(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173288
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】ダンパー装置及び建物
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20241205BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20241205BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
E04H9/02 331B
F16F15/023
F16F15/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091611
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 知之
(72)【発明者】
【氏名】牛坂 伸也
(72)【発明者】
【氏名】中村 聡武
(72)【発明者】
【氏名】黒▲崎▼ 健太
(72)【発明者】
【氏名】小島 直樹
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB10
2E139AC19
2E139BA04
2E139BA12
2E139BD34
2E139CA02
3J048AA06
3J048AC04
3J048AD11
3J048BE03
3J048CB21
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】L2地震動以下の地震動において上部構造体の床面加速度を増加させることなく、免震層の変形を低減することができるダンパー装置及び建物を提供する。
【解決手段】ダンパー装置1は、建物の構造体間の免震層に設置されるダンパー装置であって、建物の構造体間に接続された引張材と、引張材に設けられたストッパー機構と、を備え、Et≧Euを満たすように設定されている。なお、Et:設定したギャップ量から前記ダンパー装置が作用して吸収するエネルギー、Eu:前記ダンパー装置が設置されていない場合に想定される目標応答変形を超える範囲の変形エネルギー。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の構造体間の免震層に設置されるダンパー装置であって、
前記建物の構造体間に接続された引張材と、
前記引張材に設けられたストッパー機構と、を備え、
Et≧Euを満たすように設定されている。
なお、
・Et:設定したギャップ量から前記ダンパー装置が作用して吸収するエネルギー
・Eu:前記ダンパー装置が設置されていない場合に想定される目標応答変形を超える範囲の変形エネルギー
【請求項2】
建物の外周に沿って配置されている請求項1に記載のダンパー装置。
【請求項3】
上部構造体と下部構造体との間に設置された請求項1または2に記載のダンパー装置と、
前記上部構造体に設置された制振部材と、を備えた建物であって、
前記制振部材は、前記ギャップ量が消失した際に、前記上部構造体に移行する運動エネルギーE2を吸収する建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダンパー装置及び建物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
免震建物に求められる要求性能として、従来の告示で定められたレベル2(L2)地震動(500年に1度程度)に対して性能保証変形以下から、より高い性能目標としてレベル3(L3)地震動(L2地震動の1.5倍の地震動)に対して性能保証変形以下であることを求められるケースが増加している。
【0003】
従来の免震装置の組み合わせでは、入力エネルギーが非常に大きいL3地震動に対して変形を抑制するために、例えば減衰力の高い免震装置やオイルダンパー等を多数配置することにより対応している(下記の特許文献1参照)。一方、免震層全体の剛性を増加させた結果、免震装置による建屋全体の長周期化の効果が弱まり、上部構造の加速度が増加し、例えば建物内の什器等の転倒が発生することが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記L3地震動に対する免震層の変形抑制と床面加速度の低減に関して、従来の免震装置の組み合わせでは実現が難しく、例えばJSCA(日本建築構造技術者協会)の免震建物のグレード設定においては、応答加速度と免震層の変形抑制は相反する特性を持ち、両立は困難という理由から、応答加速度の制限をオプション扱いとしている。
【0006】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、L2地震動以下の地震動において上部構造体の床面加速度を増加させることなく、免震層の変形を低減することができるダンパー装置及び建物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
すなわち、本発明に係るダンパー装置は、建物の構造体間の免震層に設置されるダンパー装置であって、前記建物の構造体間に接続された引張材と、前記引張材に設けられたストッパー機構と、を備え、Et≧Euを満たすように設定されている。なお、Et:設定したギャップ量から前記ダンパー装置が作用して吸収するエネルギー、Eu:前記ダンパー装置が設置されていない場合に想定される目標応答変形を超える範囲の変形エネルギー。
【0008】
このように構成されたダンパー装置では、L2地震動以下の地震動において上部構造体の床面加速度を増加させることなく、免震層の変形を低減することができる。
【0009】
また、本発明に係るダンパー装置は、建物の外周に沿って配置されていてもよい。
【0010】
このように構成されたダンパー装置では、免震層全体の変形及び上部構造体の床面加速度を低減することができる。
【0011】
また、本発明に係る建物は、上部構造体と下部構造体との間に設置された上記のダンパー装置と、前記上部構造体に設置された制振部材と、を備えた建物であって、前記制振部材は、前記ギャップ量が消失した際に、前記上部構造体に移行する運動エネルギーE2を吸収する。
【0012】
このように構成された建物では、L2地震動以下の地震動において上部構造体の床面加速度を増加させることなく、免震層の変形を低減することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るダンパー装置及び建物によれば、L2地震動以下の地震動において上部構造体の床面加速度を増加させることなく、免震層の変形を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態のダンパー装置の設置例を示す模式的な正面図である。
【
図2】本発明の一実施形態のダンパー装置の設置例を示す模式的な平面図である。
【
図3】本発明の一実施形態のダンパー装置の構成を示す側面図である。
【
図4】本発明の第一実施形態の制震装置の構成を示す平面図である。
【
図5】地震動レベル-免震層変位関係を示す図である。
【
図8】免震層の荷重-変形関係の例を示す図である。
【
図10】ロッドが39本の場合の応答変位の時刻歴を示す図である。
【
図11】ロッドが20本の場合の応答変位の時刻歴を示す図である。
【
図13】(a)上部構造の荷重-変形関係の例を示す図であり、(b)免震層の荷重-変形関係の例を示す図である。
【
図14】免震用可変剛性ダンパーを付加する前の1次固有モードを示す図である。
【
図15】免震用可変剛性ダンパーを考慮した場合の1次固有モードを示す図である。
【
図16】ロッドが28本の場合の応答変位の時刻歴を示す図である。
【
図17】ロッドが12本の場合の応答変位の時刻歴を示す図である。
【
図18】Lv2(神戸NS位相)の2倍波での(a)免震層応答変形の時刻歴を示し、(b)免震層の荷重-変形関係を示す図である。
【
図19】基整促波(OS1)の原波での(a)免震層応答変形の時刻歴を示し、(b)免震層の荷重-変形関係を示す図である。
【
図20】本発明の一実施形態のダンパー装置の他の設置例を示す模式的な正面図である。
【
図21】Lv2を超える地震時の免震層応答変形の時刻歴を示す図である。
【
図22】Lv2を超える地震時の免震層の荷重-変形関係を示す図である。
【
図23】Lv2を超える地震時の上部構造体にオイルダンパーを設置した免震層応答変形の時刻歴を示す図である。
【
図24】神戸Lv2を超える地震時の上部構造体にオイルダンパーを設置した免震層の荷重-変形関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の第一実施形態に係るダンパー装置について、図面を用いて説明する。
図1に示すように、本実施形態に係るダンパー装置1は、例えば建物10の下層部分の上部構造体18と下部構造体19との免震層12に設置されている。ダンパー装置1の構成は、特開2022-123461号公報(特願2021-020792)に開示されている構成を採用することができる。
【0016】
免震層12には、ダンパー装置1及び免震装置11が設置されている。免震装置11は、上部構造体18の柱の直下に配置されている。
図2に示すように、ダンパー装置1は建物10の外周に沿って配置されている。なお、ダンパー装置1及び免震装置11の配置位置及び台数は、適宜設定可能である。ダンパー装置1は外周よりも内側に配置されていてもよい。
【0017】
図3に示すように、上部構造体18に設けられた上部接合部18aと、下部構造体19に設けられた下部接合部19aとの間に免震装置11が設置されている。
【0018】
ダンパー装置1は、鋼材ダンパー装置1Xと、オイルダンパー(制振部材)2と、を備えている。鋼材ダンパー装置1Xは、タイロッド(引張材)3と、回動固定部4と、ストッパー部材(ストッパー機構)5と、トラニオン部材6と、を備えている。鋼材ダンパー装置1Xは、いわゆる免震用ギャップ付き鋼材ダンパーである。回動固定部4及びトラニオン部材6は、タイロッド3に設けられ、オイルダンパー2の水平二方向の変位にタイロッド3を追従させるものである。オイルダンパー2の変位は、免震層12の変位と同一である。
【0019】
ダンパー装置1は、下部構造体19の大梁16に支持され上方に延びる束柱16aと、上部構造体18の大梁17に支持され下方に延びる束柱17aとの間に設置されている。
【0020】
大梁16,17の延在方向をX方向とする。水平方向のうちX方向と直交する方向をY方向とする。
【0021】
オイルダンパー2は、伸縮方向(軸方向)をX方向に向けている。オイルダンパー2は、束柱16a,17aの間に配置されている。
【0022】
束柱16aには、接合プレート16bが設けられている。オイルダンパー2の一方の端部21は、接合プレート16bに設けられたダンパー接合部16cに取り付けられている。オイルダンパー2の端部21は、ダンパー接合部16cに対して上下方向を軸線方向として軸線回りに回動可能に取り付けられている。
【0023】
束柱17aには、接合プレート17bが設けられている。オイルダンパー2の他方の端部22は、接合プレート17bに設けられたダンパー接合部17cに取り付けられている。オイルダンパー2の端部22は、ダンパー接合部17cに対して上下方向を軸線方向として軸線回りに回動可能に取り付けられている。
【0024】
タイロッド3は、鋼材ダンパーである。タイロッド3は、オイルダンパー2と並列に設けられている。タイロッド3は、棒状に形成された軸部30を有している。軸部30の長さ方向は、オイルダンパー2の伸縮方向(X方向)と平行である。タイロッド3は、オイルダンパー2の周囲に複数本配置されている。束柱16a,17aの偏心曲げ及びねじりを回避するために、タイロッド3はオイルダンパー2の上下またはY方向の両側(左右両側)にバランスよく配置されている。本実施形態では、オイルダンパー2の上下及びY方向の両側に4本配置されている。
【0025】
タイロッド3の一方の端部31は、接合プレート16bに設けられた上下のタイロッド接合部16dに回動固定部4を介して取り付けられている。タイロッド3の端部31は、タイロッド接合部16dにピン支持されている。タイロッド3の端部31は、タイロッド接合部16dに対して上下方向を軸線方向として軸線回りに回動可能に取り付けられている。
【0026】
回動固定部4は、締結部材162を有している。タイロッド接合部16dは、上下2枚の板状部材である。2枚のタイロッド接合部16dは、タイロッド3の端部31を上下方向から挟み込んでいる。上下2枚のタイロッド接合部16d及びタイロッド3の端部31に形成された貫通孔に、上下方向を軸線方向とする締結部材162が挿通されている。締結部材162は、タイロッド接合部16d及びタイロッド3の端部31を、締結部材162の軸線方向回りに回動可能に接合している。タイロッド3は、タイロッド接合部16dに対して、締結部材162を中心に回動可能とされている。
【0027】
図4に示すように、タイロッド3の他方の端部32には、ストッパー部材5が設けられている。タイロッド3の軸部30には、トラニオン部材6が設けられている。トラニオン部材6は、オイルダンパー2のX方向及びY方向(水平二方向)の変位にタイロッド3を追従させるものである。
【0028】
図3に示すように、束柱17aには、上下方向に離間して3枚の接合プレート171が固定されている。上側の接合プレート171と上下方向の中間の接合プレート171との間には、上側に位置するタイロッド3のトラニオン部材6が配置されている。上下方向の中間の接合プレート171と下側の接合プレート171との間には、下側に位置するタイロッド3のトラニオン部材6が配置されている。
【0029】
接合プレート171には、上下方向に向かい合う他の接合プレート171側を向く面に取付プレート172が固定されている。取付プレート172は、板状に形成されている。取付プレート172の板面は、上下方向を向いている。
【0030】
図4に示すように、ストッパー部材5とトラニオン部材6との間には、通常の状態(オイルダンパー2に変位が生じていない初期設定位置)で軸方向に距離G離間している。距離Gは、オイルダンパー2の引張方向の変位を許容するギャップ量である。
【0031】
力が作用して、オイルダンパー2が一方向(X方向)に変位した場合について説明する。
ダンパー装置1にX方向の圧縮力(束柱16aと束柱17aとを近接させる方向の力)が作用すると、オイルダンパー2の全長(端部21と端部22との離間距離)が短くなるように変位する。これにともない、トラニオン部材6内をタイロッド3の軸部30が摺動し、トラニオン部材6が回動固定部4に近接する方向に変位する。
【0032】
ダンパー装置1にX方向の引張力(束柱16aと束柱17aとを離間させる方向の力)が作用すると、オイルダンパー2の全長(端部21と端部22との離間距離)が長くなるように変位する。これにともない、トラニオン部材6内をタイロッド3の軸部30が摺動し、トラニオン部材6が回動固定部4から離間し、ストッパー部材5に近接する方向に変位する。
【0033】
L2地震動に対してはダンパー装置(以下、「可変剛性ダンパー」または「免震用可変剛性ダンパー」と称することがある)1に応力が生じないようにギャップの設定を行って、可変剛性ダンパー1を機能させない通常の免震建物としての設計を行う。例えば、L2地震動に対する免震層12の最大応答変位の目標を積層ゴムのせん断歪200%以下(免震装置11の総ゴム厚さ250mmの場合、500mm)とした場合に、ギャップ量Gを500mm以上として設定を行う。
【0034】
L3地震動に対しては、可変剛性ダンパー1のギャップ量GをL2地震動の免震層の最大応答変位からL3地震動に対する最大応答変位の目標としてせん断歪250%以下の範囲の中で、建物の加速度および変位の分布が所定の範囲に納まるように設定をする。こうすることで、L2地震動に対する最大応答加速度を低減したまま、免震層12の最大応答変位を抑制し、免震装置11の状態を性能保証変形以下とすることを目標とする。
【0035】
図5に、地震動レベル-免震層変位関係を示す。
図6に、地震動レベル-加速度関係を示す。いずれも比較例として従来の免震装置組み合わせによるもの、及び本実施形態によるものを示している。
【0036】
オイルダンパー2は、ギャップ量Gが消失した際に、上部構造体18に移行する運動エネルギーE2(運動エネルギーE2の詳細については後述する)吸収する目的で設置されている。
【0037】
(ギャップ量の設定手法)
次に、具体的なギャップ量の設定手法について述べる。なお、免震用可変剛性ダンパー1は、Lv2(=L2)を超える地震動が対象であるため、免震層の性能保証変形などLV2のクライテリアを超える変形領域で作用させることを前提とする。
【0038】
(1)建物を免震層含め1質点系でモデル化する場合
簡易なギャップ量の設定手法として、建物を
図7のように免震層を含めた1質点系でモデル化した場合を示す。
図8は建物が弾性応答すると仮定した際の免震用可変剛性ダンパーがある場合とない場合の免震層の荷重変形関係の例である。免震用可変剛性ダンパーがない場合のLv2を超える地震で生じる応答変形をδとし、免震用可変剛性ダンパーを付加した建物の目標応答変形をδ
Lとして、目標応答変形δ
Lを超える範囲の変形エネルギーをE
uとする。一方、設定したギャップ量δ
GAPから免震用可変剛性ダンパーが作用して吸収するエネルギーをE
tとする。Newmarkのエネルギー一定則から、E
t≧E
uとなるとき、免震建物の応答変形は目標応答変形δ
L以下に納まる。すなわち、E
t≧E
uが成り立つような免震用可変剛性ダンパーの剛性k
g及び降伏荷重Q
tとギャップ量δ
GAPを設定する。
・k
ISO:免震層剛性
・E
t:免震用可変剛性ダンパーの塑性変形エネルギー
・E
u:目標応答変形を超える範囲の変形エネルギー
【0039】
ここで、
図7に示す1質点系の諸元を表1で与えた場合について、E
t≧E
uが成り立つ免震用可変剛性ダンパーの本数を算出する。表2の通り、ギャップ量を550mm、目標応答変形を650mm、Lv2を超える地震応答時の変形を700mmに設定した。なお、免震用可変剛性ダンパーの1本あたりの諸元は表3である。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
Euは、式(1)で表される。
【0044】
【0045】
ロッド1本当たりのEuをEt1とすると、Et1は、式(2)で表される。
【0046】
【0047】
ロッドの必要本数Nは、式(3)のように求める。
【0048】
【0049】
本設計手法の妥当性を検証するため、
図7の1質点系モデルについて上記で算出した免震用可変剛性ダンパーのロッド本数39本を付加して時刻歴応答解析を行った。また、比較として20本だけ付加した場合についても検討した。なお、入力は地盤に700mmの強制変位(
図9)を瞬間的に与え、自由振動させてその応答変位を免震用可変剛性ダンパーの有無で比較した。
【0050】
解析の結果、
図10に示すように、本設計手法を用いて決めたロッド本数の39本を付加することで、最大変形65cm≧65cmで目標応答変形以下に免震層変形が収まることが確認できる。一方、
図11に示すように、20本では、最大変形67cm≧65cmで変形が目標に収まっていない。よって、本手法が妥当であると判断できる。
【0051】
(2)建物を免震層と上部構造の2質点系でモデル化する場合
次に、建物を免震層と上部構造(上部構造体18)の2質点系でモデル化する場合について述べる。実際の建物は上部構造が剛ではない。そこで、
図12のように上部構造の変形を考慮できる2質点系でモデル化することで免震層の応答をより忠実に再現する。免震用可変剛性ダンパーのギャップが消失して作用すると、免震層の変形が抑制されるため、上部構造に変形が移行する。ゆえに、運動エネルギーも免震層から上部構造に移行するためE
uは減少し、1質点系でモデル化した場合と比べて免震層に必要なロッド本数が少なく算出される。
【0052】
すなわち、2質点系でモデル化して、必要なロッド本数を算出できればより合理的に免震層に付加すべき免震用可変剛性ダンパーの本数を決定できる。以下に、2質点系モデルの場合の必要本数の算出手法について示す。
【0053】
図13(a)に上部構造の荷重-変形関係の例を示し、
図13(b)に免震層の荷重-変形関係の例を示す。
【0054】
図12に示す2質点系の諸元を、表4に示す。表5の通り、ギャップ量を550mm、目標応答変形を650mm、Lv2を超える地震応答時の変形を700mmに設定した。なお、免震用可変剛性ダンパーの1本あたりの諸元は表6である。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
1質点系の場合と同様にエネルギーの釣り合いから、ロッドの必要本数を算出する。
ギャップ消失以降に質点m1が消費するエネルギーをE1とし、質点m2が消費するエネルギーをE2とする。一方、免震用可変剛性ダンパーが無いとした場合にギャップ量以降でm1が消費するエネルギーをEuとする。
Euは、式(4)で表される。
【0059】
【0060】
すなわち、E1+E2≧Euであれば、免震層変形は目標応答変形δ1L以下に収まる。
【0061】
δ
2pは質免震用可変剛性ダンパーが作用した場合の質点m
2の変形量を表し、δ
2は免震用可変剛性ダンパーがない場合の質点m
1がδ
1L変形したときの質点m
2の変形量を表す。また、点m
1とm
2の剛性比に応じて変形すると仮定すれば、2層目と1層目の固有ベクトル比γ(=r2/r1)を用いてδ
2p、δ
2のそれぞれを推測できる。なお、固有ベクトル比γは式(5)で求めることができる。
図14に、免震用可変剛性ダンパーを付加する前の1次固有モードを示す。
【0062】
【0063】
免震用可変剛性ダンパーを付加した免震層において、ギャップ消失δ1GAP以降からδ1Lまでの等価剛性をαk1とする。
【0064】
ロッド本数を1質点系で必要だった39本とするとkgは39×58,000kN/mであり、等価剛性αk
1は、αk
1=Q
t×n/(δ
1-δ
1L)+k
1=748×39/((700‐650)/1000)+84320=667760kN/mとなる。
したがって、γ
a=1.503となる。
図15に、免震用可変剛性ダンパーを考慮した場合の1次固有モードを示す。
【0065】
ここで、質点m2における消費エネルギーE2を、固有ベクトル比γaを用いて算出する。
【0066】
剛性が変化するδ1GAPを起点に考えて、免震用可変剛性ダンパーを付加したことによる上部構造の変形量の増加Δ2を式(6)で表す。
【0067】
【0068】
ゆえに、質点m2における消費エネルギーE2は、式(7)で表される。
【0069】
【0070】
ギャップ消失以降に質点m1が消費するエネルギーをE1は、式(8)で表される。
【0071】
【0072】
よって、E1+E2=2902+1339=4241kNm
ここで、Eu=2846kNmであるから、Eu≦E1+E2となり満足する。
【0073】
次に、タイロッド本数を28本に減らして検討する。αk1は、式(9)で表される。
【0074】
【0075】
したがって、γa=1.376となる。E2は、式(10)で表される。
【0076】
【0077】
E1は、式(11)で表される。
【0078】
【0079】
よって、E1+E2=2083+894=2978kNm
ここで、Eu=2846kNmであるから、Eu≦E1+E2となり満足する。
【0080】
参考として、タイロッド本数を12本へさらに減らして検討する。αk1は、式(12)で表される。
【0081】
【0082】
したがって、γa=1.194となる。E2は、式(13)で表される。
【0083】
【0084】
E1は、式(14)で表される。
【0085】
【0086】
よって、E1+E2=893+342=1235kNm
ここで、Eu=2846kNmであるから、Eu>E1+E2となり不足する。
【0087】
2質点系モデルについて、地盤に700mmの強制変位を瞬間的に与え自由振動させて、応答変位を免震用可変剛性ダンパーの有無で比較した。
【0088】
解析の結果、
図16に示すように、本設計手法を用いて決めたロッド本数の28本を付加することで、最大変形65cm≧65cmで目標応答変形以下に免震層変形が収まることが確認できる。一方、
図17に示すように、12本では、最大変形68cm≧65cmで変形が目標に収まっていない。よって、本手法が妥当であると判断できる。
【0089】
次に、地震応答解析でも同様の結果が得られるかを確認した。入力地震動はLv2(神戸NS位相)の2倍波と基整促波(OS1)の原波である。
図18(a)にLv2(神戸NS位相)の2倍波での免震層応答変形の時刻歴を示し、
図18(b)にLv2(神戸NS位相)の2倍波での免震層の荷重-変形関係を示す。
図19(a)に基整促波(OS1)の原波での免震層応答変形の時刻歴を示し、
図19(b)に基整促波(OS1)の原波での免震層の荷重-変形関係を示す。
図19(b)より、長時間地震動では繰り返し作用する計算(エネルギー一定則)に対しやや不足するが、ロッド本数のオーダーは十分に推定できることが分かる。いずれもδ
1はおよそ70cmである28本で目標応答変形δ
1Lに概ね収まっている。
以上より、2質点系における変形エネルギー一定則に基づく設計手法の妥当性が示せた。
【0090】
このように構成されたダンパー装置1及び建物10では、L3未満の地震動では、上部構造体18の床面加速度を増加させることなく、免震層12の変形を低減することができる。
【0091】
なお、上述した実施の形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0092】
例えば、
図20に示すように、建物10Aに、ダンパー装置1に加えて、上部構造体18にオイルダンパー41や鋼材ダンパー42などの制振装置40を設置してもよい。なお、制振装置40は上部構造体18の各層に連続して設けられることが望ましいが、層を跨いで設置したり、特定の層にだけ設置したりしてもよい。
【0093】
上部構造体18にダンパー装置1を設置したことによる効果について検証した。地上10階(上部構造体18)、地下1階(下部構造体19)、地上と地下との間に免震層12を有する11層の建物モデルを設定した。当該建物モデルを対象に、Lv2を超える地震動を入力とする時刻歴応答解析を行った。ダンパー装置(免震用可変剛性ダンパー)1の有無、さらに免震用可変剛性ダンパー1有かつ上部構造体18の各層にオイルダンパー41を設置した場合について、免震層変形を比較した。
【0094】
図21及び
図22に示すように、1回目の免震用可変剛性ダンパー1の作用によって、上部構造体18に運動エネルギーが移行する。この反動によって、2回目作用で表されるように、反対方向への免震層12の振幅がかえって大きくなっていることが分かる。
【0095】
一方、
図23及び
図24は、上部構造体18の各層にオイルダンパー41を設置した場合との比較である。1回目の免震用可変剛性ダンパー1の作用直後の振幅が、上部構造体18にオイルダンパー41を設置しない場合と比べて大きく減少していることが分かる。すなわち、上部構造体18にオイルダンパー41などの制振装置40を付加することにより、上部構造体18でエネルギー吸収して上部構造体18に運動エネルギーが蓄えられることを抑制し、反対方向の振幅を低減できる。
【0096】
以上より、上部構造体18に制振装置40を設置してエネルギー吸収することが、免震用可変剛性ダンパー1が作用した直後の反対方向への振幅の抑制に効果があることを確認できた。
【0097】
また、上記に示す実施形態では、ダンパー装置1の構成として、特開2022-123461号公報(特願2021-020792)を例に挙げて説明したが、これに限られない。いわゆる免震用ギャップ付き鋼材ダンパーに適用可能である。
【0098】
2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。本実施形態に係るビス打ち装置1は、このSDGsの17の目標のうち、例えば「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」の目標などの達成に貢献し得る。
【符号の説明】
【0099】
1 ダンパー装置
3 タイロッド(引張材)
12 免震層
18 上部構造体
19 下部構造体