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特開2024-173320歩行評価得点の算出装置、方法並びにプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173320
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】歩行評価得点の算出装置、方法並びにプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
A61B5/11 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091664
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001863
【氏名又は名称】弁理士法人アテンダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水本 理恵
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VA12
4C038VB01
4C038VB24
4C038VB31
4C038VC20
(57)【要約】
【課題】被験者の歩行中の関節角度に基づく有用な各種評価得点を簡便且つ廉価に算出することができる装置、方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】歩行評価得点の算出装置は、加速度データ取得部110と、取得した加速度データから1歩行周期における右側及び左側関節角度データ173を算出する関節角度データ算出部140と、算出した1歩行周期における右側及び左側関節角度データ173とその基準データ178とに基づき1歩行周期における右側及び左側関節得点174を算出する関節得点算出部151と、算出した右側及び左側関節得点174に基づき歩行評価得点175を算出する評価得点算出処理部152とを備えた。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者に固定された加速度センサにより計測された歩行中の被験者の加速度データを取得する加速度データ取得部と、
取得した加速度データに基づき1歩行周期における右半身の関節角度データである右側関節角度データおよび左半身の関節角度データである左側関節角度データを算出する関節角度データ算出部と、
算出した1歩行周期における右側関節角度データとその基準データとに基づき1歩行周期における右側関節得点を算出するとともに算出した1歩行周期における左側関節角度データとその基準データとに基づき1歩行周期における左側関節得点を算出する関節得点算出部と、
算出した右側関節得点および左側関節得点に基づき歩行評価得点を算出する歩行評価得点算出部とを備えた
ことを特徴とする歩行評価得点の算出装置。
【請求項2】
前記歩行評価得点算出部は、前記右側関節得点と前記左側関節得点との差の1歩行周期内での平均値である左右差評価得点を算出する左右差評価得点算出部を含む
ことを特徴とする請求項1記載の歩行評価得点の算出装置。
【請求項3】
前記関節角度データ算出部は、少なくとも骨盤の関節角度データを複数の方向について算出し、
前記歩行評価得点算出部は、左右差評価得点算出部により算出された複数の方向についての骨盤の左右差評価得点に基づき姿勢の左右差についての評価得点である姿勢左右差評価得点を算出する
ことを特徴とする請求項2記載の歩行評価得点の算出装置。
【請求項4】
前記関節角度データ算出部は、少なくとも股関節、膝関節、足関節の矢状面における関節角度データを算出し、
前記歩行評価得点算出部は、左右差評価得点算出部により算出された複数の関節についての矢状面の左右差評価得点に基づき関節の動きの左右差についての評価得点である関節左右差評価得点を算出する
ことを特徴とする請求項2記載の歩行評価得点の算出装置。
【請求項5】
前記歩行評価得点算出部は、前記右側関節得点と前記左側関節得点との平均値の1歩行周期内での平均値である左右平均評価得点を算出する左右平均評価得点算出部を含む
ことを特徴とする請求項1記載の歩行評価得点の算出装置。
【請求項6】
前記関節角度データ算出部は、少なくとも骨盤の関節角度データを複数の方向について算出し、
前記歩行評価得点算出部は、左右平均評価得点算出部により算出された複数の方向についての骨盤の左右平均評価得点に基づき姿勢の評価得点である姿勢評価得点を算出する
ことを特徴とする請求項5記載の歩行評価得点の算出装置。
【請求項7】
前記関節角度データ算出部は、少なくとも股関節、膝関節、足関節の矢状面における関節角度データを算出し、
前記歩行評価得点算出部は、左右平均評価得点算出部により算出された複数の関節についての矢状面の左右平均評価得点に基づき関節の動きについての評価得点である関節の動き評価得点を算出する
ことを特徴とする請求項5記載の歩行評価得点の算出装置。
【請求項8】
前記歩行評価得点算出部は、歩行に影響を与える筋肉について1歩行周期内において当該筋肉が力を発揮する期間である筋力発揮期間を記憶する筋力発揮期間記憶部と、筋肉と関連する関節についての前記右側関節得点又は前記左側関節得点の前記筋力発揮間内での平均値である筋力評価得点を算出する筋力評価得点算出部とを含む
ことを特徴とする請求項1記載の歩行評価得点の算出装置。
【請求項9】
コンピュータを用いて歩行に係る評価得点を算出する方法であって、
被験者に固定された加速度センサにより計測された歩行中の被験者の加速度データを取得するステップと、
取得した加速度データに基づき1歩行周期における右半身の関節角度データである右側関節角度データおよび左半身の関節角度データである左側関節角度データを算出するステップと、
算出した1歩行周期における右側関節角度データとその基準データとに基づき1歩行周期における右側関節得点を算出するとともに算出した1歩行周期における左側関節角度データとその基準データとに基づき1歩行周期における左側関節得点を算出するステップと、
算出した右側関節得点および左側関節得点に基づき歩行評価得点を算出するステップとを備えた
ことを特徴とする歩行評価得点の算出方法。
【請求項10】
コンピュータを、請求項1に記載の歩行評価得点の算出装置として機能させる
ことを特徴とする歩行評価得点の算出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行の評価得点を算出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
歩行者の歩行の様子を観測し、その観測結果に基づき定量的な歩行の評価得点を算出する手法が各種提案されている。例えば、特許文献1に記載のものでは、歩行通路に感圧シートを配置して歩行者の足跡を観測し、その観測結果に基づき各種の得点を算出している。また例えば、特許文献2に記載のものでは、デプスカメラを用いて例えば頭部など歩行者の特定の部位についてその移動軌跡を観測し、その観測結果に基づき各種の得点を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-052999号公報
【特許文献2】特開2017-205134号公報
【特許文献3】特許第6111837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載のものでは、感圧シートが必要となるのでコストがかかるとともに感圧シートを敷くための手間やスペースが必要であるという問題があった。また、特許文献2に記載のものも高価なデプスカメラが必要であるためコストがかかるという問題があった。また、特許文献2に記載のものでは、被験者とは別に撮影者が必要である、或いは、撮影者を用意できない場合には三脚等が必要であるなど計測に広い空間と手間が必要であるという問題もある。
【0005】
そこで、このような問題を解決する技術として、被験者に装着した加速度センサの検知データに基づき歩行に関する得点を算出する技術が提案されている(特許文献3参照)。加速度センサは廉価であり、近年広く普及しているスマートフォンなどの携帯機器に内蔵されていることが多い。また、加速度センサを被験者に装着して計測するので、撮影のための空間も不要である。このため、上述した特許文献1及び2における問題点は解決する。
【0006】
ところで、歩行者の歩行を評価するための解析対象として、歩行中における歩行者の関節角度の変化が検討されている。しかしながら、特許文献3に記載のものは、被験者の「重心位置の偏り」を算出するものであり、歩行中の関節角度を検出することはできない。一方、前述の特許文献2に記載のものでは、関節の角度を推定することが提案されているが、前述したようにコストが高い等の問題がある。また、特許文献2に記載のものでは、関節の角度を推定することについて提案されているものの、この関節角度から評価の指標として有用且つ定量的な評価得点については提案されていない。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、被験者の歩行中の関節角度に基づく有用な各種評価得点を簡便且つ廉価に算出することができる装置、方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る歩行評価得点の算出装置は、被験者に固定された加速度センサにより計測された歩行中の被験者の加速度データを取得する加速度データ取得部と、取得した加速度データに基づき1歩行周期における右半身の関節角度データである右側関節角度データおよび左半身の関節角度データである左側関節角度データを算出する関節角度データ算出部と、算出した1歩行周期における右側関節角度データとその基準データとに基づき1歩行周期における右側関節得点を算出するとともに算出した1歩行周期における左側関節角度データとその基準データとに基づき1歩行周期における左側関節得点を算出する関節得点算出部と、算出した右側関節得点および左側関節得点に基づき歩行評価得点を算出する歩行評価得点算出部とを備えたことを特徴とする。
【0009】
本発明の好適な態様の一例としては、前記歩行評価得点算出部は、前記右側関節得点と前記左側関節得点との差の1歩行周期内での平均値である左右差評価得点を算出する左右差評価得点算出部を含む。
【0010】
また、本発明の他の好適な態様の一例としては、前記歩行評価得点算出部は、前記右側関節得点と前記左側関節得点との平均値の1歩行周期内での平均値である左右平均評価得点を算出する左右平均評価得点算出部を含む。
【0011】
また、本発明の好適な態様の一例としては、前記歩行評価得点算出部は、歩行に影響を与える筋肉について1歩行周期内において当該筋肉が力を発揮する期間である筋力発揮期間を記憶する筋力発揮期間記憶部と、筋肉と関連する関節についての前記右側関節得点又は前記左側関節得点の前記筋力発揮間内での平均値である筋力評価得点を算出する筋力評価得点算出部とを含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被験者の歩行中の加速度データに基づき歩行評価得点を算出する。この加速度データは加速度センサにより容易且つ廉価に取得することができる。したがって、被験者の歩行評価得点を簡便且つ廉価に解析することができる。また、本発明では、加速データから算出した右側及び左側の関節角度データとその基準データとに基づき右側及び左側の関節得点を算出し、これらの関節得点から歩行評価得点を算出するので、基準データという指標に基づく定量的且つ有用な各種評価得点が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】運動支援装置の機能ブロック図
図2】運動支援装置の動作を説明するフローチャート
図3】計測した加速度データの一例
図4】合計加速度データの一例
図5】踵接地タイミングを説明する図
図6】奇数フェーズの第1歩行周期と偶数フェーズの第2歩行周期への区分けを説明する図
図7】加速度データの標準化処理及び平均化処理を説明する図
図8】歩行周期の左右判定を説明する図
図9】平均化加速度データの一例
図10】平均化関節角度データの一例
図11】関節角度データの算出処理を説明する図
図12】関節得点の算出処理を説明する図
図13】歩行評価得点のデータ構造
図14】1歩行周期における股関節の矢状面の角度と筋運動の関係を説明する図
図15】1歩行周期における膝関節の矢状面の角度と筋運動の関係を説明する図
図16】1歩行周期における足関節の矢状面の角度と筋運動の関係を説明する図
図17】1方向周期における筋力発揮期間を説明する図
図18】運動メニュー提示の処理を説明するフローチャート
図19】運動メニュー提示の処理を説明するフローチャート
図20】運動メニュー提示の処理を説明するフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施の形態に係る運動支援装置について図面を参照して説明する。本実施の形態に係る運動支援装置は、被験者に装着した加速度センサを歩行中の加速度データを取得し、この加速度データから各種の歩行評価得点を算出し、この歩行評価得点から被験者に運動メニューを提示する。したがって、本実施の形態に係る運動支援装置は、歩行評価得点の算出装置を内包する。図1は運動支援装置の機能ブロック図、図2は運動支援装置の動作を説明するフローチャートである。
【0015】
本実施の形態に係る運動支援装置100は、被験者により携帯された状態で歩行中の被験者の加速度データを取得する。そして、運動支援装置100は、取得した加速度データに基づき被験者の1歩行周期における右側及び左側の関節角度データを算出し、さらに算出した右側及び左側の関節角度データに基づき歩行評価得点を算出する。さらに、運動支援装置100は、算出した歩行評価得点を用いて被験者に対して運動メニューを提示する。以下、運動支援装置100の詳細について説明する。
【0016】
運動支援装置100は、図1に示すように、加速度データ取得部110と、データ範囲設定部120と、歩行周期判定部130と、関節角度データ算出部140と、歩行評価得点算出部150と、運動メニュー提示部160と、記憶部170とを備えている。また、運動支援装置100には、加速度センサ200と、表示装置300とが接続されている。なお、運動支援装置100から運動メニュー提示部160を除いたものが、歩行評価得点の算出装置に相当する。
【0017】
運動支援装置100の各部は、主演算装置、主記憶部、補助記憶部、入力装置等を備えた従来周知のコンピュータにより構成することができる。運動支援装置100は、前述の各部として機能させるプログラムをコンピュータにインストールすることにより実装することができる。運動支援装置100は、専用のハードウェアとして実装することができる。運動支援装置100は、複数の装置に分散して実装することができる。本実施の形態では、所謂「スマートフォン」と呼ばれる高機能携帯通信端末であって加速度センサ200及び表示装置300を内蔵した端末にプログラムをインストールすることにより運動支援装置100を実装した。
【0018】
加速度センサ200は、周知の3軸の慣性センサからなり、歩行者の歩行中の加速度を検出する。ここで検出する加速度は、鉛直方向(Z軸方向)の加速度、歩行方向(Y軸方向)の加速度、歩行方向に対した左右水平方向(X軸方向)の加速度である。なお、本実施の形態では、X軸について、歩行方向に対して右方向を正、左方向を負とする。
【0019】
加速度データ取得部110は、加速度センサ200により計測された歩行中の被験者の加速度データを所定の計測レート(例えば100Hz)で取得する(図2のステップS1)。ここで、加速度の計測中には、加速度センサ200の各軸方向が一定となるよう被験者に対する加速度センサ200の相対的な位置、すなわち運動支援装置100の相対的な位置を固定する。運動支援装置100の固定位置は、左右方向については被験者の正中線に近いほど好ましい。また、運動支援装置100の固定位置は、鉛直方向については股間より上より上が好ましく、また首より下が好ましい。したがって、加速度の計測中には、運動支援装置100は被験者の腹部中央の臍のあたり或いは背面側の腰の左右方向中央あたりに固定することが好ましい。加速度データ取得部110は、取得した加速度データ171を記憶部170に記憶する。取得した加速度データ171の一例を図3に示す。
【0020】
データ範囲設定部120は、加速度データ171のうち解析対象とする時間範囲を設定する。これは、加速度データ取得部110では、計測開始から計測終了までには歩行していない時間が含まれること及び歩行開始直後や歩行終了直前には歩行が安定していないことから、安定した歩行中に係る加速度データのみを解析対象とするよう時間範囲を設定するものである。
【0021】
データ範囲設定部120は、加速度データ171のX軸とY軸とZ軸の加速度を加算するとともに、加算後の加速度データに対してローパスフィルタを適用してノイズ除去処理(Sin波処理)を行うことにより合算加速度データを生成する(図2のステップS2)。データ範囲設定部120は、この合算加速度データに基づき解析対象とする時間範囲を設定する(図2のステップS3)。図4に、合成加速度データの一例を示す。図4において、合成加速度が所定値以上のピーク値(極大値)となる時が踵接地時であり、最初のピーク値検出時から最後のピーク値検出時までが歩行時間範囲であると考えられる。
【0022】
データ範囲設定部120による時間範囲の設定処理は、所定のアルゴリズムにより自動的に行ってもよいし、利用者による入力指示により行ってもよい。前者の場合、例えば、データ範囲設定部120は、図4に示すように、合成加速度が所定値以上のピーク値(極大値)となる時を踵接地時として検出し、最初から2つ目の踵接地時から、最後から2つ目の踵接地時までを、解析対象の時間範囲であると設定する。また、後者の場合、データ範囲設定部120は、表示装置300に合成加速度データを表示し、利用者から解析対象となる時間範囲の入力を受け付け、これを解析対象の時間範囲に設定する。
【0023】
歩行周期判定部130は、加速度データ171を、被験者の一方の足が接地してから当該一方の足が次に接地するまでの歩行周期である第1歩行周期に区分するとともに、被験者の他方の足が接地してから当該他方の足が次に接地するまでの歩行周期である第2歩行周期とに区分する。さらに、歩行周期判定部130は、第1歩行周期及び第2歩行周期がそれぞれ右足に係る歩行周期であるか或いは左足に係る歩行周期であるかを判定する。以下、歩行周期判定部130の詳細について説明する。
【0024】
歩行周期判定部130は、データ範囲設定部120で設定した時間範囲において前述の合計加速度データを参照し、合成加速度がピーク値(極大値)となる時を踵接地時として検出及び計数し、踵接地タイミング情報として記憶する。図5に、合成加速度と踵接地タイミングの関係を示す。
【0025】
次に、歩行周期判定部130は、前記踵接地タイミング情報を参照して、加速度データ171に対して、隣り合う奇数の計数値間の複数の区間(「奇数フェーズ」と呼ぶ)と、隣り合う偶数の計数値間の複数の区間(「偶数フェーズ」と呼ぶ)に区分する(図2のステップS4)。各奇数フェーズは、被験者の一方の踵が接地してから当該一方の踵が次に接地するまでの歩行周期である第1歩行周期である。具体的には、1番目の踵接地時から3番目の踵接地時まで、3番目の踵接地時から5番目の踵接地時まで、…2n+1番目の踵接地時から2n+3番目の踵接地時まで、がそれぞれ奇数フェーズである。同様に、各偶数フェーズは、被験者の他方の踵が接地してから当該他方の踵が次に接地するまでの歩行周期である第2歩行周期である。具体的には、2番目の踵接地時から4番目の踵接地時まで、4番目の踵接地時から6番目の踵接地時まで、…2n番目の踵接地時から2n+2番目の踵接地時まで、がそれぞれ偶数フェーズである。図6に、区分けされた奇数フェーズの第1歩行周期と、区分けされた偶数フェーズの第2歩行周期を示す。
【0026】
次に、歩行周期判定部130は、区分けされた奇数フェーズ及び偶数フェーズの各歩行周期について、時間軸方向の単位を、実時間から0~1(0~100%)に正規化する(図2のステップS5)。本発明では各歩行周期における加速度の波形特徴に基づき関節角度の解析を行うものであるが、被験者の歩行は安定しないため各歩行周期の周期時間にはばらつきがある。このため、本発明では前述したような時間軸方向の正規化処理を行っている。
【0027】
次に、歩行周期判定部130は、図7に示すように、加速度データ171を参照し、奇数フェーズについて、各第1歩行周期内におけるX軸,Y軸,Z軸の加速度の加算平均を算出して1歩行周期におけるX軸,Y軸,Z軸のそれぞれの平均化加速度データ172を算出し、これを記憶部170に記憶する(図2のステップS6)。歩行周期判定部130は、同様にして偶数フェーズにおける平均化加速度データ172を算出し、これを記憶部170に記憶する。なお、後述の処理により各フェーズの左右判定が行われる結果、図1に示すように、記憶部170に記憶される2つの平均化加速度データ172は、右足に係る平均化加速度データ(右平均化加速度データ)172aと、左足に係る平均化加速度データ(左平均化加速度データ)172bとして扱われる。
【0028】
次に、歩行周期判定部130は、奇数フェーズ又は偶数フェーズの何れか一方、ここでは奇数フェーズのX軸の平均化加速度の波形特徴に基づき、当該奇数フェーズの第1歩行周期が右足に係る歩行周期であるか左足に係る歩行周期であるかを判定する(図2のステップS7)。
【0029】
具体的には、歩行周期判定部130は、図8に示すように、歩行周期の時間軸方向の前半部、好適には20~50%の時間範囲におけるX軸の平均化加速度の値に基づき、左右判定を行う。さらに具体的には、前記時間範囲において、X軸の正の平均化加速度の数とX軸の負の平均化加速度の数を計数し、両者を比較する。そして、X軸の正の平均化加速度の数の方が多いときには、当該奇数フェーズの第1歩行周期が左足に係る歩行周期であると判定する。一方、X軸の負の平均化加速度の数の方が多いときには、当該奇数フェーズの第1歩行周期が右足に係る歩行周期であると判定する。以下、歩行周期判定部130により右足に係る歩行周期であると判定された歩行周期を右歩行周期と言う。同様に、歩行周期判定部130により左足に係る歩行周期であると判定された歩行周期を左歩行周期と言う。
【0030】
なお、他の実施の形態では、X軸の平均化加速度の正負の数にかえて、左右判定に用いる基準としてX軸の平均化加速度の積分値など他の統計値を用いることができる。また、他の実施の形態では、判定対象の時間軸方向の範囲を、時間軸方向前半の範囲にかえて後半の範囲とすることができる。この場合、判定時においてX軸の平均化加速度の正負が逆転したものとして判定する。また、他の実施の形態では、偶数フェーズの複数の第2歩行周期に基づき左右判定を行うことができる。この場合、判定時においてX軸の平均化加速度の正負が逆転したものとして判定する。
【0031】
関節角度データ算出部140は、予め算出された重回帰モデルを用いて、右歩行周期における右平均化加速度データ172aから当該歩行周期における右半身の関節の角度データである右側関節角度データ173aを算出するとともに、左歩行周期における左平均化加速度データ172bから当該歩行周期における左半身の関節の角度データである左側関節角度データ173bを算出する。まず、この算出処理で用いる重回帰モデルの詳細について説明する。
【0032】
この重回帰モデルは、運動支援装置100による算出処理に先立って、予め、他のコンピュータを用いて算出されたものである。算出された重回帰モデルのパラメータは、予め記憶部170に解析用パラメータ177として記憶しておく。
【0033】
この重回帰モデルは、予め計測した複数の被験者に係る歩行時の加速度データ(モデル生成用加速度データ)と、当該モデル生成用加速度データに対応する当該計測時に撮像・画像解析して得られた関節角度データとをサンプルとして主成分分析及び重回帰分析を行い算出されたものである。ここで、重回帰モデルの算出に用いるモデル生成用加速度データ及び関節角度データは、右歩行周期と左歩行周期に係るものの双方を含む。すなわち、重回帰モデルは、右足用と左足用とに区別されているのではなく、右足用と左足用とで共通する1つのものである。
【0034】
関節角度データは、人体の関節を構成する骨間の角度を表す。また、関節角度データは、右半身に係る関節角度データ(右側関節角度データ)と、左半身に係る関節角度データ(左側関節角度データ)とを含む。右側関節角度データは、右歩行周期における加速度データに対応する。左側関節角度データは、左歩行周期における加速度データに対応する。本実施の形態では、被験者の下半身すなわち腰より下の関節を対象とする。具体的には左右の骨盤,股関節,膝関節,足関節を対象とする。また、各関節角度データは、矢状面における角度(横から見た角度)と、前額面における角度(正面からみた角度)と、水平面における角度(上から見た角度)とを含む。したがって、左右の関節角度データは、それぞれ1計測タイミングあたり、4カ所×3方向=12の計測値を含む。
【0035】
重回帰モデルの作成に用いられるモデル生成用加速度データ及びそれに対応する関節角度データは、予め、上記データ範囲設定部120と同様の処理により解析対象とする時間範囲を設定する。
【0036】
また、上記歩行周期判定部130と同様の処理により、モデル生成用加速度データ及びそれに対応する関節角度データは、複数の右歩行周期及び左歩行周期に区分するとともに、時間軸方向に正規化処理を行っておく。
【0037】
さらに、上記歩行周期判定部130と同様の処理により、モデル生成用加速度データ及びそれに対応する関節角度データの平均化処理を行っておく。具体的には、複数の各右歩行周期内におけるX軸,Y軸,Z軸の加速度の加算平均を算出して1右歩行周期におけるX軸,Y軸,Z軸のそれぞれの平均化加速度データを算出する。左歩行周期についても同様である。また、複数の各右歩行周期内における骨盤の各方向(矢状面,前額面,水平面)の右側関節角度データの加算平均を算出して1右歩行周期における各方向のそれぞれの平均化加速度データを算出する。股関節,膝関節,足関節における右側関節角度データについても同様である。さらに、左側関節角度データについても同様の処理を行っておく。
【0038】
重回帰モデルの説明変数(独立変数)Aは、平均化加速度データを主成分分析して得られたN次元(N:自然数)の主成分[A,A,…,Aからなる。ここで、主成分分析の対象となる観測変数のサンプル数は、1歩行(歩行開始から歩行終了までの一連の動作)あたり右歩行周期に係る平均化加速度データと左歩行周期に係る平均化加速度データの2つである。したがって、主成分分析の対象となる観測変数のサンプル数は、モデル生成用の計測に係る歩行回数×2である。
【0039】
主成分分析の対象となる観測変数は、1歩行周期内の各計測時における複数の軸の各平均化加速度データからなるデータ群である。図9に、平均化加速度データの一例を示す。図9に示すように、1つの平均化加速度データは3軸(X軸,Y軸,Z軸)の平均化加速度データからなる。すなわち、図9のグラフ全体が1つの観測変数となる。例えば、歩行周期内において時間軸方向に1%きざみで平均化加速度データの計測値を用いる場合、観測変数の成分数は101(0%~100%)×3(X軸,Y軸,Z軸)個となる。本発明では、主成分分析の手法を用いて、この多数の成分をN個の主成分に変換する。
【0040】
具体的には、まず、(1)平均化加速度データの非標準化主成分得点と、各主成分軸の固有ベクトル(以下「加速度固有ベクトル」と言う)を算出する。ここで、算出される非標準化主成分得点は、主成分分析で得られる各主成分軸の固有値が1以上のものをN個選択する。(2)次に、上記(1)で算出された平均化加速度データの非標準化主成分得点に対して、標準化処理(平均0、分散1)を行い、平均化加速度データの標準化主成分得点A,A,…,Aを算出する。なお、上記(1)で算出した各主成分軸の加速度固有ベクトルは、記憶部170に解析用パラメータ177の1つとして記憶しておく。
【0041】
重回帰モデルの目的変数(従属変数)Bは、平均化関節角度データを主成分分析して得られたM次元(M:自然数)の主成分[B,B2,…,Bからなる。ここで、平均化関節角度データは平均化加速度データに対応するものなので、主成分分析の対象となる観測変数のサンプル数は、平均化加速度データの主成分分析と同じサンプル数である。
【0042】
主成分分析の対象となる観測変数は、1歩行周期内の各計測時における複数の関節についての複数の方向からみた各関節の各平均化角度データからなるデータ群である。図10に、平均化関節角度データの一例を示す。図10に示すように、1つの平均化関節角度データは、複数の関節についての平均化関節角度データからなる。そして、各関節の平均化関節角度データは、それぞれ複数の方向についての平均化関節角度データからなる。すなわち、図10の複数のグラフ全体が1つの観測変数となる。例えば、歩行周期内において時間軸方向に1%きざみで平均化関節角度データの計測値を用いる場合、各観測変数の成分数は101(0%~100%)×3(矢状面,前額面,水平面)×4(骨盤,股関節,膝関節,足関節)個となる。本発明では、主成分分析の手法を用いて、この多数の成分をM個の主成分に変換する。
【0043】
具体的には、まず、(1)平均化関節角度データの非標準化主成分得点と、各主成分軸の固有ベクトル(以下「関節角度固有ベクトル」と言う)を算出する。ここで、算出される非標準化主成分得点は、主成分分析で得られる各主成分軸の固有値が1以上のものをM個選択する。(2)次に、上記(1)で算出された平均化関節角度データの非標準化主成分得点に対して、標準化処理(平均0、分散1)を行い、平均化関節角度データの標準化主成分得点B,B2,…,Bを算出する。なお、上記(1)で算出した各主成分軸の関節角度固有ベクトルは、記憶部170に解析用パラメータ177の1つとして記憶しておく。
【0044】
以上の処理により得られた説明変数(独立変数)A及び目的変数(従属変数)を用いて重回帰分析を行うことにより、重回帰モデルが作成される。重回帰モデルは、以下の式で表せる。
【0045】
=α11・A+α21・A+α31・A+ … +αN1・A+β
=α12・A+α22・A+α32・A+ … +αN2・A+β
=α13・A+α23・A+α33・A+ … +αN3・A+β

=α1M・A+α2M・A+α3M・A+ … +αNM・A+β
【0046】
上記の式をベクトル表記すると、以下のようになる。
B=αA+β
【0047】
ここでαはN×M次元、βはM次元の係数パラメータである。このα及びβは記憶部170に解析用パラメータ177の1つとして記憶しておく。
【0048】
関節角度データ算出部140は、図11に示すように、右平均加化速度データ172aから右側関節角度データ173aを算出し、左平均化加速度データ172bから左側関節角度データ173bを算出する。以下、関節角度データ算出部140における関節角度データの算出処理の詳細について説明する。この処理は左右で同様なので、ここでは右側の算出処理を例にして説明する。
【0049】
まず、関節角度データ算出部140は、記憶部170に記憶されている右足平均化加速度データ172aを、主成分分析の手法を用いてN個の主成分に変換する(図2のステップS8)。具体的には、各軸の右平均化加速度データ172aと、解析用パラメータ177に含まれる加速度固有ベクトルを乗算して右平均化加速度データの非標準主成分得点を算出し、さらに標準化(平均0、分散1)処理を行うことにより右平均化加速度データの標準化主成分得点を算出する。この右平均化加速度データの標準化主成分得点は、N次元の主成分からなる重回帰モデルの説明変数(独立変数)Aである。
【0050】
次に、関節角度データ算出部140は、解析用パラメータ177に含まれる重回帰モデルの係数パラメータを用いて、すなわち上述の重回帰モデルを用いて、前記説明変数(独立変数)Aから目的変数(従属変数)Bである関節角度データの標準化主成分得点を算出する(図2のステップS9)。ここで、目的変数(従属変数)BはM次元のデータである。
【0051】
次に、関節角度データ算出部140は、算出したM個の関節角度データの標準化主成分得点を主成分として、主成分分析の手法を用いて当該主成分を関節角度データに逆変換する(図2のステップS10)。具体的には、関節角度データ算出部140は、算出した関節角度データの標準化主成分得点と、解析用パラメータ177に含まれる関節角度固有ベクトルを用いて、1右歩行周期における、右半身の各関節(骨盤,股関節,膝関節,足関節)の、各方向(矢状面,前額面,水平面)の関節角度データを算出する。すなわち、右側関節角度データ173aは、(関節,方向)の組み合わせ毎に算出される。本実施の形態では、右側関節角度データ173aは、4関節×3方向=12個の関節角度データ群となる。そして、各関節角度データは、1歩行周期内において時間軸方向に1%きざみで101個の値を有する。関節角度データ算出部140は、算出した右半身の各関節角度データを右側関節角度データ173aとして記憶部170に記憶する。
【0052】
関節角度データ算出部140は、同様の解析処理を行うことにより、左足に係る平均化加速度データ172bに基づき左側関節角度データ173bを算出して記憶部170に記憶する。なお、この解析処理で用いる解析用パラメータ177は、左右で共通である点に留意されたい。
【0053】
以上の処理により、関節角度データ算出部140によって、左右(2)×4関節×3方向=24個の関節角度データ173が算出される。
【0054】
歩行評価得点算出部150は、関節得点算出部151と、評価得点算出処理部152とを備えている。
【0055】
関節得点算出部151は、1歩行周期における関節角度データ173から1歩行周期における関節の動きの評価得点である関節得点174を算出する(図2のステップS11)。より具体的には、関節得点算出部151は、1歩行周期における右側関節角度データ173aとその基準データ178に基づき1歩行周期における右側関節得点174aを算出するとともに、左側関節角度データ173bとその基準データ178に基づき1歩行周期における左側関節得点174bを算出、これらを記憶部170に記憶する。
【0056】
前述したように、各関節角度データ173a,173bは、それぞれ各関節及び各方向に対応した12個の関節角度データからなるので、関節得点算出部151は、各関節角度データ173a,173bに対応するそれぞれ12個の関節得点174a,174bを算出する。本実施の形態では、各関節得点174は、1歩行周期内において時間軸方向に1%きざみで101個の値を有する。
【0057】
基準データ178は、予め計測した複数の被験者に係る右側関節角度データ173a及び左側関節角度データ173bをサンプルとして算出される。基準データ178は、サンプルの1歩行周期内の各時刻における、関節角度の確率分布を定義するデータである。本実施の形態では、各時刻tにおける各関節角度データ173a,173bの確率分布が正規分布であると仮定し、基準データ178として各時刻tにおける平均値μ(t)と標準偏差σ(t)を用いた。この基準データ178は、各関節及び各方向ごとに、予め記憶部170に記憶しておく。本実施の形態では、各関節及び各方向に対応した12個の基準データ178を記憶しておく。この基準データ178は、良い歩き方の基準として用いるものである。
【0058】
以下、関節得点算出部151の処理について説明する。当該処理は左右で同様なので、ここでは図12を参照して右側の処理を例にして説明する。図12は右股関節矢状面についての関節得点の算出を説明する図である。図12において基準データは平均値μを示している。
【0059】
関節得点算出部151は、1歩行周期内の各時刻tにおいて、右側関節角度データ173aにおける角度データ(t)と基準データ178に含まれる平均値μ(t)との差(t)と、当該差d(t)と基準データ178に含まれる標準偏差σ(t)に基づき、関節得点(t)を算出する。ここで、関節得点算出部151は、角度データ(t)が平均値μ(t)に近いほど得点が高く、すなわち差d(t)がゼロに近いほど得点が高くなるように得点を算出する。より具体的には、関節得点算出部151は、|差d(t)/標準偏差σ(t)|が小さいほど得点が高く、|差d(t)/標準偏差σ(t)|が大きいほど得点が低くなるように得点を算出する。
【0060】
例えば、関節得点を100点満点としたとき、角度データ(t)=平均値μ(t)の場合:得点(t)=100、角度データ(t)=平均値μ(t)±標準偏差σ(t)の場合:得点(t)=32、角度データ(t)=平均値μ(t)±2×標準偏差σ(t)の場合:得点(t)=5点とする。
【0061】
関節得点算出部151は、同様の算出処理を行うことにより、左側関節角度データ173b及び基準データ178に基づき左側の関節得点174bを算出して記憶部170に記憶する。なお、この算出処理で用いる基準データ178は、左右で共通である点に留意されたい。
【0062】
以上の処理により、関節得点算出部151によって、左右(2)×4関節×3方向=24個の関節得点174が算出される。
【0063】
評価得点算出処理部152は、各関節得点174a及び174bに基づき歩行の評価に有用な各種の歩行評価得点175を算出し、記憶部170に記憶する。
【0064】
本実施の形態では、評価得点算出処理部152は、歩行評価得点175として、図13に示すように、歩行の左右差を評価する左右差評価得点175a及び175bと、歩行時の姿勢を評価する姿勢評価得点175cと、歩行時の関節の動きを評価する関節の動き評価得点175dと、歩行に係る筋力を評価する筋力評価得点174eを算出する。
【0065】
左右差評価得点は、歩行時の姿勢の左右差を評価する姿勢左右差評価得点175aと、歩行時の関節の動きの左右差を評価する関節左右差評価得点175bとを含む。
【0066】
姿勢左右差評価得点175aは、人間の土台(下半身)の歪みに関する得点であり、得点が高いほど姿勢の左右差が小さく、したがって土台の歪みが小さい。一方、姿勢左右差評価得点175aが小さいほど、姿勢の左右差が大きく、したがって土台の歪みが大きい。評価得点算出処理部152は、まず、各関節及び各方向ごとに、1歩行周期内の各時刻における右側関節得点174aと左側関節得点174bとの差の絶対値を算出し、当該差の1歩行周期内での平均値を算出する。(関節,方向)毎の左右差評価得点(関節,方向)の算出式は以下のようになる。
【0067】
【数1】
【0068】
ここでTはサンプル数であり、本実施の形態では101である。
【0069】
次に、評価得点算出処理部152は、人間の土台(下半身)に着目し、次式により姿勢左右差評価得点175aを算出する。
【0070】
【数2】
【0071】
なお、上式のように、姿勢左右差評価得点175aは、(骨盤,水平面)に係る左右差評価得点と、(骨盤,前額面)に係る左右差評価得点の単純な算術平均であるが、適宜重み付け平均により算出するようにしてもよい。また、姿勢左右差評価得点175aは、姿勢の左右差を総合的に評価するのに有用な評価得点であるが、この算出に用いられる(骨盤,水平面)及び(骨盤,前額面)の左右差評価得点(関節,方向)についても有用な評価得点なのでこれらも歩行評価得点175aに含むものとする。
【0072】
関節左右差評価得点175bは、歩行における関節の動きの左右差を評価する得点であり、すなわち身体の使い方の偏りを評価する得点である。関節左右差評価得点175bは、得点が高いほど関節の動きの左右差が小さく、したがって身体の使い方の偏りが小さい。一方、得点が低いほど関節の動きの左右差が大きく、身体の使い方の偏りが大きい。評価得点算出処理部152は、各関節の矢状面における動きに注目し、以下の式により関節左右差評価得点175bを算出する。
【0073】
【数3】
【0074】
なお、上式のように、関節左右差評価得点175bは、矢状面における各関節(骨盤を除く)の左右差評価得点の単純な算術平均であるが、適宜重み付け平均により算出するようにしてもよい。また、関節左右差評価得点175bは、関節の動きの左右差を総合的に評価するのに有用な評価得点であるが、この算出に用いられる(股関節,矢状面)、(膝関節,矢状面)及び(足関節,矢状面)の左右差評価得点(関節,方向)についても有用な評価得点なのでこれらも関節左右差評価得点175bに含むものとする。
【0075】
姿勢評価得点175cは、歩行における姿勢を評価する得点であり、人間の土台(下半身)の安定性を評価する得点である。姿勢評価得点175cは、得点が高いほど土台の安定性が高く、得点が低いほど土台の安定性が小さい。評価得点算出処理部152は、まず、各関節及び各方向ごとに、1歩行周期内の各時刻における右側関節得点174aと左側関節得点174bとの平均値を算出し、当該平均値の1歩行周期内での平均値を算出する。(関節,方向)毎の左右平均評価得点(関節,方向)の算出式は以下のようになる。
【0076】
【数4】
【0077】
次に、評価得点算出処理部152は、人間の土台(下半身)に着目し、次式により姿勢評価得点175cを算出する。
【0078】
【数5】
【0079】
なお、上式のように、姿勢評価得点175cは、骨盤における各方向の左右平均評価得点の単純な算術平均であるが、適宜重み付け平均により算出するようにしてもよい。また、姿勢評価得点175cは、歩行における姿勢を総合的に評価するのに有用な評価得点であるが、この算出に用いられる(骨盤,矢状面)、(骨盤,前額面)及び(骨盤,水平面)の左右平均評価得点(関節,方向)についても有用な評価得点なのでこれらも姿勢評価得点175cに含むものとする。
【0080】
関節の動き評価得点175dは、歩行における身体の使い方を評価する得点である。関節の動き評価得点175dは、得点が高いほど身体の使い方が良好であり、得点が低いほど身体の使い方が良好ではない。評価得点算出処理部152は、各関節の矢状面における動きに注目し、以下の式により関節の動き評価得点175dを算出する。
【0081】
【数6】
【0082】
なお、上式のように、関節の動き評価得点175dは、矢状面における各関節(骨盤を除く)の左右平均評価得点の単純な算術平均であるが、適宜重み付け平均により算出するようにしてもよい。また、関節の動き評価得点175dは、歩行における関節の動きを総合的に評価するのに有用な評価得点であるが、この算出に用いられる(股関節,矢状面)、(膝関節,矢状面)及び(足関節,矢状面)の左右平均評価得点(関節,方向)についても有用な評価得点なのでこれらも姿勢評価得点175cに含むものとする。
【0083】
筋力評価得点175eの算出について説明する。筋力評価得点175eは、歩行で用いられる関節の動きと関連する筋肉(群)についての評価得点である。本発明では、筋肉(群)の評価にあたって、当該筋肉(群)と関連する関節についての関節得点を利用する。
【0084】
図14は股関節、膝関節、足関節の矢状面の関節角度と、各関節と関連する筋肉の筋活動のタイミングを示すグラフである。図14に示すように、人間の主要な筋肉のうち、大臀筋(下部)、大内転筋、大腿二頭筋(長頭)、半膜様筋、半腱様筋の矢状面方向における筋活動は、股関節の矢状面の伸展タイミングにおいて活発である。ここで、これらの筋肉群を股関節伸筋と呼ぶ。また、人間の主要な筋肉のうち、大腿直筋、腸骨筋、長内転筋、薄筋、縫工筋は、股関節の矢状面の屈曲タイミングにおいて活発である。ここで、これらの筋肉群を股関節屈筋と呼ぶ。
【0085】
同様に、図15に示すように、人間の主要な筋肉のうち、膝関節の矢状面の伸展タイミングにおいて活発である筋肉群を、膝関節伸筋と呼ぶ。また、人間の主要な筋肉のうち、膝関節の矢状面の屈曲タイミングにおいて活発である筋肉群を、膝関節伸筋と呼ぶ。
【0086】
同様に、図16に示すように、人間の主要な筋肉のうち、足関節の矢状面の背屈タイミングにおいて活発である筋肉群を、足関節背屈筋と呼ぶ。また、人間の主要な筋肉のうち、足関節の矢状面の底屈タイミングにおいて活発である筋肉群を、足関節底屈筋と呼ぶ。
【0087】
本実施の形態に係る評価得点算出処理部152は、上記の知見に基づき、右側及び左側のそれぞれについて、股関節伸筋、股関節屈筋、膝関節伸筋、膝関節屈筋、足関節背屈筋、足関節底屈筋群の6つの筋肉について個別筋力評価得点を算出し、個別筋力評価得点に基づき総合的な筋力評価得点175eを算出する。
【0088】
評価得点算出処理部152は、予め、図14図16に示すグラフに筋力発揮期間179を設定し、記憶部170に記憶しておく。筋力発揮期間179は、歩行に影響を与える各筋肉に対応する関節及び方向についての、1歩行周期において当該筋肉が力を発揮する期間である。なお、筋力発揮期間179は左右で共通である。筋力発揮期間179の一例を図17に示す。
【0089】
評価得点算出処理部152は、右側又は左側の筋肉と関連する関節についての関節得点174であって前記筋力発揮期間179における各関節得点の平均値を算出し、この平均値を左右及び筋肉毎の個別筋力評価得点とする。個別筋力評価得点は、以下の式により算出される。
【0090】
【数7】
【0091】
ここで、Tmは、筋力発揮期間内におけるサンプル数である。
【0092】
評価得点算出処理部152は、さらに、右左の各筋肉についての個別筋力評価得点を統計的手法により集計することにより総合的な筋力評価得点175eを算出する。集計方法としては、単純な算術平均や重み付け平均などが挙げられる。下記の式では、単純な算術平均を用いた。
【0093】
【数8】
【0094】
なお、筋力評価得点175eは、歩行における筋力を総合的に評価するのに有用な評価得点であるが、この算出に用いられる個別筋力評価得点についても有用な評価得点なのでこれらも筋力評価得点175eに含むものとする。
【0095】
運動メニュー提示部160は、評価得点算出処理部152により算出された左右差評価得点(姿勢左右差評価得点175a及び関節左右差評価得点175b)、姿勢評価得点175c、関節の動き評価得点175d、筋力評価得点175eに応じて、当該評価得点が所定の閾値以下の場合に当該評価得点に対応する運動メニューを選定するとともに、選定した運動メニューを表示装置300に表示することにより被験者に提示する。ここで所定の閾値は、評価対象の評価得点毎に設定してもよいし、複数の評価得点からなる群ごとに設定してもよいし、全ての評価得点で共通としてもよい。また評価得点に対応する運動メニューは、当該評価得点の向上に有効なものが予め設定される。また、運動メニューの提示は、各評価得点に含まれる関節毎や筋肉毎の評価得点に対応する運動メニューを提示することができる。
【0096】
また、運動メニュー提示部160は、運動メニューの選定は、左右差評価得点(姿勢左右差評価得点及び関節左右差評価得点)、姿勢評価得点、関節の動き評価得点の順序で、評価得点と当該評価得点に対応する所定の閾値との比較処理を所定の閾値以下の評価得点が見つかるまで繰り返し、最初に見つかった所定の閾値以下の評価得点に対応する運動メニューのみを選定する。運動メニュー提示部160は、左右差評価得点(姿勢左右差評価得点及び関節左右差評価得点)、姿勢評価得点、関節の動き評価得点の全てが所定の閾値より大きい場合には、筋力評価得点に対応する運動メニューを選定する。すなわち、提示する運動メニューは、運動による被験者の歩行に関する機能改善状況に応じて、これから実施すべき、左右差の改善に有効なもの、歩行姿勢の改善に有効なもの、歩行中の関節の動きに有効なもの、筋力アップに有効なものが順に提示される。また、この順序は、より良い歩行のために、どの順序で歩行評価得点を改善すべきかを定めたものである。
【0097】
運動メニュー提示部160は、下表に示す運動メニュー176を記憶部170に予め記憶しておく。下表の例に示すように、運動メニューは、1つの評価得点に対して複数設定することができる。なお、対応する運動メニューを有さない評価得点も存在する点に留意されたい。運動メニュー176の一例を下表に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
運動メニュー提示部160は、評価得点に対応する運動メニューの候補が複数ある場合には、候補数よりは少ない複数の運動メニューを選定することができる。また、運動メニュー提示部160は、評価得点に対応する運動メニューの候補が複数ある場合、運動メニューの候補群から前回選定時とは異なる運動メニューを選定する。ここで、候補数よりは少ない複数の運動メニューを提示する場合、「異なる運動メニューを選定する」とは提示する複数の運動メニューのうち少なくとも1つが前回選定されていないことを意味する。すなわち、前回提示した運動メニューを今回提示することは許容される。異なる運動メニューを選定するアルゴリズムとしては、ラウンドロビンによる選定やランダムな選定などが挙げられる。
【0100】
運動メニュー提示部160の動作の一例を図18図20のフローチャートに示す。図18図20の例は上記表1に基づくものであり、閾値は各評価得点で共通とした。
【0101】
本動作例では、運動メニュー提示部160は、姿勢左右差評価得点175aの1つである左右差評価得点(骨盤,前額面)、左右差評価得点(骨盤,水平面)、関節左右差評価得点bの1つである左右差評価得点(股関節,矢状面)、姿勢評価得点175cの1つである左右平均評価得点(骨盤,矢状面)、左右平均評価得点(骨盤,前額面)、左右平均評価得点(骨盤,水平面)、関節の動き評価得点175dの1つである左右平均評価得点(骨盤,前額面)、左右平均評価得点(足関節,矢状面)の順で評価する(ステップS101,S103,S105,S107,S111,S113,S115)。
【0102】
そして、運動メニュー提示部160は、評価得点が所定の閾値以下である場合、当該評価得点に対応する運動メニューを選定・提示する(ステップS102,S104,S106,S108,S110,S112,S114,S116)。一方、前述の全ての評価得点が所定の閾値より大きい場合、筋力評価得点に対応する運動メニューを選定する・提示する(ステップS117)。各運動メニューの選定・提示処理では、ランドロビン方式で前回選定したものと異なる運動メニューを選定・提示する。
【0103】
このような本実施の形態に係る運動支援装置100によれば、被験者の歩行中の加速度データに基づき歩行評価得点175を算出する。この加速度データは加速度センサ200により容易且つ廉価に取得することができる。したがって、被験者の歩行評価得点を簡便且つ廉価に解析することができる。なお、算出した各歩行評価得点175は、上記実施の形態のように運動メニュー提示部160で用いるほか、表示装置300に出力したり、他の装置に出力したり、各歩行評価得点175に基づく各種処理を行ったり、任意の活用が可能である。
【0104】
また、本実施の形態に係る運動支援装置100では、加速度データから算出した右側及び左側の関節角度データ173とその基準データ178とに基づき右側及び左側の関節得点174を算出し、これらの関節得点174から歩行評価得点175を算出するので、基準データ178という指標に基づく定量的且つ有用な各種の歩行評価得点が得られる。
【0105】
また、本実施の形態に係る運動支援装置100では、左右差評価得点175a及び175b、歩行姿勢評価得点175c、関節の動き評価得点175d、筋力評価得点175eを算出し、算出した各歩行評価得点175に対応した運動メニューを選定し、選定した運動メニューに被験者に提示する。したがって、改善すべき歩行評価得点に対応したより良い歩行のための運動を効率的且つ効果的に実施することができる。
【0106】
また、本実施の形態に係る運動支援装置100では、左右差評価得点175a,175b、姿勢評価得点175b、関節の動き評価得点175cの順序で、評価得点と当該評価得点に対応する所定の閾値との比較処理を所定の閾値以下の評価得点が見つかるまで繰り返し、最初に見つかった所定の閾値以下の評価得点に対応する運動メニューを選定し、所定の閾値以下の評価得点が見つからない場合には筋力評価得点に対応する運動メニューを選定する。すなわち、運動による被験者の歩行に関する機能改善状況に応じて、これから実施すべき運動メニューとして、左右差の改善に有効なもの、歩行姿勢の改善に有効なもの、歩行中の関節の動きに有効なもの、筋力アップに有効なものが順に提示される。これにより、歩行の機能改善を効率的且つ効果的に実施することができる。
【0107】
また、本実施の形態に係る運動支援装置100では、評価項目に対応する運動メニューが複数ある場合には、前回提示した運動メニューと異なる運動メニューを提示する。これにより、被験者にとっては飽きが生じることなく楽しく運動を実施することができる。
【0108】
以上、本発明の一実施の形態について詳述したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよい。
【0109】
例えば、上記実施の形態では、運動支援装置の一部として歩行評価得点の算出装置を実装したが、運動メニューの選定・表示機能を有さない装置として歩行評価得点の算出装置を実装するようにしてもよい。
【0110】
また、上記実施の形態では、歩行評価得点175として、姿勢左右差評価得点175a、関節左右差評価得点175b、姿勢評価得点175c、関節の動き評価得点175d、筋力評価得点174eの全てを算出したが、これらの歩行評価得点のうち任意の歩行評価得点ものを算出するようにしてもよい。また、上記実施の形態では、各歩行評価得点175は、総合的な評価得点とともに、当該評価得点の算出に用いた関節・方向・筋肉等に応じた個別の評価得点も含むものとしたが、任意の個別の評価得点のみを算出してもよい。
【0111】
また、上記実施の形態では、運動メニュー提示部160は、総合的な評価得点に含まれる個別の評価得点と運動メニューとを対応させていたが、総合的な評価得点と運動メニューを対応させるようにしてもよい。
【0112】
また、上記実施の形態では、1つの基準データ178を用いたが、性別や年齢層に応じて複数の基準データを予め用意しておき、被験者の性別や年齢層に応じて、利用する基準データ178を被験者に対応する基準データに切り替えるようにしてもよい。
【0113】
また、上記実施の形態では、解析用パラメータ177、基準データ178、筋力発揮期間179は予め記憶部170に記憶しておいたが、計測処理毎に或いは定期的にネットワークを介して所定の管理サーバやストレージにアクセスし、最新のデータを当該管理サーバ等から取得するようにしてもよい。
【0114】
また、上記実施の形態では、運動支援装置100は、加速度センサ200と、加速度データ取得部110と、データ範囲設定部120と、歩行周期判定部130と、関節角度データ算出部140と、歩行評価得点算出部150と、運動メニュー提示部160と、記憶部170と、表示装置300とを1つの装置として実装していたが、任意の組み合わせで複数の装置に分散して実装することができる。例えば、加速度データを取得する装置と、歩行評価得点を算出する装置と、表示メニューの選定・提示処理を行う装置とを、それぞれ別装置として実装することができる。
【符号の説明】
【0115】
100…運動支援装置
110…加速度データ取得部
120…データ範囲設定部
130…歩行周期判定部
140…歩行姿勢解析部
150…歩行評価得点算出部
151…関節得点算出部
152…評価得点算出処理部
160…運動メニュー提示部
170…記憶部
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