(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173419
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】アンテナ装置、通信装置及び移動体
(51)【国際特許分類】
H01Q 19/18 20060101AFI20241205BHJP
H01Q 25/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
H01Q19/18
H01Q25/00
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091830
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】501440684
【氏名又は名称】ソフトバンク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(74)【代理人】
【識別番号】100128691
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 弘通
(72)【発明者】
【氏名】土屋 貴寛
【テーマコード(参考)】
5J020
5J021
【Fターム(参考)】
5J020AA03
5J020BA06
5J020BA17
5J020BC03
5J020DA03
5J020DA04
5J020DA09
5J021AA06
5J021BA01
5J021HA10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】移動体間通信に適用した場合に通信品質劣化や通信断が発生しにくい簡易構成のアンテナ装置、通信装置及び移動体を提供する。
【解決手段】アンテナ装置は、第1指向性ビーム111H、121H及び通信対象側とは反対方向を向いた複数の第2指向性ビームを含む指向特性を夫々有し、第1指向性ビームの方向が互いに異なるように配置された複数のアンテナ11、12と、複数の第2指向性ビームに対応する反射面310、320を有する反射部材30と、を備える。第1指向性ビームの方向と、反射部材の反射面によって第2指向性ビームが反射された反射指向性ビーム112HR、122HRの方向は、所望の指向性角度範囲に含まれてもよい。反射面は夫々、反射面に対応するアンテナの第2指向性ビームの入射角が互いに同じであってもよく、更に、反射面に対応するアンテナの第2指向性ビームに対して所定値以上の反射係数を有してもよい。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナ装置であって、
互いに逆向きの第1指向性ビーム及び第2指向性ビームを含む指向特性をそれぞれ有し、前記第1指向性ビームの方向が互いに異なるように配置された複数のアンテナと、
前記複数のアンテナの複数の第2指向性ビームに対応する複数の反射面を有する反射部材と、を備え、
前記複数のアンテナの前記複数の第1指向性ビームの方向と、前記反射部材の複数の反射面によって前記複数の第2指向性ビームが反射された複数の反射指向性ビームの方向は、所望の指向性角度範囲に含まれる、アンテナ装置。
【請求項2】
請求項1のアンテナ装置において、
前記反射部材の前記複数の反射面はそれぞれ、前記反射面に対応するアンテナの第2指向性ビームの入射角が互いに同じである、
アンテナ装置。
【請求項3】
請求項2のアンテナ装置において、
前記反射部材の前記複数の反射面はそれぞれ、前記反射面に対応するアンテナの第2指向性ビームに対して所定値以上の反射係数を有する、アンテナ装置。
【請求項4】
請求項1のアンテナ装置において、
前記反射部材の前記複数の反射面はそれぞれ、前記反射面に対応するアンテナとの距離がλ/2π(λ:電波の波長)以上である、アンテナ装置。
【請求項5】
請求項1のアンテナ装置において、
前記アンテナの数がnであり、前記所望の指向性角度範囲及びその調整値をそれぞれα及びΔαとしたとき、前記複数のアンテナそれぞれの前記第1指向性ビーム及び前記反射指向性ビームの方向φnは次の式(1)を満たす、アンテナ装置。
【数1】
【請求項6】
請求項1のアンテナ装置において、
前記反射部材の前記複数の反射面のそれぞれについて、前記反射面で形成される前記反射指向性ビームが、前記アンテナ装置の基準点を中心とした半径が受信距離である仮想同心円上の対象点を通過するように、前記反射面の傾き角度が補正されている、アンテナ装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかのアンテナ装置と、
前記アンテナ装置の前記アンテナに接続された無線通信部と、
を備える、通信装置。
【請求項8】
請求項7の通信装置を備え、移動方向の前方及び後方の少なくとも一方に位置する他の移動体との間で移動体間通信を行う、移動体。
【請求項9】
請求項8の移動体において、
前記移動体の移動方向の前方及び後方の少なくとも一方に、前記アンテナ装置を複数備え、
前記複数のアンテナ装置を介して同一の電波を送信又は受信する、
移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車車間通信に適するアンテナ装置、通信装置及び移動体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車車間通信等の移動体間通信を行う車両等の移動体に搭載可能なアンテナ装置を有する通信装置が知られている。例えば、引用文献1には、移動経路を移動可能な第1移動体(車両)に設けられ第1移動体が移動経路を移動するとき他の第2移動体(車両)との間で移動体間通信(車車間通信)を行う通信装置が開示されている。この通信装置によれば、指向性アンテナにより第2移動体に向かう指向性ビームを形成し、第2移動体が指向性ビームの範囲から外れて通信切断が予測されるときに第2移動体に対する指向性ビームの追尾を開始することにより、移動経路での車線変更、交差点などでの右折・左折、カーブ走行などにおいても移動体間通信を継続することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の車車間通信等の移動体間通信を行う通信装置では、移動体間通信に適用した場合に通信品質劣化や通信断が発生しにくい簡易構成のアンテナ装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係るアンテナ装置は、互いに逆向きの第1指向性ビーム及び第2指向性ビームを含む指向特性をそれぞれ有し、前記第1指向性ビームの方向が互いに異なるように配置された複数のアンテナと、前記複数のアンテナの複数の第2指向性ビームに対応する複数の反射面を有する反射部材と、を備える。前記複数のアンテナの前記複数の第1指向性ビームの方向と、前記反射部材の複数の反射面によって前記複数の第2指向性ビームが反射された複数の反射指向性ビームの方向は、所望の指向性角度範囲に含まれる。
【0006】
前記アンテナ装置において、前記反射部材の前記複数の反射面はそれぞれ、前記反射面に対応するアンテナの第2指向性ビームの入射角が互いに同じであってもよい。
【0007】
前記アンテナ装置において、前記反射部材の前記複数の反射面はそれぞれ、前記反射面に対応するアンテナの第2指向性ビームに対して所定値以上の反射係数を有してもよい。
【0008】
前記アンテナ装置において、前記反射部材の前記複数の反射面はそれぞれ、前記反射面に対応するアンテナとの距離がλ/2π(λ:電波の波長)以上であってもよい。
【0009】
前記アンテナ装置において、前記アンテナの数がnであり、前記所望の指向性角度範囲及びその調整値をそれぞれα及びΔαとしたとき、前記複数のアンテナそれぞれの前記第1指向性ビーム及び前記反射指向性ビームの方向φnは次の式(1)を満たしてもよい。
【数1】
【0010】
前記アンテナ装置において、前記反射部材の前記複数の反射面のそれぞれについて、前記反射面で形成される前記反射指向性ビームが、前記アンテナ装置の基準点を中心とした半径が受信距離である仮想同心円上の対象点を通過するように、前記反射面の傾き角度が補正されていてもよい。
【0011】
本発明の他の態様に係る通信装置は、前記アンテナ装置と、前記アンテナ装置の前記アンテナに接続された無線通信部と、を備える。
【0012】
本発明の更に他の態様に係る移動体は、前記通信装置を備え、移動方向の前方及び後方の少なくとも一方に位置する他の移動体との間で移動体間通信を行う。
【0013】
前記移動体において、前記移動体の移動方向の前方及び後方の少なくとも一方に、前記アンテナ装置を複数備え、前記複数のアンテナ装置を介して同一の電波を送信又は受信してもよい。
【0014】
前記アンテナ装置、前記通信装置及び前記移動体において、送信、受信又はその両方の対称の電波は、マイクロ波、ミリ波又はサブミリ波であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、移動体間通信に適用した場合に通信品質劣化や通信断が発生しにくい簡易構成のアンテナ装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1(a)は参考例に係るアンテナの水平面内指向特性の一例を示す図である。
図1(b)は同アンテナの垂直面内指向特性の一例を示す図である。
【
図2】
図2(a)は他の参考例に係るアンテナの水平面内指向特性の一例を示す図である。
図2(b)は同アンテナの垂直面内指向特性の一例を示す図である。
【
図3】
図3(a)及び
図3(b)はビーム指向性を有するアンテナ装置をそれぞれ備える複数の車両が車車間通信を行いながら走行する場合の課題の説明図である。
【
図4】
図4(a)及び
図4(b)はそれぞれ、実施形態のアンテナ装置を構成する複数のアンテナの水平面内指向特性の一例を示す図である。
【
図5】
図5は参考例に係る反射部材を備えたアンテナ装置の説明図である。
【
図6】
図6(a)は、偏波方向が反射面に垂直な垂直偏波の電波が入射する場合の入射角と反射係数との関係の一例を示すグラフである。
図6(b)は、偏波方向が反射面に平行な水平偏波の電波が入射する場合の入射角と反射係数との関係の一例を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施形態に係る反射部材を備えたアンテナ装置及び指向性ビームの一例を示す図である。
【
図8】
図8は、
図7のアンテナ装置を備えた車両の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、実施形態に係る反射部材を備えたアンテナ装置及び指向性ビームの他の例を示す図である。
【
図11】
図11は、実施形態に係るアンテナ装置のレイトレースシミュレーションにおけるアンテナ及び反射部材の位置関係の一例を示す図である。
【
図13】
図13は、実施形態に係るアンテナ装置のレイトレースシミュレーションにおけるアンテナ及び反射部材の位置関係の他の例を示す図である。
【
図15】
図15は、実施形態に係るアンテナ装置のレイトレースシミュレーションにおける所望の指向性角度範囲(所望角度範囲)の原点と反射点と受信距離(対象の受信位置までの距離)との位置関係の一例を示す図である。
【
図16】
図16は、
図15のレイトレースシミュレーションにおける補正角度βの説明図である。
【
図18】
図18は、反射面の角度を補正する前のアンテナ装置のレイトレースシミュレーションの結果の一例を示すグラフである。
【
図19】
図19は、反射面の角度を補正した後のアンテナ装置のレイトレースシミュレーションの結果の一例を示すグラフである。
【
図20】
図20は、実施形態に係る反射部材を備えるアンテナ装置の構成の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
本書に記載された実施形態に係る装置は、車車間通信等の移動体間通信に適した複数のアンテナを備えるアンテナ装置、そのアンテナ装置と無線通信部とを備える通信装置、及び、その通信装置を備える移動体である。実施形態に係るアンテナ装置は、互いに逆向きの第1指向性ビーム及び第2指向性ビームを含む指向特性をそれぞれ有し、第1指向性ビームの方向が互いに異なるように配置された複数のアンテナと、複数のアンテナの複数の第2指向性ビームに対応する複数の反射面を有する反射部材とを備えることにより、移動体間通信に適用した場合に通信品質劣化や通信断が発生しにくい簡易構成のアンテナ装置を実現することができる。特に、本実施形態のアンテナ装置は、第5世代又はそれ以降の世代の移動通信を用いた車車間通信の実現に適したアンテナ装置である。
【0018】
なお、本実施形態では移動体が地上の移動経路である道路を走行する車両の場合について説明するが、移動体の種類及び移動経路の種類に特に制約はない。例えば、車両は、自動車、トラック、バス、バイクなどである。車両は、自動運転機能を有する車両でもよいし、自動運転機能を有していない手動運転の車両であってもよい。また、衝突可能性判定対象の移動体は、地上の車両のほか、所定高度の上空における移動経路を飛行して移動可能な飛行体などの移動体であってもよい。また、移動体は、地下における移動経路を移動する地下移動体、水上(例えば海上)などにおける移動経路を移動可能な船舶などの水上移動体、又は、水中(例えば海中)の移動経路を移動する潜水ロボットなどの水中移動体であってもよい。
【0019】
また、本実施形態の車両は、電気自動車、燃料電池自動車、内燃機関と電動機の双方を有するハイブリッド車であってもよい。また、車両は、当該車両が乗員又は乗客のために複数の席を有する場合、その最前列かつ最左端の席が運転席でない車両であってもよい。即ち、最前列かつ最右端の席のみが運転席である車両であってもよいし、そもそも運転席を有さない自動運転の車両であってもよい。
【0020】
また、本実施形態における移動通信網の構成及び通信方式などは、特定の世代の標準規格の準拠するものに限定されない。本実施形態における移動通信網の構成及び通信方式などは、例えばLTE、LTE-Advanced、第5世代、又は、その後の世代の標準規格の準拠するものであってもよい。
【0021】
図1(a)は参考例に係るアンテナの水平面内指向特性100Hの一例を示す図であり、
図1(b)は同アンテナの垂直面内指向特性100Vの一例を示す図である。車車間通信などの移動体間通信用のアンテナとしては、理想的には
図1(b)の指向特性100Vに示すように垂直面内に指向性があり、
図1(a)の指向特性100Hに示すように水平面内が完全無指向性のアンテナが望ましい。しかしながら、実際の移動体間通信用のアンテナは、
図2(a)の指向特性100H'に示すように水平面内にも指向性を有し、ヌル100Nが存在する。
【0022】
図3(a)及び
図3(b)はビーム指向性を有するアンテナ装置をそれぞれ備える複数の車両(移動体)41、42が車車間通信を行いながら走行する場合の課題の説明図である。
図3において、先行の車両41は、進行方向を基準にして後向きの水平面内指向特性141HR及び側方向きの水平面内指向特性141HSを有するアンテナ装置を備える。後続の車両42は、進行後方を基準にして前向きの水平面内指向特性141HFを有するアンテナ装置を備える。
【0023】
図3(a)に示す直進の道路(移動経路)では、先行の車両41の後向きの水平面内指向特性141HRと後続の車両42前向きの水平面内指向特性141HFとがほぼ対向した状態で車車間通信を行うことができ、通信品質の劣化や接続断が発生しにくい。
【0024】
しかしながら、
図3(b)に示すカーブの道路(移動経路)では、先行の車両41の後向きの水平面内指向特性141HR及び側方向きの水平面内指向特性141HSと後続の車両42前向きの水平面内指向特性141HFとが対向しなくなるため、車車間通信の通信品質の劣化や接続断となり得る。特に、車車間通信をしながら車間距離が広い状態でカーブ等を走行する際、アンテナの水平面内指向性のヌルで利得が低下すると、通信品質劣化や接続断となりやすい。
【0025】
上記通信品質劣化や接続断の対策の1つとして前述の特許文献1のようにビーム追尾が考えられるが、ビームを制御するための装置が必要となる。
【0026】
本実施形態では、水平面内において前後に指向性を有する複数のアンテナと後述の所定の反射面を有する反射部材とを組み合わせることにより、車車間通信(移動体間通信)に適用した場合に通信品質劣化や通信断が発生しにくい簡易構成のアンテナ装置100に提供する。
【0027】
図4(a)及び
図4(b)はそれぞれ、実施形態のアンテナ装置を構成する複数のアンテナ11,12の水平面内指向特性111H,112H,121H,122Hの一例を示す図である。
図4(a)のアンテナ11は、例えば半波長ダイポールアンテナであり、互いに逆向きの第1指向性ビーム111H及び第2指向性ビーム112Hを含む指向特性を有する。同様に、
図4(b)のアンテナ12は、例えば半波長ダイポールアンテナであり、互いに逆向きの第1指向性ビーム121H及び第2指向性ビーム122Hを含む指向特性を有する。なお、図示の例は、アンテナの数が2個の場合の例であるが、アンテナ装置は3個のアンテナ、4個のアンテナ又は5個以上のアンテナを備えてもよい(以下の実施形態においても同様)。
【0028】
図5は参考例に係る反射部材30'を備えたアンテナ装置100'の説明図である。
図5において、基準方向の角度φ0が0°であり、所望の指向性角度範囲(所望放射範囲)αは90°である。アンテナ装置100'の複数のアンテナ11,12は、通信対象側の方向(以下「前方向」ともいう。)を向いた第1指向性ビーム111H,121Hの方向(φ1,φ2)が所定の角度(2α/3)だけ互いに異なるように配置されている。
図5の例では、アンテナ11の第1指向性ビーム111Hの方向の角度φ1が基準方向に対してマイナス10°(図中反時計回りに10°)であり、アンテナ12の第1指向性ビーム121Hの方向の角度φ2が基準方向に対してプラス50°(図中時計回りに50°)である。
【0029】
また、
図5において、複数のアンテナ11,12の通信対象とは反対側には、単一の反射面300を有する反射部材30'が配置されている。反射部材30'の反射面300により、アンテナ11の通信対象側とは反対方向(以下「後方向」ともいう。)を向いた第2指向性ビーム112Hが反射され、前方向の所定方向φ1'=φ1+α(図示の例ではφ1'=80°)に反射指向性ビーム112HRが形成される。アンテナ11の第1指向性ビーム111Hの方向φ1と反射指向性ビーム112HRの方向φ1'との間の角度差Δφ1は90°(=α)である。また、反射部材30'の反射面300により、アンテナ12の後方向を向いた第2指向性ビーム122Hが反射され、前方向の所定方向φ2'=φ1+α/3(図示の例ではφ2'=20°)に反射指向性ビーム122HRが形成される。アンテナ12の第1指向性ビーム121Hの方向φ2と反射指向性ビーム122HRの方向φ2'との間の角度差Δφ2は30°である。
【0030】
図5において、反射部材30'の反射面300と各アンテナ11、12との距離は、各アンテナから見て反射面300の位置が遠方界となるλ/2π(λ:電波の波長)以上であってもよい。例えば、電波の周波数が29GHzの場合、電波の波長λ=1cmなので、反射部材30'の反射面300と各アンテナ11、12との距離は、反射部材30'の反射面300と各アンテナ11、12との距離は1.6mm以上に設定してもよい。ここで、例えば、アンテナ11、12と受信アンテナとの間の距離d2が15m、アンテナ11、12と反射部材30'の反射面300との間の距離d1が5cmであるとすると、次式(2)で計算される反射面300での第1フレネルゾーンの半径r
fは2.3cmになるので、反射面300内に第1フレネルソーンが入るようにして損失を低減するために4.6cm四方以上の反射面300を有する反射部材(反射板)30'を用いてもよい。
【数2】
【0031】
図5のアンテナ装置100'では、反射部材30'で形成される反射指向性ビーム112HR,122HRにより、アンテナ装置100'の水平面内指向特性におけるヌルを補間することができる。しかしながら、単一の反射面300の場合は、複数のアンテナ11、12のそれぞれから反射部材30'の反射面300に後方向きの第2指向性ビーム112H,122Hの電波が入射するときの入射角が互いに異なる。このように入射角が異なると、例えば
図6(a)の垂直偏波の反射特性及び
図6(b)の水平偏波の反射特性に示すように、反射係数が大きく低下する場合がある。そのため、アンテナの配置によっては、反射部材30'の反射面300での反射係数が小さく反射効率が悪くなり、通信品質が劣化し得る。
【0032】
そこで、実施形態のアンテナ装置では、複数の反射面を有する反射部材(反射板)を用いることにより、所望の指向性角度範囲(所望角度範囲)αをカバーし、複数(n個)のアンテナそれぞれからの電波の入射角が同じ(Δφ1/2=Δφ2/2=・・・=Δφn/2)で所望の反射係数(例えば0.4以上)を得られるように構成している。これにより、水平面内指向特性におけるヌルを補間することができ、かつ、全てのアンテナの反射効率を同じにすることで、通信品質の劣化を抑制できる。
【0033】
なお、実施形態のアンテナ装置において、反射部材の複数(n個)の反射面はそれぞれ、反射面に対応するアンテナとの距離がλ/2π(λ:電波の波長)以上であってもよい。
【0034】
また、実施形態のアンテナ装置において、所望の指向性角度範囲(所望角度範囲)及びその調整値をそれぞれα及びΔαとしたとき、複数(n個)のアンテナそれぞれの第1指向性ビーム及び反射指向性ビームの方向φnは、次の式(3)を満たしてもよい。
【数3】
【0035】
また、実施形態のアンテナ装置において、反射部材の複数(n個)の反射面のそれぞれについて、反射面で形成される反射指向性ビームが、アンテナ装置の基準点を中心とした半径が受信距離である仮想同心円上の対象点を通過するように、反射面の傾き角度を補正してもよい。
【0036】
図7は、第1の実施形態に係る反射部材30を備えたアンテナ装置100及び指向性ビームの一例を示す図である。
図8は、
図7のアンテナ装置100を備えた車両42の一例を示す図である。本実施形態のアンテナ装置100は、2個のアンテナ11,12と反射部材30とを備え、車両42の移動方向の前方の端部(例えば右端部のステー部材)に取り付けられる。
【0037】
図7において、2個のアンテナ11,12はそれぞれ、互いに逆向きの第1指向性ビーム111H,121H及び第2指向性ビーム112H,122Hを含む指向特性を有する(
図4(a)及び
図4(b)参照)。本実施形態の反射部材30は、アンテナ11の第2指向性ビーム112Hに対応する反射面310と、アンテナ12の第2指向性ビーム122Hに対応する反射面320とを有する多平面反射板である。
【0038】
2個のアンテナ11,12の第1指向性ビーム111H,121Hの方向と、反射部材30の2個の反射面310,320によって第2指向性ビーム112H,122Hが反射された2個の反射指向性ビーム112HR,122HRの方向は、所望の指向性角度範囲(所望角度範囲)α又はその調整範囲α+Δαに含まれる。
【0039】
本実施形態において、4個の指向性ビームである第1指向性ビーム111H,121H及び反射指向性ビーム112HR,122HRにより、所望の指向性角度範囲(所望角度範囲)αをカバーし、各アンテナ11,12からの電波の入射角が同じ(Δφ1/2=Δφ2/2)で所望の反射係数(例えば0.4以上)を得られるように所望放射範囲αをΔαだけ調整してもよい。
【0040】
また、本実施形態の反射部材30は、損失を低減するために、各アンテナ11,12からλ/2π以上(遠方界となる距離)離して第1フレネルゾーンの範囲以上となる面積の複数の反射面310,320を組み合わせた多平面反射板であってもよい。なお、損失を許容する場合は、反射部材30の反射面310,320それぞれの面積を、第1フレネルゾーンの範囲以上としなくてもよい。
【0041】
また、本実施形態のアンテナ装置100において、所望の指向性角度範囲(所望角度範囲)α+Δαにおけるヌルを各ビームで均等に補間するように、アンテナ11の第1指向性ビーム111及び反射指向性ビーム112HRの方向φ1,φ1'並びにアンテナ12の第1指向性ビーム121及び反射指向性ビーム122HRの方向φ2,φ2'は、次の式(4)~(7)を満たす方向であってもよい。
【数4】
【0042】
図7及び
図8のアンテナ装置100によれば、水平面内指向特性におけるヌルを補間することができ、かつ、全てのアンテナ11、12の反射効率を同じにすることで、通信品質の劣化を抑制できる。
【0043】
図9は、第2の実施形態に係る反射部材30を備えたアンテナ装置100及び指向性ビームの一例を示す図である。
図10は、
図9のアンテナ装置100を備えた車両42の一例を示す図である。本実施形態のアンテナ装置100は、3個のアンテナ11,12,13と反射部材30とを備え、車両42の移動方向の前方の端部(例えば右端部のステー部材)に取り付けられる。
【0044】
図9において、3個のアンテナ11,12,13はそれぞれ、互いに逆向きの第1指向性ビーム111H,121H,131H及び第2指向性ビーム112H,122H,132Hを含む指向特性を有する(
図4(a)及び
図4(b)参照)。本実施形態の反射部材30は、アンテナ11の第2指向性ビーム112Hに対応する反射面310と、アンテナ12の第2指向性ビーム122Hに対応する反射面320と、アンテナ13の第2指向性ビーム132Hに対応する反射面330を有する多平面反射板である。
【0045】
3個のアンテナ11,12,13の第1指向性ビーム111H,121H、131Hの方向と、反射部材30の3個の反射面310,320,330によって第2指向性ビーム112H,122H,132Hが反射された3個の反射指向性ビーム112HR,122HR,132HRの方向は、所望の指向性角度範囲(所望角度範囲)α又はその調整範囲α+Δαに含まれる。
【0046】
本実施形態において、6個の指向性ビームである第1指向性ビーム111H,121H,131H及び反射指向性ビーム112HR,122HR,132HRにより、所望の指向性角度範囲(所望角度範囲)αをカバーし、各アンテナ11,12,13からの電波の入射角が同じ(Δφ1/2=Δφ2/2=Δφ3/2)で所望の反射係数(例えば0.4以上)を得られるように所望放射範囲αをΔαだけ調整してもよい。
【0047】
また、本実施形態の反射部材30は、損失を低減するために、各アンテナ11,12,13からλ/2π以上(遠方界となる距離)離して第1フレネルゾーンの範囲以上となる面積の複数の反射面310,320,330を組み合わせた多平面反射板であってもよい。なお、損失を許容する場合は、反射部材30の反射面310,320,330それぞれの面積を、第1フレネルゾーンの範囲以上としなくてもよい。
【0048】
また、本実施形態のアンテナ装置100において、所望の指向性角度範囲(所望角度範囲)α+Δαにおけるヌルを各ビームで均等に補間するように、アンテナ11の第1指向性ビーム111及び反射指向性ビーム112HRの方向φ1,φ1'、アンテナ12の第1指向性ビーム121及び反射指向性ビーム122HRの方向φ2,φ2'並びにアンテナ13の第1指向性ビーム131及び反射指向性ビーム132HRの方向φ3,φ3'は、次の式(8)~(13)を満たす方向であってもよい。
【数5】
【0049】
図9及び
図10のアンテナ装置100によれば、水平面内指向特性におけるヌルを補間することができ、かつ、全てのアンテナ11、12、13の反射効率を同じにすることで、通信品質の劣化を抑制できる。
【0050】
図11は、実施形態に係るアンテナ装置100のレイトレースシミュレーションにおけるアンテナ11,12及び反射部材30の位置関係の一例を示す図である。
図12は、
図11のレイトレースシミュレーションの結果の一例を示すグラフである。本例のコンピュータによるレイトレースシミュレーションでは、前述の
図7に示す2個のアンテナ11,12を備えるアンテナ装置100において、指向性角度範囲(所望角度範囲)α+Δαが90°の場合について、アンテナ装置100の基準点からの各方位角について、アンテナ装置100の基準点からの距離(受信距離)rが10mである同心円上での相対受信電力[dB]を計算した。アンテナ11の第1指向性ビーム111及び反射指向性ビーム112HRの方向φ1,φ1'並びにアンテナ12の第1指向性ビーム121及び反射指向性ビーム122HRの方向φ2,φ2'は、前述の式(4)~(7)を満たす方向に設定した。その結果、
図12に示すように、所望の指向性角度範囲(所望角度範囲)α+Δαにおけるヌルを、30°ずつ向きが異なる各ビーム111H,122HR,112HR,121Hで均等に補間することができることがわかる。
【0051】
図13は、実施形態に係るアンテナ装置100のレイトレースシミュレーションにおけるアンテナ11,12及び反射部材30の位置関係の他の例を示す図である。
図14は、
図13のレイトレースシミュレーションの結果の一例を示すグラフである。本例のコンピュータによるレイトレースシミュレーションでは、前述の
図7に示す2個のアンテナ11,12を備えるアンテナ装置100において、指向性角度範囲(所望角度範囲)α+Δαが120°の場合について、アンテナ装置100の基準点からの各方位角について、アンテナ装置100の基準点からの距離(受信距離)rが10mである同心円上での相対受信電力[dB]を計算した。アンテナ11の第1指向性ビーム111及び反射指向性ビーム112HRの方向φ1,φ1'並びにアンテナ12の第1指向性ビーム121及び反射指向性ビーム122HRの方向φ2,φ2'は、前述の式(4)~(7)を満たす方向に設定した。その結果、
図14に示すように、所望の指向性角度範囲(所望角度範囲)α+Δαにおけるヌルを、40°ずつ向きが異なる各ビーム111H,122HR,112HR,121Hで均等に補間することができることがわかる。
【0052】
なお、
図14における符号Pthのレベルは、アンテナ装置100の最大利得に対する劣化許容値(図示の例では3dB)である。本実施形態のアンテナ装置100におけるアンテナの数は、アンテナ装置100の最大利得に対する受信電力が劣化許容値Pthを満たすように(下回らないように)設定してもよい。
【0053】
図15は、実施形態に係るアンテナ装置100のレイトレースシミュレーションにおける所望の指向性角度範囲(所望角度範囲)の原点P0と反射点P1と受信点P3との位置関係の一例を示す図である。
図16は、
図15のレイトレースシミュレーションにおける補正角度βの説明図である。受信点P3は、アンテナ装置100の原点P0を中心として所定の受信距離(対象の受信位置までの距離)rだけ離れた同心円上の点である。前述の所望の指向性角度範囲(所望角度範囲)は、原点P0での反射で考えている。すなわち、
図15において、アンテナ12の後方を向いた第2指向性ビーム122Hが原点P0で反射されて受信距離rの同心円上に到達した点が受信点P2に一致するように、反射部材30の各反射面310,320の傾き角度を設定している。しかしながら、反射面310上での反射点P1は原点P0と異なるため、アンテナ12の後方を向いた第2指向性ビーム122Hが実際の反射点P1で反射される反射指向性ビーム122HRの方向が角度βだけずれてしまうため、受信距離rに応じて反射部材30の各反射面310,320の傾き角度を補正してもよい。
【0054】
例えば、
図16における補正角度βを、受信距離rに基づいて次式(14)で計算し、
図17に示すように、反射部材30の各反射面310,320の傾きを補正角度βだけ補正する。ここで、式(14)中のnはアンテナの個数である。
【数6】
【0055】
図18は、補正角度βを用いた反射面310、320の傾き角度を補正する前のアンテナ装置100のレイトレースシミュレーションの結果の一例を示すグラフである。
図19は、補正角度βを用いた反射面310、320の傾き角度を補正した後のアンテナ装置100のレイトレースシミュレーションの結果の一例を示すグラフである。本例のコンピュータによるレイトレースシミュレーションでは、前述の
図7に示す2個のアンテナ11,12を備えるアンテナ装置100において、指向性角度範囲(所望角度範囲)α+Δαが90°の場合について、アンテナ装置100の基準点からの各方位角について、アンテナ装置100の基準点からの距離(受信距離)rが2mである同心円上での相対受信電力[dB]を計算した。
図18の補正前の結果では、アンテナ11の反射指向性ビーム112HRの方位角(45°)及びアンテナ12の反射指向性ビーム122HRの方位角(25°)がずれている。一方、
図19の補正後の結果では、反射指向性ビーム112HR及び反射指向性ビーム122HRの方位角のズレが補正され、所望の指向性角度範囲(所望角度範囲)α+Δαにおけるヌルを、30°ずつ向きが異なる各ビーム111H,122HR,112HR,121Hで均等に補間することができることがわかる。
【0056】
なお、受信距離rがある程度離れている場合(例えば10m以上離れている場合)は、補正角度βは十分に小さくなるので、補正角度βを用いた反射面の傾き角度の補正は行わなくてもよい。
【0057】
図20は、実施形態に係る反射部材30を備えるアンテナ装置100の構成の一例を示す斜視図である。アンテナ装置100は、2個のアンテナ11,12と、2つの反射面310,320を有する反射部材30とを備える。反射部材30は、アンテナ11に対応する反射面310と、アンテナ12に対応する反射面320とを有する2平面反射板である。アンテナ11と反射面310との間の距離D1及びアンテナ12と反射面320との間の距離D2はそれぞれ、λ/2π以上に設定されている。これにより、アンテナ11に対する反射面310における第1フレネルゾーンの範囲Z1は反射面310の全体面積よりも小さい面積になり反射面310の内側に位置し、また、アンテナ12に対する反射面320における第1フレネルゾーンの範囲Z2は反射面320の全体面積よりも小さい面積になり反射面320の内側に位置するようになる。これにより、反射面310,320による損失を低減することができる。
【0058】
実施形態のアンテナ装置100は、例えば、移動体としての車両(大型車)のフロントガラスの側方部に位置する外側フレームに有する補助ミラー取り付け用のステー部材に取り付けることができる。また、車車間通信におけるアンテナのダイバーシチ効果を得るために、ステー部材に複数(例えば2組)のアンテナ装置100を取り付けてもよい。また、実施形態のアンテナ装置100及び無線通信部を有する通信装置を備える車両等の移動体は、その移動方向の前方及び後方の少なくとも一方に位置する他の車両等の移動体との間で移動体間通信を行うものであってもよい。その移動体のアンテナ装置は、他の移動体との移動体間通信において、水平面内において所望の指向性角度範囲(例えば90度以上120度以下の角度範囲)で所定の利得を有するものであってもよい。また、車両等の移動体は、その移動体の移動方向の前方及び後方の少なくとも一方にアンテナ装置を複数備え、例えばダイバーシチ効果を得るために複数のアンテナ装置を介して同一の電波を送信又は受信するものであってもよい。
【0059】
以上、本実施形態によれば、車車間通信などの移動体間通信に適用した場合に通信品質劣化や通信断が発生しにくい簡易構成のアンテナ装置100を提供できる。
【0060】
また、本発明は、長期にわたって通信品質劣化及び通信断が発生しにくい車車間通信などの移動体間通信を提供できるため、持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」の達成に貢献できる。
【0061】
また、本明細書で開示された実施形態の説明は、当業者が本開示を製造又は使用するのを可能にするために提供される。本開示に対するさまざまな修正は当業者には容易に明白になり、本明細書で定義される一般的原理は、本開示の趣旨又は範囲から逸脱することなく、他のバリエーションに適用可能である。それゆえ、本開示は、本明細書で説明される例及びデザインに限定されるものではなく、本明細書で開示された原理及び新規な特徴に合致する最も広い範囲に認められるべきである。
【符号の説明】
【0062】
11、12、13 :アンテナ
30 :反射部材
41、42 :車両
100 :アンテナ装置
310、320、330 :反射面