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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173279
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】防振機構
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/023 20060101AFI20241205BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20241205BHJP
   F16F 9/19 20060101ALI20241205BHJP
   E04F 15/18 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
F16F15/023
F16F15/04 A
F16F9/19
E04F15/18 601G
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091601
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】半澤 徹也
【テーマコード(参考)】
2E220
3J048
3J069
【Fターム(参考)】
2E220AA25
2E220AA59
2E220AC03
2E220CA08
2E220CA13
2E220CA20
2E220CA32
2E220CA33
2E220GA07Z
3J048AA02
3J048AC04
3J048AD07
3J048BC01
3J048BE03
3J048BF16
3J048BF17
3J048CB22
3J048DA01
3J048EA38
3J069AA59
3J069EE80
(57)【要約】
【課題】浮き床の回転運動を抑制するとともに、慣性効果により、より優れた反力低減を行うことができる防振機構を提供する。
【解決手段】防振機構100は、設置部1と、設置部1の上方に配置された浮き床2と、設置部1と浮き床2との間に配置された一対の防振装置3と、一対の防振装置3を接続する接続管6と、浮き床2を設置部1に対して鉛直方向に変位可能に支持する支持ばね4と、を備え、防振装置3は、設置部1と浮き床2との間に配置された粘性減衰装置5を有し、粘性減衰装置5は、上側油室56と、上側油室56の下側に配置された下側油室57と、を有し、接続管6は、一方の防振装置3の上側油室56と他方の防振装置3の下側油室57とを接続する第一接続管61と、一方の防振装置3の下側油室57と他方の防振装置3の上側油室56とを接続する第二接続管62と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
設置部と、
前記設置部の上方に配置された浮き床と、
前記設置部と前記浮き床との間に配置された一対の防振装置と、
前記一対の防振装置を接続する接続管と、
前記浮き床を前記設置部に対して鉛直方向に変位可能に支持する支持ばねと、を備え、
前記防振装置は、
前記設置部と前記浮き床との間に配置された粘性減衰装置を有し、
前記粘性減衰装置は、
上側油室と、
前記上側油室の下側に配置された下側油室と、を有し、
前記接続管は、
一方の前記粘性減衰装置の前記上側油室と他方の前記粘性減衰装置の前記下側油室とを接続する第一接続管と、
前記一方の粘性減衰装置の前記下側油室と前記他方の粘性減衰装置の前記上側油室とを接続する第二接続管と、を有する防振機構。
【請求項2】
前記第一接続管と前記第二接続管との長さは、略同一である請求項1に記載の防振機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ライブハウスやコンサートホールでは、観客が音楽に合わせて動く、いわゆるタテノリ動作に起因した周辺建物における振動が問題となっている。
【0003】
この問題に対して、観客を収容する床を浮き床とし、その固有振動数を観客のタテノリ動作の卓越振動数よりも低く抑えることによって、タテノリ動作に起因した外力に対し、浮き床を支える基礎部分に生じる反力を低減する提案がなされている(下記の特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4936174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で前提とされている数理モデルは1自由度系であるが、実際には、面的な広がりをもつ浮き床の固有モードには、鉛直方向の並進のほか、水平軸廻りの回転がある。観客が床に対して偏在する(例えばステージ側に密集する)など、作用力の総量が床版の剛心と一致しない場合には水平軸廻りの回転運動が生じうる。これにより、配置された各装置(浮き床を支えるばね装置や減衰装置)の応答に偏りが生じたり、床版に傾きが生じたりすることになる。特に、浮き床が、観客のタテノリ動作のみならず、地震動に対する安全性、耐久性が要求される場合には、回転運動が拘束されることが一層望ましい。
【0006】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、浮き床の回転運動を抑制するとともに、慣性効果により、より優れた反力低減を行うことができる防振機構を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
すなわち、本発明に係る防振機構は、設置部と、前記設置部の上方に配置された浮き床と、前記設置部と前記浮き床との間に配置された一対の防振装置と、前記一対の防振装置を接続する接続管と、前記浮き床を前記設置部に対して鉛直方向に変位可能に支持する支持ばねと、を備え、前記防振装置は、前記設置部と前記浮き床との間に配置された粘性減衰装置を有し、前記粘性減衰装置は、上側油室と、前記上側油室の下側に配置された下側油室と、を有し、前記接続管は、一方の前記粘性減衰装置の前記上側油室と他方の前記粘性減衰装置の前記下側油室とを接続する第一接続管と、前記一方の粘性減衰装置の前記下側油室と前記他方の粘性減衰装置の前記上側油室とを接続する第二接続管と、を有する。
【0008】
このように構成された防振機構では、対をなした粘性減衰装置において、一方の粘性減衰装置の上側油室と他方の粘性減衰装置の下側油室とを接続し、一方の粘性減衰装置の下側油室と他方の粘性減衰装置の上側油室とを接続する。これによって、減衰効果及び慣性質量効果を利用して、従来の回転慣性質量装置を用いた場合と同等の系を得るとともに、さらに回転運動の防止を図ることができる。よって、浮き床の回転運動を抑制するとともに、慣性効果により、より優れた反力低減を行うことができる。
【0009】
また、本発明に係る防振機構では、前記第一接続管と前記第二接続管との長さは、略同一であってもよい。
【0010】
このように構成された防振機構では、一方の粘性減衰装置と他方の粘性減衰装置とをバランス良く接続することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る防振機構によれば、浮き床の回転運動を抑制するとともに、慣性効果により、より優れた反力低減を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る防振機構を示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係る防振機構の配置を説明する上面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る防振機構において、鉛直並進運動に対する流体の流れを示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係る防振機構において、回転運動に対する流体の流れを示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係る防振機構において、反力低減効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態に係る防振機構について、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る防振機構を示す模式図である。
図1に示すように、本実施形態に係る防振機構100は、設置部1と、浮き床2と、一対の防振装置3と、支持ばね4と、接続管6と、を備えている。防振機構100は、例えば、ライブハウスやコンサートホールなどの建物に採用され、浮き床2の上に人や物が載るように想定されている。
【0014】
設置部1は、例えば、建物の基礎などで、RC造で構築されている。なお、設置部1は、防振装置3を設置可能であれば、構造は適宜設定可能である。設置部1の上面1uは、防振装置3が固定される面である。設置部1の上面1uは、水平面に沿っていることが好ましい。
【0015】
浮き床2は、設置部1の上方に配置されている。浮き床2は、平板状に形成されている。浮き床2の板面は、鉛直方向を向いている。浮き床2の下面2dは、防振装置3が固定される面である。浮き床2の下面2dは、水平面に沿っていることが好ましい。
【0016】
一対の防振装置3は、設置部1と浮き床2との間に配置されている。一対の防振装置3は、互いに水平方向に離間して配置されている。防振装置3が離れている方が浮き床2の回転を拘束しやすいため、浮き床2の端どうしに防振装置3を設置してよい。なお、設置部1と浮き床2との間には、対をなす防振装置3が1組以上配置されていればよく、設置組数は適宜設定可能である。水平二方向をX軸及びY軸として、回転はX軸回り及びY軸回りで起きるため、防振装置3は2組以上あることが好ましい。
【0017】
支持ばね4は、設置部1と浮き床2との間に配置されている。支持ばね4の下端部は、設置部1の上面1uに固定されている。支持ばね4の上端部は、浮き床2の下面2dに固定されている。支持ばね4は、鉛直方向に伸縮可能である。浮き床2が加振されると、支持ばね4が伸縮して、浮き床2が設置部1に対して鉛直振動するように構成されている。支持ばね4が伸縮することによって、浮き床2は設置部1に対して鉛直方向に変位可能である。複数の支持ばね4のばね剛性は、同じ値に設定されていることが好ましい。
【0018】
防振装置3は、粘性減衰装置5を有している。粘性減衰装置5は、設置部1と浮き床2との間に配置されている。粘性減衰装置5は、例えばオイルダンパーである。粘性減衰装置5は、シリンダ51と、ロッド52と、ピストン53と、上側油室56と、下側油室57と、を有している。
【0019】
シリンダ51は、鉛直方向を軸線方向とする筒状に形成されている。ロッド52は、シリンダ51の軸線方向に移動可能に配置されている。ロッド52の下側の部分は、シリンダ51に収容されている。ロッド52の上部は、浮き床2に接続されている。ロッド52の下部は、シリンダ51の下部に接続されている。ピストン53は、ロッド52の鉛直方向の中間に設けられている。ピストン53は、シリンダ51内に摺動可能に収容されている。
【0020】
上側油室56は、シリンダ51の内部において、ピストン53よりも上側の部分である。下側油室57は、シリンダ51の内部において、上側油室56の下側の部分である。上側油室56及び下側油室57の内部には、オイル等の液体が充填されている。
【0021】
図2は、防振機構100の配置を説明する上面図である。
図2に示すように、一対の防振装置3において、粘性減衰装置5どうしは互いに対向するように配置されている。
【0022】
図1に示すように、一対の防振装置3のうち、一方の防振装置3を防振装置3Aとし、一方の防振装置3Aが備える粘性減衰装置5を粘性減衰装置5Aとする。一対の防振装置3のうち、他方の防振装置3を防振装置3Bとし、他方の防振装置3Bが備える粘性減衰装置5を粘性減衰装置5Bとする。
【0023】
接続管6は、第一接続管61と、第二接続管62と、を有している。第一接続管61及び第二接続管62は、管状部材である。第一接続管61は、粘性減衰装置5Aの上側油室56と粘性減衰装置5Bの下側油室57とを接続する。第二接続管62は、粘性減衰装置5Aの下側油室57と粘性減衰装置5Bの上側油室56とを接続する。第一接続管61と第二接続管62との長さは、略同一である。図2に示すように、第一接続管61と第二接続管62とは、水平方向に離間して配置されている。
【0024】
平面視で矩形に形成された浮き床2において、防振機構100の配置の一例を説明する。図2に示すように、四隅に、支持ばね4が配置されている。対角線上に配置された一対の支持ばね4の内側に、粘性減衰装置5が配置されている。対向する辺の略中央に、支持ばね4が配置されている。対向する辺を結んだ線上に配置された一対の支持ばね4の内側に、粘性減衰装置5が配置されている。
【0025】
上下並進の運動では、図3に示すように、防振装置3の上側油室56及び下側油室57の内部の液体が第一接続管61及び第二接続管62の内部を移動して、対をなす防振装置3の上側油室56及び下側油室57に流れ得る。
【0026】
回転運動では、図4に示すように、一方の粘性減衰装置5Aの下側油室57及び他方の粘性減衰装置5Bの上側油室56の圧力が上昇する。つまり、各粘性減衰装置5において、上下の油室56,57のうち片側の油圧56(57)が上昇して、液体が第一接続管61及び第二接続管62の内部を円滑に移動することができない。よって、浮き床2の上下並進は可動であるが、回転成分は拘束される。
【0027】
さらに、接続管6のようなチューブがオリフィスの役割を果たし、粘性減衰効果があること、及び流体がチューブ内を移動することで慣性質量効果があることが知られている(曽田ほか「リンク式流体慣性ダンパによる構造物の地震応答制御」日本建築学会構造系論文集 第84巻 第757号、2019年3月)。
【0028】
図5に示すように、流体の移動にともなう慣性効果を利用することにより、特定の加振振動数領域においては、単にばね支承と減衰要素で構成された浮き床の場合に比べて、優れた反力低減効果を得ることができる。概ね2~3Hzがこの領域であり、一般にタテノリ動作において卓越する振動数領域に相当する。
【0029】
このように構成された防振機構100では、対をなした粘性減衰装置5において、一方の粘性減衰装置5Aの上側油室56と他方の粘性減衰装置5Bの下側油室57とを接続し、一方の粘性減衰装置5Aの下側油室57と他方の粘性減衰装置5Bの上側油室56とを接続する。これによって、減衰効果及び慣性質量効果を利用して、従来の回転慣性質量装置を用いた場合と同等の系を得るとともに、さらに回転運動の防止を図ることができる。よって、浮き床の回転運動を抑制するとともに、慣性効果により、より優れた反力低減を行うことができる。
【0030】
また、一方の粘性減衰装置5Aと他方の粘性減衰装置5Bとをバランス良く接続することができる。
【0031】
なお、上述した実施の形態において示した組立手順、あるいは各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0032】
例えば、粘性減衰装置5どうしが対向する方向に対して、支持ばね4は粘性減衰装置5よりも外側に配置されているが、これに限られない。支持ばね4は、任意の位置に設置してよい。
【0033】
2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。本実施形態に係る防振機構100は、このSDGsの17の目標のうち、例えば「3.すべての人に健康と福祉を」の目標などの達成に貢献し得る。
【符号の説明】
【0034】
1 設置部
2 浮き床
3,3A,3B 防振装置
3A 防振装置
3B 防振装置
5,5A,5B 粘性減衰装置
6 接続管
56 上側油室
57 下側油室
61 第一接続管
62 第二接続管
100 防振機構
図1
図2
図3
図4
図5