(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173224
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】泡沫分離処理装置および泡沫分離処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/24 20230101AFI20241205BHJP
【FI】
C02F1/24 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091509
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 陽士
(72)【発明者】
【氏名】隅倉 光博
(72)【発明者】
【氏名】小島 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雄大
(72)【発明者】
【氏名】倉部 美彩子
【テーマコード(参考)】
4D037
【Fターム(参考)】
4D037AA13
4D037AB02
4D037BA03
4D037BA07
(57)【要約】
【課題】被処理水に含まれる様々な界面活性物質の除去効率を高めることができる泡沫分離処理装置および泡沫分離処理方法を提供する。
【解決手段】被処理水Wに含まれる界面活性物質を泡沫として分離し、回収する泡沫分離処理装置10であって、被処理水Wを貯留する貯留手段12と、被処理水Wの中に気体を送り込んで気泡を生成する気泡生成手段14と、気泡の上昇によって水面WLの付近に生じる泡沫Bを回収するために水面WLの近傍に設けられ、水面WLに対して上向きに開口した開口部30を有する回収手段16とを備え、界面活性物質の炭素鎖長または空気-水界面への吸着力に応じて、水面WLに対する回収手段16の開口部30の高さHを設定することにより、炭素鎖長または空気-水界面への吸着力の異なる界面活性物質の泡沫Bを選択的に回収するようにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水に含まれる界面活性物質を泡沫として分離し、回収する泡沫分離処理装置であって、
前記被処理水を貯留する貯留手段と、前記被処理水の中に気体を送り込んで気泡を生成する気泡生成手段と、
前記気泡の上昇によって前記水面の付近に生じる泡沫を回収するために前記水面の近傍に設けられ、前記水面に対して上向きに開口した開口部を有する回収手段とを備え、
前記界面活性物質の炭素鎖長または空気-水界面への吸着力に応じて、前記水面に対する前記回収手段の前記開口部の高さを設定することにより、炭素鎖長または空気-水界面への吸着力の異なる前記界面活性物質の泡沫を選択的に回収することを特徴とする泡沫分離処理装置。
【請求項2】
前記回収手段の前記開口部の高さを前記水面の付近に形成される泡沫層の上部に設定して、炭素鎖長が8の有機フッ素化合物を含む前記界面活性物質の泡沫を回収することを特徴とする請求項1に記載の泡沫分離処理装置。
【請求項3】
前記回収手段の前記開口部の高さを前記水面の付近に形成される泡沫層の下部に設定して、炭素鎖長が6の有機フッ素化合物を含む前記界面活性物質の泡沫を回収することを特徴とする請求項1に記載の泡沫分離処理装置。
【請求項4】
被処理水に含まれる界面活性物質を泡沫として分離し、回収する泡沫分離処理方法であって、
前記被処理水の中に気体を送り込んで気泡を生成するステップと、
前記気泡の上昇によって前記水面の付近に生じる泡沫を回収するステップとを有し、
前記界面活性物質の炭素鎖長または空気-水界面への吸着力に応じて、泡沫の回収高さを設定することにより、炭素鎖長または空気-水界面への吸着力の異なる前記界面活性物質の泡沫を選択的に回収することを特徴とする泡沫分離処理方法。
【請求項5】
泡沫の回収高さを前記水面の付近に形成される泡沫層の上部に設定して、炭素鎖長が8の有機フッ素化合物を含む前記界面活性物質の泡沫を回収することを特徴とする請求項4に記載の泡沫分離処理方法。
【請求項6】
泡沫の回収高さを前記水面の付近に形成される泡沫層の下部に設定して、炭素鎖長が6の有機フッ素化合物を含む前記界面活性物質の泡沫を回収することを特徴とする請求項4に記載の泡沫分離処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、泡沫分離処理装置および泡沫分離処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、有機フッ素化合物(PFAS)に分類されるペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)およびペルフルオロオクタン酸(PFOA)による環境汚染問題が顕在化している。PFOS/PFOAは泡消火薬剤等で大量かつ広範囲に使用されていることから国内外での規制が始まっている。泡消火の原理は燃焼に必要な空気を泡で遮断することであり、その成分には界面活性剤が用いられている。また、直近では、これまでにPFOS/PFOAの代替物質として使用されてきたPFHxSについても規制の対象に挙がってきており、その動向が注目される。
【0003】
これらの物質は、
図4に示すように、水になじむ性質を持つ「親水基」と、油になじむ性質を持つ「疎水基」を有する構造を有しており、水中では界面活性物質としての挙動を示す。また、界面活性物質は、空気-水界面に濃縮される性質を持つことから、この現象を利用して水中に空気を送入し、空気-水界面に複数の気泡を生成させることで、界面に濃縮された界面活性物質を泡沫として回収する「泡沫分離法(Foam Fractionation)」が水処理の分野で用いられている。泡沫分離法は、加熱等のエネルギーを必要とせず、様々な物質が空気-水界面に吸着・濃縮される特性を利用して汚染物質を除去する安価で処理効率の高い方法として知られており、有機フッ素化合物(PFAS)を含む水処理に対しても有効と考えられている。
【0004】
図5(1)は、泡沫分離法を適用した泡沫分離装置の一例である。この図に示すように、この泡沫分離装置1は、界面活性剤水溶液などの被処理液が入れられた気液接触塔2と、コンプレッサーと接続したガス流量計3を備えるシリコンチューブ4と、分離された泡沫をビーカー5に回収するためのチューブ6とを備えている。コンプレッサーからのエアーをシリコンチューブ4を通じて気液接触塔2の底部のディフューザー7から被処理液内に送り込むと、
図5(2)に示すように、被処理液内に気泡が発生する。発生した気泡は液界面に上昇して泡沫となる。この泡沫はチューブ6を介してビーカー5に排出される。
【0005】
一方、濃縮したPFOS/PFOAを泡沫として回収する従来の地下水浄化方法として、例えば特許文献1の方法が知られている。しかし、この特許文献1の方法では、地下水面から泡沫を真空吸引するため、泡沫が崩壊するおそれがあり、泡沫を効率良く回収することが難しいといった問題があった。
【0006】
このような問題を解決するための技術として、本特許出願人は特許文献2に記載の泡沫分離処理装置を既に提案している。この特許文献2の泡沫分離処理装置は、被処理水の水面の近傍に、水面に対して上向きに配置される開口部を有する泡沫回収部を備えており、水面に浮遊する微量の泡沫を効率よく回収することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第10752521号明細書
【特許文献2】特開2023-50657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、空気-水界面に界面活性物質が濃縮される現象は、界面活性物質が持つ疎水基(炭素鎖)の長さに深く関係しており、
図6に示すように、炭素数がC6のPFHxSでは、PFOS/PFOA(炭素数がC8)よりも炭素鎖長が短いため空気-水界面への吸着力が弱くなる。このことが、吸着原理を用いた活性炭処理と同様に、泡沫分離処理においてもPFHxSの除去効率が低い原因となっている。したがって、上記の従来の特許文献2の泡沫分離処理装置をPFHxSの分離除去にそのまま適用すると、PFHxSの除去率は低くなると考えられる。このため、PFHxSのような空気-水界面への吸着力が弱い界面活性物質についても除去効率を高めることが求められていた。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、被処理水に含まれる様々な界面活性物質の除去効率を高めることができる泡沫分離処理装置および泡沫分離処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る泡沫分離処理装置は、被処理水に含まれる界面活性物質を泡沫として分離し、回収する泡沫分離処理装置であって、前記被処理水を貯留する貯留手段と、前記被処理水の中に気体を送り込んで気泡を生成する気泡生成手段と、前記気泡の上昇によって前記水面の付近に生じる泡沫を回収するために前記水面の近傍に設けられ、前記水面に対して上向きに開口した開口部を有する回収手段とを備え、前記界面活性物質の炭素鎖長または空気-水界面への吸着力に応じて、前記水面に対する前記回収手段の前記開口部の高さを設定することにより、炭素鎖長または空気-水界面への吸着力の異なる前記界面活性物質の泡沫を選択的に回収することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る他の泡沫分離処理装置は、上述した発明において、前記回収手段の前記開口部の高さを前記水面の付近に形成される泡沫層の上部に設定して、炭素鎖長が8の有機フッ素化合物を含む前記界面活性物質の泡沫を回収することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る他の泡沫分離処理装置は、上述した発明において、前記回収手段の前記開口部の高さを前記水面の付近に形成される泡沫層の下部に設定して、炭素鎖長が6の有機フッ素化合物を含む前記界面活性物質の泡沫を回収することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る泡沫分離処理方法は、被処理水に含まれる界面活性物質を泡沫として分離し、回収する泡沫分離処理方法であって、前記被処理水の中に気体を送り込んで気泡を生成するステップと、前記気泡の上昇によって前記水面の付近に生じる泡沫を回収するステップとを有し、前記界面活性物質の炭素鎖長または空気-水界面への吸着力に応じて、泡沫の回収高さを設定することにより、炭素鎖長または空気-水界面への吸着力の異なる前記界面活性物質の泡沫を選択的に回収することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る他の泡沫分離処理方法は、上述した発明において、泡沫の回収高さを前記水面の付近に形成される泡沫層の上部に設定して、炭素鎖長が8の有機フッ素化合物を含む前記界面活性物質の泡沫を回収することを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る他の泡沫分離処理方法は、上述した発明において、泡沫の回収高さを前記水面の付近に形成される泡沫層の下部に設定して、炭素鎖長が6の有機フッ素化合物を含む前記界面活性物質の泡沫を回収することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る泡沫分離処理装置によれば、被処理水に含まれる界面活性物質を泡沫として分離し、回収する泡沫分離処理装置であって、前記被処理水を貯留する貯留手段と、前記被処理水の中に気体を送り込んで気泡を生成する気泡生成手段と、前記気泡の上昇によって前記水面の付近に生じる泡沫を回収するために前記水面の近傍に設けられ、前記水面に対して上向きに開口した開口部を有する回収手段とを備え、前記界面活性物質の炭素鎖長または空気-水界面への吸着力に応じて、前記水面に対する前記回収手段の前記開口部の高さを設定することにより、炭素鎖長または空気-水界面への吸着力の異なる前記界面活性物質の泡沫を選択的に回収するので、被処理水に含まれる様々な界面活性物質の除去効率を高めることができるという効果を奏する。
【0017】
また、本発明に係る他の泡沫分離処理装置によれば、前記回収手段の前記開口部の高さを前記水面の付近に形成される泡沫層の上部に設定して、炭素鎖長が8の有機フッ素化合物を含む前記界面活性物質の泡沫を回収するので、PFOS/PFOAを含む界面活性物質を効率よく回収することができるという効果を奏する。
【0018】
また、本発明に係る他の泡沫分離処理装置によれば、前記回収手段の前記開口部の高さを前記水面の付近に形成される泡沫層の下部に設定して、炭素鎖長が6の有機フッ素化合物を含む前記界面活性物質の泡沫を回収するので、PFHxSを含む界面活性物質を効率よく回収することができるという効果を奏する。
【0019】
また、本発明に係る泡沫分離処理方法によれば、被処理水に含まれる界面活性物質を泡沫として分離し、回収する泡沫分離処理方法であって、前記被処理水の中に気体を送り込んで気泡を生成するステップと、前記気泡の上昇によって前記水面の付近に生じる泡沫を回収するステップとを有し、前記界面活性物質の炭素鎖長または空気-水界面への吸着力に応じて、泡沫の回収高さを設定することにより、炭素鎖長または空気-水界面への吸着力の異なる前記界面活性物質の泡沫を選択的に回収するので、被処理水に含まれる様々な界面活性物質の除去効率を高めることができるという効果を奏する。
【0020】
また、本発明に係る他の泡沫分離処理方法によれば、泡沫の回収高さを前記水面の付近に形成される泡沫層の上部に設定して、炭素鎖長が8の有機フッ素化合物を含む前記界面活性物質の泡沫を回収するので、PFOS/PFOAを含む界面活性物質を効率よく回収することができるという効果を奏する。
【0021】
また、本発明に係る他の泡沫分離処理方法によれば、泡沫の回収高さを前記水面の付近に形成される泡沫層の下部に設定して、炭素鎖長が6の有機フッ素化合物を含む前記界面活性物質の泡沫を回収するので、PFHxSを含む界面活性物質を効率よく回収することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明に係る泡沫分離処理装置の実施の形態を示す概略側断面図である。
【
図2】
図2は、泡沫の形成と同伴水の様子を示す図である。
【
図3】
図3は、泡沫回収器の設置高さ調整による泡沫分離処理方法の説明図である。
【
図4】
図4は、有機フッ素化合物の構造を示す図である。
【
図6】
図6は、PFHxSの空気-水界面への吸着状況の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明に係る泡沫分離処理装置および泡沫分離処理方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0024】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る泡沫分離処理装置10は、被処理水Wに含まれる界面活性物質を泡沫として分離し、回収する装置であって、貯留手段12と、気泡生成手段14と、回収手段16と、気液分離手段18とを備える。本実施の形態では、泡沫分離処理装置10が原位置に設置される場合を想定しており、不透水層F上の汚染土壌Gに施工される。汚染土壌Gとは、例えば、界面活性物質であるPFOS、PFOA、PFHxS等のPFASを含有する地下水(被処理水W)を含む土壌が挙げられる。
【0025】
貯留手段12は、管状の原位置浄化井戸であり、被処理水Wを貯留する。貯留手段12の内壁には、ストレーナー20が設けられる。貯留手段12の水平断面形状は、特に限定されず、例えば、円形、四角形等である。また、貯留手段12の内径は、特に限定されず、原位置浄化井戸の施工性や浄化効率を鑑みた設置本数にもよるが、例えば、5cm以上20cm以下であることが好ましく、7.5cm以上10cm以下であることがより好ましい。
【0026】
貯留手段12の上端には、貯留手段12内の気密性を保つために、上蓋22を設けることが好ましい。上蓋22で気密性を保つことにより、後述するように、気液分離手段18で分離した気体をブロワー26を通じて再び被処理水Wの中に返送し、泡沫Bを生成するために循環利用することができる。
【0027】
気泡生成手段14は、貯留手段12内の被処理水Wの中に、窒素や空気等の気体を送り込んで気泡を生成するためのものである。気泡生成手段14は、貯留手段12内の被処理水W中に気体を送り込むための複数の送気管24と、送気管24に気体を送り出すためのブロワー26とを有する。ブロワー26としては、例えば、従来用いられるターボブロワー(後向き羽送風機)を用いることができる。
【0028】
送気管24は、貯留手段12内に、貯留手段12の深さ方向に沿って複数配置される。本実施の形態では、送気管24は、互いに下端までの長さが異なる3本の送気管24A,24B,24Cから構成される。送気管24A,24B,24Cの下端の位置はそれぞれ異なっており、各下端から、ブロワー26によって送り出された気体が被処理水W中に送り出される。こうすることで、気体により生成される気泡の拡散範囲を広範囲に広げることが可能となり、貯留手段12内の水面WL全体に効率よく泡沫Bを発生させることができる。
【0029】
送気管24の本数、内径および下端の位置は、特に限定されず、貯留手段12内の被処理水Wの量や、貯留手段12の内径、深さなどに応じて適宜調整する。送気管24の下端の形状は、特に限定されず、吐出口の形状と送気量を変化させることによって生成される気泡の大きさを適宜調整する。
【0030】
回収手段16は、気泡の上昇によって貯留手段12内の被処理水Wの水面WLの付近に生じる泡沫Bを回収するためのものであり、水面WLの近傍に設けられた泡沫回収部28により構成される。この泡沫回収部28は、有底筒状の容器からなり、水面WLに対して上向きに開口した開口部30を有する。泡沫回収部28の開口部30の近傍には、ストレーナー32が設けられている。開口部30は、水面WLよりも僅かに高い位置に設置されている。水面WLの付近の泡沫Bは、開口部30およびストレーナー32を介して泡沫回収部28内に流入可能である。このような構成により、被処理水Wの水面WLに濃縮した界面活性物質を泡沫Bとして分離し、効率よく回収することができる。
【0031】
開口部30の高さHは、界面活性物質の炭素鎖長に応じて設定する。このようにすれば、後述するように、炭素鎖長の異なる界面活性物質の泡沫Bを選択的に回収することができる。なお、開口部30の高さHは、界面活性物質の炭素鎖長に応じて設定する代わりに、界面活性物質の空気-水界面への吸着力特性に応じて設定してもよい。
【0032】
図2は、泡沫分離処理において水面WLに形成される泡沫層を模擬したものである。この図に示すように、送気によって生成された気泡は水面WLまで浮上し、一定高さの泡沫層を形成する。泡沫層の高さは泡沫Bを形成する液体(同伴水)に含まれる界面活性物質の濃度と送気量によって変化すると考えられるが、水面WL付近の泡沫Bは多くの同伴水を含んでいるものの、時間の経過とともに泡沫層の上部に押し上げられつつ、同時に重力沈降により徐々に脱水され、泡沫層の最上部では同伴水の少ない泡沫となる。
【0033】
このような現象によって泡沫Bに吸着するPFOS/PFOA/PFHxSは、各物質の疎水性の違いによって泡沫層の上部と下部では吸着されている物質とその濃度が異なり、特に、炭素鎖長の短いPFHxSでは、
図3に示すように、泡沫Bの空気-水界面に一定量の吸着はあるが、水面WL付近の同伴水にも多く存在していると考えられる。
【0034】
そこで、本実施の形態では、水面WL付近に設置する泡沫回収部28の開口部30の高さHを被処理水Wに含まれる界面活性物質の種類および濃度に合わせて最適化し、例えば、PFOS/PFOAが主成分の被処理水Wであれば、泡沫層の上部から泡沫Bを回収できるように泡沫回収部28の開口部30の高さHを常に水面WLから遠い位置P1に設定する。こうすることで、より少ない泡沫回収量でPFOS/PFOAを回収することが可能となる。逆に、PFHxSを高濃度に含む被処理水Wであれば、同伴水をより多く含む泡沫Bを回収できるように水面WLに近い位置P2に設定する。こうすることで、PFOS/PFOAの炭素鎖長よりも炭素鎖長の短いPFHxSを優先的に回収することができる。このように、界面活性物質の炭素鎖長または空気-水界面への吸着力に応じて、泡沫Bの回収高さを設定することにより、所望の界面活性物質の泡沫Bを選択的に回収することが可能である。
【0035】
なお、泡沫回収部28は、貯留手段12の深さ方向に沿って伸縮可能に構成してもよい。また、泡沫回収部28は、貯留手段12内の被処理水Wの水位に応じて、開口部30の位置が調節可能であることが好ましい。この場合、
図1に示すような水位測定手段34を用いることができる。水位測定手段34は、水位計36と、水位センサー38とを有する。水位センサー38は、貯留手段12の近傍に施工した地下水位観測井戸40内に配置される。水位測定手段34によって測定した地下水位観測井戸40内の水位と、貯留手段12内の被処理水Wの水面WLの位置関係を予め把握しておき、測定した水位に基づいて、開口部30の高さHを水面WLよりも高い設定位置(例えば、位置P1や位置P2)になるように調節する。これにより、貯留手段12内の水位が変動しても、水面WLに対する開口部30の高さHを設定位置に保持できるので、水面WLに浮遊する泡沫Bを確実に回収することができる。
【0036】
開口部30の高さHを調節する手段としては、例えば、水位計36から出力された水位の変動量に応じてモーター等を回転させ、その動力によって開口部30を上下方向に伸縮調整する機構や、泡沫回収部28自体を上下方向に昇降して開口部30の高さHを調整する機構が挙げられる。
図1の例では、開口部30を上下方向に伸縮調整する機構として、泡沫回収部28の上端側に蛇腹構造42を形成したものを示している。この蛇腹構造42を上下方向に伸縮することで開口部30の高さHを調節する。
【0037】
気液分離手段18は、地上に配置された気液分離槽44と、導管46と、循環路48とを有しており、泡沫回収部28にて泡沫Bが液化して生成した液体Lを、導管46によって気液分離槽44に回収する。気液分離槽44は、回収した液体Lを、泡沫Bに含まれていた気体と被処理水Wを含む界面活性物質の濃縮液に分離する。気液分離槽44にて分離した気体は、循環路48によって気泡生成手段14のブロワー26に送られる。
【0038】
本実施の形態によれば、被処理水Wに含まれるPFOS/PFOA/PFHxSという様々な界面活性物質の除去効率を高めることができる。また、本実施の形態は、従来の吸着原理を用いた有機フッ素化合物(PFAS)の代表的な水処理方法である活性炭処理とは異なり、物質によって異なる炭素鎖長などの特性を踏まえた選択的な除去が可能である。
【0039】
以上説明したように、本発明に係る泡沫分離処理装置によれば、被処理水に含まれる界面活性物質を泡沫として分離し、回収する泡沫分離処理装置であって、前記被処理水を貯留する貯留手段と、前記被処理水の中に気体を送り込んで気泡を生成する気泡生成手段と、前記気泡の上昇によって前記水面の付近に生じる泡沫を回収するために前記水面の近傍に設けられ、前記水面に対して上向きに開口した開口部を有する回収手段とを備え、前記界面活性物質の炭素鎖長または空気-水界面への吸着力に応じて、前記水面に対する前記回収手段の前記開口部の高さを設定することにより、炭素鎖長または空気-水界面への吸着力の異なる前記界面活性物質の泡沫を選択的に回収するので、被処理水に含まれる様々な界面活性物質の除去効率を高めることができる。
【0040】
また、本発明に係る他の泡沫分離処理装置によれば、前記回収手段の前記開口部の高さを前記水面の付近に形成される泡沫層の上部に設定して、炭素鎖長が8の有機フッ素化合物を含む前記界面活性物質の泡沫を回収するので、PFOS/PFOAを含む界面活性物質を効率よく回収することができる。
【0041】
また、本発明に係る他の泡沫分離処理装置によれば、前記回収手段の前記開口部の高さを前記水面の付近に形成される泡沫層の下部に設定して、炭素鎖長が6の有機フッ素化合物を含む前記界面活性物質の泡沫を回収するので、PFHxSを含む界面活性物質を効率よく回収することができる。
【0042】
また、本発明に係る泡沫分離処理方法によれば、被処理水に含まれる界面活性物質を泡沫として分離し、回収する泡沫分離処理方法であって、前記被処理水の中に気体を送り込んで気泡を生成するステップと、前記気泡の上昇によって前記水面の付近に生じる泡沫を回収するステップとを有し、前記界面活性物質の炭素鎖長または空気-水界面への吸着力に応じて、泡沫の回収高さを設定することにより、炭素鎖長または空気-水界面への吸着力の異なる前記界面活性物質の泡沫を選択的に回収するので、被処理水に含まれる様々な界面活性物質の除去効率を高めることができる。
【0043】
また、本発明に係る他の泡沫分離処理方法によれば、泡沫の回収高さを前記水面の付近に形成される泡沫層の上部に設定して、炭素鎖長が8の有機フッ素化合物を含む前記界面活性物質の泡沫を回収するので、PFOS/PFOAを含む界面活性物質を効率よく回収することができる。
【0044】
また、本発明に係る他の泡沫分離処理方法によれば、泡沫の回収高さを前記水面の付近に形成される泡沫層の下部に設定して、炭素鎖長が6の有機フッ素化合物を含む前記界面活性物質の泡沫を回収するので、PFHxSを含む界面活性物質を効率よく回収することができる。
【0045】
なお、2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。本実施の形態に係る泡沫分離処理装置および泡沫分離処理方法は、このSDGsの17の目標のうち、例えば「6.安全な水とトイレを世界中に」の目標などの達成に貢献し得る。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上のように、本発明に係る泡沫分離処理装置および泡沫分離処理方法は、有機フッ素化合物などを含む汚染水の処理に有用であり、特に、界面活性物質の除去効率を高めるのに適している。
【符号の説明】
【0047】
10 泡沫分離処理装置
12 貯留手段
14 気泡生成手段
16 回収手段
18 気液分離手段
20,32 ストレーナー
22 上蓋
24,24A,24B,24C 送気管
26 ブロワー
28 泡沫回収部
30 開口部
34 水位測定手段
36 水位計
38 水位センサー
40 地下水位観測井戸
42 蛇腹構造
44 気液分離槽
46 導管
48 循環路
B 泡沫
F 不透水層
G 汚染土壌
H 高さ
P1,P2 位置
W 被処理水
WL 水面