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特開2024-173243α+β型チタン合金部材及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173243
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】α+β型チタン合金部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 14/00 20060101AFI20241205BHJP
   C22F 1/18 20060101ALI20241205BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241205BHJP
   C22C 1/04 20230101ALI20241205BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20241205BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20241205BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20241205BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20241205BHJP
【FI】
C22C14/00 Z
C22F1/18 H
B22F1/00 R
C22C1/04 E
B22F3/24 C
B22F3/24 F
B22F1/05
B22F1/14 500
B22F1/00 Q
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 621
C22F1/00 628
C22F1/00 604
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 691B
C22F1/00 687
C22F1/00 694B
C22F1/00 694A
C22F1/00 684C
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 612
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091541
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000238348
【氏名又は名称】武生特殊鋼材株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504100802
【氏名又は名称】近藤 勝義
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 通郎
(72)【発明者】
【氏名】坪川 翼
(72)【発明者】
【氏名】堀本 里加子
(72)【発明者】
【氏名】近藤 勝義
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA06
4K018AB02
4K018AC01
4K018BA03
4K018BA04
4K018BA09
4K018BA13
4K018BA20
4K018BB04
4K018BC12
4K018CA23
4K018EA11
4K018FA01
4K018FA08
4K018KA70
(57)【要約】
【課題】良好な強度特性および良好な延性を有するα+β型チタン合金部材を提供する。
【解決手段】α+β型チタン合金部材は、顕微鏡で観察される断面組織において、互いに離れて位置する複数のα相領域部と、β相安定化元素を含み、隣接する上記α相領域部間に延在して各α相領域部を取り囲むネットワークを形成するα+β二相領域部とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡で観察される断面組織において、
互いに離れて位置する複数のα相領域部と、
β相安定化元素を含み、隣接する前記α相領域部間に延在して各α相領域部を取り囲むネットワークを形成するα+β二相領域部とを備える、α+β型チタン合金部材。
【請求項2】
前記α+β二相領域部は、前記α相領域部の外面に沿って延びる帯状領域を含み、
前記帯状領域の平均帯幅寸法は、前記α相領域部の平均結晶粒径よりも小さい、請求項1に記載のα+β型チタン合金部材。
【請求項3】
前記α+β二相領域部は、帯幅が3μm以下の帯状領域を含み、顕微鏡で観察される断面組織の視野全体の中で、前記帯状領域は7%以上の面積を占める、請求項1に記載のα+β型チタン合金部材。
【請求項4】
前記α+β二相領域部は、帯幅が5μm以下の帯状領域を含み、顕微鏡で観察される断面組織の視野全体の中で、前記帯状領域は10%以上の面積を占める、請求項1に記載のα+β型チタン合金部材。
【請求項5】
顕微鏡で観察される断面組織の視野全体の中で、α+β二相領域部が占める面積は10%~25%であり、
前記α+β二相領域部の中で、帯幅が3μm以下の前記帯状領域が占める面積は35%以上である、請求項3に記載のα+β型チタン合金部材。
【請求項6】
顕微鏡で観察される断面組織の視野全体の中で、α+β二相領域部が占める面積は10%~25%であり、
前記α+β二相領域部の中で、帯幅が5μm以下の前記帯状領域が占める面積は50%以上である、請求項4に記載のα+β型チタン合金部材。
【請求項7】
前記β相安定化元素は、V、Fe、Mo、Mn、Co、Ni、Cr、W、Nb、TaおよびReからなる群から選ばれた元素であり、
前記β相安定化元素の含有量は、Mo当量で0.8~3.0質量%である、請求項1に記載のα+β型チタン合金部材。
【請求項8】
引張強さが1100MPa以上1300MPa以下であり、破断伸びが12%以上25%以下である、請求項1に記載のα+β型チタン合金部材。
【請求項9】
顕微鏡で観察される断面組織において、互いに離れて位置する複数のα相領域部と、隣接する前記α相領域部間に延在して各α相領域部を取り囲むネットワークを形成するα+β二相領域部とを備えるα+β型チタン合金部材の製造方法であって、
出発原料としてα相のチタン粉末と、β相安定化元素を含むα+β二相のチタン合金粉末とを準備する工程と、
前記チタン粉末と前記チタン合金粉末とを混合して混合粉末を作製する工程と、
前記混合粉末を焼結して焼結体を作製する工程と、
前記焼結体を熱間で塑性加工してチタン合金部材を作製する工程と、
前記チタン合金部材を熱処理する工程と、
前記熱処理後のチタン合金部材を空冷で室温にまで冷却する工程とを備え、
出発原料としての前記α相チタン粉末の平均粒径は40μm以下で、前記α+β二相チタン合金粉末の平均粒径は20μm以下であり、
出発原料粉末全体に対する前記β相安定化元素の含有量は、Mo当量で0.8~3.0質量%であり、
前記焼結処理の温度はβ単相温度域であり、
前記熱間塑性加工時の加熱温度はα+β二相温度域であり、
前記熱処理時の加熱温度がα単相温度域である、α+β型チタン合金部材の製造方法。
【請求項10】
前記熱処理時の加熱温度は、700~780℃の範囲内である、請求項9に記載のα+β型チタン合金部材の製造方法。
【請求項11】
前記α相チタン粉末は純チタンであり、
前記α+β二相チタン合金粉末の組成は、Ti-6Al-4Vである、請求項9に記載のα+β型チタン合金部材の製造方法。
【請求項12】
前記混合粉末中の前記α相チタン粉末の含有量をWaとし、前記α+β二相チタン合金粉末の含有量をWbとすると、Wb/Waの値が0.5~1.3である、請求項9に記載のα+β型チタン合金部材の製造方法。
【請求項13】
顕微鏡で観察される断面組織において、互いに離れて位置する複数のα相領域部と、隣接する前記α相領域部間に延在して各α相領域部を取り囲むネットワークを形成するα+β二相領域部とを備えるα+β型チタン合金部材の製造方法であって、
出発原料としてα相のチタン粉末と、β相安定化元素を含む金属または合金の添加粉末とを準備する工程と、
前記チタン粉末と前記添加粉末とを混合して混合粉末を作製する工程と、
前記混合粉末を焼結して焼結体を作製する工程と、
前記焼結体を熱間で塑性加工してチタン合金部材を作製する工程と、
前記チタン合金部材を熱処理する工程と、
前記熱処理後のチタン合金部材を空冷で室温にまで冷却する工程とを備え、
出発原料としての前記α相チタン粉末の平均粒径は40μm以下で、前記添加粉末の平均粒径は20μm以下であり、
出発原料粉末全体に対する前記β安定化元素の含有量は、Mo当量で0.8~3.0質量%であり、
前記焼結処理の温度はβ単相温度域であり、
前記熱間塑性加工時の加熱温度はα+β二相温度域であり、
前記焼鈍時の加熱温度がα単相温度域である、α+β型チタン合金部材の製造方法。
【請求項14】
前記α相のチタン粉末は純チタン粉末であり、
前記β相安定化元素を含む金属または合金の添加粉末は、Fe粉末である、請求項13に記載のα+β型チタン合金部材の製造方法。
【請求項15】
前記α相のチタン粉末は純チタン粉末であり、
前記β相安定化元素を含む金属または合金の添加粉末は、WC粉末である、請求項13に記載のα+β型チタン合金部材の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、β相安定化元素を含むα+β型チタン合金部材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
β相安定化元素を含むチタン合金部材は、α相およびβ相の二相を含む結晶組織を有する。一般的に、V、Fe、Mo、Mn等のβ相安定化元素を合金成分として含むチタン合金部材では、強度や延性等の材料特性を安定させるために、合金元素をマトリクス中に均質に固溶させる。言い換えれば、V等のβ相安定化元素を局所的に含むようなチタン合金部材は一般には見られない。
【0003】
金属材料または合金材料の分野では、材料の強度(引張強さ等)と延性(伸び)とがトレードオフの関係にあることはよく知られている。
【0004】
特開2018-141223号公報(特許文献1)は、延性をある程度確保しつつ、より強度に優れた金属材料を提案している。この金属材料の金属組織は、微細結晶粒によって構成されている微細粒組織領域と、この微細粒組織領域の平均結晶粒径よりも大きい平均結晶粒径の粗大結晶粒によって構成されている複数の粗大粒組織領域とを含む。微細粒組織領域は、複数の粗大粒組織領域が当該微細粒組織領域内に分散点在することによって網目状組織とされている。微細粒組織領域は、塑性変形した組織である。
【0005】
特開2020-143310号公報(特許文献2)は、双晶変形を生じるチタン合金に、β相安定化元素を含有させて、双晶変形を抑制するチタン合金の製造方法を開示している。この特許文献2では、チタン合金としてβ型チタン合金が用いられており、本発明のα+β型チタン合金部材とは前提が異なっており、後に詳述する本願発明の特徴である組織、すなわちα相を取り囲むようなα+β二相ネットワーク組織は形成されない。特許文献2においても、特許文献1と同様に、微細結晶粒領域が立体的なネットワーク組織を構成する調和組織を呈するようにしている。
【0006】
特許文献1および特許文献2では、上記の金属組織を得るために、出発原料粉末に対してメカニカルミリング処理を行い、被処理粉末の表面全体に対して均一に強塑性加工を施す。この強塑性加工により、粉末粒子の表面に微細な結晶粒である表面部微細結晶粒からなる表面部微細粒組織領域を形成することができる。表面部微細粒組織領域は、粉末粒子の表面全体に対して均一に形成される。
【0007】
上記の表面部微細粒組織領域を有する粉末粒子の集合体を焼結すると、各粒子の表面部微細粒組織領域が互いに結合することで、網目状組織とされた微細粒組織領域が形成される。また、メカニカルミリング処理を施した各粉末粒子の内部に含まれている粗大粒組織領域は、表面部微細粒組織領域が網目状組織の微細粒組織領域となることで、微細粒組織領域の網目内部に配置され、微細粒組織領域内に分散点在する。
【0008】
特許文献1には、出発金属材料に対して、塑性加工が施され、かつ複数の粗大粒組織領域が分散点在する網目状組織の微細粒組織領域と、当該粗大粒組織領域とで構成された金属組織を有しているため、優れた強度を有しており、かつ延性を備える金属材料となる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2018-141223号公報
【特許文献2】特開2020-143310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1は、出発原料粉末の表面全体に対して機械的な強加工を施して各粉末粒子の表面に微細な結晶粒である表面部微細結晶粒からなる表面部微細粒組織領域を形成し、その後の焼結によって各粒子の表面部微細粒組織領域が互いに結合し、網目状組織とされた微細粒組織領域を形成している。
【0011】
メカニカルミリング処理のような機械的強加工で出発原料粉末粒子の全体に対して等しく表面部に微細粒組織領域部を形成することは困難である。
【0012】
本発明の目的は、β相安定化元素を含むチタン合金部材を前提とし、機械的な強塑性加工により出発材料に対して表面部に微細粒組織領域を形成するのではなく、α+β相がネットワーク構造組織を形成し、α相とβ相の結晶構造に起因するそれぞれの特性の特徴を効果的に利用して、優れた強度を有するとともに、延性にも優れたα+β型チタン合金部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に従ったα+β型チタン合金部材は、顕微鏡で観察される断面組織において、互いに離れて位置する複数のα相領域部と、β相安定化元素を含み、隣接するα相領域部間に延在して各α相領域部を取り囲むネットワークを形成するα+β二相領域部とを備える。
【0014】
α+β二相領域部は、α相領域部の外面に沿って延びる帯状領域を含み、好ましくは、帯状領域の平均帯幅寸法は、α相領域部の平均結晶粒径よりも小さい。
【0015】
好ましくは、α+β二相領域部は、帯幅が3μm以下の帯状領域を含み、顕微鏡で観察される断面組織の視野全体の中で、上記の帯状領域は7%以上の面積を占める。この場合、一つの実施形態では、顕微鏡で観察される断面組織の視野全体の中で、α+β二相領域部が占める面積は10%~25%であり、α+β二相領域部の中で、帯幅が3μm以下の帯状領域が占める面積は35%以上である。
【0016】
一つの実施形態では、α+β二相領域部は、帯幅が5μm以下の帯状領域を含み、顕微鏡で観察される断面組織の視野全体の中で、上記の帯状領域は10%以上の面積を占める。この場合、好ましくは、顕微鏡で観察される断面組織の視野全体の中で、α+β二相領域部が占める面積は10%~25%であり、α+β二相領域部の中で、帯幅が5μm以下の帯状領域が占める面積は50%以上である。
【0017】
β相安定化元素は、例えば、V、Fe、Mo、Mn、Co、Ni、Cr、W、Nb、TaおよびReからなる群から選ばれた元素である。α+β型チタン合金部材は、上記に列挙したβ相安定化元素を複数種含むものであってもよいし、上記に列挙したβ相安定化元素と全率固溶型元素(例えば、Zr)との組合せを含むものであってもよい。
【0018】
前記β相安定化元素の含有量は、Mo当量で、好ましくは0.8~3.0質量%である。
【0019】
ネットワーク状のα+β二相領域部を備えるα+β型チタン合金部材は、好ましくは、引張強さが1100MPa以上1300MPa以下であり、破断伸びが12%以上25%以下である。
【0020】
本発明に従った製造方法は、顕微鏡で観察される断面組織において、互いに離れて位置する複数のα相領域部と、隣接するα相領域部間に延在して各α相領域部を取り囲むネットワークを形成するα+β二相領域部とを備えるα+β型チタン合金部材の製造方法であって、以下の工程を備える。
-出発原料としてα相のチタン粉末と、β相安定化元素を含むα+β二相のチタン合金粉末とを準備する工程。
-チタン粉末とチタン合金粉末とを混合して混合粉末を作製する工程。
-混合粉末を焼結して焼結体を作製する工程。
-焼結体を熱間で塑性加工してチタン合金部材を作製する工程。
-チタン合金部材を熱処理する工程。
-熱処理後のチタン合金部材を空冷で室温にまで冷却する工程。
【0021】
出発原料としての上記α相チタン粉末の平均粒径は40μm以下であり、上記α+β二相チタン合金粉末の平均粒径は20μm以下である。出発原料粉末全体に対するβ相安定化元素の含有量は、Mo当量で0.8~3.0質量%である。
【0022】
焼結処理の温度はβ相単相温度域であり、熱間塑性加工時の加熱温度はα+β二相温度域であり、熱処理時の加熱温度がα単相温度域である。
【0023】
好ましくは、熱処理時の加熱温度は、700~780℃の範囲内である。一つの実施形態では、上記α相チタン粉末は純チタンであり、上記α+β二相チタン合金粉末の組成は、Ti-6Al-4V(質量%)である。
【0024】
混合粉末中のα相チタン粉末の含有量をWaとし、α+β二相チタン合金粉末の含有量をWbとすると、例えば、Wb/Waの値が0.5~1.3である。
【0025】
他の実施形態として、出発原料として、β相安定化元素を含むα+β二相チタン合金粉末に代えて、β相安定化元素を含む金属または合金の添加粉末を用いてもよい。この他の実施形態に係る製造方法は、顕微鏡で観察される断面組織において、互いに離れて位置する複数のα相領域部と、隣接する前記α相領域部間に延在して各α相領域部を取り囲むネットワークを形成するα+β二相領域部とを備えるα+β型チタン合金部材の製造方法であって、以下の工程を備える。
-出発原料としてα相のチタン粉末と、β相安定化元素を含む金属または合金の添加粉末とを準備する工程。
-チタン粉末と添加粉末とを混合して混合粉末を作製する工程。
-混合粉末を焼結して焼結体を作製する工程。
-焼結体を熱間で塑性加工してチタン合金部材を作製する工程。
-チタン合金部材を熱処理する工程。
-熱処理後のチタン合金部材を空冷で室温にまで冷却する工程。
【0026】
この実施形態においても、出発原料としての上記α相チタン粉末の平均粒径は40μm以下で、添加粉末の平均粒径は20μm以下である。出発原料粉末全体に対する上記β相安定化元素の含有量は、Mo当量で0.8~3.0質量%である。焼結処理の温度はβ単相温度域であり、熱間塑性加工時の加熱温度はα+β二相温度域であり、熱処理時の加熱温度がα単相温度域である。
【0027】
上記の実施形態において、例えば、α相のチタン粉末は純チタン粉末であり、β相安定化元素を含む金属または合金の添加粉末は、Fe粉末またはWC粉末である。
【発明の効果】
【0028】
上記構成の本発明によれば、各α相領域部がネットワーク状のα+β二相領域部によって取り囲まれている。α+β二相領域部中のβ相は、結晶構造が体心立方晶(bcc)であり、α相と比較してすべり系が多いため塑性変形し易い。したがって、チタン合金部材全体の変形能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明に係るα+β型チタン合金部材の特徴的な断面組織を示す図解図である。
図2】Ti32合金溶解材の断面組織を示す顕微鏡写真および組織を図解的に示す図である。
図3】比較例としての混合粉末1を出発原料としたα+β型チタン合金部材の断面組織を示す顕微鏡写真および組織を図解的に示す図である。
図4】比較例としての混合粉末2を出発原料としたα+β型チタン合金部材の断面組織を示す顕微鏡写真および組織を図解的に示す図である。
図5】本発明例としての混合粉末3を出発原料としたα+β型チタン合金部材の断面組織を示す顕微鏡写真および組織を図解的に示す図である。
図6】比較例としての混合粉末4を出発原料としたα+β型チタン合金部材の断面組織を示す顕微鏡写真および組織を図解的に示す図である。
図7】比較例としての混合粉末5を出発原料としたα+β型チタン合金部材の断面組織を示す顕微鏡写真および組織を図解的に示す図である。
図8】比較例としての混合粉末6を出発原料としたα+β型チタン合金部材の断面組織を示す顕微鏡写真および組織を図解的に示す図である。
図9】本発明例としての混合粉末3を出発原料としたα+β型チタン合金部材の圧延直交方向における断面の顕微鏡画像およびα+β二相領域の模式図である。
図10】本発明例としての混合粉末3を出発原料としたα+β型チタン合金部材の圧延方向における断面の顕微鏡画像およびα+β二相領域の模式図である。
図11】比較例としての混合粉末1を出発原料としたα+β型チタン合金部材の圧延直交方向における断面の顕微鏡画像およびα+β二相領域の模式図である。
図12】比較例としての混合粉末1を出発原料としたα+β型チタン合金部材の圧延方向における断面の顕微鏡画像およびα+β二相領域の模式図である。
図13】比較例としての混合粉末2を出発原料としたα+β型チタン合金部材の圧延直交方向における断面の顕微鏡画像およびα+β二相領域の模式図である。
図14】比較例としての混合粉末2を出発原料としたα+β型チタン合金部材の圧延方向における断面の顕微鏡画像およびα+β二相領域の模式図である。
図15】比較例としての混合粉末4を出発原料としたα+β型チタン合金部材の圧延直交方向における断面の顕微鏡画像およびα+β二相領域の模式図である。
図16】比較例としての混合粉末4を出発原料としたα+β型チタン合金部材の圧延方向における断面の顕微鏡画像およびα+β二相領域の模式図である。
図17】比較例としての混合粉末5を出発原料としたα+β型チタン合金部材の圧延直交方向における断面の顕微鏡画像およびα+β二相領域の模式図である。
図18】比較例としての混合粉末5を出発原料としたα+β型チタン合金部材の圧延方向における断面の顕微鏡画像およびα+β二相領域の模式図である。
図19】比較例としての混合粉末6を出発原料としたα+β型チタン合金部材の圧延直交方向における断面の顕微鏡画像およびα+β二相領域の模式図である。
図20】比較例としての混合粉末6を出発原料としたα+β型チタン合金部材の圧延方向における断面の顕微鏡画像およびα+β二相領域の模式図である。
図21】Ti-1質量%Feのα+β型チタン合金部材の光学顕微鏡画像である。
図22】本発明例としての混合粉末(純Ti粉末+1質量%Fe粉末)を出発原料としたα+β型チタン合金部材の圧延直交方向における断面の顕微鏡画像およびα+β二相領域の模式図である。
図23】本発明例としての混合粉末(純Ti粉末+1質量%Fe粉末)を出発原料としたα+β型チタン合金部材の圧延方向における断面の顕微鏡画像およびα+β二相領域の模式図である。
図24】比較例としての混合粉末(純Ti粉末+25質量%Ti64合金粉末)を出発原料としたα+β型合金部材の断面組織を示す顕微鏡写真である。
図25】本発明例としての混合粉末(純Ti粉末+35質量%Ti64粉末)を出発原料としたα+β型チタン合金部材の圧延直交方向における断面の顕微鏡画像およびα+β二相領域の模式図である。
図26】本発明例としての混合粉末(純Ti粉末+35質量%Ti64粉末)を出発原料としたα+β型チタン合金部材の圧延方向における断面の顕微鏡画像およびα+β二相領域の模式図である。
図27】本発明例としての混合粉末(純Ti粉末+5質量%WC粉末)を出発原料としたα+β型チタン合金部材の圧延直交方向における断面の顕微鏡画像およびα+β二相領域の模式図である。
図28】本発明例としての混合粉末(純Ti粉末+5質量%WC粉末)を出発原料としたα+β型チタン合金部材の圧延方向における断面の顕微鏡画像およびα+β二相領域の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明に従ったα+β型チタン合金部材の特徴的な組織を図1に示す。図1は、顕微鏡で観察される断面組織を図解的に示している。図示するように、α+β型チタン合金部材は、顕微鏡で観察される断面組織において、互いに離れて位置する複数のα相領域部と、β相安定化元素を含み、隣接するα相領域部間に延在して各α相領域部を取り囲むネットワークを形成するα+β二相領域部とを備える。
【0031】
好ましくは、断面組織に見られるネットワーク状のα+β二相領域部は全体的にみると比較的細い帯幅で連続的に延びてα相領域部を取り囲んでいる。「連続的」とは、部分的に途切れがあっても全体的にみると連続性が観察される組織を言う。
【0032】
α相は結晶構造が稠密六方晶(hcp)で変形しにくく、β相は結晶構造が体心立方晶(bcc)であり、α相と比較してすべり系が多いため塑性変形し易い。本発明に従ったα+β型チタン合金部材では、すべり系を多く含むα+β二相領域部がα相を包み込んで3次元ネットワーク状に連結したヘテロ組織構造となっているので、微視的な塑性変形を許容して良好な延性を確保しつつ、マクロな局所変形を抑制して良好な強度特性を維持する。また、α相安定化元素がα-Ti結晶粒内に固溶したり、中間元素がα-Ti結晶粒やβ-Ti結晶粒内に固溶することで、それぞれの相が強化されて合金全体としての強度が増大する。
【0033】
後に顕微鏡写真等を参照して詳述するが、ネットワーク状のα+β二相領域部は、α相領域部の外面に沿って細い幅で延びる帯状領域と、帯幅が広い島状領域とを含む。好ましくは、この帯状領域の平均帯幅寸法は、α相領域部の平均結晶粒径よりも小さい。より好ましくは、α+β二相領域部の帯幅寸法は、α相領域部の平均結晶粒径の1/2以下にするのがよい。
【0034】
好ましい実施形態では、α+β二相領域部は、帯幅が3μm以下の帯状領域を含み、顕微鏡で観察される断面組織の視野全体の中で、3μm以下の帯状領域が7%以上の面積を占める。この場合、一つの実施形態では、顕微鏡で観察される断面組織の視野全体の中で、α+β二相領域が占める面積は10~25%であり、α+β二相領域部の中で、帯幅が3μm以下の帯状領域が占める面積は35%以上である。
【0035】
好ましい実施形態では、α+β二相領域部は、帯幅が5μm以下の帯状領域を含み、顕微鏡で観察される断面組織の視野全体の中で、5μm以下の帯状領域が10%以上の面積を占める。この場合、一つの実施形態では、顕微鏡で観察される断面組織の視野全体の中で、α+β二相領域が占める面積は10~25%であり、α+β二相領域部の中で、帯幅が5μm以下の帯状領域が占める面積は50%以上である。
【0036】
α相は結晶構造が稠密六方晶(hcp)で変形しにくく、β相は結晶構造が体心立方晶(bcc)ですべり系が多く変形しやすい。本発明に係るα+β型チタン合金部材では、α相領域部をネットワーク状にα+β二相領域部が取り囲んでいるので、チタン合金部材に歪が導入される際にα+β二相領域部のβ相への歪導入が支配的となり、チタン合金部材全体の変形能が向上する。
【0037】
特に、α+β二相領域部の帯状領域は帯の長さ方向に沿って歪を導入するので、帯状領域がα相領域部の周りにネットワーク状に延在することにより、チタン合金部材の変形能を効果的に向上させる。
【0038】
なお、ネットワーク状に取り囲むとは、断面組織において観察される形態であり、立体的にみると、立体形状のα相領域部の外面全体を膜状のα+β二相領域部が包み込んでいる形態である。また、断面組織に現れるα+β二相の帯状領域の帯幅とは、膜状のα+β二相領域部の膜厚である。
【0039】
前記β相安定化元素は、例えば、V、Fe、Mo、Mn、Co、Ni、Cr、W、Nb、TaおよびReからなる群から選ばれた元素である。本発明に係るα+β型チタン合金部材は、上記に列挙したβ相安定化元素を複数種含んでもよいし、β相安定化元素と全率固溶型元素(例えば、Zr)の組合せを含んでもよい。
【0040】
好ましくは、α+β型チタン合金部材中のβ相安定化元素の含有量は、Mo当量で0.8~3.0質量%である。
【0041】
α+β二相ネットワーク組織を有するチタン合金部材は、高い強度特性とともに優れた伸び特性を有する。上記のようなα+β二相ネットワーク組織を有するα+β型チタン合金部材は、例えば、引張強さが1100MPa以上1300MPa以下であり、破断伸びが12%以上25%以下である。
【0042】
β相安定化元素由来のα+β二相ネットワーク組織は、複数の出発原料粉末の粒度調整、チタン合金材に対する熱処理温度およびその後の冷却条件を適切に選定することによって形成することができる。
【0043】
[第1実施形態の説明]
第1実施形態では、純チタン粉末と、組成がTi-6Al-4V(質量%)のTi64合金粉末とを出発原料粉末として用意し、下記に記載の工程を経て、α+β型チタン合金部材を製造した。
【0044】
A.粉末の混合
B.圧粉成形体の作製
C.圧粉成形体の焼結
D.焼結体の熱間塑性加工(例えば、圧延)
E.熱処理
F.冷却
以下に、上記に記載の各工程および最終的に得られたα+β型チタン合金部材の組織及び特性について詳細に記載する。
【0045】
[出発原料粉末の準備および混合]
出発原料粉末の組合せとして、下記の6種類を準備した。
【0046】
(a)混合粉末1(比較例)
純チタン粉末(α相):平均粒径28.6μm
Ti64合金(Ti-6Al-4V)粉末(α+β二相):平均粒径39.5μm
質量比 純チタン粉末:Ti64合金粉末=1:1
(b)混合粉末2(比較例)
純チタン粉末:平均粒径8μ
Ti64合金粉末:平均粒径39.5μm
質量比 純チタン粉末:Ti64合金粉末=1:1
(c)混合粉末3(本発明例)
純チタン粉末:平均粒径28.6μm
Ti64合金粉末:平均粒径8μm
質量比 純チタン粉末:Ti64合金粉末=1:1
(d)混合粉末4(比較例)
純チタン粉末:平均粒径53μm
Ti64合金粉末:平均粒径8μm
質量比 純チタン粉末:Ti64合金粉末=1:1
(e)混合粉末5(比較例)
純チタン粉末:平均粒径80μm
Ti64合金粉末:平均粒径8μm
質量比 純チタン粉末:Ti64合金粉末=1:1
(f)混合粉末6(比較例)
純チタン粉末:平均粒径164μm
Ti64合金粉末:平均粒径8μm
質量比 純チタン粉末:Ti64合金粉末=1:1
上記の混合粉末1~6を、それぞれ、ボールミルで60分間混合した。
【0047】
上記の各混合粉末1~6においては、純チタン粉末とTi64合金粉末との質量比を1:1としたが、実用的には、純チタン粉末の含有量をWaとし、Ti64合金粉末の含有量をWbとすると、Wb/Waの値を0.5~1.3の範囲で調整してもよい。
【0048】
[成形体の作製]
各混合粉末を所定の形状(例えば直方体)に圧粉成形して成形体を作製した。なお、混合粉末を圧粉成形することに代えて、混合粉末を熱間等方圧加圧法(HIP)や冷間等方圧加圧法(CIP)で固めて成形体としてもよい。
【0049】
[成形体の焼結]
成形体を10Pa以下の真空雰囲気で1050℃の条件で30分間焼結処理を行い、焼結体を得た。
【0050】
50質量%の純チタン粉末と50質量%の64チタン(Ti64)合金粉末とを出発原料とした場合、α相温度域とα+β二相温度域との境界が790℃であり、α+β二相温度域とβ相温度域との境界が920℃である。したがって、上記の成形体の焼結は、β単相温度域での焼結である。
【0051】
[焼結体の熱間塑性加工]
焼結後のチタン合金材を幅寸法が20mmとなるように切断し、その後このチタン合金材をα+β二相の温度域で圧延加工した。本実施形態では、α+β二相温度域の850℃で圧延加工を行い、圧下率は90%であった。なお、圧延加工に代えて、鍛造、押出等の他の熱間塑性加工を行ってもよい。
【0052】
[熱処理(焼鈍)]
熱間塑性加工後のチタン合金材を750℃の温度で30分間熱処理を行った。本実施形態の組成のチタン合金材では、α+β二相温度域は、790℃~920℃の範囲であるので、750℃は、α単相温度域の温度である。
【0053】
[冷却]
上記の熱処理(焼鈍)の温度から空冷で常温にまで冷却し、最終的に得られた6種類のチタン合金部材の組織および特性を比較した。
【0054】
[組織観察結果]
組織観察は、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)と後方散乱電子回折(EBSD)とを組わせたSEM-EBSD、および走査型電子顕微鏡とエネルギー分散型X線分析(EDS)とを組み合わせたSEM-EDSにより行った。
【0055】
比較材として、Ti32(Ti-3Al-2V)(質量%)合金溶解材を準備した。図2は、比較材のTi32合金溶解材の断面組織およびその組織の図解図を示している。白く見える部分がα相であり、黒く見える部分がβ相である。α相とβ相は、ほぼ均一に分散している。
【0056】
Ti32合金溶解材の強度特性等は、以下の通りである。
0.2%耐力:662MPa
引張強さ:793MPa
破断伸び:23.4%
良好な延性を有しているが、強度特性が不十分と思われる。
【0057】
図3は、混合粉末1(比較例)から出発したチタン合金部材の断面組織および組織の図解図を示している。白く見える部分がα相であり、黒く見える部分がα+β相である。観察した断面は、圧延方向に対して平行な面である。
【0058】
混合粉末1から出発したチタン合金部材の強度特性等は、以下の通りである。
0.2%耐力:789MPa
引張強さ:893MPa
破断伸び:20.9%
良好な延性を示すが、強度特性が不十分と思われる。
【0059】
図4は、混合粉末2(比較例)から出発したチタン合金部材の断面組織および組織図図解図を示している。
【0060】
混合粉末2から出発したチタン合金部材の強度特性等は、以下の通りである。
0.2%耐力:1091MPa
引張強さ:1169MPa
破断伸び:13.3%
良好な強度特性を示すが、延性がやや不十分と思われる。
【0061】
図5は、混合粉末3(本発明例)から出発したチタン合金部材の断面組織および組織図解図を示している。
【0062】
混合粉末3から出発したチタン合金部材の強度特性等は、以下の通りである。
0.2%耐力:1126MPa
引張強さ:1203MPa
破断伸び:20.0%
良好な強度特性および良好な延性を示す。
【0063】
図6は、混合粉末4(比較例)から出発したチタン合金部材の断面組織および組織図解図を示している。
【0064】
混合粉末4から出発したチタン合金部材の強度特性等は、以下の通りである。
0.2%耐力:1121MPa
引張強さ:1198MPa
破断伸び:13.4%
良好な強度特性を示すが、延性がやや不十分と思われる。
【0065】
図7は、混合粉末5(比較例)から出発したチタン合金部材の断面組織および組織図解図を示している。
【0066】
混合粉末5から出発したチタン合金部材の強度特性等は、以下の通りである。
0.2%耐力:1146MPa
引張強さ:1227MPa
破断伸び:13.2%
良好な強度特性を示すが、延性がやや不十分と思われる。
【0067】
図8は、混合粉末6(比較例)から出発したチタン合金部材の断面組織および組織図解図を示している。
【0068】
混合粉末6ら出発したチタン合金部材の強度特性等は、以下の通りである。
0.2%耐力:1118MPa
引張強さ:1197MPa
破断伸び:7.5%
良好な強度特性を示すが、延性が不十分と思われる。
【0069】
以下の表1は、出発混合粉末と、最終的なチタン合金部材の強度特性等をまとめたものである。
【0070】
【表1】
【0071】
表1に記載の結果から、および図2図8の断面組織観察結果から、以下のことが認められる。微細な64チタン(Ti64)合金粉末を使用することにより、コアとなるα相の周辺に微細なα+β二相のネットワーク構造を形成し、機械的特性の向上につながる。また、出発原料として使用する純チタン粉末の粒度が小さいほど、最終的に得られるチタン合金部材の延性が向上する。
【0072】
図9は、混合粉末3(本発明例)から出発したチタン合金部材について、圧延方向に沿って異なる4つの位置で圧延方向に対して直交する断面で見た組織におけるα+β二相領域の分布状態を示している。観察試料として採取した各板材は、焼結体を圧下率90%で熱間圧延したものである。黒色部分がα+β二相領域である。α相領域部間に位置するα+β二相領域部は、断面組織観察において、帯幅が広い領域と、帯幅が3μm以下の帯状領域を含むが、図9に示した本発明例では、α+β二相領域部の中で3μm以下の帯状領域が占める面積は比較的大きく、35~55%程度である。また、断面組織の視野全体の中で、3μm以下の帯状領域が占める面積は7%以上である。
【0073】
帯幅が5μm以下の帯状領域に注目すると、α+β二相領域部の中で5μm以下の帯状領域が占める面積は50%~75%程度である。また、断面組織の視野全体の中で、5μm以下の帯状領域が占める面積は11%以上である。
【0074】
図10は、混合粉末3(本発明例)から出発したチタン合金部材について、圧延方向に対して平行な断面で異なる4つの位置で見た組織におけるα+β二相領域の分布状態を示している。図10に示すように、α+β二相領域部は、断面組織観察において、帯幅が広い領域と、帯幅が3μm以下の帯状領域を含むが、図9に示した組織観察結果と同様に、α+β二相領域部の中で帯状領域が占める面積は比較的大きく50~80%程度である。また、断面組織の視野全体の中で、3μm以下の帯状領域が占める面積は8%以上である。
【0075】
帯幅が5μm以下の帯状領域に注目すると、α+β二相領域部の中で5μm以下の帯状領域が占める面積は70%以上である。また、断面組織の視野全体の中で、5μm以下の帯状領域が占める面積は10%以上である。
【0076】
なお、面積率の計測方法は、以下の通りである。光学顕微鏡にて断面組織写真を撮影(圧延方向断面および圧延直交方向断面においてランダムに4視野)し、α+β二相領域を二値化処理により黒色に変換した後、画像解析ソフトを用いてα+β二相領域の粒径(帯幅)および面積を計測した。
【0077】
図11は、混合粉末1(比較例)から出発したチタン合金部材について、圧延方向に対して直交する4つの断面で見た組織におけるα+β二相領域の分布状態を示している。黒色部分がα+β二相領域である。図11に示した比較例では、α+β二相領域部の中で3μm以下の帯状領域が占める面積は比較的少なく概ね45%以下であり、断面組織の視野全体の中で、3μm以下の帯状領域が占める面積は4%以下である。断面組織の視野全体の中で、5μm以下の帯状領域が占める面積は6%以下である。
【0078】
図12は、混合粉末1(比較例)から出発したチタン合金部材について、圧延方向に対して平行な4つの断面で見た組織におけるα+β二相領域の分布状態を示している。図12に示した比較例では、α+β二相領域部の中で3μm以下の帯状領域が占める面積は50%以下であり、断面組織の視野全体の中で、3μm以下の帯状領域が占める面積は3.5%以下である。断面組織の視野全体の中で、5μm以下の帯状領域が占める面積は5%以下である。
【0079】
図13は、混合粉末2(比較例)から出発したチタン合金部材について、圧延方向に対して直交する4つの断面で見た組織におけるα+β二相領域の分布状態を示している。黒色部分がα+β二相領域である。図13に示した比較例では、α+β二相領域部の中で3μm以下の帯状領域が占める面積は比較的少なく概ね30%以下であり、断面組織の視野全体の中で、3μm以下の帯状領域が占める面積は6.5%以下である。断面組織の視野全体の中で、5μm以下の帯状領域が占める面積は概ね9%以下である。
【0080】
図14は、混合粉末2(比較例)から出発したチタン合金部材について、圧延方向に対して平行な4つの断面で見た組織におけるα+β二相領域の分布状態を示している。図14に示した比較例では、α+β二相領域部の中で3μm以下の帯状領域が占める面積は比較的少なく30%以下であり、断面組織の視野全体の中で、3μm以下の帯状領域が占める面積は6%以下である。断面組織の視野全体の中で、5μm以下の帯状領域が占める面積は概ね10%以下である。
【0081】
図15は、混合粉末4(比較例)から出発したチタン合金部材について、圧延方向に対して直交する4つの断面で見た組織におけるα+β二相領域の分布状態を示している。図15に示した比較例では、α+β二相領域の中で3μm以下の帯状領域が占める面積は30~50%程度であり、断面組織の視野全体の中で、3μm以下の帯状領域が占める面積は7%以下である。断面組織の視野全体の中で、5μm以下の帯状領域が占める面積は概ね10%以下である。
【0082】
図16は、混合粉末4(比較例)から出発したチタン合金部材について、圧延方向に対して平行な4つの断面で見た組織におけるα+β二相領域の分布状態を示している。図16に示した比較例では、α+β二相領域部の中で3μm以下の帯状領域が占める面積は25~55%程度であり、断面組織の視野全体の中で、3μm以下の帯状領域が占める面積は6%以下である。断面組織の視野全体の中で、5μm以下の帯状領域が占める面積は概ね10%以下である。
【0083】
図17は、混合粉末5(比較例)から出発したチタン合金部材について、圧延方向に対して直交する4つの断面で見た組織におけるα+β二相領域の分布状態を示している。図17に示した比較例では、α+β二相領域の中で3μm以下の帯状領域が占める面積は15~30%程度であり、断面組織の視野全体の中で、3μm以下の帯状領域が占める面積は6%以下である。断面組織の視野全体の中で、5μm以下の帯状領域が占める面積は10%以下である。
【0084】
図18は、混合粉末5(比較例)から出発したチタン合金部材について、圧延方向に対して平行な4つの断面で見た組織におけるα+β二相領域の分布状態を示している。図18に示した比較例では、α+β二相領域部の中で3μm以下の帯状領域が占める面積は15~40%程度であり、断面組織の視野全体の中で、3μm以下の帯状領域が占める面積は6.5%以下である。断面組織の視野全体の中で、5μm以下の帯状領域が占める面積は概ね10%以下である。
【0085】
図19は、混合粉末6(比較例)から出発したチタン合金部材について、圧延方向に対して直交する4つの断面で見た組織におけるα+β二相領域の分布状態を示している。図19に示した比較例では、α+β二相領域の中で3μm以下の帯状領域が占める面積は10~25%程度であり、断面組織の視野全体の中で、3μm以下の帯状領域が占める面積は6%以下である。断面組織の視野全体の中で、5μm以下の帯状領域が占める面積は10%以下である。
【0086】
図20は、混合粉末6(比較例)から出発したチタン合金部材について、圧延方向に対して平行な4つの断面で見た組織におけるα+β二相領域の分布状態を示している。図20に示した比較例では、α+β二相領域部の中で3μm以下の帯状領域が占める面積は15~35%程度であり、断面組織の視野全体の中で、3μm以下の帯状領域が占める面積は6.5%以下である。断面組織の視野全体の中で、5μm以下の帯状領域が占める面積は概ね10%以下である。
【0087】
以下の表2は、圧延方向に対して直交する断面においてネットワーク状に分布したα+β二相領域の面積率データを示す。
【0088】
【表2】
【0089】
以下の表3は、圧延方向に対して平行な断面においてネットワーク状に分布したα+β二相領域の面積率データを示す。
【0090】
【表3】
【0091】
混合粉末3から出発した本発明例であるα+β型チタン合金部材では、顕微鏡で観察される断面組織の視野全体の中で、α+β二相領域部が占める面積は10~25%であり、α+β二相領域部の中で、帯幅が3μm以下の帯状領域が占める面積は35%以上である。また、顕微鏡で観察される断面組織の視野全体の中で、帯幅が3μ以下の帯状領域が占める面積は7%以上である。また、帯幅が5μm以下の帯状領域に注目すると、α+β二相領域部の中で、帯幅が5μm以下の帯状領域が占める面積は50%以上であり、顕微鏡で観察される断面組織の視野全体の中で、帯幅が5μm以下の帯状領域が占める面積は10%以上である。このような面積率を有するα+β二相ネットワーク領域部は、良好な強度特性および良好な延性を呈することが認められる。
【0092】
[熱間塑性加工(圧延加工)時の加熱温度]
組成がTi-3Al-2V(質量%)のα+β型チタン合金部材の場合、α相温度域とα+β二相温度域との境界が790℃であり、α+β二相温度域とβ相の温度域との境界が920℃である。本発明の第1実施形態では、熱間塑性加工(圧延)時の加熱温度は、α+β二相温度域である900℃程度にする。熱間塑性加工時に焼結体をα+β二相温度域にまで加熱することにより、α+β二相ネットワーク組織の形成が進行し、特性値が向上する。また、圧延加工により、圧延方向へ組織が引きちぎられることにより、等軸な粒が形成しやすくなる。
【0093】
熱間塑性加工時の温度をβ相温度域である950℃程度にすると、α相の集合組織が変化し、特性値の低下が確認される。その原因は、コアのα相集合組織の変化、もしくはβ相の増加が要因と思われる。
【0094】
熱間圧延時の温度と、最終的に得られたα+β型チタン合金部材の強度特性等との関連を調べた。その結果を下記の表4に示す。
【0095】
【表4】
【0096】
熱間圧延温度がα+β二相温度域である800℃、850℃、900℃であり、その後の熱処理(焼鈍)の温度がα相の温度域である750℃の場合には、良好な強度特性および良好な延性を有することが認められる。熱間圧延温度がβ相温度域である950℃程度であり、その後の熱処理の温度が750℃の場合には、伸び(延性)が低下した。
【0097】
[熱間塑性加工後の熱処理温度について]
熱間圧延加工後の熱処理の温度が900℃で、その後の熱処理(焼鈍)の温度を異ならせた場合に、最終的に得られたα+β型チタン合金部材の強度特性等との関連を調べた。その結果を、下記の表5に示す。
【0098】
【表5】
【0099】
表5から、熱間圧延加工後の熱処理(焼鈍)温度がα相温度域の750℃であれば、良好な強度特性を維持しつつ、最も良好な延性が得られることが認められた。この結果から、良好な熱処理温度は、700~780℃程度であることが認められる。
【0100】
[歪導入傾向について]
熱間圧延時の温度を750℃にし、その後の熱処理(焼鈍)の温度を750℃にした場合の、最終α+β型チタン合金部材における歪の導入傾向を、SEM(走査型電子顕微鏡)内引張試験で確認した。全体の歪量が0~5%の時には、コアのα相への歪導入が支配的であった。全体の歪量が5~10%の時には、徐々にコアのα相の誘起変態が起こり始め、β相の割合が増加した。全体の歪量が10%以上の時には、コアのα相からβ相への誘起変態が急激に起こり始め、β相への歪導入が支配的となった。
【0101】
熱間圧延時の温度を900℃にし、その後の熱処理(焼鈍)の温度を750℃にした場合の、最終α+β型チタン合金部材における歪の導入傾向をSEM内引張試験で確認した。全体の歪量が0~6.5%の時には。β相への歪導入が支配的であり、歪量が8.2%以上になると、β相への歪導入が支配的で、同時にコアのα相へも歪導入が始まった。
【0102】
上記の確認結果より、適切な熱間塑性加工およびその後の熱処理を行ったTi32合金の歪導入に関しては、初期にはβ相の歪導入が支配的であり、歪量が増加するにつれてα相の歪導入も進行する。α相の歪が増大すると、β相へ誘起変態し、逐次的にα+β相ネットワーク組織を形成することが認められる。
【0103】
[他の実施形態の説明]
第1実施形態では、β相安定化元素としてVを含むα+β型チタン合金部材を説明したが、他のβ相安定化元素を含むα+β型チタン合金部材であっても、出発原料粉末において適切な粒度調整をし、焼結体に対して適切な条件で熱間塑性加工、熱処理(焼鈍)および冷却を行うことにより、良好な強度特性および良好な延性を有するα+β型チタン合金部材を得ることができる。
【0104】
V以外のβ相安定化元素としては、Fe、Mo、Mn、Co、Ni、Cr、W、Nb、Ta、Reがある。これらのα+β型チタン合金部材中のβ相安定化元素の含有量は、好ましくは、Mo当量で0.8~3.0質量%である。なお、本発明に係るα+β型チタン合金部材は、上記に列挙したβ相安定化元素を1種含むものでもよいし、2種以上含むものであってもよい。また、上記に列挙したβ相安定化元素と全率固溶型元素(例えばZr)との組合せを含むものであってもよい。
【0105】
なお、α+β型チタン合金部材中のβ相安定化元素のMo当量(質量%)は、以下の式に基づいて算出できる。
【0106】
[Mo]eq=[Mo]+[Ta]/5+[Nb]/3.5+[W]/2.5+[V]/1.5+1.25[Cr]+1.25[Ni]+1.7[Mn]+1.7[Co]+2.5[Fe]
第2実施形態として、純チタン粉末とFe粉末とを出発原料粉末として用いた。これらの出発原料粉末の質量比、平均粒径は、以下の通りである。
【0107】
α相チタン粉末(純チタン粉末):平均粒径28.6μm
Fe粉末:粒径3~5μm
質量比 純チタン粉末:Fe粉末=99:1
Fe1質量%は、Mo当量に換算して2.5質量%になる。
【0108】
製造プロセスは、第1実施形態と同様であり、粉末混合、圧粉成形、焼結、熱間圧延、熱処理、冷却工程を経て最終のα+β型チタン合金部材を得た。なお、熱間塑性加工時の加熱温度は850℃、その後の熱処理時の加熱温度は750℃であった。
【0109】
図21は、最終的に得られた組成がTi-1質量%Feのα+β型チタン合金部材の光学顕微鏡画像である。この図から、ネットワーク状のα+β二相領域部がα相領域部を取り囲んでいることが認められる。
【0110】
第3実施形態として、下記の混合粉末を出発原料として用い、上記と同じ製造工程及び製造条件でα+β型チタン合金部材を得た。
【0111】
第3実施形態の混合粉末:純Ti粉末+35質量%Ti64合金粉末
この混合粉末中のVの含有量は1.4質量%であり、Mo当量に換算すると0.9質量%になる。
【0112】
第4実施形態として、下記の混合粉末を出発原料として用い、上記と同じ製造工程及び製造条件でα+β型チタン合金部材を得た。
【0113】
第4実施形態の混合粉末:純Ti粉末+5質量%WC粉末
純チタン粉末(α相チタン粉末)の平均粒径:28.6μm
WC粉末の粒径:1.2~1.8μm
この混合粉末中のWの含有量は4.7質量%であり、Mo当量に換算すると1.9質量%になる。
【0114】
比較例として、下記の混合粉末を出発原料として用い、上記と同じ製造工程及び製造条件でα+β型チタン合金部材を得た。
【0115】
比較例の混合粉末:純Ti粉末+25質量%Ti64合金粉末
この混合粉末中のVの含有量は1.0質量%であり、Mo当量に換算すると0.7質量%になる。
【0116】
第2実施形態~第4実施形態の本発明例(β相安定化元素の含有量がMo当量で0.9~2.5質量)では、いずれも最終組織においてネットワーク状のα+β二相領域が見られたが、比較例の混合粉末(純Ti粉末+25質量%Ti64合金粉末:β相安定化元素の含有量がMo当量で0.7質量%)では、ネットワーク状のα+β二相領域が見られなかった。したがって、β相安定化元素の含有量は、好ましくは、Mo当量で0.8~3.0質量%である。
【0117】
図22および図23は、本発明例である第2実施形態の混合粉末(純Ti粉末+1質量%Fe粉末)を出発原料として用いて作製したα+β型チタン合金部材の顕微鏡画像およびα+β領域の模式図である。ネットワーク状に分布したα+β二相領域の面積率データを表6および表7に示す。図22および表6は、圧延方向に対して直交する断面を観察したものであり、図23および表7は、圧延方向に対して平行な断面を観察したものである。
【0118】
【表6】
【0119】
【表7】
【0120】
図22および図23のα+β領域模式図からわかるように、純Ti粉末+1質量%Fe粉末の混合粉末から出発したα+β型チタン合金部材では、α+β二相領域がα相を取り囲むネットワーク組織を形成していることが認められる。表6および表7の面積率データから、顕微鏡で観察される断面組織の視野全体の中で、帯幅が3μm以下の帯状領域が占める面積は概ね7%以上であり、帯幅が5μm以下の帯状領域が占める面積は概ね9%以上である。
【0121】
図24は、比較例の混合粉末(純Ti粉末+25質量%Ti64合金粉末)から出発したα+β型チタン合金部材の顕微鏡写真である。この写真から、ネットワーク状のα+β二相領域が形成されていないことが認められる。
【0122】
図25および図26は、本発明例である第3実施形態の混合粉末(純Ti粉末+35質量%Ti64合金粉末)を出発原料として用いて作製したα+β型チタン合金部材の顕微鏡画像およびα+β領域の模式図である。図25および表6は、圧延方向に対して直交する断面を観察したものであり、図26および表7は、圧延方向に対して平行な断面を観察したものである。
【0123】
図25および図26のα+β領域模式図からわかるように、純Ti粉末+35質量%Ti64合金粉末の混合粉末から出発したα+β型チタン合金部材では、α+β二相領域がα相を取り囲むネットワーク組織を形成していることが認められる。表6および表7の面積率データから、顕微鏡で観察される断面組織の視野全体の中で、帯幅が3μm以下の帯状領域が占める面積は7%以上であり、帯幅が5μm以下の帯状領域が占める面積は概ね8%以上である。
【0124】
図27および図28は、本発明例である第4実施形態の混合粉末(純Ti粉末+5質量%WC粉末)を出発原料として用いて作製したα+β型チタン合金部材の顕微鏡画像およびα+β領域の模式図である。図27および表6は、圧延方向に対して直交する断面を観察したものであり、図28および表7は、圧延方向に対して平行な断面を観察したものである。
【0125】
図27および図28のα+β領域模式図からわかるように、純Ti粉末+5質量%WC粉末の混合粉末から出発したα+β型チタン合金部材では、α+β二相領域がα相を取り囲むネットワーク組織を形成していることが認められる。表6および表7の面積率データから、顕微鏡で観察される断面組織の視野全体の中で、帯幅が3μm以下の帯状領域が占める面積は9%以上であり、帯幅が5μm以下の帯状領域が占める面積は概ね16%以上である。
【0126】
以上、図面等を参照して本発明の実施形態を記載したが、本発明はここに記載した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明と同一または均等な範囲内において種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明は、良好な強度特性および良好な延性を発揮するα+β型チタン合金部材として、またその製造方法として、有利に利用され得る。
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