(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173452
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】推定装置及び推定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20241205BHJP
G01N 33/44 20060101ALI20241205BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20241205BHJP
E04B 1/66 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
G01N17/00
G01N33/44
C09K3/10 G
E04B1/66 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091883
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉田 敬太郎
【テーマコード(参考)】
2E001
2G050
4H017
【Fターム(参考)】
2E001DA01
2E001GA10
2E001MA06
2G050AA02
2G050AA07
2G050BA03
2G050BA09
2G050BA10
2G050EB01
2G050EB07
4H017AA04
4H017AB15
(57)【要約】
【課題】従来の技術に比較して、より精度よくシーリング材の劣化度を推定することができる推定装置及び推定プログラムを得る。
【解決手段】推定装置10は、推定対象とするシーリング材に関する、事前の実験により、劣化の途中で変化が確認された項目である先行する項目、及び劣化後の時点で変化が確認された項目である遅行する項目の2種類の項目の値を取得する取得部11Aと、取得した2種類の項目の値を用いて、シーリング材の劣化度を推定する推定部11Bと、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
推定対象とするシーリング材に関する、事前の実験により、劣化の途中で変化が確認された項目である先行する項目、及び劣化後の時点で変化が確認された項目である遅行する項目の2種類の項目の値を取得する取得部と、
取得した前記2種類の項目の値を用いて、前記シーリング材の劣化度を推定する推定部と、
を備えた推定装置。
【請求項2】
前記シーリング材は、変性シリコーン系シーリング材である、
請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記先行する項目は、可塑剤、炭素量、カルシウム量、及び光沢度の少なくとも1つであり、
前記遅行する項目は、引張強度、及び50%モジュラスの少なくとも一方である、
請求項1又は請求項2に記載の推定装置。
【請求項4】
前記推定部は、前記先行する項目を、可塑剤、炭素量、カルシウム量、及び光沢度とし、前記遅行する項目を、引張強度、及び50%モジュラスとし、iを前記項目の別を示す値とし、x
iを前記推定対象とするシーリング材の対応する項目の測定値とし、x
i,前を対応する項目の劣化前の値とし、x
i,途中を対応する項目の劣化途中の値とし、x
i,後を対応する項目の劣化後の値とし、fi(x)を次の式(2)又は式(3)により算出される劣化進行度式とし、aを前記先行する項目に対する重み係数とし、bを前記遅行する項目に対する重み係数として、次の式(1)により前記劣化度g(x)を推定する、
【数1】
請求項3に記載の推定装置。
【請求項5】
前記推定部は、前記推定対象とするシーリング材のそれまでの劣化に要した時間をtとして、次の式(4)により前記シーリング材の余寿命T(x,t)を推定する、
【数2】
請求項4に記載の推定装置。
【請求項6】
推定対象とするシーリング材に関する、事前の実験により、劣化の途中で変化が確認された項目である先行する項目、及び劣化後の時点で変化が確認された項目である遅行する項目の2種類の項目の値を取得し、
取得した前記2種類の項目の値を用いて、前記シーリング材の劣化度を推定する、
処理をコンピュータに実行させる推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推定装置及び推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
変性シリコーン系のシーリング材は主成分が有機系の材料であるため、紫外線、雨、熱等の劣化要因により劣化を受ける。この劣化を評価する方法については、現状では規格やガイドラインがなく、各社が引張強度、光沢度、測色値等の物理特性から何種類かを選択して評価している。しかし、劣化メカニズムが複雑で、どの評価項目を見てどのように判断すればシーリング材の劣化の予測ができるかは体系化されていない。
【0003】
従来、シーリング材の劣化を評価するために適用することができる技術として、以下の技術があった。
【0004】
特許文献1には、外観検査で異常が認められない場合に、早期に建築用外装目地部の外壁間のシーリング材の劣化評価方法を提供することを目的とし、さらに、ウレタン系シーリング材の残存寿命を推定することも可能であり、建築物の保守計画を作成する上でも重要な情報を提供することを目的としたウレタン系シーリング材の劣化評価方法が開示されている。
【0005】
この劣化評価方法は、シーリング材のウレタン成分の溶出量および可塑剤量を測定することを特徴としている。
【0006】
また、特許文献2には、不定型シールの状態から寿命を予測して改修時期を決定することを目的とした目地の劣化診断方法が開示されている。
【0007】
この劣化診断方法は、不定形シールの深さに応じて目地を改修する時期を変化させて予め定め、不定形シールの深さに応じて目地の改修時期を決定することを特徴としている。
【0008】
更に、特許文献3には、外壁材同士の間に充填された不定形シール材を破壊することなく、不定形シール材の劣化状態を正確に診断することを目的とした不定形シール材の診断方法が開示されている。
【0009】
この診断方法は、建物の外壁材同士の間に充填された不定形シール材の劣化状態を診断する不定形シール材の診断方法であって、前記不定形シール材の両側にある前記外壁材の表面と前記不定形シール材の表面とを撮像する撮像工程と、前記撮像工程で撮像した画像から、前記不定形シール材の表面に相当する画像を抽出する抽出工程と、前記抽出工程で抽出した前記不定形シール材の画像を、前記不定形シール材の画像から前記不定形シール材のひび割れおよびしわが特定できるように、二値化処理する二値化処理工程と、を含む。また、この診断方法は、前記二値化処理工程で前記二値化処理した前記不定形シール材の画像から、前記不定形シール材のひび割れおよびしわの特徴となるパラメータを特徴量として算出する特徴量算出工程と、前記特徴量算出工程で算出した前記特徴量に基づいて、前記不定形シール材の劣化状態を診断する診断工程と、を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004-137383号公報
【特許文献2】特開2011-231483号公報
【特許文献3】特開2018-173385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、本発明の発明者による鋭意検討の結果、シーリング材の劣化には、劣化の途中で変化が確認された項目である先行する項目、及び劣化後の時点で変化が確認された項目である遅行する項目の2種類の項目が関与していることが判明した。
【0012】
しかしながら、上記特許文献1~特許文献3の各特許文献に開示されている技術では、上記2種類の項目については考慮されておらず、必ずしも精度よく劣化度を推定することができるとは限らない、という問題点があった。なお、この問題点は、変性シリコーン系シーリング材に限らず、劣化に上記2種類の項目が関与している他のシーリング材についても生じ得る問題点である。
【0013】
本開示は、以上の事情を鑑みて成されたものであり、従来の技術に比較して、より精度よくシーリング材の劣化度を推定することができる推定装置及び推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に記載の本発明に係る推定装置は、推定対象とするシーリング材に関する、事前の実験により、劣化の途中で変化が確認された項目である先行する項目、及び劣化後の時点で変化が確認された項目である遅行する項目の2種類の項目の値を取得する取得部と、取得した前記2種類の項目の値を用いて、前記シーリング材の劣化度を推定する推定部と、を備えている。
【0015】
請求項1に記載の本発明に係る推定装置によれば、推定対象とするシーリング材に関する、事前の実験により、劣化の途中で変化が確認された項目である先行する項目、及び劣化後の時点で変化が確認された項目である遅行する項目の2種類の項目の値を取得し、取得した2種類の項目の値を用いて、シーリング材の劣化度を推定することで、従来の技術に比較して、より精度よくシーリング材の劣化度を推定することができる。
【0016】
請求項2に記載の本発明に係る推定装置は、請求項1に記載の推定装置であって、前記シーリング材が、変性シリコーン系シーリング材であるものである。
【0017】
請求項2に記載の本発明に係る推定装置によれば、シーリング材を、変性シリコーン系シーリング材とすることで、変性シリコーン系シーリング材に対して、精度よく劣化度を推定することができる。
【0018】
請求項3に記載の本発明に係る推定装置は、請求項1又は請求項2に記載の推定装置であって、前記先行する項目が、可塑剤、炭素量、カルシウム量、及び光沢度の少なくとも1つであり、前記遅行する項目が、引張強度、及び50%モジュラスの少なくとも一方であるものである。
【0019】
請求項3に記載の本発明に係る推定装置によれば、先行する項目を、可塑剤、炭素量、カルシウム量、及び光沢度の少なくとも1つとし、遅行する項目を、引張強度、及び50%モジュラスの少なくとも一方とすることで、適用した項目が考慮された劣化度を推定することができる。
【0020】
請求項4に記載の本発明に係る推定装置は、請求項3に記載の推定装置であって、前記推定部が、前記先行する項目を、可塑剤、炭素量、カルシウム量、及び光沢度とし、前記遅行する項目を、引張強度、及び50%モジュラスとし、iを前記項目の別を示す値とし、xiを前記推定対象とするシーリング材の対応する項目の測定値とし、xi,前を対応する項目の劣化前の値とし、xi,途中を対応する項目の劣化途中の値とし、xi,後を対応する項目の劣化後の値とし、fi(x)を次の式(2)又は式(3)により算出される劣化進行度式とし、aを前記先行する項目に対する重み係数とし、bを前記遅行する項目に対する重み係数として、次の式(1)により前記劣化度g(x)を推定する。
【0021】
【0022】
請求項4に記載の本発明に係る推定装置によれば、線形結合式として構成された式(1)により劣化度を推定することで、より簡易にシーリング材の劣化度を推定することができる。
【0023】
請求項5に記載の本発明に係る推定装置は、請求項4に記載の推定装置であって、前記推定部が、前記推定対象とするシーリング材のそれまでの劣化に要した時間をtとして、次の式(4)により前記シーリング材の余寿命T(x,t)を推定する。
【0024】
【0025】
請求項5に記載の本発明に係る推定装置によれば、線形結合式として構成された式(1)を用いた式(4)によりシーリング材の余寿命を推定することで、より簡易にシーリング材の余寿命を推定することができる。
【0026】
請求項6に記載の本発明に係る推定プログラムは、推定対象とするシーリング材に関する、事前の実験により、劣化の途中で変化が確認された項目である先行する項目、及び劣化後の時点で変化が確認された項目である遅行する項目の2種類の項目の値を取得し、取得した前記2種類の項目の値を用いて、前記シーリング材の劣化度を推定する、処理をコンピュータに実行させる。
【0027】
請求項6に記載の本発明に係る推定プログラムによれば、推定対象とするシーリング材に関する、事前の実験により、劣化の途中で変化が確認された項目である先行する項目、及び劣化後の時点で変化が確認された項目である遅行する項目の2種類の項目の値を取得し、取得した2種類の項目の値を用いて、シーリング材の劣化度を推定することで、従来の技術に比較して、より精度よくシーリング材の劣化度を推定することができる。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように、本発明によれば、従来の技術に比較して、より精度よくシーリング材の劣化度を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】実施形態に係る推定装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】実施形態に係る推定装置の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】実施形態に係る推定情報データベースの構成の一例を示す模式図である。
【
図4】実施形態に係る推定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】実施形態に係る初期情報入力画面の構成の一例を示す正面図である。
【
図6】実施形態に係る推定結果表示画面の構成の一例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態例を詳細に説明する。
【0031】
まず、
図1を参照して、本実施形態に係る推定装置10の構成を説明する。
図1は、本実施形態に係る推定装置10のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。なお、推定装置10の例としては、パーソナルコンピュータ及びサーバコンピュータ等の情報処理装置が挙げられる。
【0032】
図1に示すように、本実施形態に係る推定装置10は、プロセッサとしてのCPU(Central Processing Unit)11、一時記憶領域としてのメモリ12、不揮発性の記憶部13、キーボードとマウス等の入力部14、液晶ディスプレイ等の表示部15、媒体読み書き装置(R/W)16及び通信インタフェース(I/F)部18を備えている。CPU11、メモリ12、記憶部13、入力部14、表示部15、媒体読み書き装置16及び通信I/F部18はバスBを介して互いに接続されている。媒体読み書き装置16は、記録媒体17に書き込まれている情報の読み出し及び記録媒体17への情報の書き込みを行う。
【0033】
記憶部13はHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等によって実現される。記憶媒体としての記憶部13には、推定プログラム13Aが記憶されている。推定プログラム13Aは、当該プログラム13Aが書き込まれた記録媒体17が媒体読み書き装置16にセットされ、媒体読み書き装置16が記録媒体17からの上記プログラム13Aの読み出しを行うことで、記憶部13へ記憶(インストール)される。CPU11は、推定プログラム13Aを記憶部13から適宜読み出してメモリ12に展開し、当該プログラム13Aが有するプロセスを順次実行する。
【0034】
また、記憶部13には、推定情報データベース13Bが記憶される。推定情報データベース13Bについては、詳細を後述する。
【0035】
次に、
図2を参照して、本実施形態に係る推定装置10の機能的な構成について説明する。
図2は、本実施形態に係る推定装置10の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
【0036】
図2に示すように、本実施形態に係る推定装置10は、取得部11A、推定部11B、及び提示部11Cを含む。推定装置10のCPU11が推定プログラム13Aを実行することで、取得部11A、推定部11B、及び提示部11Cとして機能する。
【0037】
本実施形態に係る取得部11Aは、推定対象とするシーリング材に関する、事前の実験により、劣化の途中で変化が確認された項目である先行する項目、及び劣化後の時点で変化が確認された項目である遅行する項目の2種類の項目の値を取得する。
【0038】
また、本実施形態に係る推定部11Bは、取得部11Aによって取得された2種類の項目の値を用いて、シーリング材の劣化度を推定する。そして、本実施形態に係る提示部11Cは、推定部11Bによる推定結果を示す情報を提示(本実施形態では、表示部15による表示による提示)する。
【0039】
ここで、本実施形態では、シーリング材として、変性シリコーン系シーリング材を適用する。また、本実施形態では、先行する項目として、可塑剤、炭素量、カルシウム量、及び光沢度の全てを適用し、遅行する項目として、引張強度、及び50%モジュラスの双方を適用している。
【0040】
また、本実施形態に係る推定部11Bは、上述した式(1)によりシーリング材の劣化度g(x)を推定し、上述した式(4)により当該シーリング材の余寿命T(x,t)を推定する。なお、ここでいう「余寿命」とは、その時点からの残存寿命、ということであり、未使用時における寿命ではない。
【0041】
即ち、本発明の発明者により、シーリング材の劣化には、劣化の途中で変化が確認された項目である先行する項目、及び劣化後の時点で変化が確認された項目である遅行する項目の2種類の項目が関与していることが判明したことは上述した通りである。
【0042】
以下、式(1)における項目iの種類及び重み係数a、bについて説明する。まず、項目iの種類について説明する。
【0043】
[項目iの種類について]
表1には、本発明者による実験により得られた、変性シリコーン系シーリング材を対象とした、項目別、かつ、劣化の段階(劣化前、劣化途中、劣化後の3段階)別の、取得された測定値の平均値と、その劣化に伴う変化の状況の一例が示されている。ここでは、上記実験として、キセノンウェザーメーターの3倍照射による促進耐候性試験を適用した。ここで、上記3段階における「劣化前」は試験開始前の状態であり、「劣化途中」は試験開始から200時間経過した状態であり、「劣化後」は試験開始から1000時間経過した状態である。なお、表1には、参考までに、式(1)において各項目で適用する劣化進行度式fi(x)も含めている。
【0044】
【0045】
なお、ここで適用した促進耐候性試験は、幅70mm×高さ150mm×厚み3mmの変性シリコーン系シーリング材のシートをキセノンウェザーメーター(放射照度180W/m2、試験片ぬれサイクルA)にて、200時間及び1000時間促進劣化させることによる。
【0046】
表2に、表1に示した各項目別の単位、変化の機構、及び測定方法を示す。なお、表2における「G.U.」はグロスユニットであり、試料の表面で反射する光の量の、基準値に対する相対値である。
【0047】
【0048】
表1に示すように、この試験では、「劣化途中」の時点で明らかな変化が確認された項目(上述した「先行する項目」に相当。)(i=1~4)と、「劣化途中」の時点では明らかな変化は確認されなかったものの、「劣化後」の時点で明らかな変化が確認された項目(上述した「遅行する項目」に相当。)(i=5~6)と、の2種類があることが判明した。
【0049】
そこで、本実施形態に係る推定装置10では、上述したように、先行する項目として、i=1~4に対応する項目、即ち、「可塑剤」、「炭素量」、「カルシウム量」、及び「光沢度」の4項目を適用し、遅行する項目として、i=5~6に対応する項目、即ち、「引張強度」及び「50%モジュラス」の2項目を適用する。そして、本実施形態に係る推定装置10では、これらの6項目を用いて、上述した式(1)及び式(4)により、劣化度g(x)及び余寿命T(x,t)を導出する。
【0050】
このように、本実施形態では、上記6項目の全てを適用する場合について説明するが、これに限定されるものではない。例えば、上記先行する項目として、上記4項目のうちの1項目のみ、又は全てを除く複数の組み合わせを適用する形態としてもよいし、上記遅行する項目として、上記2項目のうちの何れか1項目のみを適用する形態としてもよい。
【0051】
また、本実施形態では、上述したように、キセノンウェザーメーターの3倍照射による促進耐候性試験を適用し、「劣化途中」として試験開始から200時間経過した時点を、「劣化後」として試験開始から1000時間経過した時点を各々適用した場合について説明するが、これに限定されるものではない。これらの3倍、200時間、及び1000時間の各々の数値は一例であり、これらの数値に限定されるものでないことは言うまでもない。
【0052】
次に、式(1)における重み係数a及び重み係数bについて説明する。
【0053】
[重み係数a及び重み係数b]
本実施形態に係る推定装置10では、劣化度を算出する式(1)において、先行する項目の劣化進行度式による値の平均値に対して重み係数aを適用し、遅行する項目の劣化進行度式による値の平均値に重み係数bを適用している。なお、重み係数a及び重み係数bの合計値は1とする。
【0054】
このように、本実施形態では、劣化度を算出する数式として、先行する項目及び遅行する項目の各々の劣化進行度式による値の平均値の加重平均を算出する数式を適用している。これは、推定対象とするシーリング材が実際に用いられている環境(以下、「実環境」という。)の影響を低減することができるようにするためである。例えば、実環境が、対象とするシーリング材の先行する項目の物理量に与える影響が、遅行する項目の物理量に与える影響より大きな場合は、重み係数aを重み係数bに対して相対的に大きな値を適用する。そして、その影響の大きさの差が大きいほど、重み係数aを大きな値とする。
【0055】
なお、式(1)において、対応する項目の劣化進行度式によって得られる値の相加平均を適用しているのは、対応する項目の各々の式(1)に対する寄与の度合いを平均的とするためである。従って、対応する項目の各々毎に、シーリング材の劣化に対する影響が異なる場合には、その影響の度合いに応じた加重平均を算出する数式を式(1)に適用する形態としてもよい。
【0056】
次に、
図3を参照して、本実施形態に係る推定情報データベース13Bについて説明する。
図3は、本実施形態に係る推定情報データベース13Bの構成の一例を示す模式図である。
【0057】
図3に示すように、本実施形態に係る推定情報データベース13Bは、種類、i、項目、及び測定値の平均の各情報が関連付けられて記憶されている。
【0058】
上記種類は、シーリング材の種類を示す情報であり、上記iは、各項目を識別するための識別子であり、上述した式(1)におけるiに相当するものである。また、上記項目は、対応する項目の名称を示す情報であり、上記測定値の平均は、対応する項目について、上述したキセノンウェザーメーターの3倍照射による促進耐候性試験により得られた測定値の平均値を示す情報である。
【0059】
次に、
図4~
図6を参照して、本実施形態に係る推定装置10の作用を説明する。ユーザによって推定プログラム13Aの実行を開始する指示入力が入力部14を介して行われた場合に、推定装置10のCPU11が当該プログラム13Aを実行することにより、
図4に示す推定処理が実行される。なお、ここでは、錯綜を回避するために、推定情報データベース13Bが構築済みである場合について説明する。
【0060】
本推定処理の実行に先立ち、ユーザは、劣化度及び余寿命の推定対象とするシーリング材(以下、「対象シーリング材」という。)の上述した6項目の物理量を表2に示した方法で測定し、その後に、推定プログラム13Aの実行を開始する指示入力を行う。
【0061】
図4のステップ100で、CPU11は、予め定められた構成とされた初期情報入力画面を表示するように表示部15を制御し、ステップ102で、CPU11は、所定情報が入力されるまで待機する。
【0062】
図5には、本実施形態に係る初期情報入力画面の一例が示されている。
図5に示すように、本実施形態に係る初期情報入力画面では、情報の入力を促すメッセージが表示される。また、この初期情報入力画面では、対象シーリング材の名称を入力するための第1入力領域15A、上記6項目の測定値(事前に測定した6項目の物理量)を入力するための第2入力領域15B、及び対象シーリング材の使用を開始してからの経過時間を入力するための第3入力領域15Cが表示される。
【0063】
一例として
図5に示す初期情報入力画面が表示部15に表示されると、ユーザは、入力部14を介して、対応する情報を、対応する入力領域に入力した後に、終了ボタン15Eを指定する。これに応じて、ステップ102が肯定判定となって、ステップ104に移行する。
【0064】
ステップ104で、CPU11は、初期情報入力画面において入力された対象シーリング材の名称に対応する全ての情報(以下、「推定情報」という。)を推定情報データベース13Bから読み出す。
【0065】
ステップ106で、CPU11は、初期情報入力画面によって入力された測定値、及びステップ104の処理によって読み出した推定情報を式(1)~式(3)に代入することで、劣化度g(x)を算出する。
【0066】
ステップ108で、CPU11は、算出した劣化度g(x)及び初期情報入力画面によって入力された経過時間を式(4)に代入することで、余寿命T(x,t)を算出する。
【0067】
ステップ110で、CPU11は、以上の処理によって得られた劣化度g(x)及び余寿命T(x,t)を用いて、予め定められた構成とされた推定結果表示画面を表示するように表示部15を制御する。ステップ112で、CPU11は、予め定められた情報が入力されるまで待機する。
【0068】
図6には、本実施形態に係る推定結果表示画面の一例が示されている。
図6に示すように、本実施形態に係る推定結果表示画面では、対象シーリング材の名称が表示されると共に、算出した劣化度g(x)及び余寿命T(x,t)が表示される。従って、推定結果表示画面を参照することで、ユーザは、これらの推定結果を把握することができる。
【0069】
一例として
図6に示す推定結果表示画面が表示部15に表示されると、ユーザは、表示されている劣化度g(x)及び余寿命T(x,t)を確認した後、入力部14を介して終了ボタン15Eを指定する。これに応じて、ステップ112が肯定判定となって、本推定処理を終了する。
【0070】
なお、推定した劣化度の利用法としては、シーリング材の状態を診断し、その後の対策(思いのほか劣化が進んでいる場合は、シーリング材を補充する、コーティングする等)に利用するといったことが例示される。また、シーリング材に対する使用環境の劣悪性を確認することもできる。
【0071】
以上説明したように、本実施形態によれば、推定対象とするシーリング材に関する、事前の実験により、劣化の途中で変化が確認された項目である先行する項目、及び劣化後の時点で変化が確認された項目である遅行する項目の2種類の項目の値を取得し、取得した2種類の項目の値を用いて、シーリング材の劣化度を推定している。従って、従来の技術に比較して、より精度よくシーリング材の劣化度を推定することができる。
【0072】
また、本実施形態によれば、上記シーリング材を変性シリコーン系シーリング材としている。従って、変性シリコーン系シーリング材に対して、精度よく劣化度を推定することができる。
【0073】
また、本実施形態によれば、先行する項目を、可塑剤、炭素量、カルシウム量、及び光沢度の少なくとも1つとし、遅行する項目を、引張強度、及び50%モジュラスの少なくとも一方としている。従って、適用した項目が考慮された劣化度を推定することができる。
【0074】
また、本実施形態によれば、線形結合式として構成された式(1)により劣化度を推定している。従って、より簡易にシーリング材の劣化度を推定することができる。
【0075】
更に、本実施形態によれば、線形結合式として構成された式(1)を用いた式(4)によりシーリング材の余寿命を推定している。従って、より簡易にシーリング材の余寿命を推定することができる。
【0076】
なお、上記実施形態では、本発明のシーリング材として変性シリコーン系シーリング材を適用した場合について説明したが、これに限定されるものではない。劣化に上記先行する項目及び上記遅行する項目の2種類の項目が関与している他のシーリング材を本発明のシーリング材として適用する形態としてもよい。
【0077】
また、上記実施形態で適用した推定情報データベース13Bの構成は一例であり、例示したものに限定されるものでないことは言うまでもない。
【0078】
また、上記実施形態において、例えば、取得部11A、推定部11B、及び提示部11Cの各処理を実行する処理部(processing unit)のハードウェア的な構造としては、次に示す各種のプロセッサ(processor)を用いることができる。上記各種のプロセッサには、前述したように、ソフトウェア(プログラム)を実行して処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPUに加えて、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が含まれる。
【0079】
処理部は、これらの各種のプロセッサのうちの1つで構成されてもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGAの組み合わせや、CPUとFPGAとの組み合わせ)で構成されてもよい。また、処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。
【0080】
処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、クライアント及びサーバ等のコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアの組み合わせで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが処理部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)等に代表されるように、処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサの1つ以上を用いて構成される。
【0081】
更に、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造としては、より具体的には、半導体素子などの回路素子を組み合わせた電気回路(circuitry)を用いることができる。
【符号の説明】
【0082】
10 推定装置
11 CPU
11A 取得部
11B 推定部
11C 提示部
12 メモリ
13 記憶部
13A 推定プログラム
13B 推定情報データベース
14 入力部
15 表示部
15A 第1入力領域
15B 第2入力領域
15C 第3入力領域
15E 終了ボタン
16 媒体読み書き装置
17 記録媒体
18 通信I/F部