(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173244
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20241205BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B41J2/01 307
B41J2/01 123
B41J2/01 107
B41M5/00 114
B41M5/00 134
B41M5/00 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091543
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100148323
【弁理士】
【氏名又は名称】川▲崎▼ 通
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】地舘 公介
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056EE17
2C056FA11
2C056FB03
2C056HA07
2C056HA22
2C056HA42
2H186AA04
2H186AB10
2H186AB12
2H186AB23
2H186AB27
2H186AB41
2H186AB54
2H186AB55
2H186AB57
2H186BA08
2H186DA17
2H186FA08
2H186FA09
2H186FA14
2H186FA16
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB30
2H186FB48
2H186FB54
2H186FB56
2H186FB58
(57)【要約】 (修正有)
【課題】画質、信頼性、発色性及び生産性が良好な画像が得られるインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】副走査方向に延びる第1~第6ノズル列が主走査方向にこの順で配置されたキャリッジを往復走査して、第1~第6ノズル列からそれぞれ第1~第6組成物を吐出して記録を行うインクジェット記録方法であって、第1、第3ノズル列間の距離は第4、第6ノズル列間の距離と等しく、第2、第3ノズル列間の距離は第4、第5ノズル列間の距離と等しく、第1及び第6組成物、第2及び第5組成物、第3及び第4組成物は、それぞれ同じ組成物であり、インク付着工程と、反応液付着工程と、を有し、第1~第3組成物のうち、反応液組成物にあたる組成物を吐出するノズル列は、それぞれ又は1つの独立したインクジェットヘッドに備えられた、インクジェット記録方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体が搬送される副走査方向に延びる第1ノズル列、第2ノズル列、第3ノズル列、第4ノズル列、第5ノズル列及び第6ノズル列が前記副走査方向に交差する主走査方向にこの順で配置されたキャリッジを、前記主走査方向に往復走査して、往路及び復路の両方で、前記第1ノズル列、前記第2ノズル列、前記第3ノズル列、前記第4ノズル列、前記第5ノズル列及び前記第6ノズル列からそれぞれ第1組成物、第2組成物、第3組成物、第4組成物、第5組成物及び第6組成物を吐出して記録を行うインクジェット記録方法であって、
前記第1ノズル列と前記第3ノズル列との間の前記主走査方向における距離は、前記第4ノズル列と前記第6ノズル列との間の前記主走査方向における距離と等しく、
前記第2ノズル列と前記第3ノズル列との間の前記主走査方向における距離は、前記第4ノズル列と前記第5ノズル列との間の前記主走査方向における距離と等しく、
前記第1組成物及び前記第6組成物は、同じ組成物であり、
前記第2組成物及び前記第5組成物は、同じ組成物であり、
前記第3組成物及び前記第4組成物は、同じ組成物であり、
顔料と、樹脂粒子とを含有するインク組成物を吐出して前記記録媒体に付着させるインク付着工程と、
前記インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含有する反応液組成物を吐出して前記記録媒体に付着させる反応液付着工程と、
を有し、
前記第1組成物、前記第2組成物及び前記第3組成物のうち、前記反応液組成物にあたる組成物を吐出するノズル列は、それぞれ又は1つの独立したインクジェットヘッドに備えられた、インクジェット記録方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記インク組成物が、前記顔料として自己分散顔料を含有し、
前記第2ノズル列及び前記第5ノズル列から前記インク組成物が吐出される、インクジェット記録方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記インク組成物が、前記顔料として樹脂分散顔料のみを含有し、
前記第3ノズル列及び前記第4ノズル列から前記反応液組成物が吐出される場合、前記第1ノズル列及び前記第6ノズル列から前記インク組成物が吐出され、
前記第1ノズル列及び前記第6ノズル列から前記反応液組成物が吐出される場合、前記第3ノズル列及び前記第4ノズル列から前記インク組成物が吐出される、インクジェット記録方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
前記第1ノズル列及び前記第2ノズル列は、一のインクジェットヘッドに形成され、
前記第3ノズル列及び前記第4ノズル列は、一のインクジェットヘッドに形成され、
前記第5ノズル列及び前記第6ノズル列は、一のインクジェットヘッドに形成された、インクジェット記録方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
樹脂粒子を含有するクリアインク組成物を吐出して前記記録媒体に付着させるクリアインク付着工程をさらに有する、インクジェット記録方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
前記凝集剤は、多価金属塩、有機酸、カチオンポリマーから選択される、インクジェッ
ト記録方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
前記記録媒体が布帛である、インクジェット記録方法。
【請求項8】
記録媒体が搬送される副走査方向に延びる第1ノズル列、第2ノズル列、第3ノズル列、第4ノズル列、第5ノズル列及び第6ノズル列が前記副走査方向に交差する主走査方向にこの順で配置されたキャリッジを有し、
前記主走査方向に往復走査して、往路及び復路の両方で、前記第1ノズル列、前記第2ノズル列、前記第3ノズル列、前記第4ノズル列、前記第5ノズル列及び前記第6ノズル列からそれぞれ第1組成物、第2組成物、第3組成物、第4組成物、第5組成物及び第6組成物を吐出して記録を行うインクジェット記録装置であって、
前記第1ノズル列と前記第3ノズル列との間の前記主走査方向における距離は、前記第4ノズル列と前記第6ノズル列との間の前記主走査方向における距離と等しく、
前記第2ノズル列と前記第3ノズル列との間の前記主走査方向における距離は、前記第4ノズル列と前記第5ノズル列との間の前記主走査方向における距離と等しく、
前記第1組成物及び前記第6組成物は、同じ組成物であり、
前記第2組成物及び前記第5組成物は、同じ組成物であり、
前記第3組成物及び前記第4組成物は、同じ組成物であり、
前記第1組成物、前記第2組成物及び前記第3組成物のいずれかが、凝集剤を含有する反応液組成物であり、
前記第1組成物、前記第2組成物及び前記第3組成物のうち、前記反応液組成物にあたる組成物を吐出するノズル列が、それぞれ又は1つの独立したインクジェットヘッドに備えられた、インクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット法は、紙等に対する画像の記録だけでなく、布帛の捺染にも適用が試みられ、各種のインクジェット捺染が検討されている。捺染用のインクジェットインクは、所望の色の画像を得るために色材を含有し、色材として染料や顔料が用いられる。また、インクジェット捺染においても、インクや記録方法において多くの検討が行われている。
【0003】
インクジェット顔料捺染は、アナログ捺染やインクジェット染料捺染に比べ工程が簡略で、排水などの環境負荷低い点優れている。従来、顔料捺染の前処理(反応液塗布)は、浸漬法により塗布することが多かったが、浸漬法では廃液を多量に生じる。そのため、顔料捺染でさらなる環境負荷低減を図るため、反応液もインクジェットで吐出することが試みられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、顔料捺染において、前反応液組成物の乾燥工程を経ずにインクを付着する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、前反応液組成物やインクの付着のタイミングに関しては必ずしも十分考慮されていない。インクジェット法で反応液組成物、インク組成物を付着させようとする場合に、反応液組成物やインク組成物の付着のタイミングによって、良好な画質が得られにくい場合があることが分かってきた。
【0007】
例えば、インクジェット法において、シリアル型の装置を用いて、主走査方向に往復で記録を行う場合に、往路と復路で、反応液組成物やインク組成物の付着のタイミングが異なると、発色性や画質の低下(浸透ムラ、筋ムラ)を生じることが分かってきた。また、反応液組成物をインクジェット法に適用すると、信頼性(ミストに由来するノズルの目詰まり、廃液系統の信頼性)が低下するばあいがあることが分かってきた。このようなことかから、画質、信頼性、発色性、生産性が良好なインクジェット記録方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るインクジェット記録方法の一態様は、
記録媒体が搬送される副走査方向に延びる第1ノズル列、第2ノズル列、第3ノズル列、第4ノズル列、第5ノズル列及び第6ノズル列が前記副走査方向に交差する主走査方向にこの順で配置されたキャリッジを、前記主走査方向に往復走査して、往路及び復路の両方で、前記第1ノズル列、前記第2ノズル列、前記第3ノズル列、前記第4ノズル列、前記第5ノズル列及び前記第6ノズル列からそれぞれ第1組成物、第2組成物、第3組成物、第4組成物、第5組成物及び第6組成物を吐出して記録を行うインクジェット記録方法であって、
前記第1ノズル列と前記第3ノズル列との間の前記主走査方向における距離は、前記第
4ノズル列と前記第6ノズル列との間の前記主走査方向における距離と等しく、
前記第2ノズル列と前記第3ノズル列との間の前記主走査方向における距離は、前記第4ノズル列と前記第5ノズル列との間の前記主走査方向における距離と等しく、
前記第1組成物及び前記第6組成物は、同じ組成物であり、
前記第2組成物及び前記第5組成物は、同じ組成物であり、
前記第3組成物及び前記第4組成物は、同じ組成物であり、
顔料と、樹脂粒子とを含有するインク組成物を吐出して前記記録媒体に付着させるインク付着工程と、
前記インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含有する反応液組成物を吐出して前記記録媒体に付着させる反応液付着工程と、
を有し、
前記第1組成物、前記第2組成物及び前記第3組成物のうち、前記反応液組成物にあたる組成物を吐出するノズル列は、それぞれ又は1つの独立したインクジェットヘッドに備えられた。
【0009】
本発明に係るインクジェット記録装置の一態様は、
記録媒体が搬送される副走査方向に延びる第1ノズル列、第2ノズル列、第3ノズル列、第4ノズル列、第5ノズル列及び第6ノズル列が前記副走査方向に交差する主走査方向にこの順で配置されたキャリッジを有し、
前記主走査方向に往復走査して、往路及び復路の両方で、前記第1ノズル列、前記第2ノズル列、前記第3ノズル列、前記第4ノズル列、前記第5ノズル列及び前記第6ノズル列からそれぞれ第1組成物、第2組成物、第3組成物、第4組成物、第5組成物及び第6組成物を吐出して記録を行うインクジェット記録装置であって、
前記第1ノズル列と前記第3ノズル列との間の前記主走査方向における距離は、前記第4ノズル列と前記第6ノズル列との間の前記主走査方向における距離と等しく、
前記第2ノズル列と前記第3ノズル列との間の前記主走査方向における距離は、前記第4ノズル列と前記第5ノズル列との間の前記主走査方向における距離と等しく、
前記第1組成物及び前記第6組成物は、同じ組成物であり、
前記第2組成物及び前記第5組成物は、同じ組成物であり、
前記第3組成物及び前記第4組成物は、同じ組成物であり、
前記第1組成物、前記第2組成物及び前記第3組成物のいずれかが、凝集剤を含有する反応液組成物であり、
前記第1組成物、前記第2組成物及び前記第3組成物のうち、前記反応液組成物にあたる組成物を吐出するノズル列が、それぞれ又は1つの独立したインクジェットヘッドに備えられた。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】シリアル型のインクジェット記録装置に備えられたキャリッジの一例を示す模式図。
【
図2】実施形態のインクジェット記録方法を実施できるインクジェット記録装置の一例であるプリンターの概略断面図。
【
図3】
図2のプリンターが備える支持台とインクジェットヘッドとメンテナンス機構との位置関係を模式的に示す平面図。
【
図6】実施例及び比較例で用いた反応液組成物、インク組成物及び栗安喰組成物の組成を示す表1。
【
図7】実施例及び比較例で用いたインクジェットヘッド、ノズル列及び吐出組成物を模式的に示す図。
【
図8】比較例で用いたインクジェットヘッド、ノズル列及び吐出組成物を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお、以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0012】
1.インクジェット記録方法
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、記録媒体が搬送される副走査方向に延びる第1ノズル列、第2ノズル列、第3ノズル列、第4ノズル列、第5ノズル列及び第6ノズル列が前記副走査方向に交差する主走査方向にこの順で配置されたキャリッジを、前記主走査方向に往復走査して、往路及び復路の両方で、前記第1ノズル列、前記第2ノズル列、前記第3ノズル列、前記第4ノズル列、前記第5ノズル列及び前記第6ノズル列からそれぞれ第1組成物、第2組成物、第3組成物、第4組成物、第5組成物及び第6組成物を吐出して記録を行うインクジェット記録方法である。
【0013】
そして、本実施形態に係るインクジェット記録方法では、前記第1ノズル列と前記第3ノズル列との間の前記主走査方向における距離は、前記第4ノズル列と前記第6ノズル列との間の前記主走査方向における距離と等しく、前記第2ノズル列と前記第3ノズル列との間の前記主走査方向における距離は、前記第4ノズル列と前記第5ノズル列との間の前記主走査方向における距離と等しく、前記第1組成物及び前記第6組成物は、同じ組成物であり、前記第2組成物及び前記第5組成物は、同じ組成物であり、前記第3組成物及び前記第4組成物は、同じ組成物である。
【0014】
さらに、本実施形態に係るインクジェット記録方法は、顔料と、樹脂粒子とを含有するインク組成物を吐出して前記記録媒体に付着させるインク付着工程と、前記インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含有する反応液組成物を吐出して前記記録媒体に付着させる反応液付着工程と、を有する。
【0015】
さらに、本実施形態に係るインクジェット記録方法では、前記第1組成物、前記第2組成物及び前記第3組成物のうち、前記反応液組成物にあたる組成物を吐出するノズル列は、それぞれ又は1つの独立したインクジェットヘッドに備えられている。
【0016】
1.1.ノズル列とキャリッジ
本実施形態のインクジェット記録方法では、キャリッジに搭載された少なくとも6つのノズル列から、少なくとも3種類の組成物をそれぞれ吐出して、キャリッジが主走査方向に往復走査して、往路及び復路の両方で、吐出して記録が行われる。そして、往路及び復路の両方で、組成物の吐出順及び吐出タイミングが同じとなるように記録が行われる。
【0017】
本明細書では、記録媒体の搬送される方向に沿う方向をY方向とし副走査方向ともいう。また、記録媒体が搬送される方向を+Y方向とし、図面では矢印の先端に向かう方向とする。また、Y方向に交差する方向をX方向とし主走査方向という。副走査方向と主走査方向とは、必ずしも直交しなくてもよいが、説明や図においては、直交する場合を例示する。
【0018】
まず、
図1を参照して、本実施形態のインクジェット記録方法を実行できるノズル列とキャリッジの態様について説明する。
図1は、シリアル型のインクジェット記録装置に備えられたキャリッジとキャリッジに配置されるノズル列群の一例を示す模式図である。
【0019】
図1に示すキャリッジ100には、副走査方向(Y方向)に延びる第1ノズル列101、第2ノズル列102、第3ノズル列103、第4ノズル列104、第5ノズル列105及び第6ノズル列106が副走査方向に交差(直交)する主走査方向(-X方向)にこの順で配置されている。
【0020】
また、第1ノズル列101と第3ノズル列103との間の主走査方向における距離d1-3は、第4ノズル列104と第6ノズル列106との間の主走査方向における距離d4-6と等しく、第2ノズル列102と第3ノズル列103との間の主走査方向における距離d2-3は、第4ノズル列104と第5ノズル列105との間の主走査方向における距離d4-5と等しくなるように配置されている。
【0021】
さらに、第1ノズル列101、第2ノズル列102、第3ノズル列103、第4ノズル列104、第5ノズル列105及び第6ノズル列106からそれぞれ第1組成物、第2組成物、第3組成物、第4組成物、第5組成物及び第6組成物が吐出されるように構成され、第1組成物及び第6組成物は、同じ組成物であり、第2組成物及び第5組成物は、同じ組成物であり、第3組成物及び第4組成物は、同じ組成物となっている。
【0022】
このように構成することにより、キャリッジ100が主走査方向に往復しながら各ノズル列から各組成物を吐出する場合に、往路と復路とで、各組成物の吐出順及び吐出タイミングが同じとなる。換言すると、キャリッジ100が主走査方向に一定速度で往復しながら各ノズル列から各組成物を記録媒体に付着させる場合に、往路と復路とで、各組成物が記録媒体に着弾する順番及び着弾のタイミングが同じとなる。
【0023】
一方、本実施形態のインクジェット記録方法では、後述する反応液組成物を記録媒体に付着させる。かかる反応液組成物は、第1組成物、第2組成物及び第3組成物のうちのいずれかである。例えば、第3組成物が反応液組成物である場合、第3ノズル列103及び第4ノズル列104から反応液組成物が吐出される。この場合、第3ノズル列103及び第4ノズル列104は、それぞれ又は1つの独立したインクジェットヘッドに形成される。また例えば、第1組成物が反応液組成物である場合、第1ノズル列101及び第6ノズル列106から反応液組成物が吐出される。この場合、第1ノズル列101及び第6ノズル列106は、それぞれ独立したインクジェットヘッドに形成される。なお、第2組成物が反応液組成物である場合も同様に、第2ノズル列102及び第5ノズル列105は、それぞれ独立したインクジェットヘッドに形成される。
【0024】
図1の例では、第3ノズル列103及び第4ノズル列104が、1つの独立したインクジェットヘッド200に形成されることを示している。ノズル列は、いずれのインクジェットヘッドに属してもよいが、反応液組成物を吐出するノズル列は、独立したインクジェットヘッドに属するように構成される。
【0025】
後述するが、インクジェットヘッドは、フラッシング等のメンテナンスのためにキャップが勘合されて吐出する組成物を吸引排出する場合がある。この際、反応液組成物を吐出するノズル列が、反応液組成物によって凝集する成分を含む組成物を吐出するノズル列と同じインクジェットヘッドに形成されると、廃液において成分の凝集が生じ、廃液管の詰まりなどが生じやすい。しかし上記のように構成することで、廃液における不具合を低減できる。
【0026】
また、反応液組成物を吐出するノズル列を、独立したインクジェットヘッドに属するように構成することで、反応液組成物又は反応液組成物によって凝集する成分を含む他の組成物を吐出する際に生じるミストが、ノズル間の距離が離れることにより干渉しにくくな
り、ノズルの目詰まり等の不具合を抑制できる。
【0027】
図1に例示したノズル列やインクジェットヘッドの構成は、一例であり、その他に例えば、ノズル列の数、インクジェットヘッドの数などについて適宜に変更できる。例えばより多くのノズル列が存在する場合に、それらのノズル列の中から、上記の条件を満たす第1~第6ノズル列が選択できれば、同様の効果を得ることができる。また、インクジェットヘッドの数についても、反応液組成物を吐出するノズル列が、独立したインクジェットヘッドに属するように構成すれば、上記の効果を得ることができる。
【0028】
他方、
図1において、第1ノズル列101及び第2ノズル列102を、一のインクジェットヘッドに形成し、第3ノズル列103及び第4ノズル列104を、一のインクジェットヘッドに形成し、第5ノズル列105及び第6ノズル列106を、一のインクジェットヘッドに形成してもよい。このようにすれば、キャリッジ100におけるインクジェットヘッドの配置を主走査方向において短くできるので、キャリッジ100の幅を小さくでき、装置をより小型化できる。
【0029】
また、
図1の例では、第1ノズル列101~第6ノズル列106までの偶数個のノズル列を備えた例を左右対称として示したが、ノズル列の数が奇数である場合においても、中央に位置するノズル列を中心に、位置及び吐出する組成物を左右対称に構成できることは理解されよう。さらに、左右対称のノズル列を含む構成は、同様の構成を1つ以上、副走査方向に並べて配置できる。この場合において、副走査方向に並べたノズル列を含めて、1つのインクジェットヘッドに配置してもよい。このような場合であっても、反応液組成物を吐出するノズル列は、それぞれ又は1つの独立したインクジェットヘッドに形成される。
【0030】
さらに、6以上の数のノズル列が配置される場合には、組成物を吐出しないノズル列が存在してもよい。そのような場合であっても、配置や吐出される組成物が左右対称となっていれば同様の効果を得ることができる。
【0031】
1.2.インク付着工程
本実施形態のインクジェット記録方法は、インク付着工程を有する。インク付着工程は、インク組成物を記録媒体へ付着させる工程である。以下、インク組成物の説明を行う。記録媒体への付着の手法等については後述する。
【0032】
1.2.1.インク組成物
インク組成物は、顔料と、樹脂粒子と、を少なくとも含有する。
【0033】
1.2.1.(1)顔料
インク組成物は、顔料を含有する、いわゆるカラーインクである。インク組成物に含有される顔料としては、例えば、シアン、イエロー、マゼンタ、ブラック、レッド、グリーン、オレンジなどのカラー顔料、ホワイトなどの特色顔料とすることができる。
【0034】
顔料は、混合物であってもよい。顔料は、耐光性、耐候性、耐ガス性などの保存安定性に優れ、さらにその観点から有機顔料であることが好ましい。
【0035】
具体的には、顔料は、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料などのアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料などの多環式顔料、染料キレート、染色レーキ、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料、カーボンブラックなどが用いられる。上記顔料は、
1種単独でも、2種以上併用して用いることもできる。さらに、顔料として、白色顔料、光輝性顔料などを用いてもよい。
【0036】
顔料の具体例としては、特に限定されないが、例えば、以下のものが挙げられる。
【0037】
ブラック顔料としては、例えば、Bonjetblack CW-1(オリエント化学工業社製)、No.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B等(以上、三菱化学社(Mitsubishi Chemical Corporation)製)、Raven 5750、Raven 5250、Raven 5000、Raven 3500、Raven 1255、Raven 700等(以上、コロンビアカーボン(Carbon Columbia)社製)、Rega1 400R、Rega1 330R、Rega1 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、Monarch 1400等(キャボット社(CABOT JAPAN K.K.)製)、Color Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color B1ack S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex
140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、Special Black 4(以上、デグッサ(Degussa)社製)が挙げられる。
【0038】
イエロー顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー 1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、167、172、180が挙げられる。
【0039】
マゼンタ顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、又はC.I.ピグメントバイオレット 19、23、32、33、36、38、43、50が挙げられる。
【0040】
シアン顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、15:4、16、18、22、25、60、65、66、C.I.バットブルー 4、60が挙げられる。
【0041】
また、マゼンタ、シアン、及びイエロー以外の顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメント グリーン 7,10、C.I.ピグメントブラウン 3,5,25,26、C.I.ピグメントオレンジ 1,2,5,7,13,14,15,16,24,34,36,38,40,43,63が挙げられる。
【0042】
白色顔料としては、例えば、金属酸化物、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の金属化合
物が挙げられる。金属酸化物としては、例えば二酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム等が挙げられる。また、白色顔料には、中空構造を有する粒子を用いてもよく、中空構造を有する粒子としては、公知のものを用いることができる。
【0043】
顔料は、分散媒中に安定的に分散できることが好適であり、そのために分散剤を使用して分散させてもよい。分散剤としては、樹脂分散剤等が挙げられ、インク組成物中での顔料の分散安定性を良好とできるものから選択される。また、顔料は、例えば、オゾン、次亜塩素酸、発煙硫酸等により、顔料表面を酸化、あるいはスルホン化して顔料粒子の表面を修飾することにより、自己分散型の顔料として使用してもよい。自己分散顔料は、分散剤等により分散された顔料ではなく分散剤等によらずに分散できる自己分散型の顔料である。インク組成物に含有される自己分散顔料としては、例えば、ブラック、シアン、イエロー、マゼンタ、レッド、グリーン、オレンジなどのカラー顔料、ホワイトなどの特色顔料であって、適宜の処理により自己分散できる顔料とすることができる。
【0044】
樹脂分散剤(分散剤樹脂)としては、ポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸-アクリルニトリル共重合体、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル-(メタ)アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン-(メタ)アクリル酸共重合体等の(メタ)アクリル系樹脂及びその塩;スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体等のスチレン系樹脂及びその塩;イソシアネート基とヒドロキシル基とが反応したウレタン結合を含む高分子化合物(樹脂)であって直鎖状及び/又は分岐状であってもよく、架橋構造の有無を問わないウレタン系樹脂及びその塩;ポリビニルアルコール類;ビニルナフタレン-マレイン酸共重合体及びその塩;酢酸ビニル-マレイン酸エステル共重合体及びその塩;並びに;酢酸ビニル-クロトン酸共重合体及びその塩等の水溶性樹脂を挙げることができる。これらの中でも、疎水性官能基を有するモノマーと親水性官能基を持つモノマーとの共重合体、疎水性官能基と親水性官能基とを併せ持つモノマーからなる重合体が好ましい。共重合体の形態としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体のいずれの形態でも用いることができる。
【0045】
スチレン系樹脂分散剤の市販品としては、例えば、X-200、X-1、X-205、X-220、X-228(星光PMC社製)、ノプコスパース(登録商標)6100、6110(サンノプコ株式会社製)、ジョンクリル67、586、611、678、680、682、819(BASF社製)、DISPERBYK-190(ビックケミー・ジャパン株式会社製)、N-EA137、N-EA157、N-EA167、N-EA177、N-EA197D、N-EA207D、E-EN10(第一工業製薬製)等が挙げられる。
【0046】
また、アクリル系樹脂分散剤の市販品としては、BYK-187、BYK-190、BYK-191、BYK-194N、BYK-199(ビックケミー株式会社製)、アロンA-210、A6114、AS-1100、AS-1800、A-30SL、A-7250、CL-2東亜合成株式会社製)等が挙げられる。
【0047】
さらに、ウレタン系樹脂分散剤の市販品としては、BYK-182、BYK-183、BYK-184、BYK-185(ビックケミー株式会社製)、TEGO Disperse710(Evonic Tego Chemi社製)、Borchi(登録商標)Gen1350(OMG Borschers社製)等が挙げられる。
【0048】
分散剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。分散剤の合計の含有量は、顔料50質量部に対して、0.1質量部以上30質量部以下が好ましく、より好ましくは0.5質量部以上25質量部以下、さらにより好ましくは1質量部以上20質量部以下、よりさらに好ましくは1.5質量部以上15質量部以下である。分散剤の含有量が顔料50質量部に対して0.1質量部以上であることにより、顔料の分散安定性をさらに高めることができる。また、分散剤の含有量が顔料50質量部に対して30質量部以下であれば、得られる分散体の粘度を小さく抑えることができる。
【0049】
上記例示した分散剤のなかでも、アニオン性の分散剤樹脂から選択される少なくとも一種であることがさらに好ましい。またこの場合、分散剤の重量平均分子量は、500以上であることがさらに好ましい。さらには5000以上100000以下が好ましく、10000以上50000以下がより好ましい。
【0050】
分散剤としてこのような樹脂分散剤を用いることにより、顔料の分散及び凝集性がより良好となり、さらに良好な分散安定性及びさらに良好な画質の画像を得ることができる。
【0051】
アニオン性の分散剤樹脂は、樹脂がアニオン性官能基を有し、アニオン性を示す樹脂である。アニオン性官能基としては、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基などが挙げられる。これらの基に中でもカルボキシル基がより好ましい。
【0052】
分散剤樹脂は酸価を有することが好ましく、酸価が5mgKOH/g以上が好ましく、10~200mgKOH/gがより好ましく、15~150mgKOH/gがさらに好ましい。さらに20~100mgKOH/gが好ましく、25~70mgKOH/gがさらに好ましい。
【0053】
酸価は、JIS K0070に従って、中和電位差滴定法で測定することができる。滴定装置として、例えば、京都電子工業社製の「AT610」を用いることができる。
【0054】
顔料の含有量は、インク組成物の全質量に対して、好ましくは0.3質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上15質量%以下である。さらには、1質量%以上10質量%以下が好ましく、2質量%以上7質量%以下がより好ましい。
【0055】
また、顔料粒子の体積平均粒子径は、10nm以上300nm以下が好ましく、30nm以上250nm以下がより好ましく、50nm以上250nm以下がさらに好ましく、70nm以上200nm以下が特に好ましい。さらには、80nm以上150nm以下が好ましい。
【0056】
1.2.1.(2)樹脂粒子
インク組成物は、樹脂粒子を含有する。樹脂粒子は、記録媒体に付着させたインク組成物による画像の密着性などをさらに向上させることができる。樹脂粒子としては、例えば、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂(スチレンアクリル系樹脂を含む)、フルオレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ロジン変性樹脂、テルペン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エチレン酢酸ビニル系樹脂等からなる樹脂粒子のうち、アニオン性を有するものが挙げられる。なかでも、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオフレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂が好ましい。これらの樹脂粒子は、エマルジョン形態で取り扱われることが多いが、粉体の性状であってもよい。また、樹脂粒子は1種単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0057】
これらの中でも樹脂粒子は、ウレタン樹脂であることがより好ましい。ウレタン樹脂を
選択すると、さらに摩擦堅牢性の良好な画像を形成できる。
【0058】
ウレタン系樹脂とは、ウレタン結合を有する樹脂の総称である。ウレタン系樹脂には、ウレタン結合以外に、主鎖にエーテル結合を含むポリエーテル型ウレタン樹脂、主鎖にエステル結合を含むポリエステル型ウレタン樹脂、主鎖にカーボネート結合を含むポリカーボネート型ウレタン樹脂等を使用してもよい。また、ウレタン系樹脂として、市販品を用いてもよく、例えば、スーパーフレックス 460、460s、840、E-4000(商品名、第一工業製薬株式会社製)、レザミン D-1060、D-2020、D-4080、D-4200、D-6300、D-6455(商品名、大日精化工業株式会社製)、タケラック WS-6021、W-512-A-6(商品名、三井化学ポリウレタン株式会社製)、サンキュアー2710(商品名、LUBRIZOL社製)、パーマリンUA-150(商品名、三洋化成工業社製)などの市販品を用いてもよい。
【0059】
アクリル系樹脂は、少なくとも(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルなどのアクリル系単量体を1成分として重合して得られる重合体の総称であって、例えば、アクリル系単量体から得られる樹脂や、アクリル系単量体とこれ以外の単量体との共重合体などが挙げられる。例えばアクリル系単量体とビニル系単量体との共重合体であるアクリル-ビニル系樹脂などが挙げられる。また例えば、ビニル系単量体としては、スチレンなどが挙げられる。
【0060】
アクリル系単量体としてはアクリルアミド、アクリロニトリル等も使用可能である。アクリル系樹脂を原料とする樹脂エマルジョンには、市販品を用いてもよく、例えばFK-854(商品名、中央理科工業社製)、モビニール952B、718A、6760(商品名、日本合成化学工業社製)、NipolLX852、LX874(商品名、日本ゼオン社製)等の中から選択して用いてもよい。
【0061】
なお、本明細書において、アクリル系樹脂は、後述するスチレン・アクリル系樹脂であってもよい。また、本明細書において、(メタ)アクリルとの表記は、アクリル及びメタクリルの少なくとも一方を意味する。
【0062】
スチレン・アクリル系樹脂は、スチレン単量体と(メタ)アクリル系単量体とから得られる共重合体であり、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。スチレン・アクリル系樹脂には、市販品を用いても良く、例えば、ジョンクリル62J、7100、390、711、511、7001、632、741、450、840、74J、HRC-1645J、734、852、7600、775、537J、1535、PDX-7630A、352J、352D、PDX-7145、538J、7640、7641、631、790、780、7610(商品名、BASF社製)、モビニール966A、975N(商品名、日本合成化学工業社製)、ビニブラン2586(日信化学工業社製)等を用いてもよい。
【0063】
ポリオレフィン系樹脂は、エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィンを構造骨格に有するものであり、公知のものを適宜選択して用いることができる。オレフィン樹脂としては、市販品を用いることができ、例えばアローベースCB-1200、CD-1200(商品名、ユニチカ株式会社製)等を用いてもよい。
【0064】
また、樹脂粒子は、エマルジョンの形態で供給されてもよく、そのような樹脂エマルジョンの市販品の例としては、マイクロジェルE-1002、E-5002(日本ペイント社製商品名、スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン)、ボンコート4001(DIC社
製商品名、アクリル系樹脂エマルジョン)、ボンコート5454(DIC社製商品名、スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン)、ポリゾールAM-710、AM-920、AM-2300、AP-4735、AT-860、PSASE-4210E(アクリル系樹脂エマルジョン)、ポリゾールAP-7020(スチレン・アクリル樹脂エマルジョン)、ポリゾールSH-502(酢酸ビニル樹脂エマルジョン)、ポリゾールAD-13、AD-2、AD-10、AD-96、AD-17、AD-70(エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン)、ポリゾールPSASE-6010(エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン)(昭和電工社製商品名)、ポリゾールSAE1014(商品名、スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン、日本ゼオン社製)、サイビノールSK-200(商品名、アクリル系樹脂エマルジョン、サイデン化学社製)、AE-120A(JSR社製商品名、アクリル樹脂エマルジョン)、AE373D(イーテック社製商品名、カルボキシ変性スチレン・アクリル樹脂エマルジョン)、セイカダイン1900W(大日精化工業社製商品名、エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン)、ビニブラン2682(アクリル樹脂エマルジョン)、ビニブラン2886(酢酸ビニル・アクリル樹脂エマルジョン)、ビニブラン5202(酢酸アクリル樹脂エマルジョン)(日信化学工業社製商品名)、エリーテルKA-5071S、KT-8803、KT-9204、KT-8701、KT-8904、KT-0507(ユニチカ社製商品名、ポリエステル樹脂エマルジョン)、ハイテックSN-2002(東邦化学社製商品名、ポリエステル樹脂エマルジョン)、タケラックW-6020、W-635、W-6061、W-605、W-635、W-6021(三井化学ポリウレタン社製商品名、ウレタン系樹脂エマルジョン)、スーパーフレックス870、800、150、420、460、470、610、700(第一工業製薬社製商品名、ウレタン系樹脂エマルジョン)、パーマリンUA-150(三洋化成工業株式会社製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、サンキュアー2710(日本ルーブリゾール社製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、NeoRez R-9660、R-9637、R-940(楠本化成株式会社製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、アデカボンタイター HUX-380,290K(株式会社ADEKA製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、モビニール966A、モビニール7320(日本合成化学株式会社製)、ジョンクリル7100、390、711、511、7001、632、741、450、840、74J、HRC-1645J、734、852、7600、775、537J、1535、PDX-7630A、352J、352D、PDX-7145、538J、7640、7641、631、790、780、7610(以上、BASF社製)、NKバインダーR-5HN(新中村化学工業株式会社製)、ハイドランWLS-210(非架橋性ポリウレタン:DIC株式会社製)、ジョンクリル7610(BASF社製)等の中から選択して用いてもよい。
【0065】
インク組成物の樹脂粒子の含有量は、インク組成物の全質量に対して、固形分として、0.1質量%以上20質量%以下、好ましくは1質量%以上15質量%以下、より好ましくは3質量%以上7質量%以下、特に好ましくは3質量%以上5質量%以下である。
【0066】
1.2.1.(3)その他の成分
インク組成物は、以下の成分を含有してもよい。
【0067】
(水)
インク組成物は、水を含んでもよい。水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、及び蒸留水等の純水、並びに超純水のような、イオン性不純物を極力除去したものが挙げられる。また、紫外線照射又は過酸化水素の添加等によって滅菌した水を用いると、組成物を長期保存する場合に細菌類や真菌類の発生を低減することができる。
【0068】
水の含有量は、インク組成物の総量に対して、30質量%以上、好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは45質量%以上であり、さらに好ましくは50質量%以上である。なおインク組成物中の水というときには、例えば、原料物質に含まれる結晶水や添
加する水を含むものとする。水の含有量が30質量%以上であることにより、インク組成物を比較的低粘度とすることができる。また、水の含有量の上限は、インク組成物の総量に対して、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは85質量%以下であり、さらに好ましくは80質量%以下である。なお、本明細書において「水系組成物」という場合には、組成物の全質量(100質量%)に対して、水を30質量%以上含有する組成物のことを指す。
【0069】
(有機溶剤)
本実施形態に係る記録方法で用いるインク組成物は、有機溶剤を含有してもよい。有機溶剤は水溶性を有することが好ましい。有機溶剤の機能の一つは、布帛に対するインク組成物の濡れ性を向上させることや、インク組成物の保湿性を高めることが挙げられる。また、有機溶剤は、浸透剤としても機能できる。
【0070】
有機溶剤としては、エステル類、アルキレングリコールエーテル類、環状エステル類、含窒素溶剤、多価アルコール等を挙げることができる。含窒素溶剤としては環状アミド類、非環状アミド類などを挙げることができる。非環状アミド類としてはアルコキシアルキルアミド類などが挙げられる。
【0071】
エステル類としては、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のグリコールモノアセテート類、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート等のグリコールジエステル類が挙げられる。
【0072】
アルキレングリコールエーテル類としては、アルキレングリコールのモノエーテル又はジエーテルであればよく、アルキルエーテルが好ましい。具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル類、及び、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、等のアルキレングリコールジアルキルエーテル類が挙げられる。
【0073】
環状エステル類としては、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、β-ブチロラクトン等の環状エステル類(ラクトン類)、並びに、それらのカルボニル基に隣接するメチレン基の水素が炭素数1~4のアルキル基によって置換された化合物を挙げることができる。
【0074】
アルコキシアルキルアミド類としては、例えば、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-n-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-n-ブトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-n-ブトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド等を例示することができる。
【0075】
環状アミド類としては、ラクタム類が挙げられ、例えば、2-ピロリドン、1-メチル-2-ピロリドン、1-エチル-2-ピロリドン、1-プロピル-2-ピロリドン、1-ブチル-2-ピロリドン、等のピロリドン類などが挙げられる。
【0076】
また、アルコキシアルキルアミド類として、下記一般式(1)で表される化合物を用いることも好ましい。
【0077】
R1-O-CH2CH2-(C=O)-NR2R3 ・・・(1)
【0078】
上記式(1)中、R1は、炭素数1以上4以下のアルキル基を示し、R2及びR3は、それぞれ独立にメチル基又はエチル基を示す。「炭素数1以上4以下のアルキル基」は、直鎖状又は分岐状のアルキル基であることができ、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基であることができる。上記式(1)で表される化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0079】
含窒素溶剤の機能としては、例えば、布帛上に付着させたインク組成物の表面乾燥性及び定着性を高めることが挙げられる。
【0080】
含窒素溶剤の含有量は、インク組成物の全質量に対して、特に限定されないが、5質量%以上50質量%以下程度であり、10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。含有量が上記範囲にあることで、画像の定着性及び表面乾燥性(特に高温多湿環境下で記録された場合の表面乾燥性)を一層向上できる場合がある。
【0081】
多価アルコールとしては、1,2-アルカンジオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール(別名:プロパン-1,2-ジオール)、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,2-オクタンジオール等のアルカンジオール類)、1,2-アルカンジオールを除く多価アルコール(ポリオール類)(例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール(別名:1,3-ブチレングリコール)、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン等)等が挙げられる。
【0082】
多価アルコール類は、アルカンジオール類とポリオール類を挙げることができる。アルカンジオール類は、炭素数5以上のアルカンのジオールである。アルカンの炭素数は好ましくは5~15であり、より好ましくは6~10であり、更に好ましくは6~8である。好ましくは1,2-アルカンジオールである。
【0083】
ポリオール類は炭素数4以下のアルカンのポリオールか、炭素数4以下のアルカンのポリオールの水酸基同士の分子間縮合物である。アルカンの炭素数は好ましくは2~3である。ポリオール類の分子中の水酸基数は2以上であり、好ましくは5以下であり、より好ましくは3以下である。ポリオール類が上記の分子間縮合物である場合、分子間縮合数は2以上であり、好ましくは4以下であり、より好ましくは3以下である。多価アルコール類は、1種単独か又は2種以上を混合して使用することができる。
【0084】
アルカンジオール類及びポリオール類は、主に浸透溶剤及び/又は保湿溶剤として機能することができる。しかし、アルカンジオール類は浸透溶剤としての性質が強い傾向があり、ポリオール類は保湿溶剤としての性質が強い傾向がある。
【0085】
インク組成物が有機溶剤を含む場合、有機溶剤を一種単独で用いてもよいし、二種以上
を併用してもよい。また、有機溶剤の、インク組成物全質量に対する合計の含有量は、例えば、5質量%以上50質量%以下であり、10質量%以上45質量%以下が好ましく、15質量%以上40質量%以下がより好ましく、20質量%以上40質量%以下がさらに好ましい。有機溶剤の含有量が上記範囲内にあることで、濡れ拡がり性と乾燥性のバランスがさらによく、さらに高画質な画像を形成しやすい。
【0086】
有機溶剤としては、多価アルコールを含むことが好ましく、標準沸点250℃以上の多価アルコールを含むことがより好ましい。標準沸点250℃以上の多価アルコールの含有量は、インク組成物の総量に対して1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましく、13質量%以上であることがよりさらに好ましく、15質量%以上であることが特に好ましい。上限は特に制限されないが、40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、25質量%以下であることがよりさらに好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。標準沸点250℃以上の多価アルコールの含有量が上記範囲内にあると、保湿性と乾燥性のバランスに優れ、間欠印字安定性と摩擦堅牢性を共に良好とできる傾向にある。
【0087】
(界面活性剤)
インク組成物は、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤は、インク組成物の表面張力を調節し、例えば布帛との濡れ性等を調整する機能を備える。界面活性剤の中でも、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、及びフッ素系界面活性剤を好ましく用いることができる。
【0088】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、サーフィノール104、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG-50、104S、420、440、465、485、SE、SE-F、504、61、DF37、CT111、CT121、CT131、CT136、TG、GA、DF110D(以上全て商品名、エア・プロダクツ&ケミカルズ社製)、オルフィンB、Y、P、A、STG、SPC、E1004、E1010、PD-001、PD-002W、PD-003、PD-004、EXP.4001、EXP.4036、EXP.4051、AF-103、AF-104、AK-02、SK-14、AE-3(以上全て商品名、日信化学工業社製)、アセチレノールE00、E00P、E40、E100(以上全て商品名、川研ファインケミカル社製)が挙げられる。
【0089】
シリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリシロキサン系化合物が好ましく挙げられる。当該ポリシロキサン系化合物としては、特に限定されないが、例えばポリエーテル変性オルガノシロキサンが挙げられる。当該ポリエーテル変性オルガノシロキサンの市販品としては、例えば、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-348(以上商品名、ビックケミー・ジャパン社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(以上商品名、信越化学工業社製)、シルフェイスSAG002、005、503A、008(以上商品名、日信化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0090】
フッ素系界面活性剤としては、フッ素変性ポリマーを用いることが好ましく、具体例としては、BYK-3440(ビックケミー・ジャパン社製)、サーフロンS-241、S-242、S-243(以上商品名、AGCセイミケミカル社製)、フタージェント215M(ネオス社製)等が挙げられる。
【0091】
インク組成物に界面活性剤を含有させる場合には、複数種を含有させてもよい。インク組成物に界面活性剤を含有させる場合の含有量は、インク組成物の全質量に対して、0.1質量%以上2質量%以下、好ましくは0.4質量%以上1.5質量%以下、より好ましくは、0.5質量%以上1.0質量%以下とすることができる。
【0092】
(ワックス)
インク組成物は、ワックスを含有してもよい。ワックスは、インク組成物による画像に滑沢を付与する機能を備えるので、インク組成物による画像の剥がれ等を低減できる。
【0093】
ワックスを構成する成分としては、例えばカルナバワックス、キャンデリワックス、みつろう、ライスワックス、ラノリン等の植物・動物系ワックス;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ペトロラタム等の石油系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト等の鉱物系ワックス;カーボンワックス、ヘキストワックス、ポリオレフィンワックス、ステアリン酸アミド等の合成ワックス類、α-オレフィン・無水マレイン酸共重合体等の天然・合成ワックスエマルジョンや配合ワックス等を単独あるいは複数種を混合して用いることができる。これらの中でも、後述する軟包装フィルムに対する定着性を高める効果により優れるという観点から、ポリオレフィンワックス(特に、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス)及びパラフィンワックスを用いることが好ましい。
【0094】
ワックスとしては市販品をそのまま利用することもでき、例えば、ノプコートPEM-17(商品名、サンノプコ株式会社製)、ケミパールW4005(商品名、三井化学株式会社製)、AQUACER515、539、593(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0095】
ワックスは、エマルジョンあるいはサスペンションの形態で供給されてもよい。ワックスを用いる場合、その含有量は、インク組成物の全質量に対して、固形分換算で0.1質量%以上10質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上5質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以上2質量%以下である。ワックスの含有量が上記範囲内にあると、上記ワックスの機能を良好に発揮できる。
【0096】
(添加剤)
インク組成物は、添加剤として、尿素類、アミン類、糖類等を含有してもよい。尿素類としては、尿素、エチレン尿素、テトラメチル尿素、チオ尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等、及び、ベタイン類(トリメチルグリシン、トリエチルグリシン、トリプロピルグリシン、トリイソプロピルグリシン、N,N,N-トリメチルアラニン、N,N,N-トリエチルアラニン、N,N,N-トリイソプロピルアラニン、N,N,N-トリメチルメチルアラニン、カルニチン、アセチルカルニチン等)等が挙げられる。
【0097】
アミン類としては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。尿素類やアミン類は、pH調整剤として機能させてもよい。
糖類としては、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、及びマルトトリオース等が挙げられる。
【0098】
(pH調整剤)
本実施形態のインク組成物は、pHを調整する目的で、pH調整剤を添加することができる。pH調整剤としては、特に限定されないが、酸、塩基、弱酸、弱塩基の適宜の組み
合わせが挙げられる。そのような組み合わせに用いる酸、塩基の例としては、無機酸として、硫酸、塩酸、硝酸等、無機塩基として水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニア等が挙げられ、有機塩基として、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(THAM)等が挙げられ、有機酸として、アジピン酸、クエン酸、コハク酸、乳酸、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(BES)、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、モルホリノエタンスルホン酸(MES)、カルバモイルメチルイミノビス酢酸(ADA)、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)、N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)、コラミン塩酸、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸(TES)、アセトアミドグリシン、トリシン、グリシンアミド、ビシン等のグッドバッファー、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液等を用いてもよい。さらに、これらのうち、pH調整剤の一部又は全部として、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等の第三級アミン、及び、アジピン酸、クエン酸、コハク酸、乳酸等のカルボキシル基含有有機酸、が含まれることが、pH緩衝効果をより安定に得ることができるため好ましい。
【0099】
(尿素類)
インク組成物の保湿剤として、尿素類を使用してもよい。尿素類の具体例としては、尿素、エチレン尿素、テトラメチル尿素、チオ尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等が挙げられる。尿素類を含有する場合には、その含有量は、インク組成物の全質量に対して、1質量%以上10質量%以下とすることができる。
【0100】
(糖類)
インク組成物の固化、乾燥を抑制する目的で、糖類を使用してもよい。糖類の具体例としては、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、及びマルトトリオース等が挙げられる。
【0101】
(キレート化剤)
インク組成物中の不要なイオンを除去する目的で、キレート化剤を使用してもよい。キレート化剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸及びそれらの塩類(エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム塩、又は、エチレンジアミンのニトリロトリ酢酸塩、ヘキサメタリン酸塩、ピロリン酸塩、若しくはメタリン酸塩等)等が挙げられる。
【0102】
(防腐剤、防かび剤)
インク組成物は、防腐剤、防かび剤を使用してもよい。防腐剤、防かび剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2-ピリジンチオール-1-オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、プロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL-2、プロキセルIB、及びプロキセルTN(いずれもロンザジャパン社製、商品名)、4-クロロ-3-メチルフェノール(バイエル社のプリベントールCMK等)などが挙げられる。
【0103】
(防錆剤)
インク組成物は、防錆剤を使用してもよい。防錆剤の好ましい例としては、ベンゾトリアゾール、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモン、ジイソプロピルアンモニウムニトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムニトライト等が挙げられる。この中でも特にベンゾトリアゾールが好適である。
【0104】
(その他)
本実施形態に係る記録方法で使用するインク組成物は、さらに必要に応じて、粘度調整剤、酸化防止剤、防黴剤、酸化防止剤、酸素吸収剤、溶解助剤等の成分を含有してもよい。
【0105】
1.2.1.(4)インク組成物の物性及び製造
インク組成物は、記録媒体にインクジェット法により付着される点で、インク組成物の粘度は、20℃において、1.5mPa・s以上15mPa・s以下とすることが好ましく、1.5mPa・s以上7mPa・s以下とすることがより好ましく、1.5mPa・s以上5.5mPa・s以下とすることがより好ましい。インク組成物が、インクジェット法によって記録媒体に付着される場合、所定の画像を効率的に記録媒体に形成することが容易である。
【0106】
インク組成物は、記録媒体への濡れ拡がり性を適切なものとする観点から、25℃における表面張力は、40mN/m以下、好ましくは38mN/m以下、より好ましくは35mN/m以下である。また、表面張力は、20mN/m以上がこのましく、25mN/m以上がより好ましい。
【0107】
なお、表面張力の測定は、自動表面張力計CBVP-Z(協和界面科学社製)を用いて、25℃の環境下で白金プレートを組成物で濡らしたときの表面張力を確認することにより測定することができる。
【0108】
インク組成物は、前述した成分を任意の順序で混合し、必要に応じて濾過等をして不純物を除去することにより得られる。各成分の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。濾過方法としては、遠心濾過、フィルター濾過等を必要に応じて行なうことができる。
【0109】
1.2.2.インク組成物を記録媒体へ付着させる方法
インク付着工程は、インクジェットヘッドを記録媒体に対して走査しながらインク組成物を付着させる態様のインクジェット法によれば、どのような方式で行われてもよい。インクジェット法は、インクジェットヘッドを記録媒体の搬送方向と垂直方向に移動させて記録を行う主走査を行うものである。詳細は後述するが、インク組成物、反応液組成物は、同一の主走査により、記録媒体の同一の走査領域に対して付着される。
【0110】
インク付着工程におけるインク組成物の付着量は、5.0(mg/inch2)以上が好ましい。さらには、7.0(mg/inch2)以上が好ましく、9.0(mg/inch2)以上であることが好ましく、10.0(mg/inch2)以上であることがより好ましく、13.0(mg/inch2)以上がさらに好ましく、15.0(mg/inch2)以上であることがさらに好ましい。このようにすれば、さらに良好な発色性を有する有色画像を得ることができる。
【0111】
また、上限は、50.0(mg/inch2)以下が好ましく、40.0(mg/inch2)以下がより好ましく、25.0(mg/inch2)以下がさらに好ましい。
【0112】
上記のインク組成物の付着量は、本実施形態の記録方法において、反応液組成物とインク組成物とを重ねて付着させる記録領域におけるものである。また、該領域におけるインク組成物の最大の付着量を上記範囲としても良く好ましい。
【0113】
1.3.反応液付着工程
反応液付着工程は、反応液組成物を記録媒体へ付着させる工程である。以下、反応液組成物の説明を行う。記録媒体への付着の手法等については後述する。
【0114】
1.3.1.反応液組成物
反応液組成物は、インク組成物の成分を凝集させる凝集剤を少なくとも含有する。凝集剤は、インク組成物に含まれる顔料、インク組成物やクリアインク組成物に含まれ得る樹脂粒子などの成分と反応することで、顔料や樹脂粒子を凝集させる作用を有する。このような凝集により、例えば、顔料の発色を高めること、樹脂粒子の定着性を高めること、及び/又は、インクの粘度を高めることができる。
【0115】
1.3.1.(1)凝集剤
凝集剤としては、特に限定されるものではないが、金属塩、無機酸、有機酸、カチオン性化合物等が挙げられ、カチオン性化合物としては、カチオン性樹脂(カチオン性ポリマー)、カチオン性界面活性剤等を用いることができる。これらの中でも、金属塩としては多価金属塩が好ましく、カチオン性化合物としてはカチオン性樹脂が好ましい。そのため、凝集剤としては、多価金属塩、有機酸、及びカチオンポリマーから選ばれることが、得られる発色性、画質、耐擦性、光沢等がより優れる点で好ましい。
【0116】
金属塩としては好ましくは多価金属塩であるが、多価金属塩以外の金属塩も使用可能である。これらの凝集剤の中でも、インクに含まれる成分との反応性に優れるという点から、金属塩、及び有機酸から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。また、カチオン性化合物の中でも、処理液に対して溶解しやすいという点から、カチオン性樹脂を用いることが好ましい。また、凝集剤は複数種を併用することも可能である。
【0117】
多価金属塩とは、2価以上の金属イオンとアニオンから構成される化合物である。2価以上の金属イオンとしては、例えば、カルシウム、マグネシウム、銅、ニッケル、亜鉛、バリウム、アルミニウム、チタン、ストロンチウム、クロム、コバルト、鉄等のイオンが挙げられる。これらの多価金属塩を構成する金属イオンの中でも、インクの成分の凝集性に優れているという点から、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンの少なくとも一方であることが好ましい。
【0118】
多価金属塩を構成するアニオンとしては、無機イオン又は有機イオンである。すなわち、本発明における多価金属塩とは、無機イオン又は有機イオンと多価金属とからなるものである。このような無機イオンとしては、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、水酸化物イオン等が挙げられる。有機イオンとしては有機酸イオンが挙げられ、例えばカルボン酸イオンが挙げられる。
【0119】
なお、多価金属化合物はイオン性の多価金属塩であることが好ましく、特に、上記多価金属塩がマグネシウム塩、カルシウム塩である場合、処理液の安定性がより良好となる。また、多価金属の対イオンとしては、無機酸イオン、有機酸イオンのいずれでもよい。
【0120】
上記の多価金属塩の具体例としては、重質炭酸カルシウム及び軽質炭酸カルシウムといった炭酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、水酸化カルシウム、塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、塩化バリウム、炭酸亜鉛、硫化亜鉛、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、硝酸銅、ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、酢酸アルミニウム等が挙げられる。これらの多価金属塩は、1種単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。これらの中でも、水への十分な溶解性を確保でき、かつ、処理液による跡残りが低減する(跡が目立たなくなる)ため、ギ酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硝酸カルシウム
、及び塩化カルシウムのうち少なくともいずれかが好ましく、ギ酸カルシウム、硝酸カルシウムがより好ましい。なお、これらの金属塩は、原料形態において水和水を有していてもよい。
【0121】
多価金属塩以外の金属塩としてはナトリウム塩、カリウム塩などの一価の金属塩が挙げられ、例えば硫酸ナトリウム、硫酸カリウムなどが挙げられる。
【0122】
有機酸としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩等が好適に挙げられる。有機酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。有機酸の塩で金属塩であるものは上記の金属塩に含める。
【0123】
無機酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等が挙げられる。無機酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0124】
カチオン性樹脂(カチオンポリマー)としては、例えば、カチオン性のアクリル樹脂、カチオン性のウレタン系樹脂、カチオン性のオレフィン系樹脂、カチオン性のアミン系樹脂、カチオン性界面活性剤等が挙げられる。カチオン性ポリマーは好ましくは水溶性である。
【0125】
カチオン性のアクリル樹脂としては、市販品を用いることができ、例えば、第一工業製薬社のスーパーフレックス(登録商標)620,650、大原パラヂウム化学社のパラサーフUP-22、三洋化成工業社のパーマリン(登録商標)UC-20、ユニチカ社のアローベース(登録商標)CB-1200,CD-1200、日信化学工業社のビニブラン(登録商標)2687、ジャパンコーティングレジン社のMowinyl7820などが挙げられる。
【0126】
カチオン性のウレタン系樹脂としては、市販品を用いることができ、例えば、ハイドラン CP-7010、CP-7020、CP-7030、CP-7040、CP-7050、CP-7060、CP-7610(商品名、大日本インキ化学工業株式会社製)、スーパーフレックス 600、610、620、630、640、650(商品名、第一工業製薬株式会社製)、ウレタンエマルジョン WBR-2120C、WBR-2122C(商品名、大成ファインケミカル株式会社製)等を用いることができる。
【0127】
カチオン性のオレフィン樹脂は、エチレン、プロピレン等のオレフィンを構造骨格に有するものであり、公知のものを適宜選択して用いることができる。また、カチオン性のオレフィン樹脂は、水や有機溶媒等を含む溶媒に分散させたエマルジョン状態であってもよい。カチオン性のオレフィン樹脂としては、市販品を用いることができ、例えば、アローベースCB-1200、CD-1200(商品名、ユニチカ株式会社製)等が挙げられる。
【0128】
カチオン性のアミン系樹脂(カチオン性ポリマー)としては、構造中にアミノ基を有するものであればよく、公知のものを適宜選択して用いることができる。例えば、ポリアミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリルアミン樹脂などが挙げられる。ポリアミン樹脂は樹脂の主骨格中にアミノ基を有する樹脂である。ポリアミド樹脂は樹脂の主骨格中にアミド基を有する樹脂である。ポリアリルアミン樹脂は樹脂の主骨格中にアリル基に由来する構造を有する樹脂である。
【0129】
また、カチオン性のポリアミン系樹脂としては、センカ株式会社製のユニセンスKHE103L(ヘキサメチレンジアミン/エピクロルヒドリン樹脂、1%水溶液のpH約5.0、粘度20~50(mPa・s)、固形分濃度50質量%の水溶液)、ユニセンスKHE104L(ジメチルアミン/エピクロルヒドリン樹脂、1%水溶液のpH約7.0、粘度1~10(mPa・s)、固形分濃度20質量%の水溶液)などを挙げることができる。さらにカチオン性のポリアミン系樹脂の市販品の具体例としては、FL-14(SNF社製)、アラフィックス100、251S、255、255LOX(荒川化学社製)、DK-6810、6853、6885;WS-4010、4011、4020、4024、4027、4030(星光PMC社製)、パピオゲンP-105(センカ社製)、スミレーズレジン650(30)、675A、6615、SLX-1(田岡化学工業社製)、カチオマスター(登録商標)PD-1、7、30、A、PDT-2、PE-10、PE-30、DT-EH、EPA-SK01、TMHMDA-E(四日市合成社製)、ジェットフィックス36N、38A、5052(里田化工社製)が挙げられる。
【0130】
ポリアミン系樹脂としては、ポリアリルアミン樹脂も挙げられる。ポリアリルアミン樹脂は、例えば、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリアリルアミンアミド硫酸塩、アリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩コポリマー、アリルアミン酢酸塩・ジアリルアミン酢酸塩コポリマー、アリルアミン酢酸塩・ジアリルアミン酢酸塩コポリマー、アリルアミン塩酸塩・ジメチルアリルアミン塩酸塩コポリマー、アリルアミン・ジメチルアリルアミンコポリマー、ポリジアリルアミン塩酸塩、ポリメチルジアリルアミン塩酸塩、ポリメチルジアリルアミンアミド硫酸塩、ポリメチルジアリルアミン酢酸塩、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジアリルアミン酢酸塩・二酸化硫黄コポリマー、ジアリルメチルエチルアンモニウムエチルサルフェイト・二酸化硫黄コポリマー、メチルジアリルアミン塩酸塩・二酸化硫黄コポリマー、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・二酸化硫黄コポリマー、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・アクリルアミドコポリマー等を挙げることができる。
【0131】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、第1級、第2級、及び第3級アミン塩型化合物、アルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、脂肪族アミン塩、ベンザルコニウム塩、第4級アンモニウム塩、第4級アルキルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、オニウム塩、イミダゾリニウム塩等が挙げられる。
【0132】
これらの凝集剤は、複数種を使用してもよい。また、これらの凝集剤のうち、多価金属塩、有機酸、カチオンポリマーから選択されれば、顔料、樹脂粒子の凝集作用がより良好であるので、より高画質な(特に発色性の良好な)画像を形成することができる。
【0133】
反応液組成物における、凝集剤の合計の含有量は、限定されないが、例えば、反応液組成物の全質量に対して、0.1質量%以上15質量%以下であり、1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、2質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。
【0134】
1.3.1.(2)その他の成分
反応液組成物は、水、保湿剤、多価アルコール、その他の溶剤、界面活性剤、添加剤を含んでもよい。これらのうち、水、保湿剤、その他の溶剤、界面活性剤、添加剤については、上述のインク組成物と同様であるので、説明を省略する。
【0135】
反応液組成物は、上述のその他の溶剤のうち、多価アルコールを含有することが好ましい。また、反応液組成物が多価アルコールを含有する場合、反応液組成物中の多価アルコールの含有量が、反応液組成物中の有機溶剤の総量に対して、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることがさ
らに好ましい。このようにすれば、多価アルコールの浸透性が小さいので、反応液組成物がより布帛表面近傍に留まりやすく、画像の発色性をより良好にできる。
【0136】
なお反応液組成物においては、色材の含有量は、反応液組成物の総量に対して、0.1質量%以下であることが好ましい。すなわち、反応液組成物は、着色を意図して用いられないことが好ましい。
【0137】
1.3.1.(3)反応液組成物の物性及び製造
反応液組成物は、記録媒体にインクジェット法により付着される点で、反応液組成物の粘度は、20℃において、1.5mPa・s以上15mPa・s以下とすることが好ましく、1.5mPa・s以上7mPa・s以下とすることがより好ましく、1.5mPa・s以上5.5mPa・s以下とすることがより好ましい。反応液組成物が、インクジェット法によって記録媒体に付着される場合、所定の画像を効率的に記録媒体に形成することが容易である。
【0138】
反応液組成物は、記録媒体への濡れ拡がり性を適切なものとする観点から、25℃における表面張力は、40mN/m以下、好ましくは38mN/m以下、より好ましくは35mN/m以下である。また、表面張力は、20mN/m以上が好ましく、25mN/m以上がより好ましい。
【0139】
なお、表面張力の測定は、自動表面張力計CBVP-Z(協和界面科学社製)を用いて、25℃の環境下で白金プレートを組成物で濡らしたときの表面張力を確認することにより測定することができる。
【0140】
反応液組成物は、前述した成分を任意の順序で混合し、必要に応じて濾過等をして不純物を除去することにより得られる。各成分の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。濾過方法としては、遠心濾過、フィルター濾過等を必要に応じて行なうことができる。
【0141】
1.3.2.反応液組成物を布帛へ付着させる方法
反応液付着工程は、インクジェットヘッドを記録媒体に対して走査しながら反応液組成物を付着させる態様のインクジェット法によれば、どのような方式で行われてもよい。インクジェット法は、インクジェットヘッドを記録媒体の搬送方向と垂直方向に移動させて記録を行う主走査を行うものである。詳細は後述するが、インク組成物及び反応液組成物は、同一の主走査により、布帛の同一の走査領域に対して付着される。
【0142】
反応液付着工程は、反応液組成物中の多価金属塩の記録媒体への付着量が0.3(mg/inch2)以上となるように行われることが好ましい。反応液付着工程における多価金属塩の記録媒体への付着量は、0.5(mg/inch2)以上がより好ましく、0.9(mg/inch2)以上がさらに好ましい。このような付着量とすることで、インク組成物、反応液組成物を、同一の主走査により、記録媒体の同一の走査領域に対して付着する場合であっても、インク組成物やその他の組成物の成分を良好に凝集させることができ、発色性を良好にすることができる。
【0143】
一方、多価金属塩の付着量は、1.7(mg/inch2)以下であることが好ましく、1.5(mg/inch2)以下であることがより好ましく、1.0(mg/inch2)以下であることがさらに好ましい。このようにすると、画像の発色性をさらに良好にできる。
【0144】
また、上限は、25.0(mg/inch2)以下が好ましく、18.0(mg/inch2)以下がより好ましく、15.0(mg/inch2)以下がさらに好ましい。
【0145】
上記の反応液組成物の付着量は、本実施形態の記録方法において、反応液組成物とインク組成物とを重ねて付着させる記録領域におけるものである。また、該領域における反応液組成物の最大の付着量を上記範囲としても良く好ましい。
【0146】
1.4.反応液組成物を吐出するノズル列の位置
本実施形態のインクジェット記録方法において、インク組成物が、顔料として自己分散顔料を含有する場合について、インク組成物を吐出するノズル列の配置について述べる。自己分散顔料は、凝集剤による凝集速度は大きいが分散安定性も高いため結果として反応液組成物の凝集剤による凝集効果(吐出に影響を与えるような粗大粒子の形成されやすさ)が樹脂分散顔料と比較して小さい。そのため、自己分散顔料を用いたインク組成物は、反応液組成物が吐出されるノズル列に近い位置のノズル列から吐出してもミストによる凝集を生じにくい。
【0147】
上述の
図1の例においては、この観点から、自己分散顔料を用いたインク組成物は、第2ノズル列102及び第5ノズル列105から吐出されることが好ましい。すなわち、反応液組成物が、第3ノズル列103及び第4ノズル列104から吐出される場合であっても、第1ノズル列101及び第6ノズル列106から吐出される場合であっても、隣のノズル列となる第2ノズル列102及び第5ノズル列105から吐出されることが好ましい。
【0148】
このようにすれば、自己分散顔料を含むインク組成物を吐出するノズル列が、反応液組成物を吐出するノズル列と隣り合うので、ミストによる凝集がより生じにくい組成物が隣り合うことになり、吐出信頼性をより良好にできる。また、仮に凝集物を生じた場合でも、自己分散顔料の凝集物は、再解離しやすいので、クリーニング時の廃液消費量も抑制される。
【0149】
一方、インク組成物が、顔料として樹脂分散顔料のみを含有する場合について述べる。この場合、反応液組成物が吐出されるノズル列と離れたノズル列からインク組成物が吐出されることが好ましい。
【0150】
上述の
図1の例においては、この観点から、顔料として樹脂分散顔料のみを用いたインク組成物は、第3ノズル列103及び第4ノズル列104から反応液組成物が吐出される場合には、第1ノズル列101及び第6ノズル列106から吐出されることが好ましい。
【0151】
また、上述の
図1の例においては、同様の観点から、顔料として樹脂分散顔料のみを用いたインク組成物は、第1ノズル列101及び第6ノズル列106から反応液組成物が吐出される場合には、第3ノズル列103及び第4ノズル列104から吐出されることが好ましい。
【0152】
このようにすると、反応液組成物と接触した際により凝集物を生じやすい樹脂分散顔料のみを含むインク組成物を吐出するノズル列が、反応液組成物を吐出するノズル列から離れて配置できるので、ミストによる凝集がより生じにくく、信頼性をより良好にできる。
【0153】
1.5.その他の工程
1.5.1.クリアインク付着工程
本実施形態のインクジェット記録方法は、クリアインク付着工程を有してもよい。クリアインク付着工程では、樹脂粒子を含有するクリアインク組成物をインクジェット法によ
り吐出して記録媒体に付着させる。
【0154】
1.5.1.(1)クリアインク組成物
クリアインク組成物は、樹脂粒子(樹脂分散体)を含有する。
【0155】
1.5.1.(1-1)樹脂粒子
樹脂粒子としては、上述のインク組成物が含有してもよい樹脂粒子と同様であるので、説明を省略する。インクジェット記録方法がクリアインク付着工程を含む場合、反応液組成物とクリアインク組成物とが接触した場合に、クリアインク組成物に含まれる樹脂粒子が凝集しやすく、記録媒体の内部に沈みにくくなるので、得られる画像の摩擦堅牢性がより良好になる。
【0156】
1.5.1.(1-2)その他の成分
クリアインク組成物は、その他の成分を含有してもよい。その他の成分としては「1.1.1.(3)その他の成分」にて述べたと同様であり、説明を省略する。
【0157】
なおクリアインク組成物においては、色材の含有量は、クリアインク組成物の総量に対して、0.1質量%以下であることが好ましい。すなわち、クリアインク組成物は、着色を意図して用いられないことが好ましい。
【0158】
1.5.1.(1-3)製造及び物性
クリアインク組成物は、布帛等の布帛にインクジェット法により付着される点で、その粘度は、20℃において、1.5mPa・s以上15mPa・s以下とすることが好ましく、1.5mPa・s以上7mPa・s以下とすることがより好ましく、1.5mPa・s以上5.5mPa・s以下とすることがより好ましい。
【0159】
クリアインク組成物は、布帛への濡れ拡がり性を適切なものとする観点から、25℃における表面張力は、40mN/m以下、好ましくは38mN/m以下、より好ましくは35mN/m以下、さらに好ましくは30mN/m以下であることが好ましい。また、表面張力は、25mN/m以上がこのましく、28mN/m以上がより好ましい。クリアインク組成物の表面張力が高いと、ノズルから吐出された際に飛び散りにくく、吐出の際のミストがより生じ難く、吐出安定性をより良好にできる。
【0160】
クリアインク組成物は、前述した成分を任意の順序で混合し、必要に応じて濾過等をして不純物を除去することにより得られる。各成分の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。濾過方法としては、遠心濾過、フィルター濾過等を必要に応じて行なうことができる。
【0161】
1.5.1.(2)付着の態様
クリアインク付着工程は、インクジェット法により行われる。クリアインク付着工程におけるクリアインク組成物の付着量は、15g/m2以上80g/m2以下が好ましく、20g/m2以上40g/m2以下がより好ましく、25g/m2以上30g/m2以下がさらに好ましい。
【0162】
クリアインク組成物を付着させるノズル列は、必ずしも左右対称に配置される必要はないが、左右対称に配置されるほうが、記録ムラをより低減できる点で好ましい。インクジェット記録方法が、クリアインク付着工程を含む場合、より摩擦堅牢性の良好な記録物を得ることができる。
【0163】
1.5.2.工程の繰り返し等
本実施形態のインクジェット記録方法は、上述したインク付着工程を複数回含んでもよい。また、インク付着工程が複数回含まれる場合、それぞれのインク付着工程で付着されるインク組成物は、同じでも異なってもよい。ただし、この場合、それぞれのインク組成物が吐出されるノズル列は、上述のように左右対称に配置される。また、反応液付着工程、クリアインク付着工程についても同様である。
【0164】
1.6.記録媒体
本実施形態のインクジェット記録方法を適用可能な記録媒体は、特に限定されない。記録媒体は、インクを吸収する記録面を有するものであっても有しないものであってもよい。したがって記録媒体としては、特に制限はなく、例えば、紙、フィルム、布帛等の液体吸収性記録媒体、印刷本紙などの液体低吸収性記録媒体、金属、ガラス、高分子等の液体非吸収性記録媒体などが挙げられる。
【0165】
本実施形態の記録方法では、記録媒体の中でも布帛を用いる場合に効果がより顕著となる。すなわち、布帛は、浸透性の媒体であり、インク組成物と反応液組成物とが混合し、成分が凝集するスピードと、布帛への浸透速度との兼ね合いで、発色が微妙に変わりやすい。しかし本実施形態のインクジェット記録方法によれば、そのような布帛に対しても、発色性のムラの少ない画像を形成できる。
【0166】
布帛としては、特に限定されない。布帛を構成する素材としては、特に限定されず、例えば、綿、麻、羊毛、絹等の天然繊維、ポリプロピレン、ポリエステル、アセテート、トリアセテート、ポリアミド、ポリウレタン等の合成繊維、ポリ乳酸等の生分解性繊維などが挙げられ、これらの混紡繊維であってもよい。布帛としては、上記に挙げた繊維を、織物、編物、不織布等いずれの形態にしたものでもよいし、混織等を施したものでもよい。
【0167】
布帛は、上記の繊維を、織物、編物、不織布等いずれの形態にしたものでもよい。また、本実施形態で使用する布帛の目付についても、特に限定されず、1.0oz以上10.0oz以下であっても良く、2.0oz以上9.0oz以下であることが好ましく、3.0oz以上8.0oz以下であることがより好ましく、4.0oz以上7.0oz以下であることがさらに好ましい。布帛の目付がこのような範囲であれば、良好な記録を行うことができる。さらに、本実施形態に係る捺染記録方法では、目付けの異なる複数種の布帛に適用することができ、良好な印捺を行うことができる。
【0168】
本実施形態において、布帛の形態としては、例えば、布地、衣類やその他の服飾品等が挙げられる。布地には、織物、編物、不織布等が含まれる。衣類やその他の服飾品には、縫製後のTシャツ、ハンカチ、スカーフ、タオル、手提げ袋、布製のバッグ、カーテン、シーツ、ベッドカバー、壁紙等のファーニチャー類の他、縫製前の部品としての裁断前後の布地なども含まれる。これらの形態としては、ロール状に巻かれた長尺のもの、所定の大きさに切断されたもの、製品形状のもの等が挙げられる。
【0169】
また布帛としては、染料によって予め着色された綿布帛を用いても良い。布帛が予め着色される染料としては、例えば、酸性染料、塩基性染料等の水溶性染料、分散剤を併用する分散染料、反応性染料等が挙げられる。布帛の綿布帛を用いる場合には、綿の染色に適した反応性染料を用いることが好ましい。
【0170】
1.7.作用効果
本実施形態のインクジェット記録方法によれば、双方向のキャリッジ走査でそれぞれ記録を行うことで、生産性を上げることができる。さらに、このインクジェット記録方法によれば、ノズルから吐出するインク組成物、反応液組成物の配置を左右対称とすることで
、インク組成物、反応液組成物の付着順が往路と復路とで同じとなり、記録物の画質(浸透ムラ、筋ムラ)、発色性を良好なものとすることができる。さらに、このインクジェット記録方法によれば、反応液組成物を吐出するインクジェットヘッドからは反応液組成物のみが吐出される独立ヘッドの構成とすることで、インク組成物を吐出するノズル列との距離が離れ、ミストの影響が小さくなり、かつ、反応液組成物とインク組成物とで廃液系統を分けることができ、廃液系統の信頼性も良好にできる。
【0171】
2.インクジェット記録装置
本実施形態のインクジェット記録方法を実施できるインクジェット記録装置の一例について説明する。インクジェット記録装置は、記録媒体が搬送される副走査方向に延びる第1ノズル列、第2ノズル列、第3ノズル列、第4ノズル列、第5ノズル列及び第6ノズル列が副走査方向に交差する主走査方向にこの順で配置されたキャリッジを有し、主走査方向に往復走査して、往路及び復路の両方で、第1ノズル列、第2ノズル列、第3ノズル列、第4ノズル列、第5ノズル列及び第6ノズル列からそれぞれ第1組成物、第2組成物、第3組成物、第4組成物、第5組成物及び第6組成物を吐出して記録を行うインクジェット記録装置である。
【0172】
そして、第1ノズル列と第3ノズル列との間の主走査方向における距離は、第4ノズル列と第6ノズル列との間の主走査方向における距離と等しく、第2ノズル列と第3ノズル列との間の主走査方向における距離は、第4ノズル列と第5ノズル列との間の主走査方向における距離と等しい。
【0173】
また、第1組成物及び第6組成物は、同じ組成物とされ。第2組成物及び第5組成物は、同じ組成物とされ、第3組成物及び第4組成物は、同じ組成物とされるように設定される。さらに、第1組成物、第2組成物及び第3組成物のいずれかが、凝集剤を含有する反応液組成物とされ、第1組成物、第2組成物及び第3組成物のうち、反応液組成物にあたる組成物を吐出するノズル列が、それぞれ又は1つの独立したインクジェットヘッドに備えられる。
【0174】
図2は、本実施形態のインクジェット記録方法を実施できるインクジェット記録装置の一例である、プリンター11の概略断面図である。
図3に示すプリンター11は、支持台12と、搬送部14と、印刷部15と、プリンター本体16と、カバー17と、を備えるインクジェット記録装置である。支持台12、搬送部14及び印刷部15は、ハウジングやフレーム等で構成されるプリンター本体16に組み付けられている。また、カバー17は、プリンター本体16に開閉可能に取り付けられている。
【0175】
支持台12は、記録媒体13の幅方向、すなわち
図2のX軸方向に延在している。搬送部14は、支持台12に支持された記録媒体13を、支持台12の表面に沿って搬送方向であるY軸方向に搬送する。印刷部15は、搬送される記録媒体13にインクを噴射して印刷を行う。
【0176】
また、搬送部14は、搬送ローラー対18、19と、案内板20と、を備えている。搬送ローラー対18は、記録媒体13の搬送方向における支持台12の上流側に配置され、搬送ローラー対19は、下流側に配置されている。案内板20は、搬送方向における搬送ローラー対19の下流側に配置され、記録媒体13を支持しながら案内する。そして、搬送ローラー対18、19は、図示しない搬送モーターに駆動されて記録媒体13を挟持しながら回転する。これにより、搬送部14は、支持台12の表面及び案内板20の表面に沿って記録媒体13をY軸方向に搬送する。
【0177】
印刷部15は、X軸方向に沿って延設されたガイド軸22、23と、ガイド軸22、2
3に案内されてX軸方向に往復動可能なキャリッジ25と、を備えている。キャリッジ25は、キャリッジベース25Bと、キャリッジ本体25Aと、を有している。キャリッジベース25Bは、
図3に示すキャリッジモーター24の駆動に伴ってX軸方向に往復動する。キャリッジ本体25Aは、キャリッジベース25Bに対して、支持台12との間の距離が変化するようにZ軸方向に沿ってスライド移動する。すなわち、キャリッジ本体25Aは、カム等によって構成された移動機構28によって、キャリッジベース25Bに対してZ軸方向に移動可能である。
【0178】
キャリッジ本体25Aには、インクジェットヘッド60が少なくとも3つ取り付けられている。本実施形態では、4つのインクジェットヘッド60が取り付けられている。
図3では、4つのインクジェットヘッド60がX軸方向に一定ピッチで並べられている。インクジェットヘッド60は、それぞれ組成物を噴射可能な
図2に示すノズル26を有する。各インクジェットヘッド60は、その下面がZ軸方向において支持台12と所定の間隔で対向するようにキャリッジ本体25Aに支持され、キャリッジモーター24の駆動に伴ってキャリッジ25とともにX軸方向に往復動する。
【0179】
キャリッジ25には、供給機構31の一部が取り付けられている。供給機構31は、インクカートリッジ30からインクジェットヘッド60へ組成物を供給する。具体的には、供給機構31は、インクカートリッジ30側(上流側)からインクジェットヘッド60側(下流側)に向かう供給方向Aに沿ってインクを流動させる。インクカートリッジ30及び供給機構31は、組成物の種類ごとに少なくとも1つの組として設けられる。本実施形態では、8色のインクを用いるため、インクカートリッジ30及び供給機構31が8組設けられている。なお、プリンター11が有する組成物の数は、2種以上であれば、特に限定されない。
【0180】
8つのインクカートリッジ30は、それぞれ異なる種類の組成物を収容し、装着部32にそれぞれ着脱自在に装着されている。各インクカートリッジ30から供給される組成物をインクジェットヘッド60から噴射することにより、記録媒体13へのカラー印刷等が行われる。
【0181】
各供給機構31は、インクカートリッジ30からインクジェットヘッド60に組成物を供給する供給経路33を備えている。供給経路33には、供給方向Aに沿って上流側から順に、組成物を流動させる供給ポンプ34、インク中の気泡や異物を捕捉するフィルターユニット35、供給経路33のインクの流れを変化させて組成物を撹拌するスタティックミキサー36、組成物を貯留する液体貯留室37、及び、組成物の圧力を調整する圧力調整ユニット38が設けられている。
【0182】
供給ポンプ34は、ポンプ室の容積が可変のダイヤフラムポンプ40と、ダイヤフラムポンプ40よりも上流側に配置された吸入弁41と、ダイヤフラムポンプ40よりも下流側に配置された吐出弁42と、を有している。吸入弁41及び吐出弁42は、下流側への組成物の流れを許容する一方、上流側への組成物の流れを規制する一方向弁によって構成されている。
【0183】
このため、供給ポンプ34は、ダイヤフラムポンプ40のポンプ室の容積が増大するのに伴って、インクカートリッジ30側から吸入弁41を介して組成物を吸引し、ポンプ室の容積が減少するのに伴って、インクジェットヘッド60側へ吐出弁42を介して組成物を吐出する。また、フィルターユニット35は、プリンター本体16のカバー17と対応する位置に配置され、供給経路33に対して着脱可能に装着されている。そして、フィルターユニット35は、カバー17を開くことで交換可能になっている。
【0184】
プリンター11では、キャリッジ25がX軸プラス方向に移動する途中で、インクジェットヘッド60の各ノズル26から組成物を噴射して記録媒体13に往路走査分の記録を施す印字動作と、キャリッジ25がX軸マイナス方向に移動する途中で、インクジェットヘッド60の各ノズル26から組成物を噴射して記録媒体13に復路走査分の記録を施す印字動作と、記録媒体13を次の印字位置まで搬送する搬送動作と、を繰り返すことで、記録媒体13への印刷を行う。
【0185】
プリンター11は、印字動作及び搬送動作を制御する制御部39を備えている。制御部39は、搬送ローラー対18、19を駆動する図示しない搬送モーター、キャリッジモーター24、及び供給ポンプ34等の駆動制御や、インクジェットヘッド60の各ノズル26からのインクの吐出制御等を行う。インクジェットヘッド60は、キャリッジモーター24の駆動に伴いキャリッジ25とともにX軸方向に往復動しながら、供給される組成物を各ノズル26から記録媒体13に対して噴射する。また、制御部39は、移動機構28を動作させて、キャリッジ本体25Aを、例えば記録媒体13の厚さに応じて上下移動させる。
【0186】
記録媒体13としては、特に限定されないが、各種の紙、各種のフィルム、各種の布帛等が挙げられる。布帛を構成する素材としては、特に限定されず、例えば、綿、麻、羊毛、絹のような天然繊維、ポリプロピレン、ポリエステル、アセテート、トリアセテート、ポリアミド、ポリウレタンのような合成繊維、ポリ乳酸のような生分解性繊維等が挙げられ、これらの混紡繊維であってもよい。布帛としては、上記に挙げた繊維を、織物、編物、不織布等いずれの形態にしたものでもよい。
【0187】
図3は、
図2のプリンターが備える支持台とインクジェットヘッドとメンテナンス機構との位置関係を模式的に示す平面図である。
図3に示すように、X軸方向における支持台12の一端と隣り合う位置には、メンテナンス機構43が設けられている。メンテナンス機構43は、インクジェットヘッド60のメンテナンスを行う。本実施形態において、記録媒体13が搬送される領域を、
図3に示す搬送領域PAとする。メンテナンス機構43は、X軸方向におけるキャリッジ25の走査領域内であって、かつ搬送領域PAの外側に配置される。
図3では、搬送領域PAの右側にメンテナンス機構43が配置されている。
【0188】
キャリッジ25及びインクジェットヘッド60は、印刷を行わないときや電源オフ時等に、メンテナンス機構43が配置されたホーム位置HPで待機する。そして、インクジェットヘッド60は、X軸方向において、搬送領域PAとホーム位置HPとの間を移動可能になっている。
【0189】
メンテナンス機構43は、X軸方向において搬送領域PAに近い位置から順に配置された、フラッシングユニット45と、クリーニング機構47と、を備えている。
【0190】
フラッシングユニット45は、液体受容部44を有している。液体受容部44は、ノズル26から噴射された組成物を受容する。このようなフラッシングユニット45は、各ノズル26の目詰まり等を予防又は解消する目的で、印刷とは無関係に各ノズル26から噴射される組成物を受容する。これにより、フラッシングを可能にする。また、クリーニング機構47は、インクジェットヘッド60に対してクリーニング動作を行う。
【0191】
クリーニング機構47は、ユニットホルダー75と、ユニットホルダー75に装着された4つのメンテナンスユニット50と、を備えている。メンテナンスユニット50は、それぞれ、ホーム位置HPで待機するインクジェットヘッド60と対向し、メンテナンスする。また、クリーニング機構47は、ユニットホルダー75をY軸方向に移動するのを案内する一対のガイドフレーム73と、ユニットホルダー75をY軸方向に往復動させるホ
ルダー駆動部70と、を備えている。なお、ガイドフレーム73及びホルダー駆動部70は、それぞれプリンター本体16に組み付けられている。
【0192】
図3に示すホルダー駆動部70は、動力源となる電動モーター71と、ベルト72と、を備えている。ベルト72にはユニットホルダー75が固定されており、電動モーター71が回転駆動されることにより、ベルト72が周回する。ユニットホルダー75は、X軸方向の両側がガイドフレーム73に案内され、ベルト72の周回に伴ってY軸方向に往復動する。電動モーター71は、制御部39によって駆動が制御される。
【0193】
4つのメンテナンスユニット50は、ユニットホルダー75のX軸方向の両側壁及びY軸方向の両側壁の少なくとも一方に案内され、互いに一体となって、対向するインクジェットヘッド60との間の距離が変化するように移動する。
【0194】
図2に示すように、インクジェットヘッド60は、キャリッジ25に取り付けるためのブラケット部61と、ブラケット部61から下方へ突出するヘッド本体部62と、を備えている。
【0195】
図4は、
図2に示すインクジェットヘッドの平面図である。
図4に示すように、ヘッド本体部62の下面には、4つの貫通孔66A、66B、66C、66Dが設けられた板状のカバー部材63が、係止等の固定構造によりヘッド本体部62に固定されている。4つの貫通孔66A、66B、66C、66Dには、それぞれ、2列のノズル列64が露出している。ノズル列64は、それぞれ一定のピッチで列をなすノズル26の集合体である。なお、ノズル列64の数は、2列に限定されず、3列以上であってもよい。
【0196】
上述のインクジェット記録方法において、2列のノズル列64は、それぞれ例えば第1ノズル列101及び第2ノズル列102と割り当てることができる。
図3に示す例のように、3つ以上のインクジェットヘッド60を有する場合には、条件を考慮すれば第1~第6ノズル列を割り当てることができる。
【0197】
本実施形態では、Y軸プラス側からY軸マイナス側に向かって、貫通孔66A及び貫通孔66Bがこの順で並んでいる。そして、貫通孔66Aにおいて露出するノズル列64と貫通孔66Bにおいて露出するノズル列64は、Y軸に沿って一列に並んでいる。
【0198】
本実施形態では、Y軸プラス側からY軸マイナス側に向かって、貫通孔66C及び貫通孔66Dがこの順で並んでいる。そして、貫通孔66Cにおいて露出するノズル列64と貫通孔66Dにおいて露出するノズル列64は、Y軸に沿って一列に並んでいる。
【0199】
また、貫通孔66A、66B及び貫通孔66C、66Dは、X軸方向において所定の間隔を空けて配置されている。さらに、貫通孔66Bは、Y軸方向において貫通孔66Cと貫通孔66Dとの中間位置に配置されている。同様に、貫通孔66Cは、Y軸方向において貫通孔66Aと貫通孔66Bとの中間位置に配置されている。
【0200】
以上のようなインクジェットヘッド60の下面全体が、メンテナンスユニット50による払拭の対象となる。
【0201】
なお、
図4に示すように、ノズル列64は、Y軸に沿って一定のピッチで配置された多数個のノズル26で構成される。各ノズル列64は、インクカートリッジ30の組成物に対応する組成物を吐出する。なお、複数のノズル列64の中にインクが噴射されてない不使用ノズル列が存在していてもよい。
【0202】
4つのメンテナンスユニット50は、互いに同様の構成を有している。
図5は、
図3に示すメンテナンスユニット50の斜視図である。
図5に示すメンテナンスユニット50は、上面に開口部52を有する有底箱状のユニット枠体51を備えている。ユニット枠体51内には、組成物を吸収可能な吸収部材55及びインクジェットヘッド60を払拭可能な払拭部材54が、Y軸方向において隣り合うように収容されている。なお、開口部52は、インクジェットヘッド60がメンテナンスユニット50に対向する状態において、Z軸方向から見て開口部52内にヘッド本体部62が収容されるように構成されている。
【0203】
図5に示す吸収部材55は、ユニット枠体51内に備えられたキャップ56A、56B、56C、56D内に設けられている。キャップ56A、56B、56C、56Dは、上面が長円形状の筒状側壁を有している。そして、キャップ56A、56B、56C、56Dは、インクジェットヘッド60がメンテナンスユニット50と対向する状態において、貫通孔66A、66B、66C、66Dが筒状側壁内に位置するように、固定板53によってユニット枠体51内に固定されている。
【0204】
図5に示す払拭部材54は、キャップ56AのY軸プラス側及びキャップ56CのY軸プラス側の2か所に、それぞれ1つ設けられている。払拭部材54は、薄板状のゴム部材で形成され、このゴム部材は吸収部材55よりインクを吸収する吸収能力が低い弾性部材である。
【0205】
次に、メンテナンスユニット50によるインクジェットヘッド60のメンテナンス動作について説明する。このメンテナンス動作は制御部39によって制御され、ここでは、接触動作と払拭動作が行われる。メンテナンスユニット50は、貫通孔66A、66Bについてのメンテナンス動作と同時に、貫通孔66C、66Dについてのメンテナンス動作を行う。したがって、以下の説明では、一例として貫通孔66A、66Bについて行うメンテナンス動作を説明する。
【0206】
まず、接触動作について説明する。キャリッジモーター24の駆動により、キャリッジ25をX軸方向に移動させ、インクジェットヘッド60がメンテナンスユニット50と対向する状態にする。この状態から、移動機構28によりインクジェットヘッド60を下降させるとともに、図示しない駆動部によりメンテナンスユニット50を上昇させる。
【0207】
次に、圧力調整ユニット38によってインクジェットヘッド60に供給されるインクの圧力を高く調整して、ノズル26から組成物を膨出させる。接触動作では、吸収部材55を、インクジェットヘッド60から膨出させられた組成物に接触させる。
【0208】
次に、払拭動作について説明する。前述した接触動作によりノズル26から膨出した組成物は吸収部材55に吸収されるが、ノズル26の周辺には、吸収されずに残った残組成物が存在する場合がある。そこで、メンテナンス動作として、接触動作の後、残組成物を取り除くために払拭する払拭動作が行われる。
【0209】
払拭動作では、Y軸プラス側からY軸マイナス側に向かう方向を払拭方向とし、メンテナンスユニット50を、この払拭方向へ移動させる。このメンテナンスユニット50の移動により、メンテナンスユニット50に備えられた払拭部材54が、インクジェットヘッド60の下面を払拭する。この払拭動作によって、ノズル列64のノズル26周辺に付着していた残組成物は、ノズル26周辺から除去される。
【0210】
なお、払拭動作に続いて、印刷とは関係なくノズル26から組成物を強制的に噴射するフラッシング動作が行われてもよい。
【0211】
フラッシング動作は、インクジェットヘッド60がメンテナンスユニット50と対向する状態において、インクジェットヘッド60の各ノズル26から吸収部材55に向けて組成物を噴射する。
【0212】
フラッシング動作の終了後は、移動機構28によりインクジェットヘッド60を上昇させ、図示しない駆動部によりメンテナンスユニット50を下降させ、それぞれ接触動作開始前の位置に戻る。以上で、メンテナンスユニット50によるインクジェットヘッド60のメンテナンス動作が終了する。
【0213】
本実施形態では、ノズル列64のいずれかから反応液組成物が吐出されるように設定された場合、当該インクジェットヘッド60に属するノズル列64はいずれも反応液組成物を吐出するノズル列となる。そのため、当該インクジェットヘッド60において各ノズル26から噴射される組成物は、液体受容部44や図示せぬ廃液管において、成分の凝集を生じにくい。また、反応液組成物を吐出するノズル列64を有しない他のインクジェットヘッド60においても、各ノズル26から噴射される組成物は、対応する液体受容部44や図示せぬ廃液管において、成分の凝集を生じにくい。
【0214】
上記説明したインクジェット記録装置(プリンター)によれば、双方向のキャリッジ走査でそれぞれ記録を行うことで、生産性を上げることができる。さらに、このインクジェット記録装置によれば、ノズルから吐出するインク組成物、反応液組成物の配置を左右対称とすることで、インク組成物、反応液組成物の付着順が往路と復路とで同じとなり、記録物の画質(浸透ムラ、筋ムラ)、発色性を良好なものとすることができる。さらに、このインクジェット記録装置によれば、反応液組成物を吐出するインクジェットヘッドからは反応液組成物のみが吐出される独立ヘッドの構成とすることで、インク組成物を吐出するノズル列との距離が離れ、ミストの影響が小さくなり、かつ、反応液組成物とインク組成物とで廃液系統を分けることができ、廃液系統の信頼性も良好にできる。
【0215】
3.実施例及び比較例
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下、「部」「%」は、特に記載のない限り、質量基準である。なお評価は、特に断りが無い場合は、温度25℃、相対湿度40.0%の環境下で行った。
【0216】
3.1.各組成物の調製
以下のように反応液組成物、インク組成物、クリアインク組成物を調製した。
表1の組成になるように各成分を容器に入れて、マグネチックスターラーで2時間混合及び攪拌した後、孔径5μmのメンブランフィルターで濾過することで、実施例及び比較例に用いる反応液組成物、インク組成物、クリアインク組成物を得た。なお、表中の数値は固形分量を表す。
【0217】
自己分散顔料、樹脂分散顔料は、以下のものを用いた。
<自己分散顔料>
Bonjetblack CW-1(オリエント化学工業社製)顔料分散液を用いた。<樹脂分散顔料>
C.I.ピグメントブルー15:3(大日精化工業社製、顔料分散液を用いた。表中では「PB-15:3」)
【0218】
表1に示す略称、製品名について、説明を補足する。
・ユニセンスFPA100L:センカ株式会社製、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)水溶液)
・タケラックW-6061:三井化学ポリウレタン社製、ウレタン系樹脂エマルジョン)
・E1010:オルフィンE1010:日信化学工業社製 アセチレングリコール系界面活性剤
【0219】
3.2.評価方法
3.2.1.記録物の作成
ML-8000の改造機を用いて印刷評価をおこなった。
ヘッド配列を
図7、
図8に示す実施例及び比較例のようになるよう必要に応じて改造し評価を実施した。
図7及び
図8は、実施例5を除き、1つのインクジェットヘッドが、8つのノズル列を有する例の、それぞれのノズル列が吐出する組成物が表されている。実施例5では、1つのインクジェットヘッドが4つのノズル列を有し、各ノズル列が吐出する組成物が表されている。
【0220】
図7及び
図8中、PTは、表1のPT1、PT2及びPT3のいずれかを表し、Bkは、表1のBkを表し、Cyは、表1のCyを表し、OCは表1のOCを表す。また、
図7及び
図8中、「-」で表される部分にはノズル列が配置されていない。例示的に説明すると、
図7の実施例1、実施例2、実施例3及び比較例2の図の場合、インクジェットヘッドA~Cの3つのインクジェットヘッドに、それぞれ2列ずつ、副走査方向に4行、計それぞれ8列のノズル列が配置され、図示の組成物が吐出されるようになっている。
【0221】
なお、例示的に説明すると、
図7の実施例1、実施例2、実施例3及び比較例2の図の場合、4行のノズル列のいずれも、主走査方向をみると、「PT」の2列を中心とした左右対称となっている。また、PTを吐出するヘッドBは、1つの独立したインクジェットヘッドとなっている。
【0222】
図7、
図8及び表2に示す条件で、各例の記録物を作成した。
【0223】
3.2.2.発色性の評価
各例の記録物について、Bkの発色性をOD値の測定により評価した。記録条件は、1200×600d.p.i.、PTのDuty100%、BkのDuty100%、CyのDuty100%の記録物を、160℃3分乾燥させ、乾燥後のOD値を測定し、以下の評価基準で評価して、結果を表2に記載した。
A:OD値が1.5以上
B:OD値が1.4以上1.5未満
C:OD値が1.4未満
【0224】
3.2.3.画質(浸透ムラ・筋ムラ)の評価
各例の記録物について、Bkの発色性をOD値の測定により評価した。1200×600d.p.i.、PTのDuty100%、BkのDuty100%、CyのDuty100%の記録物を、160℃3分乾燥させ、乾燥後の記録物の目視判定にて以下の基準で評価した。
A:ムラが視認できない
B:ムラが視認できるがパス数を増やすことで改善した
C:ムラが視認できてパス数を増やしても改善しない
【0225】
3.2.4.生産性の評価
各例について1200×600d.p.i.、PTのDuty100%、BkのDuty100%、CyのDuty100%で連続印字したときの印刷速度を計算した。以下の基準で判定した。
A:60m2/h以上の印刷速度
C:50m2/h未満の印刷速度
【0226】
3.2.5.信頼性(廃液系統)の評価
各例について、1ヘッド-1Capの組み合わせで廃液系統を構成した状態で、1200×600d.p.i.、PTのDuty100%、BkのDuty100%、CyのDuty100%で連続印字2時間とクリーニングによるノズルの回復を10回回実施したときの廃液の配管の詰まりを確認した。
A:詰まりなし
C:詰まりあり
【0227】
3.2.6.信頼性(ミスト)の評価
各例について、1200×600d.p.i.、PTのDuty100%、BkのDuty100%、CyのDuty100%で連続印字したときのノズル抜けの数を確認し、以下の基準で評価して結果を表に記載した。
AA:3時間以上抜けなし
A:2時間以上抜けなし
B:1時間以上抜けなし
C:1時間未満で抜けが発生
【0228】
3.2.7.ヘッド数横幅(装置の横幅)の評価
各例についてML-8000と同じヘッド数(8ヘッド)で対応可能な色数を確認した。
AA:8色(ML-8000)
A:6色
B:5色
C:4色未満(基本色であるCMYK印刷するためには装置横幅が大きくする必要がある)
【0229】
3.2.8.廃液消費量の評価
各例において、連続印字にてノズル抜けした場合に復帰するまでに最低限必要な廃液量(CLモード)を確認し、以下の基準で評価して結果を表に記入した。
A:クリーニング不要もしくは弱1回にて回復可能 (廃液量小)
B:クリーニング強1回で回復可能 (廃液量中)
C:クリーニング強2回以上で回復もしくは連続印字の条件によっては十分に回復しない (廃液量大)
【0230】
3.2.9.摩擦堅牢性の評価
コットンブロード生地に各例の条件に従って、1200×600d.p.i.、PTのDuty100%、BkのDuty100%、CyのDuty100%で記録した記録物を、160℃3分乾燥させ、乾燥後の記録物の摩擦堅牢性を以下の基準で評価して、結果を表に記入した。湿摩擦堅牢性はISO-105-X12に準拠した方法で評価をおこなった。
AA:湿摩擦堅牢性 4級以上
A:湿摩擦堅牢性 3-4級
B:湿摩擦堅牢性 3級
【0231】
3.3.評価結果
各表をみると、記録媒体が搬送される副走査方向に延びる第1ノズル列、第2ノズル列、第3ノズル列、第4ノズル列、第5ノズル列及び第6ノズル列が副走査方向に交差する主走査方向にこの順で配置されたキャリッジを、主走査方向に往復走査して、往路及び復路の両方で、第1ノズル列、第2ノズル列、第3ノズル列、第4ノズル列、第5ノズル列
及び第6ノズル列からそれぞれ第1組成物、第2組成物、第3組成物、第4組成物、第5組成物及び第6組成物を吐出して記録を行うインクジェット記録方法であって、第1ノズル列と第3ノズル列との間の主走査方向における距離は、第4ノズル列と第6ノズル列との間の主走査方向における距離と等しく、第2ノズル列と第3ノズル列との間の主走査方向における距離は、第4ノズル列と第5ノズル列との間の主走査方向における距離と等しく、第1組成物及び第6組成物は、同じ組成物であり、第2組成物及び第5組成物は、同じ組成物であり、第3組成物及び第4組成物は、同じ組成物であり、顔料と、樹脂粒子とを含有するインク組成物を吐出して記録媒体に付着させるインク付着工程と、インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含有する反応液組成物を吐出して記録媒体に付着させる反応液付着工程と、を有し、第1組成物、第2組成物及び第3組成物のうち、反応液組成物にあたる組成物を吐出するノズル列が、それぞれ又は1つの独立したインクジェットヘッドに備えられた各実施例の記録方法において、画質、信頼性、発色性及び生産性が良好な結果となった。
【0232】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【0233】
上述した実施形態及び変形例から以下の内容が導き出される。
【0234】
インクジェット記録方法は、
記録媒体が搬送される副走査方向に延びる第1ノズル列、第2ノズル列、第3ノズル列、第4ノズル列、第5ノズル列及び第6ノズル列が前記副走査方向に交差する主走査方向にこの順で配置されたキャリッジを、前記主走査方向に往復走査して、往路及び復路の両方で、前記第1ノズル列、前記第2ノズル列、前記第3ノズル列、前記第4ノズル列、前記第5ノズル列及び前記第6ノズル列からそれぞれ第1組成物、第2組成物、第3組成物、第4組成物、第5組成物及び第6組成物を吐出して記録を行うインクジェット記録方法であって、
前記第1ノズル列と前記第3ノズル列との間の前記主走査方向における距離は、前記第4ノズル列と前記第6ノズル列との間の前記主走査方向における距離と等しく、
前記第2ノズル列と前記第3ノズル列との間の前記主走査方向における距離は、前記第4ノズル列と前記第5ノズル列との間の前記主走査方向における距離と等しく、
前記第1組成物及び前記第6組成物は、同じ組成物であり、
前記第2組成物及び前記第5組成物は、同じ組成物であり、
前記第3組成物及び前記第4組成物は、同じ組成物であり、
顔料と、樹脂粒子とを含有するインク組成物を吐出して前記記録媒体に付着させるインク付着工程と、
前記インク組成物中の成分を凝集させる凝集剤を含有する反応液組成物を吐出して前記記録媒体に付着させる反応液付着工程と、
を有し、
前記第1組成物、前記第2組成物及び前記第3組成物のうち、前記反応液組成物にあたる組成物を吐出するノズル列は、それぞれ又は1つの独立したインクジェットヘッドに備えられた。
【0235】
このインクジェット記録方法によれば、双方向のキャリッジ走査でそれぞれ記録を行うことで、生産性を上げることができる。さらに、このインクジェット記録方法によれば、ノズルから吐出するインク組成物、反応液組成物の配置を左右対称とすることで、インク
組成物、反応液組成物の付着順が往路と復路とで同じとなり、記録物の画質(浸透ムラ、筋ムラ)、発色性を良好なものとすることができる。さらに、このインクジェット記録方法によれば、反応液組成物を吐出するインクジェットヘッドからは反応液組成物のみが吐出される独立ヘッドの構成とすることで、インク組成物を吐出するノズル列との距離が離れ、ミストの影響が小さくなり、かつ、反応液組成物とインク組成物とで廃液系統を分けることができ、廃液系統の信頼性も良好にできる。
【0236】
上記インクジェット記録方法において、
前記インク組成物が、前記顔料として自己分散顔料を含有し、
前記第2ノズル列及び前記第5ノズル列から前記インク組成物が吐出されてもよい。
【0237】
このインクジェット記録方法によれば、自己分散顔料を含むインク組成物を吐出するノズル列が、反応液組成物を吐出するノズル列と隣り合うので、ミストによる凝集がより生じにくく、信頼性がより良好である。また、仮に凝集物を生じた場合でも、自己分散顔料の凝集物は、再解離しやすいので、クリーニング時の廃液消費量も抑制される。
【0238】
上記インクジェット記録方法において、
前記インク組成物が、前記顔料として樹脂分散顔料のみを含有し、
前記第3ノズル列及び前記第4ノズル列から前記反応液組成物が吐出される場合、前記第1ノズル列及び前記第6ノズル列から前記インク組成物が吐出され、
前記第1ノズル列及び前記第6ノズル列から前記反応液組成物が吐出される場合、前記第3ノズル列及び前記第4ノズル列から前記インク組成物が吐出されてもよい。
【0239】
このインクジェット記録方法によれば、反応液組成物と接触した際により凝集物を生じやすい樹脂分散顔料を含むインク組成物を吐出するノズルが、反応液組成物を吐出するノズル列から離れて配置されるので、ミストによる凝集がより生じにくく、信頼性がより良好である。
【0240】
上記インクジェット記録方法において、
前記第1ノズル列及び前記第2ノズル列は、一のインクジェットヘッドに形成され、
前記第3ノズル列及び前記第4ノズル列は、一のインクジェットヘッドに形成され、
前記第5ノズル列及び前記第6ノズル列は、一のインクジェットヘッドに形成されてもよい。
【0241】
このインクジェット記録方法によれば、インクジェットヘッドが搭載されるキャリッジの幅を小さくできるので、装置をより小型化できる。
【0242】
上記インクジェット記録方法において、
樹脂粒子を含有するクリアインク組成物を吐出して前記記録媒体に付着させるクリアインク付着工程をさらに有してもよい。
【0243】
このインクジェット記録方法によれば、より摩擦堅牢性の良好な記録物を得ることができる。
【0244】
上記インクジェット記録方法において、
前記凝集剤は、多価金属塩、有機酸、カチオンポリマーから選択されてもよい。
【0245】
このインクジェット記録方法によれば、発色性のさらに良好な画像を得ることができる。
【0246】
上記インクジェット記録方法において、
前記記録媒体が布帛であってもよい。
【0247】
布帛は、浸透性の媒体であり、インク組成物と反応液組成物とが混合し、成分が凝集するスピードと、布帛への浸透速度との兼ね合いで、発色が微妙に変わりやすい。しかしこのインクジェット記録方法によれば、そのような布帛に対しても、発色性のムラの少ない画像を形成できる。
【0248】
インクジェット記録装置は、
記録媒体が搬送される副走査方向に延びる第1ノズル列、第2ノズル列、第3ノズル列、第4ノズル列、第5ノズル列及び第6ノズル列が前記副走査方向に交差する主走査方向にこの順で配置されたキャリッジを有し、
前記主走査方向に往復走査して、往路及び復路の両方で、前記第1ノズル列、前記第2ノズル列、前記第3ノズル列、前記第4ノズル列、前記第5ノズル列及び前記第6ノズル列からそれぞれ第1組成物、第2組成物、第3組成物、第4組成物、第5組成物及び第6組成物を吐出して記録を行うインクジェット記録装置であって、
前記第1ノズル列と前記第3ノズル列との間の前記主走査方向における距離は、前記第4ノズル列と前記第6ノズル列との間の前記主走査方向における距離と等しく、
前記第2ノズル列と前記第3ノズル列との間の前記主走査方向における距離は、前記第4ノズル列と前記第5ノズル列との間の前記主走査方向における距離と等しく、
前記第1組成物及び前記第6組成物は、同じ組成物であり、
前記第2組成物及び前記第5組成物は、同じ組成物であり、
前記第3組成物及び前記第4組成物は、同じ組成物であり、
前記第1組成物、前記第2組成物及び前記第3組成物のいずれかが、凝集剤を含有する反応液組成物であり、
前記第1組成物、前記第2組成物及び前記第3組成物のうち、前記反応液組成物にあたる組成物を吐出するノズル列が、それぞれ又は1つの独立したインクジェットヘッドに備えられた。
【0249】
このインクジェット記録装置によれば、双方向のキャリッジ走査でそれぞれ記録を行うことで、生産性を上げることができる。さらに、このインクジェット記録装置によれば、ノズルから吐出するインク組成物、反応液組成物の配置を左右対称とすることで、インク組成物、反応液組成物の付着順が往路と復路とで同じとなり、記録物の画質(浸透ムラ、筋ムラ)、発色性を良好なものとすることができる。さらに、このインクジェット記録装置によれば、反応液組成物を吐出するインクジェットヘッドからは反応液組成物のみが吐出される独立ヘッドの構成とすることで、インク組成物を吐出するノズル列との距離が離れ、ミストの影響が小さくなり、かつ、反応液組成物とインク組成物とで廃液系統を分けることができ、廃液系統の信頼性も良好にできる。
【符号の説明】
【0250】
11…プリンター、12…支持台、13…記録媒体、14…搬送部、15…印刷部、16…プリンター本体、17…カバー、18…搬送ローラー対、19…搬送ローラー対、20…案内板、22…ガイド軸、23…ガイド軸、24…キャリッジモーター、25…キャリッジ、25A…キャリッジ本体、25B…キャリッジベース、26…ノズル、28…移動機構、30…インクカートリッジ、31…供給機構、32…装着部、33…供給経路、34…供給ポンプ、35…フィルターユニット、36…スタティックミキサー、37…液体貯留室、38…圧力調整ユニット、39…制御部、40…ダイヤフラムポンプ、41…吸入弁、42…吐出弁、43…メンテナンス機構、44…液体受容部、45…フラッシングユニット、47…クリーニング機構、50…メンテナンスユニット、51…ユニット枠体、52…開口部、53…固定板、54…払拭部材、55…吸収部材、56A…キャップ、
56B…キャップ、56C…キャップ、56D…キャップ、60…インクジェットヘッド、60A…インクジェットヘッド、60B…インクジェットヘッド、60C…インクジェットヘッド、60D…インクジェットヘッド、61…ブラケット部、62…ヘッド本体部、63…カバー部材、64…ノズル列、66A…貫通孔、66B…貫通孔、66C…貫通孔、66D…貫通孔、70…ホルダー駆動部、71…電動モーター、72…ベルト、73…ガイドフレーム、75…ユニットホルダー、100…キャリッジ、101~106…第1ノズル列~第6ノズル列、200…インクジェットヘッド、641…ノズル列、642…ノズル列、A……供給方向、HP…ホーム位置、PA…搬送領域