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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173303
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】静電吸引型インクジェット用インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20241205BHJP
   B41J 2/06 20060101ALI20241205BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241205BHJP
   B05C 5/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C09D11/30
B41J2/06
B41J2/01 501
B05C5/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091637
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】末益 智志
(72)【発明者】
【氏名】豊福 洋介
(72)【発明者】
【氏名】入江 一伸
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
4F041
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FC01
2C057BD05
4F041AA02
4F041AA05
4F041AB01
4F041BA01
4F041BA10
4F041BA13
4F041BA34
4J039BC07
4J039BC73
4J039BC75
4J039BE12
4J039EA24
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】静電吸引型インクジェット法により安定して塗布可能なインクジェットインクを提供する。
【解決手段】本開示のインクジェットインクは、インクを吐出するためのノズルを備え、前記ノズルからインクを吐出する方向を正方向としたとき、前記ノズルから正方向に向かって電圧分布が上昇する方向に電界を生じさせたインクを吐出する、静電吸引型インクジェット装置に用いるインクであり、カルボキシル基および/またはヒドロキル基を有する成分を含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するためのノズルを備え、前記ノズルからインクを吐出する方向を正方向としたとき、前記ノズルから正方向に向かって電圧分布が上昇する方向に電界を生じさせたインクを吐出する、静電吸引型インクジェット装置に用いる静電吸引型インクジェット用インクであり、
カルボキシル基および/またはヒドロキル基を有する成分を含む、 静電吸引型インクジェット用インク。
【請求項2】
前記カルボキシル基および/またはヒドロキル基を有する成分が、有機溶媒である、
請求項1に記載の静電吸引型インクジェット用インク。
【請求項3】
前記有機溶媒が、プロトン性極性溶媒である、
請求項2に記載の静電吸引型インクジェット用インク。
【請求項4】
前記有機溶媒は、酢酸、2,3-ブタンジオール、エタノール、オクタノール、2-イソプロポキシエタノール、2-(2-n-ブトキシエトキシ)エタノール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、およびジエチレングリコールモノヘキシルエーテルからなる群から選ばれる一種以上の化合物である、
請求項2に記載の静電吸引型インクジェット用インク。
【請求項5】
前記静電吸引型インクジェット装置は、前記ノズルから前記正方向に向かって電圧分布が低下する方向に電界を生じさせたインクをさらに吐出する、
請求項1に記載の静電吸引型インクジェット用インク。
【請求項6】
導電率が1×10-5S/m以上である、
請求項1に記載の静電吸引型インクジェット用インク。
【請求項7】
前記ノズルの内径が25μm以上である、
請求項1に記載の静電吸引型インクジェット用インク。
【請求項8】
前記静電吸引型インクジェット装置は、
前記ノズルに設けられた吐出電極と、
インクの吐出方向において、前記吐出電極に対向するように設けられた対向電極と、
前記吐出電極および前記対向電極の間の電位差を小さくすることで、前記ノズルからインクを吐出させる制御を行う電圧制御部と、
をさらに備える、
請求項1に記載の静電吸引型インクジェット用インク。
【請求項9】
前記電圧制御部は、前記吐出電極および前記対向電極の間の電位差が大きくなるように、前記吐出電極および前記対向電極の少なくとも一方に電圧を印加して、前記ノズル内にインクを保持する、
請求項8に記載の静電吸引型インクジェット用インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、静電吸引型インクジェット装置に使用するための静電吸引型インクジェット用インク関する。
【背景技術】
【0002】
近年、印刷技術を用いて基板上に形成されるプリンテッドエレクトロニクスの製造技術が確立されている。プリンテッドエレクトロニクスの製造に用いられる印刷技術として、インクに正および/または負に帯電させ、被印刷媒体側の電極から静電吸引することでインクを被印刷媒体に塗布する静電吸引型インクジェット、またはEHD(Electro Hydro Dynamics:電気流体力学)インクジェット(本明細書では、「静電吸引型インクジェット」と記載する)などと呼ばれる技術がある。
【0003】
従来、多用されてきたインクジェットの方式には、ピエゾ方式やサーマル方式があるが、これらの方式では高粘度(例えば0.1Pa/s以上)のインクの吐出や、微少量(例えば3pL以下)のインクの吐出が難しかった。これに対し、静電吸引型のインクジェットでは、ピエゾ方式やサーマル方式のインクジェットヘッドよりも、高粘度インクの吐出や、微少量のインクの吐出にも対応できる、という利点がある。
【0004】
例えば特許文献1には、両極性パルス電圧を駆動電圧として、インク先端側が正帯電された流体と負帯電された流体を交互に吐出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4397642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、静電吸引型インクジェット用インクについて、詳しく検討されてこなかったのが実状であり、例えば帯電可能なインクであれば使用可能であると考えられてきた。しかしながら、本発明者らが鋭意検討したところ、インクを静電吸引型吐出装置から安定的に吐出させるためには、導電性だけでなく、インクが所定の条件を満たす必要があることが明らかになった。
【0007】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであり、静電吸引型インクジェット法によって、安定して塗布可能な静電吸引型インクジェット用インクの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る静電吸引型インクジェット用インクは、インクを吐出するためのノズルを備え、前記ノズルからインクを吐出する方向を正方向としたとき、前記ノズルから正方向に向かって電圧分布が上昇する方向に電界を生じさせたインクを吐出する、静電吸引型インクジェット装置に用いる静電吸引型インクジェット用インクであり、カルボキシル基および/またはヒドロキル基を有する成分を含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、静電吸引型インクジェット法により、安定して塗布可能な静電吸引型インクジェット用インクが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】インクジェット装置の構成の一例を説明するための図
図2】インクジェットヘッドの詳細な構造を含むインクジェット装置の構成を説明するための概略図
図3】インクジェットヘッドの詳細な構造を含むインクジェット装置の構成を説明するための概略図
図4図4A図4Fは、インクジェット装置の吐出電極および対向電極に電圧を印加した状態における、インクの電荷分布を例示した概念図
図5】インク関する検証に使用したインクジェット装置(試験装置)の構成を説明するための図
図6図6A図6Cは、インク関する検証時のインクの電荷分布を説明するための図
図7図7A図7Cは、インク関する検証時に生じた電界と、撮像タイミングを説明するための図
図8図8は、インクの導電性および試験結果の相関性を示すグラフ
図9図9Aおよび図9Bは、試験結果を検証する際の考察を説明するための図
図10図10Aおよび図10Bは、試験結果を検証する際の考察を説明するための図
図11図11Aおよび図11Bは、試験結果を検証する際の考察を説明するための図
図12】静電吸引型インクジェット装置の吐出電極および対向電極に電圧を印加した状態における、インクの電荷分布を例示した概念図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の各実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明、例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明等は省略する場合がある。
【0012】
本開示は静電吸引型インクジェット用インク(以下、単に「インク」とも称する)に関するが、本明細では、当該インクを塗布するための静電吸引型インクジェット装置(以下、単に「インクジェット装置」とも称する)およびその吐出原理について先に説明し、その後、インクについて詳しく説明する。
【0013】
[インクジェット装置100]
図1は、後述のインクの吐出に使用可能なインクジェット装置100の構成の一例を説明するための図である。図1は、インクジェット装置100の上面図である。なお、本明細書では、インクジェット装置100の設置面をXY平面、設置面に垂直な方向をZ軸方向として説明を行う。図1において、例えばX軸およびY軸は水平面に含まれており、Z軸は鉛直方向に沿って設定されている。ただし、本開示では、インクジェット装置は必ずしも水平面に設置される必要はなく、微小な傾きは許容されてもよい。
【0014】
インクジェット装置100は、インクを吐出するインクジェットヘッド10と、インクを貯留するインクタンク20と、インクジェットヘッド10と基板などの被印刷媒体200とを相対移動させる搬送手段としてのステージ30と、インクジェットヘッド10およびステージ30の動作を制御する制御部40と、を含む。
【0015】
図2および図3は、インクジェットヘッド10の詳細な構造を含むインクジェット装置100の構成を説明するための概略図である。図2に示す例では、インクジェットヘッド10は1つのノズルを有しており、図3に示す例では、インクジェットヘッド10は複数のノズルを有している。このように、本開示ではインクジェットヘッド10が有するノズルの数は限定されない。図2および図3には、ノズルの配置位置におけるインクジェットヘッド10の断面(YZ平面における断面)と、ステージ30上に設けられた対向電極50と、対向電極50に保持される被印刷媒体200とが示されている。
【0016】
インクジェットヘッド10は、リザーバ11と、ノズル12と、吐出電極13と、切替部15と、第1電圧生成部16と、を有する。図3に示す例では、インクジェットヘッド10は、さらにノズルプレート14を有している。
【0017】
リザーバ11は、図1に示すインクタンク20から供給されるインクを貯留する。
【0018】
ノズル12は、インクを吐出するノズルである。インクの吐出方向におけるノズル12の先端部には、ノズル孔12Aが形成されている。本実施の形態では、ノズル12およびノズル孔12Aの内径(ノズル径)は、例えば25μm~300μmに形成される。一般的に、ノズル孔12Aの内径が小さいほど、インク中の粒子状成分が詰まったり、ノズル孔12A内部でインクが固化したりしたときの影響が大きくなりやすい。一方で、ノズル孔12Aの内径が過度に大きいと、インクの吐出量が過度に多くなる、というトレードオフがある。これに対し、後述のインクによれば、インクジェット装置100から安定して吐出しやすく、ノズル径が大きい場合でもインクを微量のみ、吐出させることが可能である。
【0019】
ここで、ノズル12には吐出電極13が配置されている。吐出電極13には、後述の電圧制御部70の制御により、第1電圧生成部16から第1パルス電圧が印加され、吐出電極13からノズル12内部のインクに電荷が与えられる。
【0020】
ノズルプレート14は、ノズル12が設けられている板状の部材である。ノズルプレート14は、例えばガラスやセラミック、樹脂等の絶縁性の材料で形成される。図2に示すように、ノズル12が1つである場合、ノズルプレート14は設けられなくてもよい。
【0021】
ノズル12は、例えばガラスまたは金属材料などで形成される。ノズル12の外周部または内周部には、金属スパッタリングなどにより吐出電極13が形成される。ノズル12からインクが吐出される方向を吐出方向とした場合、吐出方向において、インクが吐出される側のノズル12の端部であるノズル孔12Aと吐出電極13の端部とは同じ位置にある。言い換えると、吐出電極13はノズル12の先端部まで形成されている。
【0022】
これにより、ノズル12内部のインクおよびノズル先端からノズル外(下方)に向かって形成されるメニスカスに対し、吐出電極13が電荷を与えやすくなる。そのため、印加エネルギーを有効に活用した吐出をすることができる。また、ノズル12内部のノズル孔12A付近に形成されるインクのメニスカス面と吐出電極13との距離を近くすることができる。そのため、ノズル先端近傍の電界(電圧/距離)を高めることができ、インクを効率的に吐出することができる。
【0023】
なお、ノズル12の材料として金属材料を用い、ノズル12と吐出電極13とを一体に形成してもよい。この場合、ノズル12および吐出電極13は、例えばステンレス鋼(SUS)、またはニッケル(Ni)などで形成されればよい。特に、ノズル12と吐出電極13とを一体に形成する場合、ノズル12を薄肉化できることなどから、ノズル12および吐出電極13は、ニッケルを用いた電鋳加工で形成されることが好ましい。通常、メニスカス外径と、ノズル12外径は略同等になる。したがって、ノズル12を薄肉化すると、ノズル12の外径が小さくなり、メニスカスの外径を小さくできる。
【0024】
図3に示す例では、インクジェットヘッド10に5つのノズル12が直線状に形成されている。第1電圧生成部16は、5つのノズル12にそれぞれ個別の第1パルス電圧を供給することで、5つのノズル12からそれぞれ独立してインクを吐出させることができる。
なお、5つのノズル12にそれぞれ個別の第1パルス電圧ではなく、同一の第1パルスを印加しても良い。その場合は、5つのノズル12からそれぞれ独立してインクを吐出させることは出来ないが、同一タイミングで5つのノズル12からインクを吐出させることができる。繰り返しパターンの印刷やベタ膜印刷等においては、独立したインクジェットは不要なため、上述のように一括制御でも良い。そうすることで制御基板等のコストを抑制することができる。
【0025】
なお、本開示では、図3のようにインクジェットヘッドが複数のノズルを有する場合、ノズルの数は5つに限られない。また、複数のノズルは例えば直線状に配置されてもよいし、マトリックス状(格子状)に配置されてもよい。ノズル同士の間隔は、例えば50μmから数mm程度まで任意に設定可能である。ノズルの数、配置パターン、およびノズル間隔は、被印刷媒体200の大きさ、印刷領域の大きさ、求められる印刷スピードなどに基づいて適宜設定されればよい。
【0026】
切替部15は、第1電圧生成部16と各吐出電極13との接続の有無を切り替えるスイッチである。なお、図3には、複数のノズル12の内、1つのノズル12に対応する切替部15のみが図示されているが、実際には複数のノズル12のそれぞれに対し、独立した切替部15が接続されている。第1電圧生成部16は、複数のノズル12に接続された複数の切替部15を介して、複数のノズル12に対しそれぞれ独立して第1パルス電圧を印加する。
【0027】
図2に示すように、インクジェットヘッド10の各ノズル12と対向する位置にステージ30が配置されている。ステージ30上には、ノズル12のノズル孔12Aと対向する対向電極50が設けられている。
なお、インクジェット装置100自体が帯電することを防止するため、ステージ30と対向電極50との間には不図示の絶縁体を配置することが望ましい。
また、対向電極50の上面には、SiOなどの絶縁膜が形成されていることが望ましい。そうすることで、帯電したインクと対向電極が直接接触することを防止でき、インクを介した電流ショートのリスクを低減できる。
被印刷媒体200は、対向電極50上に保持される。なお、本開示において被印刷媒体200は対向電極50に直接保持されなくてもよく、例えば被印刷媒体を支持する支持部(絶縁性の土台など)を介して、被印刷媒体が対向電極50に保持されてもよい。
【0028】
上述したように、インクジェットヘッド10とステージ30とは相対移動可能であり、制御部40がステージ30の位置(ひいては、被印刷媒体の位置)に関する情報を取得し、当該情報に基づいてインクジェットヘッド10とステージ30の位置を相対的に変化させることにより、被印刷媒体200の所望の位置にノズル12から吐出されたインクを着弾させることができる。これにより、インクジェットヘッド10よりも大きな被印刷媒体200に対して正確な印刷が可能となっている。対向電極50は、対向電極50と被印刷媒体200の表面(被印刷面)との距離が、例えば300μm以上となるように被印刷媒体200を保持する。そうすることで、帯電したインクと対向電極との間で生じる電界によって空気の絶縁破壊が生じて火花が生じるリスクを低減することができる。なお、対向電極50と被印刷媒体200の表面(被印刷面)との距離は1mm以下とすることが望ましい。1mm以上に距離を広げることで、絶縁破壊のリスクは低減するが、対向電極と吐出電極間に所望の電界を生じさせるためには非常に高い電圧を印加する必要があるためである。すなわち、対向電極50と被印刷媒体200の表面(被印刷面)との距離は300μm~1mmとするのが望ましい。
【0029】
また、対向電極50は、インクの吐出方向における、被印刷面とノズル孔12Aとの距離が100μm以上となるように被印刷媒体200を保持する。被印刷面とノズル孔12Aの距離が近いと、ノズル孔12Aから形成されるテイラーコーンが被印刷媒体200との接触によって歪な形状となり易いが、100μm以上とすることでノズル孔12Aからテイラーコーンを形成して吐出させることが可能となる。
なお、上記2条件を満たすことと同義であるが、対向電極50とノズル孔12Aの先端部を含んで形成された吐出電極13の距離は400μm以上であることが望ましい。
【0030】
第2電圧生成部60は、対向電極50に対し、ノズル12内のインクを静電吸引する第2パルス電圧を印加する。
【0031】
電圧制御部70は、第1電圧生成部16による第1パルス電圧の生成、切替部15による第1電圧生成部16と各吐出電極13との接続の切り替え、および、第2電圧生成部60による第2パルス電圧の生成を制御する。
【0032】
[インクの吐出原理]
上述のインクジェット装置100において、インクの吐出が行われる原理について簡単に説明する。インクジェット装置100のノズル12から吐出させるインクには、様々な力が働く。以下の説明において、インクをノズル12のノズル孔12Aから吐出させる向きに働く力を吐出力と記載し、インクをノズル12内部に留める向きに働く力を保持力と記載する。当該インクジェット装置100では、インクを飛ばす吐出力とインクを保持する保持力のバランス関係で、吐出状態または非吐出状態が定まる。すなわち、吐出力が保持力を上回るとインクが吐出する。
【0033】
当該インクジェット装置100においてインクを被印刷媒体200側に飛ばす吐出力は、電荷による吐出力と電荷以外の吐出力とに分類される。電荷による吐出力としては、静電吸引力やインクと対向電極間でのクーロン力等が挙げられる。一方、電荷以外の吐出力としては、インク自身の重力や気体の圧力で押し出す背圧力等が挙げられる。ここで、上記静電吸引力とは、インク先端の電荷同士のクーロン力(反発力)によって形成されるインクを吐出方向に引く力である。静電吸引力feは、以下の式によって導出され、インクの誘電率、および電界強度Eの2乗に比例する。
fe=1/2・ε0・E
なお、ε0は真空誘電率(F/m)である
【0034】
一方、上記インクジェット装置100においてインクを保持する保持力は、電荷による保持力と電荷以外の保持力と、に分類される。電荷による保持力としては、インク内の電荷の偏りにより生じる電気的吸引力等が挙げられる。電荷以外による保持力としては、インクの粘性力や表面張力が挙げられる。
【0035】
図4A図4Fに、インクジェット装置100のノズル12近傍の電荷分布のイメージ図を表す。なお、図4A図4Fでは被印刷媒体200の図示を省略している。図4Aは、吐出電極13、対向電極50のいずれにも電圧が印加されていない待機状態を示している。図4Bは、ノズル12の内周または外周に配置された吐出電極13に正電圧(第1電圧)を印加し、対向電極50に負電圧(第2電圧)を印加した際の電荷分布のイメージである。この場合、インクのメニスカス先端部には正電荷が集合する。一方、吐出電極13近傍、およびメニスカス先端以外のインク内部は、偏りを持った電荷分布となる。すなわち、メニスカス先端近傍には正電荷が比較的多く集合し、メニスカスから遠いほど負電荷の比率が増加する。この電荷の偏りによって、前述のインク内の電荷の偏りにより生じる電気的吸引力が生じる。つまり、当該電気的吸引力が、静電吸引力からなる吐出力に対抗する保持力となり、インクを吐出させない状態、すなわち非吐出状態が維持される。
【0036】
そして、上記図4Bの電圧印加状態から、図4Cに示すように吐出電極13および対向電極50への電圧印加を停止して接地させると、吐出電極13および対向電極50の電荷が消滅する。インクの電荷は、図4Dに示すように、吐出電極13に向かって移動する。実際には、吐出電極13に近い側のインクから順に電荷が中和されていく。
【0037】
ここで、吐出電極13および対向電極50への電圧印加を停止した直後は、図4Dに示すように、メニスカス先端側に電荷が残る。一方、インクの根本側では電荷の偏りが解消されて、接地電位に近い状態となる。この状態では、前述の静電応力による吐出力が働いているのに対して、前述のインク内での電荷の偏りによって生じる電気的吸引力が弱まる。その結果、吐出力が吸引力を上回り、図4Eに示すように、ノズル12からインクが吐出される。すなわち、吐出電極13および対向電極50への電圧印加の停止をトリガとして、インクが吐出される。そして、正帯電したインクが吐出されることで、メニスカス先端の電荷偏りが解消され、図4Fに示すようにインク全体が中和された状態となる。このように電圧印加、停止、インクの吐出を繰り返すことで、パルスオンデマンドにインクを吐出させることができる。また、図4A図4Fに示すように吐出電極13に正電圧を印加した場合、先端側が正帯電したインクが吐出される。つまり、ノズル12からインクを吐出する方向を正方向としたとき、ノズル12から正方向に向かって、電圧分布が低下する方向に電界が生じたインクが吐出される。
【0038】
なお、上記図4Bでは、吐出電極13に正電圧(第1電圧)を印加し、対向電極50に負電圧(第2電圧)を印加することを説明した。ただし、図4Bのように、メニスカス先端部を正帯電させる場合、吐出電極13を接地電位のままとし、対向電極50のみに負電圧を印加してもよい。さらに、吐出電極13のみに正電圧を印加し、対向電極50を接地電位のままとしてもよい。いずれか一方に電圧を印加する場合、両方に電圧を印加する場合と比較して、大きな電圧印加が必要となるが、現象は同様になる。
【0039】
一方で、図4Bとは逆に、メニスカス先端部を負帯電させてもよい。この場合、上記説明と正負が反転するが、現象は同様になる。つまり、ノズル12からインクを吐出する方向を正方向としたとき、ノズル12から正方向に向かって、電圧分布が上昇する方向に電界が生じたインクが吐出される。メニスカス先端部を負帯電させる場合、吐出電極13に負電圧(第1電圧)を印加し、対向電極50に正電圧(第2電圧)を印加してもよい。また、吐出電極13を接地電位のままとし、対向電極50のみに正電圧を印加してもよい。さらに、吐出電極13のみに負電圧を印加し、対向電極50を接地電位のままとしてもよい。
【0040】
また、インクを連続して吐出させる場合には、吐出電極13に正電圧パルス(または負電圧パルス)を繰り返して印加することで、インクを吐出させてもよい。また吐出電極13に負電圧パルス(または正電圧パルス)を繰り返し印加することで、インクを吐出させてもよい。さらに、吐出電極13や対向電極50に正電圧パルスと負電圧パルスを交互に印加して、先端側が正帯電したインクと先端側が負帯電したインクを交互に吐出してもよい。先端側が一方の極性に帯電したインクを連続して吐出すると、帯電インクどうしが反発して、インクの吐出方向が意図しない方向に曲がることがある。その結果、所望の箇所にインクが着弾せず、着弾精度が低下することがある。これに対し、正電圧パルスおよび負電圧パルスを交互に印加し、正帯電したインクと負帯電したインクとを、交互に吐出すると、着弾精度が良好になる。ただし、後で詳しく説明するが、従来のインクでは、電圧の印加によって、先端をいずれか一方の極性(特に負)に帯電させて安定して吐出することも難しく、両方の極性(正または負)に交互に帯電させて、安定して吐出することはさらに難しかった。これに対し、本開示のインクによれば、上述のインクジェット装置によって安定して吐出可能であり、両方の極性(正または負)に交互に帯電させて安定して吐出することも可能である。
【0041】
[インクについて]
以下、本開示のインクについて説明する。
本開示の一態様に係るインクは、カルボキシル基および/またはヒドロキル基を有する成分含んでいればよく、当該成分以外に、本開示の目的および効果を損なわない範囲において、他の成分を含んでいてもよい。他の成分の例には、導電性粒子(各種金属粒子)や色材(顔料または染料)、バインダ樹脂、各種添加剤などが含まれる。
【0042】
当該インクは、加熱または自然乾燥によって液体状の成分が揮発することで固化するタイプのインクであってもよく、上記液体状の成分の揮発と共に、加熱や紫外光照射などによって、インク中の成分が化学的に変化して硬化するタイプであってもよい。ここで、上記カルボキシル基および/またはヒドロキル基を有する成分の例には、有機溶媒や水が含まれる。
【0043】
以下、インクがカルボキシル基および/またはヒドロキシル基を有する成分(以下では有機溶媒を使用)を含むことで、上述のインクジェット装置100によって吐出可能であることを、実際に行った検証をもとに、具体的に説明する。
【0044】
(1)有機溶媒の種類と吐出性との関係を確認するための試験
上述のインクジェット装置100によるインクの吐出に適したインクの有機溶媒を検証するため、以下の試験を行った。
【0045】
なお、EHDの原理を用いたインクジェット装置におけるインクについては、一般的に導電率および誘電率が重要であるとされている。何故ならば、インクへの充放電を繰り返してインクを吐出するにあたり、充放電の時間が吐出性能と相関を有するためである。電荷充放電による電荷量の経過は、一般的に、以下の式で示される。
q=CV(1-e(-t/τ)
ここでτ=ε/4πσである。εは誘電率[F/m]、σは導電率[S/m]を示す。
当該式に基づけば、導電率が高く、誘電率が低いほど充放電が高速に行われ、高周波吐出が可能となるといえる。なお、電荷の集合具合がインクの吐出力に影響するが、前述したように、インクの吐出を保持する力も、インクの吐出特性と強い相関を有する。すなわち、粘性・粘弾性・表面張力等も重要である。また、インクの乾燥防止や発火防止等の観点で沸点や引火点等のスペックも重要である。
【0046】
また、上記式に示されるように、充電速度は導電率と誘電率の比率で定まるが、導電率が高いインクは誘電率が高い傾向にあり、用途に応じて適度なバランスのインクを選定する必要があることが、従来知られている。
【0047】
上記は、EHDの原理を用いる場合の一般的なインク要件である。これに対し、インク先端側を負帯電させたインクを吐出したり、先端側を正帯電させたインクおよび先端側を負帯電させたインクを交互に吐出したりする場合、上記要件だけでは不十分であることを、本発明者らは見出した。そしてさらに、インク先端側を負帯電させて吐出したり、インク先端側を正帯電および負帯電させてそれぞれ吐出したりするためには、カルボキシル基および/またはヒドロキル基を含む有機溶媒(例えばプロトン性極性溶媒)を含むことが重要であることを見出した。以下に詳述する。
【0048】
・試験装置
当該試験には、図5に示すインクジェット装置110を用いた。当該インクジェット装置110は、それぞれ電圧制御部70に接続され、互いに対向するように配置されたストロボ80およびカメラ90を有する以外は、前述の図2に示すインクジェット装置100と同様である。
【0049】
・試験条件
試験の際には、下記表1に示す有機溶媒をそれぞれインクとしてインクタンク(図示せず)に充填し、これをインクジェット装置110から吐出させた。検証時のインクの電荷分布を図6A図6Cに示す。検証は、(i)先端側が正帯電したインクが吐出するように、対向電極50に負のパルス電圧を断続的に印加した場合(図6A、以下、「プラス吐出」とも称する)、(ii)先端側が負帯電したインクが吐出するように、対向電極50に正のパルス電圧を断続的に印加した場合(図6B、以下、「マイナス吐出」とも称する)、および(iii)先端側が正帯電および先端側が負帯電したインクが交互に吐出するように、対向電極50に正および負のパルス電圧を交互に印加した場合(図6C、以下、「プラスマイナス吐出」とも称する)の3種類について行った。またいずれの場合においても、吐出電極13側は、接地電位とした。
【0050】
なお、例えば図6Aの条件においては、吐出電極13側にプラスパルスを印加して対向電極50側を接地電位とした場合および、吐出電極13側にプラスパルスを印加して対向電極50側にマイナスパルスを印加した場合も同様の結果であることを事前に確認した。同様に図6Bの条件においては、吐出電極13側にマイナスパルスを印加して対向電極50側を接地電位とした場合および、吐出電極13側にマイナスパルスを印加して対向電極50側にプラスパルスを印加した場合も同様の結果であることを事前に確認した。また同様に図6Cの条件においては、吐出電極13側にプラスパルスとマイナスパルスを交互に印加して対向電極50側を接地電位とした場合、および、吐出電極13側にプラスパルスとマイナスパルスを交互に印加し、対向電極50側に吐出電極と反対符号となるタイミングにてマイナスパルスとプラスパルスを交互に印加した場合も同様の結果であることを事前に確認した。
【0051】
また、ストロボ8が、図7A図7Cに示すように、各印加パルスの終端近傍で発光し、それと同時にカメラ9がノズル12からのインクの吐出状態を撮像するように、電圧制御部70で制御した。図7Aはプラス吐出の際の撮像タイミングを示す図であり、図7Bは、マイナス吐出の際の撮像タイミングを示す図であり、図7Cは、プラスまたマイナス吐出の際の撮像タイミングを示す図である。なお、インクジェット装置100の吐出周波数は、その応答性を勘案して、1kHzに設定した。また、電圧パルスの振幅や印加時間は、都度調整を行った。
【0052】
・判定条件
各有機溶媒(インク)について、カメラ90により撮像された画像を確認し、印加パルスの終端部(図7A図7Cの引き波形のタイミング)近傍で、毎回安定的にインクがテイラーコーン形状に撮像されていれば、吐出可能(〇)と判断した。このときのメニスカスの太さや、電荷の反発によるメニスカス形状の乱れなどは不問とした。
一方で、インクが吐出されなかった場合や、インクが吐出されたとしても、印加パルスに関係なく吐出された場合、印加パルスの終端部で撮像されたり撮像されていなかったりした場合、吐出されそうだが、被印刷媒体まで到達しない場合、メニスカスが異様な形状(台形状など)の場合には、吐出不可(×)と判断した。
【0053】
なお、粘度や粘弾性、沸点等のインク物性によって、好ましい吐出条件は多少異なる。そこで、本実験においては、粘度や粘弾性等が本実験の吐出条件に適した有機溶媒(インク)を抽出して下記の実験を行った。ただし、これらは後述の考察の結果に影響を与えるものではない。
【0054】
・結果
各有機溶媒(インク)を吐出した結果を下記に示す。また、下記表1には、各有機溶媒の導電率(S/m)および粘度も併せて示す。当該導電率は、LCRメータにより、電極間距離と電極面積を固定した電極をインクに挿入して測定した。図8に各溶媒の導電率と、吐出結果との相関性を表すグラフを示す。
【表1】
【0055】
上記結果を、有機溶媒の分類ごとにまとめた表を以下に示す。
【表2】
【0056】
上記表1および表2、ならびに図8に示すように、プラス吐出、マイナス吐出、およびプラスマイナス吐出ができたのは、カルボキシ基および/またはヒドロキシル基を有する成分であった。なお、極性が低く導電性の低い溶媒(ハロゲン化物系溶媒やエステル類、エーテル系溶媒)は、いずれもプラス吐出およびマイナス吐出のいずれもが不可能であった。本実験の条件(例えば1kHzの比較的高周波)で安定的な吐出をするには、導電率が1×10-5S/m以上であることが好ましいと言える。
【0057】
ここで、上記表1および表2に示すように、プラス吐出ができても、マイナス吐出ができない有機溶媒があることが明らかとなった。一方で、マイナス吐出のみできたがプラス吐出ができない成分はなかった。この結果について、以下のような考察を行った。
【0058】
(2)考察
・考察1
まず、プラス吐出とマイナス吐出に差が出た理由は、電子乖離および電子注入という概念で説明できると考えられる。
図9Aにプラス吐出の場合の模式図を示し、図9Bにマイナス吐出の場合の模式図を示す。プラス吐出の場合、上述の図4Bのように、ノズル12(吐出電極13)と対向電極50の間に電位差が生じると、吐出電極13側にインクの電荷(電子)が移動する。これにより、図9Aに示すように、吐出電極13側に存在する(有機溶媒)分子で電子乖離が生じる。次に電子が不足して不安定になった分子が近傍の分子から電子を乖離し、同様に電子が不足して不安定になった分子が近傍の分子から電子を乖離する。これが繰り返されることで、インク先端にプラスに帯電(正帯電)した分子集中的に残る。つまり、プラス吐出の場合、電子乖離によって、インク先端にプラスの電荷が集まると考えられる。
【0059】
一方、マイナス吐出の場合、吐出電極13が負側になるようにズル12(吐出電極13)と対向電極50の間に電位差が生じると、吐出電極13近傍の(有機溶媒)分子に対して電子注入がなされる。続いて、電子が注入されてして不安定になった分子から近傍の分子に電子注入がなされる。同様に電子が注入されて不安定になった分子から近傍の分子に電子が注入されることが繰り返され、インク先端にマイナスに帯電(負帯電)した分子が残る。つまり、電子注入によって、インク先端にマイナスの電荷が集まると考えられる。
【0060】
ここで、電子乖離および電子注入は生じやすさが格段に異なり、電子注入は電子乖離と比較して生じづらい。すなわち、電子注入に必要なエネルギーは、電子乖離に必要なエネルギーよりも大きい。有機溶媒について具体的な数値は明らかでないが、例えば半導体材料では、電子注入に必要なエネルギーは、数十ミリ電子ボルト(meV)から数百メガ電子ボルト(MeV)までの範囲になることがある。一方、電子乖離に必要なエネルギーは、数エレクトロンボルト(eV)から数十エレクトロンボルト(eV)までの範囲になる。このように、電子乖離と電子注入の行われやすさの違いが、先端側を正帯電させたインクについて、先端側を負帯電させたインクよりも安定的に吐出できた要因と考えられる。
【0061】
なおこの時、インクおよび対向電極50は非接触であり、インクおよび吐出電極13は接触していることが重要である。すなわち、インクと対向電極50との間は絶縁されており、インクと吐出電極13との間は通電している。それにより、吐出電極13を通じて電子が移動するために上記現象が発生する。
【0062】
ここで、対向電極50と絶縁されたインクと吐出電極13との関係においても、プラス吐出とマイナス吐出の難易度の差を考察することができる。すなわち、プラス吐出の場合はインクから吐出電極13を通じて電子を逃がすことになるので、比較的容易にその現象が起きる。これに対して、マイナス吐出の場合は吐出電極13を通じてインクに電子を注入する必要がある。インクの先端は絶縁であり、電子としては行止りのような状態となっているため、電子注入は比較的現象が生じづらい。すなわちより多くのエネルギーを要するといえる。
【0063】
次に、マイナス吐出しやすかった有機溶媒(インク)とマイナス吐出し難かった有機溶媒(インク)との違いについて考察する。
前述した電子の動きに沿って考えると、マイナス吐出しやすいインクは、電子を注入しやすいインクと考えることができる。すなわち、プロトンを放出しやすいインクはマイナス吐出しやすいと考えることができる。
【0064】
ここで、ブレンステッド・ローリーの定義による酸性(以下、単に「酸性」とも称する)に相当する分子はプロトンを放出しやすいのに対して、ブレンステッド・ローリーの定義による塩基性(以下、単に「塩基性」とも称する)に相当する分子はプロトンを受け取りはするが、その放出はし難い。そのため、塩基性の成分(例えば非プロトン性溶媒)を含むインクよりも酸性の成分(例えばプロトン性極性溶媒)を含むインクの方が、マイナス吐出しやすいと考えられる。上述の結果を見ると、カルボキシル基を含む酢酸などのプロトン性極性溶媒ではマイナス吐出が可能であるのに対し、ヘテロ環や硫黄系基を有する非プロトン性極性溶媒を含むインクはどれもマイナス吐出できていない。また、プロトン性極性溶媒の一種である、プロトン放出に対して中間特性を示すヒドロキシル基を含むインクについてもマイナス吐出が可能である。よって、プロトン放出に対して中間特性を有する、もしくはプロトンを放出しやすい有機溶媒については、マイナス吐出が行いやすい。言い換えれば、pKa値が18以下であるインクについては、マイナス吐出が行いやすい。したがって、上述の試験結果にも表れているように、少なくともカルボキシル基および/またはヒドロキシル基を有する有機溶媒を含むインクであれば、マイナス吐出が行いやすいといえる。
【0065】
なお、前述のようにインクの先端が絶縁されているために電子が飽和状態となって注入がされづらいという観点からも、少なくともカルボキシル基および/またはヒドロキシル基を有する成分(有機溶媒)を含むインクが好ましい。インクがこのような成分を含むと、プロトンを放出することによって、電子が注入される道を作るため、マイナス吐出を行いやすいと捉えることができる。すなわち、プラス吐出においては、インクから吐出電極に向かって電子が移動するため、吐出電極を通じて電子が放出されやすい。これに対し、通常のインクのマイナス吐出においては電子が吐出電極からインクに向かって移動しようとするものの、インクから対向電極に向かって電子が移動することが出来ず、電子が飽和状態となってインクに電子が注入されづらい。一方、プロトン放出性の高いカルボキシル基および/またはヒドロキシル基を有する有機溶媒を含むインクであれば、プロトンを放出することで電子注入を促進できるため、マイナス吐出が行いやすいといえる。
【0066】
次に、プラスマイナス吐出しやすいインクについても検討する。
プラスマイナスで吐出できるためには、プラス吐出およびマイナス吐出の両方が可能であることが必要条件となる。上述のように、マイナス吐出のみできたがプラス吐出ができない成分はなかった。したがって、上記表1および表2にも示されるように、カルボキシル基またはヒドロキシル基を有する有機溶媒を含むインクであれば、プラスマイナス吐出が可能である。
【0067】
・考察2
インクの先端にプラス電荷またはマイナス電荷が集約する理由は、以下の分子泳動でも説明できると考えられる。図10Aにプラス吐出の場合の模式図を示し、図10Bにマイナス吐出の場合の模式図を示す。
【0068】
プラス吐出の場合、図10Aに示すように、まず吐出電極13近傍の(有機溶媒)分子で電子乖離が生じる。そして、電子乖離されてマイナス電荷を帯びた分子がインク先端に泳動することでインク先端にプラス電荷が集約するとも考えられる。
一方マイナス吐出の場合、図10Bに示すように、吐出電極13近傍の(有機溶媒)分子で電子注入が生じる。そして、電子注入されてマイナス電荷を帯びた分子がインク先端に泳動することでインク先端にマイナス電荷が集約するとも考えられる。
【0069】
上述の考察1(図9Aおよび図9B)で述べた電子の帰納的な移動モデルと、図10Aおよび図10Bに示す分子泳動モデルのどちらにおいても、電子乖離と電子注入の行われやすさとの違いが、先端側を正帯電させたインクが先端側を負帯電させたインクよりも安定的に吐出しやすい要因である。つまり、電子注入の行われやすさによってマイナス吐出の行われやすさが決まると考えられ、試験結果と整合する。
【0070】
・考察3
インクの先端にプラス電荷またはマイナス電荷が集約する理由として、インク中の分子の誘電分極が要因とも考えられる。図11Aにプラス吐出の場合の模式図を示し、図110Bにマイナス吐出の場合の模式図を示す。
【0071】
プラス吐出の場合、吐出電極13に正電圧を印加したり、対向電極50に負電圧を印加したりすることで、インク内の(有機溶媒)分子に誘電分極が生じるとも考えられる(図11A)。マイナス吐出の場合にも同様に、吐出電極13に負電圧を印加したり、対向電極50に正電圧を印加したりすることで、インク内の(有機溶媒)分子に誘電分極が生じるとも考えられる(図11Aおよび図11B)。ただし、当該誘電分極モデルでは、プラス吐出の場合と、マイナス吐出の場合とに、差が出る理由を説明できず、上述の試験結果と整合しない。
したがって、上述のインクジェット装置100によるインクの吐出において、誘電分極は生じてはいても、プラス吐出およびマイナス吐出の行われやすさには、誘電分極が大きく影響していないと考えられる。
【0072】
・インクと静電吸引型インクジェット装置との関係
上述のようにカルボキシル基および/またはヒドロキル基を有する有機溶媒(プロトン性極性溶媒)を含むインクは、上述のインクジェット装置100によって吐出しやすく、例えば先端側を正帯電させたインクだけでなく、先端側を負帯電させたインクも吐出しやすく、さらには、先端側を正帯電させたインク、および先端側を負帯電させたインクを交互に吐出する場合などにも安定してインクを吐出できる。また、このようなインクは、ノズル内径が25μm以上などといった、比較的大きな径を有するノズルを用いた場合にも吐出が可能であるという効果を発揮する。以下にその理由を説明する。
【0073】
上述のインクジェット装置100において、吐出電極13および対向電極50に電圧を印加した状態における、インクの電荷分布の概念図を図12に示す。例えば図12に示す状態では、メニスカス先端部の正電荷と対向電極50の負電荷との間に、クーロン力が発生する。メニスカス先端部の正電荷をQ1、対向電極50の負電荷をQ2、メニスカス先端部と対向電極50の距離をrとすると、クーロン力F1は以下の式(1)で与えられる。
F1=(K*(Q1*Q2))/r2 (1)
なお、Kは比例乗数である。
【0074】
またこの場合、単位長さあたりの電位差であるノズル先端部における集中電界強度Eloc(V/m)によるクーロン力F2も発生する。
F2=Q3・Eloc (2)
なお、Q3は液体に掛かる電荷、Elocはノズル先端部における集中電界強度である。ノズル先端部における集中電界強度Elocは、先端部の曲率半径をRと仮定すると、Eloc=V0/kで与えられる。V0はノズルに印加する総電圧である。ここで、kは、ノズル形状などに依存する比例定数であり、1.5~8.5程度の値を取るが、多くの場合5程度と考えられる。また、先端部の曲率半径Rは、インクへの背圧のかけ方等で変動するが、概ねノズル外径の半分と過程することができる。
【0075】
また、吐出電極と対向電極にかかる電圧および各電極間の相互距離で定まる電界強度Eに応じて、マクスウェル応力f2がかかる。
f2=1/2・ε0・E (3)
なお、ε0は真空誘電率(F/m)である。
このマクスウェル応力により、インクのメニスカス形状が円錐状(テイラーコーン)に変形しその中心から糸引き上に細いインク柱(ジェット)となって引き出される現象が発生する。
【0076】
なお、式(2)で示すクーロン力F2の影響が、式(3)に示すマクスウェル応力f2よりも相対的に大きい場合等に、テイラーコーンが生じずにノズル内径またはノズル外径と同等サイズの液滴が吐出される場合がある(以下、「ドリップモード」とも称する)。すなわち、吐出電極13にかかる電圧が大きい場合、およびノズル12の内径が小さい場合、テイラーコーンモードではなくドリップモードになり易い。
【0077】
ここで、例えば10μm等の小径ノズルを用いた場合、上記式(1)および式(2)で示すクーロン力の影響が、式(3)に示すマクスウェル応力よりも相対的に大きくなる。式(3)に示すマクスウェル応力にてインクを吸引する現象においては、インク先端部での電荷集中度の影響が非常に大きいが、式(1)(2)で示すクーロン力においては、インク先端部への電荷集中度の影響は相対的に低下する。すなわち、式(1)および(2)で示すクーロン力の影響が大きい場合には、上記考察1で述べたような電子の移動が十分に生じなくてもインクを吐出できる場合がある。
【0078】
一方で、例えば内径25μm以上の大ノズルを用いて吐出をする場合、式(3)に示マクスウェル応力を活かしてテイラーコーンを形成してインクを吐出することが、小滴吐出をするために必要である。マクスウェル応力を活かしてテイラーコーンを形成してインクを吐出するためには、インクの先端部にプラスまたはマイナスの電荷を高密度に集合させることが重要となり、電子またはプロトンの移動が高速に行われる必要がある。これに対し、カルボキシル基および/またはヒドロキシル基を含むプロトン性極性溶媒を用いると、正帯電の場合も負帯電の場合も電荷を先端部に十分に先端に集中させることができる。つまり、マクスウェル応力を活かしてテイラーコーンを形成してインクを吐出することができ、本開示のインクによれば、例えば25μm以上の大ノズルを用いて小滴吐出をすることが可能となる。
【0079】
また、上述の図4A図4Fを用いて説明したように、パルス電圧を低下させて、保持力(ノズル12による吸引力)を低下させることによりノズル12からインクを吐出させる制御を行うインクジェット装置100では、これに用いるインクが本開示のように、カルボキシル基および/またはヒドロキシル基を含む成分(プロトン性極性溶媒)を含むと、特に吐出しやすい。
【0080】
吐出電極13に対して電圧印加中に、電荷による保持力をインクに発生させるためには、メニスカス先端側のインクと吐出電極13近傍のインクとを反対符号の電荷を有するようにする必要がある。より具体的には、これらの間で吸引しあうクーロン力を生じさせる必要がある。したがって、考察1で説明したような、電子乖離または電子注入によって先端部への電荷集中を十分に行う必要がある。メニスカス先端部への電荷集中が不十分な場合、反対符号の電荷間で吸引しあうクーロン力による保持力が十分に発生せず、印加パルスに対してパルス終端近傍ではなく成行のタイミングでインクが吐出される。そのため、印加タイミングを精密にコントロールすることが困難となり、着弾精度が低下する。一方で上記のようにカルボキシル基および/またはヒドロキシル基を含む成分(プロトン性極性溶媒など)を含むインクを用いることで、正電荷の場合も負電荷の場合もメニスカス先端部への電荷集中を十分に行われる。したがって、電荷間の吸引力による保持力を活用して吐出タイミングを精密に制御することが可能となる。
【0081】
なお上述のように、プラス吐出とマイナス吐出では、吐出するための電子の動きが異なる。プラス吐出においては、電子が吐出電極を通じて比較的自由に移動できるため、インク先端への電荷の集中度を正確に制御することが比較的困難となる。すなわち、電荷が集中しすぎる問題が生じやすく、それによってメニスカスの脈動が生じたり、インクが斜めに飛ぶといった吐出不良モードに陥りやすい。プラス吐出においても、電圧や印加時間等のパラメータを調整することで上記吐出不良を生じさせずに吐出させることは可能であるが、その状態を維持して長期安定的に吐出させる吐出安定性の観点で、マイナス吐出させることが望ましい。
【0082】
(3)好適なインクについて
以上の検証と考察を踏まえると、プラス吐出だけでなく、マイナス吐出や、プラスマイナス吐出を安定して行うためには、インクがカルボキシル基および/またはヒドロキシル基を有する必要がある。当該インクには、カルボキシル基および/またはヒドロキル基を含む成分を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。なお、本開示の目的および効果を損なわない範囲で、インクは、上記特定の有機溶媒以外の溶媒をさらに含んでいてもよい。また、本開示のインクの固形分濃度や粘度は、インクの所望の用途に応じて適宜選択されるが、インクの粘度は数mPa・sから数万mPa・s程度であることが好ましい。
【0083】
ここで、本開示のインクに使用可能な、カルボキシル基を有する有機溶媒の例には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、オクチル酸などのカルボン酸類;ジクロロ酢酸、ジフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸などのハロゲン化カルボン酸類;が含まれる。
【0084】
また、本開示のインクに使用可能なヒドロキシル基を有する成分の例には、1価アルコール、多価アルコール、グリコールエーテルなどの有機溶媒や、水が含まれる。
【0085】
1価アルコールの例には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、tert-ブチルアルコール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、イソアミルアルコール、tert-アミルアルコール、3-メチル-2-ブタノール、シクロペンタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、3-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-1-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-メチル-3-ペンタノール、3-メチル-3-ペンタノール、2,2-ジメチル-1-ブタノール、2,3-ジメチル-1-ブタノール、2,3-ジメチル-2-ブタノール、3,3-ジメチル-2-ブタノール、2-エチル-1-ブタノール、シクロヘキサノール、1-メチルシクロペンタノール、2-メチルシクロペンタノール、3-メチルシクロペンタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、4-ヘプタノール、2-メチル-1-ヘキサノール、2-メチル-2-ヘキサノール、2-メチル-3-ヘキサノール、5-メチル-3-ヘキサノール、5-メチル-2-ヘキサノール、5-メチル-1-ヘキサノール、4-メチル-1-ヘキサノール、4-メチル-2-ヘキサノール、4-メチル-3-ヘキサノール、3-メチル-3-ヘキサノール、3-メチル-2-ヘキサノール、3-メチル-1-ヘキサノール、2,3-ジメチル-1-ペンタノール、2,3-ジメチル-2-ペンタノール、2,3-ジメチル-3-ペンタノール、3,4-ジメチル-2-ペンタノール、3,4-ジメチル-1-ペンタノール、2,4-ジメチル-1-ペンタノール、2,4-ジメチル-2-ペンタノール、2,4-ジメチル-3-ペンタノール、2,2-ジメチル-1-ペンタノール、2,2-ジメチル-3-ペンタノール、4,4-ジメチル-2-ペンタノール、4,4-ジメチル-1-ペンタノール、3,3-ジメチル-1-ペンタノール、3,3-ジメチル-2-ペンタノール、3-エチル-1-ペンタノール、3-エチル-2-ペンタノール、3-エチル-3-ペンタノール、2,2,3-トリメチル-1-ブタノール、2,3,3-トリメチル-2-ブタノール、2,3,3-トリメチル-1-ブタノール、シクロヘプタノール、1-メチルシクロヘキサノール、2-メチルシクロヘキサノール、3-メチルシクロヘキサノール、4-メチルシクロヘキサノール、シクロヘキサンメタノール、1-オクタノール、2-オクタノール、3-オクタノール、4-オクタノール、2-メチル-1-ヘプタノール、2-メチル-2-ヘプタノール、2-メチル-3-ヘプタノール、2-メチル-4-ヘプタノール、6-メチル-3-ヘプタノール、6-メチル-2-ヘプタノール、6-メチル-1-ヘプタノール、3-メチル-1-ヘプタノール、3-メチル-2-ヘプタノール、3-メチル-3-ヘプタノール、3-メチル-4-ヘプタノール、5-メチル-3-ヘプタノール、5-メチル-2-ヘプタノール、5-メチル-1-ヘプタノール、4-メチル-1-ヘプタノール、4-メチル-2-ヘプタノール、4-メチル-3-ヘプタノール、4-メチル-4-ヘプタノール、3-エチル-1-ヘキサノール、3-エチル-2-ヘキサノール、3-エチル-3-ヘキサノール、4-エチル-3-ヘキサノール、4-エチル-2-ヘキサノール、4-エチル-1-ヘキサノール、2,2-ジメチル-1-ヘキサノール、2,2-ジメチル-3-ヘキサノール、5,5-ジメチル-3-ヘキサノール、5,5-ジメチル-2-ヘキサノール、5,5-ジメチル-1-ヘキサノール、2,3-ジメチル-1-ヘキサノール、2,3-ジメチル-2-ヘキサノール、2,3-ジメチル-3-ヘキサノール、4,5-ジメチル-3-ヘキサノール、4,5-ジメチル-2-ヘキサノール、4,5-ジメチル-1-ヘキサノール、2,4-ジメチル-1-ヘキサノール、2,4-ジメチル-2-ヘキサノール、2,4-ジメチル-3-ヘキサノール、3,5-ジメチル-3-ヘキサノール、3,5-ジメチル-2-ヘキサノール、3,5-ジメチル-1-ヘキサノール、2,5-ジメチル-1-ヘキサノール、2,5-ジメチル-2-ヘキサノール、2,5-ジメチル-3-ヘキサノール、3,3-ジメチル-1-ヘキサノール、3,3-ジメチル-2-ヘキサノール、4,4-ジメチル-3-ヘキサノール、4,4-ジメチル-2-ヘキサノール、4,4-ジメチル-1-ヘキサノール、3,4-ジメチル-1-ヘキサノール、3,4-ジメチル-2-ヘキサノール、3,4-ジメチル-3-ヘキサノール、3-エチル-2-メチル-1-ペンタノール、3-エチル-2-メチル-2-ペンタノール、3-エチル-2-メチル-1-ペンタノール、3-エチル-2-メチル-2-ペンタノール、3-エチル-2-メチル-3-ペンタノール、3-エチル-4-メチル-2-ペンタノール、3-エチル-4-メチル-1-ペンタノール、3-エチル-3-メチル-1-ペンタノール、3-エチル-3-メチル-2-ペンタノール、2,2,3-トリメチル-1-ペンタノール、2,2,3-トリメチル-3-ペンタノール、3,4,4-トリメチル-2-ペンタノール、3,4,4-トリメチル-1-ペンタノール、2,2,4-トリメチル-1-ペンタノール、2,2,4-トリメチル-3-ペンタノール、2,4,4-トリメチル-2-ペンタノール、2,4,4-トリメチル-1-ペンタノール、2,3,3-トリメチル-1-ペンタノール、2,3,3-トリメチル-2-ペンタノール、3,3,4-トリメチル-2-ペンタノール、3,3,4-トリメチル-1-ペンタノール、2,3,4-トリメチル-1-ペンタノール、2,3,4-トリメチル-2-ペンタノール、2,3,4-トリメチル-3-ペンタノール、2,2,3,3-テトラメチル-1-ブタノール、1-メチルシクロヘプタノール、2-メチルシクロヘプタノール、3-メチルシクロヘプタノール、4-メチルシクロヘプタノール、2,6-ジメチルシクロヘキサノール、2,5-ジメチルシクロヘキサノール、2,4-ジメチルシクロヘキサノール、2,3-ジメチルシクロヘキサノール、2,2-ジメチルシクロヘキサノール、3,3-ジメチルシクロヘキサノール、3,4-ジメチルシクロヘキサノール、4,4-ジメチルシクロヘキサノール、1,2-ジメチルシクロヘキサノール、1,3-ジメチルシクロヘキサノール、1,4-ジメチルシクロヘキサノール、1-エチルシクロヘキサノール、2-エチルシクロヘキサノール、3-エチルシクロヘキサノール、4-エチルシクロヘキサノール、1-ノナノール、2-ノナノール、3-ノナノール、4-ノナノール、5-ノナノール、2-メチル-1-オクタノール、2-メチル-2-オクタノール、2-メチル-3-オクタノール、2-メチル-4-オクタノール、7-メチル-4-オクタノール、7-メチル-3-オクタノール、7-メチル-2-オクタノール、7-メチル-1-オクタノール、3-メチル-1-オクタノール、3-メチル-2-オクタノール、3-メチル-3-オクタノール、3-メチル-4-オクタノール、6-メチル-4-オクタノール、6-メチル-3-オクタノール、6-メチル-2-オクタノール、6-メチル-1-オクタノール、5-メチル-1-オクタノール、5-メチル-2-オクタノール、5-メチル-3-オクタノール、5-メチル-1-オクタノール、4-メチル-4-オクタノール、4-メチル-3-オクタノール、4-メチル-2-オクタノール、4-メチル-1-オクタノール、2,2-ジメチル-1-オクタノール、2,2-ジメチル-3-オクタノール、2,2-ジメチル-3-オクタノール、2,2-ジメチル-4-オクタノール、6,6-ジメチル-4-オクタノール、6,6-ジメチル-3-オクタノール、6,6-ジメチル-2-オクタノール、6,6-ジメチル-1-オクタノール、2,3-ジメチル-1-オクタノール、2,3-ジメチル-2-オクタノール、2,3-ジメチル-3-オクタノール、2,3-ジメチル-4-オクタノール、5,6-ジメチル-4-オクタノール、5,6-ジメチル-3-オクタノール、5,6-ジメチル-2-オクタノール、5,6-ジメチル-1-オクタノール、2,4-ジメチル-1-オクタノール、2,4-ジメチル-2-オクタノール、2,4-ジメチル-3-オクタノール、2,4-ジメチル-4-オクタノール、4,6-ジメチル-3-オクタノール、4,6-ジメチル-2-オクタノール、4,6-ジメチル-1-オクタノール、2,5-ジメチル-1-オクタノール、2,5-ジメチル-2-オクタノール、2,5-ジメチル-3-オクタノール、2,5-ジメチル-4-オクタノール、3,6-ジメチル-3-オクタノール、3,6-ジメチル-2-オクタノール、3,6-ジメチル-1-オクタノール、2,6-ジメチル-1-オクタノール、2,6-ジメチル-2-オクタノール、2,6-ジメチル-3-オクタノール、2,6-ジメチル-4-オクタノール、1-デカノール、2-デカノール、3-デカノール、4-デカノール、5-デカノール、イソデシルアルコールなどが含まれる。
【0086】
多価アルコールの例には、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、グリセリンなどが含まれる。
【0087】
グリコールエーテルの例には、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノペンチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテルなどのエチレングリコールエーテル類;
プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノペンチルエーテル、プロピレングリコールモノヘキシルエーテルなどのプロピレングリコールエーテル類;
ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテルなどジエチレングリコールエーテル類;
ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノペンチルエーテル、ジプロピレングリコールモノヘキシルエーテルなどのジプロピレングリコールエーテル類;
トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノペンチルエーテル、トリエチレングリコールモノヘキシルエーテルなどのトリエチレングリコールエーテル類;
トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノペンチルエーテル、トリプロピレングリコールモノヘキシルエーテル、などのプロピレングリコールエーテル類などが含まれる。
【0088】
ここで、カルボキシル基および/またはヒドロキシル基を有する成分の中でも、プラスマイナス吐出しやすいなどの観点で、酢酸、2,3-ブタンジオール、エタノール、オクタノール、2-イソプロポキシエタノール、2-(2-n-ブトキシエトキシ)エタノール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテルが特に好ましい。
【0089】
また、上記カルボキシ基および/またはヒドロキシル基を含む成分として水を用いる場合、当該インクの表面張力が高くなりやすく、有機溶媒を含むインクと比較して高い電圧をかけてインクを吐出させる必要があるが、電圧条件などはインクに合わせて適宜調整すれば良い。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本開示は、静電吸引型のインクジェット装置に用いるインクとして有用である。
【符号の説明】
【0091】
100、110 インクジェット装置
10 インクジェットヘッド
11 リザーバ
12 ノズル
12A ノズル孔
13 吐出電極
14 ノズルプレート
15 切替部
16 第1電圧生成部
20 インクタンク
30 ステージ
40 制御部
50 対向電極
60 第2電圧生成部
70 電圧制御部
80 ストロボ
90 カメラ
200 被印刷媒体
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