(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173327
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】船舶推進制御システム
(51)【国際特許分類】
B63H 20/00 20060101AFI20241205BHJP
B63H 21/21 20060101ALI20241205BHJP
B63H 20/20 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B63H20/00 803
B63H21/21
B63H20/20 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091675
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】南葉 正浩
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 直紀
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼部 守
(57)【要約】
【課題】船舶推進制御システムを船長が異なる複数の船舶に適用した場合でも、後進接続への切替遅延処理において、動力伝達機構の状態が後進接続状態に切り替わるタイミングが船舶間でずれることを抑制する。
【解決手段】船舶推進制御システムにおいて、模擬船速算出部は、スロットルバルブが全閉状態になったことによって船舶がプロペラ連れ回り状態で前進しかつ動力伝達機構の状態が前進接続状態を継続しているときのエンジン回転数に、船舶の推定船長に応じたスケール変換係数S
Cを乗ずることにより模擬船速を算出し、当該模擬船速を、勾配データに基づいて減少させていき、シフト制御部は、操作部の位置が前進位置からニュートラル位置に変わった後に続いて後進位置に変わったときに模擬船速が模擬船速閾値以下でない場合には、模擬船速が模擬船速閾値以下となるのを待ってから動力伝達機構の状態を非接続状態から後進接続状態に切り替える。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶に設けられた船外機、前記船外機を操作する操作部、および前記操作部の操作に基づいて前記船外機を制御する制御装置を備えた船舶推進制御システムであって、
前記船外機は、エンジン、燃焼用空気の前記エンジンへの流入量を調整するスロットルバルブ、前記エンジンの動力を前記船舶の推進力に変換するプロペラ、前記エンジンの動力を前記プロペラに伝達する動力伝達機構、および前記動力伝達機構の状態を切り替えるシフト装置を備え、
前記シフト装置は、前記動力伝達機構の状態を、前記船舶の推進力が生成されない非接続状態、前記船舶を前方へ押し動かす推進力が生成される前進接続状態、および前記船舶を後方へ押し動かす推進力が生成される後進接続状態のうちのいずれかの状態に切り替え、
前記制御装置は模擬船速算出部およびシフト制御部を備え、
前記模擬船速算出部は、前記スロットルバルブが開状態から全閉状態になったことによって前記船舶がプロペラ連れ回り状態で前進しかつ前記動力伝達機構の状態が前記前進接続状態を継続しているときのエンジン回転数に、前記船舶の船長に応じたスケール変換係数を乗ずることにより模擬船速を算出し、当該模擬船速を、所定の減少勾配を示す勾配データに基づいて当該模擬船速の算出時点から時間の経過と共に減少させていき、
前記シフト制御部は、
前記操作部の位置が前進位置からニュートラル位置に変わったときには、前記シフト装置を制御することにより前記動力伝達機構の状態を前記前進接続状態から前記非接続状態に切り替え、
前記操作部の位置が前記前進位置から前記ニュートラル位置に変わった後に続いて後進位置に変わったときに前記模擬船速が所定の模擬船速閾値以下である場合には、前記シフト装置を制御することにより前記動力伝達機構の状態を前記非接続状態から前記後進接続状態に直ちに切り替え、
前記操作部の位置が前記前進位置から前記ニュートラル位置に変わった後に続いて前記後進位置に変わったときに前記模擬船速が前記模擬船速閾値以下でない場合には、前記模擬船速が前記模擬船速閾値以下となるのを待ってから前記シフト装置を制御することにより前記動力伝達機構の状態を前記非接続状態から前記後進接続状態に切り替えることを特徴とする船舶推進制御システム。
【請求項2】
前記模擬船速算出部は、前記船舶の船長を前記船外機の馬力から推定することを特徴とする請求項1に記載の船舶推進制御システム。
【請求項3】
前記船舶に複数の前記船外機が設けられている場合、前記模擬船速算出部は、前記船舶の船長を前記複数の船外機の馬力の合計から推定することを特徴とする請求項2に記載の船舶推進制御システム。
【請求項4】
前記スケール変換係数は、フルード相似則に基づくスケール変換係数であり、前記船舶の船長をLSとした場合、
前記スケール変換係数=LS^(1/2)
の数式により算出されるものであることを特徴とする請求項1に記載の船舶推進制御システム。
【請求項5】
前記船外機は自身の馬力を示す馬力情報を送信し、
前記模擬船速算出部は、前記船外機から送信された前記馬力情報が示す前記船外機の馬力に基づいて前記船舶の船長を推定することを特徴とする請求項2に記載の船舶推進制御システム。
【請求項6】
前記模擬船速算出部は、前記スロットルバルブが開状態から全閉状態になった後に、エンジン回転数の単位時間当たりの変化量が初めて所定の変化量閾値以下となったときのエンジン回転数に前記スケール変換係数を乗ずることにより前記模擬船速を算出することを特徴とする請求項1に記載の船舶推進制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の推進を制御する船舶推進制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶に、船外機、船外機を操作する操作装置、および操作装置の操作に基づいて船外機を制御する制御装置を設けることにより、船舶の乗員による操作装置の操作に応じて船外機を動作させ、船舶の推進を制御することができる。
【0003】
船外機は、エンジン、燃焼用空気のエンジンへの流入量を調整するスロットル装置、エンジンの動力を船舶の推進力に変換するプロペラ、エンジンの動力をプロペラに伝達する動力伝達機構、および動力伝達機構の状態を切り替えるシフト装置を備えている。
【0004】
スロットル装置は、スロットルバルブを備え、スロットルバルブの開度を変えることにより、燃焼用空気のエンジンへの流入量を調整する。また、スロットル装置は、電子制御式のスロットル装置であり、制御装置からの電気信号に基づいてスロットルバルブの開度を変える。
【0005】
動力伝達機構は、エンジンの動力により回転するドライブシャフト、プロペラが固定されたプロペラシャフト、およびドライブシャフトの回転をプロペラシャフトに伝達するギヤ機構を備えている。ギヤ機構は、ドライブギヤ、前進ギヤ、後進ギヤ、およびクラッチを備えている。ドライブギヤはドライブシャフトの端部に固定され、前進ギヤはドライブギヤの回転を受けて一の方向に回転するようにドライブギヤと噛合し、後進ギヤはドライブギヤの回転を受けて他の方向に回転するようにドライブギヤと噛合している。クラッチは、シフト装置の制御に基づいて前進ギヤおよび後進ギヤのうちのいずれか一方と接続されることにより、前進ギヤまたは後進ギヤの回転をプロペラシャフトに伝達する。
【0006】
動力伝達機構の状態には、非接続状態、前進接続状態、および後進接続状態がある。非接続状態は、クラッチが前進ギヤおよび後進ギヤのいずれとも接続されていない状態である。非接続状態では、エンジンの動力がプロペラに伝達されないので、船外機により船舶の推進力が生成されない状態となる。前進接続状態は、クラッチが前進ギヤと接続された状態である。前進接続状態では、エンジンの動力が前進ギヤを介してプロペラに伝達されるので、プロペラが一の方向に回転する。これにより、船外機により船舶を前方に押し動かす推進力が生成される。後進接続状態は、クラッチが後進ギヤと接続された状態である。後進接続状態では、エンジンの動力が後進ギヤを介してプロペラに伝達されるので、プロペラが他の方向に回転する。これにより、船外機により船舶を後方に押し動かす推進力が生成される。
【0007】
シフト装置は、ギヤ機構のクラッチを移動させることにより、動力伝達機構の状態を、非接続状態、前進接続状態および後進接続状態のうちのいずれかの状態に切り替える。また、シフト装置は、電子制御式のシフト装置であり、制御装置からの電気信号に基づいてクラッチを移動させる。
【0008】
操作装置は、例えば、船外機を遠隔操作するリモートコントール装置(以下、これを「リモコン装置」という。)である。操作装置は操作レバーを備えている。操作レバーの位置にはニュートラル位置、前進位置および後進位置がある。例えば、操作レバーが垂直に立ち上がった状態が、操作レバーの位置がニュートラル位置である状態である。操作レバーが垂直に対して前方に傾き、操作レバーの垂直に対する前方への傾斜角が所定の角度範囲(例えば18度~85度程度)である状態が、操作レバーの位置が前進位置である状態である。操作レバーが垂直に対して後方に傾き、操作レバーの垂直に対する後方への傾斜角が所定の角度範囲(例えば18度~65度程度)である状態が、操作レバーの位置が後進位置である状態である。
【0009】
制御装置は、操作レバーの位置に基づいて、船外機のスロットル装置を電気的に制御する。具体的には、操作レバーの位置が前進位置または後進位置になったとき、制御装置は、スロットル装置を制御し、スロットルバルブを開ける。また、制御装置は、前進位置または後進位置にある操作レバーの傾斜角が大きくなるに従って、スロットルバルブの開度を大きくする。また、操作レバーの位置が前進位置および後進位置のいずれでもない位置になったとき、例えば、操作レバーの位置が、操作レバーの垂直に対する前方への傾斜角が18度未満から操作レバーの垂直に対する後方への傾斜角が18度未満である範囲内になったとき、制御装置は、スロットル装置を制御し、スロットルバルブを全閉状態にする。
【0010】
また、制御装置は、操作レバーの位置に基づいて、船外機のシフト装置を電気的に制御する。具体的には、操作レバーの位置がニュートラル位置になったとき、制御装置は、シフト装置を制御し、動力伝達機構の状態を非接続状態にする。また、操作レバーがニュートラル位置から前方に傾いたとき、制御装置は、シフト装置を制御し、動力伝達機構の状態を前進接続状態にする。また、操作レバーがニュートラル位置から後方に傾いたとき、制御装置は、シフト装置を制御し、動力伝達機構の状態を後進接続状態にする。
【0011】
船舶を前進させるとき、乗員は、操作レバーを前方に傾け、操作レバーの位置を前進位置にする。また、前進している船舶を停止させるとき、乗員は、通常、操作レバーの位置を前進位置からニュートラル位置に変える。操作レバーの位置が前進位置からニュートラル位置へ変わる過程で、操作レバーの位置が前進位置でなくなったときにスロットルバルブが全閉状態となり、続いて、操作レバーの位置がニュートラル位置になったときに、動力伝達機構の状態が非接続状態となる。その結果、船外機により船舶の推進力が生成されない状態になる。しかしながら、船舶は、慣性力によって、ある程度の時間、前進を継続する。
【0012】
前進している船舶を急停止させるために、乗員は、操作レバーの位置を、前進位置からニュートラル位置に変え、その後続けて、後進位置に変えることがある。操作レバーの位置が後進位置になることにより、動力伝達機構の状態が後進接続状態となり、スロットルバルブが開く。その結果、船外機により船舶を後方へ押し動かす推進力が生成される。船舶に作用している慣性力の方向と反対の方向に推進力を加えることで、船舶が短時間のうちに停止させることができる。
【0013】
しかしながら、このような操作レバーの操作により、動力伝達機構の状態が前進接続状態から後進接続状態に急変し、その直後にスロットルバルブが開く。その結果、動力伝達機構またはエンジン等に大きな負荷がかかり、エンジンストールが発生し、あるいはギヤ機構等の損傷を招くおそれがある。
【0014】
特開2018-192976号公報(特許文献1)に記載された船外機の制御装置は、船舶が前進しているとき、操作レバーの位置が前進位置、ニュートラル位置および後進位置に順次変わった場合に、これに基づいて動力伝達機構の状態を前進接続状態、非接続状態および後進接続状態に順次切り替えるに当たり、非接続状態から後進接続状態に切り替えるタイミングを遅らせる処理を行う。以下、この処理を「後進接続への切替遅延処理」という。特開2018-192976号公報によれば、この後進接続への切替遅延処理により、動力伝達機構またはエンジン等に大きな負荷がかかることを抑制することができる。
【0015】
この制御装置は後進接続への切替遅延処理を次のように行う。まず、操作レバーの位置が前進位置からニュートラル位置に向かって変わる過程において、スロットルバルブが全閉状態となったが、動力伝達機構の状態が前進接続状態から非接続状態にまだ切り替わっていないときのエンジン回転数を取得する。そして、この取得したエンジン回転数を、船舶の実船速を推定するための参照値として用いる。特開2018-192976号公報では、この参照値を「模擬船速」と呼んでいる。次に、この模擬船速を、予め設定された減衰ゲインを用いて時間の経過と共に減少させていく。そして、模擬船速が所定の閾値以下となる前に、操作レバーの位置がニュートラル位置から後進位置に変わった場合には、模擬船速が所定の閾値以下になるのを待ってから動力伝達機構の状態を非接続状態から後進接続状態に切り替える。これにより、船舶の実船速が十分に減少した後に動力伝達機構の状態が非接続状態から後進接続状態に切り替わるように、動力伝達機構の状態の切替タイミングを遅らせることができる。したがって、動力伝達機構の状態が前進接続状態から後進接続状態に急変した直後にスロットルバルブが開くといった挙動が起きないようにすることができる。よって、動力伝達機構またはエンジン等に大きな負荷がかかることを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、特開2018-192976号公報に記載された上記制御装置を、船長がそれぞれ互いに異なる複数の船舶に設け、後進接続への切替遅延処理を行ったところ、動力伝達機構の状態が非接続状態から後進接続状態に切り替わるタイミングが複数の船舶間でずれることが判明した。
【0018】
後進接続への切替遅延処理において、動力伝達機構の状態が非接続状態から後進接続状態に切り替わるタイミングが、想定していた適切なタイミングよりも早い場合には、実船速が十分に低下していない状態において、動力伝達機構の状態が非接続状態から後進接続状態に切り替わり、かつスロットルバルブが開いてしまい、動力伝達機構またはエンジン等に大きな負荷がかかることを抑制することができないおそれがある。一方、後進接続への切替遅延処理において、動力伝達機構の状態が非接続状態から後進接続状態に切り替わるタイミングが、想定していた適切なタイミングよりも遅い場合には、実船速が十分に低下しているにも拘わらず、動力伝達機構の状態が非接続状態から後進接続状態に切り替わらず、船外機の操作が不必要に鈍化してしまうおそれがある。
【0019】
本発明は例えば上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の課題は、船長がそれぞれ互いに異なる複数の船舶に適用した場合でも、後進接続への切替遅延処理において、動力伝達機構の状態が非接続状態から後進接続状態に切り替わるタイミングが船舶間でずれることを抑制することができる船舶推進制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために、本発明は、船舶に設けられた船外機、前記船外機を操作する操作部、および前記操作部の操作に基づいて前記船外機を制御する制御装置を備えた船舶推進制御システムであって、前記船外機は、エンジン、燃焼用空気の前記エンジンへの流入量を調整するスロットルバルブ、前記エンジンの動力を前記船舶の推進力に変換するプロペラ、前記エンジンの動力を前記プロペラに伝達する動力伝達機構、および前記動力伝達機構の状態を切り替えるシフト装置を備え、前記シフト装置は、前記動力伝達機構の状態を、前記船舶の推進力が生成されない非接続状態、前記船舶を前方へ押し動かす推進力が生成される前進接続状態、および前記船舶を後方へ押し動かす推進力が生成される後進接続状態のうちのいずれかの状態に切り替え、前記制御装置は模擬船速算出部およびシフト制御部を備え、前記模擬船速算出部は、前記スロットルバルブが開状態から全閉状態になったことによって前記船舶がプロペラ連れ回り状態で前進しかつ前記動力伝達機構の状態が前記前進接続状態を継続しているときのエンジン回転数に、前記船舶の船長に応じたスケール変換係数を乗ずることにより模擬船速を算出し、当該模擬船速を、所定の減少勾配を示す勾配データに基づいて当該模擬船速の算出時点から時間の経過と共に減少させていき、前記シフト制御部は、前記操作部の位置が前進位置からニュートラル位置に変わったときには、前記シフト装置を制御することにより前記動力伝達機構の状態を前記前進接続状態から前記非接続状態に切り替え、前記操作部の位置が前記前進位置から前記ニュートラル位置に変わった後に続いて後進位置に変わったときに前記模擬船速が所定の模擬船速閾値以下である場合には、前記シフト装置を制御することにより前記動力伝達機構の状態を前記非接続状態から前記後進接続状態に直ちに切り替え、前記操作部の位置が前記前進位置から前記ニュートラル位置に変わった後に続いて前記後進位置に変わったときに前記模擬船速が前記模擬船速閾値以下でない場合には、前記模擬船速が前記模擬船速閾値以下となるのを待ってから前記シフト装置を制御することにより前記動力伝達機構の状態を前記非接続状態から前記後進接続状態に切り替えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、船舶推進制御システムを船長がそれぞれ互いに異なる複数の船舶に適用した場合でも、後進接続への切替遅延処理において、動力伝達機構の状態が非接続状態から後進接続状態に切り替わるタイミングが船舶間でずれることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施例の船舶推進制御システムが設けられた船舶を示す説明図である。
【
図2】
図1中の船外機の構造を模式的に示す説明図である。
【
図3】
図1中の船外機のギヤ機構およびその周辺部分を示す断面図である。
【
図5】
図1中のBCM(ボート・コントロール・モジュール)の記憶部に記憶された船長推定マップ、スケール変換係数決定マップおよび勾配データを示す説明図である。
【
図6】本発明の実施例の船舶推進制御システムにおいて、操作レバーの位置、動力伝達機構の状態、スロットルバルブの開度、エンジン回転数、エンジン回転数変化量、実船速および模擬船速のそれぞれの変化のタイミングを示すタイミングチャートである。
【
図7】本発明の実施例の船舶推進制御システムにおいて、模擬船速の算出に関する説明図である。
【
図8】本発明の実施例の船舶推進制御システムにおける模擬船速算出処理を示すフローチャートである。
【
図9】
図8に示す模擬船速算出処理中のスケール変換係数算出処理を示すフローチャートである。
【
図10】本発明の実施例の船舶推進制御システムにおけるシフト制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態の船舶推進制御システムは、船舶に設けられた船外機、船外機を操作する操作部、および操作部の操作に基づいて船外機を制御する制御装置を備えている。
【0024】
船外機は、エンジン、燃焼用空気のエンジンへの流入量を調整するスロットルバルブ、エンジンの動力を船舶の推進力に変換するプロペラ、エンジンの動力をプロペラに伝達する動力伝達機構、および動力伝達機構の状態を切り替えるシフト装置を備えている。
【0025】
シフト装置は、動力伝達機構の状態を、船舶の推進力が生成されない非接続状態、船舶を前方へ押し動かす推進力が生成される前進接続状態、および船舶を後方へ押し動かす推進力が生成される後進接続状態のうちのいずれかの状態に切り替える。
【0026】
制御装置は模擬船速算出部およびシフト制御部を備えている。模擬船速算出部は、スロットルバルブが開状態から全閉状態になったことによって船舶がプロペラ連れ回り状態で前進しかつ動力伝達機構の状態が前進接続状態を継続しているときのエンジン回転数に、船舶の船長に応じたスケール変換係数を乗ずることにより模擬船速を算出し、当該模擬船速を、所定の減少勾配を示す勾配データに基づいて当該模擬船速の算出時点から時間の経過と共に減少させていく。
【0027】
シフト制御部は、操作部の位置が前進位置からニュートラル位置に変わったときには、シフト装置を制御することにより動力伝達機構の状態を前進接続状態から非接続状態に切り替える。また、シフト制御部は、操作部の位置が前進位置からニュートラル位置に変わった後に続いて後進位置に変わったときに模擬船速が所定の模擬船速閾値以下である場合には、シフト装置を制御することにより動力伝達機構の状態を非接続状態から後進接続状態に直ちに切り替える。また、シフト制御部は、操作部の位置が前進位置からニュートラル位置に変わった後に続いて後進位置に変わったときに模擬船速が所定の模擬船速閾値以下でない場合には、模擬船速が模擬船速閾値以下となるのを待ってからシフト装置を制御することにより動力伝達機構の状態を非接続状態から後進接続状態に切り替える。
【0028】
本発明の実施形態の船舶推進制御システムにおいて、模擬船速算出部は、船舶がプロペラ連れ回り状態で前進しかつ動力伝達機構の状態が前進接続状態を継続しているときのエンジン回転数に、船舶の船長に応じたスケール変換係数を乗ずることにより模擬船速を算出し、当該模擬船速を、所定の減少勾配を示す勾配データに基づいて当該模擬船速の算出時点から時間の経過と共に減少させていく。そして、シフト制御部は、操作レバーの位置が前進位置からニュートラル位置に変わった後に続いて後進位置に変わったときに模擬船速が所定の模擬船速閾値以下でない場合には、模擬船速が模擬船速閾値以下となるのを待ってから動力伝達機構の状態を非接続状態から後進接続状態に切り替える。
【0029】
これにより、船舶推進制御システムを船長がそれぞれ互いに異なる複数の船舶に適用した場合に、これら複数の船舶のそれぞれにおいて、操作レバーの位置が前進位置、ニュートラル位置および後進位置に順次変わったときに、実船速が十分に減少する前に、動力伝達機構の状態が非接続状態から後進状態に切り替わり、かつスロットルバルブが開き、そのために動力伝達機構またはエンジン等に大きな負荷がかかることを抑制することができる。また、船長が互いに異なる複数の船舶のそれぞれにおいて、操作レバーの位置が前進位置、ニュートラル位置および後進位置に順次変わったときに、実船速が十分に減少しているにも拘わらず、動力伝達機構の状態が非接続状態から後進接続状態に切り替わらず、そのために船外機の操作が不必要に鈍化してしまうことを抑制することができる。
【実施例0030】
(船舶、船舶推進制御システム)
図1は、本発明の実施例の船舶推進制御システム5が設けられた船舶1を示している。
図1において、船舶1は、例えばボート等の小型の船、または中型の船である。船舶1には、船舶の推進を制御する船舶推進制御システム5が設けられている。
【0031】
船舶推進制御システム5は、船外機6、リモコン装置31、およびBCM(ボート・コントロール・モジュール)35を備えている。船外機6は、船舶1の推進力を生成する船舶推進機である。船外機6は、船舶1の船体の船尾の左右方向中央に取り付けられ、船体の外側に配置されている。リモコン装置31は、船外機6を遠隔操作する操作装置である。リモコン装置31は例えば船舶1のコクピットに配置されている。BCM35は、船舶1の総合的な制御、船舶1に設けられた複数の装置間の連携を図る制御等を行うための装置である。本実施例において、BCM35は、リモコン装置31の操作に基づいて船外機6を制御する。BCM35は例えば船舶1のコクピットの近傍に配置されている。船外機6のECM(エンジン・コントロール・モジュール)、リモコン装置31およびBCM35は船舶1内に形成されたネットワークを介して互いに通信可能に接続されている。なお、BCM35は「制御装置」の具体例である。
【0032】
また、
図1に示す例は、1機の船外機6が設けられた船舶1に船舶推進制御システム5を適用した例であるが、船舶推進制御システム5は、複数の船外機6が設けられた船舶、すなわち多機掛けの船舶にも適用することができる。複数の船外機6が設けられた船舶に船舶推進制御システム5を適用した場合、船舶推進制御システム5は当該船舶に設けられた複数の船外機6を備えていることとなる。
【0033】
(船外機)
図2は船外機6の構造を模式的に示している。
図3は船外機6のギヤ機構17およびその周辺部分を示している。
図2において、船外機6は、エンジン7、スロットル装置11、プロペラ13、動力伝達機構14、シフト装置22、およびECM28を備えている。
【0034】
エンジン7は、推進力を生成する動力源であり、クランクシャフト8およびピストン9を有している。エンジン7は、船外機6において水面よりも上に位置する船外機6の上部に配置されている。
【0035】
スロットル装置11は、スロットルバルブ12を備え、スロットルバルブ12を開閉することにより燃焼用空気のエンジン7の燃焼室内への流入量を調整する装置である。本実施例のスロットル装置11は電子制御方式のスロットル装置である。エンジン7には、燃焼用空気をエンジン7の燃焼室内へ流入させるためのインテークマニホールド10が接続されており、スロットル装置11はインテークマニホールド10に取り付けられている。また、スロットルバルブ12はインテークマニホールド10の流入側の管路内に配置されている。スロットルバルブ12が全閉状態であるとき、エンジン7の回転数はアイドリングの回転数となる。スロットルバルブ12が全閉状態であるときでも、エンジン7の回転数をアイドリングの回転数に維持するのに必要な燃焼用空気の燃焼室内への供給が行われるようになっている。また、スロットルバルブ12の開度が大きくなるに従って、エンジン7の回転数が増加する。
【0036】
プロペラ13は、エンジン7の動力を船舶1の推進力に変換する装置であり、船外機6において水面よりも下に位置する船外機6の下部の後部に配置されている。
【0037】
動力伝達機構14は、エンジン7の動力をプロペラ13に伝達する機構である。動力伝達機構14は、ドライブシャフト15、プロペラシャフト16、およびギヤ機構17を備えている。ギヤ機構17は、ドライブギヤ18、前進ギヤ19、後進ギヤ20、およびドッグクラッチ21を備えている。
【0038】
ドライブシャフト15は船外機6内を上下方向に伸長し、ドライブシャフト15の上端部はエンジン7のクランクシャフト8に接続され、ドライブシャフト15の下端部にはドライブギヤ18が固定されている。ドライブシャフト15はエンジン7の動力を受けて回転し、これに伴い、ドライブギヤ18が回転する。
【0039】
ドライブギヤ18、前進ギヤ19および後進ギヤ20はいずれもベベルギヤである。ドライブギヤ18はその回転軸の伸長方向が上下方向となるように配置されているのに対し、前進ギヤ19および後進ギヤ20はそれらの回転軸の伸長方向が前後方向となるように配置されている。前進ギヤ19と後進ギヤ20とは互いに向かい合うように互いに同軸に配置され、前進ギヤ19はドライブシャフト15よりも前側の位置でドライブギヤ18と噛合し、後進ギヤ20はドライブシャフト15よりも後ろ側の位置でドライブギヤ18と噛合している。それゆえ、ドライブギヤ18の回転に伴い、前進ギヤ19と後進ギヤ20とは互いに反対方向に回転する。
【0040】
プロペラシャフト16は船外機6の下部に配置され、前後方向に伸長し、プロペラシャフト16の後端部にはプロペラ13が固定されている。また、プロペラシャフト16の前端部は、
図3に示すように、前進ギヤ19および後進ギヤ20のそれぞれの中心に設けられた貫通穴19B、20Bに非接触状態で挿入されており、前進ギヤ19および後進ギヤ20はいずれもプロペラシャフト16には固定されていない。
【0041】
ドッグクラッチ21は前進ギヤ19と後進ギヤ20との間に配置されている。ドッグクラッチ21は、プロペラシャフト16の前端部に、プロペラシャフト16に対して周方向には移動不能で、かつ軸方向には移動可能となるように取り付けられている。また、ドッグクラッチ21の前面および後面には歯21Aが形成され、前進ギヤ19の後面の内周側部分には歯19Aが形成され、後進ギヤ20の前面の内周側部分には歯20Aが形成されている。シフト装置22の制御により、ドッグクラッチ21が前方に移動すると、ドッグクラッチ21の前面に形成された歯21Aが前進ギヤ19の後面に形成された歯19Aと噛合し、ドッグクラッチ21と前進ギヤ19とが互いに接続される。これにより、ドライブシャフト15の回転が前進ギヤ19を介してプロペラシャフト16に伝達され、プロペラシャフト16およびプロペラ13が一の方向に回転する。プロペラ13が一の方向に回転することにより、船舶1を前方へ押し動かす推進力が生成される。一方、シフト装置22の制御により、ドッグクラッチ21が後方に移動すると、ドッグクラッチ21の後面に形成された歯21Aが後進ギヤ20の前面に形成された歯20Aと噛合し、ドッグクラッチ21と後進ギヤ20とが互いに接続される。これにより、ドライブシャフト15の回転が後進ギヤ20を介してプロペラシャフト16に伝達され、プロペラシャフト16およびプロペラ13が他の方向に回転する。プロペラ13が他の方向に回転することにより、船舶1を後方へ押し動かす推進力が生成される。また、シフト装置22の制御により、ドッグクラッチ21が前進ギヤ19と後進ギヤ20との中間に位置しているときには、ドッグクラッチ21は前進ギヤ19および後進ギヤ20のいずれとも接続されない状態となる。この場合には、ドライブシャフト15の回転はプロペラシャフト16に伝達されない。これにより、船外機6により推進力が生成されない状態になる。
【0042】
動力伝達機構14の状態には、非接続状態、前進接続状態、および後進接続状態がある。非接続状態は、ドッグクラッチ21が前進ギヤ19および後進ギヤ20のいずれとも接続されておらず、エンジン7の動力がプロペラ13に伝達されず、それゆえ、船外機6により船舶1の推進力が生成されない状態である。前進接続状態は、ドッグクラッチ21が前進ギヤ19と接続され、エンジン7の動力が前進ギヤ19を介してプロペラ13に伝達され、それゆえ、船外機6により船舶1を前方へ押し動かす推進力が生成される状態である。後進接続状態は、ドッグクラッチ21が後進ギヤ20と接続され、エンジン7の動力が後進ギヤ20を介してプロペラ13に伝達され、それゆえ、船外機6により船舶1を後方へ押し動かす推進力が生成される状態である。
【0043】
シフト装置22は、動力伝達機構14の状態を、非接続状態、前進接続状態および後進接続状態のうちのいずれかの状態に切り替える装置である。本実施例のシフト装置22は電子制御方式のシフト装置である。シフト装置22は、ドッグクラッチ21を移動させることにより動力伝達機構14の状態を切り替える。シフト装置22は、
図2に示すように、船外機6の上部前側に配置されたシフトアクチュエータ23、船外機6の下部前側に配置されたクラッチ駆動機構24、および船外機6内の前側を上下方向に伸長し、シフトアクチュエータ23の動力をクラッチ駆動機構24に伝達するシフトロッド27を備えている。クラッチ駆動機構24は、
図3に示すように、カム機構25、およびシフトスライダ26を備えている。シフトアクチュエータ23の動力によりシフトロッド27が回動する。シフトロッド27の回動はカム機構25によりシフトスライダ26の前後方向のスライド移動に変換され、シフトスライダ26のスライド移動によりドッグクラッチ21が前後方向に移動する。
【0044】
ECM28は、エンジン7を制御する装置であり、CPU(中央演算処理装置)および記憶装置を備えている。具体的には、ECM28は、BCM35から送信されたクラッチ制御信号に基づいてスロットル装置11にバルブ制御信号を出力し、スロットルバルブ12の開度を変化させる。また、ECM28は、BCM35から送信されたシフト制御信号に基づいてシフト装置22にクラッチ制御信号を出力し、シフトアクチュエータ23を駆動することによってドッグクラッチ21を移動させる。
【0045】
また、ECM28は、スロットルバルブ12の位置を示すスロットル位置情報をBCM35に送信する機能を有している。すなわち、スロットル装置11はスロットルバルブ12の位置(スロットルバルブ12の開度)を検出するスロットル位置センサが設けられており、ECM28は、スロットル位置センサから出力された検出信号に基づいて、スロットルバルブ12の位置を示すスロットル位置情報をBCM35に送信する。また、ECM28は、エンジン回転数を示すエンジン回転数情報をBCM35に送信する機能を有している。また、ECM28は船外機6の馬力を示す馬力情報をBCM35に送信する機能を有している。馬力情報は例えばECM28が有する記憶装置に記憶されている。
【0046】
なお、船舶推進制御システム5は、複数の船外機6が設けられた船舶にも適用することができるが、船舶に複数の船外機6を設ける場合、通常、船舶にはそれぞれ互いに同一の複数の船外機6を設ける。
【0047】
(リモコン装置)
図4はリモコン装置31を示している。
図4において、リモコン装置31はリモコン装置本体32および操作レバー33を備えている。乗員は操作レバー33を前後方向に傾ける操作をすることにより、船舶1を前進させ、または後進させることができる。なお、操作レバー33は「操作部」の具体例である。
【0048】
操作レバー33の位置には、ニュートラル位置N、前進位置F、後進位置R、第1の全閉位置C1、および第2の全閉位置C2がある。操作レバー33を
図4に示すように垂直に立ち上げた状態が、操作レバー33の位置がニュートラル位置Nである状態である。また、操作レバー33が前方に傾き、その垂直に対する前方への傾斜角が例えば18度以上85度以下である状態が、操作レバー33の位置が前進位置Fである状態である。また、操作レバー33が後方に傾き、その垂直に対する後方への傾斜角が例えば18度以上65度以下である状態が、操作レバー33の位置が後進位置Rである状態である。また、操作レバー33がニュートラル位置Nと前進位置Fとの間に位置している状態(すなわち操作レバー33の垂直に対する前方への傾斜角が0度よりも大きく18度未満である状態)が、操作レバー33の位置が第1の全閉位置C1である状態である。また、操作レバー33がニュートラル位置Nと後進位置Rとの間に位置している状態(すなわち操作レバー33の垂直に対する後方への傾斜角が0度よりも大きく18度未満である状態)が、操作レバー33の位置が第2の全閉位置C2である状態である。
【0049】
リモコン装置31は、操作レバー33の位置を検出するレバー位置センサを備えている。レバー位置センサは、操作レバー33の位置を示す操作信号をBCM35に送信する。操作レバー33は、垂直に対する前方への傾斜角が85度の位置から、垂直に対する後方への傾斜角が65度の位置までの範囲を回動することができる。操作信号は、操作レバー33がこの操作レバー33の回動範囲うちのどの位置に位置しているかを示す信号である。
【0050】
なお、船舶推進制御システム5は、複数の船外機6が設けられた船舶にも適用することができるが、船舶に複数の船外機6を設ける場合、通常、複数の操作レバー(多くの場合2つの操作レバー)を備えたリモコン装置を用いる。この場合、複数の操作レバーを個別に操作して、複数の船外機により生成される推進力の方向または大きさを個別に制御することができるのであるが、船舶を単純に前進させるときには、複数の操作レバーを同時に前方に傾け、複数の操作レバーの位置をそれぞれ前進位置にし、複数の操作レバーの垂直に対する前方への傾斜角を同じにする。また、船舶を単純に後進させるときには、複数の操作レバーを同時に後方に傾け、複数の操作レバーの位置をそれぞれ後進位置にし、複数の操作レバーの垂直に対する後方への傾斜角を同じにする。また、船舶を停止させるときには、通常、複数の操作レバーの位置をそれぞれニュートラル位置にする。
【0051】
(BCM)
BCM35は、
図1に示すように、CPU36、および記憶部40を備えている。記憶部40は例えば半導体記憶装置を有している。また、CPU36は、例えば記憶部40に記憶されたプログラムを読み取って実行することにより、スロットル制御部37、シフト制御部38、および模擬船速算出部39として機能する。
【0052】
スロットル制御部37は、リモコン装置31の操作レバー33の操作に基づき、船外機6のスロットル装置11をECM28を介して電気的に制御し、スロットルバルブ12の開度を変える。具体的には、スロットル制御部37は、リモコン装置31のレバー位置センサから送信される操作信号を取得し、スロットルバルブ12の開度を、操作信号が示す操作レバー33の位置に応じた開度にするスロットル制御信号を船外機6のECM28に送信する。ECM28は、BCM35から送信されたクラッチ制御信号に基づき、スロットルバルブ12の開度を、操作信号が示す操作レバー33の位置に応じた開度にするバルブ制御信号をスロットル装置11に出力する。スロットル制御部37のECM28へのスロットル制御信号の送信についてより具体的に説明すると、操作レバー33の位置がニュートラル位置N、第1の全閉位置C1および第2の全閉位置C2のいずれかの位置になったとき、スロットル制御部37は、スロットルバルブ12を全閉するスロットル制御信号をECM28に送信する。また、操作レバー33の位置が前進位置Fになったとき、スロットル制御部37は、スロットルバルブ12を開け、スロットルバルブ12の開度を、操作レバー33の垂直に対する前方への傾斜角に応じた開度にするスロットル制御信号をECM28に送信する。また、操作レバー33の位置が後進位置Rになったとき、スロットル制御部37は、スロットルバルブ12を開け、スロットルバルブ12の開度を、操作レバー33の垂直に対する後方への傾斜角に応じた開度にするスロットル制御信号をECM28に送信する。
【0053】
シフト制御部38は、リモコン装置31の操作レバー33の操作に基づいて船外機6のシフト装置22をECM28を介して電気的に制御してドッグクラッチ21を移動させ、動力伝達機構14の状態を切り替える。具体的には、シフト制御部38は、リモコン装置31のレバー位置センサから送信される操作信号を取得し、操作信号が示す操作レバー33の位置に応じて動力伝達機構14の状態を切り替えるシフト制御信号を船外機6のECM28に送信する。ECM28は、BCM35から送信されたシフト制御信号に基づき、操作信号が示す操作レバー33の位置に応じて動力伝達機構14の状態を切り替えるクラッチ制御信号をシフト装置22に出力する。シフト制御部38のECM28へのシフト制御信号の送信についてより具体的に説明すると、操作レバー33の位置がニュートラル位置Nになったとき、シフト制御部38は、動力伝達機構14の状態を非接続状態に切り替えるシフト制御信号をECM28に送信する。また、操作レバー33の位置が第1の全閉位置C1および前進位置Fのいずれかの位置になったとき、シフト制御部38は、動力伝達機構14の状態を前進接続状態に切り替えるシフト制御信号をECM28に送信する。また、操作レバー33の位置が第2の全閉位置C2および後進位置Rのいずれかの位置になったとき、シフト制御部38は、基本的に、動力伝達機構14の状態を後進接続状態に切り替えるシフト制御信号をECM28に送信する。もっとも、後述する後進接続への切替遅延処理において、操作レバー33の位置が前進位置Fからニュートラル位置Nに変わった後に続いて後進位置Rに変わったとき、シフト制御部38は、動力伝達機構14の状態を後進接続状態に切り替えるシフト制御信号のECM28への送信を遅延させることがある。
【0054】
なお、複数の船外機6が設けられた船舶に船舶推進制御システム5が適用された場合、スロットル制御部37は、複数の操作レバーの操作に基づき、複数の船外機6のスロットル装置11を複数の船外機6のECM28を介してそれぞれ制御し、複数の船外機6のスロットルバルブ12の開度をそれぞれ変えることができる。また、シフト制御部38は、複数の操作レバーの操作に基づいて複数の船外機6のシフト装置22を複数の船外機6のECM28を介して制御して複数の船外機6のドッグクラッチ21をそれぞれ移動させ、複数の船外機6の動力伝達機構14の状態をそれぞれ切り替えることができる。
【0055】
模擬船速算出部39は、後述する後進接続への切替遅延処理において、模擬船速を算出する。また、
図5に示すように、BCM35の記憶部40には、後進接続への切替遅延処理において用いられる船長推定マップ41、スケール変換係数決定マップ42、および勾配データ43が記憶されている。
【0056】
(操作レバーの位置に基づく船外機の動作)
操作レバー33の位置に基づくスロットル制御部37およびシフト制御部38の制御により実現される船外機6の動作は次の通りである。
【0057】
操作レバー33の位置がニュートラル位置Nであるときには、動力伝達機構14の状態は非接続状態であり、スロットルバルブ12は全閉状態である。このとき、エンジン7の動力がプロペラ13に伝達されない状態となっているので、船外機6により船舶1の推進力は生成されない。なお、このとき、エンジン回転数はアイドリングの回転数となっている。
【0058】
また、操作レバー33の位置がニュートラル位置Nから第1の全閉位置C1になったとき、動力伝達機構14の状態が非接続状態から前進接続状態に切り替わるが、スロットルバルブ12は全閉状態のままである。このとき、エンジン7のアイドリングの回転力が前進ギヤ19を介してプロペラ13に伝達されることによってプロペラ13が一の方向に低速で回転する。その結果、船外機6により船舶1を前方に押し動かす推進力が生成されるが、その推進力は極めて小さい。
【0059】
また、操作レバー33の位置が第1の全閉位置C1から前進位置Fになったとき、スロットルバルブ12の開度が操作レバー33の垂直に対する前方への傾斜角に応じた開度となる。なお、このとき、動力伝達機構14の状態は前進接続状態のままである。このとき、前進位置Fにある操作レバー33の垂直に対する前方への傾斜角に応じてエンジン回転数が増加する。そして、そのエンジン7の回転力が前進ギヤ19を介してプロペラ13に伝達されることにより、一の方向に回転しているプロペラ13のプロペラ回転数がエンジン回転数の増加に応じて増加する。その結果、船外機6により生成される、船舶1を前方に押し動かす推進力が増加する。
【0060】
また、操作レバー33の位置が前進位置Fから第1の全閉位置C1になったとき、スロットルバルブ12が全閉状態になる。一方、このとき、動力伝達機構14の状態は前進接続状態のままである。このとき、エンジン回転数はアイドリングの回転数となり、船外機6により生成される、船舶1を前方に押し動かす推進力は極めて小さくなる。
【0061】
また、操作レバー33の位置が第1の全閉位置C1からニュートラル位置Nになったとき、動力伝達機構14の状態が前進接続状態から非接続状態に切り替わる。なお、このとき、スロットルバルブ12は全閉状態である。このとき、エンジン7の動力がプロペラ13に伝達されなくなるので、船外機6により船舶1の推進力が生成されなくなる。なお、このとき、エンジン回転数はアイドリングの回転数になる。
【0062】
一方、操作レバー33の位置がニュートラル位置Nから第2の全閉位置C2になったとき、動力伝達機構14の状態が非接続状態から後進接続状態に切り替わるが、スロットルバルブ12は全閉状態のままである。このとき、エンジン7のアイドリングの回転力が後進ギヤ20を介してプロペラ13に伝達されることによってプロペラ13が他の方向に低速で回転する。その結果、船外機6により船舶1を後方に押し動かす推進力が生成されるが、その推進力は極めて小さい。
【0063】
また、操作レバー33の位置が第2の全閉位置C2から後進位置Rになったとき、スロットルバルブ12の開度が操作レバー33の垂直に対する後方への傾斜角に応じた開度となる。なお、このとき、動力伝達機構14の状態は後進接続状態のままである。このとき、後進位置Rにある操作レバー33の垂直に対する後方への傾斜角に応じてエンジン回転数が増加する。そして、そのエンジン7の回転力が後進ギヤ20を介してプロペラに伝達されることにより、他の方向に回転しているプロペラ13のプロペラ回転数がエンジン回転数の増加に応じて増加する。その結果、船外機6により生成される、船舶1を後方に押し動かす推進力が増加する。
【0064】
また、操作レバー33の位置が後進位置Rから第2の全閉位置C2になったとき、スロットルバルブ12が全閉状態になるが、動力伝達機構14の状態は前進接続状態のままである。このとき、エンジン回転数はアイドリングの回転数となり、船外機6により生成される、船舶1を後方に押し動かす推進力は極めて小さくなる。
【0065】
また、操作レバー33の位置が第2の全閉位置C2からニュートラル位置Nになったとき、動力伝達機構14の状態が後進接続状態から非接続状態に切り替わる。なお、このとき、スロットルバルブ12は全閉状態である。このとき、エンジン7の動力がプロペラ13に伝達されなくなるので、船外機6により船舶1の推進力が生成されなくなる。なお、このとき、エンジン回転数はアイドリングの回転数になる。
【0066】
(後進接続への切替遅延処理)
船舶推進制御システム5のBCM35は後進接続への切替遅延処理を行う。後進接続への切替遅延処理とは、船舶が前進しているとき、操作レバーの位置が前進位置、ニュートラル位置および後進位置に順次変わった場合に、これに基づいて動力伝達機構の状態を前進接続状態、非接続状態および後進接続状態に順次切り替えるに当たり、非接続状態から後進接続状態に切り替えるタイミングを遅らせる処理である。船舶推進制御システム5における後進接続への切替遅延処理について
図6を用いて説明する。
図6は、船舶1が前進しているときに、操作レバー33の位置が前進位置F、ニュートラル位置Nおよび後進位置Rに順次変わった場合の動力伝達機構14の状態、スロットルバルブ12の開度、エンジン回転数、エンジン回転数変化量ΔNE、船舶1の実船速および模擬船速のそれぞれの変化を示している。
【0067】
図6において、船舶1が前進しているときに、船舶1の乗員の操作レバー33の操作により、操作レバー33の位置が前進位置F、ニュートラル位置Nおよび後進位置Rに順次変わっている。より詳細には、船舶1の乗員の操作レバー33の操作により、操作レバー33の位置が前進位置F、第1の全閉位置C1、ニュートラル位置N、第2の全閉位置C2および後進位置Rに順次変わっている。
【0068】
時点t1よりも前の時点において、操作レバー33の位置は前進位置Fであり、スロットルバルブ12は開き、動力伝達機構14の状態は前進接続状態であり、船舶1は前進している。時点t1において操作レバー33の位置が前進位置Fから第1の全閉位置C1に向かって変わり始めている。そして、時点t2において操作レバー33の位置が第1の全閉位置C1に至っている。したがって、時点t2において、スロットルバルブ12が全閉状態になる。
【0069】
その後、操作レバー33の位置が第1の全閉位置C1からニュートラル位置Nに変わった時点t4において、BCM35(シフト制御部38)は、動力伝達機構14の状態を非接続状態に切り替えるシフト制御信号をECM28に送信する。ECM28は、BCM35から送信されたシフト制御信号に基づいて、動力伝達機構14の状態を非接続状態に切り替えるクラッチ制御信号をシフト装置22に出力し、シフト装置22は、ECM28から出力されたクラッチ制御信号に基づいて、動力伝達機構14の状態を非接続状態に切り替える。ここで、BCM35がシフト制御信号を送信してから、シフト装置22が動力伝達機構14の状態を非接続状態に切り替えるまでに僅かなタイムラグ(以下、これを「切替タイムラグD」という。)がある。この切替タイムラグDは、動力伝達機構14の状態を前進接続状態から非接続状態に切り替えるシフト装置22の作動時間等である。この切替タイムラグDのため、動力伝達機構14の状態の非接続状態への切替が完了するのは時点t5となる。
【0070】
また、操作レバー33の位置は、時点t4において第1の全閉位置C1からニュートラル位置Nに変わった後、続いてニュートラル位置Nから全閉位置C2に変わり、続いて全閉位置C2から後進位置Rに変り、そして、操作レバー33は時点t6において停止している。
【0071】
さて、時間を遡り、時点t1において、操作レバー33の位置が前進位置Fから第1の全閉位置C1に向かって変化し始め、その後、時点t2において第1の全閉位置C1に至る間、操作レバー33の位置が変化する速度に応じた速度で、スロットルバルブ12の開度が減少していき、これに伴い、エンジン回転数が減少していく。この間、船舶1の実船速は減少していくが、実船速の減少勾配は、エンジン回転数の減少勾配と比較して小さい。これは、慣性力により船舶1が前進を継続しようとするからである。
【0072】
時点t2においてスロットルバルブ12が全閉状態になることにより、エンジン7の出力が極めて小さくなり、船外機6により生成される、船舶1を前方に押し動かす推進力は極小となるのであるが、船舶1は慣性力によって前進を続ける。その結果、プロペラ13が水流を受けて回転するようになる。以下、船外機により生成される推進力が極小または零である状態で船舶が前進しており、それにより生じる水流を受けてプロペラが回転している状態を「プロペラ連れ回り状態」という。船舶が前進しているときにスロットルバルブが全閉状態になり、その後、プロペラの回転状態がプロペラ連れ回り状態になるまでには僅かなタイムラグ(以下、これを「プロペラ連れ回りタイムラグ」という。)がある。このプロペラ連れ回りタイムラムは、スロットルバルブが全閉状態になってからエンジンの出力が極小になるまでの時間に相当する。本実施例の船舶1においては、
図6において、プロペラ連れ回りタイムラグにより、スロットルバルブ12が全閉状態になった後の時点t3において、プロペラ13の回転状態がプロペラ連れ回り状態となる。
【0073】
時点t3から時点t5直前までの間は、スロットルバルブ12が全閉状態であり、かつ動力伝達機構14の状態が前進接続状態である。すなわち、この間、船舶1はプロペラ連れ回り状態で前進し、かつ動力伝達機構14の状態は前進接続状態を継続している。この間、エンジン7のクランクシャフト8が、水流を受けて回転するプロペラ13の回転力により回転する。エンジン回転数とプロペラ回転数との関係は、クランクシャフト8とプロペラシャフト16の間において動力の伝達を行うギヤのギヤ比により定まり、エンジン回転数とプロペラ回転数との関係は比例関係である。したがって、水流を受けて回転するプロペラ13の回転力によりクランクシャフト8が回転する場合、エンジン回転数はプロペラ回転数と比例した回転数となる。
【0074】
ここで、プロペラ連れ回り状態におけるプロペラ回転数と実船速との関係は、スロットルバルブが開いてエンジンの動力によりプロペラが回転している状態におけるプロペラ回転数と実船速との関係と比較して、比例関係に近い。その理由は、プロペラ連れ回り状態においては、スロットルバルブが開いてエンジンの動力によりプロペラが回転している状態と比較して、プロペラとその周囲の水との間のスリップが少ないからである。したがって、時点t3から時点t5直前までの間、プロペラ回転数、およびそれに比例したエンジン回転数は、慣性力により前進しつつも水の抵抗により漸次減少していく船舶の実船速に概ね比例して減少する。
【0075】
その後、時点t5において、動力伝達機構14の状態が前進接続状態から非接続状態に切り替わることにより、水流を受けて回転するプロペラ13の回転力がエンジン7のクランクシャフト8に伝達されなくなるので、エンジン回転数はアイドリングの回転数となり、エンジン回転数と実船速との間の概ね比例した関係は解消される。
【0076】
さて、再び時間を遡り、時点t2においてスロットルバルブが全閉状態になった後、BCM35は、エンジン回転数の単位時間当たりの変化量であるエンジン回転数変化量ΔNEに基づいて、プロペラ13の回転状態がプロペラ連れ回り状態になったか否かを判断する。具体的には、BCM35は、時点t2においてスロットルバルブ12が全閉状態になった後に、エンジン回転数変化量ΔNEが初めて所定の変化量閾値以下となったか否かを判断する。そして、BCM35は、時点t2においてスロットルバルブ12が全閉状態になった後に、エンジン回転数変化量ΔNEが初めて所定の変化量閾値以下となったときに、プロペラ13の回転状態がプロペラ連れ回り状態になったと判断する。この判断方法の原理は次の通りである。
【0077】
プロペラ連れ回り状態において、エンジン回転数は、慣性力により前進しつつも水の抵抗により漸次減少していく船舶の実船速に概ね比例して減少する。それゆえ、プロペラ連れ回り状態におけるエンジン回転数の単位時間当たりの変化量は、操作レバーの位置の変化に伴うスロットルバルブの開度の変化に応じて変化するエンジン回転数の単位時間当たりの変化量と比較して小さい。また、上述したように、船舶が前進しているときにスロットルバルブが全閉状態になり、その後、プロペラの回転状態がプロペラ連れ回り状態になるまで僅かなプロペラ連れ回りタイムラグがある。したがって、スロットルバルブ12が全閉してからプロペラ13の回転状態がプロペラ連れ回り状態になるまでの間はエンジン回転数の単位時間当たりの変化量が比較的大きくなり、一方、プロペラ13の回転状態がプロペラ連れ回り状態になったときにはエンジン回転数の単位時間当たりの変化量が比較的小さくなる。したがって、スロットルバルブが全閉状態になった後に、エンジン回転数変化量ΔNEが初めて所定の変化量閾値以下となったか否かに基づいて、プロペラ13の回転状態がプロペラ連れ回り状態になったか否かを判断することができる。
【0078】
BCM35は、時点t3において、プロペラ13の回転状態がプロペラ連れ回り状態になったと判断したときに、模擬船速を算出する。模擬船速は、船舶の実船速を推定するための参照値である。BCM35は、スロットルバルブ12が開状態から全閉状態になったことによって船舶1がプロペラ連れ回り状態で前進し、かつ動力伝達機構14の状態が前進接続状態を継続しているときのエンジン回転数に、船外機6の馬力から推定される船舶1の船長に応じたスケール変換係数SCを乗ずることにより模擬船速を算出する。なお、船舶に複数の船外機が設けられている場合(多機掛けの場合)には、BCM35は、スロットルバルブ12が開状態から全閉状態になったことによって船舶1がプロペラ連れ回り状態で前進し、かつ動力伝達機構14の状態が前進接続状態を継続しているときのエンジン回転数に、複数の船外機6の馬力の合計から推定される船舶1の船長に応じたスケール変換係数SCを乗ずることにより模擬船速を算出する。
【0079】
続いて、BCM35は、算出した模擬船速を、所定の減少勾配を示す勾配データ43に基づいて、当該模擬船速の算出時点t3から時間の経過と共に減少させていく。その結果、模擬船速は、
図6に示すように、時点t3から、船舶1の実船速が減少していく勾配に近似した勾配で減少していく値となる。なお、模擬船速の算出原理、模擬船速の具体的な算出方法、および勾配データ43等については後述する。
【0080】
その後、操作レバー33の位置が後進位置Rに至ったとき、BCM35はそのことを認識する。その後、BCM35(シフト制御部38)は、模擬船速が所定の模擬船速閾値以下となるまで待ってから、動力伝達機構14の状態を後進接続状態に切り替えるシフト制御信号をECM28に送信する。ECM28は、BCM35から送信されたシフト制御信号に基づいて、動力伝達機構14の状態を後進接続状態に切り替えるクラッチ制御信号をシフト装置22に出力し、シフト装置22は、ECM28から出力されたクラッチ制御信号に基づいて、動力伝達機構14の状態を後進接続状態に切り替える。
図6においては、時点t7で模擬船速が模擬船速閾値以下となり、BCM35が動力伝達機構14の状態を後進接続状態に切り替えるシフト制御信号をECM28に送信し、BCM35からのシフト制御信号の送信から切替タイムラグDが経過した時点t8において、動力伝達機構14の状態の後進接続状態への切替が完了している。
【0081】
図6において、仮に後進接続への切替遅延処理が実行されずに、動力伝達機構14の状態が非接続状態から後進接続状態に通常の切替処理により切り替えられた場合には、時点t3から切替タイムラグDが経過した時点において、動力伝達機構14の状態が非接続状態から後進接続状態に切り替わる。このときの実船速はV
Aである。これに対し、後進接続への切替遅延処理が実行された場合には、時点t8において、動力伝達機構14の状態が非接続状態から後進接続状態に切り替わる。このときの実船速はV
Bである。
図6を見るとわかる通り、時点t3から切替タイムラグDが経過した時点から時点t8までの間において、実船速はV
AからV
Bに十分に減速している。したがって、時点t8において、動力伝達機構14の状態が非接続状態から後進接続状態に切り替わり、その直後にスロットルバルブ12が開いた場合に動力伝達機構またはエンジン等にかかる負荷の大きさは、時点t3から切替タイムラグDが経過した時点において、動力伝達機構14の状態が非接続状態から後進接続状態に切り替わり、その直後にスロットルバルブ12が開いた場合に動力伝達機構またはエンジン等にかかる負荷の大きさと比較して十分に小さくなる。したがって、後進接続への切替遅延処理によれば、動力伝達機構14またはエンジン7等に大きな負荷がかかることを抑制することができる。また、模擬船速閾値を、動力伝達機構14またはエンジン7等に大きな負荷がかかることを抑制することができる上限値またはそれに近い値に設定することより、船外機6の操作が不必要に鈍化してしまうことを防ぐことができる。
【0082】
(模擬船速の算出原理)
BCM35は、スロットルバルブ12が開状態から全閉状態になったことによって船舶1がプロペラ連れ回り状態で前進し、かつ動力伝達機構14の状態が前進接続状態を継続しているときのエンジン回転数(具体的には
図6中の時点t3におけるエンジン回転数)に、船舶1の船長に応じたスケール変換係数S
Cを乗ずることにより模擬船速を算出し、続いて、算出した模擬船速を、所定の減少勾配を示す勾配データ43に基づいて当該模擬船速の算出時点から時間の経過と共に減少させていく。これにより、模擬船速は、船舶推進制御システム5が設けられた船舶が前進しているときに操作レバーの位置が前進位置からニュートラル位置に変わり、その結果、慣性力により前進しつつも水の抵抗により漸次減少していく船舶の実船速の減少勾配に近似した減少勾配で減少していく値になる。以下、模擬船速の算出原理について説明する。
【0083】
船舶1がプロペラ連れ回り状態で前進し、かつ動力伝達機構14の状態が前進接続状態を継続しているときのエンジン回転数と船舶1の実船速とは比例関係に近い。したがって、このエンジン回転数に基づいて船舶1の実船速を推定することができる。そこで、BCM35は、このエンジン回転数を模擬船速の基礎値として用いる。
【0084】
ところが、このエンジン回転数は主に船舶の船長によって異なる。
図7(A)は、それぞれ互いに船長が異なる3隻の船舶P
A、P
B、P
Cについて、船舶がプロペラ連れ回り状態で前進し、かつ動力伝達機構の状態が前進接続状態を継続しているときのエンジン回転数と実船速との関係を示している。具体的には、特性線J
Aは、3隻の船舶のうち船長が最も長い船舶P
Aについての上記エンジン回転数と実船速との関係を示し、特性線J
Bは、3隻の船舶のうち船長が概ね中間の船舶P
Bについての上記エンジン回転数と実船速との関係を示し、特性線J
Cは、3隻の船舶のうち船長が最も小さい船舶P
Cについての上記エンジン回転数と実船速との関係を示している。
図7(A)から、船長が長い船舶P
A(特性線J
A)の方が船長の短い船舶P
C(特性線J
C)よりもエンジン回転数に対する実船速が速いことがわかる。
【0085】
本実施例では、模擬船速を1つの勾配データ43に基づいて減少させていくことにより、慣性力により前進しつつも水の抵抗により漸次減少していく船舶の実船速を逐一推定していく。したがって、船舶がプロペラ連れ回り状態で前進し、かつ動力伝達機構の状態が前進接続状態を継続しているときのエンジン回転数が船舶の船長によって異なることを無視した場合には、慣性力により前進しつつも水の抵抗により漸次減少していく船舶の実船速の推定の精度が低下する。
【0086】
そこで、BCM35は、船舶がプロペラ連れ回り状態で前進し、かつ動力伝達機構の状態が前進接続状態を継続しているときのエンジン回転数と実船速との関係を、フルード相似則に基づいてスケール変換し、スケール変換した後のこれらエンジン回転数と実船速との関係に基づいて模擬船速を算出する。具体的には、BCM35は、船舶がプロペラ連れ回り状態で前進し、かつ動力伝達機構の状態が前進接続状態を継続しているときのエンジン回転数に、船舶推進制御システム5が設けられた船舶の船長に応じたスケール変換係数SCを乗ずることにより模擬船速を算出する。
【0087】
スケール変換係数SCはフルード相似則に基づくスケール変換係数である。スケール変換係数Scは次の数式(1)により算出される。
【0088】
スケール変換係数SC=(LS)^(1/2) ・・・(1)
LS:推定船長
数式(1)は次のように生成されたものである。
【0089】
フルード相似則に基づくスケール変換を行う際には、慣性力と重量との比を表すフルード数FRが変換前と変換後とで等しくなるようにする。フルード数FRは次式の通りである。
【0090】
FR=(m・a/m・g)^(1/2) ・・・(2)
m:質量、a:加速度、g:重力加速度
船舶についてフルード相似則に基づくスケール変換を行う際には、数式(2)は次のように変換される。
【0091】
FR=V/{(L・g)^(1/2)} ・・・(3)
V:船速、L:船長
ここで、船長が互いに異なる2隻の船舶QA、QBがあるとする。船舶QAの船長はLAであり、船舶QAの実船速はVAである。船舶QBの船長はLBであり、船舶QBの実船速はVBである。フルード相似則に基づいて、船舶QBの実船速VBを船舶QAの実船速VAにスケール変換する際には、変換前と変換後とでフルード数FRが等しくなるようにする。したがって、次の数式を満足するように変換を行う。
【0092】
VA/{(LA・g)^(1/2)}=VB/{(LB・g)^(1/2)}・・・(4)
数式(4)から次の数式が成り立つ。
【0093】
VA={(LA/LB)^(1/2)}・VB ・・・(5)
数式(5)中の係数:{(LA/LB)^(1/2)}において、(LA/LB)を推定船長LSに置き換えたものが、本発明の実施例のスケール変換係数SCである。
【0094】
図7(B)は、
図7(A)に示す船舶P
A、P
B、P
Cについてのエンジン回転数と実船速との関係を、上記スケール変換係数S
Cを用いてそれぞれスケール変換した結果を示している。具体的には、特性線K
Aは、
図7(A)に示す船舶P
Aについてのエンジン回転数と実船速との関係(特性線J
A)を上記スケール変換係数S
Cを用いてスケール変換した結果を示している。特性線K
Bは、
図7(A)に示す船舶P
Bについてのエンジン回転数と実船速との関係(特性線J
B)を上記スケール変換係数S
Cを用いてスケール変換した結果を示している。特性線K
Cは、
図7(A)に示す船舶P
Cについてのエンジン回転数と実船速との関係(特性線J
C)を上記スケール変換係数S
Cを用いてスケール変換した結果を示している。
図7(A)中の二点鎖線で囲まれた部分と、
図7(B)中の二点鎖線で囲まれた部分とを比較すると、スケール変換前よりもスケール変換後の方が、エンジン回転数と実船速との関係につき、船舶P
A、P
B、P
C間の一致性が高いことがわかる。すなわち、
図7(A)における特性線J
A、J
B、J
C間の一致性よりも、
図7(B)における特性線K
A、K
B、K
C間の一致性の方が高い。したがって、スケール変換係数S
Cを用いてスケール変換した後のエンジン回転数と実船速との関係に基づいて模擬船速を算出し、その模擬船速を1つの勾配データ43に基づいて減少させていくことにより、慣性力により前進しつつも水の抵抗により漸次減少していく船舶の実船速の推定の精度を向上させることができる。
【0095】
BCM35は、船舶1がプロペラ連れ回り状態で前進し、かつ動力伝達機構14の状態が前進接続状態を継続しているときのエンジン回転数に、船舶1の船長に応じたスケール変換係数SCを乗ずることにより模擬船速を算出した後、その算出した模擬船速を、所定の減少勾配を示す勾配データ43に基づいて当該模擬船速の算出時点から時間の経過と共に減少させていく。勾配データ43が示す所定の減少勾配は、船長が異なる複数の船舶のそれぞれにつき、スケール変換係数SCを用いて算出した模擬船速を当該所定の減少勾配に沿うように減少させていったときの模擬船速の減少勾配と、船舶が前進しているときに操作レバーの位置が前進位置からニュートラル位置に変わり、その結果、慣性力により前進しつつも水の抵抗により漸次減少していく船舶の実船速の減少勾配との誤差が最小となるように、実験またはシミュレーションにより生成されたものである。勾配データ43に基づいて模擬船速を減少させていくことにより、船長が異なる複数の船舶のそれぞれにつき、模擬船速の減少勾配を実船速の減少勾配に可及的に近づけることができる。
【0096】
(模擬船速の算出方法)
BCM35は、船舶1がプロペラ連れ回り状態で前進し、かつ動力伝達機構14の状態が前進接続状態を継続しているときのエンジン回転数に、船舶1の船長に応じたスケール変換係数S
Cを乗ずることにより模擬船速を算出する。この演算を行うに当たり、BCM35は、まず、船舶推進制御システム5が設けられた船舶に設けられた船外機の馬力に基づいて、船舶推進制御システム5が設けられた船舶の船長を推定する。BCM35は、船舶推進制御システム5が設けられた船舶の船長を推定するに当たり、BCM35が有する記憶部40に記憶された船長推定マップ41を用いる。
図5に示すように、船長推定マップ41には、船舶に設けられた船外機の総馬力と、船舶の船長の推定値である推定船長L
Sとの対応関係が記述されている。船外機の総馬力とは、船舶に設けられた船外機が1機の場合には、その1機の船外機の馬力であり、船舶に設けられた船外機が複数の場合には、それら複数の船外機の馬力の合計である。BCM35は、例えば、船舶推進制御システム5が設けられた船舶に設けられた船外機の馬力に当該船舶に設けられた船外機の数を乗ずることにより、当該船舶に設けられた船外機の総馬力を算出する。そして、BCM35は、船長推定マップ41を参照し、算出した総馬力に対応する推定船長L
Sを決定する。
【0097】
BCM35は、船舶推進制御システム5が設けられた船舶の推定船長L
Sを決定した後、その推定船長L
Sに基づいてスケール変換係数S
Cの値を決定する。BCM35は、スケール変換係数S
Cの値を決定するに当たり、BCM35が有する記憶部40に記憶されたスケール変換係数決定マップ42を用いる。
図5に示すように、スケール変換係数決定マップ42には、推定船長L
Sとスケール変換係数S
Cの値との対応関係が記述されている。スケール変換係数決定マップ42において、各スケール変換係数S
Cの値は、上記数式(1)を用いて予め算出したものである。BCM35は、スケール変換係数決定マップ42を参照し、船舶推進制御システム5が設けられた船舶の推定船長L
Sに対応するスケール変換係数S
Cの値を決定する。なお、スケール変換係数決定マップ42を用いずに、推定船長L
Sが決定される度に、上記数式(1)を用いてスケール変換係数S
Cの値を算出するようにしてもよい。
【0098】
BCM35は、このようにして決定したスケール変換係数S
Cの値を用いて模擬船速を算出した後、その模擬船速を、所定の減少勾配を示す勾配データ43に基づいて当該模擬船速の算出時点から時間の経過と共に減少させていく。
図5に示すように、勾配データ43は、エンジン回転数がその大きさに基づいて複数の区間に分割され、これらの区間毎に、エンジン回転数の1秒当たりの変化量Bを記述することにより形成されている。BCM35は、まず、算出した模擬船速をBCM35が有する記憶部40に記憶し、所定時間W(例えば0.1秒)待機する。次に、BCM35は、勾配データ43を参照し、現在の模擬船速(すなわち記憶部40に現在記憶されている模擬船速)に対応する変化量Bを決定し、次式の演算を行い、演算により得られた新たな模擬船速を記憶部40に上書きし、所定時間W待機する。
【0099】
新たな模擬船速=現在の模擬船速+B×W ・・・(6)
その後、BCM35は、勾配データ43を参照し、現在の模擬船速に対応する変化量Bを決定し、数式(6)の演算を行い、演算により得られた新たな模擬船速を記憶部40に上書きし、所定時間W待機するといった一連の処理を繰り返す。
【0100】
(後進接続への切替遅延処理の具体的な流れ)
図8~10は、後進接続への切替遅延処理の具体的な流れを示している。
図6からわかる通り、船舶推進制御システム5においては、模擬船速を算出する模擬船速算出処理と、動力伝達機構14の状態を切り替えるシフト制御処理とが並行して行われる。
図8は模擬船速算出処理を示し、
図10はシフト制御処理を示している。
図9に示すスケール変換係数算出処理は、
図8に示す模擬船速算出処理におけるサブルーチンである。
【0101】
まず、模擬船速算出処理について説明する。
図8において、BCM35の模擬船速算出部39は、船外機6のECM28から送信されたスロットル位置情報に基づいて、スロットルバルブ12が全閉状態であるか否かを判断する(ステップS1)。模擬船速算出部39は、ステップS1を繰り返すことによりスロットルバルブ12の状態を監視し、スロットルバルブが全閉状態になったタイミングで、処理をステップS2へ移行させる。
【0102】
続いて、模擬船速算出部39は、ECM28から送信されたエンジン回転数情報に基づいてエンジン回転数変化量ΔNEを算出し、ステップS1の後にエンジン回転数変化量ΔNEが初めて変化量閾値以下となったか否かを判断する(ステップS2)。模擬船速算出部39は、ステップS2を繰り返すことによりエンジン回転数変化量ΔNEを監視し、ステップS1の後にエンジン回転数変化量ΔNEが初めて変化量閾値以下となったタイミングで、処理をステップS3へ移行させる。
【0103】
続いて、模擬船速算出部39は、スケール変換係数SCを算出するスケール変換係数算出処理を行う(ステップS3)。
【0104】
図9に示すスケール変換係数算出処理において、模擬船速算出部39は、例えば船外機6の馬力情報の送信を要求する要求信号をECM28に送信し、それに応じてECM28から送信された船外機6の馬力情報を受信する(ステップS11)。なお、船舶1に複数の船外機6が設けられている場合、それら複数の船外機の馬力は通常それぞれ互いに同一であるので、複数の船外機6のうちの1機の船外機から馬力情報を取得すれば足りる。
【0105】
続いて、模擬船速算出部39は船舶1に設けられた船外機6の数を認識する(ステップS12)。例えば、船舶1に設けられた船外機6の数は、通常、BCM35の記憶部40に記憶されているので、模擬船速算出部39はそれを参照することにより、船舶1に設けられた船外機6の数を認識する。
【0106】
続いて、模擬船速算出部39は、受信した船外機6の馬力情報が示す船外機6の馬力に、認識した船外機6の数を乗ずることにより、船舶1に設けられた船外機6の総馬力を算出する(ステップS13)。なお、船舶1に設けられた船外機6が1機である場合には、受信した船外機6の馬力情報が示す船外機6の馬力をそのまま総馬力とする。
【0107】
続いて、模擬船速算出部39は、算出した総馬力に基づき、船長推定マップ41を用いて、船舶1の推定船長LSを決定する(ステップS14)。
【0108】
続いて、模擬船速算出部39は、決定した推定船長L
Sに基づき、スケール変換係数決定マップ42を用いて、スケール変換係数S
Cを決定する(ステップS15)。その後、処理は、
図8中のステップS4に移行する。
【0109】
なお、
図9に示すスケール変換係数算出処理は、例えば、船舶1の航行開始時にBCM35および船外機6に電源が投入された直後等に行うようにしてもよい。この場合には、スケール変換係数算出処理により決定されたスケール変換係数S
Cを例えばBCM35の記憶部40に記憶しておく。模擬船速算出部39は、
図8中のステップS3で、スケール変換係数S
Cを記憶部40から読み取る。
【0110】
続いて、
図8において、模擬船速算出部39は、ステップS2の後にECM28から送信されたエンジン回転数情報が示すエンジン回転数を取得する。この時点で取得されるエンジン回転数は、プロペラの回転状態がプロペラ連れ回り状態であり、かつ動力伝達機構14の状態が前進接続状態であるときのエンジン回転数である。そして、模擬船速算出部39は、当該エンジン回転数に、スケール変換係数算出処理により決定したスケール変換係数S
Cを乗ずることにより、模擬船速を算出する(ステップS4)。続いて、模擬船速算出部39は、算出した模擬船速を記憶部40に記憶し、所定時間W待機する(ステップS5)。
【0111】
続いて、模擬船速算出部39は、勾配データ43を参照し、現在の模擬船速に対応する変化量Bを決定し、上記数式(6)の演算を行い、演算により得られた新たな模擬船速を記憶部40に上書きし(ステップS6)、所定時間W待機する(ステップS7)。模擬船速算出部39はステップS6およびS7を繰り返すことにより、模擬船速を勾配データ43に基づいて減少させていく。模擬船速算出部39は、操作レバー33の位置が前進位置F、ニュートラル位置Nおよび後進位置Rに順次変わることのないことが判明するか、または、模擬船速が模擬船速閾値以下になるまで、ステップS6およびS7を繰り返す。
【0112】
次に、模擬船速算出処理と並行して行われるシフト制御処理について説明する。
図10において、操作レバー33の位置が前進位置Fであるとする。その場合、シフト制御部38は、リモコン装置31のレバー位置センサから送信される操作信号に基づいて、操作レバー33の位置が前進位置Fからニュートラル位置Nに変わったか否かを判断する(ステップS21)。シフト制御部38は、ステップS21を繰り返すことにより操作レバー33の位置を監視し、操作レバー33の位置が前進位置Fからニュートラル位置Nに変わったタイミングで、処理をステップS22へ移行させる。
【0113】
続いて、シフト制御部38は、動力伝達機構14の状態を非接続状態に切り替えるシフト制御信号をECM28に送信する(ステップS22)。
【0114】
続いて、シフト制御部38は、操作レバー33の位置の変化を監視し(ステップS23)、操作レバー33の位置が変化した場合には、その操作レバー33の位置の変化が、ニュートラル位置Nから後進位置Rへの変化であるか否かを判断する(ステップS24)。ステップS24において、操作レバー33の位置がニュートラル位置Nから後進位置Rに変化した場合、ステップS21からS24までの処理を辿るとわかる通り、操作レバー33の位置が前進位置Fからニュートラル位置Nに変わった後に続いて後進位置Rに変わったことになる。その場合、シフト制御部38は、模擬船速が模擬船速閾値以下になったか否かを判断する(ステップS25)。
【0115】
模擬船速が模擬船速閾値以下でない場合には、シフト制御部38は、ステップS25を繰り返すことにより模擬船速を監視し、模擬船速が模擬船速閾値以下となったタイミングで、処理をステップS26へ移行させる。
【0116】
続いて、シフト制御部38は、動力伝達機構14の状態を非接続状態から後進接続状態に切り替えるシフト制御信号をECM28に送信する(ステップS26)。
【0117】
一方、ステップS23において、シフト制御部38が操作レバー33の位置の変化を監視している間、操作レバー33の位置が変化しないまま、長い時間が経過し、その間に、模擬船速が模擬船速閾値以下になる場合があり得る。この場合には、その後、ステップS24で、操作レバー33の位置がニュートラル位置Nから後進位置Rに変わった時点で、模擬船速は既に模擬船速閾値以下になっているので、シフト制御部38は、直ちに、ステップS26に移行し、動力伝達機構14の状態を非接続状態から後進接続状態に切り替えるシフト制御信号をECM28に送信する。
【0118】
他方、ステップS23において、シフト制御部38が操作レバー33の位置の変化を監視している間、操作レバー33の位置が変化し、ステップS24において、その操作レバー33の位置の変化がニュートラル位置Nから前進位置Fへの変化である場合には、シフト制御部38は動力伝達機構14の状態を非接続状態から前進接続状態に切り替えるシフト制御信号をECM28に送信する(ステップS27)。なお、ステップS24において操作レバー33の位置の変化がニュートラル位置Nから前進位置Fへの変化である場合、これにより、操作レバー33の位置が前進位置F、ニュートラル位置Nおよび後進位置Rに順次変わることのないことが判明したことになる。
【0119】
以上説明した通り、本発明の実施例の船舶推進制御システム5において、BCM35は、船舶1がプロペラ連れ回り状態で前進しかつ動力伝達機構14の状態が前進接続状態を継続しているときのエンジン回転数に、船舶1の推定船長LSに応じたスケール変換係数SCを乗ずることにより模擬船速を算出し、当該模擬船速を、所定の減少勾配を示す勾配データ43に基づいて当該模擬船速の算出時点から時間の経過と共に減少させていく。そして、BCM35は、操作レバー33の位置が前進位置Fからニュートラル位置Nに変わった後に続いて後進位置Rに変わったときに模擬船速が所定の模擬船速閾値以下でない場合には、模擬船速が模擬船速閾値以下となるのを待ってから動力伝達機構14の状態を非接続状態から後進接続状態に切り替える。これにより、船舶推進制御システム5を船長がそれぞれ互いに異なる複数の船舶に適用した場合に、これら複数の船舶のそれぞれにおいて、操作レバー33の位置が前進位置F、ニュートラル位置Nおよび後進位置Rに順次変わったときに、実船速が十分に減少する前に、動力伝達機構14の状態が非接続状態から後進状態に切り替わり、または、実船速が十分に減少しているにも拘わらず、動力伝達機構14の状態が非接続状態から後進接続状態に切り替わらないといった、動力伝達機構14の状態の後進接続状態への切替タイミングのずれが発生することを抑制することができる。したがって、複数の船舶のそれぞれにおいて、操作レバー33の位置が前進位置F、ニュートラル位置Nおよび後進位置Rに順次変わったときに、実船速が十分に減少する前に、動力伝達機構14の状態が非接続状態から後進状態に切り替わり、かつスロットルバルブが開き、そのために動力伝達機構またはエンジン等に大きな負荷がかかることを抑制することができる。また、複数の船舶のそれぞれにおいて、操作レバー33の位置が前進位置F、ニュートラル位置Nおよび後進位置Rに順次変わったときに、実船速が十分に減少しているにも拘わらず、動力伝達機構14の状態が非接続状態から後進接続状態に切り替わらず、そのために船外機6の操作が不必要に鈍化してしまうことを抑制することができる。
【0120】
また、本発明の実施例の船舶推進制御システム5においては、船舶1がプロペラ連れ回り状態で前進しかつ動力伝達機構14の状態が前進接続状態を継続しているときのエンジン回転数に、船舶1の推定船長LSに応じたスケール変換係数SCを乗ずることにより模擬船速を算出するので、1つの勾配データ43に基づいて模擬船速を減速させていくことで、船長がそれぞれ互いに異なる複数の船舶において、上述した動力伝達機構14の状態の後進接続状態への切替タイミングのずれの発生を抑制することができる。すなわち、本発明の実施例の船舶推進制御システム5においては、船長が互いに異なる複数の船舶にそれぞれ対応する複数の勾配データを用いなくても、船長がそれぞれ互いに異なる複数の船舶において、上述した動力伝達機構14の状態の後進接続状態への切替タイミングのずれの発生を抑制することができる。したがって、本実施例の船舶推進制御システム5は汎用性が高く、船長の異なる種々の船舶に容易に導入することができる。また、船舶推進制御システム5を新型の船舶に導入する場合でも、その新型の船舶に適合した個別の勾配データを生成したり、その勾配データをBCM35の記憶部40に記憶させたりする必要がない。
【0121】
また、本発明の実施例の船舶推進制御システム5において、BCM35は、船舶1に設けられた船外機6の馬力、または船舶1に設けられた複数の船外機6の馬力の合計に基づいて船舶1の船長を推定する。船舶の船長は搭載可能な船外機の馬力が大きくなるほど長くなる傾向があるため、船舶1に設けられた船外機6の馬力、または船舶1に設けられた複数の船外機6の馬力の合計に基づいて船舶1の船長を精度良く推定することができる。また、船外機6からBCM35へ馬力情報を送信することにより、船舶1の船長を推定する処理の容易化を図ることができる。
【0122】
また、本発明の実施例の船舶推進制御システム5において、BCM35は、船舶に複数の船外機が設けられている場合、すなわち多機掛けの場合、船舶1がプロペラ連れ回り状態で前進しかつ動力伝達機構14の状態が前進接続状態を継続しているときのエンジン回転数に、複数の船外機6の馬力の合計から推定される船舶1の推定船長LSに応じたスケール変換係数SCを乗ずることにより模擬船速を算出する。これにより、船舶推進制御システム5を、1機掛けの船舶に適用した場合でも、多機掛けの船舶に適用した場合でも、それぞの船舶において、上述した動力伝達機構14の状態の後進接続状態への切替タイミングのずれの発生を抑制することができる。
【0123】
また、本発明の実施例の船舶推進制御システム5において、BCM35は、エンジン回転数変化量ΔNEに基づいて、プロペラ13の回転状態がプロペラ連れ回り状態になったことを容易かつ高精度に認識することができる。
【0124】
なお、上記実施例では、スロットルバルブ12が全閉状態になってからプロペラ連れ回りタイムラグに相当する時間が経過した時点t3におけるエンジン回転数を取得し、そのエンジン回転数にスケール変換係数S
Cを乗ずることにより模擬船速を算出するが、このエンジン回転数を取得するタイミングは、
図6中の時点t3から、動力伝達機構14の状態が前進接続状態から非接続状態に切り替わる時点t5の直前までの間であればよい。また、時点t3から時点t5までの時間が短い場合には、動力伝達機構14の状態が前進接続状態から非接続状態に切り替えるタイミングを遅らせ、プロペラ13の回転状態がプロペラ連れ回り状態であり、かつ動力伝達機構14の状態が前進接続状態が継続する時間を長くしてもよい。
【0125】
また、上記実施例では、船外機6の総馬力から船舶1の推定船長を船長推定マップ41を用いて決定し、その推定船長をスケール変換係数の決定に用いる場合を例にあげた。しかしながら、本発明はこれに限らない。船舶1の船長の値を例えばBCM35の記憶部40に記憶しておき、推定船長に代えて、記憶部40に記憶された船長の値を用いてスケール変換係数を決定してもよい。この場合、船長の値は、例えば、船舶1に船外機6を取り付ける際に、作業者がBCM35に入力する。また、作業者により入力された船長の値を、船外機6の総馬力から推定した船長の値と比較し、入力された船長の値が、推定した船長の値と著しく異なる場合には、誤入力であると判断し、例えば作業者に船長の値の入力のやり直しを要求するようにしてもよい。また、船舶1の船長に代えて、船舶1の識別情報(例えば船名、製品名または製品識別番号等)を記憶部40に記憶しておき、その識別情報に基づいて船長を決定し、その船長を用いてスケール変換係数を決定してもよい。
【0126】
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う船舶推進制御システムもまた本発明の技術思想に含まれる。