(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173380
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】シールリング、及び、密封装置
(51)【国際特許分類】
F16J 15/16 20060101AFI20241205BHJP
F16J 15/3236 20160101ALI20241205BHJP
【FI】
F16J15/16 A
F16J15/3236
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091757
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(74)【代理人】
【識別番号】100217892
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】浦 翔梧
【テーマコード(参考)】
3J006
3J043
【Fターム(参考)】
3J006AB02
3J006AE14
3J006AE22
3J006AE41
3J006CA01
3J043AA11
3J043BA02
3J043CA20
3J043CB13
3J043DA02
3J043DA20
(57)【要約】
【課題】第1部材と第2部材とが軸方向に相対移動する際におけるシールリングと第2部材との摩擦力を低減することが可能なシールリングを提供する。
【解決手段】シールリング100は、軸心の方向に相対移動する第1部材と第2部材とのうち第1部材に形成されている環状の装着溝に嵌着されて第1部材と第2部材との間に介装される環状のシールリング100であって、軸周りにおける少なくとも特定の角度において軸心を含む平面で半径の範囲内にて切断した断面形状は、径方向外側又は径方向内側に向けて凸の膨出形状部20と、軸心の方向における膨出形状部20の両端からそれぞれ径方向内側又は径方向外側に向けて延出している第1径方向延出部31及び第2径方向延出部32と、膨出形状部20と第1径方向延出部31と第2径方向延出部32とにより囲まれた中空部11とを有する形状である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心の方向に相対移動する第1部材と第2部材とのうち前記第1部材に形成されている環状の装着溝に嵌着されて前記第1部材と前記第2部材との間に介装される環状のシールリングであって、
軸周りにおける少なくとも特定の角度において、前記軸心を含む平面で半径の範囲内にて切断した断面形状は、
径方向外側又は径方向内側に向けて凸の膨出形状部と、
前記軸心の方向における前記膨出形状部の両端からそれぞれ径方向内側又は径方向外側に向けて延出している第1径方向延出部及び第2径方向延出部と、
前記膨出形状部と、前記第1径方向延出部と、前記第2径方向延出部と、により囲まれた中空部と、
を有する形状であるシールリング。
【請求項2】
前記中空部が、当該シールリングの周方向における全周に亘って連続的に存在している請求項1に記載のシールリング。
【請求項3】
複数の前記中空部が、当該シールリングの周方向において間欠的に存在している請求項1に記載のシールリング。
【請求項4】
前記第1径方向延出部と前記第2径方向延出部との少なくとも一方は、互いの方向とは反対側の側面に、互いの方向とは反対側に向けて突出した突起部を有する請求項1から3のいずれか一項に記載のシールリング。
【請求項5】
前記突起部は、当該シールリングの周方向における全周に亘って連続的に存在している請求項4に記載のシールリング。
【請求項6】
径方向において、前記突起部の基部の寸法よりも前記突起部の頂部の寸法が小さい請求項4に記載のシールリング。
【請求項7】
前記突起部の頂部は丸みを帯びた形状となっている請求項6に記載のシールリング。
【請求項8】
前記突起部の突出高さは、前記第1径方向延出部又は前記第2径方向延出部における前記突起部の形成領域以外の部分の肉厚以上である請求項4に記載のシールリング。
【請求項9】
前記断面形状において、当該シールリングの肉厚は、前記突起部の形成領域を除き一定である請求項4に記載のシールリング。
【請求項10】
軸心の方向に相対移動する第1部材と第2部材とのうち前記第1部材に形成されている環状の装着溝と、
前記装着溝に嵌着されて前記第1部材と前記第2部材との間に介装される環状のシールリングと、
を備える密封装置であって、
軸周りにおける少なくとも特定の角度において、前記軸心を含む平面で半径の範囲内にて前記シールリングを切断した断面形状は、
径方向外側又は径方向内側に向けて凸の膨出形状部と、
前記軸心の方向における前記膨出形状部の両端からそれぞれ径方向内側又は径方向外側に向けて延出している第1径方向延出部及び第2径方向延出部と、
前記膨出形状部と、前記第1径方向延出部と、前記第2径方向延出部と、により囲まれた中空部と、
を有する形状である密封装置。
【請求項11】
前記第1径方向延出部と前記第2径方向延出部との少なくとも一方は、互いの方向とは反対側の側面に、互いの方向とは反対側に向けて突出した突起部を有し、
前記シールリングが前記装着溝から取り外された自然状態において、前記軸心の方向における前記シールリングの寸法であって前記突起部を含む部分の寸法は、前記軸心の方向における前記装着溝の寸法よりも大きい請求項10に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールリング、及び、密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のAT(オートマティックトランスミッション)等のクラッチ部は、油圧によりクラッチピストンを動かすことでクラッチ板をディスク板に繋ぎ動力を伝達させる一方で、油圧を解除しバネの付勢によりクラッチピストンの位置を戻すことによってクラッチ板をディスク板から離す機構になっている。クラッチ部の油圧を保持するシール部品として、一般的にはOリングやDリング等のシールリングが使用されている。
【0003】
そのようなシールリングは、軸心の方向に相対移動する第1部材(例えばクラッチピストン等)と第2部材(例えばクラッチドラム)とのうち第1部材に形成されている環状の装着溝に嵌着されて第1部材と第2部材との間に介装される。
【0004】
例えば特許文献1には、Dリング、すなわち、軸心を含む平面で半径の範囲内にて切断した断面形状がD字状のシールリングが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本願発明者の検討によれば、特許文献1のシールリングでは、第1部材と第2部材とが軸方向に相対移動する際におけるシールリングと第2部材との摩擦力(フリクション)を低減する観点で、改善の余地がある。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、第1部材と第2部材とが軸方向に相対移動する際におけるシールリングと第2部材との摩擦力を低減することが可能な構造のシールリング、及び、そのシールリングを備える密封装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、軸心の方向に相対移動する第1部材と第2部材とのうち前記第1部材に形成されている環状の装着溝に嵌着されて前記第1部材と前記第2部材との間に介装される環状のシールリングであって、
軸周りにおける少なくとも特定の角度において、前記軸心を含む平面で半径の範囲内にて切断した断面形状は、
径方向外側又は径方向内側に向けて凸の膨出形状部と、
前記軸心の方向における前記膨出形状部の両端からそれぞれ径方向内側又は径方向外側に向けて延出している第1径方向延出部及び第2径方向延出部と、
前記膨出形状部と、前記第1径方向延出部と、前記第2径方向延出部と、により囲まれた中空部と、
を有する形状であるシールリングが提供される。
【0009】
また、本発明によれば、軸心の方向に相対移動する第1部材と第2部材とのうち前記第1部材に形成されている環状の装着溝と、
前記装着溝に嵌着されて前記第1部材と前記第2部材との間に介装される環状のシールリングと、
を備える密封装置であって、
軸周りにおける少なくとも特定の角度において、前記軸心を含む平面で半径の範囲内にて前記シールリングを切断した断面形状は、
径方向外側又は径方向内側に向けて凸の膨出形状部と、
前記軸心の方向における前記膨出形状部の両端からそれぞれ径方向内側又は径方向外側に向けて延出している第1径方向延出部及び第2径方向延出部と、
前記膨出形状部と、前記第1径方向延出部と、前記第2径方向延出部と、により囲まれた中空部と、
を有する形状である密封装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、第1部材と第2部材とが軸方向に相対移動する際におけるシールリングと第2部材との摩擦力を低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係るシールリングを軸心の方向に視たときの形状を示す図(側面図)である。
【
図2】
図1に示すA-A線に沿った切断端面図(シールリングを軸心を含む平面で半径の範囲内にて切断した断面形状を示す図)である。
【
図3】第1実施形態に係るシールリングの配置の一例を示す図であり、シールリングの軸心を含む平面で切断した切断端面形状を示す。
【
図5】第1実施形態に係るシールリングの配置の他の一例を示す図であり、シールリングの軸心を含む平面で切断した切断端面形状を示す。
【
図6】
図6(a)、
図6(b)及び
図6(c)は第1実施形態の変形例に係るシールリングを示す図であり、このうち
図6(a)はシールリングを軸心の方向に視たときの形状を示す図(側面図)、
図6(b)は
図6(a)に示すB-B線に沿った切断端面図(軸心を含む平面で半径の範囲内にて切断した断面形状を示す図)、
図6(c)は
図6(a)に示すC-C線に沿った切断端面図(軸心を含む平面で半径の範囲内にて切断した断面形状を示す図)である。
【
図7】
図7(a)及び
図7(b)は第2実施形態に係るシールリングを示す図であり、このうち
図7(a)はシールリングを軸心の方向に視たときの形状を示す図(側面図)、
図7(b)は
図7(a)に示すB-B線に沿った切断端面図(軸心を含む平面で半径の範囲内にて切断した断面形状を示す図)である。
【
図8】第2実施形態に係るシールリングの配置の一例を示す図であり、シールリングの軸心を含む平面で切断した切断端面形状を示す。
【
図9】
図9(a)、
図9(b)及び
図9(c)は第2実施形態の変形例に係るシールリングを示す図であり、このうち
図9(a)はシールリングを軸心の方向に視たときの形状を示す図(側面図)、
図9(b)は
図9(a)に示すB-B線に沿った切断端面図(軸心を含む平面で半径の範囲内にて切断した断面形状を示す図)、
図9(c)は
図9(a)に示すC-C線に沿った切断端面図(軸心を含む平面で半径の範囲内にて切断した断面形状を示す図)である。
【
図10】比較形態に係るシールリングを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、適宜に説明を省略する。
【0013】
〔第1実施形態〕
以下の説明では、シールリング100の軸心AX1に対して直交する方向を径方向と称する。
また、径方向のうち、軸心AX1から遠ざかる方向を径方向外側と称し、軸心AX1に近づく方向を径方向内側と称する。
また、軸心AX1の周りを周回する方向を周方向と称する。
また、軸心AX1に沿う方向を軸心方向AX2と称する。
また、以下の説明において、特に断りが無い場合、シールリング100の各部の形状の説明や、シールリング100の各部どうしの位置関係の説明は、シールリング100に外力が作用していない自然状態での説明であるものとする。
【0014】
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係るシールリング100は、軸心AX1の方向(軸心方向AX2)に相対移動する第1部材310(
図3、
図4)と第2部材320(
図3、
図4)とのうち第1部材310に形成されている環状の装着溝311(
図3、
図4)に嵌着されて第1部材310と第2部材320との間に介装される環状のシールリング100である。
軸周りにおける少なくとも特定の角度において、軸心AX1を含む平面でシールリング100の半径の範囲内にてシールリング100を切断した断面形状(
図2に示す形状)は、径方向外側又は径方向内側(本実施形態の場合、径方向外側)に向けて凸の膨出形状部20と、軸心AX1の方向(軸心方向AX2)における膨出形状部20の両端(一端21、他端22)からそれぞれ径方向内側又は径方向外側(本実施形態の場合、径方向内側)に向けて延出している第1径方向延出部31及び第2径方向延出部32と、膨出形状部20と第1径方向延出部31と第2径方向延出部32とにより囲まれた中空部11と、を有する形状である。
【0015】
本実施形態によれば、シールリング100は、膨出形状部20と第1径方向延出部31と第2径方向延出部32とにより囲まれた中空部11を有するので、シールリング100が径方向に容易に弾性変形することが可能である。
このため、径方向においてシールリング100から第2部材320に作用する反力(シールリング100から第2部材320に作用するシールリング100の弾性復元力)を低減できる。よって、第1部材310と第2部材320とが軸心方向AX2に相対移動する際において、シールリング100と第2部材320との摩擦力(フリクション)を低減することができる。
以下、第1部材310と第2部材320とが軸心方向AX2に相対移動することを、単に「第1部材310と第2部材320との相対移動」、又は単に「相対移動」などと称する。
また、第1部材310と第2部材320とが軸心方向AX2に相対移動する際におけるシールリング100と第2部材320との摩擦力のことを、単に「摩擦力」と称する場合がある。
【0016】
ここで、一般的なシールリングであるOリングやDリングは、スクイーズタイプであるため、第1部材310と第2部材320との間にそのような一般的なシールリングを介装した場合、相対移動の際における摩擦力を低減することが困難である。
【0017】
相対移動の際における摩擦力は、下記の数式1で表される。下記の数式1において、Fはフリクション(摩擦力)、μは第2部材320とシールリング100との摩擦係数、Nは径方向においてシールリング100から第2部材320に作用する反力である。
【0018】
F=μN・・・・・・・(数式1)
【0019】
数式1から分かるように、摩擦力を低減するためには、摩擦係数又は反力を小さくする必要がある。ただし、摩擦係数は相手面(第2部材320においてシールリング100が当接する面)の状態や潤滑状態等の使用条件に大きく影響されるため、調整が困難である。
反力を小さくする手法としては、つぶし代を小さくする手法や、ゴムの硬度を小さくする手法も考えられるが、シール性の低下に繋がる可能性がある。
【0020】
シールリング100を第1部材310と第2部材320との間に圧縮状態で配置した状態(以下、加圧時と称する場合がある)にシールリング100から第2部材320に作用する反力の大きさは、下記の数式2で表される。下記の数式2において、Ppは加圧時の反力、P0は非加圧時の反力、Aはシールリング100と第2部材320との接触面積、pは印加圧である。なお、反力Ppは、上記の反力Nと同一である。また、非加圧時においてもシールリング100から第2部材320に対して作用する反力が生じるので、P0はゼロではない有意な値となる。
【0021】
Pp=P0+A×p・・・・・・(数式2)
【0022】
数式2から分かるように、圧力による反力増加の影響が大きいため、加圧時には非加圧時ほどのフリクション低減が望めない。
【0023】
このような事情に対し、本実施形態では、上記のように、シールリング100は、膨出形状部20と第1径方向延出部31と第2径方向延出部32とにより囲まれた中空部11を有するので、上記数式1における反力Nを容易に低減できる。このため、シールリング100と第2部材320との摩擦力を容易に低減することができる。
【0024】
以下、本実施形態について、より詳細に説明する。
【0025】
シールリング100は、例えば、弾性体により構成されたリング本体部10のみにより構成されている。リング本体部10は、その全体が一体的に成形されている。
シールリング100は(リング本体部10は)、
図2に示されるシールリング100(リング本体部10)の切断端面形状を軸心AX1周りに1回転させたときの、当該切断端面形状の移動軌跡と対応する環状の立体形状に形成されている。
【0026】
シールリング100を構成する弾性体は、ゴム(合成ゴムや天然ゴム)又はサーモプラスチックエラストマー(熱可塑性樹脂ゴム弾性体)のような弾力性に富む材質のもの(ゴム状弾性体)であり、可撓性を有する。シールリング100の材料としては、例えば、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H-NBR)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)等のゴム材料が挙げられる。
例えば、図示しない成形型内に未架橋のゴム材料を注入し、その後、成形型のキャビティ内を加熱及び加圧することによりゴム材料を架橋させることにより、シールリング100(リング本体部10)が得られる。
【0027】
上記のように、本実施形態の場合、軸周りにおける少なくとも特定の角度において、軸心AX1を含む平面でシールリング100の半径の範囲内にてシールリング100を切断した断面形状は、径方向外側に向けて凸の膨出形状部20と、軸心方向AX2における膨出形状部20の両端(一端21、他端22)からそれぞれ径方向内側に向けて延出している第1径方向延出部31及び第2径方向延出部32と、膨出形状部20と第1径方向延出部31と第2径方向延出部32とにより囲まれた中空部11と、を有する形状である。
このため、本実施形態の場合、シールリング100の(リング本体部10の)開口10aは、径方向内側を向いている。すなわち中空部11は、径方向内側に向けて開放している。
【0028】
膨出形状部20は、例えば、径方向外側に向けて円弧状に凸の形状に形成されている。
より詳細には、例えば、軸心AX1を含む平面でシールリング100の半径の範囲内にてシールリング100を切断したときの膨出形状部20の形状は、半円状となっている。
膨出形状部20の両端(一端21及び他端22)は、それぞれなだらかに第1径方向延出部31、第2径方向延出部32に連なっている。より詳細には、例えば、上記断面形状において、第1径方向延出部31は膨出形状部20の一端21の接線方向に直線状に延在しており、第2径方向延出部32は膨出形状部20の他端22の接線方向に直線状に延在している。このため、本実施形態の場合、第1径方向延出部31と第2径方向延出部32とは互いに平行に延在している。
ただし、本発明は、この例に限らず、第1径方向延出部31と第2径方向延出部32とは互いに斜めに延在していてもよい。
【0029】
本実施形態の場合、中空部11がシールリング100の周方向における全周に亘って連続的に存在している。
このため、本実施形態の場合、軸周りにおけるいずれの角度においても、軸心AX1を含む平面でシールリング100の半径の範囲内にてシールリング100を切断した断面形状は、径方向外側に向けて凸の膨出形状部20と、軸心方向AX2における膨出形状部20の両端(一端21、他端22)からそれぞれ径方向内側に向けて延出している第1径方向延出部31及び第2径方向延出部32と、膨出形状部20と第1径方向延出部31と第2径方向延出部32とにより囲まれた中空部11と、を有する形状である。
よって、本実施形態の場合、シールリング100の周方向におけるいずれの部位においても、中空部11を有することに基づく摩擦力の低減効果を奏することができる。
【0030】
本実施形態の場合、第1径方向延出部31と第2径方向延出部32との少なくとも一方は、互いの方向とは反対側の側面に、互いの方向とは反対側に向けて突出した突起部50を有する。
これにより、シールリング100が装着溝311に配置された際において、シールリング100の姿勢を良好に維持することができる。
【0031】
例えば、
図4に示すように、シールリング100が第1部材310と第2部材320との間で径方向に圧縮されて変形することにより、第1径方向延出部31及び第2径方向延出部32が撓んでも、軸心方向AX2におけるシールリング100の両端が、それぞれ装着溝311の両側壁に当接し、シールリング100が装着溝311内に安定的に保持されるようにできる。
【0032】
本実施形態の場合、第1径方向延出部31と第2径方向延出部32との両方がそれぞれ突起部50を有する。すなわち、第1径方向延出部31において第2径方向延出部32側とは反対側の側面(
図2において第1径方向延出部31の左側面)には、第2径方向延出部32側とは反対側(
図2において左側)に向けて突出した突起部50が形成されている。また、第2径方向延出部32において第1径方向延出部31側とは反対側の側面(
図2において第2径方向延出部32の右側面)には、第1径方向延出部31側とは反対側(
図2において右側)に向けて突出した突起部50が形成されている。
これにより、シールリング100が装着溝311に配置された際におけるシールリング100の姿勢を一層良好に維持することができる。
ただし、本発明は、この例に限らず、第1径方向延出部31又は第2径方向延出部32のいずれか一方のみが突起部50を有していてもよい。
【0033】
本実施形態の場合、突起部50は、シールリング100の周方向における全周に亘って連続的に存在している。
これにより、シールリング100の全周に亘って、装着溝311内におけるシールリング100の姿勢を良好に維持することができる。
ただし、本発明は、この例に限らず、突起部50は、シールリング100の周方向において間欠的に存在していてもよい。すなわち、シールリング100の周方向における複数箇所にそれぞれ突起部50が配置されていてもよい。
【0034】
本実施形態の場合、径方向において、突起部50の基部52の寸法よりも突起部50の頂部51の寸法が小さい。
これにより、
図4に示すように装着溝311内で第1径方向延出部31や第2径方向延出部32が撓む際に、突起部50の頂部51を支点として第1径方向延出部31や第2径方向延出部32が姿勢変化することによって、第1径方向延出部31や第2径方向延出部32が力学的に安定的な姿勢を保つことができる。
【0035】
本実施形態の場合、突起部50の頂部51は丸みを帯びた形状となっている。
これにより、突起部50の頂部51を支点とする第1径方向延出部31や第2径方向延出部32の姿勢変化がよりスムーズとなる。
より詳細には、本実施形態の場合、軸心AX1を含む平面で切断した突起部50の断面形状は、半円状となっている。これにより、突起部50の頂部51を支点とする第1径方向延出部31や第2径方向延出部32の姿勢変化が一層スムーズとなるとともに、姿勢変化の自由度も十分に確保することができる。
【0036】
ただし、本発明は、この例に限らず、突起部50の頂部51は丸みを帯びた形状ではなく例えば平坦であってもよい。一例として、突起部50の頂部51は軸心AX1に対して直交する平面状であってもよい。
また、径方向において、基部52の寸法と頂部51の寸法とが互いに等しくてもよい。この場合、軸心AX1を含む平面で切断した突起部50の断面形状は、例えば、矩形状であってもよい。
【0037】
本実施形態の場合、突起部50の突出高さH3(
図2)は、第1径方向延出部31又は第2径方向延出部32における突起部50の形成領域以外の部分の肉厚以上である。
これにより、突起部50の頂部51を支点とする第1径方向延出部31や第2径方向延出部32の姿勢変化の自由度を十分に確保することができる。
【0038】
本実施形態の場合、第1径方向延出部31における突起部50の形成領域以外の部分の肉厚は、
図2に示す肉厚T1であり、全体に均一である。
同様に、本実施形態の場合、第2径方向延出部32における突起部50の形成領域以外の部分の肉厚は、
図2に示す肉厚T2であり、全体に均一である。
本実施形態の場合、肉厚T1と肉厚T2とは互いに等しく、突出高さH3は、肉厚T1以上であるとともに、肉厚T2以上である。
好ましくは、突出高さH3は、第1径方向延出部31又は第2径方向延出部32における突起部50の形成領域以外の部分の肉厚(肉厚T1、T2、T3)よりも大きい。
【0039】
本実施形態の場合、上記断面形状において、シールリング100の肉厚は、突起部50の形成領域を除き一定である。
これにより、シールリング100の可撓性を全体的に(ただし、突起部50の形成領域を除く)均一にすることができ、シールリング100が第1部材310と第2部材320との間に介装されて圧縮されたときに、膨出形状部20、第1径方向延出部31及び第2径方向延出部32がそれぞれ十分に変形できるようになる。
ここで、膨出形状部20の肉厚は、
図2に示す肉厚T3であり、全体に均一である。そして、肉厚T3は、肉厚T1及びT2と等しい。
【0040】
ただし、本発明はこの例に限らず、突起部50の突出高さH3は、肉厚T1未満(肉厚T2)未満であってもよい。
また、上記断面形状において、シールリング100において突起部50の形成領域を除く部分の肉厚は、不均一であってもよい。
【0041】
第1径方向延出部31の突起部50は、径方向において、第1径方向延出部31の基端(膨出形状部20の一端21と同じ位置)と第1径方向延出部31の先端(開口10aにおける第1径方向延出部31側の縁と同じ位置)との間に配置されていることが好ましい。
同様に、第2径方向延出部32の突起部50は、径方向において、第2径方向延出部32の基端(膨出形状部20の他端22と同じ位置)と第2径方向延出部32の先端(開口10aにおける第2径方向延出部32側の縁と同じ位置)との間に配置されていることが好ましい。
これにより、突起部50の頂部51を支点とする第1径方向延出部31や第2径方向延出部32の姿勢変化の自由度を十分に確保することができる。
本実施形態の場合、第1径方向延出部31の突起部50は、径方向において、第1径方向延出部31の基端と先端との中間位置に配置されている。同様に、第2径方向延出部32の突起部50は、径方向において、第2径方向延出部32の基端と先端との中間位置に配置されている。
【0042】
ここで、
図2に示す中心線Cは、軸心AX1に対して直交しているとともに、軸心方向AX2におけるシールリング100の中心位置に配置されている。
本実施形態の場合、シールリング100は、中心線Cを基準として鏡面対称の形状に形成されている。
【0043】
本実施形態に係るシールリング100は、例えば、
図3及び
図4に示すように、自動車のAT等のクラッチ部のクラッチピストンの外周面に形成された装着溝311に配置されて、クラッチピストンとクラッチドラムとの間に介装される。
すなわち、
図3及び
図4に示す例では、第1部材310はクラッチピストンであり、第2部材320はクラッチドラムである。第1部材310の外周面310aに環状の装着溝311が形成されており、装着溝311にシールリング100が配置されている。
シールリング100の外周面、すなわち膨出形状部20における外周側(中空部11側とは反対側)の面が第2部材320の内周面320aに対して圧接されている。シールリング100の内周面、すなわち第1径方向延出部31の先端及び第2径方向延出部32の先端が装着溝311の底面に対して圧接されている。シールリング100の各突起部50の頂部51が装着溝311の両側壁に対してそれぞれ圧接されている。
シールリング100は、第2部材320の内周面320aと装着溝311の底面との間において圧縮状態で配置されており、自然状態の形状と比べて弾性変形している。
【0044】
ここで、装着溝311とシールリング100とを少なくとも含む部分が、本実施形態に係る密封装置200である。
すなわち、本実施形態に係る密封装置200は、軸心AX1の方向(軸心方向AX2)に相対移動する第1部材310と第2部材320とのうち第1部材310に形成されている環状の装着溝311と、装着溝311に嵌着されて第1部材310と第2部材320との間に介装される環状のシールリング100と、を備える密封装置200であって、軸周りにおける少なくとも特定の角度において、軸心AX1を含む平面で半径の範囲内にてシールリング100を切断した断面形状は、径方向外側又は径方向内側に向けて凸の膨出形状部20と、軸心AX1の方向(軸心方向AX2)における膨出形状部20の両端(一端21、他端22)からそれぞれ径方向内側又は径方向外側に向けて延出している第1径方向延出部31及び第2径方向延出部32と、膨出形状部20と第1径方向延出部31と第2径方向延出部32とにより囲まれた中空部11と、を有する形状である。
【0045】
ここで、本実施形態の場合、
図2に示す幅寸法W3は、
図4に示す幅寸法W4以上であることが好ましく、このようにすることにより、装着溝311内におけるシールリング100の姿勢の安定性が向上する。
特に、幅寸法W3は幅寸法W4よりも大きいことが更に好ましい。すなわち、第1径方向延出部31と第2径方向延出部32との少なくとも一方は、互いの方向とは反対側の側面に、互いの方向とは反対側に向けて突出した突起部50を有し、シールリング100が装着溝311から取り外された自然状態において、軸心AX1の方向(軸心方向AX2)におけるシールリング100の寸法であって突起部50を含む部分の寸法(幅寸法W3)は、軸心AX1の方向(軸心方向AX2)における装着溝311の寸法(幅寸法W4)よりも大きい。
このような構成により、シールリング100が装着溝311内において径方向に圧縮されるのみならず、軸心AX1の方向(軸心方向AX2)においても圧縮されるので、装着溝311内におけるシールリング100の姿勢が更に安定する。
一例として、
図4に示すように、シールリング100は、第1径方向延出部31及び第2径方向延出部32の先端側に向けて、第1径方向延出部31と第2径方向延出部32との距離が広がる姿勢で装着溝311内に配置される。これにより、装着溝311におけるシールリング100の安定性が更に向上する。
【0046】
装着溝311の断面形状(軸心AX1を含む平面で半径の範囲内にて切断した断面形状)は、例えば、
図4に示すように、矩形状となっている。
【0047】
ここで、シールリング100は、装着溝311に装着される前の自然状態における内径D1(
図1)に対する装着後の状態における内径D1の伸長率が0%以上5%以下であることが好ましい。
【0048】
次に、
図10を用いて比較形態に係るシールリング1000について説明する。
比較形態に係るシールリング1000は、中空部11と突起部50とを有していない点で本実施形態に係るシールリング100と相違しており、その他の点では本実施形態に係るシールリング100と同様に構成されている。
図10は、比較形態に係るシールリング1000が、
図4においてシールリング100が配置されているのと同様の装着溝311に配置されている状態を示している。
図10に示すように、シールリング1000は中空部11を有していないため、径方向において圧縮されにくい(潰れにくい)。このため、シールリング1000と第2部材320との摩擦力が大きくなってしまう。
更に、
図10に示すように、シールリング1000は突起部50を有していないので、装着溝311に対してシールリング100がフィットしづらく、装着溝311内におけるシールリング1000の位置が安定しづらい。
【0049】
これに対して、本実施形態では、シールリング100は中空部11を有するため、径方向において圧縮されやすくなり(潰れやすくなり)、シールリング100と第2部材320との摩擦力を良好に低減することができる。
また、シールリング100が径方向のみならず軸方向にも圧縮される(潰れる)が、突起部50を有するので、シールリング100が装着溝311に対して良好にフィットすることができるため、装着溝311内におけるシールリング100の位置が安定しやすい。特に、上記のように、自然状態での幅寸法W3(
図2)が装着溝311の幅寸法W4よりも大きいことにより、シールリング100を装着溝311に対して良好にフィットさせることができる。
【0050】
なお、本実施形態に係るシールリング100は、例えば
図5に示すように、クラッチピストンである第2部材320の内周面320aと駆動軸である第1部材310の外周面310aとの間に介装することもできる。すなわち、
図5の例では、駆動軸である第1部材310の外周面310aに装着溝311が形成されており、この装着溝311に嵌着されたシールリング100が第1部材310と第2部材320との間に圧縮状態で介装されている。
この場合も、上記と同様の効果が得られる。
【0051】
<第1実施形態の変形例>
次に、
図6(a)から
図6(c)を用いて、第1実施形態の変形例に係るシールリング100について説明する。
本変形例に係るシールリング100は、以下に説明する点で、上記の第1実施形態に係るシールリング100と相違しており、その他の点では、上記の第1実施形態に係るシールリング100と同様に構成されている。
【0052】
図6(a)及び
図6(b)に示すように、本変形例の場合、複数の中空部11が、シールリング100の周方向において間欠的に存在している。
換言すれば、シールリング100において、周方向において隣り合う中空部11同士の間の部分は、径方向における全域に亘って中空部11が存在しない中実部12(
図6(a)、
図6(c))となっている。すなわち、本変形例の場合、シールリング100は、中空部11と中実部12とを周方向において交互に備えている。
本変形例の場合、シールリング100は中実部12を有するため、上記の第1実施形態と比べて、シールリング100の構造的強度が向上する。すなわち、中空部11が存在することによる利点を得ることができるとともに、シールリング100の良好な構造的強度を確保することができる。
【0053】
より詳細には、本変形例の場合、複数(例えば、8つ)の中空部11がシールリング100の周方向において等角度間隔で配置されており、周方向における各中空部11の寸法が互いに等しい。そして、中空部11と同数の中実部12がシールリング100の周方向において等角度間隔で配置されており、周方向における各中実部12の寸法が互いに等しい。
【0054】
その他、本変形例によっても、第1実施形態と共通の構造を有することに基づいて、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0055】
なお、本変形例では、複数の中空部11が等角度間隔で配置されているとともに、周方向における各中空部11の寸法が互いに等しい例を説明したが、本発明は、この例に限らず、複数の中空部11の配置は必ずしも等角度間隔でなくてもよいし、周方向における各中空部11の寸法は必ずしも互いに等しくなくてもよい。
また、複数の中実部12が等角度間隔で配置されているとともに、周方向における各中実部12の寸法が互いに等しい例を説明したが、本発明は、この例に限らず、複数の中実部12の配置は必ずしも等角度間隔でなくてもよいし、周方向における各中実部12の寸法は必ずしも互いに等しくなくてもよい。
【0056】
〔第2実施形態〕
次に、
図7(a)から
図8を用いて、第2実施形態を説明する。
本実施形態に係るシールリング100は、以下に説明する点で、上記の第1実施形態に係るシールリング100と相違しており、その他の点では、上記の第1実施形態に係るシールリング100と同様に構成されている。
【0057】
図7(a)及び
図7(b)に示すように、本実施形態の場合、膨出形状部20の膨出の向きと、開口10aの向きが、上記の第1実施形態とは反対向きとなっている。
すなわち、本実施形態の場合、軸周りにおける少なくとも特定の角度において、軸心AX1を含む平面でシールリング100の半径の範囲内にてシールリング100を切断した断面形状は、径方向内側に向けて凸の膨出形状部20と、軸心方向AX2における膨出形状部20の両端(一端21、他端22)からそれぞれ径方向外側に向けて延出している第1径方向延出部31及び第2径方向延出部32と、膨出形状部20と第1径方向延出部31と第2径方向延出部32とにより囲まれた中空部11と、を有する形状である。このため、本実施形態の場合、シールリング100の(リング本体部10の)開口10aは、径方向外側を向いている。すなわち中空部11は、径方向外側に向けて開放している。
【0058】
本実施形態に係るシールリング100は、例えば、
図8に示すように、自動車のAT等のクラッチ部のクラッチピストンの内周面に形成された装着溝311に配置されて、クラッチピストンと駆動軸との間に介装される。
すなわち、
図8に示す例では、第1部材310はクラッチピストンであり、第2部材320は駆動軸である。第1部材310の内周面310bに環状の装着溝311が形成されており、装着溝311にシールリング100が配置されている。
シールリング100の内周面、すなわち膨出形状部20における内周側(中空部11側とは反対側)の面が第2部材320の外周面320bに対して圧接されている。シールリング100の外周面、すなわち第1径方向延出部31の先端及び第2径方向延出部32の先端が装着溝311の底面に対して圧接されている。シールリング100の各突起部50の頂部51が装着溝311の両側壁に対してそれぞれ圧接されている。
シールリング100は、第2部材320の外周面320bと装着溝311の底面との間において圧縮状態で配置されており、自然状態の形状と比べて弾性変形している。
【0059】
本実施形態の場合も、装着溝311とシールリング100とを少なくとも含む部分が密封装置200である。
【0060】
本実施形態に係るシールリング100は、膨出形状部20の膨出の向きと、開口10aの向きが、上記の第1実施形態とは反対向きとなっている点の他は、上記の第1実施形態に係るシールリング100と同様に構成されている。
そして、本実施形態によっても、シールリング100が第1実施形態と同様の構造を有することに基づいて、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0061】
<第2実施形態の変形例>
次に、
図9(a)から
図9(c)を用いて、第2実施形態の変形例に係るシールリング100について説明する。
本変形例に係るシールリング100は、以下に説明する点で、上記の第2実施形態に係るシールリング100と相違しており、その他の点では、上記の第2実施形態に係るシールリング100と同様に構成されている。
【0062】
上記の第2実施形態と本変形例との関係は、上記の第1実施形態とその変形例(
図6(a)~(c))との関係と同様である。
すなわち、
図9(a)及び
図9(b)に示すように、本変形例の場合、複数の中空部11が、シールリング100の周方向において間欠的に存在している。
換言すれば、シールリング100において、周方向において隣り合う中空部11同士の間の部分は、径方向における全域に亘って中空部11が存在しない中実部12(
図9(a)、
図9(c))となっている。すなわち、本変形例の場合、シールリング100は、中空部11と中実部12とを周方向において交互に備えている。
本変形例の場合、シールリング100は中実部12を有するため、上記の第2実施形態と比べて、シールリング100の構造的強度が向上する。つまり、中空部11が存在することによる利点を得ることができるとともに、シールリング100の良好な構造的強度を確保することができる。
【0063】
より詳細には、本変形例の場合、複数(例えば、8つ)の中空部11がシールリング100の周方向において等角度間隔で配置されており、周方向における各中空部11の寸法が互いに等しい。そして、中空部11と同数の中実部12がシールリング100の周方向において等角度間隔で配置されており、周方向における各中実部12の寸法が互いに等しい。
【0064】
その他、本変形例によっても、第2実施形態と共通の構造を有することに基づいて、第2実施形態と同様の効果が得られる。
【0065】
以上、図面を参照して各実施形態及び変形例を説明したが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
例えば、上記においては、シールリング100が突起部50を有する例を説明したが、本発明は、この例に限らず、シールリング100は突起部50を有していなくてもよい。
【0066】
本実施形態は以下の技術思想を包含する。
(1)軸心の方向に相対移動する第1部材と第2部材とのうち前記第1部材に形成されている環状の装着溝に嵌着されて前記第1部材と前記第2部材との間に介装される環状のシールリングであって、
軸周りにおける少なくとも特定の角度において、前記軸心を含む平面で半径の範囲内にて切断した断面形状は、
径方向外側又は径方向内側に向けて凸の膨出形状部と、
前記軸心の方向における前記膨出形状部の両端からそれぞれ径方向内側又は径方向外側に向けて延出している第1径方向延出部及び第2径方向延出部と、
前記膨出形状部と、前記第1径方向延出部と、前記第2径方向延出部と、により囲まれた中空部と、
を有する形状であるシールリング。
(2)前記中空部が、当該シールリングの周方向における全周に亘って連続的に存在している(1)に記載のシールリング。
(3)複数の前記中空部が、当該シールリングの周方向において間欠的に存在している(1)に記載のシールリング。
(4)前記第1径方向延出部と前記第2径方向延出部との少なくとも一方は、互いの方向とは反対側の側面に、互いの方向とは反対側に向けて突出した突起部を有する(1)から(3)のいずれか一項に記載のシールリング。
(5)前記突起部は、当該シールリングの周方向における全周に亘って連続的に存在している(4)に記載のシールリング。
(6)径方向において、前記突起部の基部の寸法よりも前記突起部の頂部の寸法が小さい(4)又は(5)に記載のシールリング。
(7)前記突起部の頂部は丸みを帯びた形状となっている(6)に記載のシールリング。
(8)前記突起部の突出高さは、前記第1径方向延出部又は前記第2径方向延出部における前記突起部の形成領域以外の部分の肉厚以上である(4)から(7)のいずれか一項に記載のシールリング。
(9)前記断面形状において、当該シールリングの肉厚は、前記突起部の形成領域を除き一定である(4)から(8)のいずれか一項に記載のシールリング。
(10)軸心の方向に相対移動する第1部材と第2部材とのうち前記第1部材に形成されている環状の装着溝と、
前記装着溝に嵌着されて前記第1部材と前記第2部材との間に介装される環状のシールリングと、
を備える密封装置であって、
軸周りにおける少なくとも特定の角度において、前記軸心を含む平面で半径の範囲内にて前記シールリングを切断した断面形状は、
径方向外側又は径方向内側に向けて凸の膨出形状部と、
前記軸心の方向における前記膨出形状部の両端からそれぞれ径方向内側又は径方向外側に向けて延出している第1径方向延出部及び第2径方向延出部と、
前記膨出形状部と、前記第1径方向延出部と、前記第2径方向延出部と、により囲まれた中空部と、
を有する形状である密封装置。
(11)前記第1径方向延出部と前記第2径方向延出部との少なくとも一方は、互いの方向とは反対側の側面に、互いの方向とは反対側に向けて突出した突起部を有し、
前記シールリングが前記装着溝から取り外された自然状態において、前記軸心の方向における前記シールリングの寸法であって前記突起部を含む部分の寸法は、前記軸心の方向における前記装着溝の寸法よりも大きい(10)に記載の密封装置。
【実施例0067】
以下、実施例及び比較例を説明する。
【0068】
(実施例)
実施例に係るシールリング100は、上記の第1実施形態(
図1及び
図2)と同様に構成されている。
そして、実施例に係るシールリング100に関し、自然状態での各部の寸法について説明すると、
内径D1(
図1)は50.5mm、径方向におけるシールリング100の寸法H1(
図2)は3.4mm、第1径方向延出部31と第2径方向延出部32との対向間隔(及び開口10aの開口幅)である寸法W1(
図2)は0.9mm、シールリング100において突起部50を除く部分の幅寸法W2は1.7mm、突起部50を含むシールリング100の幅寸法W3は2.6mmであった。また、第1径方向延出部31において突起部50を除く部分の肉厚T1、第2径方向延出部32において突起部50を除く部分の肉厚T2、及び、膨出形状部20の肉厚T3は、いずれも0.4mmであった。
シールリング100を構成する材料はアクリルゴム(ACM)であった。
そして、自動車のAT(オートマティックトランスミッション)のクラッチ部を想定したFEM(Finite Element Method)解析を行い、実施例に係るシールリング100を、常温でつぶし代が0.23mmとなるように圧縮した際の反力を算出した。すなわち、
図4における寸法H2に相当する寸法(寸法H1からつぶし代を差し引いた寸法)が3.17mmとなるように実施例に係るシールリング100を圧縮した際の反力を算出した。
本実施例による反力の算出結果は、31Nであった。
【0069】
(比較例)
比較例に係るシールリング1000は、上記の比較形態と同様に構成されている。比較例に係るシールリング1000の寸法は、上記の実施例に係るシールリング100から突起部50を取り除き、且つ、中空部11をすべてアクリルゴムで埋めたときの寸法に等しい。
比較例についても同様に常温でつぶし代が0.23mmとなるように圧縮した際の反力を算出したところ、反力は108Nであった。
【0070】
このように、実施例によれば、比較例と比べて大幅に反力が低減するため、比較例と比べて大幅に摩擦力を低減できることが分かる。