(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173229
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】コーティング液
(51)【国際特許分類】
H01M 4/36 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
H01M4/36 C
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091516
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保田 勝
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050DA09
5H050FA18
5H050HA00
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】高い被覆能を有し得るコーティング液を提供すること。
【解決手段】正極活物質の表面にコーティング膜を形成するために使用される、コーティング液であって、前記コーティング液は、溶媒および溶質を含み、前記溶媒は、水分を含み、前記溶質は、M元素を含み、前記M元素は、リンおよびホウ素からなる群から選択される少なくとも1種を含み、前記コーティング液における前記M元素の含有率は、0.05質量%以上3.0質量%以下であり、前記コーティング液におけるリチウムの含有率は、0.1質量%未満であり、前記コーティング液の波長660nmにおける吸光度は、0.1以下であり、前記コーティング液の表面エネルギーは、50mN/m以下である、コーティング液。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質の表面にコーティング膜を形成するために使用される、コーティング液であって、
前記コーティング液は、溶媒および溶質を含み、
前記溶媒は、水分を含み、
前記溶質は、M元素を含み、
前記M元素は、リンおよびホウ素からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記コーティング液における前記M元素の含有率は、0.05質量%以上3.0質量%以下であり、
前記コーティング液におけるリチウムの含有率は、0.1質量%未満であり、
前記コーティング液の波長660nmにおける吸光度は、0.1以下であり、
前記コーティング液の表面エネルギーは、50mN/m以下である、コーティング液。
【請求項2】
前記コーティング液は、界面活性剤をさらに含み、
前記コーティング液における前記界面活性剤の含有率は、0.01質量%以上1.5質量%以下である、請求項1に記載のコーティング液。
【請求項3】
前記コーティング液の前記表面エネルギーは、15mN/m以上30mN/m以下である、請求項1または請求項2に記載のコーティング液。
【請求項4】
正極活物質の表面にコーティング膜を形成するために使用される、コーティング液であって、
前記コーティング液は、溶媒、溶質および界面活性剤を含み、
前記溶媒は、水分を含み、
前記溶質は、M元素を含み、
前記M元素は、リンおよびホウ素からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記コーティング液における前記M元素の含有率は、1.5質量%以上2.6質量%以下であり、
前記コーティング液におけるリチウムの含有率は、0.1質量%未満であり、
前記コーティング液の波長660nmにおける吸光度は、0.1以下であり、
前記コーティング液の表面エネルギーは、15mN/m以上30mN/m以下であり、
前記コーティング液における前記界面活性剤の含有率は、0.1質量%以上1.0質量%以下である、コーティング液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コーティング液に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開2022-47501号公報)には、正極活物質表面に均一に被覆層を形成するため、正極活物質およびコート液を含むスラリーを液滴化させて、スラリー液滴を気流乾燥させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された方法は、従来の転動流動法と比較して、加工速度が向上する等の利点を有する。しかしながら、特許文献1に開示された方法では、正極活物質とコート液との濡れ性が悪いため、コーティング膜の被覆率が上がり難い傾向がある。
【0005】
本開示の目的は、高い被覆能を有し得るコーティング液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔1〕 正極活物質の表面にコーティング膜を形成するために使用される、コーティング液であって、
前記コーティング液は、溶媒および溶質を含み、
前記溶媒は、水分を含み、
前記溶質は、M元素を含み、
前記M元素は、リンおよびホウ素からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記コーティング液における前記M元素の含有率は、0.05質量%以上3.0質量%以下であり、
前記コーティング液におけるリチウムの含有率は、0.1質量%未満であり、
前記コーティング液の波長660nmにおける吸光度は、0.1以下であり、
前記コーティング液の表面エネルギーは、50mN/m以下である、コーティング液。
【0007】
表面エネルギーにより、コーティング液の被覆能が評価され得る。被覆能が高いことは、被覆率が上昇しやすいことを示す。コーティング液の表面エネルギーが低いことは、コーティング液と正極活物質との濡れ性が良好であることを意味する。コーティング液と正極活物質との濡れ性が良好であれば、正極活物質の表面にコーティング液を塗布した場合に、コーティング液が均一に濡れ広がるため、形成されるコーティング膜が均一になり、被覆率が向上するものと考えられる。
【0008】
また、吸光度によってもコーティング液の被覆能が評価され得る。コーティング液の吸光度が低いことは、コーティング液に含まれる微粒子の濃度が低いこと、すなわち、溶質の著しい溶け残りや不溶解成分が少ないことを意味する。コーティング液に含まれる微粒子の濃度が低ければ、正極活物質の表面にコーティング液を塗布した場合に、形成されるコーティング膜の凹凸が少なくなり、厚さの不均一さも抑制され、被覆率が向上するものと考えられる。
【0009】
さらに、本開示のコーティング液におけるリチウムの含有率は、0.1質量%未満である。コーティング液におけるリチウムの含有率が0.1質量%未満の場合、溶液のpHの上昇が抑制され、コーティング液へのM元素の溶解が促進され、表面エネルギーが低減するものと考えられる。
【0010】
本開示のコーティング液は、表面エネルギーが50mN/m以下であり、波長660nmにおける吸光度が0.1以下であり、リチウムの含有率が0.1質量%未満である。この場合、コーティング液は、優れた被覆能を有し得る。
【0011】
〔2〕 前記コーティング液は、界面活性剤をさらに含み、
前記コーティング液における前記界面活性剤の含有率は、0.01質量%以上1.5質量%以下である、〔1〕に記載のコーティング液。
【0012】
〔3〕 前記コーティング液の前記表面エネルギーは、15mN/m以上30mN/m以下である、〔1〕または〔2〕に記載のコーティング液。
【0013】
〔4〕 正極活物質の表面にコーティング膜を形成するために使用される、コーティング液であって、
前記コーティング液は、溶媒、溶質および界面活性剤を含み、
前記溶媒は、水分を含み、
前記溶質は、M元素を含み、
前記M元素は、リンおよびホウ素からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記コーティング液における前記M元素の含有率は、1.5質量%以上2.6質量%以下であり、
前記コーティング液におけるリチウムの含有率は、0.1質量%未満であり、
前記コーティング液の波長660nmにおける吸光度は、0.1以下であり、
前記コーティング液の表面エネルギーは、15mN/m以上30mN/m以下であり、
前記コーティング液における前記界面活性剤の含有率は、0.1質量%以上1.0質量%以下である、コーティング液。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、No.1~3における表面エネルギーの値と、被覆率との関係を示すグラフである。
【
図2】
図2は、No.4~10における表面エネルギーの値と、被覆率との関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、No.11および12における表面エネルギーの値と、被覆率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施形態(以下「本実施形態」と略記され得る。)、および本開示の実施例(以下「本実施例」と略記され得る。)が説明される。ただし、本実施形態および本実施例は、本開示の技術的範囲を限定しない。
【0016】
<コーティング液>
コーティング液は、溶媒および溶質を含む。溶媒は、水分を含む。溶質は、M元素を含む。M元素は、リン(P)およびホウ素(B)からなる群から選択される少なくとも1種を含む。コーティング液は、例えば、懸濁物(不溶解成分)、沈殿物等をさらに含んでいてもよい。なお、本開示における「溶質」とは、後述する界面活性剤を含まないものとする。
【0017】
《溶媒》
溶媒は、水分を含む。溶媒は、水分を主体として含んでいることが好ましい。溶媒は、水分からなっていてもよい。溶媒は、例えば、イオン交換水を含んでいてもよい。溶媒は、例えば、イオン交換水を主体として含んでいることが好ましい。溶媒は、例えば、イオン交換水からなっていてもよい。溶媒は、溶質が溶解する限り、任意の成分を含んでいてもよい。溶媒は、例えば、アルコール等を含んでいてもよい。溶媒は、例えば、エタノール等を含んでいてもよい。なお、「水分を主体として含む」とは、溶媒中の水分の含有率が50質量%を超えることを意味する。
【0018】
コーティング液における水分の含有率は、90質量%以上97質量%以下であることが好ましい。コーティング液における水分の含有率が90質量%未満の場合、コーティング液を用いた正極活物質粒子への被覆操作が困難になるおそれがある。コーティング液における水分の含有率が97質量%を超える場合、コーティング液における溶質の濃度が低く、コーティング膜の被覆率が向上しないおそれがある。コーティング液における水分の含有率は、例えば91質量%以上であってもよく、93質量以上であってもよい。コーティング液における溶媒の含有率は、例えば、96質量%以下であってもよく、95質量%以下であってもよい。
【0019】
コーティング液における水分量は、容量滴定法によりカールフィッシャー水分計を用いて測定される。例えば、京都電子工業社製のカールフィッシャー水分計「製品名 MKA-610」が準備される。水分量の測定のために、滴定液および溶媒が準備される。滴定液としては、例えば、「製品名:コンポジット5K(Honeywell製)が、溶媒としては、「製品名:ミディアムK(Honeywell製)等が考えられる。滴定フラスコ内の溶媒を滴定液で無水化し、コーティング液を投入することで水分量が測定される。
【0020】
《溶質》
Pは、リン化合物として含まれる。リン化合物としては、例えば、リン酸化合物が挙げられる。リン酸化合物は、例えば、無水リン酸(P2O5)、オルトリン酸、ピロリン酸、メタリン酸、ポリリン酸ならびにこれらのナトリウム塩、リチウム塩およびカリウム塩からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。リン酸化合物としては、メタリン酸、ポリリン酸ならびにこれらのナトリウム塩、リチウム塩およびカリウム塩が好ましい。メタリン酸およびポリリン酸は、その他のリン酸化合物に比して、長い分子鎖を有し得る。溶質がメタリン酸およびポリリン酸の少なくとも一方を含むことにより、例えば、連続性を有するコーティング膜が形成されやすくなることが期待される。これにより、例えば、被覆率の向上が期待される。
【0021】
Bは、ホウ素化合物として含まれる。ホウ素化合物としては、例えば、ホウ酸化合物が挙げられる。ホウ酸化合物は、例えば、オルトホウ酸、メタホウ酸、および四ホウ酸からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0022】
溶質は、PおよびBを含むことが好ましい。溶質がPおよびBを含むことにより、表面エネルギーのさらなる低減が期待される。
【0023】
コーティング液におけるM元素の含有率は、0.05質量%以上3.0質量%以下である。コーティング液におけるM元素の含有率が0.05質量%未満の場合、コーティング液におけるM元素の濃度が低く、コーティング膜の被覆率が向上しないおそれがある。コーティング液におけるM元素の含有率が3.0質量%を超える場合、コーティング液にM元素が完全に溶解しないおそれがある。コーティング液におけるM元素の含有率は、例えば、0.2質量%以上であってもよく、0.5質量%以上であってもよく、1.0質量%以上であってもよく、1.5質量%以上であってもよい。コーティング液におけるM元素の含有率は、2.9質量%以下であってもよく、2.8質量%以下であってもよく、2.7質量%以下であってもよく、2.6質量%以下であってもよい。
【0024】
コーティング液におけるリチウム(Li)の含有率は、0.1質量%未満である。Liの含有率が0.1質量%以上の場合、溶液のpHが上がることで、コーティング液にM元素が完全に溶解しないおそれがある。なお、コーティング液において、リチウム(Li)の含有率が0.1質量%未満になり得る限り、溶質はリチウム化合物を含んでいてもよい。リチウム化合物は、例えば、水酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム等を含んでいてもよい。
【0025】
コーティング液中の溶質の濃度は、次の手順で測定される。0.1gのコーティング液が純水および塩酸に混合され、加熱される。放冷後、過酸化水素をさらに添加して、加熱される。放冷後、100mLに規正し、試料液が準備される。誘導結合プラズマ発光分光分析(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy:ICP-AES)装置が準備される。例えば、アジレント・テクノロジー社製のICP-AES装置「製品名 CP-720」を用いてコーティング液中の溶質の濃度が測定される。
【0026】
《界面活性剤》
コーティング液は、界面活性剤をさらに含んでいてもよい。コーティング液が界面活性剤を含むことにより、被覆率の向上が期待される。界面活性剤は、不溶解成分であってもよい。界面活性剤は、溶解成分(溶質)であってもよい。界面活性剤は、例えば、水溶性を有していてもよい。界面活性剤が溶解していることにより、被覆率が向上する可能性がある。界面活性剤は、カチオン性、アニオン性、両性、または、ノニオン性であってもよい。界面活性剤がノニオン性であることにより、被覆率が向上する可能性がある。界面活性剤は、例えば、ポリエーテル変性シリコーン、および、ポリエチレングリコールアルキルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。ポリエーテル変性シリコーンとしては、例えば、「製品名:Silsurf C208(SILTECH社製)」、「製品名:KF-945(信越化学工業社製)」等が考えられる。ポリエチレングリコールアルキルエーテルとしては、例えば、ポリエチレングリコールモノラウリルエーテル(東京化成工業社製)等が考えられる。
【0027】
コーティング液における界面活性剤の含有率は、0.01質量%以上1.5%質量%以下であることが好ましい。コーティング液における界面活性剤の含有率が0.01質量%未満の場合、界面活性剤を含むことによる被覆率の向上の効果が得られないおそれがある。コーティング液における界面活性剤の含有率が1.5質量%を超える場合、沈殿が生じたり、不溶解成分が増加するおそれがある。コーティング液における界面活性剤の含有率は、例えば、0.1質量%以上であってもよく、0.2質量%以上であってもよく、0.5質量%以上であってもよい。コーティング液における界面活性剤の含有率は、例えば、1.4質量%以下であってもよく、1.2質量%以下であってもよく、1.0質量%以下であってもよい。
【0028】
《吸光度》
コーティング液の波長660nmにおける吸光度は、0.1以下である。ここで、波長660nmにおける吸光度は、コーティング液中に存在する微粒子による散乱光の強さを示しており、吸光度の値が高いほど、コーティング液中に存在する微粒子の濃度が高いこと、すなわち、溶質の溶け残りがあることや不溶解成分が多いことを示す(例えば、JIS-K0101参照)。そして、微粒子の濃度が高いコーティング液を正極活物質上に塗布すると、正極活物質の表面に微粒子が付着してコーティング膜が凹凸になり、コーティング膜の厚さが不均一になる。コーティング膜の厚さが不均一になると、コーティング膜の厚さが不十分な部分や被覆がされていない部分が発生し、被覆率の低下に繋がる。
【0029】
コーティング液の波長660nmにおける吸光度が0.1以下である場合、コーティング液中の微粒子の濃度は少なく、コーティング膜の厚さが均一になり、被覆率の向上が期待されるものと考えられる。コーティング液の波長660nmにおける吸光度は、0であってもよい。
【0030】
吸光度の値は、次の手順で測定される。石英セル(10mm×10mm×45mm)に3.5mLのコーティング液が採取される。該コーティング液の吸光度が紫外可視分光光度計を用いて測定される。例えば、島津製作所製の紫外可視分光光度計「製品名 UV-1280」が準備される。測定中のコーティング液の温度は、25℃である。このとき、吸光度の下限値は、0.000である。ただし、吸光度測定に用いた紫外可視分光光度計における、装置上の検出限界は0.001である。なお、吸光度のゼロ点は、電気伝導度17MΩ・cm以上、25℃の超純水を測定セルにいれて測定した場合の吸光度を用いることができる。
【0031】
《表面エネルギー》
コーティング液の表面エネルギーは、50mN/m以下である。ここで、表面エネルギーとは、表面張力と同義である。コーティング液の表面エネルギーの値を低減させることで、正極活物質との濡れ性がよくなり、正極活物質の表面にコーティング液を塗布した場合に均一に濡れ広がるようになる。その結果、形成されるコーティング膜が均一化し、コーティング膜の厚さが不十分な部分や被覆がされていない部分が低減し、被覆率の低下が抑制される。
【0032】
コーティング液の表面エネルギーが50mN/m以下である場合、コーティング膜の厚さが均一になり、被覆率の向上が期待されるものと考えられる。コーティング液の表面エネルギーは、45mN/m以下であってもよく、41mN/m以下以下であってもよい。コーティング液の表面エネルギーは、30mN/m以下であることが好ましく、26mN/m以下であることが好ましい。コーティング液の表面エネルギーは、20mN/m以下であることがより好ましい。
【0033】
一方、コーティング液の表面エネルギーが正極活物質の表面エネルギーに対して小さ過ぎると、コーティング液が正極活物質表面から剥がれ易くなる傾向がある。その結果、形成されるコーティング膜が不均一化し、被覆率が低下するおそれがある。そのため、表面エネルギーは、10mN/m以上であることが好ましい。
【0034】
表面エネルギーの値は、ペンダントドロップ法(懸滴法)により接触角計を用いて測定される。例えば、協和界面科学社製の接触角計「DMo-502」が準備される。プローブ液体として、ジヨードメタンおよびn-ヘキサデカンが準備される。プローブ液体中にてコーティング液を細管から押し出し、1000ms後から画像の取り込みを開始し、その後1000ms間隔で300回画像を取り込む。取り込んだ画像を付属の多機能統合解析ソフトウェアであるFAMASにより読み込み、Young-Laplace法に基づいて解析を行うことで、表面エネルギーを算出する。測定中のコーティング液の温度は、25℃である。
【0035】
《用途》
本開示のコーティング液は、正極活物質の表面にコーティング膜を形成するために使用される。正極活物質は、1個の粒子からなっていてもよく、2個以上の粒子を含んでいてもよい。正極活物質は、例えば、1μm以上30μm以下の平均粒径(D50)を有していてもよい。「D50」は、体積基準の粒度分布(積算分布)において、積算が50%になる粒子径を示す。粒度分布は、レーザ回折法により測定され得る。
【0036】
正極活物質は、任意の成分を含み得る。正極活物質は、例えば、Li(NiCoMn)O2、Li(NiCoAl)O2からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。例えば「Li(NiCoMn)O2」における「(NiCoMn)」は、括弧内の組成比の合計が1であることを示す。Li(NiCoMn)O2は、例えばLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2等を含んでいてもよい。Li(NiCoAl)O2は、例えば、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2等を含んでいてもよい。
【0037】
<コーティング液の製造方法>
本開示のコーティング液の製造方法は、特に制限はない。例えば、溶媒に溶質を溶解させることでコーティング液が製造される。溶質がM元素としてPおよびBの双方を含む場合、溶媒に同時に混合させてもよく、別々に混合させてもよい。また、界面活性剤を添加する場合、溶質と同時に混合させてもよく、別々に混合させてもよい。
【実施例0038】
<試料の作製>
以下のように、No.1~12に係るコーティング液および被覆正極活物質が製造された。以下、例えば「No.1に係るコーティング液」等が「No.1」と略記され得る。
【0039】
《No.1》
92.14gのイオン交換水に、6.0gのメタリン酸(富士フイルム和光純薬社製)が溶解されることにより、コーティング液が製造された。
【0040】
正極活物質として、NCM(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)が準備された。正極活物質の粉末がコーティング液に分散されることにより、スラリー(固形分濃度:69質量%)が準備された。BUCHI社製のスプレードライヤー「製品名 Mini Spray Dryer B-290」が準備された。スラリーがスプレードライヤーに供給されることにより、被覆正極活物質の粉末が製造された。スプレードライヤーの給気温度は200℃であり、給気風量は0.45m3/minであった。被覆正極活物質が空気中で熱処理された。熱処理温度は200℃であった。熱処理時間は5時間であった。
【0041】
《No.2》
No.1のコーティング液に、ポリエチレングリコールアルキルエーテルとしてポリエチレングリコールモノラウリルエーテル(東京化成工業社製)をその濃度が1.0質量%となるように溶解することで、コーティング液が製造された。その後、No.1と同じ方法で被覆正極活物質が製造された。
【0042】
《No.3》
No.1のコーティング液に、ポリエーテル変性シリコーン(信越化学工業社製、KF-945)をその濃度が1.0質量%となるように溶解することで、コーティング液が製造された。その後、No.1と同じ方法で被覆正極活物質が製造された。
【0043】
《No.4》
66.05gのイオン交換水に、2.15gのメタリン酸(富士フイルム和光純薬社製)が溶解されることにより、リン酸溶液が形成された。さらにリン酸溶液に、PおよびBのモル比が1:1となるようにホウ酸(ナカライテスク社製)が溶解されることにより、コーティング液が製造された。その後、No.1と同じ方法で被覆正極活物質が製造された。
【0044】
《No.5~6》
No.4のコーティング液に、ポリエチレングリコールアルキルエーテルをその濃度が0.5質量%となるように溶解することで、No.5のコーティング液が、ポリエチレングリコールアルキルエーテルをその濃度が1.0質量%となるように溶解することで、No.6のコーティング液が、それぞれ製造された。その後、No.1と同じ方法で各被覆正極活物質が製造された。
【0045】
《No.7~10》
No.4のコーティング液に、ポリエーテル変性シリコーンをその濃度が0.01質量%となるように溶解することで、No.7のコーティング液が、ポリエーテル変性シリコーンをその濃度が0.1質量%となるように溶解することで、No.8のコーティング液が、ポリエーテル変性シリコーンをその濃度が0.5質量%となるように溶解することで、No.9のコーティング液が、ポリエーテル変性シリコーンをその濃度が1.0質量%となるように溶解することで、No.10のコーティング液が、それぞれ製造された。その後、No.1と同じ方法で各被覆正極活物質が製造された。
【0046】
《No.11》
109.0gのイオン交換水に、6.0gのメタリン酸(富士フイルム和光純薬社製)が溶解されることにより、リン酸溶液が形成された。さらにリン酸溶液に、PおよびBのモル比が1:1となるようにホウ酸(ナカライテスク社製)が溶解されることにより、コーティング液が製造された。その後、No.1と同じ方法で被覆正極活物質が製造された。
【0047】
《No.12》
No.11のコーティング液に、ポリエチレングリコールアルキルエーテルをその濃度が0.5質量%となるように溶解することで、コーティング液が製造された。その後、No.1と同じ方法で被覆正極活物質が製造された。
【0048】
<評価>
《コーティング液》
(水分量)
コーティング液に含まれる水分量が、容量滴定法によりカールフィッシャー水分計を用いて測定された。その結果を表1に示す。
【0049】
(M元素)
コーティング液に含まれるM元素の濃度(質量%)が、ICP-AESにより測定された。その結果を表1に示す。なお、各コーティング液に含まれるLiの濃度を測定したが、含まれていなかった、または検出下限量以下であったため測定できなかった。
【0050】
(吸光度)
コーティング液の吸光度が、紫外可視分光光度計により測定された。その結果を表1に示す。
【0051】
(表面エネルギー)
コーティング液の表面エネルギーが、ペンダントドロップ法(懸滴法)により接触角計を用いて測定された。その結果を表1に示す。
【0052】
《被覆正極活物質》
(被覆率)
被覆正極活物質の被覆率は、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy,XPS)により測定された。XPS装置として、アルバック・ファイ社製のXPS装置「製品名 PHI X-tool」が準備された。被覆正極活物質からなる試料粉末がXPS装置にセットされた。224eVのパスエネルギーにより、ナロースキャン分析が実施された。測定データがアルバック・ファイ社製の解析ソフトフェア「製品名 MulTiPak」により処理された。
【0053】
測定データが解析されることにより、Li1s、B1s、P2p、Ni2p3、Co2p3およびMn2p3の各ピーク面積から、各元素の比率(元素濃度)が求められた。下記式(1)により、被覆率が求められた。
【0054】
θ=M/(M+Ni+Co+Mn)×100・・・(1)
上記式(1)中、θは被覆率(%)を示す。M、Ni、CoおよびMnは、各元素の比率を示す。Mは、No.1~3の被覆正極活物質においてはPを、No.4~12の被覆正極活物質においてはPおよびBを、それぞれ示す。
【0055】
被覆率は、界面活性剤を含まないNo.1、4および11を基準値とする相対値として表1および
図1~3に示す。すなわち、No.2および3の値は、No.1を基準値とする相対値であり、No.5~10の値は、No.4を基準値とする相対値であり、No.12の値は、No.11を基準値とする相対値である。
【0056】
【0057】
<結果>
表1および
図1~3の結果より、No.2、3、5、7~10、および12に係るコーティング液を用いることで、正極活物質に対して十分な被覆率を発揮することができるものと考えられる。また、界面活性剤を含むことで、表面エネルギーが低下する結果、正極活物質に対してより高い被覆率を発揮することができるものと考えられる。
【0058】
本実施形態および本実施例は、全ての点で例示である。本実施形態および本実施例は、制限的ではない。本開示の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内における全ての変更を包含する。例えば、本実施形態および本実施例から、任意の構成が抽出され、それらが任意に組み合わされることも当初から予定されている。