(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173261
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】導電性高分子分散液の製造方法、コーティング組成物の製造方法、及び導電性積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 61/12 20060101AFI20241205BHJP
C09D 5/24 20060101ALI20241205BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20241205BHJP
C09D 181/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C08G61/12
C09D5/24
C09D5/02
C09D181/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091574
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】和泉 忍
【テーマコード(参考)】
4J032
4J038
【Fターム(参考)】
4J032BA03
4J032BA04
4J032BC02
4J032BC32
4J032BD02
4J032CG01
4J032CG06
4J038DK001
4J038MA07
4J038MA10
4J038NA20
4J038PB09
(57)【要約】
【課題】保存中の粘度上昇が低減され、乾燥硬化後の導電性も良好な導電性高分子分散液の製造方法、コーティング組成物の製造方法及び導電性積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリチオフェン系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、水を含有する導電性高分子分散液を製造する方法であり、第一の重合工程と第二の重合工程を有し、第一の重合工程は、第一の酸化剤である過硫酸塩化合物を含む第一反応液を調製し、ポリアニオン存在下でチオフェン系化合物の一部を重合させ、前記ポリチオフェン系導電性高分子を形成する工程であり、第二の重合工程は、第一の重合工程で得たポリチオフェン系導電性高分子を含む第一反応液に、第一の酸化剤とは異なる第二の酸化剤を添加し、第二反応液を得て、第二反応液中に残存する前記チオフェン系化合物を重合させ、ポリチオフェン系導電性高分子を形成する工程である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶媒中のチオフェン系化合物をポリアニオンの存在下で重合させる重合工程を含み、前記チオフェン系化合物が重合してなるポリチオフェン系導電性高分子及び前記ポリアニオンを含む導電性複合体と、水とを含有する導電性高分子分散液を製造する方法であって、
前記重合工程は、第一の重合工程と、第二の重合工程とを有し、
前記第一の重合工程は、水と、前記チオフェン系化合物と、前記ポリアニオンと、第一の酸化剤である過硫酸塩化合物とを含む第一反応液を調製し、前記第一反応液中の前記チオフェン系化合物の一部が重合してなる前記ポリチオフェン系導電性高分子を形成する工程であり、
前記第二の重合工程は、前記第一の重合工程で得た前記ポリチオフェン系導電性高分子を含む前記第一反応液に、前記第一の酸化剤とは異なる第二の酸化剤を添加し、第二反応液を得て、前記第二反応液中の前記チオフェン系化合物の残部が重合してなる前記ポリチオフェン系導電性高分子を形成する工程である、導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項2】
前記過硫酸塩化合物が、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムまたは過硫酸アンモニウムである、請求項1に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項3】
前記第二の酸化剤が、過硫酸水素塩化合物またはマンガン化合物である、請求項2に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項4】
前記第二の酸化剤が、過硫酸水素カリウムであるか、または、過硫酸水素カリウム、硫酸水素カリウム及び硫酸カリウムからなる複塩である、請求項2に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項5】
前記第二の酸化剤が、過マンガン酸カリウムまたは二酸化マンガンである、請求項2に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項6】
前記第一反応液において、前記第一の酸化剤の配合量Aが、前記チオフェン系化合物の配合量Xを基準として、0.50~0.90モル当量であり、
前記第二反応液において、前記第二の酸化剤の配合量Bが、前記第一反応液に配合された前記チオフェン系化合物の配合量Xを基準として、0.20~0.60モル当量であり、
かつ、前記配合量Aと前記配合量Bの和が、0.80~1.30モル当量である、請求項1に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項7】
前記ポリチオフェン系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であるか、又は、前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、請求項1~6の何れか一項に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の製造方法により導電性高分子分散液を得る工程と、前記導電性高分子分散液に水溶性有機溶剤を配合し、コーティング組成物を得る工程を有する、コーティング組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の製造方法により導電性高分子分散液を得る工程と、前記導電性高分子分散液を、基材の少なくとも一部の面に塗工することを有する、導電性積層体の製造方法。
【請求項10】
請求項8に記載の製造方法によりコーティング組成物を得る工程と、前記コーティング組成物を、基材の少なくとも一部の面に塗工することを有する、導電性積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、π共役系導電性高分子を含む導電性高分子分散液の製造方法、コーティング組成物の製造方法、及び導電性積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主鎖がπ共役系で構成されているπ共役系導電性高分子は、アニオン基を有するポリアニオンがドープすることによって導電性複合体を形成し、水に対する分散性が生じる。
導電性複合体を含有する導電性高分子分散液を材料とした塗料を弁金属からなる陽極表面に設けた誘電体層に塗布し、乾燥させて固体電解質層を形成し、これに陰極を対向配置させることにより、キャパシタを製造する方法が開示されている(例えば特許文献1)。この開示によれば、塗料に特定の不飽和脂肪族アルコール化合物を含有させることにより、キャパシタ性能が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
キャパシタの製造に使用する導電性高分子分散液には、誘電体層の多孔質構造に浸み込むために粘度が低いことが求められる。さらに、浸み込んだ導電性高分子分散液が乾燥して形成される固体電解質層には導電性が高いことも求められる。
ところが、従来の導電性高分子分散液の粘度は、保存中に上昇してしまう問題があった。
粘度の上昇は、キャパシタの製造に限らず、導電性高分子分散液を基材に塗布して導電層を形成してなる導電性積層体の製造においても、問題になることがあった。
【0005】
本発明は、保存中の粘度上昇が低減され、乾燥硬化後の導電性も良好な導電性高分子分散液の製造方法、コーティング組成物の製造方法及び導電性積層体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] 水溶媒中のチオフェン系化合物をポリアニオンの存在下で重合させる重合工程を含み、前記チオフェン系化合物が重合してなるポリチオフェン系導電性高分子及び前記ポリアニオンを含む導電性複合体と、水とを含有する導電性高分子分散液を製造する方法であって、前記重合工程は、第一の重合工程と、第二の重合工程とを有し、前記第一の重合工程は、水と、前記チオフェン系化合物と、前記ポリアニオンと、第一の酸化剤である過硫酸塩化合物とを含む第一反応液を調製し、前記第一反応液中の前記チオフェン系化合物の一部が重合してなる前記ポリチオフェン系導電性高分子を形成する工程であり、前記第二の重合工程は、前記第一の重合工程で得た前記ポリチオフェン系導電性高分子を含む前記第一反応液に、前記第一の酸化剤とは異なる第二の酸化剤を添加し、第二反応液を得て、前記第二反応液中の前記チオフェン系化合物の残部が重合してなる前記ポリチオフェン系導電性高分子を形成する工程である、導電性高分子分散液の製造方法。
[2] 前記過硫酸塩化合物が、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムまたは過硫酸アンモニウムである、[1]に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
[3] 前記第二の酸化剤が、過硫酸水素塩化合物またはマンガン化合物である、[1]又は[2]に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
[4] 前記第二の酸化剤が、過硫酸水素カリウムであるか、または、過硫酸水素カリウム、硫酸水素カリウム及び硫酸カリウムからなる複塩である、[1]~[3]のいずれかに記載の導電性高分子分散液の製造方法。
[5] 前記第二の酸化剤が、過マンガン酸カリウムまたは二酸化マンガンである、[1]~[3]のいずれかに記載の導電性高分子分散液の製造方法。
[6] 前記第一反応液において、前記第一の酸化剤の配合量Aが、前記チオフェン系化合物の配合量Xを基準として、0.50~0.90モル当量であり、前記第二反応液において、前記第二の酸化剤の配合量Bが、前記第一反応液に配合された前記チオフェン系化合物の配合量Xを基準として、0.20~0.60モル当量であり、かつ、前記配合量Aと前記配合量Bの和が、0.80~1.30モル当量である、[1]~[5]のいずれかに記載の導電性高分子分散液の製造方法。
[7] 前記ポリチオフェン系導電性高分子がポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)であるか、又は、前記ポリアニオンがポリスチレンスルホン酸である、[1]~[6]の何れか一項に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の製造方法により導電性高分子分散液を得る工程と、前記導電性高分子分散液に水溶性有機溶剤を配合し、コーティング組成物を得る工程を有する、コーティング組成物の製造方法。
[9] [1]~[7]のいずれかに記載の製造方法により導電性高分子分散液を得る工程と、前記導電性高分子分散液を、基材の少なくとも一部の面に塗工することを有する、導電性積層体の製造方法。
[10] [1]~[7]のいずれかに記載の製造方法によりコーティング組成物を得る工程と、前記コーティング組成物を、基材の少なくとも一部の面に塗工することを有する、導電性積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の導電性高分子分散液の製造方法によれば、保存中の粘度上昇が抑制された導電性高分子分散液を得ることができる。また、当該導電性高分子分散液の硬化物の導電性も良好である。また、本発明のコーティング組成物の製造方法によって得られたコーティング組成物の硬化物の導電性も良好である。
本発明の導電性積層体の製造方法によれば、保存中の粘度上昇が抑制された導電性高分子分散液を用いるので、品質が安定した導電性積層体を容易に製造することができる。
【0008】
本発明はSDGs目標12「つくる責任 つかう責任」に資すると考えられる。
【0009】
本明細書及び特許請求の範囲において、「~」で示す数値範囲の下限値及び上限値はその数値範囲に含まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】キャパシタの一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪導電性高分子分散液の製造方法≫
本発明の第一態様は、水溶媒中のチオフェン系化合物をポリアニオンの存在下で重合させる重合工程を含み、前記チオフェン系化合物が重合してなるポリチオフェン系導電性高分子及び前記ポリアニオンを含む導電性複合体と、水とを含有する導電性高分子分散液を製造する方法である。前記重合工程は、第一の重合工程と、第二の重合工程とを有する。
【0012】
<第一の重合工程>
第一の重合工程は、水と、チオフェン系化合物と、ポリアニオンと、第一の酸化剤である過硫酸塩化合物とを含む第一反応液を調製し、第一反応液中のチオフェン系化合物の一部が重合してなるポリチオフェン系導電性高分子を形成する工程である。
【0013】
第一反応液の溶媒は、チオフェン系化合物、ポリアニオン及び第一の酸化剤を溶解しうるものであり、チオフェン系化合物の重合を阻害しないものであれば特に制限されず、水であることが好ましい。水の他に水と混和しうる水溶性有機溶剤が含まれても構わない。前記溶媒の総質量に対する水の含有量は50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、100質量%であってもよい。
【0014】
第一の重合工程において、モノマーであるチオフェン系化合物と、ポリアニオンとを任意の含有比で含み、さらに触媒を含む混合液に、第一の酸化剤を含む酸化剤水溶液を徐々に滴下若しくは段階的に添加することが好ましい。ゆっくりと添加することにより、第一反応液中の酸化剤濃度が急激に上昇することを抑制し、チオフェン系化合物を穏やかに酸化重合させ、ポリチオフェン系導電性高分子を穏やかに形成することができる。第一反応液において、ポリチオフェン系導電性高分子にポリアニオンが自然にドープされ、ポリチオフェン系導電性高分子とポリアニオンからなる導電性複合体が形成される。
【0015】
第一の重合工程において、第一反応液に配合したチオフェン系化合物の全部を重合させることなく、その一部を重合させ、ポリチオフェン系導電性高分子を形成する。第一の酸化剤が全て消費されて重合反応が終了した第一反応液には、未重合のチオフェン系化合物が残存する。残存したチオフェン系化合物は第二反応液に供される。重合反応終了後にチオフェン系化合物を残存させる方法として、第一反応液に配合する第一の酸化剤の量を、チオフェン系化合物よりも少なめに配合する方法が好ましい。
【0016】
例えば、第一反応液において、第一の酸化剤の配合量Aが、チオフェン系化合物の配合量Xを基準として、0.50~0.90モル当量(eq.)であることが好ましく、0.60~0.90モル当量でもよいし、0.60~0.80モル当量であってもよい。これらの好適な範囲であると、第一反応液における重合反応終了後に、チオフェン系化合物の一部を残存させることが容易になる。
【0017】
第一反応液中のチオフェン系化合物の残存量は、第一反応液を公知のクロマトグラフ法によって分析して求めることができる。第一反応液中のチオフェン系化合物の残存量が経時的に変化しなくなった段階で、重合反応が終了していると判断することができる。
【0018】
第一反応液中のチオフェン系化合物の重合を安定に制御することが容易であることから、第一の酸化剤は過硫酸塩化合物であることが好ましい。ここで過硫酸塩化合物は、分子中に(O--SO2-O-O-)で表される構造を有する化合物である。過硫酸塩化合物は、分子中に(O--SO2-O-O-SO2-O-)で表される構造を有する化合物であることが好ましい。分子中のオキソアニオン(O-)に対するカウンターカチオンは特に制限されず、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属が好ましい。具体的な好ましい第一の酸化剤として、例えば、過硫酸ナトリウム(ペルオキソ二硫酸ナトリウム)、過硫酸カリウム(ペルオキソ二硫酸カリウム)、過硫酸アンモニウム(ペルオキソ二硫酸アンモニウム)が挙げられる。過硫酸塩化合物は、過硫酸水素塩化合物以外の化合物であることが好ましい。
【0019】
第一反応液に配合するチオフェン系化合物:ポリアニオンの含有比は、質量基準で(1.0:2.0)~(1.0:5.0)が好ましく、(1.0:2.0)~(1.0:4.0)がより好ましく、(1.0:2.5)~(1.0:3.5)がさらに好ましい。上記範囲であると、水分散性に優れた導電性複合体を形成することができる。
【0020】
第一反応液に配合するチオフェン系化合物とポリアニオンの合計濃度は、第一反応液の総質量に対して1.0~10.0質量%が好ましく、1.5~6.0質量%がより好ましく、2.0~4.0質量%がさらに好ましい。上記下限値以上であると導電性複合体の製造効率(1回の反応における製造量)が高まる。上記上限値以下であると、保存安定性がより優れた導電性高分子分散液が得られる。
【0021】
第一反応液には触媒を添加してもよいし、添加しなくてもよいが、チオフェン系化合物の重合を安定に進行させる観点から、添加することが好ましい。触媒の種類は、第一の酸化剤による重合反応を促進できるものであれば特に制限されず、例えば金属を含むもの、具体的には塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物等が挙げられる。なかでも、室温における重合反応が安定に進むことから、鉄を含む触媒を使用することが好ましい。
【0022】
前記触媒の含有量は、例えばチオフェン系化合物の配合量を基準として、0.01~0.5モル当量(eq.)であることが好ましく、0.02~0.4モル当量であることがより好ましく、0.05~0.2モル当量であることがさらに好ましい。
上記範囲であると、チオフェン系化合物の重合を安定かつ穏やかに進行させることが容易になる。
【0023】
第一の酸化剤を配合した後、第一反応液を攪拌しながら重合反応を完了させることが好ましい。第一反応液の攪拌時の温度は、10~40℃が好ましく、10~30℃がより好ましく、10~20℃がさらに好ましい。第一反応液の攪拌の時間は、1~20時間が好ましく、3~12時間がより好ましい。上記範囲であると、穏やかに重合反応を継続し、初期粘度が低く、保管後粘度の上昇も抑制され、形成する導電層の導電性が良好な導電性高分子分散液が得られ易い。
【0024】
(チオフェン系化合物)
第一反応液に配合するチオフェン系化合物は、重合してポリチオフェン系導電性高分子を形成するモノマーである。ポリチオフェン系導電性高分子の主鎖は、π共役系を構成している。
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
これらのポリチオフェン系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性に優れることから、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
第一反応液に配合するチオフェン系化合物は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0025】
(ポリアニオン)
第一反応液に配合するポリアニオンは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、ポリチオフェン系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、ポリチオフェン系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等のスルホ基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸等のカルボキシ基を有する高分子が挙げられる。ポリアニオンは、単一のモノマーが重合した単独重合体であってもよいし、2種以上のモノマーが重合した共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホ基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
第一反応液に配合するポリアニオンは、1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0026】
ポリアニオンの重量平均分子量Mwは2万以上100万以下が好ましく、5万以上80万以下がより好ましい。
重量平均分子量Mwが上記の好適な範囲であると、本態様の導電性高分子分散液の保存安定性がより向上する。
重量平均分子量Mwは、ゲルろ過クロマトグラフィを用いて測定し、プルラン換算で求めた質量基準の平均分子量である。
【0027】
ポリチオフェン系導電性高分子にドープしたポリアニオンにおいては、一部のアニオン基がポリチオフェン系導電性高分子にドープせず、ドープに関与しない余剰のアニオン基を有する。この余剰のアニオン基は親水基であるため、導電性複合体は水分散性が高く、有機溶剤分散性が低い。
ポリアニオンが有する全てのアニオン基の個数を100モル%としたとき、余剰のアニオン基は、30モル%以上90モル%以下が好ましく、45モル%以上75モル%以下がより好ましい。
【0028】
<第二の重合工程>
第二の重合工程は、第一の重合工程で得たポリチオフェン系導電性高分子を含む第一反応液に、第一の酸化剤とは異なる第二の酸化剤を添加し、第二反応液を得て、第二反応液中のチオフェン系化合物の残部が重合してなるポリチオフェン系導電性高分子を形成する工程である。
【0029】
第二反応液において、第二の酸化剤により重合してなるポリチオフェン系導電性高分子にポリアニオンが自然にドープされ、ポリチオフェン系導電性高分子とポリアニオンからなる導電性複合体が形成される。
【0030】
第二反応液に配合する第二の酸化剤の量は、残存したチオフェン系化合物を全て重合させ得るのに必要十分な量であることが好ましい。例えば、第二反応液において、第二の酸化剤の配合量Bが、第一反応液に配合したチオフェン系化合物の配合量Xを基準として、0.20~0.60モル当量(eq.)が好ましく、0.30~0.50モル当量でもよいし、0.20~0.40モル当量であってもよい。
これらの好適な範囲であると、導電性に優れた導電層を形成可能な低粘度の導電性高分子分散液が得られ易い。
【0031】
第一反応液に配合する第一の酸化剤の配合量Aと、第二反応液に配合する第二の酸化剤の配合量Bの和は、第一反応液に配合したチオフェン系化合物の配合量Xを基準として、0.80~1.30モル当量が好ましく、0.85~1.20モル当量がより好ましく、0.90~1.10モル当量がさらに好ましい。
これらの好適な範囲であると、第一反応液で残存し、第二反応液へ供されたチオフェン系化合物の全てを重合させて、導電性複合体の収率を高めることができる。
【0032】
第二反応液中のチオフェン系化合物の残存量は、第一反応液の場合と同様に、公知のクロマトグラフ法によって分析して求めることができる。第二反応液中のチオフェン系化合物の残存量が検出限界以下となれば、全てのチオフェン系化合物が重合反応により消費されたと判断することができる。
【0033】
第二反応液中のチオフェン系化合物の重合を安定に制御することが容易であることから、第二の酸化剤は過硫酸水素塩化合物またはマンガン化合物であることが好ましい。
ここで過硫酸水素塩化合物は、分子中に(O--SO2-O-OH)で表される構造を有する化合物である。分子中のオキソアニオン(O-)に対するカウンターカチオンは特に制限されず、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属が好ましい。具体的には、例えば、過硫酸水素カリウムであるか、または、過硫酸水素カリウム(K++O--SO2-O-OH)、硫酸水素カリウム(K++O--SO2-OH)及び硫酸カリウム(K++O--SO2-O-+K+)からなる複塩が挙げられる。この複塩は、例えば富士フイルム和光純薬株式会社からオキソン(登録商標)一過硫酸塩化合物として購入することができる。
【0034】
前記マンガン化合物としては、例えば、過マンガン酸カリウム、二酸化マンガンが挙げられる。
【0035】
第二の酸化剤を配合した後、第二反応液を攪拌しながら重合反応を完了させることが好ましい。第二反応液の攪拌時の温度は、10~40℃が好ましく、10~30℃がより好ましく、10~20℃がさらに好ましい。第二反応液の攪拌の時間は、1~12時間が好ましく、2~6時間がより好ましい。上記範囲であると、穏やかに重合反応を継続し、初期粘度が低く、保管後粘度の上昇も抑制され、形成する導電層の導電性が良好な導電性高分子分散液が得られ易い。
【0036】
第二反応液における重合反応が終了すると、当該第二反応液が目的の導電性高分子分散液となる。第二反応液におけるモノマーの含有量をガスクロマトグラフィー等で測定し、モノマーの存在が実質的に確認されない程度であることが、重合反応の終了の目安として好ましい。
【0037】
反応終了後の第二反応液中の導電性複合体に含まれる、ポリチオフェン系導電性高分子:ポリアニオンの含有比(質量基準)は、第一反応液中に配合したチオフェン系化合物の配合量とポリアニオンの含有量の比率に対して概ね同じである。つまり、第一反応液中に配合したモノマーとポリアニオンの含有比が、第二反応液に含まれる導電性複合体におけるポリチオフェン系導電性高分子とポリアニオンの含有比に反映される。
【0038】
[導電性複合体]
第一反応液及び第二反応液では、ポリアニオンが予め配合されているので、重合反応で形成されたポリチオフェン系導電性高分子に対してポリアニオンが自然にドープして、導電性を有する導電性複合体を形成する。本態様の製造方法にあっては、導電性複合体が溶媒である水に分散した状態の導電性高分子分散液が得られる。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、分散状態と溶解状態とは特に明記しない限り区別しない。
【0039】
導電性複合体中の、ポリアニオンの含有割合は、ポリチオフェン系導電性高分子100質量部に対して1質量部以上1000質量部以下の範囲が好ましく、10質量部以上700質量部以下がより好ましく、100質量部以上500質量部以下がさらに好ましい。ポリアニオンの含有割合が前記下限値以上であれば、ポリチオフェン系導電性高分子へのドーピング効果が強くなる傾向にあり、導電性がより高くなる。一方、ポリアニオンの含有量が前記上限値以下であれば、ポリチオフェン系導電性高分子の相対的な割合を多くできるので、導電性を確保できる。
【0040】
重合反応終了後の導電性高分子分散液(第二反応液)には、添加した触媒及び酸化剤の分解物等が残留しているので、導電性高分子分散液の使用前にこれらを除去することが好ましい場合がある。除去する方法としては、例えば、イオン交換樹脂に導電性高分子分散液を接触させ、触媒及び酸化剤をイオン交換樹脂に吸着させる方法、導電性高分子分散液を限外ろ過することにより分散媒の置換とともに除去する方法等が挙げられる。このうち、イオン交換樹脂を使用する方法が簡便であるため好ましい。前記イオン交換樹脂は、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を併用することが好ましい。
【0041】
導電性高分子分散液を高圧ホモジナイザー等の常法により分散処理してもよい。
【0042】
導電性高分子分散液の総質量に対する導電性複合体の含有量としては、0.01質量%以上5.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以上4.0質量%以下がより好ましく、1.5質量%以上3.0質量%以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、導電性高分子分散液が硬化してなる導電層の導電性をより向上させることができる。
上記範囲の上限値以下であると、導電性高分子分散液における導電性複合体の分散性を高め、保存安定性をより一層高めることができる。
【0043】
導電性高分子分散液の23℃における初期粘度(製造直後~1日以内の粘度)は、前記導電性高分子分散液の総質量に対する前記導電性複合体の濃度を1.6質量%に調整した時に、60mPa・s以下が好ましく、50mPa・s以下がより好ましく、40mPa・s以下がさらに好ましい。上記粘度の下限値は特に制限されず、目安として1mPa・s以上が挙げられる。
上記粘度の導電性高分子分散液を40℃で10日間静置して保管した後の保管粘度は、70mPa・s以下が好ましく、60mPa・s以下がより好ましく、50mPa・s以下がさらに好ましい。上記粘度の下限値は特に制限されず、目安として1mPa・s以上が挙げられる。
上記の好適な範囲の粘度であると、キャパシタの製造に用いれば、固体電解質層の作製が容易となり、キャパシタ性能を高められる。
上記粘度の測定の際、前記導電性高分子分散液に含まれる分散媒はイオン交換水のみであることが好ましい。また、前記導電性複合体以外の添加剤を含まないことが好ましい。
上記粘度の測定は、音叉振動式粘度計を用い、JIS Z8803:2011(振動粘度計による粘度測定法)に準拠して、23℃で測定された値である。
【0044】
<作用効果>
本態様によって製造された導電性高分子分散液が高い導電性と低い粘度を維持したまま、安定に保存できる効果は、従来の重合方法で得られた導電性高分子分散液(後述の比較例を参照)に比べて格段に向上している。このメカニズムの詳細は未解明であるが、第一反応液における重合が従来に比べて穏やかであることと、第二反応液において第二の酸化剤で追加の重合を行い、チオフェン系化合物をほぼ全て重合させ得ること、が要因であると考えられる。
【0045】
≪コーティング組成物(塗料)≫
導電性高分子分散液の基材に対する濡れ性を高める観点から、導電性高分子分散液に水溶性有機溶剤を添加してもよい。水溶性有機溶剤を添加した導電性高分子分散液をコーティング組成物(塗料)と呼ぶことがある。コーティング組成物は、水と、導電性複合体と、水溶性有機溶剤とを含む。水と水溶性有機溶剤の混合媒を水系分散媒ということがある。
【0046】
本発明の第二態様は、第一態様の製造方法により導電性高分子分散液を得る工程と、前記導電性高分子分散液に水溶性有機溶剤を配合し、コーティング組成物を得る工程を有する、コーティング組成物の製造方法である。
【0047】
水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g以上の有機溶剤である。
水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、窒素原子含有溶剤、エステル系溶剤等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロパノール)、2-メチル-2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、アリルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
窒素原子含有溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
水溶性有機溶剤は1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
コーティング組成物の基材に対する塗工性が良好になることから、水溶性有機溶剤としてはアルコール系溶剤又はケトン系溶剤が好ましく、アルコール系溶剤がより好ましい。
【0048】
水系分散媒の総質量に対する水溶性有機溶剤の含有量は、30~70質量%が好ましく、40~60質量%以上がより好ましい。また、水系分散媒の総質量に対する水の含有量は、70~30質量%が好ましく、60~40質量%以下がより好ましい。
上記の好適な範囲であると、コーティング組成物における導電性複合体の分散安定性の経時的な低下を抑制しつつ、基材に対する濡れ性を向上させることができる。
【0049】
コーティング組成物の総質量に対する、前記導電性複合体の含有量は、例えば、0.1~2.5質量%が好ましく、0.3~2.0質量%がより好ましく、0.5~1.5質量%がさらに好ましい。上記範囲であると、コーティング組成物における導電性複合体の分散安定性の経時的な低下を抑制することができ、良好な導電性の導電層等を形成することができる。
【0050】
(ポリオール化合物)
コーティング組成物は1種以上のポリオール化合物をさらに含んでもよい。ここで、ポリオール化合物は、2つ以上のヒドロキシ基を有する化合物をいう。ポリオール化合物を含有することにより、導電性高分子分散液が硬化してなる導電層の導電性を高めたり、キャパシタの固体電解質層において等価直列抵抗を低減したりすることができる。
【0051】
ポリオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン及びトリメチロールエタンから選択される1種以上が挙げられる。
【0052】
コーティング組成物に含まれるポリオール化合物の含有量は、導電性複合体100質量部に対して、例えば、100質量部以上10000質量部以下が好ましく、200質量部以上2000質量部以下がより好ましく、300質量部以上1000質量部以下がさらに好ましい。上記範囲であると、上述の効果がより一層得られる。
【0053】
コーティング組成物の総質量に対するポリオール化合物の含有量は、例えば、1~20質量%が好ましく、2~10質量%がより好ましく、3~8質量%がさらに好ましい。
上記範囲であると、コーティング組成物の塗工性が向上し、上述の効果がより一層得られる。
【0054】
(その他の添加剤)
前記コーティング組成物及び前記導電性高分子分散液には、公知のその他の添加剤が含まれてもよい。
添加剤としては、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを使用できる。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。なお、金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、ビニル基又はアミノ基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
上記添加剤を含有する場合、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、例えば、導電性複合体の100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下の範囲とすることができる。
【0055】
≪導電性積層体の製造方法≫
本発明の第三態様は、第一態様の製造方法により導電性高分子分散液を得る工程と、前記導電性高分子分散液を、基材の少なくとも一部の面に塗工し、導電層を形成する工程とを含む、導電性積層体の製造方法である。
本発明の第四態様は、第二態様の製造方法によりコーティング組成物を得る工程と、前記コーティング組成物を、基材の少なくとも一部の面に塗工し、導電層を形成する工程とを含む、導電性積層体の製造方法である。
【0056】
導電性高分子分散液またはコーティング組成物を基材の任意の面に塗工(塗布)する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファウンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた方法、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
【0057】
導電性高分子分散液またはコーティング組成物の基材への塗布量は特に制限されないが、例えば、不揮発成分として、0.01~10.0g/m2の範囲が好ましい。
【0058】
基材上に塗工した導電性高分子分散液またはコーティング組成物からなる塗膜を乾燥させて、分散媒の少なくとも一部を除去し、硬化させることにより、導電層を形成することができる。
塗膜を乾燥する方法としては、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。加熱乾燥としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの方法を採用できる。
加熱乾燥を適用する場合、加熱温度は、使用する分散媒に応じて適宜設定されるが、通常は、50℃以上200℃以下の範囲内である。ここで、加熱温度は、乾燥装置の設定温度である。上記加熱温度の範囲における好適な乾燥時間としては、0.5分以上30分以下が好ましく、1分以上15分以下がより好ましい。
【0059】
<導電性積層体>
第三~第四態様の製造方法で得た導電性積層体は、基材と、前記基材の少なくとも一部の面に形成された、第一態様で得た導電性高分子分散液または第二態様で得たコーティング組成物の硬化物からなる導電層とを備える。
【0060】
[導電層]
前記導電層の形成範囲は、基材が有する任意の面の全体でもよいし、一部でもよい。導電性フィルムにおいては、フィルム基材の一方の面又は他方の面のほぼ全体にほぼ均一な厚さの導電層が形成されていることが好ましい。基材が有する面の一部のみに導電層が形成されている場合、例えば、当該導電層は回路や電極などの微細な導電パターンであってもよいし、導電層が設けられた領域と設けられていない領域とが同じ面に存在して大まかに区分けされただけであってもよい。
【0061】
前記導電層の平均厚みとしては、例えば、10nm以上100μm以下が好ましく、20nm以上50μm以下がより好ましく、30nm以上30μm以下がさらに好ましい。
導電層の平均厚さが前記下限値以上であれば、高い導電性を発揮でき、前記上限値以下であれば、導電層の基材に対する密着性がより向上する。
【0062】
[基材]
前記基材は、絶縁性材料からなる基材であってもよいし、導電性材料からなる基材であってもよい。基材の形状は特に制限されず、例えば、フィルム、基板等の平面を主体とする形状が挙げられる。
絶縁性材料としては、ガラス、合成樹脂、セラミックス等が挙げられる。
導電性材料としては、金属、導電性金属酸化物、カーボン等が挙げられる。
【0063】
(フィルム基材)
前記基材としてフィルム基材を用いると、導電性積層体は導電性フィルムとなる。
前記フィルム基材としては、例えば、合成樹脂からなるプラスチックフィルムが挙げられる。前記合成樹脂としては、例えば、エチレン-メチルメタクリレート共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。
フィルム基材と導電層との密着性を高める観点から、フィルム基材用の合成樹脂はポリエステル樹脂であることが好ましく、なかでも、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0064】
フィルム基材用の合成樹脂は、非晶性でもよいし、結晶性でもよい。
フィルム基材は、未延伸のものでもよいし、延伸されたものでもよい。
フィルム基材には、前記導電層の密着性をさらに向上させるために、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の表面処理が施されてもよい。
【0065】
フィルム基材の平均厚みは、5μm以上500μm以下が好ましく、20μm以上200μm以下がより好ましい。フィルム基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破断しにくくなり、前記上限値以下であれば、フィルムとして充分な可撓性を確保できる。
フィルム基材の平均厚みは、無作為に選択される10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0066】
(ガラス基材)
ガラス基材としては、例えば、無アルカリガラス基材、ソーダ石灰ガラス基材、ホウケイ酸ガラス基材、石英ガラス基材等が挙げられる。基材にアルカリ成分が含まれると、導電層の導電性が低下する傾向にあるため、前記ガラス基材のなかでも、無アルカリガラスが好ましい。ここで、無アルカリガラスとは、アルカリ成分の含有量がガラス組成物の総質量に対し、0.1質量%以下のガラス組成物のことである。
【0067】
ガラス基材の平均厚みとしては、100μm以上3000μm以下が好ましく、100μm以上1000μm以下がより好ましい。ガラス基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破損しにくくなり、前記上限値以下であれば、導電性積層体の薄型化に寄与できる。
ガラス基材の平均厚みは、無作為に選択される10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0068】
≪キャパシタの製造方法≫
本発明の第五態様は、第三~第四態様の製造方法により導電性高分子分散液またはコーティング組成物を得る工程と、弁金属の多孔質体からなる陽極の表面に形成された誘電体層の表面に、前記導電性高分子分散液または前記コーティング組成物を塗布し、乾燥させて固体電解質層を形成する工程を有する、キャパシタの製造方法である。
【0069】
本態様のキャパシタの製造方法は、弁金属の多孔質体からなる陽極の表面を酸化して誘電体層を形成する工程(誘電体形成工程)と、前記誘電体層に対向する位置に陰極を配置する工程(陰極形成工程)と、前記誘電体層の表面の少なくとも一部に固体電解質層を形成する工程(成膜工程)と、を含むことが好ましい。以下、
図1を参照して各工程を説明する。
【0070】
[誘電体形成工程]
本工程では、弁金属の多孔質体からなる陽極11の表面を酸化して誘電体層12を形成する。誘電体層12を形成する方法は、特に制限されず、例えば、アジピン酸アンモニウム水溶液、ホウ酸アンモニウム水溶液、リン酸アンモニウム水溶液などの化成処理用電解液中にて、陽極11の表面を陽極酸化する方法が挙げられる。
【0071】
[陰極形成工程]
本工程では、誘電体層12に対向する位置に陰極13を配置する。陰極13の配置方法は、特に制限されず、例えば、カーボンペースト、銀ペースト等の導電性ペーストを用いて陰極13を形成する方法、アルミニウム箔等の金属箔を誘電体層12に対向配置させる方法などが挙げられる。
【0072】
[成膜工程]
本工程は、誘電体層12の表面の少なくとも一部に前述の導電性高分子分散液またはコーティング組成物を塗布し、乾燥させることにより、固体電解質層14を形成する。
【0073】
導電性高分子分散液またはコーティング組成物の塗布方法としては、例えば、浸漬(ディップコーティング)、コンマコーティング、リバースコーティング、リップコーティング、マイクログラビアコーティング等を適用することができる。これらのうち、陽極11を減圧下で導電性高分子分散液またはコーティング組成物中に浸漬する方法が好ましい。浸漬方法であると、誘電体層12の表面の多孔質構造の内部にまで導電性高分子分散液またはコーティング組成物を充分に塗布することができる。浸漬後に取り出して次の乾燥処理に進む。
【0074】
乾燥方法としては、例えば室温乾燥、熱風乾燥、遠赤外線乾燥等が挙げられる。これらの中でも熱風乾燥が好ましい。
乾燥温度としては、例えば100~180℃が好ましく、120~150℃がより好ましい。乾燥時間としては、例えば0.2~1時間が好ましい。
乾燥処理の後、常法によりキャパシタを組み立てればよい。
【0075】
≪キャパシタ≫
本発明の第六態様は、弁金属の多孔質体からなる陽極と、前記弁金属の酸化物からなる誘電体層と、前記誘電体層の、前記陽極と反対側に設けられた導電物質製の陰極と、前記誘電体層及び前記陰極の間に形成された固体電解質層とを具備し、前記固体電解質層が第一~第二態様の製造方法で得た導電性高分子分散液またはコーティング組成物の硬化物を含む。第六態様のキャパシタは、第五態様の製造方法によって製造することができる。
【0076】
第六態様の実施形態の一例について
図1を参照して説明する。
図1に示すキャパシタ10は、弁金属の多孔質体からなる陽極11と、弁金属の酸化物からなる誘電体層12と、誘電体層12の表面に形成された固体電解質層14と、最も表側に設けられた陰極13とを具備する。陰極13は誘電体層12及び固体電解質層14を間に挟んで、陽極11と反対側に設けられている。
【0077】
陽極11を構成する弁金属としては、例えば、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス、アンチモンなどが挙げられる。これらのうち、アルミニウム、タンタル、ニオブが好適である。
陽極11の具体例としては、アルミニウム箔をエッチングして表面積を増加させた後、その表面を酸化処理したものや、タンタル粒子やニオブ粒子の焼結体表面を酸化処理してペレットにしたものが挙げられる。このように処理されたものは表面に凹凸が形成された多孔質体となる。
【0078】
本実施形態における誘電体層12は、陽極11の表面が酸化されて形成された層であり、例えば、アジピン酸アンモニウム水溶液などの電解液中にて、金属体の陽極11の表面を陽極酸化することで形成されたものである。陽極11と同様に誘電体層12にも凹凸が形成されている。
【0079】
本実施形態における陰極13としては、導電性ペーストから形成した導電層やアルミニウム箔など、導電物質製の金属層を使用することができる。
【0080】
本実施形態における固体電解質層14は、誘電体層12の表面に形成されている。固体電解質層14は、誘電体層12の表面の少なくとも一部を覆っており、誘電体層12の表面の全部を覆っていてもよい。
固体電解質層14の厚さは、一定でもよいし、一定でなくてもよく、例えば、1μm以上100μm以下の厚さが挙げられる。
【0081】
[電解液]
本態様のキャパシタは、固体電解質層を含浸する電解液を有していてもよい。
電解液を構成する溶媒としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、グリセリン等のアルコール系溶媒、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン等のラクトン系溶媒、スルホラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン等の硫黄系溶媒、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N-メチルピロリジノン等のアミド系溶媒、アセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル等のニトリル系溶媒、水等が挙げられる。
電解液を構成する電解質としては、例えば、アジピン酸、グルタル酸、コハク酸、安息香酸、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、トルイル酸、エナント酸、マロン酸、蟻酸、1,6-デカンジカルボン酸、5,6-デカンジカルボン酸等のデカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸等のオクタンジカルボン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の有機酸;あるいは、硼酸、硼酸と多価アルコールより得られる硼酸の多価アルコール錯化合物;リン酸、炭酸、ケイ酸等の無機酸などをアニオン成分とし、1級アミン(メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン等)、2級アミン(ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、メチルエチルアミン、ジフェニルアミン等)、3級アミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリフェニルアミン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7等)、テトラアルキルアンモニウム(テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、メチルトリエチルアンモニウム、ジメチルジエチルアンモニウム等)などをカチオン成分とした電解質;等が挙げられる。
【0082】
本態様のキャパシタは、上記の構成に限らず、誘電体層と陰極との間に、セパレータが設けられていてもよい。誘電体層と陰極との間にセパレータが設けられたキャパシタとしては、巻回型キャパシタが挙げられる。
セパレータとしては、例えば、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリフッ化ビニリデンなどからなるシート(不織布を含む)、ガラス繊維の不織布などが挙げられる。
セパレータの密度は、例えば0.1g/cm3以上1.0g/cm3以下が挙げられる。
セパレータを設ける場合には、セパレータにカーボンペーストあるいは銀ペーストを含浸させて陰極を形成する方法を適用することもできる。
【実施例0083】
[ポリアニオンの準備]
原料としてシグマアルドリッチ社製の重量平均分子量200,000のポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)水溶液(濃度30%)を用いた。
まず、ポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)の水溶液にイオン交換水を加えて固形分濃度15wt%の均一な水溶液に調整し、pHが1未満になるまで陽イオン交換樹脂を加えた。その後、ステンレスメッシュフィルターで陽イオン交換樹脂を濾別し、イオン交換水で固形分濃度を10wt%に調整して、ポリスチレンスルホン酸水溶液(PSS水溶液)を得た。
【0084】
[チオフェン系化合物の準備]
市販の3,4-エチレンジオキシチオフェン(東京化成工業社製)を購入し、反応に使用する前に減圧蒸留により精製した。
【0085】
[実施例1]
1000mlの三ツ口フラスコに100gのPSS水溶液と500gのイオン交換水と0.99g(2.46mmol)の硫酸第二鉄(富士フイルム和光純薬社製)を加え、流量1L/分の窒素で10分間バブリングし、窒素雰囲気下で撹拌して25℃に保った。この溶液に、蒸留精製した3.5g(24.8mmol)の3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)を加え、さらに1時間撹拌した。この溶液に第一の酸化剤として、4.83g(19.9mmol)のペルオキソ二硫酸ナトリウム(純正化学社製)を5回に分けて2時間かけて添加し、第一反応液を得た。ペルオキソ二硫酸ナトリウムの使用量は3,4-エチレンジオキシチオフェンに対して0.80eq.(配合量A)である。25℃で3時間撹拌して反応させた後、反応液中にEDOTが残存していることを確認した。この第一反応液に第二の酸化剤として、過硫酸水素塩化合物であるオキソン(富士フイルム和光純薬社製、過硫酸水素カリウムと硫酸カリウムと硫酸水素カリウムの三重塩、化学式2KHSO5・KHSO4・K2SO4)を3.05g(5.0mmol)添加し、第二反応液を得た。オキソンの使用量は3,4-エチレンジオキシチオフェンに対して0.20eq.(配合量B)である。第二反応液をさらに2時間撹拌して反応を熟成し、導電性高分子であるPEDOT-PSSを合成した。
【0086】
この第二反応液に、150gの陽イオン交換樹脂(住化ケムテックス社製デュオライトC255LFH、交換容量2.0eq/L)と、150gの陰イオン交換樹脂(住化ケムテックス社製デュオライトA368MS、交換容量1.7eq/L)を加え、30分間撹拌した。ステンレスメッシュフィルターでイオン交換樹脂を濾別し、高圧湿式微粒化装置を用いて分散処理を行い、固形分濃度1.8wt%の導電性高分子分散液を得た。この導電性高分子分散液にイオン交換水を加えて、固形分濃度1.6wt%に調整した。
【0087】
[実施例2]
1000mlの三ツ口フラスコに91gのPSS水溶液と400gのイオン交換水と0.99g(2.46mmol)の硫酸第二鉄を加え、流量1L/分の窒素で10分間バブリングし、窒素雰囲気下で撹拌して25℃に保った。この溶液に、蒸留精製した3.5g(24.8mmol)の3,4-エチレンジオキシチオフェンを加え、さらに1時間撹拌した。この溶液に第一の酸化剤として、3.93g(16.1mmol)のペルオキソ二硫酸ナトリウムを5回に分けて2時間かけて添加し、第一反応液を得た。ペルオキソ二硫酸ナトリウムの使用量は3,4-エチレンジオキシチオフェンに対して0.65eq.(配合量A)である。25℃で3時間撹拌して反応させた後、反応液中にEDOTが残存していることを確認した。この第一反応液に第二の酸化剤として、過硫酸水素塩化合物であるオキソンを3.81g(6.2mmol)添加し、第二反応液を得た。オキソンの使用量は3,4-エチレンジオキシチオフェンに対して0.25eq.(配合量B)である。第二反応液をさらに2時間撹拌して反応を熟成し、導電性高分子であるPEDOT-PSSを合成した。
この第二反応液に、150gの陽イオン交換樹脂(デュオライトC255LFH)と、150gの陰イオン交換樹脂(デュオライトA368MS)を加え、30分間撹拌した。ステンレスメッシュフィルターでイオン交換樹脂を濾別し、高圧湿式微粒化装置を用いて分散処理を行い、固形分濃度1.9wt%の導電性高分子分散液を得た。この導電性高分子分散液にイオン交換水を加えて、固形分濃度1.6wt%に調整した。
【0088】
[実施例3]
1000mlの三ツ口フラスコに100gのPSS水溶液と500gのイオン交換水と0.99g(2.46mmol)の硫酸第二鉄を加え、流量1L/分の窒素で10分間バブリングし、窒素雰囲気下で撹拌して25℃に保った。この溶液に、蒸留精製した3.5g(24.8mmol)の3,4-エチレンジオキシチオフェンを加え、さらに1時間撹拌した。この溶液に第一の酸化剤として、5.14g(18.6mmol)のペルオキソ二硫酸カリウム(富士フイルム和光純薬社製)を5回に分けて2時間かけて添加し、第一反応液を得た。ペルオキソ二硫酸カリウムの使用量は3,4-エチレンジオキシチオフェンに対して0.75eq.(配合量A)である。25℃で3時間撹拌して反応させた後、反応液中にEDOTが残存していることを確認した。この第一反応液に第二の酸化剤として、0.98g(6.2mmol)の過マンガン酸カリウム(富士フイルム和光純薬社製)を添加し、第二反応液を得た。過マンガン酸カリウムの使用量は3,4-エチレンジオキシチオフェンに対して0.25eq.(配合量B)である。第二反応液をさらに2時間撹拌して反応を熟成し、導電性高分子であるPEDOT-PSSを合成した。
この第二反応液に、200gの陽イオン交換樹脂(デュオライトC255LFH)と、200gの陰イオン交換樹脂(デュオライトA368MS)を加え、60分間撹拌した。ステンレスメッシュフィルターでイオン交換樹脂を濾別し、高圧湿式微粒化装置を用いて分散処理を行い、固形分濃度1.8wt%の導電性高分子分散液を得た。この導電性高分子分散液にイオン交換水を加えて、固形分濃度1.6wt%に調整した。
【0089】
[実施例4]
1000mlの三ツ口フラスコに100gのPSS水溶液と500gのイオン交換水と0.99g(2.46mmol)の硫酸第二鉄を加え、流量1L/分の窒素で10分間バブリングし、窒素雰囲気下で撹拌して25℃に保った。この溶液に、蒸留精製した3.5g(24.8mmol)の3,4-エチレンジオキシチオフェンを加え、さらに1時間撹拌した。この溶液に第一の酸化剤として、4.34g(18.6mmol)のペルオキソ二硫酸アンモニウム(富士フイルム和光純薬社製)を5回に分けて2時間かけて添加し、第一反応液を得た。ペルオキソ二硫酸アンモニウムの使用量は3,4-エチレンジオキシチオフェンに対して0.75eq.(配合量A)である。25℃で3時間撹拌して反応させた後、反応液中にEDOTが残存していることを確認した。この第一反応液に第二の酸化剤として、1.05g(8.4mmol)の粒状酸化マンガン(IV)(富士フイルム和光純薬社製、含量70%)を樹脂製のメッシュネットに入れて反応系中に添加し、第二反応液を得た。酸化マンガン(IV)の使用量は3,4-エチレンジオキシチオフェンに対して0.34eq.(配合量B)である。第二反応液をさらに1時間撹拌して反応を熟成し、導電性高分子であるPEDOT-PSSを合成した。
この第二反応液から樹脂製のメッシュネットを取り出し、200gの陽イオン交換樹脂(デュオライトC255LFH)と、200gの陰イオン交換樹脂(デュオライトA368MS)を加え、60分間撹拌した。ステンレスメッシュフィルターでイオン交換樹脂を濾別し、さらにガラス濾紙で残った酸化マンガンを除去し、高圧湿式微粒化装置を用いて分散処理を行い、固形分濃度1.8wt%の導電性高分子分散液を得た。この導電性高分子分散液にイオン交換水を加えて、固形分濃度1.6wt%に調整した。
【0090】
[実施例5]
第一の酸化剤であるペルオキソ二硫酸カリウムの使用量を3.42g(12.4mmol、0.50eq.(配合量A))に変更したことと、第二の酸化剤である過マンガン酸カリウムの使用量を1.96g(12.4mmol、0.50eq.(配合量B))に変更したこと以外は、実施例3と同様にしてPEDOT-PSSを合成し、同様の方法で後処理して固形分濃度1.6wt%の導電性高分子分散液を得た。
【0091】
[比較例1]
第二の酸化剤を添加しなかった以外は実施例3と同様にしてPEDOT-PSSを合成した。
この反応溶液に、150gの陽イオン交換樹脂(デュオライトC255LFH)と、150gの陰イオン交換樹脂(デュオライトA368MS)を加え、30分間撹拌した。ステンレスメッシュフィルターでイオン交換樹脂を濾別し、高圧湿式微粒化装置を用いて分散処理を行い、固形分濃度1.5wt%の導電性高分子分散液を得た。この導電性高分子分散液を限外ろ過により濃縮して、固形分濃度1.6wt%の導電性高分子分散液を得た。
【0092】
[比較例2]
第二の酸化剤に第一の酸化剤と同じペルオキソ二硫酸ナトリウムを1.18g(5.0mmol)を用いた以外は実施例1と同様にしてPEDOT-PSSを合成した。
この反応溶液に、150gの陽イオン交換樹脂(デュオライトC255LFH)と、150gの陰イオン交換樹脂(デュオライトA368MS)を加え、30分間撹拌した。ステンレスメッシュフィルターでイオン交換樹脂を濾別し、高圧湿式微粒化装置を用いて分散処理を行い、固形分濃度1.8wt%の導電性高分子分散液を得た。この導電性高分子分散液にイオン交換水を加えて、固形分濃度1.6wt%の導電性高分子分散液を得た。
【0093】
[比較例3]
第一の酸化剤として過マンガン酸カリウム2.94g(18.6mmol、0.75eq)を用い、第二の酸化剤としてペルオキソ二硫酸カリウム1.71g(6.2mmol、0.25eq)を用いた以外は、実施例3と同様にしてPEDOT-PSSを合成した。同様の方法で後処理することで固形分濃度1.6wt%の導電性高分子分散液を得た。
【0094】
【0095】
実施例1~5および比較例1~3で得られた導電性高分子分散液について、以下の方法で評価した。
【0096】
<粘度の評価>
各例で得られた固形分濃度1.6wt%の導電性高分子分散液の23℃における粘度を、振動式粘度計を用いて測定した。初期粘度の測定結果を表2に示す。
上記の粘度は、音叉振動式粘度計を用い、JIS Z8803:2011(振動粘度計による粘度測定法)に準拠して23℃で測定した値である。
【0097】
<保存安定性の評価>
各例で得られた導電性高分子分散液を40℃の温度下で10日間保管した後の粘度を測定した。保管後粘度の測定結果、および初期粘度との比による増加率(%)として計算した値を表2に示す。なお、増加率が低いほど粘度変化が少なく、保存安定性が良好であることを示す。
【0098】
<導電性の評価>
各例で得られた導電性高分子分散液50gに、0.01gのアセチレン系界面活性剤(日信化学工業社製、ダイノール604)と、45gのメタノールと、5gのエチレングリコールを加え、充分に混合してコーティング組成物を調整した。この塗料を、wet膜厚8μmのバーコーターを用いてポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ社製、ルミラーT60)に塗布し、乾燥温度100℃で1分間加熱乾燥することで導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの表面抵抗値を、抵抗率計(日東精工アナリテック社製ロレスタ)を用い、印加電圧10Vの条件で測定した。結果を表2に示す。
【0099】
【0100】
以上から、本発明に係る実施例1~5の製造方法では、優れた導電性を示す導電層を形成可能であり、保管中にも低い粘度が維持される保存安定性の高い導電性高分子分散液が得られることが明かである。