(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173458
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】抗バイオフィルム組成物または当該組成物を含む樹脂部材もしくは樹脂製品
(51)【国際特許分類】
A01N 33/04 20060101AFI20241205BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20241205BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20241205BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20241205BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20241205BHJP
A01N 25/10 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
A01N33/04
C08L101/00
C08K5/17
A01P1/00
A01P3/00
A01N25/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091893
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】390000527
【氏名又は名称】住化エンバイロメンタルサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】江幡 一朗
【テーマコード(参考)】
4H011
4J002
【Fターム(参考)】
4H011AA02
4H011BA01
4H011BB04
4H011BC01
4H011BC19
4H011DA07
4H011DH02
4J002AA011
4J002AA021
4J002BB031
4J002BB121
4J002BC031
4J002BC061
4J002BD031
4J002BD121
4J002BE021
4J002BE061
4J002BF021
4J002BG051
4J002BN151
4J002CB001
4J002CC031
4J002CC161
4J002CC181
4J002CD001
4J002CG001
4J002CL001
4J002CN031
4J002EN026
4J002FD186
4J002GH00
4J002GJ01
4J002GK01
4J002GM00
(57)【要約】
【課題】抗バイオフィルム組成物または当該組成物を含む樹脂部材もしくは樹脂製品を提供する。
【解決手段】
式(1)
(式中、R
1が炭素数12~30の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、R
2、R
3が水素または炭素数1~2のアルキル基で表される)アミン化合物を含有する抗バイオフィルム組成物、または当該組成物を含む樹脂部材もしくは樹脂製品により優れた抗バイオフィルム効果を提供すること可能となる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
(式中、R
1が炭素数12~30の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、R
2、R
3が水素または炭素数1~2のアルキル基で表される)アミン化合物を含有する抗バイオフィルム組成物。
【請求項2】
式(1)において、R1が18~30の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、R2およびR3が水素または炭素数1~2のアルキル基であるアミン化合物を含有する請求項1に記載の抗バイオフィルム組成物。
【請求項3】
式(1)において、R1が22~30の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、R2およびR3が水素または炭素数1のアルキル基のいずれかであるアミン化合物を含有する請求項1に記載の抗バイオフィルム組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の組成物を含む樹脂部材または樹脂製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗バイオフィルム組成物または当該組成物を含む樹脂部材もしくは樹脂製品に関する。
【背景技術】
【0002】
水と接触する固体表面には細菌やカビ等の微生物およびその代謝産物であるタンパク質や高分子多糖類が複合化したバイオフィルムが形成する。もし、排水設備や冷却設備などの配管にバイオフィルムが形成されると、配管の閉塞、熱交換機器の効率低下、衛生状態の悪化等の問題が生じる。
【0003】
バイオフィルムは、それを構成する微生物そのものは抗菌剤や殺菌剤といった薬剤に対して感受性があるものの、バイオフィルムが形成された後は薬剤に対して耐性を持つことが知られている。そのため、バイオフィルムの除去は一般的にブラシなどによる物理的除去や強酸,強アルカリ,塩素系酸化剤等による化学的除去が用いられている。しかし、物理的除去は定期的に実施する必要があるため手間やコストがかかり、化学的除去は安全性や処理対象の化学物質感受性から適用可能な用途が限定されている。
【0004】
そこで、固体表面へのバイオフィルムの形成を抑制する方法が検討されており、例えば、バイオフィルム抑制成分を固体表面に物理吸着させる方法(例えば、特許文献1)または設備の循環水に当該成分を溶解しておく方法がある(例えば、特許文献2)。
しかし、前者は加工表面の削れや摩耗といった物理的な作用を受けるとその効果が失われてしまい、後者はバイオフィルム抑制成分を溶解した循環水を入れ替えるとその効果が失われてしまうことから、持続的な抗バイオフィルム効果を得ることについての改善要望があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第7212436号
【特許文献2】特開2016-188262号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は鋭意検討の結果、設備を構成する樹脂部材に予め抗バイオフィルム組成物を配合することより、当該樹脂部材の表面に削れ等の物理的な作用が生じても持続的に抗バイオフィルム効果が得られるとの考えに基づき、主として樹脂成分に配合可能であり、当該効果を発現することも可能な抗バイオフィルム組成物または当該組成物を含む樹脂部材などを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、かかる課題を解決すべく鋭意検討した結果本発明に至った。すなわち本発明は、
〔1〕 式(1)
(式中、R
1が炭素数12~30の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、R
2およびR
3が水素または炭素数1~2のアルキル基である)で表されるアミン化合物を含有する抗バイオフィルム組成物。
〔2〕 上記式(1)において、R
1が18~30の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、R
2およびR
3は水素または炭素数1~2のアルキル基のいずれかであるアミン化合物を含有する抗バイオフィルム組成物。
〔3〕 上記式(1)において、R
1が22~30のアルキル基であり、R
2およびR
3が水素または炭素数1のアルキル基のいずれかであるアミン化合物を含有する抗バイオフィルム組成物。
〔4〕 上記の抗バイオフィルム組成物を含む抗バイオフィルム樹脂部材または樹脂製品。
を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、樹脂部材に適合する抗バイオフィルム組成物が配合されているため、当該樹脂部材の表面に物理的な作用が加わっても抗バイオフィルム効果が持続的に発現すること可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の抗バイオフィルム組成物に使用される上記一般式(I)で表される化合物において、R1は炭素数12~30の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、R2およびR3は水素または炭素数1~2のアルキル基のいずれかである。また好ましくは、R1は炭素数18~30の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、R2およびR3は水素または炭素数1~2のアルキル基のいずれかである。またさらに好ましくは、R1は炭素数22~30の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、R2およびR3は水素または炭素数1のアルキル基のいずれかである。ここで、R1、R2およびR3が直鎖のアルキル基の場合としては、R1としてはノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、イソトリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコシル、ヘンエイコシル、ドコシル、トリコシル、テトラコシル、ペンタコシル、ヘキサコシル、ヘプタコシル、オクタコシル、ノナコシル、トリアコンチル等のアルキル基が挙げられ、R2およびR3は水素またはメチル、エチルが挙げられる。かかる化合物を具体的に例示すると、例えば、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、ノナデシルアミン、イコシルアミン、ドコシルアミン、トリアコンチルアミン、N,N-ジメチルドコシルアミンなどが挙げられる。これら化合物において、好ましい化合物としてはデシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、ノナデシルアミン、イコシルアミン、ドコシルアミン、トリアコンチルアミン、N,N-ジメチルドコシルアミンが挙げられ、より好ましい化合物としてはドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、ノナデシルアミン、イコシルアミン、ドコシルアミン、トリアコンチルアミン、N,N-ジメチルドコシルアミンが挙げられる。これら化合物は、樹脂部材に配合した際にも変色をきたさないことから、当該用途において好ましく使用することができる。
【0010】
本発明の抗バイオフィルム組成物は、後述する樹脂成分に直接添加することもできるが、溶媒等を加えて製剤化した後に樹脂成分に添加することもできる。前記製剤としては、例えば油剤、乳剤、可溶化製剤、水和剤、粉剤、フロアブル剤(水中懸濁剤、水中乳濁剤等)、サスポエマルション剤等が挙げられる。
【0011】
かかる製剤化の際に使用される溶媒としては、水、エタノール、イソプロパノール、フェノキシエタノール、ベンジルアルコールなどの一価アルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコール系溶剤およびその誘導体、グリセリン、ジグリセリンなどのグリセリン系溶剤およびその誘導体、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、γ-ブチロラクトンなどの環状有機溶媒、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、セバシン酸エステルなどのエステル系溶媒、メチルナフタレン、フェニルキシリルエタン、アルキルベンゼンなどの芳香族系溶媒、ノルマルパラフィン、イソパラフィンなどの脂肪族炭化水素溶媒、菜種油、綿実油、大豆油、ヒマシ油などが挙げられる。これら溶媒は、単独で使用してもよく、2種類以上を併用することも可能である。
【0012】
前記製剤化の際には、界面活性剤、pH調整剤、消泡剤、防錆剤、粘度調整剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、酸化防止剤、他の抗菌成分などを配合させてもよい。
【0013】
本発明の抗バイオフィルム組成物は、主として樹脂成分に配合され、抗バイオフィルム性樹脂部材に加工される。当該樹脂部材は、例えば、冷却設備や排水設備の配管、熱交換機器、空調システムのドレインパンなどに使用されることにより持続的に抗バイオフィルム効果を発現する。また、本発明の抗バイオフィルム組成物を繊維、不織布、塗料、表面処理剤、コーティング剤、接着剤、フィルム、プラスチックなどの樹脂製品に配合して使用することも可能である。
【0014】
樹脂部材または樹脂製品に使用される樹脂成分としては、その種類に特に制限はなく、天然樹脂、合成樹脂もしくは半合成樹脂のいずれかであってもよく、また熱可塑性樹脂もしくは熱硬化性樹脂のいずれかであってもよい。具体的な樹脂成分としては、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ナイロン、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、メタクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリスルホン、酢酸ビニル樹脂ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール等が挙げられる。
【0015】
本発明の抗バイオフィルム性樹脂部材または樹脂製品に対する本発明の抗バイオフィルム性組成物の配合割合は、樹脂組成物100重量部に対して0.1~50重量部が好ましく、0.3~20重量部がより好ましく、0.5~15重量部がより好ましい。
【0016】
また、本発明の抗バイオフィルム性樹脂部材または樹脂製品には、必要に応じて酸化防止剤や紫外線吸収阻害剤等の安定剤、可塑剤、軟化剤、粘度調節剤、防汚剤、顔料、染料、脱臭剤、芳香剤、香料、展着剤、防錆剤、滑剤、アンチブロッキング剤、界面活性剤、帯電防止剤、加硫剤、加硫促進剤、架橋剤、発泡剤、充填剤、有機抗菌剤、防カビ剤、抗ウイルス剤等の添加剤を配合してもよい。
【0017】
本発明の一実施形態である樹脂部材は、例えば、熱可塑性樹脂に本発明の抗バイオフィルム性組成物を練り込んで成形することによって製造することができる。
【0018】
例えば、本発明の抗バイオフィルム組成物、熱可塑性組成物および無機充填剤等の他の成分を、通常60~250℃の温度に調整した単軸押出機又は二軸押出機等の押出機により溶融・混練することによって樹脂組成物を調製し、該樹脂組成物を通常60~220℃の温度で射出成形等により所定の形状に成形することによって製造することができる。成形方法としては、射出成形のほか、押出成形、プレス成形、真空成形等を用いることもできる。
【0019】
本発明の抗バイオフィルム組成物が対象とする微生物としては、例えば、表皮ブドウ球菌やリステリア菌などのグラム陽性菌が、大腸菌、緑膿菌や肺炎桿菌などのグラム陰性菌が挙げられる。このうち表皮ブドウ球菌やリステリア菌などのグラム陽性菌に対して優れた抗バイオフィルム効果を示し、特に表皮ブドウ球菌に対して優れた抗バイオフィルム効果を示す。ここで抗バイオフィルム効果とは、固体表面への微生物の付着を抑制すること、微生物の増殖を抑制すること、微生物を殺すことによりバイオフィルムの形成を低減することを意味する。
【実施例0020】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
ドデシルアミン(東京化成工業製)0.5重量部およびポリエチレン(PE、スミカセンFV405、住友化学製)100重量部を混練機(LABOPLASTOMILL 4C150-01、東洋精機製作所製)を使用して、140℃、50rpmで5分間混練し樹脂組成物を得た。当該樹脂組成物を、アルミ板でサンドイッチ状に挟み、プレス機(型番:AYSR-5、神藤金属工業所製)で160℃にて、100kg/cm2の圧力で180秒プレスしてシート状に成形し(厚み0.5mm)、3×3cmの大きさに切り出し、本発明の樹脂部材を作製した。
表1に示す配合割合とした以外は実施例1と同様の手順にて、実施例2~4及び比較例1の樹脂部材(以下、これらをまとめて薬剤添加樹脂部材ということもある)を作製した。また、ポリエチレンのみからなる樹脂部材(以下、薬剤未添加樹脂部材ということもある)も作製した。