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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173426
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】差動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 48/285 20120101AFI20241205BHJP
   F16H 48/38 20120101ALI20241205BHJP
   F16H 48/40 20120101ALI20241205BHJP
【FI】
F16H48/285
F16H48/38
F16H48/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091838
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 晃
(72)【発明者】
【氏名】大島 文男
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FA34
3J027FA36
3J027FA37
3J027FB01
3J027HA01
3J027HB03
3J027HC07
3J027HD01
3J027HE01
3J027HF09
(57)【要約】
【課題】強度耐久性の低下とコスト上昇と生産性低下を招くことなく小型軽量化を図りながら、走行安定性の向上をする。
【解決手段】デフケース回転中心C10を中心にデフケース10と相対回転可能に支持された第1のサイドギヤ20Rと、デフケース回転中心C10を中心にデフケース10と相対回転可能に、且つ第1のサイドギヤ20Rと対向して支持された第2のサイドギヤ20Lと、デフケース回転中心C10と平行に配置された第1の回転中心を中心に回転可能に、且つ第1の弾性部材42Rを介して弾性支持されつつ、第1のサイドギヤ20Rと噛合するように配置された第1のピニオンギヤ30Rと、デフケース回転中心C10と平行に配置された第2の回転中心を中心に回転可能に、且つ第2の弾性部材42Lを介して弾性支持されつつ、第2のサイドギヤ20Lと第1のピニオンギヤ30Rとに噛合するように配置された第2のピニオンギヤと、を設ける。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空形状を有し、デフケース回転中心を中心に回転可能に支持されたデフケースと、
該デフケース回転中心を中心に該デフケースと相対回転可能に該デフケース内に支持された第1のサイドギヤと、
該デフケース回転中心を中心に該デフケースと相対回転可能に、且つ該第1のサイドギヤと対向して該デフケース内に支持された第2のサイドギヤと、
該デフケース回転中心と平行に配置された第1の回転中心を中心に回転可能に、且つ第1の弾性部材を介して弾性支持されつつ、該第1のサイドギヤと噛合するように該デフケース内に配置された第1のピニオンギヤと、
該デフケース回転中心と平行に配置された第2の回転中心を中心に回転可能に、且つ第2の弾性部材を介して弾性支持されつつ、該第2のサイドギヤと該第1のピニオンギヤとに噛合するように該デフケース内に配置された第2のピニオンギヤと、
を備えた差動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の差動装置において、
前記第1のピニオンギヤは、
その両端に、前記第1の回転中心方向に沿って突出し、第1の軸受を介して前記デフケース内に軸支される第1のギヤ軸部を備え、
前記第2のピニオンギヤは、
その両端に、前記第2の回転中心方向に沿って突出し、第2の軸受を介して該デフケース内に軸支される第2のギヤ軸部を備え、
前記第1の弾性部材は、
該第1の軸受に外嵌されつつ、該デフケース内に内嵌され、
前記第2の弾性部材は、
該第2の軸受に外嵌されつつ、該デフケース内に内嵌された
差動装置。
【請求項3】
請求項1に記載の差動装置において、
前記第1のピニオンギヤは、
外周に歯部が形成され、円筒形状を有する第1のギヤ本体と、
該第1のギヤ本体と相対回転可能に、該第1のギヤ本体の筒孔に挿通された第1のピニオンシャフトと、
を備え、
前記第2のピニオンギヤは、
外周に歯部が形成され、円筒形状を有する第2のギヤ本体と、
該第2のギヤ本体と相対回転可能に、該第2のギヤ本体の筒孔に挿通された第2のピニオンシャフトと、
を備え、
前記第1の弾性部材は、
該第1のピニオンシャフトに外嵌されつつ、前記デフケース内に内嵌され、
前記第2の弾性部材は、
該第2のピニオンシャフトに外嵌されつつ、前記デフケース内に内嵌された
差動装置。
【請求項4】
請求項3に記載の差動装置において、
前記第1のピニオンギヤは、
前記第1のギヤ本体が第1の軸受を介して前記第1のピニオンシャフトに軸支され、
前記第2のピニオンギヤは、
前記第2のギヤ本体が第2の軸受を介して前記第2のピニオンシャフトに軸支された
差動装置。
【請求項5】
請求項2、または請求項4に記載の差動装置において、
前記第1の軸受と前記第2の軸受の少なくともどちらか一方が、ニードルベアリングで構成された
差動装置。
【請求項6】
請求項2、または請求項4に記載の差動装置において、
前記第1の軸受と前記第2の軸受の少なくともどちらか一方が、メタルベアリングで構成された
差動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用の差動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
差動装置は、主に車両の後輪を駆動する終減速装置に組み込まれている。
また、差動装置は、従来は傘歯車形状をなすピニオンギヤと、ピニオンギヤと直角に噛合するサイドギヤと、これらギヤ類を内蔵するデフケース等により構成されるのが一般的であった。
いっぽう、特許文献1では、ピニオンギヤとサイドギヤを平行に配置して、強度耐久性を同等にしながら小型軽量化を達成する技術が提案されている。
【0003】
また、特許文献1と同様に平行して噛合するサイドギヤとピニオンギヤを備える差動装置において、特許文献2に開示された技術がある。
特許文献2に提案された差動装置は、一方のサイドギヤと噛合する第1のピニオンギヤと、他方のサイドギヤおよび第1のピニオンギヤと噛合する第2のピニオンギヤとを備えている。
また、第1のピニオンギヤおよび第2のピニオンギヤを支持するデフケースの孔が、長孔で構成されている。
そして、これら2つのピニオンギヤが、噛み合い反力を受けて長孔内を移動することで、ピニオンギヤの外周面が、デフケースのピニオンギヤ収納部内壁面に摺接し、ピニオンギヤの回転に制限を作用させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-160259号公報
【特許文献2】特開平6-341495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献2に記載のような構成とした場合には、デフケースにピニオンギヤが移動可能な軌跡を備える長孔加工が必要となり、生産性に影響を及ぼしてしまうという問題がある。
本発明は上記課題を解決するために考案されたものであり、強度耐久性の低下とコスト上昇と生産性低下を招くことなく小型軽量化を図りながら、走行安定性の向上をも達成する差動装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するために、本発明に係る差動装置は、デフケースと、デフケースと同軸上に配置されデフケースと相対回転可能に支持された第1のサイドギヤと、デフケースと相対回転可能に、且つ第1のサイドギヤと同軸上に対向して支持された第2のサイドギヤと、デフケース回転中心と平行に配置された第1の回転中心を中心に回転可能に、且つ弾性部材を介して弾性支持されつつ、第1のサイドギヤと噛合するように配置された第1のピニオンギヤと、デフケース回転中心と平行に配置された第2の回転中心を中心に回転可能に、且つ弾性部材を介して弾性支持されつつ、第2のサイドギヤと第1のピニオンギヤとに噛合するように配置された第2のピニオンギヤと、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、強度耐久性の低下とコスト上昇と生産性低下を招くことなく小型軽量化を図りながら、走行安定性の向上をも達成する差動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1実施形態に係る差動装置を示す斜視図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る差動装置を示す左側面図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る差動装置を示す右側面図である。
図4図3のIV-IV線に沿った断面図である。
図5図4のV部を示す要部拡大図である。
図6】本発明の第2実施形態に係る差動装置を示し、図3のIV-IV線に対応する部位の断面図である。
図7図6のVII部を示す要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態の差動装置S1について、図1図5を参照して詳細に説明する。
なお、説明において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
本実施形態の差動装置S1は、主に後輪を駆動する後輪駆動手段(図示せず)を構成している。
【0010】
図4に示すように、差動装置S1は、車両が転回する際に、内側と外側の車軸DSに生じる内輪差に応じた回転差をつけつつ、駆動力を内側と外側の車軸DSに振り分けて伝えるものである。
また、本実施形態の差動装置S1は、通常の走行状態において大きなトルクが伝達されると、ギヤの噛合い反力が発生して、その反力を受けたギヤがデフケースと接触することにより弱い差動制限効果が得られる。その結果、左右両輪に駆動力がすべて伝わり、車両の走行安定性を高めることが可能となる。
なお、差動装置S1から出力される駆動力は、車軸DSを通じて後輪に伝達される。
つまり、車軸DSは、右車軸DSR、および左車軸DSLで構成され、右車軸DSRは右後輪に連結され、左車軸DSLは左後輪に連結される。
【0011】
本実施形態の差動装置S1は、デフケース10、右サイドギヤ20R(第1のサイドギヤ)、左サイドギヤ20L(第2のサイドギヤ)、右ピニオンギヤ30R(第1のピニオンギヤ)、左ピニオンギヤ30L(第2のピニオンギヤ)を備えている(図1図5参照)。
デフケース10は、ケース本体11、ケース蓋体12で構成されており、これらケース本体11、ケース蓋体12によって、中空の球殻形状に形成されている。
ケース本体11、ケース蓋体12は、鋳造、または鍛造によって形成されている。
【0012】
そして、デフケース10の内部空間に、右サイドギヤ20R、左サイドギヤ20L、右ピニオンギヤ30R、左ピニオンギヤ30Lが収容されている。
また、デフケース10は、デフケース回転中心C10を中心にして回転可能に、キャリアハウジング(図示せず)内に軸支されている。
なお、デフケース回転中心C10は、車幅方向に沿ってデフケース10を貫通するように設定された軸線である。
【0013】
さらに、デフケース10は、ケース本体11のフランジ部13に、リングギヤ(図示せず)が設置される。
フランジ部13は、デフケース回転中心C10を中心とする円環形状を有し、ケース本体11の左端側開口縁部に、デフケース回転中心C10の軸方向に面して配置されている。
リングギヤ(図示せず)は、円環形状を有し、回転軸方向側面に円錐形状の傘歯車の歯が形成されている。
そして、リングギヤを介して、駆動力が差動装置S1に入力され、デフケース10がデフケース回転中心C10を中心軸にして回転する。
【0014】
右サイドギヤ20R(第1のサイドギヤ)は、デフケース回転中心C10を中心軸にして、デフケース10と相対回転可能な状態で、デフケース10内に配置されている。
右サイドギヤ20Rは、略円筒形状に形成されるとともに、右サイド歯部21R、右サイド基部22Rを備えている(図4図5参照)。
右サイド歯部21Rは、右サイドギヤ20Rの筒軸方向における右側2/3程度の外周部に設定され、直歯の平歯車で構成されている。
右サイド基部22Rは、右サイドギヤ20Rの筒軸方向における残り1/3程度の外周部に設定され、その外径が、右側の平歯車の歯底部よりも僅かに小径の円周面で形成されている。
また、右サイドギヤ20Rの筒孔部(右サイド筒孔部23R)には、右車軸DSRがスプライン連結されており、右サイドギヤ20Rの回転が右車軸DSRに伝達される。
【0015】
左サイドギヤ20L(第2のサイドギヤ)は、右サイドギヤ20Rと同一の部品で構成されている。
つまり、左サイドギヤ20Lは、右サイド歯部21Rのプロフィールと同一に設定された歯部(左サイド歯部21L)と、右サイド基部22Rと同一寸法、同一形状の基部(左サイド基部22L)を備えている。
そして、左サイドギヤ20Lは、右サイドギヤ20Rを左右反転させた状態で、デフケース10内における右サイドギヤ20Rの左側に隣接(対向)して配置されている。
また、左サイドギヤ20Lは、デフケース回転中心C10を中心にして、デフケース10、および右サイドギヤ20Rに相対回転可能な状態で、デフケース10内に配置されている。
左サイドギヤ20Lの筒孔部(左サイド筒孔部23L)には、左車軸DSLがスプライン連結されており、左サイドギヤ20Lの回転が左車軸DSLに伝達される。
【0016】
右ピニオンギヤ30Rは、右ピニオン本体31R、右ピニオン軸部32R(第1のギヤ軸部)を備えている(図3図5参照)。
右ピニオン本体31Rは、右ピニオン中心C30R(第1の回転中心)を中心とする略円柱形状を有し、右サイドギヤ20Rと噛合可能な直歯の平歯車で構成されている。
なお、右ピニオン中心C30R(第1の回転中心)は、デフケース回転中心C10と平行に配置された軸線である。
【0017】
また、右ピニオン本体31Rは、その歯幅寸法L31Rが右サイドギヤ20Rの歯幅L21Rの2倍程度に設定されている。
そして、右ピニオン本体31Rの右半分が右サイドギヤ20Rと噛合しつつ、右ピニオン本体31Rの左半分が左ピニオンギヤ30Lと噛合するように、右ピニオンギヤ30Rはデフケース10内に軸支されている。
つまり、右ピニオン本体31Rは、右サイドギヤ20Rと噛合しない部位が、左ピニオンギヤ30Lと噛合する部位に設定されている。
【0018】
右ピニオン軸部32R(第1のギヤ軸部)は、右ピニオン本体31Rと一体に形成され、右ピニオン本体31Rの歯底部分よりも小径の円柱形状を有している。
右ピニオン軸部32Rは、右ピニオン中心C30R(第1の回転中心)を中心にして、右ピニオン本体31Rの両端面から右ピニオン中心C30Rに沿って突出している。
つまり、右ピニオン軸部32Rは、右ピニオン本体31Rと一体に回転する。
【0019】
また、図5に示すように、右ピニオン軸部32Rは、右ピニオン軸受41R、および右ピニオン弾性材42Rを介して、デフケース10内に弾性支持されている。
これによって、右ピニオンギヤ30Rは、デフケース回転中心C10を中心に公転するデフケース10の内部で、右ピニオン中心C30Rを中心に自転可能な状態で軸支されている。
また、本実施形態の差動装置S1では、同一形状の4つの右ピニオンギヤ30Rが、デフケース回転中心C10を中心にして、周方向に等角度間隔となるように、デフケース10内に配置されている。
【0020】
そして、デフケース10内の内部空間における右ピニオンギヤ30Rを収容する領域は、その内壁面14が、右ピニオン中心C30Rを中心にしつつ、右ピニオン本体31Rよりも僅かに大径な円弧面で構成されている。
このため、右ピニオンギヤ30Rが、右ピニオン中心C30Rを中心に回転する際には、右ピニオン本体31Rの歯先が、内壁面14に摺接することなく回転する。
また、右ピニオンギヤ30Rが、デフケース回転中心C10を中心とする径方向の外側へ移動した際には、右ピニオン本体31Rの歯先が、内壁面14に摺接しつつ、回転する。
【0021】
右ピニオン軸受41Rは、右ピニオンギヤ30Rが右ピニオン中心C30Rを中心にして、滑らかに回転可能に軸支するための構成である。
右ピニオン軸受41Rは、各右ピニオン軸部32Rにそれぞれ外嵌されている。
なお、右ピニオン軸受41Rには、様々な形式の軸受を採用可能であるが、本実施形態では、外形寸法をより小さくできることから、ニードルベアリング、またはメタルベアリングを採用している。
【0022】
右ピニオン弾性材42Rは、弾力性を有し、耐熱性、および耐油性に優れた所謂ゴム材からなり、円筒形状に形成されている。
右ピニオン弾性材42Rは、各右ピニオン軸受41Rに外嵌しつつ、デフケース10に開口する断面円形の孔部15に内嵌されている。
加えて、右ピニオン弾性材42Rは、孔部15に固定され、より好適には右ピニオン弾性材42Rと孔部15との間に適当な回り止めが施されて、右ピニオンギヤ30Rとは一緒に回転しないように配置されている。
【0023】
左ピニオンギヤ30Lは、右ピニオンギヤ30Rと同じ数(4つ)が配置され、各左ピニオンギヤ30Lは、右ピニオンギヤ30Rのいずれか1つと対をなして配置されている(図3図5参照)。
そして、4つの同一形状の左ピニオンギヤ30Lが、デフケース回転中心C10を中心にして、周方向に等角度間隔となるように配置されている。
また、デフケース10内の内部空間における左ピニオンギヤ30Lを収容する領域は、右ピニオンギヤ30Rと同様に、その内壁面14が、左ピニオン本体31Lよりも僅かに大径な円弧面で構成されている。
このため、左ピニオンギヤ30Lが、左ピニオン中心C30Lを中心に回転する際には、左ピニオン本体31Lの歯先が、内壁面14に摺接することなく回転する。
【0024】
また、左ピニオンギヤ30Lが、デフケース回転中心C10を中心とする径方向の外側へ移動した際には、左ピニオン本体31Lの歯先が、内壁面14に摺接しつつ、回転する。
なお、左ピニオンギヤ30Lは、右ピニオンギヤ30Rと同一寸法、同一形状の部品で構成されている。
そして、左ピニオンギヤ30Lは、右ピニオン本体31Rに対応する歯部(左ピニオン本体31L)と、右ピニオン軸部32Rに対応する軸部(左ピニオン軸部32L)と、を備えている。
【0025】
左ピニオン本体31Lは、左ピニオン中心C30L(第2の回転中心)を中心とする略円柱形状を有した直歯の平歯車で構成され、そのプロフィールが、右ピニオン本体31Rのプロフィールと同一に設定されている。
なお、左ピニオン中心C30L(第2の回転中心)は、デフケース回転中心C10、および右ピニオン中心C30Rと平行に配置された軸線である。
【0026】
左ピニオン軸部32L(第2のギヤ軸部)は、左ピニオン本体31Lと一体に形成され、右ピニオン軸部32Rと同一径の円柱形状を有し、左ピニオン本体31Lと一体に回転する。
左ピニオン軸部32Lは、右ピニオンギヤ30Rと同様に、左ピニオン軸受41L、および左ピニオン弾性材42Lを介して、デフケース10内に弾性支持されている。
【0027】
そして、このように構成された左ピニオンギヤ30Lは、左ピニオン本体31Lの左半分が左サイドギヤ20Lと噛合し、左ピニオン本体31Lの右半分が、対をなす右ピニオンギヤ30Rと噛合するように、デフケース10内に軸支されている。
つまり、左ピニオン本体31Lは、左サイドギヤ20Lと噛合しない部位が、対をなす右ピニオンギヤ30Rと噛合する部位に設定されている。
また、左ピニオンギヤ30Lは、右ピニオンギヤ30Rと同様に、左ピニオン軸受41L、および左ピニオン弾性材42Lを介して、デフケース10内に軸支されている。
【0028】
左ピニオン軸受41Lは、右ピニオン軸受41Rと同一の軸受で構成されている。
左ピニオン弾性材42Lは、右ピニオン弾性材42Rと同一の弾性材で構成されている。
そして、左ピニオン軸部32Lに、左ピニオン軸受41Lが外嵌され、左ピニオン弾性材42Lが左ピニオン軸受41Lに外嵌しつつ、デフケース10に内嵌されている。
つまり、左ピニオン弾性材42Lは、デフケース10の孔部15に挿嵌、固定され、左ピニオンギヤ30Lとは一緒に回転しないように配置されている。
【0029】
次に、本実施形態の差動装置S1の働きについて説明する(図3図5参照)。
なお、本実施形態では、右ピニオンギヤ30Rがデフケース回転中心C10を中心に公転しつつ、、左ピニオンギヤ30Lがデフケース回転中心C10を中心に公転する。
また、右ピニオンギヤ30Rが右ピニオン中心C30Rを中心に自転しつつ、左ピニオンギヤ30Lが左ピニオン中心C30Lを中心に自転する。
【0030】
<車両が直進する場合>
車両が直進する場合には、まず、エンジン、およびモーターなどの駆動源の回転がプロペラシャフト(図示せず)を介して終減速装置のドライブピニオンギヤ(図示せず)に伝達され、ドライブピニオンギヤと直角に噛合するリングギヤ(図示せず)を介して、差動装置S1に入力され、デフケース10がデフケース回転中心C10を中心に回転する。
また、デフケース10の回転に伴い、右ピニオンギヤ30R、および左ピニオンギヤ30Lが、デフケース10とともに公転する。
そして、右ピニオンギヤ30Rが、デフケース回転中心を中心に回転(公転)することで、デフケース10の回転が、右ピニオンギヤ30Rと噛合する右サイドギヤ20Rに伝達される。
【0031】
同様に、左ピニオンギヤ30Lが、デフケース回転中心を中心に回転(公転)することで、デフケース10の回転が、左ピニオンギヤ30Lと噛合する左サイドギヤ20Lに伝達される。
なお、車両が直進する場合は、右車軸DSRと左車軸DSLとが同じ回転数で回転する。
このため、右ピニオンギヤ30R、および左ピニオンギヤ30Lは、自転しないまま、公転する。
つまり、車両が直進する場合は、デフケース10と左右の車軸DSR、DSLとが、同じ回転数で回転する。
【0032】
そして、終減速装置に伝達されるトルクが一定の大きさに達すると、右ピニオンギヤ30Rは右サイドギヤ20Rと噛合することで受ける噛み合い反力が増大して、右ピニオン中心C30Rから離れて回転し、右ピニオンギヤ30Rの歯先が内壁面14に摺接する。
同様に左ピニオンギヤ30Lは左サイドギヤ20Lと噛合することで受ける噛み合い反力が作用して、右ピニオン中心C30Rから離れて回転し、右ピニオンギヤ30Rの歯先が内壁面14に摺接する。
【0033】
<車両が転回する場合>
車両が転回する場合には、直進する場合と同様に、駆動源の回転が、リングギヤ(図示せず)を介して、差動装置S1に入力され、デフケース10がデフケース回転中心C10を中心に回転する。
そして、デフケース10の回転に伴い、右ピニオンギヤ30R、および左ピニオンギヤ30Lが、デフケース10とともに公転する。
そして、右ピニオンギヤ30Rが、デフケース回転中心C10を中心に回転(公転)することで、デフケース10の回転が、右ピニオンギヤ30Rと噛合する右サイドギヤ20Rに伝達される。
【0034】
同様に、左ピニオンギヤ30Lが、デフケース回転中心C10を中心に回転(公転)することで、デフケース10の回転が、左ピニオンギヤ30Lと噛合する左サイドギヤ20Lに伝達される。
なお、車両が転回する場合は、右車軸DSRと左車軸DSLとが異なる回転数で回転する。
つまり、転回時における外側の車軸の回転数が、内側の車軸の回転数よりも大きくなる。
そこで、右ピニオンギヤ30R、および左ピニオンギヤ30Lは、互いに噛合しつつ、逆方向に自転することで、デフケース10の回転に対して、外側の車軸は増速し、内側の車軸は減速する。
【0035】
また、右ピニオンギヤ30R、および左ピニオンギヤ30Lが自転する際には、かみ合う歯車毎(対をなす歯車毎)に、互いが離間する方向に、噛み合い反力F1R、F1Lが作用する(図3参照)。
つまり、右ピニオンギヤ30Rと左ピニオンギヤ30Lとの噛み合いについては、デフケース回転中心C10を中心とする円周方向に沿って、互いに離間する方向に、噛み合い反力F1R、F1Lが作用する。
また、右ピニオンギヤ30Rと右サイドギヤ20Rとの噛み合いについては、デフケース回転中心C10を中心とする径方向の外側へ右ピニオンギヤ30Rを押し出す方向に、噛み合い反力F2Rが作用する。
さらに、左ピニオンギヤ30Lと左サイドギヤ20Lとの噛み合いについては、デフケース回転中心C10を中心とする径方向の外側へ左ピニオンギヤ30Lを押し出す方向に、噛み合い反力F2Lが作用する。
【0036】
つまり、右ピニオンギヤ30Rには、左ピニオンギヤ30Lとの噛み合い反力F1Rと、右サイドギヤ20Rとの噛み合い反力F2Rの合力(右ピニオン合成反力FR)が作用する。
また、左ピニオンギヤ30Lには、右ピニオンギヤ30Rとの噛み合い反力F1Lと、左サイドギヤ20Lとの噛み合い反力F2Lの合力(左ピニオン合成反力FL)が作用する。
なお、右ピニオンギヤ30Rとの噛み合いによって右サイドギヤ20Rに作用する噛み合い反力は、デフケース回転中心C10を挟んで反対側に位置する右ピニオンギヤ30Rとの噛み合い反力によって相殺される。
また、左ピニオンギヤ30Lとの噛み合いによって左サイドギヤ20Lに作用する噛み合い反力は、右サイドギヤ20Rと同様に、デフケース回転中心C10を挟んで反対側に位置する左ピニオンギヤ30Lとの噛み合い反力によって相殺される。
【0037】
右ピニオンギヤ30Rに右ピニオン合成反力FRが作用することで、右ピニオン軸部32Rが右ピニオン合成反力FRの作用する方向(合成反力方向)へ右ピニオン弾性材42Rを圧縮しつつ、移動する。
合成反力方向へ移動した右ピニオンギヤ30Rは、右ピニオン本体31Rの歯先がデフケース10の右ピニオン収容部の内壁面14に摺接しつつ、自転する。
【0038】
次に、本実施形態の差動装置S1の作用効果について説明する。
本実施形態の差動装置S1では、右ピニオンギヤ30R(第1のピニオンギヤ)、および左ピニオンギヤ30L(第2のピニオンギヤ)が、軸受41R、41L、弾性材42R、42Lを介してデフケース10に軸支されている。
このため、自転によって噛み合い反力が作用した際に、両ピニオンギヤ30R、30Lは、それぞれの合成反力FR、FLが作用する方向へそれぞれのピニオン弾性材42R、42Lを圧縮しつつ、移動する。
また、自転が止まると、両ピニオンギヤ30R、30Lは、それぞれの弾性材42R、42Lの復元力によって、デフケース10の内壁面14から離れ、それぞれのピニオン中心C30R、C30Lに復帰する。
【0039】
そして、両ピニオン弾性材42R、42Lは、略円筒形状を有し、デフケース10に開口する断面円形の孔部15にそれぞれ挿嵌されている。
このような、デフケース10の内壁面14とピニオンギヤ30R、30Lとの摺動、離間を弾性材42R、42Lを介して軸支する構成は、特許文献2のような長孔で軸支する構成よりも加工が容易で、簡便に実施することができる。
さらに、弾性材42R、42Lは、ゴム材料の硬度や、弾性体の形状を変更することにより、差動制限性能の大きさや差動制限の作用する時期等を変更することが可能となり、車両の特性に見合った差動制限効果を提供することができる。
このようにして差動装置には弱い差動制限効果が作用することにより、駆動力が左右の車輪に全て伝達されて、車両が直進状態であっても転回状態であっても走行安定性が向上する。また、差動制限効果が弱いため、オーバーステアやアンダーステアになりにくく、直進時のみならずカーブを走行している時においても走行安定性が向上する。
以上のことから、本実施形態の差動装置S1は、強度耐久性の低下とコスト上昇と生産性低下を招くことなく、小型軽量化を図りながら、車両の走行安定性を向上させることができる。
【0040】
また、各軸部32R、32Lが、軸受41R、41L、弾性材42R、42Lを介して、デフケース10に軸支されている。
そして、軸受41R、41Lにニードルベアリングを採用することで、組付作業も容易であるほか、ボールベアリングよりも径方向の外形寸法を小さくできるため、装置の小型化を図ることができる。
また、軸受41R、41Lにメタルベアリングを採用した場合には、装置の小型化に加え、装置の軽量化を図ることができる。さらに、材料に含油性を有するものから構成すれば潤滑条件が厳しい部位においても良好に回転軸を支持することが可能である。
【0041】
なお、本実施形態では、ピニオンギヤ30R、30L、およびサイドギヤ20R、20Lに直歯の平歯車を採用しているが、これに限定するものではない。
たとえば、斜歯の平歯車を採用することが可能であり、本実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
また、本実施形態では、ピニオン弾性材42R、42Lにゴム材からなる円筒形状の部材を採用しているが、これに限定するものではない。
たとえば、筒形状を有し、径方向に弾性変形可能な金属製のばねを採用することが可能であり、本実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0042】
また、本実施形態では、4対のピニオンギヤ30R、30Lが、デフケース回転中心C10を中心に、等角度間隔で配置されているが、4対の形態に限定するものではない。
たとえば、本実施形態の差動装置S1よりも伝達する駆動力が大きいか小さいかによって、ピニオンギヤ30R、30Lの対の数を増減することが可能である。
また、本実施形態では、隣り合いつつ、対になっていない右ピニオンギヤ30Rと左ピニオンギヤ30Lとが、噛み合わないように配置されているが、このような形態に限定するものではない。
【0043】
たとえば、隣り合う別の対の右ピニオンギヤ30Rと左ピニオンギヤ30Lとも噛み合うようにギヤのプロフィールを設定し、デフケース10内に配置することが可能である。
このような構成とすることで、装置全体の大型化を抑制しつつ、伝達する駆動力をさらに増大させることが可能である。
また、前述のような別態様の構成が可能であることから、伝達する駆動力の大きさが同じ場合には、ピニオンギヤ30R、30Lの対の数を増やすことで、装置全体のデフケース回転中心方向の寸法を小さくすることができる。
【0044】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態の差動装置S2について、図6図7を参照して説明する。
なお、説明において、前述の第1実施形態と同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
本実施形態の差動装置S2では、右ピニオンギヤ30R´、および左ピニオンギヤ30L´の構成が、第1実施形態のピニオンギヤ30R、30Lと異なり、他の構成は、第1実施形態と同様である。
また、ピニオンギヤ30R´、30L´の変更に伴い、ピニオン軸受(右ピニオン軸受41R、左ピニオン軸受41L)、およびピニオン弾性材(右ピニオン弾性材42R、左ピニオン弾性材42L)の設置形態が変更されている。
【0045】
本実施形態のピニオンギヤ30R´、30L´は、ピニオン本体31R´、31L´とピニオンシャフト32R´、32L´とで構成されている。
つまり、第1実施形態におけるピニオンギヤのピニオン本体とピニオン軸部とが、別部材で構成されている。
ピニオン本体31R´(第1のピニオン本体)、31L´(第2のピニオン本体)は、それぞれのピニオン中心C30R(第1の回転中心)、C30L(第2の回転中心)を中心とする略円筒形状を有している。
なお、ピニオン本体31R´、31L´が、それぞれのサイドギヤ20R、20Lと噛合可能な直歯の平歯車で構成されている点は、第1実施形態と同様である。
【0046】
ピニオンシャフト32R´(第1のピニオンシャフト)、32L´(第2のピニオンシャフト)は、それぞれのピニオン本体31R´、31L´とは別部材で構成されている。
ピニオンシャフト32R´、32L´は、各ピニオン本体31R´、31L´の筒孔よりも小径の円柱形状を有した棒材で構成されている。
ピニオンシャフト32R´、32L´は、ピニオン本体31R´、31L´の筒孔を貫通しつつ、その両端部がピニオン弾性材42R、42Lを介して、デフケース10の孔部15に支持されている。
なお、ピニオンシャフト32R´、32L´は、孔部15に支持された部位に、ローラーピン(図示せず)が打設されるか、またはピニオンシャフト32R’、32L’の両端を塑性変形させて、デフケース10に固定されている。
これによって、ピニオンシャフト32R´、32L´の回転、およびデフケース10からの抜け落ちが防止されている。
【0047】
ピニオン軸受41R、41Lは、ピニオン本体31R´、31L´の筒孔内に内嵌されつつ、ピニオンシャフト32R´、32L´に外嵌されている。
ピニオン弾性材42R、42Lは、ピニオンシャフト32R´、32L´の両端部に配置され、デフケース10の孔部15に内嵌されつつ、ピニオンシャフト32R´、32L´に外嵌されている。
【0048】
次に、本実施形態の差動装置S2の働きについて説明する(図3図6図7参照)。
本実施形態では、ピニオンギヤ30R´、30L´が自転する際に、ピニオンシャフト32R´、32L´は、デフケース10に対して回転せず、ピニオン本体31R´、31L´がデフケース10に対して回転する。
また、噛み合い反力が作用する場合には、ピニオンシャフト32R´、32L´は、ピニオン弾性材42R、42Lを圧縮しつつ、径方向に移動する。
そして、ピニオン本体31R´、31L´は、ピニオンシャフト32R´、32L´とともに径方向に移動しつつ自転し、歯先がデフケース10の内壁面14に摺接する。
【0049】
本実施形態の構成とすることで、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
また、ピニオン本体31R´、31L´とピニオンシャフト32R´、32L´とを別部材で構成することで、ピニオン軸受41R、41Lとピニオン弾性材42R、42Lとが軸方向に分散して配置される。
これによって、デフケース10のデフケース回転中心C10を中心とする径方向の寸法を小さくすることができるため、装置のより一層の小型化を図ることができる。
【0050】
なお、本実施形態では、ピニオン本体31R´、31L´が、ピニオン軸受41R、41Lを介して、ピニオンシャフト32R´、32L´に軸支されているが、このような形態に限定するものではない。
たとえば、軸受を介さずに、僅かな隙間をあけたままで、ピニオン本体31R´、31L´をピニオンシャフト32R´、32L´の周囲を回転可能に支持する構成とすることが可能である。
【符号の説明】
【0051】
S1、S2…差動装置 10…デフケース C10…デフケース回転中心 20R…第1のサイドギヤ(右サイドギヤ) 20L…第2のサイドギヤ(左サイドギヤ) 30R…第1のピニオンギヤ(右ピニオンギヤ) C30R…第1の回転中心(右ピニオン回転中心) 30L…第2のピニオンギヤ(左ピニオンギヤ) C30L…第2の回転中心(左ピニオン回転中心) 32R…第1のギヤ軸部(右ピニオン軸部) 32L…第2のギヤ軸部(左ピニオン軸部) 41R…第1の軸受(右ピニオン軸受) 41L…第2の軸受(左ピニオン軸受) 42R…第1の弾性部材(右ピニオン弾性材) 42L…第2の弾性部材(左ピニオン弾性材) 31R´…第1のギヤ本体(右ピニオン本体) 32R´…第1のピニオンシャフト(右ピニオンシャフト) 31L´…第2のギヤ本体(左ピニオン本体) 32L´…第2のピニオンシャフト(左ピニオンシャフト)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7