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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173187
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】セット及びインクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
   D06P 5/30 20060101AFI20241205BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20241205BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20241205BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
D06P5/30
B41M5/00 120
B41M5/00 132
B41M5/00 134
B41M5/00 114
B41M5/00 100
C09D11/322
B41J2/01 123
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091424
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100148323
【弁理士】
【氏名又は名称】川▲崎▼ 通
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】山田 明子
(72)【発明者】
【氏名】宮佐 亮太
(72)【発明者】
【氏名】中村 友
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4H157
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA05
2C056FA10
2C056FB03
2C056FC01
2C056HA42
2C056HA46
2H186AB03
2H186AB10
2H186AB12
2H186AB23
2H186AB27
2H186AB35
2H186AB49
2H186AB54
2H186AB55
2H186AB56
2H186AB57
2H186AB58
2H186BA02
2H186BA08
2H186DA17
2H186FA14
2H186FA18
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB58
4H157AA01
4H157BA15
4H157CA12
4H157CB08
4H157GA06
4J039BE01
4J039CA06
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】ブリード、粒状性及び発色性に優れるセットを提供すること。
【解決手段】本発明の一実施形態に係るセットは、オルガノポリシロキサンを含有する粒子と、水と、を含有する処理液組成物と、顔料と、水と、を含有するインクジェットインク組成物と、前記インクジェットインク組成物の成分を凝集させる凝集剤と、水と、を含有する反応液と、を有し、前記反応液と、前記インクジェットインク組成物と、前記処理液組成物との静的表面張力(mN/m)関係が以下の式(反応液の静的表面張力)<(インクジェットインク組成物の静的表面張力)≦(処理液組成物の静的表面張力)を満たし、前記反応液の静的表面張力が25~40mN/mであり、前記処理液組成物と前記インクジェットインク組成物と前記反応液とは、インクジェット法により吐出して用いられるものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルガノポリシロキサンを含有する粒子と、水と、を含有する処理液組成物と、
顔料と、水と、を含有するインクジェットインク組成物と、
前記インクジェットインク組成物の成分を凝集させる凝集剤と、水と、を含有する反応液と、を有し、
前記反応液と、前記インクジェットインク組成物と、前記処理液組成物との静的表面張力(mN/m)関係が以下の式を満たし、
(反応液の静的表面張力)<(インクジェットインク組成物の静的表面張力)≦(処理液組成物の静的表面張力)
前記反応液の静的表面張力が25~40mN/mであり、
前記処理液組成物と前記インクジェットインク組成物と前記反応液とは、インクジェット法により吐出して用いられる、セット。
【請求項2】
前記処理液組成物と前記インクジェットインク組成物と前記反応液とは、布帛に付着して用いられる、請求項1に記載のセット。
【請求項3】
前記インクジェットインク組成物の粘度が3~10mPa・sである、請求項1に記載のセット。
【請求項4】
前記オルガノポリシロキサンを含有する粒子の含有量が、前記処理液組成物の総量に対して、5~20質量%である、請求項1に記載のセット。
【請求項5】
前記オルガノポリシロキサンが、非イオン性シリコーンである、請求項1に記載のセット。
【請求項6】
前記オルガノポリシロキサンが、ジメチルオルガノポリシロキサンである、請求項1に記載のセット。
【請求項7】
前記反応液がさらに、HLB値10以上の界面活性剤を含有する、請求項1に記載のセット。
【請求項8】
前記凝集剤が、多価金属塩である、請求項1に記載のセット。
【請求項9】
前記凝集剤の含有量が、前記反応液の総量に対して、0.5~10質量%である、請求項1に記載のセット。
【請求項10】
前記処理液組成物は、色材の含有量が、前記処理液組成物の総量に対して、0.1質量%以下である、請求項1に記載のセット。
【請求項11】
前記処理液組成物中の総固形分に対する、前記オルガノポリシロキサンの含有量が90質量%以上である、請求項1に記載のセット。
【請求項12】
前記処理液組成物がさらに、SP値12.5以下の水溶性有機溶剤を含有する、請求項1に記載のセット。
【請求項13】
インクジェット法により、顔料と、水と、を含有するインクジェットインク組成物を、布帛に付着させるインク付着工程と、
インクジェット法により、前記インクジェットインク組成物の成分を凝集させる凝集剤と、水と、を含有する反応液を、前記布帛に付着させる反応液付着工程と、
前記インク付着工程の後に、インクジェット法により、請求項1ないし請求項12のいずれか一項に記載のセットが有する前記処理液組成物を、前記布帛に付着させる処理液付着工程と、を有するインクジェット記録方法であって、
前記反応液と、前記インクジェットインク組成物と、前記処理液組成物との静的表面張力(mN/m)関係が以下の式を満たし、
(反応液の静的表面張力)<(インクジェットインク組成物の静的表面張力)≦(処理液組成物の静的表面張力)
前記反応液の静的表面張力が25~40mN/mである、インクジェット記録方法。
【請求項14】
前記反応液付着工程は前記インク付着工程と同時に行われる、請求項13に記載のインクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セット及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、色材として顔料を含むインクジェットインク組成物を用いた捺染(顔料捺染)において、ブリード(滲み)を改善するため、インクの成分を凝集させる凝集剤を含む処理液を用いて、布帛に処理を施す技術が知られている。その中で、処理液をインクジェット法により吐出させて顔料捺染を行う検討がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、オルガノポリシロキサンを含む処理液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-102337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ブリード、粒状性及び発色性の改善において未だ不十分である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るセットの一態様は、
オルガノポリシロキサンを含有する粒子と、水と、を含有する処理液組成物と、
顔料と、水と、を含有するインクジェットインク組成物と、
前記インクジェットインク組成物の成分を凝集させる凝集剤と、水と、を含有する反応液と、を有し、
前記反応液と、前記インクジェットインク組成物と、前記処理液組成物との静的表面張力(mN/m)関係が以下の式を満たし、
(反応液の静的表面張力)<(インクジェットインク組成物の静的表面張力)≦(処理液組成物の静的表面張力)
前記反応液の静的表面張力が25~40mN/mであり、
前記処理液組成物と前記インクジェットインク組成物と前記反応液とは、インクジェット法により吐出して用いられるものである。
【0007】
本発明に係るインクジェット記録方法の一態様は、
インクジェット法により、顔料と、水と、を含有するインクジェットインク組成物を、布帛に付着させるインク付着工程と、
インクジェット法により、前記インクジェットインク組成物の成分を凝集させる凝集剤と、水と、を含有する反応液を、前記布帛に付着させる反応液付着工程と、
前記インク付着工程の後に、インクジェット法により、上記一態様のセットが有する前記処理液組成物を、前記布帛に付着させる処理液付着工程と、を有するインクジェット記録方法であって、
前記反応液と、前記インクジェットインク組成物と、前記処理液組成物との静的表面張力(mN/m)関係が以下の式を満たし、
(反応液の静的表面張力)<(インクジェットインク組成物の静的表面張力)≦(処理液組成物の静的表面張力)
前記反応液の静的表面張力が25~40mN/mである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】インクジェット捺染装置の模式図。
図2】インクジェットヘッドの配置の一例を示す概略図。
図3】インクジェットヘッドの配置の一例を示す概略図。
図4】本発明に係るセットが有する各組成物の組成、物性及び評価結果を示す図(表1)。
図5】本発明に係るセットが有する各組成物の組成、物性及び評価結果を示す図(表2)。
図6】本発明に係るセットが有する各組成物の組成、物性及び評価結果を示す図(表3)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の例を説明するものである。本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお、以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0010】
1.セット
本発明の一実施形態に係るセットは、オルガノポリシロキサンを含有する粒子と、水と、を含有する処理液組成物と、顔料と、水と、を含有するインクジェットインク組成物と、インクジェットインク組成物の成分を凝集させる凝集剤と、水と、を含有する反応液と、を有し、反応液と、インクジェットインク組成物と、処理液組成物との静的表面張力(mN/m)関係が以下の式(反応液の静的表面張力)<(インクジェットインク組成物の静的表面張力)≦(処理液組成物の静的表面張力)を満たし、反応液の静的表面張力が25~40mN/mであり、処理液組成物とインクジェットインク組成物と反応液とは、インクジェット法により吐出して用いられるものである。
【0011】
インクジェット法により吐出させるため、インクジェットインク組成物の粘度は低く設計される。そのような低い粘度のインク組成物は、布帛等の記録媒体に浸透しやすく、ブリード(滲み)を生じやすい。そこで、インクの成分を凝集させる凝集剤を含む反応液を用いることで、インクの浸透が抑制され、ブリードを低減させることができる。
【0012】
一方で、このような反応液を用いると、インクの濡れ広がり性が低下しやすく、記録物の粒状性が悪化してしまうことがある。なお、「粒状性」とは、記録媒体上のインク滴(ドット)間に空隙が生じ、ドット間が色で埋まらない(馴染まない)ために、記録物上に濃淡が生じたり、記録媒体の地の色が残ってムラが生じたりすることをいう。
【0013】
そこで、反応液の表面張力を25~40mN/mとし、かつインクの表面張力よりも反応液の表面張力を小さくすることで、インクの凝集性や濡れ広がり性が適度となり、ブリードと粒状性を良好なものとすることができた。しかしながら、このような場合、粒状性改善のために反応液の凝集性を低く抑えていることで、反応液は記録媒体に浸透しやすい。そのため、インクが記録媒体の表面近傍にやや留まりにくく、十分な発色性が得られないという課題が新たに生じた。
【0014】
これに対して、オルガノポリシロキサンを含有する粒子を有する処理液を用いることで、発色性を良好なものとできることが今般判明した。なお、発色性向上のメカニズムは定かではないが、インク層表面が屈折率の小さい該粒子により覆われることで、画像に入射した光が散乱、分散されやすくなり、正反射を起こしにくくなることが一因であると考えられる。
【0015】
ただし、処理液をインクジェット法により塗布する場合には、生産性を向上させ、工程を簡略化できる一方で、インクと処理液とが乾かないうちに接触することになるため、処理液がインクの下に浸透していってしまい、所望の効果が得られにくくなる。特に、インクジェット法による塗布は、他の浸漬法等による塗布に比べて塗布量が少ないので、インクの下に浸透してしまう処理液の量が僅かであったとしても、所望の効果を得ることが難しくなる。そこで、処理液の表面張力をインクの表面張力以上とすることで、処理液がインク層の表面を覆う程度に留まらせることができ、良好な発色性を得ることができる。
【0016】
以上のように、本実施形態に係るセットによれば、ブリード、粒状性及び発色性を良好とすることができる。
【0017】
以下、本実施形態に係るセットが有する、処理液組成物、インクジェットインク組成物及び反応液、並びに各組成物の表面張力関係等について説明する。なお、本明細書において「インクジェットインク組成物」を単に「インク組成物」や「インク」ということがある。また、「処理液組成物」を単に「処理液」ということがある。
【0018】
1.1 処理液組成物
本実施形態に係るセットは、オルガノポリシロキサンを含有する粒子と、水と、を含有する処理液組成物を有する。
【0019】
「処理液組成物」とは、記録媒体に着色を行うために用いるインク組成物やインク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含む反応液ではなく、インク組成物と共に用いる補助液である。また、処理液組成物は、顔料等の色材を含有してもよいが、処理液組成物の総質量に対して0.2質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.05質量%以下であることがさらに好ましく、下限は0質量%である。処理液組成物は色材を含有しないことが好ましい。色材の含有量が、特に0.1質量%以下であると、オルガノポリシロキサンにより形成される塗膜の低屈折率という性質をより有効に引き出すことができ、換言すれば塗膜に入射した光が色材により遮蔽されにくくなり、記録物の発色性をより向上できる傾向にある。
【0020】
また、本実施形態に係るセットが有する処理液組成物は、インクジェット法により吐出して用いられるものである。なお、「インクジェット法」とは、インクジェット記録装置などのインクジェットヘッドのノズルから、インクなどの液滴を吐出して、記録媒体に付与する記録方法である。
【0021】
以下、処理液組成物に含有する各成分について説明する。
【0022】
1.1.1 オルガノポリシロキサンを含有する粒子
本実施形態に係るセットが有する処理液組成物は、オルガノポリシロキサンを含有する粒子を含有する。該粒子を用いてインク層表面を油膜のようにして覆うことで、記録物の発色性を向上できるものと考えられる。
【0023】
オルガノポリシロキサンを含有する粒子は、オルガノポリシロキサンを含有すれば特に限定されず、例えば、オルガノポリシロキサンの粒子そのものであってもよいし、オルガノポリシロキサンが乳化剤等により分散された状態の粒子であってもよい。また、かかる粒子におけるオルガノポリシロキサンの性状は、固体であっても、液体であってもよい。例えば、オイル状のオルガノポリシロキサンが、乳化剤により水中に粒子状に分散された場合には、分散された粒子がオルガノポリシロキサンを含有する粒子に相当する。
【0024】
オルガノポリシロキサンは、シロキサン結合「-Si(R)-O-」を骨格とし
、これに有機基R、Rとして、メチル基、フェニル基、ビニル基、アミノ基等が結合している有機ケイ素化合物の総称である。オルガノポリシロキサンは、化学組成及び分子量により、油状(オイル状)、ゴム状、樹脂状の性状を呈し、それぞれ、シリコーンオイル(シリコーン油)、シリコーンゴム、シリコーン樹脂(ケイ素樹脂)と称されることがある。
【0025】
処理液組成物に用いるオルガノポリシロキサンは、オイル状化合物であることがより好ましい。オルガノポリシロキサンがオイル状化合物であると、乳化処理により水性マトリックスに粒子状に安定に分散させやすい。
【0026】
オルガノポリシロキサンの分子構造としては、特に限定されず、直鎖状、分岐状、環状、格子状、籠状などを例示できる。オルガノポリシロキサンの分子構造が非環状構造である場合、この分子の末端のSi原子には、通常、置換基を有していても良い炭化水素基、アルコキシ基、水酸基、水素原子、及びハロゲンから選択される一種または二種以上の基が結合している。
【0027】
オルガノポリシロキサンは、特に限定されるものではないが、例えば、ジメチルシリコーン、アルキル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、環状シリコーン、メチルフェニルシリコーンなどが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上混合して使用することができる。
【0028】
また、オルガノポリシロキサンは、シリコーンオイルとして市販されているものを使用してもよい。その例としては、ジメチルシリコーンオイル(ジメチルオルガノポリシロキサン)、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アラルキル変性シリコーンオイル、フロロアルキル変性シリコーンオイル、長鎖アルキル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸アミド変性シリコーンオイル、ポリエーテル・長鎖アルキル・アラルキル変性シリコーンオイル、長鎖アルキル・アラルキル変性シリコーンオイル、フェニル変性シリコーンオイル、ポリエーテル・メトキシ変性シリコーンオイル等が挙げられる。これらの中でも、オルガノポリシロキサンは、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、メチルハイドロジェンシリコーンから選択される1種以上であることがより好ましい。
【0029】
また、上記例示したオルガノポリシロキサンのうち、非イオン性シリコーンであることがより好ましい。なお、非イオン性シリコーンとは、オルガノポリシロキサンの側鎖及び末端の少なくとも一部にイオン性の置換基を有さないものである。非イオン性シリコーンとしては、例えば、ポリシロキサンの側鎖及び末端が全てメチル基であるジメチルオルガノポリシロキサン;ポリシロキサンの側鎖の一部がフェニル基であるメチルフェニルオルガノポリシロキサンなどが挙げられる。
オルガノポリシロキサンが非イオン性シリコーンである場合には、化学的により安定であり、形成される画像の黄変等をより生じにくく、耐光性がより良好となる傾向にある。
【0030】
上記例示したオルガノポリシロキサンのうち、ジメチルオルガノポリシロキサンが特に好ましい。ジメチルオルガノポリシロキサンは、化学的に特に安定であり、形成される画像の黄変等を特に生じにくく、耐光性が特に良好となる傾向にある。
【0031】
シリコーンオイルの市販品としては、ジメチルシリコーン(信越化学工業(株)製:KF-96シリーズ、旭化成ワッカーシリコーン株式会社製:NP2406)、メチルハイドロジェン型ポリシロキサン(信越化学工業(株)製:KF-99シリーズ,KF-9901等)、アミノ変性シリコーンオイル(信越化学工業(株)製:KF-868、旭化成
ワッカーシリコーン株式会社製:NP2609)、メチルフェニルシリコーン(信越化学工業(株)製:KF-50シリーズ等)、シリコーン分岐型シリコーン処理剤(信越化学工業(株)製:KF-9908,KF-9909等)等を挙げることができる。
【0032】
オルガノポリシロキサンは、例えば25℃における粘度が、特に限定されないが、好ましくは1000mPa・s以下であり、また、好ましくは50mPa・s以上であり、より好ましくは500mPa・s以上900mPa・s以下、さらに好ましくは600mPa・s以上700mPa・s以下である。また、オルガノポリシロキサンが乳化分散されている場合の基油粘度は、特に限定されないが、上限は、好ましくは1000000mm/s以下、より好ましくは100000mm/s以下、下限は、好ましくは10mm/s以上、より好ましくは10mm/s以上である。なお、基油粘度とは、基油の粘性を表し、基油の内部抵抗の大きさを測定した数値である。基油粘度の数値が大きいほど粘度が高く、小さいほど粘度が低い基油となる。
【0033】
オルガノポリシロキサンは、各種界面活性剤を乳化剤としてエマルジョン化して粒子状にして配合させてもよい。その際の乳化剤としては、例えば、非イオン性界面活性剤、陰イオン(アニオン)性界面活性剤、陽イオン(カチオン)性界面活性剤、両性界面活性剤、リン脂質等を使用することができる。
【0034】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、及びソルビトールの脂肪酸エステル、並びにこれらのアルキレングリコール付加物、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート80、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等を例示することができる。
【0035】
また、非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンフィトステロール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンラノリン、ポリオキシエチレンラノリンアルコール、ポリオキシエチレンミツロウ誘導体、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合体、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸(塩)等の非イオン界面活性剤を使用するのも好適である。
【0036】
非イオン性界面活性剤は、市販品を用いてもよく、例えば、ニューコール 1305、1310(日本乳化剤社製、ポリオキシエチレントリデシルエーテル)などが挙げられる。
【0037】
アニオン性界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩等が挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム等が挙げられる。両性界面活性剤としては、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルアミドジメチルアミノ酢酸ベタイン等が挙げられる。さらに天然由来の界面活性剤を用いてもよく、レシチン、ラノリン、コレステロール、サポニン等が挙げられる。
【0038】
オルガノポリシロキサンを乳化する際の乳化剤の配合量は、オルガノポリシロキサン全
量に対して、好ましくは5~30質量%、より好ましくは10~20質量%、特に好ましくは12~17質量%である。
【0039】
また、エマルジョン化した粒子状のオルガノポリシロキサンの粒子の平均粒子径は2μm以下、好ましくは1μm以下、さらに好ましくは0.2~0.8μmの範囲であることが望ましい。
【0040】
オルガノポリシロキサンを含有する粒子の含有量は、処理液組成物の総量に対して、5~20質量%であることが好ましい。この場合、発色性及び吐出安定性をより良好とできる傾向にある。
該含有量の下限値は、1質量%以上であってもよく、3質量%以上であってもよいが、該含有量の下限値が5質量%以上であると、発色性がより良好となる傾向にある。
該含有量の上限値は、17質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましく、13質量%以下が特に好ましく、10質量%以下がより特に好ましい。該含有量の上限値が20質量%以下であると、吐出安定性がより良好となる傾向にある。
【0041】
また、オルガノポリシロキサンの含有量は、処理液組成物中の総固形分に対して、90質量%以上であることが好ましい。処理液組成物中の総固形分に対するオルガノポリシロキサンの含有量は、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上である。なお、処理液組成物中の総固形分に対する、オルガノポリシロキサンを含有する粒子の含有量を上記範囲とすることも好ましい。
【0042】
処理液組成物中の総固形分に対するオルガノポリシロキサンの含有量が、90質量%以上であると、より十分に低屈折率の塗膜を形成しやすく、より発色性の良好な画像を形成できる傾向にある。また、処理液組成物をインクジェット法により吐出する場合の吐出安定性をより良好なものとすることができる傾向にある。
【0043】
1.1.2 水
本実施形態に係るセットが有する処理液組成物は、水を含有する。水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、及び蒸留水等の純水、並びに超純水のような、イオン性不純物を低減したものが挙げられる。また、紫外線照射又は過酸化水素の添加等によって滅菌した水を用いると、処理液組成物を長期保存する場合に細菌類や真菌類の発生を抑制することができる。
【0044】
水の含有量は、処理液組成物の総量に対して、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、45質量%以上がさらに好ましく、50質量%以上がよりさらに好ましく、55質量%以上が特に好ましく、60質量%以上がより特に好ましい。水の含有量が上記範囲内であることにより、処理液組成物を比較的低粘度とすることができる。また、水の含有量の上限は特に制限されないが、処理液組成物の総量に対して、90質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましい。
【0045】
1.1.3 SP値12.5以下の水溶性有機溶剤
本実施形態に係るセットが有する処理液組成物は、SP値12.5以下の水溶性有機溶剤を含んでいてもよい。SP値12.5以下の水溶性有機溶剤は、比較的疎水性が高く、処理液組成物におけるオルガノポリシロキサンを含有する粒子の分散性を良好に保ちやすいため、吐出安定性をより良好にできる傾向にある。これはオルガノポリシロキサンを含有する粒子と水との間の親水-疎水バランスを良好にできるためと考えられる。
【0046】
ここで、SP値について説明する。SP値とは、ハンセン(Hansen)法に基づくSP値である。ハンセン法はSP値δを3つの項に分類し、δ=δ +δ +δ
と表して算出したものである。δ、δ、δはそれぞれ分散力項、双極子間力項、水素結合力項に相当する溶解度パラメーターである。
【0047】
また、SP値の単位は、(cal/cm1/2であり、SP値は、「分子間の相互作用が似ている2つの物質は、互いに溶解しやすい」との考えに基づいておりハンセン氏により提唱された値である(HSPとも称される。)。計算により見積もることができる他、実験的、経験的に求めることができ、各種の文献にその値の記載があるものが多い。本実施形態において、SP値は、計算ソフトウエアであるHansen-Solubility HSPiPを用いて導出した値を用いることができる。
【0048】
以下に限定されないが、SP値12.5以下の水溶性有機溶剤及びそのHansen法に基づくSP値を例示する。エタノール(SP値:11.8)、n-プロピルアルコール(SP値:11.8)、1,2-ヘキサンジオール(SP値:12.2)、ブトキシプロパノール(SP値:8.9)、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(SP値:11.6)、ヘキサン(SP値:7.45)、シクロヘキサン(SP値:8.40)、3,5,5-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オン(SP値:8.87)、キシレン(SP値:8.95)、エチルベンゼン(SP値:8.93)、酢酸ブチル(SP値:8.70)、エチルオクタノエート(SP値:8.3)、3-メトキシブチルアセテート(SP値:8.71)、オレイン酸(SP値:8.69)、ドデシルアクリレート(SP値:8.63)、ジエチルエーテル(SP値:7.82)、エチルプロピルエーテル(SP値:8.8)、エチレングリコールモノメチルエーテル(SP値:11.4)、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(SP値:9.2)、エチレングリコールモノブチルエーテル(SP値:9.8)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(SP値:10.7)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(SP値:10.0)、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(SP値:8.7)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(SP値:9.4)、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル(SP値:8.3)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(SP値:8.1)、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル(SP値:7.9)、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル(SP値:8.1)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(SP値:7.7)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(SP値:10.4)、プロピレングリコールn-プロピルエーテル(SP値9.8)、プロピレングリコールn-ブチルエーテル(SP値:9.7)、プロピレングリコールモノフェニルエーテル(SP値:9.4)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(SP値:9.6)、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル(SP値:10.9)、ジプロピレングリコールn-プロピルエーテル(SP値:9.5)、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル(SP値:9.4)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(SP値:7.88)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(SP値:10.7)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(SP値:10.0)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(SP値:8.7)、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル(SP値:8.0)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(SP値:9.1)、トリプロピレングリコールn-ブチルエーテル(SP値:9.3)、トリプロピレングリコールジメチルエーテル(SP値:7.4)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(SP値:8.9)、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート(SP値:8.96)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(SP値:8.91)、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(SP値:8.85)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(SP値:8.94)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(SP値:8.6)。
【0049】
SP値12.5以下の水溶性有機溶剤は、一種単独で用いてもよく、複数種を用いてもよい。
【0050】
SP値12.5以下の水溶性有機溶剤は、オルガノポリシロキサンの分散構造をより安定化しやすい点で、多価アルコールやグリコールエーテルであることがより好ましい。
多価アルコールとしては、1,2-ヘキサンジオールがより好ましい。多価アルコールは画像の滲みを生じさせにくいという点でも、より好ましい。
グリコールエーテルとしては、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテルがより好ましく、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテルが特に好ましい。
【0051】
また、SP値12.5以下の水溶性有機溶剤のSP値の下限は、9以上であることがより好ましい。このようにすれば、処理液組成物の系をさらに安定化できる場合がある。
【0052】
SP値が12.5以下の有機溶剤の合計の含有量は、処理液組成物の総量に対して、0.01質量%以上10.0質量%以下、好ましくは0.1質量%以上5.0質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上3.0質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以上1.5質量%以下である。SP値が12.5以下の有機溶剤の含有量がこのような範囲であると、オルガノポリシロキサンの粒子の分散構造をより安定化しやすく吐出安定性により優れる傾向にある。
【0053】
1.1.4 SP値13以上の水溶性有機溶剤
本実施形態に係るセットが有する処理液組成物は、SP値13以上の水溶性有機溶剤を含有してもよい。SP値13以上の水溶性有機溶剤は、いわゆる保湿剤に分類される。SP値13以上の水溶性有機溶剤は、比較的親水性が高く、処理液組成物におけるオルガノポリシロキサンを含む粒子の分散性をさらに良好に保ちやすい。これはオルガノポリシロキサンを含む粒子と水との間の親水-疎水バランスを、より良好にできるためと考えられる。SP値13以上の水溶性有機溶剤は、SP値12.5以下の水溶性有機溶剤と水(SP値:23.9)との間のSP値を有するので、両者により親水性又は疎水性の連続性をより良好にすることができることによると考えられる。
【0054】
SP値が13以上の水溶性有機溶剤として、以下に限定されないが、有機溶剤及びそのHansen法に基づくSP値を例示する。メタノール(SP値:14.84)、1,3-ブタンジオール(SP値:14.47)、1,3-プロパンジオール(SP値:14.98)、トリエチレングリコール(SP値:13.5)、グリセリン(SP値:16.7)、トリメチロールプロパン(SP値:14.4)、γ-ブチロラクトン(SP値:14.8)、2-ピロリドン(γ-ブチロラクタム)(SP値:14.2)、エチレングリコール(SP値:16.11)、プロピレングリコール(SP値:14.2)、等が挙げられる。これらの中でも、グリセリンであることがより好ましくい。
【0055】
SP値13以上の水溶性有機溶剤は、一種単独で用いてもよく、複数種を用いてもよい。
【0056】
SP値13以上の水溶性有機溶剤のSP値の上限は、特に限定されないが、20以下であることが好ましく、18以下であることがより好ましい。このような範囲であれば、処理液組成物の系をさらに安定化できる傾向にある。
【0057】
処理液組成物が、SP値13以上の水溶性有機溶剤を含む場合、その合計の含有量は、特に限定されないが、処理液組成物の総量に対して、好ましくは10質量%以上40質量
%以下、より好ましくは15質量%以上35質量%以下、さらに好ましくは15質量%以上30質量%以下、特に好ましくは15質量%以上25質量%以下である。
【0058】
1.1.5 界面活性剤
本実施形態に係るセットが有する処理液組成物は、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤の中でも、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、及びフッ素系界面活性剤を好ましく用いることができる。
【0059】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、サーフィノール104、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG-50、104S、420、440、465、485、SE、SE-F、504、61、DF37、CT111、CT121、CT131、CT136、TG、GA、DF110D(以上全て商品名、エア・プロダクツ&ケミカルズ社製)、オルフィンB、Y、P、A、STG、SPC、E1004、E1010、E1020、PD-001、PD-002W、PD-003、PD-004、EXP.4001、EXP.4036、EXP.4051、AF-103、AF-104、AK-02、SK-14、AE-3(以上全て商品名、日信化学工業社製)、アセチレノールE00、E00P、E40、E100(以上全て商品名、川研ファインケミカル社製)が挙げられる。
【0060】
シリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリシロキサン系化合物が好ましく挙げられる。当該ポリシロキサン系化合物としては、特に限定されないが、例えばポリエーテル変性オルガノシロキサンが挙げられる。当該ポリエーテル変性オルガノシロキサンの市販品としては、例えば、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-348(以上商品名、ビックケミー・ジャパン社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(以上商品名、信越化学工業社製)、シルフェイスSAG002、005、503A、008(以上商品名、日信化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0061】
フッ素系界面活性剤としては、フッ素変性ポリマーを用いることが好ましく、具体例としては、BYK-3440(ビックケミー・ジャパン社製)、サーフロンS-241、S-242、S-243(以上商品名、AGCセイミケミカル社製)、フタージェント215M(ネオス社製)等が挙げられる。
【0062】
界面活性剤を含有させる場合の含有量は、処理液組成物の総質量に対して、0.01~2質量%が好ましく、0.01~1質量%がより好ましく、0.05~0.5質量%がさらに好ましい。
【0063】
1.1.6 その他の成分
本実施形態に係るセットが有する処理液組成物は、必要に応じて、後述するインクジェットインク組成物に含有してもよい有機溶剤、エチレンジアミン四酢酸及びそれらの塩類等のキレート化剤、2-ピリジンチオール-1-オキサイドナトリウム等の抗菌剤・防かび剤、pH調整剤、尿素類、アミン類、糖類等の添加剤、粘度調整剤、酸化防止剤、酸素吸収剤、溶解助剤等の成分を含有してもよい。
【0064】
1.2 インクジェットインク組成物
本実施形態に係るセットは、顔料と、水と、を含有するインクジェットインク組成物を有する。また、本実施形態に係るセットが有するインクジェットインク組成物は、インク
ジェット法により吐出して用いられるものである。
【0065】
以下、インクジェットインク組成物に含有する各成分について説明する。
【0066】
1.2.1 顔料
本実施形態に係るセットが有するインクジェットインク組成物は、顔料を含有する。顔料としては、例えば、無機顔料、有機顔料を用いることができる。なお、顔料は色材の1種である。色材としては、例えば、顔料や染料が挙げられる。
【0067】
無機顔料としては、特に制限されないが、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック類;酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、シリカなどの白色無機酸化物が挙げられる。
【0068】
カーボンブラック類としては、例えば、C.I.(Colour Index Generic Name)ピグメントブラック1、7、11等が挙げられる。カーボンブラック類は市販品を用いてもよく、例えば、三菱化学社の、No.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200Bなど、コロンビアカーボン社の、Raven(登録商標)5750,5250,5000,3500,1255,700など、CABOT社の、Rega1(登録商標)400R,330R,660R、Mogul(登録商標)L、Monarch(登録商標)700,800,880,900,1000,1100,1300,1400など、Degussa社の、Color Black FW1,FW2,FW2V,FW18,FW200,S150,S160,S170、Printex(登録商標)35,U,V,140U、SpecialBlack 6,5,4A,4などが挙げられる。
【0069】
有機顔料としては、キナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾメチン系顔料又はアゾ系顔料等を例示できる。
【0070】
有機顔料の具体例としては、下記のものが挙げられる。
【0071】
シアン顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15:3、15:4、15:34、16、22、60等;C.I.バットブルー4、60等が挙げられ、好ましくは、C.I.ピグメントブルー15:3、15:4、及び60からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物を例示できる。
【0072】
マゼンタ顔料としては、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、168、184、202、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられ、好ましくはC.I.ピグメントレッド122、202、及び209、C.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物を例示できる。
【0073】
イエロー顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14C、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、119、110、114、128、129、138、150、151、154、155、180、185、等が挙げられ、好ましくはC.I.ピグメントイエロー74、109、110、128、138、150、及び180からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物を例示で
きる。
【0074】
これ以外の色の顔料も使用可能である。例えば、オレンジ顔料、グリーン顔料などが挙げられる。
【0075】
顔料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
なお、顔料は、インク組成物中での分散性を高めるために、顔料に表面処理を施すか、分散剤などを配合することが好ましい。
【0077】
顔料の表面処理は、物理的または化学的処理によって、顔料の表面にカルボニル基、カルボキシル基、アルデヒド基、ヒドロキシル基、スルホン基、アンモニウム基、及びこれらの塩からなる官能基などを、直接的又は間接的に結合させる処理であることが好ましい。特に、表面処理は、例えば、オゾン、次亜塩素酸、発煙硫酸等により、顔料表面を酸化、あるいはスルホン化して顔料粒子の表面を修飾するものであることがより好ましい。
【0078】
インク組成物に分散剤を配合する場合は、分子構造中に疎水部(疎水性基)と親水部(親水性基)とを有する分散剤を用いることが好ましい。このような分散剤は、疎水部が顔料の粒子表面に吸着し、親水部がインク組成物の水性媒体側に配向する作用を有している。この作用により、顔料を分散体としてインク組成物中により安定的に含有させることが可能となる傾向にある。
このような分散剤としては、特に限定されないが、例えば、アクリル系樹脂、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクレート共重合体などのスチレン-アクリル系樹脂、スチレン-マレイン酸系樹脂、およびこれらの塩、芳香族スルホン酸塩のホルマリン縮合物などが挙げられ、これらの群から選ばれる1種以上が採用可能である。なお、分散剤として市販品を用いてもよい。
【0079】
また、樹脂などで顔料の粒子を被覆し、分散性を付与する方法を用いてもよい。顔料粒子を被覆する方法としては、酸析法、転相乳化法、ミニエマルション重合法などが採用可能である。
【0080】
顔料の含有量は、用途に応じて適宜調整することができるが、インク組成物の総量に対して、好ましくは0.1質量%以上17.0質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以上15.0質量%以下であり、さらに好ましくは2.0質量%以上10.0質量%以下であり、特に好ましくは3.0質量%以上8.0質量%以下である。顔料の含有量が上記範囲内であると、インクジェット法による吐出をする際の吐出性能をより向上できる傾向にある。
【0081】
なお、インク組成物には、上記顔料以外の色材として、染料を含有させてもよい。染料としては、例えば、酸性染料、反応染料、直接染料などが挙げられる。
【0082】
1.2.2 水
本実施形態に係るセットが有するインクジェットインク組成物は、水を含有する。このような水としては、上述の処理液組成物に含有される水と同様のものを用いることができ、含有量についても同様とできる。
【0083】
1.2.3 樹脂粒子
本実施形態に係るセットが有するインクジェットインク組成物は、樹脂粒子を含有してもよい。樹脂粒子は、記録媒体に付着させたインクジェットインク組成物による画像の摩擦堅牢性などを向上できる場合がある。
【0084】
樹脂粒子としては、例えば、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂(スチレンアクリル系樹脂を含む)、フルオレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ロジン変性樹脂、テルペン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エチレン酢酸ビニル系樹脂等からなる樹脂粒子のうち、アニオン性を有するものが挙げられる。なかでも、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオフレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂が好ましい。これらの樹脂粒子は、エマルジョン形態で取り扱われることが多いが、粉体の性状であってもよい。また、樹脂粒子は1種単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0085】
これらの中でも樹脂粒子は、ウレタン系樹脂であることがより好ましい。ウレタン系樹脂を選択すると、さらに摩擦堅牢性の良好な画像を形成できる傾向にある。
【0086】
ウレタン系樹脂とは、ウレタン結合を有する樹脂の総称である。ウレタン系樹脂には、ウレタン結合以外に、主鎖にエーテル結合を含むポリエーテル型ウレタン樹脂、主鎖にエステル結合を含むポリエステル型ウレタン樹脂、主鎖にカーボネート結合を含むポリカーボネート型ウレタン樹脂等を使用してもよい。
【0087】
また、ウレタン系樹脂として、市販品を用いてもよく、例えば、スーパーフレックス 460、460s、840、E-4000(商品名、第一工業製薬株式会社製)、レザミン D-1060、D-2020、D-4080、D-4200、D-6300、D-6455(商品名、大日精化工業株式会社製)、タケラック WS-5100、6021、W-512-A-6(商品名、三井化学ポリウレタン株式会社製)、サンキュアー2710(商品名、LUBRIZOL社製)、パーマリンUA-150(商品名、三洋化成工業社製)、ETERNACOLL UWシリーズ、例えばUW-1527等(宇部興産株式会社製)などの市販品を用いてもよい。
【0088】
樹脂粒子の含有量は、インク組成物の総量に対して、固形分量で好ましくは1.0質量%以上であり、より好ましくは1.0~20質量%であり、さらに好ましくは2.0~15質量%であり、特に好ましくは3.0~10.0質量%である。樹脂粒子の含有量が上記範囲内であることにより、より良好な摩擦堅牢性の記録物を得ることができる傾向にある。
【0089】
1.2.4 有機溶剤
本実施形態に係るセットが有するインクジェットインク組成物は、有機溶剤を含有してもよい。有機溶剤は水溶性を有することが好ましい。有機溶剤の機能の一つは、記録媒体に対するインクジェットインク組成物の濡れ性を向上させることや、インクジェットインク組成物の保湿性を高めることが挙げられる。また、有機溶剤は、浸透剤としても機能できる。
【0090】
有機溶剤としては、例えば、アルコール類、アルキレングリコールエーテル類、エステル類、環状エステル類、含窒素溶剤などを挙げることができる。含窒素溶剤としては環状アミド類、非環状アミド類などを挙げることができる。非環状アミド類としてはアルコキシアルキルアミド類などが挙げられる。
【0091】
アルコール類としては、例えば、アルカンが有する1つの水素原子がヒドロキシル基によって置換された化合物が挙げられる。アルカンは、直鎖型であってもよく、分枝型であってもよい。アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコール、n-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、iso-ブタノール、n-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノ
ール、及びtert-ペンタノールが挙げられる。
【0092】
アルキレングリコールエーテル類は、浸透性に優れるため浸透溶剤とも呼ばれる。アルキレングリコールエーテル類としては、アルキレングリコールのモノエーテル又はジエーテルであればよく、アルキルエーテルが好ましい。具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチエレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(BTG、標準沸点278℃)テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル類、及び、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル等のアルキレングリコールジアルキルエーテル類が挙げられる。
【0093】
グリコールエーテルを用いる場合は、その炭素数は、12以下が好ましく、8以下が好ましく、6以下が好ましい。下限は2以上が好ましく、3以上がさらに好ましく、5以上がより好ましい。炭素数は分子中の炭素数である。
【0094】
エステル類としては、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メトキシブチルアセテート、等のグリコールモノアセテート類、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジアセテート、エチレングリコールアセテートプロピオネート、エチレングリコールアセテートブチレート、ジエチレングリコールアセテートブチレート、ジエチレングリコールアセテートプロピオネート、ジエチレングリコールアセテートブチレート、プロピレングリコールアセテートプロピオネート、プロピレングリコールアセテートブチレート、ジプロピレングリコールアセテートブチレート、ジプロピレングリコールアセテートプロピオネート、等のグリコールジエステル類が挙げられる。
【0095】
環状エステル類としては、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、β-ブチロラクトン、β-バレロラクトン、γ-バレロラ
クトン、β-ヘキサノラクトン、γ-ヘキサノラクトン、δ-ヘキサノラクトン、β-ヘプタノラクトン、γ-ヘプタノラクトン、δ-ヘプタノラクトン、ε-ヘプタノラクトン、γ-オクタノラクトン、δ-オクタノラクトン、ε-オクタノラクトン、δ-ノナラクトン、ε-ノナラクトン、ε-デカノラクトン等の環状エステル類(ラクトン類)、並びに、それらのカルボニル基に隣接するメチレン基の水素が炭素数1~4のアルキル基によって置換された化合物を挙げることができる。
【0096】
環状アミド類としては、ラクタム類が挙げられ、例えば、2-ピロリドン、1-メチル-2-ピロリドン、1-エチル-2-ピロリドン、1-プロピル-2-ピロリドン、1-ブチル-2-ピロリドン、等のピロリドン類などが挙げられる。
【0097】
アルコキシアルキルアミド類としては、例えば、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-n-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-n-ブトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-n-ブトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-n-プロポキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-n-プロポキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-n-プロポキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-iso-プロポキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-iso-プロポキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-iso-プロポキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-tert-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-tert-ブトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-tert-ブトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、等を例示することができる。
【0098】
多価アルコールとは、分子中に2個以上の水酸基を有するものである。多価アルコールとしては、例えば、アルカンジオール類、ポリオール類などが挙げられ、これらから選ばれる1種以上であることが好ましい。なお、多価アルコールの常温常圧における状態は、液体であってもよく固体であってもよいが、液体であることが好ましい。
【0099】
アルカンジオール類とは、例えば、アルカンが2個の水酸基で置換された化合物が挙げられる。アルカンジオール類としては、例えば、エチレングリコール(別名:エタン-1,2-ジオール)、プロピレングリコール(別名:プロパン-1,2-ジオール)、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブチレングリコール(別名:1,3-ブタンジオール)、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-1,3-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール等を挙げることができる。
【0100】
ポリオール類としては、例えば、アルカンジオール類の2分子以上が水酸基同士で分子間縮合した縮合物、水酸基を3個以上有する化合物などが挙げられる。
【0101】
アルカンジオール類の2分子以上が水酸基同士で分子間縮合した縮合物としては、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のジアルキレングリコールや、ト
リエチレングリコール(標準沸点287℃)、トリプロピレングリコール等のトリアルキレングリコールなどが挙げられる。
【0102】
水酸基を3個以上有する化合物は、アルカンやポリエーテル構造を骨格とする、3個以上の水酸基を有する化合物である。水酸基を3個以上有する化合物としては、例えば、グリセリン(標準沸点290℃)、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,5-ヘキサントリオール、1,2,6-ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ポリオキシプロピレントリオールなどが挙げられる。
【0103】
これらの中でも、有機溶剤としては、多価アルコールを含むことが好ましく、標準沸点250℃以上の多価アルコールを含むことがより好ましい。
標準沸点250℃以上の多価アルコールの含有量は、インクジェットインク組成物の総量に対して1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましく、13質量%以上であることがよりさらに好ましく、15質量%以上であることが特に好ましい。上限は特に制限されないが、40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、25質量%以下であることがよりさらに好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。
標準沸点250℃以上の多価アルコールの含有量が上記範囲内にあると、保湿性と乾燥性のバランスに優れ、吐出安定性と摩擦堅牢性を共に良好とできる傾向にある。
上記標準沸点250℃以上の多価アルコールの標準沸点は、270℃以上がより好ましく、280℃以上がさらに好ましい。
【0104】
有機溶剤の含有量は、インクジェットインク組成物の総量に対して、5~30質量%であることが好ましく、10~25質量%であることがより好ましく、15~20質量%であることがさらに好ましい。有機溶剤の含有量が上記範囲内であると、保湿性と乾燥性のバランスに優れ、吐出安定性と摩擦堅牢性を共に良好とできる傾向にある。
【0105】
1.2.5 界面活性剤
本実施形態に係るセットが有するインクジェットインク組成物は、界面活性剤を含有してもよい。このような界面活性剤としては、上述の処理液組成物に含有される界面活性剤と同様のものを用いることができる。
【0106】
界面活性剤を含有させる場合の含有量は、インクジェットインク組成物の総質量に対して、0.01~3質量%が好ましく、0.05~2質量%がより好ましく、0.1~1質量%がさらに好ましく、0.2~0.8質量%が特に好ましい。
【0107】
1.2.6 その他の成分
本実施形態に係るセットが有するインクジェットインク組成物は、pH調整剤を含有してもよい。pH調整剤としては、特に限定されないが、酸、塩基、弱酸、弱塩基の適宜の組み合わせが挙げられる。
そのような組み合わせに用いる酸、塩基の例としては、無機酸として、硫酸、塩酸、硝酸等;無機塩基として水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニア等が挙げられ;有機塩基として、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(THAM)等が挙げられ;有機酸として、アジピン酸、クエン酸、コハク酸、乳酸、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(BES)、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、モルホリノエタンスルホン酸(
MES)、カルバモイルメチルイミノビス酢酸(ADA)、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)、N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)、コラミン塩酸、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸(TES)、アセトアミドグリシン、トリシン、グリシンアミド、ビシン等のグッドバッファー、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液等を用いてもよい。これらの中でも、有機塩基が好ましく、トリエタノールアミンがより好ましい。
【0108】
インクジェットインク組成物は、pH調整剤を一種単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。また、pH調整剤を用いる場合の、インクジェットインク組成物の全質量に対する合計の含有量は、例えば、0.05質量%以上3.0質量%以下であり、0.1質量%以上1.0質量%以下がより好ましい。
【0109】
また、本実施形態に係るセットが有するインクジェットインク組成物は、必要に応じて、エチレンジアミン四酢酸及びそれらの塩類等のキレート化剤、2-ピリジンチオール-1-オキサイドナトリウム等の抗菌剤・防かび剤、尿素類、アミン類、糖類等の添加剤、粘度調整剤、酸化防止剤、酸素吸収剤、溶解助剤等の成分を含有してもよい。
【0110】
1.2.7 粘度
本実施形態に係るセットが有するインクジェットインク組成物の粘度は、3~10mPa・sであることが好ましく、3~8mPa・sであることがより好ましく、3.5~6mPa・sであることがさらに好ましい。粘度が3mPa・s以上であると、より良好な発色性が得られる傾向にある。粘度が10mPa・s以下であると、より良好な吐出安定性が得られる傾向にある。なお、粘度は、例えば、Pysica社の粘弾性試験機MCR-300(製品名)を用いて測定することができる。
【0111】
1.3 反応液
本実施形態に係るセットは、上述のインクジェットインク組成物の成分を凝集させる凝集剤と、水と、を含有する反応液を有し、該反応液はインクジェット法により吐出して用いられるものである。
【0112】
このようなインクジェット法により吐出して用いる反応液は、従来の浸漬法等の処理方法とは異なり、別装置/設備を用いる必要性がなく、また工程が簡略化され、廃液の排出も無くすことが可能である。加えて、インクジェット法により反応液を塗布することで、インクジェット法ではないスプレー等により塗布する場合と比較し、反応液の塗布量が多い場合であっても画像が滲みにくい。これは、インクジェット法による塗布であると、吐出量を少なく制御でき、かつ、インクとウェットオンウェット方式で即座に接触できるため、反応液とインクの反応が進行しやすくなるためであると推測される。
【0113】
なお、インクジェット法ではないスプレー等による塗布の場合には、吐出量を少なく制御することは難しい。また、乾燥工程を経る必要があり、インクと反応液がウェットオンウェット方式で即座に接触することはない。それゆえ、反応液とインクの反応に劣る。すなわち、反応液をスプレー等により多量に記録媒体に塗布し乾燥を行った後においては、反応液自体が記録媒体内部に浸透してしまうことや、反応液の乾燥後の成分とインクとの反応は固体/液体の反応であることなどに起因して、後から着弾するインクがすぐには凝集せず、インクの浸透や滲みが生じてしまう。
【0114】
「反応液」とは、記録媒体に着色を行うために用いるインク組成物や上述の処理液組成物ではなく、インク組成物と共に用いる、インク組成物の成分を凝集させるための補助液である。また、反応液は、顔料等の色材を含有してもよいが、反応液の総質量に対して0
.2質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.05質量%以下であることがさらに好ましく、下限は0質量%である。反応液は色材を含有しないことが好ましい。
【0115】
以下、反応液に含有する各成分について説明する。
【0116】
1.3.1 凝集剤
本実施形態に係るセットが有する反応液は、上述のインクジェットインク組成物の成分を凝集させる凝集剤を含有する。凝集剤は、インクに含まれる顔料等の成分と反応することで、顔料等を凝集させる作用を有する。ただし、凝集剤による顔料等の凝集の程度は凝集剤、顔料等のそれぞれの種類によって異なり、調節することができる。凝集剤の作用により、例えば、顔料の発色を高めること、樹脂粒子の定着性を高めること、及び/又は、インクの粘度を高めることができる。
【0117】
凝集剤は、特にインクに含まれる顔料がアニオン性の分散顔料である場合、カチオン性化合物、および酸から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0118】
カチオン性化合物は、塩析によってインク中のアニオン性の分散顔料を凝集させることができる。カチオン性化合物としては、例えば、多価金属塩、カチオン性樹脂、およびカチオン性界面活性剤などが挙げられる。
【0119】
多価金属塩とは、2価以上の金属イオンとアニオンから構成される化合物である。2価以上の金属イオンとしては、例えば、カルシウム、マグネシウム、銅、ニッケル、亜鉛、バリウム、アルミニウム、チタン、ストロンチウム、クロム、コバルト、鉄等のイオンが挙げられる。これらの多価金属塩を構成する金属イオンの中でも、インクの成分の凝集性に優れているという点から、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンの少なくとも一方であることが好ましい。
【0120】
多価金属塩を構成するアニオンとしては、無機イオン又は有機イオンである。すなわち、本発明における多価金属塩とは、無機イオン又は有機イオンと多価金属とからなるものである。このような無機イオンとしては、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、水酸化物イオン等が挙げられる。有機イオンとしては有機酸イオンが挙げられ、例えばカルボン酸イオンが挙げられる。
【0121】
なお、多価金属化合物はイオン性の多価金属塩であることが好ましく、特に、上記多価金属塩がマグネシウム塩、カルシウム塩である場合、反応液の安定性がより良好となる。また、多価金属の対イオンとしては、無機酸イオン、有機酸イオンのいずれでもよい。
【0122】
上記の多価金属塩の具体例としては、重質炭酸カルシウム及び軽質炭酸カルシウムといった炭酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、水酸化カルシウム、塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、塩化バリウム、炭酸亜鉛、硫化亜鉛、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、硝酸銅、ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、酢酸アルミニウム等が挙げられる。
【0123】
これらの多価金属塩は、1種単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。なお、これらの金属塩は、原料形態において水和水を有していてもよい。
【0124】
カチオン性樹脂は、カチオン性基を有する樹脂である。樹脂としては、例えば、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、フルオレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ロジン変性樹脂
、テルペン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エチレン酢酸ビニル系樹脂等を挙げることができる。なかでも、ウレタン樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂が好ましい。
【0125】
カチオン性基の例としては、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、ヒドラジノ基などが挙げられる。なお、アミノ基には、第1級アミン基、第2級アミン基及び第3級アミン基が含まれる。また、カチオン性基は樹脂中に1種又は2種以上有するものであってよい。
【0126】
第1級アミン基を有する樹脂としては、ポリアリルアミン、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリアリルアミンアミド硫酸塩、メトキシカルボニル化アリルアミン重合体、メチルカルボニル化アリルアミン酢酸塩重合体、尿素化ポリアリルアミン重合体、カルボキシルメチル化ポリアリルアミン重合体、及びヘキサメチレンジアミン/エピクロルヒドリン樹脂などが挙げられる。
【0127】
第2級アミン基を有する樹脂としては、ジアリルアミン重合体、ジアリルアミン塩酸塩重合体、ジアリルアミン塩酸塩・二酸化硫黄共重合体、ジアリルアミン酢酸塩・二酸化硫黄共重合体、ジアリルアミン塩酸塩・アクリルアミド共重合体、ジメチルアミン/エピクロルヒドリン樹脂、ジメチルアミン/アンモニア/エピクロルヒドリン樹脂、及びジメチルアミン・エチレンジアミン・エピクロロヒドリンポリマーなどが挙げられる。
【0128】
第3級アミン基を有する樹脂としては、メチルジアリルアミン塩酸塩重合体、メチルジアリルアミンアミド硫酸塩重合体、メチルジアリルアミン酢酸塩重合体、メチルジアリルアミン塩酸塩・二酸化硫黄共重合体、及びジシアンジアミド・ポリアルキレンポリアミン重縮合物などが挙げられる。
【0129】
アンモニウム基を有する樹脂としては、第4級アンモニウム塩基を有する樹脂が挙げられ、このような樹脂としては、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体、ジアリルメチルエチルアンモニウムエチルサルフェイト重合体、ジアリルメチルエチルアンモニウムエチルサルフェイト・二酸化硫黄共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・二酸化硫黄共重合体、及びジアリルジメチルアンモニウムクロリド・アクリルアミド共重合体などが挙げられる。第4級アンモニウム塩基を有する樹脂の市販品としては、例えば、PAS-H-1L、PAS-H-5L、PAS-H-10L;PAS-24;PAS-2401;PAS-A-1、PAS-A-5;PAS-J-81L、PAS-J-81、PAS-J-41(ニットーボーメディカル社製)、EP-1137(高松油脂社製)、FPA-100L、パピオゲンP-105、ミリオゲンP-20(センカ社製)、SNディスパーサント4215(サンノプコ社製、有効成分20wt%、第4級カチオンポリマー)などが挙げられる。
【0130】
アミド基を有する樹脂としては、ポリアミド、ポリアミドエポキシ樹脂などが挙げられる。
【0131】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、第1級、第2級および第3級アミン塩型化合物、アルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、脂肪族アミン塩、ベンザルコニウム塩、第4級アンモニウム塩、第4級アルキルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、オニウム塩、イミダゾリニウム塩等が挙げられる。カチオン性界面活性剤の具体例としては、ラウリルアミン、ヤシアミン、ロジンアミン等の塩酸塩、酢酸塩等、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム、ジメチルエチルラウリルアンモニウムエチル硫酸塩、ジメチルエチルオクチルアンモニウム
エチル硫酸塩、トリメチルラウリルアンモニウム塩酸塩、セチルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムブロマイド、ジヒドロキシエチルラウリルアミン、デシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ドデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルジメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルジメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0132】
酸は、pH変動によってインク中のアニオン性の分散顔料を凝集することができる。酸としては、例えば、有機酸、無機酸が挙げられる。
【0133】
有機酸としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸(DL-)、スルホン酸、オルトリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩等が好適に挙げられる。有機酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。有機酸の塩で金属塩であるものは上記の金属塩に含める。
【0134】
無機酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等が挙げられる。無機酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0135】
これらの中でも、凝集剤は、多価金属塩であることが好ましい。多価金属塩は凝集力が強いため、ブリードをより抑制できる傾向にある。一方で、凝集力が強いことにより、インクの濡れ広がり性が低下しやすく、粒状性に劣る場合がある。これに対して、本実施形態に係るセットによれば、凝集剤が多価金属塩である場合にあっても、より良好にブリードを抑制しつつ、粒状性においても良好なものとできる傾向にある。
【0136】
また、多価金属塩は、マグネシウム塩であることが好ましい。例えば、多価金属塩がカルシウム塩である場合には凝集性に優れる一方で、凝集反応を制御しにくく、摩擦堅牢性や記録媒体上の粒状性に劣る場合がある。これに対して、マグネシウム塩は、カルシウム塩等の他の塩と比較して、インクとの凝集反応が穏やかであるため反応を制御しやすい。そのため、発色性を良好とできるとともに、摩擦堅牢性や粒状性においても良好なものとできる傾向にある。
【0137】
凝集剤の含有量は、反応液の総量に対して、0.5~10質量%であることが好ましく、1~8質量%であることがより好ましく、2~7質量%であることがさらに好ましく、3~7質量%であることが特に好ましい。上記含有量が0.5質量%である場合には、発色性及びブリード抑制により優れる傾向にある。また、上記含有量が10質量%以下である場合には、濡れ広がり性がより良好になり、粒状性がより優れる傾向にある。
【0138】
特に優れた発色性及びブリード抑制を得つつ、粒状性においても良好なものとできる観点から、多価金属塩の含有量は、反応液の総量に対して、0.5~10質量%であることが好ましく、1~8質量%であることがより好ましく、2~7質量%であることがさらに好ましく、3~7質量%であることが特に好ましい。
【0139】
1.3.2 界面活性剤
本実施形態に係るセットが有する反応液は、界面活性剤を含有してもよい。このような界面活性剤としては、上述の処理液組成物に含有される界面活性剤と同様のものを用いることができる。
【0140】
本実施形態に係るセットが有する反応液は、界面活性剤の中でも、HLB値10以上の
界面活性剤を含有することがより好ましい。ここで、HLB値は、界面活性剤分子の親水基と親油基とのバランスから決められる値であり、HLB値が高いと親水性が高い界面活性剤であることを示し、HLB値が低いと親油性が高い界面活性剤であることを定性的に示す。
【0141】
本明細書におけるHLB値とは、以下で定義される。「HLB値(hydrophilic lipophilic balance:親水性親油性バランス)」とは、グリフィン法により算出される値である。具体的には、下記式(H)にしたがって界面活性剤のHLB値を算出することができる。
HLB値=20×(親水基の質量%)・・・(H)
【0142】
このような、HLB値10以上の界面活性剤を反応液が含有すると、表面張力変化が緩やかとなり、反応液においてより良好な保存安定性が得られる傾向にある。
【0143】
HLB値10以上の界面活性剤におけるHLB値の上限は、特に制限されないが、20以下が好ましく、18以下がより好ましく、15以下がさらに好ましい。また、HLB値の下限は、11以上が好ましく、12以上がさらに好ましい。
【0144】
HLB値10以上の界面活性剤の市販品としては、例えば、オルフィンE1010(HLB値13~14)、オルフィンE1020(HLB値15~16)、オルフィンE1030W(HLB値15~16)、サーフィノール485(HLB値17)(以上全て商品名、日信化学工業社製)、BYK348(HLB値11)(以上商品名、ビックケミー・ジャパン社製)、サーフロンS-242(HLB値12)(以上商品名、AGCセイミケミカル社製)等が挙げられる。
【0145】
界面活性剤を含有させる場合の含有量は、反応液の総質量に対して、0.1~5質量%が好ましく、0.5~3質量%がより好ましく、0.8~2質量%がさらに好ましく、1~1.5質量%が特に好ましい。
【0146】
1.3.3 水
本実施形態に係るセットが有する反応液は、水を含有してもよい。このような水としては、上述の処理液組成物に含有される水と同様のものを用いることができ、含有量についても同様とできる。
【0147】
1.3.4 有機溶剤
本実施形態に係るセットが有する反応液は、有機溶剤を含有してもよい。このような有機溶剤としては、上述のインクジェットインク組成物に含有される有機溶剤と同様のものを用いることができ、含有量についても同様とできる。
【0148】
1.3.5 その他の成分
本実施形態に係るセットが有する反応液は、必要に応じて、エチレンジアミン四酢酸及びそれらの塩類等のキレート化剤、2-ピリジンチオール-1-オキサイドナトリウム等の抗菌剤・防かび剤、尿素類、アミン類、糖類等の添加剤、粘度調整剤、酸化防止剤、酸素吸収剤、溶解助剤等の成分を含有してもよい。
【0149】
1.4 表面張力
本実施形態に係るセットは、上述の、反応液と、インクジェットインク組成物と、処理液組成物との静的表面張力(mN/m)関係が以下の式(反応液の静的表面張力)<(インクジェットインク組成物の静的表面張力)≦(処理液組成物の静的表面張力)を満たし、反応液の静的表面張力が25~40mN/mである。
【0150】
1.4.1 測定値
静的表面張力は、例えば、表面張力計(協和界面科学社製、DY-300)を用いて、ウィルヘルミー法により測定できる。静的表面張力は、20℃における測定値であることが好ましい。
【0151】
〈反応液〉
反応液の静的表面張力は、上述のとおり、25~40mN/mであるが、25~35mN/mがより好ましく、27~35mN/mがさらに好ましく、27~33mN/mが特に好ましい。
反応液の静的表面張力が上記範囲内であると、インクの凝集性や濡れ広がり性をより適度としやすく、ブリードと粒状性をより良好なものとすることができる傾向にある。
【0152】
〈処理液組成物〉
処理液組成物の静的表面張力は、28~45mN/mがより好ましく、28~40mN/mがさらに好ましく、30~38mN/mが特に好ましく、30~35mN/mがより特に好ましい。
処理液組成物の静的表面張力が28mN/m以上であると、処理液がインク層の表面を覆う程度に留まりやすくできる傾向にあり、発色性を良好なものとしやすい。一方で、処理液組成物の静的表面張力が45mN/m以下であると、画像の滲みが悪化することをより低減できる傾向にある。
【0153】
〈インクジェットインク組成物〉
インクジェットインク組成物の静的表面張力は、27~40mN/mが好ましく、27~37mN/mがより好ましく、29~34mN/mがさらに好ましい。
インクジェットインク組成物の静的表面張力が上記範囲内であると、インクの凝集性や濡れ広がり性をより適度としやすく、ブリードと粒状性をより良好なものとすることができる傾向にある。
【0154】
1.4.2 表面張力関係
本実施形態に係るセットにおいて、上述の、反応液と、インクジェットインク組成物と、処理液組成物との静的表面張力(mN/m)関係が以下の式を満たすものである。
(反応液の静的表面張力)<(インクジェットインク組成物の静的表面張力)≦(処理液組成物の静的表面張力)
【0155】
上記関係のように、インクの表面張力よりも反応液の表面張力を小さくすることで、インクの凝集性や濡れ広がり性が適度となり、ブリードと粒状性を良好なものとしやすい。また、処理液の表面張力をインクの表面張力以上とすることで、処理液がインク層の表面を覆う程度に留まらせやすく、発色性を良好なものできる傾向にある。
【0156】
1.5 記録媒体
本実施形態に係るセットが有する処理液組成物とインクジェットインク組成物と反応液とは、布帛に付着して用いられるものであることが好ましい。布帛に付着して用いる場合には、ブリードや発色性などの課題がより生じやすいが、本実施形態に係るセットであればこのような場合であっても、ブリード、発色性を良好にできる。
【0157】
布帛を構成する素材としては、特に限定されず、例えば、綿、麻、羊毛、絹等の天然繊維、ポリプロピレン、ポリエステル、アセテート、トリアセテート、ポリアミド、ポリウレタン等の合成繊維、ポリ乳酸等の生分解性繊維等が挙げられ、これらの混紡繊維であってもよい。
【0158】
布帛は、上記の繊維を、織物、編物、不織布等いずれの形態にしたものでもよい。また、本実施形態で使用する布帛の目付についても、特に限定されず、1.0oz以上10.0oz以下であっても良く、2.0oz以上9.0oz以下であることが好ましく、3.0oz以上8.0oz以下であることがより好ましく、4.0oz以上7.0oz以下であることがさらに好ましい。布帛の目付がこのような範囲であれば、良好な記録を行うことができる。さらに、本実施形態に係るセットでは、目付けの異なる複数種の布帛に適用することができ、良好な印捺を行うことができる。
【0159】
本実施形態において、布帛の形態としては、例えば、布地、衣類やその他の服飾品等が挙げられる。布地には、織物、編物、不織布等が含まれる。衣類やその他の服飾品には、縫製後のTシャツ、ハンカチ、スカーフ、タオル、手提げ袋、布製のバッグ、カーテン、シーツ、ベッドカバー、壁紙等のファーニチャー類の他、縫製前の部品としての裁断前後の布地なども含まれる。これらの形態としては、ロール状に巻かれた長尺のもの、所定の大きさに切断されたもの、製品形状のもの等が挙げられる。
【0160】
布帛としては、染料によって予め着色された綿布帛を用いても良い。布帛が予め着色される染料としては、例えば、酸性染料、塩基性染料等の水溶性染料、分散剤を併用する分散染料、反応性染料等が挙げられる。布帛の綿布帛を用いる場合には、綿の染色に適した反応性染料を用いることが好ましい。
【0161】
2.インクジェット記録方法
本発明の一実施形態に係るインクジェット記録方法は、インクジェット法により、顔料と、水と、を含有するインクジェットインク組成物を、布帛に付着させるインク付着工程と、インクジェット法により、インクジェットインク組成物の成分を凝集させる凝集剤と、水と、を含有する反応液を、布帛に付着させる反応液付着工程と、インク付着工程の後に、インクジェット法により、上述のセットが有する処理液組成物を、布帛に付着させる処理液付着工程と、を有するインクジェット記録方法であって、反応液と、インクジェットインク組成物と、処理液組成物との静的表面張力(mN/m)関係が以下の式(反応液の静的表面張力)<(インクジェットインク組成物の静的表面張力)≦(処理液組成物の静的表面張力)を満たし、反応液の静的表面張力が25~40mN/mである。
【0162】
本実施形態に係るインクジェット記録方法によれば、上述のセットと同様にして、ブリード、粒状性及び発色性を良好とすることができる。
【0163】
以下、本実施形態に係るインクジェット記録方法が有する各工程について説明する。なお、本実施形態に係るインクジェット記録方法においては、上述のセットを好ましく用いることができる。
【0164】
2.1 インク付着工程
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、インクジェット法により、顔料と、水と、を含有するインクジェットインク組成物を、布帛に付着させるインク付着工程を有する。
【0165】
インクジェットインク組成物としては、上述のセットが有するインクジェットインク組成物を好ましく適用できる。よって、本実施形態に係るインクジェット記録方法に用いるインクジェットインク組成物の説明としては、上述のとおりであり、その説明を省略する。また、布帛についても、上述したとおりのもの用いることができるから説明を省略する。
【0166】
インクジェットインク組成物の布帛の単位面積当たりに対する付着量は、10~60g/mであることが好ましく、15~50g/mであることがより好ましく、20~40g/mであることがさらに好ましく、25~35g/mであることが特に好ましい。
【0167】
本実施形態に係るインクジェット記録方法におけるインクジェット法は、インクジェットヘッドを布帛の搬送方向と垂直方向に移動させて記録を行う主走査を複数回行うものであることが好ましい。そして、インク付着工程は、布帛の同一の走査領域に対して、インクジェットインク組成物を付着させる同一の主走査を複数回行うようにしてもよい。
【0168】
なお、インクジェット法とは、インクジェット記録装置などのインクジェットヘッドのノズルから、インクなどの液滴を吐出して、記録媒体に付与する記録方法である。また、上記「インクジェットヘッドを布帛の搬送方向と垂直方向に移動させて記録を行う主走査」とは、例えば、図1に記載の記録装置においては、インクジェットヘッド42を有するキャリッジ43が布帛95の搬送方向(+X軸方向)と垂直方向(Y軸方向)に往復移動しながら記録を行う走査である。
【0169】
同一の走査領域に対して、同一の主走査を複数回行う場合、布帛の同一の領域の上を、インク組成物を付着させる主走査が複数回通過することになる。走査の回数が多いほど、所望の領域に、複数回(複数パス)で分けてインクを付着させることができ、得られる記録物の画質がより向上する傾向にある。
【0170】
なお、任意の領域を記録するに際し、その領域上をインクジェットヘッドが通過した回数を「パス」ともいう。例えば、同一の領域の上を、インクを付着させる主走査を4回行う場合、そのパス数を4パスなどという。例えば、図2において、副走査方向(+X軸方向)の1回の副走査の長さが、ノズル列の副走査方向(+X軸方向)の長さの4分の1の長さであった場合は、副走査方向(+X軸方向)に1回の副走査の長さでかつ主走査方向(Y軸方向)に延びる長方形の走査領域に対して、4回の走査が行われることになる。このように見たときの走査の回数を、走査数、またはパス数などという。
【0171】
インク付着工程における主走査の回数は、特に制限されないが、例えば、1以上であってよく、2以上が好ましく、4以上がより好ましく、8以上がさらに好ましい。また、主走査の回数の上限も特に制限されないが、例えば、32以下が好ましく、16以下がより好ましい。本実施形態に係るインクジェット記録方法によれば、インク付着工程における主走査の回数が上記範囲内であっても、良好な発色性が得られる傾向にある。
【0172】
2.2 反応液付着工程
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、インクジェット法により、インクジェットインク組成物の成分を凝集させる凝集剤と、水と、を含有する反応液を、布帛に付着させる反応液付着工程を有する。
【0173】
反応液としては、上述のセットが有する反応液を好ましく適用できる。よって、本実施形態に係るインクジェット記録方法に用いる反応液の説明としては、上述のとおりであり、その説明を省略する。また、反応液、インクジェットインク組成物、処理液組成物の静的表面張力及びその関係についても、上述のセットと同様であるから、その説明を省略する。
【0174】
反応液の布帛の単位面積当たりに対する付着量は、10~60g/mであることが好ましく、15~50g/mであることがより好ましく、20~40g/mであることがさらに好ましく、25~35g/mであることが特に好ましい。
【0175】
反応液付着工程の順序は、特に限定されないが、インク付着工程と同時又はインク付着工程の前に行われることが好ましい。より好ましくは、反応液付着工程はインク付着工程と同時に行われる。
【0176】
反応液付着工程が前述のインク付着工程と同時であるとは、反応液とインクジェットインク組成物とを、同一の主走査により、布帛の同一の走査領域に対して付着させる態様であること(以下、「同時付着」ともいう。)をいう。このような態様によれば、同一の主走査で反応液とインクジェットインク組成物とを含む層を形成できるため、両者は混ざり合いやすく反応しやすくなる。これにより、インクの増粘・凝集がより促され、インク成分が布帛の表面近傍に留まりやすくなり、より良好な発色性が得られる傾向にある。また、高生産性とできる。
【0177】
また、反応液付着工程をインク付着工程と同時に行う場合、前述のインク付着工程と同様に、布帛の同一の走査領域に対して、反応液及びインクジェットインク組成物を付着させる同一の主走査を複数回行うようにすることが好ましい。このようであると、ある主走査により反応液及びインクジェットインク組成物を含む層を布帛上のある領域に付着させた後、さらにその上に、別の主走査により反応液及びインクジェットインク組成物を含む層を重ねて付着させることができる。これにより、反応液及びインクジェットインク組成物が交互に重なり積層する(ミルフィーユ状に重なる)ため、両者の成分がより混ざり合いやすく反応が進行しやすくなる。それゆえ、インクの増粘・凝集がさらに促され、インク成分が布帛の表面近傍により留まりやすくなり、発色性がより向上する傾向にある。なお、主走査の好ましい回数は、上述のインク付着工程と同様にできる。
【0178】
反応液付着工程が前述のインク付着工程の前に行われるとは、具体的には、前述のインク付着工程が、反応液付着工程が行われる主走査とは異なる後の主走査により、布帛の同一の走査領域に対してインクジェットインク組成物を付着させる態様により行われることをいう。このような態様であると、反応液はインクジェット法により一番初めに吐出されるため、布帛へのインク層形成のための下地とでき、より良好な発色性が得られる傾向にある。
【0179】
反応液付着工程と前述のインク付着工程との時間差は、反応液付着工程がインク付着工程と同時に行われる場合、特に制限されないが、1秒以下であることが好ましく、0.7秒以下であることがより好ましく、0.3秒以下であることが好ましい。また、反応液付着工程が前述のインク付着工程の前に行われる場合であっても、5秒以内に行うことが好ましい。このような時間差で行う場合には、先に付着する反応液の液滴が乾燥する前に、後に付着するインクの液滴を付着できるウェットオンウェット方式とすることができる。このようなウェットオンウェット方式は、装置の小型化や高速化の点で利点を有する一方で、滲みや発色性に劣りやすいが、本実施形態に係るインクジェット記録方法によれば、このようなウェットオンウェット方式であっても発色性に優れ、滲みも抑制することができる傾向にある。
【0180】
なお、「反応液付着工程とインク付着工程との時間差」とは、最後に反応液が吐出されてから最初にインクジェットインク組成物が吐出されるまでの時間差のことをいい、特に、布帛の同一の走査領域に対して最後に反応液が吐出されてから最初にインクジェットインク組成物が吐出されるまでの時間差のことをいう。
【0181】
2.3 処理液付着工程
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、前述のインク付着工程の後に、インクジェット法により、上述のセットが有する処理液組成物を、布帛に付着させる処理液付着工
程を有する。
【0182】
処理液組成物については、上述したとおりであるから説明を省略する。
【0183】
処理液組成物の布帛の単位面積当たりに対する付着量は、10~55g/mであることが好ましく、10~45g/mであることがより好ましく、10~35g/mであることがさらに好ましく、10~25g/mであることが特に好ましく、10~20g/mであることがより特に好ましい。
【0184】
本実施形態に係るインクジェット記録方法が有する処理液付着工程は、前述のインク付着工程の後に行われるもの(以下、「後付着」ともいう。)である。より具体的には、処理液付着工程は、前述のインク付着工程が行われる主走査とは異なる後の主走査により、布帛の同一の走査領域に対して処理液組成物を付着させる態様により行われる。このような態様によれば、処理液がインクの下に浸透していってしまうことを抑制し、先に形成したインク層を覆うように処理液層を形成させることができる。これにより、インク層表面がオルガノポリシロキサンを含有する粒子に十分に覆われ、発色性などの効果が好ましく得られる。
【0185】
処理液付着工程においても、前述のインク付着工程と同様に、布帛の同一の走査領域に対して、処理液組成物を付着させる同一の主走査を複数回行うようにしてもよい。
処理液付着工程における主走査の回数は、1以上であり、2以上が好ましく、3以上がより好ましく、4以上がさらに好ましい。また、処理液付着工程における走査の回数の上限は特に制限されないが、例えば、12以下が好ましく、8以下がより好ましい。本実施形態に係るインクジェット記録方法によれば、処理液付着工程における主走査の回数が上記範囲内であっても、良好な発色性が得られる傾向にある。
【0186】
処理液付着工程と前述のインク付着工程との時間差は、特に制限されないが、10秒以内であることが好ましく、9秒以内であることがより好ましく、8秒以内であることがさらに好ましく、7秒以内であることがよりさらに好ましく、6秒以内であることが特に好ましく、5秒以内であることがより殊更に好ましい。なお、該時間差の下限は特に制限されないが、1.0秒以上であることが好ましく、3.0秒以上であることがより好ましく、4.5秒以上であることがさらに好ましい。
このような時間差であると、生産性を向上させつつ、滲みの抑制を良好とすることができる傾向にある。
【0187】
なお、「処理液付着工程とインク付着工程との時間差」とは、最後にインク組成物が吐出されてから最初に処理液組成物が吐出されるまでの時間差のことをいい、特に、布帛の同一の走査領域に対して最後にインク組成物が吐出されてから最初に処理液組成物が吐出されるまでの時間差のことをいう。
【0188】
2.4 乾燥工程
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、上述の、インク付着工程、処理液付着工程の間や、後に、乾燥工程を備えていてもよい。
【0189】
乾燥工程としては、乾燥機構を用いて乾燥させる手段により行うことができる。乾燥機構を用いて乾燥させる手段としては、布帛に対して常温の送風や温風の送風を行う手段(送風式)、及び、布帛に熱を発生する放射線(赤外線等)を照射する手段(放射式)、布帛に接して布帛に熱を伝える部材(伝導式)、並びに、これらの手段の2種以上を組み合わせが挙げられる。乾燥工程を有する場合、布帛に加熱を行う乾燥機構により行うことが好ましい。乾燥機構として、布帛に加熱を行う乾燥機構を用いる場合を、特に、加熱工程
という。
【0190】
布帛を加熱する方法としては、特に限定されないが、例えば、ヒートプレス法、常圧スチーム法、高圧スチーム法、サーモフィックス法などが挙げられる。加熱の熱源は、特に限定されないが、例えば、赤外線ランプなどを用いることができる。加熱温度は、インク中の樹脂粒子が融着され、かつ水分等の媒体が揮発する温度であることが好ましい。例えば、100℃以上200℃以下であることが好ましく、130℃以上180℃以下であることがより好ましく、150℃以上170℃以下であることがさらに好ましい。ここで、加熱工程における加熱温度とは、布帛に形成された画像等の表面温度を指す。加熱を施す時間は、特に限定されないが、例えば、30秒以上20分以下である。
【0191】
本実施形態に係るインクジェット記録方法においては、インク付着工程と、処理液付着工程の間に、乾燥工程を有さないことが好ましい。これにより発色が良好な画像がより短時間で得られる傾向にある。
【0192】
2.5 インクジェット捺染装置
本実施形態に係るインクジェット記録方法に適用可能な、インクジェットヘッドを備えるインクジェット捺染装置の例を図1を参照しながら説明する。
【0193】
なお、図1においては、各層や各部材を認識可能な程度の大きさにするため、各層や各部材の尺度を実際とは異ならせている。また、図1では、説明の便宜上、互いに直交する三軸として、X軸、Y軸及びZ軸を図示しており、軸方向を図示した矢印の先端側を「+側」、基端側を「-側」としている。X軸に平行な方向を「X軸方向」、Y軸に平行な方向を「Y軸方向」、Z軸に平行な方向を「Z軸方向」という。
【0194】
2.5.1 全体概略構成
図1は、記録装置100の概略全体構成を示す模式図である。まず、記録装置100の全体構成について図1を参照して説明する。
【0195】
図1に示すように、記録装置100は、媒体搬送部20、媒体密着部60、ベルト支持部91、印刷部40、加熱ユニット27、洗浄ユニット50などを備えている。記録装置100では、媒体密着部60及びベルト支持部91の少なくとも一方が無端ベルト23を加熱する加熱部に相当する。そして、これらの各部を制御する制御部1を有している。記録装置100の各部は、フレーム部90に取り付けられている。
【0196】
なお無端ベルトを加熱する加熱部を設ける場合には、印刷部40よりも搬送方向の上流側にあればよく、媒体密着部60及びベルト支持部91とは異なる場所に設けられていてもよい。例えば、加熱部は、媒体密着部60よりも搬送方向の上流側であってもよい。このような構成とすることで加熱部は、洗浄の際に濡れた無端ベルト23を乾燥させることもできる。また、加熱部は、非接触で無端ベルトを加熱するものであってもよい。
【0197】
媒体搬送部20は、布帛95を搬送方向に搬送する。媒体搬送部20は、媒体供給部10、搬送ローラー21,22、無端ベルト23、ベルト回転ローラー24、駆動ローラーとしてのベルト駆動ローラー25、搬送ローラー26,28、及び媒体回収部30を備えている。
【0198】
2.5.2 媒体搬送部
まず、媒体供給部10から媒体回収部30に至る布帛95の搬送経路について説明する。なお、図1では、重力の作用する方向に沿う方向をZ軸方向とし、印刷部40において布帛95が搬送される方向を+X軸方向とし、Z軸方向及びX軸方向の双方と交差する布
帛95の幅方向をY軸方向とする。また、布帛95の搬送方向又は無端ベルト23の移動方向に沿う位置関係を「上流側」「下流側」ともいう。
【0199】
媒体供給部10は、画像を形成させる布帛95を印刷部40側に供給するものである。媒体供給部10は、供給軸部11及び軸受部12を有している。供給軸部11は、円筒状又は円柱状に形成されており、円周方向に回転可能に設けられている。供給軸部11には、帯状の布帛95がロール状に巻かれている。供給軸部11は、軸受部12に対して着脱可能に取り付けられている。これにより、予め供給軸部11に巻かれた状態の布帛95は、供給軸部11と共に軸受部12に取り付けできるようになっている。
【0200】
軸受部12は、供給軸部11の軸方向の両端を回転可能に支持している。媒体供給部10は、供給軸部11を回転駆動させる回転駆動部(図示せず)を有している。回転駆動部は、布帛95が送り出される方向に供給軸部11を回転させる。回転駆動部の動作は、制御部1によって制御される。搬送ローラー21,22は、布帛95を媒体供給部10から無端ベルト23まで中継する。
【0201】
無端ベルト23は、無端ベルト23を回転させる少なくとも2つのローラー間に保持され、無端ベルト23が回転移動することで布帛95を支持しながら搬送方向(+X軸方向)に搬送する。詳しくは、無端ベルト23は、帯状のベルトの両端部を継ぎ目なく接続し形成されるシームレスベルトであり、ベルト回転ローラー24及びベルト駆動ローラー25の2つのローラー間に掛けられている。
【0202】
無端ベルト23は、ベルト回転ローラー24とベルト駆動ローラー25との間の部分が水平になるように、所定の張力が作用した状態で保持されている。無端ベルト23の表面(支持面)23aには、布帛95を粘着させる粘着剤29が塗布されている。すなわち無端ベルト23は、粘着剤29からなる粘着層を有している。布帛95は、粘着剤29を介して無端ベルト23に貼り付けられる。無端ベルト23は、搬送ローラー22から供給され、後述する媒体密着部60で粘着剤29に密着された布帛95を支持(保持)する。
【0203】
粘着剤29は、加熱されることによって粘着性が増大することが好ましい。加熱されることによって粘着性が増大する粘着剤29を用いることで、布帛95を粘着層と良好に密着させることができる。このような粘着剤29としては、例えば熱可塑性エラストマーSIS(スチレン-イソプレン-スチレン)を主成分とするホットメルト系粘着剤である。
【0204】
ベルト回転ローラー24及びベルト駆動ローラー25は、無端ベルト23の内周面23bを支持する。ベルト回転ローラー24とベルト駆動ローラー25との間には、無端ベルト23を支持する当接部69、ベルト支持部91及びプラテン46が設けられている。当接部69は、無端ベルト23を介して後述する押圧部61と対向する領域に、プラテン46は、無端ベルト23を介して印刷部40と対向する領域に、ベルト支持部91は当接部69とプラテン46との間に設けられている。当接部69、ベルト支持部91及びプラテン46が無端ベルト23を支持することにより、無端ベルト23を移動させることに伴って無端ベルト23が振動することなどを抑制することができる。
【0205】
ベルト駆動ローラー25は、無端ベルト23を回転させることで、布帛95を搬送方向に搬送する駆動部であり、ベルト駆動ローラー25を回転駆動させるモーター(図示せず)を有している。ベルト駆動ローラー25は、布帛95の搬送方向において印刷部40よりも下流側に設けられ、ベルト回転ローラー24は、印刷部40よりも上流側に設けられている。ベルト駆動ローラー25が回転駆動されるとベルト駆動ローラー25の回転に伴って無端ベルト23が回転し、無端ベルト23の回転によりベルト回転ローラー24が回転する。無端ベルト23の回転により、無端ベルト23に支持された布帛95が搬送方向
(+X軸方向)に搬送され、後述する印刷部40で布帛95に画像が形成される。
【0206】
図1に示す例では、無端ベルト23の表面23aが印刷部40と対向する側(+Z軸側)において布帛95が支持され、布帛95が無端ベルト23と共にベルト回転ローラー24側からベルト駆動ローラー25側に搬送される。また、無端ベルト23の表面23aが洗浄ユニット50と対向する側(-Z軸側)においては、無端ベルト23のみがベルト駆動ローラー25側からベルト回転ローラー24側に移動する。
【0207】
搬送ローラー26は、画像の形成された布帛95を無端ベルト23の粘着剤29から剥離させる。搬送ローラー26,28は、布帛95を無端ベルト23から媒体回収部30まで中継する。
【0208】
媒体回収部30は、媒体搬送部20によって搬送された布帛95を回収する。媒体回収部30は、巻取り軸部31及び軸受部32を有している。巻取り軸部31は、円筒状又は円柱状に形成されており、円周方向に回転可能に設けられている。巻取り軸部31には、帯状の布帛95がロール状に巻き取られる。巻取り軸部31は、軸受部32に対して着脱可能に取り付けられている。これにより、巻取り軸部31に巻き取られた状態の布帛95は、巻取り軸部31と共に取り外せるようになっている。
【0209】
軸受部32は、巻取り軸部31の軸線方向の両端を回転可能に支持している。媒体回収部30は、巻取り軸部31を回転駆動させる回転駆動部(図示せず)を有している。回転駆動部は、布帛95が巻き取られる方向に巻取り軸部31を回転させる。回転駆動部の動作は、制御部1によって制御される。
【0210】
次に、媒体搬送部20に沿って設けられている、加熱部、印刷部40、加熱ユニット27、洗浄ユニット50について説明する。
【0211】
2.5.3 加熱部
当接部69及びベルト支持部91の少なくとも一方には、無端ベルト23を加熱するヒーターが設けられることが好ましい。ヒーターは加熱部を構成する。当接部69にヒーターが設けられる場合には、押圧部61により無端ベルト23に対して押圧力及び熱を付与できるので、無端ベルト23への布帛95の密着性を向上できる点で好ましい。したがって当接部69及びベルト支持部91の一方にヒーターが設けられる場合には、当接部69に設けられるほうがより好ましい。
【0212】
加熱部は、粘着層を加熱することで柔らかくして粘着性を発揮させ、布帛95と粘着層との密着性を向上させる。これにより無端ベルト23上で布帛95が動くことが抑制され、良好な搬送精度を得ることができる。
【0213】
当接部69及びベルト支持部91の少なくとも一方にヒーターが設けられ、無端ベルト23が加熱される際、無端ベルト23の表面23aの温度は80℃以下であることが好ましく、70℃以下であることがより好ましく、60℃以下であることがさらに好ましい。無端ベルト23の表面23aの温度が上記範囲内であると、インク組成物に含有され得る樹脂粒子の反応性を抑制し、ベルトの洗浄をより容易に行うことができる場合がある。なお、無端ベルト23の表面23aの温度の下限は、粘着層の粘着性を発揮するものであればよく、30℃以上が好ましく、35℃以上がより好ましく、40℃以上がさらに好ましい。なお、無端ベルト23の表面23aの温度は、例えば、輻射型温度計、接触型温度計等により測定することができ、輻射型温度計により測定することがより好ましい。
【0214】
当接部69及びベルト支持部91の少なくとも一方にヒーターが設けられる場合、無端
ベルト23の表面温度を検出する温度検出部(図示せず)を備えてもよい。温度検出部としては、例えば熱電対などを用いることができる。これにより、制御部1は、温度検出部で検出された温度に基づいてヒーターを制御することにより、無端ベルト23を所定の温度にすることができる。なお、温度検出部は、赤外線を利用した非接触式の温度計を用いてもよい。
【0215】
2.5.4 印刷部
印刷部40は、無端ベルト23の配置位置に対して上方(+Z軸側)に配置され、無端ベルト23の表面23a上に載置された布帛95に印刷を行う。印刷部40は、インクジェットヘッド42が搭載されるキャリッジ43、キャリッジ43を搬送方向と交差する布帛95の幅方向(Y軸方向)に移動させるキャリッジ移動部45などを有している。
【0216】
インクジェットヘッド42は、液体カートリッジ(図示せず)から供給されるインク組成物や処理液や反応液を制御部1による制御のもとで複数のノズルから布帛95に噴射して付着させる手段である。インクジェットヘッド42は、インクジェットインク組成物、処理液組成物、及び反応液(以下、「インク等」ともいう。)を付着させる布帛95と対向する面に、インク等を吐出して布帛95へ付着させる複数のノズルを備える。これらの複数のノズルは列状に配列されてノズル列が形成され、ノズル列はインク等に対応して個別に配置される。インク等は、各液体カートリッジからインクジェットヘッド42に供給され、インクジェットヘッド42内のアクチュエーター(図示せず)によって、ノズルから液滴として吐出される。吐出されたインク等の液滴は布帛95に着弾し、布帛95への付着処理と、インクによる画像、テキスト、模様、色彩等が布帛95の捺染領域に形成される。
【0217】
ここで、インクジェットヘッド42では、駆動手段であるアクチュエーターとして圧電素子を用いているが、この方式に限定されない。例えば、アクチュエーターとしての振動板を静電吸着により変位させる電気機械変換素子や、加熱によって生じる気泡によってインク等を液滴として吐出させる電気熱変換素子を用いてもよい。
【0218】
インクジェットヘッド42は、例えば、反応液を吐出するヘッドノズル群を有するインクジェットヘッド42a、インクジェットインク組成物を吐出するヘッドノズル群を有するインクジェットヘッド42b、処理液組成物を吐出するヘッドノズル群を有するインクジェットヘッド42c、としてキャリッジ43に複数種備えられる。なお、吐出するヘッドノズル群は、記録方法において記録に用いるノズル群の意味である。主走査(Y軸方向)を行う際に、該ノズル群と対向する布帛の領域に仮に記録すべき画像があればノズルからインク等を吐出し得るノズルの群であり、搬送方向(+X軸方向)に連続するノズル群である。よってノズル群自体は存在するものの記録方法において記録に用いないノズル群は吐出するノズル群に含めない。
【0219】
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、反応液を吐出するヘッドノズル群は、布帛の搬送方向に対してインクジェットインク組成物を吐出するヘッドノズル群と同じ位置にあるか、又は、インクジェットインク組成物を吐出するヘッドノズル群と搬送方向に対して重なる部分を有し、処理液組成物を吐出するヘッドノズル群は、布帛の搬送方向に対してインクジェットインク組成物を吐出するヘッドノズル群よりも搬送方向に対して下流側にあることが好ましい。
また、同様の観点から、反応液を吐出するインクジェットヘッドは、布帛の搬送方向に対してインクジェットインク組成物を吐出するインクジェットヘッドと同じ位置にあるか、又は、インクジェットインク組成物を吐出するインクジェットヘッドと搬送方向に対して重なる部分を有し、処理液組成物を吐出するインクジェットヘッドは、布帛の搬送方向に対してインクジェットインク組成物を吐出するインクジェットヘッドよりも搬送方向に
対して下流側にあることが好ましい。
このような構成であると、前述の同時付着、後付着を好適に行うことができる。
【0220】
例えば、図2に示すヘッド配置の例によれば、インクジェットヘッド42aにおける反応液を吐出するヘッドノズル群は、布帛95の搬送方向(+X軸方向)に対してインクジェットヘッド42bにおけるインクジェットインク組成物を吐出するヘッドノズル群と同じ位置で横に並んで配置され、インクジェットヘッド42cにおける処理液組成物を吐出するヘッドノズル群は、布帛95の搬送方向(+X軸方向)に対してインクジェットヘッド42bにおけるインクジェットインク組成物を吐出するヘッドノズル群よりも搬送方向(+X軸方向)に対して下流側に配置されている。このようなヘッド配置構成であると、前述の同時付着、後付着を好適に行うことができる。なお、図2において示されるノズル群は、各インクジェットヘッドの吐出するヘッドノズル群である。また、インクジェットヘッド42aとインクジェットヘッド42bは逆に配置されていてもよい。
【0221】
例えば、図3に示すヘッド配置の例によれば、インクジェットヘッド42aにおける反応液を吐出するヘッドノズル群は、布帛95の搬送方向(+X軸方向)に対してインクジェットヘッド42bにおけるインクジェットインク組成物を吐出するヘッドノズル群と、同じ位置にはないが、重なる部分を有し、インクジェットヘッド42cにおける処理液組成物を吐出するヘッドノズル群は、布帛95の搬送方向(+X軸方向)に対してインクジェットヘッド42bにおけるインクジェットインク組成物を吐出するヘッドノズル群よりも搬送方向(+X軸方向)に対して下流側に配置されている。このようなヘッド配置構成であると、前述の同時付着、後付着を好適に行うことができる。なお、図3において示されるノズル群は、各インクジェットヘッドの吐出するヘッドノズル群である。また、インクジェットヘッド42aとインクジェットヘッド42bは逆に配置されていてもよい。
【0222】
なお、「重なる部分」とは、記録に用いるインクジェットインク組成物を吐出するヘッドノズル群と記録に用いる反応液を吐出するヘッドノズル群のうち、布帛95の搬送方向(+X軸方向)に同じ位置にある部分をいう。これにより、同一の主走査で反応液とインクジェットインク組成物とを含む層を形成できる。
【0223】
キャリッジ移動部45は、無端ベルト23の上方(+Z軸側)に設けられている。キャリッジ移動部45は、Y軸方向に沿って延在する一対のガイドレール45a,45bを有している。インクジェットヘッド42は、キャリッジ43と共にY軸方向に沿って往復移動可能な状態でガイドレール45a,45bに支持されている。
【0224】
キャリッジ移動部45は、図示しない移動機構及び動力源を備えている。移動機構としては、例えば、ボールねじとボールナットとを組み合わせた機構や、リニアガイド機構などを採用することができる。さらに、キャリッジ移動部45は、キャリッジ43をガイドレール45a,45bに沿って移動させるための動力源として、モーター(図示せず)を有している。モーターとしては、ステッピングモーター、サーボモーター、リニアモーターなどの種々のモーターを採用することができる。制御部1の制御によりモーターが駆動されると、インクジェットヘッド42は、キャリッジ43と共にY軸方向に沿って移動する。
【0225】
2.5.5 加熱ユニット
加熱ユニット27を、搬送ローラー26と搬送ローラー28との間に設けてもよい。加熱ユニット27は、布帛95上に吐出されたインク等を加熱する。なお、加熱ユニット27は、布帛95を乾燥させる目的で用いられてもよい。加熱ユニット27には、例えば、IRヒーターが含まれ、IRヒーターを駆動させることにより布帛95上に吐出されたインク等を短時間で反応させることができる。これにより、画像などの形成された帯状の布
帛95を巻取り軸部31に巻き取ることができる。
【0226】
2.5.6 洗浄ユニット
洗浄ユニット50は、X軸方向においてベルト回転ローラー24とベルト駆動ローラー25の間に配置されている。洗浄ユニット50は、洗浄部51、押圧部52及び移動部53を有している。移動部53は、床面99に沿って洗浄ユニット50を一体的に移動させて所定の位置に固定させる。
【0227】
押圧部52は、例えば、エアーシリンダー56とボールブッシュ57とで構成された昇降装置であり、その上部に備えられている洗浄部51を無端ベルト23の表面23aに当接させるものである。洗浄部51は、ベルト回転ローラー24とベルト駆動ローラー25との間で所定の張力が作用した状態で掛けられ、ベルト駆動ローラー25からベルト回転ローラー24に向かって移動する無端ベルト23の表面(支持面)23aを下方(-Z軸方向)から洗浄する。
【0228】
洗浄部51は、洗浄槽54、洗浄ローラー58及びブレード55を有している。洗浄槽54は、無端ベルト23の表面23aに付着したインクや異物の洗浄に用いる洗浄液を貯留する槽であり、洗浄ローラー58及びブレード55は洗浄槽54の内側に設けられている。洗浄液としては、例えば、水や水溶性溶剤(アルコール水溶液など)を用いることができ、必要に応じて界面活性剤や消泡剤を添加させてもよい。
【0229】
洗浄ローラー58が回転すると、洗浄液が無端ベルト23の表面23aに供給されると共に、洗浄ローラー58と無端ベルト23とが摺動する。これにより、無端ベルト23に付着したインク組成物や布帛95の繊維などが洗浄ローラー58で取り除かれる。
【0230】
ブレード55は、例えば、シリコンゴムなどの可撓性の材料で形成することができる。ブレード55は、無端ベルト23の搬送方向において洗浄ローラー58よりも下流側に設けられている。無端ベルト23とブレード55とが摺動することにより、無端ベルト23の表面23aに残っている洗浄液が除去される。
【0231】
3.実施例
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。以下「%」は、特に記載のない限り、質量基準である。
【0232】
3.1 各組成物の調製
各実施例又は各比較例に係るセットが有する、インクジェットインク組成物及び反応液は、表1~3(図4~6)の組成になるように各成分を容器に入れ、イオン交換水を各組成物の総量が100質量%となるように添加し、マグネチックスターラーで2時間混合及び攪拌した後、5μmのPTFE製メンブランフィルターを用いて濾過することで得た。
【0233】
なお、インクジェットインク組成物においては、事前に顔料分散液を調製し、これをインクの調製に用いた。顔料分散液の調製としては、市販のカーボンブラックであるS170(デグサ社製商品名)20gを水500gに混合して、家庭用ミキサーで5分間分散した。得られた液を攪拌装置付きの3L容のガラス容器に入れ、攪拌機で攪拌しながら、オゾン濃度8質量%のオゾン含有ガスを500mL/分導入した。その際、オゾン発生器はペルメレック電極社製の電解発生型のオゾナイザーを用いてオゾンを発生させた。また導入時間は1分~1時間の間で調整することで、所望の表面改質することができる。得られた分散原液をガラス繊維濾紙GA-100(商品名、アドバンテック東洋社製)で濾過し、さらに固形分濃度が20質量%になるまで0.1Nの水酸化カリウム溶液を添加しpH9に調整しながら濃縮を行い、Black顔料分散液を得た。
【0234】
各実施例又は各比較例に係るセットが有する、処理液組成物は次のとおり調製した。90gのシリコーンオイル、171.4gのイオン交換水、6.4gのポリオキシエチレントリデシルエーテル(日本乳化剤、ニューコール1310)、6.4gのポリオキシエチレントリデシルエーテル(日本乳化剤、ニューコール1305)および25.7gのジエチレングリコールモノブチルエーテルをビーカーに入れ、ホモミクサー(PRIMIX社製、ホモミクサーMARK II2.5型)を用いて、回転速度2000rpm、50℃で30分間、ビーカーの内容物を攪拌し、30分間静置した。次いで、10μmのメンブレンフィルターで、ビーカーの内容物をろ過し、アミノ変性シリコーンオイルを含むオイル粒子が分散しているエマルション300gを得た。続いて、残りのイオン交換水とグリセリン等の有機溶剤、界面活性剤を、表1~3(図4~6)の組成になるように添加して撹拌し得た。
【0235】
なお、表面張力の測定は、表面張力計(協和界面科学社製、DY-300)を用いてウィルヘルミー法により行った。また、粘度の測定は、粘弾性試験機MCR-300(商品名、Pysica社製)を用いて行った。
【0236】
3.2 印刷方法
Evo Tre 16(セイコーエプソン株式会社製)を改造した装置に、上記で得られた、インクジェットインク組成物、処理液組成物、反応液を充填し、綿100%白色ブロード布(#4000、日清紡株式会社製)の被記録媒体に対して、被記録媒体である布帛に20cm×5cmのベタパターン画像を形成した。反応液とインクジェットインク組成物は同一の主走査で塗布し、処理液組成物は同じ領域に別の主走査にて塗布した。反応液、インクジェットインク組成物を各30g/m、処理液組成物を15g/mの塗布量とした。なお、「ベタパターン画像」とは、各インクの塗布量が実施例記載の数値となるように、記録領域(主走査方向×副走査方向:20cm×5cm)の全面に均一にドットを形成した画像を意味する。
【0237】
画像形成後、3分放置した後オーブンにて160℃で3分間加熱処理を開始し、乾燥させることで各実施例及び各比較例に係る捺染物を作製した。なお、インクジェットヘッドは、副走査方向のノズル間距離600dpi、ヘッドチップを2つ副走査方向に配置してノズル長さを2inchとしたヘッドユニットを用いた。
【0238】
3.3 評価方法
3.3.1 発色評価
上記印刷方法により得られた印捺物に対して、印刷した画像の表面を測色機(FD-7、コニカミノルタ社製)を用いて、印刷画像のブラックの光学濃度(OD値、 Status E)を測定し、下記基準により判定した。
(評価基準)
AAA:OD値が1.52以上
AA:OD値が1.50以上、1.52未満
A:OD値が1.48以上、1.50未満
B:OD値が1.46以上、1.48未満
C:OD値が1.46未満
【0239】
3.3.2 ブリード評価
上記印刷方法により得られた印捺物の印刷部分と非印刷部分の境界部のにじみを目視で観察し、下記評価基準で評価した。
(評価基準)
A:境界部のにじみが認められなかった。
B:境界部のにじみが若干認められた。
C:境界部のにじみがかなり認められた。
【0240】
3.3.3 粒状性評価
上記印刷方法においてインク組成物の塗布量のみを調整し、白からブラックDUTY100%出力に至るグラデーションパターンを形成した画像を印刷した印捺物を作製した。得られた印捺物の印刷面を目視にて観察し、以下の基準に従い粒状性を評価した。B以上を良好なレベルとした。
(評価基準)
A:印刷面から30cm離れた距離での目視観察では粒状感を認識できない。
B:印刷面から30cm離れた距離での目視観察において粒状感を認識できる。
C:印刷面から30cmを超える距離での目視観察においても粒状感を認識できる。
【0241】
3.3.4 黄変評価
上記印刷方法のうち、各実施例の処理液組成物のみを記録布に30g/mで記録し、上記印刷方法で乾燥させた印捺布を用意し、印刷した画像の表面を測色機(FD-7、コニカミノルタ社製)を用いて、L,a,bを測定し、サンプルとした。
【0242】
加えて、上記方法のうち、プリンターで印刷せずにオーブンで160℃3分で乾燥を実施した布を用意し、同様にしてL,a,bを測定し、リファレンスとした。このリファレンスに対し、サンプルの色差ΔE00(ΔE2000)を計算し、下記基準により判定した。
(評価基準)
A:色差ΔE00が2以下
B:色差ΔE00が2超
【0243】
3.3.5 吐出安定性評価
上記印刷方法による印捺物作成の際のインクジェットインク組成物、処理液組成物の吐出性能を以下の基準で評価した。
(評価基準)
A:ノズル抜け無し:印捺面がムラ無く均一に塗布されている
B:ノズル抜け無し:印捺面がムラ無く均一に塗布されているが、2時間放置するとノズル抜けが発生し、ヘッドクリーニングを要する
C:ノズル抜け有り:印捺面に局所的に塗布されていない箇所が線状に見られる
【0244】
3.3.6 表面張力安定性評価
上記で得られた反応液を60℃で1週間放置した。放置前後の反応液の表面張力を表面張力計(協和界面科学社製、DY-300)を用いて、ウィルヘルミー法で液温25℃にて測定した。放置前後の表面張力の差分に基づいて、下記評価基準により表面張力安定性を評価した。
(評価基準)
A:放置前後の表面張力の差分が1mN/m未満であった
B:放置前後の表面張力の差分が1mN/m以上2mN/m未満であった
C:放置前後の表面張力の差分が2mN/m以上であった
【0245】
3.4 評価結果
評価結果を、表1~3(図4~6)に示す。
【0246】
オルガノポリシロキサンを含有する粒子と、水と、を含有する処理液組成物と、顔料と、水と、を含有するインクジェットインク組成物と、インクジェットインク組成物の成分
を凝集させる凝集剤と、水と、を含有する反応液と、を有し、反応液と、インクジェットインク組成物と、処理液組成物との静的表面張力(mN/m)関係が以下の式(反応液の静的表面張力)<(インクジェットインク組成物の静的表面張力)≦(処理液組成物の静的表面張力)を満たし、反応液の静的表面張力が25~40mN/mであり、処理液組成物とインクジェットインク組成物と反応液とは、インクジェット法により吐出して用いられる、各実施例に係るセットにおいてはいずれも、ブリード、粒状性及び発色性を良好とできることが分かった。
【0247】
これに対して、そうではない各比較例に係るセットでは、ブリード、粒状性及び発色性の少なくともいずれかに劣っていた。
【0248】
上述した実施形態から以下の内容が導き出される。
【0249】
セットの一態様は、
オルガノポリシロキサンを含有する粒子と、水と、を含有する処理液組成物と、
顔料と、水と、を含有するインクジェットインク組成物と、
前記インクジェットインク組成物の成分を凝集させる凝集剤と、水と、を含有する反応液と、を有し、
前記反応液と、前記インクジェットインク組成物と、前記処理液組成物との静的表面張力(mN/m)関係が以下の式を満たし、
(反応液の静的表面張力)<(インクジェットインク組成物の静的表面張力)≦(処理液組成物の静的表面張力)
前記反応液の静的表面張力が25~40mN/mであり、
前記処理液組成物と前記インクジェットインク組成物と前記反応液とは、インクジェット法により吐出して用いられるものである。
【0250】
上記セットの一態様において、
前記処理液組成物と前記インクジェットインク組成物と前記反応液とは、布帛に付着して用いられるものであってよい。
【0251】
上記セットのいずれかの態様において、
前記インクジェットインク組成物の粘度が3~10mPa・sであってよい。
【0252】
上記セットのいずれかの態様において、
前記オルガノポリシロキサンを含有する粒子の含有量が、前記処理液組成物の総量に対して、5~20質量%であってよい。
【0253】
上記セットのいずれかの態様において、
前記オルガノポリシロキサンが、非イオン性シリコーンであってよい。
【0254】
上記セットのいずれかの態様において、
前記オルガノポリシロキサンが、ジメチルオルガノポリシロキサンであってよい。
【0255】
上記セットのいずれかの態様において、
前記反応液がさらに、HLB値10以上の界面活性剤を含有していてもよい。
【0256】
上記セットのいずれかの態様において、
前記凝集剤が、多価金属塩であってもよい。
【0257】
上記セットのいずれかの態様において、
前記凝集剤の含有量が、前記反応液の総量に対して、0.5~10質量%であってもよい。
【0258】
上記セットのいずれかの態様において、
前記処理液組成物は、色材の含有量が、前記処理液組成物の総量に対して、0.1質量%以下であってもよい。
【0259】
上記セットのいずれかの態様において、
前記処理液組成物中の総固形分に対する、前記オルガノポリシロキサンの含有量が90質量%以上であってもよい。
【0260】
上記セットのいずれかの態様において、
前記処理液組成物がさらに、SP値12.5以下の水溶性有機溶剤を含有してもよい。
【0261】
インクジェット記録方法の一態様は、
インクジェット法により、顔料と、水と、を含有するインクジェットインク組成物を、布帛に付着させるインク付着工程と、
インクジェット法により、前記インクジェットインク組成物の成分を凝集させる凝集剤と、水と、を含有する反応液を、前記布帛に付着させる反応液付着工程と、
前記インク付着工程の後に、インクジェット法により、上記いずれかの態様のセットが有する前記処理液組成物を、前記布帛に付着させる処理液付着工程と、を有するインクジェット記録方法であって、
前記反応液と、前記インクジェットインク組成物と、前記処理液組成物との静的表面張力(mN/m)関係が以下の式を満たし、
(反応液の静的表面張力)<(インクジェットインク組成物の静的表面張力)≦(処理液組成物の静的表面張力)
前記反応液の静的表面張力が25~40mN/mである。
【0262】
上記インクジェット記録方法の一態様において、
前記反応液付着工程は前記インク付着工程と同時に行われてもよい。
【0263】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成、を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0264】
1…制御部、10…媒体供給部、11…供給軸部、12…軸受部、20…媒体搬送部、21…搬送ローラー、22…搬送ローラー、23…無端ベルト、23a…表面、23b…内周面、24…ベルト回転ローラー、25…ベルト駆動ローラー、26…搬送ローラー、27…加熱ユニット、28…搬送ローラー、29…粘着剤、30…媒体回収部、31…巻取り軸部、32…軸受部、40…印刷部、42(42a、42b、42c)…インクジェットヘッド、43…キャリッジ、45…キャリッジ移動部、45a…ガイドレール、45b…ガイドレール、46…プラテン、50…洗浄ユニット、51…洗浄部、52…押圧部、53…移動部、54…洗浄槽、55…ブレード、56…エアーシリンダー、57…ボールブッシュ、58…洗浄ローラー、60…媒体密着部、61…押圧部、69…当接部、90…フレーム部、91…ベルト支持部、95…布帛、99…床面、100…記録装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6