(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173399
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】積層造形方法、積層造形装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B23K 9/04 20060101AFI20241205BHJP
B23K 9/095 20060101ALI20241205BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20241205BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20241205BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B23K9/095 501Z
B33Y10/00
B33Y30/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091791
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達也
(72)【発明者】
【氏名】橋本 裕志
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 貴宏
(57)【要約】
【課題】溶加材が溶接ビードに正常に接触しないまま造形を続けることによる造形不良の発生を抑制する。
【解決手段】溶接トーチを移動させながら溶加材を溶融及び凝固させた溶接ビードを複数のパスに沿って積層することにより積層造形物を造形する積層造形方法であって、複数のパスの第1のパスの積層開始位置に溶接トーチを位置させた状態で溶加材が溶接ビードに正常に接触した場合に、新たな溶接ビードを積層する第1の積層工程と、第1のパスの積層開始位置に溶接トーチを位置させた状態で溶加材が溶接ビードに正常に接触しなかった場合に、溶接トーチを、複数のパスの第1のパスに隣接する第2のパスの積層開始位置に近付くように、第1の位置に移動する第1の移動工程と、第1の位置に溶接トーチを位置させた状態で溶加材が溶接ビードに正常に接触した場合に、新たな溶接ビードを積層する第2の積層工程とを含む、積層造形方法。
【選択図】
図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチを移動させながら溶加材を溶融及び凝固させた溶接ビードを複数のパスに沿って積層することにより積層造形物を造形する積層造形方法であって、
前記複数のパスの第1のパスの積層開始位置に前記溶接トーチを位置させた状態で前記溶加材が前記溶接ビードに正常に接触した場合に、新たな溶接ビードを積層する第1の積層工程と、
前記第1のパスの積層開始位置に前記溶接トーチを位置させた状態で前記溶加材が前記溶接ビードに正常に接触しなかった場合に、当該溶接トーチを、前記複数のパスの当該第1のパスに隣接する第2のパスの積層開始位置に近付くように、第1の位置に移動する第1の移動工程と、
前記第1の位置に前記溶接トーチを位置させた状態で前記溶加材が前記溶接ビードに正常に接触した場合に、新たな溶接ビードを積層する第2の積層工程と
を含む、積層造形方法。
【請求項2】
前記積層造形物の造形を制御するための制御情報から、前記複数のパスの情報と、当該複数のパスの各パスの積層開始位置とを取得する取得工程を更に含む、請求項1に記載の積層造形方法。
【請求項3】
前記第1の積層工程は、
前記溶加材が前記溶接ビードに接触した際に検知される電気的信号に基づいて、当該溶加材の当該溶接ビードに対する接触を検知する第1の検知工程と、
前記接触の検知結果に基づいて、前記溶加材が前記溶接ビードに正常に接触したか否かを判定する第1の判定工程と
を含む、請求項1に記載の積層造形方法。
【請求項4】
前記第1の判定工程は、前記接触の検知結果が正常と判定される正常時間区間を参照して、前記溶加材が前記溶接ビードに正常に接触したか否かを判定する、請求項3に記載の積層造形方法。
【請求項5】
前記第1の移動工程は、前記接触が検知された時間と前記正常時間区間との前後関係に基づいて、前記溶接トーチの移動方向を決定する、請求項4に記載の積層造形方法。
【請求項6】
前記第2の積層工程は、
前記溶加材が前記溶接ビードに接触した際に検知される電気的信号に基づいて、当該溶加材の当該溶接ビードに対する接触を検知する第2の検知工程と、
前記接触の検知結果に基づいて、前記溶加材が前記溶接ビードに正常に接触したか否かを判定する第2の判定工程と
を含む、請求項1に記載の積層造形方法。
【請求項7】
前記第2の判定工程は、前記接触の検知結果が正常と判定される正常時間区間を参照して、前記溶加材が前記溶接ビードに正常に接触したか否かを判定する、請求項6に記載の積層造形方法。
【請求項8】
前記第1の位置に前記溶接トーチを位置させた状態で前記溶加材が前記溶接ビードに正常に接触しなかった場合に、当該溶接トーチを第2の位置に移動する第2の移動工程を更に含み、
前記第2の移動工程は、前記接触が検知された時間と前記正常時間区間との前後関係に基づいて、前記溶接トーチの移動方向を決定する、請求項7に記載の積層造形方法。
【請求項9】
前記第1の検知工程又は前記第2の検知工程は、前記接触が検知されると、前記溶加材の送出を停止し、当該溶加材を、前記溶接トーチからの突き出し長さが所定の長さとなるように引き戻す、請求項3乃至請求項8の何れかに記載の積層造形方法。
【請求項10】
前記第1の検知工程又は前記第2の検知工程は、前記溶接トーチの姿勢を変更しながら、前記接触を検知する、請求項3乃至請求項8の何れかに記載の積層造形方法。
【請求項11】
前記積層造形物の造形を制御するための制御情報から、前記溶接ビードの溶接条件を取得する取得工程を更に含み、
前記第2の積層工程は、前記新たな溶接ビードを積層するのに先立ち前記溶接条件を補正する補正工程を含む、請求項1に記載の積層造形方法。
【請求項12】
溶接トーチを移動させながら溶加材を溶融及び凝固させた溶接ビードを複数のパスに沿って積層することにより積層造形物を造形する積層造形装置であって、
前記複数のパスの第1のパスの積層開始位置に前記溶接トーチを位置させた状態で前記溶加材が前記溶接ビードに正常に接触した場合に、新たな溶接ビードを積層する積層処理部と、
前記第1のパスの積層開始位置に前記溶接トーチを位置させた状態で前記溶加材が前記溶接ビードに正常に接触しなかった場合に、当該溶接トーチを、前記複数のパスの当該第1のパスに隣接する第2のパスの積層開始位置に近付くように、所定の位置に移動する移動処理部と
を備え、
前記積層処理部は、前記所定の位置に前記溶接トーチを位置させた状態で前記溶加材が前記溶接ビードに正常に接触した場合に、新たな溶接ビードを積層する、積層造形装置。
【請求項13】
溶接トーチを移動させながら溶加材を溶融及び凝固させた溶接ビードを複数のパスに沿って積層することにより積層造形物を造形する積層造形装置に、
前記複数のパスの第1のパスの積層開始位置に前記溶接トーチを位置させた状態で前記溶加材が前記溶接ビードに正常に接触した場合に、新たな溶接ビードを積層する第1の積層機能と、
前記第1のパスの積層開始位置に前記溶接トーチを位置させた状態で前記溶加材が前記溶接ビードに正常に接触しなかった場合に、当該溶接トーチを、前記複数のパスの当該第1のパスに隣接する第2のパスの積層開始位置に近付くように、所定の位置に移動する移動機能と、
前記所定の位置に前記溶接トーチを位置させた状態で前記溶加材が前記溶接ビードに正常に接触した場合に、新たな溶接ビードを積層する第2の積層機能と
を実現させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形方法、積層造形装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、物品を形成する方法であって、物品の三次元体積モデルの定義である第1のデータファイルをコンピュータメモリ内に構築するステップと、第1のデータファイルを読み取り、3次元ボリュームモデルを分解して、物品の3次元ボリュームモデルを通るツールパスを記述する一連の相対空間座標を含む第2のデータファイルを生成するアルゴリズムを行うコンピュータプログラムを実行するステップと、多軸溶接ロボットを操作して、ワークテーブルに対して溶接ヘッドを位置決めし、相対運動が第2のデータファイルによって定義された経路に従うようにするステップとを組み合わせて含み、溶接ヘッドの動作も制御されて、物品の三次元体積モデルの立体表現を構築するために経路の少なくとも一部をたどる際に溶接ビードを堆積させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、溶加材を溶融及び凝固させた溶接ビードを積層することによって側方へ突出したオーバーハング構造を造形する場合に、溶加材が溶接ビードに正常に接触しないまま造形を続けたのでは、造形不良が発生する可能性がある。
【0005】
本発明の目的は、溶加材が溶接ビードに正常に接触しないまま造形を続けることによる造形不良の発生を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的のもと、本発明は、溶接トーチを移動させながら溶加材を溶融及び凝固させた溶接ビードを複数のパスに沿って積層することにより積層造形物を造形する積層造形方法であって、複数のパスの第1のパスの積層開始位置に溶接トーチを位置させた状態で溶加材が溶接ビードに正常に接触した場合に、新たな溶接ビードを積層する第1の積層工程と、第1のパスの積層開始位置に溶接トーチを位置させた状態で溶加材が溶接ビードに正常に接触しなかった場合に、溶接トーチを、複数のパスの第1のパスに隣接する第2のパスの積層開始位置に近付くように、第1の位置に移動する第1の移動工程と、第1の位置に溶接トーチを位置させた状態で溶加材が溶接ビードに正常に接触した場合に、新たな溶接ビードを積層する第2の積層工程とを含む、積層造形方法を提供する。
【0007】
積層造形方法は、積層造形物の造形を制御するための制御情報から、複数のパスの情報と、複数のパスの各パスの積層開始位置とを取得する取得工程を更に含む、ものであってよい。
【0008】
第1の積層工程は、溶加材が溶接ビードに接触した際に検知される電気的信号に基づいて、溶加材の溶接ビードに対する接触を検知する第1の検知工程と、接触の検知結果に基づいて、溶加材が溶接ビードに正常に接触したか否かを判定する第1の判定工程とを含む、ものであってよい。その場合、第1の判定工程は、接触の検知結果が正常と判定される正常時間区間を参照して、溶加材が溶接ビードに正常に接触したか否かを判定する、ものであってよい。また、その場合、第1の移動工程は、接触が検知された時間と正常時間区間との前後関係に基づいて、溶接トーチの移動方向を決定する、ものであってよい。
【0009】
第2の積層工程は、溶加材が溶接ビードに接触した際に検知される電気的信号に基づいて、溶加材の溶接ビードに対する接触を検知する第2の検知工程と、接触の検知結果に基づいて、溶加材が溶接ビードに正常に接触したか否かを判定する第2の判定工程とを含む、ものであってよい。その場合、第2の判定工程は、接触の検知結果が正常と判定される正常時間区間を参照して、溶加材が溶接ビードに正常に接触したか否かを判定する、ものであってよい。また、その場合、積層造形方法は、第1の位置に溶接トーチを位置させた状態で溶加材が溶接ビードに正常に接触しなかった場合に、溶接トーチを第2の位置に移動する第2の移動工程を更に含み、第2の移動工程は、接触が検知された時間と正常時間区間との前後関係に基づいて、溶接トーチの移動方向を決定する、ものであってよい。
【0010】
その場合、第1の検知工程又は第2の検知工程は、接触が検知されると、溶加材の送出を停止し、溶加材を、溶接トーチからの突き出し長さが所定の長さとなるように引き戻す、ものであってよい。
【0011】
その場合、第1の検知工程又は第2の検知工程は、溶接トーチの姿勢を変更しながら、接触を検知する、ものであってよい。
【0012】
積層造形方法は、積層造形物の造形を制御するための制御情報から、溶接ビードの溶接条件を取得する取得工程を更に含み、第2の積層工程は、新たな溶接ビードを積層するのに先立ち溶接条件を補正する補正工程を含む、ものであってよい。
【0013】
また、本発明は、溶接トーチを移動させながら溶加材を溶融及び凝固させた溶接ビードを複数のパスに沿って積層することにより積層造形物を造形する積層造形装置であって、複数のパスの第1のパスの積層開始位置に溶接トーチを位置させた状態で溶加材が溶接ビードに正常に接触した場合に、新たな溶接ビードを積層する積層処理部と、第1のパスの積層開始位置に溶接トーチを位置させた状態で溶加材が溶接ビードに正常に接触しなかった場合に、溶接トーチを、複数のパスの第1のパスに隣接する第2のパスの積層開始位置に近付くように、所定の位置に移動する移動処理部とを備え、積層処理部は、所定の位置に溶接トーチを位置させた状態で溶加材が溶接ビードに正常に接触した場合に、新たな溶接ビードを積層する、積層造形装置も提供する。
【0014】
更に、本発明は、溶接トーチを移動させながら溶加材を溶融及び凝固させた溶接ビードを複数のパスに沿って積層することにより積層造形物を造形する積層造形装置に、複数のパスの第1のパスの積層開始位置に溶接トーチを位置させた状態で溶加材が溶接ビードに正常に接触した場合に、新たな溶接ビードを積層する第1の積層機能と、第1のパスの積層開始位置に溶接トーチを位置させた状態で溶加材が溶接ビードに正常に接触しなかった場合に、溶接トーチを、複数のパスの第1のパスに隣接する第2のパスの積層開始位置に近付くように、所定の位置に移動する移動機能と、所定の位置に溶接トーチを位置させた状態で溶加材が溶接ビードに正常に接触した場合に、新たな溶接ビードを積層する第2の積層機能とを実現させるためのプログラムも提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、溶加材が溶接ビードに正常に接触しないまま造形を続けることによる造形不良の発生を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施の形態における金属積層造形システムの概略構成例を示す図である。
【
図2】本実施の形態における制御装置のハードウェア構成例を示す図である。
【
図3】本実施の形態における積層計画装置の機能構成例を示すブロック図である。
【
図4】本実施の形態における制御装置の機能構成例を示すブロック図である。
【
図5】狙い位置が積層造形物の最表面に位置している場合の姿勢変更を伴う接触検知の模式図である。
【
図6】狙い位置が積層造形物の中に埋もれている場合の姿勢変更を伴う接触検知の模式図である。
【
図7】狙い位置が積層造形物に対して宙に浮いている場合の姿勢変更を伴う接触検知の模式図である。
【
図8】(a)は狙い位置が積層造形物に対して宙に浮いている場合の接触検知の模式図であり、(b)はこの場合の検知信号の変化を示すグラフである。
【
図9】(a)は狙い位置が積層造形物の最表面に位置している場合の接触検知の模式図であり、(b)はこの場合の各時間区間における検知信号の変化を示すグラフである。
【
図10】(a)は狙い位置が積層造形物の中に埋もれている場合の接触検知の模式図であり、(b)はこの場合の各時間区間における検知信号の変化を示すグラフである。
【
図11】(a)~(c)は、隣接パスを決定する際の第1の状況を示す図である。
【
図12】(a)~(c)は、隣接パスを決定する際の第2の状況を示す図である。
【
図13】本実施の形態における積層計画装置の動作例を示すフローチャートである。
【
図14】本実施の形態における制御装置が行う制御プログラムの実行制御の内容の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
[金属積層造形システムの構成]
図1は、本実施の形態における金属積層造形システム1の概略構成例を示す図である。
図示するように、金属積層造形システム1は、溶接ロボット(マニピュレータ)10と、CAD装置20と、積層計画装置30と、制御装置50とを備える。また、積層計画装置30は、溶接ロボット10を制御する制御プログラムを、例えばメモリカード等のリムーバブルな記録媒体70に書き込み、制御装置50は、記録媒体70に書き込まれた制御プログラムを読み出すことができるようになっている。
【0019】
溶接ロボット10は、複数の関節を有する腕(アーム)11を備え、制御装置50が読み込んだ制御プログラムに従って動作することで溶接作業を行う。また、溶接ロボット10は、腕11の先端に手首部12を介して、積層造形物100を造形するための溶接トーチ13を有している。そして、金属積層造形システム1の場合、溶接ロボット10は、溶加材の一例である軟鋼製の溶接ワイヤ14を溶融しながら、溶接トーチ13を移動させて、積層造形物100を製造する。具体的には、溶接トーチ13は、溶接ワイヤ14を供給しつつ、シールドガスを流しながらアークを発生させて溶接ワイヤ14を溶融及び固化し、母材90上に複数層の溶接ビードを積層して積層造形物100を製造する。尚、ここでは、溶接ワイヤ14を溶融する熱源としてアークを用いるが、レーザやプラズマを用いてもよい。また、溶接ロボット10は、この他に、溶接ワイヤ14を送給する送給装置等も含むが、これについては説明を省略する。
【0020】
CAD装置20は、コンピュータを用いて造形物の設計を行うと共に、設計によって得られた三次元データ(以下、「三次元CADデータ」という)を保持する機能を有している。
【0021】
積層計画装置30は、CAD装置20が保持する三次元CADデータに基づいて積層造形物100の積層計画を作成する。つまり、積層計画装置30は、溶接トーチ13の軌道を決定すると共に、溶接ロボット10が溶接する際の溶接条件を決定する。そして、積層計画装置30は、この決定した軌道に沿って決定した溶接条件で溶接ビードを形成するように溶接ロボット10を制御するための制御プログラムを生成し、この制御プログラムを記録媒体70に出力する。
【0022】
制御装置50は、記録媒体70から制御プログラムを読み込んで保持し、この制御プログラムを動作させる。これにより、制御装置50は、積層計画装置30で作成された積層計画に従って、つまり、積層計画装置30で決定された軌道に沿って、積層計画装置30で決定された溶接条件で溶接ビードを形成するよう、溶接ロボット10を制御する。
【0023】
また、金属積層造形システム1は、図示しないが、積層造形物100を造形のために位置付けるポジショナを備えていてもよい。例えば、中心軸のサポート材(図示せず)の周りに複数層のビードを積層して円柱状の積層造形物100を製造する場合、ポジショナは中心軸を中心として積層造形物100を回転させる回転ポジショナであってよい。或いは、ポジショナは、積層造形物100を直線状に移動させるリニアポジショナであってもよい。
【0024】
更に、金属積層造形システム1は、図示しないが、溶接ロボット10を平行移動させるためのスライダを備えていてもよい。
【0025】
[制御装置のハードウェア構成]
図2は、本実施の形態における制御装置50のハードウェア構成例を示す図である。
図示するように、制御装置50は、例えば汎用のPC(Personal Computer)等により実現され、演算手段であるCPU51と、記憶手段であるメインメモリ52及び磁気ディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)53とを備える。ここで、CPU51は、OS(Operating System)やアプリケーションソフトウェア等の各種プログラムを実行し、制御装置50の各機能を実現する。また、メインメモリ52は、各種プログラムやその実行に用いるデータ等を記憶する記憶領域であり、磁気ディスク装置53は、各種プログラムに対する入力データや各種プログラムからの出力データ等を記憶する記憶領域である。
また、制御装置50は、外部との通信を行うための通信I/F54と、ビデオメモリやディスプレイ等からなる表示機構55と、キーボードやマウス等の入力デバイス56と、記録媒体70に対してデータの読み書きを行うためのドライバ57とを備える。尚、
図2は、制御装置50をコンピュータシステムにて実現した場合のハードウェア構成を例示するに過ぎず、制御装置50は図示の構成に限定されない。
【0026】
また、
図2に示したハードウェア構成は、積層計画装置30のハードウェア構成としても捉えられる。但し、積層計画装置30について述べるときは、
図2のCPU51、メインメモリ52、磁気ディスク装置53、通信I/F54、表示機構55、入力デバイス56、ドライバ57をそれぞれ、CPU31、メインメモリ32、磁気ディスク装置33、通信I/F34、表示機構35、入力デバイス36、ドライバ37と表記するものとする。
【0027】
[本実施の形態の背景]
このような金属積層造形システム1では、側方へ突出したオーバーハング構造を造形する際、積層する狙い位置に高い精度が求められる。狙い位置が適正な位置から外れた場合には、溶接ビードが思わぬ位置に積層されたり、溶接金属が溶け落ちたり、アーク発生不良が生じたりする等、様々な支障をきたすことがある。本明細書では、このように狙い位置が適正な位置から外れることを「すかし」と呼称する。
すかしの発生を防止するためには溶接トーチ13と積層造形物100との位置関係をパス毎に適正な位置関係に保つ必要がある。しかしながら、適正な位置関係は一定ではなく造形するパスの種類や造形の進捗具合等、様々な因子に左右されるため、管理が難しい。また、通常の溶接であれば開先形状を前提に位置合わせを行うことができるが、溶接ビード上では開先のような特徴的な形状がない場合も多いので、適正な狙い位置を自動で探り当てることも難しい。そうなると、作業者が適正な狙い位置を目視で探り当てる等の人手作業が発生し、生産性が低下し易い。
【0028】
そこで、本実施の形態では、すかしの検知から適正な狙い位置の決定までを自動で行うための方法を提案する。
【0029】
[積層計画装置の機能構成]
図3は、本実施の形態における積層計画装置30の機能構成例を示すブロック図である。図示するように、本実施の形態における積層計画装置30は、CADデータ取得部41と、CADデータ分割部42と、積層計画部43と、制御プログラム生成部44と、制御プログラム出力部45とを備える。
【0030】
CADデータ取得部41は、CAD装置20から、積層造形物100の三次元形状を表す三次元CADデータを取得する。
CADデータ分割部42は、CADデータ取得部41が取得した三次元CADデータを複数の層に分割(スライス)することで、各層の形状をそれぞれが表す複数の層形状データを生成する。その際、CADデータ分割部42は、三次元CADデータを複数の層に分割し易い内部形式に変換してもよい。
【0031】
積層計画部43は、CADデータ分割部42が生成した複数の層形状データの各層の高さ及び幅に合ったビードを溶着する際の溶接トーチ13の位置や溶接条件を含む積層計画を生成する。このような積層計画を生成するには、溶接ビードの高さや幅の他、溶接ビードの断面形状を近似するモデルが必要である。これらは測定実験の実測値や、溶着金属量の断面積から計算して推定したものでもよい。例えば、溶接速度やワイヤ送給速度を数条件振って溶着量を変えつつ、ビードオンプレート溶接や鉛直に数層の積層を行い、各々の条件にて1層当たりの高さや幅を測定した結果をデータベース化する。そして、積層する際に積層する所望の高さや幅を満たす溶接速度と溶着量を選択し、測定した結果から各層の推定形状を随時計算し、溶接トーチ13の位置を決める。尚、溶着断面の計算は溶接ワイヤ14の材質や、既に積層した部位の形状の状態によって計算方法を変えるようにしてもよい。この計算方法によって造形物を内包する積層を計画していく。
【0032】
制御プログラム生成部44は、積層計画部43が生成した積層計画に従って溶接を行うように溶接ロボット10を制御するための制御プログラムを生成する。
制御プログラム出力部45は、制御プログラム生成部44が生成した制御プログラムを記録媒体70に出力する。
【0033】
[制御装置の機能構成]
図4は、本実施の形態における制御装置50の機能構成例を示すブロック図である。図示するように、本実施の形態における制御装置50は、制御プログラム取得部61と、制御プログラム記憶部62と、情報取得部63と、接触検知部64と、検知判定部65と、移動制御部66と、実行制御部67と、制御プログラム実行部68とを備える。
【0034】
制御プログラム取得部61は、記録媒体70に記録された制御プログラムを取得する。
制御プログラム記憶部62は、制御プログラム取得部61が取得した制御プログラムを記憶する。
【0035】
情報取得部63は、制御プログラム記憶部62に記憶された制御プログラムから、溶接ビードの積層に関する情報を取得する。
【0036】
具体的には、情報取得部63は、積層される溶接ビードの積層開始位置、積層順序、溶接条件、軌跡情報(軌跡のことを「パス」とも呼称する)等を取得する。積層開始位置とは、各パスに沿って積層を開始する際の溶接トーチ13の位置である。積層順序は、例えば、各溶接ビードのパス番号(i=1,2,3,…)のような番号情報であってよい。溶接条件は、溶接速度、溶接ワイヤ14の送給速度(以下、「ワイヤ送給速度」という)、溶接電流、電圧、トーチ角度、ウィービング等の運棒パターンを含んでよい。また、溶接条件は、モデルに当てはめて得られた関係式によって、ビード高さ、ビード幅等に関連付けられていてもよい。ここで、モデルとしては、公知の如何なるモデルを用いてもよいが、例えば、特開2022-71692号公報の
図4のモデルや、特開2022-93023号公報の
図10(B)のモデルを用いるとよい。また、関係式としては、公知の如何なる関係式を用いてもよいが、例えば、文献1「Inclined slicing and weld-deposition for additive manufacturing of metallic objects with large overhangs using higher order kinematics」(https://www.researchgate.net/publication/299649021)の式(1)、(2)を用いるとよい。文献1の式(1)、(2)では、ワイヤ送給速度Wf及び溶接速度Tsが、ビード高さHeight(in,mm)及びビード幅Width(in,mm)に関連付けられている。
【0037】
また、情報取得部63は、溶接ロボット10の姿勢情報や、ポジショナ、スライダ等の付帯設備を制御するための情報を取得してもよい。
【0038】
本実施の形態では、積層造形物の造形を制御するための制御情報の一例として、制御プログラムを用いている。また、本実施の形態では、制御情報から、複数のパスの情報と、複数のパスの各パスの積層開始位置とを取得する取得工程を実施する取得部の一例として、情報取得部63を設けている。更に、本実施の形態では、制御情報から、溶接ビードの溶接条件を取得する取得工程を実施する取得部の一例として、情報取得部63を設けている。
【0039】
接触検知部64は、情報取得部63が取得した積層開始位置、積層順序等に基づいて、特定パス(i番目のパスとする)の積層開始位置に溶接トーチ13を移動し、その積層開始位置から溶接ロボット10を駆動させて接触検知を行う。
【0040】
具体的には、接触検知部64は、溶接トーチ13から突出する溶接ワイヤ14に微弱な電圧を印加し、その状態で溶接トーチ13をある動作パターンで動かす。そして、接触検知部64は、溶接ワイヤ14が積層造形物100に接触したときに得られる電圧変化又は通電電流を検知することをトリガーとして、溶接ワイヤ14の溶接ビードに対する接触位置の情報を取得する。ここで、動作パターンとしては、公知の如何なる動作パターンを用いてもよいが、例えば、ステッキセンシングやギャップセンシングの動作パターンを用いるとよい。また、接触位置の情報の取得方法としては、公知の如何なる方法を用いてもよいが、例えば、文献2「溶接ロボットへのレーザセンサの応用」(https://www.kobelco.co.jp/technology-review/pdf/54_2/086-090.pdf)に記載された方法を用いるとよい。尚、接触検知部64は、接触が検知された後又は接触が検知されなくても溶接トーチ13が一定距離動作した後は溶接トーチ13を元の積層開始位置に戻す。
【0041】
また、接触検知部64は、溶接トーチ13を動かすのではなく、溶接ワイヤ14を低速で送り出す操作(インチング)を行ってもよい。そして、接触検知部64は、上記と同様の電圧変化又は通電電流を検知することで、溶接ワイヤ14の溶接ビードに対する接触位置の情報を取得してもよい。この場合、接触検知部64は、溶接ワイヤ14の突き出し長さの初期値とインチング速度とから計算される溶接ワイヤ14の送り出し長さを、積層開始位置に加味して接触位置を特定するとよい。ここで、インチング速度から溶接ワイヤ14の送り出し長さを計算する方法としては、公知の如何なる方法を用いてもよいが、例えば、特開2019-76907号公報の
図5に示された方法を用いるとよい。或いは、接触検知部64は、溶接ワイヤ14をインチングさせる際の送給モータのモータ電流値の上昇に基づいて、接触検知を行ってもよい。尚、接触検知部64は、接触が検知された後又は接触が検知されなくても一定の長さのインチングが行われた後は溶接ワイヤ14を引き戻す操作(逆インチング)を行って、元の突き出し長さに戻す。
【0042】
このように例えば接触検知をトリガーにインチング及び逆インチングを制御することで、突出長さを作業員が目視等で管理する手間を省けるようになる。また、溶接トーチ13を動かすよりも検知作業が簡便にかつ短時間で行えるようになる。
【0043】
尚、接触検知部64は、溶接トーチ13の姿勢を変えながら、複数の姿勢で接触検知を行ってもよい。例えば、接触検知部64は、狙い位置を固定した状態で溶接トーチ13の傾斜角を変更してよい。
【0044】
図5~
図7は、姿勢変更を伴う接触検知の模式図である。これらの模式図では、便宜上、ある傾斜角の溶接トーチ13及び溶接ワイヤ14をそれぞれ溶接トーチ13a及び溶接ワイヤ14aとして、別の傾斜角の溶接トーチ13及び溶接ワイヤ14をそれぞれ溶接トーチ13b及び溶接ワイヤ14bとして、示している。
【0045】
図5は、狙い位置P0と実際の積層造形物100の形状との間に大きな乖離が見られない例である。つまり、狙い位置P0が積層造形物100の最表面に位置している。このような場合、溶接トーチ13a,13bから突出する溶接ワイヤ14a,14bは何れも狙い位置P0で積層造形物100に接触するので、溶接トーチ13の姿勢を変えても、同様の接触検知信号が得られる。
【0046】
一方、
図6は、積層造形物100のビード高さやビード幅が過剰に積層されて、狙い位置P1と実際の積層造形物100との間に大きな乖離が見られる例である。つまり、狙い位置P1が積層造形物100の中に埋もれている。このような場合、溶接トーチ13の姿勢によってはインチングする猶予が殆どない等、溶接トーチ13の姿勢の影響が現れ易い。
【0047】
また、
図7は、積層造形物100のビード高さやビード幅が過少に積層されて、狙い位置P2と実際の積層造形物100との間に大きな乖離が見られる例である。つまり、狙い位置P2が積層造形物100に対して宙に浮いている。このような場合、溶接トーチ13の姿勢によってはインチングしても接触が検知されない等、溶接トーチ13の姿勢の影響が現れやすい。つまり、溶接トーチ13aから突出する溶接ワイヤ14aは狙い位置P2の先で積層造形物100に接触するが、溶接トーチ13bから突出する溶接ワイヤ14bは狙い位置P2の先でも積層造形物100に接触しない。
【0048】
このように溶接ビードの端部近くで溶接トーチ13の姿勢を変化させると検知時間が大きく変わるので、溶接ビードの丸みを帯びた端部を正確に把握できるようになる。
【0049】
本実施の形態では、溶加材が溶接ビードに接触した際に検知される電気的信号に基づいて、溶加材の溶接ビードに対する接触を検知する第1の検知工程を実施する検知部の一例として、接触検知部64のこの機能を設けている。また、本実施の形態では、接触が検知されると、溶加材の送出を停止し、溶加材を、溶接トーチからの突き出し長さが所定の長さとなるように引き戻す第1の検知工程を実施する検知部の一例として、接触検知部64のこの機能を設けている。更に、本実施の形態では、溶接トーチの姿勢を変更しながら、接触を検知する第1の検知工程を実施する検知部の一例として、接触検知部64のこの機能を設けている。
【0050】
接触検知部64は、後述するように移動制御部66が溶接トーチ13を移動した後の溶接トーチ13の位置から溶接ロボット10を駆動させて接触検知を行う。接触検知の内容は、上述したものと同様である。
【0051】
本実施の形態では、溶加材が溶接ビードに接触した際に検知される電気的信号に基づいて、溶加材の溶接ビードに対する接触を検知する第2の検知工程を実施する検知部の一例として、接触検知部64のこの機能を設けている。また、本実施の形態では、接触が検知されると、溶加材の送出を停止し、溶加材を、溶接トーチからの突き出し長さが所定の長さとなるように引き戻す第2の検知工程を実施する検知部の一例として、接触検知部64のこの機能を設けている。更に、本実施の形態では、溶接トーチの姿勢を変更しながら、接触を検知する第2の検知工程を実施する検知部の一例として、接触検知部64のこの機能を設けている。
【0052】
検知判定部65は、接触検知部64がi番目のパスの積層開始位置から溶接ロボット10を駆動させて行った接触検知の結果が正常であるか否か(溶接トーチ13が溶接ビードに正常に接触したか否か)を判定する。その際、検知判定部65は、単純には、所定時間、溶接トーチ13を動作又はインチングしても所定の信号が得られない場合、つまり、接触が検知されない場合に、接触検知の結果が正常でないと判定してよい。
【0053】
図8(a)はこのときの接触検知の模式図であり、
図8(b)はこのときの検知信号の変化を示すグラフである。
図8(a)では、狙い位置P2が積層造形物100に対して宙に浮いているため、すかしが発生し、溶接ビード101が溶け落ちている。そして、
図8(b)では、通電電流の大きな変化は観測されていない。
【0054】
また、検知判定部65は、接触検知部64による接触検知の結果が正常であるか否かを更に限定的に判定するために、接触検知の結果が正常であると判定する時間区間を限定してもよい。例えば、正常時間区間と異常時間区間とを設け、検知判定部65は、正常時間区間で所定の信号が検出された場合のみ接触検知の結果が正常であると判定し、それ以外の場合は接触検知の結果が異常であると判定するとよい。
【0055】
図9(a)は狙い位置P0が積層造形物100の最表面に位置している場合の接触検知の模式図であり、
図9(b)はこの場合の各時間区間における検知信号の変化を示すグラフである。この場合、
図9(b)に示すように正常時間区間で所定の信号が検出されるので、検知判定部65は、接触検知の結果が正常であると判定する。
【0056】
図10(a)は狙い位置P1が積層造形物100の中に埋もれている場合の接触検知の模式図であり、
図10(b)はこの場合の各時間区間における検知信号の変化を示すグラフである。この場合、
図10(b)に示すように正常時間区間より前の異常時間区間で所定の信号が検出されるので、検知判定部65は、接触検知の結果が異常であると判定する。
【0057】
このような方法で接触検知の結果を判定することにより、
図8(a)に示したようなケース以外の状況も把握することができ、すかしの判定精度が向上する。
尚、
図8(a)に示したようなケースであっても、インチングを停止するまでの時間を引き延ばせば、接触が検知されることはある。その場合、正常時間区間よりも後の異常時間区間で所定の信号が検出されるので、検知判定部65は、接触検知の結果が異常であると判定することになる。つまり、
図9(b)及び
図10(b)に示した時間区間を限定して判定する手法は、
図8(a)に示したようなケースにも適用可能である。
【0058】
このように時間区間を指定することで、溶接トーチ13と溶接ビードとの位置関係が正常か(計画通りか)否かを精密に判別できるようになる。
【0059】
本実施の形態では、接触の検知結果に基づいて、溶加材が溶接ビードに正常に接触したか否かを判定する第1の判定工程を実施する判定部の一例として、検知判定部65のこの機能を設けている。また、本実施の形態では、接触の検知結果が正常と判定される正常時間区間を参照して、溶加材が溶接ビードに正常に接触したか否かを判定する第1の判定工程を実施する判定部の一例として、検知判定部65のこの機能を設けている。
【0060】
検知判定部65は、後述するように移動制御部66が溶接トーチ13を移動した後の溶接トーチ13の位置から溶接ロボット10を駆動させて行った接触検知の結果が正常であるか否かを判定する。接触検知の結果の判定の内容は、上述したものと同様である。
【0061】
本実施の形態では、接触の検知結果に基づいて、溶加材が溶接ビードに正常に接触したか否かを判定する第2の判定工程を実施する判定部の一例として、検知判定部65のこの機能を設けている。また、本実施の形態では、接触の検知結果が正常と判定される正常時間区間を参照して、溶加材が溶接ビードに正常に接触したか否かを判定する第2の判定工程を実施する判定部の一例として、検知判定部65のこの機能を設けている。
【0062】
移動制御部66は、検知判定部65により接触検知の結果が正常でないと判定された場合、溶接トーチ13を、隣接パス(i-1番目のパス又はi+1番目のパス)の積層開始位置側に移動させる。例えば、i番目のパスの積層開始時における狙い位置を点(xs,ys,zs)とし、隣接パスの積層開始時における狙い位置を点(x’s,y’s,z’s)とする。この場合、移動制御部66は、溶接トーチ13の移動後の狙い位置として、点((xs+x’s)/2,(ys+y’s)/2,(zs+z’s)/2)、つまり、2つの狙い位置の中間位置を選んでよい。
【0063】
尚、移動制御部66は、接触検知の信号が得られた異常時間区間と正常時間区間の前後関係に基づいて、選択する隣接パス、つまり、溶接トーチ13の移動方向を決定してよい。
図11(a)~(c)は、隣接パスを決定する際の第1の状況を示す図である。
例えば、
図11(a)のようにオーバーハングに溶着量が過剰気味に溶接ビードが積層されて当初設定されたi番目のパスの積層開始時における狙い位置P
iが溶接ビード中に埋もれてしまったとする。この場合、
図9(a)の状況よりも溶接トーチ13と溶接ビードとの距離が近いので、接触検知の信号は正常時間区間よりも早く検出され易い。このような場合、移動制御部66は、
図11(b),(c)のように、隣接パスとして、i番目のパスの次のパス(i+1番目のパス)を参照する。つまり、移動制御部66は、溶接トーチ13をi+1番目のパスの積層開始時における狙い位置P
i+1に近付ける。尚、
図11(b)は、溶接トーチ13の移動量が適正だった場合を示しており、
図11(c)は、溶接トーチ13の移動量が大きすぎた場合を示している。
【0064】
図12(a)~(c)は、隣接パスを決定する際の第2の状況を示す図である。
例えば、
図12(a)のようにオーバーハングに溶着量が過少気味に溶接ビードが積層されて当初設定されたi番目のパスの積層開始時における狙い位置P
iが溶接ビードに対して宙に浮いてしまったとする。この場合、
図9(a)の状況よりも溶接トーチ13と溶接ビードとの距離が遠いので、接触検知の信号は正常時間区間よりも遅く検出されるか又は検出されない。このような場合、移動制御部66は、
図12(b),(c)のように、隣接パスとして、i番目のパスの前のパス(i-1番目のパス)を参照する。つまり、移動制御部66は、溶接トーチ13をi-1番目のパスの積層開始時における狙い位置P
i-1に近付ける。尚、
図12(b)は、溶接トーチ13の移動量が適正だった場合を示しており、
図12(c)は、溶接トーチ13の移動量が大きすぎた場合を示している。
【0065】
このように、接触が早く検知される場合は溶接ビードが成長し過ぎている可能性が高いので、溶接トーチ13を次パス側へ移動し、接触が遅く検知される場合は溶接ビードの成長が過少気味と考えられるので、溶接トーチ13を前パス側へ移動する。これにより、積層造形物100の端部を積層位置として捉え易くなる。
【0066】
本実施の形態では、第1のパスの積層開始位置に溶接トーチを位置させた状態で溶加材が溶接ビードに正常に接触しなかった場合に、溶接トーチを、複数のパスの第1のパスに隣接する第2のパスの積層開始位置に近付くように、第1の位置又は所定の位置に移動する第1の移動工程を実施する移動処理部の一例として、移動制御部66のこの機能を設けている。また、本実施の形態では、接触が検知された時間と正常時間区間との前後関係に基づいて、溶接トーチの移動方向を決定する第1の移動工程を実施する移動処理部の一例として、移動制御部66のこの機能を設けている。
【0067】
その後、接触検知部64により接触検知が行われ、検知判定部65により接触検知の結果が正常でないと判定されると、移動制御部66は、同様に2つの狙い位置の中間位置に溶接トーチ13を再度移動させる。移動制御部66は、この一連の動作を繰り返すことで、最終的には溶接トーチ13を、溶接ビードに対して適正な位置関係の位置に移動させることができる。尚、移動制御部66は、この場合も、接触検知の信号が得られた異常時間区間と正常時間区間の前後関係に基づいて、溶接トーチ13の移動方向を決定してよい。
【0068】
本実施の形態では、第1の位置に溶接トーチを位置させた状態で溶加材が溶接ビードに正常に接触しなかった場合に、溶接トーチを第2の位置に移動する第2の移動工程を実施する移動処理部の一例として、移動制御部66のこの機能を設けている。また、本実施の形態では、接触が検知された時間と正常時間区間との前後関係に基づいて、溶接トーチの移動方向を決定する第2の移動工程を実施する移動処理部の一例として、移動制御部66のこの機能を設けている。
【0069】
実行制御部67は、溶接トーチ13を移動させることなく検知判定部65により接触検知の結果が正常であると判定された場合、そのまま制御プログラムを実行する実行命令を制御プログラム実行部68に出力する。
【0070】
また、実行制御部67は、溶接トーチ13を移動させることで検知判定部65により接触検知の結果が正常であると判定された場合、接触検知部64により特定された接触位置に基づいて、制御プログラムにおける溶接条件を補正する。具体的には、実行制御部67は、情報取得部63が取得した狙い位置及び接触検知部64が特定した接触位置と、情報取得部63が取得した溶接条件とに基づいて、制御プログラムが元々予定していたビード高さやビード幅との乖離量を特定する。そして、実行制御部67は、この乖離量を補正する溶接条件(溶接速度やワイヤ送給速度)を算出する。実行制御部67は、この溶接条件の算出に当たって、文献1に記載されたような関係式を用いてよい。或いは、実行制御部67は、溶接条件のデータベースを保持しているのであれば、そのデータベースから補正された溶接条件として新たな溶接条件を選択してもよい。実行制御部67は、その他に、パス数の補正等を行ってもよい。そして、実行制御部67は、補正された溶接条件を用いて制御プログラムを実行する実行命令を制御プログラム実行部68に出力する。
【0071】
本実施の形態では、新たな溶接ビードを積層するのに先立ち溶接条件を補正する補正工程を実施する補正処理部の一例として、実行制御部67のこの機能を設けている。
【0072】
一方、実行制御部67は、適当な溶接条件の補正が行えない場合に、溶接ロボット10の一時停止命令を制御プログラム実行部68に出力してもよい。
【0073】
制御プログラム実行部68は、制御プログラム記憶部62に記憶された制御プログラムを読み出して実行する。これにより、制御プログラム実行部68は、積層計画部43が生成した積層計画に従って溶接ビードを形成するよう、溶接ロボット10を制御する。
その際、制御プログラム実行部68は、実行制御部67からそのまま制御プログラムを実行する実行命令を受信すると、そのまま制御プログラムを実行し、溶接ビードを積層する。
【0074】
本実施の形態では、複数のパスの第1のパスの積層開始位置に溶接トーチを位置させた状態で溶加材が溶接ビードに正常に接触した場合に、新たな溶接ビードを積層する第1の積層工程を実施する積層処理部の一例として、制御プログラム実行部68のこの機能を設けている。
【0075】
また、制御プログラム実行部68は、実行制御部67から補正された溶接条件を用いて制御プログラムを実行する実行命令を受信すると、補正された溶接条件を用いて制御プログラムを実行し、溶接ビードを積層する。
【0076】
本実施の形態では、第1の位置又は所定の位置に溶接トーチを位置させた状態で溶加材が溶接ビードに正常に接触した場合に、新たな溶接ビードを積層する第2の積層工程を実施する積層処理部の一例として、制御プログラム実行部68のこの機能を設けている。
【0077】
一方、制御プログラム実行部68は、実行制御部67から溶接ロボット10の一時停止命令を受信すると、制御プログラムの実行を一時停止し、溶接ビードの積層を一時停止する。
【0078】
尚、情報取得部63、接触検知部64、検知判定部65、移動制御部66、実行制御部67は、溶接ビードを積層する前に必ず機能させてもよいが、オーバーハングにおける溶接ビードの積層等、すかしが特に発生し易いパスに限って機能させてもよい。これにより、すかし判定が生産時間の増加に与える影響を軽減することが可能となる。
【0079】
[積層計画装置の動作]
図13は、本実施の形態における積層計画装置30の動作例を示すフローチャートである。
【0080】
図示するように、積層計画装置30では、まず、CADデータ取得部41が、CAD装置20から三次元CADデータを取得する(ステップ301)。
次に、CADデータ分割部42が、ステップ301で取得された三次元CADデータを複数の層に分割して、層形状データを生成する(ステップ302)。
次いで、積層計画部43が、ステップ302で生成された層形状データから積層計画を生成する(ステップ303)。
その後、制御プログラム生成部44が、ステップ303で生成された積層計画に基づいて、制御プログラムを生成する(ステップ304)。具体的には、積層計画に従ってビードを形成するように溶接ロボット10を制御する制御プログラムを生成する。
最後に、制御プログラム出力部46が、ステップ304で生成された制御プログラムを記録媒体70に出力する(ステップ305)。
【0081】
[制御装置の動作]
制御装置50では、まず、制御プログラム取得部61が、記録媒体70から制御プログラムを取得して制御プログラム記憶部62に記憶する。そして、制御プログラム実行部68が制御プログラム記憶部62に記憶された制御プログラムを読み出してこれを実行する。
その際、制御装置50は、すかし判定及びそれに基づく補正制御のために、制御プログラムの実行制御を行う。
図14は、このような制御プログラムの実行制御の内容の例を示すフローチャートである。
【0082】
図示するように、制御装置50では、まず、情報取得部63が、制御プログラム記憶部62に記憶された制御プログラムから、溶接ビードの積層に関する情報を取得する(ステップ501)。
次に、接触検知部64が、特定パス(i番目のパスとする)の積層開始位置に溶接トーチ13を位置させた状態で接触検知を行う(ステップ502)。そして、検知判定部65が、ステップ502での接触検知の結果が正常であるか否かを判定する(ステップ503)。
その結果、ステップ502での接触検知の結果が正常であると判定されれば、制御プログラム実行部68は、そのまま制御プログラムを実行することにより、溶接ビードを積層する(ステップ509)。
【0083】
一方、ステップ502での接触検知の結果が正常でないと判定されれば、移動制御部66が、溶接トーチ13を、隣接パス(i-1番目のパス又はi+1番目のパス)の積層開始位置側に移動させる(ステップ504)。その際、移動制御部66は、接触検知の信号が得られた異常時間区間と正常時間区間の前後関係に基づいて、溶接トーチ13の移動方向を決定してよい。
次に、接触検知部64が、ステップ504での移動後の位置に溶接トーチ13を位置させた状態で接触検知を行う(ステップ505)。そして、検知判定部65が、ステップ505での接触検知の結果が正常であるか否かを判定する(ステップ506)。
その結果、ステップ505での接触検知の結果が正常でないと判定されれば、検知判定部65は、処理をステップ504へ戻す。
【0084】
一方、ステップ505での接触検知の結果が正常であると判定されれば、実行制御部67が、制御プログラムにおける溶接条件について適当な補正を行えるか否かを判定する(ステップ507)。
その結果、ステップ507で適当な補正を行えると判定した場合、実行制御部67は、溶接条件について補正を行う(ステップ508)。そして、制御プログラム実行部68は、補正された溶接条件を用いて制御プログラムを実行することにより、溶接ビードを積層する(ステップ509)。
一方、ステップ507で適当な補正を行えないと判定した場合、制御プログラム実行部68は、制御プログラムの実行を一時停止することにより、溶接ビードの積層を一時停止する(ステップ510)。
【0085】
[本実施の形態の効果]
本実施の形態では、複数のパスの第1のパスの積層開始位置に溶接トーチを位置させた状態で溶加材が溶接ビードに正常に接触した場合に、新たな溶接ビードを積層し、第1のパスの積層開始位置に溶接トーチを位置させた状態で溶加材が溶接ビードに正常に接触しなかった場合に、溶接トーチを、複数のパスの第1のパスに隣接する第2のパスの積層開始位置に近付くように、第1の位置に移動し、第1の位置に溶接トーチを位置させた状態で溶加材が溶接ビードに正常に接触した場合に、新たな溶接ビードを積層するようにした。これにより、すかしの発生を検知できるだけでなく、適正な積層位置を自動で探索できるようになった。
【符号の説明】
【0086】
1…金属積層造形システム、10…溶接ロボット、20…CAD装置、30…積層計画装置、41…CADデータ取得部、42…CADデータ分割部、43…積層計画部、44…制御プログラム生成部、45…制御プログラム出力部、50…制御装置、61…制御プログラム取得部、62…制御プログラム記憶部、63…情報取得部、64…接触検知部、65…検知判定部、66…移動制御部、67…実行制御部、68…制御プログラム実行部、70…記録媒体