IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NOK株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-動吸振器 図1
  • 特開-動吸振器 図2
  • 特開-動吸振器 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173156
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】動吸振器
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/126 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
F16F15/126 B
F16F15/126 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091385
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩沼 幸己
(57)【要約】
【課題】ハブ自体の振動を抑制することで消音機能を発揮させることのできる動吸振器を提供する。
【解決手段】内筒部110及び外筒部120を有し、内筒部110がクランクシャフト50に固定されるハブ100と、外筒部120の径方向外側にハブ100と同心的に設けられる振動リング200と、外筒部120と振動リング200との間に設けられる環状弾性体300と、を備える動吸振器10であって、ハブ100は、内筒部110と外筒部120に接続する第1ステー131と、内筒部110と外筒部120に接続する第2ステー132と、を有し、第1ステー131と第2ステー132は異方性を有することを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内筒部及び外筒部を有し、前記内筒部が軸部材に固定されるハブと、
前記外筒部の径方向外側に前記ハブと同心的に設けられる振動リングと、
前記外筒部と前記振動リングとの間に設けられる環状弾性体と、
を備える動吸振器であって、
前記ハブは、
前記内筒部と前記外筒部に接続する第1接続部と、
前記内筒部と前記外筒部に接続する第2接続部と、
を有し、
第1接続部と第2接続部は異方性を有することを特徴とする動吸振器。
【請求項2】
第1接続部と第2接続部はいずれも直線状に伸びるように構成されており、
第1接続部と第2接続部における前記直線状に伸びる方向に対して垂直方向の幅寸法について、前記軸部材における軸線方向の幅は、第2接続部の方が第1接続部よりも広く、前記軸線方向に見て、径方向に対して垂直方向の幅は、第1接続部の方が第2接続部よりも広いことを特徴とする請求項1に記載の動吸振器。
【請求項3】
第1接続部は、前記内筒部を介して直線状に一対設けられ、
第2接続部は、前記内筒部を介して直線状、かつ、前記軸部材における軸線方向に見て第1接続部と90°ずれるように一対設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の動吸振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動吸振器に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジン等に設けられるクランクシャフトにおいては、捩じり振動を低減するために動吸振器(トーショナルダンパー)が取り付けられるのが一般的である。このような動吸振器においては、クランクシャフトにおける捩じり振動の共振周波数で、振動リングなどの質量体が共振することでクランクシャフトの共振を抑制できるように、質量体の固有振動数が設定される。また、特許文献1には、捩じり振動を抑制するだけでなく、騒音を抑制する機能も兼ね備える技術が開示されている。この技術においては、ハブに消音機能を発揮させる空洞部が備えられる構成である。この構成においては、放射音の周波数に応じて、空洞部の容積や空洞部の開口部分の面積を設定する必要がある。そのため、動吸振器のサイズによっては、空洞部の容積及び開口部分の面積を消音機能を発揮させるように設定できないことがあり、汎用性に欠け、未だ改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-41684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ハブ自体の振動を抑制することで消音機能を発揮させることのできる動吸振器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0006】
すなわち、本発明の動吸振器は、
内筒部及び外筒部を有し、前記内筒部が軸部材に固定されるハブと、
前記外筒部の径方向外側に前記ハブと同心的に設けられる振動リングと、
前記外筒部と前記振動リングとの間に設けられる環状弾性体と、
を備える動吸振器であって、
前記ハブは、
前記内筒部と前記外筒部に接続する第1接続部と、
前記内筒部と前記外筒部に接続する第2接続部と、
を有し、
第1接続部と第2接続部は異方性を有することを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、第1接続部と第2接続部は異方性を有するため、ハブが軸方向に共振した際に、同時に、外筒部を同心的な変形とはならないように振動させることができる。これにより、環状弾性体に対して、強制的に圧縮と拡張を繰り返す動作を生じさせて、ハブ自体の振動を減衰させることができる。
【0008】
第1接続部と第2接続部はいずれも直線状に伸びるように構成されており、
第1接続部と第2接続部における前記直線状に伸びる方向に対して垂直方向の幅寸法について、前記軸部材における軸線方向の幅は、第2接続部の方が第1接続部よりも広く、前記軸線方向に見て、径方向に対して垂直方向の幅は、第1接続部の方が第2接続部より
も広いとよい。
【0009】
これにより、第1接続部と第2接続部に異方性を持たすことができる。
【0010】
第1接続部は、前記内筒部を介して直線状に一対設けられ、
第2接続部は、前記内筒部を介して直線状、かつ、前記軸部材における軸線方向に見て第1接続部と90°ずれるように一対設けられているとよい。
【0011】
これにより、軸線方向に対して垂直にハブを切断した断面形状において、ハブが共振した際に、同時に、外筒部が楕円形となるように外筒部は振動する。
【0012】
なお、上記各構成は、可能な限り組み合わせて採用し得る。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、ハブ自体の振動を抑制することで消音機能を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は本発明の実施例に係る動吸振器の正面図である。
図2図2は本発明の実施例に係る動吸振器の模式的断面図である。
図3図3は本発明の実施例に係る動吸振器のメカニズム説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0016】
(実施例)
図1図3を参照して、本発明の実施例に係る動吸振器について説明する。図1は本発明の実施例に係る動吸振器の正面図である。図2は本発明の実施例に係る動吸振器の模式的断面図であり、図1中のAA断面図である。図3は本発明の実施例に係る動吸振器のメカニズム説明図であり、ハブが共振した際の動吸振器を正面から見た様子を示す図である。
【0017】
<動吸振器(トーショナルダンパー)の構成>
図1及び図2を参照して、本実施例に係る動吸振器の構成について説明する。本実施例に係る動吸振器10は、軸部材としてのクランクシャフト50に固定されるハブ100と、ハブ100と同心的に設けられる振動リング200とを備えている。これらハブ100及び振動リング200は、金属により構成される。なお、本実施例においては、振動リング200の外周面には、補機などを駆動するためのベルト(不図示)が巻かれる位置に複数の環状の凹凸210が形成されている。ただし、本発明は、このような凹凸が備えられない振動リングにも適用可能である。
【0018】
ハブ100は、内筒部110及び外筒部120を有しており、内筒部110が、クランクシャフト50に対してボルト60により固定されることで、クランクシャフト50に動吸振器10が取り付けられる。なお、一般的に、クランクシャフトの外周面と内筒部の内周面には、それぞれに設けられたキー溝にキー(いずれも不図示)が差し込まれることによって、クランクシャフトに対して動吸振器が相対的に回転することが防止される。なお、図2においては、クランクシャフト50及びボルト60について、その外形の位置を点
線にて示している。
【0019】
また、動吸振器10においては、ハブ100の外筒部120と振動リング200との間に、環状弾性体300がハブ100と同心的に設けられている。この環状弾性体300は、ダンパー材料として優れたEPDMなどのゴム材料を好適に適用することができる。また、環状弾性体300は、例えば、加硫接着によって、外筒部120と振動リング200に固定することができる。
【0020】
<ハブの詳細>
ハブ100について、より詳細に説明する。ハブ100は、内筒部110と外筒部120に接続する第1接続部としての第1ステー131及び第2接続部としての第2ステー132を備えている。内筒部110、外筒部120、第1ステー131及び第2ステー132は一体に設けられている。
【0021】
そして、第1ステー131と第2ステー132は、異方性を有するように構成されている。本実施例においては、第1ステー131と第2ステー132は、寸法及び形状が異なるように構成されることで、異方性を有している。より具体的には、第1ステー131と第2ステー132はいずれも直線状に伸びるように構成されており、第1ステー131と第2ステー132における直線状に伸びる方向に対して垂直方向の幅寸法について、以下の関係を満たしている。すなわち、クランクシャフト50における軸線方向(回転軸線方向)の幅は、第2ステー132の方が第1ステー131よりも広くなるように構成されている(図2参照)。また、軸線方向に見て、径方向に対して垂直方向の幅は、第1ステー131の方が第2ステー132よりも広くなるように構成されている(図1参照)。
【0022】
第1ステー131は、内筒部110を介して直線状に一対設けられており、第2ステー132も、内筒部110を介して直線状に一対設けられている。軸線方向に見た場合、第1ステー131と第2ステー132は、90°ずれるように設けられている(図1参照)。
【0023】
<固有振動数(共振周波数)の設定>
本実施例に係る動吸振器10においては、クランクシャフト50が回転方向(捩じり方向)に共振する周波数の振動が伝わると、振動リング200が振動することによって、クランクシャフト50の共振が抑制される。すなわち、本実施例に係る動吸振器10においては、クランクシャフト50における回転方向の振動に対して、クランクシャフト50の共振を抑制するように、振動リング200は設計されている(固有振動数が設定されている)。
【0024】
一般的に、振動リングの回転方向の共振周波数は概ね300~600Hzとなることが多い。一方、振動リングは軸線方向にも共振し、周波数は捩じり振動と同程度の数百Hzとなる。また、一般的に、ハブから放射される騒音はハブの軸方向のローカル共振が問題となる場合が多く、その周波数は数千Hzと高周波である。一般的には、このとき、振動リングは防振領域にあるため、空間に静止しようとする。静止する振動リングと、共振するハブとの間で環状弾性体が軸線方向に剪断変形するように振動することで、減衰効果が発揮され、反作用としてハブの嵌合部を制振する機能が発揮される。
【0025】
本実施例に係る動吸振器10においては、この機能をより一層発揮させるために、軸線方向以外のローカル共振モードに着目して、ハブ100が工夫されている。すなわち、ハブ100の軸線方向の共振周波数が、ハブ100において軸線方向の共振が発生する周波数域となるように、第1ステー131と第2ステー132の形状及び寸法が設計される。上記の通り、第1ステー131と第2ステー132は、寸法及び形状が異なるように構成
されており、これらに異方性を持たせている。
【0026】
これにより、ハブ100の軸線方向の共振時においては、同時に、図3に示すように、外筒部120は楕円形となるように振動する。図3では、外筒部120が最も圧縮した際の端部の様子を実線で示し、点線は振動前の状態を示している。なお、軸線方向に対して垂直にハブ100を切断した断面形状において、ハブ100が軸線方向に共振した際に、同時に外筒部120は楕円形となるように振動するが、切断面の位置によって、楕円形の形状及び寸法は異なる。
【0027】
<本実施例に係る動吸振器の優れた点>
本実施例に係る動吸振器10によれば、振動リング200によって、クランクシャフト50の捩じり振動を抑制することができる。また、ハブ100は、上記のように構成される第1ステー131及び第2ステー132を備える構成が採用されることで、軸方向共振時に、軸線方向に見て楕円形のローカル共振が同時に発生する。これにより、環状弾性体300は、圧縮と拡張を繰り返すような動作が強制的に行われ、減衰効果が発揮される。従って、ハブ100自体の振動を抑制することができる。その結果、消音機能が発揮され、ハブ100の振動に伴う騒音を抑制することができる。
【0028】
なお、本実施例においては、第1ステー131及び第2ステー132を上記のように構成することで、ハブ100は、軸方向共振時に、軸線方向に見て楕円形のローカル共振が同時に発生する場合の構成を示した。しかしながら、本発明は、必ずしも、このような構成には限定されない。すなわち、異方性を有する2種類のステー(寸法及び形状の異なる2種類のステー)を設けることで、ハブが軸線方向に共振した際に、外筒部を同心的な変形とはならないように振動させることができる。これにより、環状弾性体に対して、圧縮と拡張を繰り返す動作を強制的に生じさせて、ハブ自体の振動を減衰させることができる。また、上記実施例においては、動吸振器がクランクシャフトに適用される場合を示したが、本発明の動吸振器は、各種装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0029】
10:動吸振器
100:ハブ
110:内筒部
120:外筒部
131:第1ステー
132:第2ステー
200:振動リング
210:凹凸
300:環状弾性体
50:クランクシャフト
60:ボルト
図1
図2
図3