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特開2024-173349連続鋳造機、連続鋳造機の異常予測方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173349
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】連続鋳造機、連続鋳造機の異常予測方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/16 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
B22D11/16 104B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091706
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】北田 宏
(72)【発明者】
【氏名】川端 雅俊
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004MA05
4E004MC12
(57)【要約】
【課題】過去の実績データからブレークアウト直前の異常であることを学習させた機械学習モデルを用いることによって、鋳造中における各時刻の説明変数データの異常判別を行う。
【解決手段】溶鋼から鋳片を製造する際の異常の発生を予測する連続鋳造機であって、溶鋼から製造される鋳片で、溶鋼が凝固した凝固シェルが破断する現象であるブレークアウトが発生するか否かを、事前に予測する異常予測処理部を有し、異常予測処理部は、過去の操業実績における、複数の温度計で得られた温度分布と、当該温度分布となった溶鋼で製造された鋳片でブレークアウトが発生したか否かの情報とを、機械学習による識別器に学習させることで生成された学習済みモデルを用い、複数の温度計で得られた温度分布を推論することで、当該温度分布となった溶鋼で製造されることになる鋳片でブレークアウトが発生するか否かを事前に予測する、連続鋳造機が提供される。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶鋼から鋳片を製造する際の異常の発生を予測する連続鋳造機であって、
長辺と短辺とからなる鋳型と、
前記鋳型の短辺に向けて開口した吐出口から、前記鋳型内に溶鋼を供給する浸漬ノズルと、
前記鋳型の短辺において、前記溶鋼のなす湯面の目標レベルより高い位置と低い位置とを含む複数の位置に設けられた複数の温度計と、
前記溶鋼から製造される鋳片で、溶鋼が凝固した凝固シェルが破断する現象であるブレークアウトが発生するか否かを、事前に予測する異常予測処理部と、
を有し、
前記異常予測処理部は、過去の操業実績における、前記複数の温度計で得られた温度分布と、当該温度分布となった溶鋼で製造された鋳片で前記ブレークアウトが発生したか否かの情報とを、機械学習による識別器に学習させることで生成された学習済みモデルを用い、前記複数の温度計で得られた温度分布を推論することで、当該温度分布となった溶鋼で製造されることになる鋳片で前記ブレークアウトが発生するか否かを事前に予測する、連続鋳造機。
【請求項2】
溶鋼から鋳片を製造する際の異常の発生を予測する連続鋳造機の異常予測方法であって、
長辺と短辺とからなる鋳型と、
前記鋳型の短辺に向けて開口した吐出口から、前記鋳型内に溶鋼を供給する浸漬ノズルと、
前記鋳型の短辺において、前記溶鋼のなす湯面の目標レベルより高い位置と低い位置とを含む複数の位置に設けられた複数の温度計と、
前記溶鋼から製造される鋳片で、溶鋼が凝固した凝固シェルが破断する現象であるブレークアウトが発生するか否かを、事前に予測する異常予測処理部と、
を有する連続鋳造機を用い、
前記異常予測処理部を用いて、過去の操業実績における、前記複数の温度計で得られた温度分布と、当該温度分布となった溶鋼で製造された鋳片で前記ブレークアウトが発生したか否かの情報とを、機械学習による識別器に学習させることで生成された学習済みモデルを用い、前記複数の温度計で得られた温度分布を推論することで、当該温度分布となった溶鋼で製造されることになる鋳片で前記ブレークアウトが発生するか否かを事前に予測する、連続鋳造機の異常予測方法。
【請求項3】
連続鋳造機で溶鋼から鋳片を製造する際の異常の発生を予測するためのプログラムであって、
長辺と短辺とからなる鋳型と、
前記鋳型の短辺に向けて開口した吐出口から、前記鋳型内に溶鋼を供給する浸漬ノズルと、
前記鋳型の短辺において、前記溶鋼のなす湯面の目標レベルより高い位置と低い位置とを含む複数の位置に設けられた複数の温度計と、
前記溶鋼から製造される鋳片で、溶鋼が凝固した凝固シェルが破断する現象であるブレークアウトが発生するか否かを、事前に予測する異常予測処理部と、
を有する連続鋳造機を用い、
前記プログラムは、前記異常予測処理部で、過去の操業実績における、前記複数の温度計で得られた温度分布と、当該温度分布となった溶鋼で製造された鋳片で前記ブレークアウトが発生したか否かの情報とを、機械学習による識別器に学習させることで生成された学習済みモデルを用い、前記複数の温度計で得られた温度分布を推論することで、当該温度分布となった溶鋼で製造されることになる鋳片で前記ブレークアウトが発生するか否かを事前に予測する、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造機、連続鋳造機の異常予測方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
図1に例示される連続鋳造機1は溶鋼から鋳片を製造するものであり、長辺と短辺とからなる鋳型2と、タンディッシュから鋳型2に溶鋼MSを供給する浸漬ノズル3とを備えている。浸漬ノズル3の先端は鋳型2内の溶鋼に浸漬され、先端付近に溶鋼が流出する吐出孔4が設けられる。鋳片が鋳型2から出た後に鋳片を支持するロール(図示せず)の軸線に対して垂直な鋳型2の面は、ロールに平行な面よりも水平方向の長さが短いので短辺面または鋳型短辺と呼ばれるが、浸漬ノズル3の吐出孔4はこの短辺に向けて開口している。
【0003】
鋳片表面の品質および内部の品質を良好に保つため、鋳型2の上部に電磁攪拌装置5を設けて鋳型2内部で溶鋼を攪拌することが行われている。また、鋳片内部の欠陥を防止するために、鋳型2の下部に電磁ブレーキ装置6を設けて静磁場を印加し、溶鋼の下方への流動を抑制することが行われている。しかし、電磁ブレーキ装置6により溶鋼の吐出流F1を強力に抑制すると下方への流動が制限されるため、図1中に示すように吐出流F1の周囲に主流とは逆方向の対向流F2が発生することが、特許文献1に示されている。対向流F2は浸漬ノズル3に沿って上昇し、溶鋼湯面直下では拡散するが、鋳型2の厚み方向の中心線上では浸漬ノズル3から短辺に向かい衝突する短辺衝突流F3が形成される。
【0004】
上記のような連続鋳造機1において、図2に示すように浸漬ノズル3の内部の片側の吐出孔42付近にアルミナ等介在物が付着すると吐出孔42の開口面積が減少し、反対側の吐出孔41に吐出流量が偏るいわゆる偏流が発生する。図2には、偏流発生時の浸漬ノズル3を対称軸として偏流側(図中の左側)と吐出孔詰まり側(図中の右側)の吐出流F11,F12、対向流F21,F22および短辺衝突流F31,F32の違いが模式的に示されている。偏流側で溶鋼MSの湯面直下に発生する短辺衝突流F31は、吐出孔詰まり側で発生する短辺衝突流F32と比べて流速が大きくなることが数値シミュレーションで確認されている。
【0005】
鋳型2で溶鋼MSから生成した凝固シェルSHは、鋳型2の全周にわたって均一に成長することが望ましい。しかし、凝固シェルSHと鋳型銅板との間にある潤滑剤であるパウダーフラックス(溶鋼MSの湯面上に散布したパウダーが溶融したもの)の膜切れ等による凝固シェルSHの銅板への焼き付き(拘束)や、凝固収縮が大きい亜包晶鋼や合金鋼の鋳造でフラックスの結晶化不良や湯面からの不均一流入によって鋳型2の周方向について熱伝達が不均一になることによって生じる凝固シェルSHの変形のために凝固シェルSHと銅板との間に生じる空隙(エアギャップ)など、凝固シェルSHの不均一な成長となる異常現象が複数ある。
【0006】
上述した短辺衝突流F3も、溶鋼MSの凝固初期において熱収支を乱すため凝固シェルSHの形成を不安定化する要因になりうる。特に、溶鋼中[C]重量%が0.08~0.10%の亜包晶鋼では凝固収縮が大きいため凝固シェルSHと銅板との間にエアギャップが生じやすい。凝固シェルSHが不均一に成長している部分の面積が拡大した凝固不良箇所が鋳型2の下端から引き抜かれた場合、凝固不良箇所の凝固シェルの引張強度が鋳片内部の溶鋼の静圧に耐えられずに破断し、破断部から溶鋼が外部に流出するブレークアウトが発生する場合がある。ブレークアウトの発生は、鋳造の停止、鋳片の引き抜き、流出した溶鋼地金の除去、セグメント交換等を伴うため正常な操業に戻るまでには長い時間を要し、生産性を低下させる要因になる。従って、凝固不良が発生していることをブレークアウトに至る前に検知することが重要である。
【0007】
そこで、本発明者らは、ブレークアウトが発生した鋳片の分析を行った。ブレークアウトが発生したとき、ブレークアウト後に回収した鋳片から溶鋼が流出した開口部付近の凝固シェルを観察分析することで、凝固不良箇所の原因を事後的に特定できる。さらに、発明者らは、実際に発生したブレークアウトの事例において、流出孔に至る直前の鋳型内両短辺の上下方向に沿う鋳型内溶鋼流速を、鋳片デンドライト組織の傾き角度から非特許文献1に示された計算式を用いて推定した。図3に示すように、正常な場合の凝固シェルでは溶鋼湯面を基準にした深さ35mmの位置で流速の方向が反転しているのに対し、ブレークアウトが発生した凝固シェルでは深さ8mmの位置で流速の方向が反転していた。
【0008】
この結果から、図4に示されるように、正常な場合に浸漬ノズルから短辺に向かう流れの衝突位置は溶鋼湯面から約35mmの位置と推定されるのに対して(図4(a))、ブレークアウト発生時には上記衝突位置が溶鋼湯面から約8mmの位置と推定される(図4(b))。また、いずれの場合も溶鋼湯面から50mmの位置では流速推定値が下向きになるが、この位置におけるブレークアウト発生時の流速推定値の大きさは正常な場合よりも大きくなっている。このことから、ブレークアウト発生時に溶鋼湯面から50mm付近の位置で短辺に衝突する溶鋼の流速は、正常な場合よりも大きいと推定される。ブレークアウト発生側では、エアギャップによる凝固不良箇所が鋳型下部まで引き抜かれて破断したと推定される。
【0009】
鋳造中は、溶鋼のなす湯面(以下、溶鋼湯面ともいう)のレベルを目標レベルに保つ湯面制御が常に行われているが、溶鋼湯面の直下では浸漬ノズルから鋳型短辺に向かう流れが発生しているため、短辺に接する湯面の形状は湯面制御の目標レベルよりも上に盛り上がることになる。従来、鋳型短辺における湯面の盛り上がりを、鋳型短辺銅板の湯面目標レベルより高い位置から湯面目標レベルより低い位置までを含めて設置した温度計の測温値において、上下方向の最大温度に対して64%の温度に該当する位置として短辺湯面高さとして推定することが特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010-240686号公報
【特許文献2】特開昭62-93054号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「連鋳鋳片の大型介在物と柱状晶成長方向との関係」,岡野忍ら,「鉄と鋼」第61年第14号,2982-2990頁,1975年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところが、特許文献2に記載された方法では、必ずしもブレークアウトの発生を正確に検知することができない。表1は、特許文献2に記載されたブレークアウトの事例(BO事例1~3)でブレークアウト発生側の鋳型短辺の湯面目標レベルよりも15mmおよび35mm高い位置にある鋳型銅板温度計の測温値から推定した鋳型短辺における溶鋼湯面の高さと、反対の正常側の鋳型短辺で同様に推定した溶鋼湯面の高さとを、湯面レベル制御目標値からの偏差(盛り上がり)で整理した表である。溶鋼湯面の盛り上がりの左右偏差に着目した場合、ブレークアウト発生側の盛り上がりが正常側よりも大きかったのはBO事例1およびBO事例2のみであり、BO事例3では逆にブレークアウト発生側の盛り上がりが正常側よりも小さかった。その一方で、BO事例2ではBO事例1およびBO事例3に比べてブレークアウト発生側および平常側とも溶鋼湯面の盛り上がりが小さく、溶鋼湯面の盛り上がりの大きさに着目した場合もブレークアウトの事例に共通した特徴があるとはいえない。
【0013】
【表1】
【0014】
一方、上記のブレークアウトの事例について、温度計の測温値から推定した溶鋼湯面の高さではなく、測温値の分布そのものを正常時と比較すると、図5に示すようにブレークアウト発生時の測温値分布は正常時に比べて溶鋼湯面側(浅い側)に偏る傾向があり、湯面目標レベルよりも15mmおよび35mm高い位置にある鋳型銅板温度計の測温値は正常時の平均値より高く外れる傾向が強かった。
【0015】
図6に、上記の結果に対する本発明者らの考察を示す。図6には、鋳型短辺銅板2Aと、短辺衝突流F3と、銅板内熱流束V1,V2と、湯面目標レベルLと、凝固シェルSHとが図示されている。図6(a)に示す正常側短辺では、短辺に向かう流れの流速が小さく溶鋼湯面から離れた位置に衝突するため、吐出流がもつ熱エネルギーが銅板内熱流束V1として湯面レベル目標位置よりも高い位置にある温度計まで届きにくい。これに対して、図6(b)に示すブレークアウト側短辺では、短辺に向かう流れの流速が大きく溶鋼湯面に近い位置に衝突するため、吐出流がもつ熱エネルギーが銅板内熱流束V2として湯面レベル目標位置よりも高い位置にある温度計まで届きやすい。この結果として、ブレークアウト側短辺では、湯面レベル目標位置より高い位置にある温度計の測温値が正常側短辺よりも高くなる傾向が生じたものと考えられる。
【0016】
以上の考察から、本発明では、溶鋼湯面より高い位置にある鋳型銅板温度計の測温値を含む鋳造中の操業条件データを説明変数とし、過去の実績データからブレークアウト直前の異常であることを学習させた機械学習モデルを用いることによって、鋳造中における各時刻の説明変数データの異常判別を行う。なお、ブレークアウトの予知に鋳型銅板に設置した温度計を用いる技術は過去にも提案されているが、溶鋼湯面より高い位置にある温度計のデータを用いるものはない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のある観点によれば、溶鋼から鋳片を製造する際の異常の発生を予測する連続鋳造機であって、長辺と短辺とからなる鋳型と、鋳型の短辺に向けて開口した吐出口から、鋳型内に溶鋼を供給する浸漬ノズルと、鋳型の短辺において、溶鋼のなす湯面の目標レベルより高い位置と低い位置とを含む複数の位置に設けられた複数の温度計と、溶鋼から製造される鋳片で、溶鋼が凝固した凝固シェルが破断する現象であるブレークアウトが発生するか否かを、事前に予測する異常予測処理部と、を有し、異常予測処理部は、過去の操業実績における、複数の温度計で得られた温度分布と、当該温度分布となった溶鋼で製造された鋳片でブレークアウトが発生したか否かの情報とを、機械学習による識別器に学習させることで生成された学習済みモデルを用い、複数の温度計で得られた温度分布を推論することで、当該温度分布となった溶鋼で製造されることになる鋳片でブレークアウトが発生するか否かを事前に予測する、連続鋳造機が提供される。
【0018】
本発明の別の観点によれば、溶鋼から鋳片を製造する際の異常の発生を予測する連続鋳造機の異常予測方法であって、長辺と短辺とからなる鋳型と、鋳型の短辺に向けて開口した吐出口から、鋳型内に溶鋼を供給する浸漬ノズルと、鋳型の短辺において、溶鋼のなす湯面の目標レベルより高い位置と低い位置とを含む複数の位置に設けられた複数の温度計と、溶鋼から製造される鋳片で、溶鋼が凝固した凝固シェルが破断する現象であるブレークアウトが発生するか否かを、事前に予測する異常予測処理部と、を有する連続鋳造機を用い、異常予測処理部を用いて、過去の操業実績における、複数の温度計で得られた温度分布と、当該温度分布となった溶鋼で製造された鋳片でブレークアウトが発生したか否かの情報とを、機械学習による識別器に学習させることで生成された学習済みモデルを用い、複数の温度計で得られた温度分布を推論することで、当該温度分布となった溶鋼で製造されることになる鋳片でブレークアウトが発生するか否かを事前に予測する、連続鋳造機の異常予測方法が提供される。
【0019】
本発明のさらに別の観点によれば、連続鋳造機で溶鋼から鋳片を製造する際の異常の発生を予測するためのプログラムであって、長辺と短辺とからなる鋳型と、鋳型の短辺に向けて開口した吐出口から、鋳型内に溶鋼を供給する浸漬ノズルと、鋳型の短辺において、溶鋼のなす湯面の目標レベルより高い位置と低い位置とを含む複数の位置に設けられた複数の温度計と、溶鋼から製造される鋳片で、溶鋼が凝固した凝固シェルが破断する現象であるブレークアウトが発生するか否かを、事前に予測する異常予測処理部と、を有する連続鋳造機を用い、プログラムは、異常予測処理部で、過去の操業実績における、複数の温度計で得られた温度分布と、当該温度分布となった溶鋼で製造された鋳片でブレークアウトが発生したか否かの情報とを、機械学習による識別器に学習させることで生成された学習済みモデルを用い、複数の温度計で得られた温度分布を推論することで、当該温度分布となった溶鋼で製造されることになる鋳片でブレークアウトが発生するか否かを事前に予測する、プログラムが提供される。
【発明の効果】
【0020】
上記の構成によれば、短辺衝突流によりブレークアウトに至る異常を検出することが可能になり、ブレークアウトによる操業停止のトラブルを事前に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】連続鋳造機の鋳型厚み中心線における鋳造中の鋳型断面図である。
図2】浸漬ノズル吐出孔付近の詰まり付着による偏流発生時の鋳型内溶鋼流動を表す図である。
図3】ブレークアウト後鋳片の湯面からの深さ方向の距離と流速推定値の関係を示す図である。
図4】短辺上下方向の流速分布に基づく鋳型短辺に向かう流れと衝突位置を示す図である。
図5】短辺鋳型銅板測温値の分布比較のグラフである。
図6】鋳型銅板短辺湯面付近の銅板内熱流束ベクトルおよび凝固シェル表面付近の溶鋼流速ベクトルの概略図である。
図7】本発明の一実施形態における連続鋳造機の構成を表すブロック線図である。
図8】k-近傍法を用いた場合の認識モデルの処理式フローチャートである。
図9】本発明を実施する鋳型の短辺銅板における熱電対の配置図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0023】
図7は、本発明の一実施形態における連続鋳造機の構成を表すブロック線図である。連続鋳造機は、鋳型銅板温度計11と、データ取得手段12と、認識モデル計算手段13と、異常判定手段14と、定数パラメータ設定手段15とを含む。データ取得手段12、認識モデル計算手段13、異常判定手段14、および定数パラメータ設定手段15は、溶鋼から製造される鋳片で、溶鋼が凝固した凝固シェルが破断する現象であるブレークアウトが発生するか否かを、事前に予測する異常予測処理部10を構成する。異常予測処理部10は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ、記憶装置、通信装置、入出力手段などを備え、プログラムに従って各種の演算を実行するコンピュータを含み、データ取得手段12、認識モデル計算手段13、異常判定手段14および定数パラメータ設定手段15は、プロセッサがプログラムに従って動作することによって実装される。プログラムは、記憶装置に格納されるか、またはリムーバブル記憶媒体に格納されて異常予測処理部10に読み込まれる。
【0024】
(鋳型銅板温度計)
鋳型銅板温度計11は、鋳型短辺銅板内の温度分布を測定する装置であり、例えば熱電対、またはFBG(Fiber Bragg Grating)温度計などで構成される。鋳型銅板温度計11の測温点は鋳造方向に沿って配置され、溶鋼湯面の目標レベルLよりも高い位置と低い位置とを含む。鋳型銅板温度計11は、鋳型の短辺において、溶鋼のなす湯面の複数の位置に設けられる複数の温度計の例である。銅板表面から測温点までの距離は一定であることが望ましい。また、鋳造方向の測温点の間隔は20mm以下とすることが望ましい。
【0025】
(データ取得手段)
データ取得手段12は、鋳型銅板温度計11から測温値データを取得して記憶装置に格納する。測温値データは、例えば一次記憶装置に格納された後、適切なタイミングで二次記憶装置に構築されたデータベースに格納される。データベースでは、過去の正常時および異常時における説明変数データ実績値が実績値テーブルとして蓄積されている。実績値テーブルでは、説明変数データと対応する状態ラベルとの組が1件のレコードとして格納される。
【0026】
(認識モデル計算手段)
認識モデル計算手段13は、データ取得手段12が取得した測温値データを説明変数とする認識モデル処理式に基づき、鋳型各短辺においてブレークアウトの可能性がある異常な状態か、ブレークアウトの可能性がないとみなせる正常な状態かを判別する。より具体的には、認識モデル計算手段13は、所定の周期でサンプリングした測温値データをサンプル時刻tにおける1レコード分の説明変数データに変換する。認識モデル処理式は、説明変数データが異常状態に該当する確率(異常確率)pTおよび正常状態にある確率(正常確率)pF=1-pTを算出する。
【0027】
(異常判定手段)
異常判定手段14は、異常確率pTが閾値パラメータpθ(0<pθ<1)以上、すなわちpT≧pθの場合は説明変数データが異常状態にあると判定し、異常確率pTが閾値パラメータpθ未満、すなわちpT<pθの場合は説明変数データが正常状態にあると判定する。つまり、認識モデル計算手段13および異常判定手段14によれば、認識モデルを用い、鋳型銅板温度計11で得られた温度分布を推論することで、当該温度分布となった溶鋼で製造されることになる鋳片でブレークアウトが発生するか否かを事前に予測することができる。なお、閾値パラメータpθは、定数パラメータ設定手段15から入力される。異常判定手段14は、異常/正常の判定結果を出力する。判定結果は、例えば、ディスプレイへの表示や音声出力などとして出力される。
【0028】
(認識モデルの学習)
次に、上記のような異常予測処理部10における認識モデルの学習について説明する。認識モデルは、過去の操業実績において鋳型銅板温度計11で得られた温度分布と、当該温度分布となった溶鋼で製造された鋳片でブレークアウトが発生したか否かの情報とを、機械学習による識別器に学習させることで生成される学習済みモデルである。連続鋳造機における操業中のデータは同一の鋳造条件においても測定できない外乱現象のため、値にばらつきがある。従って、認識モデル処理式におけるパラメータは一般には解析的には設定できず、実績データから学習により設定する。本実施形態では、説明変数レコードに異常/正常を区別するラベル項目を設定し、ブレークアウト発生位置から鋳造時間に換算して所定の時間だけ遡った範囲でサンプリングされたデータレコードには異常ラベルを設定し、それ以外の期間のデータに対しては正常ラベルを付与する。
【0029】
データベースに格納された説明変数データを用いた認識モデルの学習は、認識モデル処理式で用いるアルゴリズムにおけるパラメータ変数について、訓練データにおける異常状態をすべて異常と認識しながら、正常状態を誤って異常と認識する確率を最小にする最適値を探索することで実施する。訓練データによっては異常状態をすべて正しく認識することができるパラメータを探索できない場合があるが、その場合は異常状態を誤って正常と認識する確率の下限の制約範囲内で正常を異常と認識する確率を最小化する最適値を探索する。
【0030】
(k-近傍法による認識モデルと認識モデルの学習)
より具体的な例として、認識モデルの処理式にk-近傍法とその学習方法を用いる場合について説明する。図8は、認識モデルの処理式フローチャートである。図示された例では、説明変数データx(実績データ)について、参照データ(n=1,・・・,N)との間の距離|x-xn|を計算し(ステップS101)、計算されたデータ間距離を昇順にソートする(ステップS102)。ソート後の距離の上位k点について、参照データの異常ラベルを抽出し(ステップS103)。抽出された異常ラベルの数yおよびkから異常確率pT=y/kを算出する(ステップS104)。このように、認識モデルは、説明変数データx(実績データ)と各々に対するラベルデータとをパラメータである参照データとし、調整パラメータとして閾値パラメータpθおよび整数kを持つ。k-近傍法では、異常時における説明変数データの実績値と正常時における説明変数データの判別対象のデータに対して最も近いk個のデータのうち、異常フラグが1であるレコードの個数の比率をpTの推定値とする。k-近傍法の学習とは、認識対象の説明変数データxとの間の距離を算出する参照データの個数kと、判定閾値確率pθとを変数として、認識モデルの性能を最適化することである。
【0031】
以上で説明したような本発明の実施形態は、図1に示すように鋳型内の溶鋼湯面付近で鋳型周方向に水平な旋回流を形成して攪拌する電磁攪拌装置と、浸漬ノズルより下側に溶鋼に静磁場を印加して溶鋼の下方への流動を抑制する電磁ブレーキ装置とを備えた連続鋳造機で好適に実施することできる。本発明により、短辺衝突流によりブレークアウトに至る異常を検出することが可能になり、ブレークアウトによる操業停止のトラブルを事前に回避することができる。
【実施例0032】
本発明を実施する連続鋳造機は、図1に示すように、鋳型2内の溶鋼湯面付近で鋳型周方向に水平な旋回流を形成して攪拌する電磁攪拌装置5と、浸漬ノズル3より下側で溶鋼に静磁場を印加して溶鋼の下方への流動を抑制する電磁ブレーキ装置6とを備えている。そのため、図4に示したように短辺衝突流によるブレークアウトが発生することがあった。このような連続鋳造機において、図9に示すように、連続鋳造機において鋳型の各短辺銅板2Aの水平方向における中心線上で、湯面制御の目標レベルLから深さ方向に-35mmの(目標レベルLよりも35mm高い)位置から20mm間隔で、測温点として16点の鋳型銅板温度計として熱電対を設置した。表2に示されるように、本発明の実施例としては、これらの測温点のうち深さ-35mmから+25mmまでの4点の測温点における測温値を認識モデルの説明変数として用いた。一方、比較例では深さ+25mm(目標レベルLよりも25mm低い)から+85mmまでの4点の測温点における測温値を認識モデルの説明変数として用いた。なお、鋳型内湯面の目標レベルは鋳型の上端から95mmの位置である。
【0033】
【表2】
【0034】
(学習の実験)
本発明の効果を確認するため、実際に短辺衝突流によるブレークアウトが発生した2回分の鋳造(キャスト)(図5のBO事例1とBO事例2)と、正常に鋳造した44キャストにおける上記測温点の温度データを用いて、k-近傍法により認識モデルを作成した。認識モデルの説明変数データには、実施例、比較例とも1秒周期で表1に示した測温点における測温値をサンプルして用いた。k-近傍法における参照データは、ブレークアウトが発生した2キャスト各々における、ブレークアウト側短辺において溶鋼流出孔にあたる鋳造長位置からから4分間分の鋳造長をさかのぼった範囲にある240秒×2=480ケースの説明変数データに異常ラベルを付けた異常時データと、それまで正常に鋳造した44キャストにおける実績データから、両方の短辺毎に480ケースの説明変数データをランダムにサンプルして正常ラベルを付けた480ケースの正常時データとを合わせて960ケースのデータを参照データとした。
【0035】
(検証データ)
認識モデルの性能を検証するデータは、上記の参照データのもととなるキャストには含まれない、新たに発生したBO事例3のデータを用いた。同事例のキャストにおける両方の短辺における測温値データから、比較例、実施例で用いる説明変数データを取り出し、参照データ作成時と同様にブレークアウト側短辺において溶鋼流出孔にあたる鋳造長位置から4分間分の鋳造長をさかのぼった範囲にある240秒分のデータに異常ラベルを付与し、残りのデータには正常ラベルを付与した。認識モデルの調整パラメータの判定に使用するデータレコード数kを20,40,80の中で変更し、k件の参照データにおける異常ラベル比率の閾値確率pθを種々変更して探索した結果、kの最適値80、pθの最適値0.27が特定された。
【0036】
表3は、実施例における検証用BO事例3のキャストデータにおける、ブレークアウト発生側短辺の異常判定結果と性能指標とをまとめた結果である。性能指標r0は正常時の実績データに対する認識モデルの正答率であり、r0=(実際の正常ケースのうち認識モデルが正常と認識したケースの数/実際の正常ケースの数)で表される。性能指標r1は異常時の実績データに対する認識モデルの正答率であり、r1=(実際の異常ケースのうち認識モデルが異常と認識したケースの数/実際の異常ケースの数)で表される。性能指標f1はr0とr1の調和平均であり、f1=1/{(1/r0+1/r1)/2}で表される。
【0037】
【表3】
【0038】
一方、表4は、比較例における検証用BO事例3キャストデータにおける、ブレークアウト発生側短辺の異常判定結果と性能指標とをまとめた結果である。比較例では認識モデルが実際の異常ケースを異常と認識したケースが0件であったため、性能指標r1の値は0であり、性能指標f1は算出できなかった。
【0039】
【表4】
【0040】
以上で表3および表4に示した結果から、短辺衝突流によりブレークアウトに至る異常を検出するためには、実施例のように湯面制御目標レベルよりも高い位置にある複数の測温点での測温値を含むデータを用いる方が、比較例のように湯面制御目標レベルよりも低い位置にある測温点での測温値のデータのみを用いるよりも効果的であることが検証できた。
【0041】
表5および図6は、それぞれ実施例および比較例における検証用BO事例3のキャストデータにおける、正常側短辺の異常判定結果と性能指標とをまとめた結果である。正常時の実績データに対する認識モデルの正答率である性能指標r0は実施例の方が1に近く良好な値である。この結果から、正常時の鋳造において誤って異常判定を出す可能性についても、実施例の方が低いことがわかる。
【0042】
【表5】
【0043】
【表6】
【0044】
上述したように、湯面制御目標レベルよりも高い位置にある複数の測温点での測温値を含むデータを用いる本発明の実施例では、湯面制御目標レベルよりも低い位置にある測温点での測温値のデータのみを用いる比較例よりも短辺衝突流によりブレークアウトに至る異常をより正確に検出し、ブレークアウトによる操業停止のトラブルを効果的に回避できることが示された。
【符号の説明】
【0045】
1…連続鋳造機、2…鋳型、2A…鋳型短辺銅板、3…浸漬ノズル、4,41,42
…吐出孔、5…電磁攪拌装置、6…電磁ブレーキ装置、10…異常予測処理部、11…鋳型銅板温度計、12…データ取得手段、13…認識モデル計算手段、14…異常判定手段、15…定数パラメータ設定手段。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9