(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173298
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
H05H 1/46 20060101AFI20241205BHJP
C23C 16/505 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
H05H1/46 L
C23C16/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091626
(22)【出願日】2023-06-02
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】303029317
【氏名又は名称】株式会社プラズマイオンアシスト
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 正則
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 泰雄
【テーマコード(参考)】
2G084
4K030
【Fターム(参考)】
2G084AA03
2G084AA05
2G084AA08
2G084BB28
2G084CC13
2G084CC33
2G084DD03
2G084DD12
2G084DD38
2G084FF32
4K030BA28
4K030CA02
4K030FA04
4K030GA14
4K030KA20
4K030KA24
4K030KA28
4K030KA30
4K030KA46
(57)【要約】
【課題】高エネルギーイオンを照射しながら接地電位にある被処理基材をプラズマ処理できるプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】このプラズマ処理装置は、プラズマ処理チャンバ内に接地電位にある被加工基材と、当該基材に対向して配置された誘導結合型アンテナユニットとから成り、その両者間にプラズマ電位を変調するバイアス電極を有することを特徴とする。また、複数の前記処理チャンバを連結したインライン方式のプラズマ処理装置を提供する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接地電位にある被処理基材が収容されるプラズマ処理チャンバと、前記プラズマ処理チャンバ内に前記被処理基材を搬送する搬送手段と、プラズマを発生させるための誘導結合型アンテナユニットと、プラズマにバイアス電圧を印加するバイアス電極とを具備するプラズマ処理装置であって、
前記バイアス電極が、前記プラズマが生成されるプラズマ生成領域の周囲に配置されていることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記バイアス電極が、前記プラズマ生成領域を囲む構造であることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記誘導結合型アンテナユニットが、前記プラズマ処理チャンバの壁面に形成された開口部を閉塞するように装着される構造であって、長方形状の蓋体と、当該蓋体の内側面に取り付けられた誘導結合型アンテナ導体とからなることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記蓋体が、長方形状の金属フランジと誘電体板とからなることを特徴とする請求項3に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記誘導結合型アンテナ導体が、前記蓋体に固定されたフィードスルーを介して前記蓋体の内側面に設置されていることを特徴とする請求項3に記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記誘導結合型アンテナユニットが、前記蓋体の内側面に設置された複数の前記誘導結合型アンテナ導体を有することを特徴とする請求項3に記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記プラズマ処理チャンバの壁面に複数の開口部が略平行に形成されるとともに、前記各開口部に前記誘導結合型アンテナユニットが装着されていることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
前記バイアス電極に印加する前記バイアス電圧が正の直流電圧、又は正のパルス電圧、又は交流電圧を半波整流した正の脈流電圧であることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項9】
前記バイアス電極内に前記被処理基材を加熱するための加熱ヒータを具備することを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項10】
前記プラズマ処理チャンバが複数連結されたインライン方式プラズマ処理装置であって、前記プラズマ処理チャンバの前後が差動排気システムに接続された差動排気チャンバを介して連結されていることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のプラズマ処理工程を連続して実施できるプラズマ処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、真空容器の壁面に設けられた開口部を気密を保って覆うように取り付けられた板状の高周波アンテナ導体を有し、当該アンテナ導体の長手方向の一方の端部に高周波電力を給電し、他方の端部を直接接地して高周波電流を流し、アンテナ導体の近傍に発生する誘導電磁界によってプラズマを生成し、当該プラズマを用いて被処理基板をプラズマ処理するプラズマ処理装置が開示されている。また、特許文献2には、正副2本のアンテナ導体を併設したプラズマ処理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5747231号
【特許文献2】特開2016-149287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プラズマ処理装置による基板材料のプラズマ処理工程には、基板表面のクリーニング工程、イオン注入工程、或いはダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCとも記す)膜の形成工程など複数のプラズマ処理工程がある。これらの工程では放電プラズマのプラズマ電位に対して被処理基材を負電位にしてイオン照射しながらプラズマ処理する必要がある。特許文献1及び2に記載のプラズマ処理装置では、被処理基材にプラズマ電位に対して負の直流電圧、或いは負のパルス電圧を印加することによってイオン照射を行っている。
【0005】
しかし、例えば、ロール・ツー・ロール方式による複数のプラズマ処理工程を有するプラズマ処理装置では、基材及び搬送システム全体が等しい負電位になってしまうので、例えばプラズマ処理チャンバごとに処理条件を異ならせようとすると、装置の構成が複雑で高価になり実用的でない。
【0006】
そこで、本発明に係る主たる課題は、被処理基材及び搬送システムを接地電位に保ちながらプラズマ処理ができる構造とし、処理条件の異なる複数のプラズマ処理工程を連続して実施できる安価で安全なプラズマ処理装を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、接地電位にある被処理基材が収容されるプラズマ処理チャンバ(以下、単に処理チャンバとも記す)と、前記プラズマ処理チャンバ内に前記被処理基材を搬送する搬送手段と、プラズマを発生させるための誘導結合型アンテナユニット(以下、単にアンテナユニットとも記す)と、プラズマにバイアス電位を印加するバイアス電極とを具備するプラズマ処理装置であって、前記バイアス電極が、前記プラズマが生成されるプラズマ生成領域の周囲に配置されていることを特徴とする。
これによって、前記アンテナユニットによって生成される放電プラズマのプラズマ電位を制御することができると同時に放電プラズマの拡散領域を抑制することができる。
そして、バイアス電極を介してプラズマにバイアス電位を印加することにより、接地電位にある処理基材にイオン照射することができるので、被処理基材及び搬送システムを接地電位に保ちながら、被処理物表面をプラズマ処理することが可能となる。
さらに、例えば処理チャンバごとにバイアス電極に印加するバイアス電位を変えることで、処理条件の異なる複数のプラズマ処理工程を連続して実施することができ、なおかつ、被処理基材及び搬送システムを接地電位に保てることで、装置の低コスト化や安全性の向上をも図れる。
【0008】
本発明に係るプラズマ処理装置は、前記処理チャンバ内を真空排気する真空排気手段と作業ガスを導入するガス導入手段とを具備し、プラズマ処理工程に応じた作業ガスを導入する。
このような構成であれば、処理チャンバ内の好適なガス圧力、例えば1Paはガス導入手段によって調整することが出来る。
【0009】
前記バイアス電極が、前記プラズマ生成領域を囲む構造であることが好ましい。
このような構成であれば、被処理物にプラズマ中のイオンを効率良く照射することができる。
【0010】
前記アンテナユニットは、前記プラズマ処理チャンバの壁面に形成された開口部を閉塞するように装着される構造であって、長方形状の蓋体と、当該蓋体に固定されたフィードスルーを介して前記蓋体の内側面に取り付けられた誘導結合型アンテナ導体(以下、単にアンテナ導体とも記す)とからなる。
このような構成であれば、前記アンテナ導体に高周波電力を給電することによって、前記処理チャンバ内に高密度の放電プラズマを励起することができる。
【0011】
前記蓋体は、アルミナ等の絶縁板で構成することができるが、長方形状の金属フランジと誘電体板で構成してもよい。
【0012】
前記バイアス電極は、プラズマ生成領域を取り囲む枠体構造であって、バイアス電源に接続されている。
このような構成であれば、放電プラズマに正のバイアス電圧を印加することによって、接地電位にある前記被処理基材表面をプラズマ処理することができる。
【0013】
バイアス電圧は、プラズマ処理内容に応じて直流電圧、パルス電圧、或いは交流電圧を半波整流した脈流電圧であってもよい。
【0014】
前記処理チャンバの壁面に複数の開口部を略平行に形成されるとともに、前記各開口部に前記アンテナユニットが装着されている構成であっても良い。
このような構成であれば、複数のアンテナユニットが、それぞれ別々の開口部に取り付けられるので、複数のアンテナ導体を1つの開口部に取り付ける場合に比べて、開口部のサイズを小さくすることができる。これにより、各開口部を塞ぐ蓋体に必要とされる機械的強度が小さくて済む。アンテナユニットの製造コストを低減することができる。
【0015】
前記プラズマ処理チャンバが複数連結されたインライン方式プラズマ処理装置であって、前記プラズマ処理チャンバの前後が差動排気システムに接続された差動排気チャンバを介して連結されていても良い。
このような構成であれば、処理条件の異なる複数のプラズマ処理工程を連続して実施することができ、本発明による作用効果をより顕著に発揮させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るプラズマ処理装置の特長は、被処理基材を接地電位に保持し、前記バイアス電極に印加するバイアス電圧を変えることによって異なったプラズマ処理ができることである。一台の処理チャンバの場合は複数の処理工程を時間的に順次実施することができ、複数の処理チャンバを連結して実施する場合はインライン方式による複数の処理工程を平行して実施することができる。特に、複数の処理工程を有するロール・ツー・ロール方式プラズマ処理装置においては、処理チャンバ毎に異なったプラズマ処理が可能になる。被処理基材及び搬送システム全体を接地電位にすることにより、プラズマ処理装置が簡略化され製造コストの低減及び取り扱い上の安全性が著しく改善できる。
【0017】
すなわち、本発明に係るプラズマ処理装置によれば、被処理基材を接地し、正のバイアス電圧をバイアス電極に印加して正電位プラズマ処理することによって接地電位にある被処理基材板に高周波電圧やパルス電圧を印加することなく、高エネルギーイオンを照射しながらプラズマ処理することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】この発明に係るプラズマ処理装置の一実施形態を示す概略断面図である。
【
図2】この発明に係るバイアス電極の実施形態を示す概略図面である。
【
図3】アンテナ導体の実施形態を示す概略図面である。
【
図4】アンテナ導体の他の実施形態を示す概略図面である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明に係るプラズマ処理装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0020】
本実施形態のプラズマ処理装置100を上から見た構成を
図1に示す。このプラズマ処理装置100は、複数のプラズマ処理チャンバC1、C2、C3を連結して複数のプラズマ処理工程を連続的に処理することができる、所謂ロール・ツー・ロール方式によるプラズマ処理装置である。例えば、アルミニウム等のシート状の被処理基材Xを処理チャンバC1、C2、C3内で一定速度で搬送しながら、各処理チャンバC1、C2、C3内で異なったプラズマ処理を平行して同時に実施できるものである。なお、
図1には被処理基材Xの表面側に処理チャンバC1a、C2a、C3aを配置するとともに、裏面側に処理チャンバC1b、C2b、C3bを配置して被処理基材Xの両面を同時にプラズマ処理するプラズマ処理装置100を示すが、被処理基材Xの片面側にのみ処理チャンバが配置されていても良い。ここでは、説明を簡略化するため代表例として処理チャンバC1aの構成について
図2を用いて具体的に説明する。
【0021】
このプラズマ処理装置100は、
図1及び
図2に示すように、接地電位にある処理チャンバC1、C2、C3内に被処理基材Xを搬送する搬送手段10と、プラズマを発生させるためのアンテナユニット20と、放電プラズマをプラズマ生成領域に閉じ込めプラズマにバイアス電圧を印加するバイアス電極30とを具備する。なお、説明の便宜上、
図1にはバイアス電極30及び加熱ヒータHの記載を省略してある。
【0022】
また、本実施形態のプラズマ処理装置100の特長は、長尺のアンテナ導体22の長手方向の中央部に例えば13.56MHzの高周波電圧を給電してアンテナ導体22の近傍に高密度の高周波放電プラズマを励起するとともに、前記バイアス電極30に例えば30kHzの正のパルス電圧、或いは低周波交流電圧を印加して接地電位にある被処理基材Xの表面をプラズマ処理できるものである。
【0023】
本実施形態のプラズマ処理装置100は、誘導結合型アンテナユニットに高周波電流を流すことで発生する電磁界を用いて放電プラズマを発生させる、いわゆる誘導結合型プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)方式によるものである。
【0024】
前記バイアス電極30は、プラズマ発生領域を囲む枠体構造である。処理チャンバC1、C2、C3内は、真空排気手段40とガス導入手段(不図示)によって所定の真空度に保持される。例えばアルゴンと水素との混合ガスをガス導入口から導入して所定の圧力、例えば1Paに調整される。前記アンテナユニット20に高周波電力を給電して、このアンテナユニット20と接地電位にあるシート状の基材Xとの間に高密度のプラズマを励起する。前記バイアス電極30にバイアス電圧、例えば正の2kVを印加することによって被処理基材Xの表面をクリーニングすることができる。また、この実施形態では、バイアス電極30が取り囲むプラズマ生成領域内に加熱ヒータHが配置されている。
【0025】
本実施形態のプラズマ処理装置100は、被処理基材Xが接地されていて、放電プラズマは前記アンテナユニット20と被処理基材Xとの間に介在する空間(すなわち、プラズマ生成領域)に充満し、プラズマ電位は被処理基材X及び処理チャンバC1、C2、C3の壁の電位、即ち接地電位になる。被処理基材Xをプラズマ処理するためにはバイアス電極30にバイアス電圧、例えば正の2kVを印加してプラズマ電位を正にする必要がある。
【0026】
処理チャンバC1、C2、C3の上壁111に上方から見て長方形状の開口部112が形成されており、
図2に示すように、この開口部112に後述するアンテナユニット20を嵌め込むことにより処理チャンバC1、C2、C3内部を密閉するように構成されている。
【0027】
このアンテナユニット20は、処理チャンバC1、C2、C3内で搬送される被処理基材Xの被処理面に対向するように配置されており、具体的には、
図2に示すように、処理チャンバC1、C2、C3の壁面に形成された開口部112を閉塞するように装着される構造であって、長方形状の蓋体21と、当該蓋体21に取り付けられたアンテナ導体22とを有する。前記アンテナ導体22は、前記蓋体21に固定されたフィードスルー24を介して前記蓋体21の内側面に配置されている。
【0028】
なお、本実施形態では、
図3に示すように、1つ又は複数の処理チャンバC1、C2、C3において、壁面に複数の開口部112が略平行に形成されるとともに、各開口部112にアンテナユニット20が装着されている。
【0029】
蓋体21は、
図2に示すように、処理チャンバC1、C2、C3の開口部112に沿って設けられた長方形状の絶縁体板から構成されており、言い換えれば、単一の誘電体板のみから構成されている。ただし、蓋体21は、処理チャンバC1、C2、C3の開口部112に沿って設けられた長方形状の金属フランジと、この金属フランジに支持された誘電体板(絶縁体板)とが、一体化されているものであっても良い。
【0030】
アンテナ導体22は、
図3に示すように、1本の金属パイプを折り曲げて構成された長方形状の枠体である。この枠体(アンテナ導体22)の長辺の一方(以下、給電側アンテナ導体22Xとも記す)の中央部が給電端子Z1に接続され、他方(以下、接地側アンテナ導体22Yとも記す)の中央部が真空シール部材等を介して蓋体21に固定されて接地されている。
【0031】
本実施形態では、U字形のアンテナ導体が左右対称に配置されており、給電側アンテナ導体22Xの中央部22cに給電された高周波電流は、左右に流れて両端部22a、22bでUターンして接地側アンテナ導体22Yの中央部に向かって流れる。これにより、給電側アンテナ導体22Xを流れる高周波電流の向きと、接地側アンテナ導体22Yを流れる高周波電流は流れる向きが逆になる。
【0032】
このように構成されたアンテナ導体22では、給電側アンテナ導体22Xの長手方向中央部22cに給電端子Z1を介して給電された高周波電流は、U字形アンテナ導体22の左右の両端部22a、22bに向かって流れ、Uターンして接地側アンテナ導体22Yを逆向きに流れて、接地側アンテナ導体22Yの中央部の接地端子Z2に流れこむ。これにより、給電側アンテナ導体22Xを流れる高周波電流の向きと、接地側アンテナ導体22Yを流れる高周波電流は流れる向きが逆になる。
【0033】
つまり、アンテナ導体22は、給電側アンテナ導体22Xの長手方向の中央部22cに供給された高周波電流に対する往復回路を構成している。このような往復回路では、往復アンテナ導体間に相互インダクタンスが発生し、高周波電流に対するアンテナ導体のインピーダンスは、前記相互インダクタンス相当分が相殺されて小さくなる。
【0034】
このような構成のアンテナ導体のインピーダンスは前記相互インダクタンス相当分が相殺されて小さくなるため、長尺のアンテナユニット、例えば1m以上のアンテナユニットが実用化できる。
【0035】
また、本発明に係るアンテナユニット20では、給電側アンテナ導体22Xと接地側アンテナ導体22Yが蓋体21の内側面に沿って略平行に配置され、両アンテナ導体22X、22Yに流れる高周波電流は互いに逆向きであって、両アンテナ導体22X、22Y間に最大の電磁界が発生する。本誘導結合型アンテナユニット20ではこの強力な電磁界を最も有効に活用できる構成であって高密度プラズマの生成に極めて効果的である。また、低ガス圧領域においても放電が起りやすく安定な放電プラズマが維持される。
【0036】
アンテナ導体22の素材は特定されるものではないが、高周波電力、例えば13.56MHzの高周波電力を給電するため、導電性のよい金属材料、例えば銅材やアルミニウム材等であることが好ましい。
【0037】
また、アンテナ導体22は高周波電流を流すと数100℃に加熱されるため、例えば水冷等の冷却が可能な金属パイプであることが好ましい。本実施形態によれば、アンテナ導体22Yの中央部が接地される構成であるため水冷等による冷却が容易である。
【0038】
アンテナ導体22として、例えば銅パイプ或いはアルミニウムパイプ等の金属パイプを用いれば、その内部に例えば水等の冷媒を流して冷却することができる。具体的には、
図3に示すように、接地側アンテナ導体22Yの中央部の一方の注入口P1から注入し、アンテナ導体22を一周して接地側アンテナ導体22Yの中央部の他方の出口P2から排出することで、アンテナ導体22の全体を冷却することができる。
【0039】
蓋体21を構成する絶縁体板は、絶縁性及び耐熱性に優れた加工可能な材料であることが好ましく、例えばアルミナ材や窒化ケイ素等のセラミックス材料で構成することができる。また、アンテナ導体22が十分に冷却可能であれば、耐熱性に優れるPEEK材やテフロン系有機材料を使用することができる。
【0040】
本実施形態では、アンテナ導体22が処理チャンバC1、C2、C3内に装着されるため放電プラズマ中に曝される。従って、処理条件によってはアンテナ導体22の表面はイオン照射によってスパッタリングされ、アンテナ導体22を構成する金属が不純物として飛散する恐れがある。そこで、スパッタリングによる汚染を抑制するためにはアンテナ導体22表面を誘電体材料、例えば石英管等で被覆又は石英板により遮蔽することが好ましい。
【0041】
本実施形態では、双方向型U字形アンテナ導体22について説明したが、長尺アンテナ導体の長手方向の一方の端部に給電し、他方の端部を接地する構造の高周波アンテナ、或いは長尺アンテナ導体の長手方向の中央部に給電し、両端部を接地する構造の高周波アンテナであってもよい。
【0042】
本実施形態では前記バイアス電極30に特徴があるので、以下バイアス電極について具体的に説明する。
【0043】
前記バイアス電極30は、
図2に示すように、プラズマ生成領域の周囲に設けられている。ここでのバイアス電極30は、プラズマ生成領域を取り囲むとともに、被処理基材Xを向く開口が形成されたドーム形状又は箱形(略直方体形状)の枠体構造である。前記アンテナユニット20によって励起された放電プラズマは前記アンテナユニット20と前記被処理基材Xとの間のプラズマ生成領域に拡散するが、前記箱形のバイアス電極30内に閉じ込められる。これにより、放電プラズマの処理チャンバC1、C2、C3内への拡散を抑制することができる。従来の量産装置では真空容器等の器材表面への付着物、例えばDLC皮膜などの除去、クリーニングは大きな課題であったが、放電プラズマの処理チャンバC1、C2、C3内への拡散を可能な限り抑制することによって、プラズマ反応に伴う付着物を著しく削減できる等の効果を有する。なお、バイアス電極30の形状は必ずしもドーム形状又は箱形に限るものではなく、例えば枠体形状の筒状であっても良い。
【0044】
本実施形態では、前記バイアス電極30の表面積は、接地電位にある被処理基材Xの表面積以上であって、前記放電プラズマの電位はプラズマを取り囲むバイアス電極30の電位に追随して変化する。前記バイアス電極30は、
図2に示すように、正のバイアス電源50に接続されている。バイアス電極30に正のバイアス電圧Vaを印加すれば、放電プラズマの電位も略正のバイアス電位Vaになる。接地電位にある前記被処理基材Xの表面には電位差Vaのイオンシースが生じる。このイオンシースの電位差で陽イオンは加速され、高エネルギーの陽イオンを含むプラズマによって被処理基材Xの表面をプラズマ処理することができる。
【0045】
前記バイアス電圧は特定されるものではなく、プラズマ処理内容に応じて直流電圧、パルス電圧、或いは交流電圧を半波整流した脈流電圧であってもよい。パルス電圧及び脈流電圧の場合は、その周波数が1kHz~100kHzであることが好ましい。
【0046】
この実施形態では、上述したバイアス電極30とその周囲に配置されている例えば真空チャンバ11の上壁111や側壁37などとの間における放電を防ぐべく、バイアス電極30の外面には例えばアルマイト処理等により形成した絶縁部材Zを設けてある。
【0047】
本実施形態のプラズマ処理装置100の特長は、アンテナ導体22の長手方向の中央部に例えば13.56MHzの高周波電圧を給電してアンテナ導体22の近傍に高密度の高周波放電プラズマを励起するとともに前記バイアス電極30に、例えば30kHzの正のパルス電圧、或いは低周波交流電圧を印加することによってプラズマ電位を接地電位に対して高電位にすることができる。これによって被処理基材Xの表面に高エネルギーイオンを照射しながらプラズマ処理することができる。
【0048】
高周波電源60(
図2参照)は、アンテナ導体22の近傍に放電プラズマを励起するもので、その周波数は13.56MHzに特定されるものではない。本明細書で用いている300kHz以上の高周波電圧であることが好ましい。また、バイアス電源50は処理チャンバC1、C2、C3内の高密度プラズマの電位を制御するためのもので、正のバイアス電圧を給電できる電源である。例えば正のパルス電圧、正の交流電圧、或いは半波整流した脈流電圧を給電できるものが好ましい。なお、作業ガスの圧力が数Pa以上であればパルス電圧或いは低周波交流電圧のみで放電プラズマを励起することもできる。
【0049】
また、平行平板型のU字形アンテナ導体22のインダクタンスは、U字形アンテナ導体22の長さと両アンテナ導体22間の間隔にほぼ比例する。即ち、両アンテナ導体22を接近させればインダクタンスは小さくなり離せば大きくなる。また、
図4に示すように、アンテナ導体22の中央部の間隔を大きくし、両端部の間隔を小さくすることによって中央部のインダクタンスを大さくし、両端部のインダクタンスを相対的に小さくすることができる。
【0050】
給電側アンテナ導体22Xと接地側アンテナ導体22Yの長手方向の任意の位置における両アンテナ導体22の間隔を変えることによって前記アンテナユニット20の長手方向のインピーダンスを変えることができる。前記アンテナ導体22に高周波電流を流した場合、アンテナ導体22のインピーダンスの大きい部分で高周波電力の消費が大きく、電磁界エネルギーも大きくなる。これによって、処理チャンバC1、C2、C3内に励起されるプラズマのアンテナ導体22の長手方向のプラズマ密度分布を制御することができ、均一なプラズマ密度分布を得ることができる。
【0051】
本発明によれば、前記バイアス電極30内に加熱手段である加熱ヒータHを配置することによって、被処理機材X等を効果的に加熱することができる。バイアス電極30の材料として内側の熱放射率が大きく外側の熱放射率が小さい金属板とすることで、前記加熱ヒータHの輻射熱を極めて有効に活用することができる。例えば熱放射率が0.05程度のアルミニウム或いはアルミニウム合金板を用いると良い。
【0052】
例えば、熱放射率が0.05程度のアルミニウム合金板を用いて、内側面を熱放射率が0.9程度の導電性黒体材料、例えばカーボンブラック等を塗布したバイアス電極30を用いれば、前記加熱ヒータHから放射される輻射熱の大部分はバイアス電極30と被処理基材Xの加熱に消費される。バイアス電極30の内側の熱放射率を大きくすると、被処理機材Xの加熱に極めて効果的である。更に、バイアス電極30の外側面からの熱放射損失を著しく抑制できるため、処理チャンバの温度上昇も著しく低減することができる。
【0053】
本発明によるロール・ツー・ロール方式(R to R方式)一実施例について
図1を用いて説明する。
図1は前記プラズマ処理装置100を上方から見た断面模式図であり、プラズマ処理チャンバC1、C2、C3を複数連結したR to R方式によるインラインプラズマ処理装置の概念図である。前記プラズマ処理装置100の処理チャンバC1、C2、C3の左右にロードチャンバ31とアンロードチャンバ32を有する構成である。ロードチャンバ31には被処理基材Xが巻き出しロール33に巻かれて格納されていて、搬送手段10によって順次処理チャンバC1、C2、C3内に搬送され、プラズマ処理手段によって処理される。処理された被処理基材Xは搬送手段10によってアンロードチャンバ32内に格納された巻き取りロール34に巻き取られて保管され、定期的に製品として外部に搬出される。
【0054】
図1に示すインライン式プラズマ処理装置100は、3つの処理チャンバC1、C2、C3を有する。例えば、第1の処理チャンバC1で基材Xの表面をイオン照射によってクリーニングし、第2の処理チャンバC2で例えばDLCなどの薄膜形成を行い、第3の処理チャンバC3で例えば機能性表面処理を行うことができる。言うまでもなく、本発明に係るプラズマ処理装置100としては、単独の処理チャンバを備えるものであってもよい。
【0055】
前記ロードチャンバ31及びアンロードチャンバ32は排気手段によって高真空に保持される。また、各処理チャンバC1、C2、C3内は差動排気システム40を介して連結されている。すなわち、このプラズマ処理装置100は、処理チャンバC1、C2、C3が複数連結されたインライン方式プラズマ処理装置であって、処理チャンバC1、C2、C3の前後が差動排気システム40に接続された差動排気チャンバC4を介して連結されている。各処理チャンバC1、C2、C3内は図示されない作業ガス導入手段によって作業ガスが導入され、所定のガス圧力例えば0.7Paに調整される。更に、各処理チャンバC1、C2、C3毎にプラズマ処理工程に応じたバイアス電源50を具備している。
【0056】
更に、各処理チャンバはプラズマ処理内容によって処理チャンバC1、C2、C3のサイズ、アンテナユニット20の装着個数、アンテナ導体22のサイズ等を任意に設計することができる。
【0057】
このように複数のプラズマ処理プロセスを連続して実施する場合は、
図1に示すように複数の処理チャンバC1、C2、C3を連結すればよく、処理チャンバC1、C2、C3毎に異なるプラズマ処理を施すことができる。即ち、被処理基材Xを接地し、処理チャンバC1、C2、C3毎に必要な作業ガスを導入してガス圧力を調整し、処理チャンバC1、C2、C3毎に異なるバイアス電圧をバイアス電極30に給電することによって複数のプラズマ処理を同時に連続して行うことができる。プラズマ処理工程毎に専用の処理チャンバC1、C2、C3と処理条件を設定することができるため生産性の向上と製品の品質向上を図ることができる。
【0058】
本発明によるインライン式プラズマ処理装置100では、
図2に示すように、被処理基材Xの各処理チャンバC1、C2、C3間の搬送は隔壁板37に設けられた基板搬送用スリット36を通して行うことができる。各処理チャンバC1、C2、C3は、作業ガス導入手段(不図示)と真空排気手段40とを備えているため、隣接するチャンバC1、C2、C3間の作業ガスの圧力差は数Pa以下に制御することができる。従って、作業ガスの圧力差が数Pa以下であって、前記基板搬送用スリット36のガスコンダクタンスを十分小さくすることができるため処理チャンバC1、C2、C3間の作業ガスの混合は考慮する必要がない。
【0059】
また、処理時間の異なる複数のプラズマ処理工程を実施する場合、基材を一定速度で搬送することは困難である。このような場合は、前記基材を断続的に搬送することによるインライン方式を採用することができる。
【0060】
以上、代表的な実施形態について説明したが、本発明はその要旨を変えない限り、上記実施形態により何ら制限されるものではない。
【符号の説明】
【0061】
100・・・プラズマ処理装置
C1~3・・・プラズマ処理チャンバ
10・・・搬送手段
20・・・誘導結合型アンテナユニット
21・・・蓋体
22・・・アンテナ導体
30・・・バイアス電極
H・・・加熱ヒータ