(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173434
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】誘電体磁器組成物および積層セラミック電子部品
(51)【国際特許分類】
C04B 35/468 20060101AFI20241205BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20241205BHJP
H01G 4/12 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C04B35/468 200
H01G4/30 515
H01G4/12 270
H01G4/30 201L
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091847
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 和
(72)【発明者】
【氏名】西澤 実花
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AE02
5E001AE03
5E001AE04
5E082AB03
5E082BC23
5E082EE04
5E082EE23
5E082EE35
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5E082PP03
(57)【要約】
【課題】 高温かつDc Bias印加の条件下で、高い誘電率かつ高信頼性を実現することができる誘電体磁器組成物および積層セラミック電子部品を提供する。
【解決手段】 誘電体磁器組成物は、チタンに対するバリウムの元素比率が0.90以上0.98以下である誘電体磁器組成物であって、一般式ABO
3で表されるペロブスカイト構造を有し、コア部411と、コア部411を覆い、ジスプロシウムを含むシェル部412と、を有する第1結晶粒子41と、チタンに対するバリウムの元素比率が0.70以下であるチタン酸バリウム系複合酸化物を主成分とする第2結晶粒子42と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンに対するバリウムの元素比率が0.90以上0.98以下である誘電体磁器組成物であって、
一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有し、コア部と、前記コア部を覆い、ジスプロシウムを含むシェル部と、を有する第1結晶粒子と、
チタンに対するバリウムの元素比率が0.70以下であるチタン酸バリウム系複合酸化物を主成分とする第2結晶粒子と、を有する誘電体磁器組成物。
【請求項2】
前記第1結晶粒子は、ドナー元素を含み、
前記第1結晶粒子の粒界または粒界三重点におけるドナー元素の濃度は、前記第1結晶粒子におけるドナー元素の濃度より大きい、請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
前記ドナー元素は、バナジウムまたはモリブデンの少なくとも一つである、請求項2に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項4】
前記第2結晶粒子は、BaTi2O5、BaTi4O9、BaTi5O11、BaTi6O13、Ba4Ti11O26、Ba4Ti12O27、Ba4Ti13O30、Ba4Ti14O27、またはBa6Ti17O40から選ばれる少なくとも一つである、請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項5】
前記第1結晶粒子は、前記シェル部において前記コア部よりジスプロシウムの濃度が高い、請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項6】
前記第1結晶粒子は、アクセプタ元素を含む、請求項2に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項7】
前記アクセプタ元素は、マンガンまたはマグネシウムの少なくとも一つである、請求項6に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項8】
チタン酸バリウムを主成分とし、チタンに対するバリウムの元素比率が0.90以上0.98以下であり、チタン100molに対してジスプロシウムを0.5mol以上3.0mol以下含み、チタン100molに対してドナー元素を0.05mol以上0.5mol以下含み、チタン100molに対してアクセプタ元素を0.05mol以上3.0mol以下含み、チタン100molに対してケイ素を0.5mol以上3.0mol以下含む、誘電体磁器組成物。
【請求項9】
前記ドナー元素は、バナジウムまたはモリブデンの少なくとも一つである、請求項8に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項10】
前記アクセプタ元素は、マンガンまたはマグネシウムの少なくとも一つである、請求項8に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項11】
請求項1に記載の誘電体磁器組成物を用いる積層セラミック電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体磁器組成物および積層セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話を代表とする高周波通信用システムなどにおいて、積層セラミックコンデンサ(MLCC:Multi-Layer ceramic capacitor)などの積層セラミック電子部品が用いられている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-137286号公報
【特許文献2】特開2018-139261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、クラウド化やIoT化が進み、データセンターにおいて、より大容量・高速でのデータ通信が行われるようになってきた。通信の大容量化・高速化に対応するため、半導体部品を含むあらゆる電子部品の小型化が進み、電子部品は高密度な表面実装がされるようになってきた。熱源である半導体のような電子部品が高密度に配置された小さな基板が小さな筐体に収められているため、部品周辺の温度は増々上がる。このような状態では、発熱が少ないはずの積層セラミック電子部品までもが、半導体からの放射熱や伝熱で温度が上がってしまう。積層セラミック電子部品の静電容量は温度によって変化することから、高温でも安定して静電容量を発現させることが求められている。
【0005】
また、近年、積層セラミック電子部品が実際に使用される状況下での静電容量、すなわちDc Bias印加下での静電容量(実効容量)が要求されるようになってきた。室温においてDc Bias印加下で高い静電容量を発現させる試みは数多くなされてきたが、高温かつDc Bias印加下で高い静電容量を発現させた報告は少ない。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、高温かつDc Bias印加の条件下で、高い誘電率かつ高信頼性を実現することができる誘電体磁器組成物および積層セラミック電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る誘電体磁器組成物は、チタンに対するバリウムの元素比率が0.90以上0.98以下である誘電体磁器組成物であって、一般式ABO3で表されるペロブスカイト構造を有し、コア部と、前記コア部を覆い、ジスプロシウムを含むシェル部と、を有する第1結晶粒子と、チタンに対するバリウムの元素比率が0.70以下であるチタン酸バリウム系複合酸化物を主成分とする第2結晶粒子と、を有する。
【0008】
上記誘電体磁器組成物において、前記第1結晶粒子は、ドナー元素を含み、前記第1結晶粒子の粒界または粒界三重点におけるドナー元素の濃度は、前記第1結晶粒子におけるドナー元素の濃度より大きくてもよい。
【0009】
上記誘電体磁器組成物において、前記ドナー元素は、バナジウムまたはモリブデンの少なくとも一つであってもよい。
【0010】
上記誘電体磁器組成物において、前記第2結晶粒子は、BaTi2O5、BaTi4O9、BaTi5O11、BaTi6O13、Ba4Ti11O26、Ba4Ti12O27、Ba4Ti13O30、Ba4Ti14O27、またはBa6Ti17O40から選ばれる少なくとも一つであってもよい。
【0011】
上記誘電体磁器組成物において、前記第1結晶粒子は、前記シェル部において前記コア部よりジスプロシウムの濃度が高くてもよい。
【0012】
上記誘電体磁器組成物において、前記第1結晶粒子は、アクセプタ元素を含んでいてもよい。
【0013】
上記誘電体磁器組成物において、前記アクセプタ元素は、マンガンまたはマグネシウムの少なくとも一つであってもよい。
【0014】
本発明に係る他の誘電体磁器組成物は、チタン酸バリウムを主成分とし、チタンに対するバリウムの元素比率が0.90以上0.98以下であり、チタン100molに対してジスプロシウムを0.5mol以上3.0mol以下含み、チタン100molに対してドナー元素を0.05mol以上0.5mol以下含み、チタン100molに対してアクセプタ元素を0.05mol以上3.0mol以下含み、チタン100molに対してケイ素を0.5mol以上3.0mol以下含む。
【0015】
上記誘電体磁器組成物において、前記ドナー元素は、バナジウムまたはモリブデンの少なくとも一つであってもよい。
【0016】
上記誘電体磁器組成物において、前記アクセプタ元素は、マンガンまたはマグネシウムの少なくとも一つであってもよい。
【0017】
本発明に係る積層セラミック電子部品は、上記のいずれかの誘電体磁器組成物を用いている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高温かつDc Bias印加の条件下で、高い誘電率かつ高信頼性を実現することができる誘電体磁器組成物および積層セラミック電子部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態に係る誘電体磁器組成物を例示する図である。
【
図3】コア-シェル構造の確認手法を例示する図である。
【
図4】積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
【
図7】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
【
図8】(a)および(b)は内部電極形成工程を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0021】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る誘電体磁器組成物は、
図1で例示するように、一般式ABO
3で表されるペロブスカイト構造を有する結晶粒子を含むセラミックス多結晶体である。これらのセラミックス多結晶体のうち、少なくとも1つはコア-シェル構造を持つ第1結晶粒子41であり、少なくとも1つはチタンに対してバリウムの元素比率が0.70以下となる第2結晶粒子42である。
【0022】
第1結晶粒子41は、略球形状のコア部411と、コア部411を囲むように覆うシェル部412とを備えている。コア部411は、添加化合物が固溶していないかもしくは添加化合物の固溶量が少ない結晶部分である。シェル部412は、添加化合物が固溶しておりかつコア部411の添加化合物濃度よりも高い添加化合物濃度を有している結晶部分である。本実施形態においては、シェル部412は、ジスプロシウムを含んでいる。例えば、シェル部412におけるジスプロシウムの元素濃度は、コア部411におけるジスプロシウムの元素濃度よりも大きくなっている。
【0023】
本実施形態に係る誘電体磁器組成物は、第1結晶粒子41および第2結晶粒子42を含むことで、高温かつDc Bias印加の条件下で、高い誘電率かつ高信頼性を実現することができる。
【0024】
例えば、誘電体磁器組成物の断面において、第1結晶粒子41および第2結晶粒子42が総数として400個以上確認される視野で観察をしたときに、第1結晶粒子41の面積比率は50%以上99.95%以下であり、第2結晶粒子42の面積比率は0.05%以上50%以下である。
【0025】
第1結晶粒子41の主成分である、ペロブスカイト型構造を有する結晶粒子は、
図2で例示するような単位格子を有する。この単位格子には、格子の頂点に位置するAサイト、格子の面心に位置するOサイト、およびOサイトを頂点とする八面体内に位置するBサイトがそれぞれ存在する。ペロブスカイト構造では、Aサイトにバリウム(Ba),ストロンチウム(Sr),カルシウム(Ca)といった二価の陽イオンを取りうるアルカリ土類金属が配座し、Bサイトにハフニウム(Hf),ジルコニウム(Zr),チタン(Ti)といった四価の陽イオンを取りうる金属原子が配座する。
【0026】
ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れた組成式も許容する。すなわち、Aサイト元素とBサイト元素の比率は必ずしも1対1である必要はなく、ペロブスカイト構造を保持しうる範囲で欠陥が生成していてもよい。また、酸素についても欠陥が生成されていてもよい。例えば、組成式AαBO3-βとしたとき、0.90≦α≦0.98、0≦β≦0.20の範囲の組成を許容し得る。
【0027】
本実施形態に係る誘電体磁器組成物において、チタンの含有量に対するバリウムの含有量を表すBa/Ti元素比率が低すぎると、絶縁性が低下するおそれがある。そこで、Ba/Ti元素比率に下限を設けることが好ましい。一方、Ba/Ti元素比率が高すぎると、tanδが高くなるおそれがある。そこで、Ba/Ti元素比率に上限を設けることが好ましい。本実施形態においては、Ba/Ti元素比率は、0.90以上0.98以下であることが好ましい。例えば、チタン酸バリウムに対して、チタンを含有する添加物を添加することで、Ba/Ti元素比率を調整することができる。上記のチタンを含有する添加物としては、好適な例としては酸化チタンであるが、水酸化チタン(Ti(OH)4)、塩化チタン(TiCl4)、炭化チタン(TiC)、硫化チタン(TiS2)などを用いることもできる。
【0028】
なお、誘電体磁器組成物において、ジスプロシウムの含有量が少ないと、第1結晶粒子41にコア‐シェル構造が得られないおそれがある。また、ジスプロシウムの含有量が少ないと、tanδが高くなるおそれがある。そこで、チタンの含有量に対するジスプロシウムの含有量に下限を設けることが好ましい。一方、ジスプロシウムの含有量が多いと、ジスプロシウムがペロブスカイト構造のAサイトに置換固溶し、ドナーとして作用するおそれがある。そこで、チタンの含有量に対するジスプロシウムの含有量に上限を設けることが好ましい。本実施形態においては、チタン100molに対してジスプロシウムを0.5mol以上3.0mol以下含んでいることが好ましい。Dy/Ti元素比率で表すと、0.5at%以上3.0at%以下であることが好ましい。
【0029】
例えば、第1結晶粒子41に酸素欠陥が生成することによって、抵抗率が低下したり、イオン伝導性を示したりすることにより、積層セラミックコンデンサとして用いる場合の電気的寿命が低下したり、誘電損失が大きくなり、実用上用いることができない場合がある。このため、ペロブスカイト構造を有する第1結晶粒子41は、必要に応じて、ドナー元素を含んでいることが好ましい。第1結晶粒子41がドナー元素を含むことで、酸素欠陥の生成が抑制され、抵抗率を向上させたり、電気的寿命を高めたり、静電容量に対する誘電損失を低減させることが可能である。ドナー元素として、例えば、バナジウムまたはモリブデンの少なくとも1つを用いることができる。
【0030】
図1で例示するように、第1結晶粒子41の粒界45または粒界三重点に、ドナー元素の偏析物43が介在していてもよい。偏析物43が介在する場合には、偏析物43におけるドナー元素の濃度は、当該偏析物43に隣接する第1結晶粒子41のドナー元素の濃度よりも大きいことが好ましい。偏析物43は、酸化物イオン欠陥が陰極へマイグレーションする際の障害となる。したがって、偏析物43が介在することで、信頼性が向上する。その他、誘電体磁器組成物に、空隙44などが含まれていてもよい。
【0031】
誘電体磁器組成物において、ドナー元素の含有量が少ないと、酸化物イオン空孔濃度が高くなるおそれがある。そこで、チタンの含有量に対するドナー元素の含有量に下限を設けることが好ましい。一方で、ドナー元素の含有量が多いと、絶縁性が低下するおそれがある。そこで、チタンの含有量に対するドナー元素の含有量に上限を設けることが好ましい。本実施形態においては、チタン100molに対してドナー元素を0.05mol以上含んでいることが好ましく、0.5mol以下含んでいることが好ましい。V/Ti、Mo/Tiなどの元素比率で表すと、0.05at%以上であることが好ましく、0.5at%以下であることが好ましい。なお、複数種類のドナー元素を添加する場合には、ドナー元素の含有量とは、当該複数種類のドナー元素の合計量のことを意味する。
【0032】
第1結晶粒子41は、アクセプタ元素を含んでいることが好ましい。例えば、アクセプタ元素として、マンガンまたはマグネシウムの少なくとも1つを用いることができる。第1結晶粒子41がアクセプタ元素を含んでいることで、誘電体磁器組成物の還元を抑制することができる。
【0033】
誘電体磁器組成物において、アクセプタ元素の含有量が少ないと、還元によってtanδが高くなるおそれがある。そこで、チタンの含有量に対するアクセプタ元素の含有量に下限を設けることが好ましい。一方で、アクセプタ元素の含有量が多いと、実効誘電率が低下するおそれがある。そこで、チタンの含有量に対するアクセプタ元素の含有量に上限を設けることが好ましい。本実施形態においては、チタン100molに対してアクセプタ元素を0.05mol以上含んでいることが好ましく、3.0mol以下含んでいることが好ましい。Mn/Ti、Mg/Tiなどの元素比率で表すと、0.05at%以上であることが好ましく、3.0at%以下であることが好ましい。なお、複数種類のアクセプタ元素を添加する場合には、アクセプタ元素の含有量とは、当該複数種類のアクセプタ元素の合計量のことを意味する。
【0034】
誘電体磁器組成物は、ケイ素を含んでいることが好ましい。誘電体磁器組成物がケイ素を含むことで、誘電体磁器組成物が緻密になり、実効誘電率や信頼性が良好になる。誘電体磁器組成物は、ケイ素に加えて、ホウ素などを含んでいることが好ましい。
【0035】
誘電体磁器組成物において、ケイ素の含有量が少ないと、寿命が短くなるおそれがある。そこで、チタンの含有量に対するケイ素の含有量に下限を設けることが好ましい。一方で、ケイ素の含有量が多いと、実効誘電率が低下するおそれがある。そこで、チタンの含有量に対するケイ素の含有量に上限を設けることが好ましい。本実施形態においては、チタン100molに対してケイ素を0.5mol以上含んでいることが好ましく、3.0mol以下含んでいることが好ましい。Si/Ti元素比率で表すと、0.5at%以上であることが好ましく、3.0at%以下であることが好ましい。
【0036】
誘電体磁器組成物にマンガンやケイ素やホウ素を添加することで、焼成温度を低温化させることができる。低温で焼成できるようになると、焼成に要する電力を大幅に削減できるため、SDGsに貢献することができる。
【0037】
ここで、誘電体磁器組成物中に、コア-シェル構造を持つ第1結晶粒子41が存在することは、以下の手順によって確認できる。
【0038】
まず、確認対象とする誘電体磁器組成物から、透過型電子顕微鏡(TEM)観察用の試料を切り出す。この切り出しは、収束イオンビーム(FIB)装置等により行うことができる。
【0039】
次に、切り出したTEM観察用の試料を、エネルギー分散型X線分光器(EDS)または波長分散型X線分光器(WDS)を搭載したTEMにて観察し、測定対象とする結晶粒子を決定すると共に、該粒子の外周形状を特定する。
【0040】
次に、
図3で例示するように、測定対象とする結晶粒子(第1結晶粒子41)の外周上に位置する任意の2点を結ぶ線分のうち、長さが最大のものを決定し、該線分の長さLを測定する。そして、この長さLを、測定対象とする結晶粒子の直径とする。また、得られた線分の長さから、該線分の中点Mを決定する。
【0041】
上記の線分の両端からの距離が結晶粒子の直径の10%、すなわち10L/100の長さの範囲の外周上の任意のC点について、EDSまたはWDSにより組成分析を行って、分析する該当元素とチタン元素との元素存在比率を算出する。組成分析においては、例えばEDS測定においては、簡単にはバリウムのK線ないしL線やガドリニウムのL線、マンガンのK線、マグネシウムのK線に対するチタンのK線強度でもって、特定される。より詳細には、それらの強度から、原子番号効果、吸収効果、蛍光励起効果を勘案した補正(ZAF補正)を行い、チタンの元素含有量に対する各々の比率を算出し、これをシェル部412のチタンに対する各元素の比率とする。また、上記の線分の中点Mについても、同様に組成分析を行って、比率を算出し、これをコア部411のチタンに対する各元素の比率とする。
【0042】
次に、シェル部412のチタンに対する各元素の比率と、コア部411のチタンに対する各元素の比率を比較し、シェル部412の方がコア部411よりも高いことをもって、測定対象とした第1結晶粒子41がコア-シェル構造を持つと判断する。
【0043】
第2結晶粒子42としては、BaTi2O5、BaTi4O9、BaTi5O11、BaTi6O13、Ba4Ti11O26、Ba4Ti12O27、Ba4Ti13O30、Ba4Ti14O27、またはBa6Ti17O40から選ばれる少なくとも一つが挙げられる。第2結晶粒子42において、チタンに対してバリウムの元素比率は、0.16以上であることが好ましい。
【0044】
第2結晶粒子42は、その組成式から明らかであるが、チタン酸バリウムに対してバリウムの量が少ないチタン酸バリウム複合酸化物である。第2結晶粒子42は、添加物としてチタンを主成分とする添加物を用いた場合に、副次的に生成される結晶粒子となる。第2結晶粒子42を意図的に析出させることによって、第1結晶粒子41が得られるとともに、一例として高い量産性が求められている積層セラミックコンデンサにおいて、焼成温度の変化による静電容量の変化幅を抑制し、高い量産性を得ることが可能となる。
【0045】
第2結晶粒子42のより好適な例としては、Ba4Ti11O26として挙げられる、単斜晶系で空間群C2/mで示され、格子定数がa=15.160Å、b=3.893Å、c=9.093Å、β=98.6°とされるチタン酸バリウム複合酸化物であることが好ましい。当該チタン酸バリウム複合酸化物は、バリウムとチタンの比率が比較的1に近く、多量のチタンを主成分とする添加物を用いなくても、意図的に析出させることが容易であるからである。当該チタン酸バリウム複合酸化物は、例えば、非特許文献であるActa Cryst.(1979).B35、1590-1593に記載されている。
【0046】
第2結晶粒子42のさらに好適な例としては、Ba4Ti11O26に対して、マンガンが固溶して、その欠陥サイトを占有していること、または、一部のチタンを置換していることが望ましい。上記の非特許文献にて明らかであるが、Ba4Ti11O26は、一部のチタンサイトに欠陥が生じている結晶構造となっている。このため、欠陥位置にて、チタンが四価の陽イオンから、三価の陽イオンに変化しやすく、結果として抵抗率が低下しやすい。これを補完するためにマンガンが固溶していることが効果的である。
【0047】
ここで、誘電体磁器組成物が第2結晶粒子42を含有していることは、以下の手順で確認することができる。
【0048】
まず、確認対象とする誘電体磁器組成物の表面、または該誘電体磁器組成物を粉砕して得た粉末について、Cu-Kα線を用いたX線回折装置(XRD)で回折線プロファイルを測定する。粉末を得るための粉砕手段は、特に限定されず、ハンドミル(乳鉢・乳棒)等を利用できる。また、積層セラミックコンデンサを構成しているセラミックスについて回折プロファイルの測定を行う際には、素子の表面に形成された電極や被覆、そして積層セラミックコンデンサの誘電体層以外の部位を除去して、誘電体磁器組成物の表面を露出させる。この露出方法は、特に限定されず、素子を切断ないし研磨する方法等を採用できる。また、積層セラミックコンデンサを構成している誘電体磁器組成物の粉末について回折プロファイルの測定を行う際には、素子に形成された電極や被覆、そして積層セラミックコンデンサの誘電体層以外の部位を除去した後に粉砕することがより好適である。
【0049】
次に、得られた回折プロファイルにおいて、ペロブスカイト構造由来の最強回折線強度に対する、他の構造由来の最強回折線強度の百分率を算出する。そして、この割合が10%以下であることをもって、確認対象とした誘電体磁器組成物が、ペロブスカイト構造を有する第1結晶粒子41によって構成されるものと判定する。なお、上記の方法で積層セラミックコンデンサの誘電体磁器組成物の表面を露出させた場合や、粉砕した粉末についてXRD測定を行った場合には、電極や被覆を構成する材料のピークも検出されることがあるため、これを除外した上で、上述した回折線強度の割合の算出を行う。
【0050】
次に、ペロブスカイト構造由来の回折線強度以外のピークに着目し、結晶相の同定を行っていく。結晶相の同定は、ICDD(International Centre for Diffraction Data;Pennsylvania、USA)発行のPDF(Powder Diffraction File)を検索して、第2結晶粒子42を含有しているかを検索して確認することが望ましい。好適な一例としてのBa4Ti11O26においては、PDF-01-083-1459を参照して同定することによって、その生成を評価することができる。
【0051】
次に、第2結晶粒子42が、チタンに対してバリウムの元素比率が0.70以下となるチタン酸バリウム系複合酸化物からなることは、以下の方法でもって判断する。
【0052】
まず、誘電体磁器組成物の表面を露出させる。この露出方法は、特に限定されず、素子を切断ないし研磨する方法等を採用できる。このとき、内部のセラミックス組織を十分に観察するには、最終的に2μm以下のダイヤモンドペーストなどを用いて、鏡面と判断できる平滑さが得られることが好ましい。
【0053】
次に、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)または透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)に装着したエネルギー分散型X線分光器(EDS:Energy Dispersive X-ray Spectrometry)または波長分散型X線分光器(WDS:Wavelength Dispersive X-ray Spectrometry)、電子線マイクロアナライザー(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer)およびレーザー照射型誘導結合プラズマ質量分析(LA-ICP-MS)などによって、第2結晶粒子42における組成を同定する。
【0054】
例えばEDS測定においては、簡単にはバリウムのK線ないしL線やマンガンのK線に対するチタンのK線強度でもって、特定される。より詳細には、それらの強度から、原子番号効果、吸収効果、蛍光励起効果を勘案した補正(ZAF補正)を行い、チタンの元素含有量に対する各々の比率を算出し、各元素の比率とする。
【0055】
EDS測定を行う際には、特にバリウムのLα線およびチタンのKα線による測定では、そのエネルギーピークが近接しており、十分な元素含有量の比較が難しい場合がある。このため、測定の際に、ピークの被りの無い、バリウムのLβ2線およびLIIIab線が十分な強度で得られていることが望ましい。具体的には、そのピークにおける強度が、10000カウント以上となることが望ましい。このとき、バリウムによる特性X線の強度が特定でき、元素含有量が算出できるから、バリウムのLα線およびTiのKα線が重なり合っていたとしても、チタンのKα線の強度が特定でき、元素含有量が精度良く評価することができる。
【0056】
上記の方法で得られたチタンに対してバリウムの元素比率が、0.70以下となる場合に、その結晶粒子が第2結晶粒子42であると判定する。すなわち、周囲に存在するチタン酸バリウムからなる第1結晶粒子41と比較して、チタンに対してバリウムの元素比率が小さいことでもって、上記のチタン酸バリウム複合酸化物のいずれかであると判断する。このとき、観察の際にSEMを用いている場合には、反射電子像(BSE像:Back Scattered Electron Image)による観察において、第1結晶粒子41に対して、第2結晶粒子42は、相対的に輝度が低く、暗く観察されることが特徴である。また、より好適な判断としては、XRDによる回折プロファイルの評価によって、第2結晶粒子42が同定されていることが望ましい。
【0057】
次に、さらにより詳細には、第2結晶粒子42と判断した部位について、透過型電子顕微鏡(TEM)観察用の試料として切り出し、制限視野回折法を用いて取得した回折像と、既知となる文献によるデータとを比較することによって、BaTi4O9、BaTi5O11、BaTi6O13、Ba4Ti11O26、Ba4Ti12O27、Ba4Ti13O30、ないし、Ba6Ti17O40として判定できるかを確認する。なお、この切り出しは、FIB装置等により行うことができる。
【0058】
第2結晶粒子42へのマンガンの固溶については、EDSまたはWDS、もしくはEPMAによるMnのK線に対するチタンのK線強度によって、確認することができる。より詳細には、それらの強度から、ZAF補正を行いって、チタンの元素含有量に対するマンガンの元素含有量の比率wを算出する。このとき、0.02≦w≦0.10の範囲であることが望ましく、より好適には0.02≦w≦0.05の範囲にあることが望ましい。このとき、一例としては、Ba4Ti11O26におけるTiサイトの欠陥位置に、マンガンが固溶した状態となり、誘電体磁器組成物の抵抗率の低下を抑制できる。
【0059】
(第2実施形態)
第2実施形態においては、第1実施形態に係る誘電体磁器組成物を用いた積層セラミックコンデンサ100について説明する。
【0060】
図4は、積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。
図5は、
図4のA-A線断面図である。
図6は、
図4のB-B線断面図である。
図4~6で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、略直方体形状を有する積層チップ10と、積層チップ10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a、20bとを備える。なお、積層チップ10の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。外部電極20a、20bは、積層チップ10の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、外部電極20a、20bは、互いに離間している。
【0061】
積層チップ10は、誘電体磁器組成物を含む誘電体層11と、卑金属材料を含む内部電極層12とが、交互に積層された構成を有する。各内部電極層12の端縁は、積層チップ10の外部電極20aが設けられた端面と、外部電極20bが設けられた端面とに、交互に露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、誘電体層11と内部電極層12との積層体において、積層方向の最外層には内部電極層12が配置され、当該積層体の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13の材料は、誘電体層11とセラミック材料の主成分が同じである。
【0062】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0063】
内部電極層12は、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Sn(スズ)等の卑金属を主成分とする。内部電極層12として、Pt(白金),Pd(パラジウム),Ag(銀),Au(金)などの貴金属やこれらを含む合金を用いてもよい。
【0064】
図4で例示するように、外部電極20aに接続された内部電極層12と外部電極20bに接続された内部電極層12とが対向する領域は、積層セラミックコンデンサ100において電気容量を生じる領域である。そこで、当該電気容量を生じる領域を、容量領域14と称する。すなわち、容量領域14は、異なる外部電極に接続された隣接する内部電極層12同士が対向する領域である。
【0065】
外部電極20aに接続された内部電極層12同士が、外部電極20bに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域を、エンドマージン15と称する。また、外部電極20bに接続された内部電極層12同士が、外部電極20aに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域も、エンドマージン15である。すなわち、エンドマージン15は、同じ外部電極に接続された内部電極層12が異なる外部電極に接続された内部電極層12を介さずに対向する領域である。エンドマージン15は、電気容量を生じない領域である。
【0066】
図6で例示するように、積層チップ10において、積層チップ10の2側面から内部電極層12に至るまでの領域をサイドマージン16と称する。すなわち、サイドマージン16は、上記積層構造において積層された複数の内部電極層12が2側面側に延びた端部を覆うように設けられた領域である。サイドマージン16も、電気容量を生じない領域である。
【0067】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100においては、容量領域14の誘電体層11の少なくとも一部に
図1で例示した第1結晶粒子41が含まれるとともに、第2結晶粒子42が含まれている。それにより、焼成温度の変化による静電容量の変化率を抑制し、高い量産性を得ることが可能となる。
【0068】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。
図7は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0069】
(原料粉末作製工程)
まず、誘電体層11を形成するための誘電体磁器組成物を用意する。誘電体層11に含まれるAサイト元素およびBサイト元素は、通常はABO3の粒子の焼結体の形で誘電体層11に含まれる。例えば、チタン酸バリウムは、ペロブスカイト構造を有する室温付近において正方晶系に属する化合物であって、高い比誘電率を示す。このチタン酸バリウムは、一般的に、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料とを反応させて合成することができる。誘電体層11の主成分となるチタン酸バリウムの合成方法としては、従来種々の方法が知られており、例えば固相法、ゾル-ゲル法、水熱法等が知られている。本実施形態においては、これらのいずれも採用することができる。
【0070】
前記の方法によって得られたチタン酸バリウム粉末に、所定の添加物を添加する。一例として、第1実施形態に係る誘電体磁器組成物の例で示した範囲における添加物が用いられる。必要に応じて、Zr(ジルコニウム)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Li(リチウム)、B(ホウ素)、Na(ナトリウム)、K(カリウム)、を含有した酸化物もしくはガラスを用いてもよい。また、必要に応じて、ジスプロシウム以外の希土類元素として、Gd(ガドリニウム)、Sc(スカンジウム)、Y(イットリウム)、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)、Pm(プロメチウム)、Sm(サマリウム)、Tb(テルビウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Y(イッテルビウム)およびLu(ルテチウム)の酸化物を添加してもよい。
【0071】
例えば、チタン酸バリウム粉末に添加化合物を含む化合物を湿式混合し、乾燥および粉砕してチタン酸バリウム粉末と、添加化合物が混合されたセラミック材料を調製する。例えば、上記のようにして得られたセラミック材料について、必要に応じて粉砕処理して粒径を調節し、あるいは分級処理と組み合わせることで粒径を整えてもよい。具体的には、セラミック材料とともに、イットリウム安定化ジルコニア製(YSZ)ないし、アルミナ製ないし、窒化ケイ素製などの直径0.1mmから3mmのビーズとともに、撹拌処理を10時間から100時間行って、粒子径を調整することができる。以上の工程により、誘電体磁器組成物が得られる。
【0072】
(塗工工程)
次に、得られた誘電体磁器組成物に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリーを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上にセラミックグリーンシート51を塗工して乾燥させる。基材は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである。塗工工程を例示する図は省略した。
【0073】
(内部電極形成工程)
次に、
図8(a)で例示するように、セラミックグリーンシート51の表面に、有機バインダを含む内部電極形成用の金属導電ペーストをスクリーン印刷、グラビア印刷等により印刷することで、極性の異なる一対の外部電極に交互に引き出される内部電極パターン52を配置する。金属導電ペーストには、共材としてセラミック粒子を添加する。セラミック粒子の主成分は、特に限定するものではないが、誘電体層11の主成分セラミックと同じであることが好ましい。例えば、平均粒子径が50nm以下のチタン酸バリウムを均一に分散させてもよい。
【0074】
次に、原料粉末作製工程で得られた誘電体磁器組成物に、エチルセルロース系等のバインダと、ターピネオール系等の有機溶剤とを加え、ロールミルにて混練して逆パターン層用の誘電体パターンペーストを得る。
図8(a)で例示するように、セラミックグリーンシート51上において、内部電極パターン52が印刷されていない周辺領域に誘電体パターンペーストを印刷することで誘電体パターン53を配置し、内部電極パターン52との段差を埋める。内部電極パターン52および誘電体パターン53が印刷されたセラミックグリーンシート51を積層単位と称する。
【0075】
その後、
図8(b)で例示するように、内部電極層12と誘電体層11とが互い違いになるように、かつ内部電極層12が誘電体層11の長さ方向の両端面に端縁が交互に露出して極性の異なる一対の外部電極20a,20bに交互に引き出されるように、積層単位を積層していく。例えば、内部電極パターン52の積層数を100~1000層とする。
【0076】
(圧着工程)
図9で例示するように、積層単位が積層された積層体の上下にカバーシート54を所定数(例えば2~10層)だけ積層して熱圧着する。カバーシート54のセラミック材料として、一例としては上述した誘電体磁器組成物を用いることができる。その後、所定チップ寸法(例えば1.0mm×0.5mm)にカットする。
【0077】
(焼成工程)
このようにして得られたセラミック積層体を、N2雰囲気、大気雰囲気、等で脱バインダ処理した後に外部電極20a,20bの下地層となる金属ペーストをディップ法で塗布し、酸素分圧10-12~10-9atmの還元雰囲気中で1100℃~1300℃で10分~2時間焼成する。このようにして、積層セラミックコンデンサ100が得られる。なお、焼成工程においては、急速昇温を行う。焼成工程における昇温速度は、例えば、6000℃/hである。これにより、第2結晶粒子42が巨大な粒子となることなく、さらには、焼成における実質的な時間を短縮し、より高い量産性を得ることが可能となる。
【0078】
(再酸化処理工程)
その後、N2ガス雰囲気中で600℃~1000℃で再酸化処理を行ってもよい。
【0079】
(めっき処理工程)
その後、外部電極20a,20bの下地層上に、めっき処理により、Cu,Ni,Sn等の金属コーティングを行う。以上の工程により、積層セラミックコンデンサ100が完成する。
【0080】
サイドマージン部は、上記積層部分の側面に貼り付けまたは塗布してもよい。具体的には、
図10で例示するように、セラミックグリーンシート51と、当該セラミックグリーンシート51と同じ幅の内部電極パターン52とを交互に積層することで、積層部分を得る。次に、積層部分の側面に、誘電体パターンペーストで形成したシートをサイドマージン部55として貼り付けてもよい。
【0081】
本実施形態に係る製造方法によれば、容量領域14の誘電体層11の少なくとも一部に
図1で例示した第1結晶粒子41が形成されるとともに、第2結晶粒子42を含むことができることから、高温かつDc Bias印加の条件下で、高い誘電率かつ高信頼性を実現することができる。
【0082】
なお、上記各実施形態においては、積層セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサについて説明したが、それに限られない。例えば、バリスタやサーミスタなどの、他の積層セラミック電子部品を用いてもよい。
【実施例0083】
(実施例1)
BaTiO3粉末に対して、TiO2、Dy2O3、MoO3、MnCO3、SiO2の粉末を加えた。具体的には、BaTiO3粉末に対して、Ba/Ti元素比率が0.98になるようにTiO2を加え、100molのチタンに対して、ジスプロシウムが1.5molの元素比率(1.5at%)となるようにDy2O3を加え、モリブデンが0.1molの元素比率(0.1at%)となるようにMoO3を加え、マンガンが0.5molの元素比率(0.5at%)となるようにMnCO3を加え、ケイ素が1.0molの元素比率(1.0at%)となるようにSiO2を加えた。これらをエタノール、トルエンと混合した。粘度を調整するために分散剤を適宜足した。YSZボールを用いたボールミルで混合を行い、誘電体スラリーを作製した。このスラリーをダイコータで2.5μm厚みのセラミックグリーンシートに成形した。このシートを乾燥後にNiペーストを内部電極パターンとして印刷した。この印刷後のシートを11層積層してその上下にカバーシートを積層し、圧着して小片にカットした後、端面にNiペーストを端子電極としてディップし、その後N2ガス中で脱脂を行った。脱脂後の小片をNiが酸化しない酸素分圧になるように制御したN2-H2-H2O混合ガス中にて1280℃で2h焼成して、焼結した積層セラミックコンデンサを作製した。
【0084】
こうして作製した積層セラミックコンデンサは、1005形状(1.0×0.5×0.5mm3)であった。この時点で1005寸法より10%以上寸法の大きなものは焼結工程で焼き締まっていない緻密化不足の製品と判定した。1005形状に達した焼結後の誘電体層の厚みは2.0μmであった。この焼結後の積層セラミックコンデンサに対して、更にN2と数ppmのO2の混合ガス中で850℃×2hの再酸化処理を行った。
【0085】
(実施例2)
BaTiO3粉末に対して、Ba/Ti元素比率が0.90になるようにTiO2を加え、100molのチタンに対して、ジスプロシウムが1.5molの元素比率(1.5at%)となるようにDy2O3を加え、モリブデンが0.1molの元素比率(0.1at%)となるようにMoO3を加え、マンガンが0.5molの元素比率(0.5at%)となるようにMnCO3を加え、ケイ素が1.0molの元素比率(1.0at%)となるようにSiO2を加えた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0086】
(比較例1)
Ba/Ti元素比率を1.00とした。BaTiO3粉末に対して、100molのチタンに対して、ジスプロシウムが1.5molの元素比率(1.5at%)となるようにDy2O3を加え、モリブデンが0.1molの元素比率(0.1at%)となるようにMoO3を加え、マンガンが0.5molの元素比率(0.5at%)となるようにMnCO3を加え、ケイ素が1.0molの元素比率(1.0at%)となるようにSiO2を加えた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0087】
(比較例2)
BaTiO3粉末に対して、Ba/Ti元素比率が0.80になるようにTiO2を加え、100molのチタンに対して、ジスプロシウムが1.5molの元素比率(1.5at%)となるようにDy2O3を加え、モリブデンが0.1molの元素比率(0.1at%)となるようにMoO3を加え、マンガンが0.5molの元素比率(0.5at%)となるようにMnCO3を加え、ケイ素が1.0molの元素比率(1.0at%)となるようにSiO2を加えた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0088】
(比較例3)
BaTiO3粉末に対して、Ba/Ti元素比率が0.96になるようにTiO2を加え、100molのチタンに対して、モリブデンが0.1molの元素比率(0.1at%)となるようにMoO3を加え、マンガンが0.5molの元素比率(0.5at%)となるようにMnCO3を加え、ケイ素が1.0molの元素比率(1.0at%)となるようにSiO2を加えた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0089】
(実施例3)
BaTiO3粉末に対して、Ba/Ti元素比率が0.96になるようにTiO2を加え、100molのチタンに対して、ジスプロシウムが0.5molの元素比率(0.5at%)となるようにDy2O3を加え、モリブデンが0.1molの元素比率(0.1at%)となるようにMoO3を加え、マンガンが0.5molの元素比率(0.5at%)となるようにMnCO3を加え、ケイ素が1.0molの元素比率(1.0at%)となるようにSiO2を加えた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0090】
(実施例4)
BaTiO3粉末に対して、Ba/Ti元素比率が0.96になるようにTiO2を加え、100molのチタンに対して、ジスプロシウムが1.0molの元素比率(1.0at%)となるようにDy2O3を加え、モリブデンが0.1molの元素比率(0.1at%)となるようにMoO3を加え、マンガンが0.5molの元素比率(0.5at%)となるようにMnCO3を加え、ケイ素が1.0molの元素比率(1.0at%)となるようにSiO2を加えた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0091】
(比較例4)
BaTiO3粉末に対して、Ba/Ti元素比率が0.96になるようにTiO2を加え、100molのチタンに対して、ジスプロシウムが5.0molの元素比率(5.0at%)となるようにDy2O3を加え、モリブデンが0.1molの元素比率(0.1at%)となるようにMoO3を加え、マンガンが0.5molの元素比率(0.5at%)となるようにMnCO3を加え、ケイ素が1.0molの元素比率(1.0at%)となるようにSiO2を加えた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0092】
(比較例5)
BaTiO3粉末に対して、Ba/Ti元素比率が0.96になるようにTiO2を加え、100molのチタンに対して、ジスプロシウムが1.5molの元素比率(1.5at%)となるようにDy2O3を加え、バナジウムが0.01molの元素比率(0.01at%)となるようにV2O5を加え、マンガンが0.5molの元素比率(0.5at%)となるようにMnCO3を加え、ケイ素が1.0molの元素比率(1.0at%)となるようにSiO2を加えた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0093】
(実施例5)
BaTiO3粉末に対して、Ba/Ti元素比率が0.96になるようにTiO2を加え、100molのチタンに対して、ジスプロシウムが1.5molの元素比率(1.5at%)となるようにDy2O3を加え、バナジウムが0.1molの元素比率(0.1at%)となるようにV2O5を加え、マンガンが0.5molの元素比率(0.5at%)となるようにMnCO3を加え、ケイ素が1.0molの元素比率(1.0at%)となるようにSiO2を加えた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0094】
(実施例6)
BaTiO3粉末に対して、Ba/Ti元素比率が0.96になるようにTiO2を加え、100molのチタンに対して、ジスプロシウムが1.5molの元素比率(1.5at%)となるようにDy2O3を加え、バナジウムが0.3molの元素比率(0.3at%)となるようにV2O5を加え、マンガンが0.5molの元素比率(0.5at%)となるようにMnCO3を加え、ケイ素が1.0molの元素比率(1.0at%)となるようにSiO2を加えた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0095】
(比較例6)
BaTiO3粉末に対して、Ba/Ti元素比率が0.96になるようにTiO2を加え、100molのチタンに対して、ジスプロシウムが1.5molの元素比率(1.5at%)となるようにDy2O3を加え、バナジウムが1.5molの元素比率(1.5at%)となるようにV2O5を加え、マンガンが0.5molの元素比率(0.5at%)となるようにMnCO3を加え、ケイ素が1.0molの元素比率(1.0at%)となるようにSiO2を加えた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0096】
(比較例7)
BaTiO3粉末に対して、Ba/Ti元素比率が0.96になるようにTiO2を加え、100molのチタンに対して、ジスプロシウムが1.5molの元素比率(1.5at%)となるようにDy2O3を加え、モリブデンが0.01molの元素比率(0.01at%)となるようにMoO3を加え、マンガンが0.5molの元素比率(0.5at%)となるようにMnCO3を加え、ケイ素が1.0molの元素比率(1.0at%)となるようにSiO2を加えた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0097】
(実施例7)
BaTiO3粉末に対して、Ba/Ti元素比率が0.96になるようにTiO2を加え、100molのチタンに対して、ジスプロシウムが1.5molの元素比率(1.5at%)となるようにDy2O3を加え、モリブデンが0.1molの元素比率(0.1at%)となるようにMoO3を加え、マンガンが0.5molの元素比率(0.5at%)となるようにMnCO3を加え、ケイ素が1.0molの元素比率(1.0at%)となるようにSiO2を加えた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0098】
(実施例8)
BaTiO3粉末に対して、Ba/Ti元素比率が0.96になるようにTiO2を加え、100molのチタンに対して、ジスプロシウムが1.5molの元素比率(1.5at%)となるようにDy2O3を加え、モリブデンが0.3molの元素比率(0.3at%)となるようにMoO3を加え、マンガンが0.5molの元素比率(0.5at%)となるようにMnCO3を加え、ケイ素が1.0molの元素比率(1.0at%)となるようにSiO2を加えた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0099】
(比較例8)
BaTiO3粉末に対して、Ba/Ti元素比率が0.96になるようにTiO2を加え、100molのチタンに対して、ジスプロシウムが1.5molの元素比率(1.5at%)となるようにDy2O3を加え、モリブデンが1.5molの元素比率(1.5at%)となるようにMoO3を加え、マンガンが0.5molの元素比率(0.5at%)となるようにMnCO3を加え、ケイ素が1.0molの元素比率(1.0at%)となるようにSiO2を加えた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0100】
(比較例9)
BaTiO3粉末に対して、Ba/Ti元素比率が0.96になるようにTiO2を加え、100molのチタンに対して、ジスプロシウムが1.5molの元素比率(1.5at%)となるようにDy2O3を加え、モリブデンが0.1molの元素比率(0.1at%)となるようにMoO3を加え、マンガンが0.01molの元素比率(0.01at%)となるようにMnCO3を加え、ケイ素が1.0molの元素比率(1.0at%)となるようにSiO2を加えた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0101】
(実施例9)
BaTiO3粉末に対して、Ba/Ti元素比率が0.96になるようにTiO2を加え、100molのチタンに対して、ジスプロシウムが1.5molの元素比率(1.5at%)となるようにDy2O3を加え、モリブデンが0.1molの元素比率(0.1at%)となるようにMoO3を加え、マンガンが0.15molの元素比率(0.15at%)となるようにMnCO3を加え、ケイ素が1.0molの元素比率(1.0at%)となるようにSiO2を加えた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0102】
(実施例10)
BaTiO3粉末に対して、Ba/Ti元素比率が0.96になるようにTiO2を加え、100molのチタンに対して、ジスプロシウムが1.5molの元素比率(1.5at%)となるようにDy2O3を加え、モリブデンが0.1molの元素比率(0.1at%)となるようにMoO3を加え、マンガンが2.0molの元素比率(2.0at%)となるようにMnCO3を加え、ケイ素が1.0molの元素比率(1.0at%)となるようにSiO2を加えた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0103】
(比較例10)
BaTiO3粉末に対して、Ba/Ti元素比率が0.96になるようにTiO2を加え、100molのチタンに対して、ジスプロシウムが1.5molの元素比率(1.5at%)となるようにDy2O3を加え、モリブデンが0.1molの元素比率(0.1at%)となるようにMoO3を加え、マンガンが5.0molの元素比率(5.0at%)となるようにMnCO3を加え、ケイ素が1.0molの元素比率(1.0at%)となるようにSiO2を加えた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0104】
(比較例11)
BaTiO3粉末に対して、Ba/Ti元素比率が0.96になるようにTiO2を加え、100molのチタンに対して、ジスプロシウムが1.5molの元素比率(1.5at%)となるようにDy2O3を加え、モリブデンが0.1molの元素比率(0.1at%)となるようにMoO3を加え、マグネシウムが0.01molの元素比率(0.01at%)となるようにMgOを加え、ケイ素が1.0molの元素比率(1.0at%)となるようにSiO2を加えた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0105】
(実施例11)
BaTiO3粉末に対して、Ba/Ti元素比率が0.96になるようにTiO2を加え、100molのチタンに対して、ジスプロシウムが1.5molの元素比率(1.5at%)となるようにDy2O3を加え、モリブデンが0.1molの元素比率(0.1at%)となるようにMoO3を加え、マグネシウムが0.1molの元素比率(0.1at%)となるようにMgOを加え、ケイ素が1.0molの元素比率(1.0at%)となるようにSiO2を加えた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0106】
(実施例12)
BaTiO3粉末に対して、Ba/Ti元素比率が0.96になるようにTiO2を加え、100molのチタンに対して、ジスプロシウムが1.5molの元素比率(1.5at%)となるようにDy2O3を加え、モリブデンが0.1molの元素比率(0.1at%)となるようにMoO3を加え、マグネシウムが2.0molの元素比率(2.0at%)となるようにMgOを加え、ケイ素が1.0molの元素比率(1.0at%)となるようにSiO2を加えた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0107】
(比較例12)
BaTiO3粉末に対して、Ba/Ti元素比率が0.96になるようにTiO2を加え、100molのチタンに対して、ジスプロシウムが1.5molの元素比率(1.5at%)となるようにDy2O3を加え、モリブデンが0.1molの元素比率(0.1at%)となるようにMoO3を加え、マグネシウムが5.0molの元素比率(5.0at%)となるようにMgOを加え、ケイ素が1.0molの元素比率(1.0at%)となるようにSiO2を加えた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0108】
(比較例13)
BaTiO3粉末に対して、Ba/Ti元素比率が0.96になるようにTiO2を加え、100molのチタンに対して、ジスプロシウムが1.5molの元素比率(1.5at%)となるようにDy2O3を加え、モリブデンが0.1molの元素比率(0.1at%)となるようにMoO3を加え、マンガンが0.5molの元素比率(0.5at%)となるようにMnCO3を加え、ケイ素が0.1molの元素比率(0.1at%)となるようにSiO2を加えた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0109】
(実施例13)
BaTiO3粉末に対して、Ba/Ti元素比率が0.96になるようにTiO2を加え、100molのチタンに対して、ジスプロシウムが1.5molの元素比率(1.5at%)となるようにDy2O3を加え、モリブデンが0.1molの元素比率(0.1at%)となるようにMoO3を加え、マンガンが0.5molの元素比率(0.5at%)となるようにMnCO3を加え、ケイ素が0.5molの元素比率(0.5at%)となるようにSiO2を加えた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0110】
(実施例14)
BaTiO3粉末に対して、Ba/Ti元素比率が0.96になるようにTiO2を加え、100molのチタンに対して、ジスプロシウムが1.5molの元素比率(1.5at%)となるようにDy2O3を加え、モリブデンが0.1molの元素比率(0.1at%)となるようにMoO3を加え、マンガンが0.5molの元素比率(0.5at%)となるようにMnCO3を加え、ケイ素が3.0molの元素比率(3.0at%)となるようにSiO2を加えた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0111】
(比較例14)
BaTiO3粉末に対して、Ba/Ti元素比率が0.96になるようにTiO2を加え、100molのチタンに対して、ジスプロシウムが1.5molの元素比率(1.5at%)となるようにDy2O3を加え、モリブデンが0.1molの元素比率(0.1at%)となるようにMoO3を加え、マンガンが0.5molの元素比率(0.5at%)となるようにMnCO3を加え、ケイ素が10.0molの元素比率(10.0at%)となるようにSiO2を加えた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0112】
(実施例15)
BaTiO3粉末に対して、Ba/Ti元素比率が0.96になるようにTiO2を加え、100molのチタンに対して、ジスプロシウムが1.5molの元素比率(1.5at%)となるようにDy2O3を加え、バナジウムが0.05molの元素比率(0.05at%)となるようにV2O5を加え、モリブデンが0.05molの元素比率(0.05at%)となるようにMoO3を加え、マンガンが0.5molの元素比率(0.5at%)となるようにMnCO3を加え、ケイ素が1.0molの元素比率(1.0at%)となるようにSiO2を加えた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0113】
(実施例16)
BaTiO3粉末に対して、Ba/Ti元素比率が0.96になるようにTiO2を加え、100molのチタンに対して、ジスプロシウムが1.5molの元素比率(1.5at%)となるようにDy2O3を加え、モリブデンが0.1molの元素比率(0.1at%)となるようにMoO3を加え、マンガンが0.1molの元素比率(0.1at%)となるようにMnCO3を加え、マグネシウムが0.05molの元素比率(0.05at%)となるようにMgOを加え、ケイ素が1.0molの元素比率(1.0at%)となるようにSiO2を加えた。その他の条件は、実施例1と同じとした。
【0114】
再酸化処理を終えた積層セラミックコンデンサを150℃の恒温槽中で2h静置したのち室温へ取り出し、その24h後にLCRメーターを用いて1kHz、1Vrmsの条件で、容量とtanδを測定した。その後、積層セラミックコンデンサを温度特性測定用のチャンバーに入れ、-55℃から150℃まで昇温しながら、各温度での容量とtanδを測定した。粒成長が著しく進行した積層セラミックコンデンサでは、tanδが20%を上回る大きな値を示す。本試験においてこのようなtanδの異常が認められたものは短絡のため不良と判断した。短絡している積層セラミックコンデンサは電子部品として成立しないためである。
【0115】
直流抵抗率ρ(Ω・cm)は、測定時の直流電圧をV(V)とした時、ρ=(V/I)×(S/t)に従って計算した。Sは断面積であり、tは電極間距離である。直流電流Iに関しては、125℃の恒温槽内に、積層セラミックコンデンサを30分保持し、セラミックス製の碍子等を用いて周囲との絶縁性を確保して、恒温槽から外部電極に接続した電線を通じて、測定電界を10V/μm、すなわち誘電体層の厚みが2μmの場合は、20Vを30秒印加して、直流電流Iの測定を行って、直流抵抗率ρを算出した。
【0116】
作製した積層セラミックコンデンサの信頼性を調査するため、高温加速寿命試験(HALT: Highly Accelerated Life Test)を実施した。HALTは、125℃、50V/μmの条件で実施した。
【0117】
また、積層セラミックコンデンサの高温におけるDc Bias印加下での誘電率(以降,実効誘電率と呼称)の測定を実施した。積層セラミックコンデンサを恒温槽内に設置し、恒温槽の温度を80℃に昇温し、Dc Biasを2V/μm印加とし、誘電率を測定した。
【0118】
【0119】
比較例1,2および実施例1,2では、Ba/Ti元素比率を変化させた。Ba/Ti元素比率=1.0の比較例1では、焼成後のtanδが著しく高い値となっていた。高いtanδを示す積層セラミックコンデンサは、電子部品として成立せず、そもそも絶縁性が著しく悪いため、正しく静電容量および絶縁性を評価することができない。したがって、比較例1の試料に対しては、電気特性評価を実施しなかった。
【0120】
一方で、実施例1,2および比較例2の試料は、tanδ=7%から11%程度の値を示していたため、静電容量と絶縁性を測定することができた。また、実施例1,2の試料は、抵抗率が1.15×107から1.27×107Ω・mを示していた。これは、実施例1,2では、Ba/Ti元素比率を0.90以上0.98以下としたからであると考えられる。比較例2の試料は、1.25×105Ω・mという著しく低い抵抗率を示した。これは、Ba/Ti元素比率=0.80としたからであると考えられる。チタンは、3価および4価の価数をとり得ることが知られており、Ti3+→Ti4++e-のように価数が変動する際に電子が生成される。比較例2では、このように絶縁性が悪化したものと考えられる。実施例1,2および比較例1,2の結果から、Ba/Ti元素比率は、0.90以上0.98以下にすることが好ましいことがわかる。
【0121】
比較例3,4および実施例3,4では、Dy/Ti元素比率を変化させた。比較例3の試料は、tanδ=50%という異常に高い値を示した。これは、比較例3ではチタン100molに対してジスプロシウムの添加量を0mol(0at%)としたため、ジスプロシウムの添加量が少なすぎ、チタン酸バリウムが還元されたことに起因しているものと考えられる。一方、実施例3,4の試料は、正常なtanδを示し、高い絶縁性が得られた。これは、実施例3,4では、チタン100molに対してジスプロシウムの添加量を0.5mol(0.5at%)と1.0mol(1.0at%)としたためであると考えられる。比較例4の試料は、実施例3,4に比べて絶縁性が悪化した。これは、比較例4ではチタン100molに対してジスプロシウムの添加量を5mol(5at%)としたため、ジスプロシウムがチタン酸バリウムのAサイトに置換固溶し、ドナーとして作用したためと考えられる。
【0122】
比較例5,6および実施例5,6では、V/Ti元素比率を変化させた。比較例5の試料は、5分という著しく短いHALT寿命を示した。これは、比較例5ではチタン100molに対してバナジウムの添加量を0.01mol(0.01at%)としたため、バナジウムの添加量が少なすぎ、酸化物イオン空孔濃度が高くなったことに起因しているものと考えられる。一方、実施例5,6の試料は、4000分以上という長いHALT寿命を示した。これは、実施例5,6ではそれぞれチタン100molに対してバナジウムの添加量を0.1mol(0.1at%)、0.3mol(0.3at%)としたためであると考えられる。比較例6の試料は、実施例5,6と比べて絶縁性が悪化した。これは、比較例6ではチタン100molに対してバナジウムの添加量を1.5mol(1.5at%)としたことで、バナジウムがドナーとして作用したことに起因しているものと考えられる。
【0123】
比較例7,8および実施例7,8では、Mo/Ti元素比率を変化させた。比較例7の試料は、5分という著しく短いHALT寿命を示した。これは、比較例7ではチタン100molに対してモリブデンの添加量を0.01mol(0.01at%)としたため、モリブデンの添加量が少なすぎ、酸化物イオン空孔濃度が高くなったことに起因しているものと考えられる。一方、実施例7,8の試料は、4000分以上の長いHALT寿命を示した。これは、実施例7,8ではそれぞれチタン100molに対してモリブデンの添加量を0.1mol(0.1at%)、0.3mol(0.3at%)としたためであると考えられる。比較例8の試料は、実施例7,8と比べて絶縁性が悪化した。これは、比較例8ではチタン100molに対してモリブデンの添加量を1.5mol(1.5at%)としたため、モリブデンがドナーとして作用したことに起因しているものと考えられる。
【0124】
比較例9,10および実施例9,10では、Mn/Ti元素比率を変化させた。比較例9の試料は、tanδ=45%という異常に高い値を示した。これは、比較例9ではチタン100molに対してモリブデンの添加量を0.01mol(0.01at%)としたため、マンガンの添加量が少なすぎ、チタン酸バリウムが還元されたことに起因していると考えられる。一方で、実施例9,10の試料は、正常なtanδを示した。これは、実施例9,10ではそれぞれチタン100molに対してマンガンの添加量を0.15mol(0.15at%)、2.0mol(2.0at%)としたためであると考えられる。比較例10の試料の実効誘電率は1800であり、低い値となった。これは、比較例10ではチタン100molに対してマンガンの添加量を5.0mol(5.0at%)としたため、マンガン添加量が多すぎ、粒成長が抑制されたこと、さらにマンガンがアクセプタとして作用して酸化物イオン空孔濃度が高くなったことに起因しているものと考えられる。
【0125】
比較例11,12および実施例11,12では、Mg/Ti元素比率を変化させた。比較例11の試料は、tanδ=47%という異常に高い値を示した。これは、比較例11ではチタン100molに対してマグネシウムの添加量を0.01mol(0.01at%)としたため、マグネシウムの添加量が少なすぎ、チタン酸バリウムが還元されたことに起因しているものと考えられる。一方で、実施例11,12の試料は、正常なtanδを示した。これは、実施例11,12ではそれぞれチタン100molに対してマグネシウムの添加量を0.1mol(0.1at%)、2.0mol(2.0at%)としたためであると考えられる。比較例12の試料の実効誘電率が1700であり、低い値となった。これは、比較例12ではチタン100molに対してマグネシウムの添加量を5.0mol(5.0at%)としたため、マグネシウムの添加量が多すぎ、粒成長が抑制されたこと、さらにマグネシウムがアクセプタとして作用して酸化物イオン空孔濃度が高くなり、ドメインの動きがピニングされたことに起因しているものと考えられる。
【0126】
比較例13,14および実施例13,14では、Si/Ti元素比率を変化させた。比較例13の試料は、60分という大幅に短いHALT寿命を示した。これは、比較例13ではチタン100molに対してケイ素の添加量を0.1mol(0.1at%)としたため、粒界でケイ素を含有する相が形成されず、酸化物イオン空孔が粒界で動きやすくなったことに起因しているものと考えられる。一方、実施例13,14の試料では、十分に緻密な試料が得られ、実効誘電率や信頼性も良好な値であった。これは、実施例13、4ではそれぞれチタン100molに対してケイ素の添加量を0.5mol(0.5at%)、3.0mol(3.0at%)としたためであると考えられる。比較例14の試料は、実効誘電率が1700という低い値となった。これは、比較例14ではチタン100molに対してケイ素の添加量を10.0mol(10.0at%)としため、ケイ素の添加量が多すぎ、ケイ素を含む低誘電率な二次相の体積割合が高くなったことに起因していると考えられる。
【0127】
実施例15は、実施例5~8の変形例であり、バナジウムおよびモリブデンの両方を添加した。実施例15の試料は、4000分以上の長いHALT寿命を示した。これは、実施例15ではチタン100molに対してバナジウムの添加量を0.05mol(0.05at%)とし、モリブデンの添加量を0.05mol(0.05at%)としたためであると考えられる。このように、バナジウムおよびモリブデンの両方を添加しても良好な結果が得られた。
【0128】
実施例16は、実施例9~12の変形例であり、マンガンおよびマグネシウムの両方を添加した。実施例16の試料は、4000分以上の長いHALT寿命を示した。これは、実施例16ではチタン100molに対してマンガンの添加量を0.1mol(0.1at%)とし、マグネシウムの添加量を0.05mol(0.05at%)としたためであると考えられる。実施例16このように、マンガンおよびマグネシウムの両方を添加しても良好な結果が得られた。
【0129】
表2に、コア-シェルの有無およびBa4Ti11O26の有無を示した。比較例1では、シェル部にジスプロシウムを含むコア-シェル構造を有する第1結晶粒子が確認されたものの、チタンに対するバリウムの元素比率が0.70以下の第2結晶粒子であるBa4Ti11O26は確認されなかった。これは、Ba/Ti元素比率が1.0であったからであると考えられる。一方、実施例1,2では、シェル部にジスプロシウムを含むコア-シェル構造を有する第1結晶粒子が確認されたうえに、チタンに対するバリウムの元素比率が0.70以下の第2結晶粒子であるBa4Ti11O26が確認された。これは、Ba/Ti元素比率が0.90以上0.98以下にしたからであると考えられる。
【0130】
また、比較例3では、シェル部にジスプロシウムを含むコア-シェル構造は確認されなかった。これは、比較例3ではジスプロシウムを添加しなかったためであると考えられる。一方、実施例3,4では、コア部におけるジスプロシウムの濃度よりもシェル部におけるジスプロシウムの濃度が高いコア-シェル構造が確認された。これは、実施例3,4ではそれぞれチタン100molに対するジスプロシウムの添加量を0.5mol(0.5at%)、1.0mol(1.0at%)としたためであると考えられる。
【表2】
【0131】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。