IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サンディック株式会社の特許一覧

特開2024-173250防曇性樹脂シート及びその二次成形品
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173250
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】防曇性樹脂シート及びその二次成形品
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20241205BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20241205BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B32B27/30 102
B32B27/18 E
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091557
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】505056122
【氏名又は名称】サンディック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 幸子
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 武志
(72)【発明者】
【氏名】杉元 信博
(72)【発明者】
【氏名】山崎 正裕
(72)【発明者】
【氏名】松下 由美子
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕文
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AA22
3E086AB01
3E086AC22
3E086AD05
3E086BA04
3E086BA15
3E086BA24
3E086BA33
3E086BB22
3E086CA01
3E086DA03
4F100AH06C
4F100AH08
4F100AH08B
4F100AK01A
4F100AK12
4F100AK12A
4F100AK21
4F100AK21B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100CA10
4F100CA10B
4F100EJ38
4F100EJ55
4F100GB16
4F100JB16A
4F100JL14C
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】良好な防曇性を示しつつ、防曇層と熱可塑性樹脂シートとの密着性に優れ、防曇層が熱可塑性樹脂シートから剥がれにくい防曇性樹脂シートの提供。
【解決手段】熱可塑性樹脂シートの少なくとも一方の面に、
オレイン酸ナトリウムおよびオレイン酸カリウムから選ばれる少なくとも1種(A)と、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンから選ばれる少なくとも1種(B)とを含有し、ショ糖脂肪酸エステルは含有しない防曇剤からなる防曇層が形成されている、防曇性樹脂シートである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂シートの少なくとも一方の面に、
オレイン酸ナトリウムおよびオレイン酸カリウムから選ばれる少なくとも1種(A)と、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンから選ばれる少なくとも1種(B)とを含有し、ショ糖脂肪酸エステルは含有しない防曇剤からなる防曇層が形成されている、防曇性樹脂シート。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコール(B)が、ケン化度65~90mol%である、請求項1に記載の防曇性樹脂シート。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂シートの防曇層を設けた面とは反対の他方の面にシリコーンオイル(E)からなる離型層が形成されている、請求項1に記載の防曇性樹脂シート。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂シートがスチレン系樹脂シートである、請求項1に記載の防曇性樹脂シート。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の防曇性樹脂シートを成形することにより得られる二次成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品包装容器やその他各種容器等に用いられる防曇性樹脂シートおよびその二次成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の熱可塑性樹脂を用いて押出成膜された樹脂シートは、真空成形機、圧空真空成形機、熱板圧空成形機等を用いて加熱成形により二次成形され、これにより得られた二次成形品は、軽量食品包装容器やその他物品の包装に多く用いられている。これらの樹脂シートの中でも、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン等に代表される透明性樹脂シートは、その透明性から弁当容器や惣菜容器等の蓋材として広く用いられている。しかし、この蓋材では、内容物から発生する水蒸気により蓋材の内面が曇るという問題があった。
【0003】
上記の問題を解決する手段として、例えば、スチレン系樹脂シート上に、ショ糖脂肪酸エステルとポリビニルアルコールと脂肪酸塩とからなる防曇剤を塗布した防曇性スチレン系樹脂シートが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-222868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、上記特許文献1に記載のようなスチレン系樹脂シート等の熱可塑性樹脂シート上に防曇剤を塗布してなる防曇性樹脂シートについて評価した。その結果、下記比較例で示すように、ショ糖脂肪酸エステルとポリビニルアルコールと炭素数12~17の脂肪酸塩とを含有する防曇剤からなる防曇層が熱可塑性樹脂シート上に形成された防曇性樹脂シートでは、防曇層と熱可塑性樹脂シートとの密着性が悪く、防曇層が熱可塑性樹脂シートから剥がれやすいという問題があることがわかった。
【0006】
そこで、本発明は、良好な防曇性を示しつつ、防曇層と熱可塑性樹脂シートとの密着性に優れ、防曇層が熱可塑性樹脂シートから剥がれにくい防曇性樹脂シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、オレイン酸ナトリウムおよびオレイン酸カリウムから選ばれる少なくとも1種(A)と、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンから選ばれる少なくとも1種(B)とを含有し、ショ糖脂肪酸エステルは含有しない防曇剤を用いて防曇性樹脂シートを形成すると、良好な防曇性を示しつつ、防曇層と熱可塑性樹脂シートとの密着性に優れ、防曇層が熱可塑性樹脂シートから剥がれにくい防曇性樹脂シートが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含するものである。
[1] 熱可塑性樹脂シートの少なくとも一方の面に、
オレイン酸ナトリウムおよびオレイン酸カリウムから選ばれる少なくとも1種(A)と、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンから選ばれる少なくとも1種(B)とを含有し、ショ糖脂肪酸エステルは含有しない防曇剤からなる防曇層が形成されている、防曇性樹脂シート。
[2] 前記ポリビニルアルコール(B)が、ケン化度65~90mol%である、[1]に記載の防曇性樹脂シート。
[3] 前記熱可塑性樹脂シートの防曇層を設けた面とは反対の他方の面にシリコーンオイル(E)からなる離型層が形成されている、[1]に記載の防曇性樹脂シート。
[4] 前記熱可塑性樹脂シートがスチレン系樹脂シートである、[1]に記載の防曇性樹脂シート。
[5] [1]~[4]のいずれか一項に記載の防曇性樹脂シートを成形することにより得られる二次成形品。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、良好な防曇性を示しつつ、防曇層と熱可塑性樹脂シートとの密着性に優れ、防曇層が熱可塑性樹脂シートから剥がれにくい防曇性樹脂シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、以下に記載する構成要件の説明は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【0011】
(防曇性樹脂シート)
本発明の防曇性樹脂シートは、熱可塑性樹脂シートと防曇層とを有する。
防曇層は、熱可塑性樹脂シートの少なくとも一方の面に形成される。
防曇層は、防曇剤を用いて形成される。
本発明の防曇性樹脂シートは、さらに離型層を有してもよい。
離型層は、熱可塑性樹脂シートの防曇層を設けた面とは反対の他方の面に形成されるとよい。
【0012】
<熱可塑性樹脂シート>
本発明の防曇性樹脂シートの基材となる熱可塑性樹脂シートの樹脂種としては、特に限定されるものではないが、透明であることが好ましく、例えば、ポリスチレン、結晶性ポリスチレン、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、透明性スチレン-ブタジエン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体等のスチレン系樹脂、ポリプロピレン、プロピレン-ブタジエン共重合体、エチレン-プロピレン共重合体等のプロピレン系樹脂、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ナイロン6に代表されるポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステル樹脂等が好ましい。
【0013】
また、本発明の防曇性樹脂シートの透明性を阻害しない範囲で、これらの樹脂を二種類以上混合して使用しても良い。さらに、これらの熱可塑性樹脂シートは、これらの樹脂を一種類以上使用した二層以上の多層化シートであってもよい。さらにまた、これらの熱可塑性樹脂シートに一軸または二軸方向の延伸処理が施してあってもよい。
【0014】
さらに、二軸延伸ポリスチレン系樹脂シートは、熱板圧空成形機で加熱成形する場合が多く、この場合、従来の防曇剤を用いた場合では加熱成形時の成形体の防曇性低下が著しい傾向にある。しかし、本発明の防曇性樹脂シートにおいては、基材として二軸延伸ポリスチレン系樹脂シートを用いた場合においても優れた防曇性を有する二次成形品が得られる。汎用の熱板圧空成形機との適合性の観点から、本発明の防曇性樹脂シート用基材として、ポリスチレン系樹脂シートが好ましく、二軸延伸ポリスチレン系樹脂シートが最も好ましい。
【0015】
これらの熱可塑性樹脂シートの厚みは、特に限定されるものではないが、防曇性樹脂シートを二次成形する場合の二次成形品の剛性や強度の観点より0.05~1.0mmが好ましい。
【0016】
これらの熱可塑性樹脂シートに使用される樹脂中には、防曇性樹脂シートのブロッキング防止を目的として、樹脂シート表面に突起を生じさせるための各種の微粒子を樹脂シートの透明性を損なわない範囲で添加することができる。
微粒子としては、例えば、スチレン系樹脂架橋ビーズ、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂架橋ビーズ、ポリウレタン系樹脂架橋ビーズ等の樹脂架橋ビーズ、シリカ、疎水化処理シリカ、球状シリカ、軟質炭酸カルシウム、酸化チタン、タルク等の無機微粒子、ゴム微粒子などが挙げられる。ゴム微粒子としては、ゴム含有樹脂を併用する方法が挙げられ、ここで用いるゴム含有樹脂としては、防曇性樹脂シートの基材となる熱可塑性樹脂と異なるものであって、例えば、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、スチレン-アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(ABS)、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SEBS)、スチレン-ブタジエン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(MBS)、耐衝撃性(メタ)アクリル酸エステル(HI-PMMA)等のゴム含有樹脂が挙げられる。
【0017】
<防曇層>
防曇層は、防曇剤を用いて形成される。
防曇剤は、オレイン酸ナトリウムおよびオレイン酸カリウムから選ばれる少なくとも1種(A)と、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンから選ばれる少なくとも1種(B)とを含有し、ショ糖脂肪酸エステルは含有しない。
【0018】
<<オレイン酸ナトリウム(A)および/またはオレイン酸カリウム(A)>>
オレイン酸ナトリウムやオレイン酸カリウム(A)は、アニオン性の界面活性剤として知られており、本発明では、通常、商取引されている商品を用いることができる。
【0019】
<<ポリビニルアルコール(B)および/またはポリビニルピロリドン(B)>>
<<<ポリビニルアルコール(B)>>>
ポリビニルアルコール(PVAともいう)(B)としては、ビニルアルコール単位からなるホモポリマー又はビニルアルコール単位と酢酸ビニル単位からなるコポリマーであり、ビニルアルコール単位の含有量は50質量%以上である。
ポリビニルアルコール(B)としては、ポリビニルアセテートの部分ケン化反応生成物が好ましく、ケン化度が65~90mol%のものが好ましく、ケン化度が70~90mol%のものがより好ましく、ケン化度が80~90mol%のものがさらに好ましい。
好ましいケン化度とは、防曇性改良効果が有意に得られかつ防曇性樹脂シートの外観を悪化させない観点から決定され、例えば、ケン化度を65mol%以上にすることで水溶性を向上させ、防曇剤被膜を水溶液の塗布で形成させる場合、被膜中のポリビニルアルコールの分散均一性を向上させることができる。また、ケン化度を90mol%以下にすることで、防曇性が良好となる。
また、ポリビニルアルコール(B)の4質量%水溶液の20℃での粘度は、2~30mPa・sであることが好ましく、2~25mPa・sであることがより好ましく、4~15mPa・sであることがさらに好ましく、4~9mPa・sであることがさらにより好ましく、4~8mPa・sであることが特に好ましく、4.5~6.0mPa・sであることが特により好ましい。ポリビニルアルコールの粘度は、防曇性改良効果が得られかつオレイン酸塩との混合の容易性等の観点から、上記のように2mPa・s以上で、30mPa・s以下であることが好ましい。
【0020】
<<<ポリビニルピロリドン(B)>>>
ポリビニルピロリドン(B)の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されるものではないが、例えば、8,000~300万の範囲内であることが好ましく、2万~200万の範囲内であることがより好ましく、4万~200万の範囲であることがさらに好ましく、50万~200万の範囲内であることがさらにより好ましく、50万~150万の範囲内であることが特に好ましい。ポリビニルピロリドンの重量平均分子量が、8,000~300万の範囲内において、重量平均分子量が小さい程、オレイン酸塩との混合がより容易であり、重量平均分子量が大きい程、より高い耐熱性が得られる。
【0021】
ポリビニルピロリドンは市販品を用いてもよく、ポリビニルピロリドンの市販品としては、粉末状のものであっても、溶液状のものであっても構わない。また、例えば、互いに重量平均分子量の異なるポリビニルピロリドンを2種以上併用してもよい。
【0022】
ポリビニルピロリドンは、典型的には、ビニルピロリドン単独で構成される重合体だが、本発明の効果を損なわない範囲において、ビニルピロリドンと他のモノマーとの共重合体であってもよい。他のモノマーとしては、例えば、アクリル酸エステルやアクリル酸、メタクリル酸エステルやメタクリル酸、並びにスチレン及び酢酸ビニル等が挙げられる。また、ポリビニルピロリドンは、例えば、ビニルピロリドンブロックと、他のモノマーがポリビニルアルコールブロックとのブロック重合体、及びグラフト重合体等であってもよい。
【0023】
<<非含有のショ糖脂肪酸エステル>>
下記比較例でも示す通り、ショ糖脂肪酸エステルとポリビニルアルコールと炭素数12~17の脂肪酸塩とを含有する防曇剤からなる防曇層が熱可塑性樹脂シート上に形成された防曇性樹脂シートでは、防曇層と熱可塑性樹脂シートとの密着性が悪く、防曇層が熱可塑性樹脂シートから剥がれやすいという問題が生じる。
そこで、本発明の防曇剤は、ショ糖脂肪酸エステルを含有しない、または実質的に含有しない。実質的に含有しないとは、例えば具体的には、(高速液体クロマトグラフィー)測定方法を用いて、ショ糖脂肪酸エステルの含有量を測定した場合など一般的な測定の下限である10ppm未満の含有量であることを表す。
ここで、ショ糖脂肪酸エステルとは、ショ糖と、脂肪酸メチルエステル等の脂肪酸の低級アルコールエステルとをエステル交換して得られるものが挙げられ、具体的には、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル等が挙げられる。
【0024】
本発明に係る防曇剤は、オレイン酸ナトリウムおよびオレイン酸カリウムから選ばれる少なくとも1種(A)と、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンから選ばれる少なくとも1種(B)とを含有し、ショ糖脂肪酸エステルは含有しない構成である。
ショ糖脂肪酸エステルとオレイン酸ナトリウムとの混合系、あるいはショ糖脂肪酸エステルとオレイン酸カリウムとの混合系では、熱可塑性樹脂シート上に塗布された防曇層と熱可塑性樹脂シートとの密着性が悪く、例えば、熱可塑性樹脂シートをロール状にした際、防曇剤が反対面に転写し、塗膜の表面荒れによる透明性低下、防曇性悪化という問題が生じるが、本発明では、このような問題を有効に防止することができる。
本発明では、防曇剤として用いる組成物中に水溶性の高いオレイン酸ナトリウムおよびオレイン酸カリウムから選ばれる少なくとも1種が含有されているため、コーテイングする際のハンドリング性も良く、またコーテイング層は良好な状態で形成することができる。この良好な状態のコーテイング層が形成されていることも、防曇性樹脂シートの防曇性の維持・向上に貢献していると考えられる。
【0025】
本発明に係るオレイン酸ナトリウムおよび/またはオレイン酸カリウム(A)の含有割合としては、本発明の防曇剤を含む水溶液100質量部に対して、0.01質量部~20質量部であることが好ましく、0.05質量部~10質量部であることがより好ましい。
本発明に係るポリビニルアルコールおよび/またはポリビニルピロリドン(B)の含有割合としては、本発明の防曇剤を含む水溶液100質量部に対して、0.05質量部~20質量部であることが好ましく、0.05質量部~10質量部であることがより好ましい。
【0026】
また、本発明に係る防曇剤におけるオレイン酸ナトリウムおよび/またはオレイン酸カリウム(A)とポリビニルアルコールおよび/またはポリビニルピロリドン(B)の含有割合としては、オレイン酸ナトリウムおよび/またはオレイン酸カリウム(A):ポリビニルアルコールおよび/またはポリビニルピロリドン(B)=5質量部~95質量部:95質量部~5質量部であることが好ましく、15質量部~85質量部:85質量部~15質量部であることがより好ましく、15質量部~72質量部:85質量部~28質量部がさらに好ましい。
特に、本発明では、防曇剤として用いる組成物中に水溶性の高いオレイン酸塩が比較的高い割合で含有されていることが、防曇性向上の観点からはより好ましく、また、塗布後のシート外観の観点からはオレイン酸塩が比較的低い割合で含有されていることが好ましく、例えば、オレイン酸ナトリウムおよび/またはオレイン酸カリウム(A):ポリビニルアルコールおよび/またはポリビニルピロリドン(B)=15質量部:85質量部~68質量部:32質量部であることが好ましい。
なお、本発明において、(A)成分として、オレイン酸ナトリウムとオレイン酸カリウムのいずれも含有する場合には、上記(A)成分の含有量は、これらを両方足し合わせた合計量とし、また(B)成分として、ポリビニルアルコールとポリビニルピロリドンのいずれも含有する場合には、上記(B)成分の含有量は、これらを両方足し合わせた合計量とする。
【0027】
<離型層>
本発明において、熱可塑性樹脂シートの防曇層を設けた面の他方の面に、剥離剤を塗布してなる剥離層を形成することができる。
剥離剤としては、シリコーンオイル(E)を用いることができる。このシリコーンオイル(E)は、安全性、経済性の観点より、25℃における粘度が100~50万mm/sの範囲のジメチルポリシロキサンが好ましい。
【0028】
また、シリコーンオイル(E)を熱可塑性樹脂シートの表面に塗布する際には、シリコーンエマルジョンの形態で用いるとよい。なお、シリコーンエマルジョン中のシリコーンオイル(E)の平均粒子径は、1μm以下であることが好ましい。すなわち、平均粒子径が1μmを超えると均一に塗ることが困難であり、防曇性樹脂シートの外観が低下する。
【0029】
また、本発明に用いるシリコーンオイル(E)は、シート、二次成形品の外観が良好となることから、防曇剤を被覆した面の他方の面に塗ることが好ましい。すなわち、防曇剤中にシリコーンオイル(E)を混合して塗布した場合は、シート、二次成形品の外観が悪化する問題があり、本発明の防曇剤を含む水溶液100質量部に対して、シリコーンオイル(E)の配合量は、10.0質量部以下にする必要がある。さらには、5.0質量部以下とすることが好ましく、防曇剤中にシリコーンオイルを含まないことが特に好ましい。
【0030】
さらに、本発明に用いるシリコーンオイル(E)を含むシリコーンエマルジョンの液中には、帯電防止効果のある界面活性剤や滑剤等を添加することも可能である。
【0031】
<防曇性樹脂シートの製造方法>
本発明の防曇性樹脂シートの製造方法は、例えば、熱可塑性樹脂シートの少なくとも一方の面に、オレイン酸ナトリウムおよびオレイン酸カリウムから選ばれる少なくとも1種(A)と、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンから選ばれる少なくとも1種(B)とを含有し、ショ糖脂肪酸エステルは含有しない溶液状の防曇剤(防曇性組成物)を塗布し、その溶媒を乾燥させることにより防曇層とするものである。
【0032】
本発明の防曇性樹脂シートの製造方法としては、特に制限されないが、熱可塑性樹脂を公知の方法で成膜することで得た熱可塑性樹脂シートの少なくとも一方の面に、水溶液からなる防曇剤を塗布することが好ましく、具体的には、熱可塑性樹脂シートの一方の面に親水化処理を施した後、本発明に係る防曇剤をこの処理面に塗布し、溶媒を乾燥させることにより防曇層とする方法が挙げられる。
【0033】
本発明の防曇性樹脂シートの製造方法で使用される防曇剤の塗布方法としては、スプレーコーター、ロールコーター、グラビアロールコーター、ナイフコーター、エアーナイフコーター、ローターダンプニングコーター、アプリケーター方式等公知の方法が挙げられ、特に制限はない。
【0034】
本発明の防曇性樹脂シートの防曇剤の塗布量は、防曇効果の向上と塗布ムラによる外観不良を防ぐために、所定の量に調整することが好ましい。具体的には、乾燥後の固形分塗布量、すなわち、防曇性樹脂シートの単位面積あたりの防曇層の質量で5~1,000mg/mであることが好ましく、5~150mg/mであることが特に好ましい。
【0035】
防曇剤の塗布量の定量分析は、フーリエ変換式赤外分光光度計による分析法(多重内部反射法)〔FTIR分析法(ATR法)〕によって行うことが可能である。
【0036】
また、熱可塑性樹脂シートの表面の親水化処理の方法としては、酸処理、火炎処理、コロナ処理等公知の方法が挙げられる。これらの親水化処理を施した熱可塑性樹脂シートの表面のぬれ張力は、38mN/m以上であることが好ましく、防曇剤を均一に塗布し、充分な防曇効果を得るためには45~60mN/mの範囲内であることがより好ましい。ここで、ぬれ張力は、JIS K6768-1999に記載された方法により測定される値である。
【0037】
(二次成形品)
本発明の防曇性樹脂シートを、真空成形、圧空真空成形、熱板圧空成形などの手段で成形することにより、弁当容器、惣菜容器、寿司容器、刺身容器等の食品容器、特に該食品容器の防曇性透明蓋に好適な二次成形品を作製することができる。
【実施例0038】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
オレイン酸ナトリウム1.3質量%、ポリビニルアルコール(ケン化度74mol%、4%水溶液の20℃粘度4.7mPa・s)0.6質量%を、水98.1質量%に混合、溶解させ、防曇剤(1)を得た。
【0040】
次いで、表面にコーティング処理を施していない厚さ0.21mmの二軸延伸ポリスチレン系樹脂シート(サンディック株式会社製「サンディックシート510」)の片面に、ぬれ張力50mN/mのコロナ処理を施し、ロールコーター方式を用いて、そのコロナ処理面に防曇剤の固形分塗布量が50mg/mとなるように、防曇剤(1)を適宜水で希釈して塗布し、ドライヤーで乾燥して、ポリスチレン系樹脂シート上に防曇層が形成された防曇性樹脂シート(1)を得た。
なお、防曇剤塗布量は、フーリエ変換式赤外分光光度計(FTIR)を用いて多重内部反射法(ATR法)によりシート表面の赤外吸収スペクトルを測定し、塗布量が既知の標準サンプルより作成した検量線を基に定量分析を行うことにより求めた。
【0041】
得られた防曇性樹脂シート(1)について、下記の方法にしたがい、シート外観、防曇性、深絞り成形品の防曇性、シートとの密着性について評価した。
【0042】
(防曇性樹脂シートの外観の評価)
防曇剤塗布後のシートを目視にて観察し、シートの白化の有無を評価した。シートの白化の度合いが低い程、良好な外観を有する防曇性樹脂シートである。
[評価基準]
○:塗布後のシートが白化しておらず、透明性を維持している
△:塗布後のシートが僅かに白化しているが、実用上支障のないレベルである
×:塗布後のシートが白化しており、透明性が著しく低下している
【0043】
(二次成形品の防曇性の評価)
防曇性樹脂シート(1)を、熱板温度125℃の熱板圧空成形機を用いて、下記に示す金型を用いて成形し二次成形品(1)を得た。
・金型:94mm(縦)×94mm(横)×30mm(深さ)、角部:2R
次に、高温食品用容器に用いて外部から内容物を透視観察する場合を想定した防曇性を評価する目的で、二次成形品の高温防曇性の評価を次の要領で実施した。すなわち、二次成形品と同型状の底材(熱可塑性樹脂シートを二次成形して得られたもの)を準備し、15mm角の碁盤模様を印刷した紙をしいた後、底材中に90℃の湯を100mL入れ、その上部を上記実施例で得られた二次成形品で蓋をして、23℃にて5分放置し、その二次成形品を通して見える碁盤模様のゆがみ、並びに、その天面および四隅の内側に付着した水滴の程度を目視で観察した。二次成形品に曇りが少ない程、または、目視における碁盤模様のゆがみが少ない程、良好な防曇性を有する防曇性樹脂シートである。
[評価基準]
◎:二次成形品に曇りがなく、かつ二次成形品の85%以上の面積で碁盤模様がゆがみなく見える
○:二次成形品に曇りがなく、かつ二次成形品の50%以上の面積で碁盤模様がゆがみなく見える
△:二次成形品に曇りはないが、二次成形品の15%より広い面積で碁盤模様がゆがんで見える
×:二次成形品の天面または四隅に小さな水滴が付着して曇る
【0044】
(深絞り成形品の防曇性の評価)
深絞り成形品(二次成形品)としては、下記に示す大きさの成形品となるよう、防曇性樹脂シート(1)を、熱板温度125℃の熱板圧空成形機を用いて成形することにより、深絞りの二次成形品(1)を得た。
金型:94mm(縦)×94mm(横)×50mm(深さ)、角部:2R
防曇性の評価方法は、上記(二次成形品の防曇性の評価)に記載したとおりである。
【0045】
(防曇剤のシートとの密着性評価)
防曇剤からなる防曇層と熱可塑性樹脂シートとの密着性(防曇剤のシートとの密着性ともいう)を評価した。
防曇性樹脂シート(1)の表面を指で擦り、防曇剤の剥がれの有無、シートの白濁有無を評価した。
[評価基準]
〇:防曇剤の剥がれが無く、シートが白濁しない
△:防曇剤の剥がれが僅かにあるが、実用上支障のないレベルである
×:防曇剤がシートから剥がれ、シートが白濁した
【0046】
実施例1の評価結果を表1-1に示す。
防曇性樹脂シート(1)は、シート外観、防曇性、深絞り成形品の防曇性、及び密着性がすべて良好であった。
尚、表1-1では、オレイン酸ナトリウム1.3質量%、ポリビニルアルコール0.6質量%含有させているため、オレイン酸ナトリウムは、1.3/(1.3+0.6)=68(質量%)と、ポリビニルアルコールは、0.6/(1.3+0.6)=32(質量%)と表記している(他の実施例・比較例も同様に表記する)。
【0047】
(実施例2)~(実施例12)
実施例1において、防曇剤に含有させる成分を表1-1または表1-2に示す種類及び含有割合に変えた以外は、実施例1と同様にして、防曇剤(2)~(12)を得た。以下、表1-1と表1-2とをまとめて、「表1」ともいう。
次いで、得られた防曇剤(2)~(12)を用いて、実施例1と同様にして、それぞれ防曇性樹脂シート(2)~(12)、および二次成形品(2)~(12)を得、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
尚、実施例6では、ポリビニルピロリドン(K値90、数平均分子量360,000、重量平均分子量1,200,000)を用いた。
実施例9では、ポリビニルアルコール(ケン化度87.5mol%、4%水溶液の20℃粘度23mPa・s)を用いた。
実施例10~実施例12では、オレイン酸カリウムを用いた。
【0048】
(比較例1)
ショ糖ラウリン酸エステル(モノエステル70%、HLB15)1.3質量%、ポリビニルアルコール(ケン化度74mol%、4%水溶液の20℃粘度4.7mPa・s)0.6質量%、オレイン酸ナトリウム1.0質量%を、水97.1質量%に混合、溶解させ、比較防曇剤(1)を得た。
次いで、得られた比較防曇剤(1)を用いて、実施例1と同様にして、比較防曇性樹脂シート(1)と比較二次成形品(1)を得、実施例1と同様に評価した。評価結果を表2に示す。
比較防曇性樹脂シート(1)は、防曇性は良好であったが、シートとの密着性は悪かった。
尚、表2では、ショ糖ラウリン酸エステル1.3質量%、ポリビニルアルコール0.6質量%、オレイン酸ナトリウム1.0質量%を含有させているため、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ラウリン酸エステル)は、1.3/(1.3+0.6+1.0)=45、ポリビニルアルコールは、0.6/(1.3+0.6+1.0)=21(質量%)、オレイン酸ナトリウムは、1.0/(1.3+0.6+1.0)=34(質量%)と表記している。
【0049】
(比較例2)~(比較例6)
比較例1において、防曇剤に含有させる成分を表2に示す種類及び含有割合に変えた以外は、比較例1と同様にして、比較防曇剤(2)~(6)を得た。
次いで、得られた比較防曇剤(2)~(6)を用いて、比較例1と同様にして、それぞれ比較防曇性樹脂シート(2)~(6)、および比較二次成形品(2)~(6)を得、実施例1や比較例1と同様に評価した。評価結果を表2に示す。
なお、比較例1のオレイン酸ナトリウムをラウリン酸ナトリウムに変えた比較例2および3も挙げたが、比較例2は、上記特許文献1の実施例1に対応した防曇剤の組成となっており、比較例3は、上記特許文献1の実施例3に対応した防曇剤の組成となっている。
【0050】
【表1-1】
【0051】
【表1-2】
【0052】
【表2】
【0053】
実施例の防曇性樹脂シートは、シート外観、防曇性、深絞り成形品の防曇性、及び密着性がすべて良好であった。
比較例の防曇性樹脂シートは、防曇性は良好であったが、シートとの密着性は悪かった。
【0054】
表1に示した結果より、実施例で得られた防曇性樹脂シートは、良好なシート外観、良好な防曇性、良好な深絞り成形品の防曇性、良好な密着性をすべて満足する結果を示した。