IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 武生特殊鋼材株式会社の特許一覧 ▶ 近藤 勝義の特許一覧

特開2024-173242α+β型チタン合金部材及びその製造方法
<>
  • 特開-α+β型チタン合金部材及びその製造方法 図1
  • 特開-α+β型チタン合金部材及びその製造方法 図2
  • 特開-α+β型チタン合金部材及びその製造方法 図3
  • 特開-α+β型チタン合金部材及びその製造方法 図4
  • 特開-α+β型チタン合金部材及びその製造方法 図5
  • 特開-α+β型チタン合金部材及びその製造方法 図6
  • 特開-α+β型チタン合金部材及びその製造方法 図7
  • 特開-α+β型チタン合金部材及びその製造方法 図8
  • 特開-α+β型チタン合金部材及びその製造方法 図9
  • 特開-α+β型チタン合金部材及びその製造方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173242
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】α+β型チタン合金部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 14/00 20060101AFI20241205BHJP
   C22F 1/18 20060101ALI20241205BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241205BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20241205BHJP
   C22C 1/04 20230101ALI20241205BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20241205BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20241205BHJP
【FI】
C22C14/00 Z
C22F1/18 H
B22F1/00 R
B22F1/14 500
C22C1/04 E
B22F3/24 C
B22F3/24 F
C22F1/00 604
C22F1/00 628
C22F1/00 621
C22F1/00 687
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 691B
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
C22F1/00 684C
C22F1/00 612
C22F1/00 625
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091540
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000238348
【氏名又は名称】武生特殊鋼材株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504100802
【氏名又は名称】近藤 勝義
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 通郎
(72)【発明者】
【氏名】坪川 翼
(72)【発明者】
【氏名】堀本 里加子
(72)【発明者】
【氏名】近藤 勝義
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA06
4K018BA03
4K018BA04
4K018BA08
4K018BA09
4K018BA13
4K018BA20
4K018BC12
4K018CA23
4K018DA32
4K018EA11
4K018EA21
4K018FA01
4K018FA08
4K018KA70
(57)【要約】
【課題】良好な強度特性および良好な延性を有するα+β型チタン合金部材を提供する。
【解決手段】α+β型チタン合金部材は、顕微鏡で観察される断面組織において、互いに離れて位置する複数のα相領域部と、β相安定化元素を含み、隣接する上記α相領域部間に延在して各α相領域部を取り囲むネットワークを形成するβ相領域部とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡で観察される断面組織において、
互いに離れて位置する複数のα相領域部と、
β相安定化元素を含み、隣接する前記α相領域部間に延在して各α相領域部を取り囲むネットワークを形成するβ相領域部とを備える、α+β型チタン合金部材。
【請求項2】
断面組織に見られる前記ネットワーク状のβ相領域部は細い帯幅で連続的に延びて前記α相領域部を取り囲んでいる、請求項1に記載のα+β型チタン合金部材。
【請求項3】
前記ネットワーク状のβ相領域の平均帯幅寸法は、前記α相領域部の平均結晶粒径よりも小さい、請求項2に記載のα+β型チタン合金部材。
【請求項4】
前記ネットワーク状のβ相領域の平均帯幅寸法は、前記α相領域部の平均結晶粒径の1/2以下である、請求項3に記載のα+β型チタン合金部材。
【請求項5】
顕微鏡で観察される断面組織の視野全体の中で、ネットワーク状のβ相領域部が占める面積は、3%~30%である、請求項1に記載のα+β型チタン合金部材。
【請求項6】
前記β相安定化元素は、V、Fe、Mo、Mn、Co、Ni、Cr、W、Nb、TaおよびReからなる群から選ばれた元素である、請求項1に記載のα+β型チタン合金部材。
【請求項7】
前記β相安定化元素の含有量は、Mo当量で0.4~4.0質量%である、請求項1に記載のα+β型チタン合金部材。
【請求項8】
顕微鏡で観察される断面組織において、互いに離れて位置する複数のα相領域部と、隣接する前記α相領域部間に延在して各α相領域部を取り囲むネットワークを形成するβ相領域部とを備えるα+β型チタン合金部材の製造方法であって、
出発材料として、β相安定化元素を含むα+β二相のチタン合金材を準備する工程と、
前記チタン合金材をα+β二相の温度域で塑性加工する工程と、
前記塑性加工後のチタン合金材をα+β二相の温度域で熱処理する工程と、
前記熱処理後のチタン合金材を炉冷で750~800℃の温度帯にまで冷却し、その後液体中に浸漬して室温まで急速に冷却する工程とを備える、α+β型チタン合金部材の製造方法。
【請求項9】
前記β相安定化元素は、V、Fe、Mo、Mn、Co、Ni、Cr、W、Nb、TaおよびReからなる群から選ばれた元素である、請求項8に記載のα+β型チタン合金部材の製造方法。
【請求項10】
前記β相安定化元素の含有量は、Mo当量で0.4~4.0質量%である、請求項9に記載のα+β型チタン合金部材の製造方法。
【請求項11】
出発材料としての前記α+β二相のチタン合金材を準備する工程は、
α相のチタン粉末と、β相安定化元素を含むα+β二相のチタン合金粉末とを準備することと、
前記チタン粉末と前記チタン合金粉末とを混合して混合粉末を作製することと、
前記混合粉末を成形して成形体を作製することと、
前記成形体をβ単相の温度域で焼結して焼結体を作製することと、を含む、請求項8に記載のα+β型チタン合金部材の製造方法。
【請求項12】
前記α相のチタン粉末は純チタン粉末であり、前記α+β二相のチタン合金粉末は、組成がTi-6Al-4Vの64チタン合金粉末である、請求項11に記載のα+β型チタン合金部材の製造方法。
【請求項13】
前記混合粉末中の前記α相チタン粉末の含有量の質量比をWaとし、前記α+β二相チタン合金粉末の含有量の質量比をWbとすると、Wb/Waの値が0.5~1.3である、請求項11に記載のα+β型チタン合金部材の製造方法。
【請求項14】
出発材料としての前記α+β二相のチタン合金材を準備する工程は、
α相のチタン粉末と、β相安定化元素を含む金属または合金の添加粉末とを準備することと、
前記チタン粉末と前記添加粉末とを混合して混合粉末を作製することと、
前記混合粉末を成形して成形体を作製することと、
前記成形体をβ単相の温度域で焼結して焼結体を作製することと、を含む、請求項8に記載のα+β型チタン合金部材の製造方法。
【請求項15】
出発材料としての前記α+β二相のチタン合金材は、焼結体である、請求項8に記載のα+β型チタン合金部材の製造方法。
【請求項16】
出発材料としての前記α+β二相のチタン合金材は、溶製材である、請求項8に記載のα+β型チタン合金部材の製造方法。
【請求項17】
前記熱間塑性加工時の加熱温度が750℃~925℃の範囲内であり、
前記熱処理時の加熱温度が850℃以上である、請求項8に記載のα+β型チタン合金部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、β相安定化元素を含むα+β型チタン合金部材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
β相安定化元素を含むチタン合金部材は、α相およびβ相の二相を含む結晶組織を有する。一般的に、V、Fe、Mo、Mn等のβ相安定化元素を合金成分として含むチタン合金部材では、強度や延性等の材料特性を安定させるために、合金元素をマトリクス中に均質に固溶させる。言い換えれば、V等のβ相安定化元素を局所的に含むようなチタン合金部材は一般には見られない。
【0003】
金属材料または合金材料の分野では、材料の強度(引張強さ等)と延性(伸び)とがトレードオフの関係にあることはよく知られている。
【0004】
特開2018-141223号公報(特許文献1)は、延性をある程度確保しつつ、より強度に優れた金属材料を提案している。この金属材料の金属組織は、微細結晶粒によって構成されている微細粒組織領域と、この微細粒組織領域の平均結晶粒径よりも大きい平均結晶粒径の粗大結晶粒によって構成されている複数の粗大粒組織領域とを含む。微細粒組織領域は、複数の粗大粒組織領域が当該微細粒組織領域内に分散点在することによって網目状組織とされている。微細粒組織領域は、塑性変形した組織である。
【0005】
特開2020-143310号公報(特許文献2)は、双晶変形を生じるチタン合金に、β相安定化元素を含有させて、双晶変形を抑制するチタン合金の製造方法を開示している。この特許文献2では、チタン合金としてβ型チタン合金が用いられており、本発明のα+β型チタン合金部材とは前提が異なっており、後に詳述する本願発明の特徴である組織、すなわちα相を取り囲むようなβ相ネットワーク組織は形成されない。特許文献2においても、特許文献1と同様に、微細結晶粒領域が立体的なネットワークを構成する調和組織を呈するようにしている。
【0006】
特許文献1および特許文献2では、上記の金属組織を得るために、出発原料粉末に対してメカニカルミリング処理を行い、被処理粉末の表面全体に対して均一に強塑性加工を施す。この強塑性加工により、粉末粒子の表面に微細な結晶粒である表面部微細結晶粒からなる表面部微細粒組織領域を形成することができる。表面部微細粒組織領域は、粉末粒子の表面全体に対して均一に形成される。
【0007】
上記の表面部微細粒組織領域を有する粉末粒子の集合体を焼結すると、各粒子の表面部微細粒組織領域が互いに結合することで、網目状組織とされた微細粒組織領域が形成される。また、メカニカルミリング処理を施した各粉末粒子の内部に含まれている粗大粒組織領域は、表面部微細粒組織領域が網目状組織の微細粒組織領域となることで、微細粒組織領域の網目内部に配置され、微細粒組織領域内に分散点在する。
【0008】
特許文献1には、出発金属材料に対して、塑性加工が施され、かつ複数の粗大粒組織領域が分散点在する網目状組織の微細粒組織領域と、当該粗大粒組織領域とで構成された金属組織を有しているため、優れた強度を有しており、かつ延性を備える金属材料となる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2018-141223号公報
【特許文献2】特開2020-143310号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1は、出発原料粉末の表面全体に対して機械的な強塑性加工を施して各粉末粒子の表面に微細な結晶粒である表面部微細結晶粒からなる表面部微細粒組織領域を形成し、その後の焼結によって各粒子の表面部微細粒組織領域が互いに結合して、網目状組織とされた微細粒組織領域を形成している。
【0011】
メカニカルミリング処理のような機械的強塑性加工で出発原料粉末粒子の全体に対して等しく表面部に微細粒組織領域部を形成することは困難である。
【0012】
本発明の目的は、β相安定化元素を含むチタン合金部材を前提とし、機械的な強塑性加工により出発材料に対して表面部に微細粒組織領域を形成するのではなく、β相がネットワーク構造組織を形成し、α相とβ相の結晶構造に起因するそれぞれの機械的特性の特徴を効果的に利用して、優れた強度を有するとともに、延性にも優れたα+β型チタン合金部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に従ったα+β型チタン合金部材は、顕微鏡で観察される断面組織において、互いに離れて位置する複数のα相領域部と、β相安定化元素を含み、隣接するα相領域部間に延在して各α相領域部を取り囲むネットワークを形成するβ相領域部とを備える。
【0014】
断面組織に見られる前記ネットワーク状のβ相領域部は、好ましくは、細い帯幅で連続的に延びてα相領域部を取り囲んでいる。この場合、好ましくは、ネットワーク状のβ相領域の平均帯幅寸法は、α相領域部の平均結晶粒径よりも小さい。例えば、ネットワーク状のβ相領域の平均帯幅寸法は、α相領域部の平均結晶粒径の1/2以下である。
【0015】
一つの実施形態では、顕微鏡で観察される断面組織の視野全体の中で、ネットワーク状のβ相領域部が占める面積は、3%~30%である。
【0016】
β相安定化元素は、例えば、V、Fe、Mo、Mn、Co、Ni、Cr、W、Nb、TaおよびReからなる群から選ばれた元素である。好ましくは、β相安定化元素の含有量は、Mo当量で0.4~4.0質量%である。
【0017】
本発明に係るα+β型チタン合金部材の製造方法は、顕微鏡で観察される断面組織において、互いに離れて位置する複数のα相領域部と、隣接する前記α相領域部間に延在して各α相領域部を取り囲むネットワークを形成するβ相領域部とを備えるα+β型チタン合金部材の製造方法であって、出発材料として、β相安定化元素を含むα+β二相のチタン合金材を準備する工程と、前記チタン合金材をα+β二相の温度域で塑性加工する工程と、前記塑性加工後のチタン合金材をα+β二相の温度域で熱処理する工程と、前記熱処理後のチタン合金材を炉冷で750~800℃の温度帯にまで冷却し、その後液体中に浸漬して室温まで急速に冷却する工程とを備える。
【0018】
β相安定化元素は、例えば、V、Fe、Mo、Mn、Co、Ni、Cr、W、Nb、TaおよびReからなる群から選ばれた元素である。好ましくは、β相安定化元素の含有量は、Mo当量で0.8~3.0質量%である。
【0019】
一つの実施形態では、出発材料としての前記α+β二相のチタン合金材を準備する工程は、α相のチタン粉末と、β相安定化元素を含むα+β二相のチタン合金粉末とを準備することと、前記チタン粉末と前記チタン合金粉末とを混合して混合粉末を作製することと、前記混合粉末を成形して成形体を作製することと、前記成形体をβ単相の温度域で焼結して焼結体を作製することと、を含む。
【0020】
前記α相のチタン粉末は、例えば、純チタン粉末であり、前記α+β二相のチタン合金粉末は、例えば、組成がTi-6Al-4V(質量%)のTi64合金粉末である。
【0021】
前記混合粉末中の前記α相チタン粉末の含有量の質量比をWaとし、前記α+β二相チタン合金粉末の含有量の質量比をWbとすると、例えば、Wb/Waの値が0.5~1.3である。
【0022】
一つの実施形態では、出発材料としての前記α+β二相のチタン合金材を準備する工程は、α相のチタン粉末と、β相安定化元素を含む金属または合金の添加粉末とを準備することと、前記チタン粉末と前記添加粉末とを混合して混合粉末を作製することと、前記混合粉末を成形して成形体を作製することと、前記成形体をβ単相の温度域で焼結して焼結体を作製することと、を含む。
【0023】
一つの実施形態では、出発材料としての前記α+β二相のチタン合金材は、焼結体である。他の実施形態では、出発材料としての前記α+β二相のチタン合金材は、溶製材である。
【0024】
好ましくは、前記熱間塑性加工時の加熱温度が750℃~925℃の範囲内であり、前記熱処理時の加熱温度が850℃以上である。
【発明の効果】
【0025】
上記構成の本発明によれば、各α相領域部がネットワーク状のβ相領域部によって取り囲まれている。β相領域部中を構成するチタン結晶粒は、その結晶構造が体心立方晶(bcc)であり、α相と比較してすべり系が多いため塑性変形し易い。したがって、チタン合金部材全体の変形能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明に係るα+β型チタン合金部材の特徴的な断面組織を示す図解図である。
図2】850℃の熱処理温度と冷却時間との関係を示す図である。
図3】900℃の熱処理温度と冷却時間との関係を示す図である。
図4】圧延加工後の熱処理温度から水冷処理した後に得られた組織を示す図である。
図5】熱処理温度がα+β二相温度域の850℃から水冷処理した場合、750℃まで炉冷しその後に水冷処理した場合、700℃まで炉冷しその後に水冷処理した場合、常温まで炉冷した場合の組織写真を示す図である。
図6】熱処理温度がα+β二相温度域の900℃から水冷処理した場合、800℃まで炉冷しその後に水冷処理した場合、750℃まで炉冷しその後に水冷処理した場合、常温まで炉冷した場合の組織写真を示している。
図7】β相ネットワーク組織の形成機構を模式的に示す図である。
図8】4種類の異なった冷却条件で得た最終のTi32合金部材の組織写真を示す図である。
図9】4種類の異なった冷却条件で得た最終のTi64合金部材(焼結圧延材)の組織写真を示す図である。
図10】4種類の異なった冷却条件で得た最終のTi-3Al-0.53Feのチタン合金部材の組織写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に従ったα+β型チタン合金部材の特徴的な組織を図1に示す。図1は、顕微鏡で観察される断面組織を図解的に示している。図示するように、α+β型チタン合金部材は、顕微鏡で観察される断面組織において、互いに離れて位置する複数のα相領域部と、β相安定化元素を含み、隣接するα相領域部間に延在して各α相領域部を取り囲むネットワークを形成するβ相領域部とを備える。
【0028】
好ましくは、断面組織に見られるネットワーク状のβ相領域部は全体的にみると比較的細い帯幅で連続的に延びてα相領域部を取り囲んでいる。「連続的」とは、部分的に途切れがあっても全体的にみると連続性が観察される形態を言う。
【0029】
好ましくは、β相領域部の平均帯幅寸法は、α相領域部の平均結晶粒径よりも小さい。
【0030】
α相は結晶構造が稠密六方晶(hcp)で変形しにくく、β相は結晶構造が体心立方晶(bcc)であり、α相と比較してすべり系が多いため塑性変形しやすい。本発明に係るα+β型チタン合金部材では、すべり系を多く含むβ相領域部がα相を包み込んで3次元ネットワーク状に連結したヘテロ組織構造となっているので、微視的な塑性変形を許容して良好な延性を確保しつつ、マクロな局所変形を抑制して良好な強度特性を維持する。また、後述するα相安定化元素がα-Ti結晶粒内に固溶したり、中間元素がα-Ti結晶粒やβ-Ti結晶粒内に固溶することで、それぞれの相が強化されて合金全体としての強度が増大する。
【0031】
なお、ネットワーク状に取り囲むとは、断面組織において観察される形態であり、立体的にみると、立体形状のα相領域部の外面全体を膜状のβ相領域部が包み込んでいる形態である。断面組織に現れるβ相領域部の帯幅とは、膜状のβ相領域部の膜厚である。
【0032】
β相安定化元素由来のβ相ネットワークは、チタン合金材に対する熱処理温度およびその後の冷却条件を適切に選定することによって形成することができる。β相ネットワークを有するチタン合金部材は、高い強度特性とともに優れた伸び特性を有する。この利点を有効に発揮するために、好ましくは、断面組織に現れるネットワーク状のβ相領域部の平均帯幅寸法は、α相領域部の平均結晶粒径よりも小さくするのが好ましいが、より好ましくはα相領域部の平均結晶粒径の1/2以下にするのがよい。
【0033】
さらに好ましくは、顕微鏡で観察される断面組織の視野全体の中で、ネットワーク状のβ相領域部が占める面積は3%~30%である。
【0034】
β相安定化元素は、例えば、V、Fe、Mo、Mn、Co、Ni、Cr、W、Nb、Ta、Re等であり、その含有量は、Mo当量で0.4~4.0質量%である。本発明に係るα+β型チタン合金部材は、上記に列挙したβ相安定化元素を複数種含んでもよい。また、α+β型チタン合金部材は、Al,O,N,Cなどのα相安定化元素を含んでもよいし、中間元素であるZr,Sn,W,Sc,Znを含んでもよい。これらのβ相安定化元素、α相安定化元素、中間元素などを含むことでチタン合金の強度がさらに増大する。
【0035】
[第1実施形態の説明]
第1実施形態では、純チタン粉末と、組成がTi-6Al-4V(質量%)の64チタン(Ti64)合金粉末とを出発原料粉末として用意し、下記に記載の工程を経て、α+β型チタン合金部材を製造する。
【0036】
A.粉末の混合
B.成形体の作製
C.成形体の焼結
D.焼結体の熱間塑性加工(例えば、圧延)
E.熱処理(焼鈍)
F.冷却
以下に、上記に記載の各工程および最終的に得られたα+β型チタン合金部材の組織及び特性について詳細に記載する。
【0037】
[粉末の混合]
出発原料として、純チタン粉末とTi64合金粉末とを用意した。それらの質量比は、1:1であった。これらの2種類の粉末をボールミルで60分間混合した。
【0038】
[成形体の作製]
混合粉末を所定の形状(例えば直方体)に圧粉成形して成形体を作製した。なお、混合粉末を圧粉成形することに代えて、混合粉末を熱間等方圧加圧法(HIP)や冷間等方圧加圧法(CIP)で固めて成形体としてもよい。
【0039】
[成形体の焼結]
成形体を10Pa以下の真空雰囲気で1000℃×30MPaの条件で30分間放電プラズマ焼結処理を行い、焼結体を得た。
【0040】
50質量%の純チタン粉末と50質量%の64チタン(Ti64)合金粉末とを出発原料とした本実施形態の場合、α相温度域とα+β二相温度域との境界が790℃であり、α+β二相温度域とβ相温度域との境界が920℃である。したがって、上記の成形体の焼結は、β単相温度域での焼結である。
【0041】
[焼結体の熱間塑性加工]
焼結後のチタン合金材を幅寸法が20mmとなるように切断し、その後このチタン合金材をα+β二相の温度域で圧延加工した。本実施形態では、α+β二相温度域の850℃で圧延加工を行い、圧下率は90%であった。なお、圧延加工に代えて、鍛造、押出等の他の熱間塑性加工を行ってもよい。
【0042】
[熱処理(焼鈍)]
熱間塑性加工後のチタン合金材を750~950℃の温度範囲内で30分間熱処理を行った。この際、設定温度を750℃、800℃、850℃、900℃、950℃、1000℃にし、各設定温度で30分間熱処理を行って複数種のチタン合金材を得た。
【0043】
本実施形態の組成のチタン合金材では、α+β二相温度域は、790℃~920℃の範囲であるので、800℃、850℃、900℃がα+β二相温度域の温度である。
【0044】
[冷却]
冷却条件を変えて、最終的に得られるチタン合金部材の組織および特性を比較した。
【0045】
実験を行った冷却条件は、次の通りである。
【0046】
A.各熱処理の温度(750℃、800℃、850℃、900℃、950℃、1000℃)から、液体中に浸漬する水冷処理を行う。
【0047】
B.850℃(α+β二相温度域)で熱処理を行ったチタン合金材を炉冷で750℃、700℃(α相温度域)まで冷却し、その温度から水冷処理を行う。
【0048】
C.850℃、900℃で熱処理を行ったチタン合金材を炉冷で常温まで冷却する。
【0049】
D.900℃(α+β二相温度域)で熱処理を行ったチタン合金材を炉冷で800℃、750℃まで冷却し、その温度から水冷処理を行う。
【0050】
なお、図2および図3は、熱処理温度と冷却時間との関係を示している。図2は、熱処理温度が850℃であり、850℃から水冷処理した場合、750℃まで炉冷しその後に水冷処理した場合、700℃まで炉冷しその後に水冷処理した場合、常温まで炉冷した場合を示している。図3は、熱処理温度が900℃であり、900℃から水冷処理した場合、800℃まで炉冷しその後に水冷処理した場合、750℃まで炉冷しその後に水冷処理した場合、常温まで炉冷した場合を示している。
【0051】
[組織観察結果]
組織観察は、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)と後方散乱電子回折(EBSD)とを組わせたSEM-EBSD、および走査型電子顕微鏡とエネルギー分散型X線分析(EDS)とを組み合わせたSEM-EDSにより行った。
【0052】
図4は、圧延加工後の熱処理温度と、その熱処理温度から水冷処理した後に得られる組織とを示している。下記の表1は、水冷後のチタン合金部材のα結晶粒径、β相の面積率、β相の帯幅及び強度特性を示している。
【0053】
【表1】
【0054】
熱処理温度が、α相温度域である750℃の場合、V成分がα-Ti粒界に十分に存在しないためにβ相の大半が分断された状態で形成されている。
【0055】
熱処理温度が、α+β相二相の温度域である800℃の場合、α-Ti粒界に沿ってβ相ネットワーク組織が形成されて、その帯幅の平均値は1.05μmとなり、α結晶粒の平均結晶粒径の1/2以下である。
【0056】
熱処理温度が、α+β二相の温度域である850℃の場合、α-Ti粒界に沿ってβ相ネットワーク組織が形成されて、その帯幅の平均値は1.48μmとなり、α結晶粒の平均結晶粒径の1/2以下である。
【0057】
熱処理温度が、β相とα+β二相の境界温度(920℃)に近い900℃の場合、多量のV成分がα-Ti粒界に存在するためにβ相の面積率が35.4%と増大する結果、β相はネットワーク構造ではなく、粒状に存在する。
【0058】
熱処理温度が、β相温度域である950℃の場合、多量のV成分がα-Ti粒界に存在するためにβ相の面積率が66.2%と増大する結果、β相はネットワーク構造ではなく、粒状に存在する。また、脆性なマルテンサイト相の生成が確認される。
【0059】
熱処理温度が、β相温度域である1000℃の場合、β相単相からの水冷により素地全体がマルテンサイト相を形成することでβ相が生成しない。
【0060】
強度と延性を見ると、850℃以下の温度域では、熱処理温度の上昇に伴い、良好な延性(伸び)を維持しつつ強度(引張強度等)が向上していることが認められる。850℃を超える温度域では、熱処理温度の上昇に伴い、強度が増加するが、延性が低下していることが認められる。特に、900℃を超えると、β相のネットワークが形成されないことで伸び値が低下する傾向が確認される。さらに、950℃からの水冷処理では、脆性なマルテンサイト相の生成により伸び値が大幅に減少している。
【0061】
図5は、熱処理温度がα+β二相温度域の850℃であり、850℃から水冷処理した場合、750℃まで炉冷しその後に水冷処理した場合、700℃まで炉冷しその後に水冷処理した場合、常温まで炉冷した場合の組織写真を示している。下記の表2は、水冷後のチタン合金部材の粒度、α―Ti結晶粒径、β相の面積率、β相の帯幅及び強度特性を示している。
【0062】
【表2】
【0063】
図5および表2から、以下のことが認められる。
【0064】
850℃の熱処理温度から炉冷をせずに水冷した場合、α-Ti粒界に沿ってβ相ネットワーク組織が形成されて、その帯幅の平均値は1.48μmとなり、α結晶粒の平均結晶粒径の1/2以下である。
【0065】
750℃まで炉冷した後に水冷した場合、α-Ti粒界に沿ってβ相ネットワーク組織が形成されて、その帯幅の平均値は1.32μmとなり、α結晶粒の平均結晶粒径の1/2以下である。
【0066】
700℃まで炉冷したのちに水冷した場合、α-Ti粒界に沿ってβ相ネットワーク組織が規制されて、その帯幅の平均値は1.03μmとなり、α結晶粒の平均結晶粒径の1/2以下である。
【0067】
常温まで炉冷した場合、α-Ti粒界に沿ってβ相ネットワーク組織が形成されて、その帯幅の平均値は0.66μmとなり、α結晶粒の平均結晶粒径の1/2以下である。
【0068】
なお、全ての試料は本発明の例であり、引張特性に関しては、引張特性が800MPaを超える高い強度と破断伸び値が20%を超える十分な延性を有することを確認できる。
【0069】
図6は、熱処理温度がα+β二相温度域の900℃であり、900℃から水冷処理した場合、800℃まで炉冷しその後に水冷処理した場合、750℃まで炉冷しその後に水冷処理した場合、常温まで炉冷した場合の組織写真を示している。下記の表3は、水冷後のチタン合金部材のα結晶粒径、β相の面積率及び強度特性を示している。
【0070】
【表3】
【0071】
図6および表3から、以下のことが認められる。
【0072】
900℃の熱処理温度から炉冷をせずに水冷した場合、多量のV成分がα-Ti粒界に存在するためにβ相の面積率が38.9%と増大する結果、β相の多くは粒状に存在してネットワーク組織を形成しない。
【0073】
800℃まで炉冷した後に水冷した場合、α-Ti粒界に沿ってβ相ネットワーク組織が形成されて、その帯幅の平均値は1.86μmとなり、α結晶粒の平均結晶粒径の1/2以下である。
【0074】
750℃まで炉冷した後に水冷した場合、α-Ti粒界に沿ってβ相ネットワーク組織が形成されて、その帯幅の平均値は1.72μmとなり、α結晶粒の平均結晶粒径の1/2以下である。
【0075】
常温まで炉冷した場合、α-Ti粒界に沿ってβ相ネットワーク組織が形成されて、その帯幅の平均値は0.80μmとなり、α結晶粒の平均結晶粒径の1/2以下である。
【0076】
表3の引張特性に関して、水冷開始温度900℃の場合を除くと、全ての試料は本発明の例であり、引張特性に関しては、引張特性が800MPaを超える高い強度と破断伸び値が20%を超える十分な延性を有することを確認できる。水冷開始温度が900℃の場合には、β相ネットワークの形成が不十分であるため、本発明例に比べて破断伸び値が低下していることを確認できる。
【0077】
図5および図6、並びに表2および表3の結果から、以下のことが認められる。
【0078】
熱処理温度を850℃から900℃に上昇させると、チタン合金部材の結晶粒径が大きくなり、β相の面積率も大きくなる。このことから、α+β二相の温度域での熱処理では、高い熱処理温度が結晶粒径とβ相面積率の最大値を決定することが認められる。
【0079】
水冷処理開始温度(炉冷終了温度)が低下すると、β相の面積率も減少する。このことは、α相の結晶粒界へのVの偏析が進み、β相ネットワーク組織の形成を促すことを意味する。図5および図6に示す組織観察結果を比較すれば、熱処理温度が850℃の場合に比べて900℃の場合の方が、ネットワーク組織形成に適していることが認められる。
【0080】
熱処理温度が900℃の場合の伸び値(延性)に着目すると、水冷開始温度(炉冷終了温度)が750℃のチタン合金部材は、炉冷で常温まで冷却したチタン合金部材よりも良好な延性を示していることが認められる。これは、優れた変形能を有するβ相からなるネットワーク組織がα結晶粒のマクロな変形を抑制し、延性の低下を防いでいるからである。
【0081】
[焼結温度]
本発明の実施形態では、成形後のチタン合金材をβ単相領域の1000℃で焼結している。β単相まで温度を上昇させることにより、原料粉末の粒子径の影響を受けずにVがβ相内に均質に固溶している。焼結後の炉冷の過程で、Vはラメラ組織の粒界に偏析する。
【0082】
[α+β二相温度域での圧延加工]
圧延加工により、Vが濃化したβ相が圧延方向に伸長して存在するが、圧延方向へ組織が引きちぎられることにより、等軸な粒が形成しやすくなる。
【0083】
[α+β二相温度域での熱処理]
α+β二相温度域における高温での熱処理により、十分なβ相の量を確保できる。冷却過程で炉冷と水冷とを組み合わせることにより、所望のβ相ネットワーク組織を実現できる。
【0084】
[β相ネットワーク組織の形成機構]
図7は、β相ネットワーク組織の形成機構を模式的に示すものである。圧延加工後の熱処理温度をα+β二相温度域で熱処理すると、Vを含むβ相(β―Ti(V))の海の中に、比較的小さなAlを含むα相(α―Ti(Al))が島状に存在する。その状態から炉冷で冷却してゆくと、α粒の核が生成し、温度の低下とともに隣接するα粒との合体によって成長して各α粒の面積が増加し、例えば750℃まで低下すると所望のβ相ネットワーク組織が形成される。
【0085】
[第2実施形態の説明]
第2実施形態は、組成がTi-3Al-2V(質量%)のTi32合金溶製材ワイヤであり、第1実施形態と同様に、最終のα+β型チタン合金材においてα相領域部を取り囲むネットワーク状のβ相領域部を形成できることを示すものである。
【0086】
Ti32合金溶製材をα+β二相の温度域で熱間押出加工でワイヤにし、そのワイヤをα+β二相温度域の900℃で熱処理し、冷却条件を変えて4種類の最終製品の組織等を観察した。
【0087】
冷却条件は、以下の4種である。
【0088】
条件1:900℃にて熱間押出加工した後に大気中で冷却した状態(熱処理前)。
【0089】
条件2:900℃の熱処理温度から水冷。
【0090】
条件3:750℃まで炉冷し、その後に水冷。
【0091】
条件4:900℃の熱処理温度から常温まで炉冷。
【0092】
上記の4種の冷却条件で得た最終のTi32合金部材の組織写真を図8に示し、α―Ti結晶粒径、β相面積率およびβ相の帯幅を下記の表4に示す。
【0093】
【表4】
【0094】
冷却条件1の場合、熱間押出加工の状態では、熱処理を施していないため、α-Ti結晶粒は0.2μmと微細であるが、V成分は素地中に均一に固溶しているため、β相ネットワーク組織は形成されない。
【0095】
冷却条件2の場合、多量のV成分がα-Ti粒界に存在するためにβ相の面積率が43.6%と増大する結果、β相の多くは粒状に存在してネットワーク組織を形成しない。
【0096】
冷却条件3の場合、α-Ti粒界に沿ってβ相ネットワーク組織が形成されて、その帯幅の平均値は1.7μmとなり、α結晶粒の平均結晶粒径の1/2以下である。
【0097】
冷却条件4の場合、α-Ti粒界に沿ってβ相ネットワーク組織が形成されて、その帯幅の平均値は0.7μmとなり、α結晶粒の平均結晶粒径の1/2以下である。
【0098】
上記の結果から、条件3(900℃の熱処理温度から750℃まで炉冷し、その後に水冷)と条件4(900℃の熱処理温度から常温まで炉冷)で得たTi32合金部材が適切なβ相ネットワークを有していることが認められる。
【0099】
[第3実施形態の説明]
第3実施形態は、組成がTi-6Al-4V(質量%)のTi64合金の焼結圧延材であり、第1実施形態と同様に、最終のα+β型チタン合金材においてα相領域部を取り囲むネットワーク状のβ相領域部を形成できることを示すものである。
【0100】
Ti64合金の焼結体をα+β二相の温度域で熱間圧延し、その熱間圧延材をα+β二相温度域の900℃で熱処理し、冷却条件を変えて4種類の最終製品の組織等を観察した。
【0101】
冷却条件は、以下の4種である。
【0102】
条件1:900℃にて熱間圧延加工した後に大気中で冷却した状態(熱処理前)。
【0103】
条件2:900℃の熱処理温度から水冷。
【0104】
条件3:750℃まで炉冷し、その後に水冷。
【0105】
条件4:900℃の熱処理温度から常温まで炉冷。
【0106】
上記の4種の冷却条件で得た最終のTi64合金部材の組織写真を図9に示し、組織観察結果及び強度特性等を下記の表5に示す。
【0107】
【表5】
【0108】
冷却条件1の場合、熱間圧延加工の状態では、熱処理を施していないため、α-Ti結晶粒は2.5μmと微細であるが、V成分は素地中に均一に固溶しているため、β相ネットワーク組織は形成されない。
【0109】
冷却条件2の場合、多量のV成分がα-Ti粒界に存在するためにβ相の面積率が39.0%と増大する結果、β相の多くは粒状に存在してネットワーク組織を形成しない。
【0110】
冷却条件3の場合、α-Ti粒界に沿ってβ相ネットワーク組織が形成されて、その帯幅の平均値は1.6μmとなり、α結晶粒の平均結晶粒径の1/2以下である。
【0111】
冷却条件4の場合、α-Ti粒界に沿ってβ相ネットワーク組織が形成されて、その帯幅の平均値は1.1μmとなり、α結晶粒の平均結晶粒径の1/2以下である。
【0112】
上記の結果から、条件3(900℃の熱処理温度から750℃まで炉冷し、その後に水冷)と条件4(900℃の熱処理温度から常温まで炉冷)で得たTi64合金部材が適切なβ相ネットワークを有していることが認められる。
【0113】
[第4実施形態の説明]
第4実施形態は、β相安定化元素としてFeを、α相安定化元素としてAlをそれぞれ含むα+β型チタン合金部材であり、第1実施形態と同様に、適切な熱処理および冷却処理を行うことによって最終のα+β型チタン合金材においてα相領域部を取り囲むネットワーク状のβ相領域部を形成できることを示すものである。この第4実施形態のα+β型チタン合金部材は、組成がTi-3Al-0.53Fe(質量%)である焼結体を出発材料とするものである。
【0114】
Ti-3Al-0.53Feの焼結体をα+β二相の温度域で熱間圧延し、その熱間圧延材をα+β二相温度域の900℃で熱処理し、冷却条件を変えて4種類の最終製品の組織等を観察した。
【0115】
冷却条件は、以下の4種である。
【0116】
条件1:900℃の熱間圧延加工した後に大気中で冷却した状態(熱処理前)。
【0117】
条件2:900℃の熱処理温度から水冷。
【0118】
条件3:750℃まで炉冷し、その後に水冷。
【0119】
条件4:900℃の熱処理温度から常温まで炉冷。
【0120】
上記の4種の冷却条件で得た最終のTi-3Al-0.53Feのチタン合金部材の組織写真を図10に示し、組織観察結果を下記の表6に示す。
【0121】
【表6】
【0122】
冷却条件1の場合、熱間圧延加工の状態では、熱処理を施していないため、α-Ti結晶粒は2.6μmと微細であるが、Fe成分はα-Ti結晶粒界に偏析しているものの、β相が圧延方向に引き伸ばされており、完全なネットワーク組織は形成されない。
【0123】
冷却条件2の場合、α-Ti粒界に沿ってβ相ネットワーク組織が形成されて、その帯幅の平均値は2.9μmとなり、α結晶粒の平均結晶粒径の1/2以下である。
【0124】
冷却条件3の場合、α-Ti粒界に沿ってβ相ネットワーク組織が形成されて、その帯幅の平均値は2.3μmとなり、α結晶粒の平均結晶粒径の1/2以下である。
【0125】
冷却条件4の場合、α-Ti粒界に沿ってβ相ネットワーク組織が形成されて、その帯幅の平均値は0.8μmとなり、α結晶粒の平均結晶粒径の1/2以下である。
【0126】
上記の結果から、条件2から条件4で得たTi-3Al-0.53Feのチタン合金部材が適切なβ相ネットワーク組織を有していることが認められる。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明は、良好な強度特性および良好な延性を発揮するα+β型チタン合金部材として、またその製造方法として、有利に利用され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10