(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173392
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】インバータ制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20241205BHJP
B64D 27/24 20240101ALI20241205BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02M7/48 M
B64D27/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091775
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】大野 友幹
(72)【発明者】
【氏名】川島 徹也
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA04
5H770BA01
5H770CA01
5H770CA02
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA22
5H770DA30
5H770DA41
5H770GA20
5H770HA02Y
5H770HA03W
5H770JA17W
5H770LB09
(57)【要約】
【課題】コストの増加及びシステム重量の増加を伴わずインバータの宇宙線耐量を向上可能なインバータ制御装置を提供する。
【解決手段】インバータ制御装置600は複数のインバータ201、202、207、208のそれぞれの電圧印加総時間を判定する電圧印加総時間判定部602と、飛行体501の運行情報を入力し飛行体501の運行パターンを判定し、運行パターンを電圧印加総時間判定部602に出力する運行パターン判定部603と、電圧総時間判定部602の指令と、複数のインバータ201、202、207、208の電流情報及び電圧情報に従い複数のインバータ201、202、207、208を制御するインバータ制御部604と、インバータ制御部604の情報に従い、複数のインバータ201、202、207、208の電源300と複数のインバータ201、202、207、208との接続及び開放を制御する切替制御部605と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のインバータの、それぞれの電圧印加総時間を判定する電圧印加総時間判定部と、
飛行体の運行情報を入力し、前記飛行体の運行パターンを判定して、判定した運行パターンを前記電圧印加総時間判定部に出力する運行パターン判定部と、
前記電圧印加総時間判定部からの指令と、前記複数のインバータの電流情報および電圧情報に従って、前記複数のインバータおよび複数の平滑コンデンサ電圧を制御するインバータ制御部と、
前記インバータ制御部からの情報に従って、前記複数のインバータの電源と、前記複数のインバータとの接続および開放を制御する切替制御部と、
を備えることを特徴とするインバータ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のインバータ制御装置において、
前記飛行体は、プロペラにシャフトを介して接続されたオープン巻線モータを有し、巡航時よりも離着陸時または上昇時の出力が大きく、前記オープン巻線モータは、複数の前記インバータに接続され、複数の前記インバータは、それぞれの直流部が前記平滑コンデンサに接続され、スイッチを介して電源に接続され、
前記インバータ制御部は、前記巡航時における複数の前記インバータのそれぞれの電圧印加総時間に基づき、複数の前記インバータのうちのいずれかを選択し、選択した前記インバータの変調率を制御し、
前記切替制御部は、前記インバータ制御部からの情報に従って前記スイッチを接続あるいは開放する、
ことを特徴とするインバータ制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のインバータ制御装置において、
前記インバータ制御部は、前記飛行体の離着陸時あるいは上昇時に、前記複数のインバータにより、前記オープン巻線モータを駆動し、巡航時には、前記複数のインバータの前記電圧印加総時間が互いに等しくなるように、前記複数のインバータの停止あるいは駆動を制御することを特徴とするインバータ制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載のインバータ制御装置において、
前記インバータ制御部は、前記複数のインバータの前記電圧印加総時間が互いに等しくなるように、前記電圧印加総時間が長いインバータを停止し、前記電圧印加総時間が短いインバータを駆動することを特徴とするインバータ制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載のインバータ制御装置において、
前記インバータ制御部は、
停止する前記インバータの変調率をゼロまで低下させ、駆動する前記インバータの変調率を前記オープン巻線モータの要求電圧まで上昇させ、停止する前記インバータの出力をゼロにした後、停止する前記インバータの下アームを短絡させ、
前記切替制御部は、停止する前記インバータの下アームが短絡された後に、前記電源と前記平滑コンデンサに接続された前記スイッチを開放することを特徴とするインバータ制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載のインバータ制御装置において、
前記インバータ制御部は、前記オープン巻線モータに流れる三相電流の積が0Aあるいは任意の閾値より大きい場合に、前記平滑コンデンサに蓄えられた電荷を前記オープン巻線モータの巻線抵抗を介して放電を行い、前記平滑コンデンサの電圧を0Vに低下させることを特徴とするインバータ制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載のインバータ制御装置において、
前記インバータ制御部は、前記平滑コンデンサの電圧を0Vに低下させた後、停止する前記インバータの下アームを短絡させ、前記平滑コンデンサの電圧を0Vに維持させることを特徴とするインバータ制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載のインバータ制御装置において、
前記インバータ制御部は、前記複数の前記インバータのうち、往路で停止した前記インバータは復路では駆動し、往路で駆動した前記インバータは復路では停止することを特徴とするインバータ制御装置。
【請求項9】
請求項1に記載のインバータ制御装置において、
前記インバータ制御部からの情報に基づいて、前記複数の前記インバータのそれぞれは、駆動中であるか停止中であるかの状態を表示する表示部を備えることを特徴とするインバータ制御装置。
【請求項10】
複数のインバータの、それぞれの電圧印加総時間を判定し、
飛行体の運行情報から、前記飛行体の運行パターンを判定し、
前記複数のインバータの電流情報および電圧情報に従って、前記複数のインバータを制御し、
前記複数のインバータの電源と、前記複数のインバータとの接続および開放を制御する、
ことを特徴とするインバータ制御方法。
【請求項11】
請求項10に記載のインバータ制御方法において、
前記飛行体は、プロペラにシャフトを介して接続されたオープン巻線モータを有し、巡航時よりも離着陸時または上昇時の出力が大きく、前記オープン巻線モータは、前記複数のインバータに接続され、前記複数のインバータは、それぞれの直流部が平滑コンデンサに接続され、スイッチを介して電源に接続され、
前記巡航時における前記複数のインバータのそれぞれの電圧印加総時間に基づき、前記複数のインバータのうちのいずれかを選択し、選択した前記インバータの変調率を制御し、
前記スイッチを開放した後に、前記平滑コンデンサの電圧を減少させる、
ことを特徴とするインバータ制御方法。
【請求項12】
請求項11に記載のインバータ制御方法において、
前記飛行体の離着陸時あるいは上昇時に、前記複数のインバータにより、前記オープン巻線モータを駆動し、巡航時には、前記複数のインバータの前記電圧印加総時間が互いに等しくなるように、前記複数のインバータの停止あるいは駆動を制御することを特徴とするインバータ制御方法。
【請求項13】
請求項12に記載のインバータ制御方法において、
前記複数のインバータの前記電圧印加総時間が互いに等しくなるように、前記電圧印加総時間が長いインバータを停止し、前記電圧印加総時間が短いインバータを駆動することを特徴とするインバータ制御方法。
【請求項14】
請求項13に記載のインバータ制御方法において、
停止する前記インバータの変調率をゼロまで低下させ、駆動する前記インバータの変調率を前記オープン巻線モータの要求電圧まで上昇させ、停止する前記インバータの出力をゼロにした後、停止する前記インバータの下アームを短絡させ、停止する前記インバータの下アームが短絡された後に、前記電源と前記平滑コンデンサに接続された前記スイッチを開放することを特徴とするインバータ制御方法。
【請求項15】
請求項14に記載のインバータ制御方法において、
前記オープン巻線モータに流れる三相電流の積が0Aあるいは任意の閾値より大きい場合に、前記平滑コンデンサに蓄えられた電荷を前記オープン巻線モータの巻線抵抗を介して放電を行い、前記平滑コンデンサの電圧を0Vに低下させることを特徴とするインバータ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインバータ制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、旅客機や垂直離着陸機(VTOL機、Vertical Take-Off and Landing aircraft)等の航空機には電動化が進んでいる。例えば、電動化された航空機には、電動垂直離着陸機(eVTOL機, Electric Vertical Take-Off and Landing aircraft)がある。
【0003】
航空機を構成する推進システムの電動化には、モータやインバータ等を含む電動コンポーネントの大容量化と高信頼化が必要である。両者を実現する電動システムには、2台のインバータを用いてモータ巻線印加電圧を倍増して効率良く駆動することができるオープン巻線システムが知られている。
【0004】
オープン巻線システムを、さらに効率良く運転するためには、例えば、特許文献1では、「低出力時における効率の低下を防止できるモータ駆動システム」が開示されており、「低出力の際にはインバータ1台で運転することでインバータの損失を抑えることが望まれる。」と記載されている。
【0005】
このように、定格出力よりも低い出力で駆動する負荷条件では、2台あるインバータのうち1台のみでモータを駆動することにより高効率化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
航空機が飛行する高高度環境では、宇宙線強度が大幅に増加する。これにより、半導体スイッチング素子やゲート駆動回路などで構成されるインバータの偶発故障発生確率が大幅に上がり信頼性が低下する。特に、高高度を飛行する巡航時はインバータの信頼性低下は著しい。インバータの高信頼化には宇宙線耐量を向上させる必要があり、その手段として、半導体スイッチング素子への印加電圧低減が有効である。
【0008】
特許文献1に記載のような構成ではインバータの高効率化に有効であるが、2台あるインバータの半導体スイッチング素子には、常にDC電圧が印加され続けるためインバータの宇宙線耐量は低く、耐宇宙線対策が必要である。
【0009】
オープン巻線システムの宇宙線耐量を向上させるには、半導体スイッチング素子耐圧の向上、半導体スイッチング素子のシリーズ化、インバータ多段化、バッテリーとインバータ間に昇降圧コンバータを設置してDC電圧を可変にするなどの手段が考えられるが、多数の半導体スイッチング素子が追加されることによるコスト増加およびシステム重量の増加が課題となる。
【0010】
本発明の目的は、コストの増加およびシステム重量の増加を伴うことなく、インバータの宇宙線耐量を向上することが可能なインバータ制御装置及び制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するため、次のように構成される。
【0012】
インバータ制御装置において、複数のインバータの、それぞれの電圧印加総時間を判定する電圧印加総時間判定部と、飛行体の運行情報を入力し、前記飛行体の運行パターンを判定して、判定した運行パターンを前記電圧印加総時間判定部に出力する運行パターン判定部と、前記電圧印加総時間判定部からの指令と、複数のインバータの電流情報および電圧情報に従って、前記複数のインバータを制御するインバータ制御部と、前記インバータ制御部からの情報に従って、前記複数のインバータの電源と、前記複数のインバータとの接続および開放を制御する切替制御部と、を備える。
【0013】
また、インバータ制御方法において、複数のインバータの、それぞれの電圧印加総時間を判定し、飛行体の運行情報から、前記飛行体の運行パターンを判定し、複数の前記インバータの電流情報および電圧情報に従って、複数の前記インバータを制御し、複数の前記インバータの電源と、複数の前記インバータとの接続および開放を制御する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コストの増加およびシステム重量の増加を伴うことなく、インバータの宇宙線耐量を向上することが可能なインバータ制御装置及び制御方法を提供することができる。
【0015】
飛行体の推進系を構成するモータ・インバータを高効率に駆動しながら、半導体スイッチング素子に印加される電圧の印加総時間を低減することにより、インバータの宇宙線耐量が向上するため、航空機の高信頼化を実現し、フライト数あるいは航続距離が延びる。
【0016】
また、半導体スイッチング素子の追加やコンデンサ放電用回路が不要であるため、低コスト化および軽量化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例1によるインバータ制御装置により制御される飛行体の推進システムの構成を示す概略構成図である。
【
図2】実施例1によるインバータ制御装置の機能ブロック図である。
【
図4】実施例1の制御アルゴリズムを説明するフローチャートである。
【
図5A】実施例1の往路の運行パターンを示す図である。
【
図5B】実施例1の復路の運行パターンを示す図である。
【
図6】実施例2によるインバータ制御装置により制御される飛行体の推進システムの構成を示す概略構成図である。
【
図7】実施例3によるインバータ制御装置により制御される飛行体の推進システムの構成を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明によるインバータ制御装置を図面に基づいて説明する。また、本発明の実施例1以外の実施例については、実施例1と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、異なる部分について説明する。
【実施例0019】
(実施例1)
図1は実施例1のプロペラ1台当たりの推進システム1の構成図である。
図2は、インバータ制御装置600の機能ブロック図である。
【0020】
図1において、プロペラ100はシャフト101を介して三相モータのオープン巻線モータ102に接続される。オープン巻線モータ102の3相巻線は、それぞれ互いに独立して結線されず、巻線の両端には、それぞれ互いに独立したインバータA201及びインバータB202が接続される。実施例1における三相モータ102は、永久磁石同期モータを想定しているが、例えば、誘導機等を用いても良い。
【0021】
インバータA201及びインバータB202は、半導体スイッチング素子を三相ブリッジ接続して構成され、直流部にはそれぞれ互いに独立した平滑コンデンサA203及び平滑コンデンサB204を備えている。バッテリーA300(電源)はインバータA201及びインバータB202の両者に並列接続されている。本実施例1ではバッテリーを想定しているが、例えば、DC-DCコンバータが接続されていてもよいし、交流電圧源をAC-DCコンバータを用いて直流に電力変換したものでもよい。
【0022】
バッテリーA300とコンデンサA203の間にはスイッチA205が接続され、バッテリーA300とコンデンサB204の間にはスイッチB206が接続されている。スイッチA205およびスイッチB206は、リレー等の機械式スイッチでも良いし、半導体スイッチング素子を用いてもよい。
【0023】
電流センサ401はオープン巻線モータ102に流れる3相電流を検出し、電圧センサA402および電圧センサB403は各インバータ201および202に接続された平滑コンデンサ203、204の電圧を検出する。電流センサ401はモータ電流の3相分を検出してもよい。
【0024】
インバータ制御装置600は、上位の指令装置である飛行体制御装置500からの運行情報および電圧印加時間情報、電流センサ401の検出値、電圧センサA402、B403の検出値に基づきインバータA201及びインバータB202、スイッチA205及びスイッチB206のスイッチング信号の生成を行う。
【0025】
図2は、実施例1によるインバータ制御装置の機能ブロック図である。
【0026】
図2において、インバータ制御装置600は、タイマー601と、電圧印加総時間判定部602と、運行パターン判定部603と、インバータ制御部604と、切替制御部605と、を備える。
【0027】
電圧印加総時間判定部602は、推進システム1における飛行体501(
図5Aに示す)の飛行体制御装置500から、半導体への電圧印加情報(バッテリーA300の電圧情報あるいは、電圧センサA402からの電圧情報、あるいは電圧センサB403からの電圧情報)を入力し、タイマー601を駆動して、複数のインバータ(実施例1では2つのインバータ201および202)のそれぞれの電圧印加総時間を判定する。
【0028】
運行パターン判定部603は、飛行体501の飛行体制御装置500から運行情報を入力し、飛行体の運行パターンを判定して、判定した運行パターン情報を電圧印加総時間判定部602に出力する。
【0029】
インバータ制御部604は、電圧総時間判定部602からの指令(インバータ201、202のどちらの出力電力を制御するかの指令)、電流センサ401からの電流情報、電圧センサA402からの電圧情報、および電圧センサB403からの電圧情報に従って、インバータ201およびは202を制御する。つまり、インバータ制御部604は、飛行体501の巡航時における複数のインバータA201およびB202のそれぞれの電圧印加総時間に基づき、インバータ201およびB202のうちのいずれかを選択し、選択したインバータ201またはB202の変調率を制御と、平滑コンデンサA203またはB204の電圧を制御する。
【0030】
切替制御部605は、インバータ制御部604からの情報(インバータ201、202のうちのいずれを制御するかの情報)に従って、スイッチA205またはスイッチB206の動作を制御して、インバータ201および202の電源であるバッテリー300と、インバータ201および202との接続および開放を制御する。
【0031】
表示部606は、インバータ制御部604からの情報に基づいて、インバータ201およびインバータ202のそれぞれの駆動状態(駆動中であるか停止中であるかの状態)を表示する。
【0032】
次に、飛行体の運行パターンを
図3に示す。飛行体である航空機はプロペラ100が推力を発生させるために、シャフト101を介してオープン巻線モータ102が回転力を伝える。オープン巻線モータ102を駆動するには、インバータA201及びインバータB202の出力電圧をオープン巻線モータ102の巻線に印加する。
【0033】
このとき、例えば、インバータA201の出力電圧に対して、インバータB202の出力電圧を逆位相としてオープン巻線モータ102の巻線に印加することで、半導体スイッチング素子の耐圧を上げることなく、また、昇圧用回路を設けることなく、モータ巻線1相当たりの電圧振幅を増加させ、オープン巻線モータ102の高出力化を高効率で実現する。
【0034】
航空機が離陸や着陸する場合には、他の運行パターンと比較して、オープン巻線モータ102を高出力で駆動させる必要がある。この場合、オープン巻線モータ102はインバータA201及びインバータB202の2台を用いて高出力で高効率に駆動する。
【0035】
一方で、航空機が巡航する場合には、離陸や着陸時よりもオープン巻線モータ102は低出力で駆動する。低出力時にはモータ駆動に必要な電圧も低下するため、インバータA201あるいはインバータB202を停止させることで、すべての運行パターンで高効率運行を行う。
【0036】
図4は、本実施例1による制御アルゴリズムのフローチャートである。操縦者あるいは運行システム(例えば、高度計など)が離陸から巡航に運行フェーズが変わったことを判断すると、インバータA201あるいはインバータB202を停止させ、オープン巻線モータ102をオープン巻線からY結線として駆動する。
【0037】
ここで、例えば、インバータA201あるいはインバータB202を、1回の巡航毎に、停止させて低出力時にオープン巻線モータ102をオープン巻線からY結線として駆動することは効率の観点で有効であるが、2台のインバータA201とインバータB202とで使用時間が異なることで、2台のうち使用時間が長いインバータだけが宇宙線による偶発故障の発生確率が大きくなり望ましくない。
【0038】
また、インバータA201またはインバータB202を停止させ出力がゼロとなっても、バッテリーA300の電圧が印加され続けていると、インバータは停止しているにも関わらず、宇宙線の影響を受け続ける。
【0039】
そこで、本実施例1では、2台のインバータA201とインバータB202とが受ける宇宙線の影響を等しくした上で、インバータ停止時には宇宙線の影響を低減するように制御する。以下、本実施例1の制御法を説明する。
【0040】
ステップS1で巡航が開始された直後は、オープン巻線モータ102を2台のインバータ201、202で駆動している。このとき、例えば、離陸時に必要なモータ出力が100kWだとすれば、巡航時に必要な出力は約半分であるためモータ出力は50kWとなり、インバータ1台当たりの出力は25kWとなる。
【0041】
巡航が開始されると、ステップS2において、2台のインバータ201、202の半導体スイッチング素子に印加される電圧印加総時間を判定し、2台のうち停止するインバータを1台選択し、2台のインバータ201、202が宇宙線の影響を受ける時間を等しくする。インバータ201、202が停止することは出力をゼロにすることであるため、インバータ制御部604が、停止したいインバータ201またはインバータ202の変調率をゼロにする必要がある。停止するインバータの変調率をゼロにすることによる電圧不足分は、インバータ制御部604が駆動を続けるインバータの変調率を上げることで、オープン巻線モータ102には所望の電力を供給し続ける。
【0042】
このとき、例えば、離陸時に必要なモータ出力が100kWだとすれば、巡航時モータ出力は50kWとなり、停止するインバータは0kWで、駆動を継続するインバータは50kWを出力する。ステップS3またはステップS13で停止するインバータの変調率をゼロにした後、ステップS4またはS14で停止したインバータの下アームを短絡させることで、バッテリーA300とオープン巻線モータ102間を、インバータ201又は202を介して流れる電流経路をなくして、平滑コンデンサ203、204に意図しない充電が行われるのを防ぎ、ステップS5またはS15で、停止するインバータ201または202の下アームが短絡された後に切替制御部605が停止インバータ201または202側のスイッチ205または206を開放する。
【0043】
インバータ制御部604は、バッテリーA300と平滑コンデンサ203または204に接続されたスイッチ205または206を開放する前に、停止するインバータ201または202の変調率をゼロまで低下させ、駆動するインバータ201または202の変調率をオープン巻線モータ102の要求電圧まで上昇させ、停止するインバータ201または202の出力をゼロにした後、停止するインバータ201または202の下アームを短絡させる。これにより、平滑コンデンサ203または204に意図しない充電が行われることを防ぐことができる。
【0044】
停止インバータ201または202は、スイッチ205または206によってバッテリーA300から開放されても、平滑コンデンサ203、204に蓄えられた電荷の影響で、平滑コンデンサ203、204の電圧はDC電圧とおよそ同等であるため、停止インバータ201または202の半導体スイッチング素子に電圧が印加され続け、宇宙線による偶発故障が発生する。
【0045】
したがって、平滑コンデンサ203、204に蓄えられた電荷を放電し、コンデンサ電圧を0Vにする必要がある。放電電流は停止インバータ201または202を介してオープン巻線モータ102の巻線抵抗で消費する。このとき、モータ電流が0Aとなるタイミングで平滑コンデンサ203または204からオープン巻き線モータ102へ放電電流が流れると、本来流れるべきではない電流であるため、波形歪みに繋がり、電流振動の発生や、意図しない回生が発生する。
【0046】
そのため、ステップS6またはS16にて、インバータ制御部604は、電流センサ401が検出した三相電流が0か否かを判断し、三相電流が0Aではない期間で放電を行う必要があり、つまり、各三相電流の積が0Aではないとき、平滑コンデンサ203、204の放電を行う。モータ電流の積が0Aではなく任意の閾値で下限の電流を設定し、その電流値よりも大きい場合に放電を開始するようにしてもよい。
【0047】
ステップS7またはS17における平滑コンデンサ203、204の放電は、インバータ制御部604が、電圧センサA402またはB403を用いて、平滑コンデンサ203、204の電圧をリアルタイムで検出を行い、0Vとなるまで低下させる。このとき、停止インバータは平滑コンデンサ203、204の放電電流経路確保とY結線として駆動できるようにスイッチング信号を生成する。コンデンサ電圧は、電圧検出用センサを設けずにセンサレスとして、スイッチングパターンから予測してもよい。
【0048】
停止インバータに接続された平滑コンデンサ203、204が放電された後、ステップS8またはS18にて、インバータ制御部604が停止インバータ201または202の下アームを再度短絡させることで、オープン巻線モータ102からインバータ201または202を介して流れるコンデンサ電流経路をなくし、平滑コンデンサに意図しない充電が行われるのを防ぎ、コンデンサ電圧を0Vに維持する。これにより、停止するインバータの宇宙線耐量が向上する。
【0049】
ステップS9またはS19のインバータ停止後は、ステップS10、S11またはステップS20、S21で、インバータ201、202の停止時間あるいは駆動を続けるインバータの電圧印加総時間の測定を巡航が終了するまで行う。巡航が終了すると、ステップS12またはS22で、電圧印加総時間データは、次回の巡航時におけるインバータ停止の判定に用いる(ステップS2)。
【0050】
図5Aおよび
図5Bに本実施例1を用いた場合の運行パターンを示す。
図5Aは往路の運行パターンを示し、
図5Bは復路の運行パターンを示す。
【0051】
図5Aおよび
図5Bにおいて、飛行体501が地点Aから地点Bに移動する際および地点Bから地点Aに移動する際には、離陸時にはインバータ2台でオープン巻線モータ102を駆動する。上昇時になると、インバータ制御装置400でインバータ201および202のうちの1台を停止させ、巡行時から下降時まで1台でオープン巻線モータ102を駆動する。
【0052】
着陸時には、停止しているインバータ201または202を
図3に示した手順の逆手順に従い再起動させ、2台のインバータ201および202でオープン巻線モータ102を駆動する。
【0053】
これにより、モータ出力に応じて高効率に駆動しつつ、高高度を飛行する際のインバータ宇宙線耐量が向上する。
【0054】
以上のように、本発明の実施例1によるインバータ制御装置400は、推力を発生させるプロペラ100にシャフト101を介してオープン巻線化された三相モータ102が接続され、三相モータ102には独立して別々に接続された2台のインバータ201、202と、インバータ201、202の直流部には別々に接続された平滑用コンデンサ203、204と、平滑コンデンサ203、204とバッテリー300の間に接続されたスイッチ205、206と、インバータ201、202を構成する半導体スイッチング素子とスイッチ205、206の両者を制御する。
【0055】
実施例1によるインバータ制御装置600は、巡航時におけるオープン巻線モータ102の出力が、垂直離着陸時におけるモータ出力の約半分であることに着目して、巡航時には2台のインバータ201、202のうち1台のみでオープン巻線モータ102を駆動する。このとき、停止するインバータ201または202は、巡航時において2台のインバータ201および202の半導体スイッチング素子に印加される電圧の総時間が等しくなるように、2台のうち印加電圧総時間が長いインバータ201または202を停止する。
【0056】
インバータ201または202を停止するためには、平滑用コンデンサ203または204とバッテリーA300の間に接続されたスイッチ205又は206を開放する前に、停止するインバータ201または202の変調率を制御してゼロまで低下させ、駆動を続けるインバータ201または202の変調率を不足分だけ上げることにより、オープン巻線モータ102に所望の駆動を継続しながら、停止インバータ201または202の出力をゼロにする。
【0057】
これにより、停止インバータ201側または202側のスイッチ205又は206の開放時に発生するサージを最小限にする。その後、停止インバータ201または202の下アームは短絡させることで、バッテリー300とオープン巻線モータ102間を、インバータ202または202を介して流れる電流経路をなくして、停止インバータ201側または202側のスイッチ205または206を開放する。
【0058】
停止インバータ201側または202側のスイッチ205または206の開放後、コンデンサ203または204に蓄えられた電荷によってコンデンサ電圧はDC電圧と同等であるため、停止インバータ201または202を制御してコンデンサ203または204に蓄えられた電荷を放電させる。放電電流は、オープン巻線モータ102に流れる三相電流が0Aとならない期間にモータ巻線抵抗で消費させ、停止インバータ201側または202側の平滑コンデンサ203または204の電圧を0Vに制御する。その後、停止インバータ201または202の下アームを再度短絡させることで、オープン巻線モータ102からインバータ201または202を介して流れるコンデンサ電流経路をなくし、コンデンサ203または204の電圧を0Vに維持する。
【0059】
これにより、インバータ201又は202の1台当たりの半導体スイッチング素子への電圧印加時間を半減させる。
【0060】
実施例1によれば、コストの増加およびシステム重量の増加を伴うことなく、インバータの宇宙線耐量を向上することが可能なインバータ制御装置及び制御方法を提供することができる。
【0061】
(実施例2)
次に、本発明の実施例2について説明する。
【0062】
図6は、実施例2によるインバータ制御装置600により制御される飛行体の推進システム1Aの構成を示す概略構成図である。
【0063】
実施例2のインバータ制御装置600により制御される推進システム1Aは、インバータA201及びインバータB202が別々の独立したバッテリーA300およびバッテリーB301(電源)に接続されている。航空向けの用途では、バッテリー冗長化で本実施例2のような構成が望ましい場合がある。
【0064】
実施例2におけるインバータ制御装置600の構成及び動作は、
図2に示した構成と同様であるので、説明は省略する。
【0065】
実施例2においても、実施例1と同様な効果を得ることができる。
【0066】
(実施例3)
次に、本発明の実施例3について説明する。
【0067】
図7は、実施例3によるインバータ制御装置600により制御される飛行体の推進システム1Bの構成を示す概略構成図である。
【0068】
実施例3のインバータ制御装置600により制御される推進システム1Bは、オープン巻線モータ102の三相巻線両端にインバータA201、インバータB202、インバータC209、インバータD210の計4台接続されている。インバータC209およびインバータD210は、インバータA201やインバータB202と同様な構成となっている。なお、実施例3においては、インバータが4台以上あってもよい。
【0069】
インバータの故障対策をより重視する場合には本実施例3が有効である。インバータの台数が増えるほど、電圧印加総時間を減らすことができる。インバータに接続されるバッテリーはそれぞれ独立であってもよいし、共通で接続してもよいし、2台のインバータを1組として、1台のバッテリーを接続するようなグループ構成としてもよい。
【0070】
実施例3におけるインバータ制御装置600の構成及び動作は、
図2に示した構成と同様であるので、説明は省略する。
【0071】
実施例3によれば、実施例1と同様な効果を得ることができる他、個々のインバータへの電圧印加総時間を減らすことができ、故障発生率を低減することができる。
【0072】
(実施例4)
次に、本発明の実施例4について説明する。
【0073】
図8Aおよび
図8Bは、実施例4によるインバータ制御装置600により制御される飛行体の運行パターンを示す図である。
【0074】
離陸時および着陸時と、それ以外の飛行モードで、使用するプロペラあるいはモータが異なる飛行体である航空機において、インバータ制御部604は、上昇時には2台のインバータ201および202でオープン巻線モータ102を駆動し、巡航時および下降時にはインバータを1台停止させ、1台のインバータでモータを高効率に駆動する。インバータ制御部604は、複数のインバータ201、202のうち、往路で停止したインバータ202は復路では駆動し、往路で駆動したインバータ201は復路では停止する。
【0075】
離陸時および着陸時は、上昇時、巡航時および下降時に用いたプロペラあるいはモータとは、異なるプロペラあるいはモータを使用する。
【0076】
実施例4におけるインバータ制御装置600の構成及び動作は、
図2に示した構成と同様であるので、説明は省略する。
【0077】
実施例4によれば、離陸時および着陸時と、それ以外の飛行モードで、使用するプロペラあるいはモータが異なる飛行体についても、実施例1と同様に、個々のインバータへの電圧印加総時間を減らすことができ、故障発生率を低減することができる。
【0078】
(実施例5)
次に、本発明の実施例5について説明する。
【0079】
図9は、実施例5の運行パターンを示す図である。
図9に示した運行パターンは、複数の目的地を経由する場合であっても電圧印加総時間に基づき、インバータの停止を判定する。例えば、4つの地点A、地点B、地点Cおよび地点Dを巡航する飛行パターンの場合、地点Aから地点BはインバータB202を停止し、地点Bから地点CはインバータA201を停止し、地点Cから地点DはインバータB202を停止し、地点Dから地点AはインバータA201を停止する。
【0080】
つまり、往路および復路ではない場合であって、複数の目的地を経由する場合であっても、電圧印加総時間に基づきインバータの停止を判定するので、実施例1と同様な効果を得ることができる。
【0081】
なお、実施例5においては、実施例1~4の動作制御のいずれを用いてもよい。
1、1A、1B・・飛行体の推進システム、100・・・プロペラ、101・・・シャフト、102・・・オープン巻線モータ、201・・・インバータA、202・・インバータB、203・・・平滑コンデンサA、204・・・平滑コンデンサB、205・・・スイッチA、206・・・スイッチB、207・・・インバータD、208・・・インバータE、209・・・スイッチC、210・・・スイッチD、300・・・バッテリーA(電源)、301・・・バッテリーB(電源)、401・・・電流センサ、402・・・電圧センサA、403・・・電圧センサB、500・・・飛行体制御装置、501・・・飛行体、600・・・インバータ制御装置、601・・・タイマー、602・・・電圧印加総時間判定部、603・・・運行パターン判定部、604・・・インバータ制御部、605・・・切替制御部、606・・・表示部