(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001734
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】水まわり部材
(51)【国際特許分類】
B32B 27/18 20060101AFI20231227BHJP
C03C 17/32 20060101ALI20231227BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20231227BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20231227BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20231227BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
B32B27/18 Z
C03C17/32 A
B32B27/30 A
C09D7/61
C09D201/00
C09D133/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100589
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】藤井 亜希
(72)【発明者】
【氏名】森井 勇次
(72)【発明者】
【氏名】畑中 啓司
(72)【発明者】
【氏名】岡安 祐樹
【テーマコード(参考)】
4F100
4G059
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AA01B
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4G059AA01
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4J038PA17
4J038PB05
4J038PC06
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】 良好な抗ウイルス性と耐久性とを兼ね備えた水まわり部材の提供。
【解決手段】 基材と、当該基材上に設けられた表面層とを含む水まわり部材であって、前記表面層は、主成分としてのアクリル樹脂と、粒子と、無機系抗ウイルス剤とを含み、前記粒子は、(メタ)アクリル樹脂を主成分とする粒子であり、前記無機系抗ウイルス剤は、無機系担持体と、当該無機系担持体に担持された無機系の有効成分とを含み、前記表面層の最表面と、当該最表面から前記基材方向へ垂直に深さ2μmの位置との間の領域(以下、「2μm領域」という)であって、かつ、当該2μm領域内にその少なくとも一部が含まれる前記粒子の上方の領域(以下、「対象領域」という)の体積に対する、前記対象領域に含まれる無機系抗ウイルス剤の体積の比率が、20%以上である、水まわり部材。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、当該基材上に設けられた表面層とを含む水まわり部材であって、
前記表面層は、(メタ)アクリル樹脂と、粒子と、無機系抗ウイルス剤とを含み、
前記粒子は、(メタ)アクリル樹脂からなる粒子であり、
前記無機系抗ウイルス剤は、無機系担持体と、当該無機系担持体に担持された無機系の有効成分とを含み、
前記表面層の最表面と、当該最表面から前記基材方向へ垂直に深さ2μmの位置との間の領域(以下、「2μm領域」という)であって、かつ、当該2μm領域内にその少なくとも一部が含まれる前記粒子の上方の領域(以下、「対象領域」という)の体積に対する、前記対象領域に含まれる無機系抗ウイルス剤の体積の比率が、20%以上である、水まわり部材。
【請求項2】
前記表面層の上半分領域に含まれる前記無機系抗ウイルス剤の総体積は、前記表面層の全領域に含まれる前記無機系抗ウイルス剤の総体積に対し70%以上である、請求項1に記載の水まわり部材。
【請求項3】
前記無機系抗ウイルス剤に含まれる無機系担持体の体積平均粒子径は、前記粒子の体積平均粒子径よりも小さい、請求項1に記載の水まわり部材。
【請求項4】
前記表面層の鉛筆硬度は、1H以上である、請求項1に記載の水まわり部材。
【請求項5】
前記粒子の体積平均粒子径は、前記表面層の膜厚より大きい、請求項1に記載の水まわり部材。
【請求項6】
前記表面層の表面粗さRaは、0.1以上である、請求項1に記載の水まわり部材。
【請求項7】
前記表面層の膜厚は、5μm以上20μm以下である、請求項1に記載の水まわり部材。
【請求項8】
前記粒子は前記表面層に埋没している、請求項1に記載の水まわり部材。
【請求項9】
前記表面層に含まれる前記粒子の量は、10重量%以上20重量%以下である、請求項1に記載の水まわり部材。
【請求項10】
前記無機系担持体は、ゼオライト、アパタイト、ジルコニア、リン酸ジルコニウム、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛カルシウム、シリカゲル、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、酸化チタン、チタン酸カリウム、シリカ、アルミナ、溶解性ガラス、チオサルファイトからなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載の水まわり部材。
【請求項11】
前記有効成分は、銀イオン、銅イオン、亜鉛イオンからなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載の水まわり部材。
【請求項12】
前記無機系抗ウイルス剤に含まれる無機系担持体の体積平均粒子径は、前記粒子の平均体積粒子径の半分以下である、請求項1に記載の水まわり部材。
【請求項13】
前記表面層に含まれる前記無機系抗ウイルス剤の量は、0.3重量%以上4重量%以下である、請求項1に記載の水まわり部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水まわり部材に関する。詳細には、抗ウイルス性と耐久性とを兼ね備えた水まわり部材に関する。
【背景技術】
【0002】
水まわり部材に所望の機能を付与するため、水まわり部材の基材の表面に当該機能を有する表面層を設けることが従来より行われている。水まわり部材の表面にはウイルス等の病原体が付着する可能性があり、また人は手などで水まわり部材の表面に触れるため、水まわり部材には良好な衛生性が求められる。他方、衛生性を維持するため水まわり部材は頻繁に清掃に付され、その表面には清掃により生じる負荷(例えば、摺動力)がかかる。このため、水まわり部材には、負荷に耐え得る性能(耐久性)が求められる。
【0003】
例えば、特開2014-233946号公報(特許文献1)には、基材上に親水性の表面層が形成された部材であって、当該表面層が特定サイズの粒子を含むことが記載されている(特許請求の範囲等)。具体的には、表面層は、アクリル樹脂を主成分とする塗膜中に、スルホン酸基を有するメタクリレートと、アクリル樹脂ビーズが含まれたものであることが記載されている(実施例1~5)。特許文献1によれば、アクリル樹脂ビーズ等の粒子は表面層に防滑性を付与するとされている(段落0026、0029等)。また、特開2015-212324号公報(特許文献2)には、水まわり物品の表面層の親水性をさらに向上させるための塗料が提案されており(段落0007等)、具体的には、塗料にスルホン酸基を有するメタクリレートとともに、重合性基と親水性基を有する揮発性化合物(例えば、ヒドロキシメチルメタアクリレート(HEMA))を配合することで、塗膜製造過程においてスルホン酸基を有するメタクリレートの塗膜表面への偏析が促進され、その結果、より高い親水性が得られることが提案されている。
【0004】
特開2019-60119号公報(特許文献3)には、最表面層を有する床材が記載され、この最表面層が、主成分としてのウレタンアクリレートと、粒子成分としての無機粒子(シリカ粒子)および樹脂ビーズ(ウレタンビーズ)と、抗菌剤(Ag-Cu系化合物)とを含むことが具体的に記載されている(段落0062)。特許文献1によれば、ウレタンアクリレートに比べて硬い樹脂ビーズは床材に耐摩耗性を付与し(段落0029等)、無機粒子は床材に艶消し性を付与するとされている(段落0025等)。
【0005】
特開平11-48412号公報(特許文献4)には、化粧材の表面に抗菌性保護層を設けることが記載され(請求項3等)、この保護層が、主成分としてのポリエーテル系ウレタンアクリレートと、球状フィラー(シリカ)と、球状抗菌剤とを含むことが具体的に記載されている(段落0064)。特許文献2によれば、フィラーおよび抗菌剤として球状のものを使用することにより耐摩耗性に優れた化粧材を得ることができるとされている(段落0007等)。また、特許文献2の
図2、3、5によれば、球状フィラーおよび球状抗菌剤はいずれも、保護層内に均一と言える分散状態で存在しているものと理解される。
【0006】
特開2018-202835号公報(特許文献5)には、基材上に有機樹脂層(可視光反射層)を備えた化粧板であって、有機樹脂層には、一部が層内に埋まり、残部が層外に露出した状態で光触媒担持用粒子が存在し、光触媒担持用粒子の露出面に可視光応答型光触媒が担持された化粧板が記載されている(特許請求の範囲、
図2等)。特許文献3によれば、有機樹脂層内に光触媒担持用粒子の一部を埋設することで、有機樹脂層と光触媒担持用粒子の密着性を担保し、また有機樹脂層外に光触媒担持用粒子の残部を露出させ、かつ露出面に可視光応答型光触媒を担持させることで、可視光応答型光触媒の脱落を抑制しつつ、安定した抗ウイルス機能の発現が可能となるとされている(段落0015等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-233946号公報
【特許文献2】特開2015-212324号公報
【特許文献3】特開2019-60119号公報
【特許文献4】特開平11-48412号公報
【特許文献5】特開2018-202835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、水まわり部材に求められる様々な性能を考慮し、(メタ)アクリル樹脂と、(メタ)アクリル粒子を必須に含む表面層において、抗ウイルス性をさらに付与可能な新規な構成の実現を目指した。しかし、当該表面層に無機系抗ウイルス剤を単に添加しても、十分な抗ウイルス性が得られないという新規な課題を見出した。また、表面層の表面の凸部が摺動によって削られてしまうことにより、防滑性が低下することも確認した。これらの課題に対し、本発明者らは、無機系抗ウイルス剤を表面層の表面付近に偏析させることにより、具体的には、無機系抗ウイルス剤を(メタ)アクリル粒子の表面上に又はその上方の領域に偏析させることにより、表面層の耐久性を向上させることが可能であるとともに、表面層に良好な抗ウイルス性も付与できることを見出した。本発明は斯かる知見に基づくものである。
【0009】
したがって、本発明は、良好な抗ウイルス性と耐久性とを兼ね備えた水まわり部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明による水まわり部材は、
基材と、当該基材上に設けられた表面層とを含み、
前記表面層は、(メタ)アクリル樹脂と、粒子と、無機系抗ウイルス剤とを含み、
前記粒子は、(メタ)アクリル樹脂からなる粒子であり、
前記無機系抗ウイルス剤は、無機系担持体と、当該無機系担持体に担持された無機系の有効成分とを含み、
前記表面層の最表面と、当該最表面から前記基材方向へ垂直に深さ2μmの位置との間の領域(以下、「2μm領域」という)であって、かつ、当該2μm領域内にその少なくとも一部が含まれる前記粒子の上方の領域(以下、「対象領域」という)の体積に対する、前記対象領域に含まれる無機系抗ウイルス剤の体積の比率が、20%以上であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、良好な抗ウイルス性と耐久性とを兼ね備えた水まわり部材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明による水まわり部材の一例を示す模式図である。
【
図2】本発明による水まわり部材が含む表面層における「2μm領域」および「特定領域」を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
水まわり部材
本発明による水まわり部材の一例について、
図1を参照しつつ説明する。水まわり部材1は、基材2と、基材2上に設けられた表面層3とを含む。表面層3は、(メタ)アクリル樹脂4と、粒子5と、無機系抗ウイルス剤6とを含む。
【0014】
表面層
表面層3について以下に説明する。
【0015】
無機系抗ウイルス剤の表面層における存在状態
本発明において、表面層の最表面7と、最表面7から基材方向へ垂直に深さ2μmの位置との間の領域(以下、「2μm領域」という)であって、かつ、2μm領域内にその少なくとも一部が含まれる粒子5の上方の領域(以下、「対象領域」という)の体積に対する、対象領域に含まれる無機系抗ウイルス剤6の体積の比率(以下、「粒子5と表面層3の最表面7との間の領域に存在する無機系抗ウイルス剤6の体積比率」ともいう)は、20%以上である。好ましくは、30%以上である。これにより、無機系抗ウイルス剤6は粒子5の表面上または上方に、つまり表面層3の表面付近の領域に、高い体積率で存在している状態が可能とされる。本発明の一つの態様において、表面層3において、無機系抗ウイルス剤6は、粒子5と表面層の最表面7との間の領域に、粒子5を覆うように、高い体積率で存在していることが好ましい。
【0016】
粒子5と表面層3の最表面7との間の領域に存在する無機系抗ウイルス剤6の体積比率が20%以上であることにより、表面層3は、良好な抗ウイルス性を発現することができる。さらに、無機系抗ウイルス剤6は、無機系担持体に有効成分が担持されたものであるため、無機系担持体に起因する高い硬度を有する。したがって、粒子5の表面上または上方に高い硬度を有する無機系抗ウイルス剤6が高い体積率で存在しているため、表面層3の耐久性を高めることも可能となる。以上より、本発明による水まわり部材1は、良好な抗ウイルス性と耐久性とを兼ね備えることができる。
【0017】
<無機系抗ウイルス剤の表面層における存在状態の確認方法>
無機系抗ウイルス剤6の表面層3における存在状態は、水まわり部材1の断面の走査電子顕微鏡(SEM)画像を解析することで確認することができる。例えば、以下の方法で存在状態を確認することができる。
【0018】
<断面観察>
水まわり部材1を適当なサイズにカットし、BUEHLER製UniClipで挟み込んだ状態で、三啓製埋込用クリアリング(外径:1.25インチ)のホルダーの片面に透明梱包用テープ(スリーエムジャパン製、Scotch 315)を貼り付け、ホルダー内のテープを貼り付けた部分に、サンプルを挟んだクリップを垂直となるように設置する。サンプルが設置されたホルダー内に、ケメットジャパン製テクノビット主剤とケメットジャパン製テクノビット硬化剤が1:2となるように配合し、攪拌した溶液を流し込む。その後、脱泡処理を行う。具体的には、真空チャンバーへ設置し、真空ポンプULVAC製G-50SAにて減圧し、気圧0.09MPa環境下にて5分間静置する。その後、30℃環境下で16時間静置して硬化させる。サンプルが埋め込まれた硬化エポキシ樹脂(以下、包埋樹脂という)をホルダーから取り出して、研磨機(PRESI製Mecatech250)にて、#600研磨紙で約2mm削り、サンプルを包埋樹脂から露出させる。その後、ダイヤモンド粒子(9μm)を含んだ水溶液でバフ研磨し、次いでダイヤモンド粒子(3μm)を含んだ水溶液でバフ研磨し、次いでアルミナ研磨剤(φ0.5μm)を含んだ水溶液でバフ研磨し、サンプルの鏡面断面を得る。
【0019】
得られた鏡面断面を、卓上走査電子顕微鏡(日本電子製JCM-7000)にて観察し、表面層と基材との界面が観察像の下側に位置しかつ観察像に対して水平となる状態で、反射電子像を撮影し、断面の観察像を得る。この断面の観察像を使用し、粒子5と表面層3の最表面7との間の領域に存在する無機系抗ウイルス剤6の体積比率を求める。
【0020】
<粒子と表面層の最表面との間の領域に存在する無機系抗ウイルス剤の体積比率>
本発明において、粒子5と表面層3の最表面7との間の領域に存在する無機系抗ウイルス剤6の体積比率は、上記断面観察で得られた断面観察像を用いて以下に説明する方法で算出される。具体的には、粒子5と表面層3の最表面7との間の領域に存在する無機系抗ウイルス剤6の面積比率(c’)により定義される。すなわち、断面観察像における、粒子5と表面層3の最表面7との間の領域に存在する無機系抗ウイルス剤6の面積比率を、(実際の)表面層3における、粒子5と表面層3の最表面7との間の領域に存在する無機系抗ウイルス剤6の体積比率とみなす。
【0021】
面積比率(c’)の算出方法について説明する。まず、断面観察像において、表面層3の最表面7と、当該最表面7から基材方向へ垂直に深さ2μmの位置との間の領域(2μm領域)を特定する。次に、2μm領域内に、その少なくとも一部が含まれる粒子を特定する(以下、「特定粒子」ともいう)。そして、2μm領域内であって且つ特定粒子の上方の領域、つまり特定粒子の表面のうち2μm領域内に含まれる表面から表面層3の最表面7までの領域(対象領域)の面積(a)を求める。
図2に、2μm領域、対象領域の概念図を示す。さらに、対象領域に存在する全ての無機系抗ウイルス剤6の面積(b)を求める。
【0022】
ここで、断面観察像において、対象領域を輝度に基づき白黒に2値化し、白い領域を無機系抗ウイルス剤6が存在する領域と判断する。断面観察像において、無機系抗ウイルス剤6は、表面層3に含まれる(メタ)アクリル樹脂4や粒子5と比較して白く見える。そのため、目視判定で無機系抗ウイルス剤6が判別できるように2値化の閾値を調整し、白く見える領域の面積の総和を、対象領域に存在する無機系抗ウイルス剤6の面積(b)と判断することができる。
【0023】
下記式(1)により、対象領域の面積(a)に対する、対象領域に存在する無機系抗ウイルス剤6の面積(b)の比率(c)を求める。
c(%)=b/a×100 式(1)
【0024】
また、1つのサンプルに対し、上記断面観察を3視野にて行う。これら3視野観察で得られた3つの断面観察像それぞれについて、式(1)による計算を行い、3つの(c)値を得る。これらの平均値(c’)を、対象領域の面積に対する、対象領域に存在する無機系抗ウイルス剤6の面積の比率とする。
【0025】
無機系抗ウイルス剤の表面偏析率
本発明において、無機系抗ウイルス剤6は、表面層3の表面付近に高い体積率で偏析していることが好ましい。例えば、表面層3の上半分領域に含まれる無機系抗ウイルス剤6の総体積が、表面層3の全領域に含まれる無機系抗ウイルス剤6の総体積に対し70%以上であることがより好ましく、75%以上であることがさらにより好ましい。これにより、表面層3の抗ウイルス性および耐久性をより高めることができる。
本発明において、表面層3の全領域に含まれる無機系抗ウイルス剤6の総体積に対する、表面層3の上半分領域に含まれる無機系抗ウイルス剤6の総体積の割合は、上記断面観察で得られた断面観察像を用いて算出される、以下に述べる無機系抗ウイルス剤6の表面偏析率(f)により定義される。すなわち、断面観察像における無機系抗ウイルス剤6の表面偏析率(面積%)を、(実際の)表面層3における無機性抗ウイルス剤6の表面偏析率(体積%)とみなす。
【0026】
<無機系抗ウイルス剤の表面偏析率(f)>
無機系抗ウイルス剤6の表面偏析率(f)は、上記断面観察で得られた断面観察像における、表面層3全体に含まれる無機系抗ウイルス剤6の総面積(d)に対する、表面層3の表面側に含まれる無機系抗ウイルス剤6の総面積(e)の比率として、下記式(2)により算出される。
f(%)=e/d×100 式(2)
【0027】
表面層3全体に含まれる無機系抗ウイルス剤6の面積(d)は以下のように求める。すなわち、上記断面観察で得られた断面観察像において、目視判定にて、表面層3の上端を表面層3の最表面7とし、他方、表面層3の下端を表面層3の最背面とする。表面層3の最表面7と表面層3の最背面に挟まれた領域において、無機系抗ウイルス剤6に相当する領域を目視で抽出し、抽出された領域の面積の総和を表面層3全体に含まれる無機系抗ウイルス剤6の面積(d)とする。
【0028】
表面層3の表面側に含まれる無機系抗ウイルス剤6の面積(e)は以下のように求める。すなわち、前記断面観察像において、表面層3の最表面7上の各点(例:各ピクセル)から表面層3の最背面に対して垂線を引き、各垂線の中点を抽出し、これら中点を繋げた線を表面層3の中央面とする。次に、表面層3の最表面7と表面層3の中央面に挟まれた領域を表面層3の表面側の領域とする。この表面層3の表面側の領域を、輝度に基づき白黒に2値化し、白い領域を無機系抗ウイルス剤6が存在する領域と判断し、目視で抽出する。抽出された白い領域の面積を計測し、その総和を、表面層3の表面側に含まれる無機系抗ウイルス剤6の面積(e)とする。
【0029】
表面層に含まれる成分
以下、表面層3に含まれる各成分を説明する。
【0030】
(メタ)アクリル樹脂
(メタ)アクリル樹脂4は、(メタ)アクリル基を有する樹脂または(メタ)アクリル樹脂がさらに重合した樹脂を指す。なお、本発明において、「(メタ)アクリル」は、アクリルおよびメタクリルを意味する。(メタ)アクリル樹脂4は、例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂、(メタ)アクリル酸エステル系共重合ポリマー、メタクリル酸エステル系共重合ポリマー、反応性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、反応性ウレタン(メタ)アクリレートポリマー、反応性(メタ)アクリルポリマーなどであってよい。
【0031】
表面層が(メタ)アクリル樹脂を含むことはFT-IR(フーリエ変換赤外分光法)とGC-MS(ガスクロマトグラフィー質量分析法)によって確認することができる。具体的には、表面層を削りとり、削り取った表面層をFT-IRにて分析する。FT-IRで観察される代表的なピークとしては、下記が知られている。これらのピークから、(メタ)アクリル樹脂が含まれているかを判断することができる。
2990cm-1:メチル基C-H 非対称伸縮
2950cm-1:メチル基C-H 対称伸縮
1725cm-1:エステル基C=O 伸縮振動
1435cm-1:メチレン基C-H 対称偏角(はさみ)
1145cm-1:エステル基C-O 伸縮
750cm-1:メチレン基C-H 非対称面内変角(横揺れ)
FT-IRは表面層に含まれる成分の影響を受けるため、GC-MSを用いて分析することにより精度を高めることが可能となる。GC-MSよって得られたマススペクトルをピークライブラリーと比較し解析する。このようにして、表面層が(メタ)アクリル樹脂を含むか否かを判断することができる。
【0032】
表面層3に含まれる(メタ)アクリル樹脂4の量は、30重量%以上80重量%以下であることが好ましい。これにより、耐久性の高い表面層とすることができる。
【0033】
表面層3に含まれる(メタ)アクリル樹脂4の量の算出方法を説明する。まず、表面層3を含むサンプルを、エポキシ樹脂内に包埋し、研磨処理して得られた表面層3の鏡面断面を走査型電子顕微鏡(例えば、日本電子製、卓上走査電子顕微鏡JCM-7000)で1視野撮影し、観察像を得る。この表面層3の観察像をグレースケールの24ビットbmp形式で電子ファイルとして保存する。保存された観察像内の表面層3の画素数を算出する。次に、表面層3に含まれる各粒子5と各無機系抗ウイルス剤6の画素数を算出する。これら算出した各画素数を用いて下記式から、表面層3に含まれる(メタ)アクリル樹脂4の量(面積%)を算出する。
(メタ)アクリル樹脂4の量[面積%]=(各粒子5の画素数+各無機系抗ウイルス剤6の画素数)/表面層3の画素数×100
【0034】
上記を実施するにあたって、グレースケールのSEM画像において、無機系抗ウイルス剤6は表面層3に含まれる(メタ)アクリル樹脂4と比較して白く見えるため、白い部分を無機系抗ウイルス剤6と判断する。また、粒子5は表面層3に含まれる(メタ)アクリル樹脂4と比較して黒く見えるため、黒い部分を粒子5と判断する。黒い画素(粒子5)数と白い画素(無機系抗ウイルス剤6)数をカウントする。
【0035】
粒子
表面層3に含まれる粒子5は、(メタ)アクリル樹脂からなる粒子である。これにより、(メタ)アクリル樹脂4と粒子5の密着性を向上させることができる。換言すると、表面層3から(メタ)アクリル樹脂4または粒子5が脱離するのを防止することができる。その結果、表面層3全体の耐久性を向上させることができる。なお、粒子5を「(メタ)アクリル粒子5」ということもある。
【0036】
粒子5を構成する(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル樹脂4と同様に、(メタ)アクリル基を有する樹脂または(メタ)アクリル樹脂がさらに重合した樹脂を指す。粒子5を構成する(メタ)アクリル樹脂は、例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂、(メタ)アクリル酸エステル系共重合ポリマー、(メタ)アクリル酸エステル系共重合ポリマー、反応性ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、反応性ウレタン(メタ)アクリレートポリマー、反応性(メタ)アクリルポリマーなどであってよい。
【0037】
(メタ)アクリル粒子5の形状は、球状、楕円体、幾何学形状、棒状、ファイバー状、不規則形状であってよい。中でも、球状であることが好ましい。これにより、表面層の表面形状を、丸みを帯びたものとすることができる。このため、表面層の表面への物の引っ掛かり、例えば、清掃時にブラシ、スポンジ、布等を摺動させたときのこれらの引っ掛かりを抑制することが可能となる。その結果、表面層の耐久性を向上させることができる。
【0038】
(メタ)アクリル粒子5の体積平均粒子径は、後述する無機系抗ウイルス剤6に含まれる無機系担持体の体積平均粒子径より大きいことが好ましい。これにより、表面層3において、(メタ)アクリル粒子5の表面上または上方に無機系抗ウイルス剤6が存在しやすくなり、表面層3が抗ウイルス性および耐久性双方を備えることが可能となる。
また、(メタ)アクリル粒子5の平均体積粒子径は、無機系抗ウイルス剤6に含まれる無機系担持体の平均体積粒子径の2倍以上であることがより好ましい。これにより、(メタ)アクリル粒子5の表面上または上方に無機系抗ウイルス剤6がより存在しやすくなり、表面層3の抗ウイルス性および耐久性をより向上させることができる。
【0039】
(メタ)アクリル粒子5の体積平均粒子径は、後述する表面層3の膜厚より大きいことが好ましい。これにより、水まわり部材1に要求される防滑性および意匠性を得ることが可能となる。
【0040】
表面層3に含まれる(メタ)アクリル粒子5の量は、10重量%以上20重量%以下であることが好ましい。これにより、表面層3は耐久性を発揮しながら、良好な防滑性、意匠性(例えば、均一でマット感のある意匠)を担保することが可能となる。
【0041】
無機系抗ウイルス剤
表面層3に含まれる無機系抗ウイルス剤6は、無機系担持体と、当該無機系担持体に担持された無機系の有効成分とを含む。このような無機系抗ウイルス剤6は、有機系抗ウイルス剤に比べ皮膚刺激性が低いため、人が手などで触れる表面層を備えた水まわり部材にとって好ましい。
【0042】
無機系担持体としては、ゼオライト、(カルシウム)アパタイト、ジルコニア、リン酸ジルコニウム、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛カルシウム、シリカゲル、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、酸化チタン、チタン酸カリウム、シリカ、アルミナ、溶解性ガラス、チオサルファイトなどを使用することができる。
【0043】
無機系の有効成分としては、金属イオンを用いることができ、例えば銀イオン、銅(I)イオン、銅(II)イオン、亜鉛イオン、金イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、パラジウムイオン、鉄(III)イオン、アルミニウム(III)イオン、ジルコニウム(II)イオン、マンガン(II)イオン、バリウム(II)イオン、カルシウム(II)イオン、ナトリウムイオンを用いることができる。これらのうち、銀イオン、銅(I)イオン、銅(II)イオン、亜鉛イオンが好ましく、銀イオンがより好ましい。銀イオンは、他の金属イオンに比べ少量で抗ウイルス性を発揮することが可能である。
【0044】
無機系抗ウイルス剤6に含まれる無機系担持体の体積平均粒子径は、(メタ)アクリル粒子5の体積平均粒子径より小さいことが好ましい。これにより、表面層3において、(メタ)アクリル粒子5の上または上方に無機系抗ウイルス剤6が存在しやすくなり、表面層3が抗ウイルス性および耐久性双方を備えることが可能となる。
また、無機系抗ウイルス剤6に含まれる無機系担持体の平均体積粒子径は、(メタ)アクリル粒子5の平均体積粒子径の半分以下であることがより好ましい。これにより、(メタ)アクリル粒子5の上または上方に無機系抗ウイルス剤6がより存在しやすくなり、表面層3の抗ウイルス性および耐久性をより向上させることができる。
【0045】
表面層3全体に含まれる無機系抗ウイルス剤6の量は、0.3重量%以上4重量%以下であることがより好ましい。これにより、無機系抗ウイルス剤6は、良好な抗ウイルス性を発揮しつつ、表面層3の上または上方に所望の体積率で存在しやすくなる。その結果、表面層3は抗ウイルス性および耐久性を兼ね備えることができる。さらに、表面層3の変色を抑制することができる。
【0046】
無機系担持体に担持されている有効成分の量は、例えば、0.2質量%以上であることが好ましい。
【0047】
その他の成分
スルホン酸基またはスルホン酸塩基
本発明において、表面層は、少なくとも表面にスルホン酸基またはスルホン酸塩基を含むことが好ましい。これにより、表面層に親水性を付与することが可能となる。その結果、水はけ性や乾燥性が向上され、残水による水垢等の汚れの付着を抑制することが可能となり、また油分の付着を抑制することができる。本発明の好ましい態様によれば、表面層はその表面にスルホン酸基またはスルホン酸塩基を含む。本発明のより好ましい態様によれば、表面層はその内部よりも表面にスルホン酸基またはスルホン酸塩基を多く含む。すなわち、表面層の表面にスルホン酸基またはスルホン酸塩基が偏析していることがより好ましい。表面層にスルホン酸基またはスルホン酸塩基を提供する化合物については後述する。
【0048】
表面層の表面特性
本発明において、表面層3は上述した構成を有するため、以下の表面特性を備えることが可能となる。
【0049】
<硬度>
本発明において、表面層の硬度は、鉛筆硬度を指標として表すことができる。表面層の鉛筆硬度は1H以上であることが好ましく、5H以上であることがさらに好ましい。これにより、表面層の耐久性を高めることが可能となる。したがって、摺動による清掃等が繰り返されたとしても、表面層の表面の損傷を防ぐことができる。
表面層の鉛筆硬度は、引っかき硬度(鉛筆法)JIS K 5600-5-4に従って測定することができる。
【0050】
<表面粗さ>
本発明において、表面層の表面粗さ(Ra)は0.1以上であることが好ましく、より好ましくは2.0以上である。これにより、防滑性の高い表面が得られる。また、表面層の表面が凹凸となるため、その分摺動時に負荷がかかりやすくなるが、本発明では(メタ)アクリル粒子5の表面上または上方に無機系抗ウイルス剤6が存在しているため、当該負荷に耐え得る良好な耐久性も得られる。
【0051】
表面層の表面粗さ(Ra)として、例えば、触針式表面粗さ測定機(株式会社東京精密製、SURFCOM 15OODX)を用いて、表面層の算術平均粗さ(Ra)の値を測定することができる。測定条件は以下のようにすることができる。
(測定条件)
測定種別:粗さ測定
測定長さ:10mm
カットオフ波長:0.25mm
測定レンジ:±128.0μm
速度:0.3mm/s
カットオフ種別:ガウシアン
【0052】
<濡れ時の防滑性>
表面層は上述した構成を有するため、良好な防滑性を有する。例えば、表面層の濡れ時の防滑性を指標として、表面層3の防滑性を評価することができる。例えば、表面層の表面に、スポイトを用いて、イオン交換水2mLを滴下し、手の平を押し当てて、水濡れ時の防滑性を評価することができる。
【0053】
<意匠性>
表面層は上述した構成を有するため、良好な意匠性を有する。例えば、均一でマット感のある意匠性を担保することができる。意匠性は、例えば、光沢度を測定することで評価することができる。具体的には、光沢計(日本電色工業株式会社 VG7000)を用いて、表面層の60°における光沢度を測定することで評価することができる。また、表面層の外観(艶消し性、てかりの有無など)を目視で評価してもよい。
【0054】
表面層の膜厚
表面層3の膜厚は、水まわり部材1の用途に応じて適宜決定してよい。本発明において、表面層3の膜厚は、5μm以上20μm以下であることが好ましい。膜厚が20μm以下であると、表面層製造時における無機系抗ウイルス剤6の沈降を抑制することができ、無機系抗ウイルス剤6を表面層の表面付近に存在させやすくなる。膜厚が5μm以上であると、均一な膜を形成しやすくなる。
【0055】
<表面層の膜厚の測定方法>
表面層3の膜厚tは表面層の重量から算出することができる。まず、基材の初期重量を測定する。次いで、基材上に表面層3を形成した後の、すなわち水まわり部材の重量を測定する。水まわり部材の重量から基材の重量を引いて、表面層3の重量を得る。ここで、表面層3は基材上に均一に形成されていると仮定し、下記式より表面層3の膜厚(t)を算出する。
表面層3の膜厚t(μm)=表面層3の重量(g)÷基材の表面の面積(cm2)÷表面層3の密度(g/cm3)×104
【0056】
表面層の膜厚tは上記測定方法以外の方法で求めることもできる。例えば、水まわり部材1の断面を顕微鏡により観察し測定する方法、反射率膜厚計により測定する方法等が挙げられる。
水まわり部材1の断面を顕微鏡により観察し測定する方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。
評価対象となる水まわり部材1の断面において表面層3を特定する。例えば、表面層3と表面層以外(基材2や中間層)との境界線が判別可能な状態となるまで研磨などにより整える。研磨して得られた断面を顕微観察手段にて観察し、表面層3の厚みを計測することができる。表面層の最表面7、および表面層3と例えば基材2との界面が直線性に乏しく、界面間の距離を決定することが困難な場合は、観察像内で、表面層3と基材2の界面に近似した直線の長さで、観察像に含まれる表面層3の断面の面積を割ることによって、表面層3の膜厚を計測してもよい。また、表面層3と基材側の界面の長さを決定し使用するために、顕微観察で観察像を得る際に、表面層3と基材2の界面、および界面に近似した直線が、観察像内で水平となる状態で、観察像を撮影してもよい。
なお、観察に用いる顕微観察手段としては、例えば光学顕微鏡、デジタルマイクロスコープ、SEM(走査型電子顕微鏡)、TEM(透過型電子顕微鏡)、EDS・EDX(エネルギー分散型X線分光法)によるマッピング等が挙げられる。特にSEMを用いた反射電子像による観察は、表面層3内部の材質差異を高分解能にとらえやすいために上記の観測に好適に用いることができる。
【0057】
本発明において、(メタ)アクリル粒子5は表面層3に埋没していることが好ましい。これにより、表面層の防滑性および意匠性を担保しつつ、耐久性を得ることが可能となる。
【0058】
表面層を形成するための組成物
表面層3を形成するための組成物について説明する。組成物は、造膜成分、粒子5、無機系抗ウイルス剤6を含むものが好ましい。造膜成分とは、硬化されて(メタ)アクリル樹脂4となる(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーまたはポリマーである。粒子5、無機系抗ウイルス剤6については、既に説明したとおりである。
<造膜成分>
本発明において、造膜成分として、一分子中に官能基を3つ以上有する多官能(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーまたはポリマーを用いることが好ましい。これにより、組成物の硬化物(つまり「表面層3」)を3次元の高架橋塗膜とすることができる。これにより、表面層3は良好な耐久性を備えることができる。多官能(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーまたはポリマーは、官能基を5個以上有するものであることがより好ましい。これにより、塗膜がより高架橋となり、表面層3の耐久性を向上することができる。
【0059】
本発明において、造膜成分は、一分子中に官能基を3つ以上有する多官能(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーまたはポリマーを10重量%以上含むことが好ましく、20重量%以上含むことがより好ましい。これにより、表面層の耐久性を高めることができる。
【0060】
本発明において、官能基は、好ましくはエチレン性不飽和基である。エチレン性不飽和基は、反応性が良好であり、表面層の硬度を高めることが可能である。エチレン性不飽和基は、好ましくは、ビニル基、アクリロイル基、またはメタクリロイル基であり、より好ましくはアクリロイル基またはメタクリロイル基である。
【0061】
官能基を3つ以上有する(メタ)アクリルモノマー(オリゴマー)としては、例えば、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパントリメタクリレート、エトキシ化グリセリントリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、グリセリントリアクリレートエトキシレート、ジペンタエリスリトールポリアクリレート等が挙げられる。
【0062】
<溶媒>
本発明において、組成物は、基材への濡れ性向上や組成物の粘度を調整するために溶媒を含んでいてもよい。例えば、組成物は溶媒を60重量%程度含むことが好ましい。このような溶媒としては、組成物に含まれる他の化合物との相溶性の観点から、例えば、メタノール、エタノール、IPA(イソプロパノール)、n-ブタノール等のアルコール類、メトキシエタノール、メトキシプロパノール等のセロソルブ類、アセトン、MEK(メチルエチルケトン)等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、THF(テトラヒドロフラン)、トルエン、PEGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート)、DMF(N,N’-ジメチルホルムアミド)や水が挙げられるが、これらに限定されるものではない。溶媒は、必要に応じて複数種類を混合して用いても良い。
【0063】
<重合開始剤>
本発明において、後述するように、組成物の未硬化膜を硬化(重合)させるために、組成物は重合開始剤を含むことが好ましい。
組成物の未硬化膜を熱により硬化(重合)させる場合、組成物は公知のラジカル重合開始剤、硬化触媒、重合促進剤等を含んでいてもよい。熱重合開始剤として、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、過酸化ベンゾイルなどを用いてよい。
組成物の未硬化膜を放射線、例えば紫外線や可視光線等の活性エネルギー線により硬化(重合)させる場合、組成物は公知の光重合開始剤を含んでいてもよい。例えば、ベンゾフェノン、(±)-カンファーキノン、アセトフェノン、4’-ヒドロキシアセトフェノン、3-メチルベンゾフェノン、1,4-ジベンゾイルベンゼン、1-ベンゾイルシクロヘキサノール、2―クロロチオキサントンなどを用いてよい。光重合開始剤として、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンとベンゾフェノンの重量比1:1の混合物が好ましい。
【0064】
<硬化触媒>
本発明において、組成物は硬化触媒を含んでいてもよい。例えば、ジノニルナフタレンジスルホン酸触媒、ジノニルナフタレン(モノ)スルホン酸触媒、ドデシルベンゼンスルホン酸触媒、ドデシルベンゼンスルホン酸触媒(ブロック酸触媒)、p-トルエンスルホン酸触媒(ブロック酸触媒)、リン酸触媒、リン酸ブロック触媒、スズ触媒などが挙げられる。
【0065】
<その他の成分>
スルホン酸基またはスルホン酸塩基を有する化合物
本発明において、組成物は、表面層にスルホン酸基またはスルホン酸塩基を提供する化合物として、例えば、分子内にスルホン酸基またはスルホン酸塩基と少なくとも一つのエチレン性不飽和基とを有する化合物を含むことができる。具体的には、2-((メタ)アクリロイルオキシ)エタンスルホン酸、3-((メタ)アクリロイルオキシ)プロパン-1-スルホン酸、アクリルアミドターシャリーブチルスルホン酸のナトリウムまたはカリウム塩が挙げられる。好ましくは、(メタ)アクリロイルオキシ基を有する直鎖アルキルスルホン酸及びその塩である2-((メタ)アクリロイルオキシ)エタンスルホン酸、3-((メタ)アクリロイルオキシ)プロパン-1-スルホン酸カリウム(メタクリル酸3-スルホプロピルカリウム)である。また、分子内にスルホン酸基またはスルホン酸塩基と少なくとも一つのエチレン性不飽和基とを有する化合物として、メタクリルスルホン酸、p-スチレンスルホン酸のナトリウムまたはカリウム塩、アルキルスルホコハク酸アルケニルエーテル塩、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸アルケニルエステル塩、グリセロール-1-アリル-3-アルキルフェニル-2-ポリオキシエチレン硫酸塩などを用いることもできる。
【0066】
揮発性化合物
本発明において、組成物は、表面層の表面にスルホン酸基またはスルホン酸塩基を偏析させることが可能な化合物として、例えば、上記スルホン酸基またはスルホン酸塩基を含む化合物よりも分子量が小さく、分子内に一つのエチレン性不飽和基と親水性基とを有する揮発性化合物を含むことができる。具体的には、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート及びその構造異性体、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート及びその構造異性体、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリン、N-ビニルホルムアミド、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。中でも、スルホン酸基またはスルホン酸塩基を含む化合物との相溶性の観点から、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0067】
顔料
本発明において、組成物は、顔料を含んでいてもよい。例えば、亜鉛華、鉛白、リトボン、二酸化チタン、沈降性硫酸バリウム及びパライト粉、鉛丹、酸化鉄赤、黄鉛、亜鉛黄(亜鉛黄1種、亜鉛黄2種)、ウルトラマリン青、プロシア青(フェロシアン化鉄カリ)、カーボンブラックなどを含んでいてもよい。
【0068】
紫外線吸収剤
本発明において、組成物は、紫外線吸収剤を含んでいてもよい。例えば、メトキシケイヒ酸エチルヘキシル、メトキシケイヒ酸オクチル、パラメトキシ桂皮酸エチルヘキシル、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン、t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン、オクチルトリアゾン、オクトクリレンなどを含んでいてもよい。
【0069】
表面層の作製方法
本発明において、表面層3を作製するための方法は、無機系抗ウイルス剤6を表面層3の表面付近に高い体積比率で偏析させることが可能な方法であれば特に制限されない。例えば、以下の方法で作製することができる。
【0070】
<基材の用意>
まず、基材2を用意する。必要であれば、基材表面に前処理を行う。例えば、基材表面に中間層を形成してもよい。
【0071】
<塗布工程>
次いで、基材2上に表面層を形成するための組成物を塗布する。組成物として、例えば、上述のように、造膜成分、粒子5、無機系抗ウイルス剤6を含む組成物を用いることが可能である。あるいは、2種類の組成物を準備しそれぞれ塗布することも可能である。この場合は、まず無機系抗ウイルス剤を含まない組成物C1を塗布し、組成物C1の(湿潤)塗布物を形成する。その後、組成物C1の(湿潤)塗布物上に、無機系抗ウイルス剤を含む組成物C2を塗布し、組成物C2の(湿潤)塗布物を形成する。
本発明の一つの態様によれば、1回目に塗布する組成物C1は、後述する造膜成分と(メタ)アクリル粒子5のみを含み、2回目に塗布する組成物C2は、造膜成分と無機系抗ウイルス剤6のみを含むことが好ましい。
また本発明の別の態様によれば、体積平均粒子径の異なる2つ以上の(メタ)アクリル粒子5を用意し、それぞれを含む2つ以上の組成物を作製し、体積平均粒子径の大きい(メタ)アクリル粒子5を含む組成物から順に2回以上塗布し、無機系抗ウイルス剤6の沈降を物理的に抑制するように(メタ)アクリル粒子5を配置し、その後、無機系抗ウイルス剤6を含む組成物を塗布してもよい。これにより、無機系抗ウイルス剤6を表面層3の表面付近に高い体積比率で偏析させることがより確実となる。
本発明において、組成物の基材への塗布方法として、例えば、ハケ塗り、スプレーコート、ディップコート、スピンコート、カーテンコートなど公知の方法を用いることができる。
【0072】
<乾燥工程>
次いで、基材2上に形成された組成物の(湿潤)塗布物(2種類の組成物を塗布した場合は、組成物C1の(湿潤)塗布物および組成物C2の(湿潤)塗布物)を乾燥させ、未硬化膜を得る。この際、(湿潤)塗布物を乾燥できればよく、必要であれば、加熱により乾燥させてもよい。(加熱)乾燥させることで、(湿潤)塗布物中に含まれる溶媒、場合により揮発性化合物を揮発させる。
【0073】
加熱乾燥の方法としては、赤外線または熱風等により乾燥させる公知の方法を用いることができる。加熱温度は、通常、室温~200℃であり、好ましくは35℃~150℃、より好ましくは40℃~100℃である。乾燥時間は、溶媒を十分に揮発可能な範囲で適宜決定してよい。
【0074】
<硬化工程>
次いで、未硬化膜を硬化させる。すなわち、造膜成分(場合により、スルホン酸基またはスルホン酸塩基を含む化合物)を共重合させる。硬化方法として、熱硬化、活性エネルギー線硬化、またはこれらの組み合わせ等公知の方法を使用することができる。
【0075】
熱硬化により重合硬化を行なう場合は、上述した重合開始剤を用いることができる。また、加熱方法としては、先に説明した(湿潤)塗布物の乾燥工程と同様に、赤外線または熱風等により加熱させる公知の方法を用いることができる。なお、熱硬化の場合は、(湿潤)塗布物の乾燥工程と硬化工程とを一つの工程で同時に行うこともできる。
【0076】
活性エネルギー線により重合硬化を行う場合は、放射線としては、400~800nmの可視光、400nm以下の紫外線、または電子線が挙げられるが、簡便、短時間に重合を行なうことができる点で紫外線が好ましい。紫外線により硬化を行なう場合は、公知の光重合開始剤が用いられる。紫外線発生源としては、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、ガリウムランプ、メタルハライドランプ、紫外線レーザー、深紫外LEDランプ、太陽光等の紫外線が挙げられる。照射雰囲気は大気中でもよいし、窒素、アルゴン等の不活性ガス下でもよい。
【0077】
水まわり部材の性能
抗ウイルス性
本発明による水まわり部材は、上述したとおり良好な抗ウイルス性を有する。本発明において、水まわり部材1(すなわち、表面層3)の抗ウイルス性は、JIS R1756(2020) 暗所に準拠した下記試験方法により求めた抗ウイルス活性値が2以上であることが好ましい。
<抗ウイルス性の評価方法>
水まわり部材1の抗ウイルス性をJIS R1756(2020) 暗所に従って評価する。具体的には、バクテリオファージQβを用いて、抗ウイルス試験を実施し、暗所の抗ウイルス活性値(V)を下記式により算出する。
抗ウイルス活性値:V=Log10(UV/TV)
TV:バクテリオファージ液滴下24時間後のバクテリオファージ感染価(pfu)
UV:バクテリオファージ液滴下直後のバクテリオファージ感染価(pfu)
【0078】
耐久性
本発明による水まわり部材は、上述したとおり高い耐久性を有する。本発明において、耐久性とは、例えば、清掃時にブラシ、スポンジ、布等を用いて表面層3の表面を摺動する際にかかる負荷に十分耐え得る性能をいう。表面層の耐久性は、例えば、以下のように評価することができる。
水まわり部材サンプルを摩耗摩擦試験機(テスター産業株式会社 AB―504 ウォッシャビリティーテスター)に固定する。続いて、サンプルの中央に適量の洗剤を滴下する。ブラシ等を試験機に固定し、ブラシの上に錘をのせ、サンプル上でブラシを摺動させる。続いて、サンプルの表面をSEM観察し、例えば(メタ)アクリル粒子5の欠けの程度に基づきの摩耗状態を評価することができる。
【0079】
水まわり部材の用途
本発明による水まわり部材は、例えばトイレ、浴室、キッチン、洗面化粧台等に使用される。具体的には、浴室壁材、浴室床材、浴室カウンター、浴槽、浴槽リム(縁)、浴室窓材、浴室扉材、シャワーブース壁材、洗面鏡、洗面化粧台、洗面ボウル、キッチンカウンター、キッチン扉、収納棚、収納板、便器、便座、温水洗浄便座およびその洗浄ノズル、排水口、水栓金具、レンジフード材等として使用されるが、これらに限定されない。
【0080】
水まわり部材の基材
本発明において、水まわり部材1の基材2は特に限定されない。基材2の材料としては、金属、ガラス、樹脂、紙、木質材料などが挙げられる。これらの中で、樹脂材料であることが好ましい。樹脂材料としては、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂として、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ケイ素樹脂から選ばれる一種以上を用いることが可能である。熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリスチレン樹脂(PS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂(ABS)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリアミド樹脂(PA)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂(PTT)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(4フッ化エチレン樹脂)から選ばれる一種以上を用いることが可能である。本発明において、樹脂として、熱可塑性樹脂を用いるのが好ましい。さらに好ましくは、樹脂として、PP、PE、POM、PBT、PVC、ABS、PPS、PET、PMMA、PA、PCから選ばれる一種以上を用いることがより好ましい。これらのうち更により好ましいのは、PP、POM、PBT、ABS、PMMAから選ばれる一種以上である。本発明において、表面層3は(メタ)アクリル樹脂4を含むため、アクリル系樹脂材料の基材2は、表面層3との親和性(例えば、密着性)が良好である。また、基材2の形状は特に限定されず、平面形状や立体形状が挙げられる。
【0081】
本発明において、基材2の表面に表面層3を直接形成してもよいし、基材2と表面層3との間に別の層を形成してもよい。例えば、基材2と表面層3との間に、接着性を高めるための中間層を形成してもよい。
【実施例0082】
本発明を以下の実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0083】
1.準備
<粒子>
下記3種類の粒子を準備した。
・有機粒子1:体積平均粒子径が6μmの(メタ)アクリル粒子
・有機粒子2:体積平均粒子径が19μmの(メタ)アクリル粒子
・有機粒子3:体積平均粒子径が35μmの(メタ)アクリル粒子
【0084】
<無機系抗ウイルス剤>
無機系担持体としてのリン酸ジルコニウム(体積平均粒子径:1.5μm)に銀イオンを0.2質量%担持させた無機系抗ウイルス剤を準備した。
【0085】
<基材>
PMMAを主成分とするアクリル板(サイズ:100mm×100mm×2mm、三菱ケミカル製アクリライトEX(登録商標))を準備した(基材S)。
【0086】
<塗料>
造膜成分としてのジペンタエリスリトールヘキサアクリレート26.5gおよびエチレン基を3つ以上有するアクリルオリゴマー11.5gと、光重合開始剤としての1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンとベンゾフェノンとの重量比1:1の混合物0.6gと、溶媒としての2-メトキシエタノール44gとを含む溶液をスターラーで60分攪拌し、塗料1を作製した。
【0087】
2.組成物の作製
塗料1と、下記表1に示す各材料を同表に示す量で混合して得た溶液とを混合し、スターラーで60分攪拌し、組成物1~10を作製した。なお、表1に示す各材料の量は、塗料1の量を100重量%としたときの量(重量%)である。
【0088】
【0089】
3.水まわり部材サンプルの作製
実施例1
基材S上に、組成物2を、スプレーガン(明治機械製作所FinerII)を用い、塗膜の厚さが8~12μm程度となるようにスプレー塗装により塗布した。続いて、組成物1を、スプレーガン(明治機械製作所FinerII)を用い、塗膜の厚さが3μm程度となるように塗布した。その後、送風定温恒温器(ヤマト科学株式会社製DKN402)にて60℃で6分間加熱乾燥させ、溶媒を揮発させた。その後、送風定温恒温器から取り出し、高圧水銀ランプを備えた紫外線硬化装置(パナソニック電工製ANUP4154)にて積算光量が1000mJ/cm2となるように紫外線を照射して硬化させ、実施例1のサンプルを作製した。
【0090】
実施例2
組成物2の代わりに組成物3を使用した以外は実施例1と同様にして、実施例2のサンプルを作製した。
【0091】
実施例3
基材S上に、組成物4を、スプレーガン(明治機械製作所FinerII)を用い、塗膜の厚さが4~5μm程度となるようにスプレー塗装により塗布した。続いて、組成物1を、スプレーガン(明治機械製作所FinerII)を用い、塗膜の厚さが1~2μm程度となるように塗布した。その後、実施例1と同様にして、実施例3のサンプルを作製した。
【0092】
実施例4
組成物2の代わりに組成物5を使用した以外は実施例1と同様にして、実施例4のサンプルを作製した。
【0093】
比較例1
基材S上に、組成物6を、スプレーガン(明治機械製作所FinerII)を用い、塗膜の厚さが11~15μm程度となるようにスプレー塗装により塗布した。その後、60℃の送風定温恒温器(ヤマト科学株式会社 DKN402)にて6分間加熱乾燥を行った。その後、高圧水銀ランプを備えた紫外線硬化装置(パナソニック電工 ANUP4154)にて、積算光量が1000mJ/cm2となるように紫外線を照射して硬化させ、比較例1のサンプルを作製した。
【0094】
比較例2
基材S上に、組成物8を、スプレーガン(明治機械製作所FinerII)を用い、塗膜の厚さが8~12μm程度となるようにスプレー塗装により塗布した。続いて、組成物7を、スプレーガン(明治機械製作所FinerII)を用い、塗膜の厚さが3μm程度となるように塗布した。その後、60℃の送風定温恒温器(ヤマト科学株式会社 DKN402)にて6分間加熱乾燥を行った。その後、高圧水銀ランプを備えた紫外線硬化装置(パナソニック電工 ANUP4154)にて、積算光量が1000mJ/cm2となるように紫外線を照射して塗膜を硬化させ、比較例2のサンプルを作製した。
【0095】
比較例3
組成物6の代わりに組成物9を使用した以外は比較例1と同様にして、比較例3のサンプルを作製した。
【0096】
比較例4
基材S上に、組成物10を、スプレーガン(明治機械製作所FinerII)を用い、塗膜の厚さが11~15μm程度となるようにスプレー塗装により塗布した。その後、60℃の送風定温恒温器(ヤマト科学株式会社 DKN402)にて6分間加熱乾燥を行った。その後、高圧水銀ランプを備えた紫外線硬化装置(パナソニック電工 ANUP4154)にて、積算光量が1000mJ/cm2となるように紫外線を照射して硬化させ、比較例4のサンプルを作製した。
【0097】
4.評価
作製した各サンプルについて、以下の評価を行った。
【0098】
(1)表面層の塗膜硬度試験
各サンプルに対し、引っかき硬度(鉛筆法)JIS K 5600-5-4に従って鉛筆硬度を測定した。結果を表2に記載した。
【0099】
(2)断面観察
各サンプルを5mm×7mm×2mmのサイズにカットし、BUEHLER製UniClipで挟み込んだ状態で、三啓製埋込用クリアリング(外径:1.25インチ)のホルダーの片面に透明梱包用テープ(スリーエムジャパン製、Scotch 315)を貼り付け、ホルダー内のテープを貼り付けた部分に、サンプルを挟んだクリップを垂直となるように設置した。サンプルが設置されたホルダー内に、ケメットジャパン製テクノビット主剤とケメットジャパン製テクノビット硬化剤が1:2となるように配合し、攪拌した溶液を流し込んだ。その後、脱泡処理を行った。具体的には、真空チャンバーへ設置し、真空ポンプULVAC製G-50SAにて減圧し、気圧0.09MPa環境下にて5分間静置した。その後、30℃環境下で16時間静置して硬化させた。サンプルが埋め込まれた硬化エポキシ樹脂(以下、包埋樹脂という)をホルダーから取り出して、研磨機(PRESI製Mecatech250)にて、#600研磨紙で約2mm削り、サンプルを包埋樹脂から露出させた。その後、ダイヤモンド粒子(9μm)を含んだ水溶液でバフ研磨し、次いでダイヤモンド粒子(3μm)を含んだ水溶液でバフ研磨し、次いでアルミナ研磨剤(φ0.5μm)を含んだ水溶液でバフ研磨し、サンプルの鏡面断面を得た。
【0100】
得られた鏡面断面を、卓上走査電子顕微鏡(日本電子製JCM-7000)にて観察し、表面層と基材との界面が観察像の下側に位置しかつ観察像に対して水平となる状態で、反射電子像を撮影し、断面の観察像を得た。断面の観察像は24bitグレースケールのBMP方式にて電子ファイルとして保存し、後述する(3)~(5)の計測、算出に用いた。代表例として、実施例1および比較例1のサンプルの断面観察像を
図3および4に示した。
【0101】
(3)表面層に含まれる粒子の存在量(体積%)
表面層に含まれる粒子の存在量(c)は、上記「(2)断面観察」で得られた断面観察像における、表面層の断面積(a)に対する表面層の断面に含まれる粒子部分の面積(b)の比率として、下記式(1)により算出した。
c[体積%]=b/a×100 式(1)
【0102】
表面層の断面積(a)および表面層の断面に含まれる粒子部分の面積(b)は、画像処理ソフト(三谷商事株式会社製、WinROOF2017)を用いて解析し、以下の方法により導出した。
まず、断面観察像中の表面層の外周を目視で判定し、計測モード「ポリゴン」を用いて手動で外周を描画した。その後、外周で囲われた部分を表面層の断面として抽出し、抽出された領域の面積を表面層の断面積(a)とした。
次に、断面観察像中の粒子部分を目視で判定し、三点指定円を用いて手動で抽出した。抽出された三点指定円の面積の総和を、表面層の断面に含まれる粒子部分の面積(b)とした。
また、1つのサンプルに対し、上記「(2)断面観察」を3視野にて行った。これら3視野観察で得られた3つの断面観察像それぞれについて、式(1)による計算を行い、3つの(c)値を得た。これらの平均値を、当該サンプルの表面層に含まれる粒子の存在量(c’)とした。
結果を表2に記載した。
【0103】
(4)無機系抗ウイルス剤の表面偏析率
無機系抗ウイルス剤の表面偏析率(f)は、上記「(2)断面観察」で得られた断面観察像における、表面層全体に含まれる無機系抗ウイルス剤の総面積(d)に対する表面層の表面側に含まれる無機系抗ウイルス剤の総面積(e)の比率として、下記式(2)により算出した。
f[体積%]=e/d×100 式(2)
【0104】
表面層全体に含まれる無機系抗ウイルス剤の面積(d)は以下のように求めた。すなわち、上記「(2)断面観察」で得られた断面観察像において、目視判定にて、表面層の上端を表面層の最表面とし、他方、表面層と基材の界面に相当する表面層の下端を表面層の最背面とした。表面層の最表面と表面層の最背面に挟まれた領域において、無機系抗ウイルス剤に相当する領域を目視で抽出し、抽出された領域の面積の総和を表面層全体に含まれる無機系抗ウイルス剤の面積(d)とした。
【0105】
表面層の表面側に含まれる無機系抗ウイルス剤の面積(e)は以下のように求めた。すなわち、前記断面観察像において、表面層の最表面上の各点(例:各ピクセル)から表面層の最背面に対して垂線を引き、各垂線の中点を抽出し、これら中点を繋げた線を表面層の中央面とした。次に、表面層の最表面と表面層の中央面に挟まれた領域を表面層の表面側の領域とした。この表面層の表面側の領域を、輝度に基づき白黒に2値化し、白い領域を無機系抗ウイルス剤が存在する領域と判断し、目視で抽出した。抽出された白い領域の面積を計測し、その総和を、表面層の表面側に含まれる無機系抗ウイルス剤の面積(e)とした。
結果を表2に記載した。
【0106】
(5)粒子と表面層の最表面との間の領域に存在する無機系抗ウイルス剤の面積比率
上記「(2)断面観察」で得られた断面観察像を用いて、以下に説明する方法で、粒子5と表面層の最表面7との間の領域に存在する無機系抗ウイルス剤6の面積比率(c’)を求めた。
面積比率(c’)の算出方法について説明する。まず、断面観察像において、表面層の最表面と、当該最表面から最背面方向に深さ2μmの位置との間の領域(2μm領域)を特定した。次に、2μm領域内に、その少なくとも一部が含まれる粒子を特定した(特定粒子)。そして、2μm領域内であって且つ特定粒子の上方の領域、つまり特定粒子の表面のうち2μm領域内に含まれる表面から表面層の最表面までの領域(対象領域)の面積(a)を求めた。さらに、対象領域に含まれる無機系抗ウイルス剤の面積(b)を求めた。対象領域を輝度に基づき白黒に2値化し、白い領域を無機系抗ウイルス剤が存在する領域と判断した。下記式(1)により、対象領域の面積(a)に対する、対象領域に存在する無機系抗ウイルス剤の面積(b)の比率(c)を求めた。
c(%)=b/a×100 式(1)
【0107】
また、1つのサンプルに対し、上記「(2)断面観察」を3視野にて行った。これら3視野観察で得られた3つの断面観察像それぞれについて、式(1)による計算を行い、3つの(c)値を得た。これらの平均値(c’)を、対象領域の面積に対する、対象領域に存在する無機系抗ウイルス剤の面積の比率とした。
面積比率(c’)を、表面層3における、粒子5と表面層3の最表面7との間の領域に存在する無機系抗ウイルス剤6の体積比率とみなした。結果を表2に記載した。
【0108】
(6)耐久性の評価
各サンプルを100mm×40mm×2mmのサイズにカットし、摩耗摩擦試験機(テスター産業株式会社 AB―504 ウォッシャビリティーテスター)に固定した。続いて、カットサンプルの中央に、約20~30mLのルックおふろの磨き洗い(LION株式会社)を直接滴下した。ナイロン製の床ブラシ(TOTO株式会社 EKL00034)を25mmに切断し、試験機に固定した。ブラシの上に錘をのせ、カットサンプル上でブラシを往復50回摺動させた。
続いて、カットサンプルの表面の摩耗状態(有機粒子の欠け)をSEM観察した。具体的には、SEM(KEYENCE VHXーD510)を傾斜角度60度に設定し、表面観察を行い、下記評価基準にて表面層の耐久性を評価した。結果を表2に示した。
(評価基準)
〇:有機粒子の過半数において欠けが観察されなかった
×:有機粒子の過半数において欠けが観察された
【0109】
(7)抗ウイルス性の評価
実施例のサンプル1、比較例1のサンプルの抗ウイルス性をJIS R1756(2020) 暗所に従って評価した。具体的には、バクテリオファージQβを用いて、抗ウイルス試験を実施し、暗所の抗ウイルス活性値(V)を下記式により算出した。
抗ウイルス活性値:V=Log10(UV/TV)
TV:バクテリオファージ液滴下24時間後のバクテリオファージ感染価(pfu)
UV:バクテリオファージ液滴下直後のバクテリオファージ感染価(pfu)
抗ウイルス活性値がV≧2であるとき、サンプルは良好な抗ウイルス性を発揮すると判断した。結果を表2に記載した。
【0110】
(8)防滑性の評価
<表面粗さ測定>
各サンプルについて、触針式表面粗さ測定機(株式会社東京精密製、SURFCOM 15OODX)を用いて、表面層の算術平均粗さ(Ra)の値を測定した。測定は各サンプルにつき3回ずつ行い、その平均値を表面層の表面粗さとした。測定条件は以下のとおりとした。結果を表2に記載した。
(測定条件)
測定種別:粗さ測定
測定長さ:10mm
カットオフ波長:0.25mm
測定レンジ:±128.0μm
速度:0.3mm/s
カットオフ種別:ガウシアン
【0111】
<濡れ時の防滑性の評価>
各サンプルの表面に、スポイトを用いて、イオン交換水2mLを滴下し、手の平を押し当てて、水濡れ時の防滑性を評価した。比較例4のサンプルの滑り性とその他のサンプルの滑り性を比較し、以下の基準で、実施例1~4、比較例1~3のサンプルの防滑性を評価した。結果を表2に記載した。
(評価基準)
〇:比較例4のサンプルに比べ顕著に滑りにくかった
△:比較例4のサンプルに比べやや滑りにくかった
×:比較例4のサンプルと同等またはそれ以下の防滑性であった
【0112】
(9)意匠性の評価
<光沢度の測定>
光沢計(日本電色工業株式会社 VG7000)を用いて、各サンプルの60°における光沢度を測定した。結果を表2に記載した。
【0113】
<目視による外観評価>
各サンプルの外観を、目視により以下の基準で評価した。結果を表2に記載した。
(評価基準)
〇:艶消し性に優れる
△:艶消し性がある
×:艶消し性が悪く、てかりが生じた
【0114】