることが多い。
【0003】
電力変換装置の例として、電動車両に搭載されるインバータは直流電源から出力される直流電力を所望の交流電力に変換し、回転機に供給することで回転機を制御するために用いられる。電力変換装置は、スイッチング素子を組み合わせて構成されるスイッチング回路、スイッチング素子を制御する制御回路、回転機などの負荷に流れる電流を検出するための電流センサ、スイッチングノイズを対策するコンデンサなどから構成される。電力変換装置は例えば三相式のモータを制御する場合、三相(U相、V相、W相)の上側アーム(正極側のアーム)および下側アーム(負極側のアーム)各々にスイッチング回路が備えられているものがある。これらのスイッチング回路は、各相の各アームに複数のスイッチング素子が並列で接続されて構成されるものがある。アームごとに複数のスイッチング素子を並列接続することは、各アームの電流容量を増大する上で有利な手法である。
【0004】
電力変換装置においてスイッチング素子のオープン故障が発生する可能性がある。特定の相の上側アーム、下側アームいずれかのアームで、並列接続されたスイッチング素子の1つにオープン故障が発生した場合、故障していない残るスイッチング素子に電流が集中する。そして、電流が集中したスイッチング素子の温度上昇が通常の運転時よりも大きくなり、温度が限界を超えるとスイッチング素子が破壊されてしまう可能性がある。このため、スイッチング素子に温度検出器を設け、過熱状態を検出して出力の停止もしくは出力を制限するといった保護手段を備えた電力変換装置が提案されている(例えば特許文献1)。
【0005】
特許文献1には、並列接続されたスイッチング素子で構成された上側アーム及び下側アームを備えた電力変換装置が記載されている。そして一方のスイッチング素子がオープン故障を起こした場合の検出方法について示されている。コンデンサ、スイッチング素子等の個別の電子部品が配置された主配線基板上に並列に接続された二個のスイッチング素子が設けられている。そして、二個のスイッチング素子の中間の地点となる主配線基板の導電路上に温度検出器が設けられている。診断対象のアームの温度検出器によって検出された温度と、他のアームの温度検出器によって検出された温度の温度差を求める。そして、この温度差を所定値と比較してスイッチング素子のオープン故障を判定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の技術では、温度検出器を二個の独立した電子部品であるスイッチング素子の中間となる位置、かつ主配線基板の導電路上に実装する必要がある。そのように配置しなければ、一方のスイッチング素子のオープン故障の場合の残りのスイッチング素子の上昇温度の検出と、他方のスイッチング素子のオープン故障の場合の残りのスイッチング素子の上昇温度の検出との間に、断線故障したスイッチング素子の違いによる大きな誤差が生じるからである。また、電力変換装置の作動状態、電力変換装置の置かれた環境によってアームの温度検出器によって検出された温度が影響を受ける。このため、温度検出器の出力から求められた値に基づいてスイッチング素子の断線判定を行う場合に誤検出が発生する可能性がある。
【0008】
本願は、上記のような課題を解決するための技術を開示するものである。複数のスイッチング素子を備えた正極側および負極側のアームを有する電力変換装置において、スイッチング素子の断線故障を低コストでかつ正確に検出し、配線基板への温度検出器の配置、スイッチング素子の配置の制約をなくし、かつ、電力変換装置の作動状態、電力変換装置の置かれた環境による誤検知を防ぐことができる電力変換装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願に係る電力変換装置は、
Nを自然数、MをNよりも小さい自然数として、
直流電源の正極側に並列接続されたN個のスイッチング素子と正極側のスイッチング素子の温度を検出するM個の温度検出器とを有する単一部品として構成された正極側のアーム、直流電源の負極側に並列接続されたN個のスイッチング素子と負極側のスイッチング素子の温度を検出するM個の温度検出器とを有する単一部品として構成された負極側のアーム、および正極側のアームのスイッチング素子と負極側のアームのスイッチング素子を直列に接続するとともに負荷に接続された外部接続点、が設けられた電力変換回路、ならびに
スイッチング素子の故障判定を行う故障判定部を有し電力変換回路のスイッチング素子を制御して電力変換を行う制御装置、を備えた電力変換装置において、
制御装置の故障判定部は、アームの温度検出器の出力から求められた値と他のアームの温度検出器の出力から求められた値との差分の絶対値が、予め定められた差分閾値よりも大きい場合にアームを構成するスイッチング素子の断線故障と判定するものである。
【発明の効果】
【0010】
本願によれば、複数のスイッチング素子を備えた正極側および負極側のアームを有する電力変換装置において、スイッチング素子の断線故障を低コストでかつ正確に検出し、配線基板への温度検出器の配置、スイッチング素子の配置の制約をなくし、かつ、電力変換装置の作動状態、電力変換装置の置かれた環境による誤検知を防ぐことができる電力変換装置を得ることができる。これにより、半導体スイッチング素子の過熱をより適切に防止しつつ、過剰に電力変換装置の出力を制限することを抑制した効率的な電力変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1に係る電力変換装置の構成図である。
【
図2】実施の形態1に係る電力変換装置の制御装置のハードウェア構成図である。
【
図3】実施の形態1に係る電力変換装置のスイッチング素子の構造を示す上面図である。
【
図4】実施の形態1に係る電力変換装置のスイッチング素子の構造を示す上面の拡大図である。
【
図5】実施の形態1に係る電力変換装置のスイッチング素子の構造を示す断面図である。
【
図6】実施の形態1に係る電力変換装置の上下アームの構造を示す上面図である。
【
図7】実施の形態1に係る電力変換装置のスイッチング素子の断線故障の有無に応じた検出温度のタイムチャートである。
【
図8】実施の形態1に係る電力変換装置のスイッチング素子の断線故障の有無に応じた検出温度差のタイムチャートである。
【
図9】実施の形態1に係る電力変換装置の制御装置の故障診断部の第一の構成図である。
【
図10】実施の形態1に係る電力変換装置の通電電流、冷却水温度、およびスイッチング素子温度の関係を示す図である。
【
図11】実施の形態1に係る電力変換装置の制御装置の故障診断部の第二の構成図である。
【
図12】実施の形態1に係る電力変換装置の冷却水温度とスイッチング素子温度の関係を示す図である。
【
図13】実施の形態1に係る電力変換装置の制御装置の故障診断の処理を示すフローチャートである。
【
図14】実施の形態1に係る電力変換装置の断線故障判定時の電流制限を示すタイムチャートである。
【
図15】実施の形態2に係る電力変換装置の制御装置の故障診断の処理を示すフローチャートである。
【
図16】実施の形態3に係る電力変換装置の制御装置の故障診断部の構成図である。
【
図17】実施の形態3に係る電力変換装置の通電電流とスイッチング素子温度上昇値の関係を示す図である。
【
図18】実施の形態3に係る電力変換装置の制御装置の故障診断の処理を示す第一のフローチャートである。
【
図19】実施の形態3に係る電力変換装置の制御装置の故障診断の処理を示す第二のフローチャートである。
【
図20】実施の形態4に係る電力変換装置の制御装置の故障診断の処理を示す第一のフローチャートである。
【
図21】実施の形態4に係る電力変換装置の制御装置の故障診断の処理を示す第二のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本願に係る電力変換装置の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0013】
1.実施の形態1
<電力変換装置の構成>
図1は、実施の形態1に係る電力変換装置100の構成図である。電力変換装置100は、電気自動車、プラグインハイブリッド自動車などの電動車両で使用されてもよい。高電圧バッテリの電力で負荷となるモータを駆動するための電力変換装置を想定することができる。
【0014】
電力変換装置100は直流電源1と負荷3に接続され、平滑コンデンサ2、電力変換回路29、電力変換回路29を制御する制御装置200から構成される。直流電源1は正極側直流母線1aと負極側直流母線1bを介して、電力変換回路29に電力を供給する。
【0015】
直流電源1は充放電可能な電源である。また直流電源1は電力変換回路29を介して負荷3と電力のやり取りを行う。平滑コンデンサ2は、直流電源1が出力した直流電力の変動分を平滑にする役割を果たす。
【0016】
電力変換回路29はインバータとも称する。
図1では、電力変換回路29は、2個のスイッチング素子が並列接続された三相の正極側アーム11、12、13と、2個のスイッチング素子が並列接続された三相の負極側アーム14、15、16と、相ごとに正極側アームと負極側アームを直列に接続するとともに負荷3に接続された3個の外部接続点を有している。そして、6個のアーム11から16は夫々、スイッチング素子の温度を検出する温度検出器71から76を備えている。
図1では各アームの並列接続されるスイッチング素子は2個であるが、3個以上のスイッチング素子が並列接続されていてもよい。また、
図1では電力変換回路29が三相の出力を備えた場合について記載しているが、二相または四相以上の出力を備えていてもよい。
【0017】
<スイッチング素子>
スイッチング素子21aから26a、21bから26bとしては、例えば、
図1に示すようなMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect-Transistor)が一般的に用いられる。これ以外に、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)なども用いられる。なお、スイッチング素子の各MOSFETには、直流電源1の負極側から正極側へ向かう方向、すなわち下段側から上段側へ向かう方向を順方向として、並列にフリーホイールダイオード(FWD:Free Wheel Diode)が形成される。
【0018】
各スイッチング素子の制御端子が制御装置200の駆動回路30と接続されている。駆動回路30は制御部40が有するゲート制御部42から指令を受けて、各スイッチング素子の制御端子に駆動信号を伝達する。ゲート制御部42は負荷出力制御部41から指令を受けてゲート制御信号を生成する。
【0019】
<温度検出器>
温度検出器71から76はアーム11から16に設けられて、並列接続されているスイッチング素子の温度を検出する役割を果たす。温度検出器71から76はアーム11から16のスイッチング素子の温度を検出可能な任意の位置に設けられてよい。例えば、並列接続されているスイッチング素子の一方に設けられていてもよい。温度検出器71から76の出力である検出温度T1からT6は、制御装置200に入力される。
【0020】
<電流検出器>
電流検出器77、78、79は、スイッチング素子から負荷3に流れるU相、V相、W相の電流を検出する。電流検出器77、78、79の電流情報Iu、Iv、Iwは、制御装置200に入力される。
【0021】
<制御装置>
制御装置200は、電力変換装置100の全体の制御を担うもので、演算処理装置を有している。制御装置200は、外部から操作指令を受取る。操作指令としては、目標トルクTrq*、目標回転数、目標電流、目標電圧などが想定できる。
【0022】
制御装置200の制御部40は負荷出力制御部41、ゲート制御部42、駆動状態判定部43、故障診断部44を有する。ゲート制御部42は駆動回路30を介して、スイッチング素子21aから26a、21bから26bの制御端子に接続され、スイッチング素子のゲートのオン、オフを行うゲート信号を出力する。
【0023】
負荷出力制御部41は負荷の出力を制御し、必要な出力に応じてゲート制御部42にゲート制御信号を伝達する。ゲート制御部42は負荷出力制御部41からの制御信号に基づいて、駆動回路30へ駆動信号を伝達する。
【0024】
駆動状態判定部43はゲート制御部42の出力情報より、現在のスイッチング素子の駆動状態を判定する。駆動状態とはスイッチング素子がオン、オフを繰り返しているPWM(Pulse Width Modulation)駆動状態であるか(すなわち電力変換中であるか)、全てのスイッチング素子がオフである駆動停止状態であるか、全ての正極側のアームをオンし全ての負極側のアームをオフするもしくは全ての正極側のアームをオフし全ての負極側のアームをオンする三相短絡状態であるか、などの状態をいう。
【0025】
故障診断部44はスイッチング素子の故障状態を診断する機能を有する。故障診断部44は、温度検出器71から76、電流検出器77、78、79、駆動状態判定部43、冷却水温度などの情報に基づいて故障診断を実施する。
【0026】
<制御装置のハードウェア構成>
図2は、実施の形態1に係る電力変換装置100の制御装置200のハードウェア構成図である。本実施の形態では、制御装置200の各機能は、制御装置200が備えた処理回路により実現される。具体的には、制御装置200は、
図2に示すように、処理回路として、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置90(コンピュータ)、演算処理装置90とデータのやり取りをする記憶装置91、演算処理装置90に外部の信号を入力する入力回路92、および演算処理装置90から外部に信号を出力する出力回路93等を備えている。
【0027】
演算処理装置90として、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、IC(Integrated Circuit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、各種の論理回路、および各種の信号処理回路等が備えられてもよい。また、演算処理装置90として、同じ種類のものまたは異なる種類のものが複数備えられ、各処理が分担して実行されてもよい。記憶装置91として、演算処理装置90からデータを読み出しおよび書き込みが可能に構成されたRAM(Random Access Memory)、演算処理装置90からデータを読み出し可能に構成されたROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等が備えられている。入力回路92は、温度検出器71から76、電流検出器77から79等の各種のセンサおよびスイッチが接続され、これらセンサおよびスイッチの出力信号を演算処理装置90に入力するA/D変換器等を備えている。出力回路93は、スイッチング素子等の電気負荷が接続され、これら電気負荷に演算処理装置90からの制御信号を変換して出力する駆動回路30等を備えている。
【0028】
制御装置200が備える各機能は、演算処理装置90が、ROM等の記憶装置91に記憶されたソフトウェア(プログラム)を実行し、記憶装置91、入力回路92、および出力回路93等の制御装置200の他のハードウェアと協働することにより実現される。なお、制御装置200が用いる閾値、判定値等の設定データは、ソフトウェア(プログラム)の一部として、ROM等の記憶装置91に記憶されている。制御装置200の構成要素の機能について説明する。制御装置200の各機能は、それぞれソフトウェアのモジュールで構成されるものであってもよいが、ソフトウェアとハードウェアの組み合わせによって構成されるものであってもよい。
【0029】
<スイッチング素子の構成>
図3は、実施の形態1に係る電力変換装置100のアーム11から16のスイッチング素子の構成の例を示す上面図であり、スイッチング素子の回路を説明する模式図である。具体的に説明するため、
図3はアーム11のスイッチング素子21a、21bについて記載している。
【0030】
スイッチング回路は、配線パターン状に形成された2つの金属製リードフレーム60、61を有している。一方のリードフレーム60上に配置されたスイッチング素子21a、21bは、スイッチング素子が配置されていないリードフレーム61と電気的に接続可能なインナーリード62によって接続されている。
【0031】
リードフレーム60および61は、正極側直流母線1a、負極側直流母線1b、を介して直流電源1の正極側、負極側もしくは負荷3と電気的に接続され得る。例えば、スイッチング素子が正極側アーム11、12、13に配置される場合は、リードフレーム60は直流電源1の正極側に接続され、リードフレーム61は負荷3と接続され得る。
【0032】
また、スイッチング素子が負極側アーム14、15、に配置される場合、リードフレーム60は負荷と接続され、リードフレーム61は直流電源1の負極側と接続され得る。このアーム内のスイッチング素子21a、21bおよびリードフレーム60、61およびインナーリード62の配置接続は、電力変換装置100の電気接続構成を実現できればよいので、
図3から
図5の構成に限定するものではない。
【0033】
複数のスイッチング素子21a、21bには、リードフレーム60の周辺に配置された金属製の信号端子63を経由してゲート電圧が印加され、オンとオフの動作が可能である。このオンとオフのスイッチング動作により、リードフレーム60とリードフレーム61の電気的導通と電気的非導通が切換えられる。
【0034】
<温度検出器の配置>
複数のスイッチング素子21a、21bのうち、いずれかのスイッチング素子には、温度検出器71が備えられている。
図3は、例としてスイッチング素子21aに温度検出手段が備えられている場合を表している。
【0035】
温度検出器71の1つの実現方法として、例えば検温ダイオードが存在する。検温ダイオードは、検温ダイオードに微小電流を通電することで、検温ダイオード搭載部の温度変化に応じて、検温ダイオードのアノードとカソード間電圧が変化する。このアノードとカソード間の電圧変化を検出し、その検温ダイオードの温度特性を用いて取得電圧を温度に変換することで、検温ダイオード搭載部の温度を検出することができる。また、スイッチング素子21a上に温度検出器を構成すれば、スイッチング素子21a、21bの製造プロセスの中で同時に温度検出器71を形成することができるので、コスト低下にも寄与することができる。
【0036】
ここで、実施の形態1に係る電力変換装置100の、電力変換回路29を構成するアーム11から16におけるスイッチング素子の個数と、温度検出器71から76の個数の関係について説明する。
図3のように、1つのアーム内にスイッチング素子がN個並列に接続されている場合、そのアームの(N-1)個のスイッチング素子に温度検出手段を有することとしてもよい。例えば、1つのアーム内に3つのスイッチング素子が並列接続されている場合、そのスイッチング回路内の2つのスイッチング素子に温度検出手段が搭載されていることとしてもよい。
図3は、N=2の場合の図に該当していると容易に理解できる。
【0037】
また、スイッチング素子が3個の場合であっても、3個並んで設けられたスイッチング素子の中央のスイッチング素子に温度検出器を配置することで、1個の温度検出器によって3個のスイッチング素子の過熱状態を検出することも可能である。よって、巧妙にアームの設計をすることで、1つのアーム内にスイッチング素子がN個並列に接続されている場合、そのアームの(N-1)個よりも少ない数のスイッチング素子に温度検出手段を有することとしてもよい。
【0038】
すなわち、Nを自然数、MをNより小さい自然数として、N個のスイッチング素子と、M個のスイッチング素子の温度を検出する温度検出器とを有する単一部品としてアームを構成することができる。このように構成すれば、温度検出器の数を削減してコストを低減することができる。
【0039】
また、それぞれを別部品として、配線基板上に配置する場合は熱伝導性を考慮して配線基板上の部品配置に制約が生じることとなる。複数のスイッチング素子と温度検出器を一体の単一部品とすることでそのような制約を受けず、かつ良好な熱伝導性によりスイッチング素子の断線故障の正確な判定が可能となり、誤検知を防ぐことができる。
【0040】
ここで、スイッチング素子21a、21bと温度検出器71は単一のリードフレーム60の上に配置されている。このため、スイッチング素子21a、21bの発熱状態が温度検出器71によって精度よく検出可能となる。
【0041】
図4は、実施の形態1におけるスイッチング素子21aの上面視形状と温度検出器71の配置を拡大して示した模式図である。スイッチング素子21aの表面には、温度検出器71が形成されており、スイッチング素子21aの表面の温度を計測可能である。
【0042】
スイッチング素子21aの上面の中央部には、導電性の金属部材で構成された配線部材であるインナーリード62との接合領域28が設けられている。インナーリード62の一端は、スイッチング素子の上面中央部の接合領域28と接合され、その反対の一端は、スイッチング回路を形成するために接続を要するリードフレーム61と接続される。
【0043】
図5は、実施の形態1に係るアーム11の断面図である。上面視模式図である
図3におけるA-Aの断面を表す。
図5には、リードフレーム60、61の一部とスイッチング素子21a、21bとインナーリード62とを覆うように樹脂材67で封止された様子が記載されている。樹脂材67で封止された結果、アーム11が1つの部品を形成している。この封止材は、ゲル材のように電気的絶縁性を有する部材であれば、その他の材料でもよい。
【0044】
アーム11には、上述したスイッチング素子21a、リードフレーム60、61、インナーリード62、信号端子63、樹脂材67、温度検出器71が設けられている。そして、リードフレーム60とスイッチング素子21aの間、スイッチング素子21aとインナーリード62の間、またはインナーリード62とリードフレーム61の間を接続するためのはんだ64、65、66が示されている。
【0045】
また、アーム11は、絶縁部材68、温度検出器71の信号を信号端子63と接続するためのワイヤ配線69、を有しており、それらの一部または全ては樹脂材67により包み込まれている。温度検出器71の信号は、信号端子63を経由して電力変換装置100の制御装置200に入力される。
【0046】
絶縁部材68は、1つの部品として形成されたアーム11が、伝熱性および導電性を有する放熱部品の上に搭載された場合、その放熱部品とリードフレーム間の電気的絶縁性を確保するために配置されている。放熱部品とリードフレームの電気的絶縁性を確保できなければ、スイッチング素子のオンとオフの動作に関係なく、2つのリードフレームが電気的に導通し、スイッチング回路が形成されないことになる。
【0047】
図3から
図5では、正極側のアームまたは負極側のアームをひとつの部品として形成した例を示した。
図6では、正極側アーム(上側アーム)の回路と負極側アーム(下側アーム)の回路全体(上下アーム)を1つの部品として形成した例を示す。
【0048】
図6の上下アームは、直流電源1の正極側、負極側、および負荷3に接続される3つのリードフレームを有する。正極側アーム11のスイッチング素子21aは直流電源1の正極側に接続されるリードフレーム60に、負極側アーム14のスイッチング素子24a、24bは負荷に接続されるリードフレーム61に搭載され得る。この上下アーム内のスイッチング素子およびリードフレームおよびインナーリードの配置接続は、電力変換装置100の電気接続構成を実現できればよいので、
図6に示す構成に限定されるものではない。
【0049】
<スイッチング素子の断線故障時の温度>
図7は、実施の形態1に係る電力変換装置100のスイッチング素子の断線故障の有無に応じた検出温度のタイムチャートである。例として、
図3または
図6に示された、U相の正極側のアーム11の二個のスイッチング素子21a、21bが正常な場合と、いずれか一個が断線故障の場合の温度検出器71の出力を示す。
【0050】
図3または
図6では、温度検出器71が、スイッチング素子21aの接合部の近くに配置されている。この場合、スイッチング素子21bが断線故障した場合にはスイッチング素子21aに電流が集中し2倍の電流を流すために接合部の温度が上昇し、スイッチング素子21a、21bともに正常な場合に比べて、温度検出器71の出力である温度上昇カーブが上方にシフトする。そして、スイッチング素子21aが断線故障した場合、スイッチング素子21bに電流が集中し2倍の電流を流すために接合部の温度が上昇するが、スイッチング素子21aの接合部に電流が流れず、スイッチング素子21a、21bともに正常な場合に比べて、温度検出器71の出力である温度上昇カーブが下方にシフトする。よって、スイッチング素子21a、21bのいずれかが断線故障した場合、温度検出器71の出力はスイッチング素子21a、21bともに正常な場合に比べて差分を有する。
【0051】
図8は、実施の形態1に係る電力変換装置100のスイッチング素子の断線故障の有無に応じた検出温度差のタイムチャートである。例えば、U相の正極側のアーム11の温度検出器71の出力から求められた検出温度T1と、V相の正極側のアーム12の温度検出器72の出力から求められた検出温度T2の温度差の絶対値の推移を
図8に示す。
【0052】
電力変換装置100が電力変換を開始し、すべてのスイッチング素子が正常に作動している場合は、正常時の温度差として示した曲線のような挙動を示す。電力変換装置100が動作を開始する前は、アーム11、アーム12のスイッチング素子は動作しておらず発熱していないので、同一筐体内に設置されたアーム11、アーム12は同一の温度である。電力変換動作を開始すると、アーム11、アーム12はスイッチング素子の性能(特性)のばらつき、配置された環境(放熱しやすい位置にあるかどうか)の違いなどにより、数度の温度差が生じている。
【0053】
これに対し、スイッチング素子21bが断線故障した場合、正常なスイッチング素子21aはスイッチング素子21bが負担していた電流を流すこととなり、二倍の電流を供給することとなる。その場合、理論上発熱量は2倍から4倍となることが考えられる。時間とともにアーム11のスイッチング素子21aに設置された温度検出器71の出力から求めた温度は、正常なスイッチング素子22a、22bを有したアーム12の温度検出器72の出力から求めた温度と比較して急速に増大してゆき、温度差が拡大していく。この温度差の絶対値を、予め定めた差分閾値dTthと比較することで、スイッチング素子21bの断線故障を判定することができる。
【0054】
スイッチング素子21bが正常で、スイッチング素子21aが断線故障した場合であっても、温度検出器71は、スイッチング素子21bが二倍の電流を供給し、理論上発熱量は2倍から4倍となることが考えられる。スイッチング素子21bの発熱が熱伝導によって温度検出器71に伝えられるが、温度検出器71,までの距離があるため、熱抵抗により温度の上昇は緩やかになる。そしてスイッチング素子21aは断線故障し電流が流れないため発熱しない。このため、温度検出器71の出力による温度は、温度検出器72の出力による温度まで上昇せず温度差の絶対値が拡大していく。この温度差の絶対値を、予め定めた差分閾値dTthと比較することで、スイッチング素子21aの断線故障を判定することができる。
【0055】
上記では、アーム11の温度検出器71の出力である検出温度T1と、アーム12の温度検出器72の出力である検出温度T2の温度差の絶対値を求めた場合について説明した。これは、アーム11の温度検出器71の出力である検出温度T1と、アーム13の温度検出器73の出力である検出温度T3の温度差の絶対値を求めた場合についても適用できる。また、これ以外のアームの温度検出器の検出温度を利用してもよい。
【0056】
ここで、温度検出器71が、
図3、
図6に示された例と異なる配置の場合について考える。この場合、二つのスイッチング素子21a、21bが正常な場合と、いずれかのスイッチング素子が断線故障した場合の温度について、
図7に示したタイムチャートとは異なる挙動を示すことが考えられる。その場合は、スイッチング素子21a、21bの夫々が断線故障の場合の温度検出器71の検出温度を実測し、断線故障を検出することができる差分閾値dTthと、検出論理を選択すればよい。
【0057】
スイッチング素子21bが断線故障した場合に、スイッチング素子21aに二倍の電流が流れる。このとき例えば、ドレイン・ソース間電圧が上昇してスイッチング素子21aの発熱量が4倍近くになる場合を考える。このとき、温度検出器71がスイッチング素子21aとスイッチング素子21bの間のどの位置に配置されていても、検出温度が正常時の検出温度よりも上昇する場合が考えられる。そのような場合であっても、正常なアームでの検出温度と、断線故障したスイッチング素子を有するアームでの検出温度の差分の絶対値を適切に設定された差分閾値dTthと比較して、断線故障の有無を判定することが可能である。
【0058】
二つのスイッチング素子21a、21bと温度検出器71が、単一部品として構成されているので、スイッチング素子の接合部の温度を直近で検出することができる。そのため、コンデンサ、スイッチング素子などの複数の電子部品が半田付けされた配線基板の導電路上に温度検出器を設ける場合に比べて、配線基板の上の位置の差による雰囲気温度の違いによる影響を受けにくい。また、配線基板の導電路の熱抵抗による影響、配線基板が冷却されることによるスイッチング素子温度と検出温度との差異による影響を抑制することができる。この特徴は、電力変換回路29の他のアームについても同様である。そのため、実施の形態1に係る電力変換装置100では、各スイッチング素子の正確な温度検出が可能となり正確な断線検出をすることができる。
【0059】
<故障診断部>
図9は、実施の形態1に係る電力変換装置100の制御装置200の故障診断部44の第一の構成図である。故障診断部44は故障判定部51、駆動継続判定部52、出力抑制判定部53を有する。故障判定部51は温度検出器71から76の検出温度T1からT6、電流検出器77から79の電流情報Iu、Iv、Iw、冷却水温度情報Tw、駆動状態判定結果(作動状態)の信号をもとに故障判定を行い、スイッチング素子の断線故障を判定する。
【0060】
故障判定部51によって断線故障と判定された場合、駆動継続判定部52にて、駆動継続可否を判定し駆動継続不可と判定した場合はゲート制御部42へゲート駆動停止指令を伝達する。駆動継続可と判定された場合は、出力抑制判定部53にて、抑制要否を判定する。判定した結果を負荷出力制御部41へ伝達する。
【0061】
<素子温度と、電流、冷却水温の関係>
図10は、実施の形態1に係る電力変換装置100の通電電流、冷却水温度、およびスイッチング素子温度の関係を示す図である。ここで、冷却水温度は、電力変換装置100の電力変換回路29の周囲温度の一例である。電力変換装置が高温となる場合、冷却水によって水冷する場合がある。このとき、冷却水の温度を電力変換回路29の周囲温度とみなしてもよい。この場合、冷却水温度検出器を、周囲温度検出器と称してもよい。電力変換回路29の周囲温度検出器としては、他に、外気温度、車両の電力変換装置設置部の雰囲気温度などを温度検出器によって検出することとしてもよい。
【0062】
図10では、冷却水温度が40℃、60℃、65℃の場合の、電力変換装置100が負荷3に供給する相電流に応じて変化する、スイッチング素子温度の例が示されている。電流は電流検出器77から79によって検出される値である。
【0063】
図10はスイッチング素子の断線故障が生じていない、正常時のスイッチング素子の素子温度を示す。スイッチング素子の断線故障が生じた場合は、
図10に示された温度の上昇カーブが高温側または低温側に変化することとなる。よって、診断すべきアームの温度検出器によって検出された温度と、比較する別のアームの温度検出器によって検出された温度の差分の絶対値も、時間の経過に応じて増大することとなる。
【0064】
よって、
図10の結果を反映させて、差分閾値dTthを決定することで、誤判定の可能性を減らすことができる。判定温度の設定は温度検出手段の誤差、スイッチング素子の特性誤差、冷却性能の誤差を考慮して設定する必要がある。電流値が高い場合、これらの誤差の影響が高くなる。誤判定を防ぐために電流検出値の関数とすることで誤検知の低減が可能である。冷却温度についても同様に、上昇温度が変化するため、温度情報を関数に入れることで誤検知の低減が可能である。
【0065】
また、冷却水温度と検出電流を変化させて、
図8に示すスイッチング素子の断線故障の有無に応じた検出温度差の実験データを取得し、冷却水温度、検出電流に応じて変化する差分閾値dTthを決定することもできる。冷却水温度、検出電流に応じて変化する差分閾値dTthは、関数で算出することとしてもよい。また、制御装置200の記憶装置にマップデータとして記憶してもよい。
【0066】
<素子温度と冷却水温の関係>
図11は、実施の形態1に係る電力変換装置100の制御装置200の故障診断部44の第二の構成図である。
図11に示す故障診断部44は、故障判定部51が入力するパラメータから電流検出器77から79によって検出される電流情報Iu、Iv、Iwを省略しているところが、
図9と異なる。冷却水温度に応じて変化する差分閾値dTthを決定する場合について示している。
【0067】
図12は、実施の形態1に係る電力変換装置100の冷却水温度とスイッチング素子温度の関係を示す図である。冷却水温度が上昇するに応じて、スイッチング素子温度も上昇していることが判る。温度上昇によって差分も影響を受けるので、差分閾値dTthを冷却水温度の関数、またはマップデータで規定することもできる。
【0068】
<故障診断処理>
図13は、実施の形態1に係る電力変換装置100の制御装置200の故障診断の処理を示すフローチャートである。
図13に示す処理は、制御装置200の処理装置によって実行される。
図13の処理は、所定時間ごと(例えば5msごと)に実行されることとしてもよい。または、所定時間毎ではなく、所定の走行距離ごと、通信を実施するごとなどのイベントごとに実行することとしてもよい。
【0069】
処理を開始して、ステップS101では、電力変換装置100が電力変換中であるかどうか、または三相短絡状態であるかどうかを判定する。電力変換中とは具体的には、制御装置200の制御部40の駆動状態判定部43により、スイッチング素子が駆動状態(PWM駆動されている状態)である場合をいう。
【0070】
電力変換装置100が電力変換中、または三相短絡状態でない場合(判定はNOの場合)、処理を終了する。電力変換装置100が電力変換中である場合、または三相短絡状態である場合(判定はYESの場合)は、ステップS115へ進む。このステップS101では、三相短絡状態での判定を省略し、三相短絡状態の場合は処理を終了することとしてもよい。
【0071】
ステップS115では、差分閾値(dTth)を算出する。差分閾値(dTth)は、
図9、
図10を用いて説明したように、冷却水温度と検出電流に応じて、関数またはマップを用いて算出してもよい。または、
図11、
図12を用いて説明したように、冷却水温度に応じて、関数またはマップを用いて算出してもよい。あるいは、予め定めた固定値として差分閾値(dTth)を決定しておくこともできる。
【0072】
ステップS116では、診断対象のアームの温度と、異なる相の同一極性のアームの温度との差分(dT)mnを順次求める。ここで、(dT)mnの、mは診断対象アームの番号、nは比較対象のアームの番号を示す。ここでは、アーム11から16の番号を1から6として記載している。
【0073】
異なる相の同一極性のアームの温度との差(dT)mnを求めることによって、ほぼ同一特性の同一挙動を示す電流出力の際の発熱状態を比較することができる。これによって、比較する対象が同等の駆動条件における、同等のスイッチング素子となり、誤差を抑制し誤判定を抑止することができる。アーム11から16の検出温度T1からT6に対し、差分を下記のように求めることができる。
【0074】
アーム11を診断対象として、アーム12との差分は、(dT)12=T1-T2、アーム13との差分は、(dT)13=T1-T3である。アーム12を診断対象として、アーム11との差分は、(dT)21=T2-T1、アーム13との差分は、(dT)23=T2-T3である。アーム13を診断対象として、アーム11との差分は、(dT)31=T3-T1、アーム12との差分は、(dT)32=T3-T2である。
【0075】
アーム14を診断対象として、アーム15との差分は、(dT)45=T4-T5、アーム16との差分は、(dT)46=T4-T6である。アーム15を診断対象として、アーム14との差分は、(dT)54=T5-T4、アーム16との差分は、(dT)56=T5-T6である。アーム16を診断対象として、アーム14との差分は、(dT)64=T6-T4、アーム15との差分は、(dT)65=T6-T5である。
【0076】
ステップS102では、(dT)mnの絶対値が差分閾値dTthよりも大きいものがあるかどうか判定する。すなわち、|(dT)mn|>差分閾値dTthとなる(dT)mnが有るかどうかを判定する。差分閾値dTthは例えば20℃であってもよい。
【0077】
|(dT)mn|>差分閾値dTthとなるものが有る場合(判断はYESの場合)はステップS103へ進む。当該アームのスイッチング素子が断線故障であると判定された場合を示す。
【0078】
|(dT)mn|>差分閾値dTthとなるものがない場合(判断はNOの場合)はステップS106へ進む。スイッチング素子は正常と判定された場合を示す。
【0079】
ステップS103では異常カウンタCFを加算して、ステップS104へ進む。異常カウンタはスイッチング素子の温度が所定値を超えている時間をカウントするカウンタである。
【0080】
ステップS104では異常カウンタCFが異常判定期間CFthを超えているかどうかを判定する。異常カウンタCFが異常判定期間CFthを超えている場合(判定がYESの場合)、ステップS105に進む。異常カウンタCFが異常判定期間CFthを超えていない場合(判定がNOの場合)、ステップS113へ進み、電力変換を継続または三相短絡を継続して処理を終了する。
【0081】
ステップS105では、スイッチング素子が断線故障であると判定する。この時、どのアームのスイッチング素子が断線故障しているか判定できるので、断線故障しているアームを記憶することとしてもよい。
【0082】
その後、ステップS109へ進む。ステップS109では、電流検出値Iを用いて、電流検出器77から79による電流検出値Iが停止判定電流IthHを上回っているかどうか判定する。停止判定電流IthHを上回っている場合(判定がYESの場合)スイッチング素子が断線故障であり、並列するもう一方のスイッチング素子に電流が集中し、温度が許容温度を超える可能性があり、駆動は不可と判断しステップS110へ進み、駆動回路の停止動作を行うことでスイッチング素子がダメージを受けることを回避することができる。ステップS110の後、処理を終了する。
【0083】
ステップS109で、電流検出値Iが停止判定電流IthHを上回っていない場合(判定がNOの場合)、ステップS111へ進む。ステップS111では、電流検出値Iが制限判定電流IthLを上回っているかどうか判定する。
【0084】
ステップS111にて、電流検出値Iが制限判定電流IthLを上回っている場合(判定がYESの場合)、ステップS112へ進む。ステップS112では、出力電流を制限して、処理を終了する。
【0085】
ステップS111にて、電流検出値Iが制限判定電流IthLを上回っていない場合(判定がNOの場合)、ステップS113へ進む。ステップS113にて電力変換の継続または三相短絡を継続して処理を終了する。
【0086】
ステップS106では正常カウンタCNを加算して、ステップS107へ進む。正常カウンタはスイッチング素子の温度の差分の絶対値が差分閾値dTthを超えていない時間をカウントするカウンタである。
【0087】
ステップS107では正常カウンタCNが正常判定期間CNthを超えているかどうかを判定する。正常カウンタCNが正常判定期間CNthを超えている場合(判定がYESの場合)、ステップS108に進み、スイッチング素子が正常であると判定する。そして、ステップS113へ進んで電力変換の継続または三相短絡を継続して処理を終了する。
【0088】
ステップS107で、正常カウンタCNが正常判定期間CNthを超えていない場合(判定はNOの場合)ステップS113へ進む。ステップS113では、電力変換の継続または三相短絡を継続して処理を終了する。
【0089】
<断線故障判定時の電流制限>
図14は、実施の形態1に係る電力変換装置100の断線故障判定時の電流制限を示すタイムチャートである。
図13のフローチャートのステップS105では、スイッチング素子の断線故障を判定する。その後、ステップS109、ステップS111では、電流検出値Iの値を、停止判定電流IthH、制限判定電流IthLと比較して、結果に応じてステップS110では出力電流の停止を、ステップS112では出力電流の制限を行っている。
【0090】
図14において、スイッチング素子の断線故障が判定された後、時間が経過するとともに電流検出値Iが増加して行く例を示している。電流検出値Iが制限判定電流IthLを超えた場合、電力変換装置100の出力電流は制限を受ける。出力抑制判定部53が出力の抑制が必要と判定し、負荷出力制御部41へ出力の抑制信号を伝達する。例えば、入力された目標トルクTrq*に対して出力指示される目標電流または目標電流の増分を半減させることとしてもよい。目標電流または目標電流の増分を減少させる割合は50%ではなく、他の係数を乗ずることとしてもよい。抑制量は電流値によって設定され、負荷出力制御部41へ伝達される。抑制量はスイッチング素子が断線故障している状態でも熱的に異常がないように設定され、電流値の関数、電流値に基づくマップなどを用いる場合のほかに、一定の値として抑制することも可能である。
【0091】
図14において、電流検出値Iが停止判定電流IthHを超えた場合、駆動継続判定部52は駆動停止が必要と判定し、ゲート制御部42へ駆動停止信号を伝達する。
図14では、駆動停止としたが、出力電流を停止判定電流IthH未満に限定して、電力変換を継続するという選択をしてもよい。また、電流検出値Iを比較する、停止判定電流IthH、制限判定電流IthLにはヒステリシスを持たせて判定してもよい。
【0092】
以上のように、実施の形態1に係る電力変換装置100では、複数のスイッチング素子を備えた正極側および負極側のアームを有する電力変換装置において、スイッチング素子の断線故障を低コストでかつ正確に検出し、配線基板への温度検出器の配置、スイッチング素子の配置の制約をなくし、かつ、電力変換装置の作動状態、電力変換装置の置かれた環境による誤検知を防ぐことができる。これにより、半導体スイッチング素子の過熱をより適切に防止しつつ、過剰に電力変換装置の出力を制限することを抑制した効率的な電力変換装置を提供することができる。スイッチング素子の断線故障が判定された場合であっても、出力電流を制限しつつ、電力変換を継続することができる。例えば電動車両の駆動出力を制限しつつ継続させて、自宅、修理工場まで走行可能とすることもできる。
【0093】
2.実施の形態2
実施の形態2に係る電力変換装置100、制御装置200の構成は、実施の形態1と同等である。実施の形態1に係る制御装置200のソフトウェアの変更のみによって、実施の形態2の制御装置200を実現することができる。
【0094】
<故障診断処理>
図15は、実施の形態2に係る電力変換装置100の制御装置200の故障診断の処理を示すフローチャートである。
図15に示す処理は、制御装置200の処理装置によって実行される。
図15の処理は、所定時間ごと(例えば5msごと)に実行されることとしてもよい。または、所定時間毎ではなく、所定の走行距離ごと、通信を実施するごとなどのイベントごとに実行することとしてもよい。
【0095】
図15が、実施の形態1に係る
図13のフローチャートと異なるのは、
図13のステップS101、ステップS116、およびステップS113が、
図15では、ステップS121、ステップS126、およびステップS123に変更された部分のみである。変更された部分周辺についてのみ説明する。
【0096】
ステップS121では、電力変換装置100が電力変換中であるかどうかを判定する。電力変換装置100が電力変換中でない場合(判定はNOの場合)、処理を終了する。電力変換装置100が電力変換中である場合(判定はYESの場合)は、ステップS115へ進む。
【0097】
ステップS126では、診断対象のアームの温度と、同一相の逆極性のアームの温度との差分(dT)mnを求める。診断対象のアームの温度と、同一相の逆極性のアームの温度との差(dT)mnを順次求める。ここで、(dT)mnの、mは診断対象アームの番号、nは比較対象のアームの番号を示す。ここでは、アーム11から16の番号を1から6として記載している。
【0098】
同一相の逆極性のアームの温度との差(dT)mnを求めることによって、同じ負荷に対する同一構成のアームによる電流出力の際の発熱状態を正極側アーム(上側アーム)と負極性アーム(下側アーム)で比較することができる。これによって、比較する対象が逆特性の駆動条件における、同一の負荷を駆動するスイッチング素子となり、誤差を抑制し誤判定を抑止することができる。アーム11から16の検出温度T1からT6、に基づいて、差分を下記のように求めることができる。
【0099】
アーム11を診断対象として、アーム14との差分は、(dT)14=T1-T4である。アーム12を診断対象として、アーム15との差分は、(dT)25=T2-T5である。アーム13を診断対象として、アーム16との差分は、(dT)36=T3-T6である。
【0100】
アーム14を診断対象として、アーム11との差分は、(dT)41=T4-T1である。アーム15を診断対象として、アーム12との差分は、(dT)52=T5-T2である。アーム16を診断対象として、アーム14との差分は、(dT)63=T6-T3である。
【0101】
ステップS102では、(dT)mnの絶対値が差分閾値dTthよりも大きくなるものが有るかどうかを判定する。すなわち、|(dT)mn|>差分閾値dTthとなる(dT)mnが有るかどうかを判定する。差分閾値dTthは例えば20℃であってもよい。
【0102】
|(dT)mn|>差分閾値dTthとなるものが有る(判断はYESの場合)場合はステップS103へ進む。当該アームのスイッチング素子が断線故障であると判定された場合を示す。
【0103】
|(dT)mn|>差分閾値dTthとなるものがない(判断はNOの場合)場合はステップS106へ進む。スイッチング素子は正常と判定された場合を示す。
す。
【0104】
ステップS123では、電力変換を継続する。その後、処理を終了する。
【0105】
3.実施の形態3
実施の形態3に係る電力変換装置100、制御装置200の構成は、実施の形態1、2と同等である。実施の形態1、2に係る制御装置200のソフトウェアの変更のみによって、実施の形態3の制御装置200を実現することができる。
【0106】
実施の形態3では、制御装置200の故障診断部44、および故障判定部51では、電力変換回路29のスイッチング素子が制御されて電力変換が継続して行われている、または三相短絡が継続されている駆動継続時間を確認する。電力変換回路29の駆動が継続されて、予め定められた駆動継続判定時間よりも長い間継続されている場合に、アームの温度検出器71から76の出力から求められた値の比較を実施する。
【0107】
電力変換回路29が、駆動継続判定時間よりも長い間継続して駆動されている場合に、対象とするアームの駆動継続時間前の温度から現在の温度までの温度上昇値を求める。そして、他のアームの駆動継続時間前の温度から現在の温度までの温度上昇値を求める。これらの差分の絶対値が、所定の差分閾値よりも大きい場合にスイッチング素子の断線故障と判定する。
【0108】
<故障診断部>
図16は、実施の形態3に係る電力変換装置100の制御装置200の故障診断部44の構成図である。
図16に示す故障診断部44は、故障判定部51が入力するパラメータから冷却水温度が省略されているところが、実施の形態1に係る
図9の故障診断部44と異なる。電流検出器77から79によって検出される電流情報Iu、Iv、Iwは故障判定部51に入力されており、故障判定値を決定するパラメータとして電流検出値Iが使用される。
【0109】
図17は、実施の形態3に係る電力変換装置100の通電電流とスイッチング素子温度上昇値の関係を示す図である。スイッチング素子温度上昇値ΔTは、電力変換が駆動時間経過判定値CDthよりも長い間継続されている場合に、駆動継続時間前の温度から現在の温度までの温度上昇値ΔTを算出して求める。
【0110】
図17はスイッチング素子の断線故障が生じていない、正常時のスイッチング素子の温度上昇値ΔTを示す。よって、スイッチング素子の断線故障が生じた場合は、
図17に示された温度上昇値ΔTがより急激に上昇する、またはより緩慢に上昇することとなる。診断すべきアームの温度検出器によって検出された温度上昇値ΔTと、比較する別のアームの温度検出器によって検出された温度上昇値ΔTの差分の絶対値も、このような傾向で電流検出値Iが増大するに従って増大する。
【0111】
よって、
図17の結果を反映させて、電流値に対する正常時の温度上昇値ΔTの差分の絶対値からスイッチング素子の断線故障を判定する温度上昇値差分閾値ddTthを決定することで、誤判定の可能性を減らすことができる。温度上昇値差分閾値ddTthの設定は温度検出手段の誤差、スイッチング素子の特性誤差、冷却性能の誤差を考慮して設定する必要がある。電流値が高い場合、これらの誤差の影響が高くなる。誤判定を防ぐために、温度上昇値差分閾値ddTthを電流検出値Iの関数とすることで誤検知の低減が可能である。
【0112】
温度上昇値差分閾値ddTthの設定は、電流検出値と冷却温度情報の関数としても良い。判定温度の設定は温度検出手段の誤差、スイッチング素子の特性誤差、冷却性能の誤差を考慮して設定する必要がある。冷却水温度についても、スイッチング素子の上昇温度が変化するため、冷却水温度情報を関数に入れることで誤検知の低減が可能である。
【0113】
ここで、温度検出器71が、
図3、
図6に示された例と異なる配置の場合について考える。この場合、二つのスイッチング素子21a、21bが正常な場合の電流に対する温度について、
図17に示したスイッチング素子の電流に対する温度上昇値ΔTとは異なる特性を示すことが考えられる。その場合は、二つのスイッチング素子21a、21bが正常な場合と、スイッチング素子21a、21bの夫々が断線故障の場合の電流に対する温度上昇値ΔTを実測し、断線故障を検出することができる温度上昇値差分閾値ddTthと、検出論理を選択すればよい。
【0114】
二つのスイッチング素子21a、21bと温度検出器71が、単一部品として構成されているので、スイッチング素子の接合部の温度を直近で検出することができる。そのため、コンデンサ、スイッチング素子などの複数の電子部品が半田付けされた配線基板の導電路上に温度検出器を設ける場合に比べて、配線基板の上の位置の差による雰囲気温度の違いによる影響を受けにくい。また、配線基板の導電路の熱抵抗による影響、配線基板が冷却されることによるスイッチング素子温度と検出温度との差異による影響を抑制することができる。この特徴は、電力変換回路29の他のアームについても同様である。そのため、実施の形態3に係る電力変換装置100では、各スイッチング素子の正確な温度検出が可能となり正確な温度上昇値ΔTを求めることができる。そのため、正確な断線検出をすることができる。
【0115】
<故障診断処理>
図18は、実施の形態3に係る電力変換装置100の制御装置200の故障診断の処理を示す第一のフローチャートである。
図19は、故障診断の処理を示す第二のフローチャートであり、
図18の処理の続きを示す。
【0116】
図18に示す処理は、制御装置200の処理装置によって実行される。
図18、
図19の処理は、所定時間ごと(例えば5msごと)に実行されることとしてもよい。または、所定時間毎ではなく、所定の走行距離ごと、通信を実施するごとなどのイベントごとに実行することとしてもよい。
【0117】
処理を開始して、ステップS201では、電力変換装置100が電力変換中であるかどうか、または三相短絡状態であるかどうかを判定する。電力変換中とは具体的には、制御装置200の制御部40の駆動状態判定部43により、スイッチング素子が駆動状態(PWM駆動されている状態)である場合をいう。
【0118】
電力変換装置100が電力変換中、または三相短絡状態でない場合(判定はNOの場合)、処理を終了する。電力変換装置100が電力変換中である場合、または三相短絡状態である場合(判定はYESの場合)は、ステップS202へ進む。このステップS201では、三相短絡状態での判定を省略し、三相短絡状態の場合は処理を終了することとしてもよい。
【0119】
ステップS202では、電流検出器77から79によって検出された電流検出値Iがアイドル判定電流Iidlを上回っているかどうか判定される。スイッチング素子の断線故障を判定するためには、電力変換動作が所定以上の負荷で継続されていることが必要と判断し、電流検出値Iが所定のアイドル判定電流Iidlよりも大きいことを要件としている。ここで、三相短絡状態でもスイッチング素子の断線故障の判定を行うために、正極側または負極側いずれかの電流検出値Iが所定のアイドル電流Iidlよりも大きいことを要件としてもよい。
【0120】
ステップS202では、電流検出値Iがアイドル判定電流Iidlを上回っている場合(判断はYESの場合)ステップS223へ進む。電流検出値Iがアイドル判定電流Iidlを上回っていない場合(判断はNOの場合)ステップS205へ進む。
【0121】
ステップS205では、駆動カウンタCDをクリアする。そして、ステップS214へ進む。
【0122】
ステップS223では、スイッチング素子の検出温度T1からT6にアイドル判定温度Tidlよりも高いものがあるかどうか判定する。スイッチング素子の断線故障を判定するためには、スイッチング素子の初期温度がアイドル判定温度Tidl以下の温度から判定を始める必要があると判断している。
【0123】
ステップS223では、スイッチング素子の検出温度T1からT6にアイドル判定温度Tidlよりも高いものがある場合(判定はYESの場合)、ステップS205へ進む。スイッチング素子の検出温度T1からT6にアイドル判定温度Tidlよりも高いものがない場合(判定はNO)、ステップS203へ進む。
【0124】
ステップS203では、駆動カウンタCDが0であるか判定する。駆動カウンタCDは、電力変換動作停止状態から電力変換操作を開始してからの時刻を掲示するカウンタである。
【0125】
ステップS203では、駆動カウンタCDが0でない場合(判定はNOの場合)は、ステップS207へ進む。駆動カウンタCDが0である場合(判定はのYESの場合)は、ステップS204へ進む。ステップS204では、現在の温度検出器の出力信号からスイッチング素子の検出温度T1からT6を取得し、記憶する。そしてステップS207へ進む。
【0126】
ステップS207では、駆動カウンタCDを加算する。そして、ステップS206では、駆動カウンタCDが駆動時間経過判定値CDthを超えているかどうか判定する。
【0127】
駆動カウンタCDが駆動時間経過判定値CDthを超えている場合(判断はYESの場合)は、ステップS227へ進む。駆動カウンタCDが駆動時間経過判定値CDthを超えていない場合(判断はNOの場合)は、ステップS214へ進む。
【0128】
ステップS227では、現在のスイッチング素子の検出温度T1からT6を取得する。そして、ステップS228で、記憶温度からの温度上昇値を算出して、ΔT1からΔT6とする。
【0129】
ステップS229では、診断対象のアームの温度上昇値と、異なる相の同一極性のアームの温度上昇値の差分(ddT)mnを順次求める。異なる相の同一極性のアームの温度上昇値との差分(ddT)mnを求めることによって、ほぼ同一特性の同一挙動を示す電流出力の際の温度上昇値を比較することができる。これによって、比較する対象が同等の駆動条件における、同等のスイッチング素子となり、誤差を抑制し誤判定を抑止することができる。アーム11から16の検出温度上昇値ΔT1からΔT6に対し、差分を下記のように求めることができる。ここで、(ddT)mnの、mは診断対象アームの番号、nは比較対象のアームの番号を示す。ここでは、アーム11から16の番号を1から6として記載している。
【0130】
アーム11を診断対象として、アーム12との差分は、(ddT)12=ΔT1-ΔT2、アーム13との差分は、(ddT)13=ΔT1-ΔT3である。アーム12を診断対象として、アーム11との差分は、(ddT)21=ΔT2-ΔT1、アーム13との差分は、(ddT)23=ΔT2-ΔT3である。アーム13を診断対象として、アーム11との差分は、(ddT)31=ΔT3-ΔT1、アーム12との差分は、(ddT)32=ΔT3-ΔT2である。
【0131】
アーム14を診断対象として、アーム15との差分は、(ddT)45=ΔT4-ΔT5、アーム16との差分は、(ddT)46=ΔT4-ΔT6である。アーム15を診断対象として、アーム14との差分は、(ddT)54=ΔT5-ΔT4、アーム16との差分は、(ddT)56=ΔT5-ΔT6である。アーム16を診断対象として、アーム14との差分は、(ddT)64=ΔT6-ΔT4、アーム15との差分は、(ddT)65=ΔT6-ΔT5である。
【0132】
ステップS208では、(ddT)mnの絶対値が温度上昇値差分閾値ddTthより大きいものがあるかどうか判定する。すなわち、|(ddT)mn|>温度上昇値差分閾値ddTthとなる(ddT)mnが有るかどうかを判定する。|(ddT)mn|>温度上昇値差分閾値ddTthとなるものが有る(判断はYESの場合)場合はステップS209へ進む。当該アームのスイッチング素子が断線故障であると判定された場合を示す。
【0133】
|(ddT)mn|>温度上昇値差分閾値ddTthとなるものがない(判断はNOの場合)場合はステップS214へ進む。スイッチング素子は正常と判定された場合を示す。
【0134】
ステップS209では、スイッチング素子が断線故障であると判定する。この時、どのアームのスイッチング素子が断線故障しているか判定できるので、断線故障しているアームを記憶することとしてもよい。
【0135】
その後、ステップS210へ進む。ステップS210では、電流検出値Iを用いて、電流検出器77から79による電流検出値Iが停止判定電流IthHを上回っているかどうか判定する。停止判定電流IthHを上回っている場合(判定がYESの場合)スイッチング素子が断線故障であり、並列するもう一方のスイッチング素子に電流が集中し、温度が許容温度を超える可能性があり、駆動は不可と判断しステップS211へ進み、駆動回路の停止動作を行うことでスイッチング素子がダメージを受けることを回避することができる。ステップS211の後、処理を終了する。
【0136】
ステップS210で、電流検出値Iが停止判定電流IthHを上回っていない場合(判定がNOの場合)、ステップS212へ進む。ステップS212では、電流検出値Iが制限判定電流IthLを上回っているかどうか判定する。
【0137】
ステップS212にて、電流検出値Iが制限判定電流IthLを上回っている場合(判定がYESの場合)、ステップS213へ進む。ステップS213では、出力電流を制限して、処理を終了する。
【0138】
ステップS212にて、電流検出値Iが制限判定電流IthLを上回っていない場合(判定がNOの場合)、ステップS214へ進む。
【0139】
ステップS214にて電力変換を継続、または三相短絡を継続する。その後、処理を終了する。
【0140】
以上のように、実施の形態3に係る電力変換装置100では、診断の対象となるアーム温度検出器の出力から算出した温度上昇値ΔTと、他の相の同一の極性のアームの温度検出器の出力から算出した温度上昇値ΔTとの差分の絶対値から、スイッチング素子の断線故障を判定する。このようにすることで、アームの配置による温度差、部品、負荷のばらつき、運転状態、周囲環境の変化による検出温度の変化に対応可能となる。
【0141】
検出された温度には様々な要因による影響が及んでおり、オフセット誤差が生じる。しかし、温度上昇値ΔTを比較して差分を求めることで、微分値の比較をすることとなり、オフセット誤差がキャンセルされるからである。また、電流検出値I、冷却水温度などの周囲温度に応じて温度上昇値差分閾値ddTthを決定することで、誤判定の可能性を減らすことができる。
【0142】
4.実施の形態4
実施の形態4に係る電力変換装置100、制御装置200の構成は、実施の形態3と同等である。実施の形態3に係る制御装置200のソフトウェアの変更のみによって、実施の形態4の制御装置200を実現することができる。
【0143】
<故障診断処理>
図20は、実施の形態4に係る電力変換装置100の制御装置200の故障診断の処理を示す第一のフローチャートである。
図21は、故障診断の処理を示す第二のフローチャートであり、
図20のフローチャートの処理の続きを示す。
【0144】
図20、
図21に示す処理は、制御装置200の処理装置によって実行される。
図20、
図21の処理は、所定時間ごと(例えば5msごと)に実行されることとしてもよい。または、所定時間毎ではなく、所定の走行距離ごと、通信を実施するごとなどのイベントごとに実行することとしてもよい。
【0145】
図20が、実施の形態3に係る
図18のフローチャートと異なるのは、
図18のステップS201が
図20ではステップS221に変更された部分のみである。
図21が、実施の形態3に係る
図19のフローチャートと異なるのは、
図19のステップS229、ステップS214が
図21ではステップS239、ステップS224に変更された部分のみである。変更された部分周辺についてのみ説明する。
【0146】
ステップS221では、電力変換装置100が電力変換中であるかどうかを判定する。電力変換装置100が電力変換中でない場合(判定はNOの場合)、処理を終了する。電力変換装置100が電力変換中である場合(判定はYESの場合)は、ステップS202へ進む。
【0147】
ステップS239では、診断対象のアームの温度上昇値と、同一相の逆極性のアームの温度上昇値の差分(ddT)mnを順次求める。同一相の逆極性のアームの温度上昇値との差分(ddT)mnを求めることによって、同じ負荷に対する同一構成のアームによる電流出力の際の発熱状態を正極側アーム(上側アーム)と負極性アーム(下側アーム)で比較することができる。これによって、比較する対象が逆特性の駆動条件における、同一の負荷を駆動するスイッチング素子となり、誤差を抑制し誤判定を抑止することができる。
【0148】
ここで、(ddT)mnの、mは診断対象アームの番号、nは比較対象のアームの番号を示す。ここでは、アーム11から16の番号を1から6として記載している。アーム11から16の検出温度上昇値ΔT1からΔT6に対し、差分を下記のように求めることができる。
【0149】
アーム11を診断対象として、アーム14との差分は、(ddT)14=ΔT1-ΔT4である。アーム12を診断対象として、アーム15との差分は、(ddT)25=ΔT2-ΔT5である。アーム13を診断対象として、アーム16との差分は、(ddT)36=ΔT3-ΔT6である。
【0150】
アーム14を診断対象として、アーム11との差分は、(ddT)41=ΔT4-ΔT1である。アーム15を診断対象として、アーム12との差分は、(ddT)52=ΔT5-ΔT2である。アーム16を診断対象として、アーム13との差分は、(ddT)63=ΔT6-ΔT3である。
【0151】
ステップS208では、(ddT)mnの絶対値が温度上昇値差分閾値ddTthより大きくなるものがあるかどうか判定する。すなわち、|(ddT)mn|>温度上昇値差分閾値ddTthとなる(ddT)mnが有るかどうかを判定する。ここで、(ddT)mnの、mは診断対象アームの番号、nは比較対象のアームの番号を示す。ここでは、アーム11から16の番号を1から6として記載している。
【0152】
|(ddT)mn|>温度上昇値差分閾値ddTthとなるものが有る(判断はYESの場合)場合はステップS209へ進む。当該アームのスイッチング素子が断線故障であると判定された場合を示す。
【0153】
|(ddT)mn|>温度上昇値差分閾値ddTthとなるものがない(判断はNOの場合)場合はステップS224へ進む。スイッチング素子は正常と判定された場合を示す。
【0154】
ステップS224では、電力変換を継続する。その後処理を終了する。
【0155】
実施の形態1、3では、スイッチング素子の断線故障の診断対象となるアームの温度検出器の出力から求められた値と、異なる相の同一極性のアームの温度検出器の出力から求められた値の差異から、スイッチング素子の断線故障の診断を実施した。そして、実施の形態2、4では、スイッチング素子の断線故障の診断対象となるアームの温度検出器の出力から求められた値と、同一相の逆極性のアームの温度検出器の出力から求められた値の差異から、スイッチング素子の断線故障の診断を実施した。しかし、比較するアームは、これに限るものではなく、それ以外のアームと比較してもよい。
【0156】
また、診断の対象とするアームの温度検出器の出力から求められた値に対して、それ以外のアームの温度検出器の出力から求められた値を平均し平均値と比較することで、スイッチング素子の断線故障を判定することとしてもよい。スイッチング素子、負荷のばらつき、電力変換動作の変動から誤検出が発生することを抑制することができる。
【0157】
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
したがって、例示されていない無数の変形例が、本願に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【0158】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0159】
(付記1)
Nを自然数、MをNよりも小さい自然数として、
直流電源の正極側に並列接続されたN個のスイッチング素子と正極側の前記スイッチング素子の温度を検出するM個の温度検出器とを有する単一部品として構成された正極側のアーム、前記直流電源の負極側に並列接続されたN個のスイッチング素子と負極側の前記スイッチング素子の温度を検出するM個の温度検出器とを有する単一部品として構成された負極側のアーム、および前記正極側のアームのスイッチング素子と前記負極側のアームのスイッチング素子を直列に接続するとともに負荷に接続された外部接続点、が設けられた電力変換回路、ならびに
前記スイッチング素子の故障判定を行う故障判定部を有し前記電力変換回路の前記スイッチング素子を制御して電力変換を行う制御装置、を備えた電力変換装置において、
前記制御装置の前記故障判定部は、前記アームの前記温度検出器の出力から求められた値と他の前記アームの前記温度検出器の出力から求められた値との差分の絶対値が、予め定められた差分閾値よりも大きい場合に前記アームを構成する前記スイッチング素子の断線故障と判定する電力変換装置。
(付記2)
前記電力変換回路の前記アームは、前記温度検出器が夫々前記スイッチング素子のいずれかに隣接して配置されて構成された付記1に記載の電力変換装置。
(付記3)
前記電力変換装置の前記アームは、同一のリードフレーム上に前記N個のスイッチング素子と前記M個の温度検出器とが配置されて構成された付記1または2に記載の電力変換装置。
(付記4)
前記制御装置の前記故障判定部は、前記電力変換回路のスイッチング素子が制御されて、全ての正極側のアームをオンし全ての負極側のアームをオフするもしくは全ての正極側のアームをオフし全ての負極側のアームをオンする全相短絡状態の場合または電力変換を行っている場合に、前記アームの前記温度検出器の出力から求められた温度と他の前記アームの前記温度検出器の出力から求められた温度との差分の絶対値が、前記差分閾値よりも大きい状態が継続する時間が予め定められた判定時間よりも長い場合に前記アームを構成する前記スイッチング素子の断線故障を判定する付記1から3のいずれか一項に記載の電力変換装置。
(付記5)
前記制御装置の前記故障判定部は、前記電力変換回路のスイッチング素子が制御されて電力変換を行っている場合に、前記アームの前記温度検出器の出力から求められた温度と他の前記アームの前記温度検出器の出力から求められた温度との差分の絶対値が、前記差分閾値よりも大きい状態が継続する時間が予め定められた判定時間よりも長い場合に前記アームを構成する前記スイッチング素子の断線故障を判定する付記1から3のいずれか一項に記載の電力変換装置。
(付記6)
前記制御装置の前記故障判定部は、前記電力変換回路のスイッチング素子が制御されて、全ての正極側のアームをオンし全ての負極側のアームをオフするもしくは全ての正極側のアームをオフし全ての負極側のアームをオンする全相短絡状態が継続しているまたは電力変換が行われている状態が継続している駆動継続時間が予め定められた駆動継続判定時間よりも大きい場合に、前記アームの前記温度検出器の出力から求められた前記駆動継続時間前の温度から現在の温度までの温度上昇値と他の前記アームの前記温度検出器の出力から求められた前記駆動継続時間前の温度から現在の温度までの温度上昇値との差分の絶対値が、予め定められた差分閾値よりも大きい場合に前記アームを構成する前記スイッチング素子の断線故障と判定する付記1から3のいずれか一項に記載の電力変換装置。
(付記7)
前記制御装置の前記故障判定部は、前記電力変換回路のスイッチング素子が制御されて電力変換行われている状態が継続している駆動継続時間が予め定められた駆動継続判定時間よりも大きい場合に、前記アームの前記温度検出器の出力から求められた前記駆動継続時間前の温度から現在の温度までの温度上昇値と他の前記アームの前記温度検出器の出力から求められた前記駆動継続時間前の温度から現在の温度までの温度上昇値との差分の絶対値が、予め定められた差分閾値よりも大きい場合に前記アームを構成する前記スイッチング素子の断線故障と判定する付記1から3のいずれか一項に記載の電力変換装置。
(付記8)
前記電力変換回路の前記外部接続点と前記負荷の間に流れる電流を検出する電流検出器を備え、
前記制御装置の前記故障判定部は、前記電流検出器によって検出された電流値に応じて前記差分閾値を定める付記1から7のいずれか一項に記載の電力変換装置。
(付記9)
前記電力変換回路の周囲の温度を検出する周囲温度検出器を備え、
前記制御装置の前記故障判定部は、前記周囲温度検出器によって検出された周囲温度に応じて前記差分閾値を定める付記1から8のいずれか一項に記載の電力変換装置。
(付記10)
前記電力変換回路の前記外部接続点と前記負荷の間に流れる電流を検出する電流検出器を備え、
前記制御装置は、前記スイッチング素子の断線故障を判定した場合に、前記電流検出器によって検出された電流値が予め定められた停止判定値よりも大きいときは前記スイッチング素子の制御を停止して電力変換を停止する付記1から9のいずれか一項に記載の電力変換装置。
(付記11)
前記電力変換回路の前記外部接続点と前記負荷の間に流れる電流を検出する電流検出器を備え、
前記制御装置は、前記スイッチング素子の断線故障を判定した場合に、前記電流検出器によって検出された電流値が予め定められた制限判定値よりも大きいときは前記スイッチング素子の作動を制限して前記外部接続点と前記負荷の間に流れる電流を減少させる付記1から10のいずれか一項に記載の電力変換装置。
(付記12)
前記電力変換回路は、前記正極側のアームと前記負極側のアームと前記外部接続点とが設けられたレグを複数有し、
前記制御装置の前記故障判定部は、前記アームの前記温度検出器の出力から求められた値と前記アームが備えられた前記レグ以外のレグの同じ極側の前記アームの前記温度検出器の出力から求められた値との差分の絶対値に基づいて前記スイッチング素子の断線故障を判定する付記1から11のいずれか一項に記載の電力変換装置。
(付記13)
前記制御装置の前記故障判定部は、前記アームの前記温度検出器の出力から求められた値と前記アームが直列接続された他極側の前記アームの前記温度検出器の出力から求められた値との差分の絶対値に基づいて前記スイッチング素子の断線故障を判定する付記1から3、5または7のいずれか一項に記載の電力変換装置。
(付記14)
MはNよりも1小さい自然数である付記1から13のいずれか一項に記載の電力変換装置。
(付記15)
前記電力変換回路は、前記正極側のアームと前記負極側のアームと前記外部接続点とが設けられたレグを複数有し、
前記制御装置の前記故障判定部は、前記アームの前記温度検出器の出力から求められた値と前記アーム以外のアームの前記温度検出器の出力から求められた平均値との差分の絶対値が、前記差分閾値よりも大きい場合に前記アームを構成する前記スイッチング素子の断線故障を判定する付記1から3、5または7のいずれか一項に記載の電力変換装置。
(付記16)
前記電力変換回路は、前記正極側のアームと前記負極側のアームと前記外部接続点とが設けられたレグを複数有し、
前記制御装置の前記故障判定部は、前記アームの前記温度検出器の出力から求められた値と前記アームが備えられた前記レグ以外のレグの同じ極側の前記アームの前記温度検出器の出力から求められた平均値との差分の絶対値が、前記差分閾値よりも大きい場合に前記アームを構成する前記スイッチング素子の断線故障を判定する請求項1から12のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【符号の説明】
【0160】
1 直流電源、11、12、13、14、15、16 アーム、21a、21b、22a、22b、23a、23b、24a、24b、25a、25b、26a、26b スイッチング素子、29 電力変換回路、51 故障判定部、60 リードフレーム、71、72、73、74、75、76 温度検出器、77、78、79 電流検出器、200 制御装置、100 電力変換装置