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特開2024-173160窒化ホウ素含有粉末、放熱フィラー、及び、樹脂組成物
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  • 特開-窒化ホウ素含有粉末、放熱フィラー、及び、樹脂組成物 図1
  • 特開-窒化ホウ素含有粉末、放熱フィラー、及び、樹脂組成物 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173160
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】窒化ホウ素含有粉末、放熱フィラー、及び、樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/064 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
C01B21/064 M
C01B21/064 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091390
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】竹田 豪
(72)【発明者】
【氏名】犬飼 英志
(72)【発明者】
【氏名】谷口 佳孝
(57)【要約】
【課題】比較的低い充填量で樹脂に配合して放熱シートを調製した際に、放熱性に優れる放熱シートを製造可能な窒化ホウ素含有粉末を提供すること。
【解決手段】本開示の一側面は、窒化ホウ素で構成される多孔質状の顆粒を含み、粒子径が50~500μmであり、比表面積が400m/g以上である、窒化ホウ素含有粉末を提供する。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ホウ素で構成される多孔質状の顆粒を含み、
平均粒子径が50~500μmであり、比表面積が400m/g以上である、窒化ホウ素含有粉末。
【請求項2】
前記顆粒の全酸素量が6.5質量%以上である、請求項1に記載の窒化ホウ素含有粉末。
【請求項3】
前記顆粒の圧壊強さが1.0MPa以上である、請求項1又は2に記載の窒化ホウ素含有粉末。
【請求項4】
体積基準の累積粒度分布曲線における10%累積径が40μm以上であり、且つ90%累積径が700μm以下である、請求項1又は2に記載の窒化ホウ素含有粉末。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の窒化ホウ素含有粉末の焼成物であり、黒鉛化指数が2.0以下である、放熱フィラー。
【請求項6】
樹脂と、請求項5に記載の放熱フィラーと、を含む樹脂組成物。
【請求項7】
前記放熱フィラーの含有量が、樹脂組成物の全体積を基準として、20~40体積%である、請求項6に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化ホウ素含有粉末、放熱フィラー、及び、樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
六方晶窒化ホウ素の一次粒子は、比較的薄い鱗片形状を有しており、樹脂等に充填し成形した場合、成形圧力等によって一次粒子が一定の方向に配向しやすい傾向にある。例えば、六方晶窒化ホウ素の粉末を充填し、押出成形等によってシート状に成形した樹脂シートでは、一般に樹脂シートの主面と、窒化ホウ素の一次粒子の長軸とが平行になるように配向しやすい。また六方晶窒化ホウ素の一次粒子は形状の異方性に起因し、各種物性にも異方性が生じ得る。六方晶窒化ホウ素の一次粒子の面内方向(a軸方向)の熱伝導率が400W/(m・K)程度と高いのに対して、厚さ方向(c軸方向)の熱伝導率は2W/(m・K)程度に留まり、その方向による物性の異方性が顕著である。
【0003】
上述の理由から、六方晶窒化ホウ素の粉末を樹脂への充填材として利用して放熱シートを調製する際に、上記一次粒子のa軸方向と、放熱シートの厚さ方向とが平行となるように調整することによって、上記一次粒子のa軸方向における高い熱伝導率を活かす方法が検討されている。例えば、六方晶窒化ホウ素の一次粒子のa軸方向と放熱シートの厚み方向とが平行になるように配向させる技術が知られている(例えば、特許文献1等)。
【0004】
また上述のような形状に基づく異方性を低減する観点から、多数の一次粒子をc軸方向が互いに異なる方向を向くように凝集させ融着させた凝集体を形成する方法が検討されている。特許文献2では、窒化ホウ素一次粒子が凝集してなる窒化ホウ素凝集粒子が開示されており、所定の成形圧力を加えた場合でも凝集粒子の崩壊が抑制できる程度に上記凝集粒子の強度を高めることによって、窒化ホウ素一次粒子が同一方向に揃って配向することを抑制する旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-154265号公報
【特許文献2】特開2016-135731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
絶縁フィラー、放熱フィラー等のフィラーを充填した樹脂シートを調製する場合、フィラーの充填率が高いほど樹脂シートの製造コストが上昇する。従来の樹脂シートに比べてフィラーの充填量を低減しつつ、従来の樹脂シートと同等の特性(例えば、絶縁性、放熱性等の特性)を達成することができれば、樹脂シートの需要増大を望むことができる。またそのような樹脂シートの製造に適した放熱フィラーがあれば、有用である。
【0007】
本開示は、比較的低い充填量で樹脂に配合して放熱シートを調製した際に、放熱性に優れる放熱シートを製造可能な窒化ホウ素含有粉末及び放熱フィラーを提供することを目的とする。本開示はまた、上述のような放熱フィラーを含有する樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、以下の[1]~[7]を提供する。
【0009】
[1] 窒化ホウ素で構成される多孔質状の顆粒を含み、
粒子径が50~500μmであり、比表面積が400m/g以上である、窒化ホウ素含有粉末。
[2] 前記顆粒の全酸素量が6.5質量%以上である、[1]に記載の窒化ホウ素含有粉末。
[3] 前記顆粒の圧壊強さが1.0MPa以上である、[1]又は[2]に記載の窒化ホウ素含有粉末。
[4] 体積基準の累積粒度分布曲線における10%累積径が40μm以上であり、且つ90%累積径が700μm以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の窒化ホウ素含有粉末。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の窒化ホウ素含有粉末の焼成物であり、黒鉛化指数が2.0以下である、放熱フィラー。
[6] 樹脂と、[5]に記載の放熱フィラーと、を含む樹脂組成物。
[7] 前記放熱フィラーの含有量が、樹脂組成物の全体積を基準として20~40体積%である、[6]に記載の樹脂組成物。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、比較的低い充填量で樹脂に配合して放熱シートを調製した際に、放熱性に優れる放熱シートを製造可能な窒化ホウ素含有粉末及び放熱フィラーを提供できる。本開示によればまた、上述のような放熱フィラーを含有する樹脂組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本開示に係る放熱フィラーの製造方法を説明するための模式図である。
図2図2は、放熱シートの一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0013】
本明細書において例示する材料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0014】
窒化ホウ素含有粉末の一実施形態は、窒化ホウ素で構成される多孔質状の顆粒を含む。上記窒化ホウ素含有粉末は、平均粒子径が50~500μmであり、比表面積が400m/g以上である。ここで顆粒とは、粒子径が50μm以上の窒化ホウ素粒子の一次粒子が、複数個含まれる集合体であることを意味する。
【0015】
本開示に係る窒化ホウ素含有粉末は、窒化ホウ素で構成される顆粒を含む粉末である。当該顆粒が多孔質状を有し、粉末の平均粒子径が所定範囲となっていることから、上記粉末は比表面積に優れる。このような顆粒を原料とすることで、その後の焼成によって窒化ホウ素の結晶性を高め、六方晶窒化ホウ素の一次粒子で構成される凝集粒子とした際に、当該凝集粒子の密度の上昇を抑制することができる。従来の六方晶窒化ホウ素の一次粒子で構成される凝集粒子の製造方法では、比較的緻密な構造の凝集粒子となるため、後述する本開示に係る放熱フィラーのような空隙の多い、凝集粒子を得ることは困難である。上記窒化ホウ素含有粉末は、窒化ホウ素の他にその他の成分を含んでもよい。その他の成分は、例えば、酸化ホウ素等の酸化物、及び有機バインダーなどの添加剤であってよい。
【0016】
上記窒化ホウ素含有粉末は、体積基準の累積粒度分布曲線における10%累積径(D10)は、例えば、20μm以上、30μm以上、40μm以上、又は40μm超であってよい。上記D10の下限値が上記範囲内であることで、窒化ホウ素含有粉末の取扱い性が向上し、当該粉末を焼成することによって得られる放熱フィラーに高い放熱特性を期待し得る。上記D10の上限値は、例えば、500μm以下、400μm以下、又は300μm以下であってよい。上記D10の上限値が上記範囲内であることで、当該粉末を焼成することによって得られる放熱フィラーについて、使用する樹脂シート厚みに対する適切な粒径のフィラーを提供し得る。上記D10は上述の範囲内で調整してよく、例えば、20~500μm、30~400μm、又は40~300μmであってよい。
【0017】
上記窒化ホウ素含有粉末は、体積基準の累積粒度分布曲線における50%累積径(D50、平均粒子径)の下限値は、50μm以上であるが、例えば、60μm以上、70μm超、75μm以上、80μm以上、100μm以上、150μm以上、200μm以上、又は220μm以上であってよい。上記D50の下限値が上記範囲内であることで、窒化ホウ素含有粉末の取扱い性が向上し、当該粉末を焼成することによって得られる放熱フィラーに高い放熱特性を期待し得る。上記D50の上限値は、500μm以下であるが、例えば、450μm以下、又は400μm以下であってよい。上記D50の上限値が上記範囲内であることで、当該粉末を焼成することによって得られる放熱フィラーについて、使用する樹脂シート厚みに対する適切な粒径のフィラーを提供し得る。上記D50は上述の範囲内で調整してよく、例えば、50~500μm、80~500μm、100~450μm、又は200~400μmであってよい。
【0018】
上記窒化ホウ素含有粉末は、体積基準の累積粒度分布曲線における90%累積径(D90)は、例えば、例えば、60μm以上、70μm超、80μm以上、90μm以上、100μm以上、150μm以上、200μm以上、又は220μm以上であってよい。上記D90の下限値が上記範囲内であることで、窒化ホウ素含有粉末の取扱い性が向上し、当該粉末を焼成することによって得られる放熱フィラーに高い放熱特性を期待し得る。上記D90の上限値は、例えば、700μm以下、650μm以下、又は600μm以下であってよい。上記D90の上限値が上記範囲内であることで、当該粉末を焼成することによって得られる放熱フィラーについて、使用する樹脂シート厚みに対する適切な粒径のフィラーを提供し得る。上記D90は上述の範囲内で調整してよく、例えば、60~700μm、70~650μm、80~600μm、100~600μm、200~600μm、又は220~600μmであってよい。
【0019】
上記窒化ホウ素含有粉末は、体積基準の累積粒度分布曲線における10%累積径が40μm以上であり、且つ90%累積径が700μm以下であってよく、体積基準の累積粒度分布曲線における10%累積径が40μm以上であり、且つ90%累積径が650μm以下であってよい。
【0020】
本明細書における窒化ホウ素含有粉末及び後述する放熱フィラーについての、D10、D50、及びD90は、JIS Z 8825:2013「粒子径解析-レーザー回折・散乱法」に記載の方法に準拠して測定した値を意味する。測定には、レーザー回折散乱法粒度分布測定装置を使用する。なお、測定の際はホモジナイザーによる処理を行わずに、凝集粒子が存在する状況で測定を行うものとする。レーザー回折散乱法粒度分布測定装置としては、例えば、ベックマンコールター社製の「LS-13 320」(商品名)、及びマイクロトラック・ベル社製のマイクロトラック「MT-3300EXII」(商品名)等を使用できる。
【0021】
本開示に係る窒化ホウ素含有粉末は大きな比表面積(BET比表面積)を有し、比表面積は400m/g以上である。上記比表面積の下限値は、例えば、450m/g以上、又は500m/g以上であってよい。上記比表面積の下限値が上記範囲内であることで、窒化ホウ素含有粉末を焼成することによって得られる放熱フィラーを空隙の多いものとすることができ、放熱フィラーの充填量が比較的低い領域において高い熱伝導化を期待し得る六方晶窒化ホウ素を含む放熱フィラーを提供し得る。上記比表面積の上限値は、特に制限されるものではないが、例えば、1600m/g以下、1300m/g以下、又は1100m/g以下であってよい。上記比表面積は上述の範囲内で調整してよく、例えば、400~1600m/g、又は500~1100m/gであってよい。
【0022】
本明細書における比表面積は、JIS Z 8830:2013「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」の記載に準拠し、比表面積測定装置を用い測定される値を意味し、窒素ガスを使用したBET一点法を適用して算出される値である。比表面積測定装置としては、例えば、QUANTACHROME社製の「MONOSORB MS-22型」(商品名)等を使用することができる。
【0023】
上記窒化ホウ素含有粉末に含まれる顆粒は、取扱い性の向上や使用時に粒子径が崩壊することをより十分に抑制する観点から、その強度が調整されてよい。上記顆粒の圧壊強さの下限値は、例えば、1.0MPa以上、1.5MPa以上、2.0MPa以上、又は2.5MPa以上であってよい。上記顆粒の圧壊強さの下限値が上記範囲内であることで、窒化ホウ素含有粉末を焼成することによって得られる放熱フィラーにおいて、六方晶窒化ホウ素で構成される凝集粒子が崩壊せず、顆粒体形状を有する放熱フィラーを提供し得る。上記顆粒の圧壊強さの上限値は、例えば、50MPa以下、45MPa以下、又は40MPa以下であってよい。上記顆粒の圧壊強さの上限値が上記範囲内であることで、窒化ホウ素含有粉末を焼成することによって得られる放熱フィラー(粉末)における、顆粒体の弾性がより適度なものとなり、当該放熱フィラーを樹脂に配合し樹脂シートに成形した場合であっても、十分な絶縁特性を期待し得る。上記顆粒の圧壊強さは上述の範囲内で調整してよく、例えば、1.0~50MPa、2~40MPa、又は2.5~40MPaであってよい。
【0024】
本明細書における圧壊強さは、JIS R 1639-5:2007「ファインセラミックス-か(顆)粒特性の測定方法-第5部:単一か粒圧壊強さ」の記載に準拠して測定される値を意味する。顆粒1個の圧壊強さσ(単位:MPa)は、顆粒内の位置によって変化する無次元数α(α=2.48)、圧壊試験力P(単位:N)及び粒子径d(単位:μm)の値から、σ=α×P/(π×d)という式を用いて算出される。測定は、20個以上の顆粒に対して行い、累積破壊率63.2%時点の値を算出するものとする。測定には、微小圧縮試験器を用いることができる。微小圧縮試験器としては、例えば、株式会社島津製作所製の「MCT-210」(商品名)等を使用することができる。
【0025】
窒化ホウ素含有粉末における上記顆粒の全酸素量の下限値は、例えば、6.5質量%以上、7.5質量%以上、8.0質量%以上、であってよい。上記全酸素量の下限値が上記範囲内であることで、窒化ホウ素含有粉末を焼成することによって得られる放熱フィラーがより結晶性に優れたものとなり得る。窒化ホウ素含有粉末における上記顆粒の全酸素量の上限値は、例えば、25質量%以下、23質量%以下、又は20質量%以下であってよい。上記全酸素量の上限値が上記範囲内であることで、窒化ホウ素含有粉末を焼成することによって得られる六方晶窒化ホウ素の収率を高めることができる。上記全酸素量は上述の範囲内で調整してよく、例えば、6.5~25質量%、又は8.0~20質量%であってよい。
【0026】
本明細書における全酸素量は、窒化ホウ素で構成される顆粒0.02gに対して、酸素/窒素同時分析装置を用いて測定される値を意味する。酸素/窒素同時分析装置としては、例えば、株式会社堀場製作所製の酸素・窒素分析装置「EMGA-920」(商品名)等を用いることができる。
【0027】
本開示に係る窒化ホウ素含有粉末は、顆粒を構成する窒化ホウ素の結晶化の進行を敢えて抑制することによって、比表面積を調整したものとなっている。
【0028】
窒化ホウ素含有粉末は、窒化ホウ素の結晶化の進行が抑制されていることから、X線解析を行った場合、高結晶性の窒化ホウ素とは異なりX線回折スペクトルにおけるピークが広がる傾向となり得る。X線回折スペクトルにおける(002)面に対応するピークの半値幅の下限値は、2θの角度で、例えば、1.5°以上、2.0°以上、又は2.5°以上であってよい。上記半値幅の下限値が上記範囲内であることは、窒化ホウ素粉末中の窒化ホウ素の結晶性が低いことに対応する。この場合、より比表面積の大きな窒化ホウ素で顆粒が構成され、窒化ホウ素含有粉末を焼成して得られる放熱フィラーを空隙の多いものとすることができ、放熱フィラーの充填量が比較的低い領域において高い熱伝導化を期待できる放熱フィラーを提供し得る。X線回折スペクトルにおける(002)面に対応するピークの半値幅の上限値は、2θの角度で、例えば、10°以下、9°以下、又は8°以下であってよい。上記半値幅の上限値が上記範囲内であることで、窒化ホウ素含有粉末を焼成して得られる放熱フィラーを空隙の多いものとすることができ、放熱フィラーの充填量が比較的低い領域において高い熱伝導化を期待できる放熱フィラーを提供し得る。上記半値幅は上述の範囲内で調整してよく、例えば、1.5~10°、又は2.5~8°であってよい。
【0029】
本明細書における(002)面に対応するピークの半値幅は、以下の方法に沿って測定される値を意味する。まず、窒化ホウ素含有粉末に対するX線回折測定を行うことによって、窒化ホウ素含有粉末のX線回折スペクトルを取得する。次に、本明細書において半値幅は、半値全幅(Full Width at Half Maximum:FWHM)を意味し、上記X線回折スペクトルから決定することができる。X線回折装置としては、例えば、株式会社リガク製の「ULTIMA-IV」(製品名)等を使用することができる。
【0030】
窒化ホウ素含有粉末における炭素量は、特に限定されるものではないが、例えば、0.1~10質量%、0.3~9質量%、又は0.5~10質量%であってよい。窒化ホウ素含有粉末中の窒化ホウ素で構成される顆粒における炭素量(不純物炭素量)は、特に限定されるものではないが、例えば、0.1~10質量%、0.3~9質量%、又は0.5~10質量%であってよい。
【0031】
本明細書における炭素量は、炭素/硫黄同時分析装置によって測定される値を意味する。炭素/硫黄同時分析装置としては、例えば、LECO社製の「IR-412型」(製品名)等を使用できる。
【0032】
窒化ホウ素含有粉末の製造方法の一例は、ホウ酸を含むホウ素含有化合物及びメラミンを含む窒素含有化合物を含有する原料組成物を成形し、不活性ガス及びアンモニアガスの少なくとも一方を含む雰囲気中、750℃超1500℃以下で焼成して低結晶性の窒化ホウ素を含む焼成物を得る工程(以下、焼成工程ともいう)と、上記焼成物を粉砕し、比表面積が400m/g以上である窒化ホウ素粉末を得る工程(以下、粉砕工程ともいう)と、を有する。かかる製造方法によって得られる窒化ホウ素含有粉末は、窒化ホウ素粉末それ自体単独で使用してもよく、例えば、炭素材料と混合してもよい。
【0033】
上記製造方法では、原料組成物を成形し、得られる成形体を焼成対象とすることで、原料密度の高い状況下で焼成することができる。そして、比較的緩やかな条件で加熱処理することによって、ホウ素含有化合物等の分解物が揮発されていく過程で、成形体が多孔質状となる。焼成の温度を低くし窒化ホウ素の結晶化を抑制し、粒成長を抑制させること、並びに、成形体の形状及び焼成物の粉砕の過程で粒度を調整し、所望の比表面積を有する粉末に調整することが可能となっている。このような観点から、上記製造方法における焼成工程は、複数回の焼成は避け、一回の焼成工程によって行うことが望ましい。
【0034】
ホウ素含有化合物は、構成元素としてホウ素原子を有する化合物である。ホウ素含有化合物は、ホウ酸に加えて、例えば、酸化ホウ素及びホウ砂等を更に含んでもよい。窒素含有化合物は、構成元素として窒素原子を有する化合物であり、有機化合物であってよい。窒素含有化合物は、メラミンに加えて、例えば、ジシアンジアミド及び尿素等を更に含んでもよい。原料組成物は、上記化合物以外の成分を含んでもよい。例えば、焼結助剤として炭酸リチウム及び炭酸ナトリウムなどの炭酸塩を含んでよい。また、炭素等の還元性物質を含んでよい。
【0035】
上記原料組成物において、ホウ素含有化合物及び窒素含有化合物の配合比は、ホウ素原子と窒素原子のモル比に基づいて調整してよく、例えば、ホウ素原子:窒素原子=2:8~8:2となるように配合してよく、3:7~7:3となるように配合してもよい。
【0036】
原料組成物の成形は、例えば、プレス成形機等によって行うことができる。成形によって得られる成形体の形状は特に限定されるものではなく、例えば、ペレット状、ブリケット状、及びタブレット状等であってよい。
【0037】
焼成工程では、上述の原料組成物を、例えば、電気炉を用いて焼成して焼成物を得る。焼成工程は、不活性ガス及びアンモニアガスの少なくとも一方を含む雰囲気中で行う。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、希ガス等が挙げられる。希ガスは、例えば、ヘリウムガス及びアルゴンガス等であってよい。焼成工程は、不活性ガス及びアンモニアガスを混合した混合ガス雰囲気中で行ってよい。
【0038】
焼成温度は、例えば、750℃超1300℃以下、800~1300℃、800~1200℃、900~1300℃、900~1250℃、又は900~1100℃であってよい。焼成時間は、例えば、0.5~5時間、又は1~4時間であってよい。
【0039】
焼成によって得られる焼成物は、低結晶性の窒化ホウ素、及び非晶質の窒化ホウ素からなる群より選ばれる少なくとも一方を含んでよい。焼成物は、本開示の趣旨に反しない範囲で、六方晶窒化ホウ素を更に含んでもよい。
【0040】
粉砕工程では、焼成工程で得られた焼成物を粉砕し、粒度を調整する。粉砕には、例えば、粉砕装置を用いてもよい。粉砕装置としては、例えば、衝撃式粉砕機(パルぺライザー)等を用いてもよい。衝撃式粉砕機は、例えば、衝撃型スクリーン式微粉砕機等のスクリーンによって粉砕物の粒度調整が可能なものを好適に用いることができる。スクリーンの目開きは、例えば、5~15mmであってよい。
【0041】
上記製造方法は、上記窒化ホウ素粉末を、大気雰囲気下で、400~750℃で加熱処理する工程(酸化処理工程)を更に有してもよい。このような処理を行い、窒化ホウ素粉末に含まれる顆粒の表面に存在する官能基を酸化させることによって安定化できる。上記加熱処理の温度は、例えば、500~750℃、500~650℃、又は500~600℃であってよい。
【0042】
上記製造方法では、焼成工程及び粉砕工程を含むが、放熱フィラー等に用いる高結晶性の窒化ホウ素を製造する方法などで行われる、高温での焼成することによって結晶化を促進させるための高温焼成工程、構造欠陥を低減するために行われるアニール工程、並びに、不純物の除去を目的とした酸処理工程は行わないことが望ましい。
【0043】
本開示に係る窒化ホウ素含有粉末は、窒化ホウ素の結晶化の進行を敢えて抑制し、所定サイズの顆粒を含むように調製されたものとなっている。当該顆粒は更に焼成することで、内部の窒化ホウ素の結晶化度をより高め、六方晶窒化ホウ素の一次粒子とすることが可能である。本開示に係る窒化ホウ素含有粉末は、更に焼成することによって、結晶性を高めて、放熱フィラーを調製する原料として使用できる。すなわち本開示は、上述の窒化ホウ素含有粉末の焼成物である、放熱フィラーを提供するということもできる。
【0044】
また、上述のような六方晶窒化ホウ素の原料成分は、各顆粒に含まれる窒化ホウ素等の成分となるため、原料成分の量が顆粒単位に制限されているということもできる。これによって、得られる放熱フィラーを構成する六方晶窒化ホウ素の一次粒子のサイズ及び量を調整することが可能であり、従来の製法では調製が困難であった空隙の大きな放熱フィラーを調製することが可能となり得る。
【0045】
図1は、本開示に係る放熱フィラーの製造方法を説明するための模式図である。図1の(a)は、窒化ホウ素含有粉末中の顆粒10の模式図であり、図1の(b)は、(a)に示した顆粒10を焼成処理して得られる放熱フィラー20の模式図である。顆粒10は、主として窒化ホウ素1で構成されてよい。放熱フィラー20は、六方晶窒化ホウ素の一次粒子2が複数集合したような形態を有する。放熱フィラー20は、複数の一次粒子2の間に空隙4が形成され、この空隙が比較的大きな割合を占めた粒子となっている。なお、図1は模式図であるため、放熱フィラー20を構成する一次粒子2の一部を図示することで簡略化したものである。
【0046】
放熱フィラーの製造方法の一実施形態は、上述の窒化ホウ素含有粉末を焼成することを含む。窒化ホウ素含有粉末は上述の方法で調整してもよい。すなわち、放熱フィラーの製造方法は、ホウ酸を含むホウ素含有化合物及びメラミンを含む窒素含有化合物を含有する原料組成物を成形し、不活性ガス及びアンモニアガスの少なくとも一方を含む雰囲気中、750℃超1500℃以下で焼成して低結晶性の窒化ホウ素を含む焼成物を得る工程(焼成工程)と、上記焼成物を粉砕し、比表面積が400m/g以上である窒化ホウ素粉末を得る工程(粉砕工程)と、上記窒化ホウ素粉末を焼成する工程(第二焼成工程)と、を有してもよい。
【0047】
第二焼成工程は、例えば、不活性ガス及びアンモニアガスの少なくとも一方を含む雰囲気中、1600~2000℃の温度で焼成する工程であってよい。
【0048】
第二焼成工程における不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、希ガス等が挙げられる。希ガスは、例えば、ヘリウムガス及びアルゴンガス等であってよい。第二焼成工程は、不活性ガス及びアンモニアガスを含む混合ガス雰囲気中で行ってよい。
【0049】
第二焼成工程における焼成温度は、1600~2000℃である。この焼成温度は、1650~1950℃であってよく、1650~1900℃であってもよい。第二焼成工程における焼成時間は、例えば0.5~5時間であってよく、1~4時間であってもよい。
【0050】
本開示に係る放熱フィラーにおける六方晶窒化ホウ素の一次粒子は結晶性が高いものとなっている。上記一次粒子の黒鉛化指数の上限値は、例えば、2.0以下であってよい。上記黒鉛化指数の上限値が上記範囲内である六方晶窒化ホウ素粉末の一次粒子は、不純物の含有量が抑制され、結晶性に優れるものであることから、放熱性により優れたものとなり得る。上記一次粒子の黒鉛化指数の下限値は、例えば、1.0以上、1.2以上、又は1.3以上であってよい。上記黒鉛化指数の下限値が上記範囲内であることで、高い放熱特性を発揮し得る。上記一次粒子の黒鉛化指数は上述の範囲内で調整してよく、例えば、1.0~2.0、又は1.3~2.0であってよい。
【0051】
本明細書における黒鉛化指数(Graphitization Index:G.I.ということもある)は、黒鉛の結晶性の程度を示す指標値としても知られている指標である(例えば、J.Thomas,et.al,J.Am.Chem.Soc.84,4619(1962)等)。黒鉛化指数は、六方晶窒化ホウ素の一次粒子を含む上記粉末に対する粉末X線回折法で測定したスペクトルに基づき算出する。まず、X線回折スペクトルにおいて、六方晶窒化ホウ素の一次粒子の(100)面、(101)面及び(102)面に対応する各回折ピークの積分強度(すなわち、各回折ピーク)とそのベースラインとで囲まれる面積値(単位は任意)を算出し、それぞれS100、S101、及びS102とする。算出された面積値を用いて、以下の式(1)に基づいて、黒鉛化指数を決定する。
GI=(S100+S101)/S102・・・式(1)
【0052】
本開示に係る放熱フィラーは、体積基準の累積粒度分布曲線における50%累積径(D50、平均粒子径)の下限値が、例えば、50μm以上、60μm以上、70μm以上、又は80μm以上であってよい。上記D50の下限値が上記範囲内であることで、放熱フィラーの取扱い性が向上し、より高い放熱性を発揮し得る。上記D50の上限値は、例えば、500μm以下、450μm以下、又は400μm以下であってよい。上記D50の上限値が上記範囲内であることで、使用する樹脂シート厚みに対する適切な粒径のフィラーを提供し得る。上記D50は上述の範囲内で調整してよく、例えば、50~500μm、又は60~400μmであってよい。
【0053】
本開示に係る放熱フィラーは、比較的空隙が多く、比表面積(BET比表面積)が大きなものとなっている。放熱フィラーの比表面積の下限値は、例えば、2m/g以上、3m/g以上、又は4m/g以上であってよい。上記比表面積の下限値が上記範囲内であることで、放熱フィラーを構成する顆粒体中の空隙が大きくなりすぎることを抑制し得る。上記比表面積の上限値は、例えば、15m/g以下、13m/g以下、又は10m/g以下であってよい。上記比表面積の上限値が上記範囲内であることで、樹脂と混練する際に調製されるスラリーの粘度上昇をより十分に抑制し、低粘度化を期待し得る。上記比表面積は上述の範囲内で調整してよく、例えば、2~15m/g、又は3~10m/gであってよい。
【0054】
樹脂組成物の一実施形態は、樹脂と、上述の放熱フィラーと、を含む。
【0055】
上記樹脂は、例えば、液晶ポリマー、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、アクリル樹脂、ポリオレフィン(ポリエチレン等)、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変性樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、AAS(アクリロニトリル-アクリルゴム・スチレン)樹脂、及びAES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム-スチレン)樹脂等が挙げられる。
【0056】
上述の放熱フィラーは、六方晶窒化ホウ素の一次粒子の密度が低く、少量添加で放熱シート等を調製した際の放熱シートの熱伝導率向上効果に優れ得る。上記放熱フィラーの含有量の上限値は、樹脂組成物の全体積を基準として、例えば、40質量%以下、38質量%以下、又は35質量%以下であってよい。上記放熱フィラーの含有量の上限値を上記範囲内とすることで、放熱シートの製造コストの上昇をより抑制し、またより優れた絶縁特性を期待し得る。上記放熱フィラーの含有量の下限値は、樹脂組成物の全体積を基準として、例えば、20質量%以上、又は25質量%以上であってよい。上記放熱フィラーの含有量の下限値を上記範囲内とすることで、より優れた放熱性を発揮する放熱シートを製造し得る。上記放熱フィラーの含有量は上述の範囲内で調整してよく、樹脂組成物の全体積を基準として、例えば、20~40体積%、又は25~35体積%であってよい。
【0057】
樹脂組成物は、樹脂及び放熱フィラーに加えて、上記樹脂を硬化させる硬化剤を更に含有してよい。硬化剤は、樹脂の種類によって適宜選択することができる。樹脂がエポキシ樹脂である場合、硬化剤としては、例えば、フェノールノボラック化合物、酸無水物、アミノ化合物、及びイミダゾール化合物等が挙げられる。硬化剤の含有量の下限値は、樹脂100質量部に対して、例えば、0.5質量部以上、又は1質量部以上であってよい。硬化剤の含有量の上限値は、樹脂100質量部に対して、例えば、15質量部以下、又は10質量部以下であってよい。
【0058】
上記樹脂組成物は、成形、硬化等して使用することができる。硬化物の一実施形態は、硬化樹脂と、上述の窒化ホウ素粉末と、を含有する、樹脂組成物の硬化物である。硬化物の形状は、特に限定されるものではなく、ブロック状、シート状、又はフィルム状であってよい。シート状の硬化物(シート)の場合、シートの厚さは、例えば、0.5mm以下、0.2mm以下、又は0.1mm以下であってよい。上記シートは、比較的粒子径の小さい、上述の窒化ホウ素を含むものであることから、比較的薄膜のシートを作製できる。上述の硬化物は、上述の放熱フィラーを含むことから、例えば、放熱部材等に有用である。
【0059】
図2は、放熱シートの一例を示す模式断面図である。図2の(a)は、本開示に係る放熱シート(シート状の硬化物の一例)100を示し、放熱シート100は、上述の放熱フィラー20と、硬化樹脂30とからなる。本開示に係る放熱フィラー20は、空隙が多く、低密度であることから、放熱シート全体に比較的均一に六方晶窒化ホウ素の一次粒子を供給することができる。例えば、六方晶窒化ホウ素の一次粒子の凝集体で、放熱フィラーとして知られている高密度の凝集体(従来の放熱フィラー50)を使用して、シート全体に占める窒化ホウ素の割合を上記放熱シート100と一致させたシートを構成した場合の放熱シート500のイメージを図2の(b)に示す。図2の(a)及び(b)で示されるように、放熱フィラーとして、六方晶窒化ホウ素の一次粒子の密度の小さな凝集体を用いることによって、シート全体としてみたときの放熱フィラーの偏りをより抑制することが可能であり、放熱フィラーの充填量が比較的小さな領域から、放熱フィラーの添加効果、すなわち放熱シートの熱伝導率の向上効果を期待し得る。
【0060】
上述のシート状硬化物の熱伝導率は、3~10W/mK、又は4~9W/mKであってよい。本開示に係る放熱フィラーは、上述のような放熱性能が求められる領域において特に効果が顕著であり、放熱フィラーの充填量を抑え、製造コストの上昇を抑制しつつ所望の放熱特性を期待する放熱シートを提供し得る。また、アルミナ等の放熱フィラー等と比較して絶縁性により優れた放熱シートを製造し得る点で、本開示に係る放熱フィラーは汎用性により優れた放熱フィラーともいえる。本明細書における熱伝導率は、本明細書の実施例に記載の方法によって測定される値を意味する。
【0061】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。また、上述した実施形態についての説明内容は、互いに適用することができる。
【実施例0062】
以下、実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明する。ただし、本開示は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0063】
(実施例1)
ホウ酸粉末(純度99.8質量%以上、関東化学株式会社製)100.0質量部、及びメラミン粉末(純度99.0質量%以上、富士フイルム和光純薬株式会社製)90.0質量部に対して、純水5質量部を加え、アルミナ製乳鉢で10分間混合し混合原料を得た。得られた混合原料をプレス成形機によって20MPaの圧力で、20mmΦのペレット状に成形し、乾燥して、成形体を得た。得られた成形体を六方晶窒化ホウ素製の容器に入れ、電気炉内に配置した。電気炉内に窒素ガスを流通させながら、10℃/分の昇温速度で室温から1250℃に昇温し、1250℃で3時間保持した(焼成工程)。その後、加熱を止めて自然冷却した。温度が100℃以下になった時点で電気炉を開放した。このようにして、低結晶性の窒化ホウ素を含む焼成物を得た。
【0064】
得られた焼成物を回収し、アルミナ製乳鉢で3分間粉砕して、乾燥粉末を得た(粉砕工程)。得られた乾燥粉末から、振動篩(目開き:400μm及び125μm)を用いて粗粉(粒子径が400μm超の粒子)及び微粉(粒子径が125μm以下の粒子)を除去した粉末を調製した(分級工程)。当該粉末をムライト容器に充填して、大気雰囲気で500℃、1時間保持することで(酸化処理工程)、実施例1の窒化ホウ素含有粉末を得た。
【0065】
<窒化ホウ素含有粉末の評価>
得られた窒化ホウ素含有粉末に対して、後述する方法に基づいて、顆粒の圧壊強さ、粉末の平均粒子径(D50)、D10、及びD90、比表面積、全酸素量、並びに、X線回折スペクトルにおける(002)面に対応するピークの半値幅の測定行った。結果を表1に示す。
【0066】
[顆粒の圧壊強さ]
顆粒の圧壊強さは、JIS R 1639-5:2007「ファインセラミックス-か(顆)粒特性の測定方法-第5部:単一か粒圧壊強さ」の記載に準拠して測定した。測定には、微小圧縮試験器(株式会社島津製作所製、製品名「MCT-W500」)を用いた。なお、測定は、20個以上の顆粒に対して行い、累積破壊率63.2%時点の値を算出した。窒化ホウ素含有粉末に関しては装置付属の光学顕微鏡を見ながら窒化ホウ素で構成される顆粒に対して測定を実施した。
【0067】
[粉末の粒度分布(D10,D50,D90)]
D10、D50、及びD90は、JIS Z 8825:2013「粒子径解析-レーザー回折・散乱法」に記載の方法に準拠して測定した。測定には、レーザー回折散乱法粒度分布測定装置(ベックマンコールター社製、製品名:「LS-13 320」)を使用した。なお、測定の際はホモジナイザーによる処理を行わずに、顆粒が存在する状況で測定を行った。
【0068】
[粉末の比表面積]
窒化ホウ素含有粉末の比表面積は、JIS Z 8830:2013「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」の記載に準拠し、窒素ガスを使用したBET一点法を適用して算出した。比表面積測定装置としては、QUANTACHROME社製の「MONOSORB MS-22型」(製品名)を用いた。なお、測定は、窒化ホウ素含有粉末を、300℃で、15分間かけて、乾燥脱気した後に行った。
【0069】
[粉末の全酸素量]
窒化ホウ素含有粉末の全酸素量は、酸素/窒素同時分析装置を用いて測定した。酸素/窒素同時分析装置としては、株式会社堀場製作所製の酸素・窒素分析装置「EMGA-920」(商品名)を用いた。
【0070】
[粉末のX線回折スペクトルにおける(002)面に対応するピークの半値幅]
粉末のX線回折スペクトルにおける(002)面に対応するピークの半値幅を測定した。まず、X線回折装置に付属している深さ0.2mmの凹部を有するガラスセルの凹部に窒化ホウ素粉末を充填し、粉末試料を平滑になるよう押し固めることで測定試料を作製した。作製した測定試料に対してX線回折装置(株式会社リガク製、商品名:ULTIMA-IV)によって、26°付近を中心の回折線を取得し、(002)面を同定し、その半値幅を測定した。
【0071】
(実施例2)
実施例2は低結晶性の窒化ホウ素を含む焼成物を得た後、得られた焼成物を回収し、アルミナ製乳鉢で3分間粉砕して、乾燥粉末を得た(粉砕工程)。得られた乾燥粉末から、振動篩(目開き:150μm及び45μm)を用いて粗粉(粒子径が150μm超の粒子)及び微粉(粒子径が45μm以下の粒子)を除去した粉末を調製したこと以外は実施例1と同様に窒化ホウ素含有粉末および窒化ホウ素放熱フィラーを得た。得られた窒化ホウ素含有粉末および窒化ホウ素放熱フィラーについて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0072】
<放熱フィラーとしての評価>
実施例1及び2で調製した窒化ホウ素含有粉末をそれぞれ、窒化ホウ素製のるつぼに充填し、窒素雰囲気下、0.8MPaGにて2000℃にて5時間焼成を行った。得られた焼成物は窒化ホウ素含有粉末の粒径を維持していた。得られた焼成物を評価対象の放熱フィラーとした。
【0073】
[放熱フィラーの平均粒子径及び比表面積]
得られた放熱フィラーについて、窒化ホウ素含有粉末と同様にして、平均粒子径、及び比表面積の評価を行った。結果を表1に示す。
【0074】
[放熱フィラーの黒鉛化指数]
得られた放熱フィラーについて、黒鉛化指数の評価を行った。放熱フィラーの黒鉛化指数は、粉末X線回折法による測定結果から算出した。得られたX線回折スペクトルにおいて、六方晶窒化ホウ素の一次粒子の(100)面、(101)面及び(102)面に対応する各回折ピークの積分強度(すなわち、各回折ピーク)とそのベースラインとで囲まれる面積値(単位は任意)を算出し、それぞれS100、S101、及びS102とした。こうして算出された面積値を用いて、以下の式(1)に基づき、黒鉛化指数を決定した。
GI=(S100+S101)/S102・・・(1)
【0075】
[放熱フィラーを含む樹脂組成物のシート状硬化物に対する放熱性評価:熱伝導率の測定]
ナフタレン型エポキシ樹脂(DIC株式会社製、商品名HP4032)100質量部と硬化剤としてイミダゾール類(四国化成工業株式会社製、商品名MAVT)10質量部の樹脂混合物を準備した。この樹脂混合物100体積部に対して、上記放熱フィラーを43体積部の割合でプラネタリーミキサーにて15分間、攪拌混合した。得られた混合物を、PET製シートの上に塗布した後、500Paの減圧条件で、脱泡を10分間行った。エポキシ樹脂組成物を、厚さ0.05mmのポリエチレンテレフタレート(PET)製のフィルム上に、硬化後の厚さが0.50mmになるように塗布し、100℃15分加熱乾燥させ、プレス機によって面圧160kgf/cmをかけながら180℃で180分間、加熱硬化し、厚さ0.5mmの放熱シートを得た。
【0076】
上記樹脂シート10mm×10mm×0.5mm(厚さ)の硬化体を作製し得られたシート状硬化物(放熱シート)の熱伝導率H(単位:W/(m・K))を、熱拡散率T(単位:m/秒)、密度D(単位:kg/m)、及び比熱容量C(単位:J/(kg・K))を用いて、H=T×D×Cの計算式で算出した。熱拡散率Tは、レーザーフラッシュ法によって測定した。測定装置はキセノンフラッシュアナライザ(NETZSCH社製、商品名:LFA447NanoFlash)を用いた。密度Dはアルキメデス法によって測定した。比熱容量Cは、示差走査熱量計(リガク社製、装置名:ThermoPlusEvo DSC8230)を用いて測定した。結果を表1に示す。熱伝導率は比較例1の値を1として比較例1に対する相対値として記載した。
【0077】
(比較例1)
オルトホウ酸(日本電工株式会社製、以下、単に「ホウ酸」という。)100質量部と、アセチレンブラック(HS100、デンカ株式会社製)35質量部とをヘンシェルミキサーを用いて混合したのち、黒鉛ルツボ中に充填した。この黒鉛ルツボをアーク炉に入れ、アルゴン雰囲気で、2200℃にて5時間加熱し、塊状の炭化ホウ素(BC)粉末を合成した。合成した塊状の炭化ホウ素粉末を振動ミルで30分間粉砕し、篩目75μmの篩網を用いて分級した。篩下に得られた炭化ホウ素粉末を更に硝酸水溶液で洗浄して鉄分等の不純物を除去し、濾過及び乾燥させることによって、平均粒子径が45μmの炭化ホウ素粉末(BC粉末)を作製した。
【0078】
作製した炭化ホウ素粉末を窒化ホウ素ルツボに充填した。当該ルツボを抵抗加熱炉内に静置し、0.85MPaの窒素ガスの雰囲気下で、2100℃で25時間加熱することによって、炭窒化ホウ素(BCN)粉末を含む焼成物を得た(加圧窒化工程)。
【0079】
得られた焼成物を、マッフル炉内に静置し、大気雰囲気下で、700℃で5時間加熱すること(酸化工程)によって加熱処理物を得た。
【0080】
上記加熱処理物100質量部に対して、ホウ素源であるホウ酸の含有量が40質量部となるようにホウ酸を添加し、ヘンシェルミキサーによって混合して、混合物を得た。混合物を窒化ホウ素ルツボに充填し、抵抗加熱炉を用いて加熱することによって脱炭して、一次粒子が凝集した凝集粒子を有する窒化ホウ素粉末を合成した(結晶化工程)。結晶化工程における条件としては、圧力13kPaの窒素ガスの雰囲気で、室温から2000℃まで昇温し、2000℃において5時間保持した。
【0081】
合成した窒化ホウ素粉末を乳鉢によって10分間解砕した後、篩目125μmのナイロン篩を用いて分級した。得られた粉末を、比較例1の放熱フィラーとした。当該放熱フィラーについて、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0082】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0083】
本開示によれば、比較的低い充填量で樹脂に配合して樹脂シートとした際に、放熱性に優れる放熱シートを製造可能な窒化ホウ素含有粉末及び放熱フィラーを提供できる。本開示によればまた、上述のような放熱フィラーを含有する樹脂組成物を提供できる。
【符号の説明】
【0084】
1…窒化ホウ素、2…六方晶窒化ホウ素の一次粒子、4…空隙、10…顆粒、20…放熱フィラー、30…硬化樹脂、50…従来の放熱フィラー、100,500…放熱シート。
図1
図2