(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173416
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】改良地盤及び地盤改良工法
(51)【国際特許分類】
E02D 3/08 20060101AFI20241205BHJP
E02D 3/00 20060101ALI20241205BHJP
E02D 17/18 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
E02D3/08
E02D3/00 102
E02D17/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091827
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000236610
【氏名又は名称】株式会社不動テトラ
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深瀬 直人
【テーマコード(参考)】
2D043
2D044
【Fターム(参考)】
2D043CA02
2D043CA20
2D043EA01
2D043EA10
2D044CA05
(57)【要約】
【課題】盛土や構造物直下の地盤において、液状化時の側方流動を抑制し、また、地盤の変形方向の変位を抑制し、更に砂杭打設時の周辺地盤への変位を抑制する地盤改良工法及びその工法で得られる改良地盤を提供する。
【解決手段】改良対象地盤中、互いに離れて打設された多数の砂杭と、砂杭間に配設された、又は改良対象地盤境界側であって且つ砂杭の外側に配設されたジオテキスタイル補強材とを有する改良地盤及びこれを造成する地盤改良工法。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改良対象地盤中、互いに離れて打設された多数の砂杭と、砂杭間に配設された、又は改良対象地盤境界側であって且つ砂杭の外側に配設されたジオテキスタイル補強材とを有することを特徴とする改良地盤。
【請求項2】
改良対象地盤が、新設盛土の直下地盤、既設盛土の直下又は直下近傍の地盤、地表構造物の基礎周りの地盤、又は地中構造物の直下の地盤であることを特徴とする請求項1記載の改良地盤。
【請求項3】
該ジオテキスタイル補強材の面が、地盤が変形する方向に対向していることを特徴とする請求項2記載の改良地盤。
【請求項4】
該ジオテキスタイル補強材の上端部は、地表構造物又は地中構造物に固定されているか、地表の新設盛土の下に水平敷設されていることを特徴とする請求項2又は3記載の改良地盤。
【請求項5】
該ジオテキスタイル補強材の下端部は、改良対象地盤下の支持層に、直接又はアンカーにより定着させることを特徴とする請求項2又は3に記載の改良地盤。
【請求項6】
該砂杭の下端が、改良対象地盤下まで延出されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の改良地盤。
【請求項7】
改良対象地盤境界側に、互いに離れて打設された多数の変位緩衝孔を更に有し、最外側のジオテキスタイル補強材は、該変位緩衝孔に接して配設されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の改良地盤。
【請求項8】
該砂杭は、締固め砂杭であることを特徴とする請求項1又は2に記載の改良地盤。
【請求項9】
改良対象地盤にジオテキスタイル補強材を地中に貫入し、多数配設するI工程と、次いで該ジオテキスタイル補強材の間に、砂杭を打設するII工程を有することを特徴とする地盤改良工法。
【請求項10】
I工程において、改良対象地盤境界側の変位緩衝孔を削孔するのと同時に、ジオテキスタイル補強材を配設するIA工程を行うことを特徴とする請求項9に記載の地盤改良工法。
【請求項11】
IA工程において、スクリューロッドを有する変位緩衝孔削孔機を使用し、該ジオテキスタイル補強材を取り付けたガイドフレームを、該スクリューロッドの側面に、該スクリューロッドの回転に追従しないように固定されることを特徴とする請求項10記載の地盤改良工法。
【請求項12】
該スクリューロッドと該ガイドフレームの連結固定は、ロッドの深度方向の複数個所に形成された振れ止め用溝に遊嵌する連結フレームで行い、該連結フレームは、該スクリューロッドに上下方向で追従するように固定されることを特徴とする請求項11に記載の地盤改良工法。
【請求項13】
I工程において、変位緩衝孔に接するジオテキスタイル補強材以外のジオテキスタイル補強材の貫入は、変位緩衝孔削孔機のスクリュー径より小さなスクリュー径のスクリューロッドを有する削孔機、又は、スクリューロッドを有さない圧入機を用いることを特徴とする請求項10~12に記載の地盤改良工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、盛土の安定化及び液状化時に強い改良地盤及び地盤改良工法に関するものである。
【0002】
従来、盛土の安定対策、建築構造物の基礎等の液状化時の側方流動対策及び水平変位対策としては、矢板工法、セメント固化工法、静的締固め砂杭工法及び特開2001-336141公報記載の砂質土層の改良地盤構造及び改良工法等の技術が知られている。特開2001―336141公報の技術は、基礎周辺の砂質土層に板状のプラスチック等の補強材を打設することにより、地震発生時における地盤の沈下や変形を抑止すると共に、過剰間隙水圧を速やかに消散して液状化を防止するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、矢板工法は、材料費が高く、地下水流を遮断する等の問題がある。固化工法では、セメントを用いることの周辺環境への影響懸念、セメント混じりの盛り上がり土の処理、地下水流の遮断等の問題がある。また、静的締固め砂杭工法は、砂杭の締固め効果のみでは、改良域が広がったり、地盤の変形に耐えられない等の問題がある。また、砂杭打設時の変位により周辺地盤への影響が懸念される。また、特開2001-336141号公報の補強材の打設対策では、打設時に補強材周辺地盤の乱れを回復する工程がないため、改良対象地盤と補強材の摩擦抵抗が高まりにくく、すべり面上での補強効果が発揮されにくいという問題がある。
【0005】
このため、盛土や構造物直下の地盤において、液状化時の側方流動を抑制し、また、地盤の変形による変位を抑制する地盤改良工法、あるいは、砂杭打設時の周辺地盤への変位を抑制する地盤改良工法、更には、補強材の打設時に生じる補強材周辺地盤の乱れが回復可能な地盤改良工法の開発が望まれていた。
【0006】
従って、本発明の目的は、盛土や構造物直下の地盤において、液状化時の側方流動を抑制し、また、地盤の変形による変位を抑制する地盤改良工法、あるいは、砂杭打設時の周辺地盤への変位を抑制する地盤改良工法、更には、補強材の打設時に生じる補強材周辺地盤の乱れが回復可能な地盤改良工法及びその工法で得られる改良地盤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明(1)は、上記課題を解決するものであって、改良対象地盤中、互いに離れて打設された多数の砂杭と、砂杭間に配設された、又は改良対象地盤境界側であって且つ砂杭の外側に配設されたジオテキスタイル補強材とを有する改良地盤を提供するものである。
【0008】
本発明(2)は、改良対象地盤が、新設盛土の直下地盤、既設盛土の直下又は直下近傍の地盤、地表構造物の基礎周りの地盤、又は地中構造物の直下の地盤である(1)の改良地盤を提供するものである。
【0009】
本発明(3)は、該ジオテキスタイル補強材の面が、地盤が変形する方向に対向している(2)の改良地盤を提供するものである。
【0010】
本発明(4)は、該ジオテキスタイル補強材の上端部は、地表構造物又は地中構造物に固定されているか、地表の新設盛土の下に水平敷設されている(2)又は(3)の改良地盤を提供するものである。
【0011】
本発明(5)は、該ジオテキスタイル補強材の下端部は、改良対象地盤下の支持層に、直接又はアンカーにより定着させる(2)又は(3)に記載の改良地盤を提供するものである。
【0012】
本発明(6)は、該砂杭の下端が、改良対象地盤下まで延出されたものである(1)又は(2)の改良地盤を提供するものである。
【0013】
本発明(7)は、改良対象地盤境界側に、互いに離れて打設された多数の変位緩衝孔を更に有し、最外側のジオテキスタイル補強材は、該変位緩衝孔に接して配設されたものである(1)又は(2)の改良地盤を提供するものである。
【0014】
本発明(8)は、該砂杭は、締固め砂杭である(1)又は(2)の改良地盤を提供するものである。
【0015】
本発明(9)は、改良対象地盤にジオテキスタイル補強材を地中に貫入し、多数配設するI工程と、次いで該ジオテキスタイル補強材の間に、砂杭を打設するII工程を有する地盤改良工法を提供するものである。
【0016】
本発明(10)は、I工程において、改良対象地盤境界側の変位緩衝孔を削孔するのと同時に、ジオテキスタイル補強材を配設するIA工程を行う(9)の地盤改良工法を提供するものである。
【0017】
本発明(11)は、IA工程において、スクリューロッドを有する変位緩衝孔削孔機を使用し、該ジオテキスタイル補強材を取り付けたガイドフレームを、該スクリューロッドの側面に、該スクリューロッドの回転に追従しないように固定される(10)の地盤改良工法を提供するものである。
【0018】
本発明(12)は、該スクリューロッドと該ガイドフレームの連結固定は、ロッドの深度方向の複数個所に形成された振れ止め用溝に遊嵌する連結フレームで行い、該連結フレームは、該スクリューロッドに上下方向で追従するように固定される(11)の地盤改良工法を提供するものである。
【0019】
本発明(13)は、I工程において、変位緩衝孔に接するジオテキスタイル補強材以外のジオテキスタイル補強材の貫入は、該変位緩衝孔削孔機のスクリュー径より小さなスクリュー径のスクリューロッドを有する削孔機、又は、スクリューロッドを有さない圧入機を用いること(10)~(12)の地盤改良工法を提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の改良地盤によれば、軟弱地盤を砂杭で改良すると共に、ジオテキスタイル補強材で更に補強することができる。また、盛土や地表構造物直下の地盤において、液状化時の側方流動を抑制し、更に地盤の変形による変位を抑制することができる。また、本発明の工法によれば、ジオテキスタイル補強材貫入後に締固め砂杭を打設することで、補強材貫入時の乱れを回復すると共に、補強材の原地盤への定着を増大できる。また、締固め砂杭施工時の周辺への変位や盛り上がりを、従来の締固め砂杭施工に比べて、より低減できる。また、地下水流を遮断することがない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施の形態における改良地盤であり、(A)が断面図、(B)が平面図である。
【
図2】本発明の実施の形態における他の改良地盤であり、(A)が断面図、(B)が平面図である。
【
図3】本発明の実施の形態における他の改良地盤であり、(A)が断面図、(B)が平面図である。
【
図4】本発明の実施の形態における他の改良地盤であり、(A)が断面図、(B)が平面図である。
【
図5】(A)は、ジオテキスタイル補強材のすべり破壊低減効果を説明する図であり、(B)は、(A)の四角枠X部分の拡大説明図である。
【
図6】ジオテキスタイル補強材の側方流動低減効果を説明する図である。
【
図7】ジオテキスタイル補強材の土圧による変位低減効果を説明する図である。
【
図8】(A)は、本発明の実施の形態における改良地盤工法で使用する削孔機であり、(B)は、ガイドフレームであり、(C)は、ガイドフレームが取り付けられた削孔機である。
【
図9】(A)は、
図8(C)のA-A線で切断した拡大断面図であり、(B)は、(A)のロッド中心で切断した側面方向の断面図である。
【
図10】本発明の実施の形態における改良地盤工法のI工程を説明する図であり、(A)工程、次いで(B)を行う。
【
図11】
図10の次の工程であり、(A)工程、次いで(B)を行う。
【
図12】
図11の次の工程であり、(A)工程、次いで(B)を行う。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の改良地盤は、改良対象地盤中、互いに離れて打設された多数の砂杭と、砂杭間に配設された、又は改良対象地盤境界側であって且つ砂杭の外側に配設されたジオテキスタイル補強材とを有する。これにより、砂杭による地盤改良効果に加えて、ジオテキスタイル補強材による更に強い地盤を形成することができる。
【0023】
改良対象地盤としては、砂質土又は粘性土の軟弱地盤であり、新設盛土の直下地盤、既設盛土の直下又は直下近傍の地盤、地表構造物の基礎周りの地盤、又は地中構造物の直下の地盤が挙げられる。これにより、盛土や地表構造物の直下の地盤における液状化時の側方流動を抑制し、また、地盤の変形による変位を抑制することができる。また、地中構造物の液状化時の浮き上がりを防止できる。
【0024】
砂杭としては、締固め砂杭が挙げられる。締固め砂杭は公知の締固め砂杭造成工法で造成することができる。砂杭は、改良対象地盤の一部又は全部に、所定のピッチで多数造成される。砂杭の下端は、ジオテキスタイル補強材が近傍に存在する場合、改良対象地盤下の非改良対象地盤中まで延出させることが好ましい。これにより、近傍のジオテキスタイル補強材の下端部の固定が安定する。
【0025】
改良対象地盤境界側とは、平面視における非改良対象地盤(外側地盤)に近い領域を意味する。改良対象地盤境界側には、削孔された変位緩衝孔又は変位緩衝溝を形成してもよい。変位緩衝孔や溝は、砂杭の外側に多数、配設される。変位緩衝孔や溝を形成することで、締固め砂杭打設による地盤の変位を吸収することができる。また、変位緩衝孔には、ジオテキスタイル補強材が接していることが好ましく、特に、変位緩衝孔の外側に、ジオテキスタイル補強材が接していることが、より緩衝効果が得られる点で好ましい。
【0026】
改良地盤中、ジオテキスタイル補強材は、砂杭間に配設されるか、又は改良対象地盤境界側であって且つ砂杭の外側に配設され、好ましくは、砂杭間に配設され、且つ改良対象地盤境界側で、砂杭の外側に配設される。ジオテキスタイル補強材を、改良対象地盤境界側で、砂杭の外側に配設する場合、砂杭近傍とすれば、ジオテキスタイル補強材貫入時の地盤の乱れを締固め砂杭の施工によって、回復できる。また、ジオテキスタイル補強材の貫入方向は、鉛直方向であるが、鉛直から水平変位方向へ約5度までの傾斜方向であってもよい。基礎構造物の水平変位を抑制する場合、水平方向に傾斜した方が水平補強効果は大きくなり易いからである。ジオテキスタイルの傾斜貫入には傾斜台などの治具を補助で使用すればよい。
【0027】
ジオテキスタイル補強材は、例えば、不織布、織布又は編物であって、透水性の高分子材料からなる可撓性のある土木用補強材である。高分子材料としては、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、アラミド等が挙げられる。形状としては、網目状又はシート状のいずれであってもよく、網目の粗いジオグリッドやジオネットも使用できる。寸法としては、例えば幅0.5m~1.0m、長さが2m以上の貫入長のものが、入手し易く、施工性もよい。
【0028】
改良地盤中、ジオテキスタイル補強材は、その面が、地盤が変形する方向に対向して配置される。また、平面視において、直線状、非直線状のいずれであってもよいが、直線状に配設することが施工性の点で好ましい。また、ジオテキスタイル補強材は、例えば、幅1m、縦(深度方向)長さが長いものでは、1本毎、地盤中に打設し、多数本を横並びで構築する。従って、直線状の場合、1枚ものが複数本、横並びの不連続、不連結である。改良対象地盤が、粘性土地盤の場合、高分子芯材入りジオテキスタイル補強材が好ましく、砂地盤の場合、ジオグリッドが好ましい。
【0029】
改良地盤中、ジオテキスタイル補強材の上端部は、地表構造物又は地中構造物に固定されているか、地表の新設盛土の下に水平敷設されている。地表構造物としては、建築構造物の他、既設盛土の縁部に配置される土留めやドレーン工用のじゃかご(ふとんかご)であってもよい。ジオテキスタイル補強材は、可撓性に優れており、地中に貫入する際、長さ方向に余長を採ることで、地表構造物に固定することができる。また、変位緩衝溝を形成した場合、ジオテキスタイル補強材の上端部は、変位緩衝溝の掘削土の下に水平敷設してもよい。
【0030】
改良地盤中、ジオテキスタイル補強材の下端部は、改良対象地盤下の非改良地盤(支持層)である砂又は礫層に定着されるか、又は改良対象地盤下の非改良地盤(支持層)である粘性土にアンカーにより定着される。ジオテキスタイル補強材近傍の締固め砂杭が改良対象地盤下の非改良地盤まで補強材と略同じ長さまで打設されていれば、ジオテキスタイル補強材の支持層への定着がより安定する。アンカーとしては、下端から地表側に傾斜した反り部(矢印形状若しくは半矢印形状)を有するものが挙げられる。ジオテキスタイル補強材を、砂又は礫層に定着させる場合、定着長は1m~2m程度でよい。この場合、アンカーは不要である。
【0031】
次に、本発明の改良地盤の具体例を
図1~
図4を参照して説明する。
図1は、改良対象地盤が新設盛土直下の軟弱粘性土や液状化地盤への適用例を示すものである。砂杭1は、改良対象地盤中、中心矩形部を除く平面視で四角枠の区域に所定のピッチで多数、打設された締固め砂杭である。砂杭1の下端部12は、支持層5まで延びている。これにより、隣接するジオテキスタイル補強材2の支持層5における固定が安定する。ジオテキスタイル補強材2は、砂杭1間及び一番外側の砂杭111の更に外側に、面が地盤の変形方向に対向するように設置されている。また、ジオテキスタイル補強材2の上端部21は、新設盛土6の下に水平敷設され、下端部22は、支持層5にまで延びている。この場合、ジオテキスタイル補強材2は、高分子芯材入りの不織布が好ましく、且つ下端には、アンカーを設置して、支持層5に定着させることが好ましい。支持層5への定着長さは、1m程度でよい。なお、砂杭1の上部11は、締固の無い拡径していない砂杭である。また、改良対象地盤4の境界側の砂杭111の外側には、変位緩衝孔3が所定のピッチで多数形成されている。変位緩衝孔3は、締固め砂杭打設に伴う変位を吸収する。なお、最外側のジオテキスタイル補強材2は、変位緩衝孔3に接するように、打設されている。
【0032】
図1の改良地盤のジオテキスタイル補強材の補強効果を、
図5~
図7を参照して説明する。
図5(A)は、ジオテキスタイル補強材の引張力及びすべり破壊低減効果を説明する図であり、(B)は、(A)の四角枠X部分の拡大説明図である。
図6は、ジオテキスタイル補強材の側方流動低減効果を説明する図である。また、
図7は、ジオテキスタイル補強材の土圧による変位低減効果を説明する図である。なお、
図5及び
図6中、変位緩衝孔の記載は省略し、
図6中、砂杭の記載は省略した。
【0033】
図5中、符号50は、盛土6に起因する地盤のすべり円弧である。この状況において、ジオテキスタイル補強材2には、深度方向に引張り力Tが生じ、すべり面(せん断面)上の拘束力が増大し、また、Tのすべり円弧上の分力(Tsinθ)が発生して、せん断力が低減し、補強効果が発揮される。
図6中、符号Rは、ジオテキスタイル補強材2のハンモック効果による復元力を示す。このように、ジオテキスタイル補強材2は、側方流動をハンモック効果により低減することが可能となる。また、
図7中、符号Sは、土圧であり、ジオテキスタイル補強材2に対して、斜め外側上方向の力である。この場合においても、ジオテキスタイル補強材2のハンモック効果により、土圧による変位を低減することができる。なお、
図7は、
図1の改良地盤の変位緩衝孔に代えて変位緩衝溝を形成したものであり、ジオテキスタイル補強材2の上端部は、変位緩衝溝の掘削土の下に水平敷設されている。
【0034】
図1の改良地盤10において、ジオテキスタイル補強材2は、上端部21及び下端部22が固定され、引っ張られた状態で配設されている。このため、
図5~
図7に示す通り、引張力によるすべり面(せん断面)上の拘束圧を増大させることができ、せん断力を低減させることができる。また、ハンモック効果により、地盤の側方流動や土圧による変位を低減させることができる。また、引張力により構造物の変位を抑制することができる。
【0035】
図2は、河川堤防等の既設盛土直下及びその近傍の液状化地盤への適用例を示すものである。
図2において、
図1と同一構成要素には同一符号を付して、その説明を省略し、異なる点について、主に説明する。すなわち、
図2において
図1と主に異なる点は、改良対象地盤である。
図2中、既設盛土6aの直下の地盤には、小型機械による砂圧入式静的締固め砂杭造成工法による砂杭1aが形成されている。また、砂杭1a間及び砂杭111aの外側のジオテキスタイル補強材2の上端部21aは、ふとんかご7に直接、固定されている。また、
図2中、右側の改良区の地表においても、同様のふとんかごを設置し、ジオテキスタイル補強材2の上端部を固定してもよい。
【0036】
図2の改良地盤10aにおいて、従来の締固め砂杭のみに比べて高い補強地盤が得られる。ジオテキスタイル補強材2は、上端部21a及び下端部22が固定され、引っ張られた状態で配設されている。また、ハンモック効果により、液状化による地盤の側方流動や土圧による変位を低減させることができる。
【0037】
図3は、建築構造物基礎周りの液状化地盤への適用例を示すものである。
図3において、
図1と同一構成要素には同一符号を付して、その説明を省略し、異なる点について、主に説明する。すなわち、
図3において、
図1と異なる点は、改良対象地盤であり、建築構造物6bの基礎62周りの液状化地盤を対象とするものである。なお、符号61はフーチングである。砂杭1は杭基礎62周りに所定のピッチで多数、打設されている。ジオテキスタイル補強材2は、砂杭1間であって、杭基礎62周りに平面視において四角形状に、且つ深度方向、下方に向けて広がる5度の傾斜で打設されている。また、ジオテキスタイル補強材2の上端部は、フーチング61に固定され、下端部は、支持層5まで延びている。
【0038】
図3の改良地盤10cにおいて、従来の締固め砂杭のみに比べて高い補強地盤が得られる。また、ジオテキスタイル補強材2のハンモック効果により、液状化による地盤の側方流動や土圧による変位を低減させることができる。また、引張力により構造物の変位を抑制することができる。
【0039】
図4は、地下構造物直下の液状化地盤への適用例を示すものである。
図4において、
図1と同一構成要素には同一符号を付して、その説明を省略し、異なる点について、主に説明する。すなわち、
図4において、
図1と異なる点は、改良対象地盤であり、地下構造物6cの直下の液状化地盤を対象とするものである。砂杭1は地下構造物6c直下の地盤中、所定のピッチで多数、打設されている。ジオテキスタイル補強材2は、砂杭1間であって、面が、地盤が変形する方向に対向するように打設されている。また、ジオテキスタイル補強材2の上端部は、地下構造物6cに固定され、下端部は、支持層5まで延びている。
【0040】
図4の改良地盤10dにおいて、従来の締固め砂杭のみに比べて高い補強地盤が得られる。また、地下構造物がボックス等の地中埋設物の場合、液状化時の浮き上がりを防止することができる。また、引張力により地下構造物の変位を抑制することができる。
【0041】
次に、本発明の地盤改良工法について説明する。本発明の地盤改良工法は、改良対象地盤にジオテキスタイル補強材を地中に貫入し、多数配設するI工程と、次いで該ジオテキスタイル補強材の間に、砂杭を打設するII工程を有する。また、I工程において、改良対象地盤境界側の変位緩衝孔を削孔するのと同時に、ジオテキスタイル補強材を配設するIA工程を行うことができる。
【0042】
I工程において、ジオテキスタイル補強材の貫入は、例えば、スクリューロッドを備えた削孔機又は圧入機を使用することができる。削孔機は、クレーンやバックホウ等のリーダーレス杭打機や懸垂式杭打機や三点式杭打機等の汎用打設機に取り付けられる。スクリューロッドを備えた削孔機は、変位緩衝孔と同時にジオテキスタイル補強材を貫入する場合や、硬質地盤に貫入する場合に使用する。スクリューロッドには、ジオテキスタイル補強材を取り付けたガイドフレームが取り付けられる。変位緩衝孔に接するジオテキスタイル補強材以外のジオテキスタイル補強材の貫入において、スクリューロッドを備えた削孔機を使用してもよいが、この場合、変位緩衝孔削孔機のスクリュー径より小さなスクリュー径のスクリューロッドを有する削孔機、または、スクリューロッドを有さない圧入機を使用する。これにより、締固め砂杭の打設効果を低減させることがない。
【0043】
次に、IA工程について、
図8~
図12を参照して説明する。スクリューロッドを備えた削孔機8を使用する際、ガイドフレーム85を、スクリューロッドの側面に固定する。
【0044】
ガイドフレーム85としては、
図8(B)に示す通り、幅がジオテキスタイル補強材2の幅長さと略同じ、長さが打設長と略同じの板状体を使用すればよい。ガイドフレーム85の板の内部には貫入補助用ジェット水を噴射するためのジェット管851が付設されている(
図9(A)参照)。ジオテキスタイル補強材2が付設される側面には、ジオテキスタイル補強材2を取り付けるための引っ掛け爪852が付設されている。ジェット管851は、ガイドフレーム85の先端を含め深度方向の適宜の箇所において、地中に高圧水を噴射する噴射口を有している。
【0045】
削孔機8としては、
図8(A)に示す通り、地中に貫入されるロッド81と、ロッド81回りに敷設されるスクリュー羽根82と、ロッド81先端の削孔ビット832付き掘削翼83と、ロッド基端側のアースオーガ84と、振れ止め用溝834とを有する。振れ止め用溝834は、ロッド81の深度方向の途中(例えば5m間隔)の複数個所に形成されている。
【0046】
ロッド溝部である振れ止め用溝834には、ロッド81にガイドフレーム85を固定する連結フレーム86a、86b、86cが取り付けられる。連結フレーム86bは、ロッド81が入る中空部87を有する円筒体861と、一端が円筒体861の側面に固定され、他端がガイドフレーム85に固定される連結棒部862を有する。連結フレーム86aの中空部87の内周面はロッド溝部の円周面に沿うように取り付けられる。すなわち、中空部87の内径は、ロッド溝部の径より大きく、溝部以外のロッド径より小である。これにより、ガイドフレーム85は、ロッド81の下方移動(貫入)に追従し、ロッド81の回転方向に追従しない。
【0047】
先ず、ガイドフレーム85をロッド81に取り付けた削孔機8は、リーダ-レス打設機9に吊り下げられる。この状態において、巻物ジオテキスタイル補強材2Aの一端をワイヤー91で引き上げつつ、ガイドフレーム85長さまで展張し、下端をカットし、ガイドフレーム85に取り付ける(
図10(A)及び(B))。ジオテキスタイル補強材2は、ガイドフレーム85の引っ掛け爪852に係止されると共に、下端は削孔ビット832に引っ掛けられ、上端はロッド81の上部の振れ止め861に係止される。なお、改良対象地盤下の支持層が粘性土の場合、ジオテキスタイル補強材2をガイドフレーム85に取り付けた際、ジオテキスタイル補強材2の下端にアンカーを取り付ける。
【0048】
次いで、アースオーガ84を駆動し、削孔機8のロッド81を回転させつつ、地中に貫入する。地中への貫入は、ジェット水を地中に噴射しつつ行うことで、原地盤とジオテキスタイル補強材2との摩擦を低減し、ジオテキスタイル補強材2の貫入を円滑にする。また、地中への貫入の際、ジオテキスタイル補強材2を取り付けたガイドフレーム85は、ロッド81の回転に追従せず、ロッド81の貫入(下方移動)に追従する。ガイドフレーム85が、打設長まで達したら、ロッド81の貫入及び回転を停止する(
図11(A)及び(B))。ガイドフレーム85の下端部は、改良対象地盤下の非改良対象地盤まで達している(定着層)。これにより、ジオテキスタイル補強材2の下端部が非改良対象地盤まで延ばされ、定着させることができる。
【0049】
次いで、ロッド82を逆回転させつつ、地表へ引き上げる。この際、地中には変位緩衝孔3が形成されると共に、変位緩衝孔3に接して、1枚のジオテキスタイル補強材2が形成される(
図12(A)及び(B))。次いで、貫入されたジオテキスタイル補強材2に横並びで、他のジオテキスタイル補強材2が、同様の施工方法により、地中に形成される。このような施工を繰り返し行うことで、
図1(B)の両端に表れるような、所定長(平面視)のジオテキスタイル補強材2が改良対象地盤の境界側に形成される。なお、ジオテキスタイル補強材2の上端部は、余長を採っており、砂杭打設後に、地表構造物等に固定される。
【0050】
次いで、変位緩衝孔3に接するジオテキスタイル補強材2以外のジオテキスタイル補強材2の貫入を行うI工程を実施してもよく、又は砂杭を打設するII工程を実施してもよい。変位緩衝孔3に接するジオテキスタイル補強材2以外のジオテキスタイル補強材2の貫入を行う場合、変位緩衝孔用の削孔機9のスクリュー径より小さな径のスクリューを有する削孔機を用いる以外は、IA工程と同様である。小さな径のスクリューを有する削孔機を用いることで、締固め砂杭による締固め効果を阻害することがない。また、変位緩衝孔の削孔を伴わない場合、圧入機によりガイドフレーム85を用いてジオテキスタイル補強材2の貫入を行うことができる。
【0051】
I工程に次いで、ジオテキスタイル補強材2の間に、砂杭1を打設するII工程を行う。II工程の砂杭打設方法は、公知の締固め砂杭工法であり、例えば、先ず、大型機械を使用し、材料砂の入った中空管を回転させながら地中に所定の深度貫入し、貫入後、中空管を適宜の長さに引き抜き、該引き抜き跡に中空管内の砂杭材料を排出する引き抜きと、中空管の打ち戻しを順次、地表に至るまで繰り返し、締固め砂杭を造成する方法が挙げられる。また、既設盛土の直下など大型機械による施工が困難な箇所で地盤に砂杭を打設する場合、小型機械を使用し、専用プラントで砂と水、流動化剤・塑性化剤を所定の配合で混合した流動砂をポンプ圧送し、小型機械で地中に貫入したロッドを通じて圧入する砂圧入式静的締固め工法を使用することもできる。なお、締固め砂杭の下端部は、改良対象地盤下のジオテキスタイル補強材2の定着層まで、約1~2mほど延ばして打設することが、ジオテキスタイル補強材2の定着が増大する点で好ましい。
【0052】
II工程において、砂杭1はジオテキスタイル補強材2間に打設される。このため、ジオテキスタイル補強材貫入時の地盤の乱れを締固め砂杭の打設により、回復させると共に、原地盤とジオテキスタイル補強材2の定着を増大させることができる。また、締固め砂杭打設による地盤の変位を、既設ジオテキスタイル補強材2で低減できる。
【0053】
II工程において、砂杭1を打設した後、ジオテキスタイル補強材2の余長の上端部21は、地表構造物又は地中構造物に固定するか、地表の新設盛土の下に水平敷設する。これにより、ジオテキスタイル補強材2は、上下端が固定され、締固め砂杭の打設効果もあって、引張抵抗力が生じ、地盤のすべり面上の拘束力を増大させ、すべり面上のせん断力の低減を図ることができる。地表構造物としては、地表建築物の他、既設盛土においては、既設盛土縁部に設置されるふとんかご等が挙げられる。
【0054】
本発明は、上記実施の形態例に限定されず、種々の変形を採ることができる。砂杭の打設は、すべてのジオテキスタイル補強材の打設の後に行ってもよく、例えば、1列の砂杭の打設後、その近傍の1列のジオテキスタイル補強材の打設を行い、次いで、その近傍の1列の砂杭の打設を行うなど、ブロック毎に交互に行ってもよい。また、ジオテキスタイル補強材として、金属製の網目状の補強材を使用してもよい。また、ジオテキスタイル補強材は、砂杭間のすべてに打設する必要はなく、少なくとも、ひとつ列の砂杭間に打設されていればよく、設計上必要であれば砂杭間に必要分打設されていればよい。また、ジオテキスタイル補強材は、変位対策も兼ねて改良対象地盤境界側のみに打設されてもよい。
【0055】
本願発明の改良地盤は、改良対象地盤中、互いに離れて打設された多数の砂杭と、砂杭間に配設された、又は改良対象地盤境界側であって且つ砂杭の外側に配設されたジオテキスタイル補強材とを有するため、従来の砂杭による改良効果に加えて、更に高い強度の地盤とすることができる。また、液状化時の側方流動を低減できる。
【0056】
また、本発明の改良地盤は、改良対象地盤が、新設盛土の直下地盤、既設盛土の直下又は直下近傍の地盤、地表構造物の基礎周りの地盤、又は地中構造物の直下の地盤の場合、地盤の変形による構造物変位を低減できる。また、ジオテキスタイル補強材の面が、地盤が変形する方向に対向しているため、ハンモック効果を得ることができる。
【0057】
また、本発明の改良地盤は、ジオテキスタイル補強材の上端部及び下端部は固定されており、締固め砂杭の打設時の変位を低減することができると共に、高いハンモック効果が得られる。また、砂杭の下端が、改良対象地盤下まで延出されており、ジオテキスタイル補強材の定着を増大させることができる。
【0058】
また、本発明の改良地盤は、改良対象地盤境界側に、互いに離れて打設された多数の変位緩衝孔を更に有し、最外側のジオテキスタイル補強材は、変位緩衝孔に接して配設されたものであるため、変位緩衝孔の削孔工程と、ジオテキスタイル補強材の貫入工程を一つの工程で行うことができる。また、砂杭は、締固め砂杭であるため、軟弱地盤を改良すると共に、原地盤とジオテキスタイル補強材の定着を増大させることができる。
【0059】
本発明の地盤改良工法は、改良対象地盤にジオテキスタイル補強材を地中に貫入し、多数配設するI工程と、次いで該ジオテキスタイル補強材の間に、砂杭を打設するII工程を有するため、ジオテキスタイル補強材貫入時の地盤の乱れを締固め砂杭の打設により、回復させると共に、原地盤とジオテキスタイル補強材の定着を増大させることができる。また、締固め砂杭打設による地盤の変位を、既設ジオテキスタイル補強材で低減することができる。
【0060】
また、本発明の地盤改良工法は、I工程において、改良対象地盤境界側の変位緩衝孔を削孔するのと同時に、ジオテキスタイル補強材を配設するIA工程を行うため、一の工程で、変位緩衝孔の削孔とジオテキスタイル補強材配設を同時に行うことができる。
【0061】
また、本発明の地盤改良工法は、IA工程において、スクリューロッドを有する変位緩衝孔削孔機を使用し、ジオテキスタイル補強材を取り付けたガイドフレームを、スクリューロッドの側面に、スクリューロッドの回転に追従しないように固定されるため、従来の変位緩衝孔削孔機を使用でき、新たな機械を用意しなくともよい。
【0062】
また、本発明の地盤改良工法は、スクリューロッドとガイドフレームの連結固定は、ロッドの深度方向の複数個所に形成された振れ止め用溝に遊嵌する連結フレームで行い、連結フレームは、スクリューロッドに上下方向で追従するように固定されるため、ガイドフレームに取り付けたジオテキスタイル補強材を地中に円滑に貫入できる。また、本発明の地盤改良工法は、I工程において、変位緩衝孔に接するジオテキスタイル補強材以外のジオテキスタイル補強材の貫入は、より小さな径のスクリューロッドを有する削孔機、又はスクリューロッドを有さない圧入機を用いるため、締固め砂杭の打設効果を低減させることがない。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、軟弱地盤を従来の締固め砂杭による改良効果に加えて、更に強い地盤とすることができる。また、新設盛土や既設盛土の安定対策として有効である。また、構造物や構造物の基礎杭の液状化時の側方流動化対策及び水平変位対策として有効である。また、地中埋設物の液状化時の浮き上がり対策としても有効である。
【符号の説明】
【0064】
1 砂杭
2 ジオテキスタイル補強材
3 変位緩衝孔
4 改良対象地盤
5 支持層
6 盛土
7 ふとんかご
8 削孔機
9 リーダ-レス打設機
10、10a~10d 改良地盤