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特開2024-173381細胞培養システムおよび細胞培養方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173381
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】細胞培養システムおよび細胞培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20241205BHJP
   C12N 5/07 20100101ALI20241205BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12N5/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091759
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】海老澤 尚史
(72)【発明者】
【氏名】山本 陽治
(72)【発明者】
【氏名】原田 伊知郎
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA08
4B029BB11
4B029CC02
4B029CC08
4B029GA03
4B065AA90X
4B065AC12
4B065BC50
(57)【要約】
【課題】培養後の細胞数を見積もりやすくする細胞培養システムおよび細胞培養方法を提供する。
【解決手段】窪地が複数配置された、細胞を付着させる培養基板と、前記培養基板上を摺動し、前記培養基板の前記窪地以外の領域に接触し、前記培養基板の前記窪地以外の領域に付着した細胞を剥離するスクレーパーと、前記スクレーパーで剥離した細胞を前記培養基板から除去する細胞除去機構と、を有することを特徴とする細胞培養システム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窪地が複数配置された、細胞を付着させる培養基板と、
前記培養基板上で、前記培養基板上の前記窪地以外の領域に対して摺動し、前記窪地以外の領域に付着した細胞を剥離するスクレーパーと、
前記スクレーパーで剥離した細胞を前記培養基板から除去する細胞除去機構と、を有することを特徴とする細胞培養システム。
【請求項2】
窪地が複数配置された、細胞外マトリックスを付着させる培養基板と、
前記培養基板上で、前記培養基板上の前記窪地以外の領域に対して摺動し、前記窪地以外の領域に付着した細胞外マトリックスを剥離するスクレーパーと、
前記スクレーパーで剥離した細胞外マトリックスを前記培養基板から除去する細胞外マトリックス除去機構と、を有し、
前記培養基板は、前記細胞外マトリックスを介して細胞を付着させることを特徴とする細胞培養システム。
【請求項3】
細胞の状態を観察する撮像部を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の細胞培養システム。
【請求項4】
前記撮像部で取得された細胞の状態に基づいて窪地ごとの細胞の状態を判定する細胞判定機能と、前記細胞判定機能で判定した窪地ごとの細胞の状態に基づいて剥離する細胞の付着する窪地を選択する窪地選択機能と、を有する情報処理部を有する、ことを特徴とする、請求項3に記載の細胞培養システム。
【請求項5】
前記窪地以外の領域に付着した細胞の剥離残しを観察する撮像部を有することを特徴とする、請求項1に記載の細胞培養システム。
【請求項6】
前記剥離残しが確認された場合に、前記剥離残しを除去するように前記スクレーパーを動作させるように構成された情報処理部を有する、ことを特徴とする、請求項5に記載の細胞培養システム。
【請求項7】
前記スクレーパーの、前記培養基板上における前記スクレーパーの摺動軸に対して垂直方向の幅が、前記窪地の、前記培養基板上における前記スクレーパーの摺動軸に対して垂直方向の幅よりも大きいことを特徴とする、請求項1または2に記載の細胞培養システム。
【請求項8】
前記窪地が傾斜面を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の細胞培養システム。
【請求項9】
前記窪地が凹曲面を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の細胞培養システム。
【請求項10】
前記窪地以外の領域が凸曲面を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の細胞培養システム。
【請求項11】
前記窪地から細胞を剥離する細胞剥離機構と、
前記細胞剥離機構により剥離した細胞を回収する細胞回収機構と、を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の細胞培養システム。
【請求項12】
細胞を培養するように構成された細胞培養機構を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の細胞培養システム。
【請求項13】
前記細胞が接着細胞であることを特徴とする請求項1または2に記載の細胞培養システム。
【請求項14】
窪地が複数配置された培養基板に細胞を付着させ培養する工程と、
スクレーパーを前記培養基板上で、前記培養基板上の前記窪地以外の領域に対して摺動させ、前記窪地以外の領域に付着した細胞を剥離する工程と、
前記スクレーパーで剥離した細胞を前記培養基板から除去する工程と、を有することを特徴とする細胞培養方法。
【請求項15】
窪地が複数配置された培養基板に細胞外マトリックスを塗布する工程と、
前記細胞外マトリックスの塗布後に、スクレーパーを前記培養基板上で、前記培養基板上の前記窪地以外の領域に対して摺動させ、前記窪地以外の領域に付着した細胞外マトリックスを剥離する工程と、
前記スクレーパーで剥離した細胞外マトリックスを前記培養基板から除去する工程と、
前記除去後の培養基板に細胞を播種し培養する工程と、を有することを特徴とする細胞培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養システムおよび細胞培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
接着細胞の培養は、一般的に平面シャーレ内に細胞懸濁液を播種し、培地を交換していくことでいくつかのコロニーを形成する工程を含む。この際、コロニーの出現位置は平面シャーレ内にランダムで、かつコロニーのサイズも様々であり、培養された細胞の数を見積もることは難しい。
【0003】
この課題を解決する為に、特許文献1では、複数の窪地と、窪地に対向した位置に培養基板が設置された流路を有する細胞培養容器が開示されている。当該流路内に、細胞懸濁液を流しこみ、窪地内に均等な量の細胞を移動させ、流路をひっくり返すことで培養基板に複数の均等な量の細胞を播種し培養するシステムである。このシステムによって、培養基板上に規則正しく、同程度数の細胞群を播種し培養することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2015/125742号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、細胞播種時において培養基板上の規定された位置に整然と、同数程度の細胞群をまとまって播種することができることが開示されている。これによって、培養後の培養基板には規定された位置に整然と、同程度の大きさのコロニーが培養されることが期待される。
しかし、培養の増殖能はすべての細胞が同じ程度とは限らないため、培養後のコロニーは様々な大きさを形成していることがある。そのような場合、培養後の細胞数を見積もることが難しいという課題があった。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、培養後の細胞数を見積もりやすくする細胞培養システムおよび細胞培養方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成を採用する。すなわち、窪地が複数配置された、細胞を付着させる培養基板と、前記培養基板上で、前記培養基板上の前記窪地以外の領域に対して摺動し、前記窪地以外の領域に付着した細胞を剥離するスクレーパーと、前記スクレーパーで剥離した細胞を前記培養基板から除去する細胞除去機構と、を有することを特徴とする細胞培養システムである。
【0008】
また、本発明の一態様によれば、窪地が複数配置された、細胞外マトリックスを付着させる培養基板と、前記培養基板上で、前記培養基板上の前記窪地以外の領域に対して摺動し、前記窪地以外の領域に付着した細胞外マトリックスを剥離するスクレーパーと、前記スクレーパーで剥離した細胞外マトリックスを前記培養基板から除去する細胞外マトリックス除去機構と、を有し、前記培養基板は、前記細胞外マトリックスを介して細胞を付着させることを特徴とする細胞培養システムが提供される。
【0009】
また、本発明の一態様によれば、窪地が複数配置された培養基板に細胞を付着させ培養する工程と、スクレーパーを前記培養基板上で、前記培養基板上の前記窪地以外の領域に対して摺動させ、前記窪地以外の領域に付着した細胞を剥離する工程と、前記スクレーパーで剥離した細胞を前記培養基板から除去する工程と、を有することを特徴とする細胞培養方法が提供される。
【0010】
また、本発明の一態様によれば、窪地が複数配置された培養基板に細胞外マトリックスを塗布する工程と、前記細胞外マトリックスの塗布後に、スクレーパーを前記培養基板上で、前記培養基板上の前記窪地以外の領域に対して摺動させ、前記窪地以外の領域に付着した細胞外マトリックスを剥離する工程と、前記スクレーパーで剥離した細胞外マトリックスを前記培養基板から除去する工程と、前記除去後の培養基板に細胞を播種し培養する工程と、を有することを特徴とする細胞培養方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
細胞培養後の培養基板上に存在する細胞数を見積もりやすくする細胞培養システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る細胞培養システムの一例における(a)全体構成の概略を示す斜視図、(b)培養基板の概略を示す上面図、(c)窪地の形状を示す断面図である。
図2】本発明に係る細胞培養システムの一例における(a)細胞播種後培養した時の窪地の状態を示す上面図、(b)細胞播種後培養した時の窪地の状態を示す断面図、(c)細胞播種後培養した時の培養基板およびスクレーパーの状態を示す上面図、(d)スクレーパーで窪地以外の領域に付着した細胞を剥離する時の窪地およびスクレーパーの状態を示す断面図、(e)同細胞剥離時の培養基板およびスクレーパーの状態を示す上面図、(f)スクレーパーで窪地以外の領域に付着した細胞を剥離した後の窪地の状態を示す上面図、(g)同細胞剥離後の窪地の状態を示す断面図、(h)同細胞剥離後の培養基板およびスクレーパーの状態を示す上面図である。
図3】(a)窪地の形状の一例を示す断面図、(b)傾斜面を有する窪地を示す断面図、(c)凹曲面を有する窪地を示す断面図、(d)窪地以外の領域が凸曲面を有する培養基板を示す断面図、(e)窪地以外の領域が凸曲面を有する培養基板にスクレーパーを押し付けた状態を説明する断面図、(f)一方向に長い溝のような形状の窪地を示す斜視図、(g)一方向に長い溝のような形状の窪地を有し、窪地以外の領域が凸曲面を有する培養基板を示す斜視図である。
図4】第1の実施形態に係る細胞培養システムの(a)全体構成を示す概略図、(b)窪地を有する培養基板を示す上面図、(c)窪地の断面図である。
図5】第1の実施形態において、スクレーパーの動作時の細胞培養システムの様子を示す概略図である。
図6】第1の実施形態において、細胞剥離機構の動作時の細胞培養システムの様子を示す概略図である。
図7】第1の実施形態における培養基板および窪地の状態を示す図であって、(a)細胞培養後窪地より大きいコロニーが形成された場合の、スクレーパーによる細胞剥離後の培養基板の状態を示す上面図、(b)細胞培養後窪地全域を覆わないコロニーが形成された場合の、スクレーパーによる細胞剥離後の培養基板の状態を示す上面図、(c)細胞培養後窪地より大きいコロニーが形成された場合の、スクレーパーによる細胞剥離後の窪地の状態を示す上面図、(d)細胞培養後窪地より大きいコロニーが形成された場合の、スクレーパーによる細胞剥離後の窪地の状態を示す断面図、(e)細胞培養後窪地全域を覆わないコロニーが形成された場合の、スクレーパーによる細胞剥離後の窪地の状態を示す上面図、(f)細胞培養後窪地全域を覆わないコロニーが形成された場合の、スクレーパーによる細胞剥離後の窪地の状態を示す断面図である。
図8】(a)細胞剥離機構を培養基板上に移動させる様子を示す上面図、(b)細胞剥離機構で窪地に付着した細胞を剥離する様子を示す上面図である。
図9】第2の実施形態に係る細胞培養システムの全体構成を示す概略図である。
図10】第3の実施形態に係る細胞培養システムのシステムフロー図である。
図11】本発明に係る細胞培養システムの構成例を示すブロック図である。
図12】本発明に係る細胞培養システムの構成例を示すブロック図である。
図13】本発明における情報処理部のハードウェア構成例を示すブロック図である。
図14】本発明におけるスクレーパーの、培養基板上におけるスクレーパーの摺動軸に対して垂直方向の幅、および、本発明における窪地の、培養基板上におけるスクレーパーの摺動軸に対して垂直方向の幅を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本明細書において「試液等」は、細胞懸濁液、細胞外マトリックス、培地、剥離用の酵素(トリプシン)、およびリン酸緩衝生理食塩水(PBS)等を指す。
【0014】
本発明に係る細胞培養システムは、窪地が複数配置された、細胞を付着させる培養基板と、前記培養基板上で、前記培養基板上の前記窪地以外の領域に対して摺動し、前記窪地以外の領域に付着した細胞を剥離するスクレーパーと、前記スクレーパーで剥離した細胞を前記培養基板から除去する細胞除去機構と、を有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る細胞培養システムは、窪地が複数配置された、細胞外マトリックスを付着させる培養基板と、前記培養基板上で、前記培養基板上の前記窪地以外の領域に対して摺動し、前記窪地以外の領域に付着した細胞外マトリックスを剥離するスクレーパーと、前記スクレーパーで剥離した細胞外マトリックスを前記培養基板から除去する細胞外マトリックス除去機構と、を有し、前記培養基板は、前記細胞外マトリックスを介して細胞を付着させることを特徴とする細胞培養システムとすることができる。細胞外マトリックスは、細胞培養の際、細胞のいわゆる足場となる物質であり、培養基板に細胞外マトリックスが存在することにより、細胞が培養基板上の細胞外マトリックスの存在する場所に接着し生存することができる。細胞外マトリックスとしては、例えば、コラーゲン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ラミニンが挙げられる。
【0016】
以下の説明においては接着細胞を例として説明するが、本発明に係る細胞培養システムは接着細胞以外にも適用することができる。細胞は接着性・増殖性のある細胞が好適に用いられ、例えばES細胞、iPS細胞、間葉系幹細胞、CHO細胞、およびHEK293細胞等が挙げられる。
【0017】
以下に図面を参照しつつ、本発明の好適な実施の形態について説明する。図中、同一の構成要素には原則として同一の符号を付して、説明を省略する。
【0018】
本発明に係る細胞培養システムの一例として、図1を用いて説明する。
(システムの構成)
図1は本発明に係る細胞培養システムの一例における(a)全体構成の概略を示す斜視図、(b)培養基板の概略を示す上面図、(c)窪地の形状を示す断面図である。101は表面に細胞を付着させ増殖させることができる培養基板である。培養基板101には例えば断面が図1(c)に示されるような形状である窪地102が図1(b)に示すように複数配列されている。103は培養基板101を有し液体を保持することができる培養容器である。104は培養基板101の窪地102以外の領域に接触し、窪地102以外の領域に付着した細胞を剥離するスクレーパーである。105はスクレーパー104で剥離した細胞を培養基板から移動させて除去する細胞除去機構である。
【0019】
図2(a)~(h)は本発明に係る細胞培養システムの一例におけるスクレーパー104による細胞剥離前後の様子を示したものである。図2(a)、(f)において、ドットの付された部分は細胞が付着していることを示す。図2(c)、(e)、(h)において、培養基板101上のドットの付された部分は細胞が付着していることを示す。図2(b)、(d)、(g)において、薄墨の太線で表された部分は細胞が付着していることを示す。図2(a)は培養基板101に細胞を播種したのち、培養した時の窪地102の状態を示す上面図である。図2(b)は培養時における窪地102の断面図を示す。図2(c)は培養時における培養基板101およびスクレーパー104の状態を示す上面図である。この状態からスクレーパー104を矢印方向に移動し培養基板101上の窪地102以外の領域に付着した細胞を剥離している様子が図2(d)および(e)に表されている。図2(d)はスクレーパー104で窪地102以外の領域に付着した細胞を剥離する時の窪地102およびスクレーパー104の状態を示す断面図である。図2(e)は細胞剥離時の培養基板101およびスクレーパー104の状態を示す上面図である。スクレーパー104による剥離により培養基板101上には窪地102のサイズに即したコロニーが残る。図2(f)はスクレーパー104で窪地102以外の領域に付着した細胞を剥離した後の窪地102の状態を示す上面図である。図2(g)は細胞剥離後の窪地102の状態を示す断面図である。図2(h)は細胞剥離後の培養基板101およびスクレーパー104の状態を示す上面図である。窪地102のサイズにコロニーのサイズが規定されることによって、窪地102に存在する細胞数を大まかに規定することができ、コロニーが存在する窪地102の個数を数えることで、培養後の細胞の個数が見積もりやすくなる。
以下、本発明に係る細胞培養システムの有する構成について説明する。
【0020】
(培養基板)
本発明における培養基板は、窪地が複数配置された、細胞を付着させる培養基板とすることができる。また、本発明における培養基板は、窪地が複数配置された、細胞外マトリックスを付着させる培養基板とすることができる。本発明における培養基板は、細胞外マトリックスを付着させる場合、細胞外マトリックスを介して細胞を付着させることができる。
【0021】
培養基板は細胞が付着し、かつ増殖することができる培養面であり、観察が容易な透明な素材が好ましい。素材としては加工、および観察が容易な透明な樹脂やガラス等が好適である。樹脂であればポリスチレン、ポリカーボネート、アクリル等が利用できる。培養基板は、培養容器の一部を構成していてもよいし、培養容器とは別に設けることもできる。作成のコストや容易性の面から、培養容器と同じ素材で、培養容器の一部を構成するのが好ましい。
培養基板にのみ細胞が付着しやすくなるように、培養基板に対しプラズマ処理等の表面処理を施しておくことが好ましい。
【0022】
(培養容器)
培養容器は細胞を培養するための培地を保持する容器である。素材としては加工、および観察が容易な透明な樹脂やガラス等が好適である。樹脂であればポリスチレン、ポリカーボネート、アクリル等が利用できる。培養容器は外部からの異物混入を防ぎ、所定の温度や湿度を確保することができる観点から、蓋が装着できる方が好ましい。また、培地交換の際の注排水口の挿入やスクレーパーを使用する際のスクレーパー駆動の観点から、開口が広い方が好ましい。ただし、注排水を培養容器に接続したチューブで行い、スクレーパーの操作の際スクレーパーに直接触れずに、重力や磁力で操作する仕組みを採用した場合等、培養容器を閉鎖容器とする閉鎖系細胞培養システムを実現することも可能である。
【0023】
(スクレーパー)
本発明に係る細胞培養システムにおけるスクレーパーは、培養基板上で、培養基板上の窪地以外の領域に対して摺動し、窪地以外の領域に付着した細胞を剥離することができる。
本発明に係る細胞培養システムにおけるスクレーパーは、培養基板上で、培養基板上の窪地以外の領域に対して摺動し、窪地以外の領域に付着した細胞外マトリックスを剥離することができる。
【0024】
スクレーパーは、スクレーパーの動作時に、スクレーパーの表面が窪地の内面に達しないように構成されていることが好ましい。スクレーパーの大きさとしては、窪地内の細胞または細胞外マトリックスを剥離しないように、スクレーパーの培養基板に接する面が窪地よりも大きいことが好ましい。具体的には、スクレーパーの、培養基板上におけるスクレーパーの摺動軸に対して垂直方向の幅が、窪地の、培養基板上におけるスクレーパーの摺動軸に対して垂直方向の幅よりも大きいことが好ましい。スクレーパーの、培養基板上におけるスクレーパーの摺動軸に対して垂直方向の幅とは、スクレーパーの培養基板に接する面の幅であって、スクレーパーの底面図において、スクレーパーの摺動軸に垂直方向となる最大幅を指す。窪地の、培養基板上におけるスクレーパーの摺動軸に対して垂直方向の幅とは、窪地の上面図における幅であって、スクレーパーの摺動軸に垂直方向となる最大幅を指す。図14はスクレーパー104の、培養基板101上におけるスクレーパー104の摺動軸に対して垂直方向の幅L1、および、窪地102の、培養基板101上におけるスクレーパー104の摺動軸に対して垂直方向の幅L2を示す上面図である。上記構成により、スクレーパーの摺動時に、スクレーパーを自動ステージ等により細かく制御することなく、窪地内の細胞にスクレーパーが接触することを防止することができる。すなわち、スクレーパーを培養基板に押し付けるだけの簡単な制御により、培養基板上の窪地以外の領域に付着した細胞を剥離することができる。スクレーパーの大きさは、培養容器内におさまる程度以下の大きさとすることができる。スクレーパーの素材としては、培養基板に押し付けるためのある程度の硬さが必要であり、金属や樹脂、ゴム等が使用できる。また、培養基板の窪地以外の領域に付着した細胞を効率よく剥離できるようにスクレーパーの培養基板に接する面は平面であることが好ましい。スクレーパーは、培養基板の窪地以外の領域にのみ接触するものとすることができる。
【0025】
(窪地)
本発明において、窪地は、周囲より低くなっている領域をいい、培養基板上に設けられる。すなわち、窪地は、培養基板の基準面よりも低くなっている部分をいう。本発明における窪地の形状の例について図3(a)~(g)を用いて説明する。図3(a)~(e)において、周囲よりも低くなっている領域が窪地102であり、破線で示す基準面よりも低くなっている部分が窪地102となる。培養基板101が凸曲面を有しない場合、培養基板101の最も高い位置である面を基準面とし、それより低い位置である面を窪地102とすることができる(図3(a)~(c))。培養基板101が凸曲面を有する場合、培養基板101における凹凸の上面と下面の中間を基準面とし、それより低い位置である面を窪地102とすることができる(図3(d)、(e))。スクレーパーは、培養基板における基準面よりもくぼんだ領域には接触しないように構成されていることが好ましい。
【0026】
培養基板を上面からみた際の窪地の形状は、コロニーの形状に似た円形が好ましいが、多角形でもよい。窪地が傾斜面を有することが好ましく、さらに窪地は凹曲面を有することができる。窪地は凹曲面のみからなることができる。図3(a)は窪地102の形状の一例を示す断面図、(b)は傾斜面を有する窪地102を示す断面図、(c)は凹曲面を有する窪地102を示す断面図である。窪地102の断面の形状は、図3(b)、(c)に示すように傾斜があり、窪地102の中央部が凹んだ形状がより好ましい。窪地が傾斜面を有し、中央部が凹んだ形状であると、細胞を播種した際に、細胞が窪地中央部に集まることで、コロニーが窪地中央部から発生しやすくなる。その結果、培養後のコロニーが窪地全体を覆う確率が増え、スクレーパーによる剥離後に窪地全体を細胞が覆う状態になりやすい。
【0027】
また、培養基板上の窪地以外の領域が凸曲面を有することができる。培養基板上の窪地以外の領域は凸曲面のみからなることができる。図3(d)は、窪地102以外の領域が凸曲面を有する培養基板101を示す断面図である。この形態の特徴は、細胞を播種した際に培養基板の窪地以外の領域に播かれた細胞が凸面上を転がり、窪地内へ移動することが可能となることである。これにより播種した細胞を効率よく窪地内に移動させることができる。図3(e)は図3(d)で示される形状の培養基板101にスクレーパー104を押し当てた状態を説明する断面図である。スクレーパー104としてクッション性のあるゴム材を利用することで、図3(e)のようにスクレーパー104は凸部に沿って変形し、ある程度奥まで接触することができる。スクレーパーが培養基板上の凸部に沿って変形し接触した状態でスクレーパーを水平方向に移動させることで凸部の細胞を剥離することができる。なお、凸部の細胞を周囲まんべんなく剥がすために、スクレーパーは左右、もしくは縦横に数回往復させることが望ましい。また、スクレーパーの押し付ける程度は、隣接する窪地(凹部)の間の細胞が剥離され、窪地に残ったコロニーが隣接した窪地のコロニーと分離した状態になる程度が好ましい。
【0028】
また、培養基板101の断面図が図3(d)で示すような形態である場合、細胞の播種後に培養基板101を揺らし、または振動させることで効率よく細胞を窪地102内へ移動させることができるので効果的である。
【0029】
窪地のサイズは、コロニーを形成する細胞を培養する際には、培養する細胞の継代時に適したコロニーサイズよりも小さいことが好ましい。例えばiPS細胞を培養する場合、窪地の形状が上面から見て円形であるとき、窪地の大きさは、当該円形の直径が500μm以下程度となるような大きさが好ましい。窪地の形状が上面から見て多角形であるとき、窪地の大きさは、例えば、当該窪地を上面から見た形状である多角形に内接する円の直径が500μm以下となるような大きさとすることができる。あるいは、窪地の大きさは、例えば、当該窪地を上面から見た形状である多角形の最も長い対角線が500μm以下となるような大きさとすることができる。また、窪地の最も深い部分の深さは窪地内の細胞を回収する際に深すぎないことが好ましい。例えば窪地を上面から見たときの円の直径の半分程度以下が好適であり、iPS細胞の場合は250μm以下が望ましい。
【0030】
図3(f)、(g)のように一方向に長い溝のような窪地を採用することもできる。図3(f)は一方向に長い溝のような形状の窪地102を示す斜視図、(g)は一方向に長い溝のような形状の窪地102を有する培養基板101であって、窪地102以外の領域が凸曲面を有する培養基板101を示す斜視図である。一方向に長い溝のような形状の窪地は、特にコロニーを形成しない細胞にとっては有効な窪地である。なお、スクレーパーの幅は溝の短い方の幅よりも大きくし、窪地の内面にスクレーパーが接触しないことが好ましい。
【0031】
図3(a)、(b)、(c)に示すように、培養基板の窪地以外の領域が平面である場合、スクレーパーの形状や材質は特に制限されず、任意のものを使用することができる。その場合に使用することができるスクレーパーの形状としては、例えば円筒状や円柱状、直方体とすることができる。上記の場合のスクレーパーの材質としては、例えば金属や樹脂、ゴム等が使用できる。
【0032】
図3(d)に示すように、培養基板の窪地以外の領域が凸曲面を有する場合、スクレーパーの形状は特に制限されず、任意のものを使用することができ、例えば上記した形状のものを使用することができる。上記の場合のスクレーパーの材質としては、クッション性のあるゴム材を使用することができる。
【0033】
(スクレーパーの動き)
細胞または細胞外マトリックスを確実にはがすためにはスクレーパーを培養基板に確実に接触させる必要がある。その際、接触を確認するために接触センサや圧力センサ、またはカメラ等の撮像部を設置し画像から接触を確認するシステムを設けることが好ましい。
【0034】
また、細胞または細胞外マトリックスを剥離する際はスクレーパーを水平方向に移動させる。この移動は、窪地以外に付着した細胞または細胞外マトリックスがはがれるまで実施する。スクレーパーの移動手段としては自動ステージ等が利用できる。スクレーパーは培養基板の全領域を1回は通過するように移動する。これにより、培養基板上の窪地以外の領域に付着した細胞または細胞外マトリックスはスクレーパーに確実に接触し剥離される。
【0035】
また、スクレーパーの位置を固定し、培養容器を移動させることで細胞または細胞外マトリックスを剥離することも可能である。スクレーパーに培養基板を押し付けてもよいし、押し付けた状態で、培養容器を水平方向に移動させてもよい。なお、この際の培養容器の移動手段として自動ステージが利用できる。
【0036】
(細胞除去機構または細胞外マトリックス除去機構)
剥離された細胞は再び培養基板で増殖しないように培養容器から除去する必要がある。また、剥離された細胞外マトリックスも培地を交換する際に培養容器から除去できる。細胞除去機構または細胞外マトリックス除去機構はスクレーパーで剥離した細胞または細胞外マトリックスを培養基板から除去する機構であり、除去した細胞または細胞外マトリックスを貯めておくタンクと、アスピレータとからなる装置とすることができる。細胞除去機構または細胞外マトリックス除去機構は、先端用部品と、先端用部品およびタンクに接続したチューブとを有することができる。先端用部品は培養容器内の培養基板に届くように配置する。なお、先端用部品を使用せず、チューブを培養基板まで延伸して設置してもよい。アスピレータを起動させると、培養基板付近の細胞懸濁液または細胞外マトリックスが先端用部品またはチューブから吸引され、タンクに集まる仕組みとなっている。なお、本タンクは培地交換時に排出される古い培地の回収に流用することも可能である。また、アスピレータに限らず、チューブポンプ等も使用できる。
【0037】
また、剥離された細胞または細胞外マトリックスを除去するために培養基板上を数回リン酸緩衝生理食塩水(PBS)等でゆすぐことができる。例えば、細胞懸濁液や細胞外マトリックスを回収後、培養容器内にPBSを注入し、培養容器を左右に揺らし、タンクへ移動させる。これを数回繰り返すことで培養容器内の剥離細胞または細胞外マトリックスの数が低下する。なお、培養容器を細胞除去機構または細胞外マトリックス除去機構の先端用部品またはチューブ側に傾けることは、剥離細胞等を先端用部品またはチューブ側に集める効果があるため、剥離細胞等を効率よく回収する観点から好ましい。
【0038】
(細胞剥離機構)
本発明に係る細胞培養システムは、窪地から細胞を剥離する細胞剥離機構と、細胞剥離機構により剥離した細胞を回収する細胞回収機構と、を有することができる。
【0039】
細胞剥離機構は、培養基板の窪地に付着した細胞を剥離するための処理を行う機構である。例えば、PBS等の試液を培養基板上の細胞に向けて噴出するためのノズルを有する装置等が挙げられる。細胞剥離機構は、細胞剥離機構位置制御手段によって制御することができる。細胞剥離機構位置制御手段としては、自動ステージ等が挙げられる。細胞剥離機構は、剥離する細胞が付着した培養基板上の窪地の上まで細胞剥離機構位置制御手段によって移動させ、細胞剥離を行うことができる。
【0040】
(細胞回収機構)
細胞回収機構は、細胞剥離機構によって剥離した細胞を回収する機構である。細胞回収機構は、上述した細胞除去機構と同様の、移送した細胞を貯めておくタンクと、アスピレータとからなる装置とすることができる。細胞回収機構は、先端用部品と、先端用部品およびタンクに接続したチューブとを有することができる。先端用部品は、培養容器内の培養基板に届くように設置する。細胞剥離機構による細胞剥離後、細胞回収機構のアスピレータを起動させ、培養基板付近の細胞懸濁液を先端用部品から吸引し、タンクに集めることができる。アスピレータに限らず、チューブポンプ等も使用でき、また、先端用部品を使用せず、チューブを培養基板側まで延伸して設置してもよい。なお、細胞回収後、送液機構からPBSまたは培地等を注入し、回収しきれなかった細胞を再び細胞回収機構にて回収することが好ましい。
【0041】
(撮像部)
本発明に係る細胞培養システムは、細胞の状態を観察する撮像部を有することができる。本発明に係る細胞培養システムは、窪地以外の領域に付着した細胞の剥離残しを観察する撮像部を有することができる。また、撮像部は、例えば培養基板上の細胞や細胞外マトリックスの付着状況に関する情報を取得することができる。撮像部としては、例えばCMOSカメラやCCDカメラが挙げられる。撮像部を設置し、撮像部により取得した画像から細胞の剥離状況を判断し、窪地以外の細胞がすべて剥がれるまでスクレーパーを動かすことも有効である。また、撮像部により取得した画像から剥がし残しの細胞を検知し、その場所にスクレーパー等を移動させることも効果的である。撮像部で取得した情報に基づいて、窪地ごとの細胞の状態を判定し、細胞の状態に基づいて、剥離する細胞の付着する窪地を選択し、選択された窪地から細胞剥離機構により細胞を剥離し、細胞回収機構により剥離された細胞を回収することが好ましい。本発明において撮像部は、単一のものでもよいし、複数のものでもよい。
【0042】
(情報処理部)
本発明に係る細胞培養システムは、情報処理部を有することができる。本発明における情報処理部は、撮像部で取得された細胞の状態に基づいて窪地ごとの細胞の状態を判定する細胞判定機能と、細胞判定機能で判定した窪地ごとの細胞の状態に基づいて剥離する細胞の付着する窪地を選択する窪地選択機能と、を有することができる。本発明における情報処理部は、剥離残しが確認された場合に、剥離残しを除去するようにスクレーパーを動作させるように構成された情報処理部とすることができる。情報処理部は、例えば培養基板上の細胞の状態に関する情報、特に、例えば撮像部で取得した培養基板上の細胞の状態に関する情報を処理することができる。情報処理部は、細胞判定機能により、撮像部で取得した情報に基づいて窪地ごとの細胞の状態を判定することができる。細胞判定は、窪地を覆う細胞の面積を元に行うことが好ましい。また、画像の出力値の違いを判定に使用するのも効果的である。細胞の重なり具合や密度によって、細胞位置の画像の出力値に変化が生じる。そこで、あらかじめ規定の出力値を決めておき、細胞の位置する窪地の画像出力値が当該出力値に該当するかどうか判定することで、想定に近い状態のコロニーを選択できるようになり、細胞数の見積もり精度が向上する。そして、窪地選択機能により、細胞判定機能で判定した細胞の状態を元に回収する窪地の選択を行うことができる。これらの処理は後述するPCや各種マイコン等を用いることで実現することができる。
【0043】
また、情報処理部は、例えば撮像部で取得した培養基板に占めるコロニーの面積等の情報に基づいて、所望の量の細胞が培養されたかの判断を行い、培養を継続させる指示または培養を終了しスクレーパーによる細胞剥離へと移行させる指示を行うことができる。なお、増殖速度が安定している細胞の場合、情報処理部を用いてあらかじめ規定の培養時間経過後に細胞剥離を開始するよう設定し、当該培養時間の経過後に細胞剥離を行う指示をすることもできる。また、例えば撮像部で取得した画像から細胞の付着領域を確認し、付着領域にスクレーパーを移動させ、所望の領域の細胞を剥離する処理を行う指示をすることができる。
【0044】
図11は、本発明に係る細胞培養システムの構成例を示すブロック図である。細胞除去機構105は、細胞外マトリックス除去機構115とすることができる(図12)。図11または図12に示すような構成を有する細胞培養システムを用いる場合、情報処理部117は、例えば所望の時間細胞培養を行うための処理を行うよう細胞培養機構111に対し指示することができる。また、例えば所望のタイミングで所望量の試液等の注入を行うよう送液機構108に対し指示することができる。また、例えば細胞剥離時にスクレーパー104を培養基板101上に移動させるためのスクレーパー位置制御手段106の制御を行うことができる。また、例えば所望のタイミングで細胞や細胞外マトリックス、培地等といった試液等の除去のための処理を行うよう細胞除去機構105または細胞外マトリックス除去機構115に対し指示することができる。また、例えば所望のタイミングで細胞剥離のための処理を行うよう細胞剥離機構109および細胞剥離機構位置制御手段110に対し指示することができる。上記スクレーパー位置制御手段106の制御または細胞剥離機構109および細胞剥離機構位置制御手段110の制御は、撮像部107から取得した細胞の状態に関する情報を情報処理部117で処理した上で行うことができる。また、例えば所望のタイミングで細胞回収のための処理を行うよう細胞回収機構114に対し指示することができる。
【0045】
図13は、本発明における情報処理部117のハードウェア構成例を示すブロック図である。情報処理部117は、コンピュータの機能を有する。例えば、情報処理部117は、デスクトップPC(Personal Computer)、ラップトップPC、タブレットPC、スマートフォン等と一体に構成されていてもよい。情報処理部117は、演算および記憶を行うコンピュータとしての機能を実現するため、CPU(Central Processing Unit)200、RAM(Random Access Memory)201、ROM(Read Only Memory)202およびHDD(Hard Disk Drive)203を備える。また、情報処理部117は、通信I/F(インターフェース)204、表示装置205、および入力装置206を備える。CPU200、RAM201、ROM202、HDD203、通信I/F204、表示装置205、および入力装置206は、バス207を介して相互に接続される。なお、表示装置205および入力装置206は、これらの装置を駆動するための不図示の駆動装置を介してバス207に接続されてもよい。
【0046】
図13では、情報処理部117を構成する各部が一体の装置として図示されているが、これらの機能の一部は外付け装置により構成されていてもよい。例えば、表示装置205および入力装置206は、CPU200等を含むコンピュータの機能を構成する部分とは別の外付け装置であってもよい。
【0047】
CPU200は、RAM201、HDD203等に記憶されたプログラムに従って所定の動作を行うとともに、情報処理部117の各部を制御する機能をも有する。RAM201は、揮発性記憶媒体から構成され、CPU200の動作に必要な一時的なメモリ領域を提供する。ROM202は、不揮発性記憶媒体から構成され、情報処理部117の動作に用いられるプログラム等の必要な情報を記憶する。HDD203は、不揮発性記憶媒体から構成され、培養基板上の位置を示す座標や、細胞の量、細胞の状態に関する情報等の記憶を行う記憶装置である。
【0048】
通信I/F204は、Wi-Fi(登録商標)、4G等の規格に基づく通信インターフェースであり、他の装置との通信を行うためのモジュールである。表示装置205は、液晶ディスプレイ、OLED(Organic Light Emitting Diode)ディスプレイ等であって、動画、静止画、文字等の表示に用いられる。入力装置206は、ボタン、タッチパネル、キーボード、ポインティングデバイス等であって、利用者が情報処理部117を操作するために用いられる。表示装置205および入力装置206は、タッチパネルとして一体に形成されていてもよい。
【0049】
なお、図13に示されているハードウェア構成は例示であり、これら以外の装置が追加されていてもよく、一部の装置が設けられていなくてもよい。また、一部の装置が同様の機能を有する別の装置に置換されていてもよい。さらに、一部の機能がネットワークを介して他の装置により提供されてもよく、本実施形態を構成する機能が複数の装置に分散されて実現されるものであってもよい。例えば、HDD203は、フラッシュメモリ等の半導体素子を用いたSSD(Solid State Drive)に置換されていてもよく、クラウドストレージに置換されていてもよい。
CPU200は、ROM202等に記憶されたプログラムをRAM201にロードして実行することにより、細胞判定機能および窪地選択機能を実現する。また、CPU200は、表示装置205を制御する。また、CPU200は、HDD203を制御する。
【0050】
(細胞培養機構)
本発明に係る細胞培養システムは、細胞を培養するように構成された細胞培養機構を有することができる。細胞培養機構としては、例えば、培養容器全体を37℃に保つ保温部や、CO雰囲気下に保つ手段、湿度を95%に保つ手段が挙げられる。具体的には、培養容器全体を温度37度、CO濃度5%、湿度95%に維持するインキュベータが挙げられる。また、以下の実施形態においては、チューブを用いた送液機構により細胞を播種し、培養するが、ピペットを用いて細胞を播種することもできる。
【0051】
以上のシステムを用いることで、培養されたコロニーを規定のサイズの窪地内のみに制限することができる。これにより、細胞培養後の培養基板上に存在する細胞数を見積もりやすくする細胞培養システムを提供することができる。
【0052】
(細胞培養方法)
本発明に係る細胞培養方法は、窪地が複数配置された培養基板に細胞を付着させ培養する工程と、スクレーパーを培養基板上で、培養基板上の窪地以外の領域に対して摺動させ、窪地以外の領域に付着した細胞を剥離する工程と、スクレーパーで剥離した細胞を培養基板から除去する工程と、を有することができる。
また、本発明に係る細胞培養方法は、窪地が複数配置された培養基板に細胞外マトリックスを塗布する工程と、細胞外マトリックスの塗布後に、スクレーパーを培養基板上で、培養基板上の窪地以外の領域に対して摺動させ、窪地以外の領域に付着した細胞外マトリックスを剥離する工程と、スクレーパーで剥離した細胞外マトリックスを培養基板から除去する工程と、除去後の培養基板に細胞を播種し培養する工程と、を有することができる。
【0053】
[第1の実施形態]
以下、第1の実施形態の細胞培養システムの構成および細胞培養方法について説明する。図中、同一の構成要素には原則として同一の符号を付して、説明を省略する。
図4は本実施形態の細胞培養システムの(a)全体構成を示す模式図、(b)窪地102を有する培養基板101を示す上面図、(c)窪地102の断面図である。本細胞培養システムは図4(b)、(c)に示すような、複数のΦ0.5mmで深さ0.2mmの窪地102を有する培養基板101を底面に有するポリスチレン製の培養容器103を有する。培養容器103の上方にはゴム製のスクレーパー104とスクレーパーの位置を制御するスクレーパー位置制御手段106がある。スクレーパー位置制御手段106は培養基板101に対し水平方向に移動する2軸ステージと垂直方向に移動する1軸ステージの組み合わせからなり、スクレーパー104と培養容器103の接触を感知する接触センサ(不図示)を備えている。
【0054】
培養容器103の側面には複数のチューブが壁面に沿うように配置されており、そのうちの一つはスクレーパー104で剥離された細胞を回収する細胞除去機構105に接続している。この細胞除去機構105はポリタンクとアスピレータ(不図示)からなり、剥離細胞のみならず、使用済みの培地等の廃液を回収する機能も有する。そのほかのいくつかのチューブは培養容器103に試液等を送液する送液機構108と接続されている。送液機構108は各試液等が梱包されたポリ容器とチューブポンプからなり、本実施形態では、試液等としてそれぞれ細胞懸濁液、培地、剥離用の酵素(トリプシン)、PBSが入った4つの容器を用意している。図4では送液機構108として試液等の入った容器を1つのみ図示し、チューブポンプは不図示である。また、一つのチューブは最終的に必要な細胞を剥離した後にその細胞を回収する細胞回収機構114に接続している。この細胞回収機構114はポリ容器とアスピレータ(不図示)から構成される。
【0055】
培養容器103の下側中央部には培養基板101を観察できる撮像部107としてCMOSカメラが設置される。なお、CCDカメラでも構わない。また、細胞培養機構111としてインキュベータが設置される。培養容器103と撮像部107は細胞培養機構111内に設置され、培養容器103の内部は常にCO濃度が5%、湿度が95%、温度が37度に維持される。なお、細胞培養機構111の上部には自動で開閉を制御できる蓋113が存在し、スクレーパー104等が培養容器103内に出し入れできるようになっている。蓋113の上側には培養後に必要な細胞を水流で剥離するための細胞剥離機構109と細胞剥離機構109の位置を制御する細胞剥離機構位置制御手段110が配置されている。細胞剥離機構位置制御手段110は培養基板101に対し水平方向に移動する2軸ステージと垂直方向に移動する1軸ステージの組み合わせからなる。
以上の構成要素は安全キャビネット112内に設置され、クリーンな領域で細胞培養が実現できるようになっている。
【0056】
本システムを用いた実際の細胞培養の手順を説明する。
(細胞培養)
まず、培地、細胞外マトリックス、および培養する細胞の混合した細胞懸濁液を送液機構108を用いて培養容器103へ送液する。培養基板101全域に細胞懸濁液が浸るまで送液する。その後、細胞培養機構111を用いて培養容器103内をCO濃度が5%、湿度が95%、温度が37度の状態に維持する。なお、送液機構108と細胞除去機構105を用いて時々培地交換を実施する。培地交換の頻度は培養する細胞に合わせて設定するのが好ましい。所望の量だけ細胞が増殖されるまでこれらの作業を継続する。なお、所望の量の細胞が培養されたかの判断は、撮像部107を用いて培養基板101に占めるコロニーの面積から判断することができる。例えば、コロニーが窪地102を覆うまで成長しているかが目安の一つになる。この判断は情報処理部(不図示)による画像処理を用いた自動処理でも、作業者が目視で判断する手法でもどちらでも構わない。
【0057】
(スクレーパーによる細胞剥離)
所望の量の細胞が培養されたのち、蓋113を開けてスクレーパー位置制御手段106を用いてスクレーパー104を培養容器103内に挿入し、培養基板101に接触するまで移動させる。そして、培養基板101に接触したことを確認後、培養基板101をスクレーパー104でこすり、窪地102以外の領域に付着した細胞を剥離する。図5は本実施形態においてスクレーパー104が培養基板101上で動作する時の細胞培養システムの様子を示す図である。その後、撮像部107にて剥離状況を確認し、培養基板101上の窪地102以外の領域に剥がし残しがある場合、再度スクレーパー104で培養基板101をこする。この動作によって、窪地102のみにコロニーが残るようになる。その後、細胞培養機構111の蓋113を閉じる。
剥離した細胞を含む培地は、細胞除去機構105によって回収される。その後、送液機構108からPBSが注入され、回収し残した細胞を巻き込み、再び細胞除去機構105によって回収する。このリンス作業は必要に応じて回数を増やしてもよい。
【0058】
(細胞の選択)
図7は本実施形態における、細胞培養後の培養基板101および窪地102の状態を示す図である。図7において、ドットが付された部分が細胞の付着している部分である。図7(a)は細胞培養後、窪地102より大きいコロニーが形成された場合の、スクレーパー104による細胞剥離後の培養基板101の状態を示す上面図である。(c)は上記の場合における細胞剥離後の窪地102の状態を示す上面図である。(d)は上記の場合における細胞剥離後の窪地102の状態を示す断面図である。十分に培養し、コロニーが窪地102より大きいもので埋め尽くされた場合、スクレーパー104で処理した後の培養基板101は図7(a)のようになる。このとき、図7(c)、(d)に示すように細胞で窪地102全体が覆われたコロニーが形成される。この状態で撮像部107にて培養基板101の画像を取得し、細胞で覆われた窪地102を判定し座標を記録する。その後、必要な細胞数に応じて、細胞を回収する窪地102を選択する。図7(b)は培養後窪地102全域を覆わないコロニーが形成された場合のスクレーパー104による細胞剥離後の培養基板101の状態を示す上面図である。(e)は上記細胞剥離後の窪地102の状態を示す上面図、(f)は上記細胞剥離後の窪地102の状態を示す断面図である。培養が十分でない状態でスクレーパー104による細胞剥離処理をした後の培養基板101は図7(b)のようになり、細胞が窪地102全域を覆わないコロニー(図7(e)、(f))が生じる。このような場合は、細胞量が不十分な窪地である、と判定し、回収する細胞の量の換算において、考慮することが好ましい。
これらの細胞の覆われ方による窪地102の細胞判定は手動で行ってもよいし、情報処理部により自動で処理してもよい。自動で処理を行う際は、情報処理部における細胞判定機能によって実施される。
また、細胞判定の結果をもとに回収する窪地の選択も手動で行ってもよいし、自動で処理してもよい。自動で処理を行う際は、情報処理部における窪地選択機能によって実施される。これらの処理はPCや各種マイコン等を用いることで実現する。
【0059】
(細胞の剥離回収)
回収する細胞の窪地102が選択されたのち、培養容器103内にはトリプシンが送液機構108を介して注入される。そして、培養基板101がトリプシンに浸った状態で細胞培養機構111により保温する。これにより、細胞の付着力を低下させることができる。
細胞の付着力を低下させた後、細胞培養機構111の蓋113を再び開いて、細胞剥離機構109が挿入される。図6に本実施形態における細胞剥離機構109の動作時の細胞培養システムの様子を示す。細胞剥離機構109としてシリコンチューブに樹脂製の直進ノズルがつながったものがアームに接続されており、直進ノズルの先が任意の位置に移動できるようになっている。細胞剥離機構109は細胞剥離機構位置制御手段110を用いて制御する。
【0060】
剥離の状況について、図8を用いて説明する。図8において、ドットが付された部分が細胞の付着している部分である。図8(a)は細胞剥離のため細胞剥離機構109を培養基板101上に移動させる様子を示す上面図、(b)は細胞剥離機構109で窪地102に付着した細胞を剥離する様子を示す上面図である。記録した窪地102の座標まで直進ノズルを矢印方向に移動させる(図8(a))。その後、細胞剥離機構109の直進ノズルから目標の窪地102に目掛けてPBSを噴出し、窪地102内の細胞を剥離する(図8(b))。選択した窪地102の細胞をすべて剥離するまでこの工程を実施する。
選択された窪地102すべてのコロニーが剥離されたのち、培養容器103内の細胞懸濁液を細胞回収機構114によって回収する。なお、回収後、送液機構からPBSまたは培地等を注入し、回収しきれなかった細胞を再び細胞回収機構114にて回収することが好ましい。
【0061】
以上説明したように、本実施形態では、窪地が複数配置された、細胞を付着させる培養基板と、培養基板上で、培養基板上の窪地以外の領域に対して摺動し、窪地以外の領域に付着した細胞を剥離するスクレーパーと、スクレーパーで剥離した細胞を培養基板から除去する細胞除去機構と、を有することを特徴とする細胞培養システムが提供される。これにより、細胞培養後の培養基板上に存在する細胞数を見積もりやすく、かつ回収しやすい細胞培養システムを提供することができる。また、本実施形態では、窪地が複数配置された培養基板に細胞を付着させ培養する工程と、スクレーパーを培養基板上で、培養基板上の窪地以外の領域に対して摺動させ、窪地以外の領域に付着した細胞を剥離する工程と、スクレーパーで剥離した細胞を培養基板から除去する工程と、を有することを特徴とする細胞培養方法が提供される。
【0062】
なお、本実施形態ではiPS細胞を用いて検証したが、接着細胞であればほとんどの細胞が利用できる。その際、培地、試薬の種類や剥離のタイミングは各細胞の特徴と、実施するプロトコールに合わせ適宜変更すればよい。
【0063】
[第2の実施形態]
以下、第2の実施形態の細胞培養システムの構成および細胞培養方法について図9を用いて説明する。図中、同一の構成要素には原則として同一の符号を付して、説明を省略する。
図9に示す細胞培養システムは第1の実施形態における細胞除去機構105が細胞外マトリックス除去機構115に置き換わっただけであり、そのモジュールも同じものを採用している。つまり、構成要素は同じで処理の手順が異なるだけである。
本実施形態に係る細胞培養システムの構成は上記細胞外マトリックス除去機構115を除いて同様であるため説明を省略し、本細胞培養システムを用いた細胞培養方法について説明する。本細胞培養方法において、第1の実施形態に係る細胞培養方法における工程と同様となる工程については説明を省略する。
【0064】
(細胞外マトリックスの塗布)
まず、PBSと細胞外マトリックスの混合液を送液機構108を用いて培養容器103へ送液する。培養基板101全域に混合液が浸る程度まで送液し培養基板101に塗布する。その後、細胞培養機構111を用いて湿度が95%、温度が37度になるよう維持し保管する。一定時間が経過した後、細胞外マトリックス除去機構115を用いて回収し、再度送液機構108を用いてPBSを注入する。その後、細胞培養機構111の蓋113を開けてスクレーパー104を培養容器103内に挿入する。そして、培養基板101に接触したことを確認後、培養基板101上の窪地102以外の領域にスクレーパー104を接触させ、摺動させてこすり、窪地102以外の領域に付着した細胞外マトリックスを剥がす。その後、細胞外マトリックス除去機構115を用いて培養容器103内の液体を分離し、剥離した細胞外マトリックスを除去する。そして、細胞培養機構111の蓋113を閉める。
【0065】
(細胞培養)
培養する細胞と培地の混合した細胞懸濁液を送液機構108を用いて培養容器103へ送液し、細胞を播種する。培養基板101全域に細胞懸濁液が浸る程度まで送液する。その後、細胞培養機構111を用いて培養容器103をCO濃度が5%、湿度が95%、温度が37度に維持し保管する。なお、送液機構108と細胞外マトリックス除去機構115を用いて時々培地交換を実施する。この培地交換の頻度は培養する細胞に合わせて設定するのが好ましい。この作業を継続するにしたがって、図7(a)、(c)、(d)に示した状態と同様に、細胞外マトリックスが残っている窪地102の内部にのみ細胞が付着した状態になる。なお、この際、窪地102以外の領域に細胞が付着していた場合、第1の実施形態の(スクレーパーによる細胞剥離)に記載のように、スクレーパー104で窪地102以外の細胞をこすり落とす処理を追加することも有効である。この場合、細胞外マトリックス除去機構115と細胞除去機構105は同一の機構を使用することができる。
以降の工程は第1の実施形態に記載の(細胞の選択)以降と同じである。
【0066】
以上説明したように、本実施形態では、窪地が複数配置された、細胞外マトリックスを付着させる培養基板と、培養基板上で、培養基板上の窪地以外の領域に対して摺動し、窪地以外の領域に付着した細胞外マトリックスを剥離するスクレーパーと、スクレーパーで剥離した細胞外マトリックスを培養基板から除去する細胞外マトリックス除去機構と、を有し、培養基板は、細胞外マトリックスを介して細胞を付着させることを特徴とする細胞培養システムが提供される。これにより、細胞培養後の培養基板上に存在する細胞数を見積もりやすく、かつ回収しやすい細胞培養システムを提供することができる。また、本実施形態では、窪地が複数配置された培養基板に細胞外マトリックスを塗布する工程と、細胞外マトリックスの塗布後に、スクレーパーを培養基板上で、培養基板上の窪地以外の領域に対して摺動させ、窪地以外の領域に付着した細胞外マトリックスを剥離する工程と、スクレーパーで剥離した細胞外マトリックスを培養基板から除去する工程と、除去後の培養基板に細胞を播種し培養する工程と、を有することを特徴とする細胞培養方法が提供される。
【0067】
本実施形態ではiPS細胞を用いて検証したが、接着細胞であればほとんどの細胞が利用できる。その際、培地、試薬の種類や剥離のタイミングは各細胞の特徴と、実施するプロトコールに合わせ適宜変更すればよい。
【0068】
[第3の実施形態]
以下、第3の実施形態の細胞培養システムおよび細胞培養方法について説明する。第3の実施形態に係る細胞培養システムは、自動細胞培養システムである。図中、同一の構成要素には原則として同一の符号を付して、説明を省略する。
【0069】
図10は本実施形態のシステムフローを示す図である。
本実施形態の細胞培養システムの構成は、情報処理部を除いて図4に示す第1の実施形態の細胞培養システムの構成と同様とすることができるため説明を省略する。本実施形態に係る細胞培養システムの主要な装置構成は、図11に示す構成と同様とすることができる。
下記フローのS1001は手技で実施し、S1002からは自動で操作する。これらの自動操作は情報処理部にてあらかじめ記録されたアルゴリズムで制御される。
【0070】
(手技工程)
(S1001)初期設定として、安全キャビネット112内の細胞培養機構111内の環境がCO濃度5%、湿度95%、温度37度であることを確認する。確認後、細胞培養機構111内の所定の位置に各チューブが接続された培養容器103を設置し、安全キャビネット112内に各種試液等や細胞懸濁液の入った送液機構108をセットする。その後、培養し回収したい細胞の量を入力設定し、自動工程を開始する設定をおこなう。
【0071】
(自動工程)
(S1002)まず、培地、細胞外マトリックス、および培養したい細胞が混合した細胞懸濁液が送液機構108によって培養容器103内に注入される。撮像部107にて培養基板101を観察し、培養基板101が細胞懸濁液で浸るまで送液を継続する。なお、培養基板101が浸る液量はあらかじめ確認されており、当該液量に応じて、培地等に対して播種したい量の細胞をあらかじめ混ぜた細胞懸濁液を用意しておく。
(S1003)細胞播種後、一定期間細胞培養機構111内で保管し培養を継続する。なお、この保管期間は細胞によって変更するのが好ましい。
【0072】
(S1004)撮像部107にて培養基板101の細胞のコロニーの状態を観察し確認する。
(S1005)コロニーサイズが規定サイズ以上であるかどうか判定する。なお、コロニーの規定サイズは窪地102の面積をもとに設定されるサイズであり、窪地102の面積よりも数割以上大きいサイズが好ましい。
【0073】
(S1006)コロニーサイズが規定サイズよりも小さい場合は、細胞除去機構105を用いて培養容器103内の培地を排水し、送液機構108から新しい培地を注入して交換する。その後、(S1003)の培養継続からの工程を繰り返す。
(S1007)コロニーサイズが規定サイズより大きい場合は、細胞培養機構111の蓋113を開放し、スクレーパー位置制御手段106を用いてスクレーパー104を動かし、培養基板101の窪地102以外の領域に付着したコロニーを剥離する。
【0074】
(S1008)撮像部107にて培養基板101を観察する。
(S1009)(S1008)の工程にて培養基板101の窪地102以外の領域に残っているコロニーがあるか判定する。窪地102以外の領域にコロニーが残っていた場合は、(S1007)からの工程を再度行い、スクレーパー104にて再び培養基板101のコロニーを剥がす工程を実施する。
【0075】
(S1010)培養基板101の窪地102以外の領域におけるコロニーが剥離されたことが確認された場合、剥離細胞の洗浄を実施する。この時、送液機構108からのPBSの注水と細胞除去機構105による排水を繰り返し、剥離された細胞を培養容器103から排出する。その後、送液機構108からPBSを注水する。
(S1011)撮像部107にて培養基板101を観察し、窪地102内に残った細胞の状況を確認する。細胞判定機能により、細胞の状態を判定する。あらかじめ設定していた細胞回収量をもとに、窪地選択機能により、適当な窪地102を自動で選択する。
【0076】
(S1012)剥離する窪地102を選択後、細胞除去機構105を用いてPBSを排水し、送液機構108から剥離用のトリプシンを培養容器103内に培養基板101が浸るまで注水する。その後、一定時間37度の状態を維持することで細胞の付着力を低下させる。その後、細胞培養機構111の蓋113を開放し、細胞剥離機構位置制御手段110を用いて細胞剥離機構109のノズル先端を選択した窪地102まで移動させ、ノズルからPBSを噴霧することで窪地102内の細胞を剥がしていく。このように選択した窪地102全部の細胞を剥離した後、細胞回収機構114を稼働し、培養容器103内の細胞懸濁液を回収する。その後、送液機構108から培地を注水し培養容器103内に残った剥離細胞を巻き込み、細胞回収機構114を用いて残った細胞を回収する。なお、付着力が強い細胞の場合、撮像部107にて剥離後の窪地102の状態を確認し、剥がし残しが確認された場合に、該当の窪地102にPBSの噴霧および細胞の回収を再度実施するフローを取り入れることも効果的である。
【0077】
以上説明したように、本実施形態では、窪地が複数配置された、細胞を付着させる培養基板と、培養基板上で、培養基板上の窪地以外の領域に対して摺動し、窪地以外の領域に付着した細胞を剥離するスクレーパーと、スクレーパーで剥離した細胞を培養基板から除去する細胞除去機構と、を有することを特徴とする細胞培養システムについて説明した。これにより、自動で所望の量の細胞を培養し回収できる細胞培養システムを提供することができる。また、本実施形態では、窪地が複数配置された培養基板に細胞を付着させ培養する工程と、スクレーパーを培養基板上で、培養基板上の窪地以外の領域に対して摺動させ、窪地以外の領域に付着した細胞を剥離する工程と、スクレーパーで剥離した細胞を培養基板から除去する工程と、を有することを特徴とする細胞培養方法が提供される。
【0078】
なお、本実施形態ではiPS細胞を用いて検証したが、接着細胞であればほとんどの細胞が利用できる。その際、培地、試薬の種類や剥離のタイミングは各細胞の特徴と、実施するプロトコールに合わせ適宜変更すればよい。
なお、本発明において培養基板上で培養される細胞を培養対象細胞、窪地以外の領域に付着した細胞を除去対象細胞、窪地内に付着した細胞を採取対象細胞と呼ぶことができる。
【0079】
本実施形態の開示は、以下の構成および方法を含む。
(構成1)
窪地が複数配置された、細胞を付着させる培養基板と、
前記培養基板上で、前記培養基板上の前記窪地以外の領域に対して摺動し、前記窪地以外の領域に付着した細胞を剥離するスクレーパーと、
前記スクレーパーで剥離した細胞を前記培養基板から除去する細胞除去機構と、を有することを特徴とする細胞培養システム。
(構成2)
窪地が複数配置された、細胞外マトリックスを付着させる培養基板と、
前記培養基板上で、前記培養基板上の前記窪地以外の領域に対して摺動し、前記窪地以外の領域に付着した細胞外マトリックスを剥離するスクレーパーと、
前記スクレーパーで剥離した細胞外マトリックスを前記培養基板から除去する細胞外マトリックス除去機構と、を有し、
前記培養基板は、前記細胞外マトリックスを介して細胞を付着させることを特徴とする細胞培養システム。
(構成3)
前記窪地以外の領域に付着した細胞の剥離残しを観察する撮像部を有することを特徴とする、構成1に記載の細胞培養システム。
(構成4)
前記剥離残しが確認された場合に、前記剥離残しを除去するように前記スクレーパーを動作させるように構成された情報処理部を有する、ことを特徴とする、構成3に記載の細胞培養システム。
(構成5)
細胞の状態を観察する撮像部を有することを特徴とする、構成1から4のいずれかに記載の細胞培養システム。
(構成6)
前記撮像部で取得された細胞の状態に基づいて窪地ごとの細胞の状態を判定する細胞判定機能と、前記細胞判定機能で判定した窪地ごとの細胞の状態に基づいて剥離する細胞の付着する窪地を選択する窪地選択機能と、を有する情報処理部を有する、ことを特徴とする、構成5に記載の細胞培養システム。
(構成7)
前記スクレーパーの、前記培養基板上における前記スクレーパーの摺動軸に対して垂直方向の幅が、前記窪地の、前記培養基板上における前記スクレーパーの摺動軸に対して垂直方向の幅よりも大きいことを特徴とする、構成1から6のいずれかに記載の細胞培養システム。
(構成8)
前記窪地が傾斜面を有することを特徴とする、構成1から7のいずれかに記載の細胞培養システム。
(構成9)
前記窪地が凹曲面を有することを特徴とする、構成1から8のいずれかに記載の細胞培養システム。
(構成10)
前記窪地以外の領域が凸曲面を有することを特徴とする、構成1から9のいずれかに記載の細胞培養システム。
(構成11)
前記窪地から細胞を剥離する細胞剥離機構と、
前記細胞剥離機構により剥離した細胞を回収する細胞回収機構と、を有することを特徴とする、構成1から10のいずれかに記載の細胞培養システム。
(構成12)
細胞を培養するように構成された細胞培養機構を有することを特徴とする、構成1から11のいずれかに記載の細胞培養システム。
(構成13)
前記細胞が接着細胞であることを特徴とする構成1から12のいずれかに記載の細胞培養システム。
(構成14)
窪地が複数配置された培養基板に細胞を付着させ培養する工程と、
スクレーパーを前記培養基板上で、前記培養基板上の前記窪地以外の領域に対して摺動させ、前記窪地以外の領域に付着した細胞を剥離する工程と、
前記スクレーパーで剥離した細胞を前記培養基板から除去する工程と、を有することを特徴とする細胞培養方法。
(構成15)
窪地が複数配置された培養基板に細胞外マトリックスを塗布する工程と、
前記細胞外マトリックスの塗布後に、スクレーパーを前記培養基板上で、前記培養基板上の前記窪地以外の領域に対して摺動させ、前記窪地以外の領域に付着した細胞外マトリックスを剥離する工程と、
前記スクレーパーで剥離した細胞外マトリックスを前記培養基板から除去する工程と、
前記除去後の培養基板に細胞を播種し培養する工程と、を有することを特徴とする細胞培養方法。
【符号の説明】
【0080】
101 培養基板
102 窪地
103 培養容器
104 スクレーパー
105 細胞除去機構
106 スクレーパー位置制御手段
107 撮像部
108 送液機構
109 細胞剥離機構
110 細胞剥離機構位置制御手段
111 細胞培養機構
112 安全キャビネット
113 蓋
114 細胞回収機構
115 細胞外マトリックス除去機構
117 情報処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14