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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173437
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20241205BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20241205BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H01L23/36 M
H05K7/20 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091854
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 功二
(72)【発明者】
【氏名】岩橋 清太
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 正太郎
【テーマコード(参考)】
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
5E322AA03
5E322EA11
5E322FA04
5F136BA30
5F136BC02
5F136DA17
5F136DA25
5F136FA01
5F136FA03
5F136FA12
5F136FA51
(57)【要約】
【課題】半導体チップと放熱部材との接合性が低下することを抑制する。
【解決手段】搭載部材10と、搭載部材10上に配置される半導体チップ50と、半導体チップ50を挟んで搭載部材10と反対側に配置される放熱部材70と、半導体チップ50と放熱部材70との間に配置され、ガリウムを含む液体金属81で構成された接合部材80と、搭載部材10と放熱部材80との間に配置され、半導体チップ50および液体金属80を封止するシール部材90と、を備え、接合部材80は、水素吸蔵物82を含んで構成されるようにする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置であって、
搭載部材(10)と、
前記搭載部材上に配置される半導体チップ(50)と、
前記半導体チップを挟んで前記搭載部材と反対側に配置される放熱部材(70)と、
前記半導体チップと前記放熱部材との間に配置され、ガリウムを含む液体金属(81)で構成された接合部材(80)と、
前記搭載部材と前記放熱部材との間に配置され、前記半導体チップおよび前記液体金属を封止するシール部材(90)と、を備え、
前記接合部材は、水素吸蔵物(82)を含んで構成されている半導体装置。
【請求項2】
前記水素吸蔵物は、マグネシウムおよびニッケルを含む合金で構成されている請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記水素吸蔵物がMgNiであり、
前記水素吸蔵物は、前記液体金属の質量をA[g]、前記液体金属の液量をXA[mL]とすると、前記液体金属の液量に対し、1.11×10-3/X[%]以上含まれている請求項2に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体チップと放熱部材とを液体金属で構成される接合部材を介して接合した半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、特許文献1には、半導体チップと放熱部材とを液体金属で構成される接合部材を介して接合した半導体装置が提案されている。具体的には、この半導体装置では、配線基板上に半導体チップが搭載され、半導体チップが放熱部材と液体金属を介して接合されている。また、配線基板と放熱部材との間には、半導体チップおよび液体金属が密閉されるように、シール部材が配置されている。なお、液体金属は、ガリウムを含んで構成される。
【0003】
これによれば、接合部材が液体金属で構成されているため、半導体チップと放熱部材との接合性を高くできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2020/162417号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような半導体装置を高湿度環境下で使用する場合、水分がシール材を透過する可能性がある。そして、水分が液体金属に到達した場合には、液体金属に含まれるガリウムが水分(すなわち、水)と反応して水素を発生する。この場合、水素よって液体金属が押し出されたり、液体金属の内部に水素による気泡が構成され、半導体チップと放熱部材との接合性が低下して放熱性が低下する。
【0006】
本発明は上記点に鑑み、半導体チップと放熱部材との接合性が低下することを抑制できる半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための請求項1は、半導体装置であって、搭載部材(10)と、搭載部材上に配置される半導体チップ(50)と、半導体チップを挟んで搭載部材と反対側に配置される放熱部材(70)と、半導体チップと放熱部材との間に配置され、ガリウムを含む液体金属(81)で構成された接合部材(80)と、搭載部材と放熱部材との間に配置され、半導体チップおよび液体金属を封止するシール部材(90)と、を備え、接合部材は、水素吸蔵物(82)を含んで構成されている。
【0008】
これによれば、接合部材は、液体金属に水素吸蔵物が混入されて構成されている。このため、水分が液体金属に到達して水素が発生したとしても、当該水素を水素吸蔵物で吸収でき、液体金属が水素によって押し出されることを抑制できる。したがって、半導体チップと放熱部材との接合性が低下することを抑制できる。
【0009】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態における半導体装置の断面図である。
図2図1に示す半導体装置の平面図である。
図3】比較例の半導体装置における水素が発生した状態を示す断面図である。
図4】本実施形態の半導体装置における水素が発生した状態を示す断面図である。
図5】時間と水素発生量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0012】
(第1実施形態)
第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態の半導体装置は、例えば、車両に搭載され、車両用の各種電子装置を駆動するための半導体装置を構成するのに適用されると好適である。また、本実施形態の半導体装置は、高温度、高湿度環境下で使用されることも可能である。
【0013】
半導体装置は、図1および図2に示されるように、搭載部材10、半導体チップ50、放熱部材70、接合部材80、シール部材90等を備えている。なお、図2では、放熱部材70を省略して示している。また、図1は、図2中のI-I線に沿った断面図である。
【0014】
搭載部材10は、本実施形態では支持基板20および接続基板30が積層されて構成されている。支持基板20は、一面10aを有するプリント基板やセラミック基板等で構成され、増幅回路や信号処理等が適宜形成されていると共に、図示しないコンデンサや抵抗等の電子部品が適宜搭載されている。
【0015】
接続基板30は、一面30aおよび他面30bを有するインターポーザ基板等であり、他面30bが支持基板20の一面20aと接合部材40を介して接合されている。なお、接合部材40は、例えば、はんだで構成される。
【0016】
半導体チップ50は、MOSFET(metal oxide semiconductor field effect transistorの略)素子やIGBT(insulated gate bipolar transistorの略)素子等のパワー素子が形成されて構成されている。そして、接続基板30の一面30aに接合部材60を介して接合されている。また、本実施形態では、半導体チップ50と接続基板30との間には、接合部材60を被覆するようにアンダーフィル等の保護部材61が配置されている。
【0017】
放熱部材70は、銅等で構成されるヒートシンクや筐体等であり、半導体チップ50を挟んで搭載部材10と反対側に配置され、接合部材80を介して半導体チップ50と接続されている。
【0018】
接合部材80は、半導体チップ50と放熱部材70との間に配置されて半導体チップ50と放熱部材70とを熱的に接続するものであり、ガリウムを含む液体金属81に水素吸蔵物82が混入されて構成されている。なお、水素吸蔵物82については、後述する。
【0019】
シール部材90は、半導体チップ50および接合部材80を封止するように、接続基板30と放熱部材70との間に配置されている。そして、半導体チップ50および接合部材80等は、接続基板30(すなわち、搭載部材10)、放熱部材70、シール部材90で封止された空間に配置された状態となっている。なお、シール部材90は、例えば、Oリング等が用いられる。
【0020】
以上が本実施形態における半導体装置の構成である。次に、本実施形態の接合部材80の機能について説明する。
【0021】
接合部材80を構成する液体金属81は、上記のように、ガリウムを含んで構成されている。このため、水分がシール部材90を透過して液体金属81に達すると、下記化学式1の反応によって水素が発生する。
【0022】
(化1)2Ga+3HO←Ga+3H
そして、接合部材80が液体金属81のみで構成されている半導体装置を比較例の半導体装置とすると、図3に示されるように、比較例の半導体装置では、発生した水素Hによって液体金属81が押し出され、接合性が低下する。
【0023】
このため、本実施形態の接合部材80は、液体金属81内に、水素吸蔵物82が混入されて接合部材80が構成されている。これにより、図4に示されるように、液体金属81内に水素Hが発生した場合、水素吸蔵物82によって水素Hを吸収して蓄積することができ、液体金属81が水素Hによって押し出されることを抑制できる。
【0024】
この場合、水素吸蔵物82は、水素吸蔵量が大きく、放出温度が高い材料で構成されることが好ましい。つまり、水素吸蔵物82は、水素Hを吸収し易く、高温になるまで水素Hを放出し難い材料で構成されることが好ましい。本発明者らが検討したところ、Mg(すなわち、マグネシウム)およびNi(すなわち、ニッケル)を含む合金は、水素吸蔵量が大きいと共に放出温度が高い材料であることが確認された。例えば、MgおよびNiを含む合金としてのMgNiは、水素吸蔵量が3.6wt%であり、水素放出温度が253°であるために好ましい。なお、高温になるまで水素Hを放出し難い材料とは、半導体装置の想定される使用温度より高い温度まで水素Hを放出し難い材料のことである。
【0025】
ここで、車載用部品は、例えば、85℃、85%Rh、1000h(すなわち、時間)の条件で信頼性を維持できるか否かの信頼性試験が行われる(例えば、特開2019-144552号公報)。そして、本発明者らは、以下の検討を行い、このような信頼性試験においても十分に半導体装置の信頼性を維持できる水素吸蔵物82の割合を見出した。なお、以下は、水素吸蔵物82をMgNiで構成した場合の結果である。
【0026】
まず、本発明者らは、図5に示されるように、10gの液体金属81を85℃の水中に維持した場合、3時間(すなわち、180分)で1.5[mL]の水素が発生することを確認した。このため、液体金属81がA[g]である場合には、下記数式1より、水素Hの発生速度が0.05A[mL/h]となる。なお、Aは変数であり、例えば、A=0.4[g]の場合には、水素Hの発生速度が0.02[mL/h]となる。
【0027】
(数1)1.5[mL]/3[h]×(A[g]/10[g])=0.05A[mL/h]
そして、反応速度が水密度(すなわち、水蒸気密度)に比例すると仮定すると、85℃、85%Rhでの反応速度は、85℃、85%Rhでの水蒸気密度が299×10[g/cm]であるため、下記数式2より、1.5A×10-5[mL/h]となる。
【0028】
(数2)0.05A[mL/h]×299/10[g/cm]=1.5A×10-5[mL/h]
このため、1000hでA[g]の液体金属81から放出される水素は、下記数式3より、1.5A×10-2[mL]となる。
【0029】
(数3)1.5A×10-5[mL/h]×1000[h]=1.5A×10-2[mL]
そして、1molの気体の体積は22.4Lであるため、下記数式4より、1000hで発生する水素のmol数は、6.7A×10-7[mol]となる。
【0030】
(数4)1.5A×10-2[mL]/(22.4×10)[mL/mol]=6.7A×10-7[mol]
また、MgNiは、下記化学式2より、1[mol]のMgNiあたり、水素を2[mol]吸収する。
【0031】
(化2)MgNi+2H=MgNiH
ここで、MgNiの体積は、31.2[cm/mol]であるため、水素1molを吸収するMgNiの体積は、下記数式5より、16.6[cm/mol]となる。
【0032】
(数5)31.2[cm/mol]÷2=16.6[cm/mol]
したがって、1000hで発生する水素を吸収するのに必要なMgNiの体積は、下記数式6より、1.11A×10-5[cm]となる。
【0033】
(数6)16.6[cm/mol]×6.7A×10-7[mol]=1.11A×10-5[cm
そして、液体金属81の質量Aに対応する液体金属81の液量をXA(但し、Xは変数)とすると、液体金属81に含まれるMgNiの割合は、下記数式7より、1.11×10-3/X[%]となる。
【0034】
(数7)(1.11A×10-5/XA)×100=1.11×10-3/X[%]
例えば、液体金属81の質量が0.4gであって、液体金属81の液量が0.07mLである場合、上記各式におけるAが0.4となり、Xが0.175となる。この場合、液体金属81に含まれる水素吸蔵物82としてのMgNiは、液体金属81の液量に対して6.3×10-3[%]以上含まれていれば、車載用部品としての信頼性を十分に確保できる。
【0035】
以上説明した本実施形態によれば、接合部材80は、液体金属81に水素吸蔵物82が混入されて構成されている。このため、水分が液体金属81に到達して水素Hが発生したとしても、当該水素Hを水素吸蔵物82で吸収でき、液体金属81が水素Hによって押し出されることを抑制できる。したがって、半導体チップ50と放熱部材70との接合性が低下することを抑制できる。
【0036】
(1)本実施形態では、水素吸蔵物82がMgおよびNiを含む合金で構成されている。このため、水素吸蔵物82は、水素Hを吸収し易く、高温になるまで水素Hを放出し難くなる。
【0037】
(2)本実施形態では、液体金属81に水素吸蔵物82としてのMgNiを混入させる場合、液体金属81の質量をA[g]、液体金属81の液量をXA[mL]とすると、水素吸蔵物82は、1.11×10-3/X[%]以上混入されていれば、車載用部品としての信頼性を十分に確保できる。
【0038】
(他の実施形態)
本開示は、実施形態に準拠して記述されたが、本開示は当該実施形態や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0039】
例えば、上記第1実施形態において、搭載部材10は、支持基板20のみで構成されていてもよいし、接続基板30のみで構成されていてもよい。
【0040】
また、上記第1実施形態において、水素吸蔵物82は、MgおよびNiを含む合金でなくてもよい。但し、水素吸蔵物82は、上記のように、水素Hを吸収し易く、高温になるまで水素Hを放出し難い材料で構成されることが好ましい。
【符号の説明】
【0041】
10 搭載部材
50 半導体チップ
70 放熱部材
80 接合部材
81 液体金属
82 水素吸蔵物
図1
図2
図3
図4
図5