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  • 特開-蒸しパンの製造方法 図1
  • 特開-蒸しパンの製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173141
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】蒸しパンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 13/31 20170101AFI20241205BHJP
   A21D 8/02 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
A21D13/31
A21D8/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091358
(22)【出願日】2023-06-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2022年 7月1日 日本全国の販売店にて全国販売 2022年10月1日 日本全国の販売店にて全国販売 2022年11月1日 日本全国の販売店にて全国販売 2023年 5月1日 日本全国の販売店にて全国販売
(71)【出願人】
【識別番号】000178594
【氏名又は名称】山崎製パン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(72)【発明者】
【氏名】家村 文康
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】太田 宜秀
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB01
4B032DE06
4B032DG02
4B032DG07
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK18
4B032DK35
4B032DK40
4B032DK54
4B032DK70
4B032DP08
4B032DP16
4B032DP30
4B032DP33
4B032DP46
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、フィリングを内包する蒸しパンについて、蒸しパン内部に生じる空洞を小さくする技術を確立することである。
【解決手段】本発明によって、フィリングを内包する蒸しパンを製造する方法が提供される。本発明に係る蒸しパンの製造方法は、フィリングを内包する蒸しパン生地の上面にフィリングに到達する深さまで切り込みを入れる工程と、フィリングを内包する蒸しパン生地を蒸して膨化させる工程と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィリングを内包する蒸しパンを製造する方法であって、
フィリングを内包する蒸しパン生地の上面に、フィリングに到達する深さまで切り込みを入れる工程と、
フィリングを内包する蒸しパン生地を蒸して膨化させる工程と、
を含む、上記方法。
【請求項2】
前記切り込みの数が1~5である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
蒸しパン生地のホイロをとる工程を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
イーストを含有する蒸しパン生地を調製する工程を含む、請求項1または2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィリングを内包する蒸しパンおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にパンは、焼く以外に、蒸す、茹でる、揚げるといった方法で生地を加熱することによっても製造される。蒸しパンは、蒸気を用いて生地を膨化したものであり、独特の食感を有することもあり、古くから消費者に楽しまれている。また、蒸しパンはその中にフィリング(あん等の具材)を内包させたりして様々な種類のものが幅広く製造されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、卵白を使用することによって独特の食感を有する蒸しパンを製造することが記載されており、特許文献2には、澱粉と熱水を混捏して得られた湯捏種を用いることによって蒸しパンの老化を抑制し、しっとりとした食感を有する蒸しパンを製造することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-086924号公報
【特許文献2】特開2003-199485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フィリングを内包する蒸しパンにおいて、蒸しパン内部に大きな空洞が発生してしまうことがあった。蒸しパン内部に大きな空洞があると、蒸しパンを喫食する際などに蒸しパンを垂直に割ってその断面を見た場合に空洞が目立ち、相対的にフィリングの量が少なく見えてしまうため、見た目の印象が悪いものになっていた。
【0006】
このような状況に鑑み、本発明の課題は、フィリングを内包する蒸しパンについて、内部に生じる空洞を小さくすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、フィリングを内包するように成形した蒸しパン生地の上面に切り込みを入れることによって、蒸しパン内部に生じる空洞を小さくすることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、これに限定されるものではないが、以下の態様を包含する。
[1] フィリングを内包する蒸しパンを製造する方法であって、フィリングを内包する蒸しパン生地の上面に、フィリングに到達する深さまで切り込みを入れる工程と、フィリングを内包する蒸しパン生地を蒸して膨化させる工程と、を含む、上記方法。
[2] 前記切り込みの数が1~5である、[1]に記載の方法。
[3] 蒸しパン生地のホイロをとる工程を含む、[1]または[2]に記載の方法。
[4] イーストを含有する蒸しパン生地を調製する工程を含む、[1]または[2]に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フィリングを内包する蒸しパンにおいて、蒸しパン内部に生じる空洞(フィリングとフィリング上部のパン生地の間に形成される空洞)を抑制することができる。蒸しパン内部に生じる空洞を小さくすることによって、蒸しパンを垂直方向にカットした際の断面(内部)のフィリングの量が相対的に少なく見えることを防止し、喫食する際などにおける見た目の印象を向上させることができる。
【0010】
パン生地を蒸し上げている間にフィリングなどから出る蒸気が、フィリングと蒸しパン生地の間に入り込み、蒸しパン生地を押し上げることによって、蒸しパン内部に大きな空洞が発生するところ、本発明に基づいてパン生地の上面に切り込みを入れることによって切り込みから蒸気が抜け、蒸しパン内部に生成する空洞が抑制されたものと推測される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、切り込みを入れたパン生地の外観写真である(サンプルA:右上、サンプルB:右下、サンプルC:左上、サンプルD:右中、サンプルE:左中、サンプルF:左下)。
図2図2は、切り込みを入れたパン生地から製造した蒸しパンの断面図である(左:比較例、右:実施例)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、蒸しパンおよびその製造方法に関する。本発明において蒸しパンとは、蒸気を用いて生地を膨化したパンを意味し、本発明に係る蒸しパンは、その内部にフィリングを含んだものである。
【0013】
本発明において蒸しパンに内包するフィリングは特に制限されず、野菜や肉、卵、麺類など、様々な材料を使用することができる。フィリングとしては、例えば、ゆで卵、つぶあん、こしあん、焼きそば、ソーセージなどの固形物だけでなく、ミートソース、ホワイトソース、ピザソース、カレー、シチューなどの流動性を有するものも含まれる。フィリングを蒸しパンに内包させる場合、加熱時にフィリングに含まれる水分が蒸気となり、蒸しパン内部に大きな空洞が生じやすくなるところ、本発明によれば、このような空洞を抑制することができる。フィリングの水分率は、例えば、20%以上であり、25~80%や30~70%であってもよい。
【0014】
本発明においては、フィリングを内包するパン生地の上面に切り込みを入れる。フィリングを内包するパン生地の上面に切り込みを設けることによって、蒸しパンを蒸し上げる際、フィリングから発生した蒸気が上部の切り込みから抜け、蒸しパン内部に形成される空洞を小さくすることができる。
【0015】
パン生地の上部に設ける切り込みは、パン生地に内包されるフィリングに達する深さまで設けなければならない。切り込みがフィリングに達していなければ、フィリングから発生した蒸気が切り込みから抜けないためである。切り込みの深さは蒸しパンの大きさに依存するため適宜調整すればよいが、例えば、パン生地の高さに対して、上から20%以上80%以下の深さとすることができ、30%以上60%以下の深さとしてもよい。すなわち、切り込みの深さが浅すぎると、ホイロなどによって生地の断面が結着して閉じてしまい、本発明の効果が発現しにくくなるためである。また、切り込みの深さが深すぎると、蒸し上げ後の最終製品から内部のフィリングが見える形となってしまい、見た目の印象が悪くなるだけでなく、フィリングが菌などに触れて汚染される可能性が生じるため衛生的にも好ましくないし、フィリングが空気に触れることによって製品の老化が早まるおそれがある。
【0016】
パン生地の上面に設ける切り込みの数は特に制限されないが、切り込みを設ける作業の負荷を考慮すると、1~5が好ましく、1~4がより好ましく、2~3がさらに好ましい。複数の切り込みを設ける場合、切り込みの間隔は特に制限されないが、例えば、0.5cm以上の間隔を設けることができ、1cm以上や1.5cm以上の間隔を設けてもよい。なお、切り込みの間隔は均一であっても異なっていてもよい。
【0017】
パン生地の上面に設ける切り込みの形状などは特に制限されないが、例えば、串などを用いて生地に細い穴を空けるだけだと、ホイロ工程および/または蒸し工程などのその後の工程で穴が塞がれてしまい、蒸しパン内部に生じる空洞を抑制することが難しくなる。したがって、本発明においては、蒸しパンを蒸し上げる際に、フィリングから生じた蒸気が上部から抜けられるような切り込みを設ける。切り込みの幅は特に制限されないが、例えば、1cm以上とすることができ、2~10cmや3~6cmとしてもよい。また、パン生地の上部に設ける切り込みは、垂直方向に設けてもよいし、斜め方向に設けてもよい。
【0018】
パン生地の上部に設ける切り込みは、公知の方法によって設けることができる。例えば、一般的な料理バサミなどのハサミを用いると、パン生地の上面に簡単に切り込みを入れることができる。また、大量生産する場合などは、パン生地の上部に自動で切り込みを入れる装置などを用いてもよい。
【0019】
本発明の好ましい態様において、切り込みの断面に食用油脂などを塗布することによって、切り込みの断面が結着して閉じてしまうことを抑制できる。例えば、切り込みを入れる器具、例えば、ハサミに食用油脂を塗布してから切り込みを入れると、パン生地がハサミにくっつきにくくなり作業性が向上するだけでなく、パン生地の切り込みの断面が食用油脂でコーティングされ、パン生地を蒸し上げる前に切り込みが閉じてしまうことを防ぐことができる。
【0020】
本発明において蒸しパンのパン生地は、公知の方法に基づいて原料を混捏して製造すればよく、発酵させてもさせなくてもよい。パン生地に使用する穀粉は、好ましくは小麦粉であり、強力粉を使用することが望ましい。小麦粉として強力粉を多く使用すると、蒸成後の蒸しパンは、弾力性が強く、歯ごたえのあるものとなる。強力粉の代わりに薄力粉および/または中力粉を使用してもよい。
【0021】
パン生地は、例えば、中種法で作成してもよく、また、直捏法(ストレート法)で作成してもよい。中種法でパン生地を作成する場合は、例えば、小麦粉をイーストや水などと混捏して中種を作成した上で、中種を小麦粉や水などの原料と混捏してパン生地を作成すればよい。中種に使用する小麦粉の量は特に制限されないが、例えば、蒸しパンに使用する全小麦粉量のうち30~90質量%を使用することができ、40~80質量%や50~70質量%としてもよい。
【0022】
パン生地には糖類を配合してもよく、糖類としては、例えば、白ざら糖、グラニュー糖、上白糖、加工糖(粉末または顆粒)などを好適に使用することができる。また、糖類の代替として糖アルコールを一部使用することもできる。一般に糖類の配合量が多くなると、蒸成後の蒸しパンが比較的脆くて噛みやすい食感となる傾向がある。糖類の添加量は特に制限されないが、例えば、穀粉に対して50%以上添加してもよく、80~140%添加してもよい。
【0023】
本発明に係るパン生地は、食感の観点からイーストによって膨化させることが好ましく、例えば、小麦粉に対して1~5質量%や2~4質量%のイーストを使用することができる。また、本発明に係るパン生地には化学膨張剤を使用してもよい。化学膨張剤には、ガス発生剤とガス発生促進剤(酸性剤)からなり、前者としては、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウムなどを含む群から選択される1種または2種以上、後者としては、酒石酸、酒石酸水素カリウム、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、第一リン酸カルシウム、リン酸一ナトリウム、酸性ピロリン酸ナトリウム、焼ミョウバン、焼アンモニウムミョウバン、グルコノ・デルタ・ラクトン、硫酸カルシウム、炭酸カルシウムなどを含む群から選択される1種または2種以上を任意に選択して使用することができる。化学膨張剤は、ガス発生剤とガス発生促進剤の組み合わせなどによって、いわゆる速効性剤、遅効性剤、中間性剤に分類することができるが、本発明においては、いずれの性質の化学膨張剤をも使用することができる。化学膨張剤を添加する量については特に制限されず、用途に応じて適宜調整すればよい。
【0024】
本発明に係るパン生地には、その他にも、例えば、液卵や卵白、乳化剤、食用油脂、乳製品、香料、着色料などを添加することができる。
フィリングを内包するパン生地の成形は公知の方法で行うことができ、装置を用いて包餡してもよいし、手作業で成形してもよい。本発明の一つの態様において、例えば、平板状にしたパン生地でフィリング(餡)を巻き込むことによって、フィリングを内包するパン生地を成形することができる。また、ベンチタイムをとってガス抜きなどをしてもよい。
【0025】
本発明の一つの態様において、フィリングを内包するパン生地のホイロをとる。ホイロ(最終発酵)の条件や方法は特に制限されないが、例えば、温度は30~60℃や40~50℃,相対湿度は30~70%や40~60%(乾ホイロ)といった条件で、30~120分間行なうことができる。
【0026】
本発明に係る蒸しパンは、フィリングを内包するパン生地を加熱して膨化させることによって製造される。蒸気を用いてパン生地を蒸し上げる条件は特に制限されず、例えば、80~110℃や90~100℃で蒸成することができる。蒸成に用いる装置は特に制限されないが、例えば、蒸しボックスなどを好適に使用することができる。また、蒸成時間も特に制限されないが、例えば、5~60分や10~30分とすることができる。
【0027】
以下、具体例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の具体例に限定されるものではない。また、本明細書において、特に記載しない限り、濃度などは質量(重量)基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【実施例0028】
実験1.フィリングを内包する蒸しパンの製造と評価
1-1.蒸しパンの製造
下表に示す原料配合に基づいてパン生地を製造した。まず、中種の原料を混ぜ合わせてからミキサー(機種名:CH3、関西久保長製)を用いて生地を混捏し(低速:3分間、高速:2分間、捏上温度:24℃)、混捏した生地を28℃で1時間30分発酵させて中種生地を得た。次いで、この中種生地に、下表に基づいて小麦粉、砂糖、塩、水を添加してからミキサーを用いて混捏し(低速:3分間、高速:4分間)、さらに油脂を添加した後に、再びミキサーでパン生地を混捏してパン生地を製造した(低速:3分間、高速:6分間、捏上温度:27℃)。
【0029】
【表1】
【0030】
次いで、表2に示すフィリング(約36g)を上記のパン生地(約45g)で包み込み、フィリングを内包するパン生地を成形した。
【0031】
【表2】
【0032】
このように成形したパン生地の上面に、図1に示すように、ハサミを用いて1~5の切り込みを斜めに入れた。この際、切り込みは、パン生地に内包されるフィリングに到達する深さまで入れた。また、比較例として、切り込みを入れないサンプルも準備した。
(サンプルA) 切り込みの数:0(図1右上、比較例)
(サンプルB) 切り込みの数:1(図1右下)
(サンプルC) 切り込みの数:2(図1左上)
(サンプルD) 切り込みの数:3(図1右中)
(サンプルE) 切り込みの数:4(図1左中)
(サンプルF) 切り込みの数:5(図1左下)
次いで、これらのパン生地を、温度45℃、湿度50%、75分間の条件で最終発酵(ホイロ)した。その後、蒸しボックスを用いて、約100℃の蒸気で14分間加熱して蒸しパンを製造した。
【0033】
1-2.蒸しパンの評価
上記のようにして製造した蒸しパンについて、製造から24時間経過後に、外観および断面を評価した。評価結果を下表に示すが、切り込みを入れなかった場合(サンプルA)と比較して、本発明に基づいて製造した蒸しパン(サンプルB~F)は、蒸しパン内部の空洞が小さく、蒸しパン内部に生じる空洞が顕著に抑制されていた(図2)。
【0034】
【表3】
図1
図2