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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173339
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】ステント
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/86 20130101AFI20241205BHJP
【FI】
A61F2/86
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091694
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊川 秀英
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 友有己
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA44
4C267AA50
4C267AA56
4C267BB15
4C267CC09
4C267CC20
4C267CC21
4C267CC22
4C267CC23
4C267CC26
4C267FF05
4C267GG03
4C267GG05
(57)【要約】
【課題】ステントにおいて、ステントの位置ずれを抑制しつつ、体壁における出血や穿孔の発生のリスクを十分に低減する。
【解決手段】ステントは、本体部とカバー膜とを備える。本体部は、ワイヤをフック編みすることにより形成された筒状体である。カバー膜は、本体部の少なくとも一部を覆う樹脂製の膜である。本体部は、径方向に拡張された拡張部を有する。拡張部には、ワイヤの一部分とワイヤの他の部分との間に配置されたカバー膜によって凹部が形成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤをフック編みすることにより形成された筒状の本体部と、
前記本体部の少なくとも一部を覆う樹脂製のカバー膜と、
を備え、
前記本体部は、径方向に拡張された拡張部を有し、
前記拡張部には、前記ワイヤの一部分と前記ワイヤの他の部分との間に配置された前記カバー膜によって凹部が形成されている、ステント。
【請求項2】
請求項1に記載のステントであって、
前記凹部は、前記本体部の中心軸に対して傾いた方向に延伸している、ステント。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のステントであって、
前記本体部は、前記本体部の中心軸に沿って並んで配置されて互いに組み合わされた第1の筒状部と第2の筒状部とを含み、
前記拡張部は、前記第1の筒状部と前記第2の筒状部とが組み合わされた位置に形成されている、ステント。
【請求項4】
ワイヤをフック編みすることにより形成された筒状の本体部と、
前記本体部の少なくとも一部を覆う樹脂製のカバー膜と、
を備え、
前記本体部は、前記本体部の中心軸に沿って並んで配置されて互いに組み合わされた第1の筒状部と第2の筒状部とを含み、
前記本体部は、前記第1の筒状部と前記第2の筒状部とが組み合わされた位置に、径方向に拡張された拡張部を有する、ステント。
【請求項5】
請求項4に記載のステントであって、
前記拡張部において、前記第1の筒状部と前記第2の筒状部との径方向の大きさは互いに異なる、ステント。
【請求項6】
請求項5に記載のステントであって、
前記拡張部における最大径の位置は、前記中心軸に沿って前記拡張部の中心位置から偏心している、ステント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、ステントに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば体内管腔(胆管、胆嚢、胃、膵臓、食道、十二指腸、小腸、大腸等の消化器官、血管、尿管、気管等)に狭窄部や閉塞部(以下、まとめて単に「狭窄部」という。)が発生した場合に、ステント留置術が用いられる。ステント留置術は、狭窄部の位置に、あるいは狭窄部をバイパスする位置に、筒状のステントを留置することによって管腔を確保する手技である。ステントとしては、例えばワイヤをフック編みすることにより形成されたものが使用される。
【0003】
ステントは、デリバリシステムにマウントされて搬送され、デリバリシステムからリリースされた位置に留置される。ステントの留置後にステントの位置ずれ(マイグレーション)が発生すると、ステントの機能が低下したり、他の不具合が誘発されたりするため、ステントには留置された位置を安定的に維持する機能が求められる。
【0004】
従来、ステントの位置ずれを抑制するために、フック編みされたステントにおける複数の絡み部形成位置のうちの一部においてワイヤ同士をあえて絡ませず、その部分を外周側に折り曲げることにより、アンカー機能を有する係止部を設けた構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020/194506号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来のステントは、爪状の係止部によりアンカー機能を実現しているため、ステントの位置ずれを抑制しつつ、体壁における出血や穿孔の発生リスクを低減させる、という点で向上の余地がある。
【0007】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0009】
(1)本明細書に開示されるステントは、本体部とカバー膜とを備える。本体部は、ワイヤをフック編みすることにより形成された筒状体である。カバー膜は、本体部の少なくとも一部を覆う樹脂製の膜である。本体部は、径方向に拡張された拡張部を有する。拡張部には、ワイヤの一部分とワイヤの他の部分との間に配置されたカバー膜によって凹部が形成されている。
【0010】
このように、本ステントでは、本体部が径方向に拡張された拡張部を有するため、爪状の係止部を用いることなく、拡張部のアンカー機能によりステントの位置ずれを抑制することができ、体壁における出血や穿孔の発生のリスクを十分に低減することができる。また、拡張部におけるワイヤの一部分とワイヤの他の部分との間にカバー膜によって形成された凹部が存在するため、凹部内に体壁が入り込むことによって拡張部がより良好なアンカー機能を発揮し、ステントの位置ずれを効果的に抑制することができる。
【0011】
(2)上記ステントにおいて、前記凹部は、前記本体部の中心軸に対して傾いた方向に延伸している構成としてもよい。本構成を採用すれば、本体部が回転しない限りステントの位置ずれが発生しにくくなり、拡張部が極めて良好なアンカー機能を発揮し、ステントの位置ずれを極めて効果的に抑制することができる。
【0012】
(3)上記ステントにおいて、前記本体部は、前記本体部の中心軸に沿って並んで配置されて互いに組み合わされた第1の筒状部と第2の筒状部とを含み、前記拡張部は、前記第1の筒状部と前記第2の筒状部とが組み合わされた位置に形成されている構成としてもよい。本構成を採用すれば、例えば生体管腔内に留置されたステントの端部に引っ張り力が作用した場合であっても、主として第1の筒状部と第2の筒状部との一方のみに力が作用するため、該力に起因して第1の筒状部と第2の筒状部とが組み合わされた位置に形成された拡張部が縮径することを抑制することができ、その結果、ステントの位置ずれを抑制することができる。
【0013】
(4)本明細書に開示される他のステントは、本体部とカバー膜とを備える。本体部は、ワイヤをフック編みすることにより形成された筒状体である。カバー膜は、本体部の少なくとも一部を覆う樹脂製の膜である。本体部は、本体部の中心軸に沿って並んで配置されて互いに組み合わされた第1の筒状部と第2の筒状部とを含む。本体部は、第1の筒状部と第2の筒状部とが組み合わされた位置に、径方向に拡張された拡張部を有する。
【0014】
このように、本ステントでは、本体部が径方向に拡張された拡張部を有するため、爪状の係止部を用いることなく、拡張部のアンカー機能によりステントの位置ずれを抑制することができ、体壁における出血や穿孔の発生のリスクを十分に低減することができる。また、例えば生体管腔内に留置されたステントの端部に引っ張り力が作用した場合であっても、主として第1の筒状部と第2の筒状部との一方のみに力が作用するため、該力に起因して第1の筒状部と第2の筒状部とが組み合わされた位置に形成された拡張部が縮径することを抑制することができ、その結果、ステントの位置ずれを抑制することができる。
【0015】
(5)上記ステントにおいて、前記拡張部において、前記第1の筒状部と前記第2の筒状部との径方向の大きさは互いに異なる構成としてもよい。本構成を採用すれば、拡張部における大径の部分が生体管腔の壁に当接することによってステントの抜けを抑制することができる。
【0016】
(6)上記ステントにおいて、前記拡張部における最大径の位置は、前記中心軸に沿って前記拡張部の中心位置から偏心している構成としてもよい。本構成を採用すれば、拡張部における最大径の部分が生体管腔の壁に確実に当接することによってステントの抜けを効果的に抑制することができる。
【0017】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、ステント、ステントの製造方法または使用方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1実施形態におけるステント10の外観構成を示す斜視図
図2】第1実施形態におけるステント10の一部の側面構成を示す説明図
図3図2のIII-IIIの位置におけるステント10の断面構成を示す説明図
図4】第1実施形態における本体部100を周方向D1に展開した展開図
図5】第1実施形態における本体部100の編み込み方法を示す説明図
図6】第1実施形態における本体部100の編み込み方法を示す説明図
図7】第1実施形態における本体部100の編み込み方法を示す説明図
図8】第2実施形態におけるステント10aの外観構成を示す説明図
図9】第2実施形態における本体部100を周方向D1に展開した展開図
図10】第2実施形態におけるステント10aの製造に用いられる金型30の外観構成を示す斜視図
図11】第2実施形態におけるステント10aの使用方法の一例を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0019】
A.第1実施形態:
A-1.ステント10の構成:
図1は、第1実施形態におけるステント10の外観構成を示す斜視図である。図2は、第1実施形態におけるステント10の一部(後述する拡張部130付近)の側面構成を示す説明図である。図3は、図2のIII-IIIの位置におけるステント10の断面構成を示す説明図である。各図には、互いに直交するXYZ軸を示している。以下の説明では、便宜上、Z軸正方向側を上側といい、Z軸負方向側を下側ということがある。また、各図では、ステント10の後述する本体部100の中心軸AxがZ軸に平行となった状態を示しているが、ステント10は全体として湾曲可能に構成されている。
【0020】
ステント10は、例えば体内管腔(胆管、胆嚢、胃、膵臓、食道、十二指腸、小腸、大腸等の消化器官、血管、尿管、気管等)に狭窄部が発生した場合に、狭窄部の位置に、あるいは狭窄部をバイパスする位置に留置されて管腔を確保するための医療用機器である。本実施形態のステント10は、圧縮力を加えると弾性によって径方向に収縮し、該圧縮力が解除されると径方向に拡張する自己拡張型のステントである。各図には、拡張時のステント10の構成を示している。
【0021】
本実施形態のステント10は、いわゆるカバードステントであり、本体部100と、カバー膜200とを備える。便宜上、図1および図2ではカバー膜200を破線で示している。カバー膜200は、例えばポリウレタンやシリコーン等の樹脂により形成されている。カバー膜200は、本体部100の少なくとも一部を覆っている。本実施形態では、カバー膜200は、本体部100の略全体を覆っている。
【0022】
本体部100は、ステント10の骨格を構成する筒状の部分である。本体部100の中心軸Axに沿った長さは、例えば20mm~200mm程度であってよい。
【0023】
本体部100は、径方向に拡張された拡張部130を有する。拡張部130は、本体部100における中心軸Axに沿った両端部以外の部分に形成されている。拡張部130は、例えば略球状または略楕円球状である。拡張部130を除く本体部100の半径は、例えば2mm~40mm程度であってよく、拡張部130の半径は、例えば4m~50mm程度であってよい。本体部100の各部の半径は、ステント10を留置する体内管腔の種類や大きさ、位置などによって適宜決定される。
【0024】
図1および図2に示すように、本体部100は、第1の筒状部110と、第2の筒状部120とから構成されている。第1の筒状部110および第2の筒状部120は、本体部100の中心軸Axに沿って並んで配置されている。より詳細には、第2の筒状部120は、第1の筒状部110の上方に、第1の筒状部110と同軸に配置されている。
【0025】
図4は、第1実施形態の本体部100を周方向D1に展開した展開図である。なお、本明細書において、周方向D1は、本体部100の中心軸Axを中心とした周方向を意味する。
【0026】
図4に示すように、本体部100を構成する第1の筒状部110および第2の筒状部120は、ワイヤWをいわゆるフック編みで編み込むことにより形成されている。第1の筒状部110および第2の筒状部120には、ワイヤWによって囲まれた略菱形の空孔であるセルCEが規則正しく配列されている。第1の筒状部110および第2の筒状部120は、ワイヤW同士が互いに絡むことなく交差する複数の交差部102と、上に凸な略V字状のワイヤWの部分と下に凸な略V字状のワイヤWの部分とがフック状に交差して互いに絡まった複数の絡み部101とを有する。絡み部101では、上に凸なワイヤWの部分と下に凸なワイヤWの部分とが、分離不能ではあるが相対移動可能に連結されている。そのため、本体部100を構成する第1の筒状部110および第2の筒状部120は、全体として湾曲することができると共に、湾曲した状態を保持することができる。これにより、ステント10を湾曲した生体管腔にも容易に留置することができる。
【0027】
第1の筒状部110は、中央筒状部111と、中央筒状部111から上方に突出する上方突出部112と、中央筒状部111から下方に突出する下方突出部113とを有する。同様に、第2の筒状部120は、中央筒状部121と、中央筒状部121から上方に突出する上方突出部122と、中央筒状部121から下方に突出する下方突出部123とを有する。第1の筒状部110の上方突出部112および下方突出部113、ならびに、第2の筒状部120の上方突出部122および下方突出部123は、略V字状の部分である。本実施形態では、第1の筒状部110の上端に、上に凸な6つの上方突出部112が周方向D1に連続的に並んで配置されており、第1の筒状部110の下端に、下に凸な6つの下方突出部113が周方向D1に連続的に並んで配置されている。また、第2の筒状部120の上端に、上に凸な6つの上方突出部122が周方向D1に連続的に並んで配置されており、第2の筒状部120の下端に、下に凸な6つの下方突出部123が周方向D1に連続的に並んで配置されている。
【0028】
本実施形態では、第1の筒状部110および第2の筒状部120のそれぞれは、1本のワイヤWを編み込むことにより連続的に形成されている。ただし、これらが複数のワイヤWにより形成されていてもよい。ワイヤWは、例えばニッケルチタン(Ni-Ti)合金のような超弾性合金により形成されている。なお、ワイヤWは、ステンレス鋼、タンタル、チタン、コバルトクロム合金、マグネシウム合金等のような他の金属により形成されていてもよいし、ポリオレフィン、ポリエステル、フッ素樹脂等のような樹脂により形成されていてもよい。ワイヤWの直径は、例えば0.05mm~0.5mm程度であってよい。
【0029】
第1の筒状部110の複数の上方突出部112のそれぞれと、第2の筒状部120の複数の下方突出部123のそれぞれとは、互いにフック状に係合している。これにより、第1の筒状部110と第2の筒状部120とが互いに組み合わされ、一体の本体部100を構成している。
【0030】
図4に示すように、第1の筒状部110の複数の上方突出部112のそれぞれは、本体部100の中心軸Axに対して斜め方向(中央筒状部111から右上に向かう方向)に延伸し、かつ、周長が他のV字状の部分と比較して長い。同様に、第2の筒状部120の複数の下方突出部123のそれぞれは、本体部100の中心軸Axに対して斜め方向(中央筒状部121から左下に向かう方向)に延伸し、かつ、周長が他のV字状の部分と比較して長い。このような編み方により作製された第1の筒状部110および第2の筒状部120を組み合わせて本体部100を構成することにより、第1の筒状部110と第2の筒状部120とが組み合わされた位置に、上述した略球状または略楕円球状の拡張部130が形成される。また、このように形成された拡張部130では、図2および図3に示すように、ワイヤWが中心軸Axに対して斜めに延伸し、ワイヤWの一部分とワイヤWの他の部分との間に配置されたカバー膜200によって、中心軸Axに対して傾いた方向に延伸する凹部202が形成される。その結果、拡張部130の表面に、歯車ギアに類似したスパイラル状の凹凸が形成される。
【0031】
A-2.ステント10の製造方法:
次に、本実施形態のステント10の製造方法の一例について説明する。はじめに、ワイヤWをフック編みすることにより、本体部100(第1の筒状部110および第2の筒状部120)を作製する。フック編みによるステントの作製方法については、例えば特許第3708923号公報に記載されているように公知であるが、以下、簡単に説明する。
【0032】
図5から図7は、第1実施形態における本体部100の編み込み方法を示す説明図である。図5から図7の各欄には、円筒状部材の外周面に複数のピンPNを立設した治具JGを用いてワイヤWを編み込むことによって本体部100を作製する手順を、展開図の形式で示している。以下では、治具JGにおいて斜め方向に隣り合う2つのピンPN間の距離を、対角線距離LPという。
【0033】
はじめに、図5のA欄に示すように、治具JGの所定の位置のピンPNにワイヤWの端部を固定して開始点STとし、開始点STからワイヤWをジグザグにピンPNの間に掛け渡す。より詳細には、開始点STからワイヤWを斜め左上に延伸させてピンPNの上側に掛け、その後、ワイヤWを斜め左下に1×LPだけ延伸させてピンPNの下側に掛ける操作と、ワイヤWを斜め左上に2×LPだけ延伸させてピンPNの上側に掛ける操作とを、ワイヤWが第1の筒状部110の中央筒状部111の上端に相当する位置に到達するまで繰り返す。
【0034】
次に、図5のB欄に示すように、図5のA欄におけるワイヤWの形成状態に続けて、中央筒状部111の上端に相当する位置から、上に凸な6つのV字状部(上方突出部112)が形成されるように、ワイヤWをジグザグにピンPNの間に掛け渡す。より詳細には、ワイヤWを斜め右上に所定距離だけ延伸させてピンPNの上側に掛ける操作と、ワイヤWを斜め左下に所定距離だけ延伸させてピンPNの下側に掛ける操作とにより、上方突出部112を形成する。このときの所定距離は、上方突出部112の大きさに応じて設定される。図5のB欄に示す操作において、すでにワイヤWが巻かれたピンPNの位置では、ワイヤW同士をフック状に交差することにより、絡み部101を形成する。また、ワイヤWがピンPNに巻かれずに斜めに通過している位置では、ワイヤW同士を互いに絡むことなく交差させることにより、交差部102を形成する。これらの点については、これ以降も同様である。
【0035】
次に、図5のC欄に示すように、図5のB欄におけるワイヤWの形成状態に続けて、下に凸な4つのV字状部が形成されるように、ワイヤWをジグザグにピンPNの間に掛け渡す。より詳細には、ワイヤWを斜め左下に1×LPだけ延伸させてピンPNの下側に掛ける操作と、ワイヤWを斜め左上に1×LPだけ延伸させてピンPNの上側に掛ける操作とを、4回繰り返す。その後、ワイヤWを斜め左下に2×Lpだけ延伸させる。
【0036】
次に、図6のD欄に示すように、図5のC欄におけるワイヤWの形成状態に続けて、図5のC欄と同様の操作を、ワイヤWが中央筒状部111の下端に相当する位置に到達するまで繰り返す。図6のE欄には、ワイヤWが中央筒状部111の下端に相当する位置に到達した状態を示している。
【0037】
次に、図7のF欄に示すように、図6のE欄におけるワイヤWの形成状態に続けて、下に凸な6つのV字状部(下方突出部113)が形成されるように、ワイヤWをジグザグにピンPNの間に掛け渡す。すなわち、ワイヤWを斜め左下に1×Lpだけ延伸させてピンPNの下側に掛ける操作と、ワイヤWを斜め左上に1×Lpだけ延伸させてピンPNの上側に掛ける操作とにより、下方突出部113を形成する。6つ目の下方突出部113の形成後、ワイヤWを開始点STまで延伸させ、開始点STでワイヤWの両端を、例えば加締めによって加締め部114を形成することにより連結する。以上の工程により、第1の筒状部110が作製される。
【0038】
また、第1の筒状部110の作製後に、あるいは、第1の筒状部110の作製と並行して、上述した第1の筒状部110の作製方法と同様の方法に従い、反対側からワイヤWをフック編みすることによって第2の筒状部120を作製する。ただし、図7のG欄に示すように、第2の筒状部120の下方突出部123を形成する際には、各下方突出部123が、第1の筒状部110の各上方突出部112とフック状に係合するようにワイヤWを編む。これにより、第1の筒状部110と第2の筒状部120とが互いに組み合わされて構成された本体部100(拡張部130の形成前の状態)が作製される。なお、図7のG欄では、第2の筒状部120における下方突出部123以外の部分の図示を省略している。ワイヤWの編み込み完了後、本体部100を治具JGから取り外す前に、形状記憶のための仮の熱処理(例えば、250~350℃で5~20分間)を行ってもよい。
【0039】
次に、筒状の本体部100の中空部に、拡張部130の内径に対応する径の球状または楕円球状の金型を挿入し、形状記憶のための熱処理(例えば、350~600℃で5~30分間)を行う。これにより、本体部100の所定の位置に、径方向に拡張された拡張部130が形成される。
【0040】
最後に、本体部100を覆うようにカバー膜200を形成する。これにより、本体部100の拡張部130において、ワイヤWの一部分とワイヤWの他の部分との間に配置されたカバー膜200によって凹部202が形成される。以上の工程により、本実施形態のステント10の製造が完了する。
【0041】
A-3.ステント10の使用方法:
次に、ステント10の使用方法の一例について説明する。はじめに、ステント10を縮径状態としてデリバリシステムにマウントする。上述したように、本実施形態のステント10では、本体部100における中心軸Axに沿った両端部以外の部分に拡張部130が形成されているため、拡張部130を縮径させやすく、比較的細径のデリバリシステム用シース内にも容易に収容することができる。
【0042】
次に、図2に示すように、デリバリシステムによってステント10を生体管腔20(例えば、胆管)内の留置位置(狭窄部の位置、または、狭窄部をバイパスする位置)まで搬送し、該留置位置においてデリバリシステムからステント10をリリースする。これに伴い、ステント10は、自己拡張性によって拡張した状態となる。ステント10が拡張状態となると、ステント10の本体部100における拡張部130が生体管腔20の体壁21に接触してアンカーとして機能し、ステント10の位置ずれ(マイグレーション)が抑制される。本実施形態のステント10では、爪状の係止部を用いることなく、拡張部130によりアンカー機能を実現しているため、体壁21における出血や穿孔の発生のリスクを十分に低減することができる。また、拡張部130に形成された凹部202内に体壁21が入り込むことにより、拡張部130が良好なアンカー機能を発揮する。また、拡張部130の凹部202は本体部100の中心軸Axに対して傾いた方向に延伸しているため、本体部100が回転しない限り位置ずれが発生しにくく、拡張部130が極めて良好なアンカー機能を発揮する。
【0043】
ステント10を抜去する際には、例えばステント10の端部を引っ張ることにより、ステント10に引っ張り力を付与する。これにより、本体部100の拡張部130が縮径し、かつ、拡張部130の凹部202の延伸方向が本体部100の中心軸Axと略平行になる。その結果、拡張部130によるアンカー機能が低下し、ステント10を容易に抜去することができる。
【0044】
A-4.第1実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態のステント10は、本体部100とカバー膜200とを備える。本体部100は、ワイヤWをフック編みすることにより形成された筒状体である。カバー膜200は、本体部100の少なくとも一部を覆う樹脂製の膜である。本体部100は、径方向に拡張された拡張部130を有する。拡張部130には、ワイヤWの一部分とワイヤWの他の部分との間に配置されたカバー膜200によって凹部202が形成されている。
【0045】
このように、本実施形態のステント10では、本体部100が径方向に拡張された拡張部130を有するため、爪状の係止部を用いることなく、拡張部130のアンカー機能によりステント10の位置ずれを抑制することができ、体壁21における出血や穿孔の発生のリスクを十分に低減することができる。また、拡張部130におけるワイヤWの一部分とワイヤWの他の部分との間にカバー膜200によって形成された凹部202が存在するため、凹部202内に体壁21が入り込むことによって拡張部130がより良好なアンカー機能を発揮し、ステント10の位置ずれを効果的に抑制することができる。
【0046】
また、本実施形態のステント10では、拡張部130の凹部202は、本体部100の中心軸Axに対して傾いた方向に延伸している。そのため、本体部100が回転しない限りステント10の位置ずれが発生しにくくなり、拡張部130が極めて良好なアンカー機能を発揮し、ステント10の位置ずれを極めて効果的に抑制することができる。
【0047】
また、本実施形態のステント10では、本体部100は、本体部100の中心軸Axに沿って並んで配置されて互いに組み合わされた第1の筒状部110と第2の筒状部120とを含む。本体部100の拡張部130は、第1の筒状部110と第2の筒状部120とが組み合わされた位置に形成されている。そのため、例えば生体管腔20内に留置されたステント10の端部に引っ張り力が作用した場合であっても、主として第1の筒状部110と第2の筒状部120との一方のみに力が作用するため、第1の筒状部110と第2の筒状部120とが組み合わされた位置に形成された拡張部130が縮径することを抑制することができ、その結果、ステント10の位置ずれを抑制することができる。
【0048】
B.第2実施形態:
図8は、第2実施形態におけるステント10aの外観構成を示す説明図である。以下では、第2実施形態のステント10aの構成のうち、上述した第1実施形態のステント10と同一の構成については、同一の符号を付すことによってその説明を適宜省略する。
【0049】
第2実施形態のステント10aは、拡張部130aの形状が第1実施形態のステント10と異なる。具体的には、第2実施形態のステント10aでは、拡張部130aの形状が略傘状である。すなわち、拡張部130aは、上端から下端付近にかけて徐々に拡径し、かつ、下端付近において他の部分と略同径まで一気に縮径するような形状である。そのため、拡張部130aにおける最大径の位置は、本体部100の中心軸Axに沿って拡張部130aの中心位置から下側に偏心している。また、第2実施形態でも、拡張部130aは、第1の筒状部110と第2の筒状部120とが組み合わされた位置に形成されている。そのため、拡張部130aにおいて、第1の筒状部110と第2の筒状部120との径方向の大きさは互いに異なっている。
【0050】
図9は、第2実施形態の本体部100を周方向D1に展開した展開図である。図9に示すように、第2実施形態では、第1実施形態と同様に、第2の筒状部120の複数の下方突出部123のそれぞれは、本体部100の中心軸Axに対して斜め方向に延伸し、かつ、周長が他のV字状の部分と比較して長い。一方、第1の筒状部110の複数の上方突出部112のそれぞれは、本体部100の中心軸Axの方向に延伸し、かつ、周長が他のV字状の部分と略同一である。このような編み方により作製された第1の筒状部110および第2の筒状部120を組み合わせて本体部100を構成することにより、第1の筒状部110と第2の筒状部120とが組み合わされた位置に、上述した傘状の拡張部130aが形成される。第1実施形態と同様に、拡張部130aには、カバー膜200によって中心軸Axに対して傾いた方向に延伸する凹部202が形成され、拡張部130aの表面にスパイラル状の凹凸が形成される。
【0051】
第2実施形態のステント10aは、第1実施形態のステント10の製造方法において、拡張部130aを形成する際に、球状または楕円球状の金型に代えて、図10に例示するような傘状の金型30を用いることにより、製造することができる。
【0052】
図11は、第2実施形態のステント10aの使用方法の一例を示す説明図である。図11に示す例では、ステント10aが、肝臓60の肝内胆管62から胃50に掛けた位置に留置されている。この状態では、傘状の拡張部130aにおける最大径の部分が胃50の胃壁52に当接している。そのため、胃50が肝臓60から離れようとする力が働き、ステント10aに対して腹腔内に抜去される力が働いても、拡張部130aの存在によりステント10aの位置ずれ(胃壁52からの抜け)が抑制される。また、さらに強い力が働いても、拡張部130aに形成された凹部202の存在により、拡張部130aが胃壁52を抑えるクッションのように機能するため、ステント10aの位置ずれ(胃壁52からの抜け)が抑制される。
【0053】
以上説明したように、第2実施形態のステント10aでは、第1実施形態のステント10と同様に、拡張部130aにカバー膜200によって凹部202が形成されているため、拡張部130aがより良好なアンカー機能を発揮し、ステント10aの位置ずれを効果的に抑制することができる。
【0054】
また、第2実施形態のステント10aでは、第1実施形態のステント10と同様に、本体部100は、中心軸Axに沿って並んで配置されて互いに組み合わされた第1の筒状部110と第2の筒状部120とを含み、拡張部130aは第1の筒状部110と第2の筒状部120とが組み合わされた位置に形成されている。そのため、例えば生体管腔内に留置されたステント10aの端部に引っ張り力が作用した場合であっても、第1の筒状部110と第2の筒状部120とが組み合わされた位置に形成された拡張部130aが縮径することを抑制することができ、その結果、ステント10aの位置ずれを抑制することができる。
【0055】
また、第2実施形態のステント10aでは、拡張部130aにおいて、第1の筒状部110と第2の筒状部120との径方向の大きさは互いに異なるため、拡張部130aにおける大径の部分が生体管腔の壁(例えば胃50の胃壁52)に当接することによってステント10aの抜けを抑制することができる。また、第2実施形態のステント10aでは、拡張部130aにおける最大径の位置が拡張部130aの中心位置から偏心しているため、拡張部130aにおける最大径の部分が生体管腔の壁に確実に当接することによってステント10aの抜けを効果的に抑制することができる。
【0056】
C.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0057】
上記実施形態におけるステント10の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、拡張部130に形成された凹部202が本体部100の中心軸Axに対して傾いた方向に延伸しているが、凹部202が中心軸Axに略平行に延伸していてもよい。
【0058】
上記実施形態では、本体部100が第1の筒状部110および第2の筒状部120という2つの部材から構成されているが、本体部100が1つの部材から構成されていてもよいし、本体部100が3つ以上の部材から構成されていてもよい。
【0059】
上記実施形態では、拡張部130に凹部202が形成されているが、必ずしも拡張部130に凹部202が形成されている必要はない。
【0060】
上記実施形態では、拡張部130が略球状、略楕円球状または傘状であるが、拡張部130の形状はこれらに限られず、任意の形状を採用することができる。
【0061】
上記実施形態におけるステント10の製造方法は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、フック編みにより本体部100を作製する際に、周方向D1に6個のV字状部が並ぶように編んでいるが、周方向D1に並ぶV字状部の個数は5個以下であってもよいし、7個以上であってもよい。また、本体部100の編み方は全体をフック編みとする必要はなく、フック編みを一部に含んでいればよい。
【符号の説明】
【0062】
10:ステント 20:生体管腔 21:体壁 30:金型 50:胃 52:胃壁 60:肝臓 62:肝内胆管 100:本体部 101:絡み部 102:交差部 110:第1の筒状部 111:中央筒状部 112:上方突出部 113:下方突出部 114:加締め部 120:第2の筒状部 121:中央筒状部 122:上方突出部 123:下方突出部 130:拡張部 200:カバー膜 202:凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11