(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173319
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】歩行姿勢の解析装置、方法並びにプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
A61B5/11 230
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091663
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001863
【氏名又は名称】弁理士法人アテンダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植田 智也
(72)【発明者】
【氏名】須藤 元喜
(72)【発明者】
【氏名】山城 由華吏
(72)【発明者】
【氏名】稲井 卓真
(72)【発明者】
【氏名】小林 吉之
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VA12
4C038VB14
4C038VC20
(57)【要約】
【課題】被験者の歩行中の姿勢を簡便且つ廉価に解析する。
【解決手段】歩行姿勢解析装置100は、加速度データ取得部110と、取得した加速度データを被験者の一方の足に係る第1歩行周期に区分するとともに他方の足に係る第2歩行周期とに区分し、第1歩行周期及び第2歩行周期がそれぞれ右足に係る歩行周期であるかを判定する歩行周期判定部130と、予め算出された重回帰モデルを用いて、右足に係る歩行周期における加速度データから当該歩行周期における右半身の関節の角度データである右側関節角度データを算出するとともに、左足に係る歩行周期における加速度データから当該歩行周期における左半身の関節の角度データである左側関節角度データを算出する歩行姿勢解析部140とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速度センサにより計測された歩行中の被験者の加速度データを取得する加速度データ取得部と、
取得した加速度データを被験者の一方の足が接地してから当該一方の足が次に接地するまでの歩行周期である第1歩行周期に区分するとともに被験者の他方の足が接地してから当該他方の足が次に接地するまでの歩行周期である第2歩行周期とに区分し、第1歩行周期及び第2歩行周期がそれぞれ右足に係る歩行周期であるか或いは左足に係る歩行周期であるかを判定する歩行周期判定部と、
予め算出された重回帰モデルを用いて、右足に係る歩行周期における加速度データから当該歩行周期における右半身の関節の角度データである右側関節角度データを算出するとともに、左足に係る歩行周期における加速度データから当該歩行周期における左半身の関節の角度データである左側関節角度データを算出する歩行姿勢解析部とを備えた
ことを特徴とする歩行姿勢の解析装置。
【請求項2】
前記重回帰モデルは、予め取得したモデル算出用の加速度データを主成分分析して得られたN次元(N:自然数)の主成分を説明変数とし、前記モデル算出用の加速度データに対応するモデル算出用の右側関節角度データ又は左側関節角度データを主成分分析して得られたM次元(M:自然数)の主成分を目的変数として予め算出された
ことを特徴とする請求項1記載の歩行姿勢の解析装置。
【請求項3】
前記加速度データの主成分分析は、1歩行周期内の各計測時における複数の軸の各加速度データからなるデータ群を観測変数とし、
前記加速度データの主成分分析は、1歩行周期内の各計測時における複数の関節についての複数の方向からみた各関節の各角度データからなるデータ群を観測変数とする
ことを特徴とする請求項2記載の歩行姿勢の解析装置。
【請求項4】
前記歩行周期判定部は、第1歩行周期又は第2歩行周期内の所定の時間区間内における、歩行方向に対して左右方向の加速度データの平均値に基づき、当該第1歩行周期又は第2歩行周期が右足に係る歩行周期であるか或いは左足に係る歩行周期であるかを判定する
ことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の歩行姿勢の解析装置。
【請求項5】
コンピュータを用いて歩行姿勢を解析する方法であって、
加速度センサにより計測された歩行中の被験者の加速度データを取得するステップと、
取得した加速度データを被験者の一方の足が接地してから当該一方の足が次に接地するまでの歩行周期である第1歩行周期に区分するとともに被験者の他方の足が接地してから当該他方の足が次に接地するまでの歩行周期である第2歩行周期とに区分し、第1歩行周期及び第2歩行周期がそれぞれ右足に係る歩行周期であるか或いは左足に係る歩行周期であるかを判定するステップと、
予め算出された重回帰モデルを用いて、右足に係る歩行周期における加速度データから当該歩行周期における右半身の関節の角度データである右側関節角度データを算出するとともに、左足に係る歩行周期における加速度データから当該歩行周期における左半身の関節の角度データである左側関節角度データを算出するステップとを備えた
ことを特徴とする歩行姿勢の解析方法。
【請求項6】
コンピュータを、請求項1に記載の歩行姿勢の解析装置として機能させる
ことを特徴とする歩行姿勢の解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行者の歩行中の姿勢、より具体的には歩行者の歩行中の関節角度を解析する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、歩行中の姿勢、より具体的には歩行中の関節角度を可視化して分析等を行うために、モーションキャプチャにより人体の骨格モデルを用いた歩行姿勢の記録・解析が行われている。モーションキャプチャ技術としては、マーカーを被験者の関節やその他の部位に取り付け、このマーカーを複数のカメラで撮影し、このマーカーの移動軌跡から被験者の歩行姿勢を検出する。しかし、このモーションキャプチャ技術では、被験者にマーカーを取り付ける必要があるため、計測に手間や時間がかかり利便性が悪いという問題がある。
【0003】
そこで、マーカーレスのモーションキャプチャ技術が登場している(特許文献1参照)。このモーションキャプチャ技術では、深度情報が含まれる画像を撮影可能な3Dカメラを用い、この3Dカメラで撮影した画像に基づき歩行中の骨格情報を推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-61910号公報
【特許文献2】特許第6111837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載のものでは、3Dカメラという高価な装置が必要であるという問題がある。また、特許文献1に記載のものでは、被験者とは別に撮影者が必要である、或いは、撮影者を用意できない場合には三脚等が必要であるなど計測に広い空間と手間が必要であるという問題もある。
【0006】
一方、特許文献2には、加速度センサの検知データに基づき歩行姿勢を検出する技術が記載されている。加速度センサは廉価であり、近年広く普及しているスマートフォンなどの携帯機器に内蔵されていることが多い。また、加速度センサを被験者に装着して計測するので、撮影のための空間も不要である。このため、上述した特許文献1における問題点は解決する。しかしながら、そもそも特許文献2に記載のものは、検出する歩行姿勢として「重心位置の偏り」を算出するものであり、歩行中の関節角度を検出することはできない。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、被験者の歩行中の姿勢を簡便且つ廉価に解析することができる装置、方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る歩行姿勢の解析装置は、加速度センサにより計測された歩行中の被験者の加速度データを取得する加速度データ取得部と、取得した加速度データを被験者の一方の足が接地してから当該一方の足が次に接地するまでの歩行周期である第1歩行周期に区分するとともに被験者の他方の足が接地してから当該他方の足が次に接地するまでの歩行周期である第2歩行周期とに区分し、第1歩行周期及び第2歩行周期がそれぞれ右足に係る歩行周期であるか或いは左足に係る歩行周期であるかを判定する歩行周期判定部と、予め算出された重回帰モデルを用いて、右足に係る歩行周期における加速度データから当該歩行周期における右半身の関節の角度データである右側関節角度データを算出するとともに、左足に係る歩行周期における加速度データから当該歩行周期における左半身の関節の角度データである左側関節角度データを算出する歩行姿勢解析部とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、被験者の歩行中の加速度データに基づき歩行中の姿勢を解析する。この加速度データは加速度センサにより容易且つ廉価に取得することができる。したがって、被験者の歩行中の姿勢を簡便且つ廉価に解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】歩行姿勢の解析装置の動作を説明するフローチャート
【
図6】奇数フェーズの第1歩行周期と偶数フェーズの第2歩行周期への区分けを説明する図
【
図7】加速度データの標準化処理及び平均化処理を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施の形態に係る歩行姿勢の解析装置について図面を参照して説明する。
図1は歩行姿勢の解析装置の機能ブロック図、
図2は歩行姿勢の解析装置の動作を説明するフローチャートである。
【0012】
本実施の形態に係る歩行姿勢の解析装置(以下、「歩行姿勢解析装置」と言う。)は、被験者により携帯された状態で歩行中の被験者の加速度データを取得する。そして、歩行姿勢解析装置は、取得した加速度データに基づき被験者の歩行姿勢を解析する。また、歩行姿勢解析装置は、解析した歩行姿勢を動画として表示する。以下、歩行姿勢解析装置の詳細について説明する。
【0013】
本実施の形態に係る歩行姿勢解析装置100は、
図1に示すように、加速度データ取得部110と、データ範囲設定部120と、歩行周期判定部130と、歩行姿勢解析部140と、表示制御部150と、記憶部160とを備えている。また、歩行姿勢解析装置100には、加速度センサ200と、表示装置300とが接続されている。
【0014】
歩行姿勢解析装置100の各部は、主演算装置、主記憶部、補助記憶部、入力装置等を備えた従来周知のコンピュータにより構成することができる。歩行姿勢解析装置100は、前述の各部として機能させるプログラムをコンピュータにインストールすることにより実装することができる。歩行姿勢解析装置100は、専用のハードウェアとして実装することができる。歩行姿勢解析装置100は、複数の装置に分散して実装することができる。本実施の形態では、所謂「スマートフォン」と呼ばれる高機能携帯通信端末であって加速度センサ200及び表示装置300を内蔵した端末にプログラムをインストールすることにより歩行姿勢解析装置100を実装した。
【0015】
加速度センサ200は、周知の3軸の慣性センサからなり、歩行者の歩行中の加速度を検出する。ここで検出する加速度は、鉛直方向(Z軸方向)の加速度、歩行方向(Y軸方向)の加速度、歩行方向に対した左右水平方向(X軸方向)の加速度である。なお、本実施の形態では、X軸について、歩行方向に対して右方向を正、左方向を負とする。
【0016】
加速度データ取得部110は、加速度センサ200により計測された歩行中の被験者の加速度データを所定の計測レート(例えば100Hz)で取得する(
図2のステップS1)。ここで、加速度の計測中には、加速度センサ200の各軸方向が一定となるよう被験者に対する加速度センサ200の相対的な位置、すなわち歩行姿勢解析装置100の相対的な位置を固定する。歩行姿勢解析装置100の固定位置は、左右方向については被験者の正中線に近いほど好ましい。また、歩行姿勢解析装置100の固定位置は、鉛直方向については股間より上より上が好ましく、また首より下が好ましい。したがって、加速度の計測中には、歩行姿勢解析装置100は被験者の腹部中央の臍のあたり或いは背面側の腰の左右方向中央あたりに固定することが好ましい。加速度データ取得部110は、取得した加速度データ161を記憶部160に記憶する。取得した加速度データ161の一例を
図3に示す。
【0017】
データ範囲設定部120は、加速度データ161のうち解析対象とする時間範囲を設定する。これは、加速度データ取得部110では、計測開始から計測終了までには歩行していない時間が含まれること及び歩行開始直後や歩行終了直前には歩行が安定していないことから、安定した歩行中に係る加速度データのみを解析対象とするよう時間範囲を設定するものである。
【0018】
データ範囲設定部120は、加速度データ161のX軸とY軸とZ軸の加速度を加算するとともに、加算後の加速度データに対してローパスフィルタを適用してノイズ除去処理(Sin波処理)を行うことにより合算加速度データを生成する(
図2のステップS2)。データ範囲設定部120は、この合算加速度データに基づき解析対象とする時間範囲を設定する(
図2のステップS3)。
図4に、合成加速度データの一例を示す。
図4において、合成加速度が所定値以上のピーク値(極大値)となる時が踵接地時であり、最初のピーク値検出時から最後のピーク値検出時までが歩行時間範囲であると考えられる。
【0019】
データ範囲設定部120による時間範囲の設定処理は、所定のアルゴリズムにより自動的に行ってもよいし、利用者による入力指示により行ってもよい。前者の場合、例えば、データ範囲設定部120は、
図4に示すように、合成加速度が所定値以上のピーク値(極大値)となる時を踵接地時として検出し、最初から2つ目の踵接地時から、最後から2つ目の踵接地時までを、解析対象の時間範囲であると設定する。また、後者の場合、データ範囲設定部120は、表示装置300に合成加速度データを表示し、利用者から解析対象となる時間範囲の入力を受け付け、これを解析対象の時間範囲に設定する。
【0020】
歩行周期判定部130は、加速度データ161を、被験者の一方の足が接地してから当該一方の足が次に接地するまでの歩行周期である第1歩行周期に区分するとともに、被験者の他方の足が接地してから当該他方の足が次に接地するまでの歩行周期である第2歩行周期とに区分する。さらに、歩行周期判定部130は、第1歩行周期及び第2歩行周期がそれぞれ右足に係る歩行周期であるか或いは左足に係る歩行周期であるかを判定する。以下、歩行周期判定部130の詳細について説明する。
【0021】
歩行周期判定部130は、データ範囲設定部120で設定した時間範囲において前述の合計加速度データを参照し、合成加速度がピーク値(極大値)となる時を踵接地時として検出及び計数し、踵接地タイミング情報として記憶する。
図5に、合成加速度と踵接地タイミングの関係を示す。
【0022】
次に、歩行周期判定部130は、前記踵接地タイミング情報を参照して、加速度データ161に対して、隣り合う奇数の計数値間の複数の区間(「奇数フェーズ」と呼ぶ)と、隣り合う偶数の計数値間の複数の区間(「偶数フェーズ」と呼ぶ)に区分する(
図2のステップS4)。各奇数フェーズは、被験者の一方の踵が接地してから当該一方の踵が次に接地するまでの歩行周期である第1歩行周期である。具体的には、1番目の踵接地時から3番目の踵接地時まで、3番目の踵接地時から5番目の踵接地時まで、…2n+1番目の踵接地時から2n+3番目の踵接地時まで、がそれぞれ奇数フェーズである。同様に、各偶数フェーズは、被験者の他方の踵が接地してから当該他方の踵が次に接地するまでの歩行周期である第2歩行周期である。具体的には、2番目の踵接地時から4番目の踵接地時まで、4番目の踵接地時から6番目の踵接地時まで、…2n番目の踵接地時から2n+2番目の踵接地時まで、がそれぞれ偶数フェーズである。
図6に、区分けされた奇数フェーズの第1歩行周期と、区分けされた偶数フェーズの第2歩行周期を示す。
【0023】
次に、歩行周期判定部130は、区分けされた奇数フェーズ及び偶数フェーズの各歩行周期について、時間軸方向の単位を、実時間から0~1(0~100%)に正規化する(
図2のステップS5)。本発明では各歩行周期における加速度の波形特徴に基づき歩行姿勢の解析を行うものであるが、被験者の歩行は安定しないため各歩行周期の周期時間にはばらつきがある。このため、本発明では前述したような時間軸方向の正規化処理を行っている。
【0024】
次に、歩行周期判定部130は、
図7に示すように、加速度データ161を参照し、奇数フェーズについて、各第1歩行周期内におけるX軸,Y軸,Z軸の加速度の加算平均を算出して1歩行周期におけるX軸,Y軸,Z軸のそれぞれの平均化加速度データ162を算出し、これを記憶部160に記憶する(
図2のステップS6)。歩行周期判定部130は、同様にして偶数フェーズにおける平均化加速度データ162を算出し、これを記憶部160に記憶する。なお、後述の処理により各フェーズの左右判定が行われる結果、
図1に示すように、記憶部160に記憶される2つの平均化加速度データ162は、右足に係る平均化加速度データ(右平均化加速度データ)162aと、左足に係る平均化加速度データ(左平均化加速度データ)162bとして扱われる。
【0025】
次に、歩行周期判定部130は、奇数フェーズ又は偶数フェーズの何れか一方、ここでは奇数フェーズのX軸の平均化加速度の波形特徴に基づき、当該奇数フェーズの第1歩行周期が右足に係る歩行周期であるか左足に係る歩行周期であるかを判定する(
図2のステップS7)。
【0026】
具体的には、歩行周期判定部130は、
図8に示すように、歩行周期の時間軸方向の前半部、好適には20~50%の時間範囲におけるX軸の平均化加速度の値に基づき、左右判定を行う。さらに具体的には、前記時間範囲において、X軸の正の平均化加速度の数とX軸の負の平均化加速度の数を計数し、両者を比較する。そして、X軸の正の平均化加速度の数の方が多いときには、当該奇数フェーズの第1歩行周期が左足に係る歩行周期であると判定する。一方、X軸の負の平均化加速度の数の方が多いときには、当該奇数フェーズの第1歩行周期が右足に係る歩行周期であると判定する。以下、歩行周期判定部130により右足に係る歩行周期であると判定された歩行周期を右歩行周期と言う。同様に、歩行周期判定部130により左足に係る歩行周期であると判定された歩行周期を左歩行周期と言う。
【0027】
なお、他の実施の形態では、X軸の平均化加速度の正負の数にかえて、左右判定に用いる基準としてX軸の平均化加速度の積分値など他の統計値を用いることができる。また、他の実施の形態では、判定対象の時間軸方向の範囲を、時間軸方向前半の範囲にかえて後半の範囲とすることができる。この場合、判定時においてX軸の平均化加速度の正負が逆転したものとして判定する。また、他の実施の形態では、偶数フェーズの複数の第2歩行周期に基づき左右判定を行うことができる。この場合、判定時においてX軸の平均化加速度の正負が逆転したものとして判定する。
【0028】
歩行姿勢解析部140は、予め算出された重回帰モデルを用いて、右歩行周期における右平均化加速度データ162aから当該歩行周期における右半身の関節の角度データである右側関節角度データ163aを算出するとともに、左歩行周期における左平均化加速度データ162bから当該歩行周期における左半身の関節の角度データである左側関節角度データ163bを算出する。まず、この算出処理で用いる重回帰モデルの詳細について説明する。
【0029】
この重回帰モデルは、歩行姿勢解析装置100による解析処理に先立って、予め、他のコンピュータを用いて算出されたものである。算出された重回帰モデルのパラメータは、予め記憶部160に解析用パラメータ169として記憶しておく。
【0030】
この重回帰モデルは、予め計測した複数の被験者に係る歩行時の加速度データ(モデル生成用加速度データ)と、当該モデル生成用加速度データに対応する当該計測時に撮像・画像解析して得られた関節角度データとをサンプルとして主成分分析及び重回帰分析を行い算出されたものである。ここで、重回帰モデルの算出に用いるモデル生成用加速度データ及び関節角度データは、右歩行周期と左歩行周期に係るものの双方を含む。すなわち、重回帰モデルは、右足用と左足用とに区別されているのではなく、右足用と左足用とで共通する1つものものである。
【0031】
関節角度データは、被験者の歩行姿勢を示すものであり、人体の関節を構成する骨間の角度を表す。また、関節角度データは、右半身に係る関節角度データ(右側関節角度データ)と、左半身に係る関節角度データ(左側関節角度データ)とを含む。右側関節角度データは、右歩行周期における加速度データに対応する。左側関節角度データは、左歩行周期における加速度データに対応する。本実施の形態では、被験者の下半身すなわち腰より下の関節を対象とする。具体的には左右の骨盤,股関節,膝関節,足関節を対象とする。また、各関節角度データは、矢状面における角度(横から見た角度)と、前額面における角度(正面からみた角度)と、水平面における角度(上から見た角度)とを含む。したがって、関節角度データは、1計測タイミングあたり、4カ所×3方向=12の計測値を含む。
【0032】
重回帰モデルの作成に用いられるモデル生成用加速度データ及びそれに対応する関節角度データは、予め、上記データ範囲設定部120と同様の処理により解析対象とする時間範囲を設定する。
【0033】
また、上記歩行周期判定部130と同様の処理により、モデル生成用加速度データ及びそれに対応する関節角度データは、複数の右歩行周期及び左歩行周期に区分するとともに、時間軸方向に正規化処理を行っておく。
【0034】
さらに、上記歩行周期判定部130と同様の処理により、モデル生成用加速度データ及びそれに対応する関節角度データの平均化処理を行っておく。具体的には、複数の各右歩行周期内におけるX軸,Y軸,Z軸の加速度の加算平均を算出して1右歩行周期におけるX軸,Y軸,Z軸のそれぞれの平均化加速度データを算出する。左歩行周期についても同様である。また、複数の各右歩行周期内における骨盤の各方向(矢状面,前額面,水平面)の右側関節角度データの加算平均を算出して1右歩行周期における各方向のそれぞれの平均化加速度データを算出する。股関節,膝関節,足関節における右側関節角度データについても同様である。さらに、左側関節角度データについても同様の処理を行っておく。
【0035】
重回帰モデルの説明変数(独立変数)Aは、平均化加速度データを主成分分析して得られたN次元(N:自然数)の主成分[A1,A2,…,AN]Tからなる。ここで、主成分分析の対象となる観測変数のサンプル数は、1歩行(歩行開始から歩歩行終了までの一連の動作)あたり右歩行周期に係る平均化加速度データと左歩行周期に係る平均化加速度データの2つである。したがって、主成分分析の対象となる観測変数のサンプル数は、モデル生成用の計測に係る歩行回数×2である。
【0036】
主成分分析の対象となる観測変数は、1歩行周期内の各計測時における複数の軸の各平均化加速度データからなるデータ群である。
図9に、平均化加速度データの一例を示す。
図9に示すように、1つの平均化加速度データは3軸(X軸,Y軸,Z軸)の平均化加速度データからなる。すなわち、
図9のグラフ全体が1つの観測変数となる。例えば、歩行周期内において時間軸方向に1%きざみで平均化加速度データの計測値を用いる場合、観測変数の成分数は101(0%~100%)×3(X軸,Y軸,Z軸)個となる。本発明では、主成分分析の手法を用いて、この多数の成分をN個の主成分に変換する。
【0037】
具体的には、まず、(1)平均化加速度データの非標準化主成分得点と、各主成分軸の固有ベクトル(以下「加速度固有ベクトル」と言う)を算出する。ここで、算出される非標準化主成分得点は、主成分分析で得られる各主成分軸の固有値が1以上のものをN個選択する。(2)次に、上記(1)で算出された平均化加速度データの非標準化主成分得点に対して、標準化処理(平均0、分散1)を行い、平均化加速度データの標準化主成分得点A1,A2,…,ANを算出する。なお、上記(1)で算出した各主成分軸の加速度固有ベクトルは、記憶部160に解析用パラメータ169の1つとして記憶しておく。
【0038】
重回帰モデルの目的変数(従属変数)Bは、平均化関節角度データを主成分分析して得られたM次元(M:自然数)の主成分[B1,B2,…,BM]Tからなる。ここで、平均化関節角度データは平均化加速度データに対応するものなので、主成分分析の対象となる観測変数のサンプル数は、平均化加速度データの主成分分析と同じサンプル数である。
【0039】
主成分分析の対象となる観測変数は、1歩行周期内の各計測時における複数の関節についての複数の方向からみた各関節の各平均化角度データからなるデータ群である。
図10に、平均化関節角度データの一例を示す。
図10に示すように、1つの平均化関節角度データは、複数の関節についての平均化関節角度データからなる。そして、各関節の平均化関節角度データは、それぞれ複数の方向についての平均化関節角度データからなる。すなわち、
図10の複数のグラフ全体が1つの観測変数となる。例えば、歩行周期内において時間軸方向に1%きざみで平均化関節角度データの計測値を用いる場合、各観測変数の成分数は101(0%~100%)×3(矢状面,前額面,水平面)×4(骨盤,股関節,膝関節,足関節)個となる。本発明では、主成分分析の手法を用いて、この多数の成分をM個の主成分に変換する。
【0040】
具体的には、まず、(1)平均化関節角度データの非標準化主成分得点と、各主成分軸の固有ベクトル(以下「関節角度固有ベクトル」と言う)を算出する。ここで、算出される非標準化主成分得点は、主成分分析で得られる各主成分軸の固有値が1以上のものをM個選択する。(2)次に、上記(1)で算出された平均化関節角度データの非標準化主成分得点に対して、標準化処理(平均0、分散1)を行い、平均化関節角度データの標準化主成分得点B1,B2,…,BMを算出する。なお、上記(1)で算出した各主成分軸の関節角度固有ベクトルは、記憶部160に解析用パラメータ169の1つとして記憶しておく。
【0041】
以上の処理により得られた説明変数(独立変数)A及び目的変数(従属変数)を用いて重回帰分析を行うことにより、重回帰モデルが作成される。重回帰モデルは、以下の式で表せる。
【0042】
B1=α11・A1+α21・A2+α31・A3+ … +αN1・AN+β1
B2=α12・A1+α22・A2+α32・A3+ … +αN2・AN+β2
B3=α13・A1+α23・A2+α33・A3+ … +αN3・AN+β3
…
BM=α1M・A1+α2M・A2+α3M・A3+ … +αNM・AN+βM
【0043】
上記の式をベクトル表記すると、以下のようになる。
B=αA+β
【0044】
ここでαはN×M次元、βはM次元の係数パラメータである。このα及びβを記憶部160に解析用パラメータ169の1つとして記憶しておく。
【0045】
歩行姿勢解析部140は、
図11に示すように、右平均加化速度データ162aから右側関節角度データ163aを算出し、左平均化加速度データ162bから左側関節角度データ163aを算出する。以下、歩行姿勢解析部140における歩行姿勢の解析処理の詳細について説明する。
【0046】
まず、歩行姿勢解析部140は、記憶部160に記憶されている右足平均化加速度データ162aを、主成分分析の手法を用いてN個の主成分に変換する(
図2のステップS8)。具体的には、各軸の右平均化加速度データ162aと、解析用パラメータ169に含まれる加速度固有ベクトルを乗算して右平均化加速度データの非標準主成分得点を算出し、さらに標準化(平均0、分散1)処理を行うことにより右平均化加速度データの標準化主成分得点を算出する。この右平均化加速度データの標準化主成分得点は、N次元の主成分からなる重回帰モデルの説明変数(独立変数)Aである。
【0047】
次に、歩行姿勢解析部140は、解析用パラメータ169に含まれる重回帰モデルの係数パラメータを用いて、すなわち上述の重回帰モデルを用いて、前記説明変数(独立変数)Aから目的変数(従属変数)Bである関節角度データの標準化主成分得点を算出する(
図2のステップS9)。ここで、目的変数(従属変数)BはM次元のデータである。
【0048】
次に、歩行姿勢解析部140は、算出したM個の関節角度データの標準化主成分得点を主成分として、主成分分析の手法を用いて当該主成分を関節角度データに逆変換する(
図2のステップS10)。具体的には、歩行姿勢解析部140は、算出した関節角度データの標準化主成分得点と、解析用パラメータ169に含まれる関節角度固有ベクトルを用いて、1右歩行周期における、右半身の各関節(骨盤,股関節,膝関節,足関節)の、各方向(矢状面,前額面,水平面)の関節角度データを算出する。歩行姿勢解析部140は、算出した右半身の各関節角度データを右側関節角度データ163aとして記憶部160に記憶する。
【0049】
歩行姿勢解析部140は、同様の解析処理を行うことにより、左足に係る平均化加速度データ162bに基づき左側関節角度データ163bを算出して記憶部160に記憶する。なお、この解析処理で用いる解析用パラメータ169は、左右で共通である点に留意されたい。
【0050】
表示制御部150は、記憶部160に記憶された右側関節角度データ163a及び左側関節角度データ163bを可視化するための表示制御を行う(
図2のステップS11)。具体的には、表示制御部150は、周知の3次元動作解析ソフトウェアからなり、各関節角度データ163a及び163bを1歩行周期内における骨格の動きとして、所定の表示装置300に3次元で繰り返し動画として表示する。表示制御部150による骨格の表示形態は不問である。
図12は、歩き始めの骨格301と歩き終わりの骨格302とを表示している画像の一例である。
【0051】
本実施の形態に係る歩行姿勢解析装置100によれば、被験者の歩行中の加速度データに基づき歩行中の姿勢を解析する。この加速度データは加速度センサ200により容易且つ廉価に取得することができる。したがって、被験者の歩行中の姿勢を簡便且つ廉価に解析することができる。
【0052】
以上、本発明の一実施の形態について詳述したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよい。
【0053】
例えば、上記実施の形態では、歩行姿勢解析部140で用いる解析用パラメータ169は予め記憶部160に記憶しておいたが、解析処理毎に或いは定期的にネットワークを介して所定の管理サーバやストレージにアクセスし、最新の解析用パラメータ169を当該管理サーバ等から取得するようにしてもよい。
【0054】
また、上記実施の形態では、歩行姿勢解析装置100は、加速度センサ200と、加速度データ取得部110と、データ範囲設定部120と、歩行周期判定部130と、歩行姿勢解析部140と、表示制御部150と、記憶部160と、表示装置300とを1つの装置として実装していたが、任意の組み合わせで複数の装置に分散して実装することができる。例えば、加速度データを取得する装置と、解析処理を行う装置と、解析結果の表示を行う装置とを、それぞれ別装置として実装することができる。
【符号の説明】
【0055】
100…歩行姿勢解析装置
110…加速度データ取得部
120…データ範囲設定部
130…歩行周期判定部
140…歩行姿勢解析部
150…表示制御部
160…記憶部