(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173232
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】クラッシュボックス
(51)【国際特許分類】
B60R 19/48 20060101AFI20241205BHJP
B60R 19/34 20060101ALI20241205BHJP
B60D 1/56 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B60R19/48 W
B60R19/34
B60D1/56
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091521
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000241496
【氏名又は名称】豊田鉄工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】龍瀧 浩三
(72)【発明者】
【氏名】山本 明祥
(57)【要約】
【課題】固縛フックを取付可能なクラッシュボックスにおいて、固縛フックを支持する部位を補強部材で補強することにより、スポット溶接にて接合したクラッシュボックスでも固縛フックの支持強度を確保可能とし、製造コストや重量の増加を抑制する。
【解決手段】内部に中空部を形成するように筒状に形成され、中空部の貫通方向に入力される衝突荷重を受けて衝突エネルギを吸収する筒体11と、中空部を閉じるように筒体11の端部に被せられて筒体11にスポット溶接にて接合された板状の蓋体13と、固縛フック18を突出させて支持し、蓋体13に重ねて配置され、蓋体13と共に中空部を閉じるように筒体11の端部に被せられて蓋体13に結合された固縛ブラケット15と、筒体11の中空部の貫通方向を横断するように筒体11内で固縛ブラケット15に沿って配置され、両端部が筒体11に結合された長尺カシメピン12と、を備える。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に中空部を形成するように筒状に形成され、前記中空部の貫通方向に入力される衝突荷重を受けて圧壊されて衝突エネルギを吸収する筒体と、
前記中空部を閉じるように前記筒体の端部に被せられて前記筒体にスポット溶接にて接合された板状の蓋体と、
車体を他の物体に結合する際に使用される固縛フックを突出させて支持し、前記蓋体に重ねて配置され、前記蓋体と共に前記中空部を閉じるように前記筒体の端部に被せられて前記蓋体に結合された固縛ブラケットと、
前記筒体の前記中空部の貫通方向を横断するように前記筒体内で前記固縛ブラケットに沿って配置され、両端部が前記筒体に結合された補強部材と、を備える
クラッシュボックス。
【請求項2】
請求項1において、
前記蓋体は、前記筒体に当接する端部に前記筒体を成す板の表面に沿って延びるフランジ部を備え、
前記補強部材の両端部は、前記蓋体の前記フランジ部及び前記筒体に結合されている
クラッシュボックス。
【請求項3】
請求項1において、
前記固縛ブラケットは、前記筒体に当接する端部に前記筒体を成す板の表面に沿って延びるフランジ部を備え、
前記補強部材の両端部は、前記固縛ブラケットの前記フランジ部を貫通して前記筒体に結合されており、前記固縛ブラケットの前記フランジ部の貫通孔は、該貫通孔に挿通された前記補強部材が挿通方向と直交する方向へ移動するのを実質的に規制する大きさとされている
クラッシュボックス。
【請求項4】
請求項1において、
前記蓋体及び前記固縛ブラケットは、前記筒体に当接する端部に前記筒体を成す板の表面に沿って延びるフランジ部をそれぞれ備え、
前記蓋体及び前記固縛ブラケットの前記各フランジ部は、両者間に前記筒体の端部をそれぞれの板厚方向で挟んで配置され、
前記補強部材の両端部は、前記固縛ブラケットの前記フランジ部を貫通して前記筒体及び前記蓋体の前記フランジ部に結合されている
クラッシュボックス。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかにおいて、
前記筒体は、共に一対の半割体により構成され、該半割体の分割方向は、前記補強部材が自らの両端部に向けて延びる方向と一致されている
クラッシュボックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固縛フックを取付可能なクラッシュボックスに関する。
【背景技術】
【0002】
車体前後のバンパは、車体前後左右のサイドメンバに、それぞれクラッシュボックスを介して結合されている。クラッシュボックスの前面側もしくは後面側には、必要に応じて車両の牽引もしくは固縛時に使用する固縛フックが取り付けられている。固縛フックは、バンパを貫通して車両の前方もしくは後方に突出するように取り付けられて、固縛フックにロープやワイヤをつなぐことにより、自車もしくは他車の牽引を可能とし、輸送船舶内での自らの車体の固縛を可能としている。特許文献1には、固縛フック取付可能なクラッシュボックスが開示されている。
【0003】
固縛フックを取付可能なクラッシュボックスは、鋼板を箱形状に接合して形成される。鋼板の接合は、製造の容易さからスポット溶接にて行われることが望ましい。しかし、クラッシュボックスの形状によっては、スポット打点数を必要量確保することに制約がある。そこで、固縛フックの支持強度を確保するためアーク溶接にて接合して形成される場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、アーク溶接は、スポット溶接にて接合する場合に比べて溶接個所の鋼板の板厚を薄くすることが難しく、クラッシュボックスの製造コストや重量が増加する問題がある。
【0006】
本発明の課題は、固縛フックを取付可能なクラッシュボックスにおいて、固縛フックを支持する部位を補強部材で補強することにより、スポット溶接にて接合したクラッシュボックスでも固縛フックの支持強度を確保可能とし、製造コストや重量の増加を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1発明のクラッシュボックスは、内部に中空部を形成するように筒状に形成され、前記中空部の貫通方向に入力される衝突荷重を受けて圧壊されて衝突エネルギを吸収する筒体と、前記中空部を閉じるように前記筒体の端部に被せられて前記筒体にスポット溶接にて接合された板状の蓋体と、車体を他の物体に結合する際に使用される固縛フックを突出させて支持し、前記蓋体に重ねて配置され、前記蓋体と共に前記中空部を閉じるように前記筒体の端部に被せられて前記蓋体に結合された固縛ブラケットと、前記筒体の前記中空部の貫通方向を横断するように前記筒体内で前記固縛ブラケットに沿って配置され、両端部が前記筒体に結合された補強部材と、を備える。
【0008】
本発明の第2発明は、上記第1発明において、前記蓋体は、前記筒体に当接する端部に前記筒体を成す板の表面に沿って延びるフランジ部を備え、前記補強部材の両端部は、前記蓋体の前記フランジ部及び前記筒体に結合されている。
【0009】
本発明の第3発明は、上記第1発明において、前記固縛ブラケットは、前記筒体に当接する端部に前記筒体を成す板の表面に沿って延びるフランジ部を備え、前記補強部材の両端部は、前記固縛ブラケットの前記フランジ部を貫通して前記筒体に結合されており、前記固縛ブラケットの前記フランジ部の貫通孔は、該貫通孔に挿通された前記補強部材が挿通方向と直交する方向へ移動するのを実質的に規制する大きさとされている。
【0010】
本発明の第4発明は、上記第1発明において、前記蓋体及び前記固縛ブラケットは、前記筒体に当接する端部に前記筒体を成す板の表面に沿って延びるフランジ部をそれぞれ備え、前記蓋体及び前記固縛ブラケットの前記各フランジ部は、両者間に前記筒体の端部をそれぞれの板厚方向で挟んで配置され、前記補強部材の両端部は、前記固縛ブラケットの前記フランジ部を貫通して前記筒体及び前記蓋体の前記フランジ部に結合されている。
【0011】
本発明の第5発明は、上記第1~第4発明のいずれかにおいて、前記筒体は、共に一対の半割体により構成され、該半割体の分割方向は、前記補強部材が自らの両端部に向けて延びる方向と一致されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、筒体において固縛ブラケットが結合される部位は、補強部材によって固縛フックによる変形に対する強度が補強される。そのため、スポット溶接にて接合されたクラッシュボックスでも固縛フックの支持強度を確保することができる。その結果、クラッシュボックスは、アーク溶接にて接合して形成する場合に比べて筒体を構成する鋼板を薄肉化することができ、製造コストや重量の増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態を備えたバンパ装置の平面図である。
【
図5】
図4とは別方向から見た上記実施形態の拡大斜視図である。
【
図6】
図5と同様の斜視図であり、筒体を成す半割体の一方を除去した状況を示す。
【
図8】
図3のVIII―VIII線断面矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<一実施形態の全体構成>
図1は、本発明の一実施形態のクラッシュボックス10が車両前方のバンパリインフォースメント21の左右端部にそれぞれ結合された状態を示す。また、
図2は、車両20の前後に配置されたクラッシュボックス10から車両前方及び後方に突出して固縛フック18が取り付けられた状態を示す。各図において、交差した矢印により車両20の前進方向を「前」としたときの各方向を示している。以下、方向に関する説明は、この方向に基づいて行う。
【0015】
この場合、クラッシュボックス10は、車両の前後左右に分散して合計4個設けられており、各クラッシュボックス10は、車両前後のバンパリインフォースメント21と車体前後左右のサイドメンバ(図示略)との間に結合されている。各クラッシュボックス10は、公知のように、全体が鋼板製であり、バンパ22を介して車両前方又は後方から加えられる衝突荷重を受けて圧壊され、衝突エネルギを吸収する機能を有する。車両前方のクラッシュボックス10の前方、及び車両後方のクラッシュボックス10の後方には、固縛フック18を締結固定するための固縛ナット19が設けられている。
【0016】
固縛ナット19の前方及び後方に配置されたバンパ22には貫通孔(図示略)が穿設されており、必要に応じて貫通孔を介して固縛フック18を固縛ナット19に締結固定可能とされている。固縛フック18は、車両同士を牽引ワイヤ又はロープでつないで一方が他方を牽引する際に牽引ワイヤ又はロープを結合するために使用される。また、固縛フック18は、車両20を輸送船内のフロアに固縛する際に固縛用ワイヤ又はロープを結合するために使用される。
図2において、車両前方及び後方に引いた破線は、固縛フック18に結合された牽引ワイヤ又はロープを示す。また、
図2において、車両前方及び後方でフロアとの間に引いた実線は、固縛フック18に結合された固縛ワイヤ又はロープを示す。このように固縛フック18に牽引ワイヤ又はロープがつながれて車両20が他車に牽引したり、他車にされたりする場合、並びに固縛フック18に固縛ワイヤ又はロープがつながれて車両20が固縛される場合、クラッシュボックス10には、固縛フック18を介して車両重量を支える程度の比較的大きな力が加えられる。
【0017】
以下、
図3~11に基づいてクラッシュボックス10単体の構成を説明する。ここでは、
図1において左前方に配置されたクラッシュボックス10について説明する。
図1において右前方に配置されるクラッシュボックス10は、左前方に配置されたクラッシュボックス10と線対称に構成される。また、車両後方右側に配置されるクラッシュボックス10は、左前方に配置されたクラッシュボックス10と点対称に構成され、車両後方左側に配置されるクラッシュボックス10は、右前方に配置されたクラッシュボックス10と点対称に構成される。
【0018】
<クラッシュボックス10の筒体11及び蓋体13の構成>
図4~8のように、筒体11は、上下2つの半割体11U、11Dにより構成されている。
図5のように、上下の半割体11U、11Dを上下に重ねて組み合わせることにより大略方形の筒体11が形成される。筒体11の形状自体は公知であり、筒体11は、上下2つの半割体11U、11Dにより構成されず、一枚の板を筒状に曲げて形成されてもよい。
【0019】
上下の半割体11U、11Dは、上下に組み合わせるときに互いに当接される部分に、左右方向で互いに反対方向に延出されたフランジ部11a、11bをそれぞれ備える。各フランジ部11a、11bの平面上には、前後方向に互いに離間した複数個(この場合は2個)ずつの貫通孔11c、11eがそれぞれ穿設されており、各貫通孔11c、11eに短尺カシメピン17を挿通して上下方向からカシメ加工することにより
図9、11のように上下の半割体11U、11Dが結合されて一つの筒体11が形成される。
【0020】
図4、7のように、上半割体11U及び下半割体11Dの各前端部には、それぞれ左右方向に長い板状の上蓋体13U及び下蓋体13Dがスポット溶接にて接合されている。スポット溶接される部位は、各図において×印で示している。他のスポット溶接部位においても同様に示す。
図4のように、上蓋体13U及び下蓋体13Dは、上半割体11U及び下半割体11Dが筒体11として組み合わされたとき、両者で筒体11内部の中空部を閉じるように筒体11の前端部に被せられる。上蓋体13U及び下蓋体13Dには、それぞれ筒体11の板の表面に沿って個別に延びる複数(この場合は4つ)のフランジ部13a~13c、13e~13gが形成されている。そのうち各3個のフランジ部13a~13b、13e~13fは、それぞれ筒体11の外壁面に沿って延び、残る各1個のフランジ部13c、13gは、それぞれ筒体11の内壁面に沿って延びる。
【0021】
筒体11の外壁面に沿って延びる各3個のフランジ部13a~13b、13e~13fのうち、左右両側に位置するフランジ部13a、13eは、上半割体11U及び下半割体11Dの各前端部と併せて、後述の長尺カシメピン12の上下両端部にカシメ結合されている。そのため、フランジ部13a、13eには、上下方向に貫通する貫通孔13nが穿設されている(フランジ部13eの貫通孔は不図示)。また、各3個のフランジ部13a~13b、13e~13fのうち、左右のフランジ部13a、13eに挟まれて位置する中央のフランジ部13b、13fは、上半割体11U及び下半割体11Dの各前端部にスポット溶接にて接合されている。更に、筒体11の内壁面に沿って延びるフランジ部13c、13gのうちフランジ部13cは、上半割体11Uの前端部にスポット溶接にて接合され、フランジ部13gは、下半割体11Dの前端部の内壁面に当接した状態とされている。
【0022】
上蓋体13U及び下蓋体13Dは、右側端部に延長部13h、13iを備え、延長部13h、13iは、上蓋体13U及び下蓋体13Dが筒体11の中空部を覆う範囲を越えて中空部の外側に延びて突出している。延長部13h、13iの先端部には、前後方向に貫通する貫通孔13j、13kが穿設されており、各貫通孔13j、13kに対応して延長部13h、13iの後側面には、
図6のようにそれぞれウェルドナット13mが溶接接合されている。
【0023】
図6、7のように、下蓋体13Dの後側面には、概ね方形板状の固縛ブラケット15がスポット溶接にて接合されている。スポット溶接は、下蓋体13Dの板の表面上でフランジ部13e、13fの上側で×印をつけた2箇所で行われている(
図7参照)。また、上蓋体13U及び下蓋体13Dの各左側端部には、前後方向に貫通する貫通孔13o、13pが穿設されている。それらの貫通孔13o、13pに対応して、固縛ブラケット15には同様の貫通孔15dがそれぞれ穿設されている(
図7参照)。また更に固縛ブラケット15の後側面には、貫通孔15dに対応して、
図6のようにウェルドナット15bがそれぞれ溶接接合されている。これらのウェルドナット13m、15bは、クラッシュボックス10をバンパリインフォースメント21に結合する際のボルト締結用として用いられる。
【0024】
<クラッシュボックス10の固縛ブラケット15の構成>
図6~8のように、概ね方形板状の固縛ブラケット15は、板の表面により筒体11の前端部を覆うように配置され、筒体11の中空部を概ね覆う形状及び大きさを備える。固縛ブラケット15の上下端は、それぞれ後側に屈曲されてフランジ部15aを形成されている。上側のフランジ部15aの上面、及び下側のフランジ部15aの下面は、筒体11の前端部の上下の内壁面にそれぞれ当接されている。上下のフランジ部15aの各左右端部には、上下方向に貫通する貫通孔15cがそれぞれ穿設され、上述のように貫通孔15cには、丸棒である長尺カシメピン12が上下方向に挿通されている。長尺カシメピン12は、「課題を解決するための手段」における補強部材に相当する。貫通孔15cは、長尺カシメピン12が挿通できる最低限の内径とされており、長尺カシメピン12が挿通方向と直交する方向に移動するのを阻止する内径とされている。
【0025】
固縛ブラケット15の板の表面の中央部より右下寄りにずれた部分には、前後方向に貫通する貫通孔15dが穿設されており、この貫通孔15dには、固縛ブラケット15の後側から前側へ概ね円筒状の固縛ナット19が挿通されている。固縛ナット19の外周面には、全周に渡って環状のフランジ部19aが一体に形成されており、フランジ部19aの環状の前端面が固縛ブラケット15の後側表面に当接した状態でアーク溶接にて接合されている。固縛ナット19の後端側内周面には、雌ねじ19bが形成されている。この雌ねじ19bに固縛フック18の先端に形成された雄ねじ18aを螺合させることにより、固縛ナット19に対して固縛フック18を締結固定可能としている。固縛ブラケット15の前側表面に配置される上蓋体13U及び下蓋体13Dは、固縛ナット19の外周面との干渉を回避するように切欠13q、13rを形成されている。固縛ブラケット15は、固縛フック18からの力に耐えられるように筒体11及び蓋体13に比べて板厚が厚くされている。筒体11は、衝突荷重を受けて圧壊されるように板厚が薄くされているため、固縛ブラケット15、蓋体13、筒体11の順に板厚は薄くされている。
【0026】
<クラッシュボックス10の補強部材の構成>
図6~8、10のように、補強部材は、2本の長尺カシメピン12から成る。各長尺カシメピン12は、固縛ブラケット15の貫通孔15cに丁度挿通可能な太さの丸棒であり、上下の先端部における太さを上下方向における中央部よりも一段階細くされた段付き形状とされている。各長尺カシメピン12の細径の先端部の太さは、上蓋体13U及び下蓋体13Dのフランジ部13a、13eの各貫通孔13n、並びにフランジ部13a、13eに対して板厚方向で重ねられた筒体11の前端部の各貫通孔11fに丁度挿通可能な外径とされている。各貫通孔11fは、各貫通孔13nに対応して形成されている。
【0027】
各長尺カシメピン12を各貫通孔15c、各貫通孔13n、各貫通孔11fに挿通させた状態で、各長尺カシメピン12の上下端の端面を軸方向にカシメ具でカシメ加工することにより、
図10に破線で示すように各長尺カシメピン12の上下端の端面にカシメ痕12aが形成される。その結果、カシメ痕12aの容積分だけ各長尺カシメピン12の先端部の外径が太くなり、各長尺カシメピン12の上下端に対して上蓋体13U及び下蓋体13Dの各フランジ部13a、13e、並びに筒体11の前端部が結合される。
【0028】
<クラッシュボックス10の形状保持板16の構成>
図5~8のように、形状保持板16は、全体として長尺の板材であり、板の表面及び裏面を上下方向として上半割体11U及び下半割体11Dの各フランジ部11a、11b間の後端部に挟持されている。形状保持板16の左右両端部には、上下方向を貫通方向とする貫通孔16aが穿設されている。形状保持板16は、左右両端部の貫通孔16aに、上半割体11U及び下半割体11Dの各フランジ部11a、11bに挿通される短尺カシメピン17が共通して挿通されてカシメ加工されることにより各フランジ部11a、11b間にカシメ結合されている。また、形状保持板16の前側端部は、上方へ湾曲形成されてリブ16bが形成されている。そのため、形状保持板16は長手方向の折り曲げ変形強度が高められている。従って、形状保持板16は、筒体11の後部が左右方向に変形するのを抑制している。
【0029】
<クラッシュボックス10の取付ブラケット14の構成>
図4~8のように、筒体11の後端部には、上ブラケット14U及び下ブラケット14Dから成る取付ブラケット14が結合されている。上ブラケット14Uは、筒体11を成す上半割体11Uの上表面に沿って配置されている。また、下ブラケット14Dは、下半割体11Dの下表面に沿って配置されている。上ブラケット14U及び下ブラケット14Dは、上半割体11U及び下半割体11Dの各表面形状に沿った形状とされ、上ブラケット14U及び下ブラケット14Dの上半割体11U及び下半割体11Dの各表面側の端部にフランジ部14aがそれぞれ形成されている。各フランジ部14aは、上半割体11U及び下半割体11Dの各表面に沿って前側に屈曲されて形成されている。各フランジ部14aは、上半割体11U及び下半割体11Dの各表面に対してスポット溶接にて接合されている。スポット溶接は、上ブラケット14U及び下ブラケット14Dの各フランジ部14aで、×印で示すように3箇所ずつ行われている。
【0030】
上ブラケット14U及び下ブラケット14Dは、クラッシュボックス10を、図示を省略した車体のサイドフレームにボルト、ナットにより締結結合するために用いられる。そのため、上ブラケット14U及び下ブラケット14Dの後側面の形状、及び筒体11の後端部の形状は、サイドフレームの結合面の形状に合わせた形状とされている。また、上ブラケット14U及び下ブラケット14Dの右側端部には、前後方向に貫通する貫通孔14bがそれぞれ形成され、締結用ボルトが挿通可能とされている。貫通孔14bの周りには、フランジ部14aが延長して形成され、その部分のフランジ部14aをリブとして機能させ、上ブラケット14U及び下ブラケット14Dの曲げ強度を高めている。
【0031】
<一実施形態の作用効果>
上記実施形態のクラッシュボックス10では、筒体11において固縛ブラケット15が結合される前側部位には、2本の長尺カシメピン12が固縛ブラケット15の表面に対して並行するように配置されて結合されている。しかも、固縛ブラケット15のフランジ部15aは長尺カシメピン12により貫通されている。そのため、固縛フック18に加えられる力のうち、筒体11の板の表面に沿う方向の力の成分は、固縛ブラケット15の貫通孔15cに係合する長尺カシメピン12に伝達される。その結果、固縛フック18を介して固縛ブラケット15に伝達される力は、長尺カシメピン12にも伝達され、固縛ブラケット15及び筒体11の変形が抑制される。
【0032】
また、長尺カシメピン12は、固縛ブラケット15、及び固縛ブラケット15に面合わせで重ねて結合された蓋体13と共に閉断面構造を形成する。そのため、固縛フック18を介して伝達され、筒体11を変形させる力は、その閉断面構造によって支持される。その結果、固縛フック18の支持強度を、長尺カシメピン12がない場合に比べて大きくすることができる。即ち、スポット溶接にて接合されたクラッシュボックス10でも固縛フック18の支持強度を確保することができる。従って、クラッシュボックス10は、アーク溶接にて接合して形成する場合に比べて筒体11を構成する鋼板を薄肉化することができ、製造コストや重量の増加を抑制することができる。
【0033】
固縛ブラケット15に近い筒体11の端部は、上蓋体13U及び下蓋体13Dの各フランジ部13a~13b、13e~13f、並びに固縛ブラケット15の上下のフランジ部15aで挟んでいる。それにより筒体11の固縛ブラケット15に近い端部は、変形強度が補強されている。そのため、筒体11は、その板厚を薄くすることができ、クラッシュボックス10を軽量化することができる。
【0034】
筒体11を成す上半割体11U及び下半割体11Dの分割方向は、長尺カシメピン12の両端部に向けて延びる方向と一致されている。そのため、上半割体11U及び下半割体11Dを上下方向に重ねて結合して筒体11を形成する際に同時に長尺カシメピン12を固縛ブラケット15の貫通孔15cに挿通し、更に、長尺カシメピン12の上下端を、上半割体11U及び下半割体11Dの前端部、並びに上蓋体13U及び下蓋体13Dの各フランジ部13a~13b、13e~13fの貫通孔13nに挿通させることができる。そのため、クラッシュボックス10の生産性を高めることができる。
【0035】
蓋体13は、上蓋体13U及び下蓋体13Dに分割されている。そのため、上蓋体13U及び下蓋体13Dを、互いに結合する前の上半割体11U及び下半割体11Dに対して、上側と下側で分けてスポット溶接にて接合することができる。しかも、下蓋体13D(上蓋体13Uでもよい)に固縛ブラケット15を接合して一体化して、結合前の下半割体11Dに一体化することができる。このように上半割体11U及び下半割体11Dに対し上下に分けた状態で蓋体13及び固縛ブラケット15を結合して、その後、上半割体11U及び下半割体11Dを結合して筒体11を構成することにより、蓋体13及び固縛ブラケット15を備えたクラッシュボックス10を一気に構成することができる。
【0036】
<その他の実施形態>
以上、特定の実施形態について説明したが、本発明は、それらの外観、構成に限定されず、種々の変更、追加、削除が可能である。例えば、上記実施形態では、補強部材を長尺カシメピン12により構成したが、形状保持板16と同様の板状部材によって構成することもできる。
【0037】
<各発明に対応する上記実施形態の作用効果>
最後に上述の「課題を解決するための手段」における第2発明以降の各発明に対応する上記実施形態の作用効果を付記しておく。
【0038】
第2発明によれば、筒体を成す板の表面に沿って延びる蓋体のフランジ部及び筒体は、補強部材の両端部に結合されている。そのため、補強部材は、蓋体及び固縛ブラケットと共に閉断面構造を形成する。従って、固縛フックを介して伝達され、筒体を変形させる力は、閉断面構造によって支持される。その結果、固縛フックの支持強度を、補強部材がない場合に比べて大きくすることができる。
【0039】
第3発明によれば、固縛ブラケットのフランジ部は補強部材により貫通されている。そのため、固縛フックに加えられる力のうち、筒体を成す板の表面に沿う方向の力の成分は、固縛ブラケットの貫通孔に係合する補強部材に伝達される。そのため、固縛ブラケットは補強部材に支持され、固縛フックの支持強度を高めることができる。
【0040】
第4発明によれば、固縛ブラケットに近い筒体の端部を蓋体と固縛ブラケットの両フランジ部で挟むことにより筒体の固縛ブラケットに近い端部を補強することができる。
【0041】
第5発明によれば、半割体とされた筒体を補強部材と共に同一工程にて組み立てることができる。そのため、クラッシュボックスの生産性を高めることができる。
【符号の説明】
【0042】
10 クラッシュボックス
11 筒体
11U 上半割体
11D 下半割体
11a、11b フランジ部
11c、11e、11f 貫通孔
12 長尺カシメピン(補強部材)
12a カシメ痕
13 蓋体
13U 上蓋体
13D 下蓋体
13a、13b、13c、13e、13f、13g フランジ部
13h、13i 延長部
13j、13k、13n、13o、13p 貫通孔
13m ウェルドナット
13q、13r 切欠
14 取付ブラケット
14U 上ブラケット
14D 下ブラケット
14a フランジ部
14b 貫通孔
15 固縛ブラケット
15a フランジ部
15b ウェルドナット
15c、15d 貫通孔
16 形状保持板
16a 貫通孔
16b リブ
17 短尺カシメピン
18 固縛フック
18a 雄ねじ
19 固縛ナット
19a フランジ部
19b 雌ねじ
20 車両
21 バンパリインフォースメント
22 バンパ