(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173403
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20241205BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20241205BHJP
B60G 17/016 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B60L15/20 J
B60L3/00 N
B60G17/016
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091797
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神長 隆史
【テーマコード(参考)】
3D301
5H125
【Fターム(参考)】
3D301AA05
3D301BA20
3D301DA31
3D301DA38
3D301EC05
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA00
5H125CA01
5H125CD00
5H125DD07
5H125DD17
5H125DD18
5H125EE51
(57)【要約】
【課題】モータロック保護制御により発生し得る車両ピッチ運動を抑制する。
【解決手段】モータを駆動源として走行可能である車両の制御装置である。制御装置は、モータのモータロック状態を判定するロック判定部と、モータがモータロック状態、またはその状態になり得ると判定された場合に、モータのトルクを繰り返し増減させるモータロック保護制御を行うトルク制御部と、モータロック保護制御が行われている場合に、それが行われる前に比べて、アクティブサスペンションのショックアブソーバの減衰力を高くする制御を行うサス制御部と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動源として走行可能である車両の制御装置であって、
前記モータのモータロック状態を判定するロック判定部と
前記モータが前記モータロック状態、またはその状態になり得ると判定された場合に、前記モータのトルクを繰り返し増減させるモータロック保護制御を行うトルク制御部と、
前記モータロック保護制御が行われている場合に、それが行われる前に比べて、アクティブサスペンションのショックアブソーバの減衰力を高くする制御を行うサス制御部と、を備える、
ことを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関し、特に、車両のモータロック保護制御とサスペンション制御を行う制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車輪を駆動する動力源(駆動源)としてモータを持つ電気自動車(BEV)や、駆動源としてエンジンとモータを併せ持つハイブリッド車両(HEV)が知られている。このような電動車両では、一般的に三相交流モータが使用されている。
【0003】
電動車両では、例えば車両が登坂路に位置して、アクセルペダルの軽い踏み込みにより、モータ駆動力と車両水平荷重が釣り合あって車速がゼロ(或いは、ほぼゼロ)になり、モータのロータが回転できない状態になる。このような状態が「モータロック状態」と称される。
【0004】
モータロック状態になると、三相交流モータのステータに配置されているU相、V相およびW相のコイルのうち特定相のコイルに高電流が一相集中して流れる可能性がある。このような状態が継続すると、上記特定相のコイルやこれに対応するインバータ内のスイッチング素子が過熱により焼損する虞がある。
【0005】
このようなモータコイル等が焼損する事態を回避するために、モータロック保護制御が行われる。モータロック保護制御では、モータのトルクを繰り返し増減させて、モータのロータを微速回転させ、モータロック状態を回避する。特許文献1には、このモータロック保護制御が「トルク低減制御」と称して説明されており、第1トルク低減制御と、それよりも低い所定トルクまで低下させる第2トルク低減制御を実行する制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
モータロック保護制御では、トルクの周期的な増減により、車両のピッチ運動が誘発される可能性がある。それにより、車両の乗り心地の悪化を招く虞がある。
【0008】
本発明の目的は、モータロック保護制御により発生し得る車両ピッチ運動を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る車両の制御装置は、モータを駆動源として走行可能である車両の制御装置であって、前記モータのモータロック状態を判定するロック判定部と、前記モータが前記モータロック状態、またはその状態になり得ると判定された場合に、前記モータのトルクを繰り返し増減させるモータロック保護制御を行うトルク制御部と、前記モータロック保護制御が行われている場合に、それが行われる前に比べて、アクティブサスペンションのショックアブソーバの減衰力を高くする制御を行うサス制御部と、を備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、モータロック保護制御が行われている場合に、ショックアブソーバの減衰力を高くする制御を行うので、車両のピッチ運動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】車両の制御装置に関わる構成を示す概略ブロック図である。
【
図2】制御装置の処理を示すフローチャートである。
【
図3】モータロック保護制御と減衰力増強制御を行った場合の車両状態を説明するための図である。
【
図4】モータロック保護制御のみを行った場合の車両状態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。なお、本発明は、ここに記載される実施形態に限定されるものではない。本発明は、モータを駆動源として走行可能である車両に適用可能であり、例えば電気自動車、ハイブリッド車両、プラグインハイブリッド車両等に適用可能である。下記においては、ハイブリッド車両を例に説明する。
【0013】
図1は、車両10の制御装置12に関わる構成を示す概略ブロック図である。
図1において、機械的接続は太い実線で、電力ラインは細い実線で、信号ラインは点線でそれぞれ示されている。車両10は、ハイブリッド車両である。
図1では、バッテリ、DC/DCコンバータ、エンジン、MG1等のハイブリッド車両の一部の構成物が省略されている。ハイブリッド車両の詳細は、特許文献1に説明されており、同文献における構成や制御(モータロック状態の判定や、モータロック保護制御などを含む)を、以下で説明する実施形態に適用することができる。
【0014】
この実施形態では、特許文献1のハイブリッド車両に対して、各車輪30にアクティブサスペンション26を採用している。アクティブサスペンション26は、電子制御式可変減衰機構付きのサスペンションである。具体的には、アクティブサスペンション26は、スプリングと、ショックアブソーバ(ダンパ)と、アクチュエータを含む。このアクチュエータは、例えばショックアブソーバが発生させる減衰力を可変とするものであり、サスペンション制御ECU18により制御される。
【0015】
車両10は、前輪駆動車である。なお、別の実施形態として、車両10は、後輪に電気駆動機構を備える4輪駆動車のハイブリッド車両、電気自動車等であってもよい。
【0016】
車両10は、エンジン(不図示)と、2つの3相交流同期型モータジェネレータMG1,MG2(MG1は不図示)と、歯車機構24とを備える。以下では、MG2を適宜、モータ22とも記す。エンジン、MG1、MG2のそれぞれの回転軸は、歯車機構24に接続されている。歯車機構24は、車輪30の車軸に接続されている。
【0017】
MG1,MG2は、それぞれ対応するインバータ(MG1のインバータは不図示)に電気的にそれぞれ接続され、各インバータは、DC/DCコンバータ(不図示)を介してバッテリ(不図示)に電気的に接続されている。バッテリは、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池等の二次電池が用いられる。
【0018】
MG2のインバータ20は、モータ制御ECU16に電気的に接続されており、モータ制御ECU16から送信される制御信号に基いて制御される。MG1のインバータ(不図示)についても同様である。エンジンは、エンジン制御ECU(不図示)により制御される。
【0019】
車両10は、制御装置12を備える。制御装置12は、ハイブリッド制御ECU14、モータ制御ECU16、サスペンション制御ECU18、およびエンジン制御ECU(不図示)を含む。ハイブリッド制御ECU14には、モータ制御ECU16、サスペンション制御ECU18、エンジン制御ECUが電気的に接続されており、ハイブリッド制御ECU14は、それらのECUを統括的に制御したり、バッテリ等を管理したりする機能を有する。
【0020】
なお、ECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)は、例えばマイクロコンピュータを含んで構成されている。ECUは、CPU等のプロセッサと、メモリと、入出力インターフェース)を備える。メモリは、RAM(ランダムアクセスメモリ)、ROM(リードオンリーメモリ)、不揮発性記憶装置(例えばフラッシュメモリ)等である。プロセッサがRAMを利用して、予めROMや不揮発性記憶装置に記憶されたプログラム、データに従って処理を行うことで、ECUは各種制御、各種機能を実現する。なお、ECUは、一体化された、或いは物理的に離れた複数のコンピュータを含んで構成されてもよい。
【0021】
以下の説明において、ハイブリッド制御ECU14は、モータ22(MG2)のモータロック状態を判定するロック判定部15として機能する。また、モータ制御ECU16は、トルク制御部として機能し、サスペンション制御ECU18は、サス制御部として機能する。なお、ロック判定部15は、モータ制御ECU16により実現されてもよい。
【0022】
例えば、車両10が停車状態から発進する時や、低速走行している時は、通常は、バッテリからコンバータおよびインバータ20を介してMG2に電力供給し、MG2の駆動力を、歯車機構24と車軸を介して車輪30に出力させて走行する。バッテリの残容量が低下していて、充電要求があるときには、エンジンからの動力をMG1の回転軸に入力して発電し、発電された電力をバッテリに充電する。
【0023】
また、例えば、車両10がほぼ一定の安定した速度で走行している通常走行時には、エンジンの駆動力を、歯車機構24と車軸を介して車輪30に出力させて走行する。このとき、例えばアクセルペダルが一時的に大きく踏み込まれて急加速するとき等には、MG1またはMG2からも動力を出力させ、エンジンの動力をアシストする。
【0024】
また、例えば、車両10が減速される回生時には、車輪30から車軸および歯車機構24を介してMG2の回転軸に動力が伝達され、MG2が発電機として機能する。MG2によって発電された電力は、インバータ20とDC/DCコンバータを介してバッテリに充電される。
【0025】
以下では、モータ22(MG2)のみから車輪駆動力を出力して走行するいわゆるEV走行中、またはモータ22(MG2)のみから車輪駆動力を出力しつつも、エンジンからの動力をMG1に入力して発電しているシリーズハイブリッド走行中にモータロック状態に陥った際の制御について説明する。
【0026】
図2は、制御装置12の処理を示すフローチャートである。
図2のフローは、例えばS10の事象(ブレーキペダル、アクセルペダルの踏みかえ)が生じるたびに実行される。S10で、車両10の運転者は、ブレーキペダルからアクセルペダルに踏み替える。例えば、これは、車両10が坂路に位置する際に行われ、モータ駆動力と車両水平荷重が釣り合あって、モータのロータが回転できない状態(モータロック状態)を発生させ得る状況である。
【0027】
S12で、ロック判定部15は、モータ22がモータロック状態(或いは、それが発生し得る状態)となったか否かを判定する。すなわち、特定の相コイルに高電流が一相集中して流れている(或いは、それが発生し得る状態になっている)か否かを判定する。S12がNoの場合には、アクティブサスペンション26を通常制御(通常モード)として(S24)、
図2の処理を終了する。
【0028】
一方、S12がYesの場合には、S14に進む。S14で、トルク制御部16は、モータロック保護制御を実行する。モータロック保護制御では、モータ22のトルクを繰り返し増減させる。
図3には、モータトルクの増減の一例が示されている。
【0029】
次に、S16で、サス制御部18は、各車輪30のアクティブサスペンション26の減衰力を増強させる制御(減衰力増強制御、又は、モータロック保護協調モードと言う)を行う。すなわち、サス制御部18は、モータロック保護制御が行われている場合には、それが行われる前に比べて、アクティブサスペンション26のショックアブソーバの減衰力を高くする制御を行う。
図3には、ショックアブソーバの減衰力を高くした状態の一例が示されている。サス制御部18は、例えば、4つの車輪30のそれぞれについて、アクティブサスペンション26のショックアブソーバの減衰力を最大にまで高める。
【0030】
次に、S18で、ロック判定部15は、モータ22のモータロック状態(或いは、それが発生し得る状態)が解消されたか否かを判定する。すなわち、特定の相コイルに対する高電流の集中(或いは、それが発生し得る状態)が解消されたか否かを判定する。例えば、坂路発進して速度が増加した場合、または、アクセルペダルから再びブレーキペダルへ踏み替えられた場合に、モータロック状態が解消される。S18がNoの場合には、モータ22のモータロック状態が解消されるのを待つ。
【0031】
一方、S18がYesの場合には、S20に進む。S20で、トルク制御部16は、モータロック保護制御を終了する。
【0032】
そして、S22で、ハイブリッド制御ECU14は、車両10の速度(車速)が、予め定められた速度(一定速度)以上になったかを確認する。S22がNoの場合には、車速が一定速度以上になるのを待つ。S22がYesなった場合には、S24に進む。S24で、サス制御部18は、各車輪30のアクティブサスペンション26の減衰力増強制御を終了して、通常制御(通常モード)に戻す。これは、発進加速と判断できる所定の車速に到達したら、アクティブサスペンション26の減衰力増強制御を終了するものである。そして、
図2の処理を終了する。
【0033】
以上で説明した実施形態によれば、
図3に示すように、モータロック保護制御が行われている場合に、アクティブサスペンション26の減衰力増強制御を行うので、車両のピッチ運動を抑制することができる。
図4は、モータロック保護制御のみを行った場合(アクティブサスペンションの減衰力増強制御を行わなかった場合)の車両ピッチ角度と車両前後G(Gは重力加速度)の変動を概略的に示す図である。
図3,4を比べれば分かるように、アクティブサスペンション26の減衰力増強制御を行うことで、車両ピッチ角度の変動を抑えるとともに、車両前後Gの変動を抑えることができる。
【0034】
駆動用モータのトルク増減を実行するモータロック保護制御では、増減レートが大きい(増減周期が短い)ほど増減実行サイクルの時間が短縮され、相電流集中状態が解除されやすく、部品保護の観点では有利である。しかし、増減レートの増加は車両の揺動量の増加に直結し、さらにトルクの周期的な増減により車両の前後サスペンションストロークの伸縮動作に伴う車両ピッチ運動が励起される場合、シートと乗員に伝わる振動が増幅されて、乗員に不快感を与える。しかし、以上で説明した実施形態によれば、モータロック保護制御と同時にサスペンションの減衰力を高めるので、高い増減レートにおいても車両の揺動を軽減することができる。部品保護性能と車両の乗り心地を両立させることができる。
【0035】
以上で説明した実施形態は、アクティブサスペンションの一般的な可変減衰機構で対応可能と考えられ、車両の機械的、電気的な仕様を変更することなく、制御を変更するのみで実現可能と考えられる。
【符号の説明】
【0036】
10 車両、12 制御装置、14 ハイブリッド制御ECU、15 ロック判定部、16 モータ制御ECU(トルク制御部)、18 サスペンション制御ECU(サス制御部)、20 インバータ、22 モータ、24 歯車機構、26 アクティブサスペンション、30 車輪。