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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173304
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】ガスセンサ素子
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20241205BHJP
   G01N 27/41 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/41 325Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091640
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼田 尚希
(72)【発明者】
【氏名】宮川 豪
(57)【要約】
【課題】被測定ガス中の所定ガスの検出精度に優れたガスセンサ素子を提供する。
【解決手段】被測定ガス室14と基準ガス室15と固体電解質体2と基準電極3Rとポンプ電極3Pとセンサ電極3Cとを備えるガスセンサ素子1である。ポンプ電極3P及びセンサ電極3Cは、貴金属成分が塊状となった貴金属領域と、固体電解質が塊状となった固体電解質領域と、貴金属成分と固体電解質とが入り混じって分布する混在領域と、気孔とを有する。ポンプ電極3Pでは、混在領域がセンサ電極3Cよりも多く存在している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス導入部(19)より被測定ガス(G1)が導入される被測定ガス室(14)と、
基準ガス(G0)が導入される基準ガス室(15)と、
上記被測定ガス室と上記基準ガス室との間に配置され、上記被測定ガス室に面する第1主面(21)と、上記基準ガス室に面する第2主面(22)とを有し、酸素イオン伝導性を有する固体電解質体(2)と、
上記固体電解質体の上記第2主面に形成された基準電極(3R)と、
上記固体電解質体の上記第1主面に形成され、上記基準電極と上記固体電解質体の一部(2P)とともに上記被測定ガス中の酸素濃度を調整するポンプセル(10P)を構成するポンプ電極(3P)と、
上記固体電解質体の上記第1主面に形成され、上記基準電極と上記固体電解質体の一部(2C)とともに、上記ポンプセルによって酸素の濃度が調整された上記被測定ガス中の所定ガス成分の濃度に応じた信号を出力するセンサセル(10C)を構成するセンサ電極(3C)と、を備え、
上記ポンプ電極及び上記センサ電極は、貴金属成分が塊状となった貴金属領域(31P、31C)と、固体電解質が塊状となった固体電解質領域(32P、32C)と、貴金属成分と固体電解質とが入り混じって分布する混在領域(33P、33C)と、気孔(34P、34C)とを有し、
上記ポンプ電極では、上記混在領域が上記センサ電極よりも多く存在している、ガスセンサ素子。
【請求項2】
上記ポンプ電極の断面における上記混在領域の面積割合S1と上記センサ電極の断面における上記混在領域の面積割合S2とがS1/S2>1の関係を満足する、請求項1に記載のガスセンサ素子。
【請求項3】
上記ポンプ電極の断面における上記混在領域の面積割合S1と上記センサ電極の断面における上記混在領域の面積割合S2とがS1/S2≧2の関係を満足する、請求項1に記載のガスセンサ素子。
【請求項4】
さらに、上記固体電解質体の上記第1主面に形成され、上記基準電極と上記固体電解質体の一部(2M)とともに、上記ポンプセルによって酸素の濃度が調整された上記被測定ガス中の酸素濃度に応じた信号を出力するモニタセル(10M)を構成するモニタ電極(3M)を備え、
上記モニタ電極は、貴金属成分が塊状となった貴金属領域(31M)と、固体電解質が塊状となった固体電解質領域(32M)と、貴金属成分と固体電解質とが入り混じって分布する混在領域(33M)と、気孔(34M)とを有し、
上記ポンプ電極では、上記混在領域が上記モニタ電極よりも多く形成されている、請求項1又は2に記載のガスセンサ素子。
【請求項5】
上記ポンプ電極の断面における上記混在領域の面積割合S1と上記モニタ電極の断面における上記混在領域の面積割合S3とがS1/S3>1の関係を満足する、請求項4に記載のガスセンサ素子。
【請求項6】
上記ポンプ電極の断面における上記混在領域の面積割合S1と上記モニタ電極の断面における上記混在領域の面積割合S3とがS1/S3≧2の関係を満足する、請求項4に記載のガスセンサ素子。
【請求項7】
上記センサ電極の断面における上記混在領域の面積割合S2と上記モニタ電極の断面における上記混在領域の面積割合S3とが1/10×S3<S2<10×S3の関係を満足する、請求項4に記載のガスセンサ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスセンサは、被測定ガス中の特定ガス(例えば窒素酸化物)の濃度を測定するために用いられる。ガスセンサにはガスセンサ素子が内蔵されている。ガスセンサ素子は、センサセルを有し、センサセルは、酸素イオン伝導性の固体電解質体と、センサ電極と、基準電極とから構成される。
【0003】
ガスセンサ素子には、センサセルの他にポンプセルを備えるものがある(特許文献1参照)。ポンプセルはポンプ電極と固体電解質体と基準電極とから構成され、ポンプ電極では被測定ガス中の酸素が酸素イオンとして基準電極側から排出される。そのため、ポンプセルを備えるガスセンサ素子では、センサセルでの被測定ガス中の所定ガスの検出精度が向上するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-20838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポンプセルを有するガスセンサ素子では、ポンプセルでの酸素排出能を高め、センサセルでの被測定ガス中の残留酸素を低減することが求められる。ポンプセルでの酸素排出能は、ポンプ電極を構成する貴金属と固体電解質とがナノレベルで三次元的に相互に入り組んで混在して存在する混在領域の面積に依存する。つまり、ポンプ電極における混在領域の面積をコントロールすることより、センサ電極での残留酸素を少なくし、残留酸素によるセンサ出力の影響を低減することができる。
【0006】
従来のガスセンサ素子では、ポンプセルでの酸素分解能力よりもセンサセルでの酸素分解能力が高くなることがあった。その結果、センサ電極に多くの残留酸素が漏れ出し、残留酸素がセンサ出力に悪影響を及ぼすため、検出精度が低下するおそれがあった。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、被測定ガス中の所定ガスの検出精度に優れたガスセンサ素子を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、ガス導入部(19)より被測定ガス(G1)が導入される被測定ガス室(14)と、
基準ガス(G0)が導入される基準ガス室(15)と、
上記被測定ガス室と上記基準ガス室との間に配置され、上記被測定ガス室に面する第1主面(21)と、上記基準ガス室に面する第2主面(22)とを有し、酸素イオン伝導性を有する固体電解質体(2)と、
上記固体電解質体の上記第2主面に形成された基準電極(3R)と、
上記固体電解質体の上記第1主面に形成され、上記基準電極と上記固体電解質体の一部(2P)とともに上記被測定ガス中の酸素濃度を調整するポンプセル(10P)を構成するポンプ電極(3P)と、
上記固体電解質体の上記第1主面に形成され、上記基準電極と上記固体電解質体の一部(2C)とともに、上記ポンプセルによって酸素の濃度が調整された上記被測定ガス中の所定ガス成分の濃度に応じた信号を出力するセンサセル(10C)を構成するセンサ電極(3C)と、を備え、
上記ポンプ電極及び上記センサ電極は、貴金属成分が塊状となった貴金属領域(31P、31C)と、固体電解質が塊状となった固体電解質領域(32P、32C)と、貴金属成分と固体電解質とが入り混じって分布する混在領域(33P、33C)と、気孔(34P、34C)とを有し、
上記ポンプ電極では、上記混在領域が上記センサ電極よりも多く存在している、ガスセンサ素子にある。
【発明の効果】
【0009】
上記態様のガスセンサ素子では、ポンプ電極の混在領域がセンサ電極よりも多く存在している。そのため、ポンプ電極では被測定ガスの酸素濃度が十分に低減され、センサ電極への酸素の漏出が十分に抑制される。また、センサ電極での漏出酸素の影響を小さくすることができる。その結果、センサ電極では、所定ガスの濃度に応じた信号が精度よく出力され、ガスセンサ素子の検出精度が向上する。
【0010】
以上のごとく、上記態様によれば、被測定ガス中の所定ガスの検出精度に優れたガスセンサ素子を提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態1のガスセンサ素子の断面模式図である。
図2図2は、図1におけるII-II線矢視断面図である。
図3図3は、図1におけるIII-III線矢視断面図である。
図4図4(a)は、実施形態1のガスセンサ素子における被測定ガス室に面する電極と固体電解質体との当接部分の断面模式図であり、図4(b)は、図4(a)におけるIVb領域の拡大模式図である。
図5図5(a)は、実施形態1の電極のSEM写真(倍率10000倍)であり、図5(b)は、図5(a)の部分拡大図(倍率100000倍)である。
図6図6は、実施形態2のガスセンサ素子の第1主面の模式図である。
図7図7は、実施形態2のガスセンサ素子の長手方向と直交方向の面での断面模式図である。
図8図8は、実施形態3のガスセンサの断面模式図である。
図9図9(a)は、実験例1及び2における各電極表面での混在領域の存在割合(具体的には面積割合)の測定領域を示す説明図であり、図9(b)は、図9(a)のb-b線矢視断面図であり、図9(c)は、図9(a)のc-c線矢視断面図である。
図10図10は、実験例1及び2における混在領域を示す説明図である。
図11図11は、センサ電極の混在領域の面積割合S2に対するポンプ電極の混在領域の面積割合S1の比S1/S2と、酸素電流割合I/Iとの関係を示すグラフである。
図12図12は、モニタ電極の混在領域の面積割合S3に対するセンサ電極の混在領域の面積割合S2の比S1/S2と、センサ出力に対するノイズ比率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態1)
ガスセンサ素子に係る実施形態について、図1図5を参照して説明する。
図1図3に示すように、ガスセンサ素子1は、被測定ガス室14と基準ガス室15と固体電解質体2と基準電極3Rとポンプ電極3Pとセンサ電極3Cとを有する。
【0013】
被測定ガス室14は、ガス導入部19より被測定ガスG1が導入される空間である。基準ガス室15は、基準ガスG0が導入される空間である。固体電解質体2は、被測定ガス室14と基準ガス室15との間に配置される。固体電解質体2は、酸素イオン伝導性を有し、第1主面21と第2主面22とを有する。第1主面21は、被測定ガス室14に面し、第2主面22は、基準ガス室15に面する。
【0014】
基準電極3Rは、固体電解質体2の第2主面22に形成される。ポンプ電極3Pは、固体電解質体2の第1主面21に形成される。ポンプ電極3Pは、基準電極3Rと固体電解質体の一部2Pとともに被測定ガスG1中の酸素濃度を調整するポンプセル10Pを構成する。
【0015】
センサ電極3Cは、固体電解質体2の第1主面21に形成される。センサ電極3Cは、基準電極3Rと固体電解質体の一部2Cとともに、ポンプセル10Pによって酸素の濃度が調整された被測定ガスG1中の所定ガス成分の濃度に応じた信号を出力するセンサセル10Cを構成する。
【0016】
図4(a)、図4(b)、図5(a)、図5(b)に示すごとく、ポンプ電極3P及びセンサ電極3Cは、貴金属領域31P、31Cと固体電解質領域32P、32Cと混在領域33P、33Cと気孔34P、34Cとを有する。貴金属領域31P、31Cは、貴金属成分が塊状となった領域であり、固体電解質領域32P、32Cは、固体電解質が塊状となった領域である。混在領域33P、33Cは、貴金属成分と固体電解質とが入り混じって分布する領域である。ポンプ電極3Pにはセンサ電極3Cよりも混在領域が多く存在している。以下に、本形態のガスセンサ素子1について詳説する。
【0017】
図1図3に示すごとく、ガスセンサ素子1は、被測定ガスG1中の所定ガス濃度の検出に用いられる。被測定ガスG1は、例えば、酸素及び検出対象となる所定ガスを少なくとも含むガスである。被測定ガスG1としては排ガスが挙げられ、所定ガスとしてはNOxが挙げられる。固体電解質体2は、酸素イオン伝導性を有するセラミックスからなる。このようなセラミックスとしては、例えばジルコニア、イットリア、イットリア安定化ジルコニア(すなわち、YSZ)などが使用される。好ましくはYSZがよい。
【0018】
被測定ガス室14は、絶縁体11と第1スペーサ12と固体電解質体2とに囲われた空間である。被測定ガス室14には、内部に被測定ガスG1を導入するためのガス導入部19が形成されている。ガス導入部19には、例えば被測定ガスG1の流入速度を制限するための拡散層192を設けることができる。また、ガス導入部19には、被測定ガスG1中に含まれる被毒物質をトラップするためのトラップ層を設けることができる。トラップ層の図示は省略する。拡散層、トラップ層は、例えばアルミナ等のセラミックスから構成される多孔体からなる。図1に示すように、ガスセンサ素子1は、例えば、長尺の板状であり、ガス導入部19は、長手方向の一端に形成される。
【0019】
ガスセンサ素子1は、ヒータ5を備えることができる。基準ガス室15は、例えばヒータ5と第2スペーサ13とに囲まれた空間から構成される。基準ガス室15は基準電極3Rに面しており、基準ガス室15内には外部から基準ガスG0が導入される。基準ガスG0は例えば大気である。ヒータ5は、2つのセラミック基板51、52と、これらの基板の間に形成された導電体53とによって形成されており、導電体53が通電によって発熱する。第1スペーサ12、絶縁体11、第2スペーサ13、セラミック基板51、52は、アルミナ等のセラミックスからなる。
【0020】
固体電解質体2は板状であり、第1主面21と第2主面22は、固体電解質体2における相互に反対側の面である。図1図2に示すごとく、固体電解質体2の第1主面21には、ポンプ電極3P、センサ電極3Cが形成されている。
【0021】
ポンプ電極3Pは、センサ電極3C及び後述のモニタ電極3Mよりもガス導入部19に近い側(つまり、被測定ガス室14におけるガス流れ方向の上流側)に形成される。ポンプ電極3Pと基準電極3Rとこれらに挟まれる固体電解質体の一部2Pとによって、ポンプセル10Pが形成される。一方、センサ電極3Cは、ポンプ電極3Pよりもガス導入部19から遠い側(つまり、被測定ガス室14におけるガス流れ方向の下流側)に形成される。センサ電極3Cと基準電極3Rとこれらに挟まれる固体電解質体の一部2Cとによって、センサセル10Cが形成される。
【0022】
図2及び図3に示すように、ガスセンサ素子1は、さらに、モニタ電極3Mを有することが好ましい。モニタ電極3Mは、センサ電極3C、ポンプ電極3Pと同様に、固体電解質体2の第1主面21に形成されており、モニタ電極3M、センサ電極3C、ポンプ電極3Pは、被測定ガス室14に面する。モニタ電極3Mは、ガスセンサ素子1の幅方向において例えばセンサ電極3Cに並設される。モニタ電極3Mは、センサ電極3Cと外観上並設されていればよく、モニタ電極3Mとセンサ電極3Cとは長手方向における位置が略同じであればよい。
【0023】
モニタ電極3Mは、基準電極3Rと固体電解質体の一部2Mとともに、ポンプセル10Pによって酸素の濃度が調整された被測定ガスG1中の酸素濃度に応じた信号を出力するモニタセル10Mを構成する。ガスセンサ素子1がモニタ電極3Mを有する場合には、モニタセル10Mとセンサセル10Cとの出力差によって、被測定ガスG1中のNOx等の所定ガスの濃度を補正することができるため、より精度よく所定ガス濃度を測定することができる。センサ電極3C、ポンプ電極3P、及びモニタ電極3Mは、第1主面21上の異なる領域に形成される。
【0024】
一方、固体電解質体2の第2主面22には、基準電極3Rが形成されている。図1及び図3に示すごとく、センサ電極3Cと基準電極3Rとは固体電解質体の一部2Cを挟み、センサ電極3Cと固体電解質体の一部2Cと基準電極3Rとはセンサセル10Cを形成する。また、ポンプ電極3Pと基準電極3Rとは固体電解質体の一部2Pを挟み、ポンプ電極3Pと固体電解質体の一部2Pと基準電極3Rとはポンプセル10Pを形成する。また、モニタ電極3Mと基準電極3Rとは固体電解質体の一部2Mを挟み、モニタ電極3Mと固体電解質体の一部2Mと基準電極3Rとはモニタセル10Mを形成する。
【0025】
図4(a)、図4(b)、図5(a)、図5(b)に示すごとく、ポンプ電極3P及びセンサ電極3Cは、貴金属領域31P、31Cと固体電解質領域32P、32Cと混在領域33P、33Cと気孔34P、34Cとを有する。貴金属領域は、貴金属成分が塊状となった領域であり、固体電解質領域32P、32Cは、固体電解質が塊状となった領域である。混在領域33P、33Cは、貴金属成分と固体電解質とが入り混じって分布する領域である。また、モニタ電極3Mも、ポンプ電極3P及びセンサ電極3Cと同様に、貴金属領域31Mと固体電解質領域32Mと混在領域33Mと気孔34Mとを有することが好ましい。つまり、ポンプ電極3P、センサ電極3C、及びモニタ電極3Mは、貴金属成分が塊状となった貴金属領域31P、31C、31Mと、固体電解質が塊状となった固体電解質領域32P、32C、32Mと、貴金属成分と固体電解質とが入り混じって分布する混在領域33P、33C、33Mと、気孔34P、34C、34Mとを有することが好ましい。気孔34P、34C、34Mは、各電極3P、3C、3Mの外部(具体的には、被測定ガス室14)に連通することが好ましい。この場合には、貴金属領域31P、31C、31Mと固体電解質領域32P、32C、32Mと気孔34P、34C、34M(つまり気相)との三相界面が形成されるため、ポンプ電極3P、モニタ電極3Mでの酸素分解性能や、センサ電極3CでのNOx等の所定ガスの分解性能が向上するため、ガスセンサ素子1の所定ガスの検出精度が向上する。なお、三相界面は、図4(b)における破線丸に囲まれた部分に形成されている。
【0026】
ポンプ電極3P、センサ電極3C、モニタ電極3Mに含まれる固体電解質成分としては、ジルコニア、イットリア、YSZなどが使用される。固体電解質成分としては、好ましくはYSZがよい。また、ポンプ電極3P、センサ電極3C、モニタ電極3Mに含まれる貴金属成分は、Ptからなるか、あるいはPtと、Au、Rh、及びPdからなる群より選択される少なくとも1種とからなることが好ましい。ポンプ電極3P、モニタ電極3Mの貴金属成分は、Ptを主成分とするPt-Au合金からなることがより好ましく、センサ電極3Cは、Pt-Rh合金からなることがより好ましい。この場合には、ポンプ電極3Pでの酸素分解性能やセンサ電極3CでのNOx分解性能が向上し、NOx等の所定ガスの検出精度が向上し、ガスセンサ素子1は、NOxセンサに好適になる。また、この場合には、ポンプ電極3Pの混在領域33Pをセンサ電極3Cよりも多くすることによるセンサ出力の向上効果が顕著になる。
同様の観点から、ポンプ電極3P、モニタ電極3Mの貴金属成分は、Au含有割合が0.5~10質量%のPt-Au合金からなることがさらに好ましく、センサ電極3Cの貴金属成分は、Rh含有割合が30~65質量%のPt-Rh合金からなることがさらに好ましい。なお、ポンプ電極3P、モニタ電極3MにおけるPt-Au合金のAu含有割合が上記範囲内の場合には、NOxなどの所定ガスがポンプ電極3P、モニタ電極3Mで分解されることを抑制することができるため、上記のようにNOx等の所定ガスの検出精度がより向上する。また、センサ電極3CにおけるPt-Rh合金のRh含有割合が上記範囲内の場合には、センサ電極3Cの活性部位へのNOx等の所定ガスの接触頻度を上昇させることができるため、上記のようにNOx等の所定ガスの検出精度がより向上する。
【0027】
本形態のガスセンサ素子1では、被測定ガス室14に導入された被測定ガスG1(例えば排ガス)は、ポンプ電極3P上を通過してセンサ電極3C及びモニタ電極3M上に到達する。被測定ガスG1がポンプ電極3P上を通過する際には、ポンプセル10Pにおいて、被測定ガスG1中の酸素が分解され、酸素イオンが発生する。この酸素イオンは、ポンプ電極3Pと基準電極3Rとに挟まれる固体電解質体2を通って基準ガス室15に排出される。ポンプセル10Pにおいてはガス導入部19から導入された被測定ガスG1中の酸素濃度が調整され、センサ電極3C及びモニタ電極3Mに近づくほど酸素濃度は低下する。ポンプ電極3P-基準電極3R間の印加電圧は、例えば0.3V~0.45Vの範囲に調整することができる。この場合には、ポンプ電極の活性を向上させ被測定ガスG1中のO2を基準ガス室15側に効率よく排出することができる。また、被測定ガスG1には水蒸気等の混在ガスが含まれる場合があるが、上記のようにポンプ電極3P-基準電極3R間の印加電圧が0.3V~0.45Vの範囲に調整されることにより、混在ガスが過剰に分解されて発生する、センサ電極3Cの起電力の変動要因となるH2等の還元ガスの発生が抑制されるため、検出精度がさらに向上する。また、大気状態でポンプ電極3P-基準電極3R間に上記範囲内の電圧を印加したとき、酸素濃度に起因する限界電流値は1~5mAであることが好ましい。この場合には、ポンプセル10Pにおける酸素取り込み量が安定化し、所定ガスの検出精度がさらに向上する。
【0028】
センサ電極3Cにおいては、被測定ガスG1中の所定ガス(例えば、NOx等の酸素原子を含むガス)が分解され、酸素イオンが発生する。そして、センサ電極3Cと基準電極3Rと固体電解質体2とによって構成されるセンサセル10Cにおいて、酸素イオンが固体電解質体2を流れる際のセンサ電流を測定することにより、被測定ガスG1中のNOx等の所定ガスを検出することができる。センサセル10Cはセンサ電極3Cと基準電極3Rと固体電解質体の一部2Cとによって構成される。センサ電流は酸素イオンが固体電解質体2を流れる際に発生する。また一方で、センサ電極3C上に到達する被測定ガスG1中には、ポンプセル10Pによって除去されなかった酸素が僅かに残留するおそれがある。本形態のように、ガスセンサ素子1がモニタ電極3Mを有する場合には、モニタ電極3Mと基準電極3Rと固体電解質体の一部2Mとによって構成されるモニタセル10Mによって残留酸素濃度が測定され、センサセル10Cにおいて測定される所定ガス濃度の補正に用いられる。すなわち、酸素がモニタ電極3Mによって分解され固体電解質体2を流れる際に生じるモニタ電流をモニタセル10Mにおいて測定する。そして、センサ電流からモニタ電流を減算することにより、NOx等の所定ガス濃度を正確に測定することができる。
【0029】
貴金属領域31P、31C、31M、固体電解質領域32P、32C、32M、混在領域33P、33C、33M、気孔34P、34C、34Mは、走査型電子顕微鏡(つまりSEM)の反射電子像観察に識別可能である。図5(a)のSEMの反射電子像に例示されるように、各電極3P、3C、3Mにおける貴金属成分が塊状となった貴金属領域31P、31C、31Mは、黒色から濃いグレーの領域として観察され、固体電解質成分が塊状となった固体電解質領域32P、32C、32Mは、薄いグレーの領域として観察され、気孔34P、34C、34Mは黒色の領域として観察される。また、各電極3P、3C、3Mにおける混在領域33P、33C、33Mは、貴金属成分と固体電解質とが入り混じって分布する領域である。混在領域33P、33C、33Mでは、貴金属成分と固体電解質成分とが三次元的に相互に入り込んで互いに接触して複雑に絡み合っている。図5(b)に例示されるように、混在領域33P、33C、33Mは、SEMの反射電子像では、貴金属成分の相と固体電解質成分の相とが霜降り状(換言すればまだら状)に複雑に絡み合ってた領域として観察され、他の領域や気孔と明確に識別される。なお、図5(a)、図5(b)における貴金属成分はPt-Au合金である。図5(b)は、図5(a)のSEM写真の部分拡大図であるが、図4(b)の模式図ではおおよそVb領域に相当する領域での拡大写真である。
【0030】
混在領域は、センサ電極3Cよりもポンプ電極3Pに多く存在している。つまり、ポンプ電極3Pの混在領域33Pは、センサ電極3Cの混在領域33Cよりも多い。これにより、ポンプ電極3Pで被測定ガスG1中の酸素が十分に分解除去され、センサ電極3Cには酸素が十分に除去された被測定ガスG1が供給されることとなる。そのため、センサ電極3Cでは所定ガス濃度に応じた信号が精度よく出力される。センサ電極3C、ポンプ電極3Pの混在領域33C、33Pの存在割合は、SEM観察(具体的には反射電子像)により、目視により容易に判断することもできる場合もあるが、より具体的には、各電極の混在領域33C、33Pの面積割合を算出して対比される。面積割合の算出方法については実験例で説明する。
【0031】
混在領域33P,33C,33Mは、ガスセンサ素子1の電極間の通電処理により形成される。具体的には、ポンプ電極3Pと基準電極3R、センサ電極3Cと基準電極3R、モニタ電極3Mと基準電極3Rにそれぞれ電圧を印加し通電させることにより、混在領域33P,33C,33Mが形成される。このような通電処理を行うと、貴金属領域31P、31C、31Mにおける貴金属成分が固体電解質領域32P、32C、32Mや固体電解質体2に引き寄せられると考えられる。その結果、貴金属成分と固体電解質成分とが入り混じった混在領域33P,33C,33Mが形成される。さらに、貴金属成分の移動に伴って、貴金属成分が移動前に存在した位置やその付近に気孔34P、34C、34Mが形成されると考えられる。このように通電処理を行うことによって、混在領域33P,33C,33M、気孔34P、34C、34Mが形成される。通電処理を行う際の条件には、印加電圧、印加時間(通電時間)、温度等がある。温度や印加電圧を高くするほど貴金属成分の移動速度は速くなる傾向があり、印加時間を長くするほど移動量が多くなる傾向があり、混在領域の存在割合(具体的には後述の面積割合)が増大する傾向がある。つまり、通電処理において、例えば、ポンプ電極3P-基準電極3R間の印加電圧をセンサ電極3C-基準電極3R間より高くしたり、ポンプ電極3P-基準電極3R間の電圧の印加時間をセンサ電極3C-基準電極3R間より長くすることにより、ポンプ電極3Pの混在領域をセンサ電極3Cよりも多くすることができる。ポンプ電極3P-基準電極3R間とセンサ電極3C-基準電極3R間との印加電圧の差や印加時間の差を大きくすることにより、混在領域33P、33Cの存在割合(具体的には、面積割合)の差も増大する傾向がある。他の電極についても同様である。
【0032】
ポンプ電極3Pの断面における混在領域33Pの面積割合S1とセンサ電極3Cの断面における混在領域33Cの面積割合S2とがS1/S2>1の関係を満足することが好ましい。この場合には、ポンプ電極3Pで被測定ガスG1中の酸素分解が十分に行われ、センサ電極3Cにおける酸素分解に伴う出力を十分に低下させることができる。これにより、所定ガスの検出精度がより向上する。
【0033】
また、ポンプ電極3Pの断面における混在領域33Pの面積割合S1とセンサ電極3Cの断面における混在領域33Cの面積割合S2とがS1/S2≧2の関係を満足することが好ましい。この場合には、所定ガスの検出精度が一層向上する。
【0034】
また、モニタ電極3Mが、貴金属領域31Mと固体電解質領域32Mと混在領域33Mと気孔34Mとを有し、ポンプ電極3Pでは、混在領域がモニタ電極3Mよりも多く形成されていることが好ましい。この場合にも、所定ガスの検出精度がより向上する。これは、ポンプ電極3Pで被測定ガスG1中の酸素分解が十分に行われるため、モニタ電極3Mでは酸素分解に伴う出力を十分に低下できるからである。
モニタ電極3M、ポンプ電極3Pの混在領域33M、33Pの存在割合は、SEM観察(具体的には反射電子像)により、目視により容易に判断することもできる場合もあるが、より具体的には、各電極の混在領域33M、33Pの面積割合を算出することにより対比される。面積割合の算出方法については実験例で説明する。
【0035】
ポンプ電極3Pの断面における混在領域33Pの面積割合S1とモニタ電極3Mの断面における混在領域33Mの面積割合S3とがS1/S3>1の関係を満足することがより好ましく、S1/S3≧2の関係を満足することがさらに好ましい。この場合には、所定ガスの検出精度がより向上する。
【0036】
また、センサ電極3Cの断面における混在領域33Cの面積割合S2とモニタ電極3Mの断面における混在領域33Mの面積割合S3とが1/10×S3<S2<10×S3の関係を満足することが好ましい。この場合には、ノイズの影響が抑制され、所定ガスの検出精度がさらに向上する。この理由は次のように考えられる。
【0037】
センサ電極3Cとモニタ電極3Mを有するガスセンサ素子1では、センサセル10Cは、残留酸素と所定ガスに応じた信号を出力し、モニタセル10Mが残留酸素に応じた信号を出力する。そして、両者の出力値(例えば電流値)の差分から、NOx等の所定ガス濃度が算出される。このとき、ノイズは両方のセルに加わる。このノイズには2種類あり、各セルでランダムに発生する独立ノイズ(例えば熱雑音)と、両方のセルに均等に加わるコモンモードノイズとがある。独立ノイズとしては、例えば、酸素分子がガス反応点と衝突することによってパルス的に発生するショット雑音がメインであり、このノイズは混在領域33C、33Mが多くなるほど大きくなる。独立ノイズは、センサセル10C及びモニタセル10Mでそれぞれ独立に発生するため、両者の出力の差分を取った場合にはノイズは和となって発現するためノイズの影響は大きくなる。また、混在領域33C、33Mが大きくなるほど固体電解質と電極の間に発生する電気二重層の形成サイトが大きくなり、静電容量が増加する。静電容量は過渡特性において容量の充放電に伴う電流ノイズ(つまり、コモンモードノイズ)を発生させるが、センサセル10Cとモニタセル10Mの間で大きく違うと、両者の電流の差分を取ったときのノイズが大きくなる。
上記のように、1/10×S3<S2<10×S3の関係を満足する場合には、モニタ電極3Mにおける混在領域33Mの存在割合とセンサ電極3Cの混在領域33Cの存在割合が好適化され、独立ノイズ及びコモンモードノイズの発生が抑制される。これにより、ガスセンサ素子1の所定ガスの検出精度がさらに向上する。
ガスセンサ素子は、公知の製造方法により製造される。各電極3P、3C、3Mは、固体電解質体2に貴金属成分と固体電解質(つまり、共材)を含有するペースト材を印刷し、焼き付けることにより形成される。混在領域33P、33C、33Mは、上記のように通電処理により形成される。
【0038】
以上のように、本形態によれば、検出精度に優れたガスセンサ素子1を提供することができる。
【0039】
(実施形態2)
本形態では、モニタ電極3Mが形成されていないガスセンサ素子について説明する。なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0040】
図6図7に示されるように、本形態のガスセンサ素子1は、ポンプ電極3Pとセンサ電極3Cとを有するが、モニタ電極3Mを有していない。その他は、実施形態1と同様の構成とすることができる。
【0041】
本形態のガスセンサ素子1では、被測定ガス室14に導入された被測定ガスG1は、ポンプ電極3P上を通過してセンサ電極3C上に到達する。被測定ガスG1がポンプ電極3P上を通過する際には、被測定ガスG1中の酸素がポンプセル10Pで分解され、酸素イオンが発生する。センサ電極3Cでは、被測定ガスG1中の所定ガス(例えばNOx)が分解され、酸素イオンが発生する。そして、センサセル10Cでは、例えば酸素イオンが固体電解質体2を流れる際のセンサ電流を測定することにより、所定ガスを検出することができる。
【0042】
本形態のガスセンサ素子1では、ポンプ電極3Pの混在領域33Pがセンサ電極3Cよりも多くなっている。そのため、実施形態1と同様に、ポンプ電極3Pで被測定ガスG1中の酸素が十分に分解除去され、センサ電極3Cには酸素が十分に除去された被測定ガスG1が供給されることとなる。また、センサ電極3Cは、被測定ガスG1中の残留酸素の影響を受けにくい。そのため、センサ電極3Cでは所定ガス濃度に応じた信号が精度よく出力される。
【0043】
(実施形態3)
本形態では、ガスセンサ素子を備えるガスセンサについて説明する。本形態のガスセンサは、排気センサの例である。
図8に例示されるように、ガスセンサ7は、ガスセンサ素子1を有する。ガスセンサ7は、例えば、窒素酸化物(NOx)の量を検出するNOxセンサとすることができる。このようなガスセンサ7は、例えば、内燃機関において排ガスが流れる排気管に配置されて使用される。被測定ガスGは、排ガスであり、濃度を検出する対象である特定ガスは、例えばNOxである。
【0044】
図7に例示されるように、ガスセンサ7は、車両において内燃機関の排気通路に設置される。ガスセンサ7には、排気通路を流通する排ガスが被測定ガスGとして導入される。これによりガスセンサ7は、自身に内蔵したガスセンサ素子1により、被測定ガスGのNOx濃度を測定する。ガスセンサ7は、具体的には、ガスセンサ素子1に加え、センサハウジング701、絶縁碍子702、素子カバー703A、703B、703C、センサハーネス704を含んで構成されている。図8では、センサハーネス704にセンサ制御回路705が接続されている例が示されている。なお、図8におけるG1は、被測定ガスの流れ方向を示している。
【0045】
センサハウジング701は、絶縁碍子702を介してガスセンサ素子1を内部に保持している。素子カバー703A、703B、703Cは、センサハウジング701に固定されている。素子カバー703A、703Bは、ガスセンサ素子1のうちガス流れ方向G1の上流側素子端部70aの外周側を覆っている。素子カバー703A、703Bは、内部に収容した上流側素子端部70aへ排気管からの排ガスを被測定ガスGとして導入するために、ガス導入孔703a、703bを有している。素子カバー703Cは、ガスセンサ素子1のうちガス流れ方向Gの下流側素子端部70bの外周側を覆っている。素子カバー703Cは、内部に収容した下流側素子端部70bへ基準ガスG0としての大気を導入するために、大気導入孔703cを有している。センサハーネス704は、素子カバー703Cの内外に跨って複数設けられている。センサ制御回路705は、センサハウジング701および素子カバー703Cの外部にて、複数のセンサハーネス704を介してガスセンサ素子1と接続されている。なお、センサ制御回路105は、ガスセンサ素子のセンサセル10C、モニタセル10M、および、ポンプセル10Pへの電圧の供給を制御する。
【0046】
ガスセンサ素子は、実施形態1又は実施形態2と同様の構成とすることができる。これにより、ガスセンサ7は、実施形態1、実施形態2と同様の効果を奏する。
【0047】
(実験例1)
本例は、ポンプ電極及びセンサ電極の混在領域の面積割合がセンサ出力の精度(酸素電流割合I/I)に与える影響を以下のようにして調べた。
【0048】
はじめに、実施形態1と同様に、ポンプセル、センサセル、及びモニタセルを有するガスセンサ素子を用いて実施形態3と同様のガスセンサを構築した。
【0049】
ガスセンサ素子としては、センサ電極の混在領域の面積割合S2に対するポンプ電極の混在領域の面積割合S1の比S1/S2が異なる複数の素子を準備した。比S1/S2は、センサセルとポンプセルとの通電時の印加電圧、電圧の印加時間を変更することにより調整した。
【0050】
各電極3P、3Cの混在領域33P、33Cの面積割合は、図10に例示される電極の断面のSEM写真(ただし、反射電子像)に基づいて算出される。まず、SEM写真の視野内の混在領域の33P、33Cの面積(具体的には、図10における領域Xの面積)A1と、視野内の全面積A2から視野内の気孔部分の面積A3を差し引いた面積(A2-A3)とを算出した。気孔部分の面積A3は、二値化処理で気孔(二値化処理後の黒色部分)を抽出し、その部分の面積を算出することにより求めた。各電極の混在領域の面積割合Sは式(I)により算出される。3箇所において電極の混在領域の面積割合を算出し、その算術平均値を、その電極の混在領域の面積割合とした。そして、比S1/S2を算出した。
S(%)=100×A1/(A2-A3) ・・・(I)
【0051】
なお、混在領域33P、33Cの面積割合は、各電極3P、3Cの内部のSEM写真に基づいて算出した。具体的には、図9(a)~図(c)の破線で囲われた領域内のSEM写真に基づいて、面積割合を算出した。図9(a)における電極3P、3Cの外縁部分や、図9(b)、図9(c)に示される電極3P、3Cの、固体電解質体2との境界部分は、避けることが好ましい。これは、上記外縁部分や上記境界部分では貴金属成分と固体電解質成分との境界が不明確となりやすく、測定値がばらつきやすくなるからである。
【0052】
次に、センサ電極の混在領域の面積割合S2に対するポンプ電極の混在領域の面積割合S1の比S1/S2が異なる複数のガスセンサ素子をそれぞれ内蔵するガスセンサを用いて、酸素電流割合I/Iを調べた。
具体的には、大気中で、ポンプ電極3P-基準電極3R間及びセンサ電極3C-基準電極3R間にそれぞれ電圧を印加し、各電極に流れる電流を電流計で計測した。このときのポンプ電極3P-基準電極3R間を流れる電流値Iに対する、センサ電極3C-基準電極3R間を流れる電流値I値の比(つまり、酸素電流割合I/Iを)を算出した。その結果を図11に示す。
【0053】
図11より理解されるように、比S1/S2>1である場合(ポンプ電極3Pでの混在領域がセンサ電極よりも多い場合)には、ポンプ電極3Pでの酸素の出力電流Iに対するセンサ電極3Cでの酸素の出力電流が低い。つまり、センサ電極3Cが残留酸素による影響を受けにくい。これは、ガスセンサ素子が所定ガス濃度を精度よく検出できること意味する。また、図11から理解されるように、残留酸素の影響をより抑制できる観点からS1/S2≧2の関係を満足することがより好ましいといえる。
【0054】
(実験例2)
本例は、センサ電極及びモニタ電極の混在領域の面積割合がセンサ出力の精度(センサ出力に対するノイズ比率)に与える影響を以下のようにして調べた。
【0055】
はじめに、実施形態1と同様に、ポンプセル、センサセル、及びモニタセルを有するガスセンサ素子を用いて実施形態3と同様のガスセンサを構築した。
【0056】
ガスセンサ素子としては、モニタ電極の混在領域の面積割合S3に対するセンサ電極の混在領域の面積割合S2の比S2/S3が異なる複数の素子を準備した。比S2/S3は、センサセルとモニタセルとの通電時の印加電圧、電圧の印加時間を変更することにより調整した。
【0057】
各電極3M、3Cの混在領域33M、33Cの面積割合は、実験例1と同様にして算出される。各電極3M、3Cの混在領域33M、33Cの面積割合Sを3箇所のSEM画像に基づいて算出し、その算術平均値を、その電極3M、3Cの混在領域33M、33Cの面積割合とした。そして、比S2/S3を算出した。
【0058】
なお、混在領域33M、33Cの面積割合は、実験例1と同様に、各電極3M、3Cの内部のSEM写真に基づいて算出した。
図9(a)における電極3M、3Cの外縁部分や、図9(b)、図9(c)に示される電極3M、3Cの、固体電解質体2との境界部分は、避けることが好ましい。
【0059】
次に、比S2/S3が異なる複数のガスセンサ素子をそれぞれ内蔵するガスセンサを用いて、センサ出力、独立ノイズ、及びコモンモードノイズを測定した。
具体的には、窒素雰囲気でセンサ電極3C-基準電極3R間およびモニタ電極3M-基準電極3R間に電圧を印加し、センサ出力を測定すると共に、電流計にて計測した電流の振幅からノイズを計測した。
その結果を図12に示す。なお、図12では、四角形のプロット点及び実線は、センサ出力に対する独立ノイズの比率を示し、丸形のプロット点及び点線はセンサ出力に対するコモンモードノイズの比率を示す。
【0060】
図12より理解されるように、センサ電極3Cの断面における混在領域33Cの面積割合S2とモニタ電極3Mの断面における混在領域33Mの面積割合S3とが、-1.0<log10[S2/S3]の<1.0の関係を満足する場合、つまり、1/10×S3<S2<10×S3の関係を満足する場合には、センサ出力に対するノイズ(独立ノイズ及びコモンモードノイズ)が低い。これは、1/10×S3<S2<10×S3の関係を満足する場合にノイズによる影響を受けにくく、ガスセンサ素子が所定ガスを精度よく検出できることを意味する。
【0061】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【0062】
本発明の特徴を以下の通り示す。
[1]ガス導入部(19)より被測定ガス(G1)が導入される被測定ガス室(14)と、
基準ガス(G0)が導入される基準ガス室(15)と、
上記被測定ガス室と上記基準ガス室との間に配置され、上記被測定ガス室に面する第1主面(21)と、上記基準ガス室に面する第2主面(22)とを有し、酸素イオン伝導性を有する固体電解質体(2)と、
上記固体電解質体の上記第2主面に形成された基準電極(3R)と、
上記固体電解質体の上記第1主面に形成され、上記基準電極と上記固体電解質体の一部(2P)とともに上記被測定ガス中の酸素濃度を調整するポンプセル(10P)を構成するポンプ電極(3P)と、
上記固体電解質体の上記第1主面に形成され、上記基準電極と上記固体電解質体の一部(2C)とともに、上記ポンプセルによって酸素の濃度が調整された上記被測定ガス中の所定ガス成分の濃度に応じた信号を出力するセンサセル(10C)を構成するセンサ電極(3C)と、を備え、
上記ポンプ電極及び上記センサ電極は、貴金属成分が塊状となった貴金属領域(31P、31C)と、固体電解質が塊状となった固体電解質領域(32P、32C)と、貴金属成分と固体電解質とが入り混じって分布する混在領域(33P、33C)と、気孔(34P、34C)とを有し、
上記ポンプ電極では、上記混在領域が上記センサ電極よりも多く存在している、ガスセンサ素子。
[2]上記ポンプ電極の断面における上記混在領域の面積割合S1と上記センサ電極の断面における上記混在領域の面積割合S2とがS1/S2>1の関係を満足する、[1]に記載のガスセンサ素子。
[3]上記ポンプ電極の断面における上記混在領域の面積割合S1と上記センサ電極の断面における上記混在領域の面積割合S2とがS1/S2≧2の関係を満足する、[1]又は[2]に記載のガスセンサ素子。
[4]さらに、上記固体電解質体の上記第1主面に形成され、上記基準電極と上記固体電解質体の一部(2M)とともに、上記ポンプセルによって酸素の濃度が調整された上記被測定ガス中の酸素濃度に応じた信号を出力するモニタセル(10M)を構成するモニタ電極(3M)を備え、
上記モニタ電極は、貴金属成分が塊状となった貴金属領域(31M)と、固体電解質が塊状となった固体電解質領域(32M)と、貴金属成分と固体電解質とが入り混じって分布する混在領域(33M)と、気孔(34M)とを有し、
上記ポンプ電極では、上記混在領域が上記モニタ電極よりも多く形成されている、[1]~[3]のいずれかに記載のガスセンサ素子。
[5]上記ポンプ電極の断面における上記混在領域の面積割合S1と上記モニタ電極の断面における上記混在領域の面積割合S3とがS1/S3>1の関係を満足する、[4]に記載のガスセンサ素子。
[6]上記ポンプ電極の断面における上記混在領域の面積割合S1と上記モニタ電極の断面における上記混在領域の面積割合S3とがS1/S3≧2の関係を満足する、[4]又は[5]に記載のガスセンサ素子。
[7]上記センサ電極の断面における上記混在領域の面積割合S2と上記モニタ電極の断面における上記混在領域の面積割合S3とが1/10×S3<S2<10×S3の関係を満足する、[4]~[6]のいずれかに記載のガスセンサ素子。
【符号の説明】
【0063】
1 ガスセンサ素子
14 被測定ガス室
15 基準ガス室
2 固体電解質体
3R 基準電極
3P ポンプ電極
3C センサ電極
3M モニタ電極
33P、33C、33M 混在領域
34P、34C、34M 気孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12