(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173130
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20241205BHJP
【FI】
H02M7/48 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091338
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】324003048
【氏名又は名称】三菱電機モビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩下 翔
(72)【発明者】
【氏名】四元 信一朗
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA28
5H770BA02
5H770DA03
5H770DA41
5H770HA03X
5H770JA19X
5H770LA05X
5H770LA07X
5H770LB05
5H770LB09
(57)【要約】
【課題】外部の直流電源、外部の負荷への接続、および電流センサの設置を必要とせず、電力変換装置単体でのスイッチング素子の断線故障の検出を可能とする。
【解決手段】並列接続された複数の正極側スイッチング素子、正極側の端子間電圧を検出する電圧検出部、並列接続された複数の負極側スイッチング素子、負極側の端子間電圧を検出する電圧検出部、外部接続点、が設けられた電力変換回路、ならびに検査用電流供給部、故障判定部、および制御部、が設けられた制御装置、を備えた電力変換装置において、直列に接続された正極側スイッチング素子と負極側スイッチング素子を同時にオンする指令信号を与え、故障判定部が正極側端子間電圧または負極側端子間電圧に基づいて正極側スイッチング素子または負極側スイッチング素子の断線故障を判定する電力変換装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極側直流母線に並列接続された複数の正極側スイッチング素子、前記正極側スイッチング素子の端子間電圧を検出する正極側端子間電圧検出部、負極側直流母線に並列接続された複数の負極側スイッチング素子、前記負極側スイッチング素子の端子間電圧を検出する負極側端子間電圧検出部、および前記正極側スイッチング素子と前記負極側スイッチング素子を直列に接続するとともに出力端子に接続された外部接続点、が設けられた電力変換回路、ならびに
前記正極側直流母線と前記負極側直流母線に電流を供給する検査用電流供給部、前記正極側端子間電圧検出部から得られた正極側端子間電圧と前記負極側端子間電圧検出部から得られた負極側端子間電圧と前記正極側スイッチング素子に与えられた指令信号と前記負極側スイッチング素子に与えられた指令信号とから前記正極側スイッチング素子と前記負極側スイッチング素子の故障判定を行う故障判定部、および前記電力変換回路の前記正極側スイッチング素子と前記負極側スイッチング素子に与えられる指令信号を制御して電力変換を行う制御部、が設けられた制御装置、を備えた電力変換装置において、
前記制御装置の、前記検査用電流供給部が電流を供給し、かつ前記制御部が直列に接続された前記正極側スイッチング素子と前記負極側スイッチング素子を同時にオンする指令信号を与え、前記故障判定部が前記正極側端子間電圧または前記負極側端子間電圧に基づいて前記正極側スイッチング素子または前記負極側スイッチング素子の断線故障を判定する電力変換装置。
【請求項2】
前記故障判定部は、前記正極側端子間電圧または前記負極側端子間電圧が予め定められた断線判定電圧よりも高い場合に前記正極側スイッチング素子または前記負極側スイッチング素子の断線故障を判定する請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記故障判定部は、前記正極側端子間電圧または前記負極側端子間電圧の大きさに応じて、前記正極側スイッチング素子または前記負極側スイッチング素子の断線故障しているスイッチング素子の個数を判別する請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記故障判定部は、前記正極側端子間電圧または前記負極側端子間電圧が前記断線判定電圧よりも高い二重断線判定電圧を越えた場合に前記正極側スイッチング素子または前記負極側スイッチング素子の二重断線故障を判定する請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記電力変換回路は、前記並列接続された複数の正極側スイッチング素子と前記正極側端子間電圧検出部とを有する正極側のアーム、前記並列接続された複数の負極側スイッチング素子と前記負極側端子間電圧検出部とを有する負極側のアーム、および前記外部接続点、が設けられたレグを複数有し、
前記制御装置の、前記検査用電流供給部が電流を供給し、かつ前記制御部がすべての直列に接続された前記正極側スイッチング素子と前記負極側スイッチング素子を同時にオンする指令信号を与え、前記故障判定部が判定対象の前記正極側のアームの前記正極側端子間電圧と他の前記正極側のアームの前記正極側端子間電圧の差分、または判定対象の前記負極側のアームの前記負極側端子間電圧と他の前記負極側のアームの前記負極側端子間電圧の差分、を求め、前記差分が予め定めた断線判定差分閾値よりも大きい場合に前記判定対象の前記アームの前記正極側スイッチング素子または前記判定対象の前記負極側スイッチング素子の断線故障を判定する請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記故障判定部は、前記差分の大きさに応じて、前記正極側スイッチング素子または前記負極側スイッチング素子の断線故障している個数を判別する請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記故障判定部は、前記差分が前記断線判定差分閾値よりも大きい二重断線判定差分閾値を越えた場合に前記正極側スイッチング素子または前記負極側スイッチング素子の二重断線故障を判定する請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記制御装置の、前記検査用電流供給部が電流を供給し、かつ前記制御部がすべての前記正極側スイッチング素子をオフし、すべての前記負極側スイッチング素子をオンする指令信号、またはすべての前記正極側スイッチング素子をオンし、すべての前記負極側スイッチング素子をオフする指令信号を与え、前記故障判定部が前記正極側端子間電圧または前記負極側端子間電圧に基づいて前記正極側スイッチング素子または前記負極側スイッチング素子の故障を判定する請求項1から7のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記制御装置の、前記制御部がすべての前記正極側スイッチング素子をオフし、すべての前記負極側スイッチング素子をオンする指令信号を与えて、前記故障判定部は前記正極側端子間電圧が予め定められた短絡故障判定閾値よりも小さい場合に前記正極側スイッチング素子の短絡故障を判定し、前記制御部がすべての前記正極側スイッチング素子をオンし、すべての前記負極側スイッチング素子をオフする指令信号を与えて、前記故障判定部は前記負極側端子間電圧が前記短絡故障判定閾値よりも小さい場合に前記負極側スイッチング素子の短絡故障を判定する請求項8に記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記制御装置の、前記制御部がすべての前記正極側スイッチング素子をオフし、すべての前記負極側スイッチング素子をオンする指令信号を与えて、前記故障判定部は前記負極側端子間電圧が予め定められた断線故障判定閾値よりも大きい場合に前記負極側スイッチング素子の断線故障を判定し、前記制御部がすべての前記正極側スイッチング素子をオンし、すべての前記負極側スイッチング素子をオフする指令信号を与えて、前記故障判定部は前記正極側端子間電圧が前記断線故障判定閾値よりも大きい場合に前記負極側スイッチング素子の断線故障を判定する請求項8に記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記電力変換回路は、前記並列接続された複数の正極側スイッチング素子と前記正極側端子間電圧検出部とを有する正極側のアーム、前記並列接続された複数の負極側スイッチング素子と前記負極側端子間電圧検出部とを有する負極側のアーム、および前記外部接続点、が設けられたレグを複数有し、
前記制御装置の、前記検査用電流供給部が電流を供給し、かつ前記制御部がすべての前記正極側スイッチング素子をオンし、すべての前記負極側スイッチング素子をオフする指令信号、またはすべての前記正極側スイッチング素子をオフし、すべての前記負極側スイッチング素子をオンする指令信号を与えて、前記故障判定部が前記正極側端子間電圧または前記負極側端子間電圧に基づいて前記正極側スイッチング素子または前記負極側スイッチング素子の故障を判定する請求項1から7のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項12】
前記制御装置の、前記検査用電流供給部が電流を供給し、かつ前記制御部がすべての前記正極側スイッチング素子をオンし、すべての前記負極側スイッチング素子をオフする指令信号、またはすべての前記正極側スイッチング素子をオフし、すべての前記負極側スイッチング素子をオンする指令信号を与えて、前記故障判定部が判定対象の前記正極側のアームの前記正極側端子間電圧と他の前記正極側のアームの前記正極側端子間電圧の第二の差分、または判定対象の前記負極側のアームの前記負極側端子間電圧と他の前記負極側のアームの前記負極側端子間電圧の第二の差分、を求め、前記第二の差分が予め定めた故障判定差分閾値よりも大きい場合に前記正極側スイッチング素子または前記負極側スイッチング素子の故障を判定する請求項11に記載の電力変換装置。
【請求項13】
前記制御装置の、前記故障判定部が判別した断線故障しているスイッチング素子の個数に応じて、前記制御部が電力変換を停止する請求項3または6に記載の電力変換装置。
【請求項14】
前記制御装置の、前記故障判定部が判別した断線故障しているスイッチング素子の個数に応じて、前記制御部が電力変換の出力を制限する請求項3または6に記載の電力変換装置。
【請求項15】
前記制御装置の、前記故障判定部が判別した断線故障しているスイッチング素子の個数が1個の場合は前記制御部が電力変換の出力を制限し、前記故障判定部が判別した断線故障しているスイッチング素子の個数が2個以上の場合は前記制御部が電力変換を停止する請求項3または6に記載の電力変換装置。
【請求項16】
前記電力変換回路は、並列接続された三個以上の正極側スイッチング素子と、並列接続された三個以上の負極側スイッチング素子が設けられ、
前記制御装置の、前記故障判定部が判別した断線故障しているスイッチング素子の個数が二個の場合は前記制御部が電力変換の出力を制限する請求項3または6に記載の電力変換装置。
【請求項17】
前記制御装置の、前記故障判定部が前記検査用電流供給部の供給する電流、前記正極側端子間電圧、および前記負極側端子間電圧に基づいて、前記正極側スイッチング素子と前記負極側スイッチング素子の抵抗値を算出し、算出した前記抵抗値に基づいて前記正極側スイッチング素子または前記負極側スイッチング素子の故障を判定する請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項18】
前記制御装置の、前記故障判定部が前記正極側端子間電圧または前記負極側端子間電圧に基づいて前記正極側スイッチング素子または前記負極側スイッチング素子の断線故障を判定した場合に、前記制御部は、前記並列接続された複数の正極側スイッチング素子の夫々に与えられる指令信号を個別に制御し、または前記並列接続された複数の負極側スイッチング素子の夫々に与えられる指令信号を個別に制御し、前記故障判定部が前記正極側スイッチング素子または前記負極側スイッチング素子の断線故障が発生しているスイッチング素子を特定する請求項1から7のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動車両などに適用されるモータ制御装置として電力変換装置が用いられることが多い。電力変換装置として、交流電力を直流電力へ変換するAC/DCコンバータ(Alternate Current / Direct Current Converter)、直流電力から交流電力へ変換するインバータ(Inverter)、直流電力の入力電圧と出力電圧のレベルを変化させるDC/DCコンバータ(Direct Current / Direct Current Converter)、などが存在する。これらの電力変換装置は、半導体スイッチング素子を備えた構成であることが多い。
【0003】
電力変換装置の例として、電動車両に搭載されるインバータは直流電源から出力される直流電力を所望の交流電力に変換し、回転機に供給することで回転機を制御するために用いられる。電力変換装置は、スイッチング素子を組み合わせて構成されるスイッチング回路、スイッチング素子を制御する制御回路、回転機などの負荷に流れる電流を検出するための電流センサ、スイッチングノイズを対策するコンデンサなどから構成される。
【0004】
電力変換装置は例えば三相式のモータを制御する場合、三相(U相、V相、W相)の正極側のアーム(上側アーム)および負極側のアーム(下側アーム)各々にスイッチング回路が備えられているものがある。これらのスイッチング回路は、各相の各アームに複数のスイッチング素子が並列で接続されて構成されるものがある。アームごとに複数のスイッチング素子を並列接続することは、各アームの電流容量を増大する上で有利な手法である。
【0005】
電力変換装置においてスイッチング素子の断線故障が発生する可能性がある。特定の相の正極側アーム、負極側アームいずれかのアームで、並列接続されたスイッチング素子の1つに断線故障が発生した場合、故障していない並列接続された残るスイッチング素子に電流が集中する。この電流の集中によりスイッチング素子が破損し、電力変換装置としての機能を喪失する可能性がある。
【0006】
そのため、スイッチング素子を並列に接続してアームを形成した電力変換装置において、スイッチング素子の断線故障を検出する技術が必要となっている。アームごとに端子間電圧を検出する電圧検出器を設け、スイッチング素子のオン中の電圧から断線故障を検出する電力変換装置が提案されている(例えば特許文献1)。
【0007】
特許文献1の技術では、複数のスイッチング素子が並列接続されたアームを有するインバータ回路において、電力変換装置が外部の直流電源と外部の負荷に接続された状態でスイッチング素子の断線検出を行う。第一の相の正極側アームが外部の負荷の一端と接続され、外部の負荷の他端が第二の相の負極側アームに接続されている。
【0008】
電力変換の実施中に、外部の直流電源の正極側から第一の相の正極側アームのオンとなったスイッチング素子を介して外部の負荷に電流が流し込まれる。そして、その電流が外部の負荷の他端から第二の相の負極側のオンとなったスイッチング素子を介して外部の直流電源の負極側へ流れ出す。この時、電流センサの検出値から電流が出力されていることを確認した上で、第一の相の正極側のアームの端子間電圧と、第二の相の負極側のアームの端子間電圧を検出してスイッチング素子の断線故障を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の技術では、複数のスイッチング素子が並列接続されたアームを有するインバータ回路において、電力変換装置が、外部の直流電源と外部の負荷に接続された状態でスイッチング素子の断線検出を行う。外部の直流電源と、外部の適切な負荷が接続された状態でなければ、スイッチング素子の断線検出が実施できない。また、電流センサによる検出値によって、通電電流を検出することを前提としている。
【0011】
本願は、上記のような課題を解決するための技術を開示するものである。複数のスイッチング素子を備えた正極側および負極側のアームを有する電力変換装置において、外部の直流電源への接続、外部の負荷への接続、および電流センサの設置を必要とせず、電力変換装置単体でのスイッチング素子の断線故障の検出を可能とした電力変換装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願に係る電力変換装置は、
正極側直流母線に並列接続された複数の正極側スイッチング素子、正極側スイッチング素子の端子間電圧を検出する正極側端子間電圧検出部、負極側直流母線に並列接続された複数の負極側スイッチング素子、負極側スイッチング素子の端子間電圧を検出する負極側端子間電圧検出部、および正極側スイッチング素子と負極側スイッチング素子を直列に接続するとともに出力端子に接続された外部接続点、が設けられた電力変換回路、ならびに 正極側直流母線と負極側直流母線に電流を供給する検査用電流供給部、正極側端子間電圧検出部から得られた正極側端子間電圧と負極側端子間電圧検出部から得られた負極側端子間電圧と正極側スイッチング素子に与えられた指令信号と負極側スイッチング素子に与えられた指令信号とから正極側スイッチング素子と負極側スイッチング素子の故障判定を行う故障判定部、および電力変換回路の正極側スイッチング素子と負極側スイッチング素子に与えられる指令信号を制御して電力変換を行う制御部、が設けられた制御装置、を備えた電力変換装置において、
制御装置の、検査用電流供給部が電流を供給し、かつ制御部が直列に接続された正極側スイッチング素子と負極側スイッチング素子を同時にオンする指令信号を与え、故障判定部が正極側端子間電圧または負極側端子間電圧に基づいて正極側スイッチング素子または負極側スイッチング素子の断線故障を判定するものである。
【発明の効果】
【0013】
本願によれば、複数のスイッチング素子を備えた正極側および負極側のアームを有する電力変換装置において、外部の直流電源への接続、外部の負荷への接続、および電流センサの設置を必要とせず、電力変換装置単体でのスイッチング素子の断線故障の検出を可能とした電力変換装置を得ることがでる。このため、電力変換装置を車両等に組み込む前の状態、または車両等に組み込んだ状態で、電源、負荷と切り離した状態でスイッチング素子の断線故障を検出することが可能となり、車両等の運転前に故障判定をすることによって運転中の故障を未然に防ぐことができる。また、故障判定のために、外部の直流電源、外部の適切な負荷、電流検出器を必要とせず、安価な構成において故障判定を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施の形態1に係る電力変換装置の電圧検出部の配置を示す構成図である。
【
図2】実施の形態1に係る電力変換装置の指令信号を示す構成図である。
【
図3】実施の形態1に係る電力変換装置の制御装置の機能ブロック図である。
【
図4】実施の形態1に係る電力変換装置の制御装置のハードウェア構成図である。
【
図5】実施の形態1に係る電力変換装置のスイッチング素子の構造を示す上面図である。
【
図6】実施の形態1に係る電力変換装置のスイッチング素子の構造を示す断面図である。
【
図7】実施の形態1に係る電力変換装置のスイッチング素子の上下アームの構造を示す上面図である。
【
図8】実施の形態1に係る電力変換装置の制御装置の故障判定の処理を示す第一のフローチャートである。
【
図9】実施の形態1に係る電力変換装置の制御装置の故障判定の処理を示す第二のフローチャートである。
【
図10】実施の形態1に係る電力変換装置のスイッチング素子の故障モードと端子間電圧の関係を示す図である。
【
図11】実施の形態2に係る電力変換装置の制御装置の故障判定の処理を示す第一のフローチャートである。
【
図12】実施の形態2に係る電力変換装置の制御装置の故障判定の処理を示す第二のフローチャートである。
【
図13】実施の形態3に係る電力変換装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本願に係る電力変換装置の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
1.実施の形態1
<電力変換装置の構成>
図1は、実施の形態1に係る電力変換装置100の電圧検出部51から56の配置を示す構成図である。電力変換装置100は、電気自動車、プラグインハイブリッド自動車などの電動車両で使用されてもよい。高電圧バッテリの電力で負荷となるモータを駆動するための電力変換装置を想定することができる。
【0017】
電力変換装置100は正極側直流母線1aと負極側直流母線1bに接続され、外部に接続されたバッテリなどの直流電源から電力の供給を受ける。電力変換装置100は平滑コンデンサ2、正極側アーム11、12、13、負極側アーム14、15、16と各アームのスイッチング素子を駆動する指令信号を出力する制御装置30を備える。正極側アーム11、12、13は正極側直流母線1aと、接続点Pu、Pv、Pwで接続する。負極側アーム14、15、16は負極側直流母線1bと、接続点Nu、Nv、Nwで接続する。三相の正極側アーム11、12、13は、三相の負極側アーム14、15、16とそれぞれ直列に接続され、外部の負荷に電流を供給する三相の出力端子Uac、Vac、Wacと接続する外部接続点を有する。
【0018】
ここでは、三相ブラシレスモータ等の回転電機に電力を供給する例を示したが、電力変換装置100の構成は、二相、または四相以上の外部負荷を駆動できるように構成してもよい。正極側直流母線1aと負極側直流母線1b、これらの間に直列に接続された正極側アームと負極側アーム、および出力端子に接続された外部接続点を電力変換回路またはインバータと称することがある。
【0019】
各アームには、複数のスイッチング素子21aから26a、21bから26bと、スイッチング素子の端子間電圧を検出するための電圧検出部51から56が備えられる。電圧検出部51から56の電圧は、制御装置30の電圧検出器32にて検出され、故障判定部35に伝達される。
【0020】
電圧検出部51から56の電圧から故障判定する場合、電力変換装置100は、外部の直流電源と切り離された状態であって、出力端子Uac、Vac、Wacも外部のモータ等の負荷と切り離された状態であることを想定している。電力変換装置100が、車両等に組み込まれる前の単体の状態、もしくは車両等に組み込まれた後に開閉器等の機能によって、外部の直流電源、外部の負荷と切り離された状態において、故障判定を実行する。
【0021】
制御装置30は、検査用電流供給部31を有し、必要に応じて正極側直流母線1aと負極側直流母線1bの間に電流を供給し、スイッチング装置の故障判定を実施する。検査用電流供給部31は、スイッチング装置の故障判定を目的として、制限された電流を供給する。
【0022】
後に説明するように正極側アーム11、12、13と、負極側アーム14、15、16とを同時にオンして正極側直流母線1aと負極側直流母線1bとを直結した場合であっても、各アームのスイッチング素子に過電流が流れてダメージを受けることのない、制限された電流を供給する。検査用電流供給部31は、スイッチ等を用いて、任意のタイミングで正極側直流母線1aと負極側直流母線1bの間に電流の供給を開始し、供給を停止することができる機能を有する。
【0023】
電力変換装置100が車両等に搭載されている場合は、正極側直流母線1aと負極側直流母線1bは車載バッテリ等の直流電源に接続される。平滑コンデンサ2は、直流電源が出力した直流電力の変動分を平滑にする役割を果たす。電力変換装置100が車両等に搭載されて、直流電源が正極側直流母線1aと負極側直流母線1bに接続される場合は、電力変換装置100は検査用電流供給部31からの電流の供給をスイッチ等によって遮断することができる。
【0024】
図2は、実施の形態1に係る電力変換装置100の指令信号を示す構成図である。三相の正極側アームと負極側アームには、複数のスイッチング素子が並列に接続されている。制御装置30のゲート駆動部33から、各アームの複数のスイッチング素子の夫々に指令信号が伝達される。
【0025】
制御装置30のゲート駆動部33は、任意のスイッチング素子にオン及びオフ信号を送信することができる。制御装置30のゲート駆動部33は、各アームのすべてのスイッチング素子を同時にオンまたはオフ状態にすることができる。そして、各アームの一つあるいは二つ以上のスイッチング素子を選択してオンまたはオフ状態にすることもできる。
【0026】
図2では、各アームのすべてのスイッチング素子を個別に指令できる構成としているが、アームごとの指令信号線を共通としてもよい。そうすれば、指令信号線の本数、ゲート駆動部33の出力点数を削減できるので、低コストで電力変換装置を実現できるからである。また、各アームのスイッチング素子の並列接続数は、アームごとの電力容量を増大させるために3個以上としてもよい。
【0027】
<スイッチング素子>
スイッチング素子21aから26a、21bから26bとしては、例えば、
図1に示すようなMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect-Transistor)が一般的に用いられる。これ以外に、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)なども用いられる。なお、スイッチング素子の各MOSFETには、負極側直流母線1bから正極側直流母線1aへ向かう方向、すなわち下段側から上段側へ向かう方向を順方向として、並列にフリーホイールダイオード(FWD:Free Wheel Diode)が形成される。電圧検出部51から56は、スイッチング素子がMOSFETの場合、スイッチング素子のドレイン、ソース間に接続され、電圧検出器32にて各スイッチング回路のドレイン、ソース間電圧を検出する。
【0028】
<制御装置>
図3は、実施の形態1に係る電力変換装置100の制御装置30の機能ブロック図である。制御装置30は、検査用電流供給部31、電圧検出器32、故障判定部35、および制御部34を備える。制御部34は、出力制御判定部37、駆動継続判定部36、ゲート駆動部を備える。出力制御判定部37は、電力変換装置100の外部から、目標トルクTrq*、目標回転数、目標電流などの指令を受けて、これを達成するための電流を算出して電力変換制御を実行する。出力制御判定部37の指示により、ゲート駆動部33から各スイッチング素子の制御端子に指令信号が与えられる。
【0029】
電圧検出器32は、正極側アーム11、12、13と、負極側アーム14、15、16のスイッチング素子の電圧検出部51から56より、端子間電圧V1からV6を検出する。端子間電圧V1からV6の情報は、故障判定部35に伝達される。故障判定部は、端子間電圧V1からV6とゲートの駆動状態に基づいて、スイッチング素子の故障を判定する。
【0030】
駆動継続判定部36はスイッチング素子の故障状態(故障モード)から、電力変換の継続駆動が可能であるどうか判断する。そして、電力変換の停止、出力を制限しての継続、もしくは条件を付けない継続を、出力制御判定部37に指示する。例えば、スイッチング素子の短絡故障を判定した場合は、電力変換の動作によって大電流が流れ込み、さらなる故障へ発展する恐れがある。そのため、スイッチング素子の短絡故障が判定された場合は継続動作をせず、電力変換を停止する。
【0031】
また、アームの複数の並列接続されたスイッチング素子のうちの一つが断線故障と判定された場合は、並列接続された残りのスイッチング素子で運転を継続することができる。この場合は、電力変換出力を制限して、電力変換を継続する。並列接続された健全な方のスイッチング素子で、電力変換を継続実施する。すべてのスイッチング素子が正常の場合は、制限を設けずに電力変換を継続する。
【0032】
出力制御判定部37は故障判定部35および駆動継続判定部36の出力結果に基づいて、どの程度の出力で制御すべきかを判断する機能を有する。そして、その結果をゲート駆動部33へ出力する。例えば、スイッチング回路のうち、片方のスイッチング素子がオープン故障した場合(並列接続されたスイッチング素子のいずれか1つ以上がオープン故障している場合)、出力制限をせずに動作させてしまうと、スイッチング素子の許容電流を超え、故障してしまう恐れがある。そのため、スイッチング素子の最大通電電流を正常時の1/2とする制御を実施してもよい。
【0033】
そうすることで、スイッチング素子の故障の影響を拡大させることなく、電力変換装置100を継続して動作させることができる。上記では、二並列接続されたスイッチング素子のひとつがオープン故障した場合について説明した。しかし、出力制御の通電電流設定は、並列数のうち断線故障しているスイッチング素子の数(逆に言うと正常に動作できるスイッチング素子の数)に左右される。例えば、スイッチング素子が3個並列接続している場合であって2つの素子がオープン故障している場合は、最大通電電流を1/3にしてもよい。スイッチング素子が3個並列接続している場合であって1つの素子がオープン故障している場合は、最大通電電流を2/3にしてもよい。ここでは、簡易的に通常時の最大通電電流に対する通電可能な割合で説明したが、正常と判定されたスイッチング素子の1つまたは1つ以上が許容できる最大通電電流に設定できればよい。
【0034】
<制御装置のハードウェア構成>
図4は、実施の形態1に係る電力変換装置100の制御装置30のハードウェア構成図である。本実施の形態では、制御装置30の各機能は、制御装置30が備えた処理回路により実現される。具体的には、制御装置30は、
図4に示すように、処理回路として、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置90(コンピュータ)、演算処理装置90とデータのやり取りをする記憶装置91、演算処理装置90に外部の信号を入力する入力回路92、および演算処理装置90から外部に信号を出力する出力回路93等を備えている。
【0035】
演算処理装置90として、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、IC(Integrated Circuit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、各種の論理回路、および各種の信号処理回路等が備えられてもよい。また、演算処理装置90として、同じ種類のものまたは異なる種類のものが複数備えられ、各処理が分担して実行されてもよい。記憶装置91として、演算処理装置90からデータを読み出しおよび書き込みが可能に構成されたRAM(Random Access Memory)、演算処理装置90からデータを読み出し可能に構成されたROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等が備えられている。入力回路92は、電圧検出部51から56等の各種のセンサおよびスイッチが接続され、これらセンサおよびスイッチの出力信号を演算処理装置90に入力するA/D変換器等を備えている。出力回路93は、スイッチング素子21aから26a、21bから26b等の電気負荷が接続され、これら電気負荷に演算処理装置90からの制御信号を変換して出力するゲート駆動部33等を備えている。
【0036】
制御装置30が備える各機能は、演算処理装置90が、ROM等の記憶装置91に記憶されたソフトウェア(プログラム)を実行し、記憶装置91、入力回路92、および出力回路93等の制御装置30の他のハードウェアと協働することにより実現される。なお、制御装置30が用いる閾値、判定値等の設定データは、ソフトウェア(プログラム)の一部として、ROM等の記憶装置91に記憶されている。制御装置30の構成要素の機能について説明する。制御装置30の各機能は、それぞれソフトウェアのモジュールで構成されるものであってもよいが、ソフトウェアとハードウェアの組み合わせによって構成されるものであってもよい。
【0037】
<スイッチング素子の構成>
図5は、実施の形態1に係る電力変換装置100のアーム11から16のスイッチング素子の構成を示す上面図であり、スイッチング素子の回路を説明する模式図である。具体的に説明するため、
図5はアーム11のスイッチング素子21a、21bについて記載している。
【0038】
スイッチング回路は、配線パターン上に形成された2つの金属製リードフレーム60、61を有している。一方のリードフレーム60上に配置されたスイッチング素子21a、21bは、スイッチング素子が配置されていないリードフレーム61と電気的に接続可能なインナーリード62によって接続されている。
【0039】
リードフレーム60および61は、正極側直流母線1a、負極側直流母線1bもしくは外部の負荷に電流を供給する三相の出力端子Uac、Vac、Wacと接続する外部接続点と電気的に接続され得る。例えば、スイッチング素子が正極側アーム11に配置される場合は、リードフレーム60は正極側直流母線1aに接続され、リードフレーム61は出力端子Uacに繋がる外部接続点と接続され得る。
【0040】
また、スイッチング素子が負極側アーム14に配置される場合、リードフレーム60は出力端子Uacに繋がる外部接続線と接続され、リードフレーム61は負極側直流母線1bと接続され得る。このアーム内のスイッチング素子24a、24bおよびリードフレーム60、61およびインナーリード62の配置接続は、電力変換装置100の電気接続構成を実現できればよいので、
図5の構成に限定するものではない。
【0041】
複数のスイッチング素子21a、21bには、リードフレーム60の周辺に配置された金属製の信号端子63を経由してゲート電圧が印加され、オンとオフの動作が可能である。このオンとオフのスイッチング動作により、リードフレーム60とリードフレーム61の電気的導通と電気的非導通が切換えられる。
【0042】
<電圧検出部の配置>
複数のスイッチング素子21a、21bのうち、いずれかのスイッチング素子には、電圧検出部51が備えられている。
図5では、例としてスイッチング素子21aに電圧検出部51である、ソースパッド51s、ドレインパッド51dが備えられている場合を表している。
【0043】
図6は、実施の形態1に係るアーム11の断面図である。上面視模式図である
図5におけるA-Aの断面を表す。
図6には、リードフレーム60、61の一部とスイッチング素子21a、21bとインナーリード62とを覆うように樹脂材67で封止された様子が記載されている。樹脂材67で封止された結果、アーム11が1つの部品を形成している。この封止材は、ゲル材のように電気的絶縁性を有する部材であれば、その他の材料でもよい。
【0044】
アーム11には、上述したスイッチング素子21a、リードフレーム60、61、インナーリード62、信号端子63、樹脂材67、電圧検出部51を構成するソースパッド51s、ドレインパッド51dが設けられている。そして、リードフレーム60とスイッチング素子21aの間、スイッチング素子21aとインナーリード62の間、およびインナーリード62とリードフレーム61の間を接続するためのはんだ64、65、66が示されている。
【0045】
また、アーム11は、絶縁部材68、電圧検出部51の信号を信号端子63、63a、63bと接続するためのワイヤ配線69、を有しており、それらの一部または全ては樹脂材67により包み込まれている。電圧検出部51のドレイン、ソース間電圧をしめす信号は、信号端子63a、63bを経由して電力変換装置100の制御装置30に入力される。
【0046】
絶縁部材68は、1つの部品として形成されたアーム11が、伝熱性および導電性を有する放熱部品の上に搭載された場合、その放熱部品とリードフレーム間の電気的絶縁性を確保するために配置されている。放熱部品とリードフレームの電気的絶縁性を確保できなければ、スイッチング素子のオンとオフの動作に関係なく、2つのリードフレームが電気的に導通し、スイッチング回路が形成されないことになる。
【0047】
図5、
図6では、正極側のアームまたは負極側のアームをひとつの部品として形成した例を示した。
図7では、正極側アーム(上側アーム)の回路と負極側アーム(下側アーム)の回路全体(上下アーム)を1つの部品として形成した例を示す。
【0048】
図7の上下アームは、正極側直流母線1a、負極側直流母線1b、および出力端子Uacに繋がる外部接続点に接続される3つのリードフレームを有する。正極側アーム11のスイッチング素子21a、21bは正極側直流母線1aに接続されるリードフレーム60に、負極側アーム14のスイッチング素子24a、24bは出力端子Uacに繋がる外部接続点に接続されるリードフレーム61に搭載され得る。スイッチング素子24aに電圧検出部54を構成するソースパッド54s、ドレインパッド54dが設けられている。この上下アーム内のスイッチング素子およびリードフレームおよびインナーリードの配置接続は、電力変換装置100の電気接続構成を実現できればよいので、
図7に示す構成に限定されるものではない。
【0049】
<故障判定処理>
図8は、実施の形態1に係る電力変換装置100の制御装置30の故障判定の処理を示す第一のフローチャートである。
図9は、故障判定の処理を示す第二のフローチャートであり、
図8のフローチャートの続きを示す。
図8、
図9に示す処理は、電力変換装置100が外部の直流電源および外部の負荷への接続がされる前に、制御装置30の処理装置によって実行され、その結果が記憶装置91に記憶される。
図8、
図9の処理は、所定時間ごと(例えば5msごと)に実行されることとしてもよい。または、所定時間毎ではなく、所定の走行距離ごと、通信を実施するごとなどのイベントごとに実行することとしてもよい。電力変換装置100が、外部の直流電源および外部の負荷と接続された後の制御において、故障判定の結果と電力変換出力の制限の要否についての判断結果が、記憶装置91から読み出されて反映される。
【0050】
処理を開始して、ステップS100では、検査用電流供給部31のスイッチを操作して正極側直流母線1a、負極側直流母線1bに検査用電流の供給を開始する。ステップS101では、正極側のアーム11、12、13の全ての正極側スイッチング素子をオフする指令信号をゲート駆動部33から出力する。そして、負極側のアーム14、15、16の全ての負極側スイッチング素子をオンする指令信号をゲート駆動部33から出力する。そして、各アーム11から16の端子間電圧V1からV6を読み込む。
【0051】
ステップS102では、正極側アーム11、12、13の端子間電圧V1、V2、V3が全て、短絡判定電圧VthS以上であるかどうか判定する。端子間電圧V1、V2、V3が全て、短絡判定電圧VthS以上であれば(判定はYES)ステップS103へ進む。この場合、正極側アーム11、12、13のスイッチング素子はいずれも短絡故障していないと判断している。
【0052】
ステップS102で、端子間電圧V1、V2、V3のいずれかが、短絡判定電圧VthSより小さければ(判定はNO)ステップS108へ進む。この場合、正極側アーム11、12、13のスイッチング素子のいずれかが短絡故障していると判定する。端子間電圧が短絡判定電圧VthSよりも小さいアームが判るので、スイッチング素子のいずれかが短絡故障していることと、該当するアームの番号を記憶しておいてもよい。ステップS108の次に、ステップS114へ進んで電力変換の停止を決定する。スイッチング素子のいずれかが短絡故障を起こしている場合は、電力変換動作の継続は、他のスイッチング素子にもダメージを与える可能性があり、二次的な故障も考えられるので停止すべきであるからである。その後、ステップS116へ進んで、検査用電流供給部31からの電流供給を停止し、処理を終了する。
【0053】
ステップS102では、オフしている正極側のアーム11、12、13のスイッチング素子の端子間電圧V1、V2、V3を判定した。
図8には記載していないが、ステップS102とステップS103の間でオンしている負極側のアーム14、15、16のスイッチング素子の端子間電圧V4、V5、V6を判定してもよい。端子間電圧V4、V5、V6は、ドレイン、ソース間のオン電圧となっているところ、いずれかの端子間電圧が予め定めた断線故障判定閾値VthOよりも大きければ、当該アームのスイッチング素子の全てまたは一部が断線していると判定できるからである。
【0054】
ステップS103では、正極側のアーム11、12、13の全ての正極側スイッチング素子をオンする指令信号をゲート駆動部33から出力する。そして、負極側のアーム14、15、16の全ての負極側スイッチング素子をオフする指令信号をゲート駆動部33から出力する。そして、各アーム11から16の端子間電圧V1からV6を読み込む。
【0055】
ステップS104では、負極側アーム14、15、16の端子間電圧V4、V5、V6が全て、短絡判定電圧VthS以上であるかどうか判定する。端子間電圧V4、V5、V6が全て、短絡判定電圧VthS以上であれば(判定はYES)ステップS105へ進む。この場合、負極側アーム14、15、16のスイッチング素子はいずれも短絡故障していないと判断している。
【0056】
ステップS104で、端子間電圧V4、V5、V6のいずれかが、短絡判定電圧VthSより小さければ(判定はNO)ステップS109へ進む。この場合、負極側アーム14、15、16のスイッチング素子のいずれかが短絡故障していると判定する。端子間電圧が短絡判定電圧VthSよりも小さいアームが判るので、スイッチング素子のいずれかが短絡故障していることと、該当するアームの番号を記憶しておいてもよい。ステップS109の次に、ステップS114へ進んで電力変換の停止を決定する。スイッチング素子のいずれかが短絡故障を起こしている場合は、電力変換動作の継続は、他のスイッチング素子にもダメージを与える可能性があり、二次的な故障も考えられるので停止すべきであるからである。
【0057】
ステップS104では、オフしている負極側のアーム14、15、16のスイッチング素子の端子間電圧V4、V5、V6を判定した。
図8には記載していないが、ステップS104とステップS105の間でオンしている正極側のアーム11、12、13のスイッチング素子の端子間電圧V1、V2、V3を判定してもよい。端子間電圧V1、V2、V3は、ドレイン、ソース間のオン電圧となっているところ、いずれかの端子間電圧が予め定めた断線故障判定閾値VthOよりも大きければ、当該アームのスイッチング素子の全てまたは一部が断線していると判定できるからである。また、ステップS101、ステップS102と、ステップS103、ステップS104の順序を入れ替えて構成してもよい。
【0058】
ステップS105では、正極側のアーム11、12、13の全ての正極側スイッチング素子と、負極側のアーム14、15、16の全ての負極側スイッチング素子をオンする指令信号をゲート駆動部33から出力する。そして、各アーム11から16の端子間電圧V1からV6を読み込む。次に、ステップS106で、全てのアームの端子間電圧V1からV6が、全て片側断線判定電圧VthSO以下であるかどうか判定する。
【0059】
ステップS106で、全てのアームの端子間電圧V1からV6が、全て片側断線判定電圧VthSO以下であれば(判定はYES)、ステップS107へ進んで、全スイッチング素子を正常判定する。その後、ステップS115で、電力変換出力の制限なしと決定する。そして、ステップS116で、検査用電流供給部31からの電流供給を停止し、処理を終了する。
【0060】
ステップS106で、アームの端子間電圧V1からV6のいずれかが、片側断線判定電圧VthSOよりも大きければ(判定はNO)、ステップS110へ進む。該当するアームのスイッチング素子が断線故障を起こしていることが判る。この場合、端子間電圧が片側断線判定電圧VthSOよりも大きいアームが判るので、このアームの数字を記憶しておいてもよい。
【0061】
ステップS110では、全てのアームの端子間電圧V1からV6が、全て二重断線判定電圧VthDO以下であるかどうか判定する。全てのアームの端子間電圧V1からV6が、二重断線判定電圧VthDO以下であれば(判定はYES)、ステップS111へ進む。
【0062】
この場合、二重断線故障すなわちスイッチング素子が二個とも断線故障を起こしているアームが存在しないことを意味する。ステップS111でいずれかのアームのスイッチング素子の片側断線故障(一重断線故障とも言う)と判定する。この時、ステップS106で端子間電圧が片側断線判定電圧VthSOよりも大きいと判定されたアームが判るので、このアームの数字と、一重断線故障を起こしたことを記録しておいてもよい。
【0063】
さらに、一重断線故障を起こしているアームの並列に接続された複数のスイッチング素子に対して個別に制御し、いずれか一個のスイッチング素子のみをオフする。このとき、端子電圧に変化が現れなければ、オフしたスイッチング素子に断線故障が発生していることが判明する。
【0064】
また、いずれか一個のスイッチング素子のみをオフしたときに、端子電圧が変化すれば、そのスイッチング素子が健全であることが判明する。このようにスイッチング素子を順に一個ずつオフして端子電圧の変化を確認してゆくことで、断線しているスイッチング素子を特定することができる。
【0065】
ステップS111の後、ステップS113で、電力変換出力の制限を決定する。ここで、特定のアームで、複数の並列接続されたスイッチング素子のうちの一つが断線故障していることが判る。複数の並列接続されたスイッチング素子のうちの一つが断線故障していても、残りの正常なスイッチング素子によって電力変換の継続は可能である。
【0066】
但し、該当するアームがオンした場合に、健全なスイッチング素子に電流が集中することになり過電流が発生する可能性がある。よって、電力変換出力を制限することによって、残りの健全なスイッチング素子を保護しつつ、電力変換動作を継続することができる。ステップS113の後、ステップS116で、検査用電流供給部31からの電流供給を停止し、処理を終了する。
【0067】
ステップS110で、アームの端子間電圧V1からV6のうち、端子間電圧が二重断線判定電圧VthDOより大きいものがあれば(判定はNO)、ステップS112へ進む。いずれかのアームの二重断線故障を判定する。このとき、端子間電圧が二重断線判定電圧VthDOより大きいアームが判るので、このアームの数字と二重断線故障の発生を記憶しておいてもよい。その後ステップS114で、電力変換出力の停止を決定する。スイッチング素子が二重断線故障を起こしたアームは、オンオフ駆動が不能であり、電力変換動作の継続は、他のスイッチング素子にもダメージを与える可能性があり、二次的な故障も考えられるので停止すべきであるからである。その後ステップS116で検査用電流の供給を停止して処理を終了する。
【0068】
図9では、各アームに二個のスイッチング素子が並列に接続されている場合の説明をした。しかし、上記の処理は三個以上のスイッチング素子が並列に接続されている場合にも適用することができる。また、各アームに三個以上のスイッチング素子が並列に接続されている場合に、二個のスイッチング素子が断線故障している場合に電力変換出力の制限を決定することとしてもよい。
【0069】
図10は、実施の形態1に係る電力変換装置100のスイッチング素子の故障モードと端子間電圧の関係を示す図である。
図10では、スイッチング素子指令信号の状態を示し、その場合にスイッチング素子が断線故障または短絡故障を起こしていた場合、各アームの端子間電圧の状態を例示している。この端子間電圧の状態を考慮して、各種判定閾値を決定する。各種判定閾値としては、短絡判定電圧VthS、片側断線判定電圧VthSO、二重断線判定電圧VthDOが存在する。
【0070】
図10で、事例番号1、2の場合は、スイッチング素子指令信号として、正極側アームは全てオフ、負極側アームは全てオンとする。この場合、スイッチング素子が正常な場合は、正極側アーム11、12、13の端子間電圧V1、V2、V3は検査用電流供給部31による電流により決定される電圧Vaである。そして、スイッチング素子がオンして負極側直流母線1bと同電位となっている負極側アームの端子間電圧V4、V5、V6は0となる。この場合、正極側アーム11、12、13がオフであるので、正極側直流母線1aと負極側直流母線1bの間に電流は流れない。正極側アーム11、12、13の端子間電圧V1、V2、V3は検査用電流供給部31による電圧Vaが印加される。
【0071】
事例番号2では、スイッチング素子21aが短絡している場合の例について記載している。負極側アーム14、15、16はオンしているが、直列接続された正極側アーム12、13はオフしているので負極側アーム15、16に電流は流れず負極側アーム15、16の端子間電圧V5、V6は0となる。これに対して正極側アーム11ではスイッチング素子21aが短絡しているので、直列接続された負極側アーム14に電流が流れる。このため、負極側アーム14のスイッチング素子24a、24bの端子間電圧V4として、通過電流に対するドレイン、ソース間電圧(オン電圧、飽和電圧とも称する)Vbが生じる。
【0072】
通過電流に対するドレイン、ソース間電圧は、電流に対して正の相関を有し、電流が増加すると上昇する。正極側アーム11では、短絡しているスイッチング素子21aの端子間には、通常にオンした場合と同様に通過電流に対してドレイン、ソース間電圧が発生する。正極側アーム11の健全なスイッチング素子21bはオフ状態を維持している。よってスイッチング素子21aには通常の二倍の電流が流れるので、
図10の事例番号2では、アーム11の端子間電圧V1は2Vbとなっている例を示している。
【0073】
事例番号3、4の場合についても同様であり、スイッチング素子24aが短絡故障を起こしている場合は、負極側アーム14の短絡故障中のスイッチング素子24aに二倍の電流が流れ、アーム11のドレイン、ソース間電圧がVbであるのに対して、アーム14には2Vbが印加される例を示している。よって、短絡判定電圧VthSは、2VbとVaの間の値を定めるべきである。
【0074】
事例番号5-7について説明する。スイッチング素子指令信号として、正極側アームは全てオン、負極側アームは全てオンとする。このとき、正極側アームと負極側アームの間には貫通電流が流れる。検査用電流供給部31からは、正極側アームと負極側アームに貫通電流が流れる場合であっても、スイッチング素子に悪影響を与えない限定された電流が与えられる。
【0075】
事例番号5の、スイッチング素子が正常時は、正極側アーム、負極側アームに貫通電流が流れ、この時のドレイン、ソース間電圧がVbとなる。これに対して、事例番号6では、正極側アーム11においてスイッチング素子21aが単独で断線故障を起こしている場合を示す。このとき、正極側アーム11に流れる電流は、健全なスイッチング素子21bに通常の二倍流れることとなり、
図10の例では端子間電圧V1は、2Vbとなっている。
【0076】
また、事例番号7では、アーム11のスイッチング素子21a、21b両方がオープン故障を起こしている場合について記載している。このとき、正極側アーム11は二重断線によって電流が流れない。負極側アーム14は通常にオンしておりかつ電流が流れていないことから、端子間電圧V4は0となる。これに対し、正極側アームは二重故障によりオフ状態と同様、ドレイン、ソース間電圧は検査用電流供給部31による電流により決定される電圧Vaとなる。これらのことから、0<Vb<片側断線判定電圧VthSO<2Vb<二重断線判定電圧VthDO<Vaとなる閾値を決定するべきである。また、0<Vb<短絡判定電圧VthS<2Vb<二重断線判定電圧VthDO<Vaとなる閾値を決定するべきである。
【0077】
2.実施の形態2
<故障判定処理>
図11は、実施の形態2に係る電力変換装置100の制御装置30の故障判定の処理を示す第一のフローチャートである。
図12は、故障判定の処理を示す第二のフローチャートであって、
図11の続きを示す。実施の形態2は、実施の形態1に係る電力変換装置100に対して実施することができ、ソフトウェアの変更のみで実現できるものである。
【0078】
図11、
図12に示す処理は、電力変換装置100が外部の直流電源および外部の負荷への接続がされる前に、制御装置30の処理装置によって実行され、その結果が記憶装置91に記憶される。
図11、
図12の処理は、所定時間ごと(例えば5msごと)に実行されることとしてもよい。または、所定時間毎ではなく、所定の走行距離ごと、通信を実施するごとなどのイベントごとに実行することとしてもよい。電力変換装置100が、外部の直流電源および外部の負荷と接続された後の制御において、故障判定の結果と電力変換出力の制限の要否についての判断結果が、記憶装置91から読み出されて反映される。
【0079】
処理を開始して、ステップS200では、検査用電流供給部31のスイッチを操作して正極側直流母線1a、負極側直流母線1bに検査用電流の供給を開始する。ステップS201では、正極側のアーム11、12、13の全ての正極側スイッチング素子をオフする指令信号をゲート駆動部33から出力する。そして、負極側のアーム14、15、16の全ての負極側スイッチング素子をオンする指令信号をゲート駆動部33から出力する。そして、各アーム11から16の端子間電圧V1からV6を読み込む。
【0080】
ステップS202では、全ての正極側のアーム11、12、13の端子間電圧V1、V2、V3をそれぞれ比較して、差分の絶対値の大きさが全て、短絡判定電圧差dVthS以下であるかどうか判定する。
図11のステップS202では、「正極側の全ての|Vm-Vn|がdVthS以下?」と記載しているが、m≠n、m,n=1~3である。
【0081】
端子間電圧V1、V2、V3について、差分の絶対値の大きさが全て、短絡判定電圧差dVthS以下であれば(判定はYES)ステップS203へ進む。この場合、正極側アーム11、12、13のスイッチング素子はいずれも短絡故障していないと判断している。
【0082】
ステップS202で、端子間電圧V1、V2、V3について、いずれかの差分の絶対値の大きさが、短絡判定電圧差dVthSより大きければ(判定はNO)ステップS208へ進む。この場合、正極側アーム11、12、13のスイッチング素子のいずれかが短絡故障していると判定する。端子間電圧の差の絶対値が短絡判定電圧差dVthSよりも大きいアームが判るので、スイッチング素子のいずれかが短絡故障していることと、該当するアームの番号を記憶しておいてもよい。ステップS208の次に、ステップS214へ進んで電力変換の停止を決定する。スイッチング素子のいずれかが短絡故障を起こしている場合は、電力変換動作の継続は、他のスイッチング素子にもダメージを与える可能性があり、二次的な故障も考えられるので停止すべきであるからである。その後、ステップS216へ進んで、検査用電流供給部31からの電流供給を停止し、処理を終了する。
【0083】
ステップS203では、正極側のアーム11、12、13の全ての正極側スイッチング素子をオンする指令信号をゲート駆動部33から出力する。そして、負極側のアーム14、15、16の全ての負極側スイッチング素子をオフする指令信号をゲート駆動部33から出力する。そして、各アーム11から16の端子間電圧V1からV6を読み込む。
【0084】
ステップS204では、負極側アーム14、15、16の端子間電圧V4、V5、V6について、差分の絶対値の大きさが全て、短絡判定電圧差dVthS以下であるかどうか判定する。
図11のステップS204では、「負極側の全ての|Vm-Vn|がdVthS以下?」と記載しているが、m≠n、m,n=4~6である。端子間電圧V4、V5、V6について、差分の絶対値の大きさが全て、短絡判定電圧差dVthS以下であれば(判定はYES)ステップS205へ進む。この場合、負極側アーム14、15、16のスイッチング素子はいずれも短絡故障していないと判断している。
【0085】
ステップS204で、端子間電圧V4、V5、V6について、差分の絶対値の大きさのいずれかが、短絡判定電圧差dVthSより大きければ(判定はNO)ステップS209へ進む。この場合、負極側アーム14、15、16のスイッチング素子のいずれかが短絡故障していると判定する。端子間電圧の差の絶対値が短絡判定電圧差dVthSよりも大きいアームが判るので、スイッチング素子のいずれかが短絡故障していることと、該当するアームの番号を記憶しておいてもよい。ステップS209の次に、ステップS214へ進んで電力変換の停止を決定する。スイッチング素子のいずれかが短絡故障を起こしている場合は、電力変換動作の継続は、他のスイッチング素子にもダメージを与える可能性があり、二次的な故障も考えられるので停止すべきであるからである。また、ステップS201、ステップS202と、ステップS203、ステップS204の順序を入れ替えて構成してもよい。
【0086】
ステップS205では、正極側のアーム11、12、13の全ての正極側スイッチング素子と、負極側のアーム14、15、16の全ての負極側スイッチング素子をオンする指令信号をゲート駆動部33から出力する。そして、各アーム11から16の端子間電圧V1からV6を読み込む。次に、ステップS206で、全てのアームの端子間電圧V1からV6が、全て片側断線判定電圧VthSO以下であるかどうか判定する。
【0087】
ステップS206で、全てのアームの端子間電圧V1からV6について、差分の絶対値の大きさが全て、片側断線判定電圧差dVthSO以下であるかどうか判定する。
図12のステップS206では、「全ての|Vm-Vn|がdVthS以下?」と記載しているが、m≠n、m,n=1~6である。端子間電圧V1~V6について、差分の絶対値の大きさが全て、片側断線判定電圧差dVthSO以下であれば(判定はYES)ステップS207へ進んで、全スイッチング素子を正常判定する。その後、ステップS215で、電力変換出力の制限なしと決定する。そして、ステップS216で検査用電流供給部31からの電流供給を停止し、処理を終了する。
【0088】
ステップS206で、アームの端子間電圧V1からV6について、差分の絶対値の大きさのいずれかが、片側断線判定電圧差dVthSOよりも大きければ(判定はNO)、ステップS210へ進む。該当するアームのスイッチング素子が断線故障を起こしていることが判る。この場合、端子間電圧の差分が片側断線判定電圧差dVthSOよりも大きいアームが判るので、このアームの数字を記憶しておいてもよい。
【0089】
ステップS210では、全てのアームの端子間電圧V1からV6について、差分の絶対値の大きさが全て、二重断線判定電圧差dVthDO以下であるかどうか判定する。全てのアームの端子間電圧V1からV6について、差分の絶対値の大きさが全て、二重断線判定電圧差dVthDO以下であれば(判定はYES)、ステップS211へ進む。
【0090】
この場合、二重断線故障すなわちスイッチング素子が二個とも断線故障を起こしているアームが存在しないことを意味する。ステップS211でいずれかのアームのスイッチング素子の片側断線故障と判定する。この時、ステップS206で端子間電圧差が片側断線判定電圧差dVthSOよりも大きいと判定されたアームが判るので、このアームの数字と、片側断線故障を起こしたことを記録しておいてもよい。
【0091】
さらに、片側断線故障を起こしているアームの並列に接続された複数のスイッチング素子に対して個別に制御し、いずれか一個のスイッチング素子のみをオフする。このとき、端子電圧に変化が現れなければ、オフしたスイッチング素子に断線故障が発生していることが判明する。
【0092】
また、いずれか一個のスイッチング素子のみをオフしたときに、端子電圧が変化すれば、そのスイッチング素子が健全であることが判明する。このようにスイッチング素子を順に一個ずつオフして端子電圧の変化を確認してゆくことで、断線しているスイッチング素子を特定することができる。
【0093】
ステップS211の後、ステップS213で、電力変換出力の制限を決定する。ここで、特定のアームで、複数の並列接続されたスイッチング素子のうちの一つが断線故障していることが判る。複数の並列接続されたスイッチング素子のうちの一つが断線故障していても、の頃の正常なスイッチング素子によって電力変換の継続は可能である。
【0094】
但し、該当するアームがオンした場合に、健全なスイッチング素子に電流が集中することになり過電流が発生する可能性がある。よって、電力変換出力を制限することによって、残りの健全なスイッチング素子を保護しつつ、電力変換動作を継続することができる。ステップS213の後、ステップS216で、検査用電流供給部31からの電流供給を停止し、処理を終了する。
【0095】
ステップS210で、アームの端子間電圧V1からV6について、差分の絶対値の大きさのうち、二重断線判定電圧差dVthDOよりも大きいものがれば(判定はNO)、ステップS212へ進む。いずれかのアームの二重断線故障を判定する。このとき、端子間電圧差が二重断線判定電圧差dVthDOより大きいアームが判るので、このアームの数字と二重断線故障の発生を記憶しておいてもよい。その後ステップS214で、電力変換出力の停止を決定する。スイッチング素子が二重断線故障を起こしたアームは、オンオフ駆動が不能であり、電力変換動作の継続は、他のスイッチング素子にもダメージを与える可能性があり、二次的な故障も考えられるので停止すべきであるからである。その後ステップS216へ進み、検査用電流の供給を停止して処理を終了する。
【0096】
図12では、各アームに二個のスイッチング素子が並列に接続されている場合の説明をした。しかし、上記の処理は三個以上のスイッチング素子が並列に接続されている場合にも適用することができる。また、各アームに三個以上のスイッチング素子が並列に接続されている場合に、二個のスイッチング素子が断線故障している場合に電力変換出力の制限を決定することとしてもよい。
【0097】
アームの端子間電圧について、端子間電圧の値を所定値と比較するのではなく、相互の電圧を比較し差分の絶対値の大きさによってスイッチング素子の故障判定をすることができる。このようにすることによって、スイッチング素子のばらつき、電流値の違いによる端子間電圧の変化があっても、精度よくスイッチング素子の故障判定を実行することができる。
【0098】
実施の形態2では、スイッチング素子の断線故障の診断対象となるアームの端子間電圧と、異なるアームの端子間電圧から求められた差異から、スイッチング素子の断線故障の診断を実施した。診断の対象とするアームの端子間電圧の値に対して、それ以外のアームの端子間電圧の値を平均し、平均値と比較することで、スイッチング素子の断線故障を判定することとしてもよい。スイッチング素子、負荷のばらつき、電力変換動作の変動から誤検出が発生することを抑制することができる。
【0099】
実施の形態1、2では、検出した端子間電圧をもとに故障を判定する手法について説明した。しかし、電圧値の代わりに、検出した電圧値と電流通電手段の一定電流から抵抗値を求めて、その抵抗値に基づき故障判定してもよい。一定電流はあらかじめ設定した電流値であり、抵抗値の算出に電流センサは要さない。
【0100】
3.実施の形態3
図13は、実施の形態3に係る電力変換装置100の構成図である。本願の実施の形態3を説明するための、故障検出の構成を示すブロック図である。インバータ回路の三相出力側に負荷が接続された場合について説明する。例えば、スイッチング素子21a、21bと、別の相のスイッチング素子25a、25bにゲート駆動部からオン信号が出力された場合に、検査用電流供給部31から流れる電流は正極側アーム11から負荷3を通り、負極側アーム15へ流れる。この時、スイッチング素子25aまたは25bが断線故障していた場合、端子間電圧V1及びV5に電圧差が生じるため、スイッチング素子25aまたは25bの断線故障を判定することができる。よって、正極側スイッチング素子と負極側スイッチング素子をいずれもオンして、直列接続される正極側アームと負極側アームに電流を流してスイッチング素子の断線故障を検出することに加えて、電流センサを使用することなく、上記通電経路においても故障判定することができる。
【0101】
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
したがって、例示されていない無数の変形例が、本願に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【0102】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0103】
(付記1)
正極側直流母線に並列接続された複数の正極側スイッチング素子、前記正極側スイッチング素子の端子間電圧を検出する正極側端子間電圧検出部、負極側直流母線に並列接続された複数の負極側スイッチング素子、前記負極側スイッチング素子の端子間電圧を検出する負極側端子間電圧検出部、および前記正極側スイッチング素子と前記負極側スイッチング素子を直列に接続するとともに出力端子に接続された外部接続点、が設けられた電力変換回路、ならびに
前記正極側直流母線と前記負極側直流母線に電流を供給する検査用電流供給部、前記正極側端子間電圧検出部から得られた正極側端子間電圧と前記負極側端子間電圧検出部から得られた負極側端子間電圧と前記正極側スイッチング素子に与えられた指令信号と前記負極側スイッチング素子に与えられた指令信号とから前記正極側スイッチング素子と前記負極側スイッチング素子の故障判定を行う故障判定部、および前記電力変換回路の前記正極側スイッチング素子と前記負極側スイッチング素子に与えられる指令信号を制御して電力変換を行う制御部、が設けられた制御装置、を備えた電力変換装置において、
前記制御装置の、前記検査用電流供給部が電流を供給し、かつ前記制御部が直列に接続された前記正極側スイッチング素子と前記負極側スイッチング素子を同時にオンする指令信号を与え、前記故障判定部が前記正極側端子間電圧または前記負極側端子間電圧に基づいて前記正極側スイッチング素子または前記負極側スイッチング素子の断線故障を判定する電力変換装置。
(付記2)
前記故障判定部は、前記正極側端子間電圧または前記負極側端子間電圧が予め定められた断線判定電圧よりも高い場合に前記正極側スイッチング素子または前記負極側スイッチング素子の断線故障を判定する付記1に記載の電力変換装置。
(付記3)
前記故障判定部は、前記正極側端子間電圧または前記負極側端子間電圧の大きさに応じて、前記正極側スイッチング素子または前記負極側スイッチング素子の断線故障しているスイッチング素子の個数を判別する付記2に記載の電力変換装置。
(付記4)
前記故障判定部は、前記正極側端子間電圧または前記負極側端子間電圧が前記断線判定電圧よりも高い二重断線判定電圧を越えた場合に前記正極側スイッチング素子または前記負極側スイッチング素子の二重断線故障を判定する付記2に記載の電力変換装置。
(付記5)
前記電力変換回路は、前記並列接続された複数の正極側スイッチング素子と前記正極側端子間電圧検出部とを有する正極側のアーム、前記並列接続された複数の負極側スイッチング素子と前記負極側端子間電圧検出部とを有する負極側のアーム、および前記外部接続点、が設けられたレグを複数有し、
前記制御装置の、前記検査用電流供給部が電流を供給し、かつ前記制御部がすべての直列に接続された前記正極側スイッチング素子と前記負極側スイッチング素子を同時にオンする指令信号を与え、前記故障判定部が判定対象の前記正極側のアームの前記正極側端子間電圧と他の前記正極側のアームの前記正極側端子間電圧の差分、または判定対象の前記負極側のアームの前記負極側端子間電圧と他の前記負極側のアームの前記負極側端子間電圧の差分、を求め、前記差分が予め定めた断線判定差分閾値よりも大きい場合に前記判定対象の前記アームの前記正極側スイッチング素子または前記判定対象の前記負極側スイッチング素子の断線故障を判定する付記1に記載の電力変換装置。
(付記6)
前記故障判定部は、前記差分の大きさに応じて、前記正極側スイッチング素子または前記負極側スイッチング素子の断線故障している個数を判別する付記5に記載の電力変換装置。
(付記7)
前記故障判定部は、前記差分が前記断線判定差分閾値よりも大きい二重断線判定差分閾値を越えた場合に前記正極側スイッチング素子または前記負極側スイッチング素子の二重断線故障を判定する付記5に記載の電力変換装置。
(付記8)
前記制御装置の、前記検査用電流供給部が電流を供給し、かつ前記制御部がすべての前記正極側スイッチング素子をオフし、すべての前記負極側スイッチング素子をオンする指令信号、またはすべての前記正極側スイッチング素子をオンし、すべての前記負極側スイッチング素子をオフする指令信号を与え、前記故障判定部が前記正極側端子間電圧または前記負極側端子間電圧に基づいて前記正極側スイッチング素子または前記負極側スイッチング素子の故障を判定する付記1から7のいずれか一項に記載の電力変換装置。
(付記9)
前記制御装置の、前記制御部がすべての前記正極側スイッチング素子をオフし、すべての前記負極側スイッチング素子をオンする指令信号を与えて、前記故障判定部は前記正極側端子間電圧が予め定められた短絡故障判定閾値よりも小さい場合に前記正極側スイッチング素子の短絡故障を判定し、前記制御部がすべての前記正極側スイッチング素子をオンし、すべての前記負極側スイッチング素子をオフする指令信号を与えて、前記故障判定部は前記負極側端子間電圧が前記短絡故障判定閾値よりも小さい場合に前記負極側スイッチング素子の短絡故障を判定する付記8に記載の電力変換装置。
(付記10)
前記制御装置の、前記制御部がすべての前記正極側スイッチング素子をオフし、すべての前記負極側スイッチング素子をオンする指令信号を与えて、前記故障判定部は前記負極側端子間電圧が予め定められた断線故障判定閾値よりも大きい場合に前記負極側スイッチング素子の断線故障を判定し、前記制御部がすべての前記正極側スイッチング素子をオンし、すべての前記負極側スイッチング素子をオフする指令信号を与えて、前記故障判定部は前記正極側端子間電圧が前記断線故障判定閾値よりも大きい場合に前記負極側スイッチング素子の断線故障を判定する付記8に記載の電力変換装置。
(付記11)
前記電力変換回路は、前記並列接続された複数の正極側スイッチング素子と前記正極側端子間電圧検出部とを有する正極側のアーム、前記並列接続された複数の負極側スイッチング素子と前記負極側端子間電圧検出部とを有する負極側のアーム、および前記外部接続点、が設けられたレグを複数有し、
前記制御装置の、前記検査用電流供給部が電流を供給し、かつ前記制御部がすべての前記正極側スイッチング素子をオンし、すべての前記負極側スイッチング素子をオフする指令信号、またはすべての前記正極側スイッチング素子をオフし、すべての前記負極側スイッチング素子をオンする指令信号を与えて、前記故障判定部が前記正極側端子間電圧または前記負極側端子間電圧に基づいて前記正極側スイッチング素子または前記負極側スイッチング素子の故障を判定する付記1から10のいずれか一項に記載の電力変換装置。
(付記12)
前記制御装置の、前記検査用電流供給部が電流を供給し、かつ前記制御部がすべての前記正極側スイッチング素子をオンし、すべての前記負極側スイッチング素子をオフする指令信号、またはすべての前記正極側スイッチング素子をオフし、すべての前記負極側スイッチング素子をオンする指令信号を与えて、前記故障判定部が判定対象の前記正極側のアームの前記正極側端子間電圧と他の前記正極側のアームの前記正極側端子間電圧の第二の差分、または判定対象の前記負極側のアームの前記負極側端子間電圧と他の前記負極側のアームの前記負極側端子間電圧の第二の差分、を求め、前記第二の差分が予め定めた故障判定差分閾値よりも大きい場合に前記正極側スイッチング素子または前記負極側スイッチング素子の故障を判定する付記11に記載の電力変換装置。
(付記13)
前記制御装置の、前記故障判定部が判別した断線故障しているスイッチング素子の個数に応じて、前記制御部が電力変換を停止する付記3または6に記載の電力変換装置。
(付記14)
前記制御装置の、前記故障判定部が判別した断線故障しているスイッチング素子の個数に応じて、前記制御部が電力変換の出力を制限する付記3または6に記載の電力変換装置。
(付記15)
前記制御装置の、前記故障判定部が判別した断線故障しているスイッチング素子の個数が1個の場合は前記制御部が電力変換の出力を制限し、前記故障判定部が判別した断線故障しているスイッチング素子の個数が2個以上の場合は前記制御部が電力変換を停止する付記3または6に記載の電力変換装置。
(付記16)
前記電力変換回路は、並列接続された三個以上の正極側スイッチング素子と、並列接続された三個以上の負極側スイッチング素子が設けられ、
前記制御装置の、前記故障判定部が判別した断線故障しているスイッチング素子の個数が二個の場合は前記制御部が電力変換の出力を制限する請求項3または6に記載の電力変換装置。
(付記17)
前記制御装置の、前記故障判定部が前記検査用電流供給部の供給する電流、前記正極側端子間電圧、および前記負極側端子間電圧に基づいて、前記正極側スイッチング素子と前記負極側スイッチング素子の抵抗値を算出し、算出した前記抵抗値に基づいて前記正極側スイッチング素子または前記負極側スイッチング素子の故障を判定する付記1から16のいずれか一項に記載の電力変換装置。
(付記18)
前記制御装置の、前記故障判定部が前記正極側端子間電圧または前記負極側端子間電圧に基づいて前記正極側スイッチング素子または前記負極側スイッチング素子の断線故障を判定した場合に、前記制御部は、前記並列接続された複数の正極側スイッチング素子の夫々に与えられる指令信号を個別に制御し、または前記並列接続された複数の負極側スイッチング素子の夫々に与えられる指令信号を個別に制御し、前記故障判定部が前記正極側スイッチング素子または前記負極側スイッチング素子の断線故障が発生しているスイッチング素子を特定する付記1から17のいずれか一項に記載の電力変換装置。
【符号の説明】
【0104】
1a 正極側直流母線、1b 負極側直流母線、11、12、13、14、15、16 アーム、21a、21b、22a、22b、23a、23b、24a、24b、25a、25b、26a、26b スイッチング素子、30 制御装置、31 検査用電流供給部、34 制御部、35 故障判定部、51、52、53、54、55、56 電圧検出部、100 電力変換装置