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特開2024-173397ビールテイスト飲料およびビールテイスト飲料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173397
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】ビールテイスト飲料およびビールテイスト飲料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12C 5/02 20060101AFI20241205BHJP
   C12C 11/11 20190101ALI20241205BHJP
   C12H 3/00 20190101ALI20241205BHJP
   A23L 3/3499 20060101ALI20241205BHJP
   C12G 3/04 20190101ALI20241205BHJP
   C12C 3/12 20060101ALI20241205BHJP
   C12C 3/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C12C5/02
C12C11/11
C12H3/00
A23L3/3499
C12G3/04
C12C3/12
C12C3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091788
(22)【出願日】2023-06-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年5月22日にウェブサイトで公開された、学会「2023 ASBC Meeting」の講演予稿集(https://events.rdmobile.com/Lists/Details/1829431)
(71)【出願人】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】稲田 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】下川 正貴
【テーマコード(参考)】
4B021
4B115
4B128
【Fターム(参考)】
4B021LA03
4B021LA04
4B021LA33
4B021LW06
4B021LW10
4B021MC01
4B021MK02
4B021MK05
4B021MK19
4B021MP01
4B021MQ04
4B115LH11
4B128CP11
4B128CP16
4B128CP22
4B128CP29
4B128CP32
4B128CP33
4B128CP38
4B128CP39
(57)【要約】
【課題】苦味が抑制されながら、静菌性及び飲み応えに優れたビールテイスト飲料を提供すること。
【解決手段】2ppm以上6ppm未満のイソα酸濃度、1v/v%以上5v/v%未満のアルコール濃度、及び4.2を超えて5.0以下のpHを有する、ビールテイスト飲料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2ppm以上6ppm未満のイソα酸濃度、1v/v%以上5v/v%未満のアルコール濃度、4.2を超えて5.0以下のpHを有する、ビールテイスト飲料。
【請求項2】
麦汁発酵液を含む、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
50%以上の麦芽比率を有する、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項4】
2~4v/v%のアルコール濃度を有する、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項5】
0.11MPa以上の20℃における炭酸ガス圧を有する、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項6】
麦汁発酵液は80%以上の外観最終発酵度を有する、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項7】
水で希釈された麦汁発酵液を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項8】
イソα酸濃度を2ppm以上6ppm未満に調整すること;
アルコール濃度を1v/v%以上5v/v%未満に調整すること;
pHを4.2を超えて5.0以下に調整すること;
を含む、ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項9】
イソα酸濃度を2ppm以上6ppm未満に調整すること;
アルコール濃度を1v/v%以上5v/v%未満に調整すること;
pHを4.2を超えて5.0以下に調整すること;
を含む、ビールテイスト飲料の静菌方法。
【請求項10】
静菌される微生物は、Sporolactobaclllus属細菌、Bacillus coagulansおよびClostridium pasteurianumを含む、請求項9に記載のビールテイスト飲料の静菌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビールテイスト飲料に関し、特に、苦味が抑制されたビールテイスト飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールは独特の苦味や香味を有している。ビールとは、麦芽、ホップ、及び水を原料として、これらを、酵母を用いて発酵させて得られる飲料をいう。ビールテイスト飲料は、味及び香りがビールを想起させる程度に同様になるように設計された飲料をいう。ビールテイスト飲料の具体例には、ビール、発泡酒、雑酒、リキュール類、スピリッツ類、低アルコール飲料などであって、ビールを想起させる風味を有するものが含まれる。
【0003】
苦味の強いビールテイスト飲料は、その苦味が後を引いて口の中に残り、ビールの爽快感、後味のさっぱり感、キレのよさ等を損なう結果となり、ビールの嗜好性やドリンカビリティが低下するといった問題がある。そこで、ホップの使用量を少なくして苦味を低減したビールテイスト飲料が検討されている。
【0004】
また、深酔いしにくく、健康に与える影響が小さいという理由から、アルコール濃度が低いビールテイスト飲料が注目されている。そのような低アルコールビールテイスト飲料は、一般に、アルコール濃度が約4v/v%以下である。
【0005】
特許文献1には、原材料にホップを用いないビールテイスト飲料では、ホップの抗菌作用を利用できないため、微生物の殺菌が必要となる場合があり、例えば加熱工程が行われることが記載されている。特許文献1では、原材料にホップを用いないビールテイスト飲料において、リナロール等の香気成分を含有させることで、加熱工程による不快な香りがマスキングされて、優れた香味を有するビールテイスト飲料が提供されている。
【0006】
特許文献2には、ホップには殺菌作用があるため、ホップを微量しか含まない又は一切含まないビールテイスト飲料は、微生物が増殖しやすくなることが問題となることが記載されている。特許文献2では、発酵ビールテイスト飲料のpHを4.2以下に下げることで、ホップの使用量が少なくても又はホップを一切使用しなくても、微生物の増殖を抑制できる発酵ビールテイスト飲料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2022-42518号公報
【特許文献2】特開2020-80792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
原料としてホップを使用しないビールテイスト飲料は、ホップによる抗菌作用が低減する。また、低アルコールビールテイスト飲料は、アルコールによる抗菌作用が低減する。その結果、かかるビールテイスト飲料は、微生物増殖の可能性が高まってしまう。腐敗防止の観点から、ビールテイスト飲料は、市場に流通させる製品として十分な静菌性を有する必要がある。
【0009】
ホップの使用量が少ない又はアルコール濃度が低いビールテイスト飲料は、酸等のpH調整剤を添加することで、静菌性を向上させることができる。しかしながら、pHを十分に低下させたビールテイスト飲料は酸味が強く、飲み応えに乏しく、嗜好性に劣ったものになる。
【0010】
本発明は、前記課題を解決するものであり、その目的とするところは、苦味が抑制されながら、静菌性及び飲み応えに優れたビールテイスト飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下の態様を提供する。
【0012】
[形態1]2ppm以上6ppm未満のイソα酸濃度、1v/v%以上5v/v%未満のアルコール濃度、4.2を超えて5.0以下のpHを有する、ビールテイスト飲料。
【0013】
[形態2]麦汁発酵液を含む、形態1のビールテイスト飲料。
【0014】
[形態3]50%以上の麦芽比率を有する、形態1又は2のビールテイスト飲料。
【0015】
[形態4]2~4v/v%のアルコール濃度を有する、形態1~3のいずれかのビールテイスト飲料。
【0016】
[形態5]0.11MPa以上の20℃における炭酸ガス圧を有する、形態1~4のいずれかのビールテイスト飲料。
【0017】
[形態6]麦汁発酵液は80%以上の外観最終発酵度を有する、形態1~5のいずれかのビールテイスト飲料。
【0018】
[形態7]水で希釈された麦汁発酵液を含む、形態1~6のいずれかのビールテイスト飲料。
【0019】
[形態8]イソα酸濃度を2ppm以上6ppm未満に調整すること;
アルコール濃度を1v/v%以上5v/v%未満に調整すること;
pHを4.2を超えて5.0以下に調整すること;
を含む、ビールテイスト飲料の製造方法。
【0020】
[形態9]イソα酸濃度を2ppm以上6ppm未満に調整すること;
アルコール濃度を1v/v%以上5v/v%未満に調整すること;
pHを4.2を超えて5.0以下に調整すること;
を含む、ビールテイスト飲料の静菌方法。
【0021】
[形態10]静菌される微生物は、Sporolactobacillus属細菌、Bacillus coagulansおよびClostridium pasteurianumを含む、形態9のビールテイスト飲料の静菌方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、苦味が抑制されながら、静菌性及び飲み応えに優れたビールテイスト飲料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。さらに本明細書の数値範囲の上限、及び下限は当該数値を任意に選択して、組み合わせることが可能である。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、ビールテイスト飲料及びその製造方法を例示するものであって、本発明は、以下に示すビールテイスト飲料及びその製造方法に限定されない。
【0024】
<アルコール>
本発明のビールテイスト飲料は、低アルコールビールテイスト飲料に対する需要を考慮して、通常のビール様飲料よりもやや少ない量でアルコールを含む。「アルコール」という文言はエタノールを意味する。
【0025】
本明細書において低アルコールビール様飲料は、1v/v%以上5v/v%未満、好ましくは1~4v/v%、より好ましくは2~4v/v%、更に好ましくは2.5~3.5v/v%のアルコール濃度を有する。
【0026】
<ホップ由来成分>
本発明のビールテイスト飲料は、特定範囲の量でホップ又はホップ由来成分を含む。ホップ由来成分の好ましい具体例としては、イソα酸が挙げられる。そのことでビールテイスト飲料の苦味が抑制されて、飲用した際に苦味が感じられなくなる。また、そのことで、市場に流通させる製品として十分な静菌性を有することができる。
【0027】
本発明のビールテイスト飲料のイソα酸濃度は2ppm以上6ppm未満である。イソα酸濃度が2ppm未満であると、ビールテイスト飲料の微生物に対する耐久性が不十分になり、6ppm以上になると、飲用した際に苦味が感じられるようになる。本発明のビールテイスト飲料のイソα酸濃度は、好ましくは2~5ppm、より好ましくは2.5~4ppm、更に好ましくは2.5ppm以上3ppm未満である。
【0028】
本明細書において、イソα酸濃度は、改訂BCOJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集2013年増補改訂)の「7.13 イソα酸、α酸-HPLC法-」に記載の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析法により測定された値を意味する。
【0029】
また、イソα酸濃度は、ホップの種類、添加量、及び製造工程における添加のタイミングを適宜調整することにより制御でき、また、イソα酸を添加することによって調整してもよい。
【0030】
<pH>
本発明のビールテイスト飲料は、4.2を超えて5.0以下のpHを有する。つまり、pHはそれほど低下させる必要がない。その結果、pH調整剤として酸の使用量が減少し、原料の麦芽使用量を増大させることができるので、ビールテイスト飲料の酸味が弱くなり、旨味やコク感が強くなり、飲み応えが向上する。ビールテイスト飲料のpHが5.0を超えると、微生物に対する耐久性が不十分になる。本発明のビールテイスト飲料のpHは、より好ましくは4.3~4.8、更に好ましくは4.4~4.6である。ここで、ビールテイスト飲料のpHは、最終製品としてのpHである。
【0031】
ビールテイスト飲料のpHは、製造工程のいずれかの時点において、pH調整剤を含有させることで調整することができる。pH調整剤は、例えば、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸及び酢酸からなる群より選択される少なくとも一種であってよい。中でも好ましいpH調整剤は、リン酸又は乳酸である。
【0032】
<麦汁発酵液>
本発明のビールテイスト飲料は、好ましくは、麦汁発酵液を含む。ビールテイスト飲料が麦汁発酵液を含むことで、ビールテイスト飲料にビールらしい複雑味、飲みごたえ感及びボディ感が付与される。麦汁発酵液とは、麦汁をビール酵母で発酵させて得られる液体である。本発明でいう麦汁は、通常のビールを製造する際に使用される麦汁を意味し、これには麦芽、及び必要に応じてホップが含まれる。
【0033】
麦汁発酵液は、例えば、以下の方法によって製造することができる。まず、麦芽の破砕物、大麦等の副原料、及び温水を仕込槽に加えて混合してマイシェを調製する。マイシェの調製は、常法により行うことができ、例えば、はじめに35~60℃で20~90分間保持することにより原料に由来するタンパク質をアミノ酸等へ分解し、糖化工程へ移行する。その際、必要に応じて、主原料と副原料以外に、トランスグルコシダーゼ等の酵素、並びにスパイス及びハーブ類等の香味成分等が添加される。
【0034】
その後、該マイシェを徐々に昇温して所定の温度で一定期間保持することにより、麦芽由来の酵素やマイシェに添加した酵素を利用して、澱粉質を糖化させる。糖化処理時の温度や時間は、用いる酵素の種類やマイシェの量、目的とする麦汁発酵液の品質等を考慮して、適宜決定することができ、例えば、60~72℃にて30~90分間保持することにより行うことができる。糖化処理後、76~78℃で10分間程度保持した後、マイシェを麦汁濾過槽にて濾過することにより、透明な糖液を得る。また、糖化処理を行う際に、酵素を必要な範囲で適当量添加してもよい。
【0035】
糖化に供される原料、即ち澱粉質原料は麦芽を含む。糖化に供される原料中の麦芽の含有量は、ビールらしい香味を低減させない観点から、50%以上、好ましくは67%以上、より好ましくは70%以上である。糖化に供される原料は麦芽比率100%であってもよい。麦芽比率とは、水とホップを除く全原料に対する麦芽の割合(w/w%)である。麦芽比率が高いほど、得られるビールテイスト飲料の麦芽由来の旨味やコク感が強くなる。また、麦芽比率が高いほど得られる麦汁中の窒素化合物の含有量が多くなり、麦汁が発酵に供される場合に発酵不順が発生しにくくなり、ビールテイスト飲料に不快臭が発生し難くなる。
【0036】
副原料とは、麦芽とホップ以外の原料を意味する。該副原料として、例えば、大麦、小麦、コーンスターチ、コーングリッツ、米、こうりゃん等の澱粉質原料や、液糖や砂糖等の糖質原料がある。ここで、液糖とは、澱粉質を酸又は糖化酵素により分解、糖化して製造されたものであり、主にグルコース、マルトース、マルトトリオース等が含まれている。その他、香味を付与又は改善することを目的として用いられるスパイス類、ハーブ類、及び果物等も、副原料に含まれる。
【0037】
糖化酵素とは、澱粉質を分解して糖を生成する酵素を意味する。該糖化酵素として、例えば、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルナラーゼ等がある。
【0038】
麦汁煮沸の操作は、ビールを製造する際に通常行われる方法及び条件に従って行えばよい。例えば、pHを調整した糖液を煮沸釜に移し、煮沸する。糖液の煮沸開始時から、ワールプール静置の間に、ホップを添加する。ホップとして、ホップエキス又はホップから抽出した成分を使用してもよい。糖液は次いでワールプールと呼ばれる沈殿槽に移し、煮沸により生じたホップ粕や凝固したタンパク質等を除去した後、プレートクーラーにより適切な温度まで冷却する。
【0039】
上記麦汁煮沸までの操作により、麦汁が得られる。得られた麦汁を酵母により発酵させて、麦汁発酵液が得られる。麦汁の発酵は常法に従って行えばよい。例えば、冷却した麦汁にビール酵母を接種して、発酵タンクに移し、アルコール発酵を行うことができる。
【0040】
麦汁は、好ましくは9~20w/w%の原麦汁エキス濃度を有する。そのことで、酵母による発酵が適切に進むという利点が得られる。麦汁の原麦汁エキス濃度は、より好ましくは10~17w/w%であり、更に好ましくは11~15w/w%である。
【0041】
原麦汁エキス濃度は、例えば、改訂BCOJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集2013年増補改訂)の8.3.4SCABA法に記載されている方法によって測定することができる。
【0042】
麦汁発酵液の外観最終発酵度は、ビールらしいドリンカビリティを得る観点から、80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは88~110%に調整する。
【0043】
発酵度とは、発酵後のビールにおいて、どれだけ発酵が進んだか、発酵の進み方を示す重要な指標である。そして、さらに最終発酵度とは、原麦汁エキスに対して、ビール酵母が資化可能なエキスの割合を意味する。ここで、ビール酵母が資化可能なエキスとは、原麦汁エキスから、製品ビールに含まれるエキス(即ち、ビール酵母が利用可能なエキスをすべて発酵させた後に残存するエキス(最終エキスという))を差し引いたものである。外観最終発酵度とは、最終エキスの値に、外観エキス、即ち、アルコールを含んだままのビールの比重から求めたエキス濃度(w/w%)、を使用して計算した最終発酵度をいう。
【0044】
尚、「エキス」とは、麦汁の蒸発残留固形分をいう。エキスは、主として糖分からなる。エキスの含有量は、原料である麦芽や各種澱粉、糖類の仕込み量を変えることにより調整することができる。ビールテイスト飲料の真正エキス濃度は、例えばEBC法(ビール酒造組合編集:BCOJビール分析法、7.2(2004))により測定することができる。エキスという文言は、文脈に応じて、不揮発性固形分そのもの、不揮発性固形分の量、又は不揮発性固形分の濃度(w/w%)を意味する。
【0045】
麦汁発酵液の外観最終発酵度Vendは、例えば下記式(1)により、求めることができる。
【0046】
Vend(%)={(P-Eend)/P}×100 (1)
[式中、Pは原麦汁エキスであり、Eendは、外観最終エキスである。]
原麦汁エキスPは、製品ビールのアルコール濃度とエキスの値から、Ballingの式に従い、理論上アルコール発酵前の麦汁エキスの値を逆算するものである。具体的には、Analytica-EBC(9.4)(2007)に示される方法により、求めることができる。また、外観最終エキスEendはビールをフラスコに採取し、新鮮な圧搾酵母を多量に添加し、25℃で攪拌しながら、エキスの値がこれ以上低下しなくなるまで発酵させて(24時間)、残存ビール中の外観エキスの値を測定することにより、求めることができる。
【0047】
外観最終エキスEendは、最終エキスのアルコールを含んだ比重から計算されるため、マイナスの値を示すことがある。その結果、外観最終発酵度は100%を超える場合がある。
【0048】
麦汁発酵液の外観最終発酵度は、例えば、原料を糖化させる際の酵素の使用有無、及び、原材料の種類や配合量等の糖化条件を調整することにより、制御することができる。例えば、原料の糖化時間を長くすれば、酵母が使用する事ができる糖濃度を高めることができ、麦汁発酵液の外観最終発酵度を高めることができる。
【0049】
麦汁発酵液は、麦汁上面発酵液であってよく、麦汁下面発酵液であってもよいが、後味をすっきりさせる観点から麦汁下面発酵液であることが好ましい。麦汁上面発酵液とは、麦汁に上面発酵酵母を接種し、通常の発酵条件、例えば15~25℃で数日間発酵させた麦汁発酵液をいう。麦汁下面発酵液とは、麦汁に下面発酵酵母を接種し、通常の発酵条件、例えば10℃前後でおよそ1週間発酵させた麦汁発酵液をいう。
【0050】
ビールテイスト飲料に含まれる麦汁発酵液の量及び濃度は、所望のアルコール濃度又はビールテイストの香味が提供されるように、適宜調整することができる。
【0051】
<炭酸ガス圧>
本発明のビールテイスト飲料は炭酸ガスを含む。本発明のビールテイスト飲料の炭酸ガス圧は、好ましくは0.11~0.30MPaである。そうすることでビールテイスト飲料の微生物に対する耐久性が向上する。本発明のビールテイスト飲料の炭酸ガス圧は、より好ましくは0.14~0.28MPa、更に好ましくは0.17~0.27MPa、特に好ましくは0.23~0.26MPaである。
【0052】
本明細書においては、特に断りがない限り、炭酸ガス圧は、試料温度が20℃における炭酸ガス圧を意味する。低アルコール発酵麦芽飲料の20℃における炭酸ガス圧は当業者に通常知られる方法を用いて測定することができる。
【0053】
<ビールテイスト飲料の製造方法>
本発明のビールテイスト飲料の製造方法は、特定範囲のイソα酸濃度を有するようにホップ又はホップ由来成分の使用量を調整すること以外は、ビールテイスト飲料を製造する際に通常行われる方法及び条件に従って製造される。
【0054】
本発明のビールテイスト飲料の製造方法は、ビールテイスト飲料のアルコール濃度を1v/v%以上5v/v%未満に調整することを含む。ビールテイスト飲料のアルコール濃度は、例えば、麦汁等の処理対象液を希釈して調整することができる。希釈は、例えば、処理対象液に水を添加して行うことができる。ビールテイスト飲料の製造方法において、処理対象液の希釈は、例えば、麦汁煮沸後の冷却工程、発酵工程、熟成工程又はろ過等任意の工程で行うことができる。
【0055】
また、発酵工程前の麦汁中の非発酵性糖質の割合を高めることで発酵工程におけるアルコール発酵を抑制することができる。このようにして発酵により生成されるアルコール量を低減させることで、ビールテイスト飲料のアルコール濃度を低減してもよい。
【0056】
ビールテイスト飲料の製造方法は、公知の装置等を用いた、カラメル色素等を添加する工程、煮沸工程、pH調整工程、ろ過工程、香味調整工程、炭酸ガスを溶解させる工程等をさらに含んでもよい。
【0057】
ビールテイスト飲料の製造方法は、必要に応じて、食物繊維、大豆ペプチド、炭酸、エキス類、香料、酸味料、甘味料、苦味料、着色料、酸化防止剤、pH調整剤、各種栄養成分等を添加する工程をさらに含んでもよい。
【実施例0058】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0059】
<実施例1>
仕込槽に粉砕麦芽と酵素、温水を投入し、55℃付近でタンパク休止を行った後、60℃から76℃の範囲の温度で糖化を行った。この糖化液を濾過槽であるロイターにてろ過し、その後煮沸釜に移してホップペレットを添加し、60分間煮沸した。煮沸後、蒸発分の温水を追加し、ワールプール槽にて熱トルーブを除去した後、プレートクーラーを用いて10℃まで冷却し、原麦汁エキス15w/w%の冷麦汁を得た。
【0060】
この麦汁に酵母を加え、7日間10℃前後で発酵させた後、酵母を除去した。麦汁発酵液の外観最終発酵度は88.0%であった。タンクを移し替えて7日間熟成の後、-1℃付近まで冷却し14日間安定化させた。その後、脱気水を加えてアルコール濃度3.0v/v%に希釈後、珪藻土を用いてろ過し、炭酸ガス圧を0.25MPa(20℃)に調整した。得られた麦芽発酵飲料を試料1とした。
【0061】
試料1にイソ化ホップエキスを添加し、試料2~10を作製した。各試料の組成を表1及び表2に示す。
【0062】
尚、イソ化ホップエキスとは、ホップエキスに触媒としてマグネシウム塩を添加して加熱するイソ化処理を行い、得られたイソα酸等のイソ体を精製したものをいう。イソ化ホップエキスは苦味成分を主成分として含み、実質的に香気成分を含有しないホップエキスである。
【0063】
各試料を約4℃の液温に調温し、苦味の有無、及びコクの有無について、ビール専門のパネリスト10名による官能評価を行った。苦味の有無は以下の基準に従って3段階に評価した。
【0064】
<苦味評価基準>
○(優):苦味がない
△(可):苦味として認識はできないが、苦味がない試料と比べた場合に何らかの味があることが認識できる
×(劣):苦味がある
<コク評価基準>
○(優):コクがある
△(可):コクがやや弱いが、後味が淡泊というほどではない
×(劣):コクがない
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
イソα酸濃度6.0ppm未満の麦芽発酵飲料は苦味が認識されず、イソα酸濃度3.0ppm未満の麦芽発酵飲料は苦味がないことが確認された。
【0068】
<実施例2>
澱粉質原料として、粉砕麦芽(麦芽比率100%)の代わりに、粉砕麦芽、コーンスターチ、コーングリッツ及び米(麦芽比率67%)を使用すること以外は実施例1と同様にして、アルコール濃度3.0v/v%、炭酸ガス圧0.25MPa(20℃)の麦芽発酵飲料を調製した。得られた麦芽発酵飲料を試料11とした。試料11にイソ化ホップエキスを添加し、試料12~20を作製した。各試料の組成を表3及び表4に示す。
【0069】
実施例1と同様にして各試料の官能評価を行った。評価結果を表3及び表4に示す。
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【0072】
イソα酸濃度6.0ppm未満の麦芽発酵飲料は苦味が認識されず、イソα酸濃度3.0ppm未満の麦芽発酵飲料は苦味がないことが確認された。
【0073】
<培養実験1>
(1)培地の調製
STB培地は、酵母エキス2.5g、ペプトン5g、ブドウ糖1gを精製水1Lに加え、作製した。TGCII培地は、L-シスチン0.5g、塩化ナトリウム2.5g、ペプトン15g、酵母エキス5g、ブドウ糖5g、チオグリコール酸ナトリウム0.5g精製水1Lに加え、作製した。pHは5NHClを、イソα酸濃度はイソ化ホップエキス(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)を培地に添加し、調整した。
【0074】
(2)菌液の接種
-80℃で冷凍保存している菌をSTBもしくはTGCIIで前培養し、生理食塩水で希釈して、栄養細胞の菌液を調整した。また、-80℃で冷凍保存している芽胞液を生理食塩水で希釈した後、Paenibacillus属、Clostridium属、及びBacillus属は80℃、Sporolactobacillus属は70℃で10分間ヒートショック処理をして、芽胞の菌液を調整した。
【0075】
調整した菌液をSTBもしくはTGCIIの各培地に接種した。菌液を接種した両培地はpH4.6、エタノール濃度2.5v/v%に調製しており、イソα酸濃度は表5、表6記載のとおりに調製した。
【0076】
菌液接種後30℃、35℃の大気雰囲気下で4週間及び8週間培養し、菌の増殖有無を確認した。
【0077】
(3)菌の増殖結果
結果を表5、表6に示す。表中の「+」は混濁、つまり供試菌が増殖したことを表し、一方「-」は混濁が見られなかった、つまり供試菌が増殖しなかったことを表している。なお、全て供試菌がpH未調整の培地(STB:pH6.8、TGCII:pH7.4)において混濁した。
【0078】
【表5】
【0079】
【表6】
【0080】
培地のpHが4.6、エタノール濃度が2.5v/v%である場合、No.15、16のBacillus shackletoniiを除くすべての供試菌について、イソα酸濃度を3ppm以上に調整することで、静菌可能であることが示された。No.15、16の菌は、イソα酸濃度3ppm及び6ppmの環境下で4週間静菌されていたが、8週間後に増殖していた。しかしながら、Bacillus shackletoniiは嫌気環境下では増殖することができない。容器詰め飲料は密閉した状態で保管されるので、イソα酸の静菌作用が不十分であったとしても、この菌が容器詰め飲料の保存安定性を損なうことはない。
【0081】
<培養実験2>
イソα酸濃度を変更すること以外は培養実験1と同様にして培養実験を行った。ここで、イソα酸濃度は0、1、2、3ppmとした。結果を表7に示す。表中の「+」は混濁、つまり供試菌が増殖したことを表し、一方「-」は混濁が見られなかった、つまり供試菌が増殖しなかったことを表している。なお、全て供試菌がpH未調整の培地(STB:pH6.8、TGCII:pH7.4)において混濁した。
【0082】
【表7】
【0083】
培地のpHが4.6、エタノール濃度が2.5v/v%である場合、すべての供試菌について、イソα酸濃度を2ppm以上に調整することで、静菌可能であることが示された。