(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173140
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】車両用部材の補強方法
(51)【国際特許分類】
B60R 19/04 20060101AFI20241205BHJP
B60J 5/00 20060101ALI20241205BHJP
B62D 25/04 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B60R19/04 N
B60R19/04 M
B60J5/00 Q
B62D25/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091356
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 晃平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 功一
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203BB53
3D203CA02
3D203CA04
3D203CA05
3D203CA08
3D203CA40
3D203CA52
3D203CB07
3D203CB47
3D203DA22
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、部材の変形モードによって変化する、一方向繊維強化樹脂テープを用いた車両用部材の補強方法を提供する。
【解決手段】所定方向を長手方向とする複数の面、および、該複数の面を連結するリブを有し、該面の一つは他の一以上の面に対向して配置され、最外位置に配された面(以下、最外面という。)の一方の面における外側の表面に外部から荷重が入力される、金属製の車両用部材の補強方法であって、該外部から荷重が入力される際の該部材における座屈発生の有無を判定するための情報収集工程S1と、該部材の座屈発生判定工程S2と、該座屈発生を有と判定した場合は、該荷重が入力される面に、該座屈発生を無と判定した場合は、該荷重が入力される面と反対側の最外面に配置された面に、強化繊維が樹脂に含浸されてなる一方向繊維強化樹脂テープを配置する工程S3,S4と、を有する、車両用部材の補強方法。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向を長手方向とする複数の面、および、該複数の面を連結するリブを有し、該面の一つは他の一以上の面に対向して配置され、最外位置に配された面(以下、最外面という。)の一方の面における外側の表面に外部から荷重が入力される、金属製の車両用部材の補強方法であって、
該外部から荷重が入力される際の該部材における座屈発生の有無を判定するための情報収集工程と、
該部材の座屈発生判定工程と、
該座屈発生を有と判定した場合は、該荷重が入力される面に、
該座屈発生を無と判定した場合は、該荷重が入力される面と反対側の最外面に配置された面に、強化繊維が樹脂に含浸されてなる一方向繊維強化樹脂テープを配置する工程と、
を有する、車両用部材の補強方法。
【請求項2】
前記一方向繊維強化樹脂テープを配置する工程において、
座屈発生を有と判定した場合は、前記荷重が入力される面の外側の表面に、
座屈発生を無と判定した場合は、前記荷重が入力される面と反対側の最外面に配置された面の外側の表面に、一方向繊維強化樹脂テープを配置する、請求項1記載の車両用部材の補強方法。
【請求項3】
前記金属製の車両用部材は、該金属として鉄、アルミニウムまたはマグネシウムを含む、請求項1記載の車両用部材の補強方法。
【請求項4】
前記強化繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維または金属繊維を含む、請求項1~3のいずれか記載の車両用部材の補強方法。
【請求項5】
前記座屈の発生を有と判定した場合において、
前記一方向繊維強化テープを、該テープを構成する強化繊維の配向方向と前記荷重が入力される側の面の長手方向とを略同一として該面に配置する、請求項1~3のいずれか記載の車両用部材の補強方法。
【請求項6】
前記座屈の発生を有と判定した場合において、
前記荷重が入力される側の面に配置される前記一方向繊維強化テープの厚みが、該面における厚みの50%以下である、請求項1~3のいずれか記載の車両用部材の補強方法。
【請求項7】
前記座屈の発生を有と判定した場合において、
前記一方向繊維強化テープを、前記荷重が入力される側の面の長手方向長さの20%以上にわたって配置する、請求項1~3のいずれか記載の車両用部材の補強方法。
【請求項8】
前記情報収集工程は、理論式、試験またはCAE解析の少なくともいずれか一つにより実施される、請求項1~3のいずれか記載の車両用部材の補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用部材の補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンニュートラルを推進するため、車両の軽量化が求められており、その方法として、車両部材の厚みを薄くすることがある一方、強度低下や応力集中による座屈、割れにつながるという課題がある。
【0003】
このような中、車両部材に補強材を適用することで、軽量かつ高強度を実現する手法が発明されてきた。特許文献1には、座屈強度の大きい材料と曲げ強度の大きい材料を組み合わせたバンパービームが記載されており、座屈強度が問題となる部分に比座屈強度パラメータの大きい材料を充てることが記載されている。特許文献2には、補強材の一部の厚みを他の一部の厚みよりも厚く設定することで、曲げ剛性を効果的に向上させた車両構造部材が記載されている。特許文献3には、一方向繊維強化樹脂により板状又はシート状に形成された補強材により、耐曲げ性を高めた長尺状部材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4-252754号公報
【特許文献2】特開2018-30542号公報
【特許文献3】特開2018-95006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献に記載の発明では、車両用部材を一方向繊維強化樹脂テープにより補強する際に、部材の変形モードによって補強方法を変えることで、より効果的に軽量かつ高強度を実現できる余地があることに到っていない。
【0006】
上記問題に鑑み、本発明は、部材の変形モードによって変化する、一方向繊維強化樹脂テープを用いた車両用部材の補強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1. 所定方向を長手方向とする複数の面、および、該複数の面を連結するリブを有し、該面の一つは他の一以上の面に対向して配置され、最外位置に配された面(以下、最外面という。)の一方の面における外側の表面に外部から荷重が入力される、金属製の車両用部材の補強方法であって、
該外部から荷重が入力される際の該部材における座屈発生の有無を判定するための情報収集工程と、
該部材の座屈発生判定工程と、
該座屈発生を有と判定した場合は、該荷重が入力される面(以下、荷重入力面ということがある。)に、
該座屈発生を無と判定した場合は、該荷重が入力される面と反対側の最外面に配置された面(以下、荷重入力反対面ということがある。)に、強化繊維が樹脂に含浸されてなる一方向繊維強化樹脂テープを配置する工程と、
を有する、車両用部材の補強方法。
2. 前記一方向繊維強化樹脂テープを配置する工程において、
座屈発生を有と判定した場合は、前記荷重が入力される面の外側の表面に、
座屈発生を無と判定した場合は、前記荷重が入力される面と反対側の最外面に配置された面の外側の表面に、一方向繊維強化樹脂テープを配置する、上記1記載の車両用部材の補強方法。
3. 前記金属製の車両用部材は、該金属として鉄、アルミニウムまたはマグネシウムを含む、上記1または2記載の車両用部材の補強方法。
4. 前記強化繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維または金属繊維を含む、上記1~3のいずれか記載の車両用部材の補強方法。
5. 前記座屈の発生を有と判定した場合において、
前記一方向繊維強化テープを、該テープを構成する強化繊維の配向方向と前記荷重が入力される側の面の長手方向とを略同一として該面に配置する、上記1~4のいずれか記載の車両用部材の補強方法。
6. 前記座屈の発生を有と判定した場合において、
前記荷重が入力される側の面に配置される前記一方向繊維強化テープの厚みが、該面における厚みの50%以下である、上記1~5のいずれか記載の車両用部材の補強方法。
7. 前記座屈の発生を有と判定した場合において、
前記一方向繊維強化テープを、前記荷重が入力される側の面の長手方向長さの20%以上にわたって配置する、上記1~6のいずれか記載の車両用部材の補強方法。
8. 前記情報収集工程は、理論式、試験またはCAE解析の少なくともいずれか一つにより実施される、上記1~7のいずれか記載の車両用部材の補強方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る車両用部材の補強方法によれば、効果的に車両用部材の軽量化および高強度化を実施することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る、車両用部材本体の斜視図(A)、平面図(B)を示している。
【
図2】車両用部材断面の拡大断面図例(A)、リブ数を減らした拡大断面図例(B)、(B)からさらにリブ数を減らした拡大断面図例(C)を示しており、いずれも
図1に示されたI-I線に沿って切断して得られる断面である。
【
図3】
図1に示された車両用部材のある面に対して、一方向繊維強化樹脂テープで補強している様子を示しており、(A)は単一枚数のテープ、(B)は複数のテープを互いに重ねずに、(C)は複数のテープを互いに重ねて配置している。
【
図4】
図1に示された車両用部材が、外部からの荷重を受けた結果、座屈が発生している様子を示している。
【
図5】座屈発生の判定、および判定結果を受けた、一方向繊維強化樹脂テープによる車両用部材補強方法のフローを示している。
【
図6】
図1に示された車両用部材に対し、上記座屈の発生の有無に応じて、一方向繊維強化樹脂テープを用いて、荷重入力面を補強する様子(A)、荷重入力反対面を補強する様子(B)をそれぞれ示している。
【
図7】本発明に係る実施形態のバンパリインフォースメントの斜視図(A)、平面図(B)を示している。
【
図8】
図7に示されたVII-VII線に沿って切断した、本発明に係る実施形態のバンパリインフォースメントの断面を拡大して示す拡大断面図である。
【
図9】
図7で示されたバンパリインフォースメントがポールに衝突した後の様子を表している。
【
図10】
図9の結果を受けて、
図7に示されたバンパリインフォースメントにて、荷重入力面を一方向繊維強化樹脂テープで補強した様子を示している。
【
図11】本発明例および比較例のFEM解析の結果を示す、荷重-ストローク線図のグラフである。
【
図12】一方向繊維強化樹脂テープの繊維方向を、車両部材の所定方向に合わせて変化させた場合の本発明例のFEM解析結果を示す、荷重-ストローク線図のグラフである。
【
図13】一方向繊維強化樹脂テープの厚みを変化させた場合の本発明例のFEM解析結果を示す、荷重-ストローク線図のグラフである。
【
図14】一方向繊維強化樹脂テープの長さを、車両部材長手方向長さに対して変化させた場合の本発明例のFEM解析結果を示す、荷重-ストローク線図のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る車両用部材100の概略図の一例を示しており、当該車両用部材100の断面図を
図2に示している。ただし、本発明はこれらの図面によって何ら限定されるものではない。
【0012】
図1、
図2に示されるように、本発明に係る車両用部材は、所定方向に延在する複数の面と、上記複数の面を結ぶリブとを有する。ここで、「面」とは、厚みを有する材料であって、板状またはシート状の材料が主に好ましく用いられる。また、「リブ」とは、面に取り付けられ、複数の面を連結し、また、面を補強するものであり、面のみで構成される部材よりも、効率よく強度を高める役割を持つ。車両用部材の剛性を最大とするために、リブは面の平面方向に対し略直角に取り付けられることが望ましい。ここで、略直角の方向とは、90°をなす方向から±10°以内の方向であってよい。ただし、成型上の問題等で必ずしも面の平面方向に対し略直角に取り付けられる必要はない。上記面の一つは、他の一以上の面に対向して配置されている。すなわち、面の少なくとも一つは、当該面と異なる面のうち、少なくとも一面と対向して配置されている。面の各々が、当該各面と異なる面のうち少なくとも一面と対向して配置されていることが好ましく、面の全てが互いに対向して配置されていることがあってもよい。面には、最外位置の面(最外面)に配される面と、最外面に配される面よりも内部に配される面とがあり、最外面に配される面の一方に、外部から荷重が入力される。
【0013】
本発明は、強化繊維が樹脂に含浸されてなる一方向繊維強化樹脂テープを用いて、かかる車両用部材を補強する方法を開示するものであり、具体的には、外部から荷重が入力される際の上記面における座屈発生の有無を判定するための情報収集工程を有し、次いで、かかる工程により得られた情報から座屈発生の有無を判定するための工程を有し、続いて、座屈発生の有無に応じて一方向繊維強化樹脂テープを配置する工程を有する。ここで、座屈発生判定に用いる外部荷重条件や試験方法については、対象材料や用途により、任意のものを使用してよい。
【0014】
一方向繊維強化樹脂テープは、座屈発生が有と判定された場合は、座屈発生を抑制するため、荷重入力面に配置され、座屈発生が無と判定された場合は、曲げ強度を向上するため、荷重入力反対面に配置される。かかる座屈判定の有無に応じて、テープ貼り付け位置を特定する方法により、最小限のテープ量を用いて効率的に補強することが可能になるため、車両用部材の軽量化につなげることができる。ここで、座屈発生が有と判定された場合に、上記テープは、荷重入力面のみでなく、荷重入力反対面にも配置されてよいが、外部からの荷重は、座屈の発生により、ある程度吸収されることが考えられることから、荷重入力反対面にテープを配置することのメリットは大きいとは言えず、車両用部材の軽量化という観点では、座屈発生が有と判定される場合には、上記テープは、荷重入力面のみに配置されることが好ましい場合があり得る。一方で、座屈発生が無と判定された場合、後述の実施例に示すモデルの荷重の入力を例にとれば、外部からの荷重により、荷重入力面には圧縮の力が作用し、荷重入力反対面には引張の力が作用する。一方向繊維強化樹脂テープは、引張強度が高い長所を有することから、座屈発生が無い場合は、荷重入力反対面を上記テープで補強することが効率的であり、荷重入力面にテープを配置してもよいが、車両用部材の軽量化という観点では、座屈発生が無と判定される場合には、上記テープは、荷重入力反対面のみに配置されることが好ましい場合があり得る。
【0015】
本実施形態では、車両用部材100は、第1面201と略平行に延在する面として、第1面201に対向して配置された第2面202を備えている。なお、略平行の方向、言い換えれば対向する方向とは、完全に同一の方向から±10°以内の方向であってよい。この時、第1面201と第2面202とは同じ断面形状でなくてもよい。さらに、車両用部材100は、第1面201と第2面202とを、
図1のY方向に連結する、つまりはつなぎ合わせるリブを備えている。具体的な例として、車両用部材100の断面が、
図2(A)のように示される場合は、第1面201のZ方向の中間部と第2面202のZ方向の中間部とを
図1におけるY方向に連結するリブとしての第2リブ211を備えている。第1面と第2面とを連結するリブは1個以上あればよく、
図1におけるリブのX方向の長さは、第1面、第2面と同じであってもよいが、同じでなくてもよい。また、リブが複数ある場合、互いに平行であってもよいが、平行でなくてもよい。車両用部材100を軽量化させる目的がある場合、面の数を減らした
図2(B)が好ましく、さらに面の数を減らした
図2(C)がより好ましい。
【0016】
金属製の車両用部材100に用いる金属材料としては、鉄、アルミニウム、マグネシウムなどを用いてもよいが、補強するための繊維強化樹脂テープよりも弾性率が低い金属材料を用いた方が、当該車両用部材の補強効果が高められる。軽量かつ高強度なため、アルミニウム含有材料が好ましい。アルミニウム含有材料の具体例として、アルミニウム単体、あるいはアルミニウムに、マグネシウム、マンガン、ジルコニウム、銅、鉄、スズなどが含まれているものが挙げられる。
【0017】
図1に例示される、本発明に係る車両用部材100の用途として、例えば、バンパリインフォースメント、ドアインパクトビーム、クロスカービーム、バックドアレインフォースメント、クラッシュボックス、およびピラーなどが含まれる。
【0018】
図3に、一方向繊維強化樹脂テープ300(以下、主にテープ300と記載)による車両用部材100の補強例を示す。上記した座屈発生の判定工程において、座屈発生が有と判定された場合にテープ300を貼り付ける範囲としては、補強効果を十分に得るため、荷重入力面の長手方向長さの20%以上100%以下にわたって配置することが好ましい。テープ300の長手方向長さが一様で無い場合、平均長さをテープ300の長手方向長さと定義する。この際、車両用部材100に外部荷重が加わる箇所として想定される箇所がある場合は、当該箇所にテープ300を貼り付けることが好ましい。また、テープ300の補強枚数は、
図3(A)に示すように1枚でもよいし、
図3(B)に示すように複数枚を組み合わせてもよく、上記した好ましい態様においては、複数枚のテープ300によってカバーされる合計の長さが、上記面の長手方向法長さの20%以上であればよい。さらに、複数枚のテープ300を用いる場合、
図3(C)に示すように、複数枚のテープ300が互いに重なる箇所があってもよい。また、同様に、座屈発生が有と判定された場合、テープ300の厚みは、一定厚み以上になると、重量あたりの補強効果の増加率が収束することがあるため、荷重が入力される側の面の面厚みの50%以下が好ましい。上記面の厚みは、通常の場合、面に貼り付けられたテープの厚み方向と同一方向の長さである。複数のテープ300が互いに重ねられた場合は、上記テープ300の厚みは、複数のテープ300の総厚みを表し、複数のテープ300が互いに重ねられた部分と、重なっていない部分がある場合は、重ねられた部分の総厚みを表すものとする。
【0019】
また、
図3に示している車両用部材100においては、テープ300の強化繊維が一方向に配向されている。さらに、曲げ剛性を向上させるため、貼付されたテープ300の強化繊維の配向方向を車両用部材の長手方向(長尺方向)と略同一の方向とすることが好ましい。ここで、強化繊維の配向方向が一方向とは、マトリックス樹脂中に強化繊維が一方向に配置された状態を言う。車両用部材に貼り付けるテープ300の強化繊維の配向方向を、車両用部材の長手方向と略同一の方向とすることで、曲げ変形に対する補強効果を高めることができる。なお、略同一の方向とは、車両用部材100とテープ300の強化繊維の配向方向が±10°以内のものを指す。
【0020】
本発明に係る、テープ300と車両用部材100表面との貼り付け方法としては、接着剤を用いた接着や、熱による溶着などがある。なお、テープ300自身が接着性を有する場合には、接着剤を介在させずにテープ300を直接中空構造物の表面に貼付可能である。
【0021】
テープ300を構成する繊維強化樹脂に用いる樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等いずれのものでも良く、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミノアミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、CPレジン(架橋ポリエステルアミド樹脂、架橋ポリアミノアミド樹脂)、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニ レンサルファイド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等が使用できる。
【0022】
上記強化繊維の材料は、特に限定されない。例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、および金属繊維などを、上記強化繊維として用いることができる。これらのうち、耐曲げ性および曲げ方向への剛性をより高める観点からは、弾性率が高い炭素繊維が好ましい。
【0023】
図4は、外部荷重Fが加わったときに、車両用部材100の第1面201に座屈が発生した状態の例を表す。一般に、座屈の発生により、車両用部材100の変形量は急激に増加する。
【0024】
ここで、外部荷重Fとは、車両外部から受ける力のことを指す。外部荷重の例として、走行している車両がポールに衝突した時に発生する力、車両に向かって飛来した物体が衝突した時に発生する力などが挙げられる。
【0025】
図4に示している車両用部材100に外部荷重Fが加わった時に、座屈が発生するか否かの判定は、3点曲げ試験や落錘試験など、実際に測定して判定を行ってもよいが、より簡易的に判定を行う観点から、実測による判定に限られるものではなく、オイラーの公式などの理論式を用いてもよいし、CAE(Computer Aided Engineering)解析ソフトを用いて判定することも可能である。CAE解析や試験を実施する場合は、前記部材にかかる荷重推移を出力し、荷重が急落した場合に座屈と判定する方法が例として挙げられる。
【0026】
図5は、車両用部材100に、テープ300で補強する方法を選択するフローを示している。最初に、座屈判定に必要な情報を得るための試験、CAE解析または理論計算を用いるステップS1があり、次いで、S1の結果を受けて実施する前記座屈判定方法であるステップS2を経て、車両用部材100に座屈が発生すると判定した場合、テープ300を荷重入力面に配置するステップS3に移行する。また、座屈が発生しないと判定した場合、テープ300を荷重入力反対面に配置するステップS4に移行する。
【0027】
図6は、テープ300で補強した車両用部材100に外部荷重Fが加わる様子を表している。
図6(A)においては、テープ300を、車両の外部に向けて配置することが想定される面である、外部荷重Fが入力される側の第1面201の外側の表面に貼りつけた状態を示す。
図6(B)においては、車両の内部に向けて配置することが想定される面である、外部荷重Fが入力されない側の第2面202の外側の表面に貼りつけた状態を示す。なお、上記「外側の表面」とは、車両用部材としてみたときにその外側に向く表面である。
【0028】
以上説明した車両用部材100の構成は、バンパリインフォースメントに好適に適用されるが、車両のピラーや各メンバ等の他の車両用部材に適用することもできる。以下、一例として、以上説明した車両用部材100の構成が適用されたバンパリインフォースメント700について説明する。
【0029】
(バンパリインフォースメント700)
図7に、車両用部材としてのバンパリインフォースメント700について説明する。なお、各図において適宜示される座標Y方向は、部材が車両を構成する場合の車両の外部側への方向を示しており、座標-Y方向は、車両の内部側への方向を示している。
【0030】
図7に示されるように、バンパリインフォースメント700は、アルミニウム合金等の金属製の本体部としてのバンパリインフォースメント本体701にクラッシュボックス702が接合されることにより形成されている。また、バンパリインフォースメント700において、前述した車両用部材100を構成する各部材および部分と対応する箇所については、車両構成部材1を構成する各部材および部分と同一の符号を付して、その説明を省略することがある。
【0031】
バンパリインフォースメント本体701の両側部分は、後方側へ向けて緩やかに湾曲されており、かかる両側部分の端部近くにクラッシュボックス702がそれぞれ接合されている。バンパリインフォースメント700は、クラッシュボックス702を介して、車体の一部を構成する図示しないフロントサイドメンバに支持される。
【0032】
図8に、バンパリインフォースメント本体701の断面図を示す。本例では、第1面201の方が第2面202よりも長くなっている。また、リブの枚数は4枚であり、第1面201と第2面202とを連結している。
【0033】
図9は、車両外部にあるポール900に対し、バンパリインフォースメント700が衝突した際の変形状態を示している。本実施例では、バンパリインフォースメント700におけるポール900と接触した領域901に座屈が発生し、衝撃荷重が低下している。
【0034】
図10は、
図9で得られた座屈の結果から、テープ300を用いて、荷重が入力される側の最外面である第1面201を補強している様子を表している。補強範囲は、第1面201全体とし、テープ300に含まれる強化繊維の配向方向は、バンパリインフォースメント本体701の長手方向であるX方向と一致するように貼り付けている。テープ300による補強により、第1面201に発生する座屈が抑制され、衝撃荷重の低下を抑えることができる。
【実施例0035】
本発明の効果を実証するため、以下のとおり実施例および比較例による衝撃解析を実施した。なお、本発明はこれら実施例等によって何ら制限されるものではない。
(実施例1、比較例1、2)
本発明例のモデル、並びに、本発明の範囲から外れる比較例のモデルについて、剛体円柱を、その側面をバンパリインフォースメント700の中央部に向けて、-Y方向に0.1m/sの速度で押し込む3点曲げを想定したシミュレーションをFEM解析で実施した。本発明例のモデルでは、荷重の入力により、座屈の発生が生じることを前提とした。
【0036】
FEM解析の材料モデルにおいて、バンパリインフォースメント本体701およびクラッシュボックス702については、6000番系アルミニウム合金押出形材(弾性率:72GPa)からなるものとした。また、バンパリインフォースメント本体701の面の各々の厚みは一律に3.0mm、リブの各々の厚みは一律に2.0mmとした。一方向繊維強化樹脂テープ300には、東レ(株)製6ナイロン系炭素繊維UDテープ(繊維方向弾性率:97GPa)を用いた。
【0037】
FEM解析には、汎用のAnsys社製の有限要素解析ソフト“LS-DYNA”(登録商標)を用いた。拘束条件として、クラッシュボックス702の底面を固定している。
【0038】
解析結果を
図11に荷重-ストローク線図で示す。テープ300を、その強化繊維の繊維方向を、バンパリインフォースメント本体701の長手方向と同一に配向させて、バンパリインフォースメント700の中央部をカバーして荷重入力面の外側の表面に配置して試験を行った実施例1を実線で示し、テープ300で補強する前の比較例1を破線で示し、実施例1と同一のテープ300を、配置した位置が荷重入力反対面であること以外は実施例1と同様に配置した比較例2を点線で示している。実施例1および比較例2で使用したテープ300の厚みは1.8mm、テープ300の長手方向長さは520mm、バンパリインフォースメント本体701の長手方向長さは1300mm、である。
【0039】
表1に、実施例1、比較例1および2のモデルの最大荷重およびテープ300の単位重量当たりの最大荷重を示す。
【0040】
【0041】
比較例1および2ではいずれも、ストローク後半にてバンパリインフォースメント本体701中央付近で座屈が発生し、荷重が急落した。これに対し、本発明例では、テープ300による補強により、バンパリインフォースメント700の座屈が抑制され、荷重が低下することなく推移した。
【0042】
この荷重-ストローク線図の結果から、本発明例の一方向繊維強化樹脂テープによる補強方法は、バンパリインフォースメントの座屈を抑制し、ストローク後期まで荷重を保つ変形とできることが示されているといえる。
(実施例2)
実施例1と同一のテープ300を、テープ300の強化繊維の繊維方向を2通りとして、その他は実施例1と同様に荷重入力面の外側の表面に貼り付け、実施例1、比較例1および2と同じ試験を行った。解析結果を
図12に荷重-ストローク線図で示す。荷重入力面の外側の表面に配置しているテープ300の強化繊維の繊維方向が、バンパリインフォースメント本体701の長手方向と同一に配向している例(すなわち、実施例1と同一条件)を実線で示し、バンパリインフォースメント本体701の短手方向と同一に配向している例を点線で示している。この荷重-ストローク線図の結果から、上記繊維方向が、バンパリインフォースメント本体701の長手方向と同一に配向している方が、荷重が高いことが分かった。
【0043】
表2に、実施例2のモデルの最大荷重およびテープ300の単位重量当たりの最大荷重を示す。
【0044】
【0045】
(実施例3)
実施例1と同一のテープ300を、その厚みtを種々変更したこと以外は実施例1と同様に荷重入力面の外側の表面に貼り付け、実施例1、比較例1および2と同じ試験を行った。解析結果を
図13に荷重-ストローク線図で示す。テープ300の厚みtが、テープ300が貼り付けられた面の厚みに対し、30%(0.9mm)である例を実線で示し、40%(1.2mm)である例を破線で示し、50%(1.5mm)である例を点線で示している。また、テープ300の強化繊維の繊維方向は、バンパリインフォースメント本体701の長手方向と同一に配向している。
【0046】
表3に、実施例3のモデルの最大荷重およびテープ300の単位重量当たりの最大荷重を示す。テープ300の厚みtが厚い程、単位重量当たりの最大荷重は増加するものの、厚みが増す程、その増加率は減少することが分かった。
【0047】
【0048】
(実施例4)
実施例1と同一のテープ300を、その長手方向長さを種々変更したこと以外は実施例1と同様に荷重入力面の外側の表面に貼り付け、実施例1、比較例1および2と同じ解析を行った。解析結果を
図14に荷重-ストローク線図で示す。テープ300の長さが、テープ300が貼り付けられたバンパリインフォースメント本体701長手方向長さに対し、40%の例を実線で示し、20%の例を破線で示し、10%の例を点線で示している。なお、いずれの例でも、テープ300は、荷重が入力されるバンパリインフォースメント700の中央部をカバーして貼り付けられている。テープ300の厚みtは実施例1と同じ1.8mmであり、この荷重-ストローク線図の結果から、テープ300の長さが長いほど、最大荷重が高いことがわかる。一方、テープ300の重量当たりの最大荷重は、長さが40%と20%で、ほぼ同等の結果となった。
【0049】
表4に、実施例4のモデルの最大荷重および単位重量当たりの最大荷重を示す。
【0050】
【0051】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述および図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例、および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。