(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173183
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】高炉の羽口および高炉の操業方法
(51)【国際特許分類】
C21B 7/16 20060101AFI20241205BHJP
C21B 5/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C21B7/16 305
C21B5/00 319
C21B5/00 321
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091419
(22)【出願日】2023-06-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「グリーンイノベーション基金事業/製鉄プロセスにおける水素活用プロジェクト/高炉を用いた水素還元技術の開発/外部水素や高炉排ガスに含まれるCO2を活用した低炭素化技術等の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(72)【発明者】
【氏名】上城 親司
【テーマコード(参考)】
4K012
4K015
【Fターム(参考)】
4K012BE01
4K012BE03
4K012BE06
4K012BE08
4K012BF03
4K012BF04
4K012BF07
4K015FC03
(57)【要約】
【課題】微粉炭吹込ランスと水素系還元ガス吹込ランスを備える羽口および当該羽口を用いた高炉の操業方法において、羽口内面への微粉炭の付着をより抑制し、閉塞を防止可能な高炉の羽口および高炉の操業方法を提供する。
【解決手段】微粉炭を羽口内に吹き込む微粉炭吹込ランスと、水素系還元ガスを前記羽口内に吹き込む水素系還元ガス吹込ランスと、を備える高炉の羽口であって、前記微粉炭吹込ランスの先端が、前記羽口の先端から50mm~100mmの位置にあり、前記水素系還元ガス吹込ランスの先端が、前記羽口の先端から60mm~120mmの位置にあり、前記微粉炭吹込ランスの先端が、前記水素系還元ガス吹込ランスの先端よりも高炉の炉内側にあることを特徴とする高炉の羽口。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粉炭を羽口内に吹き込む微粉炭吹込ランスと、水素系還元ガスを前記羽口内に吹き込む水素系還元ガス吹込ランスと、を備える高炉の羽口であって、
前記微粉炭吹込ランスの先端が、前記羽口の先端から50mm~100mmの位置にあり、
前記水素系還元ガス吹込ランスの先端が、前記羽口の先端から60mm~120mmの位置にあり、
前記微粉炭吹込ランスの先端が、前記水素系還元ガス吹込ランスの先端よりも高炉の炉内側にあることを特徴とする高炉の羽口。
【請求項2】
前記水素系還元ガス吹込ランスは、前記羽口に組み込まれていることを特徴とする請求項1に記載の高炉の羽口。
【請求項3】
前記水素系還元ガス吹込ランスの先端を、前記羽口の内面の位置に配置することを特徴とする請求項2に記載の高炉の羽口。
【請求項4】
前記微粉炭吹込ランスの先端が、前記羽口の先端から50mm~80mmの位置にあることを特徴とする請求項1に記載の高炉の羽口。
【請求項5】
羽口の先端から50mm~100mmの位置から微粉炭を微粉炭吹込ランスで前記羽口内に吹き込み、
前記羽口の先端から60mm~120mmの位置から水素系還元ガスを水素系還元ガス吹込ランスで前記羽口内に吹き込み、
微粉炭を吹き込む位置が、水素系還元ガスを吹き込む位置よりも高炉の炉内側であることを特徴とする高炉の操業方法。
【請求項6】
前記水素系還元ガス吹込ランスは、前記羽口に組み込まれていることを特徴とする請求項5に記載の高炉の操業方法。
【請求項7】
前記水素系還元ガス吹込ランスの先端を、前記羽口の内面の位置に配置することを特徴とする請求項6に記載の高炉の操業方法。
【請求項8】
室温を超える温度に加熱された水素系還元ガスを、前記羽口に組み込まれた前記水素系還元ガス吹込ランスから吹き込むことを特徴とする請求項6又は7に記載の高炉の操業方法。
【請求項9】
前記羽口の先端から50mm~80mmの位置から微粉炭を前記微粉炭吹込ランスで吹き込むことを特徴とする請求項5に記載の高炉の操業方法。
【請求項10】
微粉炭を70kg/t-pig以上吹き込むことを特徴とする請求項5に記載の高炉の操業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉の羽口および高炉の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高炉の操業において、塊コークスより安価な微粉炭を銅製の羽口から吹き込んで、塊コークスの使用量を削減することが行われている。さらに、高炉の還元材比低減と排出CO2量削減のため、水素を含む気体還元材を羽口から吹き込む操業が検討されている。
【0003】
微粉炭と気体還元材とを羽口から吹き込む操業方法として、例えば特許文献1の方法が提案されている。特許文献1では、気体還元材吹込み用ランスの吹込み口を羽口の先端部から0~50mmの位置とすることが記載されている。また、微粉炭を吹き込む固体還元材吹込み用ランスの吹込口を気体還元材吹込み用ランスの吹込み口より送風方向上流側に配置することや、固体還元材吹込み用ランスの吹込み口を羽口先端部から200mmの範囲内に配置することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法により、気体還元材や固体還元材を吹き込む位置を適切な位置に設定することで、羽口やブローパイプにおける圧損等を抑制して、還元効率を低下させることなく、気体還元材や固体還元材を効果的に利用できるとしている。
【0006】
しかし、特許文献1の方法では固体還元材である微粉炭が羽口内面に付着して堆積する場合がある。
【0007】
そこで本発明は、微粉炭吹込ランスと水素系還元ガス吹込ランスを備える羽口および当該羽口を用いた高炉の操業方法において、羽口内面への微粉炭の付着をより抑制し、閉塞を防止可能な高炉の羽口および高炉の操業方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その発明の要旨は以下の通りである。
【0009】
(1) 微粉炭を羽口内に吹き込む微粉炭吹込ランスと、水素系還元ガスを前記羽口内に吹き込む水素系還元ガス吹込ランスと、を備える高炉の羽口であって、
前記微粉炭吹込ランスの先端が、前記羽口の先端から50mm~100mmの位置にあり、
前記水素系還元ガス吹込ランスの先端が、前記羽口の先端から60mm~120mmの位置にあり、
前記微粉炭吹込ランスの先端が、前記水素系還元ガス吹込ランスの先端よりも高炉の炉内側にあることを特徴とする高炉の羽口。
【0010】
(2) 前記水素系還元ガス吹込ランスは、前記羽口に組み込まれていることを特徴とする上記(1)に記載の高炉の羽口。
【0011】
(3) 前記水素系還元ガス吹込ランスの先端を、前記羽口の内面の位置に配置することを特徴とする上記(2)に記載の高炉の羽口。
【0012】
(4) 前記微粉炭吹込ランスの先端が、前記羽口の先端から50mm~80mmの位置にあることを特徴とする上記(1)に記載の高炉の羽口。
【0013】
(5) 羽口の先端から50mm~100mmの位置から微粉炭を微粉炭吹込ランスで前記羽口内に吹き込み、
前記羽口の先端から60mm~120mmの位置から水素系還元ガスを水素系還元ガス吹込ランスで前記羽口内に吹き込み、
微粉炭を吹き込む位置が、水素系還元ガスを吹き込む位置よりも高炉の炉内側であることを特徴とする高炉の操業方法。
【0014】
(6) 前記水素系還元ガス吹込ランスは、前記羽口に組み込まれていることを特徴とする上記(5)に記載の高炉の操業方法。
【0015】
(7) 前記水素系還元ガス吹込ランスの先端を、前記羽口の内面の位置に配置することを特徴とする上記(6)に記載の高炉の操業方法。
【0016】
(8) 室温を超える温度に加熱された水素系還元ガスを、前記羽口に組み込まれた前記水素系還元ガス吹込ランスから吹き込むことを特徴とする上記(6)又は(7)に記載の高炉の操業方法。
【0017】
(9) 前記羽口の先端から50mm~80mmの位置から微粉炭を前記微粉炭吹込ランスで吹き込むことを特徴とする上記(5)に記載の高炉の操業方法。
【0018】
(10) 微粉炭を70kg/t-pig以上吹き込むことを特徴とする上記(5)に記載の高炉の操業方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、微粉炭吹込ランスと水素系還元ガス吹込ランスを備える羽口および当該羽口を用いた高炉の操業方法において、羽口内面への微粉炭の付着をより抑制し、閉塞を防止可能な高炉の羽口および高炉の操業方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態の高炉の羽口の構成を示す構成図である。
【
図2】微粉炭吹込ランスと水素系還元ガス吹込ランスの位置関係の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本実施形態の高炉の羽口および操業方法を説明する。本実施形態は、水素系還元ガスと微粉炭を羽口内に吹き込み、熱風とともに高炉内に吹き込む操業を行う高炉の羽口およびその羽口を用いた高炉の操業方法である。
【0022】
本実施形態において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む数値範囲を意味する。
【0023】
図1は本実施形態の高炉の羽口1の構成を示す構成図である。
図1は、羽口1の送風方向に沿った垂直方向の断面構造を示す。羽口1は、微粉炭吹込ランス2と、水素系還元ガス吹込ランス4を備える。
【0024】
羽口1は、高炉内に熱風を吹き込むために高炉の側壁部を貫通して設置され、ブローパイプ6と接続される。ブローパイプ6が熱風炉で生成された熱風を羽口1に供給し、羽口1から高炉内に熱風が吹き込まれる。
【0025】
微粉炭吹込ランス2は、羽口1内に微粉炭を吹き込むランスである。微粉炭吹込ランス2は、吹込口である先端2aが羽口1内に配置される。微粉炭吹込ランス2は、ブローパイプ6を貫通して差し込まれ、羽口1内に配置される。微粉炭吹込ランス2の材質は特に限定されないが、例えばSUS310などの高炉でランスに使用されている耐熱性のある公知の材料を適宜選択して形成されればよい。
【0026】
水素系還元ガス吹込ランス4は、羽口1内に水素系還元ガスを吹き込むランスである。水素系還元ガス吹込ランス4は、羽口1内に吹込口である先端4aが配置される。水素系還元ガス吹込ランス4は、ブローパイプ6を貫通して差し込み、羽口1内に配置することができる。また、水素系還元ガス吹込ランス4を羽口1に貫通するように差し込んで、羽口1に組み込まれて配置されるのが好ましい。水素系還元ガス吹込ランス4の材質についても特に限定されないが、例えばSUS310などの高炉でランスに使用されている耐熱性のある公知の材料を適宜選択して形成されればよい。
【0027】
水素系還元ガス吹込ランス4から吹き込む水素系還元ガスは、水素のみで構成される純水素ガスに限られず、水素を主要成分とする水素系ガスも含む。例えば、水素系還元ガスは、天然ガスを改質して製造される、水素ガスを70mol%以上含有する一酸化炭素等との混合ガスであってもよい。
【0028】
微粉炭吹込ランス2と水素系還元ガス吹込ランス4の配置についてさらに説明する。微粉炭と水素系還元ガスを同時に吹き込むと、まず水素系還元ガスが燃焼を開始する。その結果、雰囲気温度が上昇するので、微粉炭の熱分解が促進される。分解されず残留する灰分はキャリヤガスに乗って炉内に移動するが、雰囲気温度が灰分の融点以上になる場合もある。その場合、灰分は半溶融状態で炉内まで移動する。その時、灰分が水冷された羽口内面に衝突すると、冷やされて羽口内に堆積する。この現象が連続すると、羽口内面に灰分が積み上がり、送風圧力が上昇して操業が不安定になるおそれがある。また、堆積が増大すると羽口の閉塞につながることも懸念される。
【0029】
これに対して、微粉炭吹込ランス2と水素系還元ガス吹込ランス4を以下に説明する配置とすることで、微粉炭と水素系還元ガスを羽口1内に吹き込む操業を行う場合に、微粉炭の羽口1への付着を効果的に抑制できることが分かった。
【0030】
まず、本実施形態では、微粉炭吹込ランス2の吹込口である先端2a(微粉炭吹込位置)が、水素系還元ガス吹込ランス4の吹込口である先端4a(水素系還元ガス吹込位置)よりも、高炉の炉内側にある。換言すれば、水素系還元ガス吹込ランス4の先端4aが、微粉炭吹込ランス2の先端2aよりも、高炉の炉外側にある。
図1に示すように、炉内側は高炉の炉内により近い側であり、羽口1による送風方向下流側である。炉外側は、高炉からより遠い側であり、送風方向上流側である。
【0031】
先端2aが先端4aよりも炉内側であることで、微粉炭吹込位置よりも上流側において水素系還元ガスが燃焼し、その燃焼によって微粉炭が適切に加熱される。これにより微粉炭吹込ランス2の先端2aを従来の場合よりも羽口炉内側に配置することができる。そうすると、微粉炭の羽口1への衝突を回避でき、付着を抑制できるので、羽口1の閉塞をより防ぐことができる。
【0032】
次に、本実施形態の各ランスの先端の位置を、羽口先端1aから各ランスの先端までの距離で示す。当該距離は、羽口先端1aを通る直線1Lと羽口中心軸Lとの交点(羽口先端の位置)から、各ランス先端を通る直線2L又は直線4Lと羽口中心軸Lとの交点(ランスの先端)までの距離である。直線1Lは、羽口1の最も炉内側に位置する点を通り羽口中心軸Lと垂直な直線である。直線2Lは、微粉炭吹込ランス2の先端2aを通り羽口中心軸Lと垂直な直線である。直線4Lは、水素系還元ガス吹込ランス4の先端4aを通り羽口中心軸Lと垂直な直線である。
【0033】
微粉炭吹込ランス2の先端2aは、羽口先端1aから先端2aまでの距離Aが50mm~100mmの位置にある。当該範囲内であれば、微粉炭の付着による羽口1内の閉塞を効果的に抑制し、且つ、高炉から排出されるダストの発生を抑制できる。
【0034】
距離Aが50mm未満であると、微粉炭が微粉炭吹込ランス2から出て燃焼が完了する前に、羽口前方のレースウェイを飛び出してしまい、ダスト量が増加するので好ましくない。よって距離Aは50mm以上とする。
【0035】
距離Aが100mmを超えると、吹き込まれた微粉炭が羽口内壁面に衝突しやすくなり、付着を促進し、羽口1が閉塞しやすくなる。よって距離Aは100mm以下とする。
【0036】
また、微粉炭吹込ランス2の先端2aは、距離Aが50mm~80mmの位置にあることが好ましい。当該範囲内の場合、さらに羽口1内の微粉炭の堆積を確実に抑制することができ、且つ、ダストの発生も抑制できる。
【0037】
次に、水素系還元ガス吹込ランス4の先端4aは、羽口先端1aから先端4aまでの距離Bが、60mm~120mmの位置にある。
【0038】
距離Bが60mm未満であると、より炉内側の位置から吹き込まれる微粉炭の加熱が不十分になる場合がある。60mm以上であれば、微粉炭を十分に加熱することができる。
【0039】
距離Bが120mmを超えると、水素系還元ガス吹込ランス4の先端4aが羽口先端1aから遠くなり、水素系還元ガスの羽口1内での燃焼場が広くなる。そうすると、水素系還元ガスの燃焼による雰囲気温度が上昇し、羽口1やブローパイプ6が溶損する可能性が生じる。よって距離Bは120mm以下とする。
【0040】
微粉炭吹込ランス2と水素系還元ガス吹込ランス4の他の配置関係について説明する。まず、羽口1を羽口中心軸L方向から見た場合、すなわち、羽口中心軸Lに垂直な断面における、微粉炭吹込ランス2と水素系還元ガス吹込ランス4の位置関係は特に限定されず、どの位置に配置されてもよい。当該各ランスの位置関係は、羽口1内においてどの方向に各ランスから微粉炭あるいは水素系還元ガスを吹き込むのかを指す。
【0041】
図2(a)~(c)に、
図1以外の微粉炭吹込ランス2と水素系還元ガス吹込ランス4の位置関係の例を示す。
図2(a)については、羽口中心軸L方向から見た場合の各ランスの位置関係も並べて示している。
【0042】
図1のように、羽口1内の上下の位置に対向する位置関係で配置されてもよいし、左右の位置に対向して配置されてもよい。また、対向する位置関係でなくてもよい。例えば、
図2(a)のように羽口中心軸L方向から見て、微粉炭吹込ランス2と水素系還元ガス吹込ランス4が90°の位置関係で配置されてもよい。対向する位置関係(ランス間の角度が180°)から同じ側にある位置関係(ランス間の角度が0°)までの間で任意の位置とすることができる。また、微粉炭吹込ランス2と水素系還元ガス吹込ランス4の両方又は一方の吹き込み方向を、羽口中心軸Lに平行な方向に向けてもよい。
【0043】
また、水素系還元ガス吹込ランス4については、
図2(b)や(c)のように、羽口1に組み込まれて配置することが好ましい。羽口1に組み込まれるとは、水素系還元ガス吹込ランス4が羽口1の壁部に差し込まれて配置されている状態である。
【0044】
水素系還元ガス吹込ランス4を羽口1に組み込む場合は、例えば羽口1を鋳造する際にランスを通す孔を予め形成する。そして鋳造された羽口1の孔にランスを差し込むことで羽口1にランスを組み込むことができる。吹込位置となる水素系還元ガス吹込ランス4の先端4aは、羽口内面付近にあってもよいし、内面の位置よりも羽口内に突出していてもよい。
【0045】
水素系還元ガス吹込ランス4が羽口1に組み込まれて配置されると、羽口1の冷却水によってランスも冷却できる。通常、羽口1は内部を流れる冷却水で冷却されている。水素系還元ガス吹込ランス4が羽口1に組み込まれると、その流路の近傍にランスが配置される。よって、羽口1に組み込むことで水素系還元ガス吹込ランス4も冷却できる。
【0046】
これにより、例えば水素系還元ガスの温度を高温にした場合でも、水素系還元ガス吹込ランス4を熱から保護できる。そのため、適切な耐熱温度を有する材料で水素系還元ガス吹込ランス4を作製すれば、ランスが熱で変形することなく、加熱した水素系還元ガスを高炉に供給し続けることができる。
【0047】
また、水素系還元ガス吹込ランス4を羽口1に組み込んで配置する場合に、先端4aを羽口1の内面の位置に配置することで、微粉炭吹込ランス2の先端2aと水素系還元ガス吹込ランス4の先端4aとの距離を、羽口1内においてできるだけ離すことができる。さらにこの場合に、
図2(b)のように、微粉炭吹込ランス2の先端2aを、先端4aと対向する位置とすれば、ランス先端同士の距離をより離すことができ好ましい。
【0048】
水素系還元ガス吹込ランス4の先端4aが、微粉炭吹込ランス2の先端2aより炉外側にあると、微粉炭が水素系還元ガスの燃焼によって加熱される。その一方で、ランスの先端同士が近いと微粉炭が水素の燃焼によって、加熱されるだけでなく燃焼が促進される。そして微粉炭の燃焼が過度になると、溶融して羽口への付着が起こりやすくなる。そのため、先端4aの位置を羽口内面の位置として、ランス先端同士の距離を適度に離すことにより、微粉炭の燃焼、溶融は抑制しつつ、水素系還元ガスの燃焼により適切な温度範囲に微粉炭を加熱することができる。
【0049】
なお、微粉炭吹込ランス2については、羽口1に組み込まなくてよい。微粉炭吹込ランス2は、固体の微粉炭との摩擦により損耗が起こるので、交換の頻度がより高い。そのため、簡便に交換できる必要があるが、羽口1に組み込むとランスの交換が難しくなる。よって、微粉炭吹込ランス2は、羽口1には組み込まず、ブローパイプ6の適宜の位置を通して羽口内に配置されればよい。
【0050】
次に、本実施形態の高炉の羽口1を用いた高炉の操業方法について説明する。高炉の操業方法は、上述の羽口1によって、羽口1の先端から50mm~100mmの位置から、微粉炭を微粉炭吹込ランス2で羽口1内に吹き込み、羽口1の先端から60mm~120mmの位置から、水素系還元ガスを水素系還元ガス吹込ランス4で羽口1内に吹き込む。そして、微粉炭を吹き込む位置が、水素系還元ガスを吹き込む位置よりも高炉の炉内側である。
【0051】
本実施形態の高炉の操業方法において、微粉炭吹込ランス2から吹き込む微粉炭の量は、70kg/t-pig以上とすることができる。微粉炭を吹き込む操業において、70kg/t-pig以上吹き込む場合、微粉炭が顕著に堆積しやすくなる。しかし、上記吹込位置で微粉炭と水素系還元ガスの吹き込みを行えば、微粉炭を70kg/t-pig以上吹き込む場合でも、微粉炭の堆積をより確実に抑制することができる。上限は特に限定されないが、微粉炭と水素系還元ガスの両方を同時に高炉に吹き込む操業に鑑みると例えば200kg/t-pig以下とすればよい。
【0052】
また、水素系還元ガスの温度は特に限定されず、室温程度でもよいし、加熱された温度でもよい。室温を超える温度に加熱した水素系還元ガスを吹き込む場合は、羽口1に組み込まれた水素系還元ガス吹込ランス4から吹き込むことが好ましい。水素系還元ガスが加熱されていても、羽口1の冷却水で組み込まれた水素系還元ガス吹込ランス4が冷却されるので、ガスの熱から保護される。よって、ランスが熱によって損傷することが防止され、加熱された水素系還元ガスの吹き込みを継続できる。なお、水素系還元ガスの温度の上限は特に限定されないが、ランスとして使用しうる材料の鋼管の耐熱温度に鑑み1200℃未満とすることができる。水素系還元ガスの吹込み量は適宜設定されればよいが、例えば50~1000Nm3/t-pigとすることができる。
【0053】
以上の本実施形態に係る高炉の羽口1および高炉の操業方法によれば、微粉炭と水素系還元ガスをそれぞれのランスから羽口1内に吹き込む操業において、微粉炭の羽口内面への付着をより抑制し、羽口の閉塞をより確実に防止することができる。
【実施例0054】
実施例を示してさらに詳細に説明する。微粉炭吹込ランス2と水素系還元ガス吹込ランス4を実施形態に示した所定の配置として操業試験を行い、微粉炭の堆積について確認した。
【0055】
(実験方法)
図3に示す高炉炉下部を模擬した実験炉20(試験装置)を用いて、水素系還元ガスと微粉炭を吹き込む位置を変化させながら、下記の表1に示す試験条件で燃焼試験を実施した。ここで、70kg/t-pig超の微粉炭吹込条件(100、150、200kg/t-pig)においても実験を実施したが、吹込量が増加すれば付着の頻度も高くなり羽口閉塞しやすくなるのは自明なので、最も吹込量が少ない条件を示した。水素系還元ガスは、水素ガスを常温で吹き込んだ。一つの試験条件(ランスの配置)について6時間燃焼を継続した。実験炉20にはコークスが充填されている。実験炉20は、長さ1.2m、幅1.2m、高さが2.4mであり、鉄皮の内面に耐火レンガが張られた竪型直方体の炉である。
図3の実験炉20についても、羽口や各ランス等について実施形態と同じ符号を付して示している。
【0056】
【0057】
(付着状況の評価方法)
各試験条件での燃焼後に、微粉炭の羽口1への付着(堆積)状況を以下の方法で評価した。ブローパイプ6後方に配置したのぞき窓10から付着物を確認した。そして、のぞき窓10から見て円形状の羽口1の開口部に占める付着物の面積の程度を、先行技術を模した条件(下記表2の先行例)を基準として比較観察した。具体的には、先行例では羽口1の開口部面積に占める付着物の面積が50%であり、これを基準とした。50%以上閉塞したケースを「×」、50%未満20%以上閉塞したケースを「○」、20%未満の閉塞だった場合を「◎」と評価した。
【0058】
(ダストの発生)
ダストの発生について、各試験例の燃焼試験後、排ガスから回収されたダストの有無を確認して評価した。ダストが確認された場合を「有」、ダストが無かった場合を「無」と評価した。
【0059】
先行例、実施例、比較例についての、各ランスの吹込位置(羽口先端から各ランス先端までの距離A、B)および上記評価結果を表2に示す。上述のように、表2の結果は最も羽口への付着が発生しにくい70kg/t-pigの微粉炭吹込み量での結果であるが、200kg/t-pigまで微粉炭量を増加した吹込条件においても羽口の閉塞状況及びダストの発生状況の結果は同様であった。
【0060】
【0061】
先行例は、水素系還元ガス吹込ランスの先端が微粉炭吹込ランスの先端より炉内側であり、実施例と逆の配置である。先行例では、閉塞が顕著に発生した。
【0062】
微粉炭吹込位置を水素系還元ガス吹込位置より炉内側に配置した場合は、微粉炭吹込位置が50mmの実施例1および80mmの実施例2では、羽口の閉塞はほとんど見られなかった。微粉炭吹込位置が100mmの実施例3においては、微粉炭の付着が確認されたものの、先行例より付着が少ないことが確認できた。
【0063】
微粉炭吹込位置が110mmの比較例3においては、水素系還元ガスの吹込位置は実施形態に示した範囲内であったが、微粉炭吹込位置が100mm超であり、50%以上の閉塞となった。また、微粉炭吹込位置が150mmの比較例4も、先行例と同程度の閉塞が生じた。また、各吹込位置は実施形態に示した範囲内であるが、水素系還元ガス吹込位置が微粉炭吹込位置よりも炉内側(実施例と逆)である比較例5も、50%以上の閉塞となった。
【0064】
微粉炭吹込位置が40mmの比較例1では、羽口閉塞はなかったが、ダスト発生が顕著に増加した。比較例1と同じ微粉炭吹込位置の比較例2は、水素系還元ガスの吹込位置は実施形態で示した範囲内であったが、同様にダスト発生が確認された。
【0065】
また、水素系還元ガス吹込位置が120mmを超えた比較例4では、羽口やブローパイプの温度が上昇した。羽口先端からランス先端までの距離が長くなり水素の燃焼場が広くなったことによって、雰囲気温度の上昇が顕著になったためと考えられる。
【0066】
以上より、羽口先端から微粉炭吹込ランス先端までの距離を50mm~100mmとし、羽口先端から水素系還元ガス吹込ランス先端までの距離を60mm~120mmとし、微粉炭吹込位置を水素系還元ガス吹込位置よりも炉内側とすることで、羽口の閉塞が効果的に抑制され、かつ、ダストの発生も防止された良好な結果が得られた。