(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173139
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】ワークバイス及びバイス用口金
(51)【国際特許分類】
B23Q 3/06 20060101AFI20241205BHJP
B25B 1/10 20060101ALI20241205BHJP
B25B 1/24 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B23Q3/06 303E
B25B1/10 B
B25B1/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091355
(22)【出願日】2023-06-02
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】393028117
【氏名又は名称】株式会社テック・ヤスダ
(74)【代理人】
【識別番号】100078673
【弁理士】
【氏名又は名称】西 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】安田 嘉和
(72)【発明者】
【氏名】安田 嘉宣
【テーマコード(参考)】
3C016
3C020
【Fターム(参考)】
3C016CA08
3C016CB06
3C016CC01
3C020BB03
3C020CC02
3C020CC06
3C020CC10
3C020KK07
(57)【要約】
【課題】比較的小型の機械部品を加工する際に使用するワークバイスにおいて、精度の高い加工が可能で、かつ、重切削も可能な高い把持精度と把持剛性とを備えたワークバイス及び口金を提供する。
【解決手段】ワークバイスの口金台及び口金のワークwを把持する凹凸のない平らな把持面5sの上縁から下方の上下幅2~5mmの上縁部に、把持面5sに直角の上面と下向き傾斜面とで形成される頂稜を備えた複数本の三角断面突条と、この突条を複数箇所で直角に切断する複数の溝36とを備えている。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイスの口金台に固定してワークを把持するのに用いられる口金において、
ワークを把持する把持面の上縁部に当該上縁と平行な複数の三角断面溝を削成して形成した下向き傾斜面と前記把持面に直角の面とで頂稜を形成する複数本の三角断面突条と、この突条を複数箇所で直角に切断している複数の溝とを備えている、バイス用口金。
【請求項2】
傾斜角が40~50度の前記下向き傾斜面を備えた2~5本の前記三角断面突条を備えている、請求項1記載の口金。
【請求項3】
工作機械のテーブルに固定する基台と、
長手方向の一側を左ねじとし他側を右ねじとして張力を付与した状態で両端を前記基台に回転自在に軸支されているねじ軸と、
このねじ軸の左ねじと右ねじにそれぞれ螺合している口金台と、
前記ねじ軸の両側において当該ねじ軸と平行に前記基台に設けられたガイド溝と、
このガイド溝の前記ねじ軸に近い側の内壁面に摺接している内側ガイド板と、
前記ガイド溝の前記ねじ軸から遠い側の内壁面と前記内側ガイド板とに挟まれた状態でこの両者に摺接している外側ガイド板と、
前記内壁面とガイド板との摺接面に前記ねじ軸と平行に設けられて各ガイド板の摺動方向を当該ねじ軸と平行な方向に規制しているガイド条とを備え、
ねじ軸の両側の外側ガイド板が一方の口金台に一体に固定され、ねじ軸の両側の内側ガイド板が他方の口金台に一体に固定され、
ねじ軸の回転により外側ガイド板と内側ガイド板とが基台に対して反対の方向に等しいストロークで移動するワークバイスにおいて、
前記口金台のワークを把持する側の面である把持側面の上縁部に当該上縁と平行な複数の三角断面溝を削成して形成した下向き傾斜面と前記把持側面に直角の面とで形成された頂稜を有する複数本の三角断面突条と、この突条を複数箇所で直角に切断している複数の溝とを備えている、ワークバイス。
【請求項4】
傾斜角が40~50度の前記下向き傾斜面を備えた2~5本の前記三角断面突条を備えている、請求項3記載のワークバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械のテーブルに取り付けてワークを把持するのに用いるバイス用口金及び5面加工機などのワークの中心を基準として加工を行う工作機械に特に好適なワークバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的なワークバイスは、工作機械のテーブルに固定される基台と一体の固定口金と、この固定口金に向けて進退する可動口金との間でワークを把持する構造である。5面加工機やマシニングセンタなどにおいては、ワークの中心を基準として加工が行われる場合が多いが、上記構造のワークバイスを用いてテーブルに固定したワークを加工する場合、バイスやワークが熱変形すると、ワークの中心を基準とする加工位置に誤差(偏り)が生じる。
【0003】
従って、ワークの中心を基準として加工を行う場合には、ワークの中心を基準としてワークを把持することができるバイスでワークを把持するのが好ましい。本願出願人は、特許文献1及び2において、ワークの中心を基準としてワークを高い剛性で把持することができるワークバイスを提案している。
【0004】
特許文献1及び2に記載のワークバイスは、口金を開閉するねじ軸が軸方向両側に右ねじと左ねじとを備え、左右のねじに口金台のナット部材が螺合しており、口金台のねじ軸の両側にねじ軸方向に細長いガイド板が固定され、一方の口金台に固定したガイド板と他方の口金台に固定したガイド板とが、摺動自在に面接触した状態で、基台に設けたねじ軸方向のガイド溝に摺動自在に嵌合しているというものである。
【0005】
特許文献1及び2に実施例として記載されたワークバイスは、基台に対する口金台の上下方向の位置を規制するために、内側のガイド板とガイド溝の内側内壁面との間に、及び、外側のガイド板とガイド溝の外側内壁面との間に、それぞれねじ軸方向のガイド条が設けられている。また、口金の背面と口金台の正面(把持側面)との間に把持反力で口金を下方に押動する側面視で鋸刃状の嵌合対が設けられており、ワークを把持したときに口金、従ってワークが基台側に押しつけられるようになっている。
【0006】
なお、特許文献2で提案したワークバイスは、口金台の進退を案内するガイド条をそれぞれ複数本とすることで、ワークwの把持剛性を高くすると共により高精度の加工を行うことができるようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-245587号公報
【特許文献2】特開2018-103321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
サプライチェーンにおける人件費や材料費の高騰により、比較的小型の機械部品においてもより重切削が可能で加工時にワークの把持面に生じた傷を切除するのに必要な工数と材料の無駄をできる限り低減したいという要望が高まっていることに鑑み、より高い把持精度と把持剛性とを備えたワークバイス及び口金を得ることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の口金5は、バイスの口金台7に一般的にはボルトで固定される口金であって、ワークwを把持する凹凸のない平らな把持面5sの上縁から下方の上下幅2~5mmの上縁部に、把持面5sに直角の上面32と下向き傾斜面33とで形成される頂稜34を備えた複数本の三角断面突条31と、この突条31を複数箇所で直角に切断する複数の溝36とを備えている。
【0010】
口金5は、ワークwより硬度の高い金属製とし、上縁と平行な複数本の三角断面突条31は、平らな把持面5sの上縁部に複数の三角断面溝35を機械加工により削成して形成されている。従って三角断面突条31は、平らなワーク把持面5sから突出することのない鋭い頂稜34を備えている。
【0011】
この発明の口金5は、その平らな把持面にワークwの底面を受板38を添設して、三角断面突条31を設けた上縁部でワークを把持する。
【0012】
この発明のワークバイスは、特許文献1又は2記載の構造を備えたワークバイスの口金台7に、前記口金5に設けたと同様な複数の三角断面突条31と溝36とを削成したものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明の口金5及びワークバイスの口金台7は、その上縁部に設けた三角断面突条31の頂稜34と溝36で切断された頂稜34の切断端をワークwに食い込ませた状態でワークwを把持固定するので、その把持反力によりワークwを受板38の上面に押しつけた状態でワークwを強固に固定でき、重切削が可能になると共に高精度の仕上げ加工も可能で、機械部品の加工時間及び段取時間の大幅な低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明に係るワークバイスにこの発明に係る口金を装着してワークwを把持している状態を示す添付図面を参照して、本願発明を説明する。
図1~
図5において、1はワークバイスの基台である。基台1は、図に示すように、底板11とその両側に延びる固定板12とを備えている。底板11は、頂面にU字溝を形成した中凸部13を備えた断面形状をしており、両側の固定板12と中凸部13との間に断面矩形のガイド溝14が形成されている。
【0016】
ガイド溝14は、中凸部13の両側に形成され、その内側(中凸部側)内壁面及び外側(固定板側)内壁面には、それぞれ内側突条16a、17a及び外側突条16b、17bが形成されている。中凸部13は、後述する軸受ブロック2の厚さ分だけ両端が削り落とされており、その分だけ底板11及び固定板12の長さより短い。
【0017】
固定板12は、正面(端面)視で略三角形の3個の補強リブ55を備えており、ガイド溝14より外側の部分に、基台1を工作機械のテーブルに固定するためのボルトを挿通する取付孔18と後述する支え材51を立設するためのねじ孔56とが複数設けられている。
【0018】
2はねじ軸3を軸方向移動不能かつ回動可能に軸支する軸受ブロックで、横ボルト21で基台1の中凸部13の両端面に固定されている。軸受ブロック2は、後述するねじ軸3の端部が貫通する軸孔22を備えている
【0019】
ねじ軸3は、基台の中凸部13の直上に位置している。ねじ軸3は、長手中央を境にして等しいリードの右ねじ3aと左ねじ3bとが形成され、かつその両端には、両端を基台に軸方向移動不能に固定するための雄ねじ3cを備えている。ねじ軸3は、その両端を基台に固定した軸受ブロック2の軸孔22に挿通して、スラスト軸受23を雄ねじ3cに螺合した外ナット24で軸方向両端を締め付けることにより、張力を付与した状態で軸方向移動不能、かつ回動自在に軸支されている。
【0020】
外ナット24を貫通したねじ軸の両先端には、ねじ軸3を回動させる工具を嵌め込むための六角頭25が取り付けられている。ねじ軸3のスラスト軸受23より内側には、小荷重のスラスト軸受26とこれを軽く締め付けている内ナット27とが設けられている。
【0021】
ねじ軸3の右ねじ3aと左ねじ3bには、それぞれナット部材4(4a、4b)が螺合している。ナット部材4は、U字断面の突出部41の中心にねじ軸3に螺合する雌ねじを備えており、その上部から両側に延びる鍔42を備えている。一方のナット部材4aの鍔42には、内側ガイド板43aが固定され、他方のナット部材4bの鍔42には、外側ガイド板43bが固定されている。内側ガイド板43aと外側ガイド板43bとは、その対向する面が摺動自在に面接触した状態で基台のガイド溝14にねじ軸方向に摺動自在に嵌装されている。
【0022】
内側ガイド板43a及び外側ガイド板43bは、ねじ軸3の長手方向に細長い平板状の板で、内側ガイド板43aのガイド溝の内側内壁面15aを向く面及び外側ガイド板43bのガイド溝の外側内壁面15bを向く面には、これらの内壁面に形成した突条16a、17a及び16b、17bと摺動自在に嵌合する凹溝46a、47a及び46b、47bが形成されている。
【0023】
更に、図示実施例のものでは、内側ガイド板43aと外側ガイド板43bの摺接面には、同一高さの位置に、凹溝46、47と平行な中間凹溝48a、48bが設けられ、この中間凹溝の一方に固定したガイドキー49が他方の中間凹溝に摺動自在に嵌合している。
【0024】
ねじ軸3の上方は、伸縮自在に設けたカバー53で覆われている。ねじ軸3の右ねじと左ねじにそれぞれ螺合しているナット部材4a、4bには、それぞれ口金台7が縦ボルト57で実質上一体に固定されている。カバー53の両端は、口金台7の底面中央部とナット部材4a、4bの上面の間に形成されたスリットを通って口金台7の背面に連結されている。口金台7の対向面である把持側面7sには、
図6、8に示した構造の口金5が取り付けられている。
【0025】
口金台7の把持側面7sの上縁には、
図7、8に示すように、面直角の上面32と下向き傾斜面33とからなる三角断面突条31が複数条設けられている。この三角断面突条31は、口金台7の把持側面の上縁部に複数の三角断面溝35を設けることにより形成されており、三角断面突条31の頂稜は口金台の把持側面7sより突出していない。図の頂稜は、高さ0.75mmで、上下方向のピッチ0.75mmで4本設けられている。口金台7の幅bは、120mmである。
【0026】
更に、口金台の把持側面7sの上縁部には、複数のU字溝36が設けられている。このU字溝36は、6φのエンドミルで加工された深さ0.75mmの溝で、口金台の把持側面の上縁の上下幅3mmの部分に配置された4本の三角断面突条31を平面視で直角に切断するために設けたものである。すなわち、4本の三角断面突条31は、U字溝36の上方の縁の直線部分37で直角に切り落とされている。
【0027】
口金台7の把持側面には、適宜形状の口金を固定するねじ孔39が設けられており、この発明の口金5がボルトで固定されている。口金5の把持面5sには、ワーク受板38を固定するねじ孔54が設けられ、ワーク受板38がボルトで固定されている。口金5及びワーク受板38は、口金台7の座板8に乗せた状態で固定されている。口金5は、ワークwより硬い材質の金属製である。
【0028】
口金5のワーク把持面5sの上縁部には、口金台の把持側面7sの上縁に設けた三角断面突条31とU字溝36と全く同じ構造及び数の三角断面突条31とU字溝36とが設けられている。受板38の上面は口金5の上縁より3mm、すなわち三角断面突条31を設けた上下幅だけ低くなるように受板38の上下寸法が設定されている。想像線で示すワークwは、受板38に支えられて、ねじ軸3の回動により近接方向に付勢される口金5、5間に、その底部の高さ3mmの部分で三角断面突条31の頂稜34で把持されて固定されている。
【0029】
ワークwは、4本の三角断面突条31の頂稜34とU字溝の直線部分37で切断された端部がワークwに食い込んで受板38の上面に押しつけられた状態で強固に固定され、把持面が単一平面の口金で把持した場合に比較して、特に
図5、6のPv及びPh方向の切削加工に対する極めて高い支持剛性を発揮した。三角断面突条31の下向き傾斜面33の傾斜角を30度にした口金を用いた実験では、ワークの支持剛性が低下し、また三角断面突条の下向き傾斜面の角度が45度であっても、1本の三角断面突条のみでワークを把持したときは、充分な支持剛性を得ることはできなかった。
【0030】
このことから、三角断面突条31の数は少なくとも2本、好ましくは3本以上であるが、三角断面突条の頂稜での把持は、ワークを傷つけるので必要により把持部分を削除する必要があるから、本数を多くすると切除部分が大きくなって材料及び切除時間のロスが増える。従って、三角断面突条31の数は2~5本が好ましく3~4本がより好ましいと考えられる。また、三角断面突条31の下向き傾斜面の傾斜角は、40~50度とするのが好ましい。
【0031】
上記の実施例において、口金台7の上縁部に口金5の上縁部と同様な三角断面突条31及びU字溝36を設けたのは、口金5を取り外しても口金台7で直接ワークを把持可能にして、大きなワークの固定も可能にするためである。
【0032】
幅寸法(
図2の上下方向の寸法)が大きなワークを固定するときに必要があれば、固定板12に設けたねじ孔56に
図1に示す支え材51を立設して口金5から側方にはみ出したワークの底面を支持することができる。底面が平らなワークであれば、支え材51の上面は受板38の上面と同一高さとなる。
【0033】
特許文献1及び2で提案したワークバイスは、小型で高い把持剛性を備えているので、この発明の口金5を装着するのに特に好適である。特に実施例で示した特許文献2で提案したバイスは、ワークwを下方に押し付けた反力として口金台7に作用する上向きの反力が口金台7に一体的に固定されているガイド板43に伝達され、ガイド板43が複数本のガイド条16、17で上下方向の移動を規制されているため、より大きな上下方向の力に耐えることができる。また、これらの複数のガイド条16、17がガイド板43の上方向の位置を正確に規制するので、ワークを正確な位置でより強固に固定することができ、特に工具が
図5、6に矢印Pv、Phで示した方向に動いてワークを加工するときのワークの固定を正確かつ強固に行うことができる。
【符号の説明】
【0034】
5 口金
7 口金台
5s把持面
31 三角断面突条
32 上面
33 傾斜面
34 頂稜
36 溝
38 受板
w ワーク