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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173334
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】検出装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/00 20060101AFI20241205BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20241205BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20241205BHJP
   G01N 27/12 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
G01N27/00 J
H01L29/78 618B
H01L29/78 624
G01N27/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091688
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】ムルガナタン マノハラン
(72)【発明者】
【氏名】イスラム・エム ディー・ザヒドゥル
(72)【発明者】
【氏名】水田 博
(72)【発明者】
【氏名】内山 章
(72)【発明者】
【氏名】恩田 陽介
(72)【発明者】
【氏名】服部 将志
【テーマコード(参考)】
2G046
2G060
5F110
【Fターム(参考)】
2G046AA10
2G046AA24
2G046FB01
2G046FB06
2G046FC07
2G046FE02
2G046FE03
2G046FE09
2G046FE10
2G046FE11
2G046FE13
2G046FE14
2G046FE16
2G046FE21
2G046FE22
2G046FE24
2G046FE25
2G046FE26
2G046FE29
2G046FE31
2G046FE34
2G046FE35
2G046FE38
2G046FE39
2G046FE41
2G046FE44
2G046FE46
2G046FE47
2G046FE48
2G046FE49
2G060AA01
2G060AB07
2G060AB21
2G060AE19
2G060BA07
2G060BB09
2G060DA14
2G060JA01
2G060KA01
5F110AA24
5F110BB09
5F110CC07
5F110FF02
5F110FF03
5F110GG01
5F110GG58
5F110HK02
5F110HK03
5F110HK21
5F110NN80
(57)【要約】
【課題】検出感度を向上させることが可能な検出装置を提供する。
【解決手段】検出装置は、導電層と、前記導電層上に設けられた絶縁層12と、前記絶縁層上に設けられたグラフェン膜14と、前記グラフェン膜に電気的に接続されたソース電極20およびドレイン電極22と、前記グラフェン膜上に設けられ、金属、金属酸化物または金属と金属酸化物との混合物からなるナノ粒子が集合した複数の集合体16と、を備え、前記複数の集合体の間の複数の領域18において、前記グラフェン膜が露出する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電層と、
前記導電層上に設けられた絶縁層と、
前記絶縁層上に設けられたグラフェン膜と、
前記グラフェン膜に電気的に接続されたソース電極およびドレイン電極と、
前記グラフェン膜上に設けられ、金属、金属酸化物、または金属と金属酸化物との混合物からなるナノ粒子が集合した複数の集合体と、
を備え、
前記複数の集合体の間の複数の領域において、前記グラフェン膜が露出する検出装置。
【請求項2】
前記複数の領域のうち少なくとも1つの領域と前記複数の集合体とが接する線の長さは同じ単位系における前記少なくとも1つの領域の平面面積の10倍以上である請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記グラフェン膜における前記複数の集合体の被覆率は3%以上かつ90%以下である請求項1または2に記載の検出装置。
【請求項4】
前記ソース電極と前記ドレイン電極との間における前記グラフェン膜の前記ソース電極と前記ドレイン電極との配列方向における幅は5μm以下である請求項1または2に記載の検出装置。
【請求項5】
前記ソース電極と前記ドレイン電極との間における前記グラフェン膜の前記配列方向に直交する方向における幅は5μm以下である請求項4に記載の検出装置。
【請求項6】
前記ソース電極と前記ドレイン電極との間における前記グラフェン膜の前記ソース電極と前記ドレイン電極との配列方向における幅は200nm以下である請求項1または2に記載の検出装置。
【請求項7】
前記ソース電極と前記ドレイン電極との間における前記グラフェン膜の前記配列方向に直交する方向における幅は200nm以下である請求項6に記載の検出装置。
【請求項8】
前記ナノ粒子は、錫、錫酸化物、または錫と錫酸化物との混合物からなる請求項1または2に記載の検出装置。
【請求項9】
前記ソース電極に対し前記導電層に加える電圧を変化させたときに前記ソース電極と前記ドレイン電極との間を流れる電流が極小となる電圧値をCNPとしたとき、基準気体中のCNPの値と検出気体中のCNPの値との差に基づき、前記検出気体中の特定の分子を検出する検出器を備える請求項1または2に記載の検出装置。
【請求項10】
導電層と、前記導電層上に設けられた絶縁層と、前記絶縁層上に設けられたグラフェン膜と、前記グラフェン膜に電気的に接続されたソース電極およびドレイン電極と、を備えるトランジスタを準備し、
前記グラフェン膜の表面に敷き詰められた金属ナノ粒子を形成し、
前記金属ナノ粒子を熱処理することで、金属、金属酸化物、または金属と金属酸化物との混合物からなるナノ粒子が集合した集合体を形成し、前記集合体の間において前記グラフェン膜を露出させる検出装置の製造方法。
【請求項11】
前記金属ナノ粒子は、錫からなる請求項10に記載の検出装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出装置およびその製造方法に関し、例えばグラフェン膜を有する検出装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チャネル上に絶縁層を介し、ナノ粒子が堆積されたグラフェン膜を設けて、チャネルに接触するソース電極とドレイン電極との間を流れる電流に基づき、検出気体中の特定の分子を検出することが知られている(例えば特許文献1)。グラフェン膜に接触するソース電極とドレイン電極との間を流れる電流に基づき、検出気体中の特定の分子を検出することが知られている(例えば特許文献2)。SnOナノ粒子が設けられたグラフェン膜を用いて検出気体中の特定の分子を検出することが知られている(例えば非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/002854号
【特許文献2】特開2018-163146号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Z. Zhang et al. “Hydrogen gas sensor based on metal oxide nanoparticles decorated graphene transistor”, Nanoscale, 2015, 7, 10078-10084
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および非特許文献1では、グラフェン膜にナノ粒子を設けることで、検出感度が向上することが記載されている。しかしながら、検出感度は十分ではない。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、検出感度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、導電層と、前記導電層上に設けられた絶縁層と、前記絶縁層上に設けられたグラフェン膜と、前記グラフェン膜に電気的に接続されたソース電極およびドレイン電極と、前記グラフェン膜上に設けられ、金属、金属酸化物、または金属と金属酸化物との混合物からなるナノ粒子が集合した複数の集合体と、を備え、前記複数の集合体の間の複数の領域において、前記グラフェン膜が露出する検出装置である。
【0008】
上記構成において、前記複数の領域のうち少なくとも1つの領域と前記複数の集合体とが接する線の長さは同じ単位系における前記少なくとも1つの領域の平面面積の10倍以上である構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記グラフェン膜における前記複数の集合体の被覆率は3%以上かつ90%以下である構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間における前記グラフェン膜の前記ソース電極と前記ドレイン電極との配列方向における幅は5μm以下である構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間における前記グラフェン膜の前記配列方向に直交する方向における幅は5μm以下である構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間における前記グラフェン膜の前記ソース電極と前記ドレイン電極との配列方向における幅は200nm以下である構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間における前記グラフェン膜の前記配列方向に直交する方向における幅は200nm以下である構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記ナノ粒子は、錫、錫酸化物、または錫と錫酸化物との混合物からなる構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記ソース電極に対し前記導電層に加える電圧を変化させたときに前記ソース電極と前記ドレイン電極との間を流れる電流が極小となる電圧値をCNPとしたとき、基準気体中のCNPの値と検出気体中のCNPの値との差に基づき、前記検出気体中の特定の分子を検出する検出器を備える構成とすることができる。
【0016】
本発明は、導電層と、前記導電層上に設けられた絶縁層と、前記絶縁層上に設けられたグラフェン膜と、前記グラフェン膜に電気的に接続されたソース電極およびドレイン電極と、を備えるトランジスタを準備し、前記グラフェン膜の表面に敷き詰められた金属ナノ粒子を形成し、前記金属ナノ粒子を熱処理することで、金属、金属酸化物、または金属と金属酸化物との混合物からなるナノ粒子が集合した集合体を形成し、前記集合体の間において前記グラフェン膜を露出させる検出装置の製造方法である。
【0017】
上記構成において、前記金属ナノ粒子は、錫からなる構成とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、検出感度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施例1に係る検出装置の断面図である。
図2図2(a)は、実施例1におけるグラフェン膜の断面模式図、図2(b)は、平面模式図である。
図3図3は、実施例1におけるゲート電圧Vgに対するドレイン電流Idを示す図である。
図4図4は、比較例1に係る検出装置の断面図である。
図5図5(a)および図5(b)は、それぞれ比較例2および3におけるグラフェン膜の断面模式図である。
図6図6(a)は、実施例2に係る検出装置の平面図、図6(b)は、図6(a)のA-A断面図である。
図7図7は、実施例2の検出装置を用いた検出システムを示すブロック図である。
図8図8は、実施例2における処理部の動作を示すフローチャートである。
図9図9(a)から図9(c)は、実施例2の検出装置の製造方法を示す断面図である。
図10図10(a)から図10(c)は、実施例2の検出装置の製造方法を示す断面図である。
図11図11(a)および図11(b)は、それぞれサンプルAおよびBのグラフェン膜の上面のSEM画像である。
図12図12(a)および図12(b)は、それぞれサンプルAおよびBのゲート電圧Vgに対するドレイン電流Idを示す図である。
図13図13(a)から図13(c)は、WxおよびWyが各々2μmのサンプルBのSEM画像である。
図14図14(a)から図14(c)は、WxおよびWyが各々200nmのサンプルBのSEM画像である。
図15図15(a)は、WxおよびWyが各々1μmのサンプルBのゲート電圧Vgに対するドレイン電流Idを示す図であり、図15(b)は、WxおよびWyが各々200nmのサンプルBのゲート電圧Vgに対するドレイン電流Idを示す図である。
図16図16は、気体中の特定の分子を変えて、ΔCNPを測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し実施例について説明する。
【実施例0021】
図1は、実施例1に係る検出装置の断面図である。半導体基板10の厚さ方向をZ方向、ソース電極20とドレイン電極22との配列方向をX方向、Z方向およびX方向に直交する方向をY方向とする。
【0022】
図1に示すように、実施例1の検出装置100では、半導体基板10は、導電層であり、ゲート電極として機能する。半導体基板10上に絶縁層12が設けられている。絶縁層12上にグラフェン膜14が設けられている。半導体基板10とグラフェン膜14とは、絶縁層12を介して設けられるため、互いに接していない。絶縁層12上においてグラフェン膜14を挟むようにソース電極20およびドレイン電極22が設けられている。ソース電極20およびドレイン電極22は、各々がグラフェン膜14の端部と接触し、電気的に接続されている。グラフェン膜14は、電流が流れるチャネル15に相当する。グラフェン膜14上にナノ粒子の集合体16が複数設けられている。
【0023】
半導体基板10にはゲート端子Tgが電気的に接続され、ソース電極20およびドレイン電極22には、それぞれソース端子Tsおよびドレイン端子Tdが電気的に接続されている。ゲート端子Tg、ソース端子Tsおよびドレイン端子Tdは、測定器25に電気的に接続されている。検出装置100は、ソース電極20とドレイン電極22との間を流れるドレイン電流Idを、半導体基板10に印加するゲート電圧Vgにより制御するトランジスタ(いわゆるFET:Field Effect Transistor)として機能する。
【0024】
半導体基板10は、導電性を有し、例えば、不純物がドープされたn型またはp型のシリコン基板である。絶縁層12は、例えば酸化シリコン膜または窒化シリコン膜等の無機絶縁体膜である。ソース電極20およびドレイン電極22は、例えば絶縁層12と密着する密着膜と密着膜上に設けられる低抵抗膜とを有する。密着膜は例えばチタン膜またはクロム膜であり、低抵抗膜は例えば金膜、銅膜またはアルミニウム膜である。
【0025】
グラフェン膜14は、例えばグラフェンの1原子層からなるいわゆるモノレイヤ(厚さが約0.34nm)である。グラフェン膜14は、モノレイヤでなく、複数原子層からなる膜でもよい。また、グラフェン膜14は、単結晶でもよいし、複数のグレインからなる多結晶でもよい。
【0026】
ナノ粒子17は、検出気体中の特定の分子50と選択的に結合しやすい金属、金属酸化物、または金属と金属酸化物との混合物からなる。ナノ粒子17は、検出気体中の特定の分子50が結合したときの、反応性を向上する役割を有することもある。ナノ粒子が、錫、錫酸化物、または錫と錫酸化物との混合物からなる場合、エタノールおよびアンモニアが主に吸着するため、エタノールおよびアンモニアを選択的に検出する検出装置を実現できる。ナノ粒子17は、錫、錫酸化物、または錫と錫酸化物との混合物以外に意図的または意図しない不純物を含んでいてもよい。
【0027】
ナノ粒子17としては、錫以外に、例えば、亜鉛、金、銀、銅、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、オスミウム、イリジウムおよびプラチナから選択される少なくとも1つの金属、この金属の酸化物、またはこの金属とこの金属の酸化物との混合物である。上記以外にも、ナノ粒子17として、例えば、シリコン、ゲルマニウムまたはIII-V族半導体などの半導体ナノ粒子を用いることができる。
【0028】
図2(a)は、グラフェン膜の断面模式図、図2(b)は、平面模式図である。図2(a)および図2(b)に示すように、グラフェン膜14上にナノ粒子17が設けられている。ナノ粒子17は、集合して集合体16を形成する。集合体16は、ソースドレイン間を繋いだグラフェン膜14上の、ほぼ全域に点在している。集合体16では、ナノ粒子17が敷き詰められている。集合体16が1層である例で説明する。集合体16では、ナノ粒子17が2層以上積層されていてもよい。複数の集合体16の間には、グラフェン膜14が露出する領域18が設けられている。領域18は、例えば、平面視でみたときに、ひび割れのような形状を有する。線19は、領域18と集合体16とが接する線である。比較例を説明するときは、線19は、領域18とナノ粒子17とが接する線とする。線19は、集合体16が作る周の形状に対応するように波打っている。ナノ粒子17の粒径は、例えば0.5nm~100nmであり、典型的には、0.5nm~20nmである。後に詳しく述べるが、例えば、熱処理により、グラフェンの全面に敷き詰められた集合体16に、熱膨張係数などの違いから、隙間が発生することがある。このため、隙間(領域18)ができ、ソース電極20とドレイン電極22との間は、この領域18を迂回したルートでつながっている。
【0029】
グラフェン膜14の左右(X方向)の両端部上には、ソース電極20およびドレイン電極22がそれぞれ接触している。図2(b)におけるグラフェン膜14の上下方向(Y方向)の両端において、グラフェン膜14および集合体16は気体に露出している。グラフェン膜14のうちチャネル15の左右方向(X方向)における幅はWxであり、グラフェン膜14の上下方向(Y方向)における幅はWyである。
【0030】
図3は、実施例1におけるゲート電圧Vgに対するドレイン電流Idを示す図である。横軸は、測定器25がソース端子Tsに対しゲート端子Tgに印加するゲート電圧Vgである。縦軸は、測定器25がソース端子Tsに対しドレイン端子Tdにドレイン電圧Vdを印加したときに、ドレイン端子Tdからソース端子Tsに流れるドレイン電流Idである。
【0031】
グラフェンの伝導帯および価電子帯はコーン状であり、伝導帯のボトムと価電子帯のトップとはディラック点において接触する。グラフェンが中性のときの電流電圧特性52aについて説明する。ゲート電圧Vgがほぼ0Vにおいて、フェルミレベルはディラック点に位置する。ディラック点では伝導に寄与するキャリア密度が低い。このため、ゲート電圧Vg=0Vのとき、ドレイン電流Idは極小となる。ドレイン電流Idが極小の点を電荷中性点(CNP:Charge Neutrality Point)という。以降、実施例では、ドレイン電流Idが極小の点を電荷中性点として説明するが、実施例を実現するために、ドレイン電流Idが極小の点ではなく、極小の点の近傍の点などを測定し、測定した点をCNPとしてもよい。電流電圧特性52aでは、ゲート電圧Vgが0VのときCNP53aであり、ゲート電圧Vgを正または負とすると、ドレイン電流Idが大きくなる。
【0032】
グラフェン膜14に気体中の特定の分子が吸着し、分子がグラフェンに電子を供給する場合、分子はドナーとして機能する。この場合、フェルミレベルがディラック点より高くなる。すなわちグラフェンの仕事関数が小さくなる。なお、グラフェンの仕事関数は、フェルミレベルと真空とのエネルギー差である。このため、電流電圧特性52bでは、CNP53bがVg=0より負となる。グラフェン膜14に気体中の特定の分子が吸着し、分子がグラフェンから電子を受け取る場合、分子はアクセプタとして機能する。この場合、フェルミレベルがディラック点より低くなる。すなわち、グラフェンの仕事関数が大きくなる。このため、電流電圧特性52cでは、CNP53cがVg=0より正となる。
【0033】
測定器25が、CNP53aと53bとの差であるΔCNP54b、またはCNP53aと53cとの差であるΔCNP54cを測定する。ΔCNP54bまたは54cの大きさは、グラフェン膜14に吸着した特定の分子の量に比例する。よって、差54bまたは54cの大きさから特定の分子の濃度を測定できる。
【0034】
実施例1において、気体中の特定の分子の検出感度を向上できる理由について、トランジスタの構造、集合体の被覆率、およびチャネルの大きさの3つの観点において説明する。
【0035】
[トランジスタの構造]
実施例1のトランジスタの構造による検出感度の向上を説明するために、比較例1について説明する。ここで説明するのは、グラフェン膜14上に分子を含む気体を触れさせて、ある一定の仕事関数の変化が生じたときに、CNPの変化が大きくなるようなトランジスタの構造についてである。
【0036】
図4は、比較例1に係る検出装置の断面図である。図4に示すように、比較例1の検出装置110では、半導体基板40内にソース領域41およびドレイン領域42が設けられている。半導体基板40は例えばp型であり、ソース領域41およびドレイン領域42は例えばn型である。ソース領域41およびドレイン領域42上にそれぞれソース電極45およびドレイン電極46が接触して設けられている。ソース電極45とドレイン電極46との間における絶縁層43付近の半導体基板40はチャネル層40aである。チャネル層40a上に絶縁層43が設けられている。絶縁層43上にグラフェン膜44が設けられている。グラフェン膜44上にゲート電極47が接触して設けられている。グラフェン膜44上にナノ粒子48が設けられている。ソース電極45、ドレイン電極46およびゲート電極47は、それぞれソース端子Ts、ドレイン端子Tdおよびゲート端子Tgに接続されている。
【0037】
ゲート端子Tgのゲート電圧Vgを一定とし、ドレイン端子Tdとソース端子Tsとを流れるドレイン電流Idを測定する。グラフェン膜44に特定の分子が吸着すると、グラフェン膜44に電子が供給またはグラフェン膜44から電子が受け取られる。これにより、グラフェン膜44の仕事関数が変化する。チャネル層40aのフェルミレベルが変化し、ドレイン電流Idが変化する。ドレイン電流Idの変化量を測定することで、グラフェン膜44に吸着された特定の分子の量を検出でき、気体中の特定の分子の濃度を測定できる。
【0038】
しかしながら、グラフェン膜44とチャネル層40aとの間に絶縁層43が設けられているため、グラフェン膜44の仕事関数が変化してもチャネル層40aのフェルミレベルの変化は小さい。このため、気体中の特定の分子の検出感度が低い。
【0039】
一方、実施例1では、ソース電極20およびドレイン電極22がグラフェン膜14と接触し、電気的に接続されている。これにより、図3のように、CNPを測定することで、グラフェン膜14の仕事関数の変化を直接測定できる。これにより、気体中の特定の分子の検出感度を向上させることができる。
【0040】
[集合体の被覆率]
実施例1の集合体の被覆率による検出感度の向上を説明するため、比較例2および3について説明する。ここで説明するのは、グラフェン膜14上にある一定濃度の分子を含む気体を触れさせたときに、CNPの変化が大きくなるような集合体16の被覆率についてである。
【0041】
図5(a)および図5(b)は、それぞれ比較例2および3におけるグラフェン膜の断面模式図である。図5(a)では、グラフェン膜14上をナノ粒子17の集合体16が隙間なく覆っている。気体中の特定の分子50は、集合体16上に吸着する。このため、分子50とグラフェン膜14との距離が大きくなり、グラフェン膜14と分子50との相互作用が小さくなる。これにより、分子50からグラフェン膜14に供給される電子またはグラフェン膜14から受け取る電子の影響が小さくなる。よって、1個の分子50がナノ粒子17に吸着したとき、グラフェン膜14の仕事関数の変化は、実施例1より小さくなる。よって、CNPの変化が小さくなるため、検出感度が小さくなる。
【0042】
図5(b)では、グラフェン膜14上にナノ粒子17が散在しており、集合体16が形成されていない。気体中の特定の分子50は、ナノ粒子17周辺のグラフェン膜14に吸着される。このため、1個の分子50が吸着されるときの仕事関数の変化は、図5(a)より大きくなる。
【0043】
しかしながら、グラフェン膜14に設けられたナノ粒子17の個数が少ない。このため、グラフェン膜14全体における線19の合計の長さが小さい。先に述べた通り、ナノ粒子17は、特定の分子を選択的に吸着しやすい。このため、グラフェン膜14上にナノ粒子17が設けられていると、線19に沿って、吸着した特定の分子がグラフェン膜14上に接触しやすくなる。線19の合計の長さが小さいと、グラフェン膜14に吸着する分子50の個数が少ない。1個の分子50が吸着されるときの仕事関数の変化が大きいにもかかわらず、グラフェン膜14に吸着する分子50の個数が少ない。よって、CNPの変化が小さくなり、検出感度が低くなる
【0044】
実施例1によれば、図2(a)および図2(b)のように、グラフェン膜14上に、ナノ粒子17が集合した複数の集合体16が設けられている。複数の集合体16の間の複数の領域18において、グラフェン膜14が気体に露出する。これにより、図2(a)のように、気体中の特定の分子50は、集合体16の線19付近のグラフェン膜14に直接吸着する。よって、図5(a)に比べ、同じ個数の分子50が吸着したときのグラフェン膜14の仕事関数の変化を大きくできる。
【0045】
また、ナノ粒子17が集合体16を形成すると、図5(b)に比べ、図2(b)のように、集合体16と領域18との境界の線19が長くなる。このため、グラフェン膜14に吸着する分子50の個数を多くすることができる。よって、CNPの変化が大きくなり、検出感度を大きくできる。また、領域18の面積を適度にできるため、領域18内のグラフェン膜14に特定の分子50以外の分子は吸着しにくい。よって、分子50を検出する選択性を向上できる。
【0046】
ナノ粒子17が集合体16を形成し、かつチャネル15全体の領域18の線19の合計の長さを大きくする。この観点から、グラフェン膜14における集合体16の被覆率は、3%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、30%以上がさらに好ましい。また、被覆率は、90%以下が好ましく、80%以下がより好ましく、70%以下がさらに好ましい。
【0047】
また、1つの領域18における境界の線19を長くすると、分子50が吸着できる箇所が多くなる。このため、境界の線19の少なくとも一部は波状となることが好ましい。波状であれば、同じ線19の長さであっても、集合体16がグラフェン膜14と接する面積が大きくなるためである。少なくとも1つの領域18において、線19の長さは、同じ単位系における領域18の平面面積の10倍以上であることが好ましく、20倍以上であることがより好ましく、30倍以上であることがさらに好ましい。
【0048】
[チャネルの大きさ]
一般的に、チャネル15に吸着する分子の量と、検出感度は、比例すると考えられる。また、チャネル15に吸着する分子の量は、チャネル15が分子を含む気体に露出する面積に比例すると考えられる。上記説明によれば、チャネル15の面積を小さくすることは、検出感度の低下を招くと予想できる。一方発明者は、チャネル15の面積を小さくしても、十分な検出感度を得ることができることを発見した。
【0049】
実施例2で説明する実験に用いた、チャネルサイズが200nm×200nmのサンプルBにおいて、後述する表1のように、ΔCNPは29.3Vであった。チャネルサイズが2μm×2μmのサンプルBでは、ΔCNPは9.0Vであった、このように、チャネルサイズが小さくなるとΔCNPが大きくなる。この理由を、以下説明する。
【0050】
チャネル15の平面面積が大きいと、グラフェン膜14内に粒界が形成されやすい。これは、一般的な技術水準の方法を用いグラフェン膜14を成膜すると、グラフェン膜14は多結晶とならざるを得ず、チャネル15の平面面積が大きいほど、粒界が含まれやすいからである。粒界により、グラフェン膜14内を流れる電子が散乱される。逆に、チャネル15の平面面積が小さいと、チャネル15に粒界が含まれにくくなる。このため、チャネル15には、粒界がほとんど含まれず、あたかもチャネル15が単結晶であるかのようにみなせることもある。そこで、チャネル15の平面面積を小さくする。これにより、チャネル15内の粒界が少なくなり、分子50の検出感度を向上できる。また、チャネル15の端21では、グラフェン膜14の結晶が不完全となり、ダングリングボンドが形成される。このため、分子50が吸着しやすくなる。これらより、チャネル15の平面面積に対する端21の合計の長さの比が大きくなると、分子50の検出感度を高くできる。
【0051】
上記観点から、幅WxおよびWyは小さいことが好ましい。例えばWxおよびWyは、5μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましく、1μm以下がさらに好ましく、0.5μm以下がさらに好ましく、0.2μm以下がさらに好ましい。幅Wxが小さすぎると、ソース電極20およびドレイン電極22の厚さに対する幅Wxが大きくなり、分子50がグラフェン膜14に到達しにくくなる。また、幅WxおよびWyが小さいと、グラフェン膜14に吸着する全体の分子50の個数が小さくなってしまう。これら観点から、幅WxおよびWyは0.05μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましい。
【0052】
特に、チャネル長に相当する幅Wxを小さくすることで、伝導する電子が粒界において散乱される可能性が低くなる。この観点から、幅Wxは、5μm以下が好ましく、2μm以下がより好ましく、1μm以下がさらに好ましく、0.5μm以下がさらに好ましく、0.2μm以下がさらに好ましい。
【実施例0053】
図6(a)は、実施例2に係る検出装置の平面図、図6(b)は、図6(a)のA-A断面図である。
【0054】
実施例2の検出装置102では、ソース電極20およびドレイン電極22にそれぞれ接続するパッド20aおよび22aが設けられている。パッド20aおよび22aに、例えばボンディングワイヤを接合することで、ソース電極20およびドレイン電極22を外部に電気的に接続することができる。
【0055】
[実施例2の検出装置を用いた検出システム]
図7は、実施例2の検出装置を用いた検出システムを示すブロック図である。
【0056】
検出システム104では、チャンバ30内に実施例2の検出装置102が設けられている。チャンバ30には、導入路31aおよび31bと排出路32aおよび32bが設けられている。ポンプ33aおよび33bは、導入路31aおよび31bをそれぞれ介してチャンバ30内に基準気体および検出気体をそれぞれ導入する。ポンプ34は、導入路31a、31bおよび排出路32aのバルブ(不図示)を閉めた後に、排出路32bを介してチャンバ30内の気体を排出する。
【0057】
測定器25は、検出装置102の半導体基板10、ソース電極20およびドレイン電極22に電気的に接続されている。測定器25は、半導体基板10にソース電極20に対しゲート電圧Vgを印加して、ソース電極20とドレイン電極22との間を流れるドレイン電流Idを測定する。処理部36は、例えばマイコン等のプロセッサであり、測定器25、ポンプ33a、33bおよび34を制御する。
【0058】
図8は、実施例2における処理部の動作を示すフローチャートである。まず、処理部36は、初期化を行う(ステップS10)。初期化ステップでは、処理部36は、ポンプ34を用い、チャンバ30内を真空にする、または、ポンプ33aを用い、チャンバ30内に基準気体を導入する。基準気体は、例えばドライ空気または不活性ガスである。
【0059】
次に、処理部36は、ポンプ33aを用い、チャンバ30内に基準気体を導入する(ステップS12)。処理部36は、グラフェン膜14の温度を所定温度(例えば室温)に設定する。ステップS10において、チャンバ30内に基準気体が導入されている場合にはステップS12において、基準気体の導入は不要である。処理部36は、グラフェン膜14の温度を所定温度(例えば室温)に設定する。
【0060】
次に、処理部36は、CNPを測定する(ステップS14)。CNP測定ステップでは、処理部36は、測定器25を用いゲート電圧Vgをスイープしてドレイン電流Idを測定する。処理部36は、測定器25からVg-Id特性を取得する。処理部36は、図3のように、ドレイン電流Idが極小となるCNP53aを算出する。
【0061】
次に、処理部36は、ポンプ33bを用い、チャンバ30内に検出気体を導入する(ステップS16)。検出気体は、特定の分子の濃度を測定する気体である。処理部36は、例えば、ポンプ34を用い、チャンバ30内を真空とした後、チャンバ30内に検出気体を導入する。処理部36は、チャンバ30内を真空とせずに、チャンバ30内に検出気体を導入してもよい。処理部36は、グラフェン膜14の温度を所定温度(例えば室温)に設定する。
【0062】
次に、処理部36は、CNPを測定する(ステップS18)。CNPの測定方法は、ステップS14と同じである。
【0063】
次に、処理部36は、ステップS14およびS18において測定したCNPを用いΔCNPを算出する(ステップS20)。ステップS14において、図3のCNP53aを測定し、ステップS18において、図3のCNP53bまたは53cを測定した場合、処理部36は、ΔCNP54bまたは54cとして、(CNP53a-CNP53b)または(CNP53a-CNP53c)をそれぞれ算出する。
【0064】
次に、処理部36は、ΔCNPを用い、検出気体中の特定の分子の濃度を算出する(ステップS22)。例えば、処理部36は、気体中の特定の分子の濃度とΔCNPとの相関をメモリに記憶しておき、ステップS20において算出されたΔCNPを用い、特定の分子の濃度を算出する。その後終了する。
【0065】
[実施例2の検出装置の製造方法]
図9(a)から図10(c)は、実施例2の検出装置の製造方法を示す断面図である。
【0066】
図9(a)に示すように、半導体基板10上に絶縁層12を成膜する。半導体基板10は、例えば単結晶シリコン基板であり、絶縁層12は例えば多結晶または非晶質酸化シリコン膜である。絶縁層12上にグラフェン膜14を形成する。グラフェン膜14は、例えば転写法を用いて形成する。
【0067】
次に、図9(b)に示すように、グラフェン膜14に開口を形成し、開口内にパッド20aおよび22aを形成する。パッド20aおよび22aの形成には、例えば真空蒸着法およびリフトオフ法を用いる。リフトオフ用のフォトレジストの露光には、紫外線または電子ビームを用いる。開口は、リフトオフ用のフォトレジストをマスクとして、グラフェン膜14を酸素プラズマ等によりエッチングすることにより形成する。
【0068】
次に、図9(c)に示すように、グラフェン膜14の左右の端部の上にソース電極20およびドレイン電極22を形成する。ソース電極20およびドレイン電極22の形成には、例えば真空蒸着法およびリフトオフ法を用いる。グラフェン膜14のうちソース電極20およびドレイン電極22から露出する部分はチャネル15である。チャネル15の幅はWxおよびWyである。
【0069】
次に、図10(a)に示すように、ソース電極20およびドレイン電極22の下のグラフェン膜14とチャネル15となるグラフェン膜14と以外のグラフェン膜14を除去する。グラフェン膜14の除去は、チャネル15となるグラフェン膜14の領域上にフォトレジストを形成し、フォトレジスト、ソース電極20、ドレイン電極22、パッド20aおよび22aをマスクに酸素プラズマ等によりグラフェン膜14をエッチングする。
【0070】
次に、図10(b)に示すように、グラフェン膜14上にナノ粒子からなる薄膜16aを形成する。薄膜16aの形成には、真空蒸着法およびリフトオフ法を用いる。ナノ粒子17が、錫である場合に、薄膜16aは、2nm以下であることが好ましい。2nm以下であれば、薄膜16aを形成したときにナノ粒子17が集合した部分が形成される。以下に説明する熱処理のときに、大きな集合体16が形成されやすくなり、その結果、線19の合計の長さが大きくなる。
【0071】
図10(c)に示すように、薄膜16aを熱処理する。熱処理温度は例えば100℃~300℃であり、一例として200℃である。熱処理は、不活性ガス(例えば、窒素、ヘリウム、アルゴンまたはキセノン等の希ガス)雰囲気において行う。熱処理は、真空雰囲気で行ってもよい。熱処理により、薄膜16a内のナノ粒子が集合し集合体16を形成する。集合体16の間の領域18においてグラフェン膜14が露出する。以上により実施例2の検出装置102が製造される。
【0072】
図10(c)の熱処理工程を行わずに、図10(b)において、チャネル15上にリフトオフ用のフォトレジストの一部を残存させることにより、チャネル15上にナノ粒子が形成されていない領域18を形成してもよい。
【0073】
[実験]
以下の条件で検出装置102を作製した。
半導体基板10:厚さが約500nmのp型単結晶シリコン基板
絶縁層12:厚さが約285nmの酸化シリコン膜
グラフェン膜14:モノレイヤ(厚さが約0.34nm)のグラフェン
ソース電極20、ドレイン電極22:絶縁層12側から、厚さが5nmのクロム膜および厚さが35nmの金膜
薄膜16a:厚さが約1nmの錫薄膜
錫は空気中において酸化するため、集合体16では、錫の少なくとも一部は酸化錫となっていると考えられる。
【0074】
まず、サンプルAおよびBを作製した。サンプルAでは、図10(c)の熱処理を行っていない。サンプルBでは、図10(c)の熱処理として、真空雰囲気において、200℃の熱処理を4時間行った。
【0075】
図11(a)および図11(b)は、それぞれサンプルAおよびBのグラフェン膜14の上面のSEM(Scanning Electron Microscope)画像である。幅WxおよびWyは各々1μmである。
【0076】
図11(a)に示すように、サンプルAでは、全面で色が薄い。これは、グラフェン膜14の全面が集合体16で覆われているためである。より白い粒子17aは径の大きなナノ粒子である。
【0077】
図11(b)に示すように、サンプルBでは、色が薄い箇所と色の濃い箇所が存在する。色の薄い箇所はナノ粒子が集合した集合体16であり、色の濃い箇所はグラフェン膜14が露出する領域18である。領域18は集合体16の割れ目のように複数設けられている。領域18内に孤立した1つのナノ粒子17が位置している箇所もある。
【0078】
図10(c)の熱処理により、集合体16と領域18が形成される理由は以下と考えられる。図10(b)において、グラフェン膜14上に例えば0.1nm~10nm程度の薄膜16aを形成する。この薄膜16aを熱処理すると、熱応力の再配分により、ナノ粒子17が凝集しようとする。これにより、ナノ粒子17が凝集した領域は集合体16となり、ナノ粒子17が集合体16に移動した領域18では、グラフェン膜14が露出する。領域18が形成されるか否かは、ナノ粒子17とグラフェン膜14との密着力と、ナノ粒子17が凝集しようとする力と、のバランスにより生じると考えられる。よって、ナノ粒子17の材料および熱処理の温度などを適宜設定することにより、集合体16と領域18とを形成できると考えられる。
【0079】
図12(a)および図12(b)は、それぞれサンプルAおよびBのゲート電圧Vgに対するドレイン電流Idを示す図である。ドレイン電圧は10mVである。幅WxおよびWyは各々200nmである。基準気体および検出気体におけるVg-Id特性を示している。基準気体は特定の分子を含まない空気であり、検出気体は特定の分子として2ppmのエタノールを含む空気である。測定は、室温において行っている。基準気体を導入したときのVg-Idを「空気」と記載し、検出気体を導入したときのVg-Idを「エタノール」と記載している。
【0080】
図12(a)に示すように、サンプルAでは、空気(基準気体)とエタノール(検出気体)においてCNPはほとんど同じである。図12(b)に示すように、サンプルBでは、空気とエタノールとのΔCNPは40V以上である。
【0081】
以上のように、グラフェン膜14上にナノ粒子の集合体16と領域18を設けることで、ΔCNPが大きくなり、特定の分子の検出感度を向上させることができる。これは、実施例1の「集合体の被覆率」において説明した理由によると考えられる。
【0082】
次に、サンプルBについて、チャネル15の幅WxおよびWyが異なるサンプルを作製した。
【0083】
図13(a)から図13(c)は、WxおよびWyが各々2μmのサンプルBのSEM画像である。図14(a)から図14(c)は、WxおよびWyが各々200nmのサンプルBのSEM画像である。図13(b)および図14(b)は、それぞれ図13(a)および図14(a)内の範囲60を拡大したSEM画像である。図13(c)および図14(c)は、それぞれ図13(b)および図14(b)内の範囲60を拡大したSEM画像である。
【0084】
図13(a)のように、ソース電極20とドレイン電極22との間に平面サイズが2μm×2μmのグラフェン膜14が設けられている。図13(b)のように、グラフェン膜14上に白い点が観察できる。図13(c)のように、グラフェン膜14上に集合体16と領域18が観察できる。
【0085】
図14(a)のように、ソース電極20とドレイン電極22との間に平面サイズが200nm×200nmのグラフェン膜14が設けられている。図14(b)のように、グラフェン膜14上の様子は観察できない。図14(c)のように、グラフェン膜14上に集合体16と領域18が観察できる。グラフェン膜14内の領域18の比率は図13(c)における領域18の比率より大きく見える。
【0086】
図13(c)および図14(c)のSEM画像から画像処理して、集合体16がグラフェン膜14を被覆する被覆率を算出した。図13(c)では、被覆率は60%~90%であり、図14(c)では、被覆率は40%~90%であった。画像処理の方法によって、集合体16の被覆率の誤差が大きいが、同じ方法により画像処理したときの被覆率は、図14(c)は図13(c)より大きい。
【0087】
このように、チャネル15の幅WxおよびWyにより、集合体16の被覆率が変わる理由は明確ではないが、チャネル15の平面面積が小さい場合には、ナノ粒子17の一部がグラフェン膜14上からグラフェン膜14の外に移動しているのかもしれない。
【0088】
図15(a)は、WxおよびWyが各々1μmのサンプルBのゲート電圧Vgに対するドレイン電流Idを示す図であり、図15(b)は、WxおよびWyが各々200nmのサンプルBのゲート電圧Vgに対するドレイン電流Idを示す図である。測定方法は図12(a)および図12(b)と同じである。
【0089】
図15(a)に示すように、WxおよびWyが各々1μmのサンプルでは、ΔCNPは約8Vである。図15(b)に示すように、WxおよびWyが各々200nmのサンプルでは、ΔCNPは約29Vである。このように、チャネル15の平面形状が小さくなると、検出感度が向上する。
【0090】
上記実験の再現性を確認するため、上記実験と同じ条件で、サンプルBについて再度同様の実験を行った。結果を表1に示す。
【表1】
【0091】
表1に示すように、WxおよびWyが各々200nmのサンプルBでは、ΔCNPは29.3Vであり、WxおよびWyが大きくなると、ΔCNPは小さくなる。WxおよびWyが各々2000nmのサンプルBでは、ΔCNPは9.0Vである。
【0092】
チャネル15が小さくなると検出感度が高くなる理由としては、図13(c)および図14(c)のように、チャネル15が小さくなると集合体16の被覆率が小さくなり、領域18が大きくなることが考えられる。しかし、図13(c)および図14(c)において、WxおよびWyが2μmと200nmとの集合体16の被覆率の差は、10%~20%程度である。WxおよびWyが200nmのサンプルのΔCNPはWxおよびWyが2μmのΔCNPの3倍以上である。このように、ΔCNPの大きな差は、集合体16の被覆率だけでは説明できないと考えられる。よって、実施例1の「集合体の被覆率」において説明した理由に加え、「チャネルの大きさ」に置いて説明した理由により、WxおよびWyが200nmのサンプルでは、ΔCNPが大きくなったものと考えられる。
【0093】
WxおよびWyが200nmのサンプルBにおいて、気体中の特定の分子を変えてΔCNPを測定した。図16は、気体中の特定の分子を変えて、ΔCNPを測定した結果を示す図である。デバイス1~5の5つのデバイスを用いた。特定の分子としては、エタノール、アンモニア、アセトン、ホルムアルデヒドおよび水素であり、空気中に2ppmの濃度の分子を含ませた。測定は室温において行った。その他のΔCNPの測定方法は図12(a)および図12(b)と同じである。
【0094】
図16に示すように、アセトン、ホルムアルデヒドおよび水素では、ΔCNPは、20V~40Vである。これに対し、エタノールでは、ΔCNPは40V~50Vである。アンモニアでは、デバイス1を除き、ΔCNPは40V~55Vである。このように、ナノ粒子に錫または錫の酸化物を用いることで、エタノールおよびアンモニアに選択性のある検出装置を実現できる。
【0095】
実施例2では、図3のように、ソース電極20に対し半導体基板10に加えるゲート電圧Vgを変化させたときにソース電極20とドレイン電極22との間を流れるドレイン電流Idが極小となる電圧値をCNPとする。このとき、図7および図8のように、処理部36(検出器)は、基準気体中のCNPの値と検出気体中のCNPの値との差ΔCNPに基づき、検出気体中の特定の分子を検出する。これにより、検出気体中の特定の分子を高精度に検出することができる。
【0096】
図10(a)のように、半導体基板10、絶縁層12、グラフェン膜14、ソース電極20およびドレイン電極22を備えるトランジスタを準備する。図10(b)のように、グラフェン膜14の表面に敷き詰められた金属ナノ粒子からなる薄膜16aを形成する。図10(c)のように、金属ナノ粒子を熱処理することで、金属ナノ粒子が集合した複数の集合体16を形成し、集合体16の間においてグラフェン膜14を露出させる。これにより、グラフェン膜14上に複数の集合体と複数の領域18とを形成できる。
【0097】
グラフェン膜14上に、複数の集合体16を形成し、集合体16の間においてグラフェン膜14を露出させるための手法は、熱処理に限られない。例えば、複数の領域18の形成には、エッチング法を用いてもよい。また、グラフェン膜14上に、ナノ粒子17を形成する際に、グラフェン膜14の全域に厚みがほぼ均一な膜が形成されず、複数の集合体16が形成されることがある。これは、成膜時に、熱がナノ粒子17に与えられることにより、ナノ粒子17が凝集して、複数の集合体16ができるためである。この場合は、あえて追加の熱処理の工程をしなくても、複数の集合体16が形成できる。こうして、熱処理以外の方法で、グラフェン膜14上に複数の集合体16を形成したとしても、検出感度の向上が見込めることは、上記説明した通りである。
【0098】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0099】
10 半導体基板
12 絶縁層
14 グラフェン膜
15 チャネル
16 集合体
17 ナノ粒子
18 領域
19 線
20 ソース電極
22 ドレイン電極
25 測定器
36 処理部
50 分子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16