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特開2024-173184仮設移動堤防および仮設移動堤防の施工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173184
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】仮設移動堤防および仮設移動堤防の施工方法
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/06 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
E02B3/06 301
E02B3/06 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091420
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 貴之
【テーマコード(参考)】
2D118
【Fターム(参考)】
2D118AA11
2D118AA30
2D118BA01
2D118BA07
2D118CA04
2D118DA06
2D118FB39
2D118GA57
(57)【要約】
【課題】設置および撤去が容易で、効果的に波の影響を抑えることができる仮設移動堤防および仮設移動堤防の施工方法を提案する。
【解決手段】下面が開口している箱型の堤防本体2と、堤防本体2の内部に挿入された袋体3とを備える仮設移動堤防1である。堤防本体2の上部には、袋体3に連通した複数の給排孔27,27が形成されている。袋体3は、給排孔27から空気Aを入れることで膨張し、給排孔27から排気することで収縮する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下面が開口している箱型の堤防本体と、
前記堤防本体の内部に挿入された袋体と、を備える仮設移動堤防であって、
前記堤防本体の上部には前記袋体に連通した複数の給排孔が形成されており、
前記袋体は、前記給排孔から空気を入れることで膨張し、前記給排孔から排気することで収縮することを特徴とする、仮設移動堤防。
【請求項2】
前記堤防本体の側壁は、隙間をあけて並設された二つの壁部材からなる二重壁であり、
前記隙間内の圧力が調整可能であることを特徴とする、請求項1に記載の仮設移動堤防。
【請求項3】
請求項1に記載の仮設移動堤防を所定の位置に設置する仮設移動堤防の施工方法であって、
前記仮設移動堤防を曳航により所定の位置に移動させる運搬工程と、
前記仮設移動堤防を沈降させて、海底に着底させる着底工程と、を備え、
前記運搬工程では、前記袋体に空気を入れ、前記袋体に作用する浮力を利用して前記仮設移動堤防を水に浮かせ、
前記着底工程では、前記袋体から空気を排気することで前記仮設移動堤防を沈降させることを特徴とする、仮設移動堤防の施工方法。
【請求項4】
前記着底工程後に、前記袋体に土砂を投入する土砂投入工程をさらに備えていることを特徴とする、請求項3に記載の仮設移動堤防の施工方法。
【請求項5】
前記堤防本体の側壁は、隙間をあけて並設された二つの壁部材からなる二重壁であり、
前記隙間内を負圧にすることで、前記側壁の下端部を前記海底に貫入させる貫入工程をさらに備えていることを特徴とする、請求項3に記載の仮設移動堤防の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海上工事に使用する仮設移動堤防および仮設移動堤防の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
起重機船やクレーン船等を使用する海上工事では、波が高い場合(例えば、波高1m以上の場合)には海上作業ができなくなり、作業効率が低下する。そのため、起重機船やクレーン船等を使用する場合に、仮設の防波堤などを設置することができれば、波の影響を抑えて作業船の稼働率の向上が図れる。
一般的な防波堤は、捨石マウンド等により平らにした海底にコンクリートのケーソンを設置することにより形成する。ところが、この防波堤は、短期間での設置や撤去は困難であり、海上工事において一時的に使用するには不向きである。
また、特許文献1には、設置および撤去が容易な仮設消波堤として、水面に浮かぶ箱型の浮消波堤本体と、浮消波堤本体を係留する係留手段とを備え、浮消波堤本体への入射波を消波することにより、浮消波堤本体の後方に静穏水域を形成する浮消波堤が開示されている。ところが、浮消波堤は、波長が大きな波の透過率が大きく、作業船の動揺に最も影響する長周期の波(うねり)に対しては効果が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-360305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、設置および撤去が容易で、効果的に波の影響を抑えることができる仮設移動堤防および仮設移動堤防の施工方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題を解決する本発明の仮設移動堤防は、下面が開口している箱型の堤防本体と、前記堤防本体の内部に挿入された袋体とを備えるものである。前記堤防本体の上部には前記袋体に連通した複数の給排孔が形成されている。前記袋体は、前記給排孔から空気を入れることで膨張し、前記給排孔から排気することで収縮する。
前記仮設移動堤防を所定の位置に設置する仮設移動堤防の施工方法は、前記仮設移動堤防を曳航により所定の位置に移動させる運搬工程と、前記仮設移動堤防を沈降させて海底に着底させる着底工程とを備えている。前記運搬工程では、前記袋体に空気を入れ、前記袋体に作用する浮力を利用して前記仮設移動堤防を水に浮かせる。また、前記着底工程では、前記袋体から空気を排気することで前記仮設移動堤防を沈降させる。
かかる仮設移動堤防および仮設移動堤防の施工方法によれば、堤防本体の内部に設けられた袋体への空気の給気および排気により、仮設移動堤防を運搬および設置に適した状態に変化させることができるため、施工性に優れている。すなわち、袋体を空気で膨張させて仮設移動堤防を水に浮かべると、曳航し易くなる。また、袋体の空気を排気すれば、袋体が収縮し、袋体に作用する浮力が小さくなるため、仮設移動堤防の重量により沈降させることができる。さらに、仮設移動堤防は、海底に着底した状態で設置されるため、波の影響を効果的に抑制できる。
【0006】
なお、前記堤防本体の側壁が隙間をあけて並設された二つの壁部材からなる二重壁であり、前記隙間内の圧力が調整可能である場合には、前記隙間内を負圧にすることで、前記側壁の下端部を前記海底に貫入させるのが望ましい。このように、側壁の一部を海底に貫入させることで、安定化を図ることができる。
また、前記着底工程後に、前記袋体に土砂を投入する土砂投入工程をさらに備えていれば、土砂の重量によりさらなる安定化を図ることが可能となる。こうすることで、大きな波等により堤防本体が傾くことを抑制できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の仮設移動堤防によれば、設置および撤去が容易で、効果的に波の影響を抑えることができる。また、本発明の仮設移動堤防の施工方法によれば、前記仮設移動堤防を容易に設置できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る仮設移動堤防の概要を示す断面図である。
図2】季節毎の仮設移動堤防の設置例を示す平面図であって(a)は夏季、(b)は冬季である。
図3】仮設移動堤防の施工方法の手順を示すフローチャートである。
図4】運搬工程を示す断面図である。
図5】着底工程を示す断面図である。
図6】貫入工程を示す断面図である。
図7】土砂投入工程を示す断面図である。
図8】排土工程を示す断面図である。
図9】(a)および(b)は給気工程を示す断面図である。
図10】堤防転倒時の対処方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態では、起重機船等の作業船を使用する海上工事において、作業船への波の影響を抑制する仮設移動堤防について説明する。図1に仮設移動堤防1を示す。
仮設移動堤防1は、図1に示すように、下面が開口している箱型の堤防本体2と、堤防本体2の内部に挿入された袋体3とを備えている。
堤防本体2は、コンクリート製または鋼製の函体からなる。堤防本体2の側壁21は、隙間をあけて並設された二つの壁部材(外壁22,内壁23)からなる二重壁である。外周側の壁部材である外壁22の上端は堤防本体2の天井24の縁に接続されていて、内周側の壁部材である内壁23の上端は天井24から所定の間隔を有している。一方、外壁22および内壁23の下端は、同一高さに位置している。側壁21内の隙間(外壁22と内壁23の隙間)は、周方向に所定の間隔をあけて設けられた仕切壁(図示せず)により複数の気圧調整室25に分割されている。各気圧調整室25は、下端が開口していて、上端部(本実施形態では上端)にバルブ26が設けられている以外は遮蔽されている。また、外壁22および内壁23の下端部は、先端が刃形になっている。外壁22(側壁21)の上部であって、内壁23の上端よりも高い部分には、複数の給排孔27,27(図1では、2箇所のみ表示)が形成されている。給排孔27は、外壁22の上部を内外方向に貫通している。
【0010】
袋体3は、例えば、ゴム(ラテックス等)、塩化ビニルやポリエチレン等からなり、気密性および水密性を有しているとともに、耐摩耗性や破れ難い強度も備えている。袋体3の上部には、給排孔27に連通している給排口31,31が形成されている。袋体3は、給排口31を除き密封されている。そのため、袋体3は、給排口31(給排孔27)から空気を入れることで膨張し、給排口31(給排孔27)から排気することで収縮する。袋体3を自由に膨張させた際の容積は、堤防本体2の内部空間の容積以上である。
【0011】
次に、本実施形態の仮設移動堤防1を所定の位置に設置および移動する仮設移動堤防の施工方法について説明する。図2に仮設移動堤防1の設置例を示す。仮設移動堤防1は、図2に示すように、季節毎に波Tの到来方向が変化する場合において、図2(a)および(b)に示すように、波Tの向きに応じた位置に適宜配置換えをすることで、海上工事における作業船B等への波の影響を抑制する。図3に仮設移動堤防の施工方法の手順を示す。図3に示すように、仮設移動堤防の施工方法は、運搬工程S1と、着底工程S2と、貫入工程S3と、土砂投入工程S4と、排土工程S5と、給気工程S6とを備えている。
【0012】
運搬工程S1では、仮設移動堤防1を所定の位置に移動させる。図4に運搬工程S1を示す。運搬工程S1では、図4に示すように、給排孔27を介して給排口31から袋体3に空気Aを入れて、袋体3を膨張させる。袋体3への空気Aの供給は、コンプレッサー等から延設された給気管(図示せず)を、給排孔27を介して給排口31に接続した状態で、圧縮空気を当該給気管により圧送することにより行う。空気Aにより袋体3を膨張させたら、給排孔27を蓋材4により遮蔽するとともに、給排口31を遮蔽する。仮設移動堤防1は、空気Aにより膨張した袋体3に作用する浮力によって水に浮かせた状態で曳航する。
【0013】
着底工程S2では、仮設移動堤防1を沈降させて、海底に着底させる。図5に着底工程S2を示す。図5に示すように、着底工程S2では、袋体3から空気Aを排気することで仮設移動堤防1を沈降させる。袋体3からの空気Aの排気は、給排口31を開口することにより行えばよい。袋体3から空気Aを排気すると、袋体3に作用する浮力が減少し、自重によって堤防本体2が沈降する。
【0014】
貫入工程S3では、側壁の下端部を海底地盤Gに貫入させる。図6に貫入工程S3を示す。図6に示すように、貫入工程S3では、気圧調整室25内の水を排水するとともに気圧調整室25内を負圧にする。こうすることで、サクション力を作用させることが可能となるため、側壁21の下端部が海底地盤Gに貫入される。気圧調整室25内からの水Wの排水は、バルブ26に配管を介して接続されたポンプにより行う。海底に不陸がある場合には、各気圧調整室25の圧力を調整することで、側壁21の海底地盤Gへの貫入量を気圧調整室25の位置毎に変化させて、堤防本体2を水平に設置する。
【0015】
土砂投入工程S4では、袋体3に土砂Eを投入する。図7に土砂投入工程S4を示す。図7に示すように、袋体3への土砂Eの投入は、給排口31から行う。袋体3へ投入する土砂Eは、水Wと混合したものであってもよい。袋体3内に所定の量の土砂Eを投入したら、袋体3の給排口31を遮蔽するとともに、図1に示すように、給排孔27を蓋材4により遮蔽する。
【0016】
排土工程S5では、袋体3内の土砂Eは排出する。図8に排土工程S5を示す。排土工程S5では、図8に示すように、一方(一部)の給排口31から袋体3内に水Wを注水し、他方の給排口31から土砂Eを排出する。こうすることで、袋体3内の土砂Eを水Wに置き換える。土砂Eを排出する際には、ポンプなどにより吸い上げてもよい。
【0017】
給気工程S6では、袋体3内に空気Aを圧入する。図9に給気工程S6を示す。図9(a)および(b)に示すように、給気工程S6では、一方(一部)の給排口31から袋体3内に空気Aを供給し、他方の給排口31から袋体3内に水を排水する。これにより、袋体3内の水Wが空気Aに置き換えられる。また、袋体3内からの排水に伴い、気圧調整室25内に水Wを注水し、気圧調整室25によるサクション力を無効にする。袋体3内の排水が完了し、袋体3を空気Aにより膨張させたら、給排孔27を蓋材4により遮蔽するとともに、給排口31を遮蔽する。仮設移動堤防1は、空気Aにより膨張した袋体3に作用する浮力によって水に浮く(図4参照)。
運搬工程S1~給気工程S6を繰り返すことにより、波Tの向きに応じて仮設移動堤防1の配置換えを簡易に行うことができる(図2参照)。
【0018】
本実施形態の仮設移動堤防1およびこの仮設移動堤防1を利用した仮設移動堤防の施工方法によれば、堤防本体2の内部に設けられた袋体3への空気Aの給気および排気により、仮設移動堤防1を運搬および設置に適した状態に変化させることができるため、施工性に優れている。すなわち、袋体3を空気Aで膨張させて仮設移動堤防1を水に浮かべると、曳航し易くなる。そのため、例えば海上工事期間中のみ設置することが可能である。また、堤防を短期間で設置、撤去することが可能となる。また、設置前または設置後に波浪解析等に基づいて設置位置を検討することで、効果的な位置に配置して、効果的に波を低減できる。
【0019】
袋体3の空気Aを排気すれば、袋体3が収縮し、袋体3に作用する浮力が小さくなるため、仮設移動堤防1の重量により沈降させることができる。さらに、仮設移動堤防1は、海底に着底した状態で設置されるため、波Tの影響を効果的に抑制できる。そのため、仮設移動堤防1の後方においてクレーン船等の作業船Bの稼働率が向上し、海上工事の工期短縮や工費縮減が期待できる。
また、側壁21(気圧調整室25)内を負圧にすることで、側壁21の下端部を海底地盤Gに貫入させやすくなる。このように、側壁21の一部を海底地盤Gに貫入させることで、仮設移動堤防1の安定化を図ることができる。
さらに、袋体3に土砂Eを投入するため、土砂Eの重量により仮設移動堤防1のさらなる安定化を図ることが可能となる。そのため、大きな波等による堤防本体2の傾きを抑制できる。
【0020】
万が一、想定外の波Tにより仮設移動堤防1が転倒した場合であっても、仮設移動堤防1を容易に立て直すことも可能である。図10に転倒した仮設移動堤防1の立て直し状況を示す。図10に示すように、仮設移動堤防1が転倒した場合には、まず、水面に近い給排口31(給排孔27)から水Wを注水して袋体3内の土砂Eを排出する。土砂Eを排出したら、袋体3内に空気Aを圧入して袋体3内の水Wを排水する。袋体3内の水Wを空気Aに置き換えることで生じた浮力を利用して、堤防本体2を建て起こす。
【0021】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
前記実施形態では、堤防本体2の側壁21が二重壁の場合について説明したが、側壁21は必ずしも二重壁である必要はない。
側壁21(外壁22および内壁23)の下端の形状は限定されるものではない。
前記実施形態では、気圧調整室25への給排水などを行うための開口を、給排孔27に連通するように、気圧調整室25の上端部に設けるものとしたが、開口の形成箇所は限定されるものではなく、例えば、側部(側壁21)に形成してもよい。
【0022】
また、前記実施形態では、気圧調整室25の上端部にバルブ26を設けて、バルブ26を介して気圧調整室25からの排水を行うものとしたが、バルブ26は省略してもよい。また、バルブ26に代えて逆止弁を設けてもよく、気圧調整室25の開口部分の構成は限定されるものではない。
袋体3への土砂Eの投入は必要に応じて行えばよく、堤防本体2の自重などによって波Tによる転倒を防止可能であれば、袋体3に土砂Eを投入する必要はない。
【符号の説明】
【0023】
1 仮設移動堤防
2 堤防本体
21 側壁
22 外壁
23 内壁
24 天井
25 気圧調整室
26 バルブ
27 給排孔
3 袋体
31 給排口
4 蓋材
A 空気
B 作業船
E 土砂
G 海底地盤
W 水
S1 運搬工程
S2 着底工程
S3 貫入工程
S4 土砂投入工程
S5 排土工程
S6 給気工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10