(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173273
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】農作物の製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
A01G7/00 604Z
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091592
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】523209771
【氏名又は名称】稲田 シュンコ アルバーノ
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】稲田 シュンコ アルバーノ
(57)【要約】
【課題】薬剤のように農作物に品質や安全性に対する悪影響を与えず、コストが安く、耐性菌が生まれるリスクも少ない農作物の製造装置および製造方法を提供する。
【解決手段】農作物の製造装置1は、農作物Aを支持すると共に前記農作物Aを包囲する支持体2と、前記支持体2に固定された複数の紫外線発光素子10と、前記紫外線発光素子10へ電力を供給して紫外線を前記農作物Aの表面に向けて照射させる電力供給装置16とを具備し、前記前記紫外線発光素子10は、300nm~400nmの間に発光波長のピークを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一個の農作物を支持すると共に前記農作物を包囲する支持体と、前記支持体に固定された複数の紫外線発光素子と、前記紫外線発光素子へ電力を供給して紫外線を前記農作物の表面に向けて照射させる電力供給装置とを具備し、前記前記紫外線発光素子は、300nm~400nmの間に発光波長のピークを有することを特徴とする農作物の製造装置。
【請求項2】
前記紫外線発光素子は、330nm~395nmの間に発光波長のピークを有することを特徴とする請求項1の農作物の製造装置。
【請求項3】
前記紫外線発光素子は、紫外線発光ダイオードであることを特徴とする請求項1または2に記載の農作物の製造装置。
【請求項4】
前記電力供給装置は、前記農作物の病気予防すべき表面に前記紫外線発光素子からの平均照射強度が6mW/cm2以上となるように前記紫外線を連続光または断続光として照射し、前記病気予防すべき表面での糸状菌の繁殖を抑制することを特徴とする請求項1または2に記載の農作物の製造装置。
【請求項5】
前記電力供給装置は、前記農作物の病気予防すべき表面に前記紫外線発光素子からの平均総照射量が90J/cm2以上となるように前記紫外線を連続光または断続光として照射し、前記病気予防すべき表面での糸状菌の繁殖を抑制することを特徴とする請求項1または2に記載の農作物の製造装置。
【請求項6】
少なくとも一個の農作物を支持体で支持すると共に前記農作物を前記支持体で包囲する支持工程と、
前記支持体に固定された複数の紫外線発光素子へ電力を供給して、300nm~400nmの間に発光波長のピークを有する紫外線を、前記農作物の病気予防すべき表面における平均照射強度が6mW/cm2以上となるように、連続光または断続光として照射前記農作物の表面に向けて照射させる照射工程とを具備することを特徴とする農作物の製造方法。
【請求項7】
前記照射工程では、前記農作物の病気予防すべき表面に前記紫外線発光素子からの平均総照射量が90J/cm2以上となるように前記紫外線を照射することを特徴とする請求項6に記載の農作物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果物等の農作物に糸状菌等の病原菌による病害が生じることを抑制する農作物の製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
病原菌が農作物に及ぼす被害は、世界中の農業生産に大きな影響を与えている。病原菌による被害は、労力や資金面での損害だけでなく、農作物の品質や収量にも大きな影響を与える。世界の農作物生産量の約15%が病原菌による被害を受けており、その中でも30%が糸状菌(いわゆるカビ)によるものである。糸状菌は、例えば、リンゴの黒星病、キャベツの菌核病、ジャガイモのうどん粉病、イチゴの灰色かび病など、多くの作物に様々な被害をもたらしている。
【0003】
病気への感染を防ぐために、農作物に対し農薬等の薬剤を使用することも行われているが、薬剤の使用は農産物の品質や環境に悪影響を与える可能性があるだけでなく、薬剤に耐性を持つ新たな病原菌が発生するリスクもある。
【0004】
本発明者は、薬剤のように農作物に品質や安全性に対する悪影響を与えず、コストが安く、耐性菌が生まれるリスクも少ない農作物の病気予防手段として光エネルギーに注目し、光エネルギーにより農作物に対する病原菌の侵入を防ぐ技術を研究した。その結果、紫外線域の光を農作物に照射することにより、糸状菌等の病原菌による病気を予防できることを見いだした。
【0005】
特許文献1のように、食品に520nmから近紫外線の波長域に含まれる光線を照射して微生物の増殖を抑える方法が一部で提案されてはいるが、農作物の病気に対して実効性のある提案はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、薬剤のように農作物に品質や安全性に対する悪影響を与えず、コストが安く、耐性菌が生まれるリスクも少ない農作物の製造装置および製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様1に係る農作物の製造装置は、少なくとも一個の農作物を支持すると共に前記農作物を包囲する支持体と、前記支持体に固定された複数の紫外線発光素子と、前記紫外線発光素子へ電力を供給して紫外線を前記農作物の表面に向けて照射させる電力供給装置とを具備し、前記前記紫外線発光素子は、300nm~400nmの間に発光波長のピークを有することを特徴とする。
この農作物の製造装置によれば、農作物を前記支持体で支持するとともに包囲し、前記支持体に固定された複数の前記紫外線発光素子へ前記電力供給装置から電力を供給して300nm~400nmの間に発光波長のピークを有する紫外線を前記農作物の表面に向けて照射させる。これにより、照射面における糸状菌等の病原菌の発生が抑えられ、農作物表面での病気の発生を抑制することが可能であり、薬剤のように農作物に品質や安全性に対する悪影響を与えず、コストが安く、耐性菌が生まれるリスクも少ない利点を有する。
【0009】
態様2に係る農作物の製造装置は、態様1において、前記紫外線発光素子は、330nm~395nmの間に発光波長のピークを有する。
この農作物の製造装置によれば、農作物の表面における糸状菌等の侵入および繁殖を効果的に抑制することが可能であり、糸状菌等に起因する各種農作物の病気を抑制することができる。
【0010】
態様3に係る農作物の製造装置は、態様1または2において、前記紫外線発光素子は、紫外線発光ダイオードであることを特徴とする。
この農作物の製造装置によれば、消費電力が小さいとともに発熱が小さいために、電力コストを抑え、農作物に温度変化の影響を与えることも少ない利点を有する。但し、本発明は他の形式の紫外線発光素子、例えば、水銀ランプ、エキシマランプ、He-Cdレーザーやエキシマレーザー等の気体レーザー紫外線発生デバイス、紫外線プラズマ発光素子なども使用可能である。
【0011】
態様4に係る農作物の製造装置は、態様1~3のいずれかにおいて、前記電力供給装置は、前記農作物の病気予防すべき表面に前記紫外線発光素子からの平均照射強度が6mW/cm2以上となるように前記紫外線を連続光または断続光として照射し、前記病気予防すべき表面での糸状菌の繁殖を抑制することを特徴とする。
この農作物の製造装置によれば、農作物の表面における糸状菌等の侵入および繁殖をさらに効果的に抑制することが可能であり、糸状菌等に起因する各種農作物の病気を抑制することができる。前記紫外線発光素子からの前記農作物の表面での平均照射強度は、より好ましくは6mW/cm2以上であり、さらに6mW/cm2以上かつ9mW/cm2以下であってもよい。
【0012】
態様5に係る農作物の製造装置は、態様1~4のいずれかにおいて、前記電力供給装置は、前記農作物の病気予防すべき表面に前記紫外線発光素子からの平均総照射量が100J/cm2以上となるように前記紫外線を連続光または断続光として照射し、前記病気予防すべき表面での糸状菌の繁殖を抑制することを特徴とする。
この農作物の製造装置によれば、農作物の表面における糸状菌等の侵入および繁殖をさらに効果的に抑制することが可能であり、糸状菌等に起因する各種農作物の病気を抑制することができる。前記紫外線発光素子からの前記農作物の表面での平均総照射量は、より好ましくは90J/cm2以上であり、さらに100J/cm2以上かつ120J/cm2以下であってもよい。
【0013】
態様1~5のいずれかにおいて、農作物の製造装置は、前記支持体により支持された農作物の表面温度を測定する温度センサと、農作物に風を吹き付ける送風機と、前記温度センサの出力に応じて前記送風機を駆動する制御装置とを具備していてもよい。
この場合、紫外線を照射している間の農作物の温度や湿度の管理を行うことができ、農作物の品質管理を強化することができる。
【0014】
態様1~5のいずれかにおいて、農作物の製造装置は、前記支持体が農作物を球殻状に包囲する複数のアームを有し、これらのアームの内周側に前記紫外線発光素子が複数固定されていてもよい。
この場合、農作物の表面から略一定の距離範囲に前記紫外線発光素子を配置することが容易であり、農作物の表面における紫外線の照射強度のバラツキを低減することができる。
【0015】
態様1~5のいずれかにおいて、農作物の製造装置は、前記支持体が農作物の栽培場内において設置可能な支柱を有し、この支柱の外周には、高さ方向に間隔を空けて前記紫外線発光素子が複数固定されていてもよい。
この場合、栽培場にて育成中の農作物の表面から略一定の距離範囲に前記紫外線発光素子を配置することが容易であり、育成中の農作物の表面における糸状菌等の病原菌の繁殖を抑制することができる。前記支柱は、栽培場の天井から位置変更可能に吊り下げられた支柱であってもよい。この場合は、土壌面に紫外線を照射することもでき、土壌中の糸状菌の滅菌も行える。
【0016】
態様1~5のいずれかにおいて、農作物の製造装置は、前記支持体が農作物の栽培場内を走行可能な台車と、前記台車に固定されたロボットアームと、前記ロボットアームの先端に取り付けられた、育成中の農作物を包囲可能なカバーと、前記台車および前記ロボットアームを稼働する制御装置とを具備し、前記カバーの内側に前記紫外線発光素子が固定されていてもよい。
この場合、前記台車および前記ロボットアームを前記制御装置により操作して、栽培場にて育成中の農作物を前記カバーで覆い、前記カバー内側の前記紫外線発光素子により農作物に紫外線を照射して、育成中の農作物の表面における糸状菌等の病原菌の繁殖を抑制することができる。
【0017】
態様1~5のいずれかにおいて、農作物の製造装置は、前記支持体が収穫後の農作物を複数個収容できる収容空間と、この収容空間を囲む壁部とを有し、前記壁部はその内部に設けられた前記紫外線発光素子と、前記壁部の表面を構成する紫外線を透過できる透明板とを具備してもよい。
この場合、前記収容空間に収穫後の農作物を複数収容した状態で、これらの農作物に一斉に紫外線を照射することができ、収穫後の農作物の表面における糸状菌等の病原菌の繁殖を抑制することができる。
【0018】
態様6に係る農作物の製造方法は、少なくとも一個の農作物を支持体で支持すると共に前記農作物を前記支持体で包囲する支持工程と、前記支持体に固定された複数の紫外線発光素子へ電力を供給して、300nm~400nmの間に発光波長のピークを有する紫外線を、前記農作物の病気予防すべき表面における平均照射強度が6mW/cm2以上となるように、連続光または断続光として照射前記農作物の表面に向けて照射させる照射工程とを具備する。
この農作物の製造方法によれば、農作物を前記支持体で支持するとともに包囲し、前記支持体に固定された複数の前記紫外線発光素子へ前記電力供給装置から電力を供給して300nm~400nmの間に発光波長のピークを有する紫外線を前記農作物の表面に向けて照射させることにより、照射面における糸状菌等の病原菌の発生が抑えられ、農作物表面での病気の発生を抑制することが可能であり、薬剤のように農作物に品質や安全性に対する悪影響を与えず、コストが安く、耐性菌が生まれるリスクも少ない利点を有する。前記紫外線発光素子からの前記農作物の表面での平均照射強度は、より好ましくは6mW/cm2以上であり、さらに6mW/cm2以上かつ9mW/cm2以下であってもよい。
【0019】
態様7に係る農作物の製造方法は、態様6において、前記照射工程では、前記農作物の病気予防すべき表面に前記紫外線発光素子からの平均総照射量が100J/cm2以上となるように前記紫外線を照射することを特徴とする。
この農作物の製造方法によれば、農作物の表面における糸状菌等の侵入および繁殖をさらに効果的に抑制することが可能であり、糸状菌等に起因する各種農作物の病気を抑制することができる。前記紫外線発光素子からの前記農作物の表面での平均総照射量は、より好ましくは90J/cm2以上であり、さらに100J/cm2以上かつ120J/cm2以下であってもよい。
【0020】
態様1~7の農作物の製造装置および製造方法によれば、メロン、イチゴ、リンゴ、みかん、ブドウ、トマトなどの果物;ジャガイモ、サツマイモなどの芋類;キュウリ、スイカ、カボチャ、ズッキーニ、ヒョウタン、ヘチマ、トウガン、テッポウウリ、ユウガオ、ツルレイシ(ゴーヤー)、メロン等のウリ類をはじめとする農作物の、うどんこ病、つる枯病、綿腐病、疫病、白絹病、立枯病、褐斑細菌病、斑点細菌病、黒星病、べと病、および灰色かび病などを抑制することが可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の農作物の製造装置および製造方法によれば、農作物を前記支持体で支持するとともに包囲し、前記支持体に固定された複数の前記紫外線発光素子へ前記電力供給装置から電力を供給して300nm~400nmの間に発光波長のピークを有する紫外線を前記農作物の表面に向けて照射させる。これにより、照射面における糸状菌等の病原菌の発生が抑えられ、農作物表面での病気の発生を抑制することが可能であり、薬剤のように農作物に品質や安全性に対する悪影響を与えず、コストが安く、耐性菌が生まれるリスクも少ない利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の農作物の製造装置の第1実施形態を示す蓋を外した状態の平面図である。
【
図2】第1実施形態の農作物の製造装置の蓋を示す裏面図である。
【
図3】第1実施形態の支持板と紫外線発光素子を示す正面図である。
【
図4】第1実施形態の支持板と紫外線発光素子を示す側面図である。
【
図5】第1実施形態の農作物の製造装置の紫外線照射状態を示す平面図である。
【
図6】第1実施形態の農作物の製造装置の送風状態を示す平面図である。
【
図7】農作物の製造装置の第2実施形態を示す斜視図である。
【
図9】農作物の製造装置の第3実施形態を示す正面図である。
【
図10】農作物の製造装置の第4実施形態を示す正面図である。
【
図11】農作物の製造装置の第5実施形態を示す正面図である。
【
図12】農作物の製造装置の第6実施形態を示す斜視図である。
【
図13】第6実施形態の壁部と紫外線発光素子を示す正面図である。
【
図14】紫外線照射実験に用いた実験装置の写真である。
【
図15】前記実験装置での紫外線の波長スペクトルを示すグラフである。
【
図16】前記実験装置での紫外線発光素子からサンプルまでの距離と、サンプル表面での照射強度(mW/cm
2)を示すグラフである。
【
図17】メロンつる割病菌のコロニーに対し、前記実験装置により総照射量を0~900(J/cm
2)で変化させて紫外線(340nm)を照射した後に0~72時間培養した結果を示す写真である。
【
図18】メロンつる割病菌のコロニーに対し、前記実験装置により総照射量を0~900(J/cm
2)で変化させて紫外線(365nm)を照射した後に0~72時間培養した結果を示す写真である。
【
図19】微量のメロンつる割病菌に対し、前記実験装置により総照射量0~150(J/cm
2)で変化させて紫外線(365nm)を照射した後に0~72時間培養した結果を示す写真である。
【
図20】微量のイチゴ黒斑病菌に対し、前記実験装置により総照射量0~150(J/cm
2)で変化させて紫外線(365nm)を照射した後に0~72時間培養した結果を示す写真である。
【
図21】第1実施形態の農作物の製造装置において紫外線照射強度を測定した32点を示す平面図である。
【
図22】第1実施形態の農作物の製造装置において紫外線照射強度を測定した高さを示す平面図である。
【
図23】第1実施形態の農作物の製造装置において各高さでの紫外線照射強度(mW/cm
2)を示すグラフである。
【
図24】第1実施形態の農作物の製造装置においてメロンに紫外線照射を行った場合のメロン重量の変化を示すグラフである。
【
図25】試験後のメロンにおいて糖度を測定した位置を説明するための図である。
【
図26】試験後のメロンを各位置で円柱状にくりぬいた試験片を示す写真である。
【
図27】各試験片での表皮付近の糖度(%)を示すグラフである。
【
図28】各試験片での中心側での糖度(%)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて具体的に説明する。
[第1実施形態]
図1~
図6は、本発明の第1実施形態である農作物の製造装置1を示している。この農作物の製造装置1は、直方体状の箱であるハウジング2を有し、このハウジング2は上端が解放されたハウジング本体2Aと、その上端を開閉可能に閉じる直方体状の蓋2Bとから構成されている。ハウジング本体2Aの内部には、四方の側壁面と平行にかつ側壁面から一定の距離をそれぞれ空けて支持板4および支持板6が配置されている。また、ハウジング本体2Aの内底面の中央および蓋2Bの内天面の中央には支持板8が配置されている。これら支持板4、6、8には、紫外線発光素子10がハウジング2の内側に向けて固定されている。
【0024】
図3に示すように、支持板4には上下方向に延びるスリット5が複数(図では6本)形成され、残された架橋部に紫外線発光素子10が上下方向に互いに一定の間隔を空けて固定されている。隣接する架橋部では紫外線発光素子10の配置が互い違いとなっている。
同様に、
図4に示すように、支持板6には上下方向に延びるスリット7が複数(図では4本)形成され、残された架橋部に紫外線発光素子10が上下方向に互いに一定の間隔を空けて固定されている。隣接する架橋部では紫外線発光素子10の配置が互い違いとなっている。
支持板8には、
図1に示すように、その両端に紫外線発光素子10が上向きに固定されている。支持板8の代わりに支持板4または6を底面の中央に設置してもよい。
【0025】
ハウジング本体2Aの内底面の中央には、図示していないがメロン等の球状または塊状の農作物Aの下面を農作物Aが転がらないように支える複数の脚部が設けられ、これら脚部の上に農作物Aを設置して蓋2Bを閉じると、
図5に点線で示すように、農作物Aの全面に亘って紫外線発光素子10からの紫外線照射域がカバーするようになっている。紫外線発光素子10の配置は、農作物Aの全面でほぼ均一な紫外線照射強度になるように設計されている。
【0026】
ハウジング本体2Aの短辺壁の一方には、送風ファン12が壁部の中央に貫通して取り付けられ、他方の短辺壁の中央には、排出口14が形成されている。送風ファン12はモーターを内蔵して図示しないファンを回転させ、ハウジング2内の中央に向けて外気を吹き込むようになっている。
図6の矢印で示すように、吹き込まれた外気は、一部は支持板6のスリット7を通って農作物Aの外面に当たり再び支持板6のスリット7を通って排出口14から排出される。また、吹き込まれた外気の残りは支持板6と壁面との隙間を通って支持板4に沿って流れ、さらに支持板6の近傍を通って排出口14から排出される。この過程で、農作物Aが外気で冷却されるとともに、各支持板4,6,8および紫外線発光素子10が冷やされて、農作物Aおよびハウジング2の内部の温度上昇や湿度上昇が抑制されるようになっている。
【0027】
ハウジング本体2Aの内底面には、センサ支持体18が移動可能に配置され、センサ支持体18は温度センサ20を農作物Aの表面に近接または当接させることができるように支持されている。紫外線発光素子10、送風ファン12、および温度センサ20は図示しない配線を通して、ハウジング2の外壁面に固定された制御装置16に接続されている。制御装置16は図示しない操作パネルを備えており、紫外線発光素子10のON-OFF、タイマーによる点灯時間、および発光強度を調整可能になっている。また、制御装置16は温度センサ20からの信号に応じて送風ファン12のON-OFFおよび回転速度を、温度センサ20の検出する農作物Aの温度がほぼ一定になるように、フィードバック制御することもできるようになっている。送風ファン12の制御は行わすに固定回転速度とし、実験室内の空調設備による温度管理により農作物Aの温度を調整してもよい。
【0028】
紫外線発光素子10は、300nm~400nmの紫外線波長域に発光波長のピークを有するものである。本発明者の実験により、この波長域の紫外線を農作物Aに照射することにより、照射面における糸状菌等の病原菌の発生が抑えられ、農作物表面での病気の発生を抑制することが可能であることが判明した。紫外線発光素子10は、330nm~395nmの間に発光波長のピークを有してもよく、この場合、特に糸状菌の農作物Aへの侵入および繁殖を効果的に抑制でき、糸状菌等に起因する病気を抑制する効果が高いことが本発明者の実験により確かめられている。
【0029】
紫外線発光素子10は、本発明用に特別設計されたものでもよいが、一般に市販されている紫外線発光ダイオードを使用することも可能である。一般に市販されている紫外線発光ダイオードとしては、340nm、365nm、375nm、385nm、392.5nm、395nm用などがあり、発光電圧は3.0~4.8V程度のものが多い。例えば、現在一般に市販されているUV-LEDの順電圧(定格電圧)は次のとおりである。340nm:4.6~4.8V,365nm:3.80~3.85V,375nm:3.40V,385nm:3.35V,395nm:3.30V。但し、これらの値に限定されることはない。また、本発明は他の形式の紫外線発光素子、例えば、水銀ランプ、エキシマランプ、He-Cdレーザーやエキシマレーザー等の気体レーザー紫外線発生デバイス、紫外線プラズマ発光素子なども使用可能である。
【0030】
制御装置16は、限定はされないが、農作物Aの病気予防すべき表面(この場合、農作物Aの全面)に紫外線発光素子10からの平均照射強度が6mW/cm2以上となるように、紫外線を連続光または断続光として照射することが好ましい。この範囲内であれば、病気予防すべき表面での糸状菌等の病原菌の繁殖を抑制することを特徴とする。紫外線発光素子10からの農作物Aの表面での平均照射強度は、より好ましくは6mW/cm2以上であり、さらに6mW/cm2以上かつ9mW/cm2以下であってもよい。
【0031】
また、制御装置16は、農作物Aの表面に紫外線発光素子10からの平均総照射量が90J/cm2以上となるように紫外線を連続光または断続光として照射できるように出力設定されていることが好ましい。平均総照射量が90J/cm2以上であれば、農作物の表面における糸状菌等の侵入および繁殖をさらに効果的に抑制することが可能であり、糸状菌等に起因する各種農作物の病気を抑制することができる。紫外線発光素子10からの農作物Aの表面での平均総照射量は、より好ましくは100J/cm2以上であり、さらに100J/cm2以上かつ120J/cm2以下であってもよい。
【0032】
農作物の製造装置1によって、農作物Aを製造する場合には、まず蓋2Bを空けて、メロン等の農作物Aを脚部に載せ、ハウジング本体2Aの中央に設置する。次に、温度センサ20が農作物Aの表面に接近した位置でセンサ支持体18を配置し、蓋2Bを閉じる。制御装置16の操作パネルを操作して、送風ファン12の制御を開始し、全ての紫外線発光素子10を発光させ、制御装置16のタイマーにより紫外線の照射時間を設定して、紫外線の照射を開始する。
【0033】
紫外線の照射中、温度センサ20が農作物Aの表面温度を計測してその信号を制御装置16へ送り、制御装置16は送風ファン12のON-OFFおよび回転数を制御して農作物Aの表面温度が一定値以上に上がらないようにフィードバック制御する。これにより、農作物Aに紫外線発光素子10から300nm~400nmの間に発光波長のピークを有する紫外線を満遍なく照射することができ、照射面における糸状菌等の病原菌の発生が抑えられ、農作物表面での病気の発生を抑制することが可能である。また、薬剤のように農作物に品質や安全性に対する悪影響を与えず、コストが安く、耐性菌が生まれるリスクも少ない利点を有する。
【0034】
第1実施形態の農作物の製造装置1および製造方法によれば、メロンに限らず、イチゴ、リンゴ、みかん、ブドウ、トマトなどの果物;ジャガイモ、サツマイモなどの芋類;キュウリ、スイカ、カボチャ、ズッキーニ、ヒョウタン、ヘチマ、トウガン、テッポウウリ、ユウガオ、ツルレイシ(ゴーヤー)、メロン等のウリ類をはじめとする農作物のうどんこ病、つる枯病、綿腐病、疫病、白絹病、立枯病、褐斑細菌病、斑点細菌病、黒星病、べと病、および灰色かび病などを抑制することが可能である。
【0035】
また、後述するように、農作物の製造装置1によれば、理由は明確ではないが、農作物Aの糖度を高めて味をよくする効果も期待できる。
【0036】
[第2実施形態]
図7および
図8は、本発明の第2実施形態の農作物の製造装置30を示している。この農作物の製造装置30は、直方体状の台座32と、その上に設置された球状フレーム34を有する。球状フレーム34は、中心にメロンのような球状の農作物Aを支持でき、農作物Aの表面からほぼ等間隔を空けて農作物Aを包囲する形状をなしている。球状フレーム34は、半円状をなして上下方向に延びる4本のアーム34A、34B、34C、34Dと、これら4本の中央を水平に囲む円形のアーム34Eとから主構成されている。
【0037】
図8に示すように、アーム34Aとアーム34Cは、下端部が台座32から直立する支柱42に回動可能に取り付けられており、
図8中の2点鎖線で示すように球状フレーム34はほぼ中央から二つに分割して開閉できるようになっている。アーム34Eは2つの分割面35から半円状に分割可能とされ、アーム34Aにはアーム34Eの右半分が固定され、アーム34Cにはアーム34Eの左半分が固定されている。また、アーム34Cにはアーム34Bとアーム34Dが固定されている。アーム34Aの上端と、アーム34Cの上端には係止部36、40が形成され、これらをまとめて係止部38で固定できるようになっている。係止部38を外すことにより、球状フレーム34は左右に二分割して開くことができる。
【0038】
各アーム34Aの内周面には、互いに一定角度を隔てて、紫外線発光素子44が球状フレーム34の内部空間の中心に向けて固定されている。図示の例では球状フレーム34の中心角回りに、下端0°、45°、90°、135°、上端180°の位置に紫外線発光素子44が固定されている。アーム34Eにも、45°ずつ隔てて紫外線発光素子44が球殻中心に向けて固定されている。紫外線発光素子44の設置間隔は、紫外線発光素子44の出力や球状フレーム34の大きさに応じて適宜設定すればよく、15°、30°、60°などであってもよいし、メロンにカビの生えやすい箇所があればその箇所で照射強度を上げるために不等間隔であってもよい。紫外線発光素子44は、第1実施形態で使用した紫外線発光素子10と同様のものでよく、説明を援用する。
【0039】
台座32上には、アーム34Bの下端の両側およびアーム34Dの下端の両側に、合計4本の支持台39が起立して固定され、その上端にメロン等の農作物Aが転がらないように載置できる。また、アーム34Aの下端近くには、電気的に撮像するカメラ46が取り付けられ、農作物Aの表面を撮影できるようになっている。
【0040】
台座32の内部には、二次電池である電源48が収容されるとともに、制御装置50が収容されている。台座32の外部には例えば4枚の太陽電池パネル52が並べて設置されている。制御装置50は、電源48、全ての紫外線発光素子44、カメラ46、および太陽電池パネル52に接続されており、図示しない操作パネルを備え、紫外線発光素子44を前記第1実施形態の制御装置16と同様の平均照射強度で以て、同様の平均総照射量となるように紫外線を連続光または断続光として照射できるように出力設定されている。この点は制御装置16と同様であるから第1実施形態の説明を援用する。また、制御装置50は太陽電池パネル52からの電力を利用して電源48の充電を行い、過充電は防止するように制御する。これにより、外部からの電力供給がなくても、もしくは少ない電力供給でも、紫外線発光素子44を発光させることができる。
【0041】
農作物の製造装置30によって、農作物Aを製造する場合には、まず留め金40を外して、球状フレーム34を二分割して左右に開き、支持台39にメロン等の農作物Aを載せ、球状フレーム34を閉じて留め金40で固定する。
制御装置50の操作パネルを操作して、全ての紫外線発光素子44を発光させ、制御装置50のタイマーにより紫外線の照射時間を設定して、紫外線の照射を開始する。
これにより、農作物Aの全面に亘って、紫外線発光素子44から300nm~400nmの間に発光波長のピークを有する紫外線を満遍なく照射することができ、照射面における糸状菌等の病原菌の発生が抑えられ、農作物Aの表面での病気の発生を抑制することが可能である。抑制しえる病気の種類は第1実施形態と同様である。薬剤のように農作物に品質や安全性に対する悪影響を与えず、コストが安く、耐性菌が生まれるリスクも少ない利点を有する。
【0042】
また、この第2実施形態では、球状フレーム34の風通しがよいため、農作物Aの温度が上昇せず、太陽光も当てることができるうえ、農作物Aを目視しやすい利点も有する。留め金40をロックすることにより、高価な農作物Aの盗難防止の効果も得られる。農作物Aによっては、病気の抑制だけでなく農作物Aの糖度の向上も期待することができる。
【0043】
[第3実施形態]
図9は、本発明の第3実施形態60を示している。この第3実施形態の農作物の製造装置60では、栽培場の地面Gに茎部ASが植えられ、茎部ASにメロンなどの農作物Aが実った状態で使用することができるものであり、栽培場の地面Gに配置可能な複数の支柱61を有する。各支柱61の外周面には、複数の紫外線発光素子62が配置され、支柱61の周囲に放射状に紫外線を発生することができる。支柱61の下端には台座64が設けられ、図示しないコードを介して図示しない制御装置に接続されている。支柱61は列をなして隣接する茎部AS同士の間にほぼ一定の距離を空けて互いに等間隔に配置され、いずれの農作物Aにもほぼ一定の紫外線を照射するようになっている。紫外線発光素子62は、第1実施形態の紫外線発光素子10と同様でよく、その説明を援用する。
【0044】
この農作物の製造装置60を使用するには、茎部ASの位置に合わせて支柱61を配置し、制御装置の操作パネルを操作して、全ての紫外線発光素子62を発光させ、制御装置のタイマーにより紫外線の照射時間を設定して、紫外線の照射を開始する。これにより、農作物Aの全面に亘って、紫外線発光素子62から300nm~400nmの間に発光波長のピークを有する紫外線を満遍なく照射することができ、照射面における糸状菌等の病原菌の発生が抑えられ、農作物Aの表面での病気の発生を抑制することが可能である。抑制しえる病気の種類は第1実施形態と同様である。この装置および方法によれば、薬剤のように農作物に品質や安全性に対する悪影響を与えず、コストが安く、耐性菌が生まれるリスクも少ない利点を有する。
【0045】
また、この農作物の製造装置60では、農作物Aを育成しながら、農作物Aに糸状菌等の病原菌が付着もしくは繁殖しやすい状況(季節、天候、生育段階)の時だけ、支柱61を栽培場内に設置して紫外線を照射することができ、病原菌に対する効果的な対策が可能となる。農作物Aによっては、病気の抑制だけでなく農作物Aの糖度の向上も期待することができる。
【0046】
[第4実施形態]
図10は、本発明の第4実施形態60を示している。この第4実施形態の農作物の製造装置70は、栽培場の地面Gに茎部ASが植えられ、茎部ASにメロンなどの農作物Aが実った状態で使用することができるものであり、栽培場の地面G上を車輪74で走行可能な台車72を有し、台車72には1または複数のロボットアーム76が設置されている。ロボットアーム76の先端には、茎部ASに実っている農作物Aに下から被せることができるカバー78が取り付けられている。カバー78は、開口部80を有する有底円筒状または半球状をなし、その内面にはカバー78の内側に向けて複数の紫外線発光素子が固定されて、カバー78の内部中心に向けて紫外線を発生する。台車72の内部には図示しない制御装置が配置され、車輪74の回転、ロボットアーム76の運動、紫外線発光素子からの紫外線照射を制御するようになっている。電源は、台車72内に電池が配置されるか、外部電源に接続されている。紫外線発光素子は、第1実施形態の紫外線発光素子10と同様でよく、その説明を援用する。
【0047】
この農作物の製造装置70を使用するには、台車72を茎部ASの間の適切な位置に留めた後、制御装置の操作パネルを操作して、ロボットアーム76を動かし、目標とする農作物Aに下からカバー78を被せ、農作物Aがカバー78の中心に位置するようにカバー78を位置決めする。次に、全ての紫外線発光素子を発光させ、制御装置のタイマーにより紫外線の照射時間を設定して、紫外線の照射を開始する。これにより、農作物Aの全面に亘って、紫外線発光素子から300nm~400nmの間に発光波長のピークを有する紫外線を満遍なく照射することができ、照射面における糸状菌等の病原菌の発生が抑えられ、農作物Aの表面での病気の発生を抑制することが可能である。抑制しえる病気の種類は第1実施形態と同様である。この装置および方法によれば、薬剤のように農作物に品質や安全性に対する悪影響を与えず、コストが安く、耐性菌が生まれるリスクも少ない利点を有する。
【0048】
この農作物の製造装置70によれば、病原菌を滅菌すべき農作物Aを選んで、農作物Aが高い位置にあろうとも、その農作物Aだけをカバー78で覆って集中的に糸状菌等の病原菌を滅菌し、病気の抑制をすることができ、農作物Aの価値を高めるうえで多大な効果が得られる。農作物Aによっては、病気の抑制だけでなく農作物Aの糖度の向上も期待することができる。
【0049】
[第5実施形態]
図11は、本発明の第5実施形態90を示している。この第5実施形態の農作物の製造装置90は、農作物Aの栽培ハウスHの天井内側に水平に配置された1または複数のフレーム92と、フレーム92の下面に固定された1または複数のレール94と、レール94から垂直下方へ吊された状態でレール94に沿って茎部ASの間を移動可能に配置された支柱96とを有し、支柱96の外周には複数の紫外線発光素子98が固定されて、支柱96の周囲に放射状に紫外線を発生する。また、支柱96の下端は地面Gから一定距離の高さに位置し、支柱96の下端には地面Gへ紫外線を照射する紫外線発光素子100が固定されている。フレーム92の内部には図示しない制御装置が配置され、紫外線発光素子98,100からの紫外線照射を制御するようになっている。電源は、フレーム92内に電池が配置されるか、栽培ハウスHの外の外部電源に接続されている。紫外線発光素子は、第1実施形態の紫外線発光素子10と同様でよく、その説明を援用する。
【0050】
この農作物の製造装置90を使用するには、支柱96を人手または農作物の製造装置90内の駆動装置により移動させ、支柱96を茎部ASの間の適切な位置に留めた後、制御装置の操作パネルを操作して、全ての紫外線発光素子を発光させ、制御装置のタイマーにより紫外線の照射時間を設定して、紫外線の照射を開始する。これにより、農作物Aの全面に亘って、紫外線発光素子から300nm~400nmの間に発光波長のピークを有する紫外線を満遍なく照射することができ、照射面における糸状菌等の病原菌の発生が抑えられ、農作物Aの表面での病気の発生を抑制することが可能である。抑制しえる病気の種類は第1実施形態と同様である。この装置および方法によれば、薬剤のように農作物に品質や安全性に対する悪影響を与えず、コストが安く、耐性菌が生まれるリスクも少ない利点を有する。
【0051】
また、この農作物の製造装置90によれば、紫外線発光素子100により地面Gの表層における糸状菌等の病原菌の滅菌も行えるので、農作物Aのみに紫外線を照射するよりも効果的に病気の予防が行える。農作物Aによっては、病気の抑制だけでなく農作物Aの糖度の向上も期待することができる。
【0052】
[第6実施形態]
図12~
図13は、本発明の第6実施形態110を示している。この第6実施形態の農作物の製造装置110は、収穫後の多数のメロン等の農作物Aを収容して一定期間保存するために使用されるもので、全体として上端が解放された多段の箱状をなし、長辺をなす壁部112と、短辺および隔壁をなす壁部114とを有する。壁部112と壁部114および底板部(図示略)で囲まれた直方体状の空間が収容空間115であり、個々の収容空間115内に農作物Aを水平方向に複数列に並べ、垂直方向に積み重ねて収容できるようになっている。
【0053】
壁部114は、内部に支持体118を有し、この支持体118の両面には水平方向および垂直方向の一定間隔毎に多数の紫外線発光素子120が外側へ向けて固定され、支持体118の両側に紫外線発光素子120を保護するとともに紫外光を拡散させ、光量を均一化するための拡散効果のある透明板122がそれぞれ平行に配置されている。透明板122は紫外線発光素子120からの紫外線を透過する材質で形成されている。壁部112も壁部114と同様の構造を有する。
【0054】
また、収容空間115内には、複数列(この図では2列)に並べられた農作物Aの間を通るように、底板部から垂直に延びる支柱116が設置され、各支柱116の外周にも紫外線発光素子(図示略)が一定間隔毎に固定されている。壁部112および114内の紫外線発光素子120および支柱116の紫外線発光素子はいずれも、図示しない制御装置に第1実施形態の紫外線発光素子10と同様でよく、その説明を援用する。
【0055】
この農作物の製造装置110を使用するには、収穫後のメロン等の農作物Aを、収容空間115内に整列および積層して多段に並べて収容する。収容が完了したら、制御装置の操作パネルを操作して全ての紫外線発光素子120他を発光させ、制御装置のタイマーにより紫外線の照射時間を設定して、紫外線の照射を開始する。これにより、収穫された多数の農作物Aの全面に亘って、紫外線発光素子120他から300nm~400nmの間に発光波長のピークを有する紫外線を満遍なく照射することができ、照射面における糸状菌等の病原菌の発生が抑えられ、農作物Aの表面での病気の発生を抑制することが可能である。抑制しえる病気の種類は第1実施形態と同様である。この装置および方法によれば、薬剤のように農作物に品質や安全性に対する悪影響を与えず、コストが安く、耐性菌が生まれるリスクも少ない利点を有する。
【0056】
また、農作物の製造装置110では、収穫後の一定期間を利用して、一度に多数の農作物Aに対して効率よく紫外線を照射することができ、農作物Aによっては、病気の抑制だけでなく農作物Aの糖度の向上も期待することができる。
【実施例0057】
次に、本発明者による病原菌への紫外線照射実験の結果を説明し、本発明の効果を詳しく説明する。
図14は、本実験に用いた紫外線照射装置、発光制御装置、およびコンピューターを示す写真である。中央の紫外線照射装置内に下向きに配置された紫外線発光ダイオードユニットから、下方に配置されたシャーレ内の病原菌に紫外線を照射した。紫外線発光ダイオードユニットは冷却ファンおよびヒートシンクを用いて常時冷却した。照射距離は0~30cmの範囲で調整可能とした。
【0058】
[1.紫外線発光素子の波長測定]
まず、本実験で用いる市販の2種類の紫外線発光素子(340nm、365nm)の周波数特性を測定した。紫外線発光素子(365nm)はams OSRAM社製:商品名LZ1-10UV00-0000で、10個のLEDをまとめた発光ユニットであり、ピーク波長:365nm、半値幅:12nm、定格出力:1.2W、定格電圧:3.8Vであった。紫外線発光素子(340nm)はDOWAエレクトロニクス株式会社製:商品名340-FL-02-U05-00001で、8個のLEDをまとめた発光ユニットであり、ピーク波長:340nm、半値幅:9nm、定格出力:70W、定格電圧:4.8Vであった。測定の結果、
図15に示すように、それぞれのピーク波長は規格通りに340nmおよび365nmであった。
図15の縦軸は光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。
【0059】
[2.照射距離と照射強度の測定]
図14の装置に、前記2種類の紫外線発光素子(340nm、365nm)をそれぞれセットし、紫外線発光素子の出射面から照射面までの距離を1~15cmの範囲で変化させつつ、照度計を用いて照射面での紫外線照射強度(mW/cm
2)を測定した。結果を
図16に示す。340nmの紫外線発光素子は、365nmのものに比べて発光効率がかなり低かった。
【0060】
[3.メロンつる割病菌の高濃度コロニーに対する紫外線照射実験]
糸状菌の一種であるメロンつる割病菌を寒天培地(Potato-Dextrose Agar)上で20℃で72時間培養し、十分に菌株が成長した状態とした後、菌株を直径7mmの円形に切り抜き、円形の菌株を高濃度コロニーとして、シャーレ内の新しい寒天培地(Potato-Dextrose Agar)の中央に載せた。糸状菌の提供元は理化学研究所 バイオリソース研究センター微生物材料開発室(JCM)であり、菌名(学名)はFusarium oxysporum f.sp.melonis(メロンつる割病菌)、JCM番号:9288である。
【0061】
図14の装置に、前記2種類の紫外線発光素子(340nm、365nm)をそれぞれセットし、シャーレを照射台に載せ、総照射量を0、150、300、450、600、750、および900(J/cm
2)として、表1の条件で円形の菌株の全面に照射を行った。波長の違いにより紫外線発光素子の発光効率の違いがあるため、紫外線発光素子から培地までの照射距離を変えて、照射強度が等しくなるように調整した。また、総照射量は照射時間により調整した。照射時の室温:23℃であり、500分照射後に340nmでは培地の温度が5℃上がっていたが、温度の影響は無視できると思われる。
【0062】
【0063】
各条件で紫外線を照射した後、シャーレを恒温培養器(20℃)に入れて培養し、照射前の状態、24時間培養後、48時間培養後、72時間培養後のシャーレ内の写真を撮影した。
図17は、メロンつる割病菌のコロニーに対し、各条件で紫外線(340nm)を照射した後に0~72時間培養した結果を示す写真である。
図18は、メロンつる割病菌のコロニーに対し、各条件で紫外線(365nm)を照射した後に0~72時間培養した結果を示す写真である。
図17および
図18に示すように、波長340nm、365nmの紫外線発光素子による滅菌効果はほぼ同等であり、いずれも総照射量750J/cm
2以上の照射を行うことによって糸状菌は完全に死滅した。
【0064】
[4.微量のメロンつる割病菌に対する紫外線照射実験]
実際の農場現場では糸状菌は数本の状態で風によって運ばれて農作物に付着し、成長を始める。収穫後の場合も同じく、糸状菌は風や農作物同士の接触(片方が既に糸状菌が付着している場合)などによって農作物に付着し、成長する。そこで、本実験では現実に近い微量の糸状菌に紫外線照射を行った。
【0065】
前記メロンつる割病菌を寒天培地(Potato-Dextrose Agar)上で20℃で72時間培養し、十分に菌株が成長した状態とした後、親株からピンセットで微量のメロンつる割病菌を採集し、新しい15個のシャーレ内の寒天培地の中央に留置した。
図1~
図6に示した装置に、前記紫外線発光素子(365nm)をセットし、シャーレを照射台に載せ、総照射量を0,10,50,100,および150(J/cm
2)として、表2の条件でシャーレに照射を行った。具体的には、装置の一方の支持板4と平行に長方形状の照射台(図示略)を装置内に起立させて設置し、支持板4に固定された13個の紫外線発光素子10のうち12個のそれぞれと対向させて計12個のシャーレを照射台に両面テープで貼り付け、紫外線照射を開始した。紫外線総照射量が10,50,100,および150(J/cm
2)に達した各時点で3つずつのシャーレを照射台から取り外し、培養を行った。また、照射していないシャーレ3つをコントロールとして同一条件で培養を行った。
【0066】
【0067】
前記培養の条件は、シャーレを恒温培養器(20℃)に入れ、0時間培養後、24時間培養後、48時間培養後、および72時間培養後とし、それぞれのシャーレ内の写真を撮影した。
【0068】
図19は、微量のメロンつる割病菌に対し紫外線(365nm)を照射した後に0~72時間培養した結果を示す写真である。Controlと比較すると、総照射量10J/cm
2の条件では糸状菌に対して滅菌効果がないことが分かった。総照射量50J/cm
2で滅菌効果が出始めるが糸状菌の完全死滅に至らなかった。総照射量100J/cm
2および150J/cm
2では糸状菌は完全に死滅した。
【0069】
[5.微量のイチゴ黒斑病菌に対する紫外線照射実験]
別の糸状菌の一種としてイチゴ黒斑病菌を寒天培地(Potato-Dextrose Agar)上で25℃で72時間培養し、十分に菌株が成長した状態とした後、親株からピンセットで微量のイチゴ黒斑病菌を採集し、新しいシャーレ内の寒天培地の中央に留置した。イチゴ黒斑病菌の提供元は前記メロンつる割病菌と同じである。イチゴ黒斑病菌の菌名(学名)はAlternaria alternataであり、JCM番号:5801である。
【0070】
実験4と同様に、
図1~
図6に示した装置に、前記紫外線発光素子(365nm)をセットし、12個のシャーレを前記照射台に載せ、総照射量を0,10,50,100,および150(J/cm
2)として、表2と同じ条件でシャーレに照射を行った。各条件で紫外線を照射した後、実験4と同様に、シャーレを恒温培養器(25℃)に入れて培養し、培養前の状態、0時間培養後、24時間培養後、48時間培養後、72時間培養後のシャーレ内の写真を撮影した。
【0071】
図20は、微量のイチゴ黒斑病菌に対し、前記各条件で紫外線(365nm)を照射した後に0~72時間培養した結果を示す写真である。メロンつる割病菌と結果は同じであり、総照射量10J/cm
2の条件では糸状菌に対して滅菌効果がないことが分かった。総照射量50J/cm
2で滅菌効果が出始めるが糸状菌の完全死滅に至らなかった。総照射量100J/cm
2および150J/cm
2では糸状菌は完全に死滅した。また、メロンつる割病菌での結果と比較することにより、紫外線照射による滅菌効果の再現性もよいことが確認できた。
【0072】
[6.メロン照射装置の試作と照射強度分布の測定]
図1~
図6に示した装置を用い、農作物としてのメロンに対し、必要な紫外線照射が行えるか調べた。紫外線発光素子10の個数は図示のとおり合計44個であり、紫外線LEDとしては、OptoSupply社製の商品名OSV1XME3E1S(ピーク波長:365nm、半値幅:13nm、定格出力:200mW、定格電圧:4.0V)を用いた。ハウジング2の底面に熱電対を設置し、温度のモニタリングができるようにした。
【0073】
図21および
図22に示すように、各紫外線LEDから5.0cm内側に離れるように、平面視して測定点間ピッチ3cmとして合計32の測定点を決めた。ハウジング2の内底面から5.0cm、9.0cm、12.0cm、15.0cm、18.6cmの高さにおいて、前記32の測定点で紫外線照度計により照射強度(mW/cm
2)を測定し、各高さにおける32測定点の平均値を算出した。
図23は、第1実施形態の農作物の製造装置における、内底面からの高さと紫外線照射強度(mW/cm
2)の関係を示すグラフである。
図23のグラフにしめすように、高さによる照射強度の幅は4.0~7.3(mW/cm
2)程度に収まっていた。メロンに照射する場合にも、メロンの全面に亘ってこの程度の照射強度が得られると予想できた。
【0074】
[7.メロン照射装置によるメロンの色および重量変化の測定]
第1実施形態の装置を用いてメロンに紫外線を照射した場合に、メロンに有害な変化が生じないかを調べた。室温は平均23℃に安定させたうえ、送風ファン12を常時調速回転させて、紫外線発光素子10を点灯中も、常にハウジング2内の温度が27~28℃に保たれるようにした。
【0075】
同じ収穫日および出荷日と推定される、同じブランドの直径約15cmのメロンを6個用意した。これらメロンは、不作為に3つずつの2グループに分け、第1グループの重量平均は約1800gであり、第2グループの重量平均は約1650gであった。
【0076】
第1グループのメロンは、ハウジング2内には設置せず、UV光が当たらない場所に置き、実験時間中の温度は室温23℃(平均)として、72時間保った。その間、24時間経過毎にメロンを取り出して、上下および外周回りに90°ごと合計6枚の写真撮影と、重量計による重量測定を行った。
【0077】
第2グループのメロンは、一つずつハウジング2内に設置し、紫外線発光素子10を点灯して、ハウジング2内の温度が27~28℃に保たれるようにしつつ、72時間保持した。その間、24時間経過毎に、ハウジング2から取り出し、上下および外周回りに90°ごと合計6枚の写真撮影と、重量計による重量測定を行った。
UV照射していない第1グループのメロンも、UV照射した第2グループのメロンも、同じ時間に実験を開始した。
【0078】
図24は、メロン重量の変化を示すグラフである。このグラフに示すように、紫外線照射を行った第2グループも、行わなかった第1グループも、水分の蒸発により重量はわずかずつ減少し、減少の程度はほぼ同じであった。したがって、紫外線により重量減少が加速されることはないことが確認できた。
【0079】
メロンの色に関しては、紫外線照射を行った第2グループでは48時間経過後に紫外線発光素子10から特に近かった部位で僅かに白くなったが、行わなかった第1グループと大きな差はなかった。したがって、紫外線照射したメロンに品質上の問題はないことが確認できた。
【0080】
[8.メロン照射装置によるメロンの糖度変化の測定]
メロンに紫外線を照射した場合に、副次的な効果として、メロンの表皮近くの糖度が増す現象を本発明者は見いだした。実験7の結果によると水分蒸発の影響によって糖度が増したのではないと思われる。
実験7の終了後の全てのメロンに対し、
図25(a)と(b)に示す合計5箇所で、円筒形の抜き取りナイフをメロンの表面から差し込んで、
図26に示すような円筒形(直径1.2cm×長さ約3.8cm)のサンプル片を取得した。これらサンプル片から表皮近くの果肉と、中心側の果肉を切り出し、それぞれを糖度計(ハンナインスツルメンツ・ジャパン社製商品名HI 96801)にかけて糖度を測定した。各グループにおいて同じ位置の糖度の平均値を算出し、各位置での糖度とした。なお、抜き取りナイフは15mLのプラスチックの試験管の底を切断して作成した。金属の酸化による味(糖度等)の変化を避けるためプラスチックを使用した。また、一か所のメロン果肉を抜き取った後、抜き取りナイフの内面と外面を蒸留水でよく洗浄してから、次の箇所に使用するように配慮した。
【0081】
図27は各位置A~Eにおける表皮近くの果肉の糖度、
図28は各位置A~Eにおける中心近くの果肉の糖度を示すグラフである。
図27に示すように、表皮付近の果肉の糖度は紫外線照射したメロンにおいて、いずれの位置A~Eでも有意に増加していた。一方、中心側の果肉の糖度は紫外線照射したメロンと照射していないメロンの間で有意の差は見いだせなかった。実験に使用したメロンは同じ生産者および同時期に収穫区、販売されたものを使用したため、紫外線照射により農作物の表皮近くでは糖度が増すことが期待できると思われた。
本発明の農作物の製造装置および製造方法によれば、農作物を支持体で支持するとともに包囲し、前記支持体に固定された複数の前記紫外線発光素子へ前記電力供給装置から電力を供給して300nm~400nmの間に発光波長のピークを有する紫外線を前記農作物の表面に向けて照射させる。これにより、照射面における糸状菌等の病原菌の発生が抑えられ、農作物表面での病気の発生を抑制することが可能である。したがって、本発明は産業上の利用が可能である。
ハウジング本体2Aの内底面には、センサ支持体18が移動可能に配置され、センサ支持体18は温度センサ20を農作物Aの表面に近接または当接させることができるように支持されている。紫外線発光素子10、送風ファン12、および温度センサ20は図示しない配線を通して、ハウジング2の外壁面に固定された制御装置16(電力供給装置を兼ねる)に接続されている。制御装置16は図示しない操作パネルを備えており、紫外線発光素子10のON-OFF、タイマーによる点灯時間、および発光強度を調整可能になっている。また、制御装置16は温度センサ20からの信号に応じて送風ファン12のON-OFFおよび回転速度を、温度センサ20の検出する農作物Aの温度がほぼ一定になるように、フィードバック制御することもできるようになっている。送風ファン12の制御は行わすに固定回転速度とし、実験室内の空調設備による温度管理により農作物Aの温度を調整してもよい。
また、収容空間115内には、複数列(この図では2列)に並べられた農作物Aの間を通るように、底板部から垂直に延びる支柱116が設置され、各支柱116の外周にも紫外線発光素子(図示略)が一定間隔毎に固定されている。壁部112および114内の紫外線発光素子120および支柱116の紫外線発光素子はいずれも、図示しない制御装置(電力供給装置を兼ねる)に接続されている。紫外線発光素子120および支柱116の紫外線発光素子は、第1実施形態の紫外線発光素子10と同様でよく、その説明を援用する。