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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173203
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】ヒノキ属植物の生育方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 22/00 20180101AFI20241205BHJP
   A01G 7/06 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
A01G22/00
A01G7/06 C
A01G7/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091453
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】590002389
【氏名又は名称】静岡県
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中浜 克彦
(72)【発明者】
【氏名】浦田 信明
(72)【発明者】
【氏名】宮内 謙史郎
(72)【発明者】
【氏名】根岸 直希
(72)【発明者】
【氏名】山田 晋也
(72)【発明者】
【氏名】福田 拓実
【テーマコード(参考)】
2B022
【Fターム(参考)】
2B022AA01
2B022AB20
2B022DA19
2B022EA01
2B022EB01
(57)【要約】
【課題】本発明は、効率的な花芽分化を実現できるヒノキ属植物の育成方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、ヒノキ属植物を、根圏制御を含む環境ストレス条件下、屋内で生育すること、及び、花芽分化期の開始前から末期までの間に枝又は幹にジベレリンを注入するジベレリン処理を行うことを含む、ヒノキ属植物の生育方法、花芽分化促進方法、これらの方法においてジベレリン処理後の個体から採種することを含む種子の生産方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒノキ属植物を、根圏制御を含む環境ストレス条件下、屋内で生育すること、及び、
花芽分化期の開始前から末期までの間に枝又は幹にジベレリンを注入するジベレリン処理を行うこと
を含む、ヒノキ属植物の生育方法。
【請求項2】
ヒノキ属植物は、樹齢1~10年のヒノキ属植物である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ジベレリン処理は、付け根の直径が5mm以上の枝に対して行う請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
根圏制御は、根圏領域を0.06m以下の領域内に制限する処理である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
環境ストレスは、さらに、水分ストレスを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
水分ストレスの付与は、花芽分化期の開始前から終了時まで行う、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ジベレリン処理後に採種することをさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
ヒノキ属植物を、根圏制御を含む環境ストレス下、屋内で生育すること、
前記植物の花芽分化期に枝又は幹の基部にジベレリンを注入するジベレリン処理を行うこと、
を含む、ヒノキ属植物の花芽分化促進方法。
【請求項9】
ヒノキ属植物を、根圏制御を含む環境ストレス条件下、屋内で生育すること、
前記植物の花芽分化期に枝又は幹の基部にジベレリンを注入するジベレリン処理を行うこと、及び、
ジベレリン処理後の植物から採種すること
を含む、ヒノキ属植物の種子の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒノキ属植物の生育方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒノキの品種改良、種子増産のため、ジベレリン処理による着花促進が行われてきた。非特許文献1には、ヒノキ母樹の枝にジベレリンペーストを注入することにより着花処理作業の効率を向上できることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所 林木育種センター 材木育種の現場から(2020年度)「ヒノキのジベレリン処理を行いました」ホームページ(令和2年9月15日)、https://www.ffpri.affrc.go.jp/ftbc/business/gyoumusyoukai/genba/r2nendo/documents/r2_0915.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1では、母樹が野外で生産されており、花芽分化効率が不十分である問題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、効率的な花芽分化を実現できるヒノキ属植物の生育方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の〔1〕~〔9〕を提供する。
〔1〕ヒノキ属植物を、根圏制御を含む環境ストレス条件下、屋内で生育すること、及び、
花芽分化期の開始前から末期までの間に枝又は幹にジベレリンを注入するジベレリン処理を行うこと
を含む、ヒノキ属植物の生育方法。
〔2〕ヒノキ属植物は、樹齢1~10年のヒノキ属植物である〔1〕に記載の方法。
〔3〕ジベレリン処理は、付け根の直径が5mm以上の枝に対して行う〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕根圏制御は、根圏領域を0.06m以下の領域内に制限する処理である、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の方法。
〔5〕環境ストレスは、さらに、水分ストレスを含む、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の方法。
〔6〕水分ストレスの付与は、花芽分化期の開始前から終了時まで行う、〔5〕に記載の方法。
〔7〕ジベレリン処理後に採種することをさらに含む、〔1〕~〔6〕に記載の方法。
〔8〕ヒノキ属植物を、根圏制御を含む環境ストレス下、屋内で生育すること、
前記植物の花芽分化期に枝又は幹の基部にジベレリンを注入するジベレリン処理を行うこと、
を含む、ヒノキ属植物の花芽分化促進方法。
〔9〕ヒノキ属植物を、根圏制御を含む環境ストレス条件下、屋内で生育すること、
前記植物の花芽分化期に枝又は幹の基部にジベレリンを注入するジベレリン処理を行うこと、及び、
ジベレリン処理後の植物から採種すること
を含む、ヒノキ属植物の種子の生産方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ヒノキ属植物の花芽を早期に、かつ多くの部位で効率よく分化させることができ、その結果、開花、結実を促進できるため、ヒノキ属植物の効率的な生育、ひいては、種子の効率的な生産を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔1.ヒノキ属植物の生育方法〕
ヒノキ属植物の生育方法は、
対象植物であるヒノキ属植物を、根圏制御を含む環境ストレス条件下、屋内で生育すること、及び、
ヒノキ属植物の花芽分化期の開始前に枝又は幹にジベレリンを注入するジベレリン処理を行うこと
を含む。
【0009】
〔1.1 対象植物〕
対象植物はヒノキ属(Chamaecyparis)植物であればよく、特に制限されない。ヒノキ属植物としては、例えば、ヒノキ(Chamaecyparis obtusa)、アツカワサワラ(Chamaecyparis pisifera f. crassa)、クリハダヒノキ(Chamaecyparis obtusa var. obtusa f. hasegawana)、サワラ(Chamaecyparis pisifera)、ツノミノヒノキ(Chamaecyparis obtusa var. obtusa f. takeuchii)、ローソンヒノキ(Chamaecyparis lawsoniana)が挙げられ、これらのうち、ヒノキが好ましい。
【0010】
ヒノキ属植物は、花芽分化能を有する個体であればよく、一例をあげると以下のとおりである。樹齢は、通常、1~10年であり、2~7年が好ましい。ジベレリン処理時のヒノキ属植物の樹高は、通常、50cm以上、好ましくは100cm以上又は120cm以上、より好ましくは150cm以上である。これにより、後述するジベレリン処理時の、樹体への負荷を軽減できる。上限は、通常、250cm以下であり、好ましくは220cm以下又は200cm以下であり、より好ましくは180cm以下である。これにより、ジベレリン処理の作業性に優れる。したがって、ヒノキ属植物の樹高は、通常、50~250cm、好ましくは100~220cm又は120~200cm、より好ましくは150~180cmである。ヒノキ属植物は、挿し木、接ぎ木等の無性生殖により繁殖した個体でもよいし、実生苗等の、種子から繁殖した個体でもよいが、実生苗が好ましい。
【0011】
〔1.2 生育条件〕
ヒノキ属植物の生育方法においては、対象植物を、環境ストレス条件下、屋内で生育する。
【0012】
〔屋内での生育〕
屋内での生育とは、外界と仕切られた略閉鎖空間で生育することを意味する。屋内で生育させることにより、外部の花粉の混入を抑制でき、選抜された品種同士の交配の確実性を高めることができる。また、気候による生育への影響を低減でき、生育管理が容易となり得る。略閉鎖空間としては、例えば、ビニールハウス等の温室、人工太陽光室が挙げられ、温室が好ましく、ビニールハウスがより好ましい。
【0013】
〔環境ストレス条件〕
本明細書において環境ストレスとは、ストレス植物の生育に対し負荷をかける外的刺激を意味する。環境ストレスとしては、例えば、根圏制御、水分ストレス(乾燥ストレス)、塩ストレス、高温ストレス、明暗ストレスが挙げられ、制御の容易性等の観点から、根圏制御、水分ストレスが好ましく、根圏制御を少なくとも含むことがより好ましい。
【0014】
-根圏制御-
本明細書において根圏制御とは、各個体の根圏領域を一定の領域内に制限することを意味する。根圏の制限領域は、0.06m以下が好ましく、0.055m以下がより好ましく、0.05m以下がさらに好ましい。これにより、効率的に根圏制御を行うことができる。下限は、ヒノキ属植物の生育を過度に抑制しない程度であれば特に制限されないが、0.02m以上が好ましく、0.03m以上がより好ましく、0.04m以上がさらに好ましい。したがって、根圏領域は、0.02~0.06mに制限することが好ましく、0.03~0.055mがより好ましく、0.04~0.05mがさらに好ましい。
【0015】
制限領域の深さは、通常0.5m以下、好ましくは0.4m以下、より好ましくは0.35m以下である。制限領域の、鉛直上方から見た水平領域の面積は、通常0.1~0.5m、好ましくは0.12~0.50m、0.14~0.4m、0.15~0.4m、より好ましくは0.17~0.3m(例えば、横が通常300~800mm以下、好ましくは400~700mm、より好ましくは450~600mm、縦が通常250~600mm、好ましくは300~500mm、より好ましくは300~400mm)である。制限領域の形状は、通常、略円柱、略角柱等の略柱状であり、テーパーを有していてもよい。
【0016】
根圏制御は、根圏を一定の制限領域に制限する条件で行えばよい。例えば、上記の制限領域のサイズを有する、容器(例、ポット、コンテナ、プランター、鉢植え)、遮根シート又はフィルム製の袋に収容した培土に個体ごとに植え付ける方法が挙げられる。容器の材質としては、例えば、樹脂、ガラス、木材、磁器、金属が挙げられる。遮根シート又はフィルムは、例えば、不織布(例、ポリプロピレン樹脂を両面にコーティングした不織布)が挙げられる。
【0017】
-水分ストレス処理-
本明細書において水分ストレス処理とは、植物への水分供給量を減少させる処理を意味する。
【0018】
水分ストレス処理において、培土のpF値は、2.3以上が好ましく、2.5以上がより好ましい。上限は、通常、3.0以下、2.9以下であるが特に限定されない。したがって、培土のpF値は、2.3~3.0の範囲内が好ましく、2.5~2.9の範囲内がより好ましい。培土の水分量の調整は、培土の水分量を測定しつつ、後述する灌水方法により行えばよい。培土の水分量は、例えば、テンシオメーターを用いて測定することができる。
【0019】
水分ストレス処理における水分供給量の調整は、灌水量を減少させることにより行えばよい。例えば、水分ストレス処理期間中のコンテナ重が飽水時のコンテナ重に達しない程度(例えば、1~20%軽量;及び/又はテンシオメーターによる培土の水分量の測定値が上記の範囲(例えば、2.5~2.9の範囲内))となるよう調整することが挙げられる。実際の処理の例としては、例えば、灌水頻度を減少させる方法(例えば、3日毎以上、好ましくは4日毎以上、上限は、通常7日毎以下、好ましくは6日毎以下)が挙げられる。
【0020】
〔環境ストレス処理の実施期間〕
環境ストレス処理の実施期間は、処理の種類に応じて適宜調整できる。例えば、根圏制御処理は、ヒノキ属植物の生育期間の全期間において行うことが好ましい。また、水分ストレス処理は、花芽分化期の開始前から終了時まで行うことが好ましい。ヒノキ属植物の花芽分化期は、一般には、雄花芽では7月上旬~9月中旬、雌花芽では7月下旬~9月下旬の、約90日の期間である。そのため、水分ストレス処理の開始日は、通常6月前半(6月1日~15日の任意の時点)、好ましくは6月初旬(6月1日~10日の任意の時点)である。また、終了時は、好ましくは9月前半まで、より好ましくは9月1~15日の期間から選択できる。水分ストレス処理の期間は、通常、80日以上、好ましくは90日以上、より好ましくは93日以上又は95日以上である。上限は、通常、120日以下、好ましくは110日以下、より好ましくは105日以下又は100日以下である。
【0021】
〔1.3 ジベレリン処理〕
ヒノキ属植物の生育方法においては、対象植物に枝又は幹の基部にジベレリンを注入するジベレリン処理を行う。本明細書においてジベレリン処理とは、ジベレリンを植物に注入する処理である。ジベレリン処理は、通常、ヒノキ属植物の枝及び幹を選択し、通常、1回行う。
【0022】
〔処理時期〕
ジベレリン処理を行う時期は、ヒノキ属植物の花芽分化期の開始前から末期までの間の任意の時点であればよく、通常は、花芽分化期の開始前1か月~花芽分化期の期間内であり、6~8月が好ましく、7~8月がより好ましい。これにより、花芽の分化時期に合わせてジベレリンによる花芽分化促進効果を発揮させることができる。
【0023】
〔処理部位〕
ジベレリン処理の処理部位は、ヒノキ属植物の枝又は幹であればよく、通常は枝、幹の基部である。枝の基部は、枝の付け根から例えば4cm以下、好ましくは3cm以下の領域である。幹の基部は、地際から、例えば3cm以上、好ましくは5cm以上、より好ましくは8cm以上である。上限は、地際から、例えば20cm以下好ましくは15cm以下、より好ましくは13cm以下である。したがって、幹の基部は、地際から3~20cmの部位が好ましく、5~15cmがより好ましく、8~13cmがさらに好ましい。
【0024】
ジベレリン処理を枝に施す場合、ヒノキ属植物1個体あたり少なくとも1本の花芽が付くと予想される枝を処理枝として選択すればよく、処理枝は複数本であってもよい。
【0025】
ジベレリン処理を行う枝は、緑枝(当年枝)でもよく、熟枝(前年以前に伸びた枝)でもよく、特に制限されないが、2~6年生枝を選定することが好ましい。ヒノキ属植物においてどの部位から枝を選定するかは特に制限されず、陽光が当たる部位でもよく、幹付近の日が当たらない部位でもよい。処理枝の部位は、地際から5~245cmの部位から選定することが好ましく、10~200cmがより好ましく、10~180cm又は15~180cmがさらに好ましい。枝のサイズは、通常、付け根の直径(付け根の断面の直径)が5mm以上、6mm以上、又は7mm以上が好ましい。
【0026】
〔ジベレリン処理の方法〕
ジベレリン処理は、ヒノキ属植物の枝又は幹の基部にジベレリンを注入する方法であれば、特に制限されない。例えば、樹皮を剥皮して注入する方法、樹皮に傷をつけた箇所に注入する方法、樹皮に穴を開けて注入する方法が挙げられるが、これらのうち、樹皮を剥皮する方法が好ましい。これにより、ジベレリン処理による樹体への負担を軽減することができる。樹皮の剥皮は、例えば、ナイフ、カッターナイフにより行う。剥皮する樹皮の大きさは、通常、直径5~40mmの略円形領域であり、直径6~30mmが好ましい。剥皮方法としては、例えば、繊維に沿って樹皮に対し水平に切れ込みを入れる方法が挙げられる。
ジベレリンの注入は、例えば、シリンジにより行う。これにより、目的の部位に局所的にジベレリン処理を行うことができる。
ジベレリン処理後は、樹皮を剥皮した部位に戻し固定することが好ましい。これにより、施用したジベレリンが雨等で流れてしまうことを防ぐ。樹皮の固定は、例えば、接ぎ木用テープ、ビニールテープ等を巻きつけて行う。
【0027】
ジベレリンの剤型としては、例えば、ペースト剤、粉剤、水和剤、顆粒剤、乳剤が挙げられ、ペースト剤又は粉剤が好ましく、ペースト剤がより好ましい。これにより、剥皮した樹皮に局所的にジベレリン処理を行うことができ、施用部位からジベレリンが流れ落ちることを防ぐことができる。
【0028】
〔ジベレリンの施用量、及び処理回数〕
ジベレリンの施用量、及び処理回数は、製剤ごとに規定されており、これらの規定に基づき適切な量を選択できる。
【0029】
ジベレリンペーストを枝に施用する場合、その施用量は、1回あたり、20mg/枝以上が好ましく、30mg/枝以上がより好ましく、40mg/枝以上がさらに好ましい。上限は、通常、100mg/枝以下であり、80mg/枝以下が好ましく、70mg/枝以下がより好ましい。したがって、ジベレリンペーストを枝に施用する場合、その施用量は、1回あたり、通常、100mg/枝以下であり、20~100mg/枝が好ましく、30~80mg/枝がより好ましく、40~70mg/枝がさらに好ましい。施用量を上述の数値範囲内とすることにより、花芽分化を促進させることができる。
【0030】
また、ジベレリンの処理回数は製剤ごとに規定されており、これらの規定に基づき適切な量を選択できる。ジベレリンペーストの処理回数は、前記処理時期に1回が好ましい。
【0031】
〔1.4 採種〕
ジベレリン処理により、花芽分化を促進でき、開花させることができるので、その後種子を採取できる。
【0032】
採種は、開花後の球果から常法により行えばよい。
【0033】
〔1.5 他の生育条件〕
上記以外の生育条件は、ヒノキ属植物の一般的な生育条件に従えばよいが、一例を示すと、以下のとおりである。
【0034】
〔灌水〕
上述の水分ストレスを与える期間を除き、ヒノキ属植物1個体に与える灌水量は1日あたり、通常、0.5~5L又は1~4.5Lであり、1~4Lが好ましい。このとき、培土の水分量は、通常、pF1.5~2.3未満である。灌水方法は、例えば、ドリップ灌水(点滴灌水)、頭上灌水、底面灌水が挙げられるが、特に限定されない。
【0035】
〔個体の配置間隔〕
複数の個体に処理を行う場合、各個体の配置は特に制限されないが、隣接する個体同士の間隔が0.5~2m×0.5~2mであることが好ましい。
【0036】
〔施肥〕
必要に応じて施肥を行うことができ、これによりヒノキ属植物の生長を促進できる。肥料は特に制限されず、速効性肥料もしくは緩効性肥料でも構わないが、無機肥料又は有機肥料がより好ましく、化成肥料が更に好ましい。
【0037】
肥料に含まれる成分は特に制限されないが、例えば、無機成分、銀イオン、抗酸化剤、炭素源、ビタミン類、アミノ酸類、ジベレリン以外の植物ホルモン類等の植物の栄養素の供給源となり得る成分が挙げられる。肥料の形態は特に制限されず、固形物(例、粉剤、粒剤)、又は液体(例、液肥)のいずれでもよい。
【0038】
無機成分としては、必須要素の窒素、リン、カリウム、および微量要素の硫黄、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、亜鉛、ホウ素、モリブデン、塩素、ヨウ素、コバルト等の元素や、これらを含む無機塩が例示される。該無機塩としては例えば、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸ナトリウム、リン酸1水素カリウム、リン酸2水素ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸第1鉄、硫酸第2鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸銅、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、ホウ酸、三酸化モリブデン、モリブデン酸ナトリウム、ヨウ化カリウム、塩化コバルト、これらの水和物が挙げられる。必須要素においては、窒素及び/またはカリウムの含有量がリンの含有量よりも多いことが好ましい。窒素含有量のリン含有量に対する重量比、及びカリウム含有量の窒素含有量に対する重量比の少なくともいずれか(好ましくは両方)は、1を超えることが好ましく、1.1以上がより好ましく1.15以上がさらに好ましい。
【0039】
抗酸化剤としては、例えば、アスコルビン酸、亜硫酸塩が挙げられ、アスコルビン酸が好ましい。アスコルビン酸は、培地への残留性が低いため、環境汚染を抑制できる。
【0040】
炭素源としては、例えば、ショ糖等の炭水化物とその誘導体;脂肪酸等の有機酸;エタノール等の1級アルコール、などの化合物が挙げられる。
【0041】
ビタミン類としては、例えば、ビオチン、チアミン(ビタミンB1)、ピリドキシン(ビタミンB4)、ピリドキサール、ピリドキサミン、パントテン酸カルシウム、イノシトール、ニコチン酸、ニコチン酸アミド及びリボフラビン(ビタミンB2)が挙げられる。
【0042】
アミノ酸類としては、例えば、グリシン、アラニン、グルタミン酸、システイン、フェニルアラニン及びリジンが挙げられる。
【0043】
〔施肥方法〕
施肥方法は特に制限されず、用いる肥料に適した施肥条件とすればよい。例えば、ヒノキ属植物の支持体及び/又はヒノキ属植物に肥料を適量散布、塗布、噴霧する方法が挙げられる。施肥の時期は特に制限されないが、2月が好ましい。施肥の回数は、通常、1回であり、2回以下が好ましい。施肥方法は、施肥の回数ごとに異なってもよいし、同じでもよい。
【0044】
〔培土〕
培土は、通常用いられるものであればよく、例えば、砂、土(例、赤玉土、鹿沼土)等の自然土壌が挙げられる。培土の別の例としては、籾殻燻炭、ココナッツ繊維、バーミキュライト、パーライト、ピートモス、ガラスビーズ、ココピート等の人工土壌;発泡フェノール樹脂、ロックウール等の多孔性成形品;固化剤(例、寒天又はゲランガム)が挙げられ、これらから選ばれる少なくとも一種を自然土壌に換えて、又は自然土壌と共に用いてもよい。
【0045】
〔温度、湿度、光条件〕
ヒノキ属植物の生育のためのその他の条件(例、温度、湿度、光)は、植物種によって適宜設定でき、自然条件でもよいし、人為的に制御してもよい。
屋内での育成における温度条件としては、通常、40℃未満である。屋内温度は日中、夜間、又はその両方において特定の温度に制御してもよく、日中温度は、通常、15~35℃であり、20~35℃が好ましい。夜間温度は、通常、10~25℃であり、10~20℃が好ましく、15~20℃がより好ましい。
【0046】
〔2.花芽分化促進方法、種子の生産方法〕
上記生育方法に従い、環境ストレス条件下、屋内で生育すること、及び、前記植物の開花前に枝又は幹にジベレリンを注入するジベレリン処理を行うことにより、ヒノキ属植物の花芽分化を促進し、開花、結実を促進することができる。また、ジベレリン処理後の個体から採種することにより、花芽分化を促進することにより、種子を効率的に生産でき、ヒノキの増殖、品種改良に貢献できる。
【実施例0047】
以下、本発明を実施例により説明する。以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
【0048】
実施例1
閉鎖型採種園(ビニールハウス)において、46L収穫用コンテナ(横535×縦370×高さ305mm(外寸)、横477×縦320×高さ288mm(内寸)、培土の組成:ココピート :赤玉土小粒:鹿沼土小粒=1:1:1、供試肥料:エコロング180日タイプ(N:P:K=14:11:13、ジェイカムアグリ株式会社))へ定植後2年目~7年目の根圏制御されたヒノキ(樹高150cm~200cm)5個体から、5本/個体の枝(地際から10~150cmの部位、2~6年生枝、付け根の直径7mm以上)を選定し、住友ジベレリンペースト(住友化学社製、農林水産省登録第24248号)を施用した。具体的には、カッターナイフで枝の基部領域(付け根の直径7mm~28.8mmの略円形領域)の樹皮を剥皮して、シリンジでジベレリンペーストを注入し、接ぎ木用テープを巻いて固定した。施用時期は、2021年7月9日の1回とし、施用量は50mg/枝とした。ヒノキ属植物施用期間中、ドリップ灌水を、1個体あたり4L/1回/日行った。ハウスの窓を開放し、かつ室温40℃を超える日は温室に寒冷紗を張ることにより、ハウス内の温度条件が40℃未満となるように調節した。
【0049】
2021年10月27日に、施用した枝について、各枝の中央より先端部分を目視で確認し、雌花および雄花への花芽分化の状況を調査した。花芽分化の程度は、起こりうる範囲で最も多くの部分で分化している状態を4(80%以上)、まったく分化が確認されていない状態を0とし、0(0%)、1(1%以上20%未満)、2(20%以上50%未満)、3(50%以上80%未満)、4(80%以上)の5段階で評価し、花芽分化指数とした(表1)。
【0050】
実施例2
住友ジベレリンペーストの施用時期を2021年8月8日の1回とした以外、実施例1と同様に実施した(表1)。
【0051】
実施例3
住友ジベレリンペーストの施用時期を2021年6月8日の1回とした以外、実施例1と同様に実施した(表1)。
【0052】
実施例4
5個体について、地際から10cm上方の幹の部位に住友ジベレリンペーストを注入(施用量:50mg/幹)し、注入した箇所より上方の枝すべてについて花芽分化の状況を調査した以外、実施例1と同様に実施した(表1)。
【0053】
実施例5
住友ジベレリンペーストの施用時期を2021年8月8日の1回とした以外、実施例4と同様に実施した(表1)。
【0054】
実施例6
住友ジベレリンペーストの施用時期を2021年6月8日の1回とした以外、実施例4と同様に実施した(表1)。
【0055】
実施例7
水分ストレス処理を2021年6月8日から9月10日まで行った以外、実施例6と同様に実施した。水分ストレス処理は、灌水量を4L/1回/4日まで減少させて行い、テンシオメーター(大起理化工業株式会社製、商品名「pFメーター(DIK-8333)」)を用いて、期間中のコンテナ内水分をpF2.6~2.8に調整した(表1)。
【0056】
比較例1
開放型採種園において地植えをして根圏制御せず、住友ジベレリンペーストを施用しなかった以外、実施例1と同様に実施した(表2)。
【0057】
比較例2
住友ジベレリンペーストを施用しなかった以外、実施例1と同様に実施した(表2)。
【0058】
比較例3
開放型採種園において地植えをして根圏制御しなかった以外、実施例1と同様に実施した(表2)。
【0059】
比較例4
開放型採種園において地植えをして根圏制御しなかった以外、実施例5と同様に実施した(表2)。
【0060】
比較例5
2021年6月8日、2021年7月9日、2021年8月8日の計3回、ジベレリン溶液(住友ジベレリン粉末を100ppm溶液へ調整)を葉面散布した以外、実施例1と同様に実施した。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
閉鎖型採種園にて根幹制御及びジベレリン処理を行った実施例1~7は、比較例1~5よりも花芽分化指数が高かった。また、根幹制御を行ったもののジベレリン処理を行わなかった比較例2、根圏制御を行ったものの、ジベレリン処理を葉面散布により行った比較例5、並びに、ジベレリン処理を行ったものの根幹制御を行わなかった比較例3及び4は実施例1~7よりも花芽分化指数が低かった。これらの結果は、根幹制御、及び剤の注入によるジベレリン処理を組み合わせた本発明の着花方法により花芽分化を促進できることを示している(表1及び2)。
【0064】
また、ジベレリン処理を7~8月に行った実施例1~2及び4~5は、6月に行った実施例3及び6よりも花芽分化指数が高かった。また、水分ストレス処理を行った実施例7は、水分ストレス処理を行わなかった実施例6よりも花芽分化指数が高かった。これらの結果は、ジベレリン処理の時期及び水分ストレス処理が花芽分化促進効果をより向上することを示している(表1及び2)。
【0065】
これらの結果は、本発明の方法が、ヒノキ属植物の種子生産量を増加し得ることを示している。